培養合成獣スカルゴモラの突進に、ウルトラマンジード・マグニフィセントは弾き飛ばされた。
「うぁあああっ!」
防御も回避もろくにできず、力自慢のスカルゴモラの一撃をまともに受けてしまったのは、マグニフィセントの状態とはいえ手痛いダメージだ。
――何せ、それで終わるはずがないのだから。
スカルゴモラは咆哮を上げると、倒れ伏したジード目掛けて踏みつけ攻撃を仕掛けてきた。
何とか転がって避けるジードだったが、飛んで来た岩石に気を取られ動きが鈍った瞬間、さらに強烈な不可視の一撃を受ける。
「しまった――っ!」
スカル超振動波を受け、全身を内部から痛めつけられたジードは、そのまま爆発の勢いに巻き上げられ、吹き飛ばされる。
超振動波に聴覚を乱されながらも、突如再出現したスカルゴモラにウルトラマンが追い詰められている状況に、見守る人々が悲鳴を上げているのがジードの耳に入ってきた。
そして、もう一つ。
「――何やってやがる、ジード!」
ジードを叱咤する、聞き覚えのある声が彼方より届いてきた。
「来たか」
上空に待機する超時空魔神エタルガーもまた、その声に耳聡く気づいていた。
そして、彼が陣取るよりもさらに高い蒼穹に、流星が走った。
――否、違う。
星ではない。赤と青のツートンカラーを基調とした、新たな巨人が、空気との摩擦で炎を纏うほどの速度で、飛来してきていたのだ。
その名はゼロ。ウルトラマンゼロ。
ジードとともにベリアルやギルバリス、ウルトラダークキラーの軍勢と戦った、兄貴分とも言えるようなウルトラマンだった。
おそらくはエタルガーを狙っていたのだろうゼロの軌道が、空中で屈折する。
その燃え盛る蹴り足の行き先を察したジードは、無我夢中で立ち上がった。
「駄目だ!!」
「なぁっ!? 馬っ鹿ヤロっ!?」
突如飛び出してきたジードを避けることが間に合わず、ゼロの超音速の蹴りがそのまま、ジードの胸に吸い込まれた。
あたかも隕石が落下したような勢いで、瓦礫と化した街を掘り返しながら、二人のウルトラマンがもつれ合って大地に転がった。
「おまえ、何するんだ! 大丈夫か!?」
「な……何とか……ッ」
先に起き上がったゼロが呼びかける。それに応えたジードの姿は、累積していた分にダメ押しとなったウルトラゼロキックによる過大なダメージで、マグニフィセントから基本形態であるプリミティブに戻っていた。
ジードの窮地を救うべく、背後から迫っていた怪獣目掛け放たれていた、ウルトラゼロキックで。
「ジードおまえ、なんでこんな馬鹿な真似を……!」
「あのスカルゴモラは――ルカなんだっ!」
ジードが告げた瞬間、大地を揺らしながら近づいてきていたスカルゴモラが、その口腔より灼熱の息吹を放った。
ウルトラマンすら脅かすその猛火を二手に分かれて回避しながら、ゼロが言う。
「ルカって……さっきのあの子か? どういうことだ!?」
「それは――僕だって知らないよ! フュージョンライズだってできないはずだったのに……!」
〈解析結果が出ました〉
まさにその瞬間に、ジードの脳内に響く声があった。
テレパシーでそれを察知したゼロが叫ぶ。
「本当か、コンピューターの姉ちゃん!?」
〈ルカの血液情報は採取済でした。ですが、非常に特殊な構造をしていたため、細部の照合に時間が掛かってしまいました〉
星雲荘の報告管理システム、レムがこんな状況でも抑揚なく、淡々と告げる。
〈結論から言います。あのスカルゴモラは確かにルカが変身したものであることを観測しましたが、同時にフュージョンライズでもありません〉
「じゃあ、何だって言うの!?」
スカルゴモラの――ルカの攻撃をバリアで防ぎながら、ジード=朝倉リクはレムに問い返す。
〈我々の認識が逆でした。朝倉ルカと名付けられた個体が、今朝出現したスカルゴモラの正体ではなく――朝倉ルカの正体が、このスカルゴモラなのです〉
「……どういう、こと?」
〈彼女は、最初からスカルゴモラとしてレッドキング、ゴモラ、そしてウルトラマンベリアルの遺伝子を掛け合わされて作られた人造生命体です。朝倉ルカとしての姿は、ウルトラマンに由来する擬態能力で得たものに過ぎません〉
「――ッ!」
「なるほど、ベリアル軍の機械は出来が良いようだな!」
どのようにして盗み聞きしていたのか、エタルガーが上空から話題に入ってきた。
「その通り! そのスカルゴモラは別の宇宙で、ある科学者が作り上げた培養合成獣! 人間の姿など、傷ついた身を隠すためだけのものだったろうよ!」
「……どこの宇宙にも、趣味の悪いことを考える奴が居やがる――っ!」
義憤の滲んだ声で、ゼロが吐き捨てた。
「それで、目の前で自分と同じ怪獣が倒されたことで、恐怖で正気を喪っちまったわけか……!」
言われてみれば、エタルダミーの個体よりも遥かに吠える頻度が高いのは、まさに恐慌しているという彼女の精神状態を示してのものだったのか。
この手で妹の心を傷つけてしまったことを知ったジードが思わず立ち竦んだと同時、活動限界を警告するカラータイマーの点滅が始まった。
「だったら、これだ!」
一方で、自らが痛打を与えたジードを気遣ってか、ゼロが積極的に動き出す。
「――ルナミラクルゼロ!」
「やらせるかぁっ!」
ゼロが超能力に特化した青い姿になった瞬間、その眼前にエタルガーが降り立った。
「かぁっ!!」
「ぐぁっ!?」
エタルガーが全身から放つ、曲線を描いて走る光弾。それが姿を変えるために意思統一していた隙を突き、ゼロの全身を滅多打ちにする。
「――今だ、ジードっ!」
《アクロスマッシャー!》
「何!?」
そうして、ゼロがエタルガーを引き寄せた隙に。ジードもまた、青い姿へと変わっていた。
ルナミラクルゼロと同じく――慈愛の戦士ウルトラマンコスモスの力を受け継いだ、アクロスマッシャーへと。
「させるか!」
「――それは、こっちの台詞だ!」
妨害しようとするエタルガーに対し、ルナミラクルのもう一つの特性、高速移動能力を駆使したゼロが先回りし、立ちはだかる。
その援護のおかげで、ジードは自らに向かってくるスカルゴモラに対し、取るべき準備を終えることができた。
「スマッシュムーンヒーリング!」
チャージを終えたジードの両手から、肉薄するスカルゴモラに向けて放たれたのは、コスモスから受け継いだ浄化・鎮静化の効果を持った癒やしの波動だ。
自らを苛むほどに興奮しているというのであれば、これで一旦、ルカは正気に戻るはずだ。
「(――あれ……その目……)」
不意に、ジードの――リクの脳内に、聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「(お兄……ちゃん……?)」
その声帯は、人の言葉を操ることはできずとも。
地球人への擬態と同じく、父ベリアルから受け継いだウルトラマンに由来する能力の一つ、テレパシーを無意識に使えたルカが、スカルゴモラの姿のまま、ジードに気づいたように喋りかけて来た。
「(あれ……私……私は……)」
「何やってんだよ、ジード!!」
「やっつけろー!!」
「お願い、怪獣を倒してー!!」
ジードが一先ず安心しようとした、そんな時だった。
安全地帯に避難した人々から、そんな声援が届き始めたのは。
あるいは、当人たちは聞こえるとは思っていないのかもしれない。
だが、ウルトラマンや怪獣の鋭敏な聴覚は、その声を拾えてしまえた。
そして。ジードはもちろん、今のスカルゴモラもまた、その言葉の意味することを理解できてしまっていた。
「(……あっ)」
不意に、スカルゴモラが身体の向きを変えた。
紅い視線の先には、まだ無事な状態のビルが残っていて――その綺麗なガラスは、一種の鏡面のようにして、彼女の今の姿を写し出していた。
「(……やっぱり私、怪獣だったんだ……)」
「ルカ……!」
目に見えて、スカルゴモラが肩を落とした。
思わず駆け寄ろうとしたジードだが、またあの不愉快な高笑いに先を越される。
「その通りだ! 出来損ないの命であるおまえは怪獣……ウルトラマンに倒されるための存在にしかなれない!」
「てめえっ、何を!?」
ゼロとの攻防で隙を見出したエタルガーは、その手から紫紺の光線をスカルゴモラに放った。
ジードが庇うより先に、スカルゴモラに吸い込まれるようにして届いた光は、すぐさま彼女から飛び出して、靄となり――
「あれは……エタルダミーの!?」
「そうだ……これこそが、我が野望の第一幕!」
歓喜するエタルガーが高らかに謳い上げたスカルゴモラ――ルカの恐怖の象徴は、すぐにそこで形を取り――
「――最高だぜ!」
金色の鎧を纏った、ウルトラマンの姿となって現れた。
◆
「タイガ……だと……っ!?」
「そう! 凡百の怪獣とは違う。仮にもベリアルの血を混ぜられたウルトラマンの成り損ない! 人間でも怪獣でもウルトラマンでもないが、生まれたてでもそこに備わった知能は、エタルダミーの素材として充分な恐怖を育むことができる!」
エタルガーの言葉に、捕まえると同時に剛力特化のストロングコロナに転身したゼロが、敵手を握る力を増す。
だが、強固な鎧は今のゼロの握力をして、エタルガーに些かの痛痒も届けはしない。
「アレーナの時とは違う。闇に堕ちたタイガの暴走に、恐怖を植え付けられたのは真実だ。後はそれを刺激してやれば、本物と同等以上のエタルダミーを……恐怖を振り撒くウルトラマンを用意できる! 情報提供の通りだったな!」
「闇に堕ちたタイガ……!? それに、まだ黒幕がいやがるっていうのか……!」
計画が予定通りに進んでいるからか、随分と上機嫌にべらべら喋るエタルガーに対し、組み合ったままゼロは詰め寄った。
「誰の差し金だ……トレギアか……っ!?」
「それはご想像にお任せするとしよう」
前回の復活の際とは桁が違う。かつてゼロといくつもの次元で対決した時に遜色しない力を取り戻しているエタルガーは、ゼロの質問をはぐらかすと、あっさりとストロングコロナの拘束を振り払った。
「だが、あの時奴に与えられた依頼の通り。ウルトラダークキラー、ダークルギエルとともに果たそうとした悪しきウルトラマンの軍勢を率い、貴様らと人間どもの絆を引き裂くという大望成就こそが、今の俺の原動力だ!」
「待ちやがれぇ!」
飛行するエタルガーを追い、飛び立つゼロに加勢する余裕は、既にカラータイマーの鳴っているジードにはなかった。
そもそも、眼前に現れた新たな脅威を無視するわけにはいかなかったのだ。
「ウルトラマン……タイガ……!」
エタルガーを含む、闇の巨人たちとの戦乱の最終局面。
黒幕であったウルトラマントレギアを追うも、罠に阻まれたジードたちに代わって、トレギアを追う役目を引き継いでくれた、光の国の若きウルトラマン――その一人が、タイガだった。
あの時、目にした彼――ウルトラの父の孫にして、ウルトラマンタロウの息子という血筋に相応しい真っ直ぐな印象は、眼前のエタルダミーからは少しも見受けられなかった。
「(あっ……あぁっ……!)」
再び、ルカの――スカルゴモラの様子が怪しくなって来た。明らかに呼吸が乱れ、身体を恐怖に震わせている。
「もっとだ……もっと力を寄越せぇ!」
そんなスカルゴモラを見て、金色の鎧を纏ったタイガのエタルダミーは、勢いよく駆け出してきた。
「ルカ!」
その接近に、先程までの比ではないほどに怯えたスカルゴモラを庇うべく、ジードは二人の直線上に割り込む。
だが、タイガのエタルダミーは、こちらと接触する寸前に分離し、ジードの手は空を切った。
「な……っ!?」
「スワローバレット!」
三体に分裂したタイガは、スカルゴモラを取り囲むと、各々から光線を乱れ打ちにした。
「(いやぁああああああああああっ!!)」
途切れのない着弾にスカルゴモラが悲鳴を上げる。ジードの脳内には、それがルカの声で、ルカの感情が直に響く。
「(痛い……痛いよ……もう、やめてぇ……っ!)」
「最高だぜ!」
「――やめろっ!」
妹の悲鳴を前に黙っていられず、リクは一体に戻ったタイガのエタルダミーに挑みかかった。
「うぉおおおおおおっ!」
だが、タイガのエタルダミーは雄叫びを上げると、力任せにあっさりとジードを押し倒す。
大地を背にしたジードを、タイガは何度も何度も踏みつけて来た。
「――このっ!」
圧倒的に不利な体勢だったが、このエタルダミーはいくらなんでも乱雑過ぎた。
力任せの単調なストンピングを両腕で捕らえると、抜け出すための回転に合わせてジードはタイガを転けさせる。
「ルカ! 今の内に逃げて! ――早く!」
連続の活動限界が近いジードは、焦燥のまま妹に言いつけた。
ギガファイナライザーを使えば、まだ継戦は可能だが――今は、そのためにこのエタルダミーから手を放すことすら惜しまれる。
タイガのエタルダミーを掴んだまま、ジードは相手が体勢を立て直す前に飛行した。
少しでも、妹をこの恐怖から遠ざけてやりたくて。
そうして、星山市を離れたウルトラマンジード=朝倉リクは、培養合成獣スカルゴモラ……朝倉ルカと名づけた自身の妹の姿を、見失ったのだった。