「現れたな、ウルトラマンジード!」
どこか小馬鹿にしたように、星山市上空に浮遊したままのエタルガーが、ウルトラマンジードの出現を喜んだ。
「エタルガー、望み通り、僕は来たぞ! もうこの街に手を出すな!」
「そうはいかん。人間の信じるウルトラマン……その光を穢すという、我が戦友たちの悲願のため、この星にも犠牲となって貰う」
どうやら、ウルトラダークキラーら、闇の巨人たちの遺志をも汲んで、エタルガーはウルトラマンへの挑戦を望んでいるらしい。
だが、仲間内だけの情のために、無関係な人々を徒に傷つけるなんて理不尽を、ジードは許せなかった。
「まずは余興を完遂させて貰おう。おまえの力を見せてみろ、ウルトラマンジード!」
上空に待機するエタルガーが告げるが否や、エタルダミー=スカルゴモラはその意志のまま、ウルトラマンジードに向けて突進を開始した。
「ハッ!」
大地を揺らす進撃に対し、ジードは空を飛んで立ち向かった。
跳躍と同時、人類――そして、朝倉リクにも原理の理解は及ばぬまま、本能的にウルトラマンとして備える、生身での飛行能力を発動。瞬時に音速にまで加速された五万一千トンの質量が、そのままスカルゴモラに激突する。
人類が観測し得る他の事象であれば、必ず発生するエネルギーの転化分散が極端に抑えられた、ウルトラマンの打撃。咄嗟に放たれただけのそれでも、たった一平米程度の着弾点に、広島型原発の一割ほどのエネルギーが集中し、自由な射角で怪獣の肉体だけを打ちのめすという、人類の兵器では実現不可能な一撃だ。
単なる威力でもバンカーバスターさえ凌駕するその一撃は確かに、スカルゴモラの進撃を一歩、止めることに成功した。
だが、全開まで加速できなかった一撃で止められたのはその、たったの一歩分だけだった。
傷跡の一つも残らず。体格でジードを上回るスカルゴモラは、飛び膝蹴りを受けたダメージなど一切なかったかのように再び進撃し、雷鳴のような咆哮とともに逞しい上腕を薙ぎ払う。
その場に留まらず、後方転回しながら距離を取ったジードは、スカルゴモラの豪腕を掻い潜ると同時、追撃として全身から放たれていた超振動波の射程からも逃れていた。
ウルトラマンジードが二種類のウルトラマンの特性をかけ合わせて戦闘形態を獲得するように、ベリアル融合獣もまた、二種類の怪獣の形質を組み合わせて生み出された怪獣兵器だ。
スカルゴモラは髑髏怪獣レッドキングと古代怪獣ゴモラの性質を併せ持つ融合獣。この原種の内、ゴモラが地底を掘削するのに使うのが、超振動波という現象だ。
ゴモラは頭部の二本角からあらゆる周波数の音を放射し、その反射の有無で対象の性質を把握。吸収され易い周波数を再照射することで、対象を激しく振動させ、発熱、気化させるというプロセスで地質を蒸発させ、地底を移動するという生態を持つ。
そしてスカルゴモラの場合は、その音叉となる角が七倍に増設され、全方位に超振動波現象を引き起こすことができるのだ。
投射先を絞っていない場合、有効な距離こそ短くなるが、それでも一瞬で地盤を蒸発させてしまうような破壊力を全方位に、体力の限りに放ち続けることができる。その膨大な体力によるタフネス、ジードを遥かに上回る腕力のみならず、この恐るべき特殊能力まで備えた怪獣がこれ以上街を蹂躙することがないよう、防衛戦を展開しなければならない。
――かつて、初陣を含め三度に渡り打倒した怪獣ではある。だが、それは全てベリアルの陰謀による、最初から勝敗まで仕組まれた戦いの中でのことだった。その時の記憶から再現されたエタルダミーとはいえ、あの頃のようにただがむしゃらに向かっていくだけでは足元を掬われても不思議ではない。
そのことを肝に念じて、ジードは油断せず、有効な戦術を練り始めていた。
◆
「お兄ちゃんが……ウルトラマン……」
星山市の中心街で繰り広げられる、人智を越えた光の巨人と大怪獣の激戦。
大地を揺らす余波が凄まじさを物語るその光景を眺めながら、ルカは譫言のように、与えられた答えを再び呟いていた。
それは、受け入れるのが余りにも容易ならざる真実だったから。
「……そう。あなたのお兄ちゃんは、ウルトラマンジード」
そんなルカの傍に立ったのは、ライハだった。
「びっくりするよね。あんな頼りない感じの子が、ウルトラマンだなんて」
そう。何かにつけて、だらしなく笑顔を振り撒いて来た――気遣いも、例えばライハと比べればどことなくぎこちなかった。
けれど。それでも何とか、こんな得体の知れない妹にも、優しくしようとしてくれているのが確かに伝わってきていた、あの兄が……
「だけど、本当なの。リクはウルトラマンジード。ベリアルの血を継ぎながら、その運命に勝ったウルトラマン」
……この星で最も中心的な活躍をしたヒーローと見做されているウルトラマンジードと、この宇宙を崩壊の危機に追い詰めた悪のウルトラマンベリアルに関する知識は、気がつけばルカの記憶に在った。
だが、今のライハの言葉は、ルカにとっては初耳だった。
「ベリアルの、血……?」
「ええ。リクは――そしてあなたも、ベリアルの子供」
「だけど……リクはリクだ」
途中から、会話に割って入ってきたのはペガだ。その横には、何やら球状のドローンのような端末も浮いている。
「だからリクは、自分の意志で、ウルトラマンの力を皆を守るために使う、ヒーローになったんだ」
……自分の意志で?
あの優しげなお兄ちゃんが、自分の意志で、私たち兄妹の親を殺した?
正義のヒーローに、なるために?
「そして、ルカは、ルカだよ」
ペガが、そんな風に続けた。
例え、血の繋がった肉親であっても。
悪のウルトラマンであるベリアルと、正義のウルトラマンであるジードは別の存在で。
ならば、リクはリクで、ルカはルカであるのなら……
「リクは、決められた自分の運命を変えた。だから、ルカのことも、きっと……!」
「お兄ちゃんが……」
ペガが喋っている最中に、戦いの様相が大きく変わった。
砂煙が晴れた時、ルカの目に飛び込んだジードの姿が、先程見せたシンプルなそれから大きく変わってしまっていたから。
「――ぁ……っ」
その姿を見た時、ルカの呼吸が途絶した。
鎧のような体躯に、天に向かって屹立した、鬼のような二本の角。
色合いこそ違っていても。その姿はまるで、まるで……っ!
「ウルトラマン……っ!」
◆
エタルダミー・スカルゴモラが踏みつけで飛ばした岩石に、限定的な超振動波現象を起こし高熱の質量爆弾として叩きつけてくる攻撃を、ジードは超能力で展開した光子障壁で防ぎ切る。
そうしてバリアを張っている間、立ち込める煙幕で視界が塞がれるのを利用して、距離を詰められる――というのは、過去に目にしたことのある戦法だった。
人々の恐怖を再生するエタルダミーならばこその既視感ある攻撃パターンを、ジードは既に予想していた。
《マグニフィセント!》
基本形態であるプリミティブから、戦闘中、新たにジードがフュージョンライズし直した姿の名はマグニフィセント――ジードのフュージョンライズ形態の中で、最も正面からの力勝負に優れたフォームだ。
案の定、煙の奥からその角を叩きつけようと近づいて来ていたスカルゴモラの脳天に、ジードは思念のエネルギーも上乗せした剛拳を叩き込む。
強烈なカウンターを受け、悲鳴を上げて仰け反ったスカルゴモラは、衝撃に脳を揺さぶられたのか身動きが鈍っていた。
隙を逃さず、ジードは続いて両の拳を腰溜めに構えて、再び思念の光とともにスカルゴモラの腹部に放った。
「いいぞ! そう来なくてはなぁ!」
威力のあまりにもんどりを打って転倒するエタルダミーを見下ろしながら、エタルガーはそんなジードの健闘を嘲笑った。
それほどまでに己の実力に自信があるのか、と警戒を深めながらも。ジードは引き続き、スカルゴモラの撃破に集中する。
起き上がり様、角でカチ上げようとするスカルゴモラに、ジードもまた頭突きを合わせた。角と角がぶつかり合った瞬間、スカルゴモラが超振動波を発動する前に、ジードは角から電撃を放つ。
感電したスカルゴモラが再び身動きを封じられている間に、ジードはさらに苛烈に攻め立てる。
メガニストラトス――マグニフィセントの肘と肩の突起の間に、念力によって生成した光子の回転ノコギリを生成し、それでスカルゴモラの頭部を狙ったのだ。
対し、スカルゴモラは頭部の角でその攻撃を受けようとしたが――メガニストラトスは、その防御手段自体を破壊した。
即ち、激突した右側の角を断ち切ったのである。
これには堪らないと言った様子で悶絶するスカルゴモラの喉輪を掴み、反対の手で後頭部を抑えたジードは、そのままスカルゴモラを引き倒した。
大地に叩きつけることで、有効なダメージを与えられるとは思わない。故にスカルゴモラと地表の衝突には大きな影響が出ないよう、エネルギーや慣性を制御しながら、ジードは素早く位置を取り直して、怪獣の長大な尾を掴んだ。
ただの身悶えでも驚異的な馬力ではあるが、マグニフィセントならば力負けしない。そのまま尾を脇に挟むと、ジードはスカルゴモラが回復するより先にその体を投げ飛ばした。
五万九千トンの巨体が、軽々と宙を舞う。再び街に壊滅的な打撃を与えてもおかしくない勢いでスカルゴモラが大地と衝突するが、リク自身が無意識に、ウルトラマンの肉体が利用する未知の物理法則を利用したことで、二次的な被害は最低限に抑えられていた。
そこで起き上がろうとするスカルゴモラの無防備な背中へと、超振動波の射程外からジードは光の巨大十字手裏剣を連続で投げつけた。
その追撃によって頭だけでなく、背部の角の付け根付近にも裂傷を与えた。これで再生するまでの間、スカルゴモラの超振動波の利用を阻害できるはずだ。
その様子を確認して、ジードはトドメの体勢に入った。最大火力の一撃は、タメに要する時間や外した場合の二次被害が甚大である都合上、闇雲ではなくこのようにして敵の機動性や迎撃能力を奪ってから放つべきだと、数々の激戦を切り抜けてきたジードは自然と定石を身につけていた。
そのおかげで、ジードの両腕に蓄えられた光子エネルギーは、スカルゴモラが起き上がった時点で、発射の準備を完了できていた。
「ビッグバスタウェイ!」
両腕をL字型に組んだ瞬間、左右の腕から結合された光子エネルギーが右の前腕に沿って放たれ、光速でスカルゴモラに到達した。
この姿のジードが放つ光子エネルギーは摂氏七十七万度。それは、広島型原爆の火球中心温度に迫り、しかも爆発から百万分の一秒後には三十万度以下に減退するそれとは異なり、照射される間、対象に常にその威力を維持――否、時に増幅さえする。そんな破壊光線に体の中心を呑み込まれながら、スカルゴモラは数秒間、断末魔を上げ続けた。つまりはそれだけの熱線に晒されて、なお絶命せず、その巨体を動かせるということだ。
――これが、怪獣。既知の物理法則を超越した生命の究極。自らの力のみで発展してきた二十一世紀初頭の人類文明では、ほぼ対処できない絶対の脅威。
だからこそ、人々は祈る。ウルトラマンに。
この絶望的な暴力から、自らと愛する者を救って欲しいと。
ウルトラマンの必要性。それを再認しながら、使命感と共にジードは光線の出力を高めた。
注がれ続けた光は遂にスカルゴモラの強靭な肉体にも限界を迎えさせ、一部を灼き切り、蒸発させ、膨張した内圧が残った肉体をも完全に爆砕してみせた。
「やったー!」
ありがとう、とか、いいぞ、とか。そんな歓声が、避難していた人々から湧き上がる。
だが、本当の戦いはこれからだと、ジードは充分承知していた。
「見事、いや見事だ、ウルトラマンジード!」
自らの繰り出したエタルダミーが倒されたというのに、エタルガーは喝采していた。もちろん、その声には隠しもしない悪意を滲ませながら。
空から、文字通り高みの見物を続けていた黒幕を睨みつけたジードは、再び彼に呼びかける。
「おまえの言う余興は終わった……勝負だ、エタルガー!」
「ああ、余興は終わり。これからが本番の開始だ……恐怖のウルトラマン軍団を作るという、我が亡き友に捧げる計画の、な」
「――何?」
エタルガーの口走った台詞を訝しんだ、その瞬間だった。
たった今、葬ったはずの咆哮が、リクの背後に生じたのは。
「――なっ、また!?」
……ジードの後方には、無傷のスカルゴモラが出現していた。
叫び声を上げ、超振動波現象を励起させるべく全身で赤く発光しながら、地響きとともにスカルゴモラが突進して来る。
迎え撃とうと構え、一歩踏み出そうとしたウルトラマンジード=リクの耳に、切羽詰まった制止の声が飛び込んで来たのは、その時だった。
〈――リク、やめて!〉
それは、ジードライザーを介して、レムが繋いだ通信だった。
「ペガ、どうして……!?」
〈そのスカルゴモラ……そのスカルゴモラは……!〉
〈――ルカよ、リク〉
気の動転しているペガの代わりに、掠れた声でライハが答えた。
〈そのスカルゴモラは――たった今、ルカが変身したものなの……!〉
「な……なんだってっ!?」
そうして、告げられた真実にリクが打ちのめされている間に。
回避も防御も間に合わなくなった培養合成獣スカルゴモラの突進が、もろにウルトラマンジードを打ち据えた。
第一話あとがき?
ルカという名前は、アーサー・C(チャールズ)・クラークのもじりかつ、ス「カル」ゴモラが元ネタです。
一方、作中で「留花」という字が当てられて命名された理由は第二話、「君の名前」にて。