ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第九話「共闘-コンビネーション-」Cパート

 

 

 

「無事か、ウルトラマンジード!」

 

 東太平洋の沖。中ノ鳥島付近の海中に潜んでいたAIBの怪獣兵器、時空破壊神ゼガンが、その姿を現した。

 ゼガンを操るAIBの上級エージェント、シャドー星人ゼナが呼びかけるものの、虹色の膜に覆われた、この世界から目視できるだけの別位相空間に連れ去られたウルトラマンジードとスカルゴモラは、その呼びかけに応えることができない。

 ならばと、時空破壊神という異名の元となった、時空転送光線ゼガントビームでその構造体を外から破壊することで、当初の役割通り援護に回ろうと試みるものの――上空から飛来する甲高い咆哮が、その行為を頓挫させた。

 破滅魔人ブリッツブロッツを模したスペースビーストが、上空からゼガンに襲いかかっていたのだ。

 ゼガンは即座に身を翻し、ブリッツブロッツの手刀を躱す。海を割る衝撃波を纏い、超音速で過ぎ去っていったブリッツブロッツに反撃しようとするものの、魔人の従えていたアリゲラ型スペースビーストの群れが追撃として迫っていたのを見たゼガンは、再び水中へと身を没する。

 深海へ逃れようとするゼガンを、水中でも空と同じように泳ぐことができるアリゲラの群れが見逃す道理はなく、次々と海面を突き破って、その後を追って行った。

 

 そうして、ゼガンという邪魔者が姿を消す頃には。ビースト振動波を持つ者を素通りさせる、イズマエルグローラーの虹色の遮断フィールドを潜り抜けたブリッツブロッツが、そのイズマエルと挟み込むようにしてジードとスカルゴモラと対峙していた。

 

「(――メタフィールドが、張れない!?)」

 

 強敵二体を前にして、ビースト振動波を隔離する空間を作るべきだと判断したスカルゴモラが、自らに宿ったリトルスターの輝きを強めるも。全身の角から放射されたフェーズシフトウェーブは空で弾ける前に掻き消え、無意味な光となって解けて行く。

 

〈イズマエルの構成要素には、メガフラシというスペースビーストが含まれます。今の二人は、そのメガフラシに由来する能力で産み出された特殊空間に囚われてしまっています〉

「――まずいっ!」

 

 レムが解説する間に、その術者であるイズマエルが全身の無数の八つの口から、大量の火炎弾や稲妻、そして光線を放ってきた。

 

〈その空間内では、ビースト振動波を含まない一定以上のエネルギーは拡散させられてしまいます――メタフィールドを展開するための、フェーズシフトウェーブも〉

 

 一方的な砲撃に対し、妹の前へ出たジードはギガファイナライザーで打ち弾こうとするが、如何せん数が多すぎた。

 

「(お兄ちゃんっ!)」

 

 凌ぎきれずに吹っ飛んだジードへ、スカルゴモラが顔を向ける。そうして隙を見せた兄妹を狙って、反対方向からブリッツブロッツが駆け出した。

 

〈ブリッツブロッツの爪は、対ウルトラマンに絶大な威力を発揮します。気をつけてください〉

 

 被弾した痛みで一時的に動きを阻害されたジードへと、レムが詳細を省いて警告する。それだけの切迫した事態を意味していた。

 

「(この――っ!)」

 

 ジードを狙うブリッツブロッツの前に、スカルゴモラが割り込んだ。独特の歩法に腰の捻りを連動させる動きは、ジード――リクにもわかる太極拳の基本形。左腕で膝の前を払い、そのまま右腕を突き出す桜膝拗歩(ロウシーアオブー)で、スカルゴモラが破滅魔人型異生獣(フィンディッシュタイプビースト)を迎え撃つ。

 師匠(ライハ)には遠く及ばずとも、既に(リク)より遥かに洗練されたその動き。加えて初見故、人型でもない培養合成獣が、人類の武術である太極拳を使ってくることは敵も想定できていなかったのか。意表を衝かれた様子のブリッツブロッツの鋭い爪を、スカルゴモラはあっさりと捌いてみせた。さらには重心移動の一連の動作で繰り出した右の拳がその胸郭を強打し、勢いのまま大きく後退させる。

 

「(お兄ちゃん、伏せてて!)」

 

 警告の思念とともに、さらに旋回した尾がジードの頭上を過ぎって追撃すると、ブリッツブロッツは両翼を拡げて間合いの外まで逃れて行った。

 敵手を追い払ったスカルゴモラは身を翻す勢いのまま、続けてイズマエルグローラーへの突撃を開始する。

 

「(やぁあああああああっ!)」

 

 敵の展開したフィールド内では、バリアの発生も阻害されている。故に、持ち前の耐久性だけを頼りに進むことを余儀なくされたスカルゴモラは、イズマエルの弾幕に気合だけで飛び込んだ。

 

 ……十門以上の砲口から、多種多様な攻撃を繰り出すイズマエルグローラーの火力は凄まじいものだった。

 だが、一昨日のサンダーキラー(ザウルス)との戦いが契機となり――スカルゴモラの戦闘力は、平常時でもさらに、飛躍的に向上していた。

 

 着弾の痛みで前進の勢いを落としながらも、イズマエルの一斉砲撃を耐えきったスカルゴモラはそのまま敵を間合いに捉え、前腕を薙ぎ払う。イズマエルは左腕で受け止めようとするが、スカルゴモラの剛力に叶わず後退を余儀なくされる。

 さらに右腕の鉤爪が振り下ろされるのを、合わせた頭の角で受け止めて、前進しようとしたスカルゴモラは、そこでその足を止めた。

 彼女の意識の外、イズマエルの左腕から伸びた、牙を持った巨大なミミズのような口吻が、スカルゴモラの脇腹に噛み付いていたのだ。

 

「(――ったいなぁ、もう!)」

 

 苛立ちを口にしたスカルゴモラが、その体内で増幅したスカル超振動波を表出させると、空間の作用が物質化していないエネルギーを完全に拡散させる前に、イズマエルへと浸透。突き立っていた牙を根本から激震させ、左腕まで遡ってダメージを与える。

 だが、イズマエルグローラーは生物として混ざり過ぎていて、超振動波現象を引き起こしても、全身同時に有効となる振動数が特定しきれなかったようだ。咬撃を仕掛けてきていた口吻を弾くのが精一杯で、しかもそれで警戒されてしまい、イズマエルは先のブリッツブロッツと同じように背中の翼で空へと飛び上がり、スカルゴモラの間合いから逃れようとする。

 

 だがそこへ、ギガファイナライザーを構えてジードが飛び掛かった。

 

「――はぁっ!」

 

 妹の奮戦の間に体勢を立て直したジードは、独楽のように高速回転し、イズマエルグローラーが盾となる部位を持たない右側から強襲する。

 鋭い鉤爪を振り下ろし、初撃を弾くが、それが精一杯のイズマエルへと、ジードはさらに二撃、三撃と繋いでギガファイナライザーを叩きつけ、その体勢を崩させる。

 そして四度目となる一閃が、イズマエルグローラーの飛行能力を上回り、その巨体を中ノ鳥島の大地へと叩き落としていた。

 

〈メガフラシの能力を持った部位は、イズマエルの右肩にあります。そこを破壊すれば、このフィールドを無効化できるはずです〉

 

 レムの助言を受けて、兄妹はイズマエルの右側に攻撃を集中しようと決意する。しかし、ジードの前にブリッツブロッツが超音速で飛来し、その機動性から繰り出す鋭い爪でイズマエルへの接近を妨害する。

 さらにブリッツブロッツが一声吠えると、未だ後続がワームホールから吐き出され続けていたアリゲラの群れが、中ノ鳥島周辺に殺到した。

 イズマエルの展開するメガフラシのフィールドは、どうやらビースト振動波があれば素通りできるらしい。つまりアリゲラ型ビーストの群れもまた、当人らが突撃できるとともに、そもそも遠距離攻撃の手段を失ったジードやスカルゴモラに近づかなくとも、安全圏に置いたその身から放つ電磁ビームを釣瓶撃ちにするという戦法で、バリアまで奪われた兄妹を容易に圧倒できてしまうのだ。

 まさにそれが実行へ移されそうになった、その瞬間――ジードたちは、虹の向こう、さらに外周から島を取り囲む鏡の出現を目にしていた。

 

「鏡を作るのは得意でね」

 

 続けて発射された大量の電磁ビームを反射させ、射手であったアリゲラたち自身が貫かれ自滅する状況を作り上げた張本人は、虹のフィールドに阻まれながらも中ノ鳥島の上空にその姿を見せていた。

 

「――知らなかったかい?」

「ミラーナイト!」

 

 駆けつけたUFZ(ウルティメイトフォースゼロ)のメンバー、ミラーナイトがその能力で、スペースビーストの物量攻撃を防いでくれたのに、ジードは歓声のようにして彼の名を呼んだ。

 

「――ファイヤァアアアアアアッ!」

 

 暑苦しい雄叫びを上げながら、同じくUFZのメンバー、グレンファイヤーが全身を発火させた弾丸となりながら、ミラーナイトの作り上げた鏡の結界の隙間となる真上に集おうとしていたアリゲラの群れに次々と襲いかかり、焼き尽くして行く。

 

「へっ、待たせたな」

「――我ら、鋼鉄のジャン兄弟!」

 

 グレンファイヤーが声をかけるのに続けて、赤と白、赤と銀を基調とした巨大な戦闘機が二機、飛来したかと思うと――彼らはそのまま人型に変形し、やはりUFZのジャンボットとジャンナインという、二体の巨大ロボット戦士としての真の姿を顕にする。

 そして二体は全身の兵装を解放し、やはり中ノ鳥島に侵入を試みようとしていたアリゲラの群れを、片っ端から撃ち落としていく。

 

〈おいおい、それじゃビーストの細胞が……〉

「問題ない。任せろ、ペイシャン」

 

 ペイシャンの通信に応える声があった直後、青い光がUFZのメンバーと戦うアリゲラたちを呑み込む。

 その正体は、先程ブリッツブロッツの攻撃を逃れ、海中でアリゲラの一群との戦闘に移行し、それを制していたゼガンが放った、時空転送光線だった。

 ゼガントビームは直撃したアリゲラたちのみならず、UFZのメンバーが消滅させるに至らなかった残骸をも発生させた時空の穴に引き込んで、その再発生を抑止する。

 

「みんな――ありがとう!」

 

 応援に感謝したジードは、空の上でブリッツブロッツの相手に専念し始めた。

 同時にスカルゴモラがジードの叩き落としたイズマエルへと突進し、その右肩へと、メガフラシの顔をもぎ取る勢いで爪を振り下ろした。

 ――だが、肉を裂く音はなく。培養合成獣の爪は、何もない空を切り、スカルゴモラがたたらを踏む。

 

「(……消えた!?)」

〈インビジブルタイプビースト・ゴルゴレム由来の位相潜行能力のようです。イズマエルは現在、我々とは別の位相空間にその存在を移しています〉

 

 そうなったイズマエルには、通常の手段では目視も攻撃も不可能――レムの解析に身構える間に、ブリッツブロッツが飛来する。

 だがその刹那、スカルゴモラの気づきが、ジードの意識に届いた。

 

「(フィールドが、消えてる……!)」

 

 その声を聞いて、ジードはブリッツブロッツの爪を受け止めたギガファイナライザーの真価を解き放った。

 

「――クレセントファイナルジード!」

 

 必殺の一撃を、寸でのところで察知したブリッツブロッツが身を翻し、その軌道上から逃れる。

 難敵である破滅魔人型異生獣こそ仕留め損ねたが、そのまま円弧を描いて飛んで行った半月状の刃はその先を飛ぶアリゲラたちを次々と両断し、水平線の彼方のワームホールの中まで、その威力を落とすことなく飛んで行った。

 

 ……レムが追加で送ってくれた情報によれば、ゴルゴレムの位相潜行能力は、位相を固定するメガフラシのフィールド発生能力とは併用できないそうだ。

 そして、位相を固定する――戦闘用不連続時空間の創造に巻き込まれれば、イズマエルはその空間に強制的に引きずり出されるという。

 

「(しめた――っ!)」

 

 その事実を知ったスカルゴモラが再びメタフィールドを展開しようとした、その時。

 突然――風の流れが、変わった。

 

 

 

 

 

 

「――ただいま」

 

 その挨拶を向ける相手には、もう随分と無縁となっていた――はずだった。

 しかし、昨日から奇妙な同居人ができたピット星人トリィ=ティプは、またも日が昇った後となった帰宅の合図を、自宅の扉を開けるとともに口にしていた。

 

〈どんどん照らすぜ! 爆裂戦記! ドン!! シャイン!!!〉

「あ、トリィ――おかえりなさい」

 

 点けたままにしてあげていたテレビに映る、配信されていた特撮ヒーロー番組から目を逸らしたサラが、動画を停止すると小走りに近寄ってきた。

 

「ねぇ……きょうはもう、おしごとおわり?」

「――ごめんなさい。またすぐ、戻らないといけないの」

 

 同じく眠らずに一夜を明かしたらしいサラが、下から覗き込むようにして問うのに、トリィはゆっくりと首を振った。

 スペースビーストの地球襲来が確実となったAIBは、蜂の巣を突いた騒ぎだった。

 広大な宇宙の各地から、応援要員が地球へと続々と転送されて来るのを案内するのに、本来の担当ではないトリィも駆り出されることになった。

 そして、その体制整備が段落した後に、改めてスペースビースト対策の研究を、本部より直々に命じられることになった。

 

 なまじ、カレラン分子分解酵素や、グレアム配列阻害酵素を作成できた実績があるせいか。存在だけは予想されている情報因子、対ビースト抗体の製造を任されることになってしまったのだ。

 ビースト振動波の正体、χ(カイ)ニュートリノと対消滅するとされているその因子は、かつてダークザギが誕生した宇宙において一度だけ、偶発的に発生したとされている。だが当時対策に当たっていた地球人と、あの光の国さえ遥かに凌駕する科学力を持つとされる異星の知性体・来訪者でもその発生プロセスを解き明かすことができず、幻のまま多元宇宙の歴史に刻まれている。

 ……確かに、スペースビーストの本質はχニュートリノで構成された、光量子情報体だ。過去にトリィが開発した分解酵素を思えば、トリィがこの宇宙における研究の第一人者と名乗っても差し支えないかもしれないが、いくらなんでも荷が勝ち過ぎるというのが、正直な感想だ。

 しかし、その開発が叶わなければ、例えウルトラマンたちがザ・ワンを討てたとしても。この宇宙は最早、かつての姿を取り戻すことはできないだろう――スペースビーストとは、それほどの危険性を秘めている生物的汚染源なのだ。

 

 たちまちは現在のラボで、その後は状況を見ながら、地球を離れることも視野に入れて、トリィは研究を全うしなければならない。

 そのために、休んでいる時間はなく――最低限の準備を終えたら、もうこの住まいに戻れることもないかもしれない、と考えたトリィは、寂しそうな表情を浮かべていた眼前の少女へと、問いかけを放った。

 

「――あなたも、一緒に来る?」

「……いいの?」

 

 驚きで目を見開いたサラが、恐る恐ると言った様子で尋ね返して来た。

 

「ええ。決心がついたら、お兄ちゃんたちへ謝りに行くのに、一緒に行ってあげる――それまでは私のところに居て良いって、約束したものね」

 

 拾っておいて、その後の世話を放棄するような真似は最悪だ――かつて育てた命を見捨てるしかなかったトリィは、そう強く思う。

 加えて言えば、彼女の正体もAIBがその行方を追っている究極融合超獣だ。緊急時、そちらに割く余計な人員を抑えるべきだし、何より目を離した結果、何かの間違いで彼女自身が地球を脅かすのだけは避けねばならない。

 それならばいっそ、一緒に連れて行って、匿ってしまう方が良いだろう。決して聞き分けの悪い子ではなく、特に今は大人しいから、自分が手懐け、AIBの監視下に置いたと言い張れば、サラとしての姿を知るペイシャンを説得することもできるはず――むしろ、兄姉の耳に入れないためには、モアの方が難敵かも知れないと、トリィは思考を走らせる。

 

「……ありが、とう。トリィ」

 

 そんなトリィの前で、安心したサラが、体を震わせて泣き出した。

 ――よほど、辛い思いをしてきたのだろうと。そして昨夜、いきなりトリィが居なくなってしまったことでもまた、寂しい気持ちを抱かせてしまったのだろうと、申し訳ない心地となったトリィは、彼女の心が泣くのに任せていた。

 だが。遂にスペースビーストがこの星へ侵入し、ウルトラマンジードらと交戦状態に入ったという緊急連絡を目にして、いつまでもそうしては居られないことを、トリィは知った。

 

「……準備をしたら、出発するわ。良いわね?」

「うん――!」

 

 泣きながら頷いてくれたサラに、頷きを返したトリィは、すぐに出発の準備をした。

 そうして、家を出て手を繋ぐと――くすぐったそうに、笑ってくれた。

 

「……トリィのおしごとって、なぁに?」

 

 それから少し歩いた後。これからの向かう先が気になるのか、サラがそんな疑問の言葉を漏らしていた。

 周囲に人目がないことを確認してから、トリィは偽の勤務先(ニコニコ生命保険)ではなく、正式な組織の名前を口にした。

 

「私は、AIBって組織の、研究員をしているわ」

「けんきゅう……はかせ、ってこと?」

「――まぁ、そうとも言えるわね」

「はかせ……!」

 

 その単語に、サラは何やら、甚く感銘を受けた様子だった。

 

「やっぱりトリィって、あたまいいんだね!」

「いえいえ、それほどでも」

 

 素直な憧憬を向けられて、トリィは思わず微笑みを零した。

 対して、興奮した様子でサラは続ける。

 

「ねぇ、トリィ! わたしも、はかせになれるかな?」

 

 究極融合超獣が吐き出した思わぬ言葉に、トリィは少し驚いた後――そのあどけない質問に、頷いてみせた。

 

「そうね――これからちゃんとお勉強すれば、なれるかもしれないわね」

「おべんきょうすれば――はかせになれる……」

 

 彼女の出自を思えば、あまりにも無責任な発言かもしれない。

 だが、出会ってから一番の笑顔を見せるサラを前にして、トリィは幼子の夢を壊す気にはなれなかった。

 

「はかせになれるぐらい、かしこいいい子になったら――お兄さまと、お姉さまに、きっと……」

 

 そんな、サラの呟きを耳にしていたピット星人トリィ=ティプは――自身こそがその研究の第一人者に等しい身でありながらも、失念していた。

 今のサラが、夢と希望を見出して、孤独を紛らわせることができたのなら――どんな事象が起こるのかを。

 

 そして、幼い命に再び灯ったその輝きに――宇宙人であるトリィが視認するよりも遥かに早く、そして遠くからでも、惹き寄せられる存在があることに。

 手を繋いで歩く二人はまだ、気がついていなかった。

 

 

 

 

 

 

 ――風を変えたものの正体は、アリゲラたちの羽撃きだった。

 スカルゴモラを狙っていたはずのスペースビーストたちは、突如としてその輝きから興味を失ったようにして、北西の――日本の方角を向いて、飛んで行き始めたのだ。

 

「(なっ、どうして――!?)」

〈――リトルスターだ!〉

 

 メタフィールドの射程から逃れる敵へとスカルゴモラの零す疑問に、ペイシャンが鋭い声で応えた。

 

〈星山市で、リトルスターの反応を確認――これは、サンダーキラー(ザウルス)のものだ!〉

「な……なんだって!?」

 

 上空から、ウルトラマンジードもまた驚愕の声を漏らした。

 観測不可能な状態にあったサラのリトルスターが、何の因果かこのタイミングで再発したらしい。

 しかし、何故。遙か遠方のそれが、眼下で待ち受けるスカルゴモラのリトルスター以上に、スペースビーストの気を惹いているというのか。

 

〈……スペースビーストは、知的生命体の恐怖の感情を捕食する。同じリトルスターでも、より強い恐怖を抱えた宿主の光の方が、こいつらを誘引するということか〉

「(そん、な……)」

 

 緊迫した声でペイシャンが告げるのに、スカルゴモラは打ちのめされた心地になった。

 今この時、(サラ)がどうしてリトルスターを再び輝かすことができるようになったのか、それはわからない。

 だが、その心に希望や温もりを取り戻したことを意味する本来は喜ばしい出来事が、スペースビーストの悍ましき食欲を啄くという皮肉なタイミングで起きたこと。

 そして、傷つけてしまった分、せめて守ってあげたいと。そう烏滸がましく願った自身があの夜、サラの心へ刻んだ恐怖が結局、妹に危険を招いてしまったという覆しようのない事実とに、スカルゴモラは他の何もかもを忘れるほど、静かな衝撃を受けていた。

 

 ――そうして、戦場の真っ只中で、放心してしまっていたために。

 

 アリゲラの群れに先回りしたUFZへ挑まんとするブリッツブロッツが、置き土産として新たに開いたワームホールから出現した――その巨大な影へと、反応するのが遅れてしまっていた。

 

「――ルカっ!」

 

 ジードの警告が飛んできた時には、それは既にスカルゴモラの上へ降りてきていた。

 ――気がついた時には、スカルゴモラは巨大な質量に押し潰されていた。

 

「(――きゃぁあああああああああああっ!?)」

 

 島を沈めるほどの勢いで、事実地盤沈下を引き起こしながらスカルゴモラを踏み潰した何者かは、続けて蔓のような触手をスカルゴモラに絡みつけると、蔦が寄り集まった檻のような腹部へと、スカルゴモラを引きずり込んで拘束した。

 

〈出現したのは、超巨大植物獣――いえ、ブルームタイプビースト、クイーンモネラです〉

 

 レムが告げる間に、全高二百五十メートルを越す巨大な植物怪獣は、スカルゴモラを捉えた腹部の檻の中に高圧電流を注ぎ込んだ。

 

「(くっ、あ――っ!?)」

「ルカ――っ!」

 

 さらに、蔓のような触手での打撃にも晒される妹の窮地に、星山市を目指そうとしていたウルトラマンジードが、中ノ鳥島へと急転直下で帰って来る。

 クイーンモネラと呼ばれた巨大なスペースビーストは、スカルゴモラから見えない頭頂部から、一つの光を放つと――それが無数に分裂した散弾となって、ジードの行く手を遮ろうとする。

 ギガファイナライザーを抱えたまま、片手で展開したバリアで光の散弾を防ぎ、ジードが突貫する。だが、片手故に全身をカバーできていないバリアの隙を狙って、スカルゴモラへの攻撃に使われていなかった八本の触手がジードへと伸びて行く。

 ――最早細胞が残留するかなど、気にしている場合ではないとばかりに。触手群をジードが切り払った瞬間、突如として生じた稲妻と猛火と光線とが、光の巨人を打ち据えた。

 

「――っ!?」

 

 それは、飛行中のウルトラマンジードと、囚われたスカルゴモラを直線上に結んだ座標――ジードが反撃できない位置取りで別位相から帰還した、イズマエルグローラーによる一斉射撃だった。

 認識の外から、クイーンモネラの攻撃を防いだ瞬間を狙われたジードが宙に浮かぶのを維持できずに、落下を開始する。体勢を崩したそこへ、クイーンモネラを吐き出したワームホールから新たに出現したアリゲラの群れが超音速で襲いかかり、体当たりでジードをスカルゴモラから分断する。

 

「(――お兄ちゃんっ!)」

 

 クイーンモネラの追撃を受けながら、スカルゴモラは我が身ではなく兄の窮地に声を上げた。

 事態に気づいたUFZも、日本へ向かおうとするブリッツブロッツ率いるアリゲラの群れを抑えるため開いた距離を詰め直すには、敵の数が多過ぎた。

 比較的近場に居たゼガンもまた、新たに出現したアリゲラ数体に集られて、救援に駆けつけることができない状況だ。

 

 ……あるいは、そこまで含めて敵の策略だったのかもしれない。

 

 サラのリトルスターに惹かれ、日本を狙い始めたことは嘘ではないが――それ自体を陽動とし、こちらの戦力を分断したところで、強力な伏兵を繰り出すことで一気に有利を取る。

 連続する衝撃でメタフィールド展開に必要な意志の統一を阻害され、一気に苦境に追い詰められながら、スカルゴモラはしかし迷っていた。

 

 ……クイーンモネラから浴びせられる電流は、サンダーキラーSのそれほどではない。

 初撃で踏み潰され、そのダメージが尾を引いている間に拘束されたがために反撃に出れていないが、この状況を覆す力を、自分は持っている。

 究極融合超獣さえ圧倒した、レイオニクスの力を全開にすれば――たちまちに傷は癒え、自力でクイーンモネラを拘束ごと引き裂き、そのままの勢いでイズマエルを粉砕し、アリゲラの群れを殲滅することも、決して不可能ではないだろう。

 

 だが――だが、スペースビーストを、眼前のスカルゴモラよりも強く引き寄せてしまうほどの恐怖を、妹の心に刻んだあの忌むべき力を。

 怒りに呑まれたまま、兄のことすらわからなくなったあの、兄弟殺しの血の力を――傷ついた兄のいるこの戦場で解き放つ決心が、スカルゴモラには付きかねていた。

 

 あるいはそれこそが、今のスカルゴモラの抱える一番の恐怖であったから。

 

 そのためか。ジードへの追撃よりも、彼への人質となっているはずのスカルゴモラを優先して狙うように、イズマエルグローラーが踵を返した。

 全身に備えたスペースビーストたちの顔、その各々へとエネルギーを充填させる。これまで以上の出力で、一気にスカルゴモラの命を奪おうとするように。

 

「――ルカっ!」

 

 妹の危機に、ギガファイナライザーの特性で力を増し、アリゲラの軍勢を得物の一振りで粉砕したウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルが駆けつけようとするも、さらに後続のアリゲラに妨害されては間に合うはずもなく。

 ――やられる、と、培養合成獣スカルゴモラが覚悟した、絶体絶命のその時。

 

「任せてください、ジード先輩!」

 

 ――聞き覚えのある声が、空から響いた。

 

「オーラム――ストリウゥム!!」

 

 かつて、スカルゴモラが浴びたことのある黄金の光が、微細な剣の雨のようにして、イズマエルグローラーに突き刺さった。

 悲鳴を上げるイズマエルグローラーの右肩が焼き払われ、臨界が迫っていたエネルギーを逆流させて苦しみながら退いたそこへ――スカルゴモラを護るように、黄金の鎧を纏った背中が、降って来た。

 ……その姿を、スカルゴモラはよく知っていた。

 かつて何よりも恐れ、今なお、心の底では忌避していたその存在を、忘れられたことはなかった。

 

 だから――眼の前の光景が、信じられなかった。

 

「(――なん、で)」

「俺は光の勇者――ウルトラマンタイガ!」

 

 スカルゴモラが呆然と放つ疑問の声へ、答えるように。

 鬼のような二本角を生やした、光の国から駆けつけた応援は――誇らしげに高らかと、自らの名を叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 突如として現れた新たなる光の巨人に、クイーンモネラが咆哮した。

 そのまま、イズマエルグローラーと対峙して背中を向けたままのウルトラマンタイガ・フォトンアースへと、ジードに切断されていなかった四本の触手を繰り出すが。

 

「光波剣・大蛇!」

 

 光の大蛇の如く走った斬撃が、その蔓のような触手を切り落とした。

 

「――っと、急がねぇとな!」

 

 目にも留まらぬ神速で舞い降りた青い影は、そのまま「せりゃ! とりゃ!」と喧しく気合の声を上げながら、凄まじい勢いで繰り出した蹴り技の数々で、スカルゴモラを捕らえていたクイーンモネラの腹の檻を粉砕する。

 

「離れな、嬢ちゃん。巻き込まれるぜ」

 

 そうして風が、花を救い出したところへと。

 

「――賢者の拳は、全てを砕く!」

 

 星を纏った黒い巨人が、二人に遅れて降って来た。

 額と胸に星を付けた、筋骨隆々としたウルトラマンは、迎撃に放たれた光の散弾をシャワーの飛沫のようにその体躯で弾くと、そのまま自身の何倍も巨大なクイーンモネラの顔面へと飛びかかり――気合一閃、その拳を叩きつけた。

 そして、何かの冗談のようにして。拳の着弾を受けたクイーンモネラの巨体が、勢いよく傾いて行く。

 大地を弾ませる勢いでクイーンモネラが横転し、スカルゴモラは敵の魔の手から完全に解放されていた。

 

「君たちは――トライスクワッド!」

「助太刀に来ました、ジード先輩!」

 

 再びアリゲラの群れを薙ぎ払ったジードが呼びかけるのに、タイガが勢い良く応えた。

 一瞬、応答のためにタイガが隙を見せたと判断したのか。暴発した飛び道具が一時的に使用不可能となったイズマエルグローラーが、左腕の突起で彼を貫こうとして踏み出すが、タイガは金色の鎧の利点を活かすように、その頑健さで以って受け止める。

 

「俺……あの後、父さんたちから聞きました。そこにいる――あの日、俺が心を傷つけたその怪獣が、あなたの妹だったって」

 

 イズマエルグローラーと取っ組み合った状態のまま、一瞬だけスカルゴモラを振り返ったタイガは、ジードへと語りかけた。

 

「家族を傷つけた俺を、それでもあなたは、責めもせず励ましてくれた!」

 

 叫びとともにタイガがイズマエルの左腕を払うのと、その肩から管状の口吻が伸びてタイガの首を狙うのは同じタイミングだったが――先程スカルゴモラを救い出した青いウルトラマンが、まさに疾風迅雷の速さで割り込んで、口吻を蹴り飛ばしてタイガを救う。

 

「父親と戦わなければならない痛みを知る者として、俺たちを支える仲間として、共に戦ってくれた!」

 

 その助けを受けたタイガが拳を構えると同時に、今度はクイーンモネラを殴り倒した赤と黒の体色をしたウルトラマンが、額から星型の光線を放ってイズマエルを牽制し、彼を援護する。

 

「おかげで俺は、父さんの笑顔を取り戻すことができた――!」

 

 そして、タイガの繰り出した拳が、イズマエルを強く打ち据え、強大なスペースビーストを後退させた。

 

 ――自身には、父親との悲しい思い出があるとしても。

 あるいは、だからこそ。他の誰かの家族のためにも、誰よりも真剣になれるという、湊アサヒが評した朝倉リクの在り方は。

 父ベリアルが歪んだ始まりたる血族の(すえ)にして、培養合成獣スカルゴモラの心に深い傷を与えた張本人であるウルトラマンタイガにも、別け隔てなく手を伸ばしていたらしい。

 言われてみれば、当たり前の。なのに、どこか現実感を伴わない出来事を、スカルゴモラの前でタイガが叫んだ。

 そして――あの日、ペガたちの助けと、ルカの決意がリクを送り出した先の戦いで、その優しさに助けられたという彼は、イズマエルを牽制しながら続けて言う。

 

「だから、今度は俺があなたたちを支える番だって! そう志願して来たんです!」

「都合の良いことに、戻ったばかりの我らはまだスペースビーストに手の内を知られていない。光の国としても、派遣するのに望ましい戦力だったのだ」

 

 筋骨隆々としたウルトラマンが、タイガの熱意をそう補足した。

 そんな彼ら三人が揃って腕につけているのは、光の国が有するエネルギー補充アイテム、ウルトラコンバーターの最新型らしいことを、レムが教えてくれた。

 ギガファイナライザーに選ばれたジード・ウルティメイトファイナルと、イージスの加護を得ているゼロ以外のウルトラマンの多くは、地球環境下での活動に多大な制限を受ける。だが、ウルトラコンバーター等の助けがあれば、その問題も大幅に緩和されるらしい。

 

「そーゆーことで、お早い再会ってわけだ! ――風の覇者フーマ、銀河の風とともに参上!」

 

 名乗りを上げると同時、その手の甲から光の剣を出現させたウルトラマンフーマは、文字通り風のように駆け抜けて、ジードに迫っていたアリゲラの群れを切り払っていく。

 

「力の賢者、タイタス!」

 

 残された最後の一人、筋骨隆々としたタイタスもまた、名乗りとともにワームホールめがけて光球を発射し、湧き出そうとしていたスペースビーストの後続を焼き払う。

 そして、体勢を立て直しつつあるイズマエルと油断なく対峙しながら、タイガが声を張り上げた。

 

「ジード先輩、行くべき場所があるなら、行ってください! ここは俺たちが喰い止める!」

「タイガ……でも――」

「(――行って、お兄ちゃん!)」

 

 躊躇った様子で視線を向けてくれた兄へ、スカルゴモラは力強く言い放った。

 

「(私は少しでも敵をここに引き寄せなきゃいけないし、互いを知らないタイガたちには任せられない――だったらやっぱりお兄ちゃんしか、サラを助けに行けないから!)」

「ルカ……」

 

 スカルゴモラの願いに、ジードは数秒、驚いたように立ち尽くしていたが――やがて、力強く頷いてくれた。

 

「――わかった。ここは頼んだよ、ルカ。それにタイガ、タイタス、フーマ!」

 

 その言葉を残して、ウルトラマンジードは身を翻すと、再び超音速で空へと飛び立った――二分化されたスペースビーストの軍勢が雲霞の如く流れ込む、日本・星山市の方角へ向かって。

 その姿を見届けていると、イズマエルグローラーの攻撃を鎧で受け流したタイガが、スカルゴモラの眼前に移動しながら身構えて、そして微かに振り返った。

 

「……俺たちと一緒に戦ってくれるのか?」

 

 意外そうにタイガが問うのを受け、スカルゴモラは一瞬だけ、自分を確かめるために間を置いた。

 

「(――もちろん。今だって、助けて貰ったもんね)」

 

 そして、答えは迷わず言葉になった。

 ずっと恐れていた相手。兄がウルトラマンの在り方を示してくれて、タイガもまた邪悪に利用された被害者だと知った後でも、彼への恐怖心はずっと胸につかえていた。

 だが――リクの優しさに救われたと叫び、この危機に駆けつけてくれたタイガを見て。その恐怖はやっと、スカルゴモラの中で氷解しつつあった。

 

「(あの時だって。私は、何もわかっていなくて……タイガがすぐに止めてくれなかったら、取り返しのつかないことをしていたかもしれない。こんな風に、お兄ちゃんと一緒に生きるなんて、許されないぐらいの)」

 

 生まれたばかりの、何の分別もない赤子。しかして、人類を滅亡に追いやって余りある怪物。

 その暴走を止めるために戦うのは、力あるウルトラマンとして、何ら間違った行いではない。

 

「(だから、そのことは恨んでないよ。……やめてって言ってもやめてくれなかったのは、今も思うところはあるけど)」

「うっ……すまない」

「(――でもそれは、私の方が、もっと酷いことをしちゃったんだ。妹に)」

 

 嫌味に対して、律儀に謝ってくれるタイガへと、スカルゴモラは告解した。

 

 既に戦意がないことが明白な相手へ、力に呑まれてなおも攻撃をやめない――タイガのそれも、スカルゴモラのそれも、等しく目的を見失った行為ではあった。だが、相手の声が聞こえる分、間違いなく己の方が酷い過ちを犯したと、スカルゴモラは認めていた。

 だから、もう妹は許してくれないかもしれないと。そんな苦悩を抱えていたが――その悩み自体が、間違いだった。

 

 ウルトラマンタイガはスカルゴモラに、許しなんて一度も求めないまま、何の言い訳もせず助けに来てくれたのだから。

 そして、そんな彼の振る舞いで、確かに救われた自分を知ったから。

 

「(その妹を、今、お兄ちゃんが助けに行ってくれてるから――こんな奴らに邪魔なんか、絶対させたくない。そのために力を貸してよ、ウルトラマンタイガ!)」

「――ああ! 先輩と君が、家族を取り戻すために戦うっていうなら、喜んで力を貸してやる!」

 

 培養合成獣スカルゴモラの呼びかけに、ウルトラマンタイガ・フォトンアースが勇ましく応えてくれた。

 かつてあれほど恐れたその姿が、何より頼もしく想えるこの瞬間。兄の優しさが呼び込んでくれた奇跡に、スカルゴモラは奮い立つ。

 

「(言ったね! 今から逃げ場はなくなるよ!)」

 

 負けじと気勢を上げた次の瞬間、スカルゴモラの全身の角から、青い光が空に弾けた。

 続けて降り注ぐ金色の膜が、巨大なクイーンモネラはおろか、島を覆っていたスペースビーストの軍勢ごと、三人のウルトラマンと、そしてスカルゴモラ自身を別位相の空間へと引きずり込む。

 

「こりゃ、噂に聞くメタフィールドって奴か――!?」

「ネクサス……時空を越え、絆を繋ぐ伝説のウルトラマンが作り出す、準存在空間。リトルスターでも、その再現を可能としたのか!」

 

 ウルトラマンを強化する戦闘用不連続時空間に招かれたフーマとタイタスが、感心したように声を漏らす。

 イズマエルを筆頭に、膨大な数が存在するスペースビーストの軍勢と閉鎖空間に囚われた格好となりながら、しかしウルトラマンたちに物怖じする様子は一切なかった。

 ――それどころか。

 

「感じる――アイテムなんかなくても、ヒロユキとの繋がりを! これが、メビウスの言っていた……」

 

 存在と非存在の可能性が変化し続ける亜空間の中で、目に見えぬ何かを感じ取ったらしいタイガは、相棒となる二人のウルトラマンを振り返っていた。

 

「これなら……行けるぞ、タイタス、フーマ!」

「応よ! ――生まれた星は違っていても!」

「共に進む場所は一つ!」

 

 そして、呼びかけに応えたフーマ、タイタスの後に。まるで誰かもう一人が唱えるのを待つよう間を空けたタイガが、高らかに叫ぶ。

 

「―――――――――我ら四人、トライスクワッド!!」

《トライスクワッドミラクル!》

「燃え上がれ、仲間とともに!」

 

 突如として手元に出現した剣をタイガが掲げると同時、タイタスとフーマが吸い込まれるようにして、彼と重なる。

 そして、三人が光に解けた次の瞬間――メタフィールドの赤い空を貫くほどの火柱が、三人のウルトラマンの集合地点から生じていた。

 その、凄まじい熱量に。スカルゴモラさえも微かに身構え、スペースビーストの軍勢もまた、思わず動きを止めていた。

 そうして、渦巻く炎の柱が消えた時――そこには一人のウルトラマンが存在していた。

 赤い身体に、青いプロテクターを金の鋲で繋ぎ止め、一回り大きくなった左右の角を焔のよう波打たせた、その巨人は――スカルゴモラの知らない姿をした、ウルトラマンタイガだった。

 

「この力があの日――俺を闇の中から呼び戻してくれた、仲間たちとの絆。ウルトラマンタイガ、トライストリウム!」

 

 名乗りとともに、赤きタイガが剣を構えてみせた。

 ――本来、その成立に必要な四人目の仲間を欠いた、不完全な状態ながら、なおも。ギガファイナライザーの特性を度外視した基準値なら、ウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルすら上回る戦力の合体戦士(スーパーウルトラマン)の光臨に、スペースビーストたちが慄きを見せる。

 

「(闇から呼び戻した――絆……)」

 

 対してスカルゴモラは、そのウルトラマンの姿に最早怯えることもなく、彼の呟いた言葉に希望を見出していた。

 生贄であったスカルゴモラを打ち倒し、闇の力に堕ちたタイガを、支え合う仲間たちの絆が呼び戻した。そして単なる暴力の権化ではなく、絆の勇者として、彼を再生してみせたというのなら。

 

 ウルトラマンでさえ、そうだというのなら――たくさんの優しさに出会えた己もまた、一人きりで力に負けるなんて怯える必要は、どこにもなかったのかもしれない。

 

 過去の事実は変えられなくとも。どんな間違いを犯したのだとしても。今の自分が、眼前のタイガを恐怖の化身ではなく、頼もしいウルトラマンだと思えたように――諦めない限りやり直せる可能性はあるのだと、そう信じられたから。

 改心して貰えないまま最期を迎えたフワワの時とは違って、己と妹はまだ、生きているのだから。

 

「(タイガ)」

 

 ――だから、スカルゴモラは。タイガには敵わぬと、閉鎖空間(メタフィールド)から逃れるべく己を狙ってくるスペースビーストに対して、自らの力を封じるのをやめた。

 

「(もし、今から私が自分を見失った時は――また、あなたたちが止めてね)」

 

 兄から絆のバトンを受け取った彼らには、それだけの強さがあるだろうと信じて。

 そして、その兄の優しさを、誰よりも多く受け取っているはずの己にも――過去に竦まず、今を越えていくことが、できるはずだと。

 本能もまた己の一部と受け入れて。その力の奔流の中でも見失うことのない、今よりも大きな自分を手に入れたスカルゴモラは闘志を燃やすと、トライストリウムにも劣らぬ高熱の炎を纏い、その姿を赤く染め上げた。

 そうして、レイオニクスの力を全開にしたスカルゴモラは、レイオニックバーストに伴う高熱の放射だけで、迫り来ていたアリゲラの群れを焼き尽くした。

 

「(……でも、今度はやり過ぎないでくれたら、嬉しいかな)」

「いや――そんな必要はなさそうだな」

 

 軽口を叩くスカルゴモラ・レイオニックバーストの様子を見届けたタイガトライストリウムは、改めて肩を並べて、その切っ先を眼前に広がるスペースビーストの大軍勢へと向け直した。

 

「行こう。今の俺たちなら、理由を間違えずに戦える!」

「(この世界を守るために――それに、私の家族を助けるために!)」

「ああ! 今の俺たちは、同じ目的のために戦う仲間だ!」

 

 ――その血の因縁とすら無関係に、かつて争い合った二つの命。

 だが今は、同じ未来の実現を目指して。

 一切の他者を否定する、共存不可能な侵略者、異生獣(スペースビースト)の猛威から。共に生きる他者を守り抜くために、その勇気を燃やしていた。

 

「行くぜ相棒――バディ、ゴー!!」

 

 絆の勇者の叫びを合図に。培養合成獣スカルゴモラは、敵軍への突撃を開始した。

 

 

 

 

 




Cパートあとがき



 ここまでお読み頂きありがとうございました。


『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』の先の時系列になったことでゼロを再登場させられるようになったのと同じく、遂に培養合成獣スカルゴモラの出典元主人公である、タイガたちトライスクワッドも客演可能となりました。
 エタルダミーで損な役目をして貰ってから随分お待たせしてしまいましたので、ここまでお付き合い頂けたファンの方に少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。

 トライストリウムについては、本来この時間軸ではヒロユキも不在であり変身不可能なのが公式設定ではありますが、本作内では「メタフィールドの助けを受け、分離していてもヒロユキと心を繋げる感覚を見つけ、メビウスの言葉を理解してトライストリウムに変身する」→「その感覚を自分たちだけで掴めるよう、不可能を可能にするべく修行した結果、『ウルトラギャラクシーファイト 大いなる陰謀』の最終決戦時には何の助けもなくとも、公式設定通り四人の心だけでトライストリウムに変身可能となり、さらにはトライストリウムレインボーの領域にまで到達する」という流れを想定しています。ちょっとトライスクワッドの株を落としかねない二次創作設定ですが、どうしてもここでトライストリウムを出したかったのと、何より特殊な事情を持つ女の子の宿した力で事態が好転する、という『タイガ』本編で度々見られた展開に同作出典ヒロインの培養合成獣スカルゴモラも並べられる形にしたかったので、お目溢し頂けると助かります。

・フォトンアースの異名は本来「大地天空の勇者」ですが、闇の力の操り人形から光の戦士に回帰していることを強調したかったので敢えて通常タイガの「光の勇者」を名乗って貰っています。また、「行くぜ相棒――バディ・ゴー!」は締まりの問題で叫んで貰っていますが、遠くのヒロユキにも言っているという想定ですので、合わせてお許しくださると幸いです。

・「ウルティメイトフォースゼロとトライスクワッドの初の共同戦線は『ウルトラマンZ』本編後の『ウルトラヒーローズEXPO THE LIVE ウルトラマンゼット』第二部では?」という点については、基本的に公式時系列でそれに相当する出来事があるEXPOのショーは本編前の時系列に当たる第一部のみとされており、本作でもその説を採用しているため、矛盾にはならない……とぼんやり考えておりますので、どうかお見逃しください。

・メガフラシの特殊フィールドはビースト振動波を含んでいれば素通りし、非実体エネルギーを使える――という設定はやはり公式にはありませんが、本編でメガフラシが敵の光線を無力化しつつ、自分は非実体の稲妻型光線を連打していた描写からの拡大解釈となります。ご了承ください。


超巨大植物型異生獣(ブルームタイプビースト)クイーンモネラ
 あまり本編中で触れられなかったものの、カプセルナビにするほどの出番ではないかなという感触なのでこちらで。
 劇場映画『ウルトラマンティガ&ウルトラマンダイナ 光の星の戦士たち』に登場する怪獣で、前座の電脳魔神デスフェイサーに人気で負けていることに定評がある同作のラスボス、超巨大植物獣クイーンモネラ。モネラ星人と、彼ら(彼女ら?)が宇宙船として利用している宇宙植物生命体モネラシードが融合した合体怪獣の類であり、邪神ザ・ワンが生まれた宇宙に存在していた彼らの同種をスペースビーストが捕食し、その情報を掛け合わせた結果、収斂進化のようにそっくりなスペースビーストとして出現したという二次創作設定になります。




ウルトラカプセルナビ

名前:培養合成獣スカルゴモラ(レイオニックバースト)
身長:57メートル
体重:5万9千トン
得意技:スカル超振動波、インフェルノ・バースト

 培養合成獣スカルゴモラが、自身のレイオニクス能力によりパワーアップした赤い姿。ただし首から後ろの角が緑色に変わったことで、背部は金色の光に包まれている。
 レイオニクスの闘争本能の昂りにより、その怪獣として本来持ち合わせる以上の力を発揮できるようになった状態。既存のあらゆる能力値が格段に向上したのに加え、高い自己再生能力を獲得し、さらに直に浴びせれば普通の地面なら数秒で炎上しプラズマ化するほどの超高熱を身に纏った、半暴走形態。
 高温の助けもあって、太陽コロナの高温と同様の理屈で音波エネルギーを増幅されたスカル超振動波による攻撃はさらに強烈になり、さらにインフェルノ・マグマはウルトラマンネクサスのリトルスターの影響を受け、分子分解・消滅効果を得た青白い必殺熱線、インフェルノ・バーストに強化された。

 暴走の危険が高まることと、消耗が激しいことが弱点。だがこの姿へ覚醒したことで、新たにエメラル鉱石と同様のエネルギーを身に宿す遺伝子が機能し始めたためエネルギー問題は軽減され、さらにメタフィールドの負荷と同様、細胞がそのストレスに適応し強靭に進化し続けることで身体的な負荷も緩和されて行く。そのため実質は精神面の不安定さだけが残された、そして最大の問題だと言えた。
『最強の合成怪獣を生み出す』というチブル星人マブゼの設計思想における、第一の到達点。しかし、リトルスターの効果を考慮しても、その遺伝子を解析したレムの当初の予想とは乖離する自己進化速度でもあり……?



 ……以下チラ裏としては、ルカの普段着のシャツが赤なのはライハと近い雰囲気である他に、この形態のイメージを盛り込んでいたりしました。バーニングスカルゴモラ。
 ゲームを除いた公式作品ではレイオニックバーストしたのはゴモラとレッドキングのみなので、スカルゴモラが至るのは実は自然(?)な形態なのかもしれません。
 超高熱を纏うのは、前話で触れた通りレッドキングのレイオニックバースト由来(その熱量は何とメビュームバーストも効かない不死身のグローザム本人が触れているだけで再生できなくなるレベル)だったりします。
 背部の角が緑になるのは、合成されたベリアルの遺伝子がアークベリアル死亡時に散逸した物だった、という本作独自設定によるものです。エメラル鉱石と融合した遺伝子≒エスメラルダ王家と同様の体質になり得る遺伝子が、プリズ魔の結晶化光線を受けた際の変質とレイオニックバーストにより開花し始めたという想定になります。
 ちなみに太陽コロナの話はあくまで仮説の一つに過ぎないので、実際には違うかもしれません。


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