ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第十三話「カコの振り返り」Bパート

 

 

 

 警報の正体は、次元の乱れを伝える物だった。

 その特異な次元エネルギーは、ヤプールやその眷属たる超獣が操るものでも、昨日AIBで騒動を巻き起こしたゼガンの放つものとも違った。

 ビルを揺らして波打つ空間から、最初は青く象るように現れ、そして現像するように色づいたのは、巨大で奇怪な塊だった。

 目も鼻も口も、手足も翼も尻尾も、体毛も花葉も触覚もない、複数の突起を持つ無機物のような――巨大な心臓の如き造形の、柔らかく波打つ石のような、奇妙な存在。

 何故か生きていると確信できるそれは、まさしく怪しい獣――怪獣と呼ぶ他にない存在だった。

 

 建造物を素通りするように、あるいは同化したように、破壊することなく転がって移動する異質な姿を、その巨大さ故に。休憩所から外を覗いたリクたちも、彼方から目撃していた。

 

「何、あのぷるぷるした石みたいなの……」

「あれは……まさか、ブルトン!?」

 

 古強者であるというサイコキノ星人の査察官が、ルカの零した疑問に驚愕を以って答えた。

 

〈四次元怪獣ブルトン。その名が示すように、四次元――いえ、その範疇を越え、時間と空間に干渉する能力を備えた、危険な怪獣です〉

 

 ユートムから、レムの解説が続く。

 

〈かつてレイブラッド星人が操り、時空の壁を破壊して複数の世界を繋げ、無数の怪獣を召喚し暴れさせた大事件――ギャラクシークライシスを起こした種族でもあります〉

 

 あるいは査察官は直に立ち会ったのかもしれない、歴史上の大事件。それに言及したところで、ユートムが急に墜落した。

 

「レム……!?」

〈――ブルトンの時空エネルギーの影響で、ユートムとの交信が不安定なようです〉

 

 心配したリクの問いかけに対し、レムの回答はユートムではなく、ジードライザーを通して伝わっていた。

 ルカのヘッドホンも通信が可能であったらしく、ライハには彼女からレムの現状が報告される。

 そんな情報伝達の間にも、ブルトンを中心に空が波打ちながら、その力場らしきものが徐々に螺旋状に変形し、広がり始めていた。

 

「なんでそんな奴が急に――っ!」

「リトルスターの影響……それとも、例の黒幕の仕業かしら?」

 

 ライハが舌打ちする横で、査察官が微かに眼光を鋭くした。

 その瞬間、ブルトンの周辺で起こっていた空間の波打ちが静止したかと思うと、ブルトン本体が巨大な手で捻じられたかの如く、微かに変形する。

 

「念力……!」

 

 同じ能力を持つルカが、それに気づいて驚きの声を漏らしていた。

 地球人の姿を模した今の姿であっても、培養合成獣スカルゴモラは怪獣念力の行使を可能とする。だが、ルカの姿で彼女が扱える出力を、視線一つでブルトンを締め上げる査察官は大きく上回っているようだ。

 さらに、彼女の胸から八の字……あるいは、それを横倒しにした無限大記号のような形で光が漏れ出たかと思うと。強大な球形の劫火が形成され、彼女が腕を突き出す動作に合わせてブルトンへと射出される。――リトルスターに由来する、ウルトラマンの能力だ。

 そうして、ペイシャンが語っていた彼女の武勇伝を裏付ける実力で、あっさり事態は収束するかと思われたが、そうは問屋が卸さなかった。

 火球が射出されたその時。ブルトンの血管のような突起の孔から、先端がストリーナー型のアンテナにも似た繊毛が覗いたかと思うと。時空の力場が再び波打ち、ブルトンの前方に、新たな巨大物体を出現させた。

 

 それは翼のような大きな器官を背負い、鋭く飛び出た腹部の脇に三対の赤瞳を備え、額から一本角を生やした、直立二足歩行の肉食恐竜のような巨大生物。

 甲殻類を連想させる刺々しい形状の表皮に全身を包んだ、ブルトンに比べればオーソドックスな体型をした、瑠璃色の怪獣だった。

 

「――っ!?」

 

 その怪獣が姿を見せた直後。射線上に現れたその身に触れることなく火炎弾が四散し、次いで査察官が足を踏み外したようにつんのめって、持ち堪えきれずに膝を着いた。

 続けて、突然、気圧が下がったような感覚に襲われながら。リクたちもまた、彼女の挙動の理由を悟る。

 

〈あの怪獣の周囲に、特殊なフィールドが発生。サイコキノ星人の念力のエネルギーを吸収し、無力化してしまったようです〉

 

 ライザーを介した通信で、レムが観測結果でリクたちに答え合わせをした。

 形成していた念動力場の、突如とした消失――査察官はそれで制御を誤り、体勢を崩してしまったのだ。

 

「――あ」

 

 その様を見たルカが、一瞬動きを止めて、呆けた声を漏らしていた。

 

「しまった――っ!」

 

 ライハに手を貸され、身を起こすその時。査察官は慌てて手を伸ばしていた。

 その先にあるのは、銀色の四角い胸飾り――リトルスターの輝きを隠す、改造シャプレーブローチ。

 それが、倒れた拍子に、彼女の体から離れてしまっていたのだ。

 その胸に宿った光へ、吸い寄せられていたように視線を向けていたのは、ルカだけではなく。

 出現したばかりで、まずは周囲の様子を伺っていたらしい瑠璃色の怪獣と。その背後で脈動していたブルトンの注意をも、ほんの一瞬とはいえ、惹き寄せてしまっていた。

 蠱惑的な眩さに魅せられて。瑠璃色の怪獣が金切り声のような咆哮とともに一歩踏み出し、ブルトンが自発的に転がって、それぞれ進撃を開始する。

 ――食い止めなければならないと、リクはジードライザーを抜き取った。

 

「ライハ、査察官さんを頼む」

 

 強大な念動力を武器とするサイコキノ星人にとって、その思念のエネルギーを無力化してしまう類の怪獣は最悪の相手だ。いくら超能力に優れていても、サイコキノ星人の肉体は強大な怪獣の猛威に無防備に晒されれば一溜りもないと、レムの報告が告げている。

 仮に、キングギャラクトロンMK2(マークツー)で戦線に加わるとしても。一度準備しなければ出撃できないライハとともに、この危険地帯から離れて貰うべきだと、リクは判断する。

 リクたち兄妹を戦いから遠ざけること。それを早速失敗した形となったライハは苦悩の色を浮かべていたが、躊躇を一瞬に抑え、頷いてくれた。

 

「……あれは、別の宇宙で伝説と呼ばれる魔獣メツオロチ。あらゆるエネルギーを吸収し、星々を喰らい、際限なく進化する凶悪な怪獣よ」

 

 油断しないで、と言い残す査察官に頷きを返し、リクはその伝説魔獣と対峙した。

 迫る二大怪獣に、向き合う小さな影はしかし、リク一人の物だけではなかった。

 

「行こう、お兄ちゃん!」

「ああ――ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」

 

 リトルスターの誘惑を振り切って。ライハたちを守ろうとするルカの勇ましい呼びかけへ応え、彼女とともに戦う覚悟を決めたリクは、ジードライザーにウルトラカプセルをスキャンした。

 同時に擬態を解いた妹ともども、ベリアルの子らは本来の姿を取り戻し――ウルトラマンジードプリミティブと培養合成獣スカルゴモラが並び立って、行く手を蹂躙しようとしていた怪獣たちの歩みを止めさせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 相手の呼吸を読むという戦いの基本を、培養合成獣スカルゴモラは無視して動いた。

 これ以上の前進を許すまいと、新宇宙伝説魔獣メツオロチへ、自ら突進していく。

 早々の突進に微かに意表を突かれた様子ながら、凶悪なメツオロチは怯むことなく、両腕を振り回しながらスカルゴモラを迎え撃った。

 その瞬間、斜身靠(シェシェンカオ)の構えに移ったスカルゴモラの左肩から背中がメツオロチの体当たりの軸を躱し、逆に太い角で相手の体の芯を射抜いた。

 ――硬く、強い。棘を避け一方的に当てたのに、甲殻を砕くどころか大して姿勢を崩せなかった手応えから、スカルゴモラは打つかり合った魔獣の身体能力を推し量る。

 

 その隣で。四足歩行の獣のようにして駆け出していた兄、ウルトラマンジードが繰り出した飛び膝蹴りが、前転していたブルトンに突き刺さり、その動きを停滞させた。

 だが、無機的な外見のブルトンは、その被弾がどれほどの効果を奏しているのか、ほんの少しも読み取らせない。

 

「(フェーズシフトウェーブ――!)」

 

 それでもブルトンの動きが止まり、後退したメツオロチと揃って見せたわずかな隙を狙い、スカルゴモラは拳を打ち合わせた。

 少し前まで、この身に宿っていたリトルスター。ウルトラマンネクサスの特性を秘めたその光がスカルゴモラに授けた力が、戦闘用不連続時空間メタフィールドを形成する能力だ。

 妹とは違い、この身にはラーニング能力なんて備わっていなかったものの。仮にもウルトラマンであるベリアルの遺伝子を継ぐためか、スカルゴモラは宿主でなくなった後も、その能力を行使することができていた。

 レムたちも、その理由を確信できず訝しんでいたが。ペイシャンが言うように、危険な戦場を守るべき世界から切り離せる能力を使わない道理はなく。この能力を発動するための猶予を作るためにこそ、スカルゴモラは多少の被弾を覚悟で先制攻撃を仕掛けていたのだが――その目論見は、呆気ない形で裏切られる。

 

「(これも吸われるのっ!?)」

 

 スカルゴモラが全身の音叉である角から吐き出した黄金の波動、フェーズシフトウェーブ。

 攻撃を目的としてではなく、メタフィールドを形成するために用いられるそのエネルギーも、メツオロチの周囲に展開されている吸収フィールドに触れた傍から吸引され、分解され、挙げ句は敵の活力として取り込まれてしまっていた。

 単なる拡散か、分解吸収かで理屈は少々異なるが。メツオロチの操る吸収フィールドは、かつて対決したスペースビーストたちが展開した特殊位相(メガフラシの)空間と、対峙する側から見れば似通ったものらしい。

 思惑通りと行かない展開で臍を噛んでいる間に、メツオロチが頭部の赤い目を怪しく光らせた。

 直後、真昼の地上に現れた星空のようにして辺り一面、無数の光が瞬いたかと思うと――次の瞬間、連続する爆発となって、スカルゴモラを全方位から打ちのめした。

 

「(な、に――っ!?)」

 

 一つ一つの威力自体は、成長したスカルゴモラにとって大した痛手ではなかった。

 だが、数が多すぎた。連続する振動に流石に体勢を崩したところへ、メツオロチの長い尾が唸りを上げて襲いかかり、たたらを踏まされる。

 後退したのは、スカルゴモラだけではなく。同じように全方位からの爆発で滅多打ちにされたジードもまた、弾かれたように転がされ、敵との距離を取らされていた。

 

「(大丈夫、お兄ちゃん!?)」

 

 兄へ駆け寄りながらも、ちらりと視線を配れば。ジードが取っ組み合っていたはずのブルトンは、先の爆発などそもそもなかったかのように、無傷のまま存在していた。

 それがブルトンの能力による回避なのか、それとも、メツオロチは自らを呼び出したブルトンを巻き込むまいとしたのか――つまり、二匹が意図して連携しているのかどうかで、戦闘の難易度は大きく変化する。

 その答えを、スカルゴモラはすぐに理解することとなった。

 ブルトンの孔から覗く、先端がホイッパーのようになった、二対の四次元繊毛(アンテナ)。そこから泡のような光の粒が勢いよく噴出されるのを見た、次の刹那。

 まるで手品のように、周囲の路面に亀裂の一つも走らせることなく。

 スカルゴモラとウルトラマンジードは、首から上だけを野晒しに、それから下を地面の中に埋め込まれていた。

 

「(うぇっ!?)」

 

 何事が起こったかを理解し、苦戦する兄の分も地底怪獣の能力を駆使して拘束から抜け出るか、だがそんなことをすれば街の地盤に大きな被害を与えてしまう、などと逡巡していた隙に。今度はメツオロチが動いた。

 銀色の刃のような頭部の角と、背中の突起物に沿って生えた無数の棘。それらが一斉に赤熱したように発光したかと思うと、メツオロチの頭上で空間が渦巻いて、穴が開き――吸収して来たエネルギーを増幅・収束した反射光線として、凄まじい勢いで放出してきた。

 

「(――っ!)」

 

 見事な連携で致命的な状況に追い込まれた兄妹目掛け、メツオロチの繰り出すワームホールからの光線が、舗装ごと大地を抉る横薙ぎの断頭台と化して迫る時――両者の間に、黒く太い触手が、伸びる勢いのまま割り込んだ。

 薙ぎ払われた光線が、壁のように展開された四本の触手へ当たる寸前。白い結晶状に変化した触手は、自らに届いた光を無害化し、逃すことなく呑み干してしまった。

 

「お兄さまたち、そんなところであそんでたらあぶないよ?」

 

 絶体絶命の窮地を救ってくれた末っ子は、事態の深刻さをわかっていない調子で、兄姉の現状に疑問符を浮かべていた。

 

「サラ!」

 

 ジードが呼びかけた時には、究極融合超獣サンダーキラー(ザウルス)は既に次の一手を打っていた。

 生き埋めとなっていたスカルゴモラとジード、そしてメツオロチとブルトンまでも纏めて呑み込む巨大な流砂が、何の前触れもなく発生。それは物質的な天変地異などではなく、サンダーキラーSが大蟻超獣アリブンタからラーニングした能力で生み出した、異次元蟻地獄だった。

 異次元蟻地獄に呑まれた四体の巨大生物、そして術者であるサンダーキラーSは揃って、地盤を抜けた遥か地底の彼方へと、その戦いの場を移すこととなった。

 

 

 

 

 

 

 地下の妙に開けた空間に投げ出され、ウルトラマンジードは身を転がした。

 転がりながら周囲の状況を把握すれば、スカルゴモラもメツオロチも大音声を奏でながら落下し終え、ブルトンと触手で翼を作ったサンダーキラーSだけが木の葉のように、悠々と降下して来ていた。

 

「ここなら……まだ地上より!」

 

 メタフィールドに頼れない状況でも戦い易い、と。ブルトンによる拘束から逃れたウルトラマンジードは、その自由を得た好機を見逃さず、切札を抜き取った。

 

《アルティメットエボリューション! ウルトラマンジード! ウルティメイトファイナル!!》

「はぁああああああああああっ!」

 

 ウルティメイトファイナルへと転身を遂げたジードは、状況の変化へメツオロチが適応し切る前に、ギガファイナライザーを振り被って距離を詰めた。

 ――だが、必中の間合いであったはずの一閃は、虚空を薙ぐだけの結果に終わる。

 

「なっ!?」

 

 メツオロチが、消えた。

 その理由へ思い至った時には、原因が繰り出して来る無数の光の輪に襲われて、ジードは大きく仰け反ってしまっていた。

 

「やめようよ、怪獣さん」

 

 ブルトンの連射する光輪からジードを庇うように前へ立ったサンダーキラーSは、その光を次々と呑み干して無効化する。

 続けて、等間隔に揃えた触手から、柔らかい虹色の光波を照射した。

 フルムーンネオヒーリング――ジードから習得した鎮静化光線をサンダーキラーSは放つが、それがブルトンに達することはなかった。

 代わりに、消えたはずのメツオロチが、両者の間に出現していたから。

 ブルトンの盾代わりに、矢面に立たされることになったメツオロチ。癒やしの力を持つはずのサンダーキラーSの放つ光を吸収フィールドで取り込むと、魔獣の金切り声のような咆哮に、微かに違う音色が混じり始めた。

 

「(……苦しんでる?)」

 

 身悶えしたメツオロチが、上体を起こした次の瞬間。再びその頭上に生じた穴から、猛烈な勢いでビームが放たれた。

 

〈あの魔獣は、邪悪過ぎるのかもしれません〉

 

 サンダーキラーSがまたも光線を吸収する、千日手の様相を前にしたジードとスカルゴモラの疑問に応えるように、レムからの通信が届いた。

 

〈ウルトラマンコスモスに由来する力は、治癒や浄化の効果を持ちますが――滅亡の邪神と呼ばれた怪獣たちのように、その浄化の力で傷つく存在も確認されています〉

 

 滅亡の邪神の細胞を受け継ぎながら、幼体であるためか、サンダーキラーSを傷つけることはなかった癒やしの光。

 それが身を苛むという魔獣は伝説に謳われるとおり、羽化を果たした邪神たちと同様、やがて宇宙の全てを貪り尽くすほどの邪悪そのものなのだと、レムは予想していた。

 

「へぇ……わるい怪獣さんなんだ」

 

 破壊も再生も、光線が意味を為さないことを理解しながら。

 ネオスカイラーク号由来の電算能力で通信回線に割り込み、その報せを聞き取ったサンダーキラーSは、微かに危うさを感じさせるような声音で呟いていた。

 

「じゃあ、やっつけていいの?」

「(……しかない、ね)」

 

 妹の問いかけに、彼女の傍まで歩を進めたスカルゴモラが、苦々しい調子で頷いた。

 浄化も鎮静化も不可能な、暴食の化身。この地の底で放置したところで、伝承の通りであれば地球の核を喰らい、滅亡を引き起こしかねない。

 まして――この魔獣を意図して呼び出す、理不尽な四次元怪獣が存在する限りは。

 

「わかった! きらーとらんす!」

 

 姉の許しを得たサンダーキラーSが、その両手や触手を変貌させた。

 ヤプールの次元を出奔する前に取り込んできた、量産型超獣たちの機能の再現――ドラゴリーの両手、ベロクロンとサボテンダーの生体ミサイル、そしてバキシマムの頭部を丸々再現して繰り出すバルカンと一角紅蓮ブーメラン。そこにサンダーキラーS自身の肩に備わったザウルススティンガーを加えた一斉発射が、実体を持たないエネルギーを吸収するメツオロチへと殺到する。

 だが、メツオロチも先に見せた空間の連鎖爆破、そして背部の棘から放つ光弾で弾幕を展開し、強靭な尾でブーメランを打ち弾くことで、超獣五体分にも相当する大火力を相殺してみせる。

 

「わぁ、すごいすごい! でも、これはどうかなぁ……?」

 

 自身の性能を存分に発揮できる強敵を前にして、はしゃいだ勢いのまま問いかけるサンダーキラーSの胸は既に、破滅的な紫の輝きを湛えていた。

 

「ですしうむD4れい、はっしゃ」

 

 光線吸収能力すら素通りする、次元崩壊現象の光が、サンダーキラーSの胸から伸びる。

 ――ブルトンの干渉を受けるということは、時空間やそれを形成するエネルギーまでは、メツオロチの捕食対象に含まれていないということ。

 ならばサンダーキラーSが習得したこの攻撃手段は、メツオロチの吸収フィールドでも無効化不能の、必殺の一撃として成立していた。

 

 ブルトンが干渉するための空間すら破砕しながら進む破壊の作用を、メツオロチは自身の光線で強引に食い止める。だが、その相殺は一対一が精一杯だ。

 サンダーキラーSが口腔から放った二発目のD4レイに対し、メツオロチは遂に対抗する手段を持たなかったが――それでも致命傷を負うこともなかった。

 D4レイが引き起こす、次元崩壊そのものには無力でも……先程ジードの攻撃から回避させてみせたように、射線上のメツオロチを転移させることは、ブルトンにも可能であったから。

 

 結果として、標的を捉えることが叶わなかったD4レイは直進してから地盤を抉り、接触点を中心に亀裂を走らせると陶器のように破砕。先程の大火力の応酬による余波と合わせて、地下空洞を激しく振動させていた。

 

「サラ、ちょっと抑えて!」

「(このままじゃ大地震起きちゃうっ!)」

 

 遠距離攻撃を無力化されてしまう故に、サンダーキラーSの攻撃中は巻き添えを避けるべく観戦する格好になっていたジードとスカルゴモラは、慌てて妹を制止した。

 

「あ、そうなんだ……うーん、むずかしい」

 

 兄姉二人から気の向くままの大暴れを窘められた究極融合超獣は、少し消沈した様子で肩を落とした。

 ……戦場を街中から移す、攻撃前にまず鎮静化を図る等、サンダーキラーSなりに加減を試みているのは明白なものの。まだ幼さ故の無思慮には、兄姉が注意を払う必要がありそうだ。

 とはいえ、同じく光線を吸収でき、また自律した究極超獣として高度な次元干渉能力を持つサンダーキラーSは、メツオロチとブルトンを相手取る上で非常に相性が良い。

 こちらの光線も音波も通用せず、一方的に撃たれることとなるジードもスカルゴモラも苦戦を免れないこの状況では、彼女を中心に戦うべきであるのだろう。

 

 だが、その間も、時に次元を割って空間跳躍しながら迸っていた究極超獣の触手は、それでもノーモーションで転移を可能とするブルトンを追い切ることはできず。空間に無数の爆裂を起こす能力によって度重なる妨害を受け、勢いを削がれていてはメツオロチへの有効打足り得ず、強靭な手足や尾によって弾かれる……と、できた妹に任せればすぐに解決するような状況でもないことが、如実に明らかになっていた。

 メツオロチによる反撃の感触が、まだ意識を乱されるほどの痛みには遠くとも。受け続けたくない程度には不快感を蓄積されたらしい究極融合超獣が、触手を引き戻す。

 攻めあぐねた三兄妹が、次の一手を考え始めて、数秒の睨み合いに戦況が移ったその時。地下空洞にコーラスのような音色が響いた。

 

〈待たせたわね、皆!〉

 

 暗黒の地下空洞に描かれたのは、ハニカム構造状の魔法陣じみた輝く計算式。その中から現れたのは、白と金と黒の混じった機械仕掛けの竜人。

 AIBの新兵器――キングギャラクトロンMK2が、さらなる応援として地下空間に出現していた。

 

「(ライハ!)」

〈純粋な打ち合いなら……今の私は、ゼロにも負けないわ!〉

 

 弟子の呼びかけに応えるライハの啖呵とともに、操縦室の彼女の動きに合わせて。キングギャラクトロンMK2が、その頭部の後ろに、長髪のようにして備えていた武装を抜き取った。

 無数の辮髪を束ねたような、よく撓る長剣――ライハが愛用する腰帯剣と同じ、スプリングソードと分類される設計思想で考案されたキングギャラクトロンMK2のメインウェポン、ギャラクトロンウルミー。

 ギャラクトロンから回収できるゲル状サスペンションに、AIBが混合実験を繰り返して理想の強度と靭性、そして粘弾性を獲得した特殊ペダニウム合金製の刃を携えて、キングギャラクトロンMK2がその外観からは予想もできない速度で疾走する。

 

 ライハの動きをトレースする機械仕掛けの竜戦士は、メツオロチが迎撃に放つ無数の爆裂も光弾もその装甲のみで弾き返し。さらにはデスシウムD4レイ一条と互角に撃ち合った反射光線をもバリアすら貼らずに得物で切り裂いて、メツオロチを間合いに捉えようとする。

 当然ブルトンが妨害を試みようとするが、させまいとジードが光の刃を掌の先から連続発射するギガエンドスライサーを放って牽制し、自身の回避へ専念させることに成功する。

 

 そうして遂に、ライハの駆るキングギャラクトロンMK2が、メツオロチと接触していた。

 

 メツオロチの尾が旋回し、猛襲。しかしキングギャラクトロンMK2もまたその身を回転させ、勢いを載せたギャラクトロンウルミーで迎え撃つ。

 ノワール星との衝突時、バリア発生装置を兼ねて先んじて託されていた長剣――キングギャラクトロンMK2の操縦システムの一部でもあった操龍刀を揮うライハの動きをトレースする一閃の下に、メツオロチの瑠璃色の尾は切り落とされていた。

 メツオロチが悲鳴を上げる最中に、ライハの動きを再現するキングギャラクトロンMK2は続けて左腕に移植された主砲ペダニウムハードランチャーを横薙ぎの鈍器としてメツオロチの胴を打ち、体勢を崩させる。

 そして、転倒するメツオロチの背中に再びギャラクトロンウルミーを一閃させ、メツオロチの背部器官を半ばから断ち切ってみせた。

 

「わぁ、すごい……!」

 

 キングギャラクトロンMK2を操り、メツオロチを瞬く間に追い詰めるライハの鮮やかな手並みに、サンダーキラーSが素直な感嘆を漏らした。

 

〈今よ、ルカ!〉

「(うん!)」

 

 滅亡の邪神とも打ち合い、究極超獣に称賛される業前を見せた師匠の飛ばす激に答え、スカルゴモラが拳を打ち合わせた。

 光線吸収の要となる背部器官を傷つけられたメツオロチ。その吸収フィールドによる妨害から遂に逃れたフェーズシフトウェーブが、スカルゴモラの全身から立ち昇る。亜空間の創造に必要な反応を終えた光が弾けて、光の壁が徐々に広がるその時、ジードは気づいた。

 

 ――倒れたメツオロチの眼前に立っていたキングギャラクトロンMK2の姿が、掻き消えたことに。

 

「……えっ?」

〈キングギャラクトロンMK2(マークツー)、ロストしました〉

 

 それが錯覚ではないことを、レムが告げる。

 

〈おそらく、ブルトンによる仕業です〉

 

 いつの間にか、メツオロチの背後に隠れるように陣取っていたブルトン。

 ――奴が、何処からかメツオロチを召喚するのと逆にして、キングギャラクトロンMK2を何処かへと飛ばしてしまっていたのだ。

 

 そして、戦場の変化はそれだけでは終わらない。

 遂に展開したメタフィールドの中に、メツオロチとブルトンを引き込んだその時。ベリアルの子である兄妹以外にも、その亜空間に招かれたものがあった。

 キングギャラクトロンMK2と入れ替わるように出現して、戦闘用不連続時空間に巻き込まれたのは、小さな黄玉と巨大な翡翠、二つの鉱石の塊。

 その正体について、レムの解析結果が伝えられるより早く。

 一瞬、炎の弾けるようなオーラを纏い、動きの加速したメツオロチが首を伸ばしてそれらに齧り付き、噛み砕き――呑み込んでしまっていた。

 

 そして、滅亡を呼ぶ伝説魔獣の、さらなる変化が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ウルトラマンジードが気づいたことを、同じ場所に立つ妹たちも当然認識していた。

 

「(――っ、よくも!)」

 

 メタフィールドの形成が完了した次の刹那。湧き上がる憤怒のままに、スカルゴモラは自らの闘争本能を爆発させた。

 レイオニックバーストの状態に至ると同時、メタフィールドの補正も載せて全開で繰り出した怪獣念力――サイコキノ星人の見せたそれさえ格段に上回る大出力の念力は、ブルトンを磨り潰して余りある威力のはずだった。

 だが――例の強化現象に加え、鉱石を喰らった直後、高速で脱皮し始めたメツオロチの目が怪しく輝けば。同等の出力を持った念動力場がスカルゴモラのそれを迎え撃ち、掻き消し合う結果に終わってしまう。

 

「(邪魔だぁあああっ!!)」

 

 苛立ちのまま、スカルゴモラは口腔から分解消滅光線インフェルノ・バーストを照射する。だが先程、キングギャラクトロンMK2の猛攻によって吸収フィールド形成能力を奪われたはずだったメツオロチは、逆にその光線を分解してしまった。

 

「(この――っ!)」

〈リク。ルカ。それにサラ。先程メツオロチが摂取した物質の解析結果が出ました〉

 

 脱皮により喪われた器官を再生し、瑠璃色の体表を漆黒へと塗り替えた敵の姿を認めて。怒りの沸き上がるスカルゴモラの意識に、レムから現状報告が読み上げられる。

 

〈あれはデビルスプリンターと、エメラル鉱石です。それらを取り込んだことで、かつてあなたたちの父親が怪獣化した姿、アークベリアルと……メツオロチが進化した存在は、似通ったエネルギー反応を発しています〉

 

 その回答に、微かにジードが全身を硬直させる音が聞き取れたが、スカルゴモラの関心は今、兄と同じところにはなかった。

 

「(そんなのどうでも良い! ライハは!?)」

〈反応、確認できません。不明です〉

「(そん、な……)」

〈狼狽えるな〉

 

 新たに通信に割り込んだのは、AIBのペイシャン博士だった。

 

〈キングギャラクトロンMK2(マークツー)は、あらゆる環境に適応する。ブルトンによって時空の歪んでいる環境でも活動できたのがその証左だ。別の惑星に飛ばされようが、恒星の核やブラックホールの中、異次元や別の宇宙に放逐されようと、ライハも機体も無事に決まっている〉

 

 自らの力作への信頼を語るペイシャンは、ライハの消失に乱心しつつあった兄妹を落ち着かせるように言葉を連ねた。

 

〈だが、飛ばされた場所からライハが自力で機体を帰還させられる、とは限らない。こちらからも誘導電波を出す必要がある……が〉

 

 そこでペイシャンは、聞き取り易くするかのように、言葉を区切った。

 

〈ブルトンがそこからでも邪魔をして来ている。排除しろ〉

「(りょーかい……っ!)」

 

 ペイシャンから指示を受けたスカルゴモラは、猛りのままに左右の拳を打ち合わせた。

 爆発的に活性化した細胞が生む超高熱。それが身に纏う百万度の大気となって、音エネルギーを研ぎ澄ます。

 それを利用し、全身の角から究極超獣すら圧倒する爆熱超振動波をブルトン目掛け放とうとしたが、しかし前触れなく、次の瞬間にはその全てが消失していた。

 

「メツオロチ!」

 

 同じくブルトンを狙って光線を放とうとしていたウルトラマンジードが、その消失に気づいたように声を上げる。

 ……スカルゴモラも、ジードも。放出した傍から、光や音や熱、そして念力といった実体を伴わないエネルギーの一切を、変貌した魔獣に取り上げられていた。

 奪われたエネルギーは、魔獣の両肩と両膝に出現した新たな口と、そしてどことなく鮫に近づいた印象の頭部へと、次々と吸い上げられていく。

 

〈吸収フィールドの範囲拡張を確認。既にメタフィールド全域が、敵の可食空間となっています。次元間通信は、まだ対象外のようですが……〉

 

 おそらくそれは、メタフィールドに引き込めていたから、その程度で済んでいて。

 もしもこの外でこの進化を遂げられていれば、短時間で地球全域を覆い、さらにその外まで際限なく拡張する、破滅の始まりになっていただろうと、レムは予想する。

 

〈エネルギー放出時、わずかに確認できていた、吸収性能の低下もなくなった……もう、さっきまでのメツオロチと、同一の存在だと思わない方が良いな〉

 

 尻尾とともに再生した背部器官には、エメラル鉱石を刃の列のように突出させ。さらにその中間にも、新たな背びれのようにエメラル鉱石を鋭く伸ばす。

 そんな外観の変化だけでなく。三種類の強化要素を重ねがけされて進化した魔獣は、先程までとは全く別の次元にまで、その存在を強化していた。

 

〈メツ……メツアークベリアル、か?〉

〈それではまるで、ベリアルが主体であるように誤解を招きます〉

 

 ペイシャンが提案した仮称を、そのようにレムが退ける。

 言葉にしたとおりの理由と、そしておそらくは、リクを気遣って。

 

〈巨人の力を得て、メツオロチから進化した新種――メツオルムという名称を提案します〉

 

 巨人の因子を継ぐ怪物にして、世界を脅かす終焉の大蛇。

 北欧神話に語られるヨルムンガンド、またの名をミドガルズの大蛇(オルム)。英雄神である須佐之男(スサノオ)に討伐されたヤマタノオロチをも越える、雷神トールを道連れにした伝説を誇る毒蛇の名を、レムが新たな魔獣の姿に冠した。

 それ以上、名付けに拘っているような状態でもない故に、誰も異論を挟まずに居ると。

 超宇宙伝説魔獣へと新生したメツオルムは、相変わらず不愉快な金切り声を上げながら、スカルゴモラたちに向かって前進を開始した。

 ……どの道。メツオルムの妨害を突破しなければ、ブルトンへの攻撃もままならないと。ベリアルの子らはまず、かつての父の似姿だという魔獣の討伐を決意した。

 

「行くよ、二人とも!」

 

 兄たるウルトラマンの激を受け、スカルゴモラが逞しい両足でメタフィールドの大地を蹴る。同様に走っていたサンダーキラーSは途中から八本の長大な触手を蜘蛛の足のようにして歩幅を変化させ、二人より加速して回り込む。

 最初に接触したジードのギガファイナライザーによる薙ぎ払いを、メツオルムは急に歩みを止め、身を仰け反らせて回避した。思わぬ技巧へ驚愕するジードに対し、魔獣は容赦なく口腔から迅雷の息吹を浴びせて吹き飛ばす。

 先陣を切った兄が作ってくれた隙を狙い、スカルゴモラとサンダーキラーSが怒りのままに挟撃する。だがメツオルムの目が怪しく輝けば、サンダーキラーSの触手の動きが停滞し、そのまま沈み行く大地に縫い留められてしまう。

 エネルギーを吸収するサンダーキラーSでも、普段は素通りで作用を受ける力――重力の増大が、究極融合超獣の足を止めさせていたのだ。

 AIBからの情報によれば、メツオロチのさらに前の姿であるメツオーガが重力操作の能力を持っているという。メツオルムへの進化で、魔獣はそれをより強力な形で取り戻したのだ。

 

「すごいじゅうりょく……」

 

 密度が変化した空気により、水を通したような濁った声音で、動きの鈍ったサンダーキラーSが現況を伝えてきた。

 可哀想だが、念動力まで無力化され捕食されてしまう今、妹をその高重力から庇うことはスカルゴモラにもできない――元凶である、メツオルムを倒す以外には!

 さらなる闘志を込めて、スカルゴモラ・レイオニックバーストがメツオルムと激突する。額の一本角の根本から、背後に流れるように生えた新たな二本角と、スカルゴモラの大角がぶつかり合う。

 攻めたのはスカルゴモラとなった。後手に回ったメツオルムが打ち負けて後退するところに、スカルゴモラは拳を握って追撃を繰り出すが、しかしそれは空を切った。

 ブルトンによる転移が、またもメツオルムの存在する座標を動かしていた。

 背後からの衝撃。スカルゴモラより長い尾を活かし、わずかに間合いの外となる距離から、メツオルムが打撃を浴びせて来ていた。

 不意打ちに体勢を崩しながらも、即座に持ち直したスカルゴモラは再び身を翻し、メツオルムへと肉薄。互いの掌を捕まえる形で手を結ぶ。

 ――膂力はこちらが上。そう認識したスカルゴモラがメツオルムを押し切ろうとしたが、違和感を覚えた。

 手応えが変わった。組み合ってからのわずか時間で、メツオルムの力が――そして体重が、増したのだ。

 

「はぁああああっ!」

 

 予想外の事態へスカルゴモラが集中を乱された間に、ギガファイナライザーを回収したジードがメツオルムの背後から打ち込もうとする。

 だがその瞬間、メツオルムを中心に無数の光が星空のように瞬き、一斉に爆発。勢いを殺され、ダメージを受けた兄妹の動きが鈍る。

 その隙を逃さず、メツオルムは尾でジードを打ち払い、同時に頭上に開いた穴からの光線をスカルゴモラに浴びせにかかった。

 強烈な熱線が直撃しつつも、肉体の頑強さと再生能力で持ち堪えながら強引に距離を詰めようとしたスカルゴモラだが、次の瞬間、突如として前後が反転。ブルトンの介入によって無防備な背中を晒すこととなり、さらにメツオルム本体の口から放たれる熱線との二重砲火を受け、遂に悲鳴とともに倒れ伏す。

 

「(うぁあああああああっ!?)」

「お姉さま!」

 

 そこに、自力で重力場を脱出したサンダーキラーSが割り込んで、光線を吸収するその身を盾として窮地を救ってくれた。

 

「(ありがとう、サラ――あいつ、今この瞬間も、強くなってる!?)」

「それに……わたし、なんだかいつもより、ちょうしがわるいみたい」

 

 不覚を取った状態から立ち上がったスカルゴモラと、光線を完全に吸収し回復したはずのサンダーキラーSが、各々戦いで感じた戸惑いを漏らした。

 言われてみれば、サンダーキラーSだけではない。スカルゴモラ自身もまた、傷の治りがこれまでより遅いことに気がついた。

 

〈当然だ。今やその空間内は全て奴の吸収フィールド。おまえらの生命力自体、猛烈な勢いで吸われている〉

 

 その疑問を晴らす悍ましい解析結果を、ペイシャンが伝えてきた。

 多元宇宙を震撼させたウルトラマンベリアルの遺伝子から、より戦闘に特化してデザインされた生物兵器が、短時間で不調を来すようなエネルギー吸収フィールド。戦場をメタフィールドへ隔離できていなければ、と想像してしまったスカルゴモラの背に、冷たい錯覚が生じる。

 

〈奪ったエネルギーを使い、奴はさらに強力に進化していく。対しておまえたち、特にメタフィールドで強化されないサンダーキラー(ザウルス)は何もしなくとも消耗が激しい。時間をかけるほど不利になるぞ!〉

 

 ペイシャンの言葉通り。レムから授かった伊達眼鏡型のデバイス――擬態を解除して、構成情報として取り込んでも、視覚情報を補助する機器が示した計測結果によると。ほんの一パーセント余りながら、魔獣は進化した後も、この短時間でさらなる巨大化を果たしていた。

 光線技が通用しないというのに、もしもこのまま際限なく巨大化を続けられれば、肉弾戦の効果まで薄れて行ってしまう!

 その成長を抑え込むメタフィールドの維持とて、スカルゴモラの強靭な生命力を持ってしても、決して無制限ではない。一刻も早く打倒する必要がある。

 

「(でも、どうやって……!?)」

〈狙うなら額の角です〉

 

 スカルゴモラの吐いた弱音に、レムがすかさず回答をくれた。

 

〈解析した限り、メツオロチは吸収したエネルギーをそこでコントロールしていました。進化した今も、角を壊せば吸収能力を低下させられる可能性が高いでしょう〉

「なら、僕が……!」

 

 ギガファイナライザーの助けで無尽蔵の活動エネルギーを持ち、ウルトラマンとしてメタフィールドによる補助も受けられる結果、最も戦力を維持できているジードが立ち上がる。

 だが、またもメツオルムの星空のような爆発網に弾き返され、さらに頭上のワームホールから放つ光線がジードへ標的を変更し、絶大な火力で圧倒する。

 

「お兄さま――!」

 

 兄を援護しようと、サンダーキラーSはこの状況でもメツオルムが吸収できていない時空のエネルギーそのものを用いた、D4レイでの援護射撃に移る。

 ――その瞬間、スカルゴモラの意識へ、唐突なイメージが閃いた。

 

「(サラ、駄目っ!)」

 

 最悪の予感に対する嫌悪のまま、咄嗟に妹を手で押して、スカルゴモラはその射線を曲げさせた。

 次の刹那。ブルトンの能力によってウルトラマンジードとメツオルムの位置が交換され、放たれたD4レイはスカルゴモラに押された分だけ狙いが逸れ、兄を外れて空間を破砕していった。

 

「――っ!」

「……あ」

 

 流石に息を呑んだ様子の兄を見て、一拍遅れて、自らの起こし得た惨禍を認識したサンダーキラーSが、呆けた声を漏らした。

 

「わたし……また、お兄さまを――」

「大丈夫! 僕は大丈夫だから、サラっ!」

 

 敵の策に嵌り、助けようとした兄を危うく殺しかけたことに戦慄した様子の末妹へと、ジードが咄嗟に呼びかけを行った。

 その声に自身も少なからず安堵しながら、スカルゴモラもまた戸惑っていた。

 

「(何、今の……?)」

 

 スカルゴモラには――ウルトラマンジードがD4レイに貫かれ、砕け散るビジョンが見えていた。

 何故かそれが、次の瞬間現実になる未来であると。そう直感したまま行動し、現にそれを阻むことができたものの。

 今の未来予知が――戦士や野生の勘だとか、そんなものではない気がして。妹が兄を殺めてしまう、なんて最悪の事態を回避できたにも関わらず、妙な怖気を感じていた。

 

「あの……ありがとう、お姉さま――!?」

 

 そんな姉の困惑を感じ取りながらも、礼を述べようとしたサンダーキラーSの声が変わった。

 原因は、スカルゴモラにも明らかだった。自分も一緒に、メツオルムの重力操作による攻撃を受けていたから。

 

「ルカ、サラ!」

 

 高重力の檻に囚われた妹たちにジードが呼びかけるも、そこへ再びメツオルムが肉薄する。

 妹の危機で奮起したジードは、ギガファイナライザーの助けを受けてその力を増していた。ベリアルの子らのエネルギーを吸い上げたメツオルムもより巨大に、より強靭に成長しているが、先のようにはあっさりいなされず、爪と棍で激しい剣戟を繰り広げる。

 だが、それも数度目には終わりを告げる。ブルトンの引き起こした四次元現象(パラノーマルフェノメノン)により、ジードは在らぬ方向を向いた形でメツオルムの前へと配置され、胸に強烈な頭突きを受けてしまっていた。

 

「(お兄ちゃん!)」

 

 重力に抗って進みながら、スカルゴモラとサンダーキラーSは未だ手の届かない兄の苦境に悲鳴を漏らした。

 プリズ魔以来、そんな敵ばかりだが。豊富な光線技を主力とするジードにとって、ただでさえこの吸収フィールド内の戦いは不利を強いられる。

 ましてや、ブルトンによる四次元干渉を受けながらでは、スカルゴモラともども満足に戦うことも覚束ない。

 敵の遠距離攻撃にも、ブルトンの干渉にも、自身に限ればある程度対抗できるサンダーキラーSは、先の誤射未遂に萎縮して、戦意が減退してしまっている。

 そうしている最中にも、かつての父の似姿をしたメツオルムは、さらにベリアルの子らの力を奪い取り、パワーアップして行く。

 このままでは……敗北の未来が一瞬頭を過ぎり、疲労と合わせて微かに足運びが鈍った、その時だった。

 

「――諦めるな!」

 

 背中に目がついているかのように。ウルトラマンジードから、叱咤激励が放たれた。

 

「……大丈夫だ。だってルカたちには、僕が付いてて。僕には、ルカたちが付いてくれている。一緒なら大丈夫だって、ルカが言ってくれたから!」

「(お兄ちゃん……)」

「それに、ライハを取り戻すんだろ。血の繋がりなんかなくても、僕らの家族を。だったら……決して絆を諦めるな!」

「(……うん!)」

 

 兄の言葉に頷きながら、スカルゴモラが遂に見えない縛鎖を跳ね除けた、その時。

 まるで、兄妹の心に灯った希望の光が、再び強まったのを認めたように――ウルトラマンジードのカラータイマーから、眩い光が漏れ出していた。

 

 

 




Bパートあとがき



そういうわけで、『ウルトラマントリガー』完結記念に、超全集の発売を待たずしてトリガー怪獣を登場させてしまう暴挙です。おかげで正式な技名がわからない。

元々は着ぐるみの流用元、かつ本来の素材である『ウルトラマンオーブ』のマガオロチのアークベリアル化を考えていたのですが、連載中に公式からお披露目されたメツオロチは「力を喰らって進化する」と明言されていることからこっちの方が擬似フュージョンライズさせ易いな、と魔が差してしまいました。メツの方なのに。

もちろん、メツオロチにエメラル鉱石とデビルスプリンターを与えたら禍々アークベリアルそっくりに収斂進化するという設定は公式で明言されていませんが、現時点では否定する材料もない(はず)ということで見逃して頂けると幸いです。

バシレウス名義のストロング・ゴモラントもですが、本来別のゲーム用にデザインされたバリエーション怪獣やフォームが流用されて別存在として出て来るのは『大怪獣バトル』シリーズらしくもあるのかな、と勝手に楽しんで二次創作しています。



(オリジナル)ウルトラカプセルナビ


名前:キングギャラクトロンMK2(マークツー)
身長:70メートル
体重:7万9千トン
得意技:ギャラクトロンウルミー、ペダニウムハードランチャー、ペダニウムスラッシング

 ギャラクトロンを解析した技術と、入手したその残骸に、かつてベリアル融合獣から回収したペダニウムを使い、AIBが作り上げた新兵器。
 ベリアル融合獣キングギャラクトロンと、ギャラクトロンMK2をベースとして改造しており、操縦には鋼鉄のジャン兄弟やサイバー怪獣を参考とした、乗り込んだ操縦者の動きをトレースして駆動するシステムを採用している。
 複数のウルトラマンから集中攻撃を受けながら大したダメージを受けなかったギャラクトロンMK2のバリアとサスペンション、強靭な装甲へさらにペダニウムを各種最適な配分で合成したものを加えたことで、まさに金城鉄壁と呼ぶに相応しい堅牢な防御力を獲得。さらにギャラクトロンの次元移動能力と環境適応性により、優れた継戦能力を有する。
 本来の主力武装は、キングギャラクトロンのものを再現した『ペダニウムハードランチャー』。ただし、操縦者がライハに決まった際、利き手にペダニウム超合金のスプリングソードとなる『ギャラクトロンウルミー』を装備するため、左腕に移設されることとなった。
 さらに、両目から放つ電磁破壊光線ギャラクトロ・デストレイに加え、ギャラクトロンMK2から引き継いだ右手の指に備えたマシンガン『ギャラクトロンゲベール』、手の甲のビームキャノン『ギャラクトロンシュトラール』等々、豊富な武装によって高い火力を有している。
 しかし操縦者が決まって以降、機体の真価は近接格闘能力でこそ発揮されるようになり、大火力を維持しつつも最大の切札はデジタル魔法陣で斬撃を分身させるペダニウムスラッシングとなった。
 その他、手の甲や膝に装備した近接格闘専用ブレード『ギャラクトロンクリンガー』等もギャラクトロンMK2から引き継いだが、かつてウルトラマンジードを一撃で葬りかけたデータ化攻撃はサイバー惑星クシアの補助があって初めて実現可能な能力であったためか、オミットされている。



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