ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第八話「その血の運命」Cパート

 

 

 

〈――『Bの因子』、確認〉

 

 サラと名付けた、リクの新たな妹の生体情報の解析結果を、レムが告げる。

 

〈自己申告の通り、彼女もまた、ベリアルの遺伝子を受け継いだ――リクとルカの、妹であるようです〉

「さいしょからそういってるのに……」

「ごめん、サラ。一応、ね」

 

 注射は可哀想だから、とリクたちが配慮した結果。いつもの解析装置を兼ねた器具を頭に取り付けて、レムが彼女の生体情報を直接走査していた。

 

「一応、君が本当のことを話してくれているって確かめながら話を聞かないと、AIBに面目が立たないから……」

「……わたし、うそつきじゃないよ?」

〈現状、生理反応を見る限り、サラの言葉に嘘はないようです。ネオスカイラーク号の電算能力を獲得している超獣相手に、ルカのリトルスターを見落としていた今の私のシステムが正常に機能しているかは、保証できませんが〉

「……大丈夫だよ、レム。レムのことも、サラのことも、僕は信じているから」

 

 ヒューマノイド型ボディで活動した時以来に、珍しく自虐的な様子を見せるレムへ、リクはそう首を振った。

 

「それで……ヤプールが居なくなったっていうのは、どういうことなの?」

 

 真っ先に問うたのは、サラの創造主――異次元人ヤプールへ苦い思い出を持つ、ライハだった。

 

「えーっと、ほんとにきゅうに、いなくなったの。たぶんまた生き返るけど、ずっと先だって、言ってた」

 

 また生き返る――つまり、ヤプールは今、再び滅びているという予想外の回答を聞かされて、リクたちは驚愕した。

 そして、それ以上の緊張が走る。

 

「言ってた、って――それは、誰が!?」

「知らない。会ったことないから」

 

 リクの問いかけに、サラはふるふると首を左右に動かした。

 

「でも、ヤプールがいないあいだ、超獣製造機にいてももう大きくなれないし、つまらなくて、さびしいから……お兄さまたちにあそんでもらいにいけばいいよって、おしえてくれたの」

 

 呆気なくサラが告げるのに、リクはライハやルカと顔を見合わせた。

 

「多分……その声が、ヤプールを」

「それに、僕らのところへサラを送り出した……?」

 

 ここまでの話を聞く限りは、そうとしか考えられない。

 リクたちへのリベンジのため、究極融合超獣を生み出そうとしていたヤプールを、一時的とはいえ殺害し。そして本来はサンダーキラー(ザウルス)の標的であったリクとルカを兄姉と認識させ、接触するように導いた。

 いったい、どんな目的の……そして、どれほどの力を持った、何者なのか。

 

「――もしかして」

 

 そこで、可能性に思い至ったルカが、微かに息を呑んでいた。

 

「その声の正体が……私を、この世界に送った黒幕と――同じ……?」

 

 闇に堕ちる寸前のウルトラマンタイガにより、培養合成獣スカルゴモラが死に瀕した時、彼女を密かに別の宇宙であるこのサイドスペースへと転送した何者か。

 そしておそらくは、その後に超時空魔神エタルガーを差し向けてきた、正体不明の黒幕。

 

 ……かつてエタルガーを傘下に収め、当人も数多の世界に干渉する能力を持ち、何よりタイガを闇に堕とすため策謀を巡らせ、彼が培養合成獣スカルゴモラと交戦した現場にも居合わせていた最有力候補、トレギアは既に、リクがタイガやアサヒたちとともに滅ぼした。

 だが決戦の際、その時のことを問い詰めるような余裕がなかったために、妹に纏わる真相を解き明かせなかったと思っていたが――

 

「――サラ。その声とは、その後……?」

「うん、そのあともおはなししてたよ。わたしもお姉さまみたいに、きれいなおほしさまがほしいって言ったら、どうしたらいいかおしえてくれたの」

 

 事態の深刻さをまるで理解していない末妹の回答に、リクたちはさらに衝撃を受ける。

 サラが、ルカを見てリトルスターを欲したのは……トレギアと決着を付けたのよりも、後の出来事であったから。

 少なくとも――ヤプールを襲撃し、究極融合超獣を解き放った者は、トレギアとはまた別の存在であるということが、ほぼ確定したのだ。

 

「……今も、その声は聞こえる?」

「うーんと……もう聞こえないみたい」

〈――少なくとも、私にはサラが嘘を言っているという反応を、まだ検知できません〉

 

 謎の正体を追う直接の手掛かりは、そこで途切れた。

 

「……リトルスターを手に入れるために、どんなことを教えて貰ったの?」

 

 それでも残されたヒントを探し出そうと、リクはサラに尋ねた。

 

「えっとね……さいしょに、お姉さまをまだねらっているリガトロンってわるい怪獣を、やっつけるように言われたの。それで、リガトロンのチカラを手に入れたら、あっちのじゅんびができたらまたおしえてくれるっていわれて……」

 

 先程、ゼロによってその死体を粉砕された複合怪獣リガトロンが、別次元に追放された後も健在であった事実に、リクはまず驚き。

 それが、まだリトルスターを狙う脅威として残っていたことを察知していた声の主に、さらなる戦慄を覚えた。

 

「それで、きょうのあさね、おほしさまがみつかったから――わたしでも食べれるようにしたからおいでって、よばれたの。それで、お兄さまたちがプリズ魔をたおしちゃうまえに、まにあったんだよ」

 

 ……リガトロンのエネルギー吸収能力を身につけたサンダーキラーSが、リトルスターを食べれるようにした。

 その言葉が、意味することは……

 

「もしかして、そいつが――プリズ魔を操っていたのか……?」

 

 あの恐るべき脅威は、自然発生したものではなく、何者かの意志で導かれた人災だったというのか。

 その犯人が、もしも、ルカの懸念通りエタルガーの黒幕とも同一人物だとすれば――どれほどの戦力を動員できる存在だというのか。

 一層警戒を深めるリクの隣で、姉となった(ルカ)は、その顔にありありと懸念を浮かべていた。

 

「……サラ。あなたそれ、とんでもないことなのわかってる?」

「とんでもないこと、なの?」

「プリズ魔が街で暴れて、たくさんの人が危ない目に遭ったんだよ?」

「……そうなの?」

 

 恐るべき怪獣であるリガトロンやプリズ魔を問題としなかった究極融合超獣は、まるで実感が湧かない様子で首を傾げた。

 その様子に、歯痒さを表に浮かべたルカは、その感情を抑えるように目を伏せてから口を開いた。

 

「――レム。ちょっと乱暴だけど、この子にも私へしてくれたみたいに、学習装置で教育ってできる?」

〈不可能ではありませんが、推奨はしません〉

 

 ルカの問いかけに、レムが注意喚起を行った。

 

〈当時のルカと違い、今のサラのようにある程度、対象となる知識が既に備わっている場合、学習装置の使用は齟齬のある記憶を脳に焼き付ける行為になってしまいます。副作用として、人格への障害や記憶の混濁、感情制御への悪影響が生じる可能性が高いです〉

「――うん、やめよう、絶対」

 

 レムの解説を受け、リクは固い決意で頷いた。

 

「ルカ。横着しないで……ちゃんと僕たちで、教えて行ってあげよう」

「……うん。そうだね、お兄ちゃん。ちゃんと――お姉ちゃんしなきゃ、だよね」

 

 ごめん、と続けるルカの反省と決意に、リクは思わず頬を緩めた。彼女にお箸の握り方や、お風呂の入り方を根気よく教えてくれたライハもまた、その心意気を感じるように目を細めていた。

 そんなルカとともに、リクは再び、新たに加わった妹へと語りかけた。

 

「……サラ。怪獣が暴れると、たくさんの人が困るんだ。……ううん、困るだけじゃすまないこともある」

「怪獣騒ぎだけじゃないよ。自分のためだけに、周りの人に迷惑を掛けちゃダメ。わかった?」

「――ヒトじゃなかったら、いいの?」

 

 兄と姉に対するサラの質問は、一瞬二人を黙らせるのに、充分な効果を発揮した。

 しかしリクは、ルカやレムに目をやってから、小さく首を振る。

 

「……いや、人間以外もダメ。怪獣も、機械も」

「じゃあ、わたしがリガトロンやプリズ魔をやっつけたのも、いけないことだったの?」

「えっと、それは――」

 

 いつか追放空間を脱してルカを狙っていただろうリガトロンや、言うまでもなく災厄であったプリズ魔。

 共存不可能な脅威を駆逐してくれたことまでいけない、と断じる資格は、同じように怪獣退治を続けているリクにはない。

 

「それは、ありがとう。おかげで助かったよ」

 

 だからか。狙われていたルカ本人が、妹に礼を述べていた。

 

「お姉さま……! えへへ、どういたしまして」

 

 ルカに褒められたサラは、姉とよく似た笑顔を浮かべた。

 そんな妹に、険しかった表情を緩めながら、ルカは続ける。

 

「だけど……悪いことをしていない怪獣や、もう悪いことをする気のない怪獣を、やっつけたりいじめたりしちゃダメだよ」

 

 もちろん人間や機械も、と付け足すルカに、サラはあっさり「はい、お姉さま」と頷いた。本当にわかってくれているのか、少し怪しいままだ。

 ……前途はまだ、多難かもしれない。ルカやサラが今、星雲荘に居る裏で蠢く新たな脅威のことも、あまりにも情報がないままだ。

 それでも、この瞬間――同じ血から造られた兄妹三人で、穏やかに過ごせる奇跡のことを。

 妹たちの笑顔を目にしたリクは、決して悪く思いたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 それから、少し後のこと。

 

「あ、店長が言っていた番組、そろそろだね」

 

 サラの教育にもちょうど良いと思って、ルカたちは再びテレビを点けた。

 夜、いつもニュースを流す時間帯では、昼間のプリズ魔襲来事件の被害の程が、改めて報道されていた。

 

〈恐るべき怪獣の襲来。そこへ、実に四週間ぶりに、ウルトラマンジードが現れ、赤い角の怪獣スカルゴモラと共闘し、これに対抗しました〉

 

 プリズ魔と対峙するジードとスカルゴモラの様子を切り取った写真を中心に、逃げていた人々が撮影したと思われる録画映像もまた、テレビ画面で再生される。

 

〈今回、スカルゴモラは怪獣から、明確に人々を守ったようです。ここで、実際に助けられた人の声を聞いてみましょう〉

〈いやー、自分も、今日までは赤い角の怪獣は悪い奴だと思ってたんですけど……白い怪獣の光線を浴びそうになった時、あのスカルゴモラが身を呈して防いでくれたんですよね〉

「……店長、ちょっと緊張してるみたいだね」

 

 カメラに映るということで、珍しく硬い表情を見せる店長の様子に、リクが苦笑する。

 

「ライハは映ってないの?」

「私は、レムに先に回収して貰ったから……」

 

 雇用主の様子を見ながら、銀河マーケットのアルバイター組で感想を零し合う間にも、店長へのインタビューは続く。

 

〈前までは姪もあの怪獣に怯えていたんですけど、一緒に助けて貰いました。ありがとう、って気持ちですね!〉

「……お姉さま、泣いてるの?」

 

 隣に座っていたサラから問われて、ルカは思わず目元を拭った。

 

「だいじょうぶ? あのおじさんに、なにかひどいこと言われたの?」

「違うよ、その逆で……嬉しくて。心配させちゃってごめんね、サラ。ありがとう」

「えーっと……うん。よかったね、お姉さま」

 

 よくわからない、という様子のまま。それでも、姉に嬉しいことがあったのを良かったと言ってくれるよくできた妹に、ルカは微笑みかける。

 

「あなたにも……早く、こうなって欲しいなぁ」

 

 新たな脅威かと報道される、やんちゃした妹の今後をルカが祈るその間も。店長のインタビューを元に、再現映像などが流されていたが――残念ながら、無理やり捩じ込んだから見てね、と言っていた銀河マーケットの宣伝はカットされたらしい。

 続いてインタビュアーのマイクが向けられたのは、店長やライハとともに避難する車に乗り込んでいた少年、本田トオルだった。

 

〈……やっぱりウルトラマンジードは、ドンシャインみたいなヒーローなんだって、僕は想います〉

〈ドンシャインより、ジードの方が凄いよ!〉

〈だってジードは、本当に僕たちを守ってくれるもん!〉

 

 トオル少年の周囲にいた、同じく店長が車で逃した子供達が、わいわいとはしゃぎ出すのに、ルカは兄の偉大さが認められている喜ばしさ以上に不安が勝って、思わずリクを振り返った。

 ……幸いというか、兄は複雑そうな表情をしているものの、満更でもないらしく、機嫌を損ねるまでは至っていなかった。己の杞憂で済んだことに、ルカはほっと胸を撫で下ろす。

 

「……ドンシャインより、お兄さまの方がすごいの?」

 

 だが、そんなデリケートな話題の機微がわからない末っ子が、思いっきり混ぜ返してきた。

 

「ねぇ、お姉さま。わたしたちのお兄さまの方が、ドンシャインよりすごいの?」

「いや、えーっと……それはぁ……」

 

 即、頷いてしまいたい問いかけを向けられながら、リクの真ん前であるためにルカは迷い、声が裏返る。ちらりと様子を窺ってみた兄の顔色は、非常に微妙なものだった。

 しかし、じぃっと見つめてくる妹の視線から逃れることがどうしてもできず、ルカは引き攣った笑みの中、緊張で粘つく舌を動かした。

 

「そのぉ……人によるぅ、と思うけど――私はお兄ちゃんの方が好き、かなー?」

 

 紛れもない本心だが、この回答で大丈夫なのか、不安が語尾に表れてしまっていた。

 ……果たして兄は、喜色満面の笑顔になっていた。

 

「そうなんだ! すごいんだね、お兄さま!」

「いやぁ、それほどでも……やっぱりドンシャインも格好良いし……」

 

 どっと緊張が解けたルカの前で、兄と妹がはしゃぎ出す。

 二人を見守るルカの肩を、労るように優しくライハが叩いてくれた。気遣いの苦労をわかってくれた師匠に安堵して、思わずルカも抱きつきそうになるが、妹の前だから、と我慢した。

 

「じゃあ、やっぱりドンシャインごっこより、怪獣ごっこのほうがすごいんだね!」

 

 ――和やかな空気が一変したのは、その時だった。

 

「サラ……?」

「だって、ドンシャインより、お兄さまのほうがすごいって、お姉さまも言ったもの! なら、ドンシャインごっこより、ジードと戦う怪獣ごっこの方がすごいよね?」

「いや、それは……人によるって……」

 

 己の言葉を理由に、何やら興奮した様子の妹へと、ルカはためらいがちにも訂正を行う。

 

「……ドンシャインごっこは、楽しかったんだよね?」

「うん! でも、お兄さまのほうがもっとすごいのなら、やっぱり怪獣ごっこもやってみたいの!」

 

 続けてリクが問うのに、勢いよく頷いた妹は、そのまま危険な言葉を続けていた。

 

「せっかく、わたしのお兄さまがほんもののウルトラマンジードだから……やっぱり、ほんとうにウルトラマンジードとして、あそんでほしいの」

「サラ――っ!」

 

 リクが、呼び止めるより早く。思いついた勢いのまま、再び空間を割ったサラは、星雲荘を飛び出していた。

 

〈異次元エネルギー反応が増大。映像を出します〉

 

 レムが告げるや否や、星雲荘のメイン画面に、空が大きく割れる光景が映し出された。

 その空の割れ目から、夜を真っ白く染める雷が、大地へ突き立つ。

 膨大な稲妻が散った後には、金色の鎧を纏った白い竜が、その身を起き上がらせていた。

 

「お兄さま、お姉さま――はやく怪獣ごっこ、しましょ?」

 

 そして、究極融合超獣サンダーキラーSが、四度、同じ遺伝子から造られた二つの生命へと、誘いの言葉を投げかけた。

 

 妹が本来の姿を晒したのは、昼間戦場になったのと同じ一画。既に建物は残っておらず、日が沈んでいることから、捜し物を行うために残っている人影も見当たらなかった。

 それでも、あの子は新世代の究極超獣。ほんの少し駄々を捏ねるだけで、その威力は星山市を消し去って余りあるだろう。

 そのことを自覚しているのか、いないのか。蠢く触手は四方を睥睨し、いつその破壊力を解き放ってしまうのか、見る者に冷や汗を流させる。

 

〈――リッくん、どうなってるの!?〉

 

 どうやら監視役だったらしいモアから、慌ただしい通信が入って来る。

 

〈臨時ニュースです。昼間の怪獣騒動の最後、ウルトラマンジードらと新たに戦い、姿を消していた怪獣が、再出現したとの情報が入りました〉

 

 加えて、点けっぱなしだったテレビでも、その出現は既に、衆目へ認知されてしまったらしいことが語られる。

 

「やっぱり――やるしかないの……?」

 

 駄々を捏ねる幼子には、甘やかさずに無視を決めるというのもまた一手だが、怪獣相手ではそうもいかない。

 

「……僕が行く」

 

 苦悩するルカの前に、リクが一歩進み出た。

 

「ルカは、危ないからここに残ってて」

「そんなわけにはいかないよ! メタフィールドに隔離できるのは私しか居ないし、それに……私の答えで、あの子は……」

「あなたは悪くないわ」

 

 語気の萎むルカに、そっとライハが寄り添ってくれる。

 

「だけど……ゼロが居ない今、あの子を止められるのは、確かにあなたたちだけ。だから、お願い」

 

 ライハはルカの自責の念を拭い、その背を押すようにして送り出してくれた。

 その願いに、ルカは兄とともに頷いた。

 

「……ジーッとしてても、ドーにもならねぇ」

 

 リクの決意の言葉とともに、ルカは兄と二人、転送用エレベーターによって戦場へと送られた。

 

 

 

 

 

 

「まってたわ、お兄さま、お姉さま」

 

 エレベーターから吐き出された後。リクとルカは、ウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルと、培養合成獣スカルゴモラとしての姿に変わっていた。

 月光の下、本来のサイズで対峙する相手は、究極融合超獣サンダーキラーS。触手をうねらせる彼女の前に出た直後に、スカルゴモラが両拳を打ち合わせた。

 それにより、リトルスターを通して彼女の全身の角から放射された青い光が空で弾け、溢れ出した黄金の波動・フェイズシフトウェーブが光の膜となって兄妹を取り囲み、現実世界から切り離された亜空間の戦場(メタフィールド)へと、巨大生物たちを隔離する。

 

「(サラ……私がなんて言ったか、覚えてる?)」

 

 少しだけ苛立ちを表に出しながら、スカルゴモラが末妹に問うた。

 

「えーっと……まわりのひとにめいわくをかけちゃいけない、とか?」

「(そうだよ。約束したよね?)」

「うん。だから、お姉さまがめたふぃーるどをはるまで、まってたの」

「(これ、結構疲れるんだけど……)」

 

 無邪気に答える妹へ、毒気を抜かれたスカルゴモラがそんな思念の声を漏らしていた。

 メタフィールドは術者の生命力を変換して産み出す亜空間――疲労については、星雲荘の修復装置の働きで除去できている。さらに培養合成獣スカルゴモラの、生命に関わるストレスに適応する自己進化遺伝子のおかげで、能力獲得前よりも生命力自体が増幅されている。その結果、昼間よりは長時間維持できる見込みだが、一度展開するだけでも負荷は大きいのだろう。

 

「――ちゃんと約束を守るんだね。偉いよ」

 

 たちまち、ジードは相手を立てるところから始めてみた。

 

「ふふ、ほめられちゃった」

「でも、怪獣ごっこはちょっと考えようか。御飯の前で、僕もルカも疲れているし……」

「えー?」

 

 話を逸らす兄に、究極融合超獣は露骨に不満の声を口にした。

 

「せっかくお姉さまがじゅんびしてくれたのに……ごはんはあそんでからたべようよ、お兄さま」

 

 ――そう言うなら、メタフィールドを解除して貰おうと、ジードはスカルゴモラを振り返ろうとしたが。

 それより早く、サンダーキラーSの全身から、メタフィールドの紅い世界を埋め尽くすほどの白雷が迸り、その選択肢を却下させた。

 

「いっくよー!」

 

 眩さに視界を奪われ、加熱された大気の膨張に圧された兄姉へと、サンダーキラーSが呼びかける。

 最初に飛来したのは、青い破壊光弾、ウルトラマンアグルの必殺技であるリキデイター。それをウルティメイトバリアで凌いだところに、サンダーキラーSが有する無数の光線技が殺到する。

 サンダーキラーが得意としていたライトニングカッターのみならず、ゼガンの時空転送光線、プリズ魔の結晶化光線、そしてガイア・アグル・ベリアルの、三大ウルトラマンの必殺技。一撃一撃が、並の怪獣であれば即死させる威力の飽和射撃。

 やはり、サンダーキラーS自身には、敵意も殺意もないとしても。繰り出される猛攻には、メタフィールドによる補正で強化されたウルティメイトファイナルと、スカルゴモラが同時に展開したバリアでも、長く保ちそうにはない。

 

「ざうるすすてぃんがー!」

 

 それでも焦れったく感じるのか、サンダーキラーSの肩に生えた棘状の生体ミサイルが発射される。バリアの死角に回り込んでくるそれらを、スカルゴモラが超振動波で迎撃し、破砕する。

 

「うるてぃめいとりっぱー!」

 

 だが、そちらへ注意を奪った隙に。密かに忍び寄っていた触手が、リガトロンの鎌を再現したエネルギー吸収能力でバリアの強度を落とし、続く二本目の触手がジードから学習した光輪技を繰り出して、二重の光子障壁を切り裂いてしまう。

 

「しまった――!?」

 

 盾をこじ開けられ、思わず開いてしまったジードの両腕へ、後続の触手群が間を置かずに襲いかかる。ベリアルキラーザウルスに倍する触手は、バリアの突破に二本を費やしてもなお、ジードの四肢と首、ギガファイナライザーを同時に拘束してしまえるだけの手数があった。

 

「(お兄ちゃ――っ!?)」

 

 さらに、背に庇っていたスカルゴモラにも、九本目の触手の代わりとして、伸長したサンダーキラーSの尾が襲いかかった。触手がジードを投げ飛ばすと同時にスカルゴモラへ襲いかかった長い尾は、最初から稲妻を纏った状態でスカルゴモラの首に絡みつき、父に由来する放電技ベリアルジェノサンダーで姉を攻め立てる。

 

「うふふ、あははははははは……!」

 

 笑声とともに、サンダーキラーSが背の触手を開き、その隙間に光の膜を展開する。未熟な邪神の翼の代わりとなる羽を得た究極融合超獣は、その尾で姉である培養合成獣の首を絞めたまま、赤い空へと身を躍らせた。

 そうして低空で飛翔する勢いのまま、大地に擦り付けられながら、超音速で引きずられたスカルゴモラを、サンダーキラーSが身を翻して投げ飛ばす。

 

「ルカ!」

 

 勢いのまま地を滑ってきた妹を、ジードは起き上がって受け止める。どちらかと言えば、耐性を獲得しつつあるベリアルジェノサンダーよりも、首絞めの方が効いていたらしいスカルゴモラが息を荒くするところに、サンダーキラーSが自身を弾丸として飛んで来ていた。

 

「あぐるぶれーど!」

「――っ、スマッシュバスターブレード!」

 

 先のドンシャインごっこでも見せていた、根本が赤く、刀身の青い光の剣を、本体の右腕から伸ばしたサンダーキラーSを、無手となったジードも同様に生やした光の剣で受け止め、斬り結ぶ。

 

「やめるんだ、サラ!」

「えー? もっとほんきであそんでくれないとつまんなーい」

 

 生意気な返答とともに、サンダーキラーSは互いの剣を弾き合うと、開いた隙間に肩から思いっきり突進してきた。

 触手の分、ベリアル融合獣よりも増した体重。増大した出力による、打撃そのものの威力と、何より接触した瞬間に注ぎ込まれた電流の強化に踏み止まれず、ジードの身体が弾かれる。

 

「(このっ、悪ガキ――!)」

 

 怒りを隠さなくなったスカルゴモラが立ち上がった。距離を詰めようとする姉に対し、しかし妹は一歩も動くことなく、スカルゴモラの全身に触手を突き刺すことで制圧する。

 かつてのベリアルキラーザウルスのそれと違い、エネルギー吸収能力を持つサンダーキラーSの触手はスカルゴモラに直接触れながらも、超振動波の発動自体を阻害して、無傷のまま存在していた。

 

「うーん……やっぱりお姉さまたちは、ぷろてくとされてるんだね」

「(く、ぁ……っ、どういう、意味――っ!?)」

 

 痛みに呻く姉の流血を目にして、謎めいた言葉を呟くサンダーキラーSを、四肢や腹部を刺されたままのスカルゴモラが問い詰める。

 

「ヤプールは、レイブラッドがこわいから……生まれつきあたえられたいじょうの、レイオニクスの力を、わたしはふやせないの」

 

 ……他の怪獣やリトルスターを吸収すること、あるいは戦いの中で学習することで、その情報を取得し自らの力として再現を可能とするサンダーキラーSだが、レイオニクスでもあるベリアルの子らの力は――小手先の技は例外のようだが、本質的にはラーニングできないという仕様が、ヤプールの手で設定されているらしい。

 それを今、姉相手で実際に試したという回答に。宇宙を貪る滅亡の邪神の幼体が、予想外の結果であればどうするつもりであったのかを疑い、ギガファイナライザーを拾ったジードの手が強張った。

 

「……ルカを、離せ!」

 

 迷いを払い、得物を振り被ったジードは、スカルゴモラを捕らえる触手に打ち込みを行った。

 ギガファイナライザーが当たるより早く、スカルゴモラを手放して退いた触手が躱すと、ジードは再び姉妹の間に立ち、サンダーキラーSに対峙する。

 

「やめろ、サラ! もうこんなの遊びじゃ済まない!」

「……そうなの?」

 

 蹲ったスカルゴモラを庇いながら、先程までよりも、強い口調で告げたのが功を奏したのか。サンダーキラーSは驚いたようにして問い返した。

 

「こんなの、誰も楽しくない! 見ろ! 君のお姉ちゃんだって、こんなに怪我をして……っ!」

「うーんと、わたしは楽しいんだけど……それに、お姉さまもこれで、もっと強くなれるんだよね?」

 

 星雲荘のデータを盗み見ていたのか。それとも、同化や再現は許されずとも、解析は可能なのか。培養合成獣の特性を知悉したように、究極融合超獣が身勝手に答える。

 

「怪獣は超獣より弱いけど、わたしのお姉さまだもの。もっと強くなってくれれば、わたしとあそんでもへっちゃらになれるよね?」

「それは……君だけの都合だ。僕も、ルカも、君と兄妹で傷つけ合いたくなんかないし、君たちが争うのだって見たくない!」

 

 訴えかけるジードに、サンダーキラーSは小首を傾げた後、確信に充ちた声で応えてきた。

 

「だいじょうぶだよ、お兄さま。わたし、ちゃんと手かげんしてるから」

「……何?」

「だって、ごっこあそびだもん。プリズ魔との戦いで、ふたりのたいきゅうせいはわかっているから、ちゃんとやりすぎないようにできるよ?」

「こんなに、痛くしておいて……?」

「えっと――まだうごけるのに、痛いのって、そんなにいやなの?」

 

 痛みや恐怖を知らない生物兵器である超獣、その最新の系譜でもあるサンダーキラーS。

 ゼガンが乱入する直前の、本人の口ぶりを思い出せば。痛みを感じる心を持たない今までの超獣と、彼女自身は違うようだが――それでも生まれたばかりであり、そして未完成でも生まれながらに最新最強の究極超獣という強過ぎる存在故に、種族として受け継いで来た感性を覆すほどの経験がなく、ジードの言葉に理解が及ばない様子だった。

 

「望んで痛い目に遭いたい人はいない、と思う」

「そうなんだ……じゃあ、もうちょっと手かげんしてみるね!」

 

 一人で納得する言葉とともに、サンダーキラーSがまた、遊びという名の攻撃を再開して来る。

 ……だったら、痛いのがどんなことか、教えてやろうか――そんな憤りが一瞬、ジードの脳内をチラつく。

 

 究極融合超獣サンダーキラーSは確かに強大だ。ウルティメイトファイナルでも、単体では押し切れないかもしれない。

 だが、自身よりも強大な存在を打倒するのは、ウルトラマンにとって珍しいことではない。その最たる例が、この手で眠りに就かせた父ベリアルだ。

 あの勝利は奇跡的な助けがあってこそのものだが、このメタフィールドの中でなら……そこまで考えたところで、しかしジードは正気に返る。

 

 ――違う。それじゃ駄目だ。

 自分の都合の良いように力で従えさせるのは、ベリアルと同じだ。

 今の、サンダーキラーS自身がそんな在り方だとしても。彼女が自分で気づいて、その言動を改めるようにできなければ意味がない。

 ――それが、どうしてもこの子にできないのなら、その時は……!

 

 …………でも、ルカの前で――?

 

 そんな風に、戦いの最中、思考を迷走させてしまったために。

 サンダーキラーSの攻撃に対処する集中を欠いたウルトラマンジードは、触手の構えたウルティメイトリッパーが、自らの腹部に押し付けられるのを、許してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

「(――あ……っ)」

 

 全身を痛めつけられ、倒れ伏していた培養合成獣スカルゴモラは、為す術のないまま、その光景を目の当たりにした。

 究極融合超獣サンダーキラーSの操る触手、その一本が携えていた光輪が、ウルトラマンジードの腹部を縦方向に抉り切る瞬間を。

 

「(――あ、あ、あぁぁぁあああ……っ!?)」

 

 触手は、上に向かって跳ねた。正中線に沿った刃の軌道は、ウルトラマンの生命核と直結する器官、カラータイマーの存在する方向に走っていたのだ。

 光輪に腹を割かれただけで、尋常な生物ならショック死を免れない。そしてウルトラマンと言えども、もしも、カラータイマーが破壊されていたら、ウルトラマンジードは――兄は、リクは、死んで……!

 

「あれ――お兄さま、こんなこうげき、まだふせげると思ったのに……?」

「(あぁぁぁあああああああぁぁぁあああああああっ!?)」

 

 力なく倒れるジードを見て、スカルゴモラは狂乱するまま思念の声を迸らせた。

 ジードの有様と、その声に吃驚したように、サンダーキラーSがこちらを見る。

 

 ――一緒に遊んで。ルカが名付けて、ルカを心配してくれて、それに心を許してしまって。だからルカ自身も、兄も、相手の思惑がどうあれ遊びと言われる範囲では、本気で戦うことができなかった。

 だから、ガーゴルゴン・フワワの時のように。またルカの甘さが原因で、リクが、一番大切な居場所が、奪われて……

 

「(……許さない――ゆぅるぅさぁなぁいぃぃぃいぃっ!!)」

 

 そんなこと、もう許してたまるかと。立ち上がった培養合成獣スカルゴモラは、爆発する怒りのまま――度重なる戦いで、そして今、相対する同族の存在に刺激され続けてきた、その闘争本能を完全に解き放つ。

 その滾りのまま、全身が燃える。異常活性化した新陳代謝が全身の傷を修復させるとともに、発生した余熱による膨張が、古い体表を文字通り弾き飛ばす。

 

 ――そうして現れたのは、赤いスカルゴモラだった。

 褐色だった前側、金色だった背中、どちらにも赤みが付け足され。しかし、表面が取れた結果、翡翠の鉱脈のような色合いを覗かせた背中の角に照らされた範囲は、結果として元の黄金に近い煌めきを背負う。

 そして己を中心に、赤い輝きを放射するその姿を何と呼ぶのか、彼女自身は知る由もなかった。

 

〈ルカに、何が起きたの……?〉

〈これは――レイオニックバーストです。レイオニクスの力による強化形態で、公的な記録では、ゴモラとレッドキングで一例ずつしか確認されていない現象になります〉

 

 何らかの異常を察知したらしい、ライハとレムの会話。

 その意味することを理解するほどの冷静さは、既にスカルゴモラの中に残されていなかった。

 ただ、際限なく漲る力に導かれたまま、その抑えきれぬほどの猛りをぶつけるべき『敵』だけを見据えていた。

 

「お姉さま……!」

 

 同じレイオニクスの血を引くサンダーキラーSが、姉と呼ぶ培養合成獣の変貌に驚いたように呼びかけて来た。

 

「すごい、すごい! そんなにも、レイブラッドのチカラを引き出せるなんて……!」

「(お兄ちゃんから――離れろぉっ!!)」

 

 興奮した様子の獲物へと、スカルゴモラの意識が集中する。

 怪獣念力が、サンダーキラーSを襲う。これまでより大幅に出力を増したサイコキネシスは究極融合超獣の全身を圧迫するものの、やはりリガトロンの能力を継いだ触手によって力場を裂かれ、霧散してしまう。

 

「あはは、すごいすごい! でもまってお姉さま、今は――」

 

 自由を取り戻したサンダーキラーSが余裕の態度で笑うが、究極融合超獣にぶつけた念動力は、スカルゴモラにとって目眩ましでしかなかった。

 本命は、サンダーキラーSの傍で倒れていたウルトラマンジードを、離れた場所まで運ぶことだったから。

 

「あっ、お兄さま」

 

 そのことにサンダーキラーSが気づいた直後、彼女を取り囲む大気が、百万度にまで加熱されて炎上した。

 

〈レイオニックバーストしたレッドキングは、エンペラ星人に仕えた不死身のグローザムをして、触れれば死亡するほどの高熱を纏っていたそうです〉

 

 エンペラ星人や、その臣下としてヤプールと肩を並べたグローザムについて、レムが解説しようとするが、そんな余計な情報はスカルゴモラの意識に上がらない。

 その間も、全身の角が音叉となって、自らの発生させた高熱を介し、超振動波の音エネルギーをサンダーキラーSの周囲へと放射していた。

 音波のエネルギーは、高温環境であるほど減衰度を下げ、さらに音速自体を増大させる。太陽の光球面がたったの六千度しかないのに、さらに熱源から遠い太陽コロナが百万度を越えるまで加熱されているのも、高温の環境下で太陽コロナまで共振する太陽核からの波動が効率良く届いているためとする説がある。

 スカルゴモラは本能的に、太陽と同じようにして、その体内の膨大なエネルギーをサンダーキラーSに叩き込もうとしていたのだ。

 

「すごくあつい……」

 

 ウルトラマンの光線に比べれば、低密度に拡散するプラズマでしかない大気へと、サンダーキラーSは呑気な感想を零した。

 それから、窓を開けて換気する程度の気軽さでメタフィールドの亜空間を割って、異次元への穴を開く。

 途端、凄まじい勢いでスカルゴモラの放つ熱波が排出されていくが、数秒と経たない間にその流れが止まる。

 サンダーキラーSの開いた次元の穴を、スカルゴモラの怪獣念力が作り出した力場が取り囲み、蓋をしたからだ。

 そうして、再び周辺の大気が、これがメタフィールド外であるならとっくに辺り一帯の地面ごとプラズマ化する高温に達して――その中を遂に、サンダーキラーSに狙いを絞ったスカル超振動波が駆け抜けた。

 

「――あ……っ!」

 

 プリズ魔化での吸収もできない莫大なエネルギーに晒されて、まず弾け飛んだのは、念動力場を引き裂こうとしていた左側の触手の群れ。

 超高温下、秒速百万メートル超過まで研ぎ澄まされた超振動波によって、構造の脆弱部を狙われた触手が、爆破されたようにして消し飛ぶ。その様を見たサンダーキラーSが、呆けたような声を発した。

 

「痛……い……?」

 

 サンダーキラーSの気が逸れた隙を見逃さず、スカルゴモラは地を蹴った。

 筋肉が発達しすぎて、巨体を運ぶための可動域が充分に取れていなかったこれまでと、体型に変わりはないというのに。大幅に増した膂力は、その身のこなしまで軽やかにしていた。

 

「あ……っ、いやぁあああああああああ!?」

 

 そんなスカルゴモラの接近に対し、生まれて初めて傷を負ったサンダーキラーSが、半ば錯乱したように応じた。

 残された右側の触手で、ウルティメイトリッパーを投擲しながら、ベリアルデスサイズを放つ。フォトンエッジとフォトンクラッシャーを繰り出した後、それぞれをさらに重ねがけするように発射する。

 

「え……っ!?」

 

 そのいずれもを、スカルゴモラは怒りのまま、躱しも防ぎもせずに突っ込んだ。これにはサンダーキラーSも正気に返り、驚いたような素振りを見せた。

 

「そんな、お姉さま――っ!」

 

 サンダーキラーSが、焦ったように呼びかける間に、ベリアルデスサイズが肩から袈裟斬りに肉を刻む。続くウルティメイトリッパーは首元を半ば近くまで断ち切り、赤と青の混じった二本の光線が、拡散して体表を広く切り裂きながら、本流でその胴体を貫いていく。

 だが、気にも留めず進むスカルゴモラの肉体を破壊光が通り抜けた後には、すぐに。活性化した細胞が、その断面や穴を高速再生して塞いで行く。

 

「なん、で……痛くない、の――っ!?」

 

 そして、愕然とした様子で喋っていた真っ最中のその頬を、飛び掛かったスカルゴモラは思い切り引っ叩いた。

 頭が取れそうな勢いでサンダーキラーSの首が曲がり、身体までその勢いのままに回転させる。サンダーキラーSがメタフィールドの大地に倒れ込む途中、目の前を過ぎった究極融合超獣の触手を、スカルゴモラは掴み取った。

 

「(お兄ちゃんを切ったのは、この触手か……っ!)」

「ちが、それはもうな――っ!」

 

 触手に流れる高圧電流を物ともせず。さらに囀る究極融合超獣の背中を踏みつけて、その声を中断させたスカルゴモラは、思いきり体を伸ばした。

 

「いや、痛、やめ……ちぎれちゃ――っ」

 

 踏まれたままのサンダーキラーSが制止を呼びかけたのに取り合わず、スカルゴモラは力任せに、その触手を引き千切った。

 

「――きゃぁああああああっ!?」

「(これかっ!?)」

 

 悲鳴を無視した次は、噛み付いて。咬合力だけで裁断しながら、六本目の触手を破壊する。

 

「(こいつかっ!?)」

 

 抵抗するように襲いかかってきていた残りの二本も掴み取り、鉤爪に刺されてエネルギーを吸われるまま、その吸収限界を越える出力のスカル超振動波で爆砕する。

 

「痛……いやぁあああああああああっ!?」

 

 苦痛を訴えるサンダーキラーSの、その声が煩わしくて。スカルゴモラは衝動のまま、妹を名乗っていた超獣を蹴り飛ばす。

 独楽のように回転して跳ね上がったサンダーキラーSが、何百メートルも先の岩山を突き崩した。それを追い、スカルゴモラ自身も移動する。

 逃さない。日天下であれば、プリズ魔の光量子化と実体化能力を使われて、倒すのに手間がかかるようになる。ここで決着をつけてやる――!

 

「ぜ……ぜがんとびーむ!」

 

 迫るスカルゴモラに、怯えた様子で起き上がったサンダーキラーSは、ゼガンを真似するようにして胸の中心から時空転送光線を放った。

 だが、同時にスカルゴモラの展開したバリアがゼガントビームを受け止めて、時空転送効果を不発のままに潰えさせる。

 

「(させるかっ!)」

 

 究極融合超獣は身を翻し、空間を割って逃げようとしたが、培養合成獣はその異次元への穴を怪獣念力で封じ込めた。続けて、眼前の出来事に立ち尽くすサンダーキラーSの尾を、スカルゴモラは思いきり踏みつける。そして、縫い留められた本体の動きが鈍ったところでその尾を掴み上げ、腕力だけで一気に引き寄せる。

 

「(このっ! このぉっ! このっ、このぉおおっ!)」

 

 それから何度も、何度も。赤熱化したメタフィールドの大地に、尾を握ったまま振り回して叩きつけてやると。サンダーキラーSは徐々に、抵抗する気力を失っていった。

 

「やめて……やめて、お姉さま……」

 

 反撃も、防御も、逃亡すらも叶わず、最早、震えながら許しを請うしかできないサンダーキラーS。その肩へ手をやったスカルゴモラは、力尽くで彼女を仰向けにさせて馬乗りとなり、そのまま顔面目掛けて拳を振り下ろした。

 そして硬い音とともに、サンダーキラーSの左の角がへし折れた。

 

「――っ、あぁあああああっ!?」

 

 耳障りな悲鳴に蓋をするように、スカルゴモラはもう一度拳を振り下ろした。

 都合三度の殴打を当てても、サンダーキラーSの頭蓋骨が砕ける手応えはない。どうやら、リガトロンやラグストーンの装甲を参照に兜の強度を上げているらしい。だが、それでも打撃を完全には無力化できていない。先に中身か首が限界を迎えるだろうと、スカルゴモラはまた拳を降ろす。

 

「痛っ、痛いぃ……もうやめてぇ、お姉さま――!」

「(嘘つけ! 超獣はっ、痛みをっ、感じないんでしょっ!?)」

 

 怒りを込めたスカルゴモラの回答と拳が繰り出される度に、サンダーキラーSがその身を捩り、震わせる。

 

「うそじゃないよ! ほんとうに……やめて、痛い、痛いっ!? もう……ぶたないで――っ!」

「(なら――おまえはお兄ちゃんがやめろって言っても、なんでやめなかったんだ!? なんでお兄ちゃんを傷つけた!?)」

 

 お望み通り、殴るのをやめたスカルゴモラは、代わりにサンダーキラーSの首を思いきり握り締めた。

 

「わたしがっ、わるい子だった、から……痛いのが、こんなきもちだなんて、知らなかったの……!」

 

 みっともなく泣き始めるサンダーキラーSの首を絞める力を、スカルゴモラはもう一段強めた。

 呼応したように、サンダーキラーSの胸から小さな光の玉が――リトルスターが浮かび上がったかと思うと。そのまま弾けて、消えてしまった。

 ――その現象が、宿主の心底からの絶望を意味することを、スカルゴモラは知らなかった。

 

「ごめん、なさい……だから、もう……ゆるし、て……っ!」

 

 そんな風に請われても、スカルゴモラの衝動は止まらない。

 

 片方の手を離し、超高熱のプラズマ火炎と超振動波を同時に纏った爪で、その腹を掻っ捌いてやろうとした、その時だった。

 その腕が、背後から掴まれて止まったのは。

 

「ルカ……もう、やめるんだ」

 

 邪魔者を振り返るのと、その声の主から柔らかな光が放たれるのは、同時のことだった。

 傷を治すだけでなく、沈静化の効果を併せ持った癒やしの波動は、血の衝動に染まっていたスカルゴモラの思考の靄を晴らし――己の手を握って止めたのが、最愛の兄であることを認識させた。

 

「(お兄、ちゃん――)」

「――お兄、さま……?」

 

 腹部から、自らを構成する光の粒子を零し続けながら。

 そこを塞ぐためではなく、妹たちの心と体を癒やすため、さらにその身を削って光を放つのは、ウルトラマンジードその人だった。

 

「(――あ、私、は……)」

「ひぅ――っ!?」

 

 落ち着くと同時に、振り返ったスカルゴモラの顔を見た途端。兄の治癒光線に傷ついた身を委ねていたサンダーキラーSは、それからすら逃れるように悶えた。

 いつの間にか、レイオニックバーストの状態から元に戻っていたスカルゴモラはそれに抗う力がなく、また、心が追いつかず。勢いのまま、妹の上から振り払われる。

 

「サラ、待って……!」

 

 そして、重傷のジードが呼び止めるより早く、前方の空間を割ったサンダーキラーSは這うようにしてその中に飛び込み、即座にその穴を閉じて、異次元へと姿を眩ませてしまった。

 脱兎の如く逃げ出す妹の様子を目の当たりにし、スカルゴモラは己を顧みる。

 

「(私――何を……)」

 

 何をしていたのか、その記憶はある。

 何をしようとしていたのか、その自覚もある。

 自分が――あれほど嫌悪していたことを、自ら行ってしまったという、その認識が。

 

 ――痛い痛いと泣きながら、許しを請うてもやめて貰えなかったあの絶望を、振り撒く側になってしまったという実感が、スカルゴモラの中にあった。

 

「(私……私、なんてことを――!)」

 

 ――レイオニクスとは、兄弟殺しの血族。

 ペイシャンの警告を、培養合成獣スカルゴモラは想起する。

 

 その、レイオニクスの血が掻き立てる本能のままに。最初は、兄を傷つけられた怒りだったのだとしても。ただ湧き上がる衝動のまま、己は力を振るう愉悦に溺れ、妹であるサンダーキラーSを傷つけた。既に闘志をなくし、助けを求めていた彼女を散々に叩きのめし――嬲り殺そうとした。

 挙げ句には、何より大切な兄のことすら、そのままでは判別できなくなっていて――

 

「あ……うぁあああ……っ!?」

 

 メタフィールドを解除し、培養合成獣から人間の姿へと変化しながら、ルカは嗚咽を漏らして頭を抱えた。

 

「ルカ……」

 

 いつの間にか、同じように人間の姿に戻った兄が、心配そうに呼びかけてくれていた。

 だが、ルカが答えられずにいると、やがて背後で人の倒れる音がした。

 

「――お兄ちゃんっ!?」

 

 振り向けば、腹部を赤く染めた荒い息のリクが、苦悶に満ちた表情で倒れ込んでいた。

 そうだ、元々は兄を助けようとしたのに――そのために妹を傷つけたのに。自分はリクが重傷を負っているということすら忘れて、己のことばかりに耽溺した。

 ライハとレムに助けを求めながら、月光の下、ルカはそんな己をひたすらに呪っていた。

 

 ……兄の、役に立ちたいと。念願だった、ウルトラマンジードさえ越え得る力を手に入れても。

 今の培養合成獣スカルゴモラには、そんな愚かなことしかできなかった。

 

 

 

 




第八話あとがき



 ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
『ウルトラマンジード』の第八話、ということで、ゼロが帰還したり、ジードではなく準主役が強化形態を得たりする回になりました。

 同時に、強化形態の元ネタである『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル NEVER ENDING ODYSSEY』の第三話『大暴走!レイオニックバースト』のような回ということで、このまま長編に突入する流れとなります。一気に書いた上で同時に更新した第一話・第二話の頃と違い、まだプロットだけしかないので不安も大きいですが、どうかお付き合い頂けると幸いです。

 ちなみに、レイオニックバーストしたゴモラとレッドキング、前者は言うまでもなく大怪獣バトルの主人公・レイのゴモラですが、後者はグランデの個体ではなく、『大怪獣バトル ウルトラアドベンチャーNEO』の主人公アサマ・アイのパートナーの方になります。培養合成獣の素材はどちらでもないとは思うのですが、EX化と違ってレイオニックバーストは純粋にレイオニクスによる強化という趣が強いので、実績ある種族の遺伝子を掛け合わせたスカルゴモラ自身=シンクロ率100%のレイオニクスとなるルカならポテンシャル的に行けるだろう、という解釈です。



・星雲荘の修復装置>ストーンフリューゲル問題
 あのウルトラマンノアがネクサスとして同化した適応者(デュナミスト)に授ける移動手段兼回復装置のストーンフリューゲルですが、傷は癒せても疲労を取り除けないという仕様でした。
 対して、星雲荘の修復装置は、使用前後で明らかに伏井出先生の元気そのものが増進されていたので、治癒に加えて疲労回復効果があると原作描写から判断でき、少なくとも拙作ではそのように扱って来ました。
 結果、地味に労働環境の設備面ではベリアルは間違いなくノアを越えているという事態となりましたが、原作同士を比べた結果ということでご了承ください。






オリジナルウルトラカプセルナビ

名前:究極融合超獣サンダーキラーS(ザウルス)
身長:53メートル(触手除く)
体重:9万9千トン(触手含む)
得意技:ベリアルジェノサンダー、キラートランス

 ヤプールの手により、究極超獣ベリアルキラーザウルスの予備機と、滅亡の邪神ハイパーエレキングの細胞にベリアル因子を融合させて誕生した、第二世代究極超獣にして滅亡の邪神の幼体、そして新たなるベリアルの子。
 ベリアルジェノサンダーを始めとする電撃技と、既存通常種の四本、Uキラーザウルス・ネオの六本を越える、八本の触手を主な武器として戦う。
 また、宇宙同化怪獣ガディバの特性も組み込まれており、吸収その他の手段で情報の取得・解析に成功した能力を自らのモノとする自己進化能力を持つ。
 さらに、獲得した能力を行使するため、肉体を自在に変化させる『キラートランス』も、ビクトリーキラーの物から発展した技術を採用し、腕に限らない部位や全身での変異まで可能となっている。



 ……この超獣はヤプールが決戦に臨む際の器として造られていた従来の究極超獣とは異なり、自律思考する一個の生命体として設計されている。
 その理由は、同じ遺伝子を使って造られたベリアルの子らに対して、存在そのものが心理的な優位を招くことができるとヤプールが考えたため。なおかつ、闇だけでは光と闇を併せ持つ者には勝てないという指摘を受けたことから。そのため、既存の超獣が持ち合わせなかった類の心や感覚なども搭載されている革新機でもある。
 しかし、レイブラッドへの恐怖心を捨て去れなかったヤプールにより、自己進化能力の対象としてレイオニクスを含めることができず、ジードやスカルゴモラ自体の能力を身につけることはできないという制限を設けられている(身体変化を伴わない、解析した光線技等の習得は可能)。

 ジードたちへの人質(※愛らしい少女の見た目の人間態を設定したのも、その目的を補強するため)のような効果を得られる「一個の生命体」として成立させた上で制御を図ろうとしていたヤプールだったが、行動理念の刷り込み前に何者かに襲撃され一時滅亡してしまう。
 結果、未完成のまま動き出した、次世代型究極超獣――というのが、本編で登場した時点でのサンダーキラーザウルスとなる。幼体であるため、滅亡の邪神の象徴である翼が未熟となっている(触手で飛行能力を補っている)。


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