円谷イマジネーションで『ウルトラマンティガ』の配信開始、おめでとうございます(挨拶)。
それに合わせたわけではありませんが、ちょい役ながら今回は『ティガ』出典の怪獣も登場するため、またも運命を感じております。
第七話のメイン怪獣が登場するのはBパートからになりますが、合わせてお楽しみ頂けたら幸いです。
「(スカル超振動波――!)」
咆哮とともに、培養合成獣スカルゴモラが大地を揺らして進撃する。
姿勢を低くして、頭部の角を先端としたスカルゴモラを迎え撃つのは、彼女よりも背の高い銀色の怪獣だった。
その頭部は冠のような三本の突起を背後に伸ばし、前に突き出た口吻の上には楕円形の単眼が嵌り、銅色に輝いている。
それ以外は尾の先まで、全身を複合装甲に包んだ、機械的な外観をした怪獣の名はリガトロン。
星雲荘の報告管理システムであるレムによれば、彼女の元友軍、テラー・ザ・ベリアルに所属していた戦艦ネオスカイラーク号が、乗組員諸共変貌した怪獣だという。
『ネオフロンティアスペース』と呼称される並行宇宙の一つで、かつて地球の木星探査機が未知のエネルギー生命体に憑依されて誕生したのが、複合怪獣リガトロン。
おそらく、元凶であったエネルギー生命体の同種にネオスカイラーク号が乗っ取られ、その記録から再現された新たなリガトロンが今、どのような経緯か、このサイドスペースの地球に襲来していたのだ。
かつて出現したリガトロンも、ネオフロンティアスペースで活躍したウルトラマンティガの攻撃を寄せ付けなかった強敵だと記録されている。
その初代よりも、素体となった艦がさらに強力なこのリガトロンもまた、驚異的な防御力でスカルゴモラのインフェルノ・マグマを跳ね返した。
怪獣念力でも、強固な機体を破壊することはできず。ならばと大気圏外への追放を試みても、その拘束すら易々と両手の鎌で引き裂いたこの複合怪獣は、背部のロケットブースターでスカルゴモラの前に平然と再来した。
外部からの攻撃では通用しない。そう判断したスカルゴモラは、超振動波現象を起こして内側から破壊しようと、迎撃のビームをバリアで防ぎ、単眼が光るたびに起こる足元からの爆発に耐えながら、決死の突撃を行っていたが。リガトロンは破壊光線を放っていたその鎌状の両手を、照射を止めた直後に振り被ると、同じく攻撃のためにバリアを解いたスカルゴモラの三日月状の角へ叩きつけ、突進の勢いを削ぎ落とした。
そうして、激突した双方の剛力が拮抗し。スカルゴモラの前進は、頭部の角がリガトロンの装甲に突き立つ手前で強制停止させられる。
……その胸に突き立てることこそ叶わなかったが、こうして触れられたのなら構わない。そのように考えたスカルゴモラは、一瞬の後に驚愕した。
「(超振動波が、出せない……!?)」
〈怪獣念力や、ゼガンの転送光線が無効化されたのと同じです。リガトロンの両手の鎌には、接触したエネルギーを吸収する性質があります〉
スカルゴモラの疑問に、レムが答える。
どうやらそれで、スカルゴモラの角からエネルギーを吸い上げ、スカル超振動波という指向性を持った破壊力へ変換される前に、技の発動自体を阻んでいるらしい。
技を出すために出力したエネルギーが、今はクッションのような役割を果たしているものの――それを吸い尽くされてしまえば、そのままスカルゴモラ自体の生命エネルギーに手を出される、危険な状況だ。
「(――だったら!)」
……少し前の、スカルゴモラであれば。この状況から、相手の許容限界と自身の底力、どちらが勝るかという捨て身の勝負しか選択肢がなかった。
だが、今は違う。
スカル超振動波も、インフェルノ・マグマも、怪獣念力さえも、この鎌に接触している間は発動すら困難だ。この間合いでは仕切り直そうにも、再び鎌で抑えられてしまう方が圧倒的に早い。
だが、今の培養合成獣スカルゴモラには、朝倉ルカとして師と共に磨く技がある――!
全身のバネを連動させたスカルゴモラは角を振り上げ、上からの鎌の拘束を強引に外す。重心を上げられたリガトロンは微かに一歩下がりながらも、再びスカルゴモラに向かって来ようとする――のに、先を取り。頭を起こした勢いのまま、スカルゴモラは左足を内側に向け、その場で旋回しながら、背面からリガトロンに向かって、逆に踏み込んだ。
両手を握り拳に変えながら、
培養合成獣スカルゴモラの、五万九千トンの体重と、その何倍もの質量を片手で振り回す筋力から生じた純粋な運動エネルギーの直撃でも、リガトロンの複合装甲を歪ませるに至らない。だが、微かでも重心の浮いたところに叩き込めば、スカルゴモラ以上の重量を持つその巨体すら、宙を舞わせるには充分だった。
「(今だよ、ゼガン!)」
咆哮とともに、リガトロンから離れたスカルゴモラのテレパシーが発される。
それを受信したのは、先程リガトロンから手痛い反撃を受け、後退していたAIBの怪獣兵器・ゼガンだった。
その胸部には既に、一度は防がれた主砲、時空転送光線ゼガントビームが、臨界を迎えたことを示す光が迸っており――
次の瞬間、時空破壊神から放たれた光線は、投げられた状態を脱しようと背部のロケットブースターで姿勢制御を開始したところだった、リガトロンの下腹部を直撃。鎌による防御が間に合う前に、ゼガントビームの持つ時空の因子がその働きを見せ、異次元に続く穴をリガトロンと重なる座標に発生させる。
難攻不落を誇った複合怪獣も、既に確立された時空の裂け目には為す術もない。断末魔のような咆哮を残すと、自身を中心とした時空転送の穴に呑み込まれ、そしてこの次元から永久に姿を消すこととなった。
「(――よしっ!)」
今日もまた襲来した怪獣……たった一匹ながら、この二週間で訪れた中では最強と言える脅威だったリガトロンの撃退に成功したスカルゴモラは、思わず勝鬨を上げた。
この世界の、本来の守り手――兄であるウルトラマンジードとの約束を、今日も遵守することができた、歓喜の声を。
◆
「ただいまー」
激闘を終えた培養合成獣スカルゴモラは、地球人の少女を模した姿、朝倉ルカへと擬態して。四十分の一近くまで小さくなったその体で、居場所である星雲荘に帰還した。
「おかえり、ルカ」
「あっ――」
その時――ずっと待ち焦がれていた声が、自身を出迎えてくれたのに気づいて。思わず、ルカは吐息を零していた。
そして、涙ぐんだ視界が滲むのを――大切な人の姿を、正しく見れないことが疎ましく思えて。
「お兄ちゃん!」
叫ぶと同時に、ルカは駆け出して、両手を広げてくれた兄の――朝倉リクの胸に、飛び込んだ。
はっきりと見えないなら、せめて。その暖かさを、確かに感じたかったから。
「会いたかった……ずっと、会いたかったよ……っ!」
「……僕もだ。待たせてごめんな、ルカ――ただいま」
「……うん。おかえりなさい、お兄ちゃん」
久方ぶりの、家族の挨拶を交わして。
大切な温もりを確かに抱きしめながら、兄妹は流れる時を忘れるほどに、互いの命の鼓動を重ねていた。
……そんな、静かで、穏やかな時に変化を促したのは、どちらのものとも知れぬ空腹の音だった。
「――おかえり、二人とも。御飯、できてるわよ」
各々の食い意地で照れ笑いを浮かべる兄妹へと、再会を静かに見守ってくれていたライハの優しい呼びかけが、そっと投げかけられた。
厳しい試練の数々を、乗り越えて。星雲荘は、普段の姿を少しずつ、取り戻しつつあった。
◆
〈リク、おかえり!〉
お代わりのカップ麺を啜っていたリクの耳を叩いたのは、帰省中の親友の声だった。
「ペガ、久しぶり。……元気そうで良かった」
〈リクこそ。なかなか連絡がないから、皆で心配したんだよ?〉
何万光年も離れた場所からペガが告げるのに、リクの隣でハンバーグを食んでいた妹も、うんうんと頷いた。
「そうだよ、お兄ちゃん。ウルトラマンになれなくなっている上に、何日も連絡がつかないとか……本当に心配したんだから」
「ごめん、色々あって」
「……もう。お兄ちゃんを見送った時、私生まれてまだ十日ぐらいだったんだよ? なのに、二週間も帰って来ないなんて!」
……リク自身は、時間の流れが違うパラレルアースで、実に半年も過ごす羽目になっていたのだが。
相対的な主観で見れば、妹の方がずっと長い孤独を味わったようで。リクもルカに出会うまで、二十年を生きたわけなのだが――どっちの方が寂しかった、なんて。再会を祝う場で張り合うものではないだろうと、リクは兄として譲歩することにした。
それから食事の最中、リクは、トレギアとの決着に至るまでの道程を、掻い摘んでルカたちに説明した。
「……良かったね、タイガ。お父さんを助けられて」
硬い声に少し、無理して気遣った様子も見受けられたものの。
かつてトラウマであった相手の掴み取った結末へ、そんな感想を妹が述べたのに、リクは頷き返した。
「うん……その間に、ルカが作られたラボも見てきた。ベリアルの遺伝子は、全く残ってなかったよ」
「そう、なんだ――じゃあ、もう安心だね」
〈そうとも限りません〉
リクの報告に、ほっとルカが吐息を零したところへ、レムが口を挟んだ。
〈デビルスプリンターほどではないでしょうが、ベリアル因子もまた、複数の宇宙に拡散しているものと予想されます。相応の技術や知性を持った者が手に入れれば、Bの因子を持った新たな生命の創造が行われる可能性は依然、残っていることでしょう〉
レムの意見に、リクは思わず視線を落としそうになった。
「……でも、リク一人で、全ての宇宙を巡るわけにはいかないしょ?」
その問題へ、何と返すべきか迷う間に。ライハが、代弁するようにレムへ問うていた。
〈はい。ウルトラマンゼロを始め、光の国が痕跡を追っているはずですが、現時点ではどの宇宙に存在するかも定かではありません――この、星雲荘を除いて〉
レムの言葉に、一瞬リクとルカは目を丸くして――それから、お互いの顔を見つめ合った。
〈あるいは、この短期間に襲来した怪獣の中には、ルカの血を狙う尖兵も居たのかも知れません〉
「ルカの……血」
その対象として、己が含まれなかった言い回しに、リクは思わず妹を見た。
パラレルアースで己を襲った宇宙ギャングも、あるいはベリアルの息子という生体資源を狙っていたのかもしれないが――そんな魔の手が、妹にも?
心配の篭もった視線に気づいたルカは、凛々しい顔を作って微笑んだ。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。私、血を盗られたりなんかしてないから」
やもすれば能天気にも思える返答に、リクが毒気を抜かれていると、レムがさらに解説を続けた。
〈リクが不在の二週間で、本日のリガトロンを含め都合七度、合計二十体以上の怪獣の出現がありました〉
そのペースも、出現数も、リクの予想を遥かに越えていた。
「二十……そんなに!?」
「……大半は一昨日の、ケルビムって宇宙怪獣の群れなんだけどね」
どこか照れたように、目を逸らしたルカが言う。
曰く、ルカは群れのボスとなるマザーケルビムが地球に散布した卵から孵った個体を相手取っただけで、宇宙空間に潜んでいたマザーケルビムはゼガンが異次元送りにすることで事態を収束したそうだが――
「ほとんどの怪獣は、レムがどんな生態なのか知ってて……追っ払ってもすぐ戻ってくる、戦うしかない相手だったから、全部やっつけた。だから、何かを持ち逃げされたりはしてないよ」
「…………そっか。頑張ったんだね」
数多の宇宙を脅かすトレギアを討つため、ウルトラマンジードが留守にした間、この世界を守り抜いてくれたルカ。
そんな妹の奮戦を褒める言葉を紡ぐのが、どこか虚ろである己を、リクは自覚する。
リク自身も、星雲荘を離れた間、決して楽な戦いをして来たつもりではないが――留守を任せた間の、ルカの戦歴を聞かされて。
妹をどれほどの危険に晒し――その手を、いったい、どれほどの血に染めさせてしまったのかと。リクは、その事実に愕然としていた。
〈……それぞれ全くの別種であり、背後に黒幕となる知性体の存在は確認できていません。しかし、この襲来頻度は異常と断じて差し支えないでしょう〉
確かに――ベリアルの陰謀が蠢いていたあの頃でも、毎日午前十時に復活して来た怪鳥・ギエロン星獣との戦いを除けば、二日に一度怪獣が出ることが二週間も続く、なんてことはなかった。
〈スカルゴモラとの交戦中に、怪獣の出力が明白に上昇する奇妙な現象も、度々観測されました。当初は新種であったその怪獣に限られた現象かと思われたのですが、既に研究されていた種族でも続いたことや――逆に、先のリガトロンのように、そんな様子が見受けられなかった事例もあり、法則性や原因は全くの不明です〉
またも気にかかることを、レムが報告する。
……そもそも、ルカがこの世界に来てから、十日の間でエタルガーにヤプール、ガーゴルゴン、そしてノワール星人が襲来したこと自体、一連の騒動と言ってしまえばそれまでだが、はっきり言って尋常ではなかった。あるいは、その頃からなのだろうか。
ただ、一つ――レムが見落としているわけもない可能性が、それでも気になり、リクは問いを投げていた。
「……リトルスターは?」
〈この二週間、確認できてはいません。どの怪獣も星山市を目指して出現しましたが、迎撃したスカルゴモラの相手に集中していました。また、怪獣が強くなった際にも、その個体が宿主であるという反応は検知できませんでした〉
案の定なレムの返答に、リクは考え込む。
「スカルゴモラに集中……ルカにリトルスターが宿るはずはないし……」
〈……もし、黒幕がいるわけでも、リトルスターのせいでもないなら、単純に地球はアンバランスゾーンになってしまった、ってこと?〉
〈――そのように考えるのが、最も合理的なのかも知れませんね〉
ペガの問いかけに、レムが彼女にしては珍しく、納得しきれていない様子で応じた。
〈ただ、自然現象による混乱だとしても、そこに便乗する悪意への警戒は怠るべきではないでしょう。先程述べた尖兵が居るかも知れない、というのはそういうことです〉
「そうね……ベリアルの子供というだけで、どんな思惑を呼んでも不思議じゃないかは、もう充分痛感したわ」
レムの警戒する、リクたちを狙う悪意。それに利用された当人であるライハは、深刻な表情で頷いていた。
〈――でも、ベリアルへの恨みを、星を挙げてリクたちにぶつけようなんて動きは、ペガたちで止められそうだよ〉
そこで降って来た親友の頼もしい言葉に、重々しい胸の内だったリクはやっと、気持ちを軽くすることができた。
「ペガ……ありがとう」
〈どういたしまして。でも、協力してくれるペガッサ星人や、他の宇宙人がたくさん居るのは、リク自身のおかげだよ〉
感謝の想いに、ペガはそう首を振った。
〈宇宙を救ったウルトラマンジードは、ペガッサシティでも、他の星でも、皆のヒーローだったんだ〉
そんな励ましを受けて。リクは思わず、胸に熱い物を覚えた。
……そうして、積もる話の全てを出し切れたわけではなくとも。やがて次の予定が迫っているというペガが通信を終えたところで、リクたちも食後の片付けに移った。
清掃が終わり、スペースが開けたところで、ふと思い立ったようにルカが両手を合わせた。
「あっ、そうだ! お兄ちゃんも一緒に見てよ、今日の私の戦い!」
「……見てたよ。本当に強くなったね、ルカ」
「わぁ、ありがとう! ……じゃなくて、ちゃんと復習したいの。敵を知り己を知れば百戦危うからず、だから」
表情をころころ変える妹の様子を微笑ましく思いながらも、リクはその返答に少し億劫なものを感じた。
勝てなかったりして、再戦が見込まれる強敵に対する研究ならともかく……などとリクが考えていると、背後からぬっとライハが顔を寄せた。
「……あなたと違って真面目なのよ、ルカは。トレーニングも熱心に、毎日付いてきてくれるもの」
冷たい耳打ちでリクをちくちくと刺した後、ライハはルカの隣に歩を進めて、共にレムの再生する映像を見上げ始めた。
映像に記録されたスカルゴモラの戦いぶりを見つめ、戦術の巧拙や己の癖、判断を振り返るだけでなく。太極拳の技を揮った場面になるとルカは自らの動きを人の身で再認しつつ、身体構造の違いの調整を含めたライハの指導を受けて、さらに
そこで妹が見せる動きは、半年間ライハとの修行から逃れられたと安堵していた兄よりも、明らかに洗練されており――リクは先程までと異なる、卑小な危機感を、その胸に抱いたのだった。
◆
「リッくん、おかえりー!!」
リクの帰還した翌日。
銀河マーケットへと出勤した兄妹を待ち構えていたのは、背広に身を包んだ愛崎モアだった。
どうやら、リクの帰還を知った店長の計らいで声をかけられたようだが、AIBの仕事は大丈夫なのだろうかと、ルカは思わず心配していた。
「リク。ちゃんと話が付いたんだって?」
「お久しぶりです、店長……はい、何とか」
モアに抱きつかれたまま、リクが店長とのやり取りを交わす。この世界を離れていた間のことは、ノワール星との騒動の頃に詳細を伏せて言及した、ルカを狙っている相手と話を付けに行く、という体で店長に伝えていたそうだ。
「そっかぁ……良かったな。じゃあ早速で悪いけど、これからも頼むぞ」
「はい。今日はちょっと、ライハが居ないけど……」
「まぁ、ライハにはずっと出て貰ってたからな――でも大丈夫だ。おまえが居なかった間に、ルカもすっかり戦力になってくれたから」
店長がそう言ってくれたのが、多少照れ臭く感じながらも、ルカは嬉しかった。
シフト上、久々の休みを得たライハは、今はペイシャンに呼ばれてAIBへ顔を出している。怪獣沙汰ではないとのことなので、ルカは安心して、久々となる兄と二人の時間を満喫しようと思ったのだが……モアもまた、リクにとって大切な人だと充分理解しているルカは、やむを得ず見逃すこととした。
代わりに、兄と二人での帰りは色々と寄り道して貰おう――などと考えていたルカの耳に、驚くべき単語が入ってきたのは、まさにその時だった。
「あっ、お兄ちゃん。久しぶり」
――『お兄ちゃん』。
通りがかった少女が、リクに対して突然、そんな風に呼びかけていた。
「あ、エリちゃん。久しぶり」
「うん。モア姉ちゃんもお
会話のやり取りを見ると、どうやらエリと呼ばれたセミロングの少女は、ルカを除く三人の顔見知りらしい。
リクや店長と、エリが和気藹々としているのを尻目に、ルカはこっそり、モアを手招きした。
「誰あの子!?」
「あ、そっか。ルカちゃんは初めて会うんだね」
アサヒが来た時の、意思疎通の精度は何処へやら。闖入者へのルカの殺気立った勢いに気づいていないのか、モアはのんびりとした調子で答えた。
「あの子は原エリちゃん。店長の姪っ子さんよ」
ちょうど、店長が商品を無料でエリに手渡しているのは、身内だからという理由らしい。
……なるほど。それで、同じく店長と身内のような関係であるリクとも親しい、ということか。
状況を理解したルカは、いつかのモアのように靴を鳴らしながら、肩で風を切って渦中の少女に接近した。
「おっ、そうだエリ。新しくうちで働いてくれている子が居てだな。そいつが何と、聞いて驚くなよ?」
「――はじめまして! お兄ちゃんの妹の、朝倉ルカだよ! よろしくね!」
ちょうど店長が言及しようとしたそこで、ルカはエリの目の前でリクと腕を絡め、少し押すことで距離を取らせた。
「朝倉……ルカさん…‥? 妹……? えっ?」
リクとの間に身を挟み込む、ルカの作り笑いによる挨拶へ、エリは理解の追いついていない様子だった。
「……妹なんだ、僕の。ついこの間、それがわかって、今は一緒に暮らせてるんだ」
「そう! 私が朝倉リクの妹! 本物の!」
そこへ助け船を出すようなリクの回答の後で、ルカは力強く言い切ることにより、言外にエリを威嚇する。
しかし、そんな意図に全く気づいていないのか、あろうことかエリは顔を輝かせていた。
「わぁ……そうなんだ! 良かったね、リク兄ちゃん!」
リクへそう告げたエリは、続けて視線を下ろして、ルカに向けてはにかんだ。
「よろしくね、ルカ姉ちゃん」
「…………はぅっ!?」
その呼び名が、激しくルカの胸の内を狂わせた。
「る……ルカ姉ちゃん……っ!?」
「あっ……いきなり、馴れ馴れしかった、ですか……?」
悲鳴のような奇声を漏らし、震えながら復唱するルカに対して。恐る恐ると言った様子で、遠慮がちにエリが問う。
そこでルカはふるふると首を横に回し、否定の意を示した。
「ぜ、全然……いいよ、お姉ちゃんって呼んでくれて。むしろ呼んで」
――それは、初めて味わう衝撃だった。
思えばずっと、妹や、年少者として扱われてきて――実年齢で言えば、ルカはまだ生後一月の赤子なのだから当然だが。
お姉ちゃん、なんて呼ばれるのは。今まで予想したこともなかった、甘美な体験だったから。
そうして、アサヒの時に続いて。ルカが抱いた警戒心は、その激しさに反し、あっさり解けてしまったのだった。
◆
そうして。リクの妹分だった原エリと、本物の妹であるルカが、すっかり打ち解けた様子でお喋りするようになった頃。
銀河マーケットに、もう一人の中学生が姿を見せていた。
「あれ、兄ちゃんじゃん!」
「お、少年!」
現れた少年の名は、本田トオル。リクと同じく、『爆裂戦記ドンシャイン』を心の支えとする、同好の士。
そして、エリと同じく――かつてリトルスターを身に宿し、ウルトラマンジードに祈りを託してくれた、人物だった。
「――トオルくん!」
「……エリちゃん? あっ、ここがエリちゃんの伯父さんの!」
その二人だが、実はこの頃顔馴染みになっていたらしい。
進学先が同じになった、というだけでなく。最初期にリトルスターを発症した人物として、AIBにも隔離されず、映像記録が残されていた二人は、その学び舎で等しく好奇の目に晒され――ヒーローに憧れ、勇気ある少年のトオルが、同じ状況にあったエリを庇うようになったことで、名前で呼び合う程度には互いの距離を縮めたようだ。
そんな二人の様子に、モアやルカがニマニマし、逆に店長が目を座らせ始めた頃。店先に備えてあったテレビが、いつもの番組を流し始めた。
〈知りたいワイド。気になる今日の世論の時間です〉
過去最悪と言える頻度で怪獣が襲来したこの二週間、姿を消していたウルトラマンジードとして、リクの関心は否応無しにその番組へ惹かれていた。
〈今日の話題は、ずばり赤い角の怪獣と、青い翼の怪獣、その正体についてです〉
だが、ジードは話題へ挙がらず――代わりに培養合成獣スカルゴモラと、時空破壊神ゼガンの写真が、テレビ画面に映し出されていた。
〈この一ヶ月、度々姿を見せる彼らは、声紋認証により同一の個体であると鑑定されています。過去には街を破壊し、ウルトラマンジードに退治された怪獣の同族であるこの二体――特に赤い角の怪獣スカルゴモラは、他の怪獣が星山市で暴れようとする場に現れ、これを退ける様子が度々確認されています。果たして彼らは、人類の味方なのでしょうか?〉
「……そんなはずないよ」
そこで、スカルゴモラを敵視する声が漏れた。
思わずリクが振り返ると――声の主は、かつてベリアル融合獣スカルゴモラに標的とされた当人である、原エリだった。
「……エリちゃん。でも、昔のとは別の怪獣だって……」
「だけど、あの怪獣も、ウルトラマンたちと戦って、街を壊してたもん」
反対意見を述べたのは、トオル少年だった。だが、かつてスカルゴモラへの恐怖で何度も涙したというエリは、頑なな様子で首を振った。
――その奥で。ルカの表情が見る見る陰るのに、リクは気づかないわけにはいかなかった。
「だけど……触手の怪獣との戦いで、今のスカルゴモラはウルトラマンジードと一緒に戦ったんだし……」
「その一回だけでしょ。それはたまたまで、単に凶暴な怪獣同士で喧嘩してるだけじゃないって、どうして言えるの?」
……ウルトラマンとスカルゴモラの共闘は、ベリアルキラーザウルスとの一戦でしか、一般社会には認知されていない。
故に、反論するための材料が不足するトオル少年を援護しようとして、しかしどう言ったものか、リクは悩んだ。
「そうだそうだ。スカルゴモラには俺の店だって踏み潰されたんだ。リクだってドンシャイングッズ、台無しにされたもんな?」
「店長。だからそれは、別の怪獣だって……!」
姪の肩を持とうとする店長に話を振られて、リクは思わず声を荒げる。
そんなリクの様子に、エリがショックを受けたように目を見開いた。
「お兄ちゃん……?」
動揺するエリの視線に、リクは思わず口を噤む。
……いくらエリや店長が相手でも、自分やルカの正体を明かすことはできない。
だが、ならばどうやって――今、活動しているスカルゴモラは、かつてベリアルの尖兵であった融合獣とは違うのだと、わかって貰えば良いのか。
培養合成獣スカルゴモラを恐れるのは、誤解に拠るものだとしても。かつてベリアル融合獣スカルゴモラによって家を壊され、逃げても逃げても執拗に追い回されたエリが抱える恐怖の記憶は、何一つ違わない真実であるというのに。ただ、一方的に我慢を押しつけるというのも間違っている。
「……どっちも本当、だよね」
重苦しい空気の増す場を仲裁するように、モアが前に出た。
「今のスカルゴモラも、街を壊したことはあるし――だけど、ジードが退治しないで、強敵と一緒に戦ったのも、本当」
ついでに、前のスカルゴモラが、銀河マーケットを踏み潰したのも、とモアが続ける。ついでって何だよと店長が抗議するが、モアは彼を無視して続けた。
「でも、それ以上のことは……皆、わからないよね。だから、こんなところで喧嘩しても仕方ないよ。……ね?」
それで話をお終いにするよう促すモアは、少し、辛そうな顔をしていた。
――モアには、もう、そんな顔をして欲しくなかったのに。
結局。モアに責務を押しつける形になったリクが、状況を好転させるための言葉を思いつけない間に。嫌な空気が消化不良のまま、エリもトオルも帰路につき。リクとルカは定時まで、銀河マーケットの業務に従事するという形で、その日は彼らと別れたのだった。
◆
「ごめんねリッくん、ルカちゃん。あんなこと言っちゃって」
「……なんでモアが謝るの」
銀河マーケットのアルバイトを終えての、帰り道。
店長と別れてすぐ、モアが謝罪の言葉を述べたのに、ルカは少し硬い調子で答えた。
……こんな声ではいけない、と深呼吸を挟んで、ルカは努めて柔らかな調子で続きを述べる。
「モアが言ったことは、全部本当のことなのに」
「でも――本当のことを全部、話したわけじゃないから」
それは、モアがAIBの一員であろうとなかろうと。どの道、誰彼構わず話すわけにはいかないようなことなのに。
むしろ、庇ってくれたのに。心底申し訳無さそうな顔をしたモアは、その数秒後。「ジーッとしてても、ドーにもならない!」と、本家本元の叫びを上げた。
「私、今から仕事戻るね。あんな風に対立を煽る番組作るなって、AIBから圧力出しておくから!」
それはそれで問題な気がする言葉を残して、モアは彼女の職場――ニコニコ生命保険に偽装したAIBの地球分署・極東支部へと向かうべく、リクとルカに別れを告げた。
……やっぱり今日、普通に仕事の日だったんだ、と。ルカは、モア自身とその周りの今後を、案じずには居られなかった。
「……ごめん、頼りにならなくて」
モアの立ち去った直後。今度はリクが謝罪の言葉を口にしたのに、ルカは振り返った。
「人前で元の姿に戻りたくないって言ってたのに、僕のせいで……」
「今更何言ってるの、お兄ちゃん。そんなの、私が決めたことだよ」
罪悪感を滲ませる兄の様子に、ルカは強く首を横に振った。
「私が元の姿を、普通の人に見られないようにするよりも。アサヒを狙うトレギアを、やっつけて欲しかったから――お兄ちゃんが気にすることじゃないよ」
最愛の兄に、心配して貰えるのは嬉しい。本当に。
だが、それ以上に、己のせいで心を痛めるリクを見たくないというのも、ルカの本音であったから……そんな言葉が、躊躇わずに口を出た。
……そうは言いつつも、エリや店長の反応が、ショックだったことも事実でもあり。
リクが、少し散歩して帰ろうと提案してくれたのに、元々その計画を建てていたルカも、異論を挟まずに従っていた。
その道中、感じていたことを、ルカはふと口にした。
「お兄ちゃんが謝るの、モアとそっくりだったね」
「……そうかな」
「うん。やっぱり、モアはお兄ちゃんの、お姉ちゃんみたいな人なんだね」
どうやら、モア自身はリクのことを、異性としても見ているようだが――まぁ、己の将来の義姉になるのはアサヒだと楽観するルカは、これまで通りモアのことを脅威とは思わず。関係性を進めるまでもなく、既に自分たち兄妹の家族のような女性がくれた暖かさに、深い感謝の念を覚えていた。
そんな想いを込めて呟くルカに、リクは頷いた。
「……そうだね。やっぱりモアは――血の繋がった家族じゃないとしても、僕らの大切な人なんだ」
「――逆に、さ。お兄ちゃんが、お兄ちゃんするのに慣れてたの、エリちゃんのおかげなんだね」
二十年を孤独に生きたというリクが、一ヶ月前、急に現れた妹に対して――最初こそ少しぎこちなかったとしても、素敵なお兄ちゃんとして振る舞ってくれたのは。既に、原エリという妹分が居たからなのだと、ルカは何となく察することができた。
「だったら、エリちゃんは私にとっても恩人なのかもね」
ライハが、アサヒを指してそう言った時の気持ちを、ルカは少しだけ追体験した。
自分の知らなかった誰かとの交流が、大切な人を形作る一因となって、己を幸せにしてくれる――そんな巡り合わせへの感謝の気持ちを、ルカは口にしていた。
「だから――本当は、エリちゃんが怖いって感じたのは、何も間違ってないよって……私も言おうかなって、思ったんだけど」
そして、情けない言い訳のような、あの時の胸の内を、ルカは兄へと開陳する。
「トオルくんだっけ。肩を持ってくれたの……なんだか、嬉しくって。……言えなくなっちゃった」
「――ルカが頑張ってるからだよ。言葉が通じなくても、相手を見て感じることも、人間にはできる。……何者なのかわからないままでも、ベリアルと似ているウルトラマンジードを信じて、リトルスターを託してくれたみたいに」
その最初の一人が、原エリだったのだとリクは語る。
「……いつか、エリちゃんにもわかって貰えると思う」
「うん――そうできるよう、私も頑張る」
……そんな必要もなくなる方が、本当は良いのだろうけど。
この頃の怪獣頻出具合を見れば、この先何事も起きない、という希望的観測を持つことはできない。
まして、兄妹の身に流れる血の宿命を思えば尚の事。
ペイシャンも言っていたのだ。ウルトラマンジードが帰還しても、培養合成獣スカルゴモラの力が必要になることはあるだろうと。
なら、その時に。こうして今、ともに歩んでくれる兄が、かつて成し遂げたように。己の姿に纏ろう悪評さえ跳ね除けられるよう、努めたい。
そんな風に、話し込みながら歩いていると。やがて二人は、元星公園の入口に差し掛かった。
「勝負だぁ、ウルトラマンジード! スカルゴモラ!」
その声に視線を巡らせると、兄弟と思しき子供たちが、仲良くごっこ遊びに興じていた。
ウルトラマンジード、のみならず。スカルゴモラの物真似をしている幼児が居て、ジード役の子とチームを組んでいる様子が見て取れた。
「わぁ……!」
思わず、ルカは感嘆の声を漏らした。
先程、兄が言ってくれたように――培養合成獣スカルゴモラを、敵ではないと思い始めてくれている人間も居ることが、確かに実感できたから。
公園に居るのは、ヒーローごっこ、あるいは怪獣ごっこに興じる子供だけではなく。母親の買ってくれたお揃いの人形で遊べる、と喜ぶ姉妹や、そんな子供達を見守る保護者たちが集っている姿もあった。
「……そうだ。お兄ちゃん、この後スイさんのお見舞い行こうよ!」
「うん、いいよ」
ルカの急な提案に、リクは躊躇いなく頷いてくれた。
表情が少し綻んでいたのは、兄も同じく、見知らぬ子供達の様子に、励まされていたからかもしれない。
そして、そんな子供達を見守る母親たちの姿に。モアと同じく、血の繋がらない自分たちの幸せを心底願ってくれる名付け親のことを――やはりルカと同じように、想起したのかもしれない。
もやもやとしていた感情を払い、意志を統一した兄妹が一路、星山総合病院を目指そうとした、その時だった。
「……ねぇ」
不意に背後から、幼い声の呼びかけを受けたのは。
「いっしょにあそびましょ?」
何故か――その声で、妙に胸がざわつくのを感じながら。
振り返った二人の視線の先には、果たして。
一人の小さな女の子が、立っていた。
Aパートあとがき
リガトロンについては先月購入した『ウルトラマンティガ complete Blu-ray BOX』で見返したところ、思い出ほど強くなかった分を別個体独自設定(とどさくさに紛れた当たり判定強化)で補っております。
翌週、まえがきで触れましたティガ配信決定の快挙により、公式様を信じなかったことで痛い目を見たばかりではありますが、今回はこの先でも第四話並に独自解釈が吹き荒れます。あくまで公式様を尊重した上で独自色も出すというスタンスのつもりではありますが、どうかご了承くださると幸いです。
以下、ウルトラカプセルナビ
・複合怪獣リガトロン(2代目)
身長:65m
体重:7万7千t
元々は未知の光量子エネルギー生命体で、ある時に敗戦後潜伏していたテラー・ザ・ベリアル第3方面宇宙軍所属第4等級戦列艦ネオスカイラーク号とその乗組員に接触。
ネオスカイラーク号と乗組員を取り込み、彼らの感情を読み取って形態変化した……という、かつてネオフロンティアスペースに出現した複合怪獣リガトロンの2代目。おそらくリガトロンの情報を乗組員も知っており、自らの辿る運命として連想したことが、この怪獣の姿を取らせたのだと考えられる。
頭部にはネオスカイラーク号のコンピュータが内蔵されており、両手の鎌状の爪で触れた相手のエネルギーを吸い取る、目となる部分から爆撃を放つ、背部のロケットブースターで空を飛んだり敵を吹き飛ばしたりできる……という点は初代と全く同等。
ただし、片手間とは言えウルトラマンベリアルアトロシアスの攻撃でも装甲を貫通されないネオブリタニア号のさらに上位の戦艦が素体となったことで、その要塞の如き耐久性がさらに向上。地味に爪のエネルギー吸収能力の当たり判定も、刺さらずとも触れればある程度無害化して吸収可能と、大幅に強化されている。
また、充分なエネルギーがあれば単独でのマルチバース移動も可能とし、事実別の宇宙からサイドスペースに来た怪獣である。
度重なる戦いで成長した培養合成獣スカルゴモラの打撃、拡散型スカル超振動波、怪獣念力、インフェルノ・マグマさえも装甲に傷を与えることもできず、内部破壊の接射型スカル超振動波もエネルギー吸収の爪で受け止めることで無力化する。単体として見れば、ジード不在の期間中に襲来した怪獣の中では最強であり、この時点の培養合成獣スカルゴモラだけでは、まず勝ち目のない難敵……だったが、連携の末、防御を掻い潜ったゼガントビームの直撃には耐えられなかった。
・ネオスカイラーク号
ネオブリタニア号の元ネタであるSF小説『レンズマン』の作者のもう一つの代表作、『スカイラーク』シリーズに登場する宇宙船スカイラーク号が元ネタ。