ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第四話「選んだ道」Cパート

 

 

 

〈――ルカ! こんな……ことって……!?〉

 

 暗闇の中。嘆く声が、聞こえた。

 意外なことに。石にされても、私にはまだ意識があった。

 だが、それを外部に発信するための手段が一切、私には許されず。

 

〈また、こんな……こんな……っ、いやぁあああああああああああああああああああっ!?〉

 

 泣かないで、とも。ごめん、とも。

 悲鳴を上げ、らしくもなく取り乱すライハに、私は何も言ってあげられなかった。

 

 罪悪感に、胸が軋むような気持ちとなっていたその時。本当に、私の体が軋む音がした。

 何かが、私の腰に触れていた。その衝撃が起こした音だと気づいたら、今度は両肩に、硬い何かが突き立てられた。

 噛まれている――そう認識した直後、暗闇に吸い込まれるように、私の意識が遠退いた。

 少しずつ、少しずつ――水の流れで川底の砂が流されるように、私の意識が、小さくなって行く感覚に、苛まれる。

 

〈うふふ……これが、ルカ様の……ベリアル様の血筋の味! はぁ、甘露……クセになってしまいそう……っ!〉

 

 フワワの恍惚とした声が聞こえて、私は今、自分が何をされているのかがわかった。

 ――私はフワワに、食べられているんだ。

 

 フワワたち石化魔獣ガーゴルゴンの食性、それは石にした獲物の生命エネルギーを直接吸収するという特異なモノ。

 まさに、彼女に石化された私の命は、皿の上に並んだ料理のように――少しずつ、フワワの糧として切り離され、取り込まれていた。

 文字通り、必死に抵抗しようとしても。今の私には指先一つ動かすどころか、瞼の開閉すらも叶いはしない。

 ただ、唯一残された意識まで奪われないように、暗闇の中で気を張り続けることしかできない。

 それも、いつまで保つものか――私は不安に呑み込まれ始めていた。

 

 ジーッとしてても、ドーにもならない。

 じゃあ。じーっとするしかない私は。もう、どうにもならないんだろうか――?

 

 ……いや。いやだ、消えたくない。

 こんなところで、ひとりぼっちで、死にたくない。

 助けて……助けて、お兄ちゃん――――!

 

〈レム! 発進して!〉

〈できません〉

 

 私の声が、届いたはずはないけれど。ペガが珍しく強い勢いで呼びかけるのを、レムが固い調子で拒否していた。

 

〈……レム、お願いっ! もうあなたしかいないのっ!〉

〈フワワの目的を忘れてはいけません――そして、ルカが戦う理由も〉

 

 続くライハの、縋るような懇願を受け――果たして誰に向かってか、言い聞かせるようなレムの声を聞き。絶望の流れに呑まれかけていた私は、何とか崖の端を掴めたような、そんな気持ちで意識を保った。

 

 そうだ……お兄ちゃんに、助けて貰うんじゃなかった。

 今度は、私がお兄ちゃんを、助ける番なんだから――っ!

 

〈……おっといけない。本当に、夢中になってしまうところでした〉

 

 そして、フワワの放つ自戒の声と、時を同じくして。私の意識を削る作用が、急に消えた。

 

〈私も伝説でしか目にしていない、ベリアル様御自ら怪獣となられた姿――超銀河大帝アークベリアル陛下の面影が濃いルカ様の石像も、見ていて飽きぬものではありますが。それは後に、怪獣女帝の像を造らせ慰みとしましょう。追手のことも考えると、連れ帰るには世を忍ぶ姿になって頂くのがやはり一番――〉

 

 噛み付いていた口が離れ、腰に回されていた手が解かれた感触があった。そうして距離を開いたのだろうフワワの、含み笑いを合図に――

 

 私の世界に、光が戻った。

 

 

 

 

 

 

 視界が、反転する。

 体の拘束を解かれた培養合成獣スカルゴモラは、しかし完全な自由を取り戻すとは言えず。四肢の痺れるような感覚のまま膝を着いて、前のめりに倒れ込んだ。

 

〈おや……余りの美味に、少々吸い過ぎてしまったかと危惧しましたが。なお、その御姿を保てるのですね〉

 

 前脚を大地に着け、激しく呼吸を乱すスカルゴモラを見下ろしながら。余裕綽々、自ら獲物の石化を解除したフワワは、感心したような通信を送ってきた。

 

〈ヤプールとの戦闘を見るに、激しく消耗されればこの星の環境下での負荷が小さい御姿に変わるはずですが……まだ耐えられますか〉

 

 フワワの言葉を聞きながら、スカルゴモラは両腕に力を込めて起き上がった。

 確かに、消耗は著しかった。直接生命エネルギーを吸い出されたスカルゴモラは、外傷こそなくとも、ベリアルキラーザウルス戦の終盤のような体の重さを感じていた。

 それでも――自分でも、不思議なほどに。まだ、立ち上がる力が湧いてくる。

 

「(当っ、然……! だって、私は……絶対、お兄ちゃんを、元に戻すんだから――っ!)」

〈……エネルギーが増している? そんなはずは……〉

 

 ――フワワが、そんな疑問の声を漏らした。

 エネルギーの多寡を認識できるフワワが言うなら、それはきっと本当のことなのだろう。スカルゴモラの錯覚ではなく――立ち上がるのが精一杯な程度とはいえ、急速に、力を取り戻しているのだろう。

 だが……それでも到底、事態が好転するほどの回復力ではなかった。

 

〈……尽きせぬ生命力、ということですね。素晴らしい。それでも――そのルカ様のお命を吸わせて頂いた今の私と比べれば、随分と弱々しいことには変わりはありません。まだ抗うおつもりですか?〉

 

 再び、フワワの持つ中央の口が開いた。

 反射的に背筋へ走る怖気で、まさに蛇に睨まれた蛙の如く。動きを硬直させてしまったスカルゴモラに対して、フワワは残忍な笑声を零す。

 

〈ご理解頂けているでしょう? ルカ様の才覚は確かに目を瞠るものですが、私との間にはまだ、埋めがたい経験の差がございます。何度試されても、結果は変わりませんよ〉

「(だからって――諦めるもんか! 私は、お兄ちゃんの……ウルトラマンジードの、妹なんだ! お兄ちゃんが私に、諦めるなって言ってたんだっ!)」

 

 フワワの告げた現状に、スカルゴモラは――ルカは、切り返す理屈を持てず、ただ駄々を捏ねるように意地だけを叫んだ。

 

「(どんな時だって、お兄ちゃんは諦めなかった! 他の皆だってお兄ちゃんのことを諦めてないのに、妹の私が、結果が見えてるぐらいで諦めるなんて、できるもんか……っ!)」

〈では、仕方がありません……ご満足頂けるまで、このフワワがお相手仕りましょう。何度でも、何度でも、闘志が折れるその時まで。物言えぬ石となる、無間の責め苦をご堪能くださいませ〉

 

 憐れむような宣言と同時。フワワの魔眼が、再び石化光線を放つためのエネルギーを蓄え、発光する。

 彼女の言うように、こちらの生命エネルギーを取り込んだためか、さらに素早いその動作を前にして。鈍重な身で、今更回避の叶うはずもなく。消耗した体力では、先んじて潰すための攻撃も用意できず、相殺だって間に合わない。次の一手が決められず、スカルゴモラは立ち竦む。

 

〈――ルカ。ジーッとしていても、ドーにもなりません〉

 

 その瞬間、スカルゴモラの意識に届いたのは、レムからの通信だった。

 

〈今こそ、立ち向かってください。そうすれば、リクを取り戻せるはずです〉

 

 そこに、何の根拠もないはずだけど。

 いつも通り、機械のはずなのに――妙に信頼で満ちた、レムの声に背中を押されて。

 スカルゴモラは、何の能力を発動する余力もないまま。ただがむしゃらに、フワワに向かって突撃した。

 

「(――っ、やぁあああああああああああああっ!)」

〈哀れな――――――がぁあっ!?〉

 

 そして、フワワの放つ石化の光に呑まれながら。

 文字通り、ただ照らされただけとしてその光線を素通りしたスカルゴモラの額の角が、事態を呑み込めずに無力な呪いを放ち続けるフワワの魔眼、その中央に、突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 石化魔獣の眼が潰れた、その瞬間。

 朝倉リクは、体の自由を取り戻した。

 

「リクっ!」

 

 石化の呪いから解き放たれたリクに気づき、ペガが歓声のように名前を呼ぶ。

 

「――レム、転送してくれ!」

 

 だが、親友と喜び合っている暇はないことを――石になっている間、光の閉ざされた意識の中でも。周りの音声だけは聞き続けることのできていたリクは、既に充分承知していたから。

 そして、そんなリクの復活が、まるで事前に予測できていたかのように。呼びかけられた瞬間、驚くほど手際良く。レムは転送用のエレベーターを、リクを取り囲むように出現させた。

 

「リク――っ!」

 

 その扉が閉じるまでの、わずかな間に。リクの覚えにないほど、抱えた不安を表に出したライハが、祈るように呼びかけてきた。

 

「……ルカを、助けて」

「当たり前だ」

 

 光瀬山――ライハの家族が、ベリアルの部下である怪獣によって奪われた因縁の地で、その惨劇を再び繰り返させないために。

 そして、ひたむきに頑張ってくれたルカの、たった一人の兄として。

 扉が再び閉まるよりも、遥かに早く。妹を救うべく覚悟を決めたリクは、ジードライザーをその手に取った。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」

 

 

 

 

 

 

〈あぁっ、何がぁ、くぅ……っ!?〉

 

 ガーゴルゴン最大の武器にして、一番の急所である魔眼を潰されたフワワが、激痛に悶えながらも。それ以上に疑問へと執着した意志を、星雲荘の機器を通して示していた。

 

〈何故、石に……っ!?〉

 

 フワワの漏らした問いかけへの答えは、彼女を貫き弾いた勢いで倒れたまま、起き上がれずにいるスカルゴモラ自身にもわからなかった。

 最初に、石化光線を受けた時には、為す術もなく石と化したのに。

 二度目も、確かに同じ光を浴びながら――どうして自分は、何ともなかったのか?

 

(――何ともなかった?)

 

 厳密には、違う気がする。

 微かながら、光の当たった箇所には――最初にあの光を受けたのと似通った、感覚が鈍くなる気配を感じたが。ほとんど同時に、先程フワワによって石化を解除された際に生じた気配もまた、その場所で発生していたのだ。

 だが、その意味することを理解するよりも――スカルゴモラから奪ったエネルギーで、フワワが魔眼を修復する方が、圧倒的に早かった。

 都合四度目となる、励起音。今度は、倒れ伏したスカルゴモラからその視線を逸らして、山の反対――星雲荘の潜む星山市の方角へと、フワワは石化光線の照準を合わせ直した。

 

「――クローカッティング!」

 

 だが、スカルゴモラへの追撃より優先した、その光が放たれる前に。

 螺旋回転しながら飛来した鋏型のエネルギー弾が、再び、フワワの眼を潰していた。

 その出処から届いた叫びに――思わず、体にのしかかる疲労の重さも忘れ、スカルゴモラは歓喜の声を上げた。

 

「(お兄ちゃん!)」

「……ありがとう、ルカ。無理をさせたね」

 

 何とか、上体を起こそうとしたスカルゴモラを飛び越えて――フワワとの間に降り、妹を庇うようにして。復活したウルトラマンジードが、参戦する。

 

「後は――僕に任せろ」

 

 最もベリアルと似た、基本形態(プリミティブ)の姿で駆けつけたジードに対し。潰された魔眼が再生しきるよりも早く、フワワは両肩の頭から青い稲妻光線を発射した。

 

「コークスクリュージャミングっ!」

 

 対して、その右手に握っていたジードクロー――二又の鉤爪が持ち手から垂直に生えた武装を構えたジードは、その猛威を正面から迎え撃った。

 ジードクローを先端とし、解放された闇色のエネルギーを纏った自らを弾丸のようにして放つ突撃は、回転によるエネルギーの奔流でフワワのそれを四方に受け流し。後方の妹には届かせないまま弾幕を貫通して、フワワ本体まで肉薄する――!

 

 着弾の瞬間、フワワは両手を組み合わせて盾として、さらに左右の頭を直接喰らいつかせ、ジードの突進を受け止めようとした。

 だが、ジードクローの纏う鋭い斬撃は接近した蛇の頭を微塵にして切り落とし、フワワの両前足をも掘削するようにして粉砕した。

 これで決まるかと思われたが、両腕の爆ぜる勢いを合わせ、フワワはジードの突撃の軌道を上空に逸らさせた。その僅かな猶予を使い、胴体や中央の頭部を崩されるより早く後方へと跳躍し、致死圏から退避する。

 

〈この……邪魔をするなぁああああああああっ!!〉

 

 通信機を介して翻訳された、フワワの思念。そこに込められた怒りのまま、再び高速再生を完了した魔眼が、妖しき輝きを灯らせる。

 対して。スカルゴモラを庇うような立ち位置に戻り、得物を手放したジードもまた、両手を交差させることで光子エネルギーを励起させていた。

 

「はぁああああああああああああああああ……っ!」

 

 ゆっくりと、その両手が広がるのに合わせて。稲光のようにして漏れ出したジードのエネルギーが、怪獣同士の激突で崩れた山の土砂を巻き込み、浮遊させる。

 そうして、向かい合うウルトラマンと怪獣、双方の蓄える力が、臨界に達するのは同時だった。

 

「レッキングバーストォッ!!」

 

 フワワの魔眼が放つ石化の呪いに、十字に組まれたジードの腕から注がれた超熱量の光線が、正面から衝突した。

 交わった光線同士の勢いは一瞬、拮抗するが――趨勢は、すぐに傾いた。

 二度、魔眼を高速修復するために、スカルゴモラから奪ったエネルギーを消費したフワワの放つ呪いの視線が――光子エネルギーの奔流に圧され、後退して行く。

 

〈これが……ベリアル様を滅した光――だが、負けてたまるか……っ!〉

 

 フワワの死力を尽くした抵抗で、時折、レッキングバーストの勢いを石化光線が押し留める。

 しかし、そのたびにジードが光線に注ぐ力をさらに増すと、それまで以上の勢いで、干渉点はフワワに向かって動いて行き――遂に、青と黄の輝きを呑み込んだ赤黒(しゃっこく)の光芒が、その胴体に到達した。

 

〈ぎゃぁあああああああああああああっ!?〉

 

 灼熱に焼かれ。さらにはそこに束ねられた、自らの呪いが跳ね返った石化作用に襲われて。フワワが聞くも無惨な悲鳴を上げる。

 

〈――ジード、殿下……っ!〉

 

 だが、その極限の苦痛に晒されながらも。フワワはなおも、通信を介して言葉を届けてきた。

 

〈末期の頼みに、ございます。どうか……!〉

 

 摂氏七十万度を維持し続ける強烈な熱線に肉を焼かれ、先んじて石化した部位はあっさりと砕け散る中。強靭な再生力を全開にし、最早逃れ得ぬ死の瞬間までの責め苦を引き伸ばしながら、フワワは自らの命を奪おうとするジードに向けて、真摯な響きで以って訴えた。

 

〈どうかルカ様を、お守りください――!〉

 

 直後。遂に限界を迎えた石化魔獣ガーゴルゴン・フワワの肉体は、ウルトラマンジードの放つ光に貫かれ。ただの獣の断末魔だけを残して、内から爆ぜ飛んだのだった。

 

「(フワワ……)」

 

 知らぬ間に零した呼び声が、果たして誰かの耳に届いたのか、知る由もなく。

 決着に、張り詰めていた緊張が解けたスカルゴモラの意識はそこで途切れ――地球での活動に適した、朝倉ルカの姿に戻り、荒れた大地に身を伏せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ――別に、フワワに乞われたからではないが。

 決着の後。自らもすぐにフュージョンライズを解き、生命力を奪われ気絶したルカの元へ急いだリクは――迎えに来たライハと鉢合わせるより速く、妹の身を抱きかかえていた。

 

「……リク」

 

 居ても立っても居られなかった、という顔で。

 泣き腫らした跡もそのままに。因縁の光瀬山までやって来たライハは、心から安堵した表情を浮かべていた。

 

「ありがとう」

「……こっちこそ。ルカのこと、色々とありがとう」

 

 石になっていた間も聞こえていたやり取りを、リクは忘れていなかった。

 ルカが彼女たちに告げた感謝の想いは、そのままリクの胸の内にある想いでもあったから。

 

 そして――ライハが本気で、ルカの無事を願ってくれたことにも。リクは、ありがたい気持ちでいっぱいだった。

 ライハが、この場所での悪夢の再現を忌避してくれたということは――奪われかけたルカのことを、家族のように想ってくれたことの証拠だったから。

 

「それに、心配かけた……ごめん」

 

 ルカが、リクのために戦いへ臨む直前。ライハが彼女に、弱気な言葉を吐いてしまったのは……きっと自分のせいだと、リクは感じていた。

 光瀬山で、ベリアルの部下である怪獣に襲われ、家族を奪われかけたルカは――七年前のライハ自身、そのものだったろうから。

 

「……良いわよ。ルカが、あなたを助けられたんだから」

 

 そうライハが笑ってくれたのを見て、リクもやっと安心した。

 

「でも……どうしてルカは、石化しなかったんだろう?」

 

 その時。遅れて追いついて来たペガが、そんな疑問を口にしていた。

 

「ペガ、さっきはごめん……ところでそれって、どういうこと?」

「わかんない。最初はリクみたいに、ルカも石にされたのに……次は、効いてなかった。レムは理由を知ってる?」

 

 ほとんど無視する勢いで飛び出してしまったことを詫びるリクに、まるで気にしてないと首を横に振ったペガは、求められた説明をさらにレムへと繋げた。

 

〈はい。推測で良ければ〉

 

 そして、そんな期待に応えるような返事を、レムは通信機越しに返してきた。

 

〈ルカが目を覚ましたら、お話します。まずは皆さん、お疲れ様でした〉

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました時。ルカの体は、すっかり馴染みの光景となってしまった、星雲荘の修復装置の上にあった。

 

「……おはよう、ルカ」

「――お兄ちゃんっ!」

 

 こちらの様子に気づいた、リクの呼びかけに。その微笑みを目にしたルカは思わず装置を飛び出し、その胸に顔を埋めていた。

 

「良かった……本当に良かった……っ!」

「ルカが、頑張ってくれたおかげだよ。助かった、ありがとう」

 

 そう言って、兄が頭を撫でてくれる。喜びでいっぱいになりながらも、ルカは首を振った。

 

「私だけじゃないよ。ライハも、ペガも、レムも……皆、頑張ってくれたから……っ!」

「……うん、知ってる」

 

 最後の言葉が詰まってしまったのは、果たしてリクに気づかれただろうか。

 だが、そこを追及することもなく。噛みしめるように優しく頷いてくれた兄の動きに合わせ、ルカも視線を巡らせた先では、抱き合う兄妹を暖かく見守ってくれる、仲間たちがいた。

 兄妹の特権、とばかりに。ルカはライハたちに微笑み返しながらも、視線を気にせずそのままで居ようとしたが、残念ながらリクから抱擁を解かれてしまった。

 

「……それじゃあ、レム。教えてくれ」

 

 不意に、真剣な表情で兄が呼びかけるのを見て、ルカも気持ちを切り替えた。

 

「どうしてルカには、二度目の石化が効かなかったのか――その秘密を」

 

 言われて、ルカもまた、疑問に感じていたそれを思い出した。

 結果として、兄を救うことができ、そして――ともかく。そのことばかりを気にするわけにはいかなくなっていたが、フワワの反応を見る限り、尋常ではない事態だったことは明らかだ。

 そういえば……そうなることを、まるでレムが予想していたような言動だったことも、思い出した。

 

〈一週間前、私はルカの遺伝子を採取し、解析しました〉

 

 果たしてレムが語り出したのは、ルカと星雲荘の出会い。リクとの血の繋がりを見つけてくれた、レムの調査の話だ。

 

〈結果、ルカが『Bの因子』を持つだけでなく――レッドキングとゴモラの遺伝子もまたその身に宿した、培養合成獣スカルゴモラを正体とすることを突き止めた。そこまでは、当時もお伝えしていましたね〉

 

 レムの解説に合わせ、モニターに映し出されたのは、三体の巨大生物の姿。リクとルカの父であるウルトラマンベリアル。細長い首と胴が一体化した黄色い怪獣、レッドキング。三日月状の角を持つゴモラ。

 この一週間だけでも、嫌というほど名前を聞いたベリアル以外は、ルカが初めて見る己のルーツとなる生命体だった。

 

〈その後も、私はルカの遺伝子情報をさらに詳しく読み解いていました。自然ではない形で生命を産み出す者がいるとすれば、そこには明確な目的があるはずですから〉

 

 レムの言葉で、微かにリクの表情が陰る。

 

〈何故、この組み合わせでルカは産み出されたのか――おそらくそれは、最強の合成怪獣を創造するためだったのではないかと、読み解けました〉

「最強の……合成怪獣……?」

 

 どんな秘密が飛び出すのかと思えば、余りにも自分とは不釣り合いな言葉を聞かされて、思わずルカは疑問符を浮かべた。

 

「私が……? お兄ちゃんの方が、ずっとずっと、強いのに?」

 

 兄だけではない。ウルトラマンタイガに死の寸前まで叩きのめされ、ベリアルキラーザウルスにも圧倒され、先程フワワにも実質敗北していた培養合成獣スカルゴモラが最強というのは、大言壮語が過ぎるのではないかと、自分でも思う。

 そんな疑問に、レムの中枢である球体は発光して応えた。

 

〈生まれた瞬間から、という計画ではなかったのでしょう。ベリアルに追加されたレッドキングとゴモラという組み合わせは、成長性にこそ重きを置かれた遺伝子の導入元だと推測されます〉

 

 表示される三体の内、ベリアルの画像が小さくなったかと思うと、さらにゴモラの画像だけが拡大された。

 

〈特に、今回の疑問を解く鍵は、ゴモラにあります。ルカに発現していたのは、ゴモラという種の中でも希少な性質――危機を乗り越えるたびに強くなる、強靭な生命力を支える遺伝子でした〉

 

 レムの解説に合わせて、ゴモラの遺伝子構造が拡大される。流石にその意味することを理解できる頭脳の持ち主は、レム以外にはおらず、四人は揃って難しい顔をするだけだった。

 

〈過去、休眠中のゴモラが上空二千メートルから墜落した際、そのショックで本来の生命力を蘇らせ、ウルトラマンを圧倒した――とされた記録があります。しかし、厳密に言えば本来の力を取り戻したのではなく。ゴモラは強い刺激を受け、死に瀕するストレスを被った後。それを乗り越えるため、細胞を進化させているという可能性も、一部の研究者の間で検討されていました〉

 

 レムが表示する怪獣の画像が、一つ増えた。

 鼻先から一本の角を前に伸ばし、甲虫の外郭を思わせる皮の装甲に覆われた、二足歩行の黒い怪獣だった。胸から腹部にかけて、菱形の模様を規則正しく備えた様子を見ると、ヤプールの超獣のように人為的な手を加えられた生物という印象も感じられた。

 

〈その考えの発端となったのが、変身怪獣ザラガスの存在です。ザラガスは出現数が少なく、光の国やベリアル軍でもその起源を把握していませんが、外見や能力、出現時の特徴から、何者かの手で侵略用に改造された怪獣なのではないか、という予想がされていました。特に、最大の特徴である外部刺激により強化されるという性質から、ザラガスの改造元こそがゴモラ、あるいはその亜種であるという仮説が唱えられました〉

 

 レムが比較に並べた映像によると、確かにゴモラとザラガスは手足の形状や体格等が酷似しており。同一とは言わずとも、類縁種であるとされれば、否定しきれない印象を見る者に与える余地があった。

 

〈最終的に、両者を結びつける決定的な証拠はまだ発見されていません。しかし、それによる研究が進む中で、ゴモラの一部が有する希少な遺伝子の中に、外部の刺激を越えるたび細胞が強くなる、という特徴が実際に発見されることとなりました。その形質を完全に発現させれば、自己進化によりあらゆる外部刺激への耐性を獲得できる……そんな、ザラガスに繋がるような特徴が〉

 

 彼女が言う外部刺激による進化なのか、次々と形態を変えるザラガスと――同様に、更に下向きの二本角を増やした個体や、角が水牛のような形状になった者、そして全身の表皮を鎧のように変化させた白目のゴモラと。適応した状況の差から様々な特徴を持つゴモラの亜種たちの記録が、細胞レベルでの変化を示すかのように並べられる。

 

〈その形質を発現できたゴモラは希少かつ、成長限界には個体差もありますが――そんな、自己進化のための遺伝子配列が、培養合成獣スカルゴモラには高純度で組み込まれていたのです〉

「それで、ガーゴルゴンの石化光線にも、一度受けた後のルカは耐性があったってこと?」

 

 誰より早く理解を示したペガが、レムに向かって問いかけた。

 

〈はい。一度目は防ぎようがありませんが、フワワがルカを人間の姿で運搬するために、一旦石化を解き――フワワ自身がルカの細胞に、元に戻るプロセスを教えてくれるのなら。その場で耐性を獲得し、フワワの不意をつくことも可能だと、そう予測しました〉

「その不意をつくために……ずっと黙ってた、ってこと?」

 

 レムに対して。ライハの声が、微かに鋭くなった。

 

〈否定はしません。そもそも、きっかけも確証もなしに話すような事柄でもないと判断していましたが〉

「それはそう、ね……」

 

 レムの返答に、ライハは不満げな雰囲気を引っ込めた。

 代わって、ルカは素直に感じた疑問をぶつけた。

 

「でも……それだったら、私はスカルゴモラじゃなくて、スカルザラガスとして造られるべきじゃないの? ザラガスの方が、耐性の獲得には優れているんでしょ?」

〈尤もな疑問です、ルカ。しかしそれ以上に、ベリアルの遺伝子との相性で、ゴモラとレッドキングという組み合わせが優先されたものと予想できます〉

 

 画面を覆っていたゴモラとザラガスの追加資料が消え、改めてレッドキングの画像が拡大される。

 

〈ゴモラとレッドキングはそれぞれ、レイブラッド星人の後継者と目された伝説のレイオニクスたちが切札として操った怪獣です。つまり、怪獣を強化するレイオニクス能力との相性面で、最高の実績を持つ二体になります。レイオニクスによる怪獣の強化は目覚ましいもので、ベリアルが他の生命体と融合できるウルトラマンの特性を活かし、自ら怪獣化する戦法を好んだのも、その力を自己強化に向けるためでした〉

 

 例示されたのは、悪魔の如き翼を生やし、下半身を獣のようにしたウルトラマンベリアル――彼自身がフュージョンライズしたベリアル融合獣、キメラベロスの姿だった。

 

〈ルカはベリアルとも違い、変異のために余分な力を割く必要もなく、最初からレイブラッド星人の血を受け継いだ怪獣として存在しています。それこそがルカを造り出す際の真のコンセプトなら、レイオニクス能力の効果をより増幅できる期待に比べれば、ゴモラとザラガスという種の違いは些末なものだと考えられたのでしょう。同じく戦いを通して成長するレイオニクス能力での底上げを勘定すれば、即効性はともかく、最終的な成長限界値はザラガスをも遥かに凌駕すると考えられます〉

 

 激しい戦いに身を投じるほどに、培養合成獣スカルゴモラは強くなる。

 そんな推測を並べた上で、ここからは補足になります、としてレムは続けた。

 

〈片割れであるレッドキングは他の怪獣より容易に、感情の昂りで肉体が働かせるセーフティーを外すことのできる性質を持っています。それにより、成長を促す危機に直面した後、リミッターを外すことでその難局を脱する、という役割も期待されたのでしょう。限界を越えた分の反動についても、回復後の細胞の進化で帳消しにできる相補性があります〉

 

 先程、石化を解かれた後に、己がまだスカルゴモラとしての姿を維持できていたことを、ルカは思い出した。

 どうやらあの限界を超えた力は、ゴモラ由来の単純な生命力だけでなく、それを絞り出せるレッドキングの火事場の馬鹿力によるものだったらしい。

 

〈おそらく、さらに多くの遺伝子を合成するなどして、即物的により強い生命体を産み出すことは、ルカを造れるほどの科学者ならば容易なことだったのでしょう。ですが、ゴモラの自己進化の形質を発現させるのは、単独の遺伝子にベリアル軍が干渉しても不可能、と言えるほどの難易度です。ベリアルの超能力にゴモラの肉体強化を両立させた上での、遺伝子工学によるこれ以上の上乗せなど、途方もない知能と試行錯誤が要求されるでしょう。少なくともルカが造られた時点では、その科学者にもレッドキングの遺伝子を加えるまでしかできなかった、ということではないでしょうか〉

 

 結果として、最強を目指し産み出された培養合成獣は、かつてこの地球で観測されたスカルゴモラと同一の姿をした生命体となった――という形で、レムの長い解説が終了した。

 

「これが……ルカの秘密」

 

 熱心に聞き入ってくれていたリクが、最後にそんな感想を漏らした。

 そんな兄の視線に、少し気恥ずかしくなって。ルカは照れた調子で髪を弄った。

 

「今の話が本当だったら……私、お兄ちゃんより強くなれるのかな?」

〈何を強さとするかの定義にもよりますが。実際の勝敗はともかく、数値化できる戦力評価で考えれば、可能性はあります〉

「へぇ……じゃあ――」

「ルカ、変なことを考えるなよ」

 

 そこで兄が、咎めるような声を出してきた。

 

「強くなれるかもしれないんだとしても……危ない真似はするな。もし失敗したら、そのまま死んじゃうかもしれないんだぞ」

 

 静かながらも。妹の軽い調子に、本気で怒りを込めたようなリクの心配に、ルカは思わず口を噤んだ。

 

〈リクの言うとおりです。ある程度、予想外の刺激でなければ、細胞はそれを乗り越えようと変異することはありません。自傷や、誰かに頼んで意図的に刺激を加えても、既に受け入れる気持ちで臨んでいては、ルカの遺伝子は応えてくれないのです〉

 

 だから――ただ、敵を騙すには味方から、ではなく。フワワの石化光線への対策として、この情報をレムが伏せていたのだと、星雲荘の全員がその時やっと、理解した。

 

〈また、戦闘中に負傷することも、ある程度は受容されている刺激になります。現に、地力からの強化幅の問題でもありますが――ザラガスに劣る再生能力を、リクがその場で治療することで補ったベリアルキラーザウルス戦でも、逆転するほどのパワーアップには到底及んでいませんでした〉

 

 三日前の激戦を振り返りながら、レムが事例を示して解説する。

 

〈今回の石化光線のように、細胞が傷つくことなく生命の危機に瀕するような、特殊な干渉を乗り切ったのでなければ、その場で即無効化とはいかないでしょう。そして、そのような作用は、必ずしも細胞の進化で適応できるとも限らないので、過信は禁物です〉

 

 レムの駄目出しに、やっぱり全然、最強には及ばないんじゃ――と、ルカは暗澹たる気持ちとなった。

 

「そうね。いくら強い武器があっても、使い手自身がきちんとしてないんじゃ、宝の持ち腐れよ」

 

 そんなルカに、明るい調子で声をかけてきたのは、ライハだった。

 何故か、後ろでリクが痛いところを突かれたように仰け反っていたが――そんな彼を無視するように、ライハが言う。

 

「あなたの才能は、あくまで一つの武器。それだけに頼らず、全部引っ括めて、あなた自身が強くなれば良い――違う?」

「ライハ……」

「約束したでしょ。帰ってきたら、弟子にしてあげる、って。私があなたを鍛えるわ――それこそリクより強くなれるように、ね」

「――っ、うん!」

 

 ライハの見せてくれた微笑みに。覚えていてくれた約束に。すっかり嬉しくなったルカは、全力で頷いた。

 

 

 

 

 

 

「――もしもし?」

 

 ルカが目覚めて、話し合いが終わった後。一人地上に出たリクは、携帯電話を操作して、通話を開始していた。

 電波の繋いだ先からは、安堵した息遣いとともに、挨拶が帰って来た。

 

〈ああ、もしもし。おはよう〉

「……昨日は、ありがとうございました。ルカも、喜んでくれました」

 

 電話の相手は、朝倉スイ。遠慮する彼に連絡を取るのは、いつもリクの方からだった。

 

〈そうか……なら、良かったよ〉

「はい。本当に……良かった」

 

 話している最中。ふと、街頭モニターでいつものニュースが流れ始めた――電話越しに漏れ聞こえる音からするとどうやら、朝倉邸のテレビでも、同じ番組が映っているらしい。

 

「何か、手伝いに行くことはない? お客さんとしてじゃなくて……」

〈いーよ、まだまだ君を頼る必要はないから。それに……ベッドの下とか、探られたくないからね〉

 

 冗談めかしたスイの断り文句に、リクは思わず苦笑した。

 

「スイさん。ああいうの、ルカの前ではもう絶対やめてくださいよ」

〈はは、ごめんごめん。でもあれは、君の自爆だからね? ともかく、ちゃんと避難させておくんだよ〉

「もちろん」

 

 そんな、他愛のない話を続ける間にも。

 報道番組では、『気になる世論』が紹介されていた。

 昨夜、星山市を震撼させた怪獣の咆哮――音紋認証により、赤い角の怪獣だと断定されたその声の主は、ウルトラマンジードが一週間前に逃した個体のはずだと発表されて。

 三日前。究極超獣の襲来に、ジードとともに応戦したその怪獣を、どう思うのか。そしてその怪獣を倒さなかったジードのことを、これまで通り支持できるのか。

 喜ばしくないその結果を耳にしながら、リクはスイとの語らいを続けた。

 

「……スイさん。ちょっとだけ、相談いいかな」

〈私で力になれることだったら、言ってみなさい〉

「ありがとうございます。実は……」

 

 年長者であり、かつて町長を務めたというスイに対して、リクは問うてみた。

 ルカに関わる詳細を伏せながら……フワワが懸念していた、ノワール星人のことを。

 ベリアルの子として、彼らとどう向き合うべきなのかを。

 

〈まぁ、そりゃあ、まずは君も話してみるしかないな。この星の法律が適用されないだろう宇宙人相手に、私の経験なんかをどこまで真に受けて良いものか、わかったもんじゃないけど〉

「そんなことないです。ありがとう」

 

 モアとか、専門の大人も付けるんだよ、という助言に御礼を述べていると、スイは続けた。

 

〈まぁ、でもね。文化の違いってのも、尊重はしなきゃならんが――それは、一方的に譲歩するって意味じゃない〉

 

 どことなく、先程までよりも強い語気で、スイは電話越しに告げる。

 

〈別に地球人だって、君たち兄妹には優しくはない。まぁ私も、何も知らないなら似たようなものだったろうが……君のことだ。そんな声にも耳を傾けて、傷ついてくれてるんだろうけど〉

 

 ……ついこの間まで熱中していた、怪獣を狩り、資源とするゲームを嫌がったからか。

 どうやら、教えていないルカの正体も。リトルスターを喪った今でも、リクの秘密は全て、スイにはお見通しだったようだ。

 もしかしたら。ルカを奪われず、また、その手を汚させずには済んだけれど。それしか道がなかったとはいえ、妹が名前を贈った怪獣を倒したことに感じていた引っかかりのことも、例外ではないのかもしれない――続くスイの言葉を聞きながら、リクはそう感じていた。

 

〈話を聞くのが大事なのは、自分の選択で後悔しないようにするためだ。自分の選んだ道の途中で、迷ってしまうことがないように。だから、惑わされずに――ちゃんと、妹を守ってやるんだぞ。陸〉

「――はい」

 

 名付け親からの暖かな激励に、リクはしっかりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 ライハの弟子になったものの――疲れの残る今日はまだ、体を休めるようにと言われたルカは。兄が地上に出ている頃、自室に戻ってベッドで、横になっていた。

 そうして、一人になったことで。ふとルカは、昨夜のことを思い返した。

 

「ねぇ、レム……聞こえる?」

〈はい。聞こえています〉

 

 ヘッドホン型の通信機に手を当てれば、レムからの返答が即座に帰って来た。

 

「フワワは……私のことを、フワワなりに。本気で、守ろうとしてくれていたんだよね」

〈――そう思ってあげているのですね、ルカ〉

 

 少し柔らかくなった気がするレムの返答を聞きながら、ルカは微かに顎を引いた。

 

〈そんな彼女を討ったリクのことを、恨んでいますか?〉

「まさか、ありえないよ。私がそうしようって思っていたぐらい。フワワは自分からお兄ちゃんを騙して、裏切って、地球を脅かした、悪い怪獣だったんだもん。最後の頼みだって、そもそも最初からそうするって、お兄ちゃんが言ってくれてたこと……」

 

 レムの探りに、ルカは何の躊躇いもなく首を振った。

 だが、その後に並べていた罵倒の言葉は、どんどん勢いを失くして行き――最後に、秘めていた残りの感情を、胸の中から吐き出した。

 

「だけど……ちょっとだけ、哀しかった」

 

 エタルガーやヤプールのような、純然たる害意のみの邪悪とは――ほんの少しだけ、フワワは違っていた。

 生きるために必死で、そのためにベリアルから受けた恩義を重んじて。そして、最期はそんな自分の命よりも、ルカの身を案じていた。

 身勝手な振る舞いの、因果応報でしかない末路に。しかし、ただ死んでくれてすっきりした、安心したとは――彼女に名前を渡した張本人であるルカは、どうしても思えなかった。

 

「――ごめん。ちょっとだけ、愚痴を聞いて欲しかったの。お兄ちゃん以外で、フワワのことを名前で呼んでくれたレムに」

〈構いませんよ。私としても、あなたの胸の内を聞けて、安心しましたから〉

「レムは……フワワのこと、嫌いじゃなかったの?」

〈まさか、あり得ません。リクを騙し、石にして、あなたと引き離そうとした相手ですよ?〉

 

 人工知能ながら、好きや嫌いやの感情を当然のように語って、レムがルカの問いに答えた。

 

〈しかし――好き嫌いと、理解を抱けるかどうかはまた、別の話です。リクやライハもかつて、そのような戦いを経験しました〉

 

 レムの語る二人の来歴に、当時のことを知る由もないルカは、それでも想いを馳せた。

 兄も、師も。こんな気持ちを懐きながら、この世界を守り続けて来たのだという事実に、憧れさえも感じながら。

 

〈フワワは私たちの敵でした。ですが……私も、その方が名前をくれたリクのためだからと、彼の命令や意向を無視することが度々あります。この一週間だけでも、リクを救うためだからと、ヤプールに操られたライハを撃ったのも。あなたが戦死する恐れを認めた上で、究極超獣との戦いに送り出したのも。今回、耐性獲得による不意打ちという賭けに、無断であなたを乗せたのも。全て、自己判断による命令無視です。そういう意味で、私とフワワは同類でした〉

「そんなことないよ」

 

 思わず、ルカはレムの言葉を否定した。

 

「だって、レムは……私たちを傷つけるつもりで嘘を吐いたり、脅して言うことを聞かせようとはしないもん。戦いだって全部、私が最初に望んだから、送り出してくれただけ。だから、フワワとは違うよ」

〈そう言ってくれますか、ルカ――では、これからもフワワのようにはならないよう、気をつけさせて頂きましょう〉

 

 ルカの主張に、レムは丁寧に応じてくれた。

 

〈話が逸れてしまいましたね。私もフワワのことは嫌いでしたが、その思考には理解できる一面があった。その意志を、あなたが汲んでくれていたことが、嬉しかった――それだけの話です〉

「……絶対に、フワワの手を取る気のない勝手な言い分だけど、ね」

 

 持ち上げられるのも、何だか少し嫌になってきて。そんな風に自嘲するルカへ、レムは続けた。

 

〈それはやむを得ないことでしょう。ですが、自らの立場や感情を踏まえた上で、違う視点からも物事を考えられるのは。私がただ植え付けた知識だけの理由でなく、あなたが自らの意志で考え、思考する一個の知性を――心を育んでいることの証明です。リクの妹が、そんな風に育っている様を見届けられること。成長する手助けができることは、利用者をより良い道へ導くための報告管理システムである私にとっても、喜びなのです〉

 

 今のは皆に内緒ですよ、と。いたずらっぽく、レムが付け足した。

 

〈どうか、その心の片隅に――フワワのことも、覚えていてあげてください。その結末を、寂しいと思った自分の気持ちを。それがあなたにとって、次の哀しみに気づき、その未来を変えるための糧になるはずです〉

「うん――ありがとう、レム」

 

 リクから名前を貰った者同士、密かな語らいを終えながら。

 それっきり、レムの声が聞こえなくなったのを認識したルカは、言われた通りに、フワワのことを反芻した。

 

 ……ルカがその道を拒否していることを理解して、なお良かれと思い押し付けてくる、言ってみれば独り善がりな怪獣だった。本当に、レムとは大違いだ。

 それでも――例え、利用する目的であっても。世の多くの人から死を望まれているルカを守ろうとしてくれた、数少ない相手でもあった。

 出会い方が違っていれば……なんて仮定は、無意味だろう。怪獣使いであるベリアルに救われた過去がなければ、凶暴な魔獣であるガーゴルゴンが、ルカに好意的に接してくれる因果は存在しないだろうから。

 だから、考えるとすれば、出会った後だ。フワワの誘いを受ける理由はどこにもない。だけど、もっと――もっと話してみれば、もしかしたら、何か変わったのだろうか。

 

 今回の騒動で、余計に嫌いになったけど。もしも、彼女の心酔したベリアルを、貶めなければ。

 彼女を追い詰めたノワール星人の恐ろしさよりも、彼女が甘いと蔑んだウルトラマンジードの優しさを信じて貰えるように、もっと言葉を尽くしていれば。選んだ道が異なる者同士でも、別の結末があったのだろうか。

 

 ……いくら考えても、答えは見えなかった。既に終わってしまった過去を変えられるか、試すことは不可能だ。

 だから、レムの言うように。この胸に残る悔いに学びながら、未来を変えるためにこそ、ルカは考えるべきなのだろう。

 

 死んでしまった相手とは、もう話せないのなら。もう何も、変えられないのなら――生きている間に、充分ということは決してないとしても。お互いが同じ時間に生きている奇跡をもっと、大切にするべきだと。ルカはそう思った。

 そうして――自然と頭を過ぎった顔を思い浮かべながら、ルカは独り言ちた。

 

「また、スイさんのお見舞い……行きたいなぁ」

 

 またきちんと、兄と相談しておこう。

 そう決意しながら。胸の内を整理したからか、思い出したように昇ってきた疲れに身を任せて、ルカはゆっくりと瞼を閉じた。

 また明日。朝倉ルカとして選んだ道で、悔いなく生きるための力を、蓄えるために。

 

 

 

 

 







第4話あとがき



 ここまでご一読頂き、ありがとうございます。もしお楽しみ頂けたのなら幸いです。


 以下、いつもの雑文。興味ない方は読み飛ばしてください。

 久々の投稿が、オリ主タグ付きらしくオリ主を盛る長文SSになったことに戦々恐々とする作者です。
 構想では次話の方が扱う要素が多いため、一部を先出ししてみた結果なのですが、テレビシリーズの一話分という尺に収めるのはそろそろ厳しい分量になっているため、今回はディレクターズカット版という形でご了承くださると幸いです。

 今回は主に、培養合成獣スカルゴモラという怪獣に関する独自の強化設定について、元ネタを含めて解説できればと思います。こっちも長文になります……

・最強合成怪獣、スカルゴモラ
 これ自体は原作中で、創造主であるチブル星人マブゼが言っていた要素の回収になります。
 自称宇宙最高の頭脳の持ち主なマブゼは言動は小物ですが、その気になればすぐに本物と同等の戦闘力のにせウルトラマンベリアルを造ってしまえるほどの科学者です。
 そんなマブゼが、(造った順番の都合かもしれないですが)培養合成獣スカルゴモラのことを「究極の怪獣」「最強合成怪獣」、その誕生を「誰もなし得たことのない奇跡の瞬間」と称し、にせウルトラマンベリアルを産み出した際にはそういったことにはまるで触れませんでした。
 そのため、「誕生直後の戦闘力ではにせベリアルが上だが、成長性を加味するとマブゼの造った中で最強の生命体は、実は培養合成獣スカルゴモラである」という解釈自体は、完全に不可能なものではないのかな、と想定しています。
 理由付けとしては、まず何よりも拙作中で触れた通り、「生まれた時点で自分自身を能力の対象に取れる、怪獣でもあるレイオニクス」なことが一番ではないか、と考えております。

 個人的には、ウルトラマンベリアルは自らの命を託して怪獣を強化する道を選ぶほど、他者を信じられない人格であったと解釈しています。それよりも自分自身を強化する方が好みであり、ベリアルがよく怪獣化したがるのはそういう理由なのかな、と。(この辺りの設定が実際に言及されているのはジード超全集のキメラベロスでふんわりぐらいの記憶ですが……)
 そのため、怪獣の戦闘力を向上させるレイオニクスとしてはレイやグランデに劣り、ギガバトルナイザーこそ与えられているものの、レイブラッド星人から復活用の依代に選ばれることはなく、本人を戦力とする鉄砲玉扱いだったのではないかなと考えております。ちょうどマブゼにとってのにせベリアルも、邪魔者を排除するための即席鉄砲玉であって本命ではないのではという話とも重なる解釈になる気がします。

 話を戻すと、そんなベリアルを培養合成獣スカルゴモラがレイオニクス要素での自己強化で越えられる可能性については本文中で触れた通り、ベリアルのようにそのために余分な力を使う必要がないことと、ゴモラとレッドキングというレイオニクスバトルで最後に残った二体が素材であることから、という想定です。

・ゴモラ(とザラガス)
 今回の最大のぶっこみどころになりますが、一応(苦しいですが)元ネタはあります。
 まず、ザラガスが改造された怪獣ではないか、というのはウルトラマンジード原作のシリーズ構成である乙一先生が、ウルトラマンに携わるに当たって尊敬する先輩SF作家として名を挙げていた一人、山本弘先生の小説『多々良島ふたたび』にて披露されていたネタになります。
 そのため、乙一先生が同じく名を挙げていた小林泰三先生をリスペクトしてアトロシアスの名称をアルファオメガにしようとしていた、という話から、「乙一先生なら、ザラガスの設定は山本弘先生の作品のネタを拾うのではないか?」と考えました。

 そして、ザラガスの改造元は何かと考えれば……きぐるみの改造元はゴモラでした。そこで本文中で触れたように「ウルトラマン作中でゴモラが落下のショックで覚醒したのは本来の生命力を取り戻したからではなく、不意打ちの衝撃に呼応して、近縁種であるザラガスのように細胞が強靭に進化したから」という本作独自の解釈を入れることで、ゴモラの超希少遺伝子、あるいは突然変異的にザラガスの元になった能力を持つ個体が存在し、それに近似した遺伝子を組み込まれたのが培養合成獣スカルゴモラなのではないか、という設定としました(漫画『大怪獣バトルウルトラアドベンチャー』第4話でのイオのゴモラの覚醒描写と矛盾する気はしますが、整合性を優先するのは映像作品の方ということでお許しください。あちらもあくまでイオの推理、ということで……)。

 また、既にサービス終了したゲームとなりますが、『ウルトラ怪獣バトルブリーダーズ』において、ゴモラの固有スキルは覚醒すると、端的に言えば「攻撃を受けるほどに強くなる」能力として設定されていたのも、ザラガスとの共通点として考えられる元ネタとしております(ザラガスは未参戦でした)。ちなみに同ゲームの(肩書はベリアル融合獣ですが)スカルゴモラの固有スキルも同様、覚醒すれば「攻撃を受けるほどに強くなる」と言える能力でした。
 また、同ゲームにおいては『ウルトラマンX』においてダークサンダーエナジーでEX化したゴモラを例に、「ゴモラのEX化は本来レイオニクスの能力に限定されるものではなく、一部のゴモラが最初から備えている可能性」という論が展開されていたため、ザラガスのような変身能力に近いものである、とも解釈した形になります。

 この辺りを踏まえて、ザラガスも類似する要素として設定しておりますが、作中でも触れたようにザラガスほど即パワーアップできる能力ではなく、(少なくとも当面は)ストルム器官の相互互換程度のブースト要素という想定になります。ちなみに第3話のベリアルキラーザウルス戦で、ライハが感じた違和感の正体はこの能力による細胞の強化のつもりで書いていました。
 ゴモラがザラガスの改造元かつ、個体差はあるものの戦うたびに細胞が強く進化する遺伝子持ち、という設定は完全に独自のものとなるため、受け入れ難い方は本当に申し訳ありません。

・レッドキング
 こちらも公式設定には特にないことを触れていますが、要は他の怪獣よりも火事場の馬鹿力を出し易い種族である、というだけなので、ゴモラどころかガーゴルゴンよりも違和感の弱い独自解釈かとは思いますが、念の為触れておきます。
 ただ、これまたウルバトのネタになりますが、レッドキングがその火事場の馬鹿力を発揮するのは自身以上に、仲間のため――「守るべきもの」がある時にこそ強い、という設定はなかなかに好みです。
 作中で触れられないメタ要素なのでこちらで勝手に述べたいと思いますが、もしかするとマブゼが与えた要素の中で一番彼の想定を越えているのは、このレッドキングの要素かもしれないと考えております。
 マブゼとしては培養合成獣スカルゴモラ自身が傷ついた際の保険として組み込んだ程度の遺伝子ですが、朝倉ルカとなった彼女からすれば、自分以外の誰かのために戦う時にも、限界以上の力を発揮することを手伝うレッドキングの遺伝子にこそ、特に助けられるのかもしれません。



 その他としては、今回のフワワの顛末が、その他のベリアル軍残党に『ウルトラヒーローズEXPO THE LIVE ウルトラマンゼット』第一部展開を決意させた理由となった、という風に考えております。(ネタバレに配慮した言い方)


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