ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第十四話「ヒカリノキズナ」Cパート

 

 

 

 怪獣墓場で展開された、メタフィールドの中。

 ウルトラマンベリアルの子らと、ウルトラマンベリアルの残滓から蘇った者の勢力とが、激戦を繰り広げていた。

 その中でも、互いの筆頭とでも言うべき巨人が二人、赤い荒野で対峙していた。

 

「ダーク……エンプレス……!?」

 

 呻くのは白銀の鎧に青い体躯を包んだ光の巨人、ベリアルの息子であるウルトラマンジード・ノアクティブサクシード。

 対峙するのは、かつてウルトラマンベリアルが亡霊として顕現したカイザーダークネスの似姿、ダークエンプレス。

 

「まずはおまえから取り込んでやる。息子よ」

 

 言うが早いか、暗黒魔鎧装に宿ったダークエンプレスの姿が消えた。

 ――高速移動、ではない。ノアクティブサクシードにフュージョンライズした今のジードは、自らも時空のエネルギーを扱うからこそ、周囲で起こる予兆に気づけていた。

 感知した歪みに対し、剣を構えれば。ブルトンの力により空間転移を果たしたダークエンプレスが、ダークネストライデントを繰り出してきていた。

 

「ほう、見抜くか」

 

 感心したように笑いながら、ダークエンプレスは数度の剣戟を繰り広げた後、再び空間を跳躍。上空から、転移中にチャージを完了したレゾリューム光線を発射して来る。

 あの光線を受ければ、ウルトラマンは分解されるという。間違いなくジードは死ぬが、構成要素そのものは分解されても残るのなら、吸収するという目的においては順序の問題でしかないのだろうか。

 そんな疑問を抱きながら、自らも空間を跳躍したジードはその光線を躱しつつ、距離を詰めてダークエンプレスに挑みかかる。

 

「はぁっ!」

「来いっ!」

 

 互いに長物となる武器を交錯させながら、しかし次撃が早いのはジードとなった。

 レゾリューム光線を放つ体勢から、無理やりジードの迎撃へ合わせたのだ。動きに無理が出ないはずはない。

 故に見えたその隙を狙い、ジードは手にしたウルティメイトゼロソードで、ダークエンプレスの胸を貫く――ことは可能だったが、その前に止まった。

 威力の問題、ではない。火力ではロイヤルメガマスターには大きく劣るも、光線の通じないアーマードダークネス相手ならば、刃渡りで勝るノアクティブサクシードの長剣の方が純粋な武器としては相性が良い。メタフィールドの補正もあり、暗黒の鎧とて充分貫けたはずだった。

 だが――闇へと変化し、装着以外の形でアーマードダークネスと一体化した石刈アリエが、今どんな状態なのか。それがわからないままに貫くことへの恐怖が、ジードの手を止めさせていた。

 

「……なんだ、つまらん」

 

 そうして停滞した隙に、ダークエンプレスの反撃が、ジードの胸に振り下ろされていた。

 

 

 

 

 

 

「(お兄ちゃん!)」

 

 先に被弾を許した兄の悲鳴を耳にして。培養合成獣スカルゴモラは、再びのレイオニックバーストを果たしながら、そちらに意識を寄せた。

 その、意志の動きのまま。角を光らせ発動を試みるのは、先程アーマードダークネスに力押しで突破された怪獣念力。敵はそのアーマードダークネスから、おそらくは強化再生を果たしているが、こちらとてレイオニックバーストとメタフィールドによる二重の強化を遂げている。少なくとも、援護役のブルトンだけなら倒せるはずだ。

 今度こそ、この力をただ兄を苦しめるだけでは終わらせず、役立ってみせる――そんな決意を絶たんとする一閃が背後から襲いかかり、スカルゴモラの精神を揺るがせた。

 

 それは、ブレイブバーストを果たした金属生命体ミーモスが化けたウルトラマンゼロの偽物、その分身したうちの一体の攻撃だった。

 ニセウルトラマンゼロビヨンド・ギャラクシーグリッターが繰り出す猛攻が、隙を見せたスカルゴモラを容赦なく襲う。

 

 何とか踏み止まって振り返るも、ビヨンドリープアタックで瞬間移動されては捉えきれず、再出現したニセギャラクシーグリッターの追撃をもろに喰らった。

 ……本来。レイオニックバーストに伴う超高温で、音速が秒速百万メートルを超過している今なら、どこに転移されようとスカルゴモラは全方位へのスカル超振動波による反撃が充分間に合うはずだった。

 だが、それができない理由があった。

 

 ゼロの刃を刻み込む、ツインギガブレイク――背部の角付近に滞留した最初の斬撃のエネルギーが、レイオニックバーストを果たしたスカルゴモラの再生力をも阻害して、背中の角周辺の神経系を断ったままで固定。まるで初めて見た兄の戦いで、エタルダミーのスカルゴモラがされていたように、全方位への超振動波が封じられていたのだ。

 

 ……これが、怪獣退治の専門家である、ウルトラマンと敵対するということ。弱点を的確に狙われ、着実に無力化されていく。

 もし、成長した培養合成獣として覚醒した怪獣念力によるバリアがなければ、既にバルキーコーラスの直撃で死んでいたとしてもおかしくなかった。

 

「ルカ――!」

「余所見をしている場合か!」

 

 そんな窮地に、立ち上がったジードが駆け出そうとしてくれたものの。空間跳躍のために振るわれていたウルティメイトゼロソードの軌跡を、先んじてブルトンの力で空間を渡ったダークエンプレスがダークネストライデントで受け止め、抑え込む。

 

〈――待ってて、ルカ!〉

 

 苦戦するジードに代わって、ライハの操るキングギャラクトロンMK2(マークツー)が動いた。

 

 二体のニセギャラクシーグリッターに対し、両腕のメインウェポン――後頭部から抜き取ったスプリングソード・ギャラクトロンウルミーを右手に握り、さらには左手そのものとなったペダニウムハードランチャーを棍術の棒代わりに応戦したキングギャラクトロンMK2は、洗練された演舞のような立ち回りで、嵐の如き猛攻を捌き切る。

 ペダニウム超合金製のキングギャラクトロンMK2の装甲は、いくらギャラクシーグリッターの攻撃力を再現していても、不意打ち程度では小動もしない。ビヨンドリープアタックによる瞬間移動は、運動量を増大させることはできない故に、事前の溜めがない攻撃を装甲で受けるという選択肢が成立する。

 

 結果として。ギャラクシーグリッターの基本となる通常のゼロビヨンドとの膨大な戦闘経験を、ミーモス以上の精度で有しているライハの技量による先読みが、二体のニセギャラクシーグリッターの同時攻撃にすら対応を可能にし始めていたのだ。

 

〈所詮は昔のデータ止まり……成長し続ける本物と肩を並べる私たちが、勝てない相手じゃないわ!〉

 

 アリエも含め。相手は所詮、過去の亡霊に過ぎないと……味方を鼓舞するように、ライハが啖呵を切ったその時。

 

 ――突如として、彼女の動きが停止した。

 

 かつてリクやスカルゴモラが受けた石化のように。しかし外観には何の変化もなく、ただ時が凍りついたように。キングギャラクトロンMK2は、その動きの一切を止めていた。

 

「(ライハ!?)」

「間引き、というものだ」

 

 焦燥に駆られたスカルゴモラへの応答は、ライハからではなく、暗黒の鎧と融合した闇――石刈アリエから返ってきた。

 

〈どうやら、ブルトンがメタフィールド内の時間を止めたようです〉

「レイオニクスの力を持つ者には通じないがな」

 

 さらに具体的な事象を、レムの解説が引き出した。

 レイオニクスの力の回収が、敵の目的である以上。純粋に硬く強い、しかし無関係な障害に過ぎないライハとキングギャラクトロンMK2を、ダークエンプレスは放置することを選んだ。

 結果として――師匠が食い止めてくれていた二体のニセギャラクシーグリッターまでもが、スカルゴモラへの攻撃に加わった。

 

「(そんな……)」

 

 いくら、レイオニックバーストを果たしたスカルゴモラでも、一体のニセギャラクシーグリッター相手で苦戦したというのに、三体同時は対処できない。

 本物のゼロとは程遠い、無言の絶望と相対し。死という、他者との繋がりを断絶する事象への恐怖を連想したスカルゴモラは、その訪れに抗うべく闘志を燃やすが、それも儚い抵抗に過ぎない――はずだった。

 

「(――っ!)」

 

 瞬間移動からの打撃、斬撃、距離を取っての破壊光線。

 袋叩きされた己が、瞬く間に殺されるという確信が――現実に起こる前、妙に鮮明なビジョンとして、極限の緊張に包まれたスカルゴモラには見えていた。

 ……その感覚に至るのは、二度目の経験だった。

 

 一度目は、ブルトンとの初戦で、妹の射線を逸して、兄を救った時に見えた――それが叶った理由になったのと、同じもの。

 そう、まるで――未来予知。

 

 その導きにより。スカルゴモラはニセギャラクシーグリッターが出現するタイミングと姿を先読みし、刃を躱しながら反撃することが叶っていた。

 もっとも――先が見えても、全てに対処できる能力があるのかは、また別の話で。

 一体の偽物を殴り飛ばしている間に、結局残る二体からの追撃を受けることとなり。威力を削られながらもバリアを突破してきた拳と光線の着弾で、スカルゴモラは大きなダメージを受けることとなったが。

 

「……何?」

 

 詰んでいたはずの状況を脱したスカルゴモラに、ダークエンプレスが困惑した様子で声を発した。

 その反応を受けて、彼女と鍔迫り合いの最中だったジードもまた、振り返る。

 

「――ルカ!?」

「(私はまだ戦えるよ、お兄ちゃん!)」

 

 受けた傷は小さくないが――しかし、先程の感覚は、まだ続いていた。

 ……視える。一瞬で空間を跳躍してくる、ビヨンドリープアタックや、それ以外も含めた敵の攻撃の軌跡が、予め。

 それは、経験と技量に裏打ちされた師匠(ライハ)の先読みとは違う、一種のインチキかもしれないが――今は、使える物は全部使うと決意して。ニセギャラクシーグリッター軍団の連撃を何とか凌ぎながら、スカルゴモラはジードに勇ましく吠え返し、健在を誇示した。

 

「レイオニクスが稀に発現する、未来の予見を戦闘に使っているのか……?」

 

 妹に気を取られたジードを弾きながら、ダークエンプレスもまた、眼前の相手以上にスカルゴモラに興味を惹かれた様子だった。

 

「これが戦闘用の調整……素晴らしいぞ、我が娘よ。哀れなほどにな」

 

 赤の他人が、心に巣食った悪意(ベリアル)の残滓に歪まされた言葉を、スカルゴモラに投げかけた。

 

「多少の未来が見えたところで、それだけでは運命は変えられない。それほどの才があろうと……おまえの負けはもう、決まりきったことだ」

 

 ダークエンプレスが言うように。接近戦の効果の薄さを悟ったニセギャラクシーグリッターたちは、距離を開いてそれぞれの腕をL字に組んでいた。

 もう、未来を読んでも無駄だ。一体を撃ち合いで倒している間に、残る二体がトドメを刺す。単純な飽和射撃の威力と物量で押し切られ、スカルゴモラは敗北する。

 ――培養合成獣スカルゴモラが、ただのひとりであったなら。

 

「……お姉さま、へいき?」

 

 ダークエンプレスの宣告を覆したのは、次元を割って亜空間に駆けつけた伏兵――究極融合超獣サンダーキラー(ザウルス)だった。

 全身を眩い結晶状に変化させ(キラートランス・プリズ魔プリズムし)た妹は、その八本の触手を駆使してスカルゴモラを取り囲み――あらゆる光を捕食するプリズ魔の特性と、滅亡の邪神の幼体という凄まじいエネルギーポテンシャルを活かして、三重の必殺光線をあっさりと平らげ、無力化していた。

 

「(……うん。ありがとう、サラ!)」

 

 妹に御礼を返しながら、スカルゴモラは未来予知を活かし、怪獣念力と尾の一撃で、サンダーキラーSに瞬間移動して襲いかかっていたニセギャラクシーグリッターの二体を同時に打ち弾いた。

 三体目は、サンダーキラーS自身の視界に映っていたために、彼女が触手で応戦するのが間に合っていた。

 

「(さっきの言葉、ちょっとだけ同意するよ)」

 

 姉妹の連携で、三体のニセウルトラマンゼロビヨンド・ギャラクシーグリッターたちに対抗しながら。スカルゴモラは、ダークエンプレスに言葉を返した。

 

「(私が、運命を変えられるとしたら……それは、私だけの力じゃない。皆が私と一緒に、生きてくれるからだ!)」

 

 ライハが居なければ、ニセウルトラマンゼロの最初の不意打ちで負けていたかもしれない。

 彼女が大勢を持ち直してくれたから、スカルゴモラの未来視が実戦レベルに至る時間が稼げた。

 そうして諦めずに戦ったから、絶体絶命の危機にサンダーキラーSの参戦が間に合った。

 自分たちの身の安全よりも、スカルゴモラたちの苦戦に彼女を送り出すことを優先してくれた、ペイシャンたちのおかげでもある。

 

 そして、そもそもは――自分に向けられる目と、そこから見えた未来の暗さに諦めかけていたこの自分を。こんな温かな絆の中に迎えることを、決して諦めなかった、兄が居てくれたから。培養合成獣スカルゴモラは、ただ倒されて終わりの怪獣という運命を、変えることができた。

 

「(こっちは心配しなくても大丈夫! だから、お兄ちゃん……アリエさんをお願い!)」

 

 その恩を返し、そしてこれからも、一緒に生きていくために。迫る脅威を解決するべく、スカルゴモラは決意を込めて咆哮した。

 

 

 

 

 

 

 ――スカルゴモラが告げる信頼の言葉を、ウルトラマンジードも聞いていた。

 

「麗しい兄妹愛だが……」

 

 そんな様を鼻で笑いながら、ダークエンプレスが得物を押し込む――鍔迫り合いは、ダメージを蓄積させたジードが追い詰められつつあった。

 

「おまえの相手は存外つまらん。もう終わりにさせて貰うぞ」

「終わらせるのは、僕だ」

 

 侮蔑の言葉に、ジードは力強く言い返し、そして互いの武器を払っての仕切り直しに持ち込んだ。

 ……同じなのは見てくれだけと、わかっていても。(ゼロ)の姿をした者と、妹が傷つけ合う眺めを見せられて、ジードは眼前の敵への集中を乱し過ぎた。

 その結果、余計に苦戦した挙げ句、助けにも行けなかったのに――妹は、こんな弱い自分をまだ、信じてくれた。

 

「足掻くな。見苦しいぞ」

「僕は負けない……そして、あなたを止めてみせる。そのためには……ジーッとしてても、ドーにもならない!」

 

 ルカたちにも受け継がれたモアとの約束を胸に、ジード=リクは決意を叫ぶ。

 ……そのモアを始めとした、力なくとも、心優しき人々が。これまで、リクにして来てくれたように。

 誰かを気遣い、寄り添い、力の限り生きてくれる妹たちに――彼女たちの信じる兄として、ウルトラマンとして、応えてみせる!

 

 その誓いを確かめた時――ベリアルの血を引いた者が作り出した、絆を繋ぐ異空間(メタフィールド)の助けを受けて。インナースペースの中、ジードライザーとホルダーの中のウルトラカプセルが、各々輝いた。

 

 ネクサス、コスモス、ダイナ――そして、ベリアルのカプセルから、光が。ライザーから飛び出し、インナースペースで漂うゼロのカプセルへと注がれていく。

 

 光を注がれたゼロのカプセルは、ウルティメイトゼロに進化した時のように――そして、それ以上の変化を果たしていた。

 カプセルそのものが、白銀から黄金へと変わり。そこに描かれたゼロの姿も、また……

 

「……シャイニングウルトラマン、ゼロ――!」

 

 リクの戦友が持つ、輝きの姿。

 純粋な戦闘特化の頂点であるギャラクシーグリッターと対を成す、奇跡を起こすための輝きの頂点、シャイニングウルトラマンゼロ。

 

 そして同時に、もう一つ。共鳴するように点灯するカプセルがあった。

 それは、父ベリアルがリクに用意した始まりの力の片割れであり――伝説のレイオニクスの過酷な運命へ最初に寄り添った、始まりの巨人。

 すなわち――初代ウルトラマンの、カプセルだ。

 そんな、運命に抗うレイオニクスと縁深い、二人の巨人のカプセルを、リクは選び取った。

 

「――ユー、ゴー!」

《ウルトラマン》

「アイゴー!」

《シャイニングウルトラマンゼロ》

「ヒア、ウィ、ゴー!!」

《フュージョンライズ!》

「目指すぜ、天辺! ジィィィィィィィィィィィドッ!!」

《ウルトラマン・シャイニングウルトラマンゼロ・ウルトラマンジード! シャイニングミスティック!》

 

 そしてジードの姿が、変わっていく。

 初めて変身した、プリミティブに限りなく近いシルエットながら。額には菱形の青いクリスタルが追加され、胸や四肢の先端を銀色の甲冑で装甲した、金色の姿に。

 その、聖なる姿こそ。ロイヤルメガマスターやノアクティブサクシードと並ぶ、フュージョンライズの頂点が一つ。

 ウルトラマンジード――シャイニングミスティック。

 

「貴様……なんだ、その姿は!?」

 

 ――今なら、何だってできる気がする。

 

 動揺するダークエンプレスに応えず。強い確信に導かれたジードは、頭上へと手を掲げた。

 ゼロスラッガーによく似た刃物を備えた篭手――その掌から生じた光球が天に昇るのを見咎めたダークエンプレスもまた問答を捨て、ジードに迫る。

 ブルトンの力で瞬時に背後へ回り込み、ウルトラマンジードを、鎧の装着者という器として、取り込もうとするダークエンプレス。

 

 だが、その目論見が完遂される寸前――ジードが時を止めた。

 これこそ、時間に干渉するシャイニングウルトラマンゼロの力を受け継いだ、シャイニングミスティックの輝ける神秘。

 

「スペシウムスタードライブ!」

 

 時間ごと停止したダークエンプレスを、蹴り飛ばしながら反転し。縦に構えた右手へ、左手首を横から叩きつけるようにして十字を組んだジードは、右掌の底から青い光波熱線を照射した。

 光の奔流は、妹たちを再び苦しめつつあった三体のニセウルトラマンゼロビヨンド・ギャラクシーグリッターを痛打。止まった時間の中で、悪意ある紛い物が光に灼かれて行く。

 ――だが、ジードの本命はそちらではない。

 スペシウム光線を照射しながら再び反転した、ジードが狙った先に居たのは――秩序ある意志によって創造された世界の中で、空間への干渉力を落とし。

 シャイニングミスティックの時間停止により、身動きを封じられながらも。止まった時の中でなお拍動していた不気味な存在、四次元怪獣ブルトンだった。

 

「はぁああああああああああっ!」

 

 止まった時間の中で、光線を浴びたブルトンが爆発炎上する。

 そこまでエネルギーを消費した段になって、シャイニングミスティックの力による時間停止が、解除された。

 ただ――再び動き出したのは、ジードが止めた時間だけではなく。ブルトンに止められていた時間もまた同じ、だった。

 

〈やぁあああああ――っ!〉

 

 時間の拘束から抜け出たライハが、キングギャラクトロンMK2を起動させ、ダメージで擬態が不完全になり始めていたニセギャラクシーグリッターたちを切り払う。

 

「(ライハ!)」

〈――サラ? いつの間に……〉

〈説明は後だ。ブルトンが逃げるぞ!〉

 

 ライハの困惑にペイシャンが通信で割り込んだ頃には、ジードのスペシウム光線で撃墜されたブルトンが、炎上しながらもなお、メタフィールドを割って外へと転がり出ていた。

 

「(しまった――っ!)」

 

 ライハの復活に気を取られてしまい。先の光線で仕留めきれていなかったジードと、怪獣念力で穴を塞ぐことが間に合わなかったスカルゴモラとが、それぞれ呻く。

 ……だが、自分たちはそれぞれ、一人きりで戦っているわけではない。

 

〈サラ、おまえならまだ追える! ここはライハに任せて行け!〉

「――うん!」

 

 ペイシャンの指示を受け、サンダーキラーSもまた先程の登場時と同じように次元を割り、ブルトンを追いかけてメタフィールドから飛び出して行く。

 皆の力を合わせているからこそ、互いに足りない分を補え合える。そのことを再確認し、残された面々は各々の敵と向かい合う。

 キングギャラクトロンMK2とスカルゴモラの師弟は、金色の輝きを失った三体のニセウルトラマンゼロビヨンドと。

 そしてジードは、立ち上がったダークエンプレスと。

 

「……く、二度はやらせん!」

 

 時間停止能力にまんまとしてやられたダークエンプレスは、しかしその現象を既に把握したようだった。

 そうであれば、確かに。見え見えの準備動作が必要不可欠なスペシウムスタードライブを、二度目も容易に受けるということはないだろう。

 

「なら、これはどうだ」

 

 だが――メタフィールドの助けを受けたシャイニングミスティックの力は、それだけではない。

 プリミティブと同じく、初代ウルトラマンのカプセルを用いたフュージョンライズなら……皆で戦う、この技が使える!

 

「――ジードマルチレイヤー!」

 

 かつて父に打ち勝つ決定打となったその技を、ジードはベリアルの亡霊に対し唱えていた。

 

 

 

 

 

 

 その呼び声は、宇宙を越えた。

 過去にもその声を耳にした者たちは無論のこと。初めてその祈りに触れたウルトラマンたちも、その声に込められた願いに共鳴し、自らの力を貸し与えることを選んだ。

 

「……そうか」

 

 それは――父から受け継いだ光で、人からウルトラマンになった一人の男も、同じだった。

 

「ゼロが見つけた、ベリアルの光は……ちゃんと、受け継がれていたんだな」

 

 融合したウルトラマンの光を記憶する神器(イージス)が、その担い手に開花させた奇跡の力。

 寸前まで、彼の肉体と融合していた、闇に堕ちたウルトラマン――その魂の中に残っていた光を、これまでに繋いできた他の絆とも合わせて、己を形作る一つとすることで到達したその輝き。

 

 ……後に、その力が、ベリアルの復活を招いたと知ったゼロの密かな苦悩を。戦友として、この時空の旅人は知っていた。

 だが、何故その時、ゼロはベリアルを復活させたのか――当時の記憶を喪った本人も知り得ない、その理由。ただの事故だと思われている出来事の真相、その一端を。旅人は今、何となくわかった気がした。

 

 ベリアルの復活は、確かにその後、無数の悪夢を産み落とした。その事実は未来永劫消えることはない。

 だが、それでも。仲間すら奪われたゼロが、その痛みを抱えた上で信じたいと願った、闇の中で見つけた光は、今。

 出会えた仲間との笑顔で未来を照らし、そして次代にその光を繋ごうとする――そんな、絆の中へ帰還することが、できていた。

 

「頑張れよ。本当の戦いは、ここからだぜ」

 

 激励とともに。男は己の力の一部を、巡り巡って父の光を継承したベリアルの息子へと、貸し与えていた。

 

 

 

 

 

 

「ペダニウムハードランチャー、最大出力!」

 

 表皮の下から、岩肌のような正体が露出するほどのダメージを受け。擬態の再現度が低下し始めたニセウルトラマンゼロは、それに伴う能力の低下のため、既に分身も維持できなくなっていた。

 その一体の動きを、スカルゴモラが怪獣念力で動きを縛ったところに、ライハがキングギャラクトロンMK2の主砲を照準していた。

 

「KGスパークランチャー、発射!」

 

 ペダニウムランチャーから、強化されたギャラクトロンスパークを発射する大技が決まり。既に擬態の解けかけていたニセウルトラマンゼロは、その強烈な光の中で跡形も残さず蒸発していた。

 

「(後は……お兄ちゃん!)」

「なん……だと……?」

 

 スカルゴモラが振り返った頃。ダークエンプレスが、愕然とした声を漏らしていた。

 理由は明白――シャイニングミスティックを中心とした五人のウルトラマンジードが、彼女の前に集結していたからだ。

 

 妹たち(ルカとサラ)から託された祈り(カプセル)で変身した姿である、ノアクティブサクシードとフォトンナイト。

 また、かつてアーマードダークネスやその主と戦ったメビウスとゾフィーの力を受け継いだファイヤーリーダーに、カイザーダークネスを名乗ったベリアルとの戦いでゼロを支えた二つの光の源である、ダイナとコスモスの力を融合させたマイティトレッカー。

 その四形態のジードが、自律行動する分身となって出現し、シャイニングミスティックに変身した本体と共に戦列を為していた。

 

「皆……ヒア・ウィ・ゴーだ!」

「ぐっ、貴様――!」

 

 先程とは逆に、自身が改めて多勢に無勢となったダークエンプレスが、逆上したようにレゾリューム光線の発射体勢に移る。

 だが、先んじてマイティトレッカーがフレイムコンプレッションウェーブを放てば。両者の中間地点に発生した小型ブラックホールが攻撃を吸い込み、五人のジードを薙ぎ払おうとした分解光線を事象の彼方へ追放する。

 

「メビューム87(はちじゅうなな)光線!」

 

 続けてファイヤーリーダーが、突き出した腕から火炎と冷気を纏った光線を発射。破壊力の中心である光線はアーマードダークネスの闇の加護に無力化されるも、残った炎と氷の温度差が、鎧の強度を脆弱化させる。

 そこに、ノアクティブサクシードとフォトンナイトが、それぞれ長剣を構えて突撃。ダークエンプレスの手の中から、ダークネストライデントとダークネスブロードを弾き飛ばし、フォトンナイトは後者を奪い、ウルティメイトゼロソードとともに、がら空きとなった胴へ逆袈裟に斬りつけた。

 

「――シャイニングスラッシュ!」

 

 その傷口を狙い、額のクリスタルから強烈な光を放ちつつ、シャイニングミスティックが突貫した。

 欠損部から空洞である体内に光線を浴びせられたダークエンプレス――アーマードダークネスが、砕けて行く。

 ジードの突撃でアーマードダークネスが再び爆散する最中、そこから分離した闇が光を逃れ、五人のジードを見下ろした。

 

「まだだ。まだ、ブルトンが……!」

〈人質を期待しているなら、残念な結果になりそうだな〉

 

 アーマードダークネスから分離した、非実体の闇と化したダークエンプレス――ベリアル融合獣キメラトロスの続けた言葉を、ペイシャンが嘲笑した。

 レムから渡された、伊達眼鏡型のアイテム――一体化したそれを介して、スカルゴモラの視界に、その一部始終が表示される。

 ゼガンを抱えられ、怪獣墓場を脱出し元の宇宙(サイドスペース)まで帰還していたネオブリタニア号――戦力に制限のかかった組み合わせの前へ現れたブルトンに、サンダーキラーSが猛追。手負いのブルトンでは、同じく次元干渉に長けた究極融合超獣に敵うはずもなく。苦し紛れでメタフィールドから召喚したダークネストライデントの投擲もあっさり躱され、そして反撃となるデスシウムD4レイの直撃を受け、砕け散っていた。

 

「アリエさん……もう、やめましょう」

「ふざけるな……! 俺はまだ、何も成し遂げていない!」

 

 ジードの呼びかけに、闇となったままのキメラトロスが吠え返す。

 

「俺を踏み潰した恐怖、そのものとなり――死ぬまで俺を認めなかった世界を、後悔させてやる! それまでは……っ!」

 

 そんな風に叫びながらも、実体化しないのは、最早勝ち目がないことを悟っているからか。

 

 ……おそらく、アリエが叫んだのは、彼女を踏み潰したというベリアルの思考なのだろう。

 ベリアル自身の心理に対し、娘としてどう思うのかはともかくとして。そんな形に精神に歪められてしまったアリエには、スカルゴモラも憐憫を禁じ得なかった。

 

「……ルカ。もう少しだけ、メタフィールドを維持していてくれ」

 

 連戦で体力を消耗した妹に、兄が気遣いを滲ませながら願いを告げてきた。

 今、兄が変身している姿――そしてその能力は、メタフィールドの働きが在って初めて成立したものだ。解除してしまえば、その仮初の奇跡は消えてしまう。

 ……この戦いが始まる前に、決意したばかりだ。リクたちから受け取った優しさを、少しでも返していきたいと。

 だから、返事に迷う理由などなかった。

 

「(うん、任せて!)」

 

 スカルゴモラの返答に、ジードは柔らかくも力強く、頷いてくれた。

 

〈だけど……どうするつもり、リク?〉

「アリエさんは今――エボリューションカプセルを取り込んでいる」

 

 ライハの問いに応えながら、ジードはその手に再び、眩い光球を作り出していた。

 

「僕の祈りから生まれた……カプセルを!」

「何をするつもりだ――っ!?」

「ルカたちの力を借りても……僕が使えるシャイニングの力は所詮、ちっぽけなカプセルだけだ。――けれど、あなた自身が、僕の願いと繋がっているのなら!」

 

 叫んだジードが、スペシウムスタードライブの光球を、キメラトロスの闇に撃ち込んだ。

 

「僕は、本物の――ゼロの輝きだって、越えてみせる!」

「ぬぉおおおおおおおおおおおっ!?」

 

 光球が輝き、回転して闇を切り裂き、晴らしていく。

 フュージョンライズが解除され。怪獣カプセルの中から、怪獣たちの魂が抜け出して。そしてアリエの肉体が、光球と一つになる。

 眩い光が弾けたその後――空から、アリエが降って来た。

 その体を、優しく掌で受け止めるジードの胸に、彼女の体内から分離した光――エボリューションカプセルが、ゆっくりと吸い込まれた。

 

 相手のフュージョンライズが解除された時点で――焼殺してしまわないよう、合わせてレイオニックバーストを解除していたスカルゴモラが聴く限り、意識を喪失している石刈アリエからは、心音も呼吸音も感知できる、が……

 

「(ど……どうなったの? お兄ちゃん……)」

「……きっと、もう大丈夫だ」

 

 恐る恐る問いかけるスカルゴモラに、ジードは穏やかに答えてくれた。

 

「帰ろう、皆」

 

 告げる兄の声には、どこか。憑き物が落ちたような、晴れ晴れとした気配があった。

 

 

 

 

 

 

〈……まさか、一年以上、眠っていただなんて〉

 

 画面の向こうで、ベッドに腰掛け、力なく笑う女性が居た。

 

〈でも、ニコニコ生命保険のおかげで助かったわ。手続きの代行に、医療費や当面の生活費も、手厚いのね。……これならきっと、何とかなるわ〉

〈はい。怪獣災害が本格化した今、不幸にも長期間意識不明になる人も出てくるだろうって……真っ先に弊社で取り組ませて頂いた商品なんです! お役に立てて光栄です〉

〈こちらこそ。……いつ契約していたか、記憶が曖昧なんて言う失礼な客なのに。ありがとうございます、愛崎さん〉

 

 画面の向こう、モアに向けて儚い微笑みを返したアリエの顔が、そこで動作を停止した。

 

〈……そういうわけで。石刈アリエは、ウルトラマンベリアルと出会う以前の記憶を喪った〉

 

 あの戦いから一週間以上後の、星雲荘の中央司令室。

 

〈正確に言えば、その前に時間が戻った……ということだがな〉

 

 事態の収束後の顛末を、リクたちはペイシャン博士から報告を受けていた。

 

〈シャイニングスタードライブは、少なくとも現時点では、遡れる時間はそう長くないことがわかっています〉

 

 続けてレムが解説するように。時間の流れにすら関与できるゼロだが、しかし今の彼には、その対象とできる範囲に限界が存在している。

 ……だから、沖縄や、それ以前の戦いで喪われた多くの命を、ゼロでも救うことができなかった。

 

〈ですが、明らかに対象外となる時間軸で死亡したベリアルがその力で復活した、という事実がありました〉

〈シャイニングウルトラマンゼロの力は、ウルティメイトイージスが記憶したウルトラマンたち――つまり、ベリアルの光も合わせて覚醒した力だと考えれば。その繋がりが作用して、他よりも影響が大きくなった、という仮説は以前から存在した。知らずにやったなら、大したもんだがな〉

 

 言葉ほど褒めていない態度で、だからといって責めるわけでもなく、ペイシャンがリクを評した。

 

〈石刈アリエに残留していたベリアル因子。そして、リクの祈りから生まれたエボリューションカプセル〉

 

 その二つの要素を表示しながら、ギャラクシーグリッターやマルチレイヤーの画像を追加して、レムが解説を続ける。

 

〈これまでの例から、メタフィールドの中では、カプセルの元になるウルトラマンとの繋がりが強化されることがわかっています。その二つの働きで、ベリアル因子が存在しなくなる時点――ベリアルが憑依する以前まで、時間を巻き戻すことが可能になった、ということですね〉

 

 ――それが、シャイニングの力を継いだ、リクの試みた解法だった。

 

〈その結果、石刈アリエは人間に戻った。AIBでの放射性炭素年代測定の結果から見ても、ベリアルが地球に襲来する以前の肉体組成に戻ったことは間違いない。記憶の方も、シャイニングの力で時間を戻した場合は本来残留するらしいが――主人格だったベリアルやその因子が消えたことで、なくなったようだな〉

 

 精神に巣食っていたベリアルの残滓も、そもそも結びついた事実自体がなかったこととなり――物質的には、再発の恐れはなくなった。

 後は、モアが中心になって行われている、AIBの隠蔽工作と支援活動が完了すれば……アリエは、以前の生活に戻れるだろう。

 

「さっすがお兄ちゃん!」

 

 その結果に、後ろで聞いていたルカが、指を鳴らして喜んでくれた。

 

「それは……ルカのおかげだよ」

 

 その妹に、リクは素直な気持ちで応じていた。

 

「あの頃できなかったことが、今度はできた。もちろん、僕だって成長してるつもりだけど……ルカたちと出会えて、皆との繋がりが、もっと強くなった。そのおかげだ」

 

 ――敵の思惑に利用されたことで、己の存在や決意に疑いを持ちかけてしまっていた、彼女へと。

 リクは、ルカを迷惑に思ったことなんか一度もないと、心からの言葉を伝えた。

 

「え……あは、うへへへ……」

 

 兄から告げられた感謝を上手く受け止めきれず、ルカが照れながら笑う。その肩へ、リクの言葉に同意を示すように掌を置いたのは、一旦星雲荘に戻っていたライハだ。

 ルカと出会えたことで、前よりももっと絆を深められた相手――その代表と言える彼女もまた、深い親愛の表情を、リクの妹に向けてくれていた。

 

「だけど……僕が決めたことの責任は、僕にある」

 

 だが、そこでふと。報告動画の様子に覚えた一抹の不安を、リクは口から零してしまった。

 死者の蘇生、その功罪の、功が妹にあるのなら。罪はそもそもアリエを死なせた父と――そして、己の傲慢さにもあるのではないかと、リクは自問する。

 

「アリエさんは、一年以上も切り離された世界へ放り出されることになった……僕が、勝手に生き返らせたせいで」

 

 きっと――鬱屈を感じていたという、元の生活に戻ることすら困難だろう。情報が命のジャーナリストであるなら、なおのことだ。

 結局リクは、アリエを新たな苦しみの中に、落としてしまっただけではないのか――ベリアルのように、もう眠りに就く方が、彼女にとっても良かったのではないか。

 

〈……ペイシャン、続きを再生してやったらどうだ〉

 

 そんなリクの躊躇いを聞いて、画面の向こうでゼナが、そう同僚を促していた。

 

〈怪獣災害は続いていたそうだけど……こちらの図書館はまだ無事かしら〉

〈あ、はい。そこなら大丈夫――でも、どうして?〉

〈もちろん、復帰のためよ。世間に置いて行かれた分のニュース、退院したら全部頭に叩き込まなきゃ〉

 

 ペイシャンが操作した画面では、先程の続きとなるモアとアリエのやり取りが、再び展開されていた。

 

〈今まで、私が評価されるような題材に恵まれなかった、なんて思っていたけど――私にも、怪獣災害から生還できるほどの幸運があるって、わかったから。夢を叶えるのに足りなかったのは、私の実力。ただでさえ周りから遅れてしまっているのに、腐っている場合じゃないわ。折角拾った命だもの〉

〈アリエさん……〉

 

 動画の向こうで。今、録画映像を見ているリクのように、モアもまた、感極まった様子を見せていた。

 

〈そうですよね。ジーッとしてても、ドーにもならないですもんね!〉

〈愛崎さん、ちょっと声が大きい……でも、良い言葉ですね。そのとおりだと思います〉

「あれ……モアおねぇちゃん、泣いてるの?」

 

 戸惑った様子で、録画映像の中のモアへ言及したサラに、リクは腰を下ろして視線を合わせた。

 

「そうかも。だけど心配しないで、サラ。モアは、嬉しいんだと思う」

〈……石刈アリエがベリアルの影響を受けて蘇っていたことは、AIB総本部を介して宇宙中に発信する方針だ〉

 

 そこで、リクと負けないぐらい、モアのことを大事に想ってくれていそうな――ゼナが、その口を動かさないまま続きを述べた。

 

〈君たちの活躍と、その結果としての彼女の現状と合わせて――そうすれば、ありもしないベリアルの影を求めて彼女を狙うという輩も、もう出なくなるだろう〉

 

 その暁には、アリエはベリアルから自由になる。

 この先の彼女が、華々しく成功するのか、やはり静かに失敗して消えていくのか、それはわからないが――傷ついてでも自分の意志で前に進もうと、取り戻した彼女の人生という冒険に、本人の決意と無関係な横入りはなくなることだろう。

 そして、諦めなければ、いつか――彼女にも、同じ目的のために支え合い、運命を変えられる仲間との出会いが、待っているのかもしれない。

 それが起こってくれることを、リクは勝手ながら、胸の奥で願っていた。

 

 

 

〈……ま、これで事態は一通り収束したかもな〉

 

 話が段落したところで、ペイシャンがそう切り出した。

 

〈ブレイブバーストを起こしているところも確認できた。ブルトンの力があれば、パラレルアースからスカルゴモラを転送することも、ヤプールの次元まで殴り込むことも、別段難しいことじゃない。エンペラ星人専用のアーマードダークネスを従えられるなら、配下に過ぎなかったヤプールを倒しても不自然ではない――ベリアルの影響を受けていたアリエが黒幕だった、という可能性は充分考えられる〉

〈確かに、気づかれたため、焦って表に出てきた様子でもありました〉

 

 ペイシャンの推察へ同意を示すように、レムが続いた。

 

〈ああ。そして他の誰かとつるんでいた様子もない――この一週間も新手が出ることもなく、久々に穏やかな時間だ〉

 

 その気分を表現するように。通話中にも関わらず、ペイシャンはティーカップから昇る湯気を楽しんでいた。

 

〈もちろん様子見は継続すべきだろうが――ライハがこっちに詰めておく、なんて必要はもうないかもな〉

「やった……!」

 

 喜びの声を上げたのはルカだ。ライハもまた、気の緩んだように、くすぐったそうな笑顔を見せていた。

 そのまま通信中、呑気に紅茶を嗜み始めるペイシャンを咎めるでもなく。むしろ彼に触発されたように、「お祝いしよ、お祝い!」と陽気なステップまで踏みながら、冷蔵庫のある部屋へ向かって行くルカたちを見て、リクはほっと胸を撫で下ろし、それから――不意に、妙な胸のつかえを、下ろしたくなった。

 そして、気づけば口を滑らせていた。

 

「……黒幕はダークザギかも、なんて思っていたけど」

〈――ダークザギ? どうしてそんな名前が?〉

 

 中央司令室に一人残ったリクからの、予想外の発言に驚いた様子で。ペイシャンが画面の向こうから問いかけてきた。

 

 スペースビースト襲来の折。ルカに宿ったリトルスターの本体たるウルトラマンノア――その伝説に纏わる存在として語られた、邪悪なる暗黒破壊神。

 そして、ウルトラマンジードと同じく。心を得て創造主に叛逆し、オリジナルと敵対した、ウルトラマンの模造品。

 

 軽々に出すには、やはり(おお)き過ぎる名前だったかと。リクも反省しながら、そう思っていた理由を述べる。

 

「……時々、夢を見ていたんだ。ベリアルとは違う、黒い体に赤い目を持った巨人が、世界を闇に包む夢」

 

 かつて、シャドー星人クルトの起こした事件の頃に見たのが最初。

 パラレルアースで、ルカを作った研究者のラボを追っていた頃に見たのが、二度目。

 それからも、実は度々――リクは、あの夢を見ていた。

 

「僕が変身できなかったり、ルカやサラが狙われたりする夢。その巨人と似てたのが、ダークザギだった」

 

 レムが候補者として、提示した画像記録を見た時――きっとそうだと、あの時リクは確信したのだが。

 

「だけど、アーマードダークネスの方が、肩や背中が似ていた。色も、濃さはちょっと違うけど……」

〈……複数の出来事を、重なって見ていたのかもしれないな〉

 

 夢の話を、意外にもペイシャンは笑わずに聞き入ってくれていた。

 

〈時々未来が見えるという症例は、シャイニングフィールドに入っていた部下からも報告がある。今回おまえがアリエを蘇生するために、シャイニングの力を使った影響が、その夢の正体だったんじゃないか――というのは、既にレムと話したところなんだろ?〉

〈はい。だからリクは、アーマードダークネスが夢の巨人だったと認識したようです〉

〈だが、今の時点では断定できないだろう。これからもその力に触れ得る、持ち主ならなおのことだ。おまえが変身できなかった、というのも、ウルティメイトファイナルにしか当てはまっていないしな〉

 

 ペイシャンはティーカップを置き、やや緊張した表情で続けた。

 

〈仮に今後、ダークザギと敵対するなら……ウルトラマンノア同様、力の消耗具合での振れ幅が大きいとされる相手だが。脅威が目白押しだったこの地球にとっても、最大の危機となる可能性もある。戦力の増強は考えておくべきかもな〉

「……ごめんなさい。なんか、余計なこと言っちゃって……」

〈いや……俺も気合が入り直したよ。弛んだところを見せて悪かったな〉

 

 リクに対しては珍しく、皮肉も挟まず応えるペイシャンの様子に、意外な物を感じながら。

 強面のゼナに対するものと同様――根は良い人であり、大切な仲間だという認識がありながら、苦手意識が残って身構えていたリクに対し、ペイシャンは笑っていた。

 

〈だがおまえらはAIBではなく、ただのボランティアだ。レイオニクス絡みの方の因縁が片付いた可能性が高いなら、素直に祝っておけば良い〉

 

 そのムードに水を差したのは、リクの方だというのに。戻ってきたルカたちの様子を見たペイシャンはそんな気遣いの言葉を残して、通話を切っていた。

 

「あれ、ペイシャンもうやめちゃったんだ」

「……うん」

 

 ルカに頷きを返しながら、リクは再び思索に沈んでいた。

 

 ……もし、ペイシャンの危惧するように。まだあの夢が終わっていないのだとすれば。

 アリエのような、父の被害者――無数のマルチバースに残された災禍への贖いにはまだ当分、発てそうにないと。

 

「ま、いっか。はい、お兄ちゃん!」

 

 笑顔でコーラを渡してくれるルカや……周りより早く、もうヨーグルトを口に含んでいるサラの様子を見ながら。

 守るべきものを手にした、ウルトラマンベリアルの息子は――そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 ほんの少しだけ、時間は戻って。

 ペイシャンが、黒幕はアリエだった――なんて言い出した時。

『つるんでいた』、という言葉の意味がよくわからなかったサラは、しかし周りの様子を訝しんでいた。

 

 まるで、全てが終わったように喜んでいる兄姉や、それを咎めもしないライハやレムに、ペイシャン。

 そのことに対する違和感を、サラはむずむずと抱えていたのだ。

 

 何故なら。ヤプールが死んだ後、自分を導いた声は、女性のものではなかったから。

 むしろ――今にして思い出せば、どことなく。

 

(お兄さまと、似てたような……?)

 

 だが、声を変えること自体は、難しいことではない。父であるベリアルの力を通して、性別を偽って話しかけてきていたのなら、その模造品であるリクに声の雰囲気が似ることもあり得るのかもしれない。

 

 しかしレムもペイシャンも含めて、誰も――まるで、サラが声に導かれたという事実自体を忘却したように。その声とアリエの関連性を確認しようとはしなかった。

 自分より賢い、と思っている彼らに疑いの目を向けられるほど、サラはまだ成熟していなかった。

 だから、皆が嬉しそうな空気を読んだサラは、今はその疑問を口に出すことはしなかった。

 そして、楽しい空気に包まれている間に……そんな違和感を抱いたこと自体を、彼女自身も普通に忘れてしまっていた。

 

 究極超獣である彼女は、他の皆とは違って――ごく、自然に。

 

 

 

 

 

 

 ……さらに時間は遡って。

 サイドスペースの、宇宙の片隅。

 四次元怪獣ブルトンが、次元崩壊現象に貫かれ、死した座標にて。

 ――虚空に響く、不気味な笑い声が生じていた。

 

 音を伝える空気がない真空において、発生するはずがないその声。本来、あり得『無』いはずの現象が、そこでは起こっていた。

 気味の悪い笑声が奏でられる、ブルトンが滅びた座標でさらに、空間が時折歪曲したかと思うと。そこから、暗黒の稲妻が放たれた。

 

 渦巻く黒き稲妻は、無音の宇宙を彷徨い続け――やがて、一本の剣に突き刺さった。

 柄に翠星のシンボルが刻まれたそれは、惑星U40の賢者、ウルトラマンタイタスがこの宇宙を去る間際、目にしていたもの。

 ブルトンが生前に呼び寄せていたその正体は、彼の故郷を襲ったかつてない脅威を退けるのと引き換えに、失われたはずのU40の秘宝――ワイズマンズソード。

 

 邪悪を封じる光の宝剣が暗黒の稲妻に侵され、崩壊を始めたその時。トドメを刺すように、黒き三叉鉾がその宝剣に激突した。

 それは、サンダーキラーSが回避した――ブルトンが呼び寄せ射出したアーマードダークネスの槍、ダークネストライデントだった。

 

 暗黒の皇帝がために鋳造された三叉鉾と衝突し、遂に限界を迎えた賢者の宝剣が消滅し――その時に開いた時空の穴から、一本の黒い腕がぬるりと飛び出た。

 

 黒き稲妻を纏ったその手は、互いに引き合うようにして、ダークネストライデントを掴んでいた。

 

「……強き者は、どこだ」

 

 戒めを脱した腕の主は、果てなき渇望のぶつける先を、その槍に対して問うていた。

 

 

 

 

 

 

 




Cパートあとがき



 ここまでお読み頂きありがとうございました。
 原作で死んでいるのかわからないキャラの救済を始めるという、よくわからないお話になってしまいましたが、シャイニングウルトラマンゼロのお話をしたかったので、ついやってしまいました。
 ただ、終わってみるといい感じのアリエ・リスタートで〆ることができた……と勝手に思っております。お読み頂いた方にも、楽しんで頂けたなら幸いです。

 最後にちら見せしたように、次回からはインフレボスラッシュの開始となる予定です。早めにお楽しみ頂けるよう励む所存ですので、どうか引き続きお付き合い頂けると幸いです。
 以下は本作独自設定等、いつもの雑文になります。



・シャイニングスタードライブとアリエの記憶
 原作の描写では、シャイニングスタードライブは能力に巻き込まれた者の記憶は残るという特性があります。
 しかし、存在しなくなった者は記憶を維持しようがない、という独自解釈で、アリエは『ウルトラマンジード』原作での登場以降で持っていた記憶は全て消えたというお話を今回させて頂きました。

 一応、雑誌『宇宙船』のインタビューによると、『ウルトラマンジード』本編での登場時、アリエ本人の人格は残っており、ベリアルが深層意識から働きかけ、誘導していたのが本編の行動ともされていますが、映像作品で明確に描写されておらず超全集でも記述がないため、今回は「ずっとベリアルの人格で、分離後のアリエは本来、初代『ウルトラマン』における分離後のハヤタのように融合中の記憶が残っていない」という解釈としました。

 ……ただ、アリエの記憶についてはもし公式側の設定と矛盾が生じても、後からどうとでも矛盾点を解消できる理屈を隠している状態ではありますので、納得し難い方にも今回は見逃して頂ければと幸いです。
 後、本作中で触れる余裕がありませんでしたが、アリエが使用したライザーは伏井出ケイが本編第23話で海に飛び込んだ際に紛失していた彼の物を回収した――という想定です。


・ブルトンの時間停止とレイオニクス
 ブルトンの時間停止は、『大怪獣バトルウルトラアドベンチャー』が出典元の設定になります。
 四次元現象によって時間が止まっても、バトルナイザーがイオやその怪獣たちを守ったため、彼らは無事に動くことができた――というのが正確な原典の描写となるため、レイオニクスの力があるものには通じない、と言い切るのは語弊があるかもしれません、と原作ありきの二次創作として断っておきます。
 ただ、真相が本当に効いても効かなくても、実は……というのは、そのうち本作内で触れるのかもしれません(今回こんなのばっかり)。


・メビューム87光線とシャイニングスラッシュ
 作中で普通に使わせましたが、実はどんな技なのかほぼ情報がない技だったりします。
 特に前者、普通に強力な光線なだけでは……? と思いつつ、ファイヤーリーダーが炎と冷気を操る形態であるため、そういう副次効果があるという説を採用した描写になっております。
 シャイニングスラッシュについては、八つ裂き光輪系の技かもしれませんが、名前が近いシャイニングエメリウムスラッシュと似た技として解釈して扱っています。どちらも公式の設定ではない、ということをご了承頂けると幸いです。




・シャイニングウルトラマンゼロとシャイニングミスティックについて

 まず前者について、割と独自解釈を書き散らかしています。公式ではないのでご注意ください。

 とはいえ、自分としては今回のSSの中で描いた『ゼロだけが掴んだ輝きであっても、ゼロだけで掴めたわけではない』というイメージでシャイニングウルトラマンゼロを捉えているため、シャイニングミスティックもそれに準じた形でアリエ蘇生というお話になりました。時間停止しか明言されていないシャイニングミスティックが時間逆行したり、ジードマルチレイヤー使い出したりするのは完全に捏造です(そもそもマルチレイヤーがウルトラセパレーション由来=初代ウルトラマンカプセルで変身した形態が扱える技というのも仮説であり、公式設定ではないですが……)。

 ちなみにこの形態は両手のゼロスラッガー以外、体力無尽蔵のウルティメイトファイナルにガッツリ能力が反映されそうですが、「ベリアルの血を引いた者が展開したメタフィールド内」でなければ変身だけでなく、ウルティメイトファイナルでも一切能力行使ができない、という独自設定で行きたいと思います。このため、本作より未来の時間軸である公式のウルティメイトファイナルがゼロと違い体力のデメリットを無視して発動できるはずの時間停止をしない、ということで一つ。そろそろパラレル具合がそれどころではなくなって来ている気もしますが、念のため。

 最後に物凄く長い散文になってしまいましたが、ここまでお読み頂けた豆な方がいらしたら、本当にありがとうございました。どうか今後ともよろしくお願い致します。


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