ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第十一話「明日を照らすのは」Cパート

 

 

 

 リトルスターの力で産み出した戦闘用不連続時空間、メタフィールド。

 

 展開する術者やウルトラマンの力を高め、スペースビーストの力を減退させる効果を持つ世界に飛び込んだ培養合成獣スカルゴモラは、そこでレイオニックバーストの力を全開にし、ザ・ワンを豪快に突き飛ばした。

 仕切り直す格好となったザ・ワンは、翼を拡げて悠然と体勢を持ち直し、赤い大地に着地する。

 空を飛べないスカルゴモラを相手にして、なおも。敢えて地上で戦おうということらしい。

 おそらくそれは驕りではなく、純然な戦力差を理解しているからこその余裕。

 そして、時間をかけてより確実に勝つ以上に――邪魔者を早々に始末して、極上の獲物であるサンダーキラー(ザウルス)の下に向かうことを優先したための、選択だろう。

 

 ――それで良い、とスカルゴモラは内心、不敵に笑う。

 

 生まれてから目にしてきた全ての存在の中で、間違いなく最も強大だと確信できる敵を前に――たった一人で勝てるはずがないと理解して、なおも。

 ウルトラマンフーマたちトライスクワッドや、ゼガンを主力とするAIB、そしてウルティメイトフォースゼロが、各地で敵を食い止めてくれている。自分たち兄妹だけで戦っているわけではないという事実が、勇気をくれる。

 仲間たちがこのまま、背中を守り抜いてくれるなら――誰より頼りにする兄も、きっとすぐに駆けつけてくれるはずだと、スカルゴモラは約束を信じていた。

 

「(さぁ、来い! おまえたちの欲しい光は、私だって持っているんだ!)」

 

 取り込んだ超獣の特性でメタフィールドからの脱出も可能とし、メガフラシの能力を先に行使すればメタフィールドの再展開そのものを封じてしまえるザ・ワンが、この檻の中から逃げ出すことのないように、スカルゴモラは胸に宿したリトルスターを輝かせる。

 眩さに苛立ったようにザ・ワンが吠えるのと、スカルゴモラが駆け出すのは同時だった。

 だが、一歩踏み出したその瞬間、スカルゴモラの身体が宙を浮く。

 

「(へ――っ!?)」

 

 それは、ザ・ワンの重力操作によって生み出された、強大な重力場の仕業だった。

 スカルゴモラのみならず。足場としていたメタフィールドの大地を引き剥がし、次々と集結させて、空に浮かぶ新たな小天体――さながら、かつてスカルゴモラの父であるベリアルが封じられていた宇宙監獄の如き戒めを、ザ・ワンは作り上げる。

 だが、流石に――宇宙中の生命を奪って成り上がったばかりの邪神の力は、宇宙そのものを庇護し、癒やすことのできる伝説の超人にはまだまだ遠く及ばず。巨大な岩塊の中にスカルゴモラを埋め込むだけで終わり、かつてのベリアルのように身動きを常に封じられる、というまでは至らない。

 

「(――舐めるなっ!)」

 

 ならば、地底怪獣であるゴモラの血を組み込まれたスカルゴモラにとって、こんな拘束など目隠し程度の意味しかなかった。

 元より、全開としていたレイオニックバーストの高熱だけで岩盤は暖められ、熔解寸前。そこに超振動波を作用させれば、ザ・ワンの作った星は一瞬で瓦解する。

 最早、掘り進む必要もない。砕け散った星から宙に投げ出されたスカルゴモラは、超高空から自らの産み出した大地に帰還するまでの間に――目隠しを行っていたザ・ワンが、その間に準備していた紫色の破滅を目にした。

 

「(インフェルノ・バースト!)」

 

 ザ・ワンが放つのは、日中の戦闘で兄が目撃したD4レイ――戦闘記録の提供を受け、その性質を把握していたスカルゴモラは、出力を全開にした熱線で相殺を図る。

 だが、中央の口腔からのD4レイを相殺していたところに、残る六つの頭部から放たれた他の光線に晒され、身動きの取れない空中にあったスカルゴモラは被弾を余儀なくされた。

 

「(あ――っ! く、っそぉ……っ!)」

 

 昼間の戦いを乗り越え、さらに戦闘力を増したスカルゴモラからしても、痛みを堪えるのにも気力を要するダメージが蓄積される。相殺してなお、あれだけ苦戦させられたイズマエル・グローラーをも越える大火力だ。

 ――逆を言えば、ちっぽけな分身に過ぎないはずのイスマエルらの攻撃が比較対象として成立する異常さに、スカルゴモラは意識が及んでいなかった。

 そんな余裕は全て、眼前の脅威に叩きつけるための闘志へと変換していたから。

 

「(ぶっ飛ばしてやる――!)」

 

 日中の戦いで学んだ、怪獣念力の応用――重力場の制御により、ザ・ワンの展開する弾幕が通るべき空間そのものを捻じ曲げ、あらぬ方角へと射線を捻じ曲げた隙に肉体を再生し、亜空間の大地に激突していた身をクレーターの中から起こす。

 その瞬間を狙って、胸元に、触手のように伸びたザ・ワンの舌が突き刺さる。

 先端に備えた第二の口を開き、まるで鰻のようにスカルゴモラを内部から食い荒そうとうするその舌は――しかし、スカルゴモラの誇る筋力と爆発的な再生力に圧迫され、身動きが取れないまま、逆に押し潰されて死滅して行く。

 

「(本当に舐めに来んなっ!)」

 

 そこで、超振動と超高熱を纏った爪でザ・ワンの舌を斬り落としたスカルゴモラは、自身に突き刺さった先端の残骸を無造作に焼却しながら、逃げようとする根本の方を掴んで、思い切り引き寄せた。

 

「(やぁあああああああああっ!)」

 

 そして、引き寄せられる途中から、逆に自らの翼で加速した完全体の滅亡の邪神と――瞬く間に胸の穴を塞いでしまうほどの強靭な再生力を得たことにより、格上の強敵との攻防、その一つ一つごとにより強く自己進化する培養合成獣が、互いを正面から間合いに捉える。

 

 ……それが、かつてレムが分析した己の特性からもかけ離れ始めていることを、やはり気にする余裕はなく。

 

 ただ、守るべきもののために闘志を漲らせたスカルゴモラは、ハイパービースト・ザ・ワンと、激しい殴り合いを開始した。

 

 

 

 

 

 

「お姉さま……」

 

 姉が消えた後の虚空を呆然と見つめたまま、究極融合超獣サンダーキラーSはほんの半日前のことを想起していた。

 

 ……ルカだって――トリィさんを守って、僕を助けてくれた君のことを、もう怒ったりなんかしない。きっと許してくれる

 

 二人の兄であるウルトラマンジードが、教えてくれた通りだった。

 トリィが、きっと仲直りできると言ってくれた通りだった。

 

 なのに自分は、己が大切な人を傷つけられた時の憎しみを根拠に。怖くて信じられないなんて、逃げてしまった。

 悪い子だった自分より、ずっと、ずっと。兄も、姉も、本当に優しかったのに――!

 

「――サラ!」

 

 サンダーキラーSが慄然としていたその時、彼女に呼びかける声があった。

 夜空の向こうから音速を越えて飛来したのは、これまで何度も助けてくれた光の巨人――兄である、ウルトラマンジードだった。

 激戦を潜り抜けて来たと思しき汚れを付着させた、ウルティメイトファイナルの姿で駆けつけた兄の呼びかけに、サンダーキラーSは辿々しく応えた。

 

「お兄、さま……」

「大丈夫!? 今、手当するから――!」

 

 駆けつけたジードが、すぐに癒やしの波動をその掌から照射してくれるのに。暖かさで満たされる気持ちになりながら、しかしそれに浸っている場合ではないと、サンダーキラーSは正気に返った。

 

「――お兄さま! おねがい、お姉さまをたすけて!」

 

 そして気づいた勢いのまま、眼前の巨人に乞うていた。

 

「お姉さまは、わたしをたすけにきて……ひとりだけで、ザ・ワンとたたかってるの! いくらお姉さまでも、このままじゃころされちゃう!」

 

 サンダーキラーSが――サラが、二人を信じられなかったばかりに。適切な対応を邪魔してしまって、ザ・ワンの襲来に対し、後手に回ることを許してしまった。

 その尻拭いを、誰より迷惑をかけられた兄に願うことの身勝手さを感じながらも、サンダーキラーSは叫び続ける。

 

「わたしの、わたしのせいで、お姉さまが――っ!」

「――サラのせいじゃないよ」

 

 サンダーキラーSが、己を呪ったその時。一瞬強張らせていた気配を解いた兄は、ゆっくりと首を横に振った。

 

「悪いのは、皆を踏み躙ろうとしているスペースビーストの方だ。ルカは君に強制されたのでも何でもなくて、自分の意志で、それに立ち向かっている」

 

 こんな不出来な妹に、かつて腹を割かれた兄は、相も変わらず穏やかに教えてくれる。

 

「だってルカは君の、お姉ちゃんだから」

「――っ!」

 

 一つも言うことを聞かず、迷惑をかけてばかりだった妹をそれでも責めず、見放すこともせず、優しい青い瞳で見つめて、兄は言う。

 

「そして、僕はルカと君のお兄ちゃんで――ウルトラマンだ。だからザ・ワンを止めて、君たちを助けるのは、当たり前だ」

 

 兄は――ウルトラマンジードは、力強い頷きを見せてくれた。

 その時感じた、頼もしさは。単純な数値で評価できる性能で言えば、ザ・ワンに歯が立たなかったサンダーキラーSにも及ばないはずという事実をも、完全に忘れさせて。

 あの日――兄妹を笑顔にして、幸せを分かち合わせてくれたドンシャインに負けないほどの……ヒーローであるという皆の言葉が嘘ではないと、もう一度思わせてくれた。

 

「ただ……僕の力だけじゃ、ルカのところには行けない。レムも、今は動けなくなっちゃった。だから、道を開くだけで良いから――サラの力も、借りて良いかな?」

「――っ、うん、ううん、はい、お兄さま……っ!」

 

 優しさと、頼もしさと。そんな彼に、自らの願う姉の救助に必要として貰えた喜びとで、サンダーキラーSが涙したその時。

 今までで一番強く、この胸に宿っていた光が、輝いた。

 祈りを宿した小さな星は、サンダーキラーSから飛び出し――ウルトラマンジードの、カラータイマーに吸い込まれて。

 

 新たな力を、兄であるウルトラマンへと届けていた。

 

 

 

 

 

 

 戦いの趨勢は、当然のようにハイパービースト・ザ・ワンへと傾いていた。

 いくら培養合成獣スカルゴモラの肉体が強靭で、達人であるライハから太極拳を習い、レイオニックバーストで全ての能力を向上させた上で優れた再生力まで身につけ、そして死線を越えるたびにより強く進化するのだとしても。

 ザ・ワンが未だ手負いであるという事実を踏まえても、元となる能力に開きがあり過ぎた。

 

 超振動波も、怪獣念力もバシレウスの時と同様に、同様の能力を持つザ・ワンには相殺されてしまう。

 それ故の肉弾戦でも、何の術理もないザ・ワンの一撃一撃が、勝敗を左右するに相応しい威力でスカルゴモラを打ち据える。そのたびに、持ち前の耐久性と再生力、そして気合とで持ち直して喰らいついていたが、強烈な攻撃の嵐を前に蓄積されていた消耗が、遂にスカルゴモラの膝を折らせた。

 

「(ぐっ、この……っ!)」

 

 生命力を変換するメタフィールドも、闘争心を示すレイオニックバーストも、いずれも意地で保ったまま。それでも戦闘開始当初の勢いが明らかに損なわれたスカルゴモラへと、ザ・ワンの追撃が放たれる。

 バシレウスが放っていた、氷炎一体の超温差光線、ハイブリッドヘルサイクロン――どころではない、火・水・風・土に光と闇、そして空間のエネルギーを配合した、七色の光線が、スカルゴモラを狙い撃つ。

 死力を尽くしたインフェルノ・バーストで迎え撃つが、威力で負けては相殺できず、減退させながらも直撃を許すこととなった。

 

「(きゃぁあああああああああっ!?)」

 

 悲鳴を上げて吹き飛ばされ、倒れ伏す。呼吸を乱しながらも、何とか顔を起こすスカルゴモラへと、ザ・ワンが躙り寄って来る。

 

「(この……ちょっと、待ちなさいよ――っ!)」

 

 聞き届けられるはずもない悪態を吐きながら、スカルゴモラは迫りくる死を跳ね除けようと立ち上がる。

 ――その時にふと、違和感を覚えた。

 

「(……えっ? 本当に、待ってる?)」

 

 完全に立ち上がって、正面を見据え直した時。ザ・ワンが、追撃を仕掛けることもなく――距離を保ったまま、直立していることに気がついた。

 獰猛な顔のまま、言われた通りに待機しているその様子に、いったい何を企んでいるのかと、スカルゴモラは身構える。

 だが、低い唸り声を上げながらも、それ以外に何もしようとしないザ・ワンの様子に、スカルゴモラは当惑しながら――奇妙な予感を覚えて、思いつきを口にした。

 

「(……おすわり)」

 

 果たして――ザ・ワンは、膝を曲げて、従った。

 

「(……嘘でしょ?)」

 

 一切予想していなかった事態に、スカルゴモラは信じられない想いで目を瞬かせた。

 

「(私のレイオニクスの力、こんな奴と相性が良いの――っ!?)」

 

 戦いの中で開花する、レイオニクスの力。

 それが、バトルナイザーすら介さず、意思の疎通を可能とする怪獣。

 とびきりの例外がまさか、こんな邪悪な相手だったなんて……などと、落胆したものの。

 ――戦わなくとも済むかも知れない、という、望外の展開を前に。スカルゴモラは、続けて願いを口にした。

 

「(ねぇ、本当に言うことを聞いてくれるなら……私たちのことも、他の生き物も――もう、襲わなかったり、できる?)」

 

 ……問いかけた瞬間。何かを通じて流れ込む強烈な怒気を感じて、スカルゴモラは総毛の逆立つ思いをした。

 直後、立ち上がりざまにザ・ワンの揮った豪腕が、スカルゴモラを弾き飛ばしていた。

 

「(……やっぱり、そんな上手くいくわけないか――っ!)」

 

 身を起こしながら、スカルゴモラは迫って来るザ・ワンを見据える。

 先程の挙動がただの演技だった、ということはないだろう。圧倒的に優位な状況で攻め手を緩めて騙し討ちをする意味はないし、何より――自分とザ・ワンの間に、確かに何らかの繋がりが存在するのを、感じていたから。

 ……そこから伝わってくる、まるで酷い裏切りを受けたようなザ・ワンの激しい怒りと、拒絶の心とが、スカルゴモラを内側からも責め立てる。

 だが、ザ・ワンの何かを裏切ってしまったのだとしても。そもそも自分や妹を狙い、傷つけたのはあちらが先だ。身勝手な怒りに遠慮してやる道理はないと、スカルゴモラは闘志を燃やし迎え撃つ。

 しかし、地力の差が埋まっているわけでもなく。ザ・ワンの攻撃に皮膚を裂かれ、流血しながら再び倒れ込む羽目となった。

 鋭い爪に付いたスカルゴモラの血。先のように、筋肉に潰されることもない舌でそれを舐め取った直後、ザ・ワンは何か衝撃を受けたように、一瞬固まった。

 それから――残忍な愉悦と、期待の気配とが、繋がりを通じてスカルゴモラに浸透してきた。

 

「(――っ!?)」

 

 滑らかな動きを再開した、ザ・ワンから向けられる視線の種類が、変わった。

 先に、サンダーキラーSの物を見ていたからか。あるいは、スカルゴモラが恐怖していなかったからか。リトルスターの輝きにすら魅せられず、ただ障害として排除しようとする意図しか見せていなかったザ・ワンは、今……サンダーキラーSに向けていたのと同じ、嗜虐的な欲望を、スカルゴモラに向けてきた。

 ――食べ物として狙われている。その悍ましい確信が、レイオニクスの闘争本能を昂ぶらせていたスカルゴモラをして、思わず身を竦ませた。

 圧倒的強者の下卑た欲望に晒されて、心が挫けなかったのは。邪神の標的を、完全に妹から逸らすことができたという安堵に、辛うじて思考が及んだからだった。

 そんなスカルゴモラの反抗心すら、食欲を刺激するスパイスに過ぎないとばかりに、ザ・ワンが迫る。対し、度重なるダメージによりいよいよ動きの鈍ったスカルゴモラが立ち上がるのも間に合わない、その時。

 

「ライザーレイビィイイームゥッ!!」

 

 スカルゴモラの背後から、叫びとともに迸った眩い光が、ザ・ワンへと直撃した。

 ――その声に。宇宙すら終わらせた滅亡の邪神に狙われているという事実をも忘却するほどの、安らぎに包まれながら。

 

「(――お兄ちゃん!)」

 

 振り返ったスカルゴモラは、駆けつけたヒーローの姿を目にして、彼の名を呼んでいた。

 

 

 

 

 

 

「お姉さま、だいじょうぶ!?」

 

 メタフィールドに辿り着いて早々。最大火力で牽制を開始したウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルが、ザ・ワンを抑え込んだその隙に、サンダーキラーSが傷ついたスカルゴモラに駆け寄った。

 

「(――サラ!? どうしてあなたまで……)」

「だって……お姉さまが、しんぱいで――!」

「(だからって、こんな危ないところに……!)」

「ルカ。信じてあげなよ、君の妹を」

 

 いつかの――究極超獣との戦いの最中で、かつて未熟な兄がしてしまったような。妹の決意を軽んじてしまうようなスカルゴモラの発言を、ジードは諌めた。

 

「僕も居て、君も居て、外では皆も一緒に戦ってくれている――だったら、サラだってもう、どんな敵にも負けたりしない!」

 

 叫ぶ間にも、ジードはその想いを直接変換した光線のエネルギーを、滅亡の邪神に注ぎ続けていた。

 ――最初こそ、光線の威力に押されて後退し、その身を融かし始めていたザ・ワンは。肉体を変化させて作った腹の口で、ジードの光線を吸い込み始めていた。

 メタフィールドに囚われた今、ビースト振動波を含まない光線を拡散させる特殊位相(メガフラシの)空間を展開することはできずとも。宇宙を貪る邪神の食欲と、取り込んで来た数多の怪獣たちの能力を組み合わせれば、破格の威力の光線すら、ザ・ワンは容易く呑み込んでしまうのだ。

 それにも構わず光線を放ち続けるジードを嘲るような視線を、ザ・ワンが向けて来る。白濁した全身の目からは、このまま全てのエネルギーを吸い尽くし、戦う力を失ったジードの前で、スカルゴモラとサンダーキラーSを貪ってやろうという悪意が透けて見えた。

 ……その表情に、戸惑いが生じ始めたのは。ジードを完全に侮り、ザ・ワンが棒立ちで光線を吸収し続けて、三分以上が経過した頃だった。

 それだけの時間が経過しながら、全く衰えることのない膨大な破壊のエネルギーが、ザ・ワンの身体能力をして吸収不良を起こさせ始めていたのだ。

 

 ――分身を介したビースト振動波による情報共有がありながらも、ザ・ワンは事ここに至るまで、終ぞ知る機会がなかった。

 惑星クシアの遺産である、必勝撃聖棍ギガファイナライザー。それに選ばれた戦士であるウルトラマンジードの最終戦闘形態(ウルティメイトファイナル)は、その想いを物理的なエネルギーに変換することで、戦闘に関わるあらゆるリミットを解除できることを。

 最大出力の向上こそ、容易にはならないとしても――その活動エネルギーは、ジードの、朝倉リクの意志が尽きるまで、一切の限りがないということを。

 そして、人々の祈りを託されるウルトラマンにして、やっと出会えた妹たちを守ろうとする兄・リクの心が折れることなど、決してありはしないということを!

 

 直接対峙するに至って、ようやく。分身では文字通り計り知れなかったウルトラマンジードの底力に、油断していたザ・ワンが圧倒される。

 広大な宇宙をも再生する伝説の超人(ウルトラマンキング)をして、無限の可能性と言わしめる若きウルトラマンのその力は、一つの宇宙の生命を食らい尽くした邪神さえも灼き切ろうとする。

 だが、流石に。ハイパービースト・ザ・ワンはそのまま倒されてくれるほど、簡単な相手ではなかった。

 光線への耐性が限界を迎えてしまう前に、咆哮したザ・ワンが全身から種々多様な攻撃能力を発揮する。七種類のエレメントを用いた属性攻撃や、時空間を潰滅させるD4レイに加え、その細胞を切り離し自走する生体ミサイルとして撃ち放つ。

 対して――ジードがザ・ワンを抑えていた間、治癒を受けていた妹と、治癒をしていた末妹とが、迎撃に動いた。

 

「(スカル超振動波――!)」

「べりあるじぇのさんだー!」

 

 ザ・ワンの咆哮と対消滅する、超音波攻撃。無数の生体ミサイルを次々と捕らえ、撃墜する無数の稲妻。

 さらに反発するベクトルの重力場の相殺や、D4レイ同士の激突が起こり、ザ・ワンの猛威から、家族であるウルトラマンジードを守る。

 ……それでも、三兄妹が同時に繰り出せる攻撃を、ザ・ワンの出力はなおも上回っていた。

 

「――くっ!?」

 

 完全には押し切られなかったものの。ザ・ワンの猛攻に力負けした迎撃は、ジードのすぐ側で炸裂し。ギガファイナライザーを保持する腕が、微かにブレる。

 その一瞬の隙を、ザ・ワンは見逃さなかった。

 ザ・ワンの頬から、鞭のようにしなって伸びた触手――直前までただの微細な突起に過ぎなかったために、予兆のない完全な不意打ちとなったその一撃は、ジードの右腕を強く弾いてギガファイナライザーの射線を完全に逸らし、さらにジード本体を激しく叩きのめす。

 

「(お兄ちゃん!? ――このぉっ!)」

 

 あっさり弾き飛ばされたジードを見て、怒りの声を上げるスカルゴモラがレイオニックバーストの力を全開にして、ザ・ワンに挑む。

 だが、横合いから彼女を襲った二股の尾が鋏のようにスカルゴモラの首を挟み込むと、今の彼女をして抵抗を許さず、締め上げなら宙吊りにしてしまう。

 

「ふぉとんくらっしゃー!」

 

 その尾へと、サンダーキラーSが八本の触手から鞭状の光線を放ち、巻き付かせ、姉を連れていかせまいと抵抗する。

 

「――ふぉとんえっじ!」

 

 さらに、青い光の刃鞭(フォトンクラッシャー)に重ねるように、赤い光の刃鞭(フォトンエッジ)を上乗せして、都合十六の光の刃で、ザ・ワンの強靭な尾を斬り落とし、姉を救い出そうとする。

 しかし、徐々に食い込み始めた刃が、その尾を斬り落とすよりも……もろともゆっくりと引き寄せられるサンダーキラーSを向いたザ・ワンが、彼女を仕留める方が早い。

 

「(だめ、サラ……あなたまでやられる――っ!)」

「――駄目じゃない!」

 

 共倒れを危惧したスカルゴモラが訴えるのに、立ち上がったウルトラマンジードは叫びを挟んだ。

 

「サラは、本気で君を救いたいと想ってくれている――その願いが、叶えたい未来を繋ぐんだって、僕が見せてやる!」

 

 外界とは時間の流れが異なる、光の巨人が内包する小宇宙(インナースペース)の中で。妹たちの危機的状況を前に、ジードは――リクは、新たに起動したばかりのカプセルを手にした。

 

「ユー、ゴー!」

《ウルトラマンガイア》

 

 リクが起動したのは、大地と海、生命を守り育む二つの力を受け継いだ、地球の化身ウルトラマンガイアV2の力を受け継いだカプセル。

 ルカを――姉を救って欲しいというサラの願いを受けて輝いた、新たな光の器だった。

 

「アイゴー!」

《ウルトラマンヒカリ》

 

 続けてリクが選んだのは、青い体躯のウルトラマンヒカリのカプセル――かつてトリィ=ティプからウルトラマンに託された、平和への祈りが結実した力。

 

「ヒア・ウィ・ゴー!」

《フュージョンライズ!》

 

 妹であるサラと、彼女を救ってくれたトリィから託された光の宿るウルトラカプセル。小さな星に込められた願いを、ジードライザーが繋いで行く。

 

「咲かすぜ、騎士道! ジィィィィィィィィィィィドッ!!」

《ウルトラマンガイア・ウルトラマンヒカリ・ウルトラマンジード! フォトンナイト!!》

 

 そして自らの光量子情報を再構成し、赤と青の光となったジードはその勢いのまま、ザ・ワンが繰り出した舌による刺突を切り払い、サンダーキラーSを守護していた。

 

「フォトンビームブレード!」

 

 ザ・ワンの舌を防いだ、右腕の装甲のようなパーツから伸びた光の剣。それを揮って、ジードは続けてザ・ワンの尾に痛烈な振り下ろしを見舞った。

 その刃でも、ザ・ワンの尾を断ち切ることはできなかったが――既に、切り込みを入れながら尾を縛り上げていたサンダーキラーSの攻撃と合わせ、尾の力を弱めることに成功する。

 その結果、幾ばくかの自由を取り戻したスカルゴモラが、噛み付いていた尾の先の双頭へと強烈な超振動波を叩き込んで、ザ・ワンの拘束から脱することが叶っていた。

 

「(……新しい、ジード?)」

 

 そして――青と銀を基調としながら、そこに赤と金、そして黒を加えた体色に、白いマントを纏った騎士の如き佇まいとなった兄を見て、培養合成獣スカルゴモラが驚きの声を漏らす。

 肩や腰の装飾、そして頬と額に角を備えた兜にも見える形状の頭部で、刺々しい印象を与える容姿に変わったジードは――安心感を与えるようにゆっくりと、彼女に向けて頷いた。

 

「うん。サラが――君を助けるために、リトルスターを届けてくれたんだ」

 

 姉の無事を願う妹の祈りを受け止め覚醒した、新たなるフュージョンライズ形態。

 その名は、ウルトラマンジード・フォトンナイト。

 

「――行くぞ、ザ・ワン!」

 

 ただ己の欲望のためだけに、他者を食い散らかす邪悪な願いを糺し――そして、暗闇に覆われかけていた希望を照らすために。

 降臨した新たなる光の騎士は、敢然と駆け出していた。

 

 

 

 




Cパートあとがき



 ここまでお読み頂きありがとうございました。
 まさかの本編に出なかった、データカードダス限定のフュージョンライズ形態、フォトンナイトを登場させてしまいました。一応ウルティメイトファイナルやロイヤルメガマスターが使える時に優先する理由はないし、今後の公式映像作品でも「持っているけどわざわざ使わないんだな」と脳内補完できる程度の形態……のはず……

『Another Gene』や『ウルトラギャラクシーファイト 第三章 運命の激突』、そしてまだインタビューでの雑談レベルとはいえ『その後のウルトラマンジード』等々、公式の怒涛の展開的にそろそろ公式の映像作品の裏で起きていた出来事と言い張る遊びが続けられるのか怪しくなって来ましたが、可能な限りは原作を尊重する二次創作としての基本を外さずに頑張っていきたいと思います。致命的に乖離した時にはあくまで当初から並行同位宇宙群なんで、とご了承ください。

 まさかといえば、何とまだ続くスペースビースト編。話が進むに連れて膨らんだ要素を拾っていくと、詰め込み過ぎたと反省しております。同じ相手と何話にも渡って戦うのはある意味スペースビースト戦っぽいかなとも思っていますが、ちゃんとその分盛り上げられるよう頑張らねばと気合を入れ直し中です。
 ということで、次回で第十二話、ニュージェネで言えば第一クールの山場となる回に、滅亡の邪神との決着は持ち越しです。一応年内にこのまま更新を完了してしまいたい所存です(本当は次の回こそ、12月23日に更新したかった……という無念をここに残しておきます。お許しください)。
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