ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第十話「強敵-アマルガム-」Bパート

 

 

 

「うふふふ、あははははは……!」

 

 ……無邪気な哄笑が聞こえた。

 一瞬、爆発的な雷鳴に耳を劈かれていたトリィだったが――咄嗟に本来の姿に戻ったピット星人の身体能力は地球人よりはずっと早く、その聴覚を回復させていた。

 眩い雷光に灼かれていた網膜もまた明順応を果たし、一瞬の稲妻が変えてしまった世界を再認識する。

 そして、息を呑んだ。

 

「おバカな怪獣さんたち。超獣は怪獣よりつよいんだよ?」

 

 トリィを長い尾で囲むようにして守護する、巨大な威容。左右の背筋に備わった八本の黒い触手や、金色の鎧といった後付のような違いはあるが、それは確かにエレキングの面影を濃く残した――まだ閉じた小さな翼を生やした、白い竜のような超獣だった。

 擬態した後の姿でも、報告写真でもない。至近距離で初めて見る異次元の生物兵器の姿と――彼女がその正体を解き放った際の放電だけで、億単位は存在していたはずの吸血ボールも、群れを成して目の前まで襲来してきていたはずの巨大な飛行生物も、跡形もなく消え去っていたという戦果のほどに。数多の修羅場を踏み越えてきたと自負するトリィをして、言葉を失っていた。

 

「……お姉さまは、もっとつよいけど」

 

 誰に聞かれたわけでもないが、そう一言付け足した究極融合超獣サンダーキラー(ザウルス)は、その心地を示すように装甲された頭部を微かに下げた。

 その兄や姉に言われたからか。既に更地であったこの一画以外、先程の稲妻で星山市が受けた被害は見当たらないように思われた。

 

〈――おい! トリィ! 聞こえるなら報告しろ! 何があった!?〉

 

 気がつくと。地べたに転がったままの携帯電話から喧しく、ペイシャンの呼びかけが続いていた。

 

〈今、とんでもない音と一緒に電波も途絶していたぞ! ビースト振動波も掻き消えた! 本当に何があった!?〉

「……ごめんなさい、ペイシャン。私は無事よ」

 

 携帯電話を拾い上げてトリィが答えると、回線の向こうでペイシャンが微かに安堵する気配が伝わって来た。

 

〈……いや、無事だという理由を答えろ〉

 

 それから、すぐに気持ちを切り換えたような声音で、ペイシャンが問い詰めてきた。

 

〈そこには確かに大量のオコリンボールが降り注いでいた。おまえがビーストヒューマン化していないと信用できる事情を説明するんだ〉

「……守って貰ったの。この子に」

 

 ビデオ通話に機能を切り換えたトリィは、そっとそのカメラを眼前の巨体に向け直した。

 

〈サンダーキラー(ザウルス)……!〉

 

 驚愕したように、ペイシャンがその名を口にした。

 

〈……守って貰った、という経緯はわからんが――納得はできた。スペースビーストどもが全滅したわけもな〉

「――それがトリィのほんとうのすがた?」

 

 やり取りに関心を惹かれたらしいサンダーキラーSが、目のない顔をトリィたちへと向けてきた。

 自身がピット星人であるとも、その真の姿を教えたこともなかったが――究極融合超獣は、一般的な地球人女性から、蜻蛉のような印象の頭部をした怪人に変化したトリィのことを、過たずに識別していた。

 おそらく、ただの可視光以外の情報も読み取っているのだろうサンダーキラーSの問いかけに、トリィは頷く。

 

「そうなんだ! わたしも、これがほんとうのすがただよ!」

 

 それを解き放ち、窮屈な想いをしないでいいことが楽しいのか、身を翻したサンダーキラーSは、長い尾と触手をくねらせ無邪気に笑っているようだった。

 だが不意に、その首がまた反対の方角を向く。

 

「――あれ? まだくるんだ」

 

 懲りないの、と小馬鹿にする様子で空の彼方を見据えるサンダーキラーSに倣い、トリィもまた視線を巡らせる。

 

〈第二陣か……!〉

 

 ビデオ通話越しに状況を察したペイシャンが、そう呻いた。

 

 空中に開いたワームホールから、再び大量の球体が吐き出される。その流れに乗るようにして、白と黒の格子柄の体色をした烏天狗――ブリッツブロッツ型のスペースビーストが飛び出すと、上空から直接降下して来るアリゲラの群れを従え、リトルスターの輝きに惹かれるまま直進してきた。

 

「とじちゃお」

 

 対して、サンダーキラーSは無造作に、触手から青白い閃光を放った。

 ブリッツブロッツが躍り出たワームホールに、サンダーキラーSの発射したゼガントビームが直撃。炸裂によって時空の穴としての構造が書き換えられ、周辺の物質を吸引し異次元へと放逐する落とし穴に変貌。ワームホールから出てきたばかりだった無数のオコリンボールが、その軽さ故に吸い込まれ、呆気なく一掃された。

 

〈……ゼガントビームの方が、まだ助かるな。こっちにも状況がわかる〉

「そうなの?」

 

 続けて莫大な量の稲妻を練り上げようとしていたサンダーキラーSは、ペイシャンの感想を耳聡く拾い上げると、その攻撃を中止した。

 

「じゃあ、そうするね」

 

 そうして、超音速で迫る敵軍を前に余裕綽々と言った様子で、触手の先端から放つエネルギーをゼガントビームの物に変換し、乱れ打ちにした。

 七条の光線はアリゲラの群れを薙ぎ払い、次々と時空の穴を開設する。周辺の物質を巻き上げる暴風が発生するが、触手の一本をトリィの周囲に侍らせたサンダーキラーSがドーム状のバリアを展開してくれたおかげで、巻き込まれずに済む。

 強烈なビームにアリゲラたちがあっさりと灼き払われ、残された残骸や、直撃を回避した個体も時空の彼方へと放逐される中。ゼガントビームの内の一本を、ブリッツブロッツがその胸で受け止めた。

 ブリッツブロッツの胸に露出した水晶体が、時空の因子を含んだビームを吸引。驚いたのか感心したのか、それを見たサンダーキラーSが照射を止めた次の瞬間、ブリッツブロッツが胸から強化されたゼガントビームを撃ち返す。

 

「へぇ……」

 

 猛然と迫る時空転送光線を、サンダーキラーSは棒立ちのまま出迎えた。

 

「やるね――でも、わたしもできるよ?」

 

 トリィの目の前で、サンダーキラーSの胴体を直撃したゼガントビームは、そのままリトルスターを宿した彼女のカラータイマー状器官に吸い込まれた。

 

「きらーりばーす!」

 

 周囲の空間を捻じ曲げて収束させ、小さな胸部の水晶体だけで光線を受け止めた究極融合超獣はかつてのベリアル融合獣のように、そして眼前のブリッツブロッツのように光を呑み干すと、それを自身の体内で増幅させて、口から再発射していた。

 

「――!?」

 

 驚愕し、回避行動に移れなかったブリッツブロッツが、再び胸の結晶体で増幅されたゼガントビームを吸引。連続の吸収で限界が近いのか、手から光弾を繰り出しサンダーキラーSを牽制するも、触手の一本がアリゲラにビームを放つついでに閃いただけで呆気なく打ち弾かれてしまう。

 だが、何とか放出が終わるまで耐え抜き、ゼガントビームの再吸収に成功したブリッツブロッツは、先程とは射角を変えて青白い光線を吐き出した。触手を狙われた格好となったサンダーキラーSは、しかしその触手を一瞬で光怪獣プリズ魔と同様の結晶体に変異させると、そこからでも時空転送光線を無力化し、全て吸収してみせた。

 

「うふふふ――まだまだ……!」

 

 そうして、さらに増幅したゼガントビームを、サンダーキラーSはブリッツブロッツの胸に撃ち返した。

 

 いくら、完全体の滅亡の邪神が放った分身でも。わずかな細胞に過ぎないブリッツブロッツと、幼体とはいえ滅亡の邪神そのものであるサンダーキラーSとの間には、覆し難いエネルギー容量の差が存在していた。

 まして、サンダーキラーSは知る由もないが――中ノ鳥島で、彼女の姉であるスカルゴモラの太極拳による一撃を胸郭に受けていたブリッツブロッツの水晶体は、既に微かな亀裂を走らせ、その損耗を回復できていないままであった。無論、日光の下では、液汁超獣ハンザギランに由来する不死身の再生力を持つ究極融合超獣は、そんな助けがなくとも吸収能力のダメージレースに負けることはなかっただろうが、決着は早まった。

 

 結果として三度目、それも既に四回の上乗せを受けたゼガントビームの照射に耐えきれなかったブリッツブロッツの水晶体が先に限界を迎え、炸裂。その胸を中心に発生した時空の穴へと、破滅魔人型のスペースビーストが瞬く間に呑み込まれる。

 その頃には既に、空を埋め尽くしていたアリゲラたちも、一羽も残っていなかった。

 

「……もうおしまい?」

 

 相手の十八番で力の差を見せつけるような、幼い嗜虐心を剥き出しにしてブリッツブロッツを弄んだサンダーキラーSは、敵の消え去った空に小首を傾げて見せていた。

 

〈――いや。南の方に、まだスペースビーストの軍勢は残っている〉

「ペイシャン!?」

 

 あまりにも圧倒的な究極融合超獣の性能を目の当たりにして、その戦力を利用しようとする発言を、ペイシャンが堂々と口にする。

 思わずトリィが抗議するも、サンダーキラーS自身に気を悪くした様子はなく、小さな画面の向こうのペイシャンに興味を示したようだった。

 

「……あ。おじさん、お兄さまたちとおはなししていたひと……?」

〈そうだな。ついでにトリィの上司だが――〉

 

 既にサンダーキラーS――サラが、トリィに友好的だと察したらしきペイシャンの言葉が続くも、判断に弱った様子の究極融合超獣は、トリィの方へ向き直った。

 

「えっと……やっぱりあの怪獣さんたち、ぜんぶたおしたほうが、トリィはうれしい?」

「それは――そう、だけど……」

 

 ――問われたトリィは、結局頷いてしまっていた。

 滅亡の邪神を筆頭としたスペースビーストという、宇宙規模の大災害。別宇宙から応援に来たウルトラマンたちを含めてもなお手が足りないこの状況で、スペースビーストを軍団単位で物ともしない戦力と、敵が勝手に突っ込んで来るリトルスターを抱えたとびきりの鬼札を惜しむ間に、トリィの愛した地球が滅んでもおかしくはない。

 その脅威に本気で立ち向かう彼女の兄姉――サラが仲直りしたい相手の手伝いをする形となれば、きっとその願いも叶え易くなるはずだ。

 何より、間違ってもスペースビーストに情けをかけるようなことをすれば、狙われているサンダーキラーS自身が足をすくわれかねない。

 それが結局は、事の重大さをわかっていない子供を戦いに駆り立てる、卑怯な大人の欺瞞でしかないと……悔やむトリィに対し、サンダーキラーSは元気よく頷き返した。

 

「わかった! じゃあわたし、やっつけてくるね!」

 

 まるでトリィの役に立てるのが嬉しいように、装甲で顔を覆ってなお、笑っているのがわかるサンダーキラーSの様子に、トリィは思わず警告した。

 

「サラ……でも、気をつけて。スペースビーストは、あなたのリトルスターを狙っているわ」

「おほしさまを?」

 

 驚いたように自らの胸元へ爪を伸ばすサンダーキラーSは、しかしすぐ関心を失ったようにして、再びトリィの方へとその大きな顔を向けた。

 

「しんぱいしてくれてありがとう、トリィ。でもだいじょうぶ。だって超獣は、怪獣よりつよいんだよ?」

 

 せめてもの心配。トリィの自己満足の偽善にも、表情のない顔に、きっと不敵な笑みを浮かべてサンダーキラーSが答えた。

 

「――あ、またきた」

 

 そうして彼女が身を翻したその時、異変が起きた。

 いつの間にか、周囲が虹色の極光に覆われていた。

 

〈これはメガフラシの……またイズマエルか?〉

 

 画面越しのペイシャンが警戒した声を漏らした次の瞬間、轟音が生じた。

 

 ――現れたのは、三体の巨大怪獣だった。

 大地を揺らして降り立った内の一体は、サンダーキラーSの遺伝子上の父であるウルトラマンベリアルが使用した怪獣カプセルの中身、超合体怪獣と瓜二つだった。

 超古代怪獣ゴルザ、超古代竜メルバ、宇宙戦闘獣(スーパー)コッヴで身体を構成し、その右手に宇宙海獣レイキュバスの身体そのものが変形した鋏を、左手には巨大な眼球そのものである奇獣ガンQの顔を盾のように備えた有翼の異形、ファイブキング――収斂進化と呼べるものか、野生に存在しないはずの超合体怪獣と同様の姿形に至った強力なスペースビーストが、そこに出現していた。

 

 続けて、何もない空間へ突如として――テレポートにより出現した、爬虫類寄りの印象を感じさせる怪獣。

 黒い身体に胸部の発光体と、あの宇宙恐竜ゼットンそのものの胴体を持つその怪獣は、しかし両肩から長い突起を伸ばし、側頭部から脚部までを双頭怪獣パンドンそっくりの赤い表皮で覆いながら、見覚えのない鮫や深海魚のような顔をした、これまた複数の生物の特徴を併せ持つ異形の怪獣だった。

 

〈あれは……噂に聞く、ゼッパンドンか?〉

 

 その名のままに聞こえる鳴き声を発する怪獣を見、ペイシャンが呟いた。それを耳にして、トリィも思い出す。

 工作員時代にも、聞いたことがあった。異世界から集結した若きウルトラマンたちと、多元宇宙で悪名を馳せていた宇宙海賊ムルナウの一味が対決した最中、一時孤立したウルトラマンオーブに味方した、「ゼッパンドン」と鳴く謎の怪獣が出現したと。

 その正体は、ウルトラマンオーブと因縁浅からぬ宇宙人――昨年、この地球(サイドアース)にも出現し、AIBと共同戦線を結んだ無幻魔人ジャグラス・ジャグラーという説もある。だがAIBの集めた状況証拠としては否定的なものの方が多いため、やはり謎の存在として語られているその、ゼットンとパンドンを中心とした合体怪獣が、どうやらそれら原種を取り込み、遺伝子情報を混ぜ合わせたスペースビーストとして、この場に姿を現していたらしい。

 

 そして――ファイブキングと同様、翼を用いて飛来した最後の一体は、トリィの記憶に合致するものがなかった。

 

「ペイシャン、あれは……」

〈知らん。見覚えのある顔や翼もあるが、既存怪獣として聞いたこともない――新種のスペースビーストのようだ〉

 

 生き字引のようなペイシャンをしてそう言わしめるのは、ファイブキングに負けず劣らず醜悪な、継ぎ接ぎ死体のような灰色の怪獣だった。

 見たこともない凶相の、肉食恐竜型の頭部。先端に角が突き出た以外は、火山怪鳥バードンそっくりの両翼。背中からは別名通り髑髏となったレッドキングのミイラと、宇宙甲虫サタンビートルの複数の棘が生えた前足のような角が左右に伸びており、レッドキング状の両脚の腿から上は、発泡怪獣ダンカンに似た棘で装甲している。

 そして胸部には、ノーチラスタイプビースト・メガフラシの顔を。頭部の左右非対称な角の根本には、M78星雲人の裂けた顔を思わせる硬質な組織をそれぞれ貼り付けた……悍ましい姿に、スペースビーストが奪ってきた無数の生命の痕跡が見て取れる、死神の如き怪獣だった。

 

〈隔離空間の発生源はこいつか。計測されるビースト振動波の値を見るに、明らかにイズマエルと同等以上の最上級ビーストのようだ――類似する怪獣が未確認な以上、名前を付けないことには作戦運用に支障が出るな〉

 

 宇宙最強種の一角に数えられる、ゼットンの遺伝子情報を持つと思しき合体魔王獣ゼッパンドン。

 戦闘用にデザインされた五体もの怪獣を融合させた、超合体怪獣ファイブキング。

 そのいずれの似姿よりも、なお格上だと推定した三体目の未知なる合体怪獣へと、ペイシャンが呼び名を与えた。

 

〈まるで、死神――こいつはアマルガムタイプビースト。コードネーム、ヘイデウス〉

 

 死に向かう衝動(デストルドー)と同一視される死神タナトスが、さらに内包された形で同一視される冥界の王、ハデス。

 それに肖った名前を授かりしスペースビーストは、悍ましいほどに甲高い絶叫を発して、星山市を震撼させていた。

 

 

 

 

 

 

 ……これはまだ、この場の誰も預かり知らぬ、遠からぬ未来。

 今も、光の国でウルトラマンゼロに付き纏って弟子入りを志願しており、やがてはウルトラマンジードとも出会うことになる、一人の若きウルトラマン。

 彼が、そのゼロやジードも訪れることになる、別次元の地球の防衛組織の青年と一体化したことで始まる戦いの、その最後に立ちはだかる相手。

 死と破壊の王とも呼ばれる、死に向かう衝動の名を戴くその殲滅機甲獣と、一部の差異こそあれど。ヘイデウスと名付けられたスペースビーストは、収斂進化のように酷似した姿をしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 突如としてメタフィールドに出現したアマルガムタイプビースト、バシレウス。

 暴君怪獣タイラントを構成する七大怪獣に古代怪獣ゴモラとM78星雲人の遺伝子情報を加え、デビルスプリンターを核として産み出された混合獣型のスペースビーストは、その五本角を禍々しく輝かせた。

 途端、スカルゴモラとタイガトライストリウムに強大な重圧が襲いかかり、その常軌を逸した負荷の余りに巨人は膝をつき、屈強な培養合成獣も身動きを封じられる。

 

〈これは……念動力によって異常重力場を発生させているようです〉

 

 名付けて、グラビトロプレッシャー。

 先程、スカルゴモラがレイオニックバーストの出力に物を言わせ、イズマエルグローラーを叩き落としたのと同様の現象を、作用する範囲を狭めることでさらに強力な攻撃としたものであるようだ。

 怪獣以外の地球の生命体ならば既に絶命しているほどの高重力にも、ウルトラマンと培養合成獣は持ち堪えてみせるが、そこに畳み掛けるようにもう一度、バシレウスが角の間に紫電を走らせる。

 

「(この――っ!)」

 

 同時に、スカルゴモラも自らの角を輝かせた。

 怪獣念力により、バシレウスが形成するのと同様、かつ反発するベクトルの重力場を形成。二重のグラビトロプレッシャーと相殺し合って、正常な重力を世界に取り戻す。

 ……どうやら、出力は概ね互角。故に念力も超振動波も相殺され、熱線は宇宙大怪獣ベムスター由来の腹部、吸引アトラクタースパウトで無効化されてしまう。

 ならば殴り倒すしかない、と。レイオニックバーストで得た身軽さを使い、反撃に打って出るものの――縦回転しながら繰り出した尻尾の一撃は、確かに回避を許さぬ軌道を描いたはずが空を切り、逆に凶器を備えた尾・バラバラバテールによる横薙ぎの一撃に背中を強く打たれることとなる。

 

「ルカ! ――うわぁっ!?」

 

 心配して駆け出そうとしたタイガもまた、大量の光と炎に呑み込まれ、その威力の余りに悲鳴を発する。

 この閉鎖空間(メタフィールド)に現存する敵は、バシレウスだけではない。もう一体の合体怪獣型スペースビースト、イズマエルグローラーもまた、その猛威は健在だった。

 

「(……幻覚!)」

 

 自らの攻撃が不発させられた原因を悟った頃には、イズマエルグローラーの圧倒的な火力がスカルゴモラを襲っていた。

 その威力のほどに、今のスカルゴモラをして思わず後退する。バシレウスに確認できたような、燃え上がるオーラは見えなかったが――増援が現れる以前より、イズマエルグローラーもまた、その攻撃力を倍加させていた。

 そこに、バシレウスの放つ強烈な炎の息吹、タイラントの火炎放射の強化版・ハイパーデスファイヤーも追加され、強烈無比な十字砲火から逃れるべく、いよいよスカルゴモラも一度間合いを仕切り直す。

 

「くそ、厄介な……!」

 

 常時発動ではないとしても。目を合わせればどこかのタイミングで敵味方を誤認させられ、単純な攻防の間合いも狂わさせられるイズマエルグローラーの能力に、タイガが舌打ちした。

 

「(……私は最悪、イズマエルの方とは目を閉じてても戦える。でも、それで飛ばれるとあっちの妨害に対処できない――!)」

 

 音響感知を使えるスカルゴモラは、それを無効化する上に、光線や念力と言った飛び道具も封殺あるいは相殺するバシレウスの脅威を述べた。

 

「(――ったく、しゃーねぇな。一度分離するぞ、タイガ)」

 

 そこで、新たな思念の声が響いた。

 

「フーマ……?」

「(俺の技、魅せてやるよ!)」

 

 次の瞬間、タイガから青い光が飛び出して、彼は銀色を主とした基本形態に戻っていた。

 タイガから分離したのは、風の覇者ウルトラマンフーマ。トライストリウムをも遥か置き去りにする神速を発揮する彼の影は、直線にイズマエルグローラーにまで伸びていた。

 

「――(ニン)!」

 

 イズマエルが全身の砲口で迎撃する瞬間、フーマは印を結ぶ仕草を見せ、そして煙となって掻き消えた。

 

「文字通り――目眩ましってな!」

 

 そのまま、残像しか残らない超高速移動を重ねるフーマは、至近距離からイズマエルの全身から放たれる火線を紙一重で躱し続ける神業を見せた。

 

「あいつ、どうして――!?」

「そうか……見てはならない敵ならば、見なければ良い。見えない敵と戦う術も、フーマは身につけている!」

 

 トライストリウムさえ翻弄したイズマエルグローラーの幻覚の影響を受けず、逆にその速度で敵を翻弄するフーマの活躍にタイガが驚くと、彼の隣に再出現していた力の賢者タイタスが、状況を察して叫びを上げた。

 

「そーいうこった……とはいえ、流石にこいつの目を隠すのが精一杯だけどな、っと!」

 

 イズマエルグローラーの周囲を飛び交い続けるフーマは言葉の最中にも、白煙を出して敵の目を欺く幻煙の術で、イズマエルの姿をタイガたちから隠していた。

 

「攻撃は任せるぜ、タイガ、旦那!」

「ああ!」

「心得た」

 

 完全にイズマエルグローラーを煙に巻いたフーマの呼びかけで、討つべき邪悪の位置を悟った二人のウルトラマンが駆け出す。

 そんな三人――特に、要となるフーマの足を止めようと、バシレウスが五本の角を光らせる。

 

「(――させるか!)」

 

 同時、怪獣念力を行使したスカルゴモラが、バシレウスの発生させた重力場を掻き消した。

 ……トライスクワッドがイズマエルグローラーを抑えてくれるのなら、バシレウスをあちらと分断し、撃破するのは己の役目だと、スカルゴモラは闘志を滾らせる。

 

「(おまえの相手は、私だぁ――っ!)」

 

 咆哮とともに。培養合成獣スカルゴモラは、強敵へと踊りかかった。

 

 

 

 

 

 

「ばりあ、はれない……」

 

 新たに現れた三体の合体怪獣型スペース(アマルガムタイプ)ビーストを前にして。ピット星人の正体を晒すトリィ=ティプを庇おうとしたサンダーキラーSは、その変化に気がついた。

 

〈そうだ。今おまえたちが居る場所は、特殊な位相空間として隔離されている。そこでは一定以上の非実体エネルギーは拡散され、光線も雷撃もバリアも使えない〉

 

 耳を澄ませば、トリィの持つ携帯電話から、そんな説明が聞こえて来た。

 

〈おまえも兄と同様、豊富な光線技が主力だろう。その場で戦うのは不利だ。隙を見て、トリィとともに離脱しろ〉

「えーっと……?」

 

 気軽に言われるものの、隔離空間であるというのなら、この次元をただ移動するだけでは脱出できない。

 無論、超獣であるサンダーキラーSは空間を破壊して異次元への扉を開き、脱出することなど訳はないが――果たしてバリアもないまま異次元空間にトリィを連れて行って大丈夫なものなのかを、少し思い悩む。

 ……そもそも、隙があればそのままやっつければ良いのでは、という考えが、サンダーキラーSの脳裏を過る。

 

「うーん――たぶん、だいじょうぶ」

 

 空間を割って、異次元の回廊に繋げながら口にしたのは、トリィをそこに連れ去る決心ではなく。眼前に出現した三体のスペースビーストを、このまま相手取ることへの、楽観だった。

 

「きらーとらんす――バッカクーン・ている」

 

 光線も稲妻も射てないらしいが、たかが怪獣相手なら特段困ったハンデでもない。

 だが、バリアを張れないのは、トリィの安全を確保する上で問題となる。そこで、代わりの盾を用意することを、サンダーキラーSは決めたのだ。

 そうして、触手の内の三本を変化させた、寄生怪獣の尻尾を、物置代わりにしている次元の中へ潜り込ませる。そこで、ゼガントビームの追放空間から、このバッカクーンの菌糸と共に頂戴していた怪獣の死骸へと、菌糸を伸ばし、接続する。

 その糸に引っ張られて出現したのは、全身を隈なく装甲した、三体の機械化怪獣――ラグストーン・メカレーターだった。

 全身から茸を生やしたラグストーン・メカレーターは、トリィを取り囲んで円陣を組み、強固な壁となって彼女の安全を確保する。

 ……その間、三体のスペースビーストたちが既に攻撃を仕掛けてきていたのを、残りの触手を動員して、サンダーキラーSは捌いていた。

 

 転移を繰り返してサンダーキラーSの攻撃を躱すゼッパンドンが、死角を探るように火球を放つ。それを過たず触手が払い除け、鋭い先端の鉤爪で貫こうとするのを、一拍早くゼッパンドンがテレポートして回避する。モグラ叩きは、現状ゼッパンドンがリードしている。

 ファイブキングが両腕から繰り出す衝撃波と火炎、冷凍光線を、サンダーキラーSは両腕の爪で切り裂いて霧散させる。これは特に問題ない。

 そして、ヘイデウスが全身の棘を誘導弾のようにして放つデストルドヘルファイアを、本家超獣として両肩のザウルススティガーで弾幕を展開することで迎撃し、相殺する。

 

 サンダーキラーSはそこまで認識が回っていないが、先程のブリッツブロッツの敗北を知ったスペースビーストたちは、サンダーキラーSに吸収される光線技は使わずに、徐々にその体力を削ろうとするような攻撃を仕掛けてきていた。

 しかしスペースビーストたちもまだ、サンダーキラーSが太陽光だけで活動エネルギーを賄えることを知らないために、そんな悠長な様子見を選んだ格好となっていた。

 結果、三体の合体怪獣(スペースビースト)と、特殊位相空間の働きで光線技を封じられた究極融合超獣(サンダーキラーS)の戦いは拮抗している状態だったが、小競り合いに対して先に痺れを切らしたのは滅亡の邪神の尖兵ではなく、幼体の方だった。

 ファイブキングからの攻撃がインターバルを迎えたのを見逃さず、究極融合超獣は攻勢に打って出る。

 

「きらーとらんす――ベロクロン・みさいる」

 

 サンダーキラーSの触手の内の一本が、宇宙怪獣と珊瑚を融合させた超獣の定番、ミサイル超獣ベロクロンの背部へと変化して、大量の生体ミサイルをそこに鎮座させる。

 

「サボテンダー・さぼてんぼーる」

 

 続いて、別の触手の先端が膨らむと、全身の棘をミサイルとして発射できるさぼてん超獣サボテンダーが丸まった状態と同じ球体へと変貌する。

 

「ドラゴリー・はんど」

 

 次は本体の両掌を、蛾超獣ドラゴリーの濃緑のそれへと変化させる。怪獣を文字通り紙のように引き裂き解体する握力を最大の武器とするドラゴリーだが、そこにはロケット弾の発射機構も埋め込まれているのだ。

 

「バキシマム・へっど」

 

 そして、ここまで名を呼んだ三体と並ぶ超獣の傑作機、一角超獣バキシムの上位種――一角紅蓮超獣バキシマムの頭部へと、一本の触手の先端を文字通り変貌させる。

 ヤプールの次元から出奔する際、取り込んできた再生産ロットで眠る超獣たちの力。サンダーキラーSはそれを、キラートランスによって部分的に再現することで実体弾主軸の攻撃に切り替え、隔離空間の戦闘に適応しようとしていた。

 

「いっせいはっしゃ!」

 

 元より備えていたザウルスティンガーに加えて、ベロクロンとサボテンダーの生体ミサイルが一斉に射出され。ドラゴリーの両掌からロケット弾を次々と発射し、一角紅蓮ブーメランを投擲したバキシマムの鼻先に備えたバルカン砲を連射する。

 全ての武装を再現できたわけではないが、超獣五体分に相当する弩級の火力を前にして、スペースビーストたちも身構えた様子だった。

 ヘイデウスは全身の棘を飛ばすのみならず、両腕を交差させて放つ切断光線デストルドリーパーで一角紅蓮ブーメランを迎撃。ゼッパンドンは転移して誘導されるミサイル群を引き寄せながら、火炎弾で撃墜しつつ、テレポートして回避を重ねる。

 それでも膨大な数が残ったミサイルにロケットに砲弾に対して、ファイブキングが左腕のガンQを妖しく光らせた。

 不条理の化身であるガンQは、吸収能力を発動。サンダーキラーSが放つ無数の弾薬をその目の中へ埋め込ませながら、残りの二体を庇うようにして全ての火線を吸い寄せる。

 その展開を目の当たりにして――先程、吸収能力を持つ相手が何をして来たのか覚えていたサンダーキラーSは、弾切れを起こすと同時に眼前の空間を破壊した。

 次の瞬間、ファイブキングがガンQから吐き出した無数の砲弾が、サンダーキラーS目掛けて殺到。射線上で、落とし穴のように開いていた異次元の穴の中へと、弾幕が回収されていく。

 ガンQの吸収能力を潰さなければ、砲撃でも効果が薄いことを悟ったサンダーキラーSは、残る一本の触手もまたバッカクーン・テイルへとキラートランスさせる。四体目のラグストーン・メカレーターを異次元の穴から引っ張り出して、最も与し易いとみたヘイデウスに差し向ける。

 死体に寄生して操っているだけのため、パワーダウンは否めないものの。それでもサンダーキラーSの兜や鎧と同等以上の強度を持つラグストーン・メカレーターならば、時間稼ぎには充分だ。そう判断したサンダーキラーSは、テレポートを重ねるゼッパンドンを適当に牽制しながら、ファイブキングへと本体が直接出向くこととした。

 

 ――異様なエネルギーを察知したのは、そのための一歩を踏み出した時だった。

 

「――あれ? それ、超獣の……」

 

 自身への注意が散漫になったと見たヘイデウスが、その胸部に集約するエネルギー波長。認識したそれが、馴染みの深い感覚であったために、サンダーキラーSは興味を惹かれた。

 

 そして、進めていた足を止めたその瞬間――メガフラシの顔をしたヘイデウスの胸部から、紫色の破滅が放たれた。

 

 その目が眩むほどの光は、ヘイデウスへと向かっていたラグストーン・メカレーターを直撃。サンダーキラーSでさえ物理的には突破困難なその装甲の全面に、一瞬にして亀裂を走らせた。

 それがただの物理的なエネルギーによる結果ではないと悟ったのは、未だ閉じていなかったラグストーンの発進口兼、防御用の異次元の穴が、それを形作るのと同様の干渉を受け、破壊された時だった。

 

「あ――っ!」

 

 プリズ魔へのキラートランスによる防御すら、その破滅の輝きは素通りして、サンダーキラーSの背中を掠めた。

 そして、空間が潰れた。

 

「――あぁああぁぁぁっ!?」

 

 強堅なるラグストーン・メカレーターも。空間に開いた穴による異次元の防壁も。

 そして、あらゆる光学干渉を無害化し取り込むはずの究極融合超獣の触手すらも。全てが次元崩壊に巻き込まれ、跡形もなく破壊された。

 触手を破壊された痛みに、サンダーキラーSが悶える。本来、直に受けた触手と背中の一部だけで被害が済むような現象ではないが、超獣として備えた空間制御能力がそれ以上の崩壊を食い止めていた。

 さらに、姉である培養合成獣スカルゴモラの作ったメタフィールド内での負傷と異なり、太陽光の届くこの位相空間では液汁超獣ハンザギランの情報から獲得した再生能力が機能する。不死身に近い超獣の生命力は、苦痛を訴える叫びの間に欠損をほとんど復元していたが、この際負傷の度合いなど問題ではなかった。

 ただ単に。サンダーキラーSはまだ、痛みに慣れていなかったから。

 

「痛い、痛い、痛いぃぃぃ……っ!」

 

 無様に崩折れる究極融合超獣が悲鳴を発するのに、彼女を取り囲む三体のスペースビーストは嘲笑うような鳴き声を重ねた。

 既に傷が消えていることにすら、認識が追いつかないほどの。痛みというとびきりの刺激を受けたことが、彼女の心を恐怖と絶望に塗り潰しつつあった。

 

「――サラ、落ち着いて!」

 

 そんなサンダーキラーSの耳に届いたのは、心を許した相手の呼びかけだった。

 

「ト、リィ……?」

「落ち着いて、大丈夫! もう怪我は治ってるから、痛くない! それより、次の攻撃が来るわ!」

 

 視線を巡らせると、彼女を守護していたはずのラグストーン・メカレーターたちは、接続していた触手が消し飛んだことで屍に戻り、野晒しに身を投げ出していた。

 その隙間から這い出てきたと思しきトリィが懸命に声を張り上げてくれるのが聞こえて、ようやくサンダーキラーSは自身の状態を把握することができた。

 

「ほんとだ――痛くない!」

 

 やっぱりトリィは、サラのことをサラ自身(サンダーキラーS)よりもよく知っている。

 そう思った究極融合超獣が、歓声とともに起き上がり、御礼を伝えようとしたその時だった。

 ヘイデウスから追撃として放たれた棘の群れが、爆弾としてサンダーキラーSの眼前で炸裂したのは。

 

「そんなのきかない……っ!」

 

 ラグストーン・メカレーターの装甲に匹敵する兜で覆われたサンダーキラーSの頭部は、デストルドデスファイア数発で痛みを覚えることなどなかった。

 だが、敵手へ振り返るその最中に、サンダーキラーSは見た。

 爆発に巻き込まれて――ピット星人の姿のままのトリィが、胴を赤く染めて倒れ込んでいた。

 

「――トリィっ!?」

 

 意識を取られたところに、ファイブキングとゼッパンドンも火炎弾を連射して、追撃を仕掛けてきた。

 高熱が細胞を焼く痛みが、意識の焦点を奪おうとするも――その時、サンダーキラーSは生まれて初めて、痛みよりも強い感情で、それを制することができた。

 

「……じゃましないで!」

 

 被弾を無視する怒りとともに、修復を完了した触手を叩きつける。三体それぞれに二本ずつ、計六本の触手を突き刺すように伸ばすが、ゼッパンドンは転移して躱し、一本受け止めるのでやっとだったファイブキングの左側をその尾を閃かせてフォローする。ヘイデウスだけはその両腕で一本ずつ、触手を受け止め弾き返していた。

 だが、先程あれだけの醜態を晒したサンダーキラーSが、防御を捨てたような挙動を見せたことは、スペースビーストたちにとっても意外なことであったらしい。

 おそらく――今、追撃を仕掛ければ、戦いを有利に運ぶこともできる。

 トリィを傷つけた分、いっぱい痛くしてやりたいという憎しみ――暗黒の化身である究極超獣の系譜にありながら、生まれて初めて抱いた怨みの感情がサンダーキラーSを囃し立てようとするが、しかし彼女はその牽制の一撃だけで、躊躇いなくスペースビーストたちに背を向けた。

 

「まっててトリィ、いまなおすから! ぜったいぜったいたすけるから!」

 

 サンダーキラーSは、残る触手の二本を繊細にトリィへ近づけ、そして全ての力を傾けた治癒光線を放っていた。

 リトルスターに由来する、ウルトラマンガイアの治癒光線。そして一昨日、スカルゴモラのレイオニックバーストを鎮めると同時に、サンダーキラーSの怪我を治そうとしてくれた、兄であるウルトラマンジードから浴びせて貰ったフルムーンネオヒーリング。

 習得した、二つの治癒光線。特殊位相空間にその働きを阻害されながら、サンダーキラーSはひたむきに、その光をトリィに押し当てていた。

 隔離空間の影響で、治癒光線も即座に無意味な光量子にまで拡散させられてしまう。だが、密着した至近距離ならば、完全に無力化される前に、ほんの少しずつでもトリィの肉体に作用させることが叶っている。

 その結果、胴が千切れかけているピット星人の生命を、辛うじて繋ぎ止めることには成功していた。

 

「こんどはわたしが、トリィをたすけるから――!」

 

 スペースビーストたちから浴びせられる火球に頭を揺らし、前足を付きながらも。トリィを傷つけないように触手のバランスだけは崩さず、サンダーキラーSは決意を叫ぶ。

 だが、この空間の妨害がある限り、現状維持が精一杯だ。異次元を経由して脱出するという選択をもう一度検討するが、おそらくその移動の際の衝撃に、今のトリィの命はいよいよ耐えられない。

 ならば、この空間を作っている相手を抹殺する。ちょうどトリィを傷つけた仇敵であるヘイデウスが術者であり、都合は良い――が、敵に有利な空間内でトリィを守り、命を繋ぐ手当をしながらの片手間で倒すのは、流石に容易な相手ではない。他の抜け道を試すのも同様だろう。

 そうして、サンダーキラーSが手詰まりとなっているところに――牽制射撃をファイブキングとゼッパンドンに任せたヘイデウスが、再び胸部へと次元崩壊を招くエネルギーを蓄え始めた。

 

「あ……うぅぅぅ……っ!」

 

 あの攻撃は、サンダーキラーSをして防げない。実際に因子を含んだ光線を放つゼガントビームとは違い、目視できる光線自体のエネルギーはただの誘導光と、次元崩壊による副産物に過ぎないために、光線吸収能力は意味を為さない。次元防御にもゼガントビーム同様、時空構造体に干渉するため、上書きによる貫通性を持ち、そして、空間に存在を依存するあらゆる物理的な防御を無力化する、恐るべき異次元潰滅兵器だ。

 一度放たれるのを許してしまえば、同等以上のエネルギーをぶつけて相互干渉することで、強引に相殺するしか手立てはない。

 だが、この虹の隔離空間の中では、それも不可能――

 

 サンダーキラーSは触手を動員して、ヘイデウスの胴体を狙う。だがファイブキングがここまで隠し持っていた、サンダーキラーSから吸収していた超獣の砲火の残りを左腕から放って迎撃し、ゼッパンドンも転移して横合いから尾を浴びせることで、触手を打ち弾く。

 痛みを堪えながらも正気を保っていると、その触手を動かした分、回せるエネルギーが減ったからか。治癒光線を浴び続けているトリィの容態が悪化する。

 

 ――命を奪い、壊すのは、あんなにも呆気ないのに。

 命を守り、繋ぐのは、どうしてこんなに難しいのだろう……?

 

「だれか……」

 

 逃げることも、立ち向かうことも、耐えることもできないと。

 震える声で、自分だけでトリィを救う限界を認めたサンダーキラーSは呟いた。

 

「だれか、たすけてぇ――!」

「――コークスクリュージャミング!!」

 

 ……その声に、応えてくれる叫びがあった。

 突然。折り重なっていたラグストーンたちの亡骸を弾き飛ばして現れた、金と赤と黒の竜巻が、そのまま矢となってスペースビーストたちに飛び掛かった。

 完全に不意を突かれた格好になった三体のスペースビーストは、満足に迎撃できず、その巨大な矢がヘイデウスの攻撃に先んじて着弾するのを許していた。

 

「あ――っ!」

 

 サンダーキラーSは、目撃した。

 ヘイデウスを弾き飛ばした棍と横開きの鉤爪を左右に持ち、そのまま残る二体のスペースビーストも薙ぎ倒す救いの主たる巨人の姿を。

 同時、位相空間の生成器官をヘイデウスが潰されたことで、エネルギーへの干渉が消滅。万全の治癒光線をトリィに浴びせることが可能になった、その瞬間を。

 

 そして、絶体絶命の危機に駆けつけてくれたヒーローは、振り返りざまに優しく、呼びかけてくれた。

 

「――助けに来たよ、サラ」

「お兄、さま――!」

 

 感激のあまり、言葉を詰まらせながら――サンダーキラーSは、同じ遺伝子から産み出された命へと、歓喜の声を発していた。

 

 

 

 

 

 




Bパートあとがき


 ……ということで、スペースビースト名義で既存ウルトラ怪獣を出していたのは、時系列的に未来のラスボスとなる合体怪獣をきぐるみ流用枠で出すための言い訳&前振りでした、はい。架空のTV放送続編のノベライズ風で執筆する本作の、「せっかく作ったスーツはちゃんと再利用しなきゃ……!」というニュージェネ脳の再現遊びになります。


 ヘイデウスことデストルドス、バシレウスことストロング・ゴモラントに加え、ファイブキングとイズマエルも居るので、タイラント系四天王大集結な回ですね。ファイブキングだけ強化されていなかったり、イズマエルは厳密に言えば平成のジャンボキング枠(令和にはまだいない)で色々と歪ですが、まぁそれはそれということで。
 取り急ぎ、今回のボス枠の片割れ。



・アマルガムタイプビースト「ヘイデウス」

 本作オリジナルのスペースビースト――と言いつつ、ぶっちゃけ、出し難い新造スーツ怪獣こと『ウルトラマンZ』のラスボスである殲滅機甲獣デストルドスの小改修スーツでの再登場を想定しています。これまたイズマエルと並べればスペースビーストと言い張れる方向性の怪獣ですよね、デストルドス。
 作中時系列ではまだ確認されていない存在なので、デストルドスというネーミングが使えず、純粋なスペースビーストの命名法則であるカタカナ五文字表記に合わせた呼称で登場して貰いました。
 名称の元ネタとしてはデストルドーとハデス(正確な発音はヘイディーズが近いそうです)がどちらもタナトスに同一視されることがある点から、になります。冥府の王=死(と破壊)の王であると同時に、邪神ザ・ワンの犠牲となったモブのM78星雲人=ウルトラマンの情報を利用して作られた分身であるため、Uを付け足してHadeusと命名された、という体です。恥ずかしいぐらい厨二。まぁガルベロスもガルム+ケルベロスだったり、ノスフェルもノスフェラトゥだったりしますので、お許しください。

 ベースがウルトロイドゼロではないですが、バシレウスことストロング・ゴモラントの構成要素に殺し屋超獣バラバが含まれており、モブトラマンもザ・ワンが美味しく頂いている関係上、肝心要のD4レイは普通に使えるので、基本能力的にはデストルドファランクスがないことを除けばだいたい本家デストルドスと同等かベリアルメダルがない分だけ劣化ぐらいのイメージです。
 ただ、胸部のマジャパ部分がメガフラシ(またかよ)に換装され、その能力も使える……という点では、もしかすると強化体なのかもしれません。
 レッドキングと言い、微妙に他のタイラント系合体怪獣と構成要素が被ってしまう枠。
 ちょうど、スペースビースト版ストロング・ゴモラントことバシレウスともども名前が「-us」で終わるため、「(U)ルトラマンの情報を取り込んだ(S)ペースビースト」を意味するという括りにできそうです。
 バシレウスともども、設定上光の国襲撃後に作れた分身なので、ゼロはまだ存在を知らない=サンダーキラーSを脅かせるスペースビーストとしての想定に入っていないという扱いです。後はサラが誰かを庇って不利な状況でも逃げないとかもゼロは予想していないので、ゼロは節穴ではない扱いでお願いします。



・フィンディッシュタイプビースト「オコリンボール」

 最新作『ウルトラマントリガー』にも極一部だけが登場した、トラウマ性能がスペースビーストに迫るぐらいゴクジョーと評判な怪獣。そのスペースビースト版。
 元々は『ウルトラマン80』で初登場した、複数の球体状群体生物からなる宇宙怪獣、コブ怪獣オコリンボール。間抜けな名前ながら『悪魔のような(フィンディッシュ)』に分類したくなるぐらい、個別に物理的に地球人を殺傷した数では多分ウルトラシリーズでもトップランクのおっかない怪獣。
 元々は早々にイズマエル出しちゃったから、等身大での脅威として原典ビーストを今更出すのもな……という感覚から、上記の実績に着目しての登板。
 あとは『トリガー』の如く、怪獣として出さない場合はスーツ事情に優しいのもポイント。多分名前に続く数少ない可愛げ。
 本作の裏話的には巨大怪獣としては格闘戦への耐性の高さを活かし、光線を封じるメガフラシの隔離空間との合せ技により光の国との戦争で量産戦力として猛威を揮うも、ウルトラベルで全滅したとぼんやり考えています。
 裏話ではない部分では、本作が『ジード』の二次創作でなければ大変なことになっていたかもしれませんが、『ジード』の二次創作なので今のところ大丈夫だった。リトルスターの設定の秀逸さを再確認する良い機会となりました。


・一角紅蓮超獣バキシマム
 一角超獣バキシムの強化版。児童誌による「バキシム強化改造計画」の最優秀賞受賞作品が元。頭の角ミサイルを鋭角的なブーメランに強化した、横顔が素敵な超獣。
 映像作品にもボイスドラマにも未登場……ですが、実は『ウルトラマンギンガ』でスパークドールズが確認されている超獣の一体ということで、ダークスパークウォーズに参戦していたことからヤプールの生産ロットがあった扱いでいけるかな、という次第。ただ物語中で明示されているわけではないので苦しいところですが、それはそれでバキシム素体とヤプールの設計図を一緒に取り込んだのかもしれません。


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