……その願いは、宇宙を越えた。
ささやかな、けれど力強く、崇高な意志。自らの愛するものを守り、愛するものが生きる世界を守り、愛するものがこれから出会っていく、己も知りもしない全てのものを守りたいという、ありふれた善性の祈り。
そのために意志の主はギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張って、それでもどうにも、こうにも、どうにもならない、そんな時に、願ったのだ。
――ウルトラマンが欲しい、と。
悔しいことに、自分一人の力では届かないのだとしても……それで諦めたりはしない。守りたい大切なものがあるのだから。
そんな気持ちを受け取った別宇宙のウルトラマンたちは、皆が一様に頷いた。
そして、その願いを届けた繋がりに、ウルトラマンたちは、その心に灯した光の欠片を即座に返して、応えた。
……力は貸す。だから、その未来は君自身の手で切り拓け、と。
何より――君も、愛するものたちとともに生きろと。
かつて激しく争った
そして。その願いを聞いたのは、遠い宇宙の巨人たちだけでは――なかった。
◆
「まずいな……これ以上時間を掛けると、抗体も効かなくなるぞ」
星雲荘の通信機能、そして、先程送り出した新兵器、キングギャラクトロンMK2を介した、別位相空間との通信を介し、戦況を見守るペイシャンがそう漏らすのに、通信室に詰め込んだAIB研究セクションのスタッフは俄に絶望の色を増した。
だが、それも仕方ない。ウルトラマンゼロの展開したシャイニングフィールドに入り、体感時間では四年もの間、充分な余暇も取れないまま、決死の想いで作り上げた抗体が、早くも邪神に無効化されつつあるというのだから。
日本だけではなく。既に地球分署の各支部に情報は転送し、各地で増幅して、地球中を満たす準備は進めている。これで残骸が残ったスペースビーストも出現することはなく、ただ残存する敵を殲滅し終えれば勝ちという、王手をかけた段階でありながら。耐え抜いたザ・ワンが抗体を克服してしまえば、元の木阿弥にされてしまう。
今度は、その耐性を凌駕する抗体を作るためのヒントもない。ウルトラマンゼロにも、今再びシャイニングフィールドを張る余力はもう、残されていないだろう。
「サラ……っ!」
そうなれば、地球も、あの子も、この宇宙も、全てが終わってしまう。そんな忸怩たる想いで、ピット星人トリィ=ティプは奥歯を軋ませた。
「きっと、だいじょうぶだよ」
そんな、絶望が覆い尽くしつつあった通信室の中で、事態のわかっていないような、朴訥とした声が響いた。
「だって、ウルトラマンが、たたかってくれてるもん」
嘆く大人たちの背中を前に、伊賀栗マユが、そんな、子供らしい素朴な信頼を口にした、その時だった。
彼女の胸に、一筋の光が見えたのは。
「え……?」
トリィの当惑の声の理由は、二つ。
一つは、その輝きがトリィのよく知るもので、故に伊賀栗マユにはもう、灯ることがないはずの光だったから。
そして、もう一つは――その輝きが、トリィ自身にも宿っていたためだった。
「これ、って……!」
〈――ウルティメイトマルチレイヤー!〉
トリィの困惑に裂くように、通信機の向こうから――サラの兄にして、ウルトラマンジードその人である、朝倉リクの叫びが耳朶を叩いた。
同時に伝わった、彼の想いを察知して――トリィはマユの手を取り、彼女とともに、ウルトラマンジードの祈りに応えた。
◆
「――エリ、大丈夫?」
怪獣の大量発生に対し、避難所として指定された地下鉄の通路、その一画にて。
一瞬、身動ぎしたのが目に入った母から、原エリは心配の声を掛けられていた。
「ん。どうした?」
店を出している場合ではないからと、一緒に避難して来た同居中の伯父、久米ハルヲも、そんな異変に気づいて呼びかけてきた。
「ううん、何でもないよ」
二人に笑顔で応えながら、エリは厚い舗装越しに隠された、空を見上げた。
「ただ……声が聞こえた気がしたの」
「声?」
「うん。多分――ウルトラマンジードの」
エリの返答に、伯父は慌ててラジオの音量を上げようとする。周辺に怪獣が迫ってきていないかの情報を取得しようとしているのだろう。
だが、エリが聞いたジードの声は、戦闘中の掛け声ではなかった気がした。
元々、ウルトラマンの声を、はっきりと言語化して認識できるわけではないが――今の声は、ジードの祈りだったように、感じられた。
皆の応援を求めるような、そんな――けれど、決して諦めていない、人々のよく知る、ヒーローとしての在り方だけは決して崩さない、そんな声。
彼が今、どんな状況なのかはわからない。人知を超えたウルトラマンの戦いに、ただの人間の少女に過ぎないエリに何ができるのかもわからない。
けれど、ただ――負けないで、と。きっと今も、あのスカルゴモラと一緒に、皆を守ろうと戦ってくれている彼のために、祈ることはできると。
エリがそっと手を合わせた頃に。少し離れた一画で、同じように家族と避難していた本田トオル少年が。
人目を避け、線路の隅に隠れた売れないお笑い芸人、新井タカシがその懐に隠した宇宙小珍獣ルナーであるモコが。
そして、星山総合病院の一室から、窓の外を見つめていた、朝倉スイが。
「……負けるなよ、
その真意の全てを、知る者ばかりではないとしても。
これまでの彼の戦いを知る誰もが、
◆
「おむね、光ってる……」
究極融合超獣サンダーキラー
彼女だけではなく、キングギャラクトロン
さらに、かつてリトルスターを宿した彼女たちだけではなく――それを受け入れるカプセルの元となったウルトラマンの一人である、ゼロも同様に、カラータイマーに眩い輝きを閃かせていた。
……メタフィールドが補強する、ウルトラマンの能力と、他者との絆の繋がり。
その二つが、朝倉リクが遺伝子にその素養を刻みながら、一人では決して届かない奇跡の力を発動させるための閾値まで、ウルトラマンジードの力を高めていた。
かつて、滅亡の邪神の如く、宇宙を喰らい尽くそうとした宿敵――父であるウルトラマンベリアルとの最終決戦の中で、その父がウルトラマンキングのエネルギーを宇宙中から吸い寄せ、充満させていたために発動できたのと同じように。今度はウルトラマンノアの化身である、ネクサスのリトルスターの力を宿した妹の助けを借りることで――ウルトラカプセルを通して、その元になった巨人たちの祈りと共鳴する。
そして、ウルトラマンジードに祈りを託してくれた人々の心とも繋がって、ここに奇跡を再現していた。
「(何、これ……)」
かつて宇宙を救ったその奇跡を知らない妹たちが、圧倒されたように息を呑む。
それは栄光の初代ウルトラマンが誇る伝説の大技、ウルトラセパレーションを元とするジードマルチレイヤーの、ウルティメイトファイナル版。
初代ウルトラマンのカプセルを用いたプリミティブの業を越えた奇跡は、元となった五体分身を越え、これまでにフュージョンライズし遺伝子に刻まれた全形態、七タイプのウルトラマンジードを、実体を持った分身として顕現させていた。
「(すごい、お兄ちゃんがいっぱい……っ!)」
プリミティブ。ソリッドバーニング。アクロスマッシャー。マグニフィセント。ロイヤルメガマスター。フォトンナイト。ダンディットトゥルース。
ギガファイナライザーを構え直したウルティメイトファイナルを含む壮観な眺めに、スカルゴモラが呆けた声を漏らした。
「君たちのおかげだよ、ルカ」
そんな妹に向けて、ウルトラマンジードは感謝を述べた。
「君のメタフィールドと、サラのくれたリトルスターがあるから……僕はもう一度、奇跡を起こせた」
父であるウルトラマンベリアルとの最終決戦。地力でも、経験でも、練度でも。心以外全ての面で明確に劣るジードが、ベリアルの最強の力を打ち砕くことができた奇跡、ジードマルチレイヤー。
あの奇跡を越える揃い踏みは、祈りに応えてくれた人々はもちろん、妹二人の助力もあってこそだ。ウルトラマンジード、朝倉リクだけではここまで至れずに、ザ・ワンに敗れていたことだろう。
……正直に言えば、自分だけの力で妹たちに勝てないのは悔しい。兄でありながら、自分だけで妹に迫る危機を退けられない無力さには、震えるほどの屈辱すら覚える。
だが、そんなくだらないプライドに拘泥して――大切な人を亡くす想いだけは、二度とごめんだったから。
ルカも、サラも、自身より力に劣る兄を、それでも蔑ろにせず、信頼してくれた。その気持ちを、裏切るわけにはいかない。
年長者として、彼女たちよりも多く経験してきた出会いに活を求めて。救うべき妹自身の力すらも借りるようなみっともなさで、ありったけの助けを掻き集めてでも。一人では何もできないのかと見下されようとも、家族を守り、大切な彼女たちの生きていく世界を守る。それが兄であり、父ベリアルとは違う道を選んだウルトラマンである己の果たすべき責任だと、朝倉リクは自負していた。
「君たちと、一緒に生きたい。そんな僕の願いを繋ぐために――皆が、応えてくれた!」
ウルトラマンジードを信じてくれた人間たちも。
ベリアルの息子を信じてくれたウルトラマンたちも。
皆が、朝倉リクの選択する戦いを、後押ししてくれた。
だからこその奇跡に支えられ、ウルトラマンジードは今、託された全ての祈りとともに邪神へと挑む。
「行くぞ、ザ・ワン――これで終わりだ!」
予想外の現象に圧倒されていたザ・ワンとその眷属が、ジードの闘志の高まりを察したように身構えた。
だが、遅い――ジードの呼び出した光の眩さに気取られていたザ・ワンは、もう一人のウルトラマンを前に、隙を晒し過ぎていた。
「――ツインギガブレイクッ!」
ビヨンドリープアタックを発動し、背後を取ったゼロビヨンドの双つの刃が、今度こそザ・ワンの翼を切り刻む。
かつてウルトラマンゼロが戦った滅亡の邪神、ハイパーゼットンのように――翼の損傷によって転移能力に障害を来したザ・ワンへと、八人のジードが各々最大まで高めた光子エネルギーを解き放とうとする。
させまいと、イズマエルグローラーがその目を妖しく光らせるが――両手のゼロツインソードを分解したゼロビヨンドがクワトロスラッガーとして繰り出し、イズマエルの顔面をめった切りにすることで、催眠波動の行使を阻害する。
「その幻覚は、既に見切った!」
歴戦の勇士であるゼロが断言する頃には、同じく妨害に動いた残る三体のアマルガムタイプビーストと、リクの家族たちが激突していた。
かつてチブル星人が複数の怪獣を融合させたことで誕生したファイブキングと似通ったスペースビーストを、これまたチブル星人による培養合成の結果、ベリアル融合獣と同等の姿となったスカルゴモラが、彼女だけが持つレイオニックバーストの力で圧倒する。
救出に割り込もうとしたバシレウスの脚に、サンダーキラーSがその長い尾を巻き付かせ、ベリアルジェノサンダーで痺れさせる。動きの鈍ったところへとデスシウムD4レイを発射し、光線吸収能力を無効化する次元崩壊の力場が、吸引アトラクタースパウトごとバシレウスを貫き、空間ごと破砕する。
同じくD4レイを繰り出そうとしていたヘイデウスを、キングギャラクトロンMK2が素早い動きで距離を詰め、猛打。射線を逸らさせて、味方を守る。
よって――分身を産み出すために、自らの力を削ったザ・ワンは単身で、八人のジードに対応しなければならなくなっていた。
ザ・ワンの角が光り、砲撃を前に強烈な重力場の形成と、超音波攻撃がジードを狙うが――
「(させるかぁっ!)」
ファイブキングを引き裂いたスカルゴモラが、同じく角を光らせた。怪獣念力とスカル超振動波を繰り出して、ザ・ワンの攻撃を相殺する。
「(今だよ、お兄ちゃん!)」
そして、妹が呼びかけるのに合わせ、ジードは遂に一斉攻撃を開始した。
「ストライクブースト!」「アトモスインパクト!」
「ビッグバスタウェイ!」「ロイヤルエーンド!」
「ナイトストリーム!」「ブレイザーバニシング!」
「レッキングバースト!」「ライザーレイビーム!」
総勢八人のジード各々が放つ、必殺光線。ウルトラマンジードの文字通り最大火力の攻撃は、ザ・ワンの七つの頭が放つ迎撃とぶつかり合って――数の優位を活かし、押し切った。
……いくら、強大な個になったのだとしても。他者から奪うだけのザ・ワンが自らを分割しなければできない頭数の増加を、ジードは共に生きる他者の力を借りることで、純粋な戦力の増強として可能とする。その違いが彼我の実力差を逆転させ、勝敗を覆した。
最期の抵抗とばかりに、ザ・ワンの胴体が変化し生み出した光線吸収口も、ジードとザ・ワンの最初の激突の再現とばかりに、無尽のエネルギーを持つライザーレイビームがザ・ワンの吸収能力を凌駕して、消化不良を起こさせる。
最終的に、全ての妨害を突破してハイパービースト・ザ・ワンに殺到した光子エネルギーが、炸裂。滅亡の邪神は、爆発すら消し去る圧倒的な煌めきの中へと解けて行く。
邪神の肉体が滅び去るその時――その光の奔流から、抜け出す青い光が在った。
「まずい、脱出されるぞ!」
瞬間移動で、ジードの攻撃に巻き込まれることがないよう逃れたばかりだったゼロが、そんな警告を口した。
それで悟る――あの青い球体こそは、肉体を破壊されてなお健在な、ザ・ワンの核であるということを。
ザ・ワンの核は超獣がするように空間構造を破壊し、メタフィールドから飛び出そうとする。だが邪神に打ち克つため、光子エネルギーを底まで絞り出した七体の分身ジードは、ただちにそこを狙い撃てない。
だから、ザ・ワンを止めるのは、ジードの分身でも、ザ・ワンが復活の器としかねない眷属たちを撃破する最中にあったゼロでも、ライハの駆るキングギャラクトロンMK2でもなかった。
「(逃がすか――っ!)」
あの夜、サンダーキラーS相手にしたように。ザ・ワンの核が開いた次元の穴を、怪獣念力で障壁を生み出して、スカルゴモラが塞いでいた。
その背が眩く光るのを見て、ザ・ワンは逆に、彼女と自らの間の空間を破壊して、次元の穴による防壁を産み出すが……
「させない……!」
その次元の穴ごと潰滅させる、紫色の光芒を、サンダーキラーSが再び湛えていた。
妹たちが攻撃態勢を完了させるのと同時に、本体のジード・ウルティメイトファイナルが、素早く射線を変えるためギガファイナライザーを手放し。その動作のまま両手を交差させ、全身から尽きることのない光子エネルギーを金色のオーラとして迸らせながら、二人を導くように腕を十字に組んだ。
「レッキング・ノバ!」
「(インフェルノ・バースト!)」
「ですしうむD4れい!」
超熱量の破壊光線と、分解消滅光線と、次元潰滅光線とが、混じり合って放たれる。
それは逃れようとしていたザ・ワンの構えた次元の穴ごと、その奥に漂っていたザ・ワンの核を灼き尽くし、素粒子にまで分解し、さらには存在するという量子論的情報を消滅させ、何も残らなくなった空間すら、念入りに全て崩壊させた。
そして、遂に――多元宇宙を揺るがす脅威であった滅亡の邪神の一柱が、ベリアルの子らに討たれたのだった。
◆
「(やった……っ!)」
熱線を撃ち終えたスカルゴモラは、その結果を確認して思わず声を漏らした。
〈ええ、やったわよ、ルカ!〉
その戦果を、共に戦ってくれた師匠が、誰より喜んだように頷いてくれた。
「……ザ・ワンに、勝った」
光線を撃った後。残心していた構えを解いたウルトラマンジードが、そうポツリと呟いた。
割れるような歓声は、通信機の向こうから。こちらでは一分、しかし彼らの主観では四年もの間、対ビースト抗体開発のために身を捧げてくれたAIB研究セクションの異星人たちが、思わず漏らした勝鬨だった。
〈――分身であるビーストも、抗体の効果で弱体化し、タイガたちによる掃討が完了したようだ。状況終了……ということになるな〉
あのペイシャンも、どこか嬉しそうにその報告を読み上げていた。
「(やりましたねぇ、ゼロさん! 長かったぁ……)」
そのペイシャンら同様、シャイニングフィールドに巻き込まれていたレイトもまた、思わず気の抜けたような声を漏らしていた。
そんな彼の精神の緩みに影響されたのか、ネオ・フュージョンライズを解除し、普段の姿に戻ったゼロが、大きく頷いてみせた。
「そうだな……ったく、ジードの奴。また強くなりやがって」
「――僕の力じゃないよ」
言葉とは裏腹に、やはり嬉しそうなゼロの漏らした感想に、一人に戻ったジードは首を横に振っていた。
「僕はただ、力を貸して貰っただけ……認めてくれた人たちと、その皆との繋がりを強くしてくれた、ルカのおかげだ」
突然、兄に名指しで褒められて、スカルゴモラは気恥ずかしさで身を強張らせる。
「(そ、そんな……私だってたまたま宿ったリトルスターの力を借りただけだし、ザ・ワンをやっつけたのはお兄ちゃんだもん! それに……)」
兄と謙遜し合いながら、スカルゴモラは沈黙していた彼女を振り返った。
「(……サラが、皆と一緒に戦ってくれたから)」
「お姉、さま……」
妹は、スカルゴモラの視線を前にして、少しだけ緊張した様子で応じてきた。
……そんな反応も無理はない、と。闘争心を赤く滾らせたレイオニックバーストの姿のまま、しかし敢えてその状態を維持して、スカルゴモラは身体の向きを変えた。
忙しい時にやって来た、迷惑なスペースビーストを退けたというだけで――姉妹喧嘩はまだ、終わっていないから。
「……ご、ごめんなさいっ!」
そんな姉の姿を前にして、妹は怯えたように這い蹲り、触手の全てを大地に突き刺して無防備を晒し、頭を下げた。
そして、究極融合超獣サンダーキラーSは、震える声で続ける。
「わたし、わたしあのとき、わかってなかったの! 痛いのが、どんなにイヤなことなのか……わたしのやりたいことばっかりで、ふたりをこまらせてたのか! それで、お兄さまにも、お姉さまにも、ひどいことをしちゃって――いっぱい、めいわくをかけちゃって……っ!」
「サラ……」
末妹が訴える痛ましい様子に、ジードが思わずと言った様子で、憐憫を滲ませた声を漏らしていた。
その呼びかけにも気づいていないように、サンダーキラーSは続ける。
「だから……ごめんなさい、ゆるして……っ!」
「(――悪いけど、いくら謝られたって……私は、許せないよ)」
「――っ!」
ほんの少し、胸を痛めながら――スカルゴモラは、そんな返答を妹に告げた。
スカルゴモラが意識して冷たくした声音を聞いたサンダーキラーSは、怯えたように息を詰まらせていた。
〈待って!〉
その時。ジードと、ゼロと、キングギャラクトロンMK2と、そしてスカルゴモラに取り囲まれたサンダーキラーSを庇う声が、響いた。
〈そんなこと、言わないであげて……その子は、サラはあなたたちと仲直りしたくて、頑張ってくれたの!〉
通信に割り込んできたのは、大人の女性――きっと、噂に聞くピット星人トリィ=ティプだと、スカルゴモラも理解した。
〈ずっと、泣いてた……あなたたちに許して欲しいって、仲直りしたいんだって――!〉
「(……それでも、私はこの子を許せない)」
居場所がない苦しみ。孤独を癒せるたった一つの頼りである、家族との関係さえも断ち切られてしまうかもしれないという苦しみ――自らも深く経験したことのある悲しみを訴えられても、スカルゴモラの決心は、揺れなかった。
「(だって許すのは――お兄ちゃんだもん)」
「……えっ?」
スカルゴモラが告げた言葉で、驚いたように。サンダーキラーSが、顔を上げた。
「(……あなたが怪我させちゃったのは、お兄ちゃんでしょ。私じゃない。だから、私があなたを許すことはできないの)」
「でも……わたし、お姉さまにも、いっぱい、ケガを――」
「(あんなの全然へっちゃらだよ。だって私はあなたのお姉ちゃん、最強の合成怪獣なんだから!)」
本当はあの時、暴走するまでは目を開けていられないほど痛かったが――姉には見栄があるのだと、スカルゴモラは当時の出来事を都合良く改竄して、究極融合超獣相手に嘘を吐く。
「(だから、謝る相手が違う――わかった?)」
言い聞かせると、戸惑った様子で緩慢ながら頷いたサンダーキラーSは、それからジードの方を向いた。
「お兄さま……その……ごめんなさい」
「――いいよ。僕も全然、平気だから」
恐る恐ると言った様子のサンダーキラーSの謝罪に、ウルトラマンジードは――兄は、初めて会ったあの日の夜、ルカにしてくれたみたいに。妹のことを優しく、暖かく、受け入れてくれていた。
「(……じゃあ、今度は私が謝らなきゃいけない番だよね)」
そんな兄の言葉を受けて、スカルゴモラはもう一歩前に出た。
「(あの時、私は――お兄ちゃんを言い訳にして、自分の本能に負けた。それで、あなたが泣いても、傷つけるのをやめなかった)」
生まれてすぐ、自分が闇に呑まれつつあったウルトラマンタイガにされたように。
……あんなに、嫌だったのに。自らの血の衝動に負けて、タイガの場合と違って、相手の言葉も直接わかるのに……自分たちは姉妹だと、互いにそう思っていたのに。
「(……酷いお姉ちゃんだったよね。だから、許してくれなくても良いよ)」
自分でも、卑怯な言いぶりだとは思いながらも――本当は自分だって、仲直りしたいと思いながらも、その我儘を今だけは抑え込んで。
兄や師匠、それと、身近な善意が見守ってくれている中で、培養合成獣は究極融合超獣に願う。
「(だけど……できたらもう、怖がらないで。あなたには、笑っていて欲しいから)」
「――っ!」
スカルゴモラの言葉に衝撃を受けたように、サンダーキラーSは身を震わせて固まった。
そんな妹に、姉は抱えていた秘密を伝える。
「(……
お釈迦様がこの世を去った際、臥床の四辺にあったという、四双八本の沙羅樹。その時舞い散る白い花びらは、さながら鶴の群れの如くであったという。
植物なのは、自身が花の名を持つという繋がりからで――確かに、四双八本や白という関連する単語のインスピレーションや、何よりサンダーキラーSから連想できる名前であったという面も強いものの。
自身の名前に、スイさんや兄が込めてくれた願いがあるように――ただの言葉遊びではなく、そこに確かに想いを込めて、スカルゴモラは妹に名前を贈っていたのだ。
「(あなたは憎しみに囚われたヤプールの手で、色んな命を掛け合わせて造られた。私たち兄姉と殺し合うために……)」
改めて。ゼロが悪辣だと警戒するのも当然だと思える、よくもそんな残酷な仕打ちを思いつくものだと、スカルゴモラは妹が生まれて来た経緯に苦々しいものを感じる。
「(でも、あなたはその宿命から抜け出して、私たちと、仲の良い兄妹になろうとしてくれた。そんな風に、嫌なしがらみから自由になって……幸せになって欲しいって願いを、あなたの名前に託したんだ)」
利用され続ける命。苦しい戦いに晒され傷つくばかりの運命に、安らかな幸せを。
……奇しくも、それが――兄が、父に向けた願いとも重なることを、未だ知る由もなく。
その祈りを、この世の何より早く、自分自身の手で手折りかけてしまったスカルゴモラは、もう一度願いを紡いでいた。
「(だから……私はあなたに、笑っていて欲しい。そのために――もう、顔も見たくないって言われても、我慢する)」
「……じゃあ、だったら。お姉さま」
それから、もう一度――恐る恐ると言った、しかし勇気を振り絞った様子で。サンダーキラーSは、問いかけてきてくれた。
「お兄さまも。こんなわたしと……なかなおり、してくれる――?」
「――うん、もちろん」
そして、代表して兄が答えるのに合わせて。スカルゴモラも、万感の想いを込めて頷いた。
それを見て――安堵の余り尻餅をついたサンダーキラーSが、鳴き声を上げた。
サンダーキラーSは、泣いていた――ただ、あの悪夢の夜と違うのは。今夜の涙は、嬉し泣きだということだった。
〈サラ……良かったわね〉
そんなサンダーキラーSの様子を見て、しみじみとトリィが呟いてくれていた。
……この人には、きっと、本当にとってもお世話になったんだろうと、スカルゴモラは思う。
「(あーもう、人前で泣かないの)」
そう言う自分も、本当は半泣きになっているのを隠しきれないまま。
サンダーキラーSに歩み寄ったスカルゴモラ・レイオニックバーストは、互いに本来の――前は傷つけ合った姿のままで、妹を抱き寄せ、肩を叩いた。
呪われた血の衝動を完全に抑え込んで……もう、傷つけられたりしないのだと、彼女に安心して貰うために。
自分が名前に込められた意味を教えられたあの日、兄にして貰ったみたいに。
背中を優しく叩いてあげていると、サンダーキラーSも、触手を巻き付かせて抱き締め返してくる――レイオニックバーストを維持したままでなければ多分、痛かったほどの力を感じながら、スカルゴモラは想いを伝えた。
「(帰ったらまた遊ぼうね、サラ。お兄ちゃんと三人で、一緒に笑おう。毎日)」
「はい、お姉さま……! ……でも、怪獣ごっこは、もうこりごり」
「(あなたがやりたがったんでしょ!)」
緊張の砕けてきた妹にツッコミを入れながら――スカルゴモラは、じんわりと胸が暖かくなるのを感じていた。
……ペイシャンは、レイオニクスの闘争本能をウルトラマンの力で抑えられると言っていたが、多分少し違うと、スカルゴモラは感じていた。
ウルトラマンでなくとも、レイオニクスの力は制御できる。もっと正確に言えば、きっとそれはレイオニクスに限った話ではなく。
破壊衝動や、闘争心を制するのは――月並みな表現だとしても、何かを大切に想う愛と希望なのだと、培養合成獣スカルゴモラは、朝倉ルカは想う。
だから、その慈愛と信頼に満ちた、そしてそれを繋ぐウルトラマンたちの力は、結果としてレイオニクスの暴走を抑える効果を発揮するのだと。
なら、きっと。もう、この力に負けて兄妹を傷つけてしまうことはないと。兄と同じように、遺伝子の定めをひっくり返し、運命を変えられると、自分自身を信じながら。スカルゴモラは、血を分け合った家族の感触と温もりを、その手の中に抱えていた。
「(ほら、お兄ちゃんも!)」
そうして、欠けていたものを思い出して振り返ると、兄は戸惑った様子を見せた。
「えっ……いや、ちょっと僕は――恥ずかしいし……」
「(あー、そんなこと言う……よぉしサラ、こっちに引っ張ってきてやれ!)」
「はい、お姉さま!」
「うわぁあっ!?」
元気よく頷いたサンダーキラーSの触手に襲われて、しかし反撃するわけにもいかず、妹二人のところまでウルトラマンジードが引き寄せられる。
「――へっ。逞しくなったじゃねぇか、ルカのやつも」
〈当然よ。あの子はリクの妹で――私の弟子なんだから〉
事態の推移を黙って見守っていたゼロ――父の宿敵の一人であったウルトラマンが、姉妹喧嘩の結末を見届けて笑うのに、ライハがどこか、鼻高々といった調子で応じた。
……幸せだな、と。兄妹三人で体温を感じ合いながら、培養合成獣スカルゴモラはそう感じた。
こんなにおっかない姉を許してくれる、可愛い妹が居て。厳しくも優しい師匠が居て、他にも大勢の人が見守り、支えてくれている。己の正体を知らないままでも、信じてくれる人もいる。
あんなに怖かったウルトラマンのことも、本当にもう、怖くなくなった。
「(お兄ちゃん)」
その幸せも、全部――全部、この人がくれたのだと、スカルゴモラは共に触手に巻かれ、間近に迫った兄の顔を見た。
「(今、幸せ?)」
「……うん。ルカたちも仲直りできたし……僕は前よりずっと、ハッピーになれたよ」
「(私もだよ)」
前にもそう言ってくれた時のことを、スカルゴモラはずっと覚えていた――それは、何より幸せな記憶だったから。
「(だから……あの時、お兄ちゃんに言えてなかったから。今度は私から言うね)」
胸が、ポカポカする。昼間の戦いが終わった後に見つけた、己の願いが叶ったことで、心が暖かく満たされるのを、スカルゴモラは感じていた。
「(ありがとう、お兄ちゃん。私たちのお兄ちゃんになってくれて――おかげで私、とってもとっても、ハッピーだよ)」
そんな気持ちを伝えた時、スカルゴモラの胸の中心から、光が溢れた。
凶兆の如く、いくつもの騒動を引き寄せながらも。同時に、自分たち兄妹が生きていく、この世界を守るための力となってくれた、小さな願い星。
ウルトラマンネクサスのリトルスターが、幸福で満ちたスカルゴモラの祈りを載せ。これからも続くその日々を守るヒーロー、ウルトラマンジードの新たな力となるべく、譲り渡されたのだった。