ハイブリッドアーマー・ローエンド。
大地の言葉を借りれば、かつて起きた奇跡の、
未知の超人は今、静かな足取りで一人、ホロボロス・メカレーターと対峙した。
スカルゴモラとの間に立ち塞がるエックスに向けて、ホロボロスが咆哮とともに躍りかかる。
高速移動からの機械化された爪の一撃を、エックスは手にした虹色の短剣――エクスラッガーで受け止める。四体のサイバー怪獣の力を加算された腕の動きはそのまま、ホロボロスを容易く振り払った。
弾かれたホロボロスは、安定の取れない空中から、その身を惜しまぬように荷電粒子砲を放った。
「ベムスタースパウト!」
しかしエックスは、左手に構えた盾――宇宙大怪獣ベムスターのエネルギー吸引器官を模したモンスアーマーによって荷電粒子砲を無力化し、吸収。そのエネルギーを、自らの力へと変換した。
超運動エネルギー兵器である荷電粒子砲発射の反動で、勢いよく地面と激突したホロボロス。充分に体勢を立て直す前に地を蹴って、砂埃を巻き上げる旋風となったホロボロスが再び、ゴム毬のように跳ねながらエックスを狙う。喉の奥から血を零しながら、限界を越えた高速かつ立体的な動きでエックスを幻惑するホロボロスは、遂に死角から飛びかかって――その前脚で空を切り裂いた。
大地とエックスは、自分たちが敵を見失った瞬間襲われることを事前に予測。そこにタイミングを合わせた、ゼットン由来のテレポート能力で攻撃を回避。勢い余ったホロボロス・メカレーターの前脚が地球へと突き刺さり、恐るべき俊敏性が失われる隙こそを狙い――その地点を確実に狙い撃てる上空に、再出現した。
両腕を左に振り被ったエックスの纏うモンスアーマーの各部位が、手にしたエクスラッガーと同じく青、黄、紫、赤に発光。空中でありながら踏ん張るような動作をした左足から、全身を伝わって迸ったエネルギーの余波が空に広がり、まるで何百もの虹が走るような紋様を描く。
「ウルティメイト・ザナディウム――!」
そうして、エックスのカラータイマーから放たれた虹色の光線は、最早回避の間に合わせようもないホロボロスを直撃。極太い虹の柱に呑まれたホロボロスのメカレーター部位が剥離し、さらにはその豪烈な体躯を解かしていき、爆発。
ウルティメイト・ザナディウムの膨大なエネルギーは、虹の光輪を伴った大規模な爆発を引き起こし、廃工場を倒壊させる破壊の傍で――その爆心地に、喪われる寸前の命を繋ぎ止めた結果である、ホロボロスのスパークドールズを産み落としていた。
その頃。爆風に煽られながら、スカルゴモラはウルトラマンジードらとともに、四体のインキュラス・メカレーターと対峙していた。
同じくノワール星人の産み出した魔獣、生体部品を使ったロボット怪獣であるラグストーンが、強靭さを売りにしていたのとは違い。インキュラスは幻像を利用した瞬間移動や、手足を素早く動かす肉弾戦を得意としていた。
それがスカルゴモラを狙うのを、ジードが前衛として迎撃し、グリージョが後衛としてバリアを展開している、さらにその後ろで。スカルゴモラは、前方の空間から響く音のパターンを、ひたすらに解析し続けていた。
「(――お兄ちゃん、今っ!)」
そうして、スカルゴモラの咆哮を合図として。ギガファイナライザーを手放し、取り回しに優れたもう一つの武器――ジードクローを取り出したウルティメイトファイナルが、それを上空に翳す。
「ディフュージョンシャワー!!」
ジードクローが放ったエネルギーは、一瞬だけ上空で滞留。次の瞬間、光速で降り注ぐ破壊の雨となって、前方の空間を埋め尽くした。
そこには、如何に身軽に動こうと、ノワール星人に統率された――一定の行動パターンを有していたインキュラスたちが、次なる幻惑の一手のために身を寄せ合う瞬間が、待っていた。
超振動波を武器とできる、あらゆる周波数に適合した超聴覚を持つスカルゴモラには。その行動に向けたインキュラスらの動作音や鳴き声のパターンが、既に読み取れていたのだ。
そうして、スカルゴモラの解析を元に放たれた、範囲殲滅攻撃であるディフュージョンシャワーに貫かれて。同種であるラグストーンと比べれば嘘のように呆気なく、全身を蜂の巣のようにした四体のインキュラスのシルエットが崩壊し、爆散した。
〈馬鹿な……これだけの戦力を投入しておいて……っ!〉
十一体のラグストーン。四体のインキュラス。
さらに先の戦いで捕獲したのだろう、元ベリアル配下のパンドンとホロボロスのメカレーター。
必勝を期して投入した合計十七体もの怪獣を全て喪う結果となり、ノワール星人が動揺する様子が伝わって来た。
〈だが……だが、だからと言って、退けるものか!〉
そして、諦められないとばかりに。代表であったノワール星人の乗り込む円盤が、なおもスカルゴモラを攻撃しようと接近して来る。
――いつまでも、好きにやらせると思ったら大間違いだ。
「(アサヒ――手伝って!)」
「もちろんです、ルカちゃん!」
呼びかけに、グリージョが頷いてくれたのを見て。スカルゴモラは、ゴモラアーマーを纏ったエックスがしていたようにして、波長を整えた超振動波を、迫る円盤群へと発信した。
ジードとグリージョが守ってくれていた間、スカルゴモラが走査していたのはインキュラスの行動パターンだけでなく――ノワール星人の円盤、その構造も同時に、だったのだ。
円盤内部の、ノワール星人の肉体にも。船の動力機関にも、その周波数のエネルギーは作用せず――ただ、円盤の備えた砲身と、飛行するための重力制御装置を狙い撃ち、ピンポイントに破壊する。
〈何――ッ!?〉
「グリージョバーリア!」
そうして、攻撃手段と、飛行能力を喪った円盤群が次々と落下して――地面と衝突するより前に、グリージョの展開したバリアの上に受け止められ、そのまま包み込まれる形で無力化される。
〈……慈悲のつもりか、ウルトラマン?〉
「そうです、反省してください♪」
無力化され、捕縛された円盤から発されたノワール星人の声に、グリージョが能天気に応える。
〈哀れんでくれるというのなら、最初から。その怪獣を渡してくれれば……〉
「何を言っているんですか! ノワール星人さんたちを懲らしめるだけで、やっつけなかったのは、ルカちゃんがそうしたんですよ!?」
なおも諦めの悪いノワール星人に、はっきりと言い切ったグリージョに対し。確かにそうなのだが、スカルゴモラは少し困ってしまった。
……本当に最悪としか言えないベリアルの被害者であることを、考慮に入れても。正直、ルカ自身のみならず、リクやライハに浴びせた侮辱の言葉も。思惑はどうであれ、己を守ろうとしてくれたという怪獣たちへの所業も。本音を言えば、全く許す気にならないし、死ねば良いのにとも思うが。
……それでも、死んだらもう、やり直すことはできないと。フワワとの一件で、学んだから。
身に迫る火の粉は払うとしても。殺さずとも無力化できる相手の命を、個人的な感情で奪うなんて――
「……言ったでしょう。僕の妹は、ベリアルとは違う。他の誰かから奪わなくても良い道を選んでくれる、って」
そんな、兄の信頼を。裏切ってしまうことになるのが、嫌だったから。
歩み寄ってきた兄を見つめるスカルゴモラに、ジードはゆっくりと頷いてくれた。
「だから……僕はルカを守ります。あなたたちにも、それをわかって欲しい」
〈……既に言葉は尽くし、互いに失望したはずだ。それでも力で上回ったなら、そんな傲慢な態度を取れるのだな〉
ジードの祈りに、そんな口を叩くノワール星人に。思わず生じた苛立ちを、スカルゴモラは何とか抑える。
〈今更、何をわかり合えるというつもりだ。所詮君たちと、我らノワールの価値観は異なる〉
「そんなことないですよ」
口を挟んだのは、地球上での活動限界時間が迫り、カラータイマーを鳴らし始めたグリージョだった。
「だって、あなたたちも、リクさんのことを英雄だって――ヒーローだって、思ってたじゃないですか!」
そんな中でも、グリージョは懸命に、訴えかけた。
「一緒に暮らす家族とだって、喧嘩することがあるんです。どこの誰とでも意見が合わないことなんて、あって当然じゃないですか。
〈家族……〉
アサヒの語る言葉に、思うところがあったのか。ノワール星人の代表は、もう一度その一言を漏らしたきり、沈黙した。
「別に……仲良くしてください、なんてつもりはありません」
そこに、ジードがさらに言葉を重ねた。
「だけど、これ以上あなたたちを傷つけたいわけでも、あなたたちに傷つけられたいわけでもない……ただ、それだけなんです」
間もなく、グリージョとエックスは変身の限界を迎え。変身時間に制限のないジードだけが、スカルゴモラとともに、地面にゆっくりと降ろされたノワール星人の円盤を、AIBが事態の収集に駆けつけるまで、見守り続けていた。
◆
……大切なものを、たくさん見つけた君に。
たくさんの人から、大切に想われるようになった君に。してあげられることは、なんだろう。
君が腕に抱えた幸せを、なくさないように願うこと。
君が一人で持てない荷物を、一緒に抱えてあげること。
そして。今は何もできなくても、僕にしかできない、何よりも大切なこと。
それは――
◆
「……ゼガンを見ればわかっただろうが。我々も、ノワール星の在り方を一方的に批判できる立場にはない」
確保したノワール星人たちの身柄を、母星に送還すべくAIBの本部へ転送する際。ゼナが、彼らにそんなことを言い出した。
「各々の事情もある。その文化を否定するつもりもない。だが、それを力で他者に押し付ければ反発を呼ぶ――覚えておくのだな」
同じ、ベリアルの被害者として。シャドー星人である彼もまた、思うところがあったのか。
警告と、自戒を込めたような呟きで、ゼナはノワール星人たちを送り出した。
「後のことは法の沙汰……で、良いのか? どさくさでやっちまってれば、正当防衛だったのに」
その様子を見届けて、ペイシャンがリクとルカに問うてきた。
「うん。僕らは――大地さんみたいに。未来の可能性を、信じようと思う」
「後顧の憂い、は依然残るわけだがな……あれだけの怪獣を喪ったとしても、円盤の半分はそのまま帰還した。復興途中とはいえ、ノワール星の総力が本当にあれだけだったのかは、AIBでもまだ掴めていない。今捕らえた連中の身柄で本部が交渉するとしても、どの程度期待できるのやら」
ペイシャンが嫌味のように言う最中。ムッとしていたルカは、背後から近づく足音に気がついた。
「……リクさん」
振り返る前から、その正体はわかっていたが――アサヒの、少しだけ寂しそうな顔は、ルカの想定になかった。
「大地さんと一緒に、お別れを言いに来ました」
無言で、穏やかに佇む大地を伴ったアサヒの言葉に、リクが身を乗り出した。
「お別れって、どうして……」
「だってリクさんは、ルカちゃんを守らなきゃいけないじゃないですか」
「……ほらな。甘っちょろいことをするから、トレギアを倒しに行けなくなった」
ペイシャンの口出しに、ルカは彼を睨み上げる。まるで気にされない様子がなおのこと腹立たしい。
だが、彼の言葉もまた、ある一面では真実だった。ノワール星人や、その他の脅威が未だ残る以上。リクはこの世界に残るべきだと――優しいアサヒたちは、そう考えてくれた。リクもまた、彼らの気遣いがわかる以上、何も言えなくなっている様子だった。
「――アサヒ、それは違うよ」
だから、これは自分の言うべきことだと感じて、ルカは口を開いた。
「だって私は、最強の合成怪獣なんだよ? お兄ちゃんに守って貰わなくても、平気平気!」
右腕に力こぶを浮かばせ、その上腕二頭筋を左手で叩く仕草を挟みながら。アサヒに告げたルカは、次いで兄の顔を見上げた。
「だから、ね? お兄ちゃん。心配しないで、ウルトラマンの使命を果たしてきてよ」
「ルカ……でも……」
なおも躊躇う様子のリクに。兄に心配して貰えているという喜びを感じながらも、その迷いを何とか晴らす術はないかと、ルカは頭を悩ませる。
「ルカのことは大丈夫だよ、リク」
「……ペガ?」
その時、聞こえてきたのは、リクの影から頭を出したペガの声だった。
「だってリクには、ペガっていうコンビが居るでしょ?」
リクの影から、完全に外へと飛び出したペガは。ノワール星人の送還を終え、背伸びしながらこちらに向かってきていたモアへと歩み寄った。
「モア。ペガを、
「――えぇっ!?」
そうして放たれたペガの提案に、モアと、ルカたちの驚愕の声が唱和された。
「えっ、どうして!?」
「……ノワール星人が言ってた。AIBは、地球の主権がある組織じゃない――だから今回みたいに、交渉の相手にして貰えないこともある。もちろん、ペガがここに居たって、できることはAIBより少ない」
急な申し出へ、取り乱したようなモアの問いに。同じく困惑するリクやルカに向けて、ペガは朴訥と語る。
「だからペガ、うちに帰る。ペガッサシティから、ベリアルの罪を子どもに押し付けるのはおかしいって、宇宙中に声を上げるために。……それが上手く行ったら、ノワール星も、他の星も、今回みたいな動きは取り難くなるはずだから」
それから、ペガはアサヒや、ルカの方を見て。もう一度、リクに向き直った。
「リクの、大切なものが増えて……おかげで、笑顔も増えた。
だから、守りたいものがたくさんできたリクの手が、回らないなんて時には。例え、ちょっとの間、離れ離れになるんだとしても――ペガにしかできないことなら、ペガはリクの力になりたいんだ」
ルカは、ノワール星人との交渉前に、ペガが語っていたことを思い出した。
彼の言う、覚悟を決めるとは、こういうことだったのかと。
「だから、リク。ルカのことはペガたちに任せて、リクはトレギアを止めて来て」
「ペガ……」
そんな親友の申し出に、ルカの隣で暫し面食らっていた兄は――やがて、感激で泣きそうなぐらいに顔を歪ませながら、笑顔で頷いた。
「そうだよな。僕とペガは、世界の平和を守るコンビだもんな……!」
目元を腕で拭ったリクは、その手をペガに向けて伸ばした。
「任せたぜ、ペガ。それに、お父さんとお母さんにも、よろしく」
「うん……!」
親友二人は、互い違いに拳を上下にぶつけ合い、そして固い握手を交わした。
「あー、それ、お兄ちゃんたちの!」
声を上げるアサヒに、照れたように向き直ったリクとペガは、笑いながら答えた。
「言ったでしょ。また会うまでに、練習しておくって」
「二人で、こっそりやってたんだ」
そうしてリクは、もう一度ルカを向き直った。
「ルカ……ごめん。ちょっとだけ、行ってきても良いかな」
「……正直、ほんとは寂しいけど。でも、しょーがないよね」
自分から言い出したくせに、とは自分でも思いつつ。少しだけ、不満を漏らしながら、ルカは肩を竦めて微笑んだ。
「……だって私、わかっちゃったもん」
ルカは腰の後ろで手を組んで、からかうように兄の顔を覗き込んだ。
「お兄ちゃんから出てきたエタルダミーが、トレギアだった理由」
それをわかってしまったなら、これ以上ワガママを言うなんてこと、ルカにはできなかった。
何より、ルカにとっても――アサヒはもう、家族のように大切な人だったから。
「だから、今は私のことはいいから――アサヒのことを守ってあげてきてよ、お兄ちゃん!」
「なっ――」
照れる素振りの兄に対して、ルカはしてやったりと笑いながらも。ルカは、リクに向かって、続きを告げた。
「その間、この世界は、アサヒがそうするみたいに――私が代わりに守っておくから!」
……例え、どんなに多くの人から、本当の姿を疎まれるとしても。
かつてのリクが、そうしたように。
ペガが、兄に代わってルカを守ってくれるみたいに。ライハたちと一緒なら。
どんなに険しくても、それを忘れなければきっと立ち向かえると――そう信じて。ルカは胸を張って、兄の背を押していた。
◆
それから、一旦帰省することになったペガと、別世界に旅立つリクの荷物を纏めるために、一行は一度、星雲荘に戻り。
リクから渡されたドンシャイングッズや、遅れて話を知ったライハからの餞別等々で身を固めたペガは、先程ノワール星人を送還した装置へと歩を進めた。
「ペガ……あの、そういえば……」
「大丈夫だよ、ルカ。ペガもレムから通信機を貰ったから、ペガッサシティからでも、リモートでお料理教室はできるから」
ルカを守るために、ペガにこの居場所を離れて貰うというのに。
それに比べれば、大したことないような。というより、厚かましいような……けれど、積み重ねてきた繋がりを気にするルカに、ペガはそう答えてくれた。
「次からは正規の手段で来ると良い。色々と保証が厚くなる」
「……ありがとう」
ペガを送り出す際、ゼナがそんな助言を授けていた。
事故による不時着とはいえ、ペガは未成年でも、AIBの取締対象である不法滞在宇宙人という形になる。それを、ゼナの権限で見逃してくれていたらしく。そういった方面でも気にかけてくれたアドバイスに、ペガは素直に礼を述べていた。
「じゃあね、皆! またね!」
「ペガ! できるだけ早く……帰ってきてくれよ!」
「リクこそー!」
叫び合うように、見送る皆と言葉を送り合って。ペガは、長らく会えていなかった両親の待つ故郷へと、転送されて行った。
――その様子を見れば。星が違っても、リクとペガ、親友同士が互いを思いやる気持ちに変わりはないのだろうと、ルカにも確信できた。
そうして、ペガを送り出せば。今度は別の次元に旅立つ、リクの番だ。
「……ペイシャン博士は?」
「興味がない、とのことだ。彼はその、マイペースなところがあるからな……」
大地の問いかけに、AIBを代表して見送りに来たゼナが、言葉を濁らせていた。
「でも、珍しいですよね? 博士の性格だったら、別の宇宙へ移動する装置なんて、絶対に興味ありそうなのに……」
「……じゃあ、代わりに伝えておいてください。無事の完成を祈っているって」
疑問を零すモアに対して、謎めいた言い回しを残し。ペイシャンから返して貰っていたのだろうパンドンのスパークドールズを、大地は見つめていた。
「あの……大地さん」
その彼に対して、ルカは声をかけた。
「パンドンとホロボロスのこと……お願いします。ご迷惑かも、しれませんけど……」
フワワを例に考えれば、善良な怪獣たちとは思い難いが――それでも、ルカを助けようとしてノワール星人に囚われ、改造された者たちに、無関心では居られなかった。
故に、頭を下げようとするルカを制して、大地はにっこりと微笑んだ。
「言われるまでもないよ。それが俺の夢だから」
答えた彼が、次元を越えるべく。再びウルトラマンエックスとユナイトするため、周囲と距離を取っている間に――ふと、背後が騒がしくなっていた。
「ほら、リクさん。言ってあげてください♪」
「いや、そんな……やっぱり恥ずかしいって」
振り返ると、アサヒが手を引いて、リクをルカの方に引っ張ってきていた。
アサヒが促す何かを、照れている様子のリクに対し。二人のやり取りの意味を既に把握しているらしいライハは、仕方ないと言わんばかりに笑いながら、その口を開いた。
「リク。今言っておかないと、あなたより私が先に言っちゃうわよ?」
ライハの発言で、遂に覚悟を決めたらしいリクは――ゆっくりと、ルカの方に歩み寄ってきた。
「――ルカ。その……」
初めて会った頃のように。どことなく緊張した、ルカに対しては珍しい面持ちで、兄は口を開いた。
「しばらく、会えなくなるかもしれないから。ちゃんと、言っておこうって」
決意に満ちた眼差しに見据えられ、正面から向き合ったルカに。リクは言った。
「君と出会えて――僕は、前よりずっと、ハッピーになれた。だから……僕と家族になってくれて。何より、生まれてきてくれて――本当に、ありがとう」
真剣な面持ちで、兄がそう告げたのに。
ルカは一瞬、呼吸を忘れて――それから、視界を滲ませた。
「えへ……うへへ……」
品のない笑声が漏れるのを、ルカは止められなかった。
緩んでしまった頬に手を当てても、全く効果がない。きっと皆にみっともない顔を見られているのだと思いながらも、それでも良かった。
――――私はいったい、何のために生まれて……?
生まれてすぐ、散々に痛めつけられた時には、そんな風に悔やんだこともあったけど。
ああ、きっと、自分は――この言葉を貰うために、生まれてきたのだと。
朝倉ルカは、誰に何を言われてでもなく。自らの意志でそう、確信した。
「いつになるかは、わからないけど……絶対、帰ってくる。君と、家族一緒に生きるために。だから、信じて待っててくれ」
「うん――うん。待ってる。ずっと、いつだって信じてるよ。だから……いってらっしゃい、お兄ちゃん」
「……いってきます、ルカ」
さようなら、ではなく。いってらっしゃいと、いってきます。
おかえりと、ただいまを言うための、家族の約束を交わして。ルカはリクを送り出す。
「……ごめんね。あなたが恥ずかしがってたとは、アサヒから聞いたんだけど」
目元を拭い。ウルトラマンエックスの手に載った兄と、アサヒの姿を、きちんと見届けようとするルカの隣に、ライハが立った。
――ルカのことを、家族と呼んでくれた彼女は。さっきリクがくれた言葉と、同じことを想ってくれているという彼女は。申し訳無さそうに侘びながら、二人を庇うようにして言う。
「でも……本当に、次はいつ会えるかわからないから。寂しくないように、言っておいてあげなさいって、私がリクを唆したの」
「ううん、ありがとうライハ……本当は、すっごく言って欲しかったから……」
ルカの答えに、ライハは安心したように笑みを深めた。
「そう……なら、良かったわ」
「うん。おかげで私……とってもとっても、ハッピーだよ」
リクとペガの友情のように。リクとアサヒが想い合っていたように。たとえ次元を隔てても、家族の絆は消えたりしない。
そんな確信が得られた今。ルカの中には、リクの心が離れるかもしれない、なんて不安はもう、どこにもなかった。
◆
「――リクさん」
ゼロのウルティメイトイージスを模した、次元移動装置。それを身につけたエックスとともに、別の宇宙へ――かつて訪れた、アサヒの故郷である綾香市に向かう道中。
「……ん」
エックスの掌の上。時空の狭間で、アサヒが不意に呼びかけてきたのに、リクは小さく相槌を打った。
「あたし、大事な友達が居たんです。ツルちゃん、って言うんですけど……」
過去形での語りに、リクは嫌な予感を覚えながら――その痛みを知りたいと。アサヒの話に、耳を傾けた。
「元々怪獣なルカちゃんとは、ちょっと違うんですけど。ツルちゃんも、ウルトラマンのお兄ちゃんを持つ、妹怪獣でした」
「……そんな子が居たんだね」
もしかして、そんな友達も居たからなおのこと、ルカを気にかけてくれたんだろうかと。リクはアサヒの胸の内を想った。
同時に、アサヒ曰くちょっと違うのだとしても。ウルトラマンと怪獣の兄妹という前例があることを知れたのは、ほんの少し、リクにとっての励ましとなっていた。
「ツルちゃんは、お兄ちゃんたちをルーゴサイトっていう怪獣に倒されて。それから、ルーゴサイトを止めるために、長い間、一人でずっと頑張ってて……最期に、カツ兄とイサ兄を庇ってくれて、私にこのジャイロを残して、死んじゃったんです」
……その、ルーゴサイトも。
本来は宇宙の平和を維持するための存在が、他ならぬトレギアの魔の手により、在り方を歪められ暴走した被害者だった――という事実を、リクとアサヒが知るのは、ほんの少し先の話だ。
「……もう、あんなハッピーじゃない気持ちは、懲り懲りです」
「……うん。そうだよね」
自分の力が及ばなかったばっかりに。亡くしてしまった人のことを、リクもまた振り返った。
「ルカちゃんはさっき、ああ言ってましたけど……ツルちゃんも、ツルちゃんのお兄ちゃんたちより強い怪獣になっても、それだけじゃハッピーになれなかったんです。
だから、リクさん。結局、ルカちゃんの傍から連れ出しておいて、こんなこと言うのも変なんですけど……」
「……アサヒが気にすることじゃないよ。僕が、トレギアを止めたいって思っているのは本当なんだ。ルカが生まれた時、あの子が酷い目に遭ったのも、元々はトレギアのせいだから」
リクとペガが、かつて狙われたように。野放しにすれば、トレギアはまたルカや――アサヒを狙って来るかもしれない。その前に、今度こそ決着をつけたいというのは、リクの偽らざる本心の一つだった。
「それに、大丈夫。僕らは一人じゃないから」
ウルトラマンだって、完璧じゃない。模造品のリクならなおのこと、欠点だらけだ。
だけど、だからこそ。それを補って余りある、支え合ってくれる仲間が、リクには居る。
リクに代わって地球を守ると言ってくれたルカの隣には、頼りになるライハもレムも居る。AIBだって、これからも協力してくれる。
そして、かけがえのないリクの親友も――ペガにしかできない方法で。例え、一時は離れ離れになったとしても、リクに代わってルカを守ると約束してくれた。
だから、今のリクは――もう一つの、自分の守りたいものに集中することができるのだ。
「……僕らは皆でウルトラマンなんだ。僕が傍にいない間も、ルカは一人じゃない――きっと、君たちと一緒に居られた時の、ツルちゃんみたいに」
一人でずっと頑張った末に、アサヒの友達になったというのなら。
身を呈して庇うぐらい、カツミやイサミを大切に想ってくれたというのなら。
きっとツルちゃんは、その時――孤独ではなかったのだろうと、リクは想う。
「もちろん、本当に会えなくなったりなんかしたら……ルカよりもまず、僕の方が寂しいけど!」
情けないことを、力強く言い切りながら。リクはアサヒに続けた。
「そのルカたちが、心配するなって送り出してくれた……だから今の僕は、何よりも。ルカを守って、僕や大切な皆のことをハッピーにしてくれた、君を守りたいんだ。アサヒ」
それが、今のリクにできる。リクが今選んだ、何よりも大切なことだと――そう、信じていた。
ここまでお読み頂き、誠にありがとうございました。
リクたちとトレギアの決着は、『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』に(相当する出来事へ)続きます。未見の場合、拙作を読む上で視聴必須ということにはならないかと(現時点では)思っておりますが、気になる御方は是非そちらで(ルカの話を一切タイガにしないのは闇に堕ちた父に悩むタイガの前でする話ではないと考えた、という形で脳内補完して今後の拙作に触れて頂けると幸いです)。
以下、いつもの雑文的なもの。
第五話時点でまさかのDパート解禁ですが、『ニュージェネクライマックス』相当の出来事に繋げるには時系列的にはこの話をするのは結構ギリギリなので詰め込みになってしまったことと、同時に、ある意味今回が拙作のプレ最終回のような話でもあったので、ということでお許し頂ければと思います。
『劇場版ウルトラマンジード つなぐぜ!願い!!』で、巨大戦力の欠如という問題でリクくんは重圧を感じているという描写がありましたが、割と以後、頻繁に自身の世界を留守にしているのがこの頃の公式展開であります。
もちろん、拙作でも想定しているように、上記劇場版の出来事からAIBがゼガンを復活させる等して、他の世界の防衛チームやグリージョが残留しているR/B世界のようにして守っているのだという考察で、充分に解消できる要素ではあります。
ただ、拙作の世界線においては、ウルトラマンジードが不在の間は、培養合成獣スカルゴモラがサイドアースを守っている、だからリクくんは安心して他の世界にもベリアルの息子としての因縁の清算、ウルトラマンとしての使命を果たしに行ける――そんな形にしたいな、と構想しているため、今回はその先出しのような形となりました。また、公式時系列上避けられない、リクとルカが一時別離するという重大イベントがあるという点でも、今回はある意味でプレ最終回に当たるのかな、と考えた次第です。
(あくまで現時点の構想での生存者ネタバレになりますが)これなら『ウルトラマンZ』客演時、レムとペガは居てもライハが居なかったのは、彼女はルカとともに地球に残留しているから、と考え易くなるかなと勝手に思う次第です。公式からすれば一切関係ないですが、二次創作する者としては、公式との矛盾は極力減らしたいところではありますので……(※リクアサだけは公式様が相手でも強気で推していきます)。
ペガについては、現時点ではリクがルカの傍を離れるにはまだ不安があると考えられることから、『ニュージェネクライマックス』でのペガの不在はトレギアとの決戦に向かうリクの、背中を預かっているような状態だと想定しました。
リクくんのみならずペガも一時離脱、と『ウルトラマンジード』の二次創作にあるまじき事態が発生していますが、少なくとも『ウルトラマンZ』におけるギルバリスの復活(に相当する拙作中の出来事)までにはペガも当然帰還します……が、万一拙作が未完となった場合、もしこの先を気にかけてくださる方がいらしたら、とりあえずそういう方向になるんだなぁとご納得頂けると幸いです。
改めて次回、『ニュージェネクライマックス』で描かれた限りはリクくんはタイガの舞台となった地球に半年近く滞在している都合上、時間の流れが十倍以上違うとしても流石に不在期間が長くなるため、リクくん不在のサイドアースを舞台とした話になる予定です。ご了承ください。