ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第八話「その血の運命」Bパート

 

 

 

〈――χ(カイ)ニュートリノ。別名ビースト振動波とは、スペースビーストと呼ばれる宇宙生物群を発生させる光量子情報体です〉

 

 一旦、戦いを終え星雲荘に戻ったリクは、修復装置に横たわったルカや、妹に寄り添ってくれるライハとともに、レムによる解説を聞いていた。

 

〈スペースビーストは知的生命体の恐怖を好む、攻撃と捕食に特化した怪物です。外部から取得した情報で自己進化を遂げ、さらには僅かな細胞片からでも再生・増殖を繰り返す、多元宇宙有数の侵略的外来種として恐れられています〉

 

 ヤプールとの近似性も匂わせる情報を受け取りながら、リクはレムの表示するグロテスクな宇宙怪獣、スペースビーストの例を見て、思ったことを口にした。

 

「ゼロは……今回それを追ってきた、ってこと?」

〈そうだ〉

 

 通信機越しのゼロが、リクの零した疑問に頷いた。

 ゼロを筆頭とするUFZ(ウルティメイトフォースゼロ)のメンバーは、サンダーキラーSが撤退した後。星雲荘とAIBに協力要請を行い、大気圏外に離脱すると、気を抜くことなく調査報告を待っている状態にあった。

 

〈しかも、ただのスペースビーストじゃない。光の国の観測史上、最悪規模のスペースビースト……滅亡の邪神と呼ばれる存在だ〉

〈滅亡の邪神、ですか〉

 

 大層な呼び名を、レムが復唱した。

 

〈ああ。無限に拡がる並行宇宙の中には、光の国が見つけた時点で既に滅んでいたものもある。その一つに、スペースビーストによって全ての命を食い尽くされた宇宙があった。全てを滅ぼしたスペースビーストたちが再融合し、始まりの一つに戻って羽化した終着点――それが滅亡の邪神、ハイパービースト・ザ・ワン〉

 

 ハイパービースト・ザ・ワン。

 一つの宇宙を滅亡に追いやった、宇宙にただ一つ残された邪悪な存在。それはまさしく、滅亡の邪神と呼んでも差し支えのない、恐るべき脅威なのかもしれない。

 

「もしかして……トレギアとの戦いに、ゼロたちが動けなかったのって」

〈察しの通り、だ。そのザ・ワンが、何者かの手によって突然光の国に送り込まれて、俺たちも対応を余儀なくされていた〉

 

 ザ・ワン単独には、次元を越える力は確認されていなかった故に、その襲来は光の国としてもまさに青天の霹靂だったという。

 ザ・ワンや、そこから再分離した眷属と宇宙警備隊の戦争は、スペースビーストの厄介な生態もあって熾烈を極めたものの。パラレルアースにタロウが、そしてここにゼロが駆けつけることができたように、リクたちがトレギアと決着をつける少し前には、そこまで大きな犠牲を払うこともなく、宇宙警備隊が勝利を収めていたらしい。

 だが、とゼロは続ける。

 

〈宇宙警備隊も勝つには勝ったが、取り逃がした。その反応を追っていたところ、ついさっき、この宇宙から奴のビースト振動波が確認されたという報告があった〉

 

 恐るべき脅威を告げられ、気を引き締めたリクは、ゼロに向かって問いかけた。

 

「ザ・ワンは……強い?」

〈強い。かなり消耗させてはいるんだが……さっきコンピューターの姉ちゃんが言ったみたいに、スペースビーストは再生力に優れている。ただ見つけてトドメを刺すだけ、とはいかないだろう〉

 

 わずかに深刻そうな様子を覗かせたゼロだったが、続けてぱっと声を明るくした。

 

〈ま、だが、この無敵のウルトラマンゼロ様と、その仲間が揃ったわけだ。ザ・ワンも取得した情報を元に進化し、外敵に対抗するわけだが、ウルティメイトフォースゼロは俺以外、まだ情報を盗られていない。そしておまえもよくわかっているだろうが、奴がどれだけ過去の情報を元に進化したところで、俺に限界はねぇ。昨日までの俺を越えるなんざ、朝飯前だぜ〉

 

 絆を繋ぐウルティメイトイージスの力を取り戻したゼロの、自信過剰とも取れる発言も、しかし寸前の活躍を見せられれば一笑に付すことではなかった。

 ちょうどその時。狙い澄ましたようなタイミングで、レムが点灯した。

 

〈AIBから入電。提供されたビースト振動波と一致する反応が、次の座標で確認されました〉

 

 レムの展開する天球モニターに映し出されたのは、M80さそり座球状星団の一角だった。

 

〈了解だ、コンピューターの姉ちゃん。そんじゃいっちょ行ってくるとするか〉

〈ご武運を。それと、私の名前はレムです。そろそろ覚えてください〉

〈お、おう……悪かった、レム〉

 

 これまで気にした素振りもなかったのに、何故か当たりを強くしたレムに怯んだ様子だったゼロは、咳払いを挟むともう一度、リクに向けて語りかけた。

 

〈……そういうわけで、同じ宇宙に居ても俺はしばらく手伝ってやれないかもしれねぇ。悪いな、リク〉

「気にしないでよ。僕こそ、一緒に行けなくてごめん」

 

 己と、妹に執着を示す新たなる究極超獣の出現した地球を離れるわけにはいかず、リクは謝罪する。

 

〈構わねえよ。むしろ――今この宇宙にいる滅亡の邪神は、一匹だけじゃないからな〉

〈……サンダーキラー(ザウルス)、ですか?〉

 

 そして、リクたちの予想もしなかったことを、ゼロとレムが口にした。

 

〈――やっぱりレムは知っていたか〉

「どういう……こと?」

〈厳密に言えば、それを材料にしている、というところでしょうか〉

 

 ゼロが意味深に頷く間に、リクの問いにレムが応じる。

 

〈ザ・ワン以前に、滅亡の邪神と呼ばれた怪獣の記録は二体存在します。ある地球で、バット星人の科学者が産み出したハイパーゼットンと――後にその研究資料を手にしたベリアルが開発し、使役したテラー・ザ・ベリアルの最高戦力、ハイパーエレキングです〉

「ハイパー……エレキング」

 

 レムが表示したのは、過去にリクが見た個体とは著しくかけ離れた、大きな翼を持った白い竜だった。

 ――その翼は、確かに。未だ小さく閉じたままであったが、サンダーキラーSの背中に面影があった。

 

〈滅亡の邪神の証でもある翼を持った、唯一のエレキング――ハイパーエレキングは、その羽化のために、ベリアルによる略奪を幾つもの宇宙に齎し……そして、この宇宙が一度滅びる原因にも大きく関わった怪獣だ〉

 

 レムの解説を、ゼロが引き継いだ。

 彼が語るのは、光の国とベリアル軍、さらにはヤプールを始めとした複数の勢力が、多元宇宙を巻き込み群雄割拠したオメガ・アーマゲドンの、その最終局面の話だった。

 

〈単体の戦力で言えば、当時のベリアル以上――この地球での最終決戦でも健在だった奴を討つため、親父たちウルトラ兄弟や、俺自身も切札となる力の行使を強いられた。その結果、何とかハイパーエレキングは斃せたが、消耗した俺たちはベリアルに太刀打ちできなくなり、まんまとクライシス・インパクトを許してしまった……〉

 

 苦い思い出をゼロが語ってくれたことで、究極融合超獣が、何故サンダーキラーの亜種となったのかを、リクはようやく理解できた。

 サンダーキラーは、宇宙怪獣エレキングと、異次元超人エースキラーを素材としたベリアル融合獣だった。エースキラーを開発したヤプールの技術と組み合わせる相性と、何よりヤプールが手中に収めた中で最も強力な生体素材であったことから、究極超獣にハイパーエレキングの細胞が掛け合わされたのだろう。

 その融合に、滅亡の邪神を操った張本人であるベリアルの因子を利用した結果、ベリアル融合獣サンダーキラーを彷彿とさせる形を持って、究極融合超獣は誕生したのだ。

 

〈……見たところ、まだ羽化には遠い幼体だが。既に究極超獣というだけでも厄介なのに、さらなる成長の余地を持った怪物ってことだ〉

「だけど――あの子は僕とルカのことを、兄姉(きょうだい)だと呼んでいた」

 

 警戒を顕にするゼロへ、しかしリクは頷けなかった。

 

「ヤプールの命令を、受けていない、とも――」

 

 何より先程、攻撃を受けている最中はこちらも必死だったものの、今振り返ってみれば――執拗に怪獣ごっこを求めた時の、サンダーキラーSの様子が。

 ペガと――同じ孤独を分け合える誰かと、初めて会った時のリク自身が、ひどく重なって見えていたから。

 誰に造られたとか、どんな存在にルーツがあるとか。そんなことで、最初から拒絶したくないという想いが、リクの中で膨らんでいた。

 ――宇宙を滅ぼした存在(ベリアル)から造られたのは、そもそもリクも、それにルカも、同じだったから。

 

〈――そいつが本当だとしても、それはそれで厄介な気もするんだがな〉

 

 リクの抗弁に、溜息を挟んだゼロは、しかしそれ以上争う姿勢を見せなかった。

 

〈……ま、ともかく! そういうわけで、役割分担だ。予定通り俺たちがザ・ワンを追うから、おまえたちにはサンダーキラー(ザウルス)を任せる。それで文句ないだろ?〉

 

 だから負い目を感じるな、と続けたゼロは、最後に言った。

 

〈俺が居ない間は……マユが生きるこの地球を頼んだぜ、ウルトラマンジード〉

 

 そんな、祈りの言葉を残して。

 任務で訪れた故に、その伊賀栗マユと顔を合わせることもせず。万全である今なら、彼女の生活から父親であるレイトを引き離す必要もないとして、ゼロは五百五十光年の彼方へと、仲間とともに旅立って行った。

 

「……勝てると良いね、ゼロ」

「ゼロなら大丈夫だよ。さっき見た通り、物凄く強いから」

 

 話が終わり、修復装置の上で口を開いたルカに、リクは確信を込めて答えた。

 例え、かつて滅亡の邪神と呼ばれたハイパーエレキングに苦戦したのだとしても。その力を継いだ究極融合超獣サンダーキラーSと、手加減した状態で渡り合える今のゼロが、相手の力量を見誤るとも思えない。

 

「……ええ。それにルカはゼロのことより、自分の心配をした方が良いわ」

 

 同じくゼロの勇姿を知るライハが、ルカに向かってそう言った。

 彼女の懸念に、リクもまた、ゼロとの話題には挙がらなかった、しかし重大過ぎる問題へと、再び向き直った。

 

「まさか……ルカがリトルスターを宿していたなんて」

 

 リクが呟くのに合わせたように。身を起こした妹の胸に宿った小さな星は、その神秘的な輝きを再び発するようになっていた。

 かつて伊賀栗マユを匿った頃とは違い、伏井出ケイが残したリトルスターの全情報を取得したレムが展開した妨害電波によって、星雲荘の外にまでその光が漏れることはもうないものの。怪獣を呼び寄せ続けていたというその魔性の光を前にして、ライハが沈痛な表情で頭を下げた。

 

「――ごめん。ずっと一緒に居たのに、気づいてあげられなくて」

「そんな、ライハは悪くないよ。だって、さっきまで誰も見つけられなかったわけだし……」

〈そう、問題はそこだ〉

 

 ライハとルカのやり取りへ、通信越しに割り込んできたのは、AIBのゼットン星人ペイシャン博士だった。

 居なくなったゼロと代わるように表示された画面には、先程共に戦ったゼナや、数日ぶりに顔を見るモアの姿も映っていた。

 

〈星雲荘でも、AIBでも、怪獣が出るたびにリトルスターの反応を捜索していたが、目視でも感知器でも、発見には至らなかった〉

〈私がゼガンと同化し、操っている最中も――つい先程まで、ゼガンがスカルゴモラのリトルスターに、惹かれている気配がなかった〉

〈でも、プリズ魔が昼間に現れるぐらい、他の怪獣たちはルカちゃんのリトルスターに呼び寄せられていたんですよね?〉

 

 各々が疑問や情報提供を口にするAIBの面々に、リクもまた同じ疑問を覚えて頭を悩ませる。

 

「あの子も……」

 

 そこでふと、ルカ本人が口を開いた。

 

「あの、私たちの妹だって超獣も。初めて会った時から、私のリトルスターが見えていたんだと思う」

 

 ルカの胸元を指し、自分も欲しいとねだっていた、サンダーキラーSが化けた女の子の様子を、リクもまた思い出す。

 

「この二週間以上、AIBと星雲荘にだけ、ルカのリトルスターは見つけられなかった……ってこと?」

〈我々より怪獣の方がリトルスターの反応に鋭敏であることは従来通りですが、流石にこの距離で私が反応を検知できなかったことは過去、ありませんでした〉

 

 そのいつもと同じ機械音声に、忸怩たる想いが籠もっている気配を漂わせながら、レムは今回の異常を述べる。

 

〈宿すこと自体が本来はイレギュラー極まる存在だから、という心理的な盲点もあったのかもしれないが……それでも機械が何ら反応しないだけでなく、ゼガンまで含めて、俺たち全員の認識に不自然な点がある〉

 

 そこに、先程のプリズ魔戦での解析のように、阿吽の呼吸でペイシャンが乗っかった。彼は厳しい表情で続ける。

 

〈その秘密がルカ自身に由来するものならまだ良いが、何者かの工作だとしたら厄介過ぎる〉

 

 ただでさえ究極融合超獣が出現し、さらに別次元から滅亡の邪神が飛来している。後者については、黒幕が存在するとゼロが明言した。

 ルカのリトルスターに纏わる問題まで、何者かの暗躍が絡んでいるのか――その場合、それはザ・ワンの黒幕と同一人物なのか、それとも。

 ……他にももっと考えたいことがあるのに、わからないことだらけで、リクは頭が焦げるような気持ちだった。

 

「……良いのかな。私に原因があったんだとしても」

 

 その時ふと、ルカが弱音を零していた。

 

「私のせいで怪獣がやって来て、街が危険に晒されて、その怪獣たちも、退治するしかなくなったのに……」

「ルカ……」

 

 気に病む妹の様子に気づき、リクは思わずその名を呼んだ。

 

〈それは気にするな。仮に黒幕がいないとして、さらに言えばおまえ以外の誰かが宿していたとしても、どの道怪獣は現れていた〉

 

 苦悩する妹に対してリクが首を振ろうとすると、先にペイシャンがあっさりと口を開いていた。

 

〈宇宙から飛来した連中が時間差でやって来るのに変わりはないし、特にプリズ魔を最初にこの街まで呼び寄せたのはおまえのリトルスターじゃなかった。むしろ対処できる距離まで凶暴な連中が寄って来た分、被害は抑えられている。プリズ魔さえ、却って計画停電が不要になり、さらに言えばおまえがメタフィールドを展開できたことで、本来覚悟していた犠牲を抑えられた――全て結果論だがな〉

「ペイシャン……」

 

 事実を述べているだけではあるが、ルカを気遣ってくれている彼の姿勢に、リクは静かに感謝を覚えた。

 

〈とはいえ、良いこと尽くしとはいかないだろう、というのが目下の問題だ。それこそルカ以外にも同様の事例が生じた場合、こっちの防衛が間に合わなくなる〉

〈ルカの状態については、私の方で再度解析を行います〉

 

 その上で懸念を示すペイシャンに、レムが応えた。

 

〈任せる。こっちもさっきの戦闘について後始末がある。一度、互いの情報を整理して仕切り直そう〉

 

 そうして話が一度終わった少し後で、リクの携帯電話が急に鳴り出した。

 通知を見ると、店長からの連絡だった。

 

 

 

 

 

 

〈この馬鹿、無事ってちゃんと自分で言いに来い!〉

 

 星雲荘の中央司令室で、リクが電話に出るなり。電波越しに、店長がリクを叱りつけていた。

 

「ごめん、店長。色々あって……」

〈自分の妹も放っといて真っ先に居なくなったくせに……色々遭ったのはこっちだよ! さっきテレビの取材も受けたし! とにかく無事で良かった!〉

 

 怒っているのか、喜んでいるのか、とにかく感情的に店長が怒鳴り続ける。

 スピーカー機能は使われていないが、人外の聴力を持つルカでなくとも、そのやり取りは充分聞こえるものだったのかもしれない。

 

〈おまえとルカが車に乗らなかったから、残りの全員が無事に避難できたけどよ……ルカは大丈夫なのか?〉

「……うん、ちょっと疲れちゃってるだけ。今話せないのは、勘弁してあげて、店長」

 

 実際には疲れが溜まっただけでなく、怪我もしていたのだが、修復装置の効能でどちらも間もなく取り除かれるだろう。

 そのことで、次に会った際違和感を与えないよう取り繕いつつ、店長に代わって許しを乞うてくれている兄の姿が、ルカは既に嬉しかった。

 

〈そうか。じゃあ、お大事にって言っといてくれ。次のバイトは決まったらまた連絡するから――ああそれと、リク、ちょっと電話代わる〉

〈……お兄ちゃん〉

 

 今度の声は、おそらくルカと、受話器へ耳を当てたリク自身にしか聞こえていないだろう。

 ルカ以外で、リクを兄と呼ぶ声の主は、あのサンダーキラーSではなく――店長の姪で、リクの妹分である、原エリだった。

 

「エリちゃん、無事だったんだね。良かった」

〈こっちこそ、心配したんだよ?〉

「……うん、ごめん」

〈えっと、それでね――〉

 

 謝るリクに対して、エリはどこかもじもじと、言い淀んでいる様子だった。

 

〈ライハ姉ちゃんから聞いたかもしれないけど――私、助けて貰ったんだ。あのスカルゴモラに〉

 

 その言葉を聞いた時。ルカは、微かに目を見開いた。

 

〈だから……お兄ちゃんや、トオルくんの言う通りだったって。ちゃんと、謝っておこうって――〉

「……別に、謝られることじゃないよ。でも――僕も御礼が言いたいかな。エリちゃんたちを助けてくれた、スカルゴモラに」

〈――うん。そうだね〉

 

 喜びを隠そうともせず、微笑んでくれる兄と。

 事情の一切を知らないまま、ただ、見て感じたままの気持ちを口に出してくれるエリの様子が、嬉しくて、嬉しくて。

 また、泣きそうになっている己に気がついて、ルカは思わず目元を抑えた。

 

〈――ルカ姉ちゃんにも、ありがとうって言っておいてね。おかげで皆無事だったよ、って〉

 

 ……それは、朝倉ルカが車に乗らなかったことで、無事に発進して、逃げ切れたと言いたいだけなのはわかっているが。

 遂に耐えきれなくなって、ルカは声を出して泣き出した。

 

「……聞こえてたんだよね、ルカ」

「――っ、うん……!」

 

 優しく兄が呼びかけてくれるのに、嗚咽混じりでしか答えられないことが、少し情けなく思われながらも。

 お姉ちゃんと呼んでくれたエリに、己が生きるだけで恐怖を与えずに済むようになったことが、本当に嬉しくて、安らげて。ルカは涙を堪えられなかった。

 

 

 

 

 

 

「……これでよし、っと」

 

 ルカが泣き止んで、しばらくした後。ライハがルカの胸元に、新しいブローチを付けてあげていた。

 かつてリクが、伊賀栗レイトと入れ替わり生活を行った際に付けた物とよく似たそれは、やはりシャプレーブローチを元にレムが作った、リトルスターの光を隠す視覚妨害型のバリア発生装置だった。

 

「ありがとう、ライハ!」

 

 咲き誇るようなルカの笑顔に、ライハもまた笑みを零す。

 

〈これを付けている間なら、星雲荘の外でもルカのリトルスターは、目視が不可能になる――はずです〉

「レム、ありがとう」

 

 長らく、ルカのリトルスターを見落としていたせいか。珍しく断言しなかったレムに感謝を伝えながら、リクは続けて妹に質問した。

 

「――でも、良いの、ルカ? カレラン分子分解酵素を使わなくて」

「だって、リトルスターの光をお兄ちゃんに渡せたら、お兄ちゃんはもっと強くなれるんでしょ? ……他の人には無理強いできないけど、私は折角だから消しちゃうよりも、お兄ちゃんに受け取って欲しいな、って!」

 

 そう言ってくれながら、「届けー!」などと可愛らしく思念を送るような仕草を見せるルカだが、しかし何も起こらない。

 

「うぅ……どうして。私、お兄ちゃんのこと大好きなのに……」

〈リトルスターがウルトラマンに譲渡されるのは、宿主が祈った時だけ……ですが、その数量的な条件ははっきりしておらず、ルカの気持ちの問題とは限りません〉

 

 役に立てないとルカが嘆くのを、そんな風にレムがフォローする。

 

〈例えばライハや、朝倉スイのような、リクのことを最初から好意的に見ていた宿主でも、即座にリトルスターが譲渡できたわけではありませんでした〉

「そうなんだ……そういえば、ライハたちは何のウルトラマンのリトルスターを宿していたの?」

「スイさんはウルトラの父で……ライハは、ウルトラマンキング」

「えっ、すご」

 

 妹の疑問にリクが答えてあげると、ルカは目を丸くしてライハを見た。

 

「別に、私が凄いわけじゃ……」

 

 興奮したルカの視線に、照れたようにライハがたじろぐ。リクは珍しいものを見た心地だった。

 

「……そんなことより、ルカに宿っているリトルスターって、ネクサスだったかしら? どんなウルトラマンなの?」

〈ウルトラマンネクサスは、ウルトラマンキングと同じ伝説の超人の一人、ウルトラマンノアの化身です〉

 

 話題を逸らそうとしたライハの質問に、レムが答えた。

 

〈ウルトラマンノアは多くの並行宇宙に伝説を残す光の巨人であり、彼が人々に力を貸した時の姿が、ウルトラマンネクサスだと言われています〉

 

 表示されたのは、背部に翼を背負ったウルトラマン型の石像だった。

 ――リクは何故か、その姿に見覚えがある気がした。

 

〈ノアはウルトラマンベリアルが銀河帝国を築いたアナザースペースでも守り神として崇められており、実際に同宇宙でのゼロとベリアルの最終決戦において、宇宙中の人々の諦めない心の光を放つための器として、ゼロにウルティメイトイージスを授けたことがわかっています〉

 

 先程、ゼガントビームを受けても即座にゼロが帰ってきた理由であるウルティメイトイージス。

 あれがゼロに託された、ノアの力の一部であると知ったルカは、自らの胸元に目を向けていた。

 同時にリクは、ノアの石像に見覚えがあったのは、かつて伏井出ケイが描いた、そのゼロとベリアルの戦いを歪めた小説の中で目にしたことがあったのだろうと納得した。

 

〈また、これはベリアルが封じられていた頃の出来事となりますが、ウルトラマンノアには光の国を救った伝説もあります。彼を模して造られながら闇に堕ちた兵器、ダークザギが光の国を襲い、宇宙警備隊を圧倒していたところへノア自身が駆けつけ、これを退けたとされています〉

「ウルトラマンを模して造られた……ダーク、ザギ?」

 

 それは初めて聞く名前であったが――レムが述べた存在に、リクはつい反応していた。

 

〈はい。ある星で、スペースビーストからの防衛を目的にノアを模して造られた、対ビースト用最終兵器――それが、今では暗黒破壊神と畏れられるダークザギの本来の姿でした。ダークザギは本物のノアに及ばない人造物という不利を埋め、スペースビーストの進化へ対抗するために、自己進化プログラムを組み込まれていたそうです。しかしその結果、自らをウルトラマンの模造品だと認識する自我を獲得し、創造主に反旗を翻したとされています〉

 

 自我を獲得し、創造主へと叛逆した、ウルトラマンの模造品。

 まるで己のような、しかし相反する出自と在り方を辿った存在に、リクは思わず想いを馳せていた。

 

〈ノアを越えるため、自己進化を続けたダークザギは、皮肉にもスペースビーストの完全制御に成功するという、当初の目的を達成しました。その一点ではノアを越えたとも言えましたが、既に狂っていた彼はスペースビーストをさらに進化・増殖させ、母星の終焉を導き――その際の事故で、偶発的に光の国がある宇宙まで飛ばされたという推測が残されています〉

「じゃあ――今回のザ・ワンの黒幕も、もしかして?」

〈不明です。ダークザギは不滅の存在とも言われていますが、他ならぬノアによって完全に倒されたという説もあります。またノアのイージスを持たず、自発的な次元移動はできないと目されているため、ザ・ワンを複数の次元間に移動させられたのかは疑問が残ります〉

 

 ザ・ワンが何者かに操られているかはわからないが、使役するだけであれば、レイオニクスにもスペースビーストを従えた者が居たという。

 対して、肝心の能動的な次元間移動に関する実績が――少なくとも星雲荘の記録では、ダークザギには存在せず。これだ、という証拠に欠けており、その話題は終了となった。

 

「ウルトラマンノア……キングと同じ、伝説の超人……」

 

 一方、自らに宿ったリトルスターの由来を知らされ、ルカは光を感じようとするように、その胸元へ掌を置いていた。

 

「――ライハとお揃いだね」

 

 かつての師匠と同じく、伝説を宿すという体験に、照れたようにしてルカがはにかんだ。

 ……妹の口にした、お揃いという言葉に。それを、ルカへ向けて口にした存在を、リクは改めて想起する。

 

〈揃っているか?〉

 

 そこで再び、星雲荘の通信機が、AIBと回線を繋ぎ、ペイシャンの声を響かせ始めていた。

 

〈こっちも後始末は終わった。スペースビースト絡みで、近々AIB全体で防疫体制に入る可能性もあるから、それまでに課題を整理しておきたい。ルカの解析結果は?〉

〈特には、成果はありません〉

 

 ペイシャンの質問に、レムが即答した。

 

〈遺伝子の中で、以前より活性化している部位が幾つか確認できましたが、あくまでも戦闘機能に関わるものだけで、リトルスターの観測を阻むような要素は見受けられません――再チェック済の星雲荘の機器に不備が残っていなければ、ですが〉

〈そこを疑っても始まらない。そもそもルカの前の宿主も発見できなかったことを踏まえると、そのリトルスター自体の特異性の可能性も充分考えられる……とりあえず今は通常通りの宿主となり、リトルスターの光を星雲荘のコントロールで隠せるのなら問題ない――としよう〉

 

 淡々としながらも、どことなく自虐を込めたレムの報告に対し、ペイシャンはそのように結論付けた。

 

〈そうなると、現在検討すべき中で話せる問題は――あの超獣だな〉

〈サンダーキラー(ザウルス)の反応は、彼女がプリズ魔から奪い取ったリトルスターともども、現在観測できていません〉

 

 レムの回答に、こちらも同じくだ、とペイシャンが頷いた。

 

〈そのプリズ魔の能力も丸ごと吸収されている。おそらく、ヤプールがかつて使役した宇宙同化獣ガディバの特性を最初から組み込まれた超獣なんだろう。元々が従来の究極超獣を凌ぐスペックな上に、自前のラーニング能力まであるとすれば、厄介過ぎる相手だ。しかも、ウルトラマンゼロの見立てが正しければ、滅亡の邪神の幼体らしいな〉

「……見つかったら、何とかして止めてあげなきゃ。あの子はただ、僕やルカに遊んで欲しかっただけだから……」

〈……おいおい〉

 

 呆れたように、ペイシャンが通信機の向こうから待ったをかけた。

 

〈遊んで欲しかっただけだから止めてあげたい、って……何を温いことを言っているんだ。そういう次元の相手か?〉

「……わからない。だけど、理解が追いついていないだけで、話を聞いてくれないわけじゃなかった」

 

 リクがそう言うのに――隣で聞いていたルカも、同調するように頷いてくれた。

 その様子を見たペイシャンが、額を掻きながら溜息を吐く。

 

〈……あれはおまえらを憎むヤプール製の、殺戮兵器の超獣だぞ?〉

「でも……そんなことを言ったら、僕らだって、悪意で造られた命だ」

「それに――あの子は、私のリトルスターが見えていたのに……そのために私を襲わなかったから」

 

 ペイシャンの指摘へ、リクとルカは、各々ゆっくりと異を唱えた。

 

〈……まぁ、それは確かに考慮に値するかもしれないな。リトルスターの輝きは、怪獣を惑わせる。それこそトリィのエレキングのように、本来忠誠心に篤い種族が育ての親の命にも頓着しなくなるほどに、な〉

 

 やがて、ルカの主張へ理解を示すペイシャン。その言及に、リクは密かに息を呑んだ。

 ……これまで、あまり考えることをして来なかったが。ルカの存在に影響され、リクは己が命を奪って来た怪獣のことを、もう一度振り返っていた。

 その最初の一匹となった存在――宇宙怪獣エレキングが、リトルスターに惑わされて追っていた相手が、その育ての親だったなんて……初めて知ったことだったから。

 なのに、ピット星人トリィ=ティプは、そのリトルスターを、エレキングを討ったウルトラマンジードに――

 

「相手が未知の怪獣でも、コミュニケーションを取れる相手とは、取った方が良い……AIBもそれが方針だったよね、ペイシャン?」

〈……そうだな。嘘か真か、ヤプールの支配を受けていないように振る舞っても居るわけだから、試す価値はある、か〉

 

 ルカが挑むように笑うのを受け、ペイシャンも折れたように頷く。

 ――あの時のジードは、エレキングの意志を確かめることができなかった。

 しかし今は、他に道がなかった、あの時とは違う。

 

〈だが、油断しないことだな。レイオニクスは元々、レイブラッド星人の後継者となるために争う宿命――ある意味兄弟同士で命を奪い合う本能が、その遺伝子に植え付けられている。何なら実の姉を教育係としてぶつけ、最後に殺させることで覚醒したのがレイブラッドの本命、伝説のレイオニクスたちだったそうだからな〉

「――大丈夫だよ。だって、僕とルカは、こうして兄妹一緒に生きているから」

 

 ペイシャンの警告に、微かに身を竦めたルカの肩を、リクは力強く抱き寄せた。

 

 ……それこそ、平和を願われて造られたダークザギが、邪悪なる暗黒破壊神となったように。

 そして、リク自身やルカのように。どこで、誰に、どんな風に生み出されたのかは、その存在を形作る一因でしかなく。たったのそれだけで、全てのことを諦めたくないという気持ちが、リクの中にあったから。

 

「遺伝子に決められた運命だって、ひっくり返せることを――僕らはもう知っている」

〈……おまえがベリアルを殺せたように、か?〉

「ちょ……っ!」

 

 ペイシャンが妙に冷たく告げるのに、ルカが怒りを滲ませ抗議しようとする。

 だが、その時。突然、何かが割れるような甲高い音が響いて、その声を中断させた。

 

「あ、よかった。お兄さまたち、ここにいたんだね」

「――っ!?」

 

 のんびりした声へ、勢いよく振り返ったリクたちが見たのは、話題の中心にあったその当人。

 金の装飾を施した、純白の修道服を身に纏い。濡羽色の髪を腰まで伸ばした、小さな女の子――人間の姿に化けた究極融合超獣サンダーキラーSが、空間を割って、星雲荘の中央司令室にひょっこり現れた、その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「あのウルトラマンがいなくなるのをまってたら、お姉さまのおほしさまが見えなくなってて、びっくりしちゃった」

 

 星雲荘に乗り込んできて早々、鈴を転がすような声で、そう告げる究極融合超獣の人間態に対し。

 誰より早く動いたライハが、即座に得物を抜き放とうとしていたが――

 

〈やめてください、ライハ。彼女はその姿でも、スカルゴモラの怪獣念力を切り裂きました〉

 

 レムの放つ忠告が、刃が鞘から飛び出す寸前でライハの動きを止めさせた。

 ――その頃には、既に。修道服の頭巾の裏から黒い触手を伸ばしたサンダーキラーSが、きょろきょろと辺りを見渡していた。

 

 ……いくらライハが太極拳の達人でも、生身で究極超獣に敵うはずはない。

 彼女の弟子に過ぎず、能力を落とし込んで人間に擬態中のスカルゴモラも、それはまた同じ。

 故に、刺激しないように構えながらも。突然の来訪に、星雲荘の空気は重苦しく凍りついていた。

 

「ねぇ、どうしてだれもおしゃべりしないの?」

〈――この艦内は、ヤプールの次元干渉へのプロテクトを備えているはずですが〉

 

 緊張を強いる張本人の問いかけに、まずレムが応じた。

 セキュリティ上の重大な瑕疵に直結する問いに対し、サンダーキラーSはどこに向かって答えれば良いのか、少し迷った様子を見せた後、レムの中枢となる球体を見つけて答えた。

 

「えっと……わたし、かぎをもっているの」

〈……なるほど。ネオスカイラーク号の情報ですか〉

 

 複合怪獣リガトロンに同化された、テラー・ザ・ベリアル所属の宇宙戦艦。

 ネオブリタニア号と技術体系を同じくするその船の電算機能も、リガトロンのエネルギー吸収能力ともども、この究極融合超獣に取り込まれてしまったようだ。そのため、次元干渉を防ぐセキュリティも、容易に突破されてしまったらしい。

 ――もし、この場で擬態を解かれるだけでも。星雲荘は破壊され、少なくともレムが、高確率でライハまで死んでしまう。

 

〈おまえの目的は何だ?〉

 

 そんな緊張とは無縁とばかりに、画面の向こうからペイシャンが問いを放っていた。

 

「わたし、お兄さまとお姉さまにあそんでほしいの」

 

 さっきからあのマイペース野郎、などとルカが思っている間に、妹を名乗る超獣が、兄とルカを交互に見た。

 

「ねぇ、怪獣ごっこのつづき、しましょ?」

 

 妹は、可愛い女の子の顔に、期待に満ちた微笑みを湛えて乞うて来る。

 これで正体を知らなければ、すぐにでも頷いてあげたいところなのだが――実際には、ルカが出会った中でも最上級の破壊力を秘めた究極融合超獣が、ごっこ遊びとは名ばかりの大怪獣バトルを要求しているのだから、たちが悪い。

 だが、機嫌を損ねても、既に星雲荘が人質に取られているに等しい状況で――駄々一つ捏ねられただけで、大変なことになる。

 

 やるしかないのか……そう、ルカが覚悟を決めようとした時だった。

 

「――いや、ここはドンシャインごっこをしよう!」

 

 サンダーキラーSの誘いに対して、兄のリクが代案を口にしたのは。

 

「……ドンシャインごっこ?」

 

 なにそれ、と愛らしく小首を傾げる究極融合超獣に対し、リクはパラレルアースから持ち帰った私物の方へと手を伸ばした。

 

「これが、ドンシャインだ!」

 

 あの軽快ながらも勇壮な音楽が聞こえてくる錯覚すら生じる勢いで、リクは『爆裂戦記ドンシャイン』のフィギュアを掲げて見せた。

 究極融合超獣サンダーキラーSは、ぽかんとした表情を浮かべていた。

 

「ヘンなの」

「――お、お兄ちゃん! 落ち着いてっ!?」

 

 素直な女の子の返答で、一瞬、目が座った兄に対し。ルカは思わず抱きついて、次の言動を制止した。

 続いて、ルカは慌てて振り向くと、兄姉の振る舞いに理解が追いつかず目をぱちくりさせる妹へ向けて、必死に呼びかけた。

 

「あなたも、ほら、ね? ね? きっと動くと格好良いから!」

「ルカ――わかってくれたのか!」

 

 いや、正直兄やペガほど夢中となれないことに変わりはないが、これ以上事態が悪化して欲しくなかったルカは、感激する兄へ引き攣った笑みを浮かべて誤魔化した。

 

〈爆裂戦記! ドーン!! シャイン!!!〉

 

 その間に、テレビからドンシャインの音声が聞こえ始めていた。

 ルカの意を汲んでくれたのか、ライハがテレビとビデオを操作して、ドンシャインの動画を再生してくれたようだった。

 

〈待てーい!〉

〈待っていたぞ、ドンシャイン!〉

〈サタンゾーグ! その子を離せ!〉

 

 ちょうど、リクのお気に入りである第三話の『危うしタカコ! ドンシャイン危機1秒前!』のクライマックス、ヒロインのタカコが強奪怪人サタンゾーグに囚われたのをドンシャインが河原まで助けに行ったシーンから、動画の再生が始まった。

 

「……まてーい、サタンゾーグ?」

 

 状況をよくわかっていない様子のまま、テレビの中のヒーローを見様見真似で再現し始めたサンダーキラーSに対して、パァッと顔を輝かせたリクが、裏声で応えた。

 

「ドンシャイン、来ては駄目!」

(えっ、お兄ちゃんがタカコ役なの……?)

 

 驚愕で一瞬固まったルカだったが、確かに人質を抱えたサタンゾーグとは、兄の暴走を止めようと抱き着いていたルカの方が、体勢的には近いことに気がついた。

 サンダーキラーS扮するドンシャインにはタカコ役として悲痛な目を向けながら、一瞬だけ、ルカに対して信頼に満ちた目を向けてくる兄の様子に、今ペガがこの場に居てくれたら、と心の底から思いながら。この流れを断つべきではないとも感じていたルカは、悪役を演じる決意を固めた。

 

「そのこをはなせー……?」

「奪えるなら、奪ってみろー!」

 

 なおも戸惑った様子のサンダーキラーSに対して、自棄になってルカは叫んだ。

 ……しかし、ヌスットリア戦闘員の役を、ライハが引き受けてくれなかった。

 確かに、いくらライハとはいえ生身で超獣と接触させるのは危険だし、ビデオの進行を管理する役も必要だ。そもそも戦闘員は四人も必要なので、ライハでも一人では無理がある。そう納得したルカは擬態したまま怪獣念力を行使し、リクのコレクションにあるヌスットリア戦闘員のキーホルダーを宙に浮かせ、代役として配置した。

 

〈どんどん照らすぜ! 爆裂戦記! ドン!! シャイン!!!〉

「どんどんてら……うー、むずかしい……」

「頑張れ、サンダーキラー(ザウルス)! 僕の妹の君ならできる!」

 

 触手を引っ込めても動き難そうな修道服での決めポーズに苦戦するサンダーキラーSへ、ルカに抱えられたままのリクが、力強く声援を送る。

 

「お兄さまがおうえんしてくれてる……がんばらなきゃ……!」

「わ、かわいい……」

 

 健気な決意を見せる妹に、胸を打たれたルカは思わず、呆けた声を漏らしていた。

 

「――ばくれつせんき! どん! しゃいん!!」

「よし、決まった!」

「やった、かわいい……っ!」

 

 ライハが三回ほど巻き戻しと再生を繰り返してくれた末、遂に決めポーズに成功するサンダーキラーS。兄と姉は思わず、各々歓声を上げた。

 そのまま走らせると距離がないので、ルカはキーホルダーを先んじて彼女まで進ませ、それから姉妹で動画を盗み見しながら、殺陣の再現を行った。

 

「ルカ。これ」

 

 その間に、リクが小声で示したのは、彼がコレクションしていたサタンゾーグの剣の玩具だった。

 

「きみのえがおをとりもどす!」

 

 徐々に役ヘ没入し始めたサンダーキラーSは、リクの演じるタカコへと、ルカがリクに初めて貰った言葉を凛々しい表情で投げかけた。

 

「危ない、逃げて!」

 

 タカコ役に戻ったリクが裏声で助けを拒否するも、迷いを捨てる仕草をしたサンダーキラーSがルカたちのところまで飛び込んでくる。

 ルカ演じるサタンゾーグの振り下ろした玩具の剣(もちろん寸止している)を受け止め、逆に結構容赦のない蹴りを姉に入れながら、見事にタカコを奪還したドンシャインことサンダーキラーS。

 

「もうだいじょうぶ」

 

 そう呼びかけられる兄を見て、何故自分がサタンゾーグ役なのだろうと悔しく思いながら、腹を蹴られた痛みを堪えてルカは主役と向き直った。

 

「たのむぜ、きらめき」

 

 呟いたサンダーキラーSは、そこで腕から青い光の剣――アグルブレードを生やした。

 

「ちょ、それは駄目!?」

「え、でも……わたしこれしか剣、もってないよ?」

 

 胸のリトルスターを輝かせながら物騒な物を取り出す妹を、リクと二人で必死に抑えながら、あれに斬られてはたまらないとルカは涙目で訴える。

 

「そんなこと言っても、ドンシャインの剣は、腕から生えてないじゃん!」

「じゃあ、触手から……」

「そういう問題じゃない!」

 

 ひたすら危険なことを言う妹を留めている間に、リクがコレクションの中からドンシャインの武器、輝光剣シャインブレーダーを持ち出してきてくれた。子供向けの玩具だけあって小さいが、故に今のサンダーキラーSの体格ならちょうど良い。

 

「いくぞー! きらめきえくすぷろーじょん!」

「うわー! ま、まだ、終わりでは……!」

 

 そうして、剣戟を再現した後に、必殺技を受けたサタンゾーグことルカは、爆発してやられる演技を以って舞台を降りた。

 

〈…………いや、俺は何を見せられているんだ?〉

 

 きっかけである一言の主ペイシャンは、律儀に一部始終が終わってから疑問を零した。

 

「あなたの質問への答えでしょ」

 

 対して、精神的に疲れ果てたルカたちに代わり、テレビの電源を落としたライハが、淀みなく答えてくれていた。

 

「リクとルカの妹は、本当に、ただあの子たちと遊びたかっただけだっていう……」

〈……かつてヤプールに利用されたおまえまで、随分呑気なことを言うんだな〉

 

 まぁ良い、とペイシャンは、大きく溜息を吐いた。

 

〈いざという時、後手に回らない戦力がある場所に来てくれたのは助かる話だ。組織として監視を続けさせて貰うが、俺は自分の仕事に戻れそうだな〉

 

 そうしてペイシャンが通信を終えるのを聞き届けながら、ルカは寄り添っている兄と妹の方を見た。

 

「どう? 怪獣ごっこじゃないけど、楽しかった?」

「うん、お兄さま……お姉さまも、ありがとう」

「……えへへ、どういたしまして」

 

 朗らかに笑うサンダーキラーSに感謝を示されて、ルカも思わず破顔した。

 一緒に、ドンシャインごっこへ興じたことで――血を騒がせるこの存在が、本当に己の妹なのだと、心から想えるようになったから。

 

「ちょっと休憩して……よかったら、また君の話を聞かせて欲しいんだけど、良いかな? サンダーキラー……長いねこの名前」

 

 サンダーキラーSに呼びかける途中、リクは改めてそのことに気づいたように呟いた。

 

「……ニックネーム、というか……違う呼び方を考えても、良いかな?」

「うん。お兄さまのリクや、お姉さまのルカっていうおなまえとおんなじようなの、わたしもほしいっておもってたの。ねぇ、どんなおなまえをくれるの?」

「そうだな……ルカ、何かある?」

「え? うーん……」

 

 不意に兄から振られて、ルカは思索に耽り、やがてその名を思い浮かべた。

 

沙羅(サラ)……は、どう? 沙羅双樹の木から、なんだけど……」

 

 留花(ルカ)の提案に、(リク)は――沙羅双樹の意味をわかってくれているのか、やや怪しい表情だったものの、深々と頷いてくれた。

 

「うん、わかり易くて良いね。それじゃあ君は、今日からサラだ。よろしくね」

「はい、お兄さま。……お姉さま、すてきなおなまえ、ありがとうございます」

 

 そんな風に、名前を受け取ってくれた妹が笑うのに。

 ルカはリクとともに、眩い笑顔に釣られて笑っていた。

 

 

 

 ……かつて名付けを行った怪獣との、苦い思い出も、忘れず心の隅に残したまま。

 

 

 

 

 

 




Bパートあとがき



 サラという名前はやっぱり『サ』ンダーキ『ラ』ーSと、アーサー・C・クラークのもじりからです。
 こんな超獣は解釈違いという方もいらっしゃるかと思われますが、Aパート冒頭でヤプールが言っているみたいに従来の超獣とは違うということで何卒ご了承頂けると幸いです。



 以下、いつもの雑文です。

・滅亡の邪神ハイパービースト・ザ・ワンVS宇宙警備隊

『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』の裏で進行していた、トレギアとの決戦に光の国からタロウしか来なかった原因となった事件……という、公式には一切存在しない捏造出来事になります。
 滅亡の邪神ハイパービースト・ザ・ワンという怪獣も、映画『ULTRAMAN』のビースト・ザ・ワンのバリエーションではありますが、本当にこんな風なのが公式世界観で誕生する余地があるのかは不明です。
 ところで、ビースト・ザ・ワンと因縁のある女性の名前も『沙羅』なのは、一応わかってやっているつもりです。


・宇宙怪獣エレキング
『ウルトラセブン』に登場し、同作、ひいてはウルトラシリーズを代表する人気怪獣の一角。
『忠誠心に篤い種族』というのは作中で明言されたことはありませんが、リトルスターを例外とすれば何者かに使役されている際にコントロール不全に陥ることもなく、特に『ウルトラギャラクシー 大怪獣バトル』シリーズのレイのエレキングの活躍から勝手に抱いているイメージになりますので、公式設定ではありません。ご了承ください。
 ただ、ピット星人トリィ=ティプの育てた個体がウルトラマンジードの初めて奪った命である、というのは間違いなく公式設定です(レイバトス撃破は被害者の幻視で、真犯人はベリアルであるため)。


・滅亡の邪神ハイパーエレキング
 上記エレキングの亜種。『ぱちんこウルトラバトル烈伝 戦えゼロ!若き最強戦士』等で、ウルトラマンベリアルに操られ地球を襲うという設定で登場する、滅亡の邪神。
 つまりウルトラダークキラー同様の、ぱちんこオリジナルながら公認キャラクターであるウルトラ怪獣です。エレキングの面影がないことに定評がある存在。
 そこでウルトラダークキラーに倣って、本作では公式世界観にも存在しているという解釈を行った結果が、ゼロとレムが語った形になります。
 公式世界観で確認できる、ベリアルが地球へ侵攻した出来事が『ウルトラマンジード』の第一話アバンぐらいであり、そこにちょうどゼロやウルトラ兄弟も参戦していたということで、その際に激突したとするのが(拙作的には)ちょうど良いのかな、という考えです。もちろん他の「オメガ・アーマゲドンの際の~」ネタと同じく独自解釈という名の完全な捏造ですので、ご了承ください。
 滅亡の邪神というカテゴリーの原点にして頂点であるハイパーゼットンの作り方を(多分グラシエ辺りをパシらせて)パクった、とか、『滅亡の邪神の証である翼』とか完全体になることを『羽化』と表現するとかも全部本作独自の設定です。ご了承ください。


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