カラータイマーを通して、現実世界にも投影される光の出処。
光源の正体は、ウルトラマンジードの
「これは、ネクサスと……」
輝く二つのウルトラカプセルを抜き取ったリクは、そこに描かれた二人のウルトラマンの姿を目にした。
このメタフィールドを展開している妹に先日まで宿っていた、謎多きリトルスターを譲り受けたカプセルと――何故か、そのカプセルに共鳴したように光を放つ、かつての戦いで伊賀栗マユから「
――そのゼロのカプセルに描かれた戦友の装いが、変わっていく。
ゼロ自身の、普段の姿から――ネクサスの本体である、ウルトラマンノアから託されたイージスを纏ったものへと。
「ウルティメイト……ゼロ」
時空を超越し――そしてかつて、アークベリアルの討伐を成し遂げた力。
それを借りることができたなら、この苦境も覆せるかもしれないと、リクは戦友の姿に希望を見出した。
「ユー、ゴー!」
《ウルトラマンネクサス》
「アイゴー!」
《ウルティメイトゼロ》
「ヒア、ウィ、ゴー!」
《フュージョンライズ!》
「超えるぜ、極限! ジィィィィィィィィィィィドッ!!」
《ウルトラマンネクサス・ウルティメイトゼロ・ウルトラマンジード! ノアクティブサクシード!!》
そして、虹色の光に包まれて――ウルトラマンジードの姿は、ウルティメイトファイナルから変わっていた。
ゼロと似た赤青銀のトリコロールを主とする色合いの肉体が、ウルティメイトイージスに似た鎧と一体化した姿へと。
襟足というべき部分がヒレのように広がった、戦国武将の兜を思わせる形状に頭部が変化したその新たな姿こそは、
……アークベリアルと、ウルティメイトゼロ。
過去に激突した両者の似姿が今、再び対峙する。
今度はベリアルの血筋が、祈りで生まれた鎧を纏って――
姿の変わったジードに対して、メツオルムが背部のエメラル鉱石による棘を光らせ、無数の光弾を撃ち放った。
対してジードは、右腕に装備したウルティメイトゼロソードを振るい、その全てを叩き落とした。
――最中。自らを動かそうとする見えざる力の干渉を、ジードは鎧を通じて感じ取ることができた。
それこそがブルトンの能力だと理解したジードは、続けて四次元現象を引き起こすその干渉自体を斬り捨てた。
さらに、最後の一閃は、自らの意志で空間を切り裂いて――メツオルムが飛ばしてきた、星空のような超過密連鎖爆破の網を、空間跳躍で回避する。
「――はぁああああっ!」
そして、メツオルムの眼前に飛び出たジードは、恐るべき魔獣にも吸収できない時空そのものに干渉するエネルギーを用いて、一気に勝負を仕掛けていた。
メツオルムの空間座標を、ネクサスのエナジーコアに似たY字型の軛によって固定。メツオルム自体の行動を一瞬戒め、さらにブルトンが干渉しようにも、わずかなタイムラグが生まれるように準備して、ウルティメイトゼロソードに時空のエネルギーを充填する。
「ソードレイ・オーバードライヴ!」
そして、斜めのN、あるいはZ――カプセルに宿った二つの光と共通する軌道の斬撃を繰り出して、メツオルムを切り裂いた。
――強大なる魔獣の肉体には、黒くなった甲殻を微かに割いた程度の痛手しか与えられなかったものの。
その剣は、魔獣の額から伸びた角を、確かに根本から断ち切っていた。
◆
ジードの刃がメツオルムの角を断った次の瞬間、スカルゴモラの周囲の大気が、その体温によって発火した。
レムの読み通り――メツオルムが展開していた吸収フィールドが、制御の中枢を担っていた角を破壊され、縮小した結果だった。
「(よし、これで……っ!)」
全力を取り戻したスカルゴモラは、高温で強化された超振動波でブルトンを狙う。
だが、ブルトンは自身の手前の空間を歪めて、メツオルムへと破壊のエネルギーの流れを捻じ曲げた。
角を失い規模が縮小したとはいえ、メツオルムの吸収フィールドは未だ健在。注ぎ込まれる音と熱のエネルギーを吸収し、倒されるどころか早速角を再生し始めようとするのを見て、スカルゴモラは超振動波の照射を止む無く中断した。
「(このっ!)」
続けての怪獣念力。単純な出力ではサイコキノ星人を遥かに凌駕し、ブルトンを圧倒して余りある念動力場が、同種の見えない力に食い止められ、跳ね返される。
「(こ、こいつ……!)」
メツオルムへと進化した時点で、レイオニックバーストしたスカルゴモラと張り合える力を持っていた
あれから戦いの中でさらに強化を続けたメツキネシスは、スカルゴモラの念力を捻じ伏せるだけでなく、押し切って襲いかかってきていた。
「ルカ!」
「(だ、大丈夫! サラが居てくれてるから!)」
兄が心配の声を上げてくれた時には、サンダーキラー
「(それよりお兄ちゃん、ブルトンを!)」
スカルゴモラが呼びかけた時には、ノアクティブサクシードとなったジード目掛けて次々と光輪が飛来してきていた。
ジードは手にしたウルティメイトゼロソードでそれらを切り払い、ブルトンに肉薄するも、反撃が届く前にブルトンが転移して間合いを逃れる。
ジードも即座に空間を跳躍して追うが、ウルティメイトゼロソードを揮う一手間がある分、サンダーキラーSの触手がそうだったように、事前動作を要さないブルトンへ容易くは追いつけない。
「(サラ、あなたもお兄ちゃんを手伝っ……!)」
ならば手数で不利を補おうと、妹に向けたスカルゴモラの指示は、そこで途切れた。
メツオルムが角を折られたショックで白目を剥いたまま、なおも強大な念力を操って、スカルゴモラとサンダーキラーSの足止めを図っていたからだ。
周囲から渦のように押し寄せた無数の力の流れが、サンダーキラーSの揮う八本の触手の護りを突破して、二人の足を絡め取る。
〈――スカルゴモラ、聞こえる?〉
その時、通信機を介して届いたのは、いつもの面々ではなく――この戦いの最初に避難して貰ったリトルスターの宿主である、査察官の声だった。
〈念動力とは、念じるだけで結果を導く力……つまり、意志による指向性がある。それを乱せば、多少の出力差ならひっくり返せるわ〉
宇宙有数の超能力種族であるサイコキノ星人は、同じ能力へ開眼しているスカルゴモラ相手に、念力合戦の助言をくれるようだった。
〈要するに……回せば何とかなるのよ〉
査察官のアドバイスを元に、スカルゴモラは自らの念動力場に回転を加えて展開した。
……言われてみれば、メツキネシスもまた渦のように回転して押し寄せることで、スカルゴモラの怪獣念力を押し切っていたのだ。
ならば、同じく回転する力の流れを得た怪獣念力が、メツキネシスを受け流せることは道理。結果、超宇宙伝説魔獣と対峙する姉妹は、遂に自由を取り戻していた。
〈お見事。そして、あなたたちの奮闘のおかげで……私たちも、応援を送れるわ〉
その言葉を合図に、メタフィールドに異物が出現する音を、スカルゴモラは感じ取った。
振り返った先に居たのは、異次元への潜航能力を応用し、深い地底に張り巡らされたメタフィールドまで侵入してきた――時空破壊神ゼガンだった。
「(え、ゼガン!? 駄目、危ないよ!)」
救援に来てくれたという戦友の姿に、しかしスカルゴモラは焦りを表に出した。
流石に、メツオルムとゼガンの間には大きな実力差が存在しており、相性も悪い。しかも未だリトルスターを宿しているゼガンは、集中して狙われかねない!
〈ゼガンが望んでいたとしても?〉
「(……えっ?)」
そんなスカルゴモラの心配を、無粋と言わんばかりに。怪獣の声を聞く専門家――サトコこと、ゾベタイ星人ナビアと親しい査察官が問いかけた。
「スカルゴモラ、サンダーキラー
一方で、ゼガンを操るシャドー星人ゼナからの呼びかけが示すように。負傷した魔獣は視界に現れた食欲を煽る光に釣られて、ゼガンを狙って直進し始めていた。
「(……ああ、もう! あいつ止めるよ、サラ!)」
「はい、お姉さま!」
頷いたサンダーキラーSとともに、身を震わせながら気合の咆哮を上げたスカルゴモラは、未だ猛威を揮う魔獣に向けて駆け出した。
念力を相殺し、光線を吸収し、爆破には吸収フィールドの外に出たために展開可能となったバリアを用いて、味方を庇いつつ妨害手段を踏破した怪獣兵器の姉妹は、伝説の魔獣と正面から衝突。純粋な膂力で劣る妹を庇いながら、兄が付けた傷跡を狙って二人がかりで押し返す。
そうなれば――リトルスターの輝きに惹かれ、ゼガンへと向かう怪獣は、もう一匹しか存在しない。
ジードの攻撃を躱し、再出現したブルトンは、ゼガンを目指して亜空間の大地を猛烈な勢いで転がっていた。
対して、敵を存分に引き寄せながら――吸収フィールドの影響外で準備が可能となったゼガンは既に、その胸の主砲に充分なエネルギーを蓄えることができていた。
そして放たれたゼガントビームは、ブルトンが干渉した空間情報を書き換えて突破し、その奥の本体を捉えた。
「消えた……っ!」
ブルトンの後を追っていたジードが、直撃の結果を声にした。
果たして、光の中で灼き尽くしたのか。それとも副次効果である、時空の彼方への追放となったのかは、ともかく。
ブルトンはメタフィールドからも、その外にある宇宙からも、その反応を消していた。
味方を消し去られたことに激怒したように、メツオルムが咆哮。頭上に展開した穴から、強烈な光線をゼガンと、直線で結べる位置にいたジード目掛けて発射する。
だが、その進行ルートの最中で次元が割れて、光線を取り込んで阻んでいた。
「ありがとう、怪獣さん!」
超獣特有の能力でジードとゼガンを庇ったサンダーキラーSは、さらに触手を叩きつけてメツオルムから距離を取ると、誤射の心配がなくなったD4レイの体勢に入る。
しかし発射の瞬間、メツオルムが重力操作を発動。察知したスカルゴモラが反発する重力場で相殺するが、後手に回った一瞬の作用でサンダーキラーSの射線が逸れ、直撃から外れることになる。命中する軌道を進むのが半分以下になったデスシウムD4レイでは、メツオルムが口腔から放つ光線に押し返され、完全に防ぎきられてしまう。
「(くそ、しつこい……っ!)」
〈だが、後はゴリ押せばいける〉
スカルゴモラの漏らす苛立ちに、ペイシャンがそう補足を加える。
だが、サンダーキラーSも今の一撃を凌がれては息切れが近い。未だ光線を吸収される以上、ジードもゼガンも有効打を用意できない。
メタフィールドの維持にも体力を使うというのに、果たして自分一人で最後まで押し通せるか――と、懸念を抱えたスカルゴモラに対して、ペイシャンは焦った様子もなく言葉を続けた。
〈そのための戦力も、もう戻る〉
それは、そもそもブルトンの排除を、彼が――そしてスカルゴモラが望んだ理由。
玲瓏なコーラスの音色とともに、メツオルムの背後にハニカム構造状のデジタル魔法陣が出現した。
〈……弟子の前で、よくもやってくれたわね〉
「(ライハ!)」
スカルゴモラの呼びかけに応えるより、そして敵が対応するよりも早く。ブルトンの妨害が消えたことで帰還したキングギャラクトロンMK2が、手にしたギャラクトロンウルミーでメツオルムへと斬りかかった。
あの後進化したとはいえ、一度は自身を瞬く間に切り刻んだ天敵の帰還で、メツオルムが焦燥も顕に振り返る。その隙を逃さず、スカルゴモラは背を向けた敵の尾を掴み、抱え込んだ。
「(ライハ、今!)」
〈はぁああああっ!〉
先程とは師弟で逆転したやり取りを交わしながら。メツオルムが抵抗しようと操るメツキネシスに怪獣念力を割り込ませて霧散させ、スカルゴモラは師匠のアシストを完遂する。
名の通り、雷鳴のように大気を割いて閃くギャラクトロンウルミー。メツオルムの肩口にある口が、顎による真剣白刃取りを試みるも、一本ではない刀身が平然とその上下の付け根を切り裂いて、拘束を緩ませて突破する。
肩口から袈裟斬りにされ、鮮血を舞わせるメツオルムへと、さらにキングギャラクトロンMK2は横薙ぎに追撃。腹部の目を潰され藻掻く魔獣はその悲鳴を放つ口から正面に、次いで頭上に発生させた穴からは尾を掴むスカルゴモラを狙い、それぞれ激烈な光線を放つ。
何とか吸収フィールドの範囲外であったために、怪獣念力でのバリアが間に合ったスカルゴモラは直撃せずに済んだものの。尾に引かれて前のめりになれば、フィールドと接触した分、バリアが削れて亀裂を走らせることになり、肝を冷やす。
「ルカ! ――っ、ペダニウムスラッシング!」
一方、純粋な装甲の強度だけで、メツメツアークデスシウムを無傷で凌いでいたキングギャラクトロンMK2。その操縦室にいるライハは、弟子の危機に気づいた様子で、音声認証による大技の発動体勢に入った。
操作するライハ自身がやることに変わりはない。その手に握る制御機器である操龍刀を用いて、自らの剣技をキングギャラクトロンMK2に模倣させるだけ。
これまでと違うのは、開発モデルになったベリアル融合獣キングギャラクトロンから再現した技術を用い、そこを通った自身の攻撃を分身させる魔法陣を出現させていたということ。
時空のエネルギーそのものがメツオルムの捕食対象とならないことは、既に実証済。問題なく成立した超連続斬撃がメツオルムの黒い外殻を切り刻み、そこに複数の割れ目を生じさせていた。
「決めるわよ、ルカ!」
「(――っ、はい!)」
そして、その割れ目から切っ先をメツオルムの胸に突き刺して。敵の動きを固定した師匠の呼びかけと、キングギャラクトロンMK2を通して示した体勢を見取ったスカルゴモラもまた、弱った魔獣の尾を握ったまま構えを取った。
微かに身を捻り、右側面を相手に見せながら、左足で大地を捉える震脚。体躯に通る軸を意識しながら、蹴り足を力むことなく、大地から登る震動を運用した、腰の推進で送り出す。
中国拳法における直線的な蹴り技の代名詞、
故に、相手の腕を槍や刀に見立て、敵を固定して蹴るこの技を――キングギャラクトロンMK2を介したライハは原型通りに刀を用いて、スカルゴモラは腕ではなく魔獣の尾を掴んで制したまま、その踵で踏み込むような左右の蹴りを同時に放ち、前後からメツオルムを挟み込んだ。
人型に近いキングギャラクトロンMK2で動けるライハに比べると、鏡写しというには
それを証明するように。師弟の蹴りを逃げ場のない挟み撃ちで受けたメツオルムは、特に傷口を狙ったキングギャラクトロンMK2の蹴りによって胴の中まで抉られることとなり――自らが喰らってきたエネルギーを、制御不能に追いやられていた。
蹴りの反動で、師弟が足を戻した次の瞬間。引き起こされる事態を見抜いたスカルゴモラは、身を捩る勢いのまま尾を閃かせ、メツオルムを打っ飛ばした。
そうして、乱暴に距離を取らされた少し先で――超宇宙伝説魔獣メツオルムは、貪欲に取り込んできた力の暴走に呑み込まれ、メタフィールドの中を埋め尽くすほどの爆発を起こし、絶命したのだった。
◆
メツオルムの死が生んだ大爆発。
その破壊の嵐に対し、バリアを展開したウルトラマンジードが前に出て庇っていると――時空破壊神ゼガンの胸から、小さな星の輝きが浮かび上がった。
分離したリトルスターは、そのままジードのカラータイマーに吸い込まれ、インナースペースに存在するリクが持つ、空のウルトラカプセルへと宿る。
寸前まで空白だったカプセルの中に描かれていたのは、額に水晶を、胸に金のプロテクターを装備した、赤青銀のトリコロールカラーのウルトラマンだった。
〈ダイナカプセルの起動に成功しました〉
かつて、ゼロとも共闘したウルトラマンダイナの力を手に入れたのだと、レムが解説してくれる。
その事実にも微かに感慨深いものを覚えながら、ゼロの力で発現した新たな形態のままのジードは、その光を譲渡してくれた相手の方を振り返っていた。
「……ゼガンは、君たちとともに生きることを望んでいるらしい」
〈ちょっとゼナ、正確に伝えた方が良いんじゃないの?〉
ゼガンの意思を代弁するようなゼナの回答に割り込んだのは、どことなく嬉しそうな査察官の声だった。
〈ゼガンがともに生きることを望んだのは、ゼナも含んだあなたたち皆と――上手く行くのかはわからなくても、ともに生きること。戦いしか知らない、そのために造られた怪獣でも……同じ運命を背負う命たちと同じように、って……サトコが通訳していたでしょ?〉
その言葉に、リクは思い出すものがあった。
それは、初めてゼガンと出会った戦い――シャドー星人クルトの起こした事件の最中で、教え子である彼に、ゼナが語った理想だった。
ゼナの説得虚しく、
そのクルトと融合し、意のままに動く手足となっていたゼガンの中で……あるいは、クルトの心に生じた疑念が、今も息衝いていたのだとしたら。
……これまでと、違う生き方を選ぶ。リトルスター一つで瓦解しかねない、そんな厳しい戦いを――同じような出自にある、リクたち兄妹の生き方を見て、望んでくれたのだとしたら。
クルトには遅かったかもしれない生き方を、二度も死と再生を繰り返された末にでも、ゼガンは選ぶことができたのなら。
あの日――モアが涙を流す理由になった、クルトが多くを偽っていた時間は、それでも無意味なんかじゃなかったと。
リクは改めて、そう想うことができていた。
◆
「本当に、もう本部に戻られるんですか?」
「ええ。報告書も見せて貰った以上、もうゼガンの処分は不要と直接伝えに戻るべきだし、それに――確信、できたから」
その後。メタフィールドから外に出て、地上に戻った星雲荘の一行は、AIBの事後処理が一段落したところで、査察官とゼナたちが会話する場面に出くわした。
「かつて一人の若きウルトラマンが、仲間と結んだ絆で、強大なエンペラ星人の闇を晴らしたように。ベリアルを止めたウルトラマンジードと、その新しい家族にも……確かな想いを託してくれている者たちが、たくさん居て。彼らは決して、それを裏切ったりしないことが」
過去と照らした上で吐かれた信頼の言葉に、ルカは兄と揃って何だか気恥ずかしくなっていた。
今、嬉しそうに微笑んでくれるライハを始め。スペースビーストとの最終決戦で、ジードを信じて祈りに応えてくれた人間に、怪獣に、宇宙人。
さらに、兄にリトルスターを届けてくれたゼガンや、一緒に戦ってくれるAIBの仲間たち。
悪しき欲望によって、ベリアルの血から造られた自分たちが、彼らに信じて貰えているという奇跡。それを、稀人にして歴史の生き証人である彼女にも、太鼓判を押されたこと。そのことが、たまらなく嬉しかった。
「この星を脅かす何者かが、如何に強大な敵でも――その絆を断ち切るなんて、できはしない。だったら私たちが必要なのは、ウルトラマンのいる星じゃないから」
ゼガントビームを受けて姿を消したブルトンは、確実に滅んだという証拠はない。
もしもブルトンが生き残っていた場合。仮に敵の本命が地球だとしても、その影響は宇宙規模であらゆる星に顕れ得ると、AIB本部は危惧しているそうだ。
「……もちろん、もう一仕事だけ、してからだけど」
査察官がそんな風に、微笑んだ時だった。
「あーっ、リッくん! ルカちゃんたちも!」
査察官たちのやり取りを離れて見ていた一行に、遠慮ない大声で呼びかけて来た者が現れたのは。
自らの存在を強調するように、ドタバタと音を立てながら駆け寄ってきたのは、AIB唯一の地球人エージェントにして、朝倉リクの姉のような存在――愛崎モアだった。
「モアおねぇちゃん! どこいってたの?」
モアの登場に対し、これまでにルカたちが持ち得た認識を共有していないサラが、朗らかにも不用心な質問を投げかけた。
「……おねぇちゃん!?」
しかしルカは、サラがモアに用いた呼び方に気を取られ、一瞬、そのことで頭が一杯になっていた。
――やっぱり、おねぇちゃん呼びの方がかわいい。私の妹なのに、モアだけずるい!
などなど、邪念と雑念に塗れて注意散漫となったルカが、ジェスチャーを送ることができなかったせいか。モアは呑気に、正直に、サラの質問へ応え始めてしまった。
「いや~、なんだか怖い査察官さんが来るから、私はリッくんたちにも近づくなって言われて……でも、もう帰ったらしいって聞いたから、やっと出て来れたの!」
「…………あー、その、愛崎」
モアを珍しく名字呼びしながら、ペイシャンが額を抑えていた。
表情筋を動かせないゼナもまた、目を閉じて天を仰いでいた。
「モア! おひさ~!」
「サトコさん!? えっ、どうして!?」
「私、その査察官から直々に協力要請を受けたのよ。それで久々に地球に来たってわけ! モアに会えなくて寂しかったぞー!」
同じく状況を読めてない――否、誰より正確に読めている上で、その能力でメンタリティが隔絶しているがために。空気を読む気がなかったサトコが素直に再会を喜んで、モアにハグをしていた。
「……えっ? でもそれじゃ、もう帰ったはずじゃ……?」
「帰ったんじゃなくて、これから帰るところよ。ね?」
伝言ゲームを訂正するサトコが同意を求めて視線を向けた相手は、深々と頷いていた。
「……モア。その人が、査察官さんなんだ」
言い難そうにリクが告げると、モアは受けた衝撃をそのまま顔に出していた。
「やっと会えたわね。愛崎モア」
怖い査察官、などと呼んでしまった相手に呼びかけられて、モアは一瞬身を竦めていた。
それから慌てて髪を整え妖艶に微笑もうとしたり、女性人格の異星人相手に色仕掛け紛いな仕草で誤魔化そうとする頓珍漢なモアの挙動で、査察官の心証を知っているルカも、ハラハラとした心地で見守ることになった。
そんなルカの想いが通じたのか、キリッとした表情を今更作ったモアは、査察官相手に敬礼の仕草を見せていた。
「はい! 遠く本部より、お疲れ様です!」
「色々と見させて貰ったわ。あなたの仕事ぶり」
査察官の言葉に、モアが青ざめる。動揺の余りにゼナも擬態を維持できず、シャドー星人本来の、金色のデスマスクじみた素顔を晒してしまっていた。
「……これからもこの星を頼むわね。あなたたちのウルトラマンと一緒に」
果たして査察官が告げたのが、ただの激励であったことに。それを受けたAIB地球分署の面々は、各々肩の力が抜けたようによろめいていた。
「あの!」
モアの件が無事杞憂で片付き、安心できたルカは、査察官に声をかけた。
振り返る彼女へ向かって、ルカは最初に話した時と同じように、深々と頭を下げた。
「改めて、ありがとうございました! ゼガンのことも、アドバイスも!」
「良いのよ。あなたたちのおかげで、今日の事件は解決したし……元々、色々な星の人同士で仲良くなりたいのに、怪獣だけ除け者なんて、したくなかったから」
それは、怪獣の声を翻訳できるゾベタイ星人ナビアの力があってこそ、なのかもしれないが。
スペースビーストやメツオロチのように、倒さざるを得ない怪獣も依然として存在するが――それはエタルガーやヤプールの場合と同じだとは、ルカにももう、割り切れていた。
だから、彼らとは違うゼガンを、困難を理由に排除しないでくれたこと……身近な仲間以外にも、そんな選択をしてくれる人が居ることが、嬉しかった。
「血の繋がっていない、違う星の人同士でも――兄妹にだってなれたんだから。地球人も宇宙人も、怪獣だって、一緒に生きる未来があるって……私も、信じたい」
ウルトラマンと、怪獣と、超獣。血が繋がっていても、別の種族である兄妹と対比するように、けれど目指す場所は同じだと、査察官は笑顔を見せた。
「だから、応援させてね。ウルトラマンジードと、その家族」
「――はい」
「良い返事。……どうか、あなたちの歩む日々の未来に、幸多からんことを」
そこまで言葉を紡いだ際に。査察官の胸から、ブローチの働きで不可視化されていたリトルスターの輝きが分離した。
査察官――サイコキノ星人カコから、ウルトラマンジードに託された光がカプセルに描き出したのは、銀と赤に彩られた体に菱形のカラータイマーを埋め込んだ、金色の眼を持つウルトラマン。
きっと、彼こそがカコの兄なのだと――ルカは、誰に言われるでもなく確信していた。
いつかまた、ゆっくりできる時に会えたなら。今度は彼女のお兄さんの話ももっと聞いてみたいと、密かに望みを持ちながら。
◆
星山市郊外の、何処かの山中。
すらりとした人影が、その手に橙色の結晶を摘んでいた。
稲妻模様のような造形をしたその結晶は――デビルスプリンターと呼ばれている、ウルトラマンベリアルに由来する細胞片の一種だった。
それはまさに、新宇宙伝説魔獣メツオロチが超宇宙伝説魔獣メツオルムへと進化するために喰らったデビルスプリンター、そのもので。魔獣の死後、一度は吸収されていたデビルスプリンターが――メツオルムが吸い上げた、ベリアルの子らの力とも合わさって凝縮し、さらに純度を高めながら大型化した欠片だった。
「まぁまぁだな」
影が発したのは、男性的な言葉遣いの……女の声だった。
その人物は、指先でデビルスプリンターを吊るすように顔の前へ掲げると――小さな口から、その欠片を体内へと取り込んでしまっていた。
生命力に優れた怪獣でも、取り込むと心身のバランスを崩し、著しく凶暴化するとされる悪夢の欠片。
人間大に過ぎないその存在も、やはり不調を来したように膝を着いたが……驚くべきことに。たったのそれだけで、持ち堪えていた。
「……もう少しだ。待っていろ、ベリアルの子らよ」
そうして、野心を秘めた呟きを、デビルスプリンターを嚥下し終えた口から零した。
狙われたウルトラマンジードとその妹たちは、まだ、その影の存在すら知らなかった。
Cパートあとがき
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
以下は雑文なので、ご興味のある方だけお付き合いください。
サイコキノ星人カコのリトルスターで起動したカプセルの名前は、作中でも次話で改めて触れはしますが、もちろん『ウルトラマンメビウス』の物になります。ウルトラマンと異種族の妹がテーマである本作において、メビウスのリトルスターを宿す人物としてカコちゃん以外の選択肢を選べませんでした……
そういうわけで、ウルトラマンの兄と人外異種族の妹(※元々は勝手に名乗っただけ)の元祖であるサイコキノ星人カコちゃんの客演回でした。作中のカコちゃん像については、ファッションは総監代行の影響、兄のことを「兄さん」呼びしていることはその兄が使う呼び方を真似しているというイメージです。作中で名前を明言しなかったのは、今後の公式展開でもしもジードとメビウスの会話が描かれた際、カコちゃんのことに触れないが不自然にならないギリギリのラインを攻めたつもり……だったり。
ゼガンの方は逆にゼガン(もしくはゼナ先輩)にリトルスターが宿るという展開が先にあったため、色々考えた結果今後の展開の都合で「レボリュームウェーブとゼガントビームって似ているよね」ぐらいの理由しかないダイナになりました。『ジード』本編でもこのキャラに宿るなら確かにそのリトルスター! って納得が行く場合と行かない場合は半々ぐらいだったと思う(※個人差があります)ので、ご了承くださると幸いです。
それにしても次々と飛び出す『フュージョンファイト』限定のフュージョンライズ形態ですが、本作における設定としては、ノアクティブサクシードの場合は「能力が装備由来のため、あくまで身体的な制限解除であるウルティメイトファイナルでは再現できない」「ゼロカプセルがウルティメイトゼロカプセルに変化するのはネクサスカプセルとメタフィールドが揃った場合のみ」という考えで公式で使われないことに言い訳できたらと思います。ゼロのカプセルがウルティメイトゼロカプセルに変化するのは、まぁ、理屈はともかく現象としては『ウルトラマンZ』でゼロとベリアルのメダルが特定の組み合わせで変化するのと似たようなものということでお目溢しください。
(オリジナル)ウルトラカプセルナビ
名前:超宇宙伝説魔獣メツオルム
身長:70~80メートル(※作中で確認された値。さらに巨大化可能)
体重:7万~10万トン(※さらに巨大化可能)
得意技:メツキネシス、メツポイズン、メツメツアークデスシウム、
新宇宙伝説魔獣メツオロチが、エメラル鉱石とデビルスプリンターを喰らって進化した姿。
全体的なフォルムはメツオロチに準じながらも、背中に生やしたエメラル鉱石の結晶群や変形した顔立ちは、かつてウルトラマンゼロが立ち向かった超銀河大帝アークベリアルにも似通った印象を与える。
メツオロチからさらに強化された吸収フィールド、捕食空間スループフィールドは時間をかければ際限なく広がり続け、最終的には世界を囲ってしまうほど。
吸収フィールド内では剥き出しのエネルギーを取り込むだけでなく、物質化しているエネルギーも徐々に放出させ全て捕食してしまう。生物も例外ではなく、命を直接吸われるようにして衰弱していき、最終的には食い殺されてしまう。エネルギーによって進化するという特性から、事実上許容限界が存在しない。ただし時空そのものを構成するエネルギーを始め、吸収の対象外となる例外は存在する模様。このため、別位相の空間に隔離する等で吸収フィールドの拡大を抑え込むことができる。
その他の弱点はメツオロチから引き続き、その吸収フィールドを制御する額の角となるが、この段階に進化したことで獲得した強大な念動力・メツキネシスで制御を代用し、規模をメツオロチ相当にまで縮小した状態での運用が可能。
メツオロチ及びその進化前である宇宙伝説魔獣メツオーガ時代の技も全て使用可能な上、口から放つ牽制用のメツ迅雷と、より強力なエネルギーを一気に放出するメツメツアークデスシウムという必殺技も得た。
さらにベリアルウイルスに由来する猛毒攻撃、メツポイズンも有するが、ベリアルの遺伝子を継ぐウルトラマンジードたちには効果がないことを事前に理解していたため、使用しなかった。その判断力の理由は――