ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第十二話「絆∞インフィニティー」Cパート

 

 

 

 滅亡の邪神、ハイパービースト・ザ・ワンを倒し、スペースビーストの脅威を退けた翌日。

 

〈対ビースト抗体、無事にサイドスペース中に行き渡ったよ!〉

 

 故郷であるペガッサシティに帰省している親友から、朝倉リクは最後の心残りが無事に解決したことを告げられた。

 

「ありがとう、ペガ」

〈ううん。ミオさんや、皆のおかげだよ〉

 

 かつて二人で、アサヒの世界に飛ばされた際――湊家の長男であるカツミが、トレギアの罠で七千光年以上離れた別天体に取り残されてしまったのを見つけるために、母親である湊ミオが閃いた、ペガッサ星人特有のダーク・ゾーンの応用法。

 亜空間フィールドに電波をリープし、時空間の不連続面を利用することで、光速を超え、宇宙規模で電波を発信するその技術――リクにはよくわからないものであったが、ペガが覚えていたその手法を用いた、AIBとペガッサシティの協力により、サイドスペース中へと、対ビースト抗体となる光量子情報が発信された。

 宇宙を満たしたその働きにより、ザ・ワンがこの宇宙に到着してから散布していたχ(カイ)ニュートリノは恐怖との結合を阻害され、スペースビーストの再発生も起きなくなる。

 株違いとなる、別のスペースビースト由来のビースト振動波に対してまで万全を保証するものではないが、これで、この宇宙はザ・ワンの脅威からは完全に解放されたことになる。

 光の国には不要だとしても、他の星への影響を考え、ゼロたちもサンプルを持ち帰ることになるのだそうだ。

 

〈ザ・ワンをやっつけたのと……対ビースト抗体開発に協力したこと。きっとこれで、ルカやサラのことも、もっとたくさんの人が認めてくれることになると思う!〉

「……だったら良いな」

 

 ペガが我が事のように喜び、明るい未来の展望を語ってくれるのに、リクは素直な気持ちで感想を零した。

 もしもまた、ノワール星人のように、過去の因縁から妹たちを憎む相手が現れても、リクは一歩も引く気はないが――そもそもそんなことがなく、家族がただ笑って生きていくことを認めてくれるような世界になって欲しいというのが、偽らざる本音だったから。

 

〈大丈夫だよ、リク! だってペガも……誰よりリクも、そのために頑張っているんだから〉

「そうだな……改めてありがとう、ペガ。本当に、助かってる」

 

 そうして、リクがペガと星雲荘で通信していた頃には、AIBとペガッサシティの上層部もまた、同じ内容のやり取りを終えていたようで。

 事態の収集を見届けた光の戦士たちは、各々が護るべき場所に戻るために、この地を去ることになっていた。

 その見送りに、リクは家族や仲間を連れて向かうことになった。

 

「また、休みを取ったら遊びに来るからな」

 

 真っ先に口を開いたのは、中心に立つゼロだった。思えば前回の休暇も早々に切り上げて貰う形となり、結果として彼はマユとの触れ合いを堪能できていないままだ。

 そのフラストレーションを可能な限り表に出すことなく、爽やかに手を振る巨人に対して、伊賀栗家の三人もまた手を振って応じていた。

 

「ゼロはいつも、小さい有機生命体に好意を抱くんだな」

「おまっ、誤解を招くようなことを言うな!?」

 

 仲間のジャンナインが漏らした感想に、ゼロが焦った様子で突っかかっていた。

 

「……助けてくれてありがとう、ウルトラマン」

 

 その隣で、ルカがトライスクワッドの三人を眩しそうに見上げていた。

 その中心に立つ、かつて彼女の命を奪いかけた恐怖の象徴であった光の勇者は、装甲された胸板を拳で叩いて応じた。

 

「お安い御用だ。俺の方こそ、君たちに助けられていたから」

「……私たちに?」

「ああ。あの時、ジード先輩がトレギアとの戦いに来られたのは……代わりにこの世界を守るって、先輩の背を押してくれた、君やその仲間たちが居てくれたからなんだ」

 

 タイガはその双眸で、ルカを中心とした星雲荘の家族と、モアたちAIBの仲間たちに視線を配った。

 

「俺たちウルトラマンは、一人で戦っているんじゃない。ザ・ワンに勝てたのも、全力でサポートしてくれたAIBの皆や、応援してくれた人々が居たからだ――もう一度、それがわかった。俺たちが父さんをグリムドから取り戻せたのも、あの時、代表して駆けつけてくれた先輩たちの力だけじゃない。それぞれの居場所でウルトラマンを支えてくれている、たくさんの絆のおかげだったんだって」

「……いや、悪ぃな皆! こいつ何千年も生きてるけど、親父さんが偉大過ぎて跳ねっ返りだった時期があってよ。んな当たり前のことを今更言っちまう恥ずかしい奴なんだわ!」

「恥ずかしいとはなんだフーマ!」

 

 照れた様子のフーマが聞いていられないとばかりに割り込んだのに、憤慨したタイガが言い返していた。

 当たり前――考えてみれば、その通りのことなのかもしれない。

 だが、常識なんて人それぞれだ。その価値観を凝り固まらせることなく、新たな視点で物を考え直せることは――その結論が、他の誰かからすれば手垢のついたようなものであっても、自分自身で答えに辿り着いたのなら。決して恥ずかしがるものではないと、リクは想う。

 

「まぁまぁ二人とも、落ち着け。平常心だ、平常心」

 

 年長者であるタイタスが、纏め役のようにして互いを突き合うタイガとフーマの肩を叩き、諍いを収める。

 

「……じゃあな、皆。また会おうぜ」

 

 そうして、わちゃわちゃとしたやり取りの一段落を見届けたゼロが仕切って、巨人たちは宇宙に飛び立っていった。そこから各々、次に向かうべき世界へと、彼らはさらに移っていくのだろう。

 ウルトラマンの、使命を果たすために。

 

 その背を目で追いながら――自分も、ベリアルの息子として。父の残した災禍の後始末をしに行かなければならないと、リクは密かに決意していた。

 だが、それは今ではないと。ザ・ワンが滅びても、未だ残る謎と脅威を思いながら、リクは二人の妹を振り返る。

 ……せめて、彼女たちに纏わる問題が片付くまでは。もう、この宇宙を離れるわけにはいかないと。

 その一つ――物理的な脅威に立ち向かうのとは違う、しかし必ず決着を付けなければならない出来事に、リクは早速向かい合った。

 

 リクたち、星雲荘の面々が見つめる先には――馴染みとなったAIBの面々に、白衣の女性が混ざっていた。

 かつて、AIBとリクが関わるようになった騒動の発端ともなったその人物こそ、ピット星人トリィ=ティプ。

 今回のスペースビーストとの戦争の中でも、中核となる活躍をしたと言える彼女へと、リクは頭を下げた。

 

「ありがとうございました……妹が、お世話になりました」

「気を遣わなくていいのよ。本当なら、誘拐犯扱いでもおかしくないから」

 

 かつて、緊急事態だったとはいえ、自転車を盗まれた者と盗んだ者が、今度は家族の身柄を巡って対峙する。

 別に、今更敵対するわけではないのだが――そこに、一種の別離を生じさせかねないことを、予感しながら。

 そのリクの前で、冗談めかして答えていたトリィは視線を下ろし、サラの方を向いていた。

 

「……色々と助けてくれてありがとうね、サラ。あなたと一緒にいた間は、久しぶりに充実した気持ちだったわ」

「トリィ……?」

 

 そんな、保護者たちの予感が伝わったように。微かに立ち竦んでいたサラを、トリィは笑みとともに促した。

 

「さ、星雲荘に帰りなさい。お兄ちゃんお姉ちゃんと、仲良くね」

 

 ……そして、彼女と融合していた際の。サラ自身が口にしたのとそっくりな別れの言葉を、トリィは形にする。

 家族として、居場所として、サラは兄姉を、星雲荘を選んでくれた。ならば、身を寄せていたトリィの下からは、離れることになる。

 念願が叶えば、そうなることを。その時は理解していたはずのサラは、今になってその事実に気づいたように、愕然としていた。

 それを彼女が、受け止められるのか。

 あるいは、それを自分で覆すことが、できるのか。

 

「ねぇ!」

 

 果たして、リクの見守る前で――踵を返したトリィへと、サラはその小さな体に見合わない大きな声を、張り上げていた。

 

「わたし、トリィともいっしょにいたいの! やっぱり、トリィみたいなはかせになりたい!」

「サラ……」

「トリィのおかげで、わたしもみんなも、しあわせになれたから……わたしもだれかをしあわせにできる、かしこいいい子になりたいの!」

 

 振り返ったトリィに、サラは声の限りに、彼女への憧れを叫んでいた。

 限界まで振り絞った声量を発した反動で、息を荒くしながらも……疲れに負けず、サラはその胸に抱えた気持ちを、トリィへと訴えていた。

 

「だから、また、トリィのところに行ってもいい……? おしごとのおてつだいしたり、いっしょにひなたぼっこしたり、したいの……!」

「――もし、ご迷惑でなかったら」

 

 そこでリクは、末妹に力添えすることにした。

 

「僕からも、お願いしても構いませんか」

「私からもお願いします! トリィさん」

 

 リクが口を開くと、続いてルカも身を乗り出した。その後ろからさらに、ライハも同意を示すように頷く。

 ユートムを介して見守るレムも、きっと問われれば同じようにしてくれるのだろう。

 

「……いいの?」

「うん。ずっと離れ離れになっちゃったら、寂しいけど……そうじゃないんでしょ? サラは私たちのことも、トリィさんのことも、大事にしてくれるんでしょ?」

 

 見上げて来るサラの問いかけに、ルカが笑顔を返していた。

 そんなルカの確認へ力強く頷くサラを見て、リクは改めて安心する。

 

 痛みを知り、他者を思いやり、己の望みを抱えた上で、相手の都合を尊重する。

 そして、共に生きる道を歩むために、他者の幸せに思考が及ぶよう、知恵を求める。

 そんな生き方を選べるように成長したサラはきっと、もうヤプールやザ・ワンのような略奪者となることを、少なくとも自分から選びはしないだろうと。

 彼女もまた、ルカがその名に祈ったように。その血に定められた運命に囚われず、変えて行けるはずだと、そう確信できたから。

 

 それでも、きっかけとなる彼女の意志だけで足りない分がある時は――リクが、多くの人に支えられたことで、運命をひっくり返せたように。今度は自分が支える側に回る番だと、兄として決意していた。

 

「――あなたたちが、そう言ってくれるなら」

 

 そして、星雲荘の総意に対して。振り返っていたトリィもまた、涙で崩れそうになる表情を必死に留めた様子で、頷きを返してくれた。

 

「私の家で良かったら、いつでも遊びに来て」

「――っ!」

 

 言葉にできない歓喜と、安心とに、サラが声を詰まらせる。その両肩に掌を当てていたルカが、代わって弾けるような笑顔を見せていた。

 

「職場見学も……駄目かしら、ペイシャン?」

 

 続けて、トリィが上司を振り返っていた。

 

「相手はこの宇宙を救うために協力してくれた功労者よ? 私が責任を負うから、出入の自由くらいは、認められないかしら」

「……、上に打診してやる。通ったとしても、アポは取ってから来いよ」

 

 功績著しい部下の頼みに負けたように、ペイシャンが重い溜息を吐いた。

 

「――監視は私の名で引き受けておく」

「ああ、頼む」

 

 そっとゼナがペイシャンに耳打ちしているのが、地球人ではない身体能力を持つリクにも聞こえていた。アリバイ作りに、二人も協力してくれるらしい。

 

「やったー!」

 

 そんな上司陣の気苦労に全く意識が回っていないらしく、何故かモアが真っ先に歓声を上げて跳び跳ねた。

 

「良かったね、みんな! これでまた、仲良くできるね!」

「うん、そうだね、モア! 後はペガにも……早く帰って来て欲しいなぁ」

「きっと、大丈夫よ。あなたとサラも、ウルトラマンジードと一緒に、この宇宙を救った功労者だそうだから」

 

 自分たちのために、遠い故郷まで戻って貰っているペガへ申し訳なさそうにルカが呟くのを、ライハがそんな風に励ましていた。

 

「トリィ!」

 

 そして、モアと入れ替わるようにして。トリィのところまで駆け寄ったサラが、彼女の胸の中まで飛び込んでいた。

 

「……これからもよろしくね、トリィ!」

「ええ、こちらこそ。……博士になるためのお勉強、私が見てあげようか?」

「うん! おべんきょう、がんばる……!」

 

 笑顔を交わす二人を見て、リクも思わず顔を綻ばせた。

 

「……お勉強、頑張るんだって。見習わなくちゃいけないね、マユ」

 

 その隣で、ゼロを見送った後も残っていたレイトが、愛娘に向けて言い聞かせていた。

 

「……はぁい」

 

 不承不承、と言った様子で頷くマユの頭を、レイトとルミナが優しく撫でる。

 

 そんな、ささやかな幸福が満ちたこの世界が救われたことに。

 いつか、この幸福を見つけるために、先に世界を守ると決めていたリクは、ふと――思うことがあって、ウルトラカプセルのホルスターの上に、掌を重ねていた。

 

 

 

 

 

 

 そうして、この世界を救ったウルトラマンたちと別れ、元の世界に帰るため宇宙へ飛び出した後。

 

「いやぁ二人とも、大した活躍だったじゃないか! 私も鼻が高いぞぉ」

 

 子どもたちの前を離れてすぐ、ウルトラマンタイタスはチームメイトの若人両名の背を、そんな風に叩いていた。

 ……一切、本心からは笑っていない声色で。

 

「いやぁ、全く。私だって強力なスペースビーストを退治していたんだが、あの子たちの前じゃなかったからなぁハッハッハ……! 明らかに余り物を見る目を向けられた」

 

 その事実を振り返り、一気に消沈したタイタスは、叩かれた背の痛みに悶えていた二人の肩に手を回し、反転したような威圧感を浴びせていた。

 

「……そういうわけで、次の戦いでは私が中心でも構わないかな? なぁ、二回も約束を破って自分だけパワーアップした光の勇者に、優しいフーマお兄さん……!?」

「やっべ、旦那が面倒臭い時間帯かよ……っ! ちょっと早くねぇか……っ!?」

「んん、面倒臭い……?」

「い、いや何でもねぇって旦那! ほら平常心、平常心……っ!」

 

 耳聡く、漏らした失言に眼力を効かせたタイタスへ、フーマは慌てて先程告げられた言葉を繰り返していた。

 

「も、もちろんじゃないか! タイタスは俺たちの中でも、合体抜きなら最強だもんな! あのU40最強の戦士、ジョーニアスとも手合わせしていたその実力、戦いの中心で存分に見せて欲しいって、俺はいつも思ってるぜっ!」

 

 フーマを庇うように割って入り、誇りに思う故郷や憧れの人を讃えながら、タイタスをおだてようとするタイガ。

 昔の雑談まで根に持って話しかけてくる年長者への対応に苦慮している若者を見て、タイタスは少しばかり冷静に戻った。

 

「そうか……そうだな。何せ私は、あのウルトラマンジョーニアスの薫陶を受けた、惑星U40の賢者の一人。今回も、巨大なクイーンモネラを、このワイズマンズフィストの一発でダウンさせたからな!」

「そうそう! 本当に厄介な奴は、いつも旦那がまずどうにかしてくれてるんだよな! イズマエルだって旦那が居なきゃ、倒しようがなかったしよぉ!」

「そうだそうだ! それに俺だって、夜は日本に戻れなかったけど、大都市を守り抜いたんだ。ルカたちの代わりに、凄い数の地球人が、俺たちの活躍を見てくれてたさ!」

「ふふん、そうだな……!」

 

 一緒になってフーマやタイガが褒めそやすのに、満悦したタイタスは遠い目をした。

 ……焦点をずらをしたことで、その時まで気づいていなかった物を認識できた。

 

「ん? あれは……」

 

 離れた虚空に漂う、一本の剣。

 輝きこそ失われているが、その形をタイタスは、かつて目にしたことがあった。

 

「タイタス、どうした?」

「……タイガ。あれを見てくれ」

 

 同じく、知っているはずの――かつてその剣を揮い、ジョーニアスの危機を共に救った張本人の呼びかけに振り向いたタイタスは、しかし視線を戻した時に困惑した。

 

「……何もないぜ、タイタス」

「む? おかしいな……」

 

 確かにさっき、この両目で見たはずなのに。

 

「おい。いつまでわちゃわちゃやってんだ」

 

 幻を見たのだろうかと戸惑うタイタスと、心配そうに見守るタイガとフーマへ叱責を飛ばしたのは、ウルティメイトフォースゼロの仲間を率いて先を飛んでいた、ウルトラマンゼロだった。

 

「さっさと帰るぞ。ようやくザ・ワンと決着がついただけで、後回しにしてしまっていた案件はまだまだあるんだ。油を売ってるなら置いてくぞ」

「待ってくれよゼロ! 俺も早く、父さんたちに今回のことを報告したいんだ」

 

 ベリアルの子らとともに、彼らの生きる宇宙を救った――その報告を、ジードとも共闘した父タロウと、ベリアルの旧友である祖父母に早く伝えたいと願うタイガが、別の宇宙にまで通じる穴を開いたゼロへと告げる。

 

「急ごうぜ! 光の使者としての任務も大切だし、それに――今回の戦いで見つけた、ヒロユキが実際に側に居なくても、俺たちが合体するための感覚。忘れないうちに修行して、自分たちだけでできるようになりたいんだ!」

「……ああ、そうだな」

 

 振り返り、拳を握ってみせるタイガの呼びかけに頷きながら、タイタスは後ろ髪を引かれる気持ちで応じた。

 そうして、この宇宙を離れる直前、もう一度振り返ったが――

 

「――見間違いか。そうだ、こんな別宇宙にあるはずがないのだ。失われた我らの秘宝が……」

 

 その言葉を残し、U40の力の賢者は、サイドスペースを後にした。

 直後。彼が見失ったと思った剣が、再び虚空に出現したことに、気づくことのできないまま。

 

 

 

 

 

 

 トライスクワッドと、ウルティメイトフォースゼロが去った後の地球、星山市にて。

 ……何者かが、円筒形の黒い容器を二つ、その手の中で弄んでいた。

 ジードとゼロ、二人のウルトラマンが扱うウルトラカプセルと酷似したそれは、見る者が見れば――かつてウルトラマンベリアルとその配下が、スカルゴモラを始めとするベリアル融合獣へのフュージョンライズに用いた怪獣カプセルと同じ物であると、気づくことができただろう。

 かつて、トリィ=ティプが育てたエレキングの魂を囚え、サンダーキラーへのフュージョンライズのため利用したように。怪獣の霊魂、あるいは概念そのものを取り込みその力を使役する、外法の筒。ウルトラマンベリアルが受け継ぐ、レイオニクスの力を元に開発された、彼とその配下だけが手にした悪夢の欠片だった。

 

 ……だが、その二つのカプセルに収められた怪獣たちは、かつてベリアルの軍勢が保有したことのない代物であった。

 何故ならどちらも、ウルトラマンベリアルが討たれた後に倒された、彼より精強な怪獣たちであったから。

 その一つは、ラストジャッジメンター・ギルバリス。惑星クシアの民によって生み出されながら、暴走し何万年にも渡って、独善的な価値観で多元宇宙から生命を消し去り続けた最悪の人工知能が、自ら戦うために怪獣と化し……そして、ウルティメイトファイナルに覚醒したウルトラマンジードらによって討たれた姿。

 そして、もう一つは――

 

「……おまえが勝っても、それはそれで構わなかったんだがな」

 

 ウルトラマンジードらに倒されたばかりの滅亡の邪神、ハイパービースト・ザ・ワンの凶相が浮き出た、カプセルに向けて。万が一、その言葉を拾える者が居ても、誰が何を喋っているのかわからない、認識そのものに作用して変質させられている声が、敗者を嘲るように語りかけていた。

 

「だが、おかげで当初の予定通り、事態は進行している。必要なカプセルは、あと二つ。そして」

 

 怪獣カプセルを握る、謎の手の者は。影に覆われたその視線を――団欒を終えて帰路に就く星雲荘の面々、その内の一人へと注いでいた。

 

「……器が出来上がるまで、もう一押しだ」

 

 秘めたる囁きを聞いた者は、その時どこにも居なかった。

 あらゆる宇宙を守護するという伝説の超人――ウルトラマンキングを、含めてさえも。

 

 

 

 

 

 

 ゼロたちを見送った、さらにその数日後。

 ペイシャンの上層部への申請というのはあっさり通ったのか、サラはトリィの仕事場にお邪魔していた。

 ルカとライハも買い物に出かけ、星雲荘に一人残った形となったリクはふと、現在己の手元にあるウルトラカプセルを、机の上に並べていた。

 自分自身が産み出したエボリューションカプセルと、キングソードが内包していたウルトラ六兄弟という、特殊なカプセルを除けば――これまでにジードへと託されてきたウルトラカプセルは、十五個。

 ルカの希望によって届けられたネクサスジュネッス。サラの願いで起動したガイアV2。それと、父との決戦までに手に入れた、合計十三個のウルトラカプセル。

 これだけの祈りを受け取って来たのだと、身の引き締まる物を覚えながら――リクは、その中で最初に手に入れたカプセルの、片割れを手に取った。

 すなわち、父ベリアルに用意されていた――彼の力が込められていたカプセルを、じっと見つめる。

 

「……助かったよ、父さん」

 

 父さん。

 普段は敢えて避けているその呼び名で、リクはベリアルのウルトラカプセルに語りかけた。

 ……どんな思惑であれ、彼が最初に渡してくれた力がなければ、リクはウルトラマンジードとして戦うこともできなかった。

 これだけの祈りを託されるほど、誰かの力になることはできず――突然現れた、怪獣や超獣である妹たちを、受け入れることもできなかった。

 そして、彼女たちを狙う敵を、退けることもできなかっただろう。

 

 ……これまでに、ジードにリトルスターを託してくれた人々の祈りと。対応するカプセルを介して繋がった、ウルトラマンたちに認められることで己の分身を出現させる、ある意味で他人任せとも言える究極技、ウルティメイトマルチレイヤー。

 父との最終決戦で、初めて発動したジードマルチレイヤーの時は。周囲がウルトラマンキングの力に満ちていたからこそ、まさに敵対中だったベリアルのカプセルを片割れとするロイヤルメガマスターをも、出現させることができていた。

 

 だが、それなら。ザ・ワンとの決戦で、ロイヤルメガマスターだけでなく、プリミティブやダンディットトゥルースといった、ベリアルカプセルを用いた他のフュージョンライズの出現を成立させたのは、果たして誰の祈りと、力だったのか。

 もしかすると、そこまで含めてメタフィールドによる強化だったのかもしれない。あるいはロイヤルメガマスターのおまけに、あの全知全能の超人が、力を貸してくれたのかもしれない――ウルトラマンベリアルは他ならぬこの手で抹殺し、特別な追放空間の中に、その魂を永劫封じ込めているのだから、そう考えた方が矛盾も少ない。

 

 だが、まるで。その血を分けられた妹たちを、兄として守ろうとする自分に……亡き父も力を貸してくれたのかもしれないと、己がそう感じたことは、確かな事実で。

 それによって、ほんの少し、救われた気がしたことは――都合の良い幻想なのだとしても、誰にも否定できない真実だった。

 

 ――少なくとも、最初のきっかけとなる力をくれたことは間違いないのだから。

 今、家族と分かち合う幸せを享受できるのは――自分たち兄妹が生まれて来ることができたのは、疑う余地なく、ウルトラマンベリアルが存在していたおかげだから。

 無数の宇宙に、身勝手な理由で数多の悲劇を齎した、永遠に封じられるべき邪悪であり、授業参観に来て欲しくないタイプの親であることに変わりはないが――それでも、もう互いが憎しみに囚われる必要もないのなら、せめて安寧を得ていて欲しいと。

 ……奇しくも、ルカがサラの名前に託した祈りのように。リクもまた、父のその後を祈っていた。

 

 トレギアに続き、ザ・ワンも滅びたとしても。そもそもその邪神を元の宇宙から移動させたスペースビースト事件の黒幕や、ヤプールを滅ぼし、プリズ魔を操った何者か――そして度々観測される、不自然な怪獣の強化現象。脅威は未だ、身近なところにも溢れているが。

 

 父が居ない分も、これからも自分が家族と、彼女たちが幸福に生きるための世界を守ってみせると。

 そのためなら、あの悪夢に見たような強大な闇にも、どんな困難にも負けたりしないと――

 

 朝倉リクは、強く、強く、その心に決めていた。

 

 

 




Cパートあとがき



 ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
 何とか年内に第十二話、TVシリーズで言うところの第一クールの終わりまで到達し、それなりにキリの良いところで年を跨ぐことができたのは、お読み頂いている皆様の応援のおかげです。

 リアルタイムでお読み頂けている方は、本年はまことにお世話になりました。
 いきなり始まった連載でありながらお気に入り、感想、評価、しおり、推薦を頂くことができ、どれも本当に励みになってます。
 ご迷惑でなければ、2022年もよろしくお願い致します。どうぞ良いお年をお迎えください。



以下はいつもの雑文です。




・ダンディットトゥルース
 うっかりBパートで解説し忘れていましたが、この形態もDCD『フュージョンファイト』限定の姿です。
 しかし、他の限定形態とは違い、本編内で実際に所有しているカプセルのみで変身できるフュージョンライズ形態であるということが大きな特徴だったりします。
 アーリーベリアルと戦う場合にはマグニフィセント以上に最も因縁深い姿と言えるので、『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突』で出てきたりしないかなとファンの間でよく話題になる形態です。どうなるんでしょう……


・面倒臭いタイタスさん
 トライスクワッドの中で明らかに活躍が少なかったタイタスさんが何かごねだしましたが、『ウルトラマンタイガ』本編のタイタスさんはこんな人ではありません。
 しかし、本編と世界観を完全に共通としている、『トライスクワッドボイスドラマ』のタイタスさんはこんな感じな時があるので、そんな感じの言動をして貰いました。フーマの「ちょっと早くねぇか」は、ボイスドラマは本来テレビ本編が終わった後に配信される通りのタイミングの話であるため、まだ本編内の話が終わってない時間帯からボイスドラマ時の言動に移行し始めているタイタスさんへのメタネタになります。
「この時間帯(=ボイスドラマ)のタイタスは面倒臭い」は実際にボイスドラマ中で言及があるので……公式……! 二回も約束を破った、はレイガへの変身を含めて数えた形ですが、タイタスさんがこれを実際にカウントしているかは非公式なファン考察になります。
 次の戦いでは目立たせて貰うと言っているタイタスさんが、『ウルトラギャラクシーファイト 大いなる陰謀』では結局は明らかにタイガに見せ場を譲っているのは公式との矛盾ではないかと問われそうですが、憧れのジョーニアスと一緒に晴れ舞台で戦っているのでチームの誰の見せ場とか余計なことを考えていない……という体で解釈頂けると幸いです。一応この後、事後処理を終えたトライスクワッドは正史通り惑星マイジーでの修行に移るという想定。




(オリジナル)ウルトラカプセルナビ


名前:滅亡の邪神 ハイパービースト・ザ・ワン 第二形態(ゴエティア)
身長:63メートル(翼長250メートル)
体重:19万9千トン
得意技:七色破壊熱線


 全ての生命がスペースビーストに取り込まれ、滅びた宇宙で、そのスペースビーストたちが再融合し誕生した滅亡の邪神。
 その後、何者かの手によって次元移動を繰り返した末、ウルトラマンベリアルの因子を取り込んでさらに進化した便宜上の第二形態。
 目立った外見的な変化は、先端にスカルゴモラの背中の角状突起を身につけたサンダーキラーSに類似した触手が生えたのと、前腕部の肥大化。そして、怪獣使いの特性を得たことで、全身に顔として浮かんでいる怪獣たちの特性も強化され、かつてウルトラマンゼロが対決した百体怪獣ベリュドラにも似た醜悪さを身に纏っている。
 奪い取られた無数の生命の集合体として、分身(ブルード)の生成能力や驚異的な再生能力、状況に応じた肉体特性の変化を可能としており、恐るべき戦闘力を発揮する。

 ただし、サンダーキラーSからは本体の表層部分の生体情報しか奪えていないことから、キラートランスして初めて扱える能力はまだコピーできておらず、また、ザ・ワンがスカルゴモラに執着した理由となる因子は、再現するのに足る量を獲得できていない状況にある。



 ネーミングはザ・ワン・ベルゼブアがベリアルの要素を取り込んだことから、ベルゼバブと同一視される説もあるバアルやベリアルを包括する七十二柱の悪魔を記した魔導書から。全体的なビジュアルイメージは背中から触手の生えた、某赤い完全生命体の完全体をザ・ワン・ベルゼブア・コローネに混ぜた感じで、両腕はEXレッドキングや∪キラーザウルスのように肥大化しているという感じです。
 倒された際に飛び出る青い核については、ガルベロスの元になったのはザ・ワンの核と同化した犬、という設定があるため、核が存在するという想定となりました。今回でカプセル仲間になったギルバリスとちょっと展開が被り気味だとは思いながらも、お許しください。
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