『ウルトラマンジード』最終回から四周年、おめでとうございます。
第十一話の更新ペース、やや変わるかもしれませんが、この記念すべき日はどうしても更新したくなったので、ギリギリですがAパートだけでも更新します(※放送開始四周年には更新できなかったのは内緒です)。
夜の帳が降り始めた街は、閑散としていた。
緊急事態宣言がなされ、現に無数の怪獣が出現し、長時間に渡って複数のウルトラマンやそれに準ずる巨人との戦闘を繰り広げていたのを目撃したのだから、人々は誰もが恐怖し、その息を潜めていたのだ。
そんな無人に等しい街中を足早に歩き、人工の明かりを頼りにピット星人トリィ=ティプが向かったのは、星山市梶尾地区にある、AIB地球分署極東支部の研究施設だった。
「……なんてものを連れて来ている」
スペースビーストが襲来してから半日以上、音信不通であったトリィの訪問は、当然警戒されていた。
あるいは既に殺害され、スペースビーストの傀儡にされているのではないか――そんな懸念から、研究施設に入れる前にトリィの様子を確認すべく現れた直属の上司、研究セクション所長のゼットン星人ペイシャンは、トリィの脇に視線を逸らしてそう呟いた。
「――リトルスターの反応を確認。サンダーキラー
「サラよ。この子は、そう呼んで欲しいみたい」
「呼称の調整は後だ。本題は、そいつと一緒ならおまえも無事だったんだろう、ということだが――」
トリィが手を引く幼い少女――究極融合超獣サンダーキラーSの擬態した姿である、朝倉サラを前にして、トリィはペイシャンと言葉を交わしていた。
「超獣をこんなところまで連れて来るな。しかもそいつは、リトルスターでスペースビーストを惹き寄せるんだぞ?」
「リトルスターの励起光は、ここなら隠せるでしょう?」
二人の職場は、元々はリトルスターの研究のためAIBが用意した研究施設だ。その光を遮蔽するための設備は整っている。
だから、怪獣を呼び寄せるリトルスターを宿したサラを隠すには、この上なく適した場所であり――何より、彼女はこの場所に必要な存在であることを、トリィは告げる。
「それに、サラは協力を約束してくれたわ。対ビースト抗体を開発するために」
「……何?」
トリィに頷くサラを見て、流石のペイシャンも、驚いたように眉を寄せていた。
「この子は昼間の戦闘で、私と融合しただけじゃなくて、スペースビーストをも取り込んだ――そしてその情報も、完全に制御できているの」
トリィが述べると、ペイシャンの周囲に控えていた研究スタッフが身動ぎし、代わって護衛のエージェントたちが前進してきた。
その動きを片手で制しながら、ペイシャンが口を開いた。
「距離は保ったまま、ビースト振動波を計測しろ」
万一にも、サラを刺激してしまうことがないように注意した様子で、ペイシャンはトリィに問いかけた。
「……その戦闘は俺も見ていた。確かに究極融合超獣は、スペースビーストさえも捕食した……だが、それで無事なのは単なる弱肉強食じゃないのか?」
「ただ取り込んだだけならね。けれど、一緒に同化していた私の中には、分離の際にビーストの因子を残していない――選択的に分離し、制御することもできるのなら、その働きは私たちが求めているものと同等とは言えないかしら?」
トリィが返した直後、トリィたちの状態を計測していたスタッフがペイシャンに耳打ちすると、彼は頷きを見せた。
「ザ・ワン本体に通じるとは思えないが……まぁ、何の手がかりもないところから始めるよりはマシ、か」
それから、トリィの主張に根負けしたように、ペイシャンが重い溜息を吐いた。
「入れ。出勤が遅れた分、きっちり働いて貰う。それと、持ち込んだサンプルの管理には責任を持って貰うぞ」
「――さんぷるじゃないよ?」
一呼吸挟んでからのペイシャンの呼びかけに、ここまで黙って話を聞いていた渦中の少女――サラが、そう異議を唱えた。
「わたし、トリィのじょしゅさんだもん――ね、トリィ?」
「……ええ、そうね」
サラが嬉しそうに問いかけてくるのに、釣られたトリィも微笑み返した。
「ああもう、わかったわかった。それで良い。ただ……」
二人の様子に降参といった様子を見せたペイシャンは、そっとトリィに距離を詰め、声を潜めて問うて来た。
「そいつがここに居ることは、星雲荘に伝わっても大丈夫なのか?」
「……できるならもう少し、待ってあげて。まだ、気持ちの整理ができてないみたいだから」
「わかった。となると、漏れる口は手元で管理する方が間違いないだろう。……本部から鳥羽ライハと愛崎モアを呼べ。どうせ用もあったところだ、俺が対応する」
白衣の裾を翻しながら、ペイシャンが指示を飛ばした。
理解ある上司の頼もしい姿に胸を撫で下ろしながら、トリィはサラを振り返り、腰を落として彼女と視線の高さを合わせた。
「ありがとう。あなたのおかげで、疑われずに済んだわ」
「……そうなの?」
トリィが疑われていた、という告白に、サラは驚いたように目を丸くしていた。
「ええ。それだけ、スペースビーストは、私たちにとって恐ろしい存在なの」
そのサラの反応が、AIBへの不信に変わってしまう前に、トリィはペイシャンたちが何故そんな思考に至ったのかの理由を述べる。
「そのスペースビーストに対抗する希望が、あなたの中にある――協力してね、サラ」
「うん、もちろん!」
トリィの頼みに、サラは眩い笑顔で頷いてくれた。
だが、直後。その笑顔が、微かに曇る。
「わたしも、トリィのけんきゅうのじょしゅさんをして……お兄さまとお姉さまにゆるしてもらえる、かしこいいい子に、なりたいから」
「サラ……」
その、痛ましい姿に。
本当は、きっと。もう、そんな必要もないはずだと。そう感じながらも、サラの感じる孤独を想うと――たったそれだけのことを、トリィは軽々しく口にすることができずにいた。
◆
〈ビースト振動波、確認〉
日が完全に沈んだ後。星雲荘の報告管理システムであるレムが、その報告を発していた。
その機械音声に、疲れを除くため、横になっていた朝倉リクは上体を起こした。
「来るか」
AIBから出向する形で中央司令室に身を置く上級エージェント、シャドー星人ゼナがネクタイを緩めながら問うが、しかしレムは頷かなかった。
〈いえ――中ノ鳥島に向かう動体はありません〉
レムが点灯させたスクリーンは、九等分された各々のモニター映像に、全く異なる都市の眺めを映し出していた。
〈どうやら、ルカのリトルスターについては無視しているようです〉
「……考えたな」
上海。カラチ。ラゴス。モスクワ。カイロ。ロンドン。ニューヨーク。サンパウロ。シドニー。
スペースビーストの群れが狙う、各地域を代表する人口密集地。その映像を目にしたゼナが忌々しげに呟くのへ、リクとルカの兄妹は微かに首を傾げた。
「こちらを誘導するのに適切な配置だ。完全に空白となる箇所が出てくるなら、囮を無視して敵の司令塔に全戦力を集中することも選択できた。だが、数の上では防衛が追いつく現状で、襲われた都市を放棄しては全体の士気にも関わる」
地球防衛の戦力を分断しようとする狡猾な敵の意図を、ゼナが解説する。
「おそらく、ザ・ワン自身が前に出る布石だろう。狙いは各個撃破か、あるいは何かを手に入れようとしているか、だ」
「何か、って……」
嫌な予感を覚えながら、リクは問いかけた。
〈日中の戦いで、スペースビーストの注意が惹かれていたものを考えれば――後者の場合、敵の狙いはほぼ確実に、サラであると考えられます〉
レムが述べるのに、リクと、そしてルカが感情の昂ぶる余り、息を詰まらせた。
〈リトルスターだけでなく、ザ・ワンと同じ滅亡の邪神と呼ばれたハイパーエレキングの生体情報が、サラには受け継がれています。傷ついたザ・ワンにとって、回復のため取り込むにはこれ以上ない存在なのでしょう〉
「そんなの許さない、絶対に……っ!」
ルカが強い怒りの籠もった言葉を漏らすのに、リクもまた頷く。
〈既に
「当然、手は足りていない」
宇宙空間で警邏していた七名に、星山市でレイトと共に待機していたウルトラマンゼロを含めても、まだ八人。
「私はゼガンでシドニーへ向かう。君たちはウルトラマンゼロに代わって、星山市に戻れ」
申し出るが早いか、ゼナは転送用エレベーターで星雲荘の外に飛び出して行った。
その気遣いに感謝しながら、リクは
「行こう、お兄ちゃん!」
「ああ――ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」
〈ネオブリタニア号、発進します〉
リクの叫びを号令に、レムが星雲荘を本来の用途である宇宙戦列艦として起動し、地底から空の上まで浮上させた。
◆
世界各地へのスペースビースト襲来の報は、AIB極東支部の研究セクションにも届けられていた。
物理的な距離を物ともせず、時空を跳躍できるイージスの力を使ったウルトラマンゼロがカイロへと飛び、一時的に日本の防衛が手薄になっているという情報も。
だが、そんな不安を紛らわせるだけの成果が、既にトリィの目には映し出されていた。
「記録できた……これが、ビースト振動波を無力化するプロセス――っ!」
日中の戦闘後、再発生を防ぐためにAIBが回収しておいた、スペースビーストの肉片サンプル。
それをサラが取り込んだ際、無毒化するための反応が、AIBの機器で確かに観測できたのだ。
「……わたし、うまくできた? トリィ」
「ええ、やったわ! これで、対ビースト抗体を構築することができる……!」
期待に満ちた眼差しでサラが問うのを受け、トリィは興奮のまま頷いた。
もちろん、実用化にはまだまだ時間が掛かる。だが、対ビースト抗体さえ完成すれば、残骸すらないところから再発生するという悪夢からは解放される。活動している個体としてのスペースビーストも、その力を著しく減退させることができるだろう。
その希望こそが、恐怖を糧とするスペースビーストへの何よりの対抗手段になるのだと、トリィは既に知っていた。
「よかったね、トリィ」
そんな、トリィの喜ぶ様子を見て、サラも嬉しそうに笑ってくれた。
「じゃあ、これからおくすりつくるの?」
「そうね……今回は酵素のような物質的な組成にするよりも、あなたの体内での反応を参考にして、ビースト振動波――
思わず没頭しかけて、我に返ったトリィは、改めてサラに呼びかけた。
「お手柄よ、サラ。ありがとう」
「えへへ……それじゃ、わたしはつぎはなにをしたらいいの?」
「そうね……」
基本的には、サラの生体反応を計測させて貰う以上の協力は求めていないが――本人が希望するなら、本当に助手のように働いて貰うというのも、自己肯定感を育めて良いのかもしれない。
ただ、他の研究スタッフが完全に萎縮してしまっているので、サラのささやかな希望を叶えるのは難しいかもしれない……などと、呑気に物思いに耽り始めていたトリィは、そこに至って初めて。一瞬、目を離した隙に、サラが初めて見せる表情をしていたことに気がついた。
――彼女の驚いた顔も、怯えた顔も、トリィは既に目にしている。
だが、その両者が等しく入り混じった表情は、トリィの記憶にないものだった。
「くる……」
「――サラ?」
何が来る、というのだろう。
理解が追いついていないトリィの呼びかけで、こちらの存在を思い出したように視線を巡らせたサラは、その大きな瞳をさらに見開いた後――その幼い顔に、悲壮な決意の色を浮かべたかと思うと、急に駆け出していた。
「サラっ!?」
呼び止める間にも、驚いて仰け反る研究スタッフの間を縫って走ったサラは、そのまま実験室を飛び出すと――道中、階段を降りた際にぶつかりかけた、外見上同年代の少女とその母親らしき女性を相手にぺこりと頭を下げる仕草を残し、その間に追いつきかけたトリィを置き去りのまま、ガラス張りの窓に体当りした。
「――何っ!?」
強化ガラスの割れた音で驚いたように、サラがその身を投げた窓の隣の部屋から、トリィにも見覚えのある顔ぶれが姿を見せた。
ペイシャンが貸与したという刀剣を構えていたのは、星雲荘の一員である鳥羽ライハだった。彼女の背後からは、星雲荘との関わりが最も深いAIB職員である愛崎モアと、彼女たちを抑えておくと言っていたペイシャンまでもが、焦りを隠さない様子で退室して来た。
先の母子を含めて、そうして通路に揃った六人の前で、白雷が逆しまに迸った。
稲妻は、黄金の装甲を纏った白い竜の形を取り――究極融合超獣サンダーキラーSとして、その実像を結ぶ。
サラの正体でもある最新の究極超獣にして、滅亡の邪神の幼体でもあるベリアルの子は、エレキングを思わせる甲高い咆哮を、夜空に浮かぶ月へ向けて発していた。
八本の触手を広げ、自らを少しでも大きく見せる仕草を合わせて――まるで、威嚇するように。
「どうして、ここに……っ!?」
ライハがその出現に戸惑ったような声を漏らしたその時、空が割れた。
それは超獣が得意とする、空間を物理的に破壊することで次元の穴を開き、別位相や別次元、そして物理的な距離を跳躍するための移動手段。
超獣の頂点を相手に、そんな手法を用いて出現しようという余裕を見せた何者かへ、サンダーキラーSは展開していた触手、そして頭部と胸部に蓄えていた、紫色の閃光を放っていた。
「――ですしうむD4れい!」
都合十条が融合した極太い輝きとして迸るのは、空間を物理的に破壊する作用を、ウルトラマンの光線制御能力と組み合わせることで、攻撃手段に昇華させた必殺の一撃。
だが、時空間の構成情報体ごと対象を貫く、物理的な防御手段の一切を無視する異次元潰滅兵器の紫色の光は、次元の穴の向こうから届いた虹の奔流と衝突し、消滅した。
エネルギー総量の膨大さに任せ、D4レイを掻き消した虹色の光線の残りが、サンダーキラーSを直撃。サンダーキラーSは持ち前の光線吸収能力で無力化するが、しかし純粋な光線以外の作用が働いたのか後退させられ、遂には持ち堪えられずに転倒してしまった。
「七大エレメントの合成光線だと――っ!?」
余波そのものは、ライハが手にした刀剣型デバイスから発生させたバリアによって防がれたものの。十万トン近い質量を持つサンダーキラーSが、至近距離で倒れたことによる振動に建物ごと揺られて倒れた一行の中で、真っ先にペイシャンが驚愕の声を上げた。
宇宙を定義する概念の一つ、エレメント。派生種を数えればキリがないが、火、水、風、土の四大要素に、光と闇、そして星の魂とも言えるエーテルの七つの属性が基本とされていることが、惑星O-50出身のウルトラマンたちの能力から判明している。
その基本となる七つのエレメントを合成した光線、その副反応で生じた各種力場が、サンダーキラーSの光線吸収能力による完全無効化を許さなかったのだとペイシャンが呻く。
宇宙を構成する七属性のエレメント、その全てを同時に操ることができる代表格は、一つの宇宙秩序を司るO-50に特別な力を託されたウルトラマンたちだ。
しかし、今の一撃は、彼らの領分すら越えかねない出力を示していた。
そんな力を行使できる存在が居るとすれば、それは――!
トリィが最悪の可能性に思い至ったその時、襲撃者は遂に姿を顕した。
――その光景を目の当たりにした人々は、世界が終わることを悟っただろう。
雄々しく拡げられた翼で、空を裂いて出現した君臨者。禍々しく歪められた無数の生物の顔を、微細な鱗のようにして全身を覆った悍ましき怪物。
人間にも似た骨格でありながら、二股の尾と一対の大翼、そして三面の頭部を持った異形の覇者の出現に、研究施設に備えられたビースト振動波の測定器が振り切れる。
三面の頭部だけではなく。左右の翼と尾の先にも、それぞれ爬虫類や鳥類、頭足類や魚類の特徴を合わせたような、一際目立つ大きな顔面を備えた、七つの頭を持つその獣こそは――一つの宇宙の生命を貪り尽くした、χニュートリノの根源にして。その全てが再び結合した、始まりと終わりを担う存在。
――すなわち、滅亡の邪神。
その名を、ハイパービースト・ザ・ワン。
宇宙を支配する法則、死そのものにすら喩えられる位階に達した
◆
ネオブリタニア号が、日本に到達する目前。突如、次元を裂いて出現したスペースビーストたちが、足止めを図るように襲撃して来ていた。
その先陣を切るのは、アリゲラ型のスペースビーストの軍勢を率いた、初めて見るスペースビーストだった。
いや、正確に言えば、見覚えはある――昼間、ルカ自身が戦ったアマルガムタイプビースト・バシレウスの構成素材の内、ゴモラと、M78星雲人と、デビルスプリンターを除いた怪獣や宇宙人から成る合体怪獣――暴君怪獣タイラントの、骨格だけが動くアンデッドのような姿をした悍ましいスペースビーストが、翼もなしに空を飛んでいた。
〈タイラント型のスペースビースト亜種――過去の類似した個体の記録から、デスボーンと仮称します〉
レムが持つ記録の個体と比べれば、随分と小振りに見えるそのスペースビーストは、どうやらデビルスプリンターがなければ合成できないバシレウスの廉価品であるらしい。
昼間倒した敵の下位互換、とはいえ。空を飛ぶ術のないスカルゴモラからすれば、未だ海上であっては苦戦を免れない相手だ。
メタフィールドに引き込めば、自らの産み出した大地を足場とすることはできるが――解除した後のことも考えるとどうすべきか、などと考えていると、敵陣を前にして、レムが対処の指示ではなく、状況報告を続けた。
〈ビースト振動波、確認〉
「見たらわかるよ!?」
ルカが思わず叫び返すも、レムの発言は終わってはいなかった。
〈ここではありません。星山市梶尾地区に、かつてない濃度の
……とうとう来たか、とルカは思わず身を固くした。
分離と再合体を容易とするスペースビーストの集合体とはいえ、たった一体で光の国に戦争を仕掛け、流石に敗北しながらもなお生還し。手負いの身でありながら、追手のウルトラマンゼロとその仲間をも退けた滅亡の邪神。
たかが分身ですらも、時空超魔神エタルガーや究極融合超獣サンダーキラーSに比肩した戦闘力を発揮した邪神の本体は、間違いなく――たった一月余りの生涯とはいえ、これまでに目にした全ての存在の中で最も強大な敵であると、ルカも直観していた。
〈そして、同じ座標に、リトルスターの反応を感知。このエネルギーパターンは、サラの宿したリトルスターであると解析できます〉
「――っ!」
その報せに息を詰まらせたと同時に、ネオブリタニア号が大きく揺れた。
タイラントの形をした動く骸骨型のスペースビースト、デスボーンの左腕に備えられたチェーンがネオブリタニア号に巻き付き、進行を食い止めていたのだ。
「――ウルティメイトファイナル!」
その時には、ルカの隣に立っていたリクが、光となって消えていた。
そして、船外の夜空に――ウルトラマンジード本来の巨体を解き放った兄が、愛用の得物を一閃させ、スペースビーストの戒めからネオブリタニア号を解放した。
「お兄ちゃん、ここは私が――!」
「ルカは、レムと一緒に先に行くんだ!」
そこで、代わって敵を引き受けようとしたルカを、兄の鋭い一喝が制した。
「ここで戦ったら、一度レムが回収しないといけないルカより――僕の方が、後からでも追いつける! だから、まずはルカがサラのところに!」
――それは、確かな事実であると同時に。
兄が自分に、チャンスを譲ってくれたのだと。そのことを理解したルカは、思わず息を呑んでいた。
でも……なんて躊躇いの言葉が出かけるのを、意識して噛み砕く。兄の優しさが導いてくれた
「もちろん――ルカの方が、もう僕より強いんだとしても。君たちだけに、ザ・ワンの相手を押し付けたりしない」
妹が沈黙した理由を察した上で、わざととぼけているのか。それとも優しい兄は、ただ純粋に心配してくれているのか。あるいは、その両方か。
ギガファイナライザーを揮い、全身から光線を放ち、次々とスペースビーストを消滅させて食い止めながら、ジードは言う。
「必ず、僕も一緒に戦う。そして、君たちの笑顔を取り戻す――!」
「……うん、わかった」
――笑えていた、つもりだったのに。
間違いなく、覇気を取り戻してはいたが。まだ、心残りのある――虚勢の笑みであることを、やっぱり兄はお見通しであったらしい。
……未練なんて、大アリだ。仲直りしたいに、決まっている。
だって、自分たちは、家族なんだから――!
「約束だよ、お兄ちゃん! 絶対、助けに来てね!」
「当たり前だ。だって僕はウルトラマンで、君たちのお兄ちゃんなんだから――!」
頼もしい兄の言葉に送り出されながら。ルカは前を向き、自らの瞳にも映った、妹へ宿った星の煌めきを見据えた。
「――レム、全速力でお願い!」
〈お任せを。捕まっていてください、ルカ〉
そしてネオブリタニア号は、滅亡の邪神へと挑むべく、その速度を限界まで跳ね上げた。
◆
――生まれて初めてのことだった。
その存在を察知した瞬間から、自身よりも強大だと理解できる存在と出会うことも。
その怪物に、最初から明確な害意を向けられたことも――
最大火力の先制攻撃を軽くあしらわれてしまったサンダーキラーSは、光線そのものではなく、その構成要素が生んだ力場による転倒から立ち上がり、外敵と対峙した。
背後にした、トリィの仕事場から漏れ聞こえた悲鳴から判断すると――眼前の怪物の名は滅亡の邪神、ハイパービースト・ザ・ワンというらしい。
これまでに取り込んで来たスペースビーストたち。彼らが相互交信しているビースト振動波のネットワーク上で、そんな存在が居ることはわかっていた。
だが、これほどの怪物であることは――先程、そのネットワークに強制的に繋がれて、位置を特定される瞬間まで、理解していなかった。
今回地球に襲来した全てのスペースビーストの大元にして、集合体。究極融合超獣さえ遥かに越える情報量を誇る、一つの宇宙の生命全てを凝縮した戦闘生命体。
その怪物から向けられる残忍な敵意で竦むような心地になりながら、サンダーキラーSは自身を奮い立たせるように咆哮した。
まだ、大丈夫。全力のデスシウムD4レイを放って消耗したとはいえ、サンダーキラーSはまだ、一度転んだだけで、ダメージらしいダメージを受けていない。
だからまだ、戦える。抗える、と――そう自らに言い聞かせながら、前足を振り上げた。
「さんだーですちゃーじ!」
右手から膨大な電流が迸り、雷の鉤爪を形成。腕を薙ぐのに合わせて、巨大な稲妻がザ・ワンに襲いかかる。
これで倒せるとは思わない。だが痺れさせてしまおう、という魂胆の攻撃に、ザ・ワンは翼を振って応じた。
その瞬間、竜巻が生じる。
最大の絶縁体である大気が壁となり、サンダーデスチャージによる電撃の束を、あっさりと吹き散らしてしまった。
唯一の幸いは、その相殺のために竜巻もまたエネルギーを使い果たしてしまい、トリィたちの目の前で二次災害が生じなかったということだが――ただの一動作で、究極融合超獣が放つ電撃技に匹敵するエネルギーを行使するという格の違いを、ザ・ワンは見せつけてきた。
思わず怯むと、今度はザ・ワンが仕掛けてきた。
ザ・ワンの七つの口から、暗黒火球や超高圧水流が放たれる。研究施設を背にしたサンダーキラーSは触手にベリアルジェノサンダーを纏わせ、その電磁力を用いて射線を逸らすことで、触手だけで防ぐには高威力の連撃を凌ぐ。
だが、そうして迎撃を選び、機動力の下がったその瞬間に、ザ・ワンの前足が伸びて来た。
ザ・ワンは一歩も動いていない。その腕が、骨格を無視したように伸びて、サンダーキラーSの頭部を狙って伸びていた。
「うるてぃめいとりっぱー!」
サンダーキラーSは兄から学んだ光輪技を発動し、触手で保持したままその腕を迎撃。高速回転する光の刃は確かにザ・ワンの伸びた腕を切断したが、まるであの日の姉がしたように、切られた途端に接合して、再生してしまう。
結果として、ザ・ワンの変則的な殴打に、サンダーキラーSは強かに叩かれた。宙を舞う勢いで仰け反ると、足が浮いてしまう前に今度は首根っこを掴まれて、地面と擦らさせられながら一気に引き寄せられてしまう。
「――サラっ!」
……トリィが、名前を呼んでくれたのが聞こえた。
「――きらーとらんす!」
叫びとともに、サンダーキラーSは背部に複合怪獣リガトロンを解析して再現を可能とした、ロケットブースターを装備。その推進力に物を言わせ、自らザ・ワンの方に向かうことで、体表の一部をもぎ取られながらも脱出することに成功する。
「――っ、はぁ……はぁ……っ!」
飛翔した勢いのまま、触手の間に光の翼を展開し滞空したサンダーキラーSは、必死で痛みに耐えていた。
日中であれば、液汁超獣ハンザギランの情報から取得した不死身の再生能力を発揮できる。だがこの夜では、エネルギーの確保さえ覚束ず、純粋な生命力による再生を余儀なくされる。
……そんな、こちらが全力を出せないことをわかっているかのように。サンダーキラーSが上を取ったことを気にも留めない余裕のザ・ワンは――元の位置に戻した手が持っていた、サンダーキラーSの肉片を、自らの口に運んだ。
そのまま、サンダーキラーSから千切れた肉片を、鋭い牙で咀嚼し、呑み込んだ。
「うぅ……っ!?」
わざとらしく、悦の入った吐息を零すザ・ワンの目的を改めて悟り、サンダーキラーSは肝が冷えるのを感じていた。
――食べるつもりなのだ、こいつは。この自分を。
サンダーキラーS自身、既に多くの怪獣を殺し、喰らってきた存在ではあるが……身勝手だとしても、自らが獲物として狙われることには、今すぐ逃げ出したい恐怖に駆られていた。
だが、ただ逃げるわけにはいかない理由が、サンダーキラーSにはあった。
――それを察したように、ザ・ワンの頭がサンダーキラーSではなく、研究施設の方を向く。
「やめて!」
ザ・ワンが放った暗黒火球を、サンダーキラーSは自ら射線上に飛び込むことで遮った。
リトルスターから獲得した、ウルトラバリアを多重に展開するが、火球が着弾するたびに砕かれる。それでもまだ、数枚のバリアが残っている、と次の手を考えようとした瞬間、それが纏めて貫かれる。
ザ・ワンの頭部中央の口腔から、第二の口を備えた鋭い舌が槍のように伸びて、バリア越しにサンダーキラーSの左胸まで突き刺さっていた。
舌の先に備わっていた顎が、開閉される。肉を掘削し、サンダーキラーSのより深くまで侵入し、内側からその生命を食い尽くそうとする。
「――あ、わぁああああああああああっ!?」
激痛と恐怖の余り、発狂しそうになりながらも。全身から放つ電圧を最大にして、その顎の進行を妨げると、カイザーベリアルクロー状に伸長させた両前足の爪を、その舌の筋に突き立てた。
そしてそのまま、すぐに体内から抜き取るのではなく――繋がったまま、サンダーキラーSは空を飛んだ。
「……こっちだよ!」
そうして、空に引き上げたザ・ワンの注意を惹くように雷を放ちながら、何とか第二の口を引き抜いたサンダーキラーSは、胸に宿したリトルスターの光を見せつけるようにして天敵を誘った。
――まだ、嬲られているだけだ。敵が本気ではないこの状態なら、怒り狂った時の姉の呵責なさに比べればまだ、隙を見つけて逃げ果せる可能性はある。
だが、トリィたちの居る場所から引き離さない限り、サンダーキラーSも逃げるに逃げられない。
――自分が、ザ・ワンを呼んでしまったということを、サンダーキラーSは既に理解していた。
リトルスターの輝きはきっかけに過ぎず、サンダーキラーSという存在そのものが、既にザ・ワンの標的になっていることも。
なのに、自分だけが逃げるなんて、周りの人に迷惑をかけるような真似は悪い子のすることだと、サンダーキラーSは――サラは既に、
何より――既に滅びた創造主の思惑から外れておきながら、そこまでして仲良くなりたかった兄に酷いことをして、姉に嫌われてしまった……こんな無価値な自分にも優しくしてくれた、トリィをもう、危ない目に遭わせたくなかったから。
……痛いのは、嫌なことだから。そんな想いを、トリィにして欲しくなかった。
そう願いながら飛ぶサンダーキラーSの後を、邪神の翼を拡げたザ・ワンが追って来る。
――あるいは、まんまと敵の狙いに乗せられているのかもしれないと、頭の隅で理解しながら。それでも今はこうするしかないと、サンダーキラーSはザ・ワンを誘導しながら、梶尾地区から離れて行った。
Aパートあとがき
今回は初心に帰り、TV一話分の尺という前提を守った体で話を展開できればなぁと想っています。
その影響と言いますかで、実は十二話と直結する完全前後篇になります。(第九話と第十話もそうだったのは見逃してください。)
ということで、十二話までできる限り間を置かず、少なくとも年内に更新しきってしまいたいなぁと考えておりますので、よろしければお付き合いくださると幸いです。
背水の陣は引き終わったので、以下はいつもの、引っかかる感じのところの補足と言い訳になります。
・エレメントの基本属性
『ウルトラマンオーブ』以降で言及されることの増えた概念。主にO-50関係の設定。オーブカリバーが司っていたり、『ウルトラマンR/B』でクリスタルになっていたり、『ウルトラマンタイガ』でゴース星人の地底ミサイルを使ったトレギアが調和を乱したりした代物。
公式ではそのトレギアが地底ミサイルを使った際の会話で、オーブカリバーの四大属性にエーテルを加えた五大属性と言っていたものの、『R/B』では光と闇のクリスタルも四大属性と同等以上の扱いだったので、本作では七大属性を基本とすると定義しました。
とはいえ、あくまでペイシャンが研究所長なAIB地球分署極東支部で主流の見解である、みたいな、そういうふわふわな感じでお願いできればと思います。
おそらく、公式世界観でも四大属性だけだよ派と五大属性派と、そもそもそれ以外にも刃(セブン)とか氷(オーブダークカリバーの属性の一つ)とか龍(ルーゴサイト)とか他にも属性ある以上は限定する必要はないのでは派とが、学会なんかで激しくバトルをしているんじゃないかなとか勝手に妄想中です。修羅の宇宙O-50でそんな悠長なことしている余裕があるかは知りませんが……
・デスボーン
フィンディッシュタイプでもアマルガムタイプでもどっちでも行けそうなので、特に明言しなかったタイプのスペースビースト。
EXタイラント(デスボーン)まんまの姿をしている想定ですが、あちらに比べるとサイズは通常のタイラントと同等。能力はEX版と違い、文字通りの霊的能力はないものの、スペースビースト版ストロング・ゴモラントことバシレウスと同様に、本家タイラント以上に合体元の能力を行使できるので、超獣式の空間破壊による移動もできる、という想定です。単純にそれをできるスペースビーストと言い張れそうな都合の良い怪獣が残っていなかったのと、バシレウスは一応デビルスプリンターを持っている時限定の分身だったという想定故のチョイスとなります。