冒頭のシーンは『ウルトラマンジード』第一話での、レッキングバースト初使用シーン直前みたいなイメージです。
――それは、本当に突然だった。
不意に、頭に浮かんだイメージ。それを、現実にできるという確信が、何故かスカルゴモラの裡に生じた。
そんな、目覚めた本能のままに。培養合成獣スカルゴモラは、その力を行使した。
スカルゴモラの鼻先まで迫っていた、液体オゾンの青い濁流が、止まる。
正確には、スカルゴモラの眼前に展開された、光の壁を前にして、その進行を阻まれたのだ。
〈あれは……ウルトラマンのバリア……!?〉
ライハの驚愕の声が、星雲荘の通信に載って届けられた。
正確なことは、スカルゴモラにもわかっていないが――液体オゾンを止めた物の見た目はまさに、先程自身が焦がれた、ジードやグリージョの展開していたような光のバリアだった。
だが、スカルゴモラの頭に浮かんだイメージは、それだけではなかった。
液体オゾンを操る張本人、半人半樹の怪獣スタンパウロスの事態に戸惑うような仕草が、停止した。
さらには光の壁に突き当たり、左右に別れようとしていた液体オゾンの波もまた、徐々にその動きが静止して――スタンパウロスともども、ふわりと浮かび上がる。
それは、スタンパウロスの操る電磁力による操作ではなく――スカルゴモラの意志による、作用だった。
〈……何が起こっているの?〉
〈これは……ルカの、念動力のようです〉
ライハの疑問を受けて、レムが解析した状況を報告する。
〈ウルトラ念力――いや、怪獣念力とでも呼んだところか。ベリアルの血を一つ覚醒させたようだな〉
言葉遊びをしているような感想は、レムの報告を受けたペイシャンによるものだった。
……嫌な言われ方だが、それでも今、この窮地を覆せた事実には感謝しても良いと。スカルゴモラは兄とともに生きる決意をした時以来に、ベリアルの血筋を肯定する気持ちを胸に懐けた。
〈動きも止められた。今なら楽にトドメを刺せるな〉
ペイシャンがそう語るのに、しかしスカルゴモラは首を縦へは振らなかった。
先程までとは違う、新たな能力。スタンパウロスの電磁バリアごと包み込むように捕まえて、さらに自由に動かせる不可視の力を手に入れた今ならば、一度諦めた選択肢も選べると――スカルゴモラは、そう考えた。
「(い――っけぇええ――っ!!)」
気合とともに、スカルゴモラは強く念じる。液体オゾンをスタンパウロスから引き離し、分子結合を破壊して酸素に戻しながら、徐々に拡散させて無害化させる。
そしてスタンパウロス自体には、その数万トンの巨体を傷つけずにずっとずっと遠くへ――空の彼方まで、押し出すような力を加え続けた。
つまりは、元は宇宙植物であるスタンパウロスを、大気圏外に追放しようと企んだのだ。
……大気組成を変化させ、零下百四十度の液体オゾンを作り出す宇宙植物。地球人どころか、複数の恒星間航行文明が協力するAIBの技術力でもコミュニケーションが図れない上に、荷電粒子ビームまで放つ未知の怪獣、スタンパウロス。こんな生物と、スカルゴモラの守りたい居場所は共存できない。
だが、宇宙から来た侵略的外来種というのなら、宇宙へ返してやったなら――スカルゴモラたちはスカルゴモラたちの、スタンパウロスはスタンパウロスの居るべき場所で、それぞれが生きていくこともできるのではないか。
そんな希望を込めて。念じるだけで、本来は届かないはずの場所にも力を及ばせることができるこの能力で、スカルゴモラはスタンパウロスを送り出す。
例えこの力が、ベリアルの血に由来するものでも。ベリアルとは違うと兄が信じてくれたように、別の道があるのなら、奪わずとも済む道を選べるように。
そうして、スタンパウロスは怪獣念力の射程も及ばない遠い星となって、地球の大気圏の外まで飛んで行った。
〈……甘い奴だな。あれじゃ死なないぞ〉
「(そうしたんだよ。私がお兄ちゃんと約束したのは、怪獣を退治することじゃなくて、この世界を守ることなんだから)」
ペイシャンの皮肉めいた苦言に、スカルゴモラはきっぱりと答えながら、身を翻した。
見下ろす早朝の街並みに確認できるのは、巨大生物同士の激突に目を覚まし、怪獣災害の象徴であるスカルゴモラを恐れ、逃げ惑う人波ばかり。
ウルトラマンジードの助けなしで守り抜いたそこに、スカルゴモラの気を惹くような光はない――危惧されたリトルスターの発症者も見当たらないのなら、再び怪獣が呼び寄せられるということもないだろうと、胸を撫で下ろす。
それでは、朝の平穏を乱す怪獣は退散しましょうか――なんて。疲れすら心地よく感じる、成し遂げたという事実で舞い上がったように、そう考えていたところに。
〈……ならやはり、取り返しのつくうちに、命を奪う覚悟はしておくことだな〉
ペイシャンが告げるのと、レムが星雲荘のアラートを鳴らすのは同時だった。
〈ルカ。上空から、高速で接近する物体有り――スタンパウロスです〉
言われて、スカルゴモラは弾かれたように振り返り、視線を上げる。レムがくれた伊達眼鏡型デバイス――一体化したその機能を通じて視覚情報に送られた拡大映像には、電磁飛行により、自ら地球圏へ戻って来るスタンパウロスの姿があった。
〈元々星を越えて種子を飛ばす宇宙植物だ。常用しないにしても、飛行能力を持っているのは予想できることだったな〉
傷つけないように追い払ったところで、再来する可能性は最初からあったと――ペイシャンは冷たく語る。
〈度々見せた電磁加速による突進はその片鱗だったとして……おいおい、あいつ、オゾンホール作りやがった〉
淡々としていたペイシャンが、微かに焦ったような声を漏らす。
続けてレムが送ってくれた情報によると、スタンパウロスは移動中のオゾン層から、自らが利用すべく大量のオゾンを奪ったようだった。
〈スタンパウロスの進行ルート、予想完了――怪獣は、あなたを目指しています。ルカ〉
言われた頃には、流星のように迫るスタンパウロスが、小さな点としてスカルゴモラの視界にも映るようになっていた。
〈荷電粒子反応増大。来ます〉
レムの警告と同時に、その小さな星が一際強く発光する。
荷電粒子ビームが、スカルゴモラとその背後の星山市目掛けて放たれて――射線上に突如出現した、光のバリアに阻まれた。
続けて、地球目掛けて進んでいたスタンパウロスの飛翔が、制動を掛けられたようにして宙で止まった。
無論、それらは全て――スカルゴモラの意志で、引き起こした現象だった。
「(この――っ!)」
頭痛がする。新たに目覚めたばかりの念力を行使し過ぎた反動だけでなく、何を考えているのか、未だその声が聞こえない怪獣の行動に。
せっかく――せっかく、生きられるチャンスを作ったのに。
「(わからず屋ぁあああああああああっ!!)」
時間を置いたことで、再び万全の状態で発射準備が整ったインフェルノ・マグマが、その憤怒の思念とともに迸り。
未だ空に縫い留められていたスタンパウロスに直撃した炎の柱は、数秒かけて電磁バリアを食い破り、半人半樹の怪獣を丸呑みして――この地球上から、完全に焼滅させたのだった。
それが、培養合成獣スカルゴモラ――朝倉ルカが、生まれて初めて、己の意志と手で、他の命を奪った瞬間になった。
◆
「ご苦労だったな。約束通り、報酬は準備させて貰う。振込先は、戸籍を作った時に用意した口座で構わないか?」
「……要らない」
星雲荘に戻って早々。自らをそう出迎えたペイシャンに、ルカは首を振った。
「――急にどうした」
「別に……お金目当てで怪獣退治したんじゃないもん。協力したのは元々、今までに迷惑をかけた分の、埋め合わせってだけ」
目を背けるルカに、ペイシャンは呆れたように溜息を吐いた。
「――ああ、殺しを依頼したわけじゃない。だがAIBの任務に付き合わせたから、その対価を払うと言っているんだ」
特に躊躇った様子もなく、ペイシャンはルカの言い分に耳を傾けた上で、否定した。
「今回のおまえは、危険な外来種の定着を阻止するという契約をちゃんと遂行した。だったら今度は俺たちが約束を守る番っていう、ただそれだけの話だ。こっちにも義務を果たさせろ」
……マイペースで、マニアックで、皮肉屋で、礼儀知らずなことも言って来るものの。
ルカを助けてもくれたこのペイシャンという男は、やはり根は真面目な人物であるらしい。
顔を上げると、ペイシャンは少し困ったように眉の端を掻いていた。
「これからもウルトラマンジードが帰還するまで――いや、その後も、おまえの力を頼る時はあるだろう。拒否権がないわけじゃないが、応じるならあんまり自分を安売りするんじゃない。それは無責任な振る舞いに繋がるだけで、こっちとしても迷惑だからな」
リーズナブルだから、などと言って協力を要請した口で、ペイシャンはそう言い残して踵を返した。
「後始末はAIBでやっておく。オゾンホールも、あの程度なら拡がる前に何とでもなるだろう」
侵略的外来種に対する、ルカの情けが作ってしまった環境破壊の尻拭いへ言及するのを最後に、ペイシャンはエレベーターで地上まで転送されて行った。
その様子を見送ったルカに、ライハが横合いから声をかけてきた。
「…‥今日はバイト休む?」
「――休めないよ。お兄ちゃんが居ない間、シフトに穴空いているんだもん」
「今日はきっと、そんなにお客さん来ないわよ」
ライハが伏せたその理由を、ルカも察してはいたが――それでも首を横に振った。
「お客さんが来ないなら来ないなりに、早く仕事覚えたいし」
端的に答えたのを、なおも不安そうに見守るライハを見て。ルカは淡く微笑んだ。
「……大丈夫だよ、ライハ。私、ちゃんと覚悟決めてたから」
兄の大恩人である、朝倉スイの身に危険が及ぶかも知れないと聞いたその時から――ルカの中での優先順位は、揺らがずに定まっていた。
「途中で試せることが増えたから、一応やってみただけ……結果は変わらなかったけどね」
「ルカ……」
「ごめん、変なこと言って、心配させちゃって。初めてだから、まだちょっとだけ気持ちの整理がついてないけど……私は平気だよ。ちゃんと考えて選んだことだから、悔やんだりなんかしない」
AIBからの報酬を躊躇ったのは、今後を縛られたくなかったというのもあるが――何より、己の選択に言い訳をしたくなかったからだ。
自分が他の何よりも、朝倉リクの妹であるという生き方を、選んだということに。
「……今日私がやったことは、お兄ちゃんがエタルガーやヤプールをやっつけてくれたのと同じで、一緒に生きるのなんて無理な敵を倒しただけ」
彼らと違い、コミュニケーションが取れなかったから、逆にその真意を期待してみたけれど。蓋を開ければ、距離を保って生きることすらできない相手だった――ただそれだけの話だ。
もしも仮に、そこに悪意がなかったとしても。伝染病を運ぶウイルスや、自然災害に意志がないといって、誰もその猛威に身を任せ、滅びを待つなんてしないように。追い払っても変わらず攻撃して来る怪獣を倒すのはやむを得ないことだったと、ルカは認識していた。
「もちろん、お兄ちゃんは敵をやっつけるだけじゃなくて、私や、ライハのことを助けてくれた。ノワール星人のことだって……」
これまで、兄が見せてくれた優しさの数々を、ルカは反芻する。
「だから、お兄ちゃんに信じて貰えた私も、諦めない。これからも、本当に倒すしか道がない相手なのか、そのたびにちゃんと考えて、向き合い続ける。もしその結果が、思った通りにならないことの方が多くても。――決めたことを引き摺ったりなんか、する暇ないよ」
そう、諦めない。兄が信じてくれた生き方を。
あの日、絶望の淵にあったルカを救ってくれた兄のようになりたいという、憧れを。
例え何百回、その気持ちが裏切られようとも――きちんと考えて向き合うことを、ルカは選ぶと決めていた。
「もちろん、今日できなかったことを、この先もずっとできないままにもしたくないけどね。だから、まずは仕事からちゃんと覚えたいだけ。ジーっとしてても、ドーにもならないから」
「……そう。なら、安心したわ」
ルカが語り終えるのを聞いて、ライハは緩めた息を吐いていた。
それから、ふと手元に目を配り。まだ出立すべき時間には遠いことを確認したライハは、明るい笑顔でルカに告げた。
「それじゃあ……今日の修行もちゃんと、しなきゃよね」
「――そうだね、ライハ。うん。お願いします、師匠!」
朝練の提案に頷きながら。遠からず、この胸の痛みにも慣れるだろうと考えるルカは、一方でこうも思う。
どんなに覚悟していても。無関係な、共存できない怪獣の命を奪っただけで、こんなにも心が乱れてしまうのなら。
同じく、共存することが不可能な相手だったとしても――父であるベリアルを討った兄はその時、どれほどの痛みを覚えたのだろうと。
少しでも、その時の痛みが和らいでいて欲しいと。ルカはこの場に居ない兄へ向けて、密かに祈っていた。
◆
マスターである朝倉リクから、不在の間を託された彼の妹、ルカの様子を見守りながら。
星雲荘の報告管理システムであるレムは、今回の怪獣との戦いで得られた情報について、精査していた。
ルカの精神面は万全とは言えずとも。今回経験した苦難も、彼女ならば乗り越えられるはずだと信じているが――その根拠となる、自らの認識する前提が本当に正しいのかを、レムは疑い始めていた。
〈やはり、シミュレーションの限りでは……あの程度の刺激で、液体オゾンへの耐性は獲得できないはず〉
かつて解析した、ルカを――培養合成獣スカルゴモラを構成する遺伝子。外部刺激に応じて強くなる、古代怪獣ゴモラの秘められた特性について、ノワール星との戦闘までの実測データとともに、演算してみたところ。何度再計算してみても、そのような結論しか、レムは導き出すことができずにいた。
レムにとっても未知数となる、おそらく史上初の事例――レイオニクスの血によるスカルゴモラの自己強化が、ネオブリタニア号の予測を上回っているのだろうか。
……もし、それだけのことならば、構わない。しかし――つい先程、ルカが都合の良過ぎるタイミングで、念動力に開眼したこと。その予兆が、やはりレムには観測できていなかったこと。
二つの想定外が重なったことで、スカルゴモラの成長はレムにとって無視できない懸念となっていた。
……ルカに対する前提を、レムは何か見落としているのか。
それとも――まだ、影も形もないものの。かつてリクに対してベリアルが行ったように、ルカに対する何者かの干渉が始まっているのか。
その犯人こそが、別宇宙で死の淵にあった培養合成獣スカルゴモラをこの世界に送り込み、続けて超時空魔神エタルガーを差し向けた黒幕であるとして。
その正体が実は、リクが現在討伐に赴いている、ウルトラマントレギアではないとしたら――?
……現段階では情報が不足していると判断し、レムはそれ以上の推論の構築を一旦取りやめた。
仮に、ルカに対する何者かの干渉があったとして――その行為もまた、レムには観測できていないのだ。そんな状況でいくら考えても、実りはない。
大切なことは、主へのレポート・マネジメントを担当する報告管理システムとして、彼の妹の心身を健全に保つこと。
そのために、これまで以上の注意を払うべきではあるが、結論は決めてかかるべきではない。全てはレムの杞憂に過ぎず、単なる才能の発露かもしれないのだから。
そんな風に思考するレムは――彼女自身の落ち度ではない理由で。
本来、見逃すはずがないその現象を。自らの見出した謎の一つを解く手がかりを、星雲荘の観測機器が感知できていないことに、気づけていなかった。
……ルカの胸に、今。この宇宙が、現在の状態である限り、本来発生し得ない光が宿っているということに。
◆
――朝倉リクは、不思議な夢を見ていた。
それはかつて、己の正体を悟り、そして『陸』という名前に込められた想いを知った少し後の頃、体験したのと同じ夢だった。
……夢の中で、世界は闇に包まれていた。
暗黒の中、君臨していた闇の巨人……ベリアルでもトレギアでもない見知らぬ悪魔は、全てを闇の中へと呑み込んで行く。
空も、街も。
人間も、怪獣も。
そして、リクの仲間も――大切な、家族さえも。
――やめろ!
その時リクは、ウルトラマンジードには変身できなかった。
それでも、リクは止まらなかった。やっと掴めた大切な絆を、諦めるなんてできなかった。
その想いのまま、駆け出したリクの前に――どこかで目にしたことのあるような、赤色の発光体が出現して……
……そこでリクは、自身へ呼びかける声に気づいて、目を覚ました。
「……起きたか。呑気なもんだな」
目を覚ましたリクを皮肉げに叱るのは、前髪を垂らした逞しい体格の男性――ウルトラマンビクトリーの力を継承する地底種族ビクトリアンの戦士、ショウだった。
「そう言うなって、ショウ……大丈夫か、リク? ちょっとうなされてたぜ」
二人の間を取り持とうとするのは、ショウと同じ暖色系の変わった軍服に身を包んだ長身痩躯の青年――ウルトラマンギンガに選ばれた礼堂ヒカルだった。
そんな二人に向かって、当初決めた仮眠の時間を超過してしまっていたリクは、慌てて頭を下げた。
「すいません、二人とも――僕の希望に、付き合って貰っているのに」
……今、リクたちが居る場所は、捨てられた工場地帯だった。
そこはリクの育った星山市とも、ヒカルたちが守る世界とも違う――パラレルアースと呼ばれる地球の、とある街の外れ。
かつて、培養合成獣スカルゴモラ――リクの妹であるルカが、産み出された場所だった。
ウルトラマンエックスとともに、アサヒたちの世界へ辿り着いた翌日。
五つの次元から集ったウルトラマンの一人として、リクはこのパラレルアースのある宇宙を訪れ、トレギアとの決着を図った。
しかし、リクたちがパラレルアースに到着する寸前。先立って行われたウルトラマンタイガとの激戦が理由で、トレギアがその身に施していた封印が緩み、その一部が解放された怪物――邪神魔獣グリムドの襲撃を受けることとなり、作戦は大きな変更を余儀なくされた。
トレギアのパワーソースであり、宇宙の開闢以前より存在した混沌の化身とされるグリムドこそは、不滅の怪物だった。この邪神魔獣との呪術的な契約関係が、トレギアが幾度となく見せた復活の秘密――異なる可能性を歩む並行宇宙のトレギアたちの命を一方的な代価とした、無尽蔵な蘇生の正体だった。
グリムドの一部をその身に残したままのトレギアと、彼との契約が完了するまで使役される力と化したグリムド。不死身の強敵二体を相手にすれば、歴戦のウルトラマン七人といえど、苦戦を余儀なくされた。
最終的に、トレギアを無力化するために用意していたギンガの秘策、ウルトラ兄弟直伝のファイナルクロスシールドをグリムドの封印に用いることで、ウルトラマンたちと邪神の戦いは痛み分けとなった。
だが、妨害を退けるために撃破したトレギアまで同時に封印することは叶わず。グリムドの封印が綻ぶまで、一時的に復活を阻止することが限界となった。
その、リクたちの変身能力を代償とした決死の封印も。グリムドの恐るべき力を前にすれば、保って半年が限界だ。
その猶予の間に力を取り戻すべく、リクたちはウルトラマンタイガたちと同化している、ヒロユキなる青年を探すこととした。
しかし、封印に全力を尽くしたリクたち七人は、パラレルアースに降り立つだけで精一杯で。結果的に、目的地から見てちょうど地球の裏側から活動を開始することになってしまっていた。
それから海を渡り、タイガやヒロユキとの合流を目指して旅する最中。ウルトラマンへの恨みを持つという宇宙人の犯罪ネットワーク、ヴィラン・ギルド関係者からの妨害を受け、これを退けながら日本に到着したのが、実に出発から五ヶ月後のこととなった。
そして、タイガとヒロユキの正確な所在を探すのみならず、トレギアの復活やヴィラン・ギルドの動向にも注意を払う必要が出たリクたちは一旦、チームを三つに分けることとなり――その中でリクは、培養合成獣スカルゴモラの創造主がヴィラン・ギルドの関係者であったという情報を掴み、その拠点を追っていたのだ。
ルカを産み出したのは、チブル星人のマブゼという科学者であったらしい。別宇宙の存在とはいえ、同じくチブル星人の邪悪な科学者と因縁を持つヒカルとショウのコンビが、そんなリクの行動に付き合ってくれていた。
とはいえ、既にゼロから大地やアサヒが預かっていた情報の通り、マブゼ博士は既に死亡していたらしく。今は彼のラボであったと見られる拠点を転々とし、培養合成獣を産み出すために使われたベリアルの遺伝子が残存してはいないか、合わせて確認して回っている状況だった。
……その最中、次元間通信を行うと、ヴィランギルドにもこちらの居所が察知されてしまうために。星雲荘と満足なメッセージを交わすことができなかったのは、リクにとって、本当に心苦しいことであったが。
「……デビルスプリンターと呼ばれていた物質も、ベリアルの細胞が正体だったそうだな」
不意にショウが呟いたのは、ベリアルが数多の並行宇宙に残した災禍の爪痕、その一端のことだった。
オメガ・アーマゲドン以前より、幾つもの宇宙に戦乱を齎し。何より様々な次元と通じた事象の吹き溜まり、怪獣墓場でかつて、ウルトラマンゼロと戦ったベリアルが傷を受けた際、ベリアルが訪れたことのない宇宙にまで飛び散った、その細胞の一部。
リクやルカを産み出した遺伝子とは少し違う。怪獣を強化するレイオニクスの闘争本能を宿した、他種族と融合できるウルトラマンの肉片。
ひとたび怪獣がそれに汚染されてしまうと、ほとんどの場合、手がつけられないほどに凶暴化してしまうのだという。
並行宇宙の各地で怪獣災害を激化させるデビルスプリンターに、光の国も、ヒカルたち別次元のウルトラマンも対応を強いられていると聞いて、リクは肩身の狭くなる思いを抱いていた。
……だが、同時に、疑問も感じる。
ベリアルが幾度となく激戦を繰り広げ、没したサイドスペース――リクたちの宇宙では、そのデビルスプリンターの影響が、ほとんど見受けられていないということに。
本来、並行宇宙でも指折りの汚染地帯であるはずのリクの周辺では、デビルスプリンターのものと思しき怪獣の凶暴化事件はまだ、寡聞にして知られていなかった。
「そうそう! デビルスプリンターやベリアル因子の被害を抑えるのも、俺たちウルトラマンの使命だ。遠慮することじゃないさ」
そんなリクの胸の内を知ってか知らずか、ヒカルは明るく笑いかけてくれた。
「……まぁ、リクの場合は仕方ないけどさ。これ以上、知らないところで弟や妹が増えても困るしな」
何気ない調子で呟いてから、失言だったと気づいた様子で、ヒカルは両手を振った。
「あ、もちろん、その子たちが悪いって意味じゃないぜ!?」
慌てて訂正するヒカルの様子に、リクがどう反応したものか迷っていると――ショウが彼を庇うように口を開いた。
「許されない命なんてない。無責任に産み出した側に罪があるとしても、生まれてくる命そのものに罪などない」
「……そうさ。俺たちの仲間にも、チブル星人が作った、道具だった女の子が居るんだ」
身に纏う隊服、そのエンブレムに手を伸ばし。今は次元を隔てた場所で待つ仲間を想うように、ヒカルは語る。
「だけどマナは、その運命に抗った……な?」
「……ああ。そして、未来に命を繋いだ」
ヒカルの呼びかけに、ショウもまた感慨を隠さずに、頷いてみせた。
「だが、必ず宿命を変えられる命ばかりとは限らない。そのための責任を負わないような奴らを、野放しにするべきじゃない。こいつが言いたかったのは、そういうことだ」
「そうそう、それそれ。じゃないと、リクが面倒見なきゃいけない家族がどんどん増えるだけじゃなくて――助けてやれない子だって、いつか出てきちまうかもしれないからさ」
どこか寂しそうに呟くヒカルの、本当に心配してくれたことがわかって。リクは彼らに、ゆっくりと頭を下げた。
「……ありがとうございます、二人とも。多分、心配してくれたとおりです。だから、そうならないように……」
「ああ。俺たちだって、ウルトラの仲間の気持ちは皆一緒だ。だから、いつでも頼ってくれよな。いくらでも力を貸してやるぜ!」
きっと、そんな風に励ましてくれるヒカルの、言う通りなのだろう。
今も、どこかで。リクの知らない場所で、同じ血を引いた、兄弟と呼ぶべき誰かが身勝手な欲望で産み出されて――その生命を、散らしているのかもしれない。
――だからこそ。ルカと出会えたことは、彼女がリクの妹であることを選んでくれたことは、まさに奇跡であるのだと。改めて、噛み締めながら。
ルカの弟や妹たちを救えない、なんて可能性を、ほんの少しでも減らすために。
そして、そんな悲劇を招くような生き方しかできなくなってしまった父を、安らかに眠らせ続けるためにも。
リクは――ウルトラマンジードは、戦い続けなければならないのだ。
それは、決して特別なことではなく――ヒカルたちのような、他のウルトラマンも、同じように。
だから――不吉な悪夢などに、一人で負けている時間はない。
ジーッとしてても、ドーにもならないのだから。
そんな決意を胸に。一月後、リクを始めとする若きウルトラマンたちは、トレギアとグリムドの討伐を成し遂げて、各々の宇宙へと帰還した。
勝ち取ったそれぞれの居場所を、その未来を、これからも守り続けるために。
Cパートあとがき
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
結局ウルトラマンジードの二次創作なのにリクくんが一切登場しないことに耐えきれず、伏線を仕込むついでに『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』の前日譚部分を捏造してしてしまった第六話です。結末をさらっとネタバレしてしまっていますが、改めてトレギアとの決着は同映画の方で確かめて頂ければと思います。
以下、いつもの雑文。伏線もどきやら、完全オリジナル怪獣の解説やらで今回も長くなりますので、読み飛ばして頂いても結構です。
・怪獣念力
ウルトラ念力の培養合成獣スカルゴモラ版。もちろん本当の元ネタはタイのあれという、ある意味危険な話(なので、公式本編と地続きという体で進める本編中ではゴモラにも念力使いの個体が~などという言及はできませんでした。これぞ真のドキュメント・フォビドゥン)。ただ、第四話でフワワにルカのことを「怪獣女帝」なんて言わせていたのは、「怪獣帝王」が元ネタなこの能力の前フリのつもりでした。
遺伝元となるベリアルのウルトラ念力は本家映像作品だとフュージョンライズに使っている他、フュージョンファイト限定のベリアル融合獣である禍々アークベリアルがマガキネシスという必殺技で披露しているため、積極的に見せないだけで高い練度で使用することは可能なのだと思われます。
レムが訝しむ「このタイミングで習得したこと」については、次話で触れる予定です。
・リクの見た夢
元ネタは原作である『ウルトラマンジード』第十四話『戦いの子』にて、「誰かに会ったような気がする……よく知ってるはずの人なんだけど」という夢でうなされていたシーンになります。
実は『ジード』では珍しく、意味深に描写されながらその後の展開で回収されなかった要素となるこのリクの夢。おそらくは第二十三話『ストルムの光』で伏井出ケイが見せた思念体通信の応用か何かみたいなテレパシーによる安眠妨害か、ベリアルからの干渉だろうと思われますが、折角なので独自設定を加えて取り込んでみた次第になります。伏線として回収する前に本作がエタってしまわないよう頑張りたい所存。
なお、実際に映像化された作品に反映されていない所謂裏設定については、二次創作において公式展開との矛盾として強く意識する必要はないと考えておりますが、もし私の調査不足で既に何らかの媒体で種明かしがされていた場合、純粋にファンとして気になるのでご存知の方は教えてくださると幸いです。
・デビルスプリンター
公式での言及がなく、リクくんがデビルスプリンター対策として別の宇宙で活動していることから、サイドスペースは何故かデビルスプリンターによる汚染が少ないと本作では設定しております。本来予想される状態に反するその理由や、最終的にギルバリスがデビルスプリンターで復活するところまで含めて、先の展開として考えてはいるものの、伏線回収する前に本作がエタ(ry
『ウルトラマンZ』にてリクくんからベリアル因子が抽出されたり、デビルスプリンターと混ぜられたりはしていましたが、ジードの細胞もデビルスプリンター足り得るのかは割と気になるところです。
・(オリジナル)ウルトラカプセルナビ:
名前:宇宙植物獣スタンパウロス
身長:65メートル
体重:4万4千トン
得意技:超電磁タックル
地球外から飛来した、未知の宇宙植物が怪獣化したもの。命名はAIBのゼットン星人ペイシャン・トイン博士による。
多重の金属元素を取り込んだことで、細胞全体が電磁石のようになった驚異の植物。その電磁力を用いてオゾンを生成し、さらにレーザー冷却の要領で液化させ溜め込むという性質がある。戦闘時、攻撃手段に用いることから、おそらくは故郷における進化の過程で駆逐した天敵が、液体オゾンを苦手としていたことの名残であると予想される。
全身の電磁石化した細胞を利用して、自身を電磁加速で飛翔させ、惑星間での種子の拡散、繁殖を可能とした植物であるとAIBには予想されているが、人型の上半身を持つ理由等、生態の詳細は不明。AIBによるコンタクトの一切に反応しなかった理由も、能力的な問題なのか、恣意的な振る舞いなのか判然としないままである。
電磁力の応用は多岐に渡り、確認された限りでも前述のオゾンの生成・操作や肉体の電磁加速の他、物理干渉を弾く電磁バリアの展開に、荷電粒子ビームの発射まで可能とする。
……と、いう形で、初の既存怪獣のバリエーションではない本作オリジナル怪獣の設定(という名のチラシの裏)を記載しておきます。
なお、作者的には、上記では触れ難い設定として、「スタンパウロスに、炎のようなオーラを纏ってパワーアップする能力は、本来存在しない」という思わせぶりなことを述べてこの怪獣の話は終えたいと思います。
ルカに本来あり得ない光が宿ったことともども、(エクスキューズは必要かもしれませんが)公式の設定の範囲で説明できるとは考えていますので、伏線として回収できるように今後も頑張っていきたいと思います。ただ、ずっと覚えていないといけない、みたいな形にはしないつもりですので、今後も気楽にお楽しみ頂ければ幸いです。