ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第十話「強敵-アマルガム-」Dパート

 

 

 

 難敵イズマエルグローラーを倒し、遂にその真価を取り戻したウルトラマンタイガ・トライストリウム。

 合流した絆の勇者とともに、培養合成獣スカルゴモラ・レイオニックバーストは、最後に残された、そして最強の尖兵、合体怪獣型スペース(アマルガムタイプ)ビースト・バシレウスとの激突を続けていた。

 

「くそ、こいつも再生するのか……!」

 

 戦線に加わるも、主武装となるタイガトライブレードで斬りつけた傷が即座に復元されてしまい、光線技も吸引アトラクタースパウトで無効化してしまうバシレウスを相手に、攻めあぐねたタイガが苛立った声を上げた。

 太極拳の術理も活用し、バシレウスを肉弾戦で圧倒するスカルゴモラも、しかし打てども打てども体力の減る様子を見せないその生命力を相手に、タイガとの二人がかりでなお決め手を欠いた状態にあった。

 

「(この、しぶとい……っ!)」

〈おそらく、ゴモラに加えて、液汁超獣ハンザギランから奪った生命力によるものでしょう。ヤプールが再現した後発型は、太陽光がなくとも超獣としての存在を保ち、一定の再生力を維持していました〉

 

 メタフィールド抜きでは今のトライスクワッドはトライストリウムになれず、スカルゴモラも周辺被害を気にして本気を出せない。それではこの優勢すらも維持できない。

 早くメタフィールドを解いて、他の敵を引き寄せねばならないのに――そんなスカルゴモラの焦燥を受けて、レムが考察を述べる。

 

〈ですが、あくまで一定――スペースビーストとしての再生力と合わせても、メタフィールド内で今のルカの光線を当てれば、充分倒せるはずです〉

「(その光線が効かないんだってば……っ!)」

〈ベムスターに由来する吸引アトラクタースパウトは、一定のエネルギーを取り込み終えると、再使用のためにインターバルを必要とします〉

「――それなら!」

 

 レムの報告を受けたタイガは、自らを襲ったバシレウスの尾を切り払いながら距離を取った。

 狙いを察したスカルゴモラも、進歩搬攔捶(ジンブーバンランツィ)で剛拳をバシレウスに叩き込み、強引に後退させて距離を取る。

 続けて、体勢を崩したバシレウスに怪獣念力で上空から圧力を加え、転倒させる。グラビトロプレッシャーを逆に受ける格好となったバシレウスは、やはり念力で反発する重力場を作り身を起こすが、時間稼ぎは充分に果たせた。

 そして、厄介な重力操作という切札を、スカルゴモラへの対処に費やさせることにも成功した。

 

風真(フーマ)! 烈火斬!!!」

 

 その隙を狙い澄まし、タイガが逆手に構えたトライブレードから、青い炎の飛ぶ斬撃を繰り出した。

 超巨大手裏剣のような風真烈火斬は、先程から続けてタイガを狙っていたバラバラバテールと激突。尾の先端の凶刃は青い炎の刃に敵わず焼き切れ、バシレウスは腹部の吸引アトラクタースパウトによる無力化を余儀なくされる。

 

「今だ!」

「(インフェルノ・バーストォっ!)」

 

 レムの言う、吸引アトラクタースパウトのインターバル――それを作ったタイガの合図を受け、スカルゴモラは口腔に集約した全エネルギーを放出した。

 都合三発目の、分解消滅光線。対して、バシレウスは頭部からのハイパーデスファイヤーと、腹部から猛烈な勢いの冷凍ガスを、二重螺旋状にして繰り出した。

 超高温と、極低音――その歪みが互いの効果を高め合い極大の破壊力を作り出す超温差光線・ハイブリッドヘルサイクロンが、インフェルノ・バーストと激突。相手を消滅させようとする膨大なエネルギー同士が相克し、メタフィールドの中を白く染め上げる。

 吸収した風真烈火斬のエネルギーをも転用し始めたハイブリッドヘルサイクロンを、それでも全力のインフェルノ・バーストが圧して行く。だがじりじりとした干渉点の移動ペースでは、またも光線吸収を許すようになってしまう。

 そんなスカルゴモラの懸念を察したように、タイガが動いていた。

 トライブレードを手放した彼は、自らが斬り落としていたバシレウスの尾の先端をその手に掴む。切り離されても、なお単独の生物のように暴れていた尾を脇に挟んで押さえつけると、ブラストアタック時の要領で右手でなぞり、炎を灯した。

 

「――タイガ! ブラストランス!」

 

 そうして、タイガは発火したバラバラバテールの先端を、燃え盛る槍に変化させて投擲した。

 スカルゴモラとの撃ち合いと念力合戦に全力を費やしていたバシレウスには、それを防ぐ術などなく。自らの一部が変化した槍を首元に突き立てられ、その身を大きく仰け反らせた。

 

「(終わりだぁあああっ!)」

 

 射線が乱れたその瞬間を見逃さず、スカルゴモラは限界を越える勢いで、自らのエネルギーを放出した。

 射手自身の目をも眩ませるほどの青い光は、ただの個別の地獄の炎と氷に別れた竜巻を掻き消して、王の名を冠するスペースビーストに直撃。いくら強固な肉体を誇ろうとも、吸引アトラクタースパウトの力がなくては、純粋な破壊力に加えて分子分解と量子情報消滅の二重の効果を重ねた熱線を凌げるはずもない。

 そしてアマルガムタイプビースト・バシレウスは全身を量子分解の青い発光体に変化させ、高熱が巻き起こす茸雲型爆発の勢いのまま解け、デビルスプリンターごと散って行った。

 

「やったな!」

「(ようやく――倒した……っ!)」

 

 手応えを確かめたスカルゴモラは、区切りとなる勝利の咆哮を短く終わらせ、漲っていた闘志を鎮めていく。

 戦いはまだ終わっていない。緊張の糸を切るわけには行かないが、レイオニックバーストの力を全開にしたまま元の世界に戻れば、身に纏う高熱だけで地球環境に大打撃を与えかねないからだ。それではスペースビーストを殲滅できても意味がない。

 それを理解していたスカルゴモラは、レイオニックバーストを、次いでメタフィールドの不連続時空間を解除して、この星と妹を狙う不埒な輩共の目を再び自らに向けさせようとした。

 

「これは……」

 

 だが――メタフィールドから外に出たことで、強制的に合身を解かれたトライスクワッドとともに、スカルゴモラは想定外の眺めを、中ノ鳥島の空に見ていた。

 

「(帰っ……てく……?)」

 

 

 

 

 

 

 D4レイの撃ち合いに、決着が付いたその頃。

 残されたアマルガムタイプビースト・ゼッパンドンと、ウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルは、なおも激突を続けていた。

 ジードがギガファイナライザーを打ち込んでも、ゼッパンドンはテレポートで回避して距離を取る。

 そして、安全な距離から一方的に、光線や火炎弾を浴びせに掛かるのが、ここまでの戦いの展開だったが。

 

「バーニングブースト!」

 

 躱されたその時、ジードは既に、周囲を覆っていた虹の壁が失くなっていることに気がついていた。

 片手で放つ爆熱光線を、振り返りざま、ゼッパンドンへの反撃に発射。油断していたゼッパンドンは、突然の光線に直撃を許し、自らの攻撃を中断する。

 だが、自身も高熱を纏うゼッパンドンは、爆熱光線への耐性を見せる。下手な超獣でも即貫通するほどのエネルギーに、ゼッパンドンシールドを展開するまで持ち堪える。

 そうして光線技を吸収する壁を設けて、バーニングブーストをゼッパンドンが防ぎ始めたのを見たジードは照射を止めると、両手でギガファイナライザーを握り締めた。

 

「クレセントファイナルジード!!」

 

 全力で放つのは、旋回する三日月状の切断光線。テレポートによる回避ではなく、防御を選び様子見していたゼッパンドンは、超絶的な威力でそのシールドを貫く一撃を回避するタイミングを逸していた。

 そして、ゼッパンドンシールドごと本体を貫いたクレセントファイナルジードが駆け抜け、一刀両断されたゼッパンドンが左右にずれる。

 

「ビッグバスター……ノバ!」

 

 ほぼ絶命したスペースビーストに対し、その細胞を残すわけにはいかないと、ジードは腕をL字に組んで追撃の光線を浴びせに掛かった。

 断面を晒して劣化したとはいえ、ゼッパンドンの耐熱性すら上回る熱量の破壊光線はその全身を焼き尽くし、跡形もなく消滅させた。

 

「これで――今度こそ、終わりか……?」

 

 油断せず、ジードは周囲を見渡す。

 

〈そのようだ。星山市上空、そして中ノ鳥島までの太平洋上のスペースビーストは、どれも撤退を始めたらしい〉

 

 その疑問に、ペイシャンが現況を答えてくれた。

 

〈ルカの方も、イズマエルと同格以上のビーストが出現していたようだが、つい先程そいつも倒したようだ。最上級の分身が尽く敗れ、形勢不利と見て一時撤退、というところのようだな〉

「そっか……勝ったんだね。ルカとタイガも」

〈逆を言えば――次はそれだけの戦力があることを踏まえて、奴らはやって来るわけだがな〉

 

 妹や後輩たちの勝利を知らされたジードが安堵するのに対し、ペイシャンは苦々しさを隠しもせずに続ける。

 

〈奴らの支配者であるザ・ワンは、リトルスターの誘引で我を忘れることのない精神強度と知能を持ち合わせているようだ。逆を言えば……その上で、捕食本能のままに他者や宇宙を滅ぼすことを、自ら選んでいることになる〉

 

 最も性質が悪い知性の在り方に、ジードも喜んでばかりは居られなくなった。

 スペースビーストは、ビースト振動波を介し個体同士で情報を共有する。今回の戦いで見せた手の内は全て把握され、順次対策されてしまうだろう。次はこちらの妨害を突破できるだけの布陣を整えた上で、第二の攻勢を仕掛けてくる。

 それこそ、滅亡の邪神と謳われるハイパービースト・ザ・ワン本体も、降臨するのかもしれない。

 あるいはリトルスターへの執着を捨て、巨大戦力がいくら応戦しても意味のない、大量のオコリンボールを市街地にばら撒くような――

 

「……お兄さま」

 

 次の戦いについて、早くも懸念を募らせていたジードだったが、そこで自身を呼ぶ声へ気づいた。

 

「サラ……! ありがとう。助けに来たつもりだったけど、君が居なかったら勝てなかった」

 

 そこでまた、いつものように褒められちゃった、なんて、笑ってくれるのを予想していたジードは――しかし、どこか物憂げなサンダーキラーSの様子に気づいた。

 

「ううん。お兄さまが来てくれなかったら、きっとわたしはトリィを死なせちゃってたから……そんなこと、言って貰える資格はないわ」

「サラ……?」

「助けてくれてありがとう、お兄さま。お姉さまと、仲良くね」

「待って、サラ……そんなこと言うなって、一緒に帰ろうよ!」

 

 あれほど、兄姉に執着していた(サラ)の思わぬ言葉に、ジードは咄嗟に食い下がった。

 対して、サンダーキラーSは小さく頭を振った。

 

「無理だわ。わたし、お兄さまに、とっても痛い思いをさせたから……」

「――そんなの、僕はもう気にしてないよ」

 

 充分に反省した様子の妹に、ジードは声を和らげた。

 

「ルカだって――トリィさんを守って、僕を助けてくれた君のことを、もう怒ったりなんかしない。きっと許してくれる」

「……ごめんなさい」

 

 兄の訴えに、究極融合超獣は首を振った。

 

「わたしは――トリィを傷つけられて、あの怪獣さんたちが許せなかった。だから……お兄さまを傷つけたわたしを、お姉さまが許してくれるなんて、信じられない」

 

 姉がどれほど本気で怒っていたのかを、その身に刻まれた痛みだけではなく――自らも同じ経験をしたことで理解したサンダーキラーSは、罪を自覚したからこその苦しみを吐き出した。

 ――見くびるな、と。声を荒げるべきかもしれない。ルカがどんな気持ちで、サラを助けたいと戦っていたのかを、この子にきちんと教えてあげるのが、二人の兄としての務めなのかもしれない。ルカの兄としても、妹を愚弄されたような怒りを感じていた。

 だが、相変わらず圧倒的な力を見せた究極融合超獣の、酷く所在なさげな姿が、そんな気持ちを萎ませて……サラの兄として、彼女の感じている苦しみを無下することが、どうしても躊躇われてしまったために。ウルトラマンジードはその時、何も言えなくなっていた。

 

「いくら、お兄さまたちが優しくても――怖いの」

 

 その感情を漏らした、次の瞬間。サンダーキラーSの姿は、ジードの視界から消え失せた。

 プリズ魔に由来する光量子化能力か、それとも大蟹超獣キングクラブの透明化能力か。ともかく見失った直後、一瞬だけ空が割れて、そしてすぐ元通りになったのを見て、ジードはサンダーキラーSが異次元に身を移したことを悟った。

 

「サラ……」

 

 ――大きな犠牲を払うこともなく、緒戦は勝利した。

 だがそれは、多くの助けがあったからで。なのに、自分は妹を取り戻すことが――ルカに託された願いを、繋ぐことができなかった。

 

 己の兄としての未熟さと、戦士としての力の不足を痛感させられたウルトラマンジードは……かつてのように、自棄になるなんて無様は晒さずとも。それでも、その時ただ立ち尽くしてしまうことを、堪えることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 中ノ鳥島の地下に潜んだ星雲荘の、中央司令室。

 バシレウスを打倒し、それを受けたスペースビーストたちが、全て地球圏外に撤退してしまったその後。

 タイガたちがエネルギーの消耗を抑えるためにも、宇宙空間での警邏に向かった後。培養合成獣スカルゴモラは、地球人に擬態した形態――朝倉ルカへと姿を変えて、この拠点に戻っていた。

 それから、師匠も不在の状況で一人、黙々と太極拳の套路を重ねていた朝倉ルカは、転送されてきたエレベーターを見て思わずその手を止めた。

 

「おかえり、お兄ちゃん!」

「……ただいま、ルカ」

 

 出迎える妹に対し、兄である朝倉リクは沈んだ表情に、それでも笑みを浮かべて応じてくれた。

 だが、続けて彼は目を伏せる。

 

「ごめん……折角送り出して貰ったのに、僕はサラを連れ戻せなかった。頼りにならないお兄ちゃんで、本当に……」

「――そんなわけないよ。ありがとう、お兄ちゃん。サラのことを助けてくれて」

 

 謝罪する兄に、ルカは首を振った。

 既に、状況はルカも聞き及んでいた。帰還する兄が、(サラ)を伴ってはいないことも。

 だが――他者を庇って、絶体絶命の危機に遭ったサラの窮地に、リクが間に合ったことで、その二人を救うことができたということも、ルカは既に知っていた。

 

「お兄ちゃんはいつも、約束を守ってくれてる……あの子がお兄ちゃんの手を取れなかったのは、私のせいだから」

「ルカ……!」

「いいよ、お兄ちゃん。本当のことだもん」

 

 気を遣って声を上げる兄に首を振り、ルカは続けた。

 

「……私もね。本当は今日の今日まで、ずーっと怖かったんだ。タイガのこと」

 

 一週間前、兄の土産話を聞いて、彼が家族を救えたことを祝った時でさえも。本当は、ただ兄の目を気にしていただけで、心からそう思えたわけではなかった。

 

「だから、わかるんだ。サラが私のことを怖がるのも……」

 

 ルカは妹のことを、タイガから己がされた以上に手酷く痛めつけたのだから、それは当然の結果だ。

 

「だけど、私は……お兄ちゃんのおかげで、タイガのことが怖くなくなった」

 

 それはあの日、ルカの恐怖の記憶から作られた偽物を、倒してくれたからではなく。

 その暴力から、身を挺して守ってくれただけではなく。

 彼もまた、ルカたちと同じように苦しんで――その痛みを、誰かを傷つける言い訳にせず。他の誰かに寄り添える優しさにした、一人のウルトラマンなのだと、知ることができたから。

 その奇跡を、兄の優しさが呼んでくれたから。

 

「だから……いつかあの子も、私のせいで泣かなくていい日が来るかも知れない。そう思えただけで、私は充分だよ」

 

 伊賀栗レイトのくれた言葉を、ルカは振り返っていた。

 許して欲しい、だけじゃない。確かに仲直りしたいけれど、ルカがサラのことを守りたいと思う理由は、それだけではない。

 

「それまでは――ううん、それからも。許して貰うためじゃなくて、あの子に笑っていて欲しいから。一緒に、ドンシャインごっこした時みたいに」

 

 殺し合うために造られた命が、そんな理由に関係なく戯れることができたあの日の思い出を、ルカは振り返る。

 ――あの時のルカは、そして(リク)も、きっと、(サラ)も。確かに幸せを感じていたはずだと、信じていた。

 また、兄妹に幸せとなって欲しい。そんな己の祈りを、ルカは見つけていた。

 

「失格かどうかは、私が決めることじゃなくて――私はあの子の、お姉ちゃんだから。勝手に諦めちゃいけないんだ」

「ルカ……」

 

 ルカの言葉に、感じるものがあったように。それから、安堵したような表情を浮かべる兄へ、ルカは少しだけ情けないことを口にした。

 

「――なーんて、偉そうなこと言っても……私だけじゃ、大したことはできないから。きっと、今までよりたくさん頼っちゃうと思うけど――よろしくね、お兄ちゃん」

「……うん、もちろん」

 

 そんな風にルカが甘えを見せると、リクは迷いの失せた顔で頷いてくれた。

 

「サラは、僕の妹でもあって……それに、ルカもあの子のお姉ちゃんである以前に、僕の妹だからね。お兄ちゃんが妹を助けるのは、当たり前のことだから」

 

 決意に満ちた兄の答えを聞いて。ルカはそこに確かな希望と、こそばさを感じて、笑みを零していた。

 

 

 

 

 

 

「戻ったか、ウルトラマンジード。食事の準備はできている」

 

 話が段落したのを見計らったように、黒服とエプロンに身を包んだ偉丈夫――AIBの上級エージェント、シャドー星人ゼナが、ひょっこりと顔を出した。

 スペースビーストを人口密集地から引き離すため、AIBが一般社会に秘匿して保有するこの島に、囮となるルカを配置する――その作戦を遂行するに当たって、AIBの協力者として、彼が星雲荘で寝食を共にするようになっていた。

 とはいえ、あくまで彼以外が動かせば命に関わる戦力であるゼガンの運用が主目的のはずが、島内施設に関する操作権限の補助のみならず――戦闘で消耗するのは彼も同じはずなのに、何故か家事まで引き受けてくれていて、リクは恐縮する想いだった。

 余談だが、高度なサバイバル技術の賜物か、ゼナの料理はかなり美味しかった。

 

「ゼガンの分、後で私が持って行っても良い?」

「……構わないが、気をつけてくれよ」

 

 彼が操っていた時空破壊神ゼガンもまた、今はルカたちのリトルスターの光に惹かれないよう調整を施した上で、中ノ鳥島の近海で眠っている。

 それでも、万一のことがあればと心配した様子のゼナに、ルカは「はいはーい!」と軽い調子で返事をしていた。

 ……妹はどうやら、ゼガンのことを近所の大型犬ぐらいに思っていそうだと、リクは苦笑する。確かに彼女が共闘した回数はジード以上で、友情を感じるには充分なのかもしれない。危惧される万一の場合でも、今のルカは最早、ゼガン相手に遅れを取ることもないだろうから、気楽な様子だ。

 昨日からは想像もできないぐらい、ルカは元気を取り戻してくれていた。ライハやレイトももちろんだが、何よりあのタイガが志願して駆けつけてくれたおかげだと、リクは感謝を胸に抱く。

 

「……トリィ=ティプはまだ、見つかっていないようだ」

 

 そういえば、昨夜も今朝も見ていなかったが……デスマスクのように顔の筋肉を動かせないシャドー星人は、どうやって食事を摂るのだろうと。失礼にもジロジロと視線を向けてしまっていると、配膳した料理に手を伸ばすよりも先に、ゼナがそう切り出した。

 

「ごめんなさい。サラが、そのまま……」

「――無事だと思うか?」

 

 無礼に慌て、それから話の内容で申し訳ない気持ちとなったリクが頭を下げるのにはとりあわず、ゼナは強い眼差しで問うてきた。

 

「はい」

 

 対して、躊躇いなくリクは頷いた。

 あの時――どれほどサラが必死になってトリィを助けようとしていたのかを、リクは直に見ていたから。

 

「……そうか」

 

 兄として妹を信じるリクの返答に、ゼナはそれ以上何も言うことなく、ただ納得したように目を伏せた。

 今、トリィと同化していたサラがどこにいるのか、それはリクにもわからない。おそらく、リトルスターの光を観測できない異次元に、今も身を潜めているのだろう。

 だが、いつまでもそうしては居られないはずだ。何せ、滅亡の邪神ハイパービースト・ザ・ワンとその眷属は、超獣の特性すら奪い取り、異次元への出入も可能としているのだ。

 未だ、(ルカ)のことは怖い、と思っていても……同時に、窮地に駆けつける(リク)は、この次元にしかいないことを、サラも悟っているだろうから。

 大切だと感じているトリィのため、末妹はこの次元に戻って来るはずだと――リクは、そう予想していた。

 

「――レム。聞きたいことがあるんだ」

 

 そこまで考えたところで、リクはレムへと問いかけを放っていた。

 たくさんの優しい人々が生きる、この地球を守るため。

 そして、(オリジナル)であるベリアルをも越える戦闘兵器として合成された妹たちに、本来は闘争を主眼に置いていない偶像型の模造品が、純粋な力で及ぶ道理がないとしても――彼女たちの兄として、責任を果たすため。

 朝倉リクは、自らの可能性をもう一度、確かめようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 夕刻。トリィ=ティプが目を覚ましたのは、朝出たはずの自分の部屋の中だった。

 

「……おめざめ、トリィ?」

「サラ……?」

 

 自らの顔を覗き込む、幼い少女の姿を見て、トリィは少し混乱する。

 どうして、サラの顔が見れるのだろう。自分は確か、彼女と融合して――

 

「――!?」

 

 そこでまどろみから完全に覚醒したトリィは跳ねるように身を起こし、慌てて自らの身体に触れた。

 

「けが、ぜんぶなおしたと思ってたけど……まだどこか、痛い?」

 

 心配そうにサラが問うことで、トリィはスペースビーストに襲われて重傷を負い、死に瀕していたところを、彼女が憑依してくれたことで命を繋いだ記憶が真実であることを理解した。

 だが、そうであるなら――融合した後の出来事に関する記憶も、全て真実であるとすれば……

 

「サラ――あなた、スペースビーストを食べたの!?」

 

 トリィと同化したことで。相応の判断力を身につけたサンダーキラーSは、相性上最も容易に完封できる手負いのファイブキングを異次元に拉致して、解体し、吸収した。

 それによってビースト振動波を解析し、メガフラシの隔離空間への耐性を身につけるため。

 だが、それはつまり、スペースビーストとの同化を意味している……!

 

「うん。あ、トリィのからだには、のこしていないからだいじょうぶ。ピット星人には、あぶないものね」

 

 しかし事も無げに。サラは幼子がきちんと部屋の片付けをしたことを誇る程度の気軽さで、笑っていた。

 流石に信じられない思いで、トリィは問いかける。

 

「本当に……? あなたは、あなたのままなの――?」

「うん。だってわたし、究極融合超獣なんだよ? あんな怪獣さんなんかに、のっとられるはずないよ」

 

 超獣の特性を取り込んでいたスペースビースト、ヘイデウスを目の当たりにしたはずのサラは、なおも危機感なく笑っていた。

 ……トリィに憑依していた間は、その記憶や知能をも活用して、サンダーキラーSは戦況を判断し、戦っていた。

 だから――今は分離したために、トリィ自身も認識が曖昧になっているが、サンダーキラーSの一部であったその時は。無鉄砲な子供の判断力ではなく、トリィの知性が、彼我の能力を判断し、今のトリィでも認識できるスペースビーストの危険性を承知の上でなお、そのような行動を取らせたはずなのだ。

 ならば、この子は……まさか。

 

「……なのに、ごめんね、トリィ。わたしがばかだから、あんな怪獣さん相手に、トリィをけがさせちゃった。どうかしてなおすのも、すぐにおもいつかなくて……」

「そんなことないわ。あなたが助けてくれなかったから、私も、この街も、きっと助からなかったから」

 

 消沈して謝るサラに、トリィは首を振った。

 超獣も、ベリアルも。他者への憑依は、その存在を癒やすためではなく、知識や立場を利用して使い潰すための手段としていた。それで命が繋がれた例があるのは、結果論に過ぎない。

 その能力を、命を分け与えるためにも使えると、自ら判断できたこと。それだけでもサラを褒めるに値すると、トリィは心から思っていた。

 

「偉いわよサラ。良い子ね」

「いい子――!」

 

 なりたいと彼女が望んでいた評価に、サラは一瞬目を見開いた。

 だが続けて、「でも……」と、またも消沈した様子で言い淀む。

 

「……せっかく、トリィにはげましてもらったのに。お兄さまが助けにきてくれて――お姉さまも、ゆるしてくれるって、おしえてもらったのに……わたし、こわくて、にげちゃった」

 

 いい子になって、やりたかったはずのことを目前に。自分が選んでしまった行為を、早くもサラは悔やんでいた。

 

「じぶんからにげちゃった……もう、なかなおりなんか、できない」

「――そんなはずないわよ」

 

 泣き出しそうなサラの言葉を否定して、トリィは安心させるように微笑んだ。

 

「だって、あなたのお兄ちゃんは、一緒に帰ろうって言ってくれたんだもの。向こうだって、仲直りしたいと思っているんだから――ちょっと振られたぐらいじゃ、諦めないわよ、きっと」

「そう、かな……?」

「だって、あなたも――お兄ちゃんたちがなかなか遊んでくれなくっても、嫌いになんかならなかったでしょ?」

 

 その指摘は、盲点だったようで。

 瞠目したサラへ、トリィはゆっくり語りかけ続けた。

 

「それに――あなたはもしかすると、この宇宙を救うのに欠かせない存在なのかもしれない」

「……そうなの?」

「ええ。スペースビーストを取り込んでも平気ということは――あなたには、ビースト振動波を無効化する力があるはずだから」

 

 それは、おそらくダークザギの次元で発見されたものとは、異なる物なのだろうが――それでも齎される結果に、大差はない。

 トリィが開発を期待されている、対ビースト抗体……雲を掴むような話だと思っていたら、思わぬ手がかりを、トリィは意図せず拾っていたのかもしれない。

 

「ねえ、サラ。私の仕事に協力してくれる?」

「けんきゅう、きょうりょく……じょしゅさん、ってこと?」

「……そうね。あなたが望むなら、そういうのもやって貰おうかしら」

「じょしゅさん……!」

 

 今朝見つけた夢に繋がる第一歩を聞いて、仄かに興奮した様子のサラに、トリィは笑みを零しながら問いかけた。

 

「宇宙を救う研究の、助手さんなんて……すごく賢くて良い子だと思わない?」

「うん、おもう!」

「じゃあ――お兄ちゃんたちが、痛い思いをしながらスペースビーストと戦わなくても良いようになる研究を頑張ったら……きっと胸を張って、帰れるわよね?」

「……うん。そしたら、きっと――」

 

 頷いてくれたのを見届けて、トリィはサラの手を取って、再び家を出た。

 リトルスターの拡大が、今朝よりさらに進んだのか。少し熱いぐらいとなった小さな手が、ギュッと握り返してくれる感触に、トリィはどこか心地良いものを覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 トリィに手を引かれて朝と同じ道を歩きながら、サラはふと、今日の出来事を振り返る。

 ……トリィに憑依していた間のような、明晰な思考はやはり、出て来ない。頭の出来が元に戻ったらしく、すぐには正解を見つけられないかもしれない。

 それはそれで困ることだが、けれど、それでも良かったのだと、サラは掌を通じて伝わる温もりに思う。

 傷を治す以上に長く一体化していたら、きっと自分の身体はトリィのことを、取り込んでしまっていただろうから――そうなれば、この温もりを、もう感じられなくなってしまうところだったから。

 それに、念願通り、頭が良くなっていた間は。己の罪を自覚した分、許されないという意識が強くなって……助けに来てくれた兄の呼びかけも断って、逃げてしまったが。

 分離した後、トリィがまた、励ましてくれたおかげで――もう一度、兄姉と仲直りしたいという本当の気持ちと、向き合うことができた。

 今度こそちゃんと、トリィの役に立つような、賢い良い子になって……胸を張って、怖がらずに、二人のところに帰りたい、と。

 そう思えたのはきっと、今は頭が良くなくても、自分が一人ではないからだと――

 賢い子には、例え、ゆっくりだとしても。勉強してこれからなっていけば良いのだと。

 自分のことを愚かだと思っていても、それでもこの答えはきっと正解だと、サラは信じたかった。

 

 

 

 

 

 

 ――宇宙空間で、次元の穴が開いた。

 

 ワームホールから飛び出したのは、白と黒の格子柄の体色をした巨大な烏天狗――ブリッツブロッツの姿を模した、スペースビーストだった。

 胸部の水晶体を失い、ゼガントビームが作り出した時空の穴へと呑み込まれたスペースビーストは、しかしそれだけでは死んでいなかった。

 そして、ワームホール作成能力により、追放空間から脱出するに至ったのだ。

 

 ブリッツブロッツと、彼と同じ追放空間に飛ばされていたアリゲラとオコリンボールの一群が飛ぶのは月の裏側。その先には、一つの影が待ち受けていた。

 体型は、鋏のように二股に裂けた長い尾と、大きな翼を除けば人間にも似て見えた。だが、その正体は凶悪な獣にも竜にも見える中央の顔の他、左肩には鳥類の、右肩には人間――否、ウルトラマンを模した仮面のような顔を持った、三面の怪物だった。

 それ以外にも、外骨格のようにも見える全身の装甲が、よく見れば魚や虫、その他無数の生物の髑髏が集合することで溝を刻んでいるような、悍ましい形状をしているその姿は、まさに悪魔や邪神と呼ぶに相応しい様相をしていた。

 そして、その印象のとおり――この怪物こそが、一つの宇宙で発生した全てのスペースビーストの集合体にして、ブリッツブロッツら、地球を襲ったスペースビーストたちの大元。滅亡の邪神、ハイパービースト・ザ・ワンであった。

 ビースト振動波を隠蔽し身を潜めていたザ・ワンは、凄まじい勢いで眼前に飛来したブリッツブロッツたちを、避けもせずに出迎え、そして呑み込んだ。

 口を開くこともなく。ザ・ワンに触れた途端、青い光となったスペースビーストたちは、次々とその体の中に吸い込まれ、消えて行ったのだ。

 

 スペースビーストの中には、ブルードと呼ばれる役割の個体群が存在する。

 それは通常のスペースビーストから分離し、独立した個体として捕食対象となる生命体を襲い、その後、自ら本体に吸収されることで、効率的かつ広範囲の餌を集めるための分身だ。

 今回地球を襲った兵隊となるスペースビーストたちは、全てハイパービースト・ザ・ワンのブルードと呼ぶべき存在だった。

 

 今回は何の餌も捕食できないまま、ただ敗走してきただけとなった眷属を取り込んだだけで、ザ・ワンの力は向上することはなかった。

 それでも、滅亡の邪神と呼ばれた一にして全なるスペースビーストは、そんな結果にも関わらず歓喜していた。

 先んじてビースト振動波により共有していた情報の、さらにその詳細が増えたことで――宇宙を一つ丸ごと取り込んで、なお目にしたこともないような珍味が、向かう先にあることを確かめられたからだ。

 

 元より、呼び声に誘われて目指した星ではあったが――近づくと、妙に食欲を唆る光があった。特に二つ目に見つけた光は、異常とも言えるレベルで眷属たちを引き寄せ、本体であるザ・ワンさえも自身を抑えるのに労力を要した。

 その光を宿した生物たちは強力だった。今のザ・ワンが繰り出す最上級の分身でさえも、単独では敵わなかった。他にも、スペースビーストに対抗しようとする巨人たちが複数個体確認され、先遣隊は事実上潰滅した。

 

 ――それでも。その全てが結集しても、ザ・ワンを打倒するにはなお及ばない程度の障害しか存在しないと、確認することができた。

 ならば、戦力の逐次投入など必要ない。次は自ら打って出て、終わらせれば良い。

 

 そして、例の二つ目の光を宿した生命体が……知れば知るほど、非常に特異な存在であることも、ザ・ワンを昂ぶらせていた。

 

 ……実に大きな愉しみができた。何せ超獣の恐怖を味わうのは、ザ・ワンをして初めてのことなのだから。

 しかも、ただの超獣ではなく。その正体はザ・ワンと同じ、宇宙を貪り尽くすポテンシャルを秘めた、邪神の(ヒナ)――それを喰ってしまえば、消耗した力を取り戻すどころか、おそらくは光の国に敗れる以前をも越える強大な存在へと進化できるだろうと、ザ・ワンは確信する。分身の一部は逆に取り込まれてしまったが、成体であるザ・ワンの本体が幼体風情に負ける道理はない。

 その暁には、さらに多くを奪い、手中に収めることができる。先程、別位相空間に向かわせた最上位の眷属たちの操作を途中で掠め取った、何者か――愚かにもこの滅亡の邪神から奪おうとしたその不届者も見つけ出し、血祭りに上げ、取り込んでしまうことも容易いだろう。

 

 略奪の未来を幻視した昂りのまま。無音の宇宙で吠え、巨大な翼を羽撃かせて、滅亡の邪神は動き出した。

 地球という餌場――そこに待つ、この手で奪うべき命を目指して。

 

 

 

 




Dパートあとがき



 ここまでお読み頂きありがとうございました。
 ほぼずっとバトルしているだけの回ながら、戦闘描写でついつい文字数が膨れ上がってしまい、早くもDパート二回目となりました。Aパートのまえがきでも触れたように、客演ウルトラマン本格バトル回ということでお許し頂けると幸いです。
 次回はいよいよ、八話から引っ張った滅亡の邪神ハイパービースト・ザ・ワン戦です。うっかり十一話とかいうよくわからないタイミングでの決戦になりそうですが、今年中に更新できるよう頑張りたいなぁという所存。よろしければご期待ください。



 以下は公式にこんなのあったかな? となる要素への解説や言い訳です。

・ハイブリッドヘルサイクロン
 設定上だけ存在したタイラントの技。デスファイヤーと冷凍ガスを組み合わせたみんな大好き氷炎同時攻撃。ウルトラシリーズなのでラゴラスエヴォを参考にしました。

・タイガブラストランス
 急に生えてきた新技。元ネタはもちろん、初代暴君怪獣タイラントとの戦いで、タイガの父であるウルトラマンタロウが攻略に用いたタロウランス(ウルトラランス)。
 設定上ブレスレッドの力も影響しているそうなので、同じくウルトラランス系の武器を使うゼロの力が籠もったプラズマゼロレットが手元に残っていたので使えた技になるのかもしれません。


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