ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第十四話「ヒカリノキズナ」Bパート

 

 

 

「――あれ?」

 

 元星公園で遊んでいた、究極融合超獣サンダーキラー(ザウルス)が地球人の少女に擬態した姿――朝倉サラは、不意に生じた奇妙な感覚で振り返った。

 

「サラちゃん、どうしたの?」

「えっと……いま、ちょっとだけ、じげんがうごいた気が……?」

 

 視線の高さが同じで、故に早く変化に気づいたらしい伊賀栗マユの問いかけに、サラは小首を傾げた。

 

「でも、トリィのおでんわ、なってないよね? レムもなにもいってないし……」

「そうね。でも、サラがそう感じたのなら、ペイシャンに確認しておこうかしら」

 

 同じく地球人の姿に擬態したピット星人トリィ=ティプが、サラの疑問に答えながら、確認の一手を約束してくれる。

 

「次元が動く……って、どういうことなんですか?」

「昨日のような、怪獣出現の兆候です。……この子は超獣だから、そういう変化も知覚できるみたいで」

「へぇー、すごいんだね、サラちゃん」

「えへへ……ありがとう、マユちゃん」

 

 マユの父であるレイトの問いかけにトリィが答える間。先程まで勉強を見てくれていた彼女が何を言っているのか、正しく理解しているのかは怪しいものの。とにかく他にない才能があることはわかった様子のマユに褒められたサラは、笑顔で御礼を返していた。

 

「……異常なし、変化があれば連絡する、ですって」

 

 その間に、ペイシャンとのやり取りを終えたらしいトリィの言葉に、サラは己の勘違いかと安心した。

 当面は戦わない方が良いと、昨日、言われたばかりの身だ。

 正直言えば、ちょっと窮屈ではあるが――その分、いっぱいお勉強したり、こうして息抜きに友達と遊んだりできるなら、それでも構わないと、サラは感じていた。

 だから、自分の勘違いで良かったと――その時のサラは、確かにそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 ……トリィ=ティプがAIB本部から受け取ったメールは、明らかに現状と即していない内容だった。

 その理由は、AIBの研究セクションが既に、攻撃を受けていたからだった。

 

「ペイシャン! 何が起きているの!?」

 

 施設内で鳴り響く警報音を耳に、怪獣出現に備え、キングギャラクトロンMK2(マークツー)の操縦者として待機していたライハは、この施設の責任者を見つけ出し、事態を問い質していた。

 

「自動防衛システム、起動しました!」

「コンピュータに侵入者!」

「――聞いてのとおりだ。何者かにサイバー攻撃を受けている……おそらく、石刈アリエの放った怪獣だろう」

「アリエ……?」

 

 思わぬ名を聞いて、困惑するライハに対し。キングギャラクトロンMK2と接続したコンソールを睨めつけるペイシャンは、何も言わずに報告書を投げてきた。

 その様子から、彼にも余裕がない状態なのだと理解したライハは、文句を引っ込め渡された紙を読む。そして、状況を把握して息を呑んだ。

 

「こんなことって……」

「問題は、その頭がベリアルに汚染されたアリエが、既にリクとルカに接触したことだ」

 

 前提となる情報をライハが読み終えたことを、一瞥も寄越さずに察知したらしいペイシャンが、さらに重大な事態をライハに告げた。

 

「やはり一連の黒幕は奴で、勘付かれて直接動き出した、ってことのようだ。ゼナたちが最悪の事態は防いだと思いきや、ブルトンの力でリクたち諸共飛ばされてしまった。同時にここも攻撃された、ってわけだ」

「――っ、すぐにキングギャラクトロンMK2(マークツー)を出して!」

 

 家族の代わりに戦う……そんな決心を嘲笑うような敵の動きを知らされたライハは、思わずペイシャンに迫ったが、しかし彼は首を横に振った。

 

「悪いが、少しだけ待て。この施設のコンピュータに敵が侵入したままじゃ、バックアップは不十分だ。外部との通信も遮断されていて、ブルトンを追うことはできない」

「じゃあ、どうしろって言うの……っ!?」

「だから待てと言っている。その障害を取り除く力を、俺はこいつに持たせてある」

 

 ペイシャンに倣って、ライハは自身に託された力である、白と金の機体を見上げた。

 

「サイバー惑星クシアの欠片を、動力源と演算機器を兼ねて、俺はこいつに組み込んである」

 

 本機のベースとなったシビルジャッジメンター・ギャラクトロンMK2。三大ウルトラマンと互角以上に渡り合ったその戦闘マシンの力の要が、ウルトラマンすらデータ化し無力化する、サイバー惑星クシアのバックアップだった。

 データ化攻撃こそ残せていなくとも。その欠片を組み込んでいるからこそ、クシア亡き今も、その流れを汲むキングギャラクトロンMK2は驚異的な戦闘力を発揮できるのだ。

 

「ハッキングを仕掛けて来ている相手を、サイバー惑星の欠片で無力化し、排除する。それが済めば、すぐにリクたちのところに次元跳躍できるよう、設定は完了した。後の調整は任せる」

 

 最後の言葉を部下に告げたペイシャンは、この緊急時に突然、ライハの前から離れ始めた。

 

「ちょっと、どこに……!」

「おまえはすぐに発進できるよう、乗り込んでおけ! 俺は……トリィたちのところへ向かう!」

 

 ライハへの指示を叫びとして残したゼットン星人ペイシャン博士は、人外の俊足を発揮して、施設の外へと駆け出し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 リクたちがその身を投げ出されたのは、何もない荒野の上だった。

 荒涼とした岩肌が延々と続き、空は強風と共に流れる雷雲に覆われている。

 ……呼吸に変わりはないが、ここが地球ではないと気づくのに、そう時間は掛からなかった。

 何せ、空の上に、大陸が浮いていたから。

 

「……ここは」

〈どうやら、怪獣墓場のようです〉

 

 リクの疑問に、いつも通りレムが答えた。

 だが、ジードライザーを握っていたわけではなかったリクは、その声が届いたことが不思議に思えて――ユートムを探して振り返ってみると、上空から舞い降りる、巨大な船影を目にすることとなった。

 接近してきたのは、星雲荘の真の姿――ネオブリタニア号だった。

 

「どうしてネオブリタニア号が……!?」

〈星雲荘も、ブルトンによってここへ飛ばされました〉

 

 帰るべき家を別の場所に飛ばす、恐るべき敵の所業にリクは肝を冷やしたが、浮遊するネオブリタニア号自体は無事な様子だった。

 

「レム。怪獣墓場……って、何?」

〈名の通り、怪獣の霊魂や概念が流れ着く、多次元宇宙の事象の吹き溜まりです〉

 

 怪獣として、その響きが無視できなかった様子のルカの問いかけに、レムが答えを述べた。

 曰く、多世界解釈における、複数の宇宙に跨って存在する定常的な空間の歪み。

 空間の密度やベクトル、位相が一定せず絶えずランダムに波打っているため、エネルギー収支という宇宙の最も基本的な法則が成り立たない場所でもあり、怪獣の亡霊以外にも今のリクたちが足を付ける小惑星等も漂着し、空に見える巨大な浮遊大陸も存在している、摩訶不思議な空間だという。

 

「私たち……死んじゃったってこと!?」

〈いいえ。怪獣墓場に流れ着いた死者は漂うだけで、自由に行動することはできません〉

 

 涙目で問いかける怪獣(ルカ)に対し、だから自分たちは大丈夫だと、機械(レム)は平然と返していた。

 

〈一度流れ着いたものが勝手に外へ溢れ出ることはありませんが、動ける者なら脱出は容易です。ネオブリタニア号ならば問題なく、全員で星山市に戻れるでしょう〉

 

 その回答に、リクは安心した。脱出のための手段と一緒に飛ばすなんて、敵も間抜けなものだと。

 ……一瞬の後に、そうではないと思い出した。

 

「レム! なら、早く戻ろう……サラが敵に狙われている!」

 

 そのために、レムもまとめて隔離したのだと、リクはようやく思い至った。

 果たして、間に合うのか――そう思いながら、リクは周囲の人影を見た。

 

「モアたちも、早く!」

「……いいよ、リッくん。先に戻ってくれて」

 

 だが、リクの訴えに対し、倒れた仲間の一人に駆け寄っていたモアは、ゆっくりと首を振っていた。

 

「皆を乗せて貰ってたら、時間がかかっちゃう――サラちゃんのところまで、早く行ってあげて」

〈この場所には、流れ着いた怪獣の死体や次元の漂流者を糧とする高次元捕食獣レッサーボガールの目撃情報もありますが、構いませんか〉

 

 リクたちの姉代わりとして、凛々しい表情を作っていたモアは、そんなレムの問いで頑張って作っていた威厳を崩壊させた。

 

「……いいのっ! 早く行って!」

 

 人食いの猛獣が居るかもしれないと聞かされ、青い顔をして震えるモアが、それでもなお、リクたちを気遣ってくれた。

 締まらない彼女に呆れた様子ながらも、その決断を尊重するようにゼナが頷いてくれたその時。

 ――耳を劈く、金属質な激突音が、リクたちの背後から生じた。

 振り返ると――ネオブリタニア号が何者かの攻撃を受け、墜落してきていた。

 

「――っ、ジィィィィィィィィィィィドッ!!」

 

 その状況を理解した瞬間、リクは即座にフュージョンライズを行っていた。

 光量子情報体として保管されていた巨人体、ウルトラマンジード・プリミティブの姿に変じたリクは、同じく、本来の姿に戻った(ルカ)――培養合成獣スカルゴモラとともに、墜落してきたネオブリタニア号の巨大な質量を受け止めて、背後のモアたちを庇っていた。

 

〈……申し訳ありません、リク、ルカ〉

「(いいよ、謝らないでレム)」

「――誰だ!」

 

 スカルゴモラとレムが、言葉を交わす間に。

 腕力に優れる妹が、巨大な艦体を持ち上げて、安全な位置へ動かすのに任せたジードは、レムを傷つけた存在へと呼びかけた。

 

 ――果たして、その問いかけに答えるように。

 三つ又の穂を備えた長大な直槍を手にした黒い人影が、巨人の姿すら隠す大きな岩山の向こうから、その全容を見せた。

 それは左右非対称の三日月型の角を持ち、赤い目をした悪魔のような形相の兜に、豪奢かつ禍々しい漆黒の偉容を備えた、ウルトラマンと同等の体格をした鎧姿の巨人。

 

 ……何故か、ジード=リクは。そのシルエットに、見覚えがあるような気がした。

 肩の造りや背中の装飾品が、あの悪夢に見た闇の巨人と似ているからだと気が付いたのは、そのすぐ後のことだった。

 

「こいつは……」

〈暗黒魔鎧装、アーマードダークネス〉

 

 ジードの呼び声に応えて現れ、武器を構える様子を見せながらも。何の言葉も発しない巨大な鎧に対して、レムがその名を教えてくれた。

 

〈エンペラ星人のために鋳造された、対ウルトラ戦士用の生きた甲冑。そして、レイブラッド星人やベリアルの魂が、自らの器として操ったことのある、不滅の魔鎧装です〉

 

 自分たちに流れる血と、深い因縁を持つ暗黒の鎧。

 ベリアルの残滓により蘇った、アリエの意で飛ばされた怪獣墓場――かつて父が、ゼロとの三度目の対決でこの鎧を用いたとされる場所で、復活したアーマードダークネスが待ち受けていることが、ただの偶然であるはずはなく。

 そんな予感を確信へ変えるように、怪獣墓場に吹く風で虎落笛(もがりぶえ)を奏でた暗黒魔鎧装は、その手の長槍を振り翳し、ベリアルの子らに襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

 

 ……ペイシャンの回答は異常なし、だったが。

 トリィ=ティプは、サラの感覚が誤りであったという気がどうしてもしなくて、再度確認のメッセージを送っていた。

 二度目の返答も、定型文のように、『異常なし。変化があれば連絡する』の文面から変わりなし。

 時間を置いて、三度目の確認文を送ったところで、やはり返信は同じ。

 ――それで、何かがおかしいと確信できた。

 

「トリィ?」

 

 表情が険しくなったのに気づかれたのか、小首を傾げるサラに、トリィは柔らかく微笑みながら、端末を操作する。

 三回とも定型文の返信というのは、ペイシャンの性格上考え難い。嫌味の一つも飛んで来る頃合いのはずだ。

 それで、直接の通話を試みようと、呼び出しボタンに指を伸ばした。

 

「……なんで」

 

 サラの様子を見ながら、呼び出し音を続ける携帯端末に耳を当てた時。トリィの隣で、伊賀栗レイトが驚愕の声を漏らしていた。

 

「どうして、あなたが……っ」

「えっ? レイトくん、知っている人?」

「ルミナさん、マユ、皆ちょっと離れて!」

「何、説明してよ!」

 

 どうやら、妻子の知らないレイトの顔見知りが現れたらしく、騒がしい。

 果たして。星雲荘やAIBのことも既に知られた今、彼女らと会われて困るような間柄の人間など、彼に居るのだろうか、などと。メールの返信よりもレスポンスの悪い、嫌な予感を増幅する電話の呼び出し音に気を取られていたトリィは、次の瞬間呑気な思考を捨てて振り返った。

 

 昨夜、失踪が判明した死人。石刈アリエとは、伊賀栗家の中ではレイトしか面識がないということに、思い至ったからだ。

 

 予想のとおり。トリィの視線が移った先には、白いワンピースを着た、石刈アリエの姿が、既に手の届く距離で出現しており――

 次の瞬間、背後からの衝撃を受けて、トリィは庇ったサラごと転がっていた。

 

「ペイシャンさん!?」

 

 何が起こったのかを、家族を背に庇うレイトの叫びで理解した。

 

「間一髪、だったな……」

「貴様……さっきのゼットン星人か」

 

 振り返ったトリィが見たのは、アリエの手で肩口を貫かれたペイシャンの姿だった。

 かつてベリアルに憑依されていた際、ストルム星人のフクイデケイを貫いたように。地球人より遥かに優れた身体能力を持つはずのゼットン星の成人男性を、細身の地球人女性である石刈アリエが、容易く手で貫いていた。

 

「あいつらもこれで無能ではなく、名誉の負傷になる、な……」

「つまらんことを――まぁ良い。そこのピット星人。人質交換と行こうか」

 

 手首を軽い調子で捻り、白衣を赤く染めつつあるペイシャンに小さな悲鳴を上げさせながら、アリエはトリィを名指しした。

 

「背中に隠した俺の娘を渡せ。逆らわないよう、よく言い聞かせてな」

「ぐ――っ、乗るな、トリィ!」

「言われなくても!」

 

 ペイシャンが痛みを堪えて叫ぶ頃には、トリィもまた擬態を解き、ピット星人としての能力を全開にして、アリエへと突進していた。

 リトルスターこそ既に手放して久しいが、トリィとて元は侵略部隊の工作員だ。白兵戦能力は、地球分署研究セクションの中では指折りの実力だ。

 超加速しての一撃を、アリエは貫いたままのペイシャンを強引に歩かせ、盾にして躱そうとする。その一手を読んでいたトリィは、パンチと見せかけていた手をペイシャンの肩から飛び出したアリエの指を抑えるのに回し、さらに反対の手でペイシャンの体を引っ掴み、強引に身柄を奪い取ろうとした。

 しかし、びくともしないアリエの腕力に阻まれた挙げ句、その目が赤く光ったかと思うと、気圧が急激に跳ね上がったような感覚に苛まれ――

 

「なにをしているの」

 

 次の瞬間、周囲の圧迫からも、アリエの腕力による抵抗からも解放されたトリィは、ペイシャンを引き倒すようにして、敵の拘束から取り戻すことに成功していた。

 

「あなたは、だぁれ?」

 

 甘ったるく幼い中に、底冷えするような、強い怒りを込めた声で。

 三十分の一スケールの、究極超獣の触手を背中から生やしたサラが、アリエに対して詰問を投げていた。

 その触手が、アリエの発動していた念力を引き裂いてくれたおかげで、トリィたちは無事だったのだ。

 そして今は、その触手が隙間なくトリィたちや伊賀栗家の面々を庇っているために、アリエも手出しできず、苦い表情をしていた。

 しかし、一度目を閉じたかと思うと――アリエは不敵な笑みを浮かべて、サラの問いに答えた。

 

「……俺は、おまえの父に代わるものだ」

「父……? ベリアルのこと?」

「ああ。迎えに来たぞ、娘よ」

 

 奇天烈なことを述べながら、掌を見せて招くアリエに対し、サラは触手から雷撃を発して応じた。

 アリエは咄嗟に光子障壁を念力で形成し、直撃こそ防ぐものの。たったの一発で障壁を破壊され、距離を取ることを余儀なくされる。

 

「わたし、お父さまのことキライなの」

 

 にべもなく、サラはアリエの誘いを蹴った。

 

「それに、トリィたちをいじめようとしたあなたの言うことなんて……聞ーかない」

 

 再び、サラが触手から稲妻を放ち、アリエが障壁を展開する。

 当然、先の再現と言わんばかりに防壁は一撃で砕かれるが、それを学習していたアリエはその隙に距離を取り、撤退しようとする。

 

「あ、でも」

 

 だが、公園の出口へと逃げる彼女の前に、伸長したサラの触手が先回りした。

 

「たしかにすこし、レイオニクスのチカラを感じる……あなたが怪獣さんたちを使って、みんなをこまらせているの?」

 

 触手で四方を包囲されたアリエは、状況の打開を求めて視線を巡らせていたが、しかしそれ以上のアクションを起こせていない。

 ……強過ぎる故に、無警戒なところがあるが。実は人間大で戦う場合、星雲荘とAIBの中で、最も強力な性能を発揮できるのは、超獣であるサラだ。

 

「レムの声が聞こえないのも、お兄さまとお姉さまが、おむかえのじかんなのにこないのも……もしかして、あなたのしわざ?」

 

 だから、トリィを人質とすることで、サラの無力化をアリエは狙っていたのだろうが――ペイシャンが駆けつけたことで一手狂った結果、彼女は触れることもできず、ただ性能差で押し潰されるのを待つだけとなっていた。

 

「ねぇ、おしえてよ」

「……そうだ。そいつの仕業だ」

 

 為す術なく沈黙していたアリエに代わって。貫かれた傷口を抑えながら、皮肉に笑いかけたペイシャンが、サラの問いに答えた。

 

「へぇ……やっぱり、いけないヒトなんだ」

「ああ。だからもう、やっつけちまえ」

「うん! ――あ」

 

 囃し立てるペイシャンに勢いよく応えたサラだったが、攻撃の瞬間、驚いたような声を発していた。

 その時には既に、彼女の四本の触手から放たれた雷撃がアリエの立っていた場所を直撃し、大地の窪みと白煙を生じさせていた。

 

「こ……っ、やっつけちゃったんですか……?」

「ううん。ブルトンのチカラで、にげられちゃったみたい」

 

 恐る恐る、口に出す言葉を訂正しながらのレイトの質問に、サラが触手を縮めながら首を振った。

 

「パパ、もうはなして」

 

 父によってずっと庇われながら――万が一にも、人の形をした相手を、友達が殺す瞬間は目撃させまいと。視界を塞がれていたマユが、その手の強さへ抗議するように声を出していた。

 

「サラちゃん、ありがとう」

「ふふ、どういたしまして」

 

 そんな(レイト)の配慮のおかげで。自分たちも巻き込まれかけた脅威を退けてくれた友達に向けて、物怖じせず御礼を述べられたマユに対し、サラも無邪気な笑顔で応じていた。

 その間に、地球人の姿に戻ったトリィは、復元した手荷物を用いてペイシャンの応急手当を始めていた。

 

「どういう状況なの? 私の連絡は届いていた?」

「いや。研究セクションが、サイバー攻撃を受けていて……」

 

 会話を始めたそこで、不意に頭上から柔らかな光が降り注いだ。

 

「ありがとう、ペイシャン。トリィのこと、たすけてくれて」

 

 素直な感謝と尊敬の入り混じった声で、触手からヒーリング光線を放つサラが、ペイシャンの治療を手伝ってくれていた。

 ……というか、既に完治させてしまっていた。

 

「わたし、ペイシャンのこと、かんちがいしちゃってた。かしこいだけじゃなくて、ちゃんとかっこいいんだね!」

「……あんまりかっこ悪いところを見せたつもりはなかったんだがな」

 

 サラの真っ直ぐな称賛と、ついでに悪気なく明かされた先程までのイメージで、降参と言わんばかりにペイシャンが苦笑した。

 

「えー? だって、トリィが前、わるいヒトにつかまってたときなんか、ライハがたすけるのを見てただけだったんでしょ?」

「……どうしておまえがそんなことを知っているんだ?」

 

 驚いたようなペイシャンの問いかけに、サラは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

 

「前にね、トリィと融合した時……トリィの思いでが、いっぱい見えたの。それで、むかしペイシャンが、そう言ってトリィに後からあやまってたのも、知ってるんだよ」

「なるほど……流石だな。おまえの言うとおり、俺もあの事件を契機に、心を入れ替えることにしたんだ」

「ふふ、ほめられちゃった」

 

 納得した様子のペイシャンとサラのやり取りを聞きながら、トリィは妙な違和感を覚えていた。

 

「だが、俺が間に合うために、エージェントたちがそこで転がる羽目になった。トリィ、手伝え」

「――ええ」

 

 そんな違和感の正体をじっくり探るような状況でもないと、部下の保護に立ち上がったペイシャンにトリィも続くこととした。

 

「ちょうど、研究セクションのコントロールも取り戻せたらしい。これでリクたちの正確な所在もわかる」

 

 連絡のため、端末を取り出したペイシャンはその報告を確認すると、続けてサラを振り返った。

 

「……リクたちはライハに任せる。おまえは俺たちと一緒に来て貰えるか?」

「えっと……わたし、やっぱりたたかわないほうがいいから?」

「それもある。だが、おまえがその姿で近くに居ること自体が、石刈アリエへの牽制になる。エージェントが壊滅した今、人質としてトリィたちが狙われないようにするべきだろう」

 

 サラが戦場に向かわないで済むように――そして単なる厄介払いではなく、その能力を肯定する流れになるように、ペイシャンが言葉を並べる。

 その結果、サラは嬉しそうに顔を綻ばせて。それから、使命感に満ちた顔でトリィを見つめ、頷いた。

 

「うん、わたし、トリィたちまもるよ!」

「助かる。もちろん、状況次第じゃ兄姉のところに向かって貰うかもしれないが――まずはさっき俺にしてくれたみたいに、負傷者の手当も頼みたい。トリィと一緒にな」

 

 別に、何か悪いことをさせるわけではないのだが――まんまとペイシャンに乗せられたサラが、小さな拳を握って意気込んだ。

 

「……ねぇ、サラ」

 

 続いて、伊賀栗レイトとの調整に向かったペイシャンの背後で、トリィはサラに語りかけていた。

 

「なぁに? トリィ」

「……さっきの女の人、石刈アリエって言うんだけどね。もし、また戦うことになっても……できるなら、殺さないであげて」

 

 かつて、彼女を救えなかったことで心を痛めた友の顔を思い浮かべながら、トリィはサラに願いを伝えた。

 

「……さっきのわたし、わるい子だった?」

「いいえ。さっきの状況じゃ、手加減なんかできないし……悪いとしたら、やれって言ったペイシャンよ」

 

 不安そうに問う子供(サラ)から大人に責任の所在を移しながら、トリィは言葉を続けた。

 

「もちろん、あなたの無事が一番大事だけど……もし、叶うなら。ベリアルのせいでおかしくなったあの人も、助けてあげたいの」

「……うん。わかった!」

 

 トリィの無茶な頼みに、しかしサラはよく理解した様子の上で、躊躇いなく頷いてくれた。

 

「そしたらきっと、トリィだけじゃなくて……モアおねぇちゃんもよろこぶよね!」

 

 ……トリィが反芻した苦い記憶を。どうやら同化した際に垣間見ていたらしいサラは、言葉の裏にある願いまで正しく理解して、同意してくれていたのだ。

 

「サラ――ありがとう……」

「えへへ……でも、わたしまだなにもしてないよ、トリィ」

 

 思わず手を握ったトリィに、サラは遠慮したようにはにかんだ。

 

「もし、わたしだけじゃむりでも――お兄さまたちなら、きっとなんとかしてくれるとおもう。ふたりとも、わたしよりずっとずっと、すごくてやさしいから」

 

 それから。子供らしい、年長の家族へ――そして、ウルトラマンに向ける素直な信頼を、サラが口にするのを聞いて。

 初めて彼女と出会った時のことを思い返したトリィは、感慨深いものを覚えながら、サラとともに負傷した仲間たちの救助に向かうことにした。

 

 

 

 ……その直後、吹き抜けた風の正体が。

 AIB研究セクションから撃退された、白銀の液体。それが変化した一人の巨人が、次元を渡る際に生じた余波であることに。

 

 トリィはまだ、気づいてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 怪獣墓場に浮かぶ、岩山と荒野だけの小惑星で、激戦が繰り広げられていた。

 

「バルカンスパークル!」

 

 ウルトラマンジード・ロイヤルメガマスターが、超絶撃王剣キングソードの杖にも似た造りの柄から、名の通り機関砲のような勢いで光弾を発射する。

 その尽くが標的に突き刺さるものの、白煙に変わるだけで――暗黒魔鎧装アーマードダークネスは、全くダメージを受けずに前進して来る。

 

「効かないっ!?」

 

 続けてアーマードダークネスが刺突を繰り出した、漆黒の三叉槍――ダークネストライデントを自身の得物で受け止めながら、ジードは敵の耐久性に呻いた。

 

「(退けぇ!)」

 

 金色の光の王と暗黒の皇帝の鎧が、互いの武器を軋ませ合う最中。アーマードダークネスの背後から、培養合成獣スカルゴモラが襲いかかる。

 その接近に対し、アーマードダークネスはジードを押し退けて体勢を整えつつ、槍を手放した右手で抜き放った長剣ダークネスブロードでスカルゴモラの額を狙って、その突撃を叩き伏せた。

 

「ルカ――っ、スウィングスパークル!」

 

 妹が傷つけられたのを見て、ジードは怒りと共に刃を閃かせる。しかし光の斬撃は、アーマードダークネスの表面で弾かれ、またも効果を為さない。

 

〈アーマードダークネスは、強大な闇の力を秘めた鎧です。ウルトラマンの光線技に対して、優れた耐性を有しているようです〉

 

 かつて退治した難敵、ラストジャッジメンター・ギルバリスの装甲を、ジードは思い出す。

 そのギルバリスを倒すための秘策こそ、同じ惑星クシアの民が作り上げた最終兵器ギガファイナライザーだったが――エボリューションカプセルをアリエに奪われた今は、武器として用いることができない。

 最も有効だろう攻撃手段を封じられたジードに対し、両手に武器を構えたアーマードダークネスが躙り寄って来る。

 

〈気をつけてください、リク。アーマードダークネスは、異星の生命体と融合していないウルトラマンを分解する、レゾリューム光線を使用できます。直撃を許せば、あなたも確実に消滅します〉

 

 レムから恐るべき情報を伝えられ、アーマードダークネスと睨み合う格好となっていたジードは、静かに覚悟を決める。

 遠距離は相手が文字通りの必殺技を持ち、逆にこちらの光線も通用しない。ならば、接近戦で倒すしかない――!

 

〈迂闊に近づくこともお勧めしません〉

 

 そして、前に踏み出そうとした瞬間、レムが水を差してきた。

 

〈これまで計測できたデータから、アーマードダークネスの内部は空洞――装着者が不在であると解析できます。その場合、鎧は装着者を求め、相応しい体格の相手を強制的に取り込みます〉

「それで、どうなるの?」

〈エンペラ星人以外がアーマードダークネスを装着すると、力と引き換えに鎧の支配を受け、最後は吸収されてします〉

 

 かつて、ベリアルがこの鎧を操れたのは。レイオニクスの力に加え、装着ではなく霊魂として憑依していたためでもあるのだと、レムは言う。

 近づいても離れても駄目、というレムの助言に、ジードが理不尽を感じている間にも。アーマードダークネスがこちらを調伏せんと、両手の武器で打ち込んできていた。

 ジードクローを召喚し、同じく両手に武器を構えて打ち合うものの。今の話ですっかり攻め難くなってしまったジードが押されるのは、自然の道理となっていた。

 

「(お兄ちゃん!)」

 

 ジードクローを弾かれ、いよいよ手が回らなくなった時。額から血を流しながらも追いかけてきたスカルゴモラが角を光らせ、怪獣念力を発動した。

 妹は兄の危機に、強力なサイコキネシスでアーマードダークネスを拘束しようとする。しかし暗黒魔鎧装は一瞬の停滞の後、力尽くでその戒めを突破してしまう。

 さらには槍を旋回させてジードを牽制しながら振り返ったかと思うと、その穂先から黒い稲妻のような暗黒のエネルギー――レゾリューム光線を発射して、スカルゴモラに直撃させた。

 

「(きゃぁああああああっ!?)」

「ルカ! この――っ!」

 

 ウルトラマンの模造品である兄と違い、ゴモラとレッドキングの遺伝子を併せ持つ培養合成獣は、レゾリューム光線の直撃にも、分解効果を受けなかったようだ。

 だが、純粋な破壊光線としても。レゾリューム光線は容易くスカルゴモラを跳ね飛ばし、さらに照射を続ければその命を脅かすのに、十分過ぎる威力を有していた。

 妹を救うべく意を決したジードが打ち込みを行うことで、追撃こそ中断させることができたものの。アーマードダークネスはあっさりとキングソードを受け止めて、ダークネスブロードでジードを再び押し返した。

 

「(……レム、皆は回収できた?)」

 

 ジードがアーマードダークネスに追い詰められている背後で、重傷のスカルゴモラが、そんな問いかけをネオブリタニア号に投げていた。

 

〈はい。たった今、完了しました〉

「(わかった。じゃあ、もう遠慮は要らないよね――!)」

 

 ゼナとモアが行っていた、AIBエージェントの避難――その終了をレムが答えた次の瞬間、スカルゴモラの全身から炎が生じた。

 ネオブリタニア号の外に居れば、並のヒューマノイドなど即蒸発する高熱の炎で、そのまま全身を赤く染め上げて――レイオニックバーストへの変貌を遂げたスカルゴモラの放つ力の凄まじさに、アーマードダークネスが弾かれたように振り返る。

 

「(今は、この力を使うしかない……っ!)」

 

 切札となる力を奪われた、兄と代わるように。

 敵の狙いにも敢えて乗る。その決意を吐き出したスカルゴモラが、大地を融解させながら、真っ向へと駆け出した。

 迎え撃つアーマードダークネスは、即座にレゾリューム光線を発動。対して全快したスカルゴモラもインフェルノ・バーストを口腔より放射し、相殺しながら突き進む。

 やがて、スカルゴモラの熱線が、暗黒魔鎧装の破壊光線を押し切って突破。ウルトラマンネクサスのリトルスターに由来する、分子分解効果を持つ光線がアーマードダークネスを呑み込み後退させるも、しかしウルトラマンの光を掻き消す闇の力が、その効果を跳ね除ける。

 だが、透き通る青から暗黒の濁りに戻ったアーマードダークネスが、両手の武器でインフェルノ・バーストを払った時には。赤いスカルゴモラは既に、暗黒の鎧の眼の前にまで間合いを詰めていた。

 至近距離から脳天目掛けて繰り出されたダークネストライデントを、角で弾き。そのまま斜身(シェシェン)(カオ)の構えで、肩口からアーマードダークネスに突進する。

 軋みを上げながら、さらに後退するアーマードダークネス。怒涛の勢いで追撃を仕掛けようとするスカルゴモラに対し、先程彼女の額を割ったダークネスブロードを構えて応じようとするが。

 

《ウルトラセブン》

「スラッガースパーク!」

 

 キングソードにウルトラカプセルを装填することで発動する、念力で作り出した刃を放つ一撃で、ジードが助太刀した。

 光線技は、暗黒の鎧に無効化される。だが、物質化した斬撃にまでは、その闇の加護も及ばない。

 純然たる強度にも優れたアーマードダークネスの腕を、切り落とすとまでは行かなかったが。傷を与え、武器を取り落とさせるには十分だった。

 そして、無防備になった暗黒魔鎧装の腕を、スカルゴモラが引っ掴んだ。

 

「(爆熱……スカル超振動波ぁっ!)」

 

 額の角を叩きつけた勢いのまま、スカルゴモラが体温で加熱した大気を利用して、自身の膨大なエネルギーをアーマードダークネスに叩き込む。

 至近距離だが、人型ではないスカルゴモラを装着者として取り込むこともできず。痛覚などなかろうが、圧倒的な剛力に捕まっては抗えず、されるままとなったアーマードダークネスは、やがて注がれた破壊力に耐えきれず、爆散した。

 暗黒の鎧を打ち砕いた培養合成獣は、闘志の昂りを発散するように咆哮を上げると――レイオニックバーストを解除しつつ、マントを翳して爆発の余波からネオブリタニア号を庇っていた、兄を振り返った。

 

「(ごめん、お兄ちゃん――結局、私……)」

「……気にしないで、ルカ。君のせいじゃない」

 

 ――アーマードダークネスを前にした時。スカルゴモラは当初、メタフィールドへと隔離することで、一人で戦おうとしていた。

 しかし彼女単独で挑むには、最低でもレイオニックバーストを使わざるを得ない相手だ。その判断が遅れてしまえば、と――ルカの躊躇いを見て、心配していたジードが、二人で戦うことを選んだのだ。

 だが、結果として。土壇場での変更のためにメタフィールドへの突入に失敗し、ウルティメイトファイナルを欠いたジードでは、アーマードダークネスに有効打を持てず。結局、レイオニックバーストの力に頼らざるを得なくなってしまった。

 

「相手がそれを狙っていたって、勝てば良い……ペイシャン博士が言っていたとおりだって、僕も思う。むしろ、出し惜しみさせちゃったのは、僕が半端に戦ったせいだ」

 

 完全な己の判断ミスだと、ジードは自身を責めた。最初からフォローを約束し、スカルゴモラが全力を出せるように整えた上で、別行動を取るべきだったのだ。

 だが、過ぎたことを悔やんでジーッとしていても、ドーにもならないと。反省を胸に刻んだジードはそこで思考を切り替え、面を上げた。

 

「急ごう。早くしないと、サラが危ない」

〈その心配は無用のようです〉

 

 最中に、レムの通信が割り込んだ。

 

〈ペイシャンから報告が届いた。君たちの妹は、襲撃してきた石刈アリエを何事もなく撤退に追いやったそうだ〉

 

 続けてゼナが呆気なく明かした顛末に、ジードはスカルゴモラとともに面食らった。

 ……言われてみれば。超獣であるサラは、人間形態でもライハやルカとも比較にならない戦闘力を発揮できる。ゼナとルカの二人がかりで拮抗できるアリエ相手なら、遅れを取るわけもなかったのかもしれない。

 

「(よかった……)」

 

 妙な脱力を抱きながらも。心底安堵したスカルゴモラの様子を見て、自分のせいで妹たちが傷つかずに済んで良かったと――ジードがそう胸を撫で下ろしたところへ、聞き覚えのあるコーラス音が鳴り響いた。

 

〈大丈夫、皆!?〉

 

 キングギャラクトロンMK2を操り、ライハが次元を越えて駆けつけてきた。

 彼女の傍らには、時空破壊神ゼガンの姿もある。ゼナのために、ここまで共に運搬して来たということらしい。

 

「アーマードダークネスを砕いたか。流石だな」

 

 ……ほとんど同時に。追わねばならないと思った相手の声が聞こえて来た。

 いつの間にやら。アーマードダークネスが四散した地点に、ブルトンを背後へ従えたアリエが、忽然と現れていた。

 

〈アリエさん――もう、やめてください!〉

 

 ネオブリタニア号の中から、モアがマイク越しで呼びかけるが、その懇願をアリエは当然のように聞き流した。

 

「予定は狂ったが……保険の一つだった、我が娘の放つレイオニクスの闘気。回収させて貰ったぞ」

「(――っ、でも、その悪巧みもここで終わりだ!)」

 

 先の奮戦を嘲笑うようなアリエの言いぶりに、スカルゴモラが微かに呻いたが。

 同時に両拳を打ち合わせ、フェーズシフトウェーブを放射。アリエを中心にメタフィールドを発生させることで、彼女を逃すまいと隔離した。

 

「……出られないと思っているのか?」

「(でも、外よりは出難いんじゃないの?)」

 

 アリエの挑発へ返す間に、スカルゴモラは怪獣念力を発動する。先程はアーマードダークネスに軽々と突破された拘束も、メタフィールドの補正を受けて強化され、アリエとブルトンの身動きを封じるに至っていた。

 

〈……前と同じだと思ったら、大間違いよ〉

 

 前回の醜態を踏まえ、ブルトンの転送に対する備えを施されたらしいキングギャラクトロンMK2を駆って、ライハもまた前に出る。

 だが、それでも四次元怪獣ブルトンは危険だということは、前回の交戦で皆がよく理解していた。

 

 故に。レイオニクスの血を引くベリアルの子らが戦うことが、敵の狙いなのだとしても。おそらくは黒幕であるアリエ本人との決戦でまで、対抗できる力を出し惜しみするべきではないと。

 覚悟したジードも、メタフィールドの中で再びフュージョンライズが可能となったノアクティブサクシードへと転身し、包囲網の形成に加わった。

 

 その時――怪獣墓場からの脱出のために、ゼガンと共に外へ残されたネオブリタニア号から、次元間通信があった。

 

〈リッくん……〉

 

 声の主は、レムではなく、モアだった。

 

「わかってる、モア。今度こそ、アリエさんを止める」

 

 付き合いの長さから、彼女の言わんとすることを先んじて察したジードは、モアの声に淀みなく答えた。

 

「――もう、モアを泣かせたりしない」

 

 あの日。ベリアルの策謀の結果、心を痛めた大切な人の涙を、今度こそ拭うために。

 彼女たちと一緒に、地球を頼まれたウルトラマンとして。ジード=リクはそう、決意を言葉にした。

 

「……流石に多勢に無勢だな」

 

 今更現状を確かめたように、金縛りを受けたアリエが呟いた直後――メタフィールドの亜空間に、突如として切れ目が生じた。

 円形に拡がったその穴からは、一筋の銀色の流星が姿を見せた。

 

「――ゼロ!?」

 

 突如として姿を現したのは――ベリアルと幾度となく激突した、あのウルトラマンゼロだった。

 

 

 

 

 

 

 兄が、姉代わりに告げる決意を聞いて。

 相変わらず、当時の全てを、は知り得ない身のままだが――己がこれから何のために力を尽くせば良いのかを、培養合成獣スカルゴモラは理解していた。

 ……きっと、優しいモアは、アリエを救えなかった過去の戦いを、激しく慙愧していて。

 そんなモアから受け取った優しさを備えた(リク)だからこそ、その決意を宣言したのだ。

 だったら、話の通じない敵にしか見えなくとも。元はベリアルの被害者であるアリエを助けるために、兄と力を合わせるのが――リクやモアの優しさを受けて来た己の役割だと、ベリアルの娘であるスカルゴモラもまた、戦う理由を見つけていた。

 

 その決意を固めた直後。突如、展開したばかりのメタフィールドの中へ――イージスを纏ったウルティメイトゼロが飛び込んできたのには、スカルゴモラも意表を突かれた。

 だが、ベリアルが復活したに近しい人物が、多元宇宙に跨る怪獣墓場で悪さをしているのなら、光の国が察知するのも当然なのかもしれない。

 そこで先鋒として飛来するのが、ベリアルとの因縁も深く、自分たちとも顔馴染みで、時空を越える力を持ったゼロであることは、自然なことにも思えた。

 

「ゼロ! 実は……」

 

 おしゃべり好きな戦友の姿に、ジードが先んじて声をかけた。話が脱線する前に、状況を伝えようとしてのことだろう。

 ――そう思っていたスカルゴモラは、予想外の眺めを目にした。

 

 ウルティメイトゼロが――その手に装備していた白銀の長剣で、ジードに斬りかかるという光景を。

 

「――っ!?」

 

 意表を突かれたジードが、ノアクティブサクシードとして装備する同型の剣で、何とか防御するものの。後手に回っては、踏み止まれずに吹っ飛んだ。

 

「(お兄ちゃ――っ!?)」

 

 叫ぶ間に、無言のゼロが続けて交差させた剣から光の斬撃を発射。間に割り込んだキングギャラクトロンMK2が壁になってくれるものの、狙われたスカルゴモラは思わず体勢を崩してしまう。

 

〈――ゼロじゃないっ!〉

 

 その攻撃を受け止めたライハが叫び、キングギャラクトロンMK2の両腕の銃火器から、反撃を繰り出していた。

 

「……偽物?」

〈おそらく、うちの研究所を襲っていたやつだ〉

 

 キングギャラクトロンMK2が牽制射撃を行う中、ジードが立ち上がったそのタイミングで。ペイシャンからの次元間通信が、ネオブリタニア号の機器を介して届いた。

 

〈妨害工作はあくまで陽動……シャイニングフィールドの四年分を中心に集積してあった、ゼロの戦闘データをコピーし、それを元に変身するのが目的だったらしい〉

〈――金属生命体ミーモスが正体でしょうか〉

 

 ネオブリタニア号の有する、ベリアル軍の怪獣データ。多元宇宙から回収・集積してきたその膨大な情報の中から、レムが該当する怪獣を導き出した。

 

〈かつて、ウルトラマンガイアの世界に出現し――そこでも、戦闘データを基に、ニセウルトラマンガイアに変身したとされています〉

「当たりだ。我が手駒として準備しておいた」

 

 そこで、スカルゴモラの集中が途切れた時点で、金縛りから逃れていたアリエが口を開いた。

 

〈アーマードダークネスを破壊されたベリアルの魂が、次はゼロに乗り移り、彼の力を我が物とした……その再現のつもりですか?〉

「まぁ、そんなところだ」

 

 そこで、レムに答えるアリエの傍らまで、土煙を上げながらニセウルティメイトゼロが後退した。

 

〈……それでも、多勢に無勢は変わらないんじゃないの?〉

 

 挑発するような言葉を発して、そのゼロと四年間修行したライハが機体を前進させる。

 彼女が駆るキングギャラクトロンMK2のベース機、ギャラクトロンMK2は、ゼロとジードを含む三人のウルトラマンと同時に渡り合い、最後には事実上ゼロを倒す戦果を上げているスーパーロボットだ。そこから発展したキングギャラクトロンMK2となれば、その戦闘力は筆舌に尽くし難い。

 さらに言えば、ニセウルトラマンゼロの根幹を為す四年分の戦闘データ、ライハはその訓練相手として手の内を知り尽くしている。ウルトラマンゼロの再現体となれば紛れもない強敵ではあるが、しかしライハとキングギャラクトロンMK2ならば、単機で充分渡り合えるはずだ。

 それを驕りではなく、確かな経験から来る自信として、ライハが前へ進み出る。

 

〈いくらゼロの偽物でも……たったの一体で〉

「そうだな。なら、数を増やしてみるか」

 

 そうアリエが嘯き、指を鳴らした瞬間――ニセウルティメイトゼロの体で、炎のオーラが弾けた。

 

「(強化現象(ブレイブバースト)!?)」

 

 スカルゴモラが驚愕する間に、炎が消えると――偽りの神器(イージス)を収納したニセウルトラマンゼロは、発光を伴ってその体色を青に変えた。

 すなわち、ルナミラクルゼロへとタイプチェンジした、さらに次の瞬間。再びの発光の後、ニセウルトラマンゼロが、三人に増えていた。

 そして次の瞬間、各々がさらに、金色に煌めく。

 

「(嘘でしょ――っ!?)」

 

 ブレイブバーストしたニセウルトラマンゼロは、その三体ともが姿を変えていた。

 

 正体であるミーモスが続けて変身したのは、ウルトラマンゼロビヨンド――ギャラクシーグリッター。

 ウルトラマンゼロが伊賀栗レイトと同化して挑んだ、滅亡の邪神ハイパービースト・ザ・ワンとの最終決戦。その舞台となったメタフィールドの中でのみ、AIBが観測に成功した、ゼロの最強戦闘形態。

 本物のゼロですら、未だ再現性に難が残るその変身を。データさえあるならと当然のように模倣した偽物たちは、光の粒子を残してその輝ける姿を消した。

 

 ――ビヨンドリープアタック。超能力による瞬間移動は、流石にこの形態を相手には修行していなかったライハの反応すら上回り、キングギャラクトロンMK2にも回避を許さぬ斬撃を、その白金の機体に刻み込んでいた。

 師に比べ、ゼロの相手に慣れていないスカルゴモラはなおのこと――瞬間移動からのゼロツインソードを回避できず、一方的に斬られてしまう。

 

「皆!」

 

 何故か残りの一体に襲われていなかった兄が、心配して駆けつけようとしてくれる――が。

 

「待て、息子よ。おまえはこの父が可愛がってやろう」

 

 ジードを呼び止めたアリエが、彼がフュージョンライズに使うのと同型の機械――ライザーを構えていた。

 

《フュージョンライズ!》

《ゴルバー・ガクゾム・ウルトラマンベリアル――キメラトロス!》

 

 ……それは、培養合成獣スカルゴモラが初めて見る、ベリアル融合獣へのフュージョンライズ。

 一瞬、かつてレムに見せて貰った、キメラベロスに似た姿形に変じた石刈アリエは――その体を闇に変えて、メタフィールドの中で飛び散った。

 そして、先程粉々に砕いてやったアーマードダークネスを、自身の立っていた場所に復元した。

 

 ……闇によって復活したアーマードダークネスが、破壊される以前と異なるのは。頭部の悪鬼のような兜が変形し、とある顔へと変わったことだった。

 キメラベロスと同じく、どことなく粘液に塗れたような表皮や頭頂の形状に差異が生じるという特徴を備え。そして、削げた頬の肌色が銀灰色に、目の色が真っ黒に変わっているとはいえ――自分たち兄妹の父である、ベリアルそっくりの顔へと。

 

「これこそ、新たなる暗黒の支配者――カイザーダークネス改め、ダークエンプレスとでも言ったところか」

 

 変貌したアリエは意気揚々と言った調子で、自らの名を改めていた。

 

 

 

 

 

 

 




Bパートあとがき




・アーマードダークネス
 エンペラ星人用に鋳造された闇の鎧。
『ウルトラマンメビウス』の外伝に登場した裏ボス怪獣ですが、同時に大怪獣バトルでもボス格として漫画にも映像にも登場している怪獣だったりします。ゴモラ及びレッドキングに倒されているので、スカルゴモラの対戦相手としては出さなくっちゃね! という気持ちで登場&バトルです。ジードはカイザーダークネスもどきの方とのバトルが本番。
 ちなみに「闇の力で満ちているため、光線技に耐性がある」は本来ダークネスフィアの方の設定なのですが、イメージの問題だったり内山まもる先生のコミック版で何かそういう扱いだったりしたので、弱者を取り込む内に自我が芽生えたという非映像化設定と合わせ、闇の力を蓄えている間にそんな感じの効果を習得した、みたいな扱いでふんわり考えて強化しています。改めて、そういう二次創作設定だとご了承くださると幸いです。



・キメラトロス
 遂に出た本作独自のオリジナルベリアル融合獣。その正体は廉価版キメラベロス(名前もケルベロスからオルトロスにランクダウン)。身長体重は同じですと言い切って、まさかのカプセルナビを省略する扱いの悪さ。
 超合体怪獣ファイブキングの代わりに超古代闇怪獣ゴルバー、根源破滅天使ゾグの代わりに根源破滅海神ガクゾムのカプセルを用いたフュージョンライズで、後者由来の闇化能力を持つ。
 これを用いて、装着する以外の形でアーマードダークネスと一体化し、その力を扱うカイザーダークネスごっこができるようになる。
 ところで、「~~~ダークネス」という法則性だったネーミングが急に「ダークエンプレス」になったりするのは、その……(以下ネタバレになるため自粛)。


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