今回は客演組の本格戦闘があるということで、五話ぶりにDパートまで発生してしまいました……内容自体は前回と違って話に大きな区切りが付くというわけではないのですが、お許し頂けるよう頑張ったつもりです。どうかお付き合い頂けると幸いに存じます。
〈緊急情報です。現在、宇宙から大量の怪獣が地球に襲来し、日本の関東地方を目指しているとの発表が、政府からありました〉
星山市に走る国道を歩いていると、街頭モニターから物々しいニュースが流れ始めた。
その情報を先んじて知っていた、ニコニコ生命保険研究部の鳥居富子――という偽りの地球人に擬態したピット星人トリィ=ティプは、遂に恐れていた事態が起きてしまったのだと理解した。
「……トリィ?」
立ち止まってしまったせいか。手を繋いでいた小さな同行者が、心配そうに呼びかけてきた。
朝倉サラ――その名を使いたい、と願う小さな女の子。修道服に身を包んだ愛らしい少女の正体は、かつて滅亡の邪神と呼ばれた一匹のエレキングの細胞に、ウルトラマンベリアルの遺伝子を混ぜて産み出された究極融合超獣サンダーキラー
その正体ゆえ、怪獣の出現に怯えているのか――そもそもニュースの意味を理解しているのかも怪しい彼女が、不安に思うものについて思い至ったトリィは、ゆっくりと頭を振った。
「何でもないわ。行きましょう」
スペースビーストの襲来という脅威に、AIBの一員であるトリィは立ち向かわなければならない。
だが、そのためにサラを置き去りにしたりはしないと意志を表明するのと、トリィの携帯電話が鳴るのは同時だった。
「――もしもし?」
〈早くその場を離れろ〉
応答した相手は、職場の上司であるゼットン星人ペイシャン。後方から解析を担当するアドバイザーとしてだが、まさに今、ウルトラマンジードやUFZらと共にスペースビースト迎撃に当たっているはずの人物からの直電に、トリィは当惑した。
〈おまえの位置座標と同じ区域で、サンダーキラー
切迫した様子でペイシャンが告げたのを聞いて、トリィは思わず手を繋いだままの相手を見た。
言われて、目を凝らし、そしてようやく気がついた――微弱ながら、サラの胸に光が灯っていることへ。
かつてトリィ自身が宿したのと同種の……地球人よりも宇宙人が、そして怪獣がさらに鋭敏に反応し、誘引される、魔性の小さな星。観測不可能なほど縮小していたはずのリトルスターが、再び輝き出しているということに。
「――あっ。おほしさま、またひかってる」
サラ自身も、その変化に気づいたようだった。
何故このタイミングで――仮にも、リトルスター研究の第一人者と呼ばれる身として、その事象を招いた理由に思い至ったトリィは、愕然とした面持ちでその光を見た。
〈聞こえているのか? 急げよ、迎撃できる戦力はほぼ出払っているんだ。おまえは対ビースト抗体開発チームの要として……〉
「――ええ。教えてくれてありがとう、ペイシャン」
それだけを告げて、相手の返事も待たずに、トリィは通話を終了した。
ニュースでは、まさにたった今から公共交通機関は全線通常の運用を取りやめる緊急事態宣言が発出されていた。怪獣の襲来予報として、星山市を中心としたルートが発表され、その区域内では地下鉄等の比較的安全な場所に避難の上、自衛隊の救出が来るまで決して外出せずに身を潜めるよう特別避難命令が下されたのだ。
徒歩で、サラを連れて勤務先まで向かうにはまだ距離がある。敵の侵攻速度はわからないが、先にAIBの研究施設に辿り着ければ、サラに宿ったリトルスターの光を隠すことも消すこともできる。だが、それまでの時間誘引してしまえば、どの道スペースビーストは星山市や周辺の人里に到達する。リトルスターを見失っても、そこに居る人々の恐怖に狙いを変更して、暴虐の限りを尽くすだろう。
「あれ? トリィ、おうち帰るの?」
故に、その選択を却下したトリィは、今まで向かっていたのとは全く違う方角へと、サラの手を取って歩み始めた。
……この子を捨て行くつもりはない。リトルスターの輝きを再び灯したのは、きっとつい先程のトリィ自身の言葉が原因なのだから。
大人げない感傷だとはわかっていても、トリィはそれを譲れば、今この星に身を置く自分自身を否定することになると、そう理解していた。
徐々に歩みの速度を上げても、正体が超獣であるサラは小さい歩幅でよく付いて来てくれている。行き先を告げない不義理を何と説明したものか思案しながらも、トリィは少しでも遠く、そして辺りに人の居ない場所へと、サラを連れて向かうこととしていた。
〈えー現在、アメリカの軍事衛星から提供された情報によれば、ウルトラマンジードら数体の巨大生物が東太平洋沖で怪獣の群れと接触。侵攻を食い止めるように交戦中との報告がありました〉
「お兄さまたちが……たたかってる……?」
報道音声から、馴染みのあるワードを拾ったらしいサラが声を漏らした。
この宇宙を救ったヒーローである彼が、駆けつけてくれるまで――この星を守り、彼の妹を逃し続けることができるだろうかという懸念を抱えながらも。
ウルトラマンらの奮戦に賭けるしかないトリィは、ほんの一秒でも猶予を稼ぐため、サラの手を引く足を早めた。
◆
東太平洋沖、中ノ鳥島に程近い、高度二千メートルの空域にて。
地球に襲来したスペースビーストの群れと、防衛に駆けつけた
「くっそぉ、きりがないぜ!」
「弱音を吐くな!」
何体目かもわからぬ敵を屠った炎の巨人、グレンファイヤーが愚痴を零すのを、鋼の武人ジャンボットが叱咤する。
たった四人で防衛線を展開する彼らの前に、空を埋め尽くす雲霞の如く、赤い翼が襲来し続ける。
同化した宇宙有翼怪獣アリゲラの情報を元に複製された、アリゲラ型のスペースビーストの群れ。空だけでなく、海中でも高い機動性を見せる大量のスペースビーストの人口密集地への到達を阻もうとする戦士たちは、休むことなくその力を揮う。
水中は、AIBの怪獣兵器、時空破壊神ゼガンが進行を抑えている。だがたった一体だけの味方戦力に過度な負担は加えられないと、UFZのメンバーは可能な限り空でアリゲラたちを食い止めようとしていた。
「離れろ、巻き込むぞ」
この場に居るメンバーの中で、最も直接的な戦闘力に優れた人型の巨大ロボット、ジャンナインが突出する。
仲間から距離を取り、アリゲラの群れの中に単身飛び込んだジャンナインは胸部に備えた六門の砲口、ジャンフラッシャーを発光。同時、脚部のブースターで高速旋回することで、全周囲目掛けて追尾性の光弾を乱れ打ちにする荒業を繰り出す。
光弾の嵐は次々とアリゲラを直撃し、凄まじい勢いでその数を減らして行く。絶命はさせても、消滅には至らなかった残骸が海に落ちていくのを、他のメンバーが放つ光線がカバーして、再発生の元となる細胞を灼き尽くす。
だが、突如としてその光弾の嵐が、勢いを弱めた。
「――あいつは!」
一箇所に集まったアリゲラの群れを庇って浮遊するのは、格子柄の白と黒の体色をした烏天狗型の宇宙怪獣。破滅魔人ブリッツブロッツを模した上位のスペースビーストだった。
前線指揮官となるブリッツブロッツは胸部の水晶体でジャンフラッシャーのエネルギー弾を吸収し、その猛威から同胞を救っていたのだ。
充分な数のジャンフラッシャーを取り込んだブリッツブロッツは、今度はその水晶体から取り込んだ光弾をそっくりそのまま――否、自らのエネルギーを上乗せして、倍加した威力で放出する。
回転を止めたジャンナインが弾幕を集中するが、反射された攻撃を一つ食い止めるのに二発の弾数を要求されては持ち堪えるのが精一杯で、迎撃のために動きが止まる。
そこへ、凶兆を知らせる彗星の如く、ブリッツブロッツが飛来する。
「危ない、ジャンナイン!」
尋常な一騎討ちならばともかく、乱戦の最中、隙を狙われるにはジャンナインをして危険過ぎる敵を前に、兄弟機となるジャンボットが、背部から放ったミサイルで危機を救おうとする。だが今度はアリゲラたちが放ったパルス弾が、その救援を断ち切ってしまった。
「――ギガライトニングバーストぉ!」
絶体絶命のそこへ、一条の光が迸った。
駆けつけたのは、妹の勇気に送り出されたウルトラマンジード・ウルティメイトファイナル。彼が額から放つ電撃光線が、ブリッツブロッツの進行を阻んだ。
水晶体を露出したブリッツブロッツは、一瞬、その光線をも吸収しようという素振りを見せたが――射線上のアリゲラをいくら焼き尽くしても、全く威力を減衰させない光線の異様さに気づき、その試みを却下した。
あらゆる光線を吸収するブリッツブロッツといえど、その吸収能力を発揮できる時間に限界はある。
対して、ウルティメイトファイナルとなったウルトラマンジードは、感情を物理的なエネルギーに変える最終兵器・ギガファイナライザーの効果を受けている。そのため、ジードの心が折れない限り、無尽蔵の活動エネルギーを賄うことが可能だ。
結論として、ウルティメイトファイナルが繰り出す全ての光線技は、理論上は照射時間を無限とすることができる。ブリッツブロッツの光線吸収能力にとって、天敵とも言える存在であることを、ここまでの戦闘経験――そして、他の個体が残したビースト振動波による情報共有で学習したブリッツブロッツは回避に専念し、そもそもジードとの交戦を避ける判断を下した。
進行する先に自身の持つワームホール生成能力を駆使し、次元の穴を作ったブリッツブロッツはその中へと身を潜り込ませ、この戦闘宙域から離脱したのだ。
「助かった、ウルトラマンジード!」
「どういたしまして――でも、まずい。逃した!」
直接救われたジャンナインよりも、兄であるジャンボットの方が勢いよく感謝を述べるのに、ジードは充分に向き合いきれなかった。
何故なら、あのスペースビーストが目指す先に居るのは――ジードと同じ、ベリアルの遺伝子を受け継いだ、妹と呼ぶべき生命体であるという焦燥が、胸の内を占めていたから。
サラだけではない。星山市には朝倉スイも、久米ハルヲや原エリも、伊賀栗一家も、他にも多くの人々が暮らしているのだ。ビーストの好き勝手を許すわけにはいかないと、ジードは自身も後を追おうとする。だが飛び込む前に次元の穴は消滅し、後にはブリッツブロッツに置いていかれた足止め用の捨て駒であるアリゲラの群れだけが残されていた。
「――先に行け、ウルトラマンジード!」
今度はジャンナインが、ジードに立ち塞がろうとしたアリゲラを粉砕して呼びかけた。
「おい、ミラーナイト! おまえはジードについて行ってやれ。いざとなりゃ、飛ばしてやれる」
「グレン……わかりました。ここは任せますよ」
強力なブリッツブロッツの離脱を受け、戦線の再構築と追跡部隊を分担しようとしていた彼らはその時、気がついた。
頭上から――ワームホールを通さず、直接大気圏を抜けた、新たな敵影が降りて来ているということに。
それは、やはり高い機動性を持ったアリゲラたちと――五十メートル級の巨人種どころか、身長二メートル足らずの人間から見てもちっぽけな、しかしその分膨大な頭数を揃えた、球体状のスペースビーストの群れだった。
◆
「モア。ちょっと付き合って貰える?」
AIB地球分署極東支部の待合室にて。
中ノ鳥島まで移動した星雲荘と一旦別行動を取ることになった鳥羽ライハは、同じ部屋にいる世話係の愛崎モアへと呼びかけた。
「えっ? こんな時、どこに……」
「リトルスターの反応を追って、サラを探すの」
事態の推移についての報告を受けたライハが出した結論は、それだった。
「えっ!? でも……」
「あの子が恐怖を抱えているから、ルカよりもスペースビーストを呼び寄せてしまうのなら――もう、ルカは怒っていないって、教えてあげれば良いと思う」
安直なことを、真剣な表情で告げるライハに、モアは呆気に取られたようだった。
「合流して、説得できれば――レムに運んで貰うこともできるはず。それで、協力して貰えるようになれば……」
「……何だか変わったね、ライハ」
可笑しそうにモアが笑うのに、ライハは一瞬眦を持ち上げた。
「そういうの、どっちかと言えば私が言い出すことだったのに……」
「……ずっと一緒にいるからね。あなたが面倒を見ていたリクと、そのリクがお兄ちゃんをするルカと」
反対されているわけではないと悟ったライハが、モアとともに立ち上がったその時。出口を遮る長い足が在った。
「――そうなると思って来てみれば、だな」
待合室の出入口を塞ぐのは、伊賀栗レイト――眼鏡をしていない姿を見て、同化中のウルトラマンゼロが主人格として表に出ている状態だと理解したライハに、彼は言う。
「気持ちはわかるが、やめておけ」
「邪魔しないで、ゼロ」
「危険だぞ、わかっているだろ?」
「サラは、リクやルカとの約束をあの子なりに守ろうとしていたわ。無意味に私たちを傷つけるなんてことはしないって、私は二人の妹を信じる」
親を亡くしてから、早くに子供であることの脱却を強いられていたライハは、今になって夢見がちなことを口にした。
「仮におまえの言う通りだとしても……あいつがおまえらを、スペースビーストから守り抜ける保証はない。そのせいで、おまえらにもしものことがあったら……リクもルカも、あいつと気持ちよく仲直りできなくなるだろ」
ここに至って新たに築いた家族のためにできることへ、強く執着しかけるライハを、長年家族を支える伊賀栗レイトと一体化したウルトラマンゼロが静かに諭した。
「信じてやれ、リクとルカを。それに、万全だったこの俺と互角にやり合えるんだ。ザ・ワン本体でも出て来ない限り、サンダーキラー
サラは一人でも大丈夫だと――そんなお墨付きが、ゼロの口から放たれる。
「……その、ザ・ワンが来たら?」
「総力を挙げて対抗するしかない――その時には、おまえらの決断にケチなんかつけないさ」
だから、それまでは矢面に立たないという辛さに耐え忍べと、ゼロがライハたちに言う。
「それこそ決戦の時には、AIBの秘密兵器とやらの力も借りたい――そのためにおまえは星雲荘を離れて、ここにいるんだろ?」
「……完成は、早くてもまだ一週間後らしいけどね。必要がないならそれに越したことはないけど、必要な時に間に合うかしら」
「その時は、この無敵のウルトラマンゼロ様が何とかしてやるさ」
一度敗北した身でありながら。自信を喪失した様子を欠片も見せない歴戦の勇士は、ライハの不安をそう尊大に笑い飛ばしてみせた。
「……さて。じゃあおまえらが大人しく待っている間、その甲斐があるようにして来るとするか」
言葉とともに、ゼロはレイトの手を構え、ウルティメイトブレスから本来の姿に戻るためのゼロアイを出現させた。
「……安静にしておかなきゃいけないんじゃなかったの?」
「マユの暮らす街に、スペースビーストが来ているなんて状況だぞ? ジーッとなんかしている場合かよ」
どの口で嘯くゼロに、ライハはほとほと呆れて溜息を吐いた。そんな彼の我儘を成立させてあげられる、レイトの苦労も偲びながら。
もっとも、ゼロが口にした動機は……レイト自身の戦う理由そのものだろうとも、ライハたちも理解していたから。何も言わず、彼らを見送ることとした。
「安心しな。多少無茶したところで――俺に限界はねぇ!」
そうして、鋭い気合の声とともに。ゼロアイを装着した伊賀栗レイトが光に変わる。
光は壁をすり抜け、AIBの極東支部を飛び出し、そしてウルトラマンゼロの巨大な姿に変わって、空から絶望のように降り注ぐスペースビーストの群れの中へと飛び込んで行った。
◆
サラの手を引いたトリィは、二日前、プリズ魔の襲来によって更地となったままの街の一画へと、その足を運んでいた。
「トリィのおしごとって、ここでするの?」
見覚えのある、殺風景な景色にきょろきょろと視線を泳がせるサラを見て、呼吸を乱していたトリィは小さく首を振った。
「ごめんなさい、サラ。ちゃんと説明できていなかったけど……」
どちらにせよ、人目がない場所までは迂闊に口を開けなかったが。
一緒に逃げて欲しいと、そう伝えようとしたトリィは、見た。
――空から、無数のボールが降りて来る眺めを。
その正体に、連想するものがあって。思わず恐怖したトリィの携帯電話が、再びの着信を告げていた。
〈おい、トリィ! どこに行っている!〉
応じてみれば、相手はやはりペイシャンだった。
〈なんでそんなところに――相変わらずサンダーキラー
全体を俯瞰する位置にありながら、細部の状況までは把握しきれていないと見えるペイシャンが、焦った調子で矢継ぎ早に呼びかけて来ていた。
〈しかも今、出現しているスペースビーストはアリゲラだけじゃなく――オコリンボールもいる!〉
……トリィが予想していた通りの脅威の名を、ペイシャンが口にする。
コブ怪獣オコリンボール。間の抜けた名前だが、その実体は身長二メートル前後のヒューマノイド種族にとっては、スペースビーストにも匹敵する恐怖の吸血怪獣だ。
オコリンボールは独立活動できる球体状の生物が集合した群体生物としての怪獣であり、巨大怪獣としての実力もさるものながら、恐ろしいのは分裂したボール軍団としての状態だ。単独飛行が可能で、二本の触手で獲物の肉を突き破り、脳や心臓といった最重要器官にその吸血吻を食い込ませて血液を吸収。人間程度の獲物なら瞬時にミイラ化させてしまうと同時に成長と増殖を繰り返す、獰猛な食欲を持った怪物の群れとして活動する。蝗害に遭った林野の如く、オコリンボールの活動範囲に生息する巨大怪獣以外の動物は、わずかな期間で食い尽くされてしまうとして恐れられており、AIBでも特定外来種に指定されている。
それが、原種としてのオコリンボール。それが、ただの犬や蜥蜴と同化しても最悪の生物的汚染源になる、スペースビーストと同化したというのなら……
〈スペースビースト化したことで、動体だけでなく恐怖心も感知して襲いかかって来る! 挙句吸血と同時に細胞を送り込まれて、ビーストヒューマンにされてしまう! ただ死ぬよりもまずい!〉
ビーストヒューマンとは、文字通りヒューマノイドの死体にビースト細胞が寄生して操られている、ゾンビのようなものだ。
厄介なのは、個体によってはビーストヒューマン化しても生前の記憶と知性を残し、主となるスペースビーストへの奉仕に活用できる場合があることだ。
一般人なら効率的な餌の誘導に利用され、もしもトリィが支配されようものなら、AIBの一員たる研究者としての知識をスペースビーストを守るために利用されかねない。
接触されれば、その時点で急所まで攻撃を受けることになる。絶対に避けねばならないが、文字通り雨のような濃度のオコリンボールの分体がトリィたちを目指して、空から一斉に降りて来ている。
もはや数ではなく密度で数えるべき脅威は、しかもスペースビースト化したことで個々の球体ごとに肉片からの再生も可能となっている。小型でも人間大の生物を脅かすには充分過ぎるために、事実上再生力に優れたスペースビーストということになる。
この恐るべき軍勢の一部をウルトラマンゼロが相手取っているというが、故に途中で持ち場を離れることのできない彼が、別働隊に襲われたトリィの元に間に合うはずもない。
「わ、くすぐったい……」
AIBが政府を通じて発した外出禁止令は、この脅威を恐れてのものだったと。今更ながらに理解したトリィへと、吸血吻を伸ばした無数の球体が襲いかかり――傘に弾かれた雨粒の如く、髪へ触る前に跳ね返された。
「ねぇ、トリィ。この怪獣さんたち、すごいいきおいでばりあにぶつかってるけど、痛くないのかな……?」
迫るスペースビーストの脅威を、まるで正しく認識できていない様子のまま。
ただ、そんな勢いでぶつかられたら、トリィが怪我をするのではないかと、気を遣ってくれた程度の。あるいは、折角の抱擁を邪魔されたくない程度の感覚で――トリィに抱えられた隙間から、触手を伸ばしてバリアを展開し、死の殺到を防いだサラが、呑気な調子で問いかけてきた。
「……だいじょうぶ、トリィ?」
咄嗟に彼女を庇おうとして、抱きついていたのに――腰を抜かして縋るような格好となったトリィへと、サラが心配そうに声をかけてくる。
「あれ? この怪獣さんたち、ただふってきただけじゃなくて、わたしたちにむかってきてるの……?」
弾かれた後、側面から向かってくるオコリンボールの群体を前にようやく事態を把握したサラは、驚いたように大きな瞳を瞬かせた。
本来――超獣を恐れる野生怪獣が、その頂点に君臨する彼女へと自発的に挑みかかって来るという事態が、想像も及んでいなかったと言わんばかりに。
〈――おい! トリィどうした! 無事か! 駄目でもせめて返事をしろ!〉
トリィが投げ出していた携帯電話から、気がつけばスピーカー状態となったペイシャンの呼びかけが続けられる。
「――だめ……?」
その一声に、ぼんやりと愚かな怪獣たちを眺めていたサラが、殊更大きく反応した。
心なし。目の色がやや変わったように見えるサラが、ゆっくりと小首を傾げた。
「ねぇ、トリィ。この怪獣さんたちにおそわれたら、トリィはあぶないの……?」
そのあどけない問いかけで。次の展開が予想できてしまったために、トリィは一瞬、逡巡した。
彼女の気が変われば。その瞬間、トリィは無数の吸血ボール軍団に襲われる。血を抜かれる以前に、圧死を免れない未来が確かに幻視できる。
だが、ここで頷くことは。ただ事実を伝えるだけだとしても、まるでサラを利用するかのようで、気が引けてしまっていた。
そう、躊躇っている間に。衝撃波がオコリンボールたちを吹き散らし、バリアを揺らす。
アリゲラ型のスペースビーストたちが、サラの胸で輝くリトルスターを目指し、その口を開いて飛び掛かってきていたのだ。
――流石に。いくら究極融合超獣でも、人間に擬態したままでは一溜まりもないのではと。そう思えてしまったトリィは、慌てて頷いた。
「そうなんだ」
トリィの反応を見たサラは、バリアごと自分たちを丸呑みにしようとするアリゲラの口腔を背景に――微塵の焦りも見せず、得意げに笑っていた。
「じゃあ――わるいことをしようとする怪獣さんだから、やっつけてもいいのね?」
次の瞬間。迸る白雷が、トリィの視界を埋め尽くした。
◆
世界から切り離された、
閉ざされた亜空間の空まで貫く、炎の柱が生じていた。
「――タイタス! バーニングハンマー!!」
その炎を生んだのは、三体のウルトラマンが奇跡の絆で合体した光の巨人、ウルトラマンタイガトライストリウム。
天と地を繋ぐほどに猛る焔を背にした絆の勇者が、その炎を手にした長剣へと灯し、その先端を膨らませる。
まるで、その炎の塊に膨大な質量があると言わんばかりに。巨人は遠心力を利用して振り回し、竜巻のように周辺の敵を巻き込んで焼き尽くしながら、充分に加速したその切っ先を標的目掛けて投擲する。
放たれた塊は、
「(スカル超振動波――!)」
タイガが強敵を屠るその背後で、レイオニクスの力を解き放った培養合成獣スカルゴモラ・レイオニックバーストが、身に纏う超高熱で強化された超音波を放つ。
高温環境下であるほどに、音速は増大し、波動の宿すエネルギーのロスは軽減される。恒星の大気に等しい熱波に晒され、既に熔解しかけていた
残る敵はただ一体。総合力で勝るイズマエルよりも討伐対象として優先されず。またアリゲラとの振動数の違いから、スカル超振動波による殲滅でも唯一致命傷を受けず生き残っていたスペースビースト、
返す刀と言わんばかりに、先んじてその敵へ向かっていたタイガトライストリウムの背後から、彼の首に襲いかかるものがあった。
「――ぐぁっ!?」
タイガの首を真後ろから締め上げるもの。それはメタフィールドの大地を割って、密かに絆の勇者の背後を取っていた、クイーンモネラの根だった。
首を絞められながらも、炎の剣を手放さなかったタイガがその拘束を切り裂こうとする。だがそんな抵抗を許さないとばかりに、再生したクイーンモネラ本体の触手が宿す稲妻が、タイガトライストリウムまで降り注ごうとしていた。
だが、両者の間を絶縁するようにして、スカルゴモラの怪獣念力がバリアを形成。破壊的な高圧電流を通さず、その雷撃を跳ね返す。
クイーンモネラの妨害が防がれたその隙に、タイガトライブレードが持ち主を苦しめていた根を切り落として、その拘束から勇者を解き放った。
「――助かった!」
「(御礼は後――今だよ、タイガ!)」
「ああ……これで終わりだ!」
スカルゴモラの援護で窮地を脱したウルトラマンタイガトライストリウムが、その剣をまたも煌めかせた。
青、黄、赤。融合した三人のウルトラマンたちを構成する、三原色の輝きが炎の剣に満ち、その光が混ざり合う。
タイガから生じた火柱が空を裂く横で、スカルゴモラもまた、度重なる戦いの末、レイオニックバーストによって発現した形質を働かせる。
――スカルゴモラの身に宿るリトルスター、ウルトラマンネクサスの本体であるノアが守護神として奉じられた宇宙の一つ、アナザースペース。
かつて、その宇宙を侵略した際のウルトラマンベリアルの最終形態、アークベリアルに由来するエメラル鉱石と融合した遺伝子。その働きにより、光の国をして計り知れないエネルギーを秘めた鉱石と近似した成分を得た、培養合成獣の細胞。そこから引き出された莫大なエネルギーが、翡翠の水晶状に変化した背中の角から漏れ出て、金色の光を伸ばしていく。
ネクサスのリトルスターも作用して、大渦のように迸るのは最早、マグマどころではない消滅のエネルギー。
「(インフェルノ……バーストぉっ!)」
「トライストリウムバーストッ!!!!」
スカルゴモラが口腔から青白い破壊熱戦を放射するのと同時に、振り下ろされたタイガトライブレードからも、炎のように波打つ光の奔流が、その眩さを解き放つ。
直進した二条の光は、合流する形でクイーンモネラのちょうど両目の間に直撃。巨体ゆえに一瞬持ち堪えたものの、それ以上は為す術もなく光に呑まれたクイーンモネラは、巨大な斬撃に断たれるようにして二つに別れ、量子分解した青白い粒子と化して大気に解けた。
そして、ネクサスの光に由来する力により、そこに素粒子が存在するという量子情報すら掻き消されたスペースビーストは、再生の余地なく滅び去った。
「(よし、これで――っ!?)」
勝利を確信した瞬間、スカルゴモラの背を裂く何かが過ぎった。
「馬鹿な――さっき、確かにやっつけたはず!?」
スカルゴモラを傷つけた犯人を見て、タイガトライストリウムが驚愕の声を漏らした。
「(生き返った――っ!?)」
振り向いたスカルゴモラもまた、驚きの余りに一瞬、動きが滞った最中に。先程確かに爆散したはずのイズマエルグローラーは、完全な姿のまま、全身のスペースビーストの顔や尾に備えた砲門から、一斉攻撃をタイガへと放っていた。
「く――っ!?」
強烈な弾幕へ晒され、後退を余儀なくされるタイガが痛みに呻く。
共に戦う仲間の窮地を救うべく、レイオニックバーストで爆発的に高まった自己治癒力により背中の傷を塞いだスカルゴモラは、身を翻してイズマエルグローラーに襲いかかった。
レイオニックバーストの力で身軽になったスカルゴモラの爪が届く前に、イズマエルグローラーは空へ飛んで攻撃を逃れる。
砲撃を中断させることこそ成功したものの、即座に手の届かない高さまで逃げるスペースビーストに対し、スカルゴモラは苛立ちを零す。
「(この、消し飛んだくせに、どうして――!)」
〈おそらく、ノスフェルというスペースビーストの再生力によるものでしょう〉
その疑問に、位相空間を隔てて存在する星雲荘から、報告管理システムであるレムが答えた。
〈それに加え、イズマエル以外のビーストが放つビースト振動波をエネルギー供給源として、即座に復活してきたようです〉
外部から隔絶された閉鎖空間であるメタフィールドなら、スペースビーストがその細胞から放つ悪性の光量子情報、ビースト振動波は実体化に必要な知的生命体の恐怖心との結合ができなくなる。
故に、先程殲滅したビーストたちはもう再発生することもなく、安全に無力化できたと思っていた。だが実際には、この一軍で最強の個体を復活するための献身までは阻むことができていなかったらしい。
「(倒す順番を間違えたってこと……?)」
「だが、もう再生できないんだったら――!」
超振動波の効きも悪い、最大の難敵であったイズマエル。この怪物を真っ先に叩いたことが失敗であったのかと悔やむスカルゴモラを励ますように、タイガトライストリウムがその剣に左手を這わせた。
「タイガ! ブラストアタック!」
刀身に炎を纏ったタイガトライブレードを構えて、絆の勇者が一気に直進してくる。
「(――って、うぉわぁああっ!?)」
その切っ先が狙っていたのが自身であることに気づいたスカルゴモラは、変な悲鳴を上げながらも咄嗟に腰を引き、円弧を描いて閃かせた手の甲で燃え盛る刀身を弾いた。ライハが授けてくれた身を守る術に心底感謝しながら、間髪を入れず、続けてタイガの腕を捕まえることでその刺突を抑え込む。
「(いきなり何するの!? 殺す気!?)」
「はぁ? 当たり前だろ!」
半ば涙目で問い詰めるスカルゴモラに、タイガは至極当然とばかりに答えた。
やっと拭ったと思ったトラウマの相手から、自然に殺意を告げられたスカルゴモラは思わず身を竦ませる。まさか兄であるウルトラマンジードと分断したところで、密かに自分を抹殺するつもりだったのかと、そんな考えが頭を過ぎってしまうが。
〈落ち着いてください、ルカ。ウルトラマンタイガは現在、幻覚によってあなたとイズマエルの姿を誤認させられているものと思われます〉
レムの報告が、味方への疑念を晴らし、状況を正しく理解させる。
ガルベロスと呼ばれるスペースビーストが持つ幻覚催眠能力。それと同等の能力を、ガルベロスもまた構成要素とするイズマエルも行使できるということらしい。
「幻覚……だと? じゃあ――!」
こちらのやり取りが聞こえたのか、タイガが剣を執る力を緩めた。
直後、状況の変化を察知したイズマエルから再び無数の光線や火炎弾が浴びせられ、無防備な被弾を許したスカルゴモラとタイガは体勢を崩した。
〈加えて言えば、再生速度が落ちるだけで、周囲に他のビーストがいないとしても、ノスフェルの能力は問題なく復活を可能とします〉
「(反則じゃんっ!?)」
レムの解説に、己も即座にダメージから回復しながら、スカルゴモラは素っ頓狂な感想を漏らしてしまった。
これでも、レイオニックバーストしたスカルゴモラの纏う超高温の関係で、誘爆する花粉や隠密性の高い霧の散布が自然に封じられ、粘着性の糸も融解するために使えず、先程苦しめられた虹の隔離空間や位相間潜行能力もメタフィールドによって戒められているために、イズマエルグローラーも全力を発揮できていないらしい。だがこの火力と飛行能力、そして幻覚と不死性だけでも、十分に厄介極まる難敵だと言えた。
「クソ……メタフィールドの中だと、環境が理由で活動限界を迎えるってことはないみたいだが、これじゃあ――!」
イズマエルの能力に翻弄されたタイガもまた、現状がジリ貧であることを嘆いていた。
〈イズマエルグローラーを倒す手段は二つあります。一つは右腕にあるノスフェルの組織を破壊し、その機能が不全となっている間に倒し切ること。もう一つはその再生能力さえも上回る、大規模な消滅攻撃を仕掛けることです〉
かつて出現したイズマエルは、ウルトラマンネクサスの放つ分解消滅光線で撃破されたらしい。
威力だけの問題ではなく、その性質こそが重要であるというのなら。イズマエル攻略の鍵はトライストリウムではなく――ネクサスのリトルスターを宿した自身であることを、スカルゴモラは理解する。
「だが、幻惑される中でそれができるのか……!?」
「(――できるよ。あなたが耐えてくれたら、ね)」
何、とタイガが問い返すのも、被弾の痛みさえも無視して。目を閉じたスカルゴモラは、その意識を統一した。
「(引きずり落として――その音を目印に、一気に決める!)」
再び、ネクサスの光を帯びた熱線、インフェルノ・バーストの発射準備に入りながら――スカルゴモラは怪獣念力を全開にして、下向きの力を無差別に働かせた。
「うわぁっ!?」
悲鳴は隣のタイガと、そして数百メートル彼方から。急に加えられた力にタイガが膝を付くのと同時、そんな力場に巻き込まれたイズマエルグローラーもまた、飛行を維持することができなくなって、メタフィールドの大地に墜落していたのだ。
「(――インフェルノ・バースト!)」
伝わる振動を元にして、新たな催眠を仕掛けられる前に分解消滅光線の発射を終えたスカルゴモラは、その成果を見届けるべく目を開いた。
イズマエルさえ確実に倒してしまえば。メタフィールドを解除し、再び外のスペースビーストたちをリトルスターに惹き寄せることで、兄を援護できる。
……彼が助けに行ってくれている
そんな期待を込めた熱線は、確かにイズマエルグローラーをその射線上に捉えていたが――予期せぬ闖入者によって、その疾走を止められた。
突然、メタフィールドの空が、ガラスのように割れたのだ。
「――何!?」
超獣と同じように異次元から不連続時空間へと出現したその影の挙動へと、ウルトラマンタイガトライストリウムが驚愕の声を上げた。
暗灰色の影は、イズマエルグローラーの前にその身を踊らせると、自らの胴に
――その姿に、妙に肌の騒ぐ感覚を覚えながらも。レイオニックバーストを果たし、エメラル鉱石と同等のエネルギー産出能力を身に着けたスカルゴモラは、構わずに熱線を吐き続けた。新手の許容限界を突き破ろうとする力押しは一瞬、思惑通り敵の姿を青白く透けさせ始めるが――次の瞬間、その発光が紅蓮に変わった。
「(なっ――例の!?)」
怪獣の中心から炎が弾け、その全身を一瞬だけ、燃えるようなオーラが包み込む。
ウルトラマンジードの不在期間中に幾度か――そして、一昨日の光怪獣プリズ魔との戦いでも確認された、怪獣を強化する謎の現象。
それが、新手のスペースビーストにも起こっていた。
インフェルノ・バーストの作用を抑え込むだけの力を得たスペースビーストは巨大な翼を広げると、そのままスカルゴモラの方へと突っ込んで来た。
迎撃しようと、タイガが剣を構えて立ち上がる。だが彼が自由を得たということは、敵もまた同じだった。
起き上がったイズマエルグローラーの一斉砲火、そして新手の口から放つ地獄の業火が、タイガとスカルゴモラに襲いかかる。イズマエルの手数と、そしてインフェルノ・バーストから奪ったエネルギーまで転用した強烈な攻撃に晒された二人は大きなダメージを受け、さらに新手が長く伸ばした尾の先の鉄球と刃による追撃を避けられず、地を舐めるほど大きく吹っ飛ばされることとなった。
「(こ、こいつ――っ!?)」
インフェルノ・バーストの照射を中断させられたスカルゴモラは起き上がりざま、超振動波での範囲攻撃を仕掛けようとしたが――その前準備となる索敵音が同周波数の超音波で中和され、無力化されたのを知覚して、再びの驚愕を覚えた。
〈そのスペースビーストは――単体の怪獣としても、過去の記録に照合しない、新種であるようです〉
ダークグレーと赤で体色を統一した、邪竜か魔王の如きスペースビーストと対峙するスカルゴモラの耳に、情報を解析したレムの報告が届いた。
頭部に王冠の如く戴く大小五本の紅い角と、その背筋から長い尾の先までびっしり等間隔で生やした赤い棘。
腹の吸収口こそ全く違うが、その蛇腹状の皮膚をした両足や、頭部のシルエット――そして、禍々しい模様に囲まれた、カラータイマー状の器官を見て、スカルゴモラは妙な既視感を覚えていた。
――似ているのだ、こいつは。この自分と。
〈ビースト振動波とともに、ゴモラとタイラント――それに、M78星雲のウルトラマンに近似したエネルギー組成と、デビルスプリンターの反応が検知できます。
おそらく、ザ・ワンが吸収してきたそれらの情報を組み合わせて作り出した、全く新しい
デビルスプリンター。
過去の戦乱で飛び散ったウルトラマンベリアルの細胞の内、生命の設計図となる遺伝子情報に損傷を抱えた状態の欠片。
そのため、複製する等して、ウルトラマンジードや培養合成獣スカルゴモラのようなベリアルの子らを産み出すには至らずとも。怪獣に同化し、著しく凶暴化させる生物的汚染源として、多元宇宙規模で被害を齎しているとされる物質の反応が、眼前のスペースビーストからは検知できているらしい。
加えて、光の国で、ザ・ワンの犠牲になった名も知らぬウルトラ族。戦士であるのかすら定かではない彼もしくは彼女に由来する情報も、怪獣たち同様スペースビーストに取り込まれ、その身を作り変える構成材料に利用されていたのだ。
そして、ゴモラと――レッドキングを構成材料に含む合体怪獣、タイラントとも近似するという解析結果は、つまり。ベリアルとゴモラ、レッドキングの遺伝子から造られた培養合成獣を、内包する遺伝子の数で言えば遥かに凌駕する怪物が、眼前に存在するということを意味していた。
胸騒ぎの意味を理解すると同時に。先程の出現方法からもわかる通り、タイラントの構成要素である、バラバ、ハンザギラン、キングクラブといった複数の超獣の特徴まで有しているということは――恐怖の有無に寄らず、これらスペースビーストは超獣さえも自己進化のための情報源として取り込んでしまうのだということを理解して、スカルゴモラは静かに闘志を燃やす。
〈出現した個体を、予想されていた新カテゴリー、アマルガムタイプビーストと推定〉
その間にも、レムが続ける。
アマルガム――スペースビースト同士を融合させたイズマエルとも違う、全く別々の怪獣や異星人の特徴を併せ持つ合体怪獣型ビーストを指すにはお誂え向きの、混合物を意味する単語で、レムが新種を分類する。
〈タイラントの近似種であることから、コードネームをバシレウスと仮称します〉
バシレウス。
タイラントと同じくギリシャ語で『君主』を意味し、力で王権を簒奪した
Aパートあとがき
今回Aパートの最後にスペースビースト名義で登場した怪獣、実写化経験がないので、TV放送だと尺と予算の都合で存在しない、『ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント』版「無敵のママ」のナーガみたいな奴だろうなぁと勝手に考えております(第十話の想定以上の長文化の言い訳)。
というか、TVの尺だと間違いなくクイーンモネラ組を撃破したところでメタフィールド内の戦闘は終了になってイズマエルも復活しない感じだと思われますが、能力フル活用イズマエルもやっぱり書いてみたかったので……ということで、どうかお許しください。
以下は、いつもの意図的な公式設定との違いについてのエクスキューズです。
・メタフィールド内では(地球のような)環境由来の活動限界が術者以外のウルトラマンには存在しない、という設定はやっぱり公式では特に言及がありませんので、念の為ご承知置きください。
・ノスフェルの不死性
倒されたその戦闘中で普通に復活してくる再生力は、『ウルトラマンネクサス』本編中では披露されてはいませんでしたが、『小説 ティガ・ダイナ&ウルトラマンガイア~超時空のアドベンチャー~』にて、爆散した次のシーンでは復活して「生き返った」とシンジョウ隊員やホリイ隊員に驚かれる描写があるので、今回のイズマエルグローラーの復活もそれに倣った形となります。
・
スペースビーストが同化した別種の怪獣たちの情報を組み合わせて進化した上級、あるいは最上級ビースト。収斂進化の結果、既存種と酷似した形態にも成り得る模様。
なおこの名称も概念も本作独自のもので、公式ではその存在が予想されていたりはしませんので、あしからず。
普通には登場させ難い合体怪獣を『収斂進化したスペースビースト』と言い張って出すためだけに用意した捏造設定になりますが、実際スペースビーストが他の怪獣と同化したらどういう扱いになるのかは気になるところです。
本作としては第十話Bパートでも、というかBパートに登場する、本作より未来の時系列で初登場する怪獣(の、そっくりさん扱い)の方が話としては本命みたいな感じですが、合体怪獣の代表といえばタイラントなので、折角だからとあのベリアル融合獣もそっくりさんなスペースビースト扱いで登場して貰いました。
・アマルガムタイプビースト「バシレウス」
滅亡の邪神ハイパービースト・ザ・ワンが同化した、タイラントの構成要素となる怪獣や超獣、異星人、さらにゴモラとM78星雲のモブトラマンの情報を組み合わせ、さらにどこかで手に入れたデビルスプリンターを核として産み出した特製の分身である、本作オリジナルのスペースビースト。
……などと言いつつ、その実態はデータカードダス『ウルトラマンフュージョンファイト!』オリジナルのベリアル融合獣ストロング・ゴモラントをスペースビースト扱いで登場させた格好となります。少し違いますが、元々はスペースビーストとしてデザインされたながら別の怪獣になったアリゲラの逆のような格好です。
『ウルトラマンジード』本編には存在しないベリアル融合獣であるため、本作中ではその名で呼ばず、代わりにスペースビーストの命名法則であるカタカナ五文字表記に合わせた呼称で登場して貰いました。Bパートで出る方(こいつは映像作品出典)も時系列の都合で名前が知られていないため偽名を使います。
ストロング・ゴモラントの登場自体は色々な形で検討していましたが、タイラントの強化体にしてある意味スカルゴモラの強化体である怪獣、タイガ&スカルゴモラにぶつけずどうするのか、ということでここに参戦です。
……まぁ、同じレイオニクス(※グランデ)が使うとタイラントよりレッドキングの方が素でも強いので、レイオニックバーストしたスカルゴモラを相手に戦うために登場即強化現象が入るというよくわからない出方になりました。ベリアルの子ら扱いして貰えない融合獣リ・イマジネーションキャラの第一号だけあって何だか不憫枠。