ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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お久しぶりです。
先月は更新できずに終わってしまいましたが、引き続き何とか完結目指して頑張りたいと思います。
完結と言えば、『ウルトラマントリガー』の完結を祝うのも遅れてしまいました。改めておめでとうございます。来月の映画も楽しみですね!









第十三話「カコの振り返り」Aパート

 

 

 

 夜の星山市に、巨大な悲鳴が響いた。

 その声の主は、人間ではない。海洋哺乳類を思わせる甲高い咆哮で苦痛を訴えながら、八本もの触手で全身を雁字搦めにされた一匹の怪獣が、月明かりで巨大な影を落としていた。

 

「うふふふふ……怪獣さん、どぉ?」

 

 瓦礫の転がる中、宙吊りにされた巨大な影――シャドー星の最終兵器であり、時空破壊神とも呼ばれる怪獣・ゼガンへ無邪気に問いかけるのは、その拘束の主。

 それは背中から八本もの触手を生やした、異次元で産み出された生物兵器の頂点。究極融合超獣サンダーキラー(ザウルス)だった。

 虫けらを弄ぶ幼子のような調子のサンダーキラーSの問いかけに、しかしゼガンは答えない。意思疎通のための共通基盤となるツールは、二体の巨大生物の間には存在していなかった。

 ゼガンはただ、拘束から逃れようと力の限り悶えるばかりで。その胸の発光を見つめながら、金色の兜に表情を隠したサンダーキラーSは小首を傾げていた。

 

「うーん――おとなしく言うこと聞いてくれないなら、おちゅうしゃしちゃおうかな……?」

 

 ゼガンを縛り上げる触手とは別、本体に備わった巨大な掌の先端から、サンダーキラーSは五本の赤い長爪を生やした。

 それはサンダーキラーSの遺伝子上の父であるウルトラマンベリアルに由来する魔の爪、カイザーベリアルクロー。その真紅の爪には、相手を自らの意のままに従わせる闇へと沈める洗脳物質、ベリアルウイルスが満ちている。

 その恐るべき得物を突き立てて、ゼガンの意識を奪ってしまおうと。サンダーキラーSは拘束の強度を維持したまま触手を弛めて、彼我の距離を縮めた。

 

「こらっ!」

 

 そしてサンダーキラーSが左手を振り被ったところで、怒気を孕んだ叫びが、夜の中を駆け抜けた。

 制止の声に、究極融合超獣の巨体がビクリと震え、全ての動作が停止する。それから緩々と、その顔が声の出処に向けられた。

 

「……お姉さま?」

「サラ、あなた……ゼガンに何してるの! 怒るよ!?」

 

 サンダーキラーSが恐る恐ると向けた視線を受けるのは、彼女の姉――培養合成獣スカルゴモラが人間に擬態した姿である、朝倉ルカだった。

 

 事態を察知し星雲荘から駆けつけたルカは、警告の言葉とは裏腹に、既に軽く怒っていた。

 

「悪いことをしていない怪獣をいじめたりしちゃ駄目って、約束したのに……っ!」

 

 妹の蛮行に声を震わせながら、ルカは二体の怪獣を仰ぎ見る。

 サンダーキラーSに囚われたゼガンの胸に宿り、その存在を訴える魔性の輝き――リトルスター。

 己もそれに衝動を煽られているのを自覚しながら、獣の本能を自らの意志で抑えたルカは、その輝きに惑わされたのだろう愚か者を叱り上げた。

 

「それに、ゼガンは私の友達だって言ったよね!? なのに、リトルスターがあるからって……っ!」

「その、お姉さま……これはね、そうだけど、ちがうの……」

「何が違うの? ゼガン、あなたのせいで痛がってるでしょ!?」

 

 三十分の一の背丈にも満たない、地球人へ擬態したままの姿とはいえ。姉であるルカから責められて、妹のサンダーキラーSはたじたじという様子になっていた。

 

「早くゼガンを離してあげなさい、可哀想でしょ!」

「えっと……その……だめなの、お姉さま……」

「何。妹のくせにお姉ちゃんに逆らうつもり?」

「あぅ……」

「ルカ、ちょっと抑えて」

 

 姉の圧で、サンダーキラーSが泣き出しそうになったところで。事態を見守ってくれていた二人の兄、ウルトラマンジードこと朝倉リクが、背後からルカに呼びかけた。

 

「お兄ちゃん、でも……」

「今のサラはゼガンを離さないけど、攻撃したりしていない。リトルスターのせいで我を喪っているようでもないし、どうしてこんなことをしたのか聞いてあげないと」

 

 リク相手にも珍しく食い下がったルカだったが、敬愛する兄から改めて穏やかに諭されると視線を下げ、一歩下がって道を譲ることとした。

 

「サラ、どうしてこんなことを?」

「あの……お兄さま、それは……」

「俺たちから話そう」

 

 未だ、姉に対しておっかなびっくりと言った様子のサンダーキラーSと代わるように、追求の矢面に立つ人影が二つあった。

 その一人はAIBの上級エージェントにして、ゼガンを戦力としてこの地球へ持ち込んだ張本人――シャドー星人ゼナ。

 今一人はAIB研究セクションの責任者を務める、ゼットン星人ペイシャン・トイン博士だった。

 

「騒動の発端は、AIBの中にリトルスターを宿した者が現れたことだ」

「うん、ゼガンでしょ?」

「ゼガンは偶然、同時期に発症しただけだ。別の宿主のリトルスターが励起し、そちらに惹かれて暴走したゼガンの鎮圧に、居合わせたサラが動いてくれたというわけだ」

「……えっ?」

 

 ペイシャンからの思わぬ返答に、ルカは兄とともに素っ頓狂な声を上げた。

 

「もし、君たちの妹が協力してくれなければ、我々はゼガンを爆破するしかなくなっていただろう……礼を言う」

 

 畳み掛けるようにゼナから感謝を告げられるも、予想外の事態を聞かされた兄妹は絶句してしまっていた。

 しかし同時、全てに合点が行った二人の様子を見届けたペイシャンは、背後のサンダーキラーSを振り返った。

 

「査察官はもう安全な場所に隔離した。後は鎮静化光線でも浴びせてからゼガンを解放すれば、それで充分問題は解決する。おまえの姉がこの調子だから、洗脳はやめとけ」

「……うん」

 

 ペイシャンの助言に従い、サンダーキラーSは触手の一本から柔らかな光を放ってゼガンの傷を癒やし、その精神を落ち着かせた。

 

「……そっか。お手柄だね、サラ」

 

 正気に返った様子のゼガンを解放するサンダーキラーSの背へ、リクが穏やかに言葉を掛けていた。

 そして、ルカはというと――

 

 

 

 

 

 

「――ごめん!」

 

 騒動の翌日。一夜明けてAIBから星雲荘に帰ってきた末妹(サラ)へと、ルカが開口一番、再びの謝罪を述べていた。

 

「ごめんね、サラ! 全部お姉ちゃんが悪かったから、機嫌直してぇ……?」

 

 頭を下げ、やや裏返った猫撫で声で懇願する姉に対し、小学校低学年程度の女の子の姿に擬態したサラは、そっと視線を外して呟いた。

 

「……お姉さまは、わたしのことをしんじてくれてないのね」

「そんな、そんなことないよっ!?」

 

 姉妹は昨夜から、こんな調子だった。

 詰っていた側が一転、誤解を悟って延々と謝り倒しているものの。姉から一方的に怒鳴られた妹は、そのショックを隠さず沈んだ気持ちを表に出していた。リトルスターの誘惑に負けず、姉が友と言って憚らない怪獣を傷つけずに鎮圧して人助けをした結果があの扱いだったのだから、サラが不貞腐れるのも無理はない。

 もちろん、サラの言動に幼さ故の危なっかしさが見え隠れしていたため、ルカが声を荒げてしまうのも無理からぬ事であったと、二人の兄として同行していたリクも思うのだが……勘違いから矢継ぎ早に責め立て、弁明の機会を与えなかった側が後ろめたい気持ちになることも、やむを得ないのだろう。

 

「……サラ。ルカは、君のことが嫌いなわけじゃないんだ」

 

 すれ違う妹たちを見ていられず、リクは口を開いていた。

 

「ただちょっと、サラが悪気なくやり過ぎたりしないか、心配していただけで……」

「リク! フォローになってない!」

 

 背後から小声で咎めてきたのは、まず兄妹の問題だからと静観してくれていた鳥羽ライハだった。

 ライハの懸念の通り、さらに表情を曇らせる結果となった末っ子と視線の高さを合わせるため、腰だけでなく膝も折り曲げたルカが、サラの顔を覗き込む。

 

「でも、お兄ちゃんが言っているのは、お姉ちゃんの勘違いだったから……サラはそんな子じゃないもんね? 昨日もトリィさんのお手伝いしてお勉強してた、良い子だったもんね? お姉ちゃん、もう間違えないから……っ!」

 

 必死に妹の機嫌を取ろうとするルカは、そのままサラの小さな手に掌を重ねた。

 

「だから、許してぇ……っ?」

「……うん」

 

 最終的に、泣き笑いの表情で許しを乞い始めるに至ったルカに、思いの外呆気なくサラは頷きを返した。

 

「――っ、ほんとに!?」

「だって……お姉さまは、お兄さまといっしょに、わたしのことをゆるしてくれたから」

 

 勢いよく食いついたルカに対し、サラははにかみながらも、努めて明るい声で返事を述べた。

 

「やったー! ありがとう、サラっ!」

 

 対し、妹から許しを貰えた事実に舞い上がったルカは、そのままサラに抱きついていた。

 

「あぁ、良かったぁ……よーし、仲直りの記念に何でも好きなもの買ってあげちゃう!」

「ほんとに?」

 

 AIBとの共闘を経て、兄妹では一番の小金持ちであるルカがそんなことを言い出すと、サラも少し目を輝かせていた。

 

「じゃあ……お姉さま、わたし、白衣がほしいの! トリィとおそろいの!」

「白衣……うん、お姉ちゃんに任せて!」

 

 和解した姉妹が微笑み合う様子を見て、リクもほっと安堵の息を吐いた。

 

「一時はどうなることかと思ったけど……良かったわね」

「うん。仲直りできて、本当に良かった」

 

 妹たちの仲睦まじい様子を、ライハがそう言ってくれるのに。リクもまた深々と頷いた。

 ……時にはぶつかり合ったりしながらも、互いのことを心から受け入れることができる家族。

 かつて自身が――そして、おそらくは父ベリアルもまた、心のどこかで求めていた大切な物を目にして、リクはつい表情が緩んでしまうのを、耐えることができなかった。

 

「……あ、でも。わたしのおかいもの、あとでいいよ、お姉さま」

「どうしたの、サラ?」

「あのね……お姉さまのおともだちの怪獣さんが、あぶないかもしれないから」

 

 それを伝えるために帰ったのだというサラの言葉に、ルカの目の色が変わるのを、リクも見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

「ペイシャン――!」

 

 アポさえ取れば、普通に乗り込める関係性になったAIBの研究セクション。

 そこの責任者の姿を見つけるなり、ルカは声を張り上げて彼の名を叫んだ。

 

「ゼガンを処分するって……本気!?」

「そういう可能性も検討しなきゃならない、っていう状況ではあるな」

 

 困惑した様子の部下を先に行かせたペイシャンは、こちらの剣幕に些かも動じることなく、ルカを先頭とした星雲荘の一行に悠然と対峙した。

 

「何せ、ゼガンが襲っちまったのは本部から派遣されていた査察官様、お偉いさんだ。交渉材料も特にない状態じゃ、再発防止を求められれば真っ先に挙がる選択肢になる」

 

 ペイシャンの回答、その身勝手な理屈に、ルカは思わず身を乗り出した。

 

「ふざけないでよ……私、そんなの絶対許さないから!」

「まぁ落ち着け。仮におまえが力でAIBを潰すなんて言い出したら、ゼガンの処分を阻止するどころじゃなくなるぞ。おまえら兄妹はもちろん、モアやトリィの立場まで危うくなる」

 

 ルカがエスカレートしきってしまう前に、ペイシャンは行き着く先へ言及した。

 心配そうに己を見上げるサラの視線へ気づき、諌められたルカは思わず語気を萎めた。

 

「……別に、そんなつもりじゃ」

「そんなことはわかっている。だが、俺みたいにおまえらと付き合いのある相手ばかりじゃない。特に今回は、ということをよく頭に入れておくんだな」

 

 周囲の様子を一瞥しながら警告してくれるペイシャンに、ルカはゆっくりと頷きを返した。

 

〈一つよろしいでしょうか〉

 

 そこで生じた声は、ルカの背後に飛ぶユートム――星雲荘の報告管理システムである人工知能、レムが発した質問だった。

 

〈AIB本部から派遣された査察官。これまで地球に居なかった人物が、何故今になってリトルスターを発症したのでしょうか?〉

 

 そもそもの騒動の発端となった不自然さに、ルカのそれにも通じる事件性を疑ったレムが着目するも、ペイシャンはあっさり答えた。

 

「今になって励起したのはたまたまだが、宿った理由は簡単だ。その査察官は七年前に、この星を訪れていたからな」

「……七年前」

 

 思い当たる節があるように、ライハがその単語を繰り返した。

 

「そう、ベリアル融合獣スカルゴモラの出現が原因だ。その調査の際、カレラン分子を気づかないまま吸引したことで、地球を去った彼女の体内にもリトルスターが発生する余地が生まれていたんだろう。カレラン分子が撒かれたのは地球だけでも、ウルトラマンキングが融合していたのはこの宇宙全域だったわけだからな」

 

 ちなみにゼガンの方は、かつてウルトラマンベリアルから被弾した光線を介し、そこに含まれていた幼年期放射(キングのエネルギー)が原因でカレラン分子を要さずにリトルスターを形成した、特例中の特例であるらしい、などと。

 そんなことをペイシャンが解説する最中、思わぬ因縁を告げられたルカは、ライハを振り返っていた。

 果たして、師匠は。忌むべき記憶を不意に掘り起こされて動揺した様子だったものの、ルカの視線へ気づいたように淡く微笑んでくれていた。

 ……気遣い無用、ということらしいが。それでもルカは思わず、ライハの方に数歩寄った。

 

「女の人……なんだ」

「ああ。だがAIBの設立に貢献した重要人物で、かつてあのエンペラ星人とも一戦交えて生き残った古強者でもある、おっかない相手だよ」

 

 その間、続けてリクの零した感想に、ペイシャンが釘を刺すように答えた。

 その答えに、またもレムが反応する。

 

〈……ということは、その人物は光の国がある宇宙の出身ですか?〉

「そう聞いている。何なら宇宙警備隊との繋がりも、査察官殿が個人的にお持ちらしいからな」

 

 ゼロとは特に面識もないらしい、と補足するペイシャンへ、ルカはさらに問いかけた。

 

「その人を説得できれば、ゼガンは見逃して貰えるの?」

「まぁ、可能性は上がるな」

 

 果たして、そんな風に本人の居ない間に話が盛り上がっている最中。何足かの靴底が、階段を打ち鳴らす音が響いた。

 ……女性は二人居るが、どちらもモアではないと、ルカは聴覚で理解する。これまでに聞いたことのない足音だ。どうやら噂をすれば何とやら、ということらしい。

 

 果たしてゼナと、もう一人の女性を伴って現れたのは、黒スーツをしっかりと着こなした一人の女性だった。

 隣の、パンクなシャツに超ミニスカート、厚底ブーツという何世代か前の流行ファッションをした、傍らの派手な装いの女性が比較対象となるせいか。黒髪を横に流し、額を広く出した髪型が知的な印象を強めるその細身の姿は――単なる擬態なのかもしれないが、伝説のエンペラ星人とも対峙したことのある歴戦の女傑、というイメージからは程遠い。

 今回の騒動の発端となったリトルスターの輝きが見えなかったのは、どうやら既に分解してしまったというわけではないと――先日まで自分自身が身につけ、不要になったからとAIBに寄付したシャプレーブローチの改造品が胸で鈍く輝くのを見て、ルカは理解する。

 

「やっほー! 久しぶりね、ウルトラマンジード!」

 

 軽い調子で呼びかけて来たのは、背広の女性の傍らに居る派手な方の女性だった。

 

「あ、えーっと……サトコさん、でしたっけ?」

「え、うろ覚えなんてひっどーい! まっでも、命の恩人だし許してあげる!」

「……そう。あなたたちが、ウルトラマンジードと、その妹」

 

 普段のルカなら、思わずそっちに気を取られてしまいそうなサトコの言動を受け、中心に立つ背広の女性が口を開いた。

 

「はじめまして。それと……昨日はありがとう。おかげで助かったわ」

 

 挨拶を述べてから、立ち止まって腰を曲げた査察官は、視点の高さをサラに合わせ、柔らかく微笑んでいた。

 

「どういたしまして」

「……まさか、私が超獣に『ありがとう』を言う日が来るなんてね」

 

 素直な言葉を返すサラに対し、査察官と思しき彼女は、感慨深い様子で呟いていた。

 全ての超獣の産みの親である異次元の悪魔、あの不滅のヤプールが唯一傅いた相手が、エンペラ星人であったという。

 エンペラ星人と因縁を持つという彼女からすれば、配下であるヤプールや超獣とも敵同士だったのだろう。ヤプールの次元から脱走した最新の究極超獣は、そんな古い因縁など知りもしなかった様子で、小さく首を傾げていたが。

 

「あの!」

 

 そんな妹の可愛らしい仕草を堪能する時間をも、今のルカは惜しみ、声を上げていた。

 

「ゼガンのこと、殺さないでください! お願いします!!」

 

 言い切ると同時に、ルカは深々と頭を下げた。

 兵器である怪獣に襲われた相手へと、許しを乞う難しさを感じながらも。

 幾度と共に戦いながらも、未だ意志を交わす言葉を持てない怪獣の代わりに、ルカは叫ばずには居られなかった。

 

「友達なんです、私の! 悪いのはリトルスター……ベリアルが、私たちの父親が働いた悪事が原因で、ゼガンのせいじゃないんです! だから……!」

「……そのリトルスターは、これからも出現し続ける可能性があるわ」

 

 突然となるルカの言葉を、査察官は冷静に受け止めていた。

 

「私だけじゃない。無関係で、事情も知らない地球人が宿主となったところに、ゼガンが襲いかかる恐れがある」

「その時は、また私たちが止めます!」

「一度成功したことが次も、とは限らないわよ。先のスペースビーストの一件みたいに、あなたたちだけじゃ対処できない場合もあるから」

「でも……そのスペースビーストから地球を守り抜けたのは、ゼガンも居てくれたからです」

 

 そこでルカに加勢してくれたのは、(リク)だった。

 

「勝手な願いかもしれないけど……危険なのがリトルスターのせいだけなら、他の脅威へ立ち向かうために、ゼガンにはこれからも居て欲しい。ルカが言うみたいに、そこに欠点があるなら僕らが埋め合わせる。一人じゃ戦えない僕らのために、皆がしてくれるみたいに」

「お兄ちゃん――っ!」

「要望はわかった。けれど、すぐには答えられない」

 

 ルカの意を汲んでくれたリクの主張にも、査察官は頷いてくれなかった。

 だが、ルカがその事実へ苛立つ前に、査察官は人差し指を立ててみせた。

 

「だから、一つ協力を要請するわ。ゼガンの今後を決めるために」

「協力……?」

「再び大きな事件が頻発し始めたこの星で、何が起こっているのかを調査する。そのために私は、サトコにも付き合って貰って地球に残っていた……ちょうど、いつも事件の中心に居る、あなたたちの話を聞きたいところだったの」

 

 どうやら査察官は、スペースビーストと対決した頃からこの地球に滞在していたらしい。フーマが他のトライスクワッドよりも早く日本に戻れたのは上海に彼女が居たおかげでもあったのだと、ルカはこのすぐ後、ゼナから知らされることとなった。

 ちなみに、サトコの方は、かつてガーゴルゴン=フワワが地球に訪問した際、レムが名を挙げていた宇宙有数のテレパス使いであるゾベタイ星人ナビアらしい。サトコの名は、流行で名乗った地球人風のニックネームなのだそうだ。

 ともかく。多忙なはずの協力者まで引き連れた査察官は、それだけ本腰を入れた調査のために、星雲荘に用があったらしい。

 そこへ自ら乗り込んできたベリアルの子らに、査察官は次のように告げたのだった。

 

「あなたたちの言葉を信じて良いものかどうか。ゼガンを残すべきか否か――私の一存で決められることではないけれど、どんな立場を選ぶべきなのかは、あなたたちの話を参考に、決めさせて貰うことにする」

 

 どことなく悪戯っぽい微笑を刻んだ査察官の意図に気づき、リクと顔を合わせたルカは、喜びの表情のままに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 そうして、リクたちはAIB本部の査察官を前に、この一ヶ月余りの激動の日々を振り返ることとなった。

 ルカと出会った時のこと。ヤプールの襲来を始めとする、ベリアルの血を引いた故に向かってきた困難の数々。

 その一区切りとなる、ノワール星との騒動を経た後。リクが不在となった地球を、ルカがゼガンと共に守り抜いた。

 そして、リクの帰還に合わせたようにして、二人目の妹となるサラまでもが現れ、最終的に滅亡の邪神ハイパービースト・ザ・ワンとの決戦に至るまでを、各々の気持ちを込め、ベリアルの子らは査察官相手に語ってみせた。……ルカの話す内容には、リクにとって少し、くすぐったいものも含まれていたけれど。

 

「大きな流れはわかったわ。ありがとう、みんな」

 

 ペイシャンが脅していたのに反し、親しみ易い雰囲気を醸し出した大人の女性、と言った風情の査察官は、そう優しく告げてくれた。

 

「約束通り……ゼガンについては、私は処分反対の主張をするわね」

「本当に――っ、ですか!?」

「だいじょーぶ。私の前で、嘘は誰にも言えないわ」

 

 ルカが息を詰まらせる勢いで問うたのに、テレパス能力の使用を意味する光の玉を浮かばせたサトコが保証した。

 言葉の通じない怪獣の心さえ読み取る超能力者――彼女の前では、あらゆる隠し事は詳らかにされてしまうのだ。

 それを受けて、穏やかに微笑んだままの査察官は、その細い首を縦に振った。

 

「ええ。元々、私が見学したいと言い出したからとはいえ、ゼガンが暴走したという結果はここの管理体制の穴が大きな原因だから……ねぇ?」

 

 どうやら、先程ルカの主張にすぐに頷いてくれなかったのは、立場的な問題もあるのだろうが……星雲荘側の話を聞くのに都合が良いから、という面も大きかったらしい。リクたちはまんまと手球に取られてしまったようだ。

 

「……改善案の報告書は、鋭意作成中です」

 

 そんな査察官に詰られたペイシャンは、リクの記憶にない及び腰な対応を見せていた。ルカが目を丸くしている様子から察するに、彼と親しい妹にとっても初めての眺めであったらしい。

 

「協力者に恥をかかせないようにお願いするわね、ペイシャン博士。それと」

 

 そんなペイシャンの様子に特に心動かされた風でもなく、査察官は淡々と続けた。

 

「同席して貰ったのは、もちろんAIB側の認識と擦り合わせるためだけど。この支部における研究セクションのトップであるあなたの所見も聞きたかったからよ」

 

 その言葉で、リクたちの注目までもがペイシャンに集まった。

 

「聞く限り、これまでの事件で解決していない謎は大きく分けて三つ。一つ目は一部の怪獣に見られる謎の強化現象。二つ目はヤプールを本拠地で撃破し、解放した究極融合超獣を誘導した何者かの正体。そして三つ目は、ネクサスのリトルスターに対して、AIB及び星雲荘の、人員も機器も認識に不自然なところがあったこと」

 

 その三点とも。少なくとも、事態の全容を把握しきれていないサラ以外の星雲荘の仲間は全員が気がかりとしていることだった。

 

「あなたはどう見ているの、ペイシャン博士?」

「……少なくとも、最初の二つは相関する事象の可能性が高い、という風に見えます」

 

 問われて、ペイシャンは推論を述べ始めた。

 

「ヤプールを襲った何者かは、その後サラの希望に沿おうとしたらしい。サラがリトルスターを入手できるようお膳立てされた結果があのプリズ魔の出現だったのなら、その際に見られた強化現象を起こしている者も同一犯である蓋然性が高い」

「同意見ね。特定は?」

「まだできていません。思い込みで候補を見落とすことがないように、支障がない現時点では強化現象に仮称も設けていないわけですから」

〈我々としても、特に異議はありません〉

 

 ペイシャンの主張に、ユートムを介したレムが議論に加わった。査察官の顔色を伺った後、リクは頷いて、彼女の続く発言を許可する。

 

〈敢えて付け加えるなら、その現象が確認されるのが今のところ、全て培養合成獣スカルゴモラと交戦する怪獣であることへ注目したい、という点でしょうか〉

 

 レムは、そこに不確定な四つ目の要素を並べ始めた。

 

〈戦うほどに強くなる遺伝子を持った、怪獣にしてレイオニクス――ルカが臨む戦闘を激化させる現象。それが意図的に起こされているのなら、パラレルアースで生まれ、死に瀕していたルカがこの世界に現れた理由とも結びつくのではないかと、そう予想しています〉

 

 言われてみれば、件の現象はスカルゴモラが新たな能力を開花させた戦いで確認されたことが多い。

 さらに言えば、もしもその現象を起こす黒幕がヤプールを討った犯人であるのなら。強化現象こそなかったが、サンダーキラーSはスカルゴモラにレイオニックバーストの力を覚醒させるための、同じ血を引いた当て馬として準備された可能性すら考えられる。

 ……その力があったおかげで、スペースビーストの脅威を退けられたとはいえ。またその思惑の結果、こうして妹たちと出会えたのだとしても。

 一度、家族が互いを傷つけ合ってしまう事態を導いた何者かに、リクは静かに怒りと警戒を募らせていた。

 

「黒幕の狙いは、培養合成獣スカルゴモラを戦わせること、かしら?」

「……一つの可能性としては考えられます。レイオニクスの始祖たるレイブラッド星人は、戦いを通して成長させた子孫を器に復活しようとした。また、それが阻止された後にも、レイオニクスバトルで発生するエネルギーを使って肉体を再生しようとしたと聞きます。レイブラッドや、ベリアル――レイオニクス絡みの陰謀なら、あるいは」

「……なら、ルカはもう戦わせない方が良い?」

 

 そこでリクは、考えていたことを表明すべく、口を挟んだ。

 

「敵の狙いがルカを戦わせることなら、ルカの分も、僕が……」

「気持ちはわかるが、少し待て。黒幕の正体が特定されているわけではないとは、レムも同じ見解だっただろう」

 

 結論を急くなと、ペイシャンが首を振る。

 

「レイオニクス絡みはあくまで一つの可能性だ。そして仮に的中したとしても、ウルトラマンジードもレイオニクスの血を引くのは同じだ。妹を遠ざけたところで、おまえが戦うなら意味はない」

「――じゃあ、私が戦うわ」

 

 そこで声を上げたのは、ベリアルとの血の繋がりなどないライハだった。

 

「ルカたちの手助けをするために、私はAIBの協力を呑んだ。あなたたちも、リクたちだけに頼る現状を変えたくて、ベリアルに倒されたゼガンを復活させただけでなく、キングギャラクトロンMK2(マークツー)を作ったんでしょ」

「そうだな。だが、仮にそれで戦力は足りたとしても、だ。運用に複数の人員を必要とし、操縦者であるおまえが乗り込んで初めて出撃できるキングギャラクトロンMK2(マークツー)やゼガンと違い、リクたちはその身一つで緊急事態に即応できる。その差は余りに大きい」

 

 ペイシャンの主張は、まさに昨夜のゼガン暴走が大事になる前に鎮圧したサンダーキラーSの活躍で、説得力を裏打ちしていた。

 

「ましてやルカにはどういうわけか、リトルスターを手放した今もメタフィールドを形成する力が残っている――使わないという選択を強いるには、まだ敵の正体が見えていなさすぎる」

 

 戦場そのものを守るべき世界から隔離してしまう、防衛の観点において最高峰の能力。

 それを持つ者に使わないことを迫るのが、疑心暗鬼に囚われた自縛ではないかと、ペイシャンは冷静に語る。

 

「そもそもがボランティアであるおまえら相手に、こちらが無理強いする権限はない。ライハの主張するように、レイオニクス絡みである可能性も踏まえ、AIBだけで対応可能な案件は極力受け持つ方針も固める。だが、結論を急いだことで、防げたはずの被害が生じかねないような話はよく考えてからにしろ」

 

 ――仮に、代わりを立てるからもう戦うな、と言われれば。

 ペイシャンの言うとおり、何らかの見返りを約束されて戦っているわけではないリク自身、意志一つで戦いから退くことはできる。

 だが、そのために目の前で傷つき、怯え、嘆く人々の姿を見れば。きっとリクは、戦わないという選択肢を貫き通すことはできないだろう。

 なら。ルカは……

 

「……心配してくれてありがとう、お兄ちゃん」

 

 妹を傷つける未来を導いていたかもしれない、と苦悩していたリクに、ルカは優しい声音で感謝を伝えてくれた。

 

「でも、大丈夫だよ。だって私には、お兄ちゃんたちが付いてくれてるんだから」

 

 それから、ライハたちともども信頼を告げられて。リクは、少し胸が軽くなったような気がしていた。

 

「……ま、本当に敵の思惑がルカやおまえらを利用することだと確定すれば、その時に改めて決めれば良い。当面は様子見だ」

 

 そんな、ルカの出した答えを後押しするように、ペイシャンが取りまとめを行った。

 

「――随分と彼女を戦場に立たせたいようにも聞こえるけれど」

 

 そう取れなくもない話の運びではあったが、呵責のない査察官の言葉に、ペイシャンは渋い顔を作った。

 

「一応、本音も言葉の通りみたいだけど?」

 

 読心能力者であるサトコが濡れ衣であると主張するも、そんな彼に視線を厳しくしたままの査察官が、なおも冷たい声で問いかける。

 

「それで、三つ目はどう考えているの? ペイシャン博士」

「……ルカへ宿った後に限れば、とびきり怪しい奴が一人」

 

 AIBの査察官という立場からは、特に三つ目が気にかかっている様子の問いかけに、ペイシャンは普段の調子のままで続けた。

 その思わぬ回答に、リトルスターの宿主であったルカが身を乗り出した。

 

「誰!?」

「俺だ」

 

 ペイシャンの一言で一瞬、場の空気が凍りついた。

 

「……ま、冗談だがな」

「やめてよ……」

 

 ペイシャンが続けた言葉に、心底疲れたような声音で、ルカが抗議の意を示していた。

 同じくどっと疲れた心地のリクたちとは別に、冷えたままの空気を纏った査察官が口を開いた。

 

「……私の前でそんな発言をすることは軽率だって、わかっているのかしら?」

「その上で、疑われているのはわかっていると、告白する方が話は早いと思ったわけですよ。折角ゾベタイ星人が居てくれてるわけですからね」

 

 皮肉げに笑いながら、ペイシャンは緊張した面持ちで査察官に応じた。

 

「サトコよ、サトコ――でも、本当に嘘みたいよ? 意味わかんないけど」

 

 そんな彼に抗議しつつも、心を読めるゾベタイ星人ナビアが、その主張を保証する。

 その様を見て微かに緊張の糸が緩んだらしいペイシャンが、顔を下ろして一息挟み、続けた。

 

「ゼガンの目にリトルスターの光が入らないように細工することも、各種観測機器に手を加えることも、俺なら立場的に容易い。加えて、俺はルカに光が宿ったと予想される時期に星雲荘へ立ち寄っている。そこで細工をしたと考えれば……アリバイから考えれば、俺が一番に怪しい」

「……だがそれは、前提に錯誤がある」

 

 そこでペイシャンに助け舟を出すように、口を閉じたまま発言したのは、査察官らの護衛兼世話係として同席したゼナだった。

 

「本来、朝倉ルカにリトルスターが発生することはない。何故なら彼女はウルトラマンキングが去った後、この宇宙へ現れたのだから」

〈ルカは最初の宿主ではなく、ネクサスの特性によってリトルスターを引き継いだ二番目以降の保持者であると見られます。その前任者を私も、受け継ぐことになるほど接近したはずのルカ自身も、認識できていません〉

 

 ゼナの主張を、レムが補足する。

 

〈ルカに宿った以降に限っても、ペイシャンがルカと接触した際に不審な動きをした記録は確認できません。仮に彼が犯人であり、星雲荘に入られた際に記録の改竄が行われたのだとしても、その前の時点で私やライハが見過ごす理由もありません〉

 

 ルカに宿る以前から――ネクサスのリトルスターのことを、星雲荘とAIB……そしてあるいは、ノワール星の軍団以前に出現した怪獣たちまで、誰も彼もが発見することができなかった。ルカに宿った以降は、サラを始めとする他の怪獣たちを惹き寄せたというのに。

 問題とするのなら、その前任者の時点から見なければならないはずだと、二人は主張していた。

 

「ペイシャン博士に、星雲荘を訪れる以前からあなたたちの認識まで操作できる能力でもなければ、朝倉ルカに宿った時期の挙動から殊更疑う意味はない。そして接触後も、宿主である怪獣自身に気づかせない処置を、誰にも悟られることなく可能としなければならない。――そこまで特殊な能力を想定するのなら、そもそも容疑者を彼一人に限定する必要もなくなると、そういうことね」

「……ご理解いただけて幸いです」

「そうね。それほどの認識操作が可能な相手なら、サトコの読心すら担保にならないけれど」

「ちょっと!」

 

 自らの能力を軽んじられたとも取れる発言に、サトコが憤慨して立ち上がった。

 しかし、査察官はその反応すら折込済みという様子で、いささかも揺るがずに言葉を続けていた。

 

「けれど、あなたがその力を持っていないことを証明しろと迫るのは、悪魔の証明になる――だから、私たちが用意できる限りの最高の条件を揃えて調査した限りでは、有罪となる根拠がなかった。それが今、私の導き出せる結論ね」

 

 AIBが用意できる最高の条件、という査察官の謳い文句に、気分を損ねていた様子のサトコもゆっくりと着席した。

 

「だから、容疑者をあなたに限定する必要はないけれど……一連の事態の裏には、本部の想定以上に厄介な相手が潜んでいるかもしれない。そう理解させて貰ったわ」

 

 ゼガンの管理不全という失態を犯したのだから、当然かもしれないが。胸を撫で下ろす様子のペイシャンに対し、査察官はまだ当たりが厳しかった。

 だが、どうやらリクたちは、ゼガンともども大切な仲間を喪わずに済むらしいと……そんな期待を前にして、安堵の中に包まれていた。

 

 

 

 

 

 事情聴取が終わった後、ルカはリクやライハとともに施設の外にある休憩所で一服していた。サラは、トリィのところに行くと言って別行動中だ。

 

「よっ。お疲れさん」

 

 そこに現れたのは、紅茶を片手に持ったペイシャンだった。

 

「な? おっかない人だったろ?」

「……別に。ペイシャンの自業自得でしょ」

 

 同意を求めるようなペイシャンへと嘆息しながら、ルカは続ける。

 

「あんな冗談、本当にやめてよね。笑えないから」

「……そうか。まぁ、そこまで言うなら覚えとくよ」

 

 ……つい先程、査察官に対する説明の中で、フワワのことを話したばかりであるからか。

 親しくなった相手に裏切られる、という。苦く寂しい思いが反芻されていたルカにとって、ペイシャンの冗談は本当に笑えないものだった。

 

「……良いんですか? 報告書、仕上げなくて」

 

 やや間延びしながら、冷たく芝居がかった口調で、ライハがペイシャンに問いかけた。機嫌が悪い時の、その原因となる相手に対する、ライハの喋り方だ。

 

「おいおい、ちょっとは休ませ……いや、そうだな。課題はさっさと終わらせるに限る」

 

 ライハの忠告に軽口で返そうとしていたペイシャンだったが、そこで血相を変えたようにして退散し始めた。

 理由は、どうやら彼が向かう入口から現れた人物にあったらしい。

 

「じゃあ俺はこれで」

 

 言い残すペイシャンと入れ替わるようにして、査察官が休憩室に入ってきた。

 

「さっきはありがとう」

 

 ペイシャンに対するものとは違う、柔らかく優しい声音で、査察官は微笑んでいた。

 

「こちらこそ、どういたしまして」

「――ありがとうございます。ゼガンのこと……ついでに、ペイシャンのことも」

 

 リクとルカが応じると、気にしないでと査察官は手を振った。

 

「ごめんなさいね。彼のことは立場上、確かに注目せざるを得なかったし……あんなことを言われたら、ね」

「それはもう、ペイシャンの方が悪いので」

 

 どちらが彼の身内なのか、わからなくなるようなやり取りをして、ルカは査察官に頷いた。

 ペイシャンはこの人を女傑のように言うが、むしろサトコと比べても柔らかな印象の人だと、ルカは感じていた。

 それが生来の気質なのか、意識して作っているのか、はたまた、何らかの理由で自分たちが好意的に見られているからかまでは、まだ判別できていなかったが。

 それでも、一同が緊張なく話せるような雰囲気になったところで、査察官はリクに問いかけた。

 

「ウルトラマンジード……朝倉リク。あなたはここのエージェントの、愛崎モアと親しいのよね?」

「……はい。僕は、愛崎家の里子だった時期があって、モアは姉みたいな人っていうか……」

「そうだったわね。……やっぱりウルトラマンにとって、『きょうだい』って特別?」

「それは……ウルトラマンとして、なのかはわからないけど。――はい」

 

 ルカを一瞥しながらのリクの回答に、査察官は何故か満悦した様子で頷いた。ついでにルカも、兄から特別という言葉を貰えて、思わず表情が綻びそうになっていた。

 

「……君の近くなら、モアにも会えると思ったんだけどなぁ」

 

 そうして辺りを見渡した彼女の意外な要望を聞いて、ルカたちは思わず身構えた。

 

「……も、モアの仕事ぶりも、調査に来たんですか?」

 

 モアの勤務態度を知っているルカが恐る恐る問いかけると、査察官は一瞬訝しんだ後、まさかと首を振った。

 

「悪事を働いているならともかく、一エージェントの成績評価なんて私の管轄外よ。単純に興味があっただけ」

「興味?」

 

 今度は、先程モアに関連して意味深に問われたリクが疑問を零した。

 

「ウルトラマンジードの姉代わりで……そして、あのゼナを変えたっていう、AIB唯一の地球人エージェントに、ね」

 

 対して、査察官は淡く微笑んで答えた。

 

「七年前、私は彼と一緒に調査を行ったから。あの時の彼が、現状に不満を抱えていたのは気づいていた。母星のため、AIBを利用できないか画策していたことにも、ね」

 

 元を正せば、ゼガンもそのために持ち込まれた兵器だったのだろうと聞かされて、ルカは微かに息を呑んだ。一方、然程動じていない様子を見るに、リクやライハには既知の事柄のようだが。

 その上で、二人の反応がこの程度ということは――そして、過去形で話されるということは、現在は違うのだということに、ルカも意識が追いついた。

 

「だからゼナの様子をマークするよう、秘密裏に伝えておいたんだけど。それから少しして、報告内容に変化が見られた。どうも本気で、AIBの理念に共鳴し始めてくれたみたいだって……」

「……それが、モアのおかげ?」

「プロファイルした限りだと、そう思えた。ナビア――サトコも気に入ってるみたいだったし」

 

 だから一目会ってみたいのに、どうも避けられているのか全く顔を合わせられない、と査察官は軽く愚痴を零した。

 ……おそらく、支部側も問題児のモアを査察官の前に見せまいとしてしまっているのだろうと、すれ違いを生んでそうな状況にルカたちも思い至った。

 

「……へぇ。ほぉ。ふーん」

 

 それから少し冷静になって、下世話な興味が湧き始めたルカだったが、その様子は周囲から無視された。……良くない顔をしていたのを、見逃して貰えたのかもしれない。

 

「それにしても……まさか、あの事件の生存者と、こうして会うとは思ってなかったけどね」

 

 一方で――喜びや気まずさの入り混じったような、複雑な感慨を浮かべた査察官が、ライハのことを見つめていた。

 

「……その節は、ごめんなさい。ベリアルのせいで、危険な目に遭わせてしまって」

 

 漂いかけた微妙な空気を縫って、ライハと入れ替わるように。リクがそう、査察官に謝罪した。

 元を正せば、ライハの両親が奪われた光瀬山麓の悲劇が遠因で、昨夜の騒動も発生したのだ。その事件も、その調査の際に彼女が吸引したカレラン分子も、全てベリアルの我欲が引き起こした事象なのだから。

 

「あなたたちが悪いわけじゃないでしょ、気にしないで」

 

 故に、息子として謝罪しようとするリクに、査察官は首を振った。

 

「でも……僕は、ベリアルの息子だから」

「お兄ちゃん……」

 

 バツが悪そうに、しかし確かな決意も覗かせてリクが言うのに、ルカは思わず胸を痛めた。

 ――そんなこと、気にしなくて良いのに。きっと誰もが思うことを、ルカもつい願ってしまう。

 ルカとて、ベリアルの血筋として、後ろめたい気持ちになったことは幾度とある。不本意ながら身内として、父の罪過を贖うべきだと感じたことも、一度や二度ではない。

 だが、リクは度々、ルカのような罪悪感だけではなく――自らの意志で、その責を引き取りに行こうとするような言動を見せることがあった。

 それは彼が、ルカたちよりも上の兄だからか。それとも、ルカたちとは違い、リクだけが……

 

「――ま、私も偉そうに言えないか」

 

 そんなリクの様子を見て、査察官が肩を竦めた。

 

「兄さんが守れなかった分は、私が埋め合わせる――なんて言って、ここまで来た。背負わなくていい、って言われても、背負いたくなる時もあるわよね」

「兄さん?」

「ええ。あなたたちと違って、血の繋がった兄妹じゃないけど」

 

 この人も誰かの妹なんだ、と思いながらルカが問いかけると、査察官は頷いた。

 

「私、サイコキノ星人っていう、母星の滅びた種族なんだけどね。寂しさを言い訳に、故郷を滅ぼした超能力を振り回して、色々な星に迷惑をかけたことがあった」

 

 今の姿からは想像し難いやんちゃだった過去を、査察官は振り返る。

 

「その悪戯の標的にした、一人のウルトラマンに言われたのよ。その力をもっと別のことに使えば、色々な星の人たちと、きっと仲良くなれるって」

「……だから、AIBを?」

「そうね。罪滅ぼしみたいなもの」

 

 苦笑する査察官の顔に、しかし自嘲の色は滲んでいなかった。

 

「クライシス・インパクトを防げなかったけれど、ベリアル軍の残党や他の脅威が見え隠れする中、宇宙警備隊はこの宇宙の復興だけに留まることは許されなかった。だから兄さんの分も、私がここで力になれれば、って……ううん、なりたい、って思ったから」

 

 ……自らの生き方を変えてくれたウルトラマンが敗れ、守れなかった世界。

 彼らの心が取り零してしまったものに囚われ、次の悲劇を阻めない、なんて事態を防ぐために。留まることを許されない戦士に代わり癒やす道を選んだと、彼女は言う。

 責を負うその姿は奇しくも、タイガが去り際に語ったのと同じ。ウルトラマンを支える絆の在り方、その一つだった。

 

「……その、お兄さんって」

 

 だからこの人は自分兄妹たちやライハに対し、こうも好意的だったのかと。

 薄々察しがついたルカが尋ねたその時。喧しい警報音が、AIBの研究セクション内で鳴り響いた。

 

 

 

 




Aパートあとがき



今話タイトルで「もしや?」と勘付かれた方もいらっしゃるとは思いますが、今回のゲストキャラであるAIB本部の査察官は、本作の世界観では第一話タイトルの元ネタ回のその人、という設定だったりします。

もちろん、彼女がAIBに所属しているという設定は公式にはなく、本作独自の物になります。査察官が彼女である、ということを作中で名指しするのは後のパートになりますので、混乱を避けるため取り急ぎ先に。

そもそも設定的には作中の時代で生きているのかすらも不明なキャラクターになりますが、公式展開で今後再登場することもないだろう、という読みで、同じく公式で多分触れられなさそうなAIB設立周りの設定の一部を捏造した形になります。ご了承くださると幸いです。

そして第十三話ということで、ニュージェネレーションウルトラマンなら総集編に当たる回であるため、架空のTV放送版だと査察官相手に過去を振り返っている部分が本題の回となります。

とはいえ、二次創作SSでそんな総集編してもな……ということで、架空のTV番組のノベライズ、という体のつもりな本作では、TV放送の展開よりも戦闘パートが加筆されているとか、そういう体でお願いできればと思います。

TV放送なら「一番好きなジードの形態」というお題でルカが自分を守ってくれたマグニフィセントを推して「私とお揃いの角があるし……///」などと、二次創作にありがちな子煩悩パパベリアルならケンへの複雑な心情と合わせて憤慨するような展開があったりしたのだと思われますが、カットになりました。ちょっと言わせたかった。


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