どうも。
『ウルトラマントリガー』に続き、『ウルトラマンクロニクルD』ともネタが被って行くようですね……
朝倉リクを中心とする、星雲荘の一行は、異星人捜査局AIBの地球分署・極東支部、その本部に招かれていた。
そこに備えられた転送ゲートを潜り、この地球にやって来る、一人の異星人を歓迎するために。
眩い光が視界を灼いた後。それで明順応を起こしたように、ふらふらと頼りない足取りで現れた人影へ、リクは一歩前に出て声をかけた。
「おかえり、ペガ」
「……リク!」
呼びかけに応える、その最中から。声に滲む喜びの色を濃くしていったのは、ペガッサ星人の子供――リクの親友である、ペガッサ星人ペガだった。
「えへへ……ただいま」
「おかえり、ペガ! ありがとう、ずっと……」
久しぶりね、と頷く鳥羽ライハの横を抜け出して。ペガへと駆け寄ったのは、培養合成獣スカルゴモラが地球人の少女に擬態した姿である、朝倉ルカだった。
彼女の顔には、言葉のとおりの深い感謝が、ありありと浮かび上がっている。
それも当然だろう。なにせペガは、リクの妹であるルカたちのために、何ヶ月も地球を離れていたから。
ベリアルを倒したことで英雄視されるウルトラマン、ジードことリクはともかく。ベリアルの血を引く怪獣としてこの世に生を受けたルカや、ヤプールの下を出奔した超獣である末妹のサラの立場は、ベリアルの齎した戦乱で傷ついたこの宇宙において、非常に危ういものだった。
この宇宙の秩序維持を担うAIBでも、全てを抑制するのは手に余る事態を前に――ペガは、故郷であるペガッサシティに帰還し、ウルトラマンジードやその家族の素顔を知る親友として、宇宙社会に訴えかけてくれていたのだ。
ベリアルへの憎しみを、その子供たちで晴らそうとするのは間違っている、と――
ペガの始めた努力は、その願いに同調してくれた故郷であるペガッサシティや、目的を同じくするAIBの支援もあって順調に拡がり……スペースビーストの定着や、石刈アリエに残留していた因子からのベリアルの擬似的な復活を、ベリアルの子らが阻止したという事実が後押しとなり、遂に被害者代表団との交渉が実を結んだ。
ルカの身柄を狙い、現に武力行使にまで打って出た急先鋒のノワール星も、『朝倉ルカと朝倉サラは、本質的にはヒューマノイドであると考えられる』という、彼らなりの理屈を用意して折れてくれたという。……ルカ自身は、その理屈にまだ引っかかるところはある様子だったが。
ともかく、その成果を手土産に。目的を達成したペガは、こうして地球に戻って来ることになったのだ。
「どういたしまして。友達だからね、ペガは。リクと……それに、ルカたちとも」
そんな理由で、広大な宇宙を相手にした戦いへ挑んでくれた親友に、リクは感謝で胸が詰まる想いだった。
「直接会うのは、はじめましてだね、サラ。ペガも星雲荘で暮らすけど……仲良くしてね」
「うん。よろしくね、ペガ!」
彼が地球を去った後に現れたサラと、ちょっとだけ怯えた様子の挨拶を、ペガが交わす。もちろん、かつて対立した超獣の同種を前に緊張しているのは、ペガの方だ。
……いくら怖がりとはいえ、ペガですら、そんな風に身構えてしまうのだ。
妹たちどころか、ウルトラマンジードが自分のような俗人であることさえも知らないベリアルの被害者たちが不安となり、かつての怨みに囚われ、排斥したくなってしまったのも、無理はないのだろう。
それでも、ペガの訴えや、妹たちの頑張りを、彼らは認めてくれた。
なら今度は、自分たちがその信頼に応えなければならない番だと、リクは考える。
……なんて、柄にもなく高尚な決意を気取っていたけれど。
「これでやっと、星雲荘も元通りだね!」
「そうね。前より、良い意味で賑やかだけど」
ライハと喜びを確かめ合っていたルカが、続けてリクを振り返ってきた。
「ね、ね、お兄ちゃん! 今夜はお祝いしようよ!」
ペガの帰還を、自分に負けないぐらい喜んでくれるルカの誘いに頷かないほど、リクはストイックに徹せなかった。
折角。ベリアルの血を理由に、ルカたちが罪に問われることのない社会を、ペガが勝ち取ってきてくれたのだ。
なら、彼女たちの兄であるリクも、使命に身を捧げるだけではなく――ただ日々を懸命に生きる命であることを許された妹たちと一緒に、自分も心からいっぱい楽しんで、いっぱい苦しんで、いっぱい泣いて、いっぱい笑ってあげたいと、そう思った。
◆
「緊急会議よ」
ペガの帰還を祝った、その日の夜。
妹たちが寝静まった後、こっそり起きて来るように、と――ライハに指示されていたリクとペガは、星雲荘の中央司令室へ集まっていた。
「帰って来て早々悪いわね、ペガ」
「ううん。ペガは大丈夫だよ、ライハ。でも……」
ペガがリクの影に潜むのも、そこから飛び出すのも、もう数ヶ月ぶり。ルカと出会う以前の、元々の星雲荘の面々だけで話すことだって、随分懐かしいことの気がした。
「どうしたんだよ? いつもは夜更かしするなってうるさいくせに」
ルカの前では笑顔の比率が圧倒的に増えたライハだが、リクに対してはそれ以前よりも厳しい態度を示していた。曰く、もうお兄ちゃんになったんだから――と。模範たれとのことだ。
……まぁ、どうしても面倒な部分までは気が回らずとも。大切な妹たちに、健やかに成長して欲しいという願いは、ライハに言われるまでもなくリクの中にある。ついでに子供っぽいと、初対面の頃ルカから言われたことも気に留まっていたため――妹たちの前では当社比、二倍は真面目で誠実な兄たろうと振る舞っているつもりだった。
だから、その目がないところでは気が抜けて、こうして子供染みた口調に戻るのだが。
「もちろん、明日はもっと早く起きて貰うことになるわよ」
ライハの返しに何となく理不尽なものを感じたリクは、しかし逆らって勝てるわけもないので黙っていることとした。
「……さっき、ルカが何を飲んでいたか、覚えてる?」
「えっ?」
そうしてライハから提供された予想外の話題に、リクは困惑した。
「タピオカミルクティー……だったよね?」
「うん。SNSとかはやってないはずだけど……女の子らしくて可愛いよね」
ペガと確認し合い、リクは頷いた。ペガは何故か、少々呆れたような目を向けてきていたが。
「……呑気な感想言っとる場合か」
何故か、関西弁でツッコミながら。レムが密かに遮音性を高めているとはいえ、ゴモラ由来の人外の聴力を持つルカに気づかれないよう、声量を絞ったライハがリクを恫喝した。
怯むリクに、嘆息を挟んでライハが問う。
「リク。ミルクティーってことはつまり、紅茶の一種よ? それを好む男が身近に居ることを、あなたも知っているはず」
「……ペイシャン博士?」
これ見よがしに紅茶好きアピールを欠かさなかった、AIB所属のゼットン星人を思い出したリクに、ライハが頷く。
「……いや、タピオカに興味が出ただけじゃない? もちもちしておいしーって言ってたし。そんな血相変えなくても」
「よく考えなさい、リク。あの子がずっと好きだった飲み物……あなたが最初にあげたオレンジジュースじゃなくて、タピオカミルクティーを選んでいるという変化の重要性を!」
「――っ!?」
業を煮やしたライハの指摘に、リクもようやく危機感を共有し始めた。そうか、そこが焦点だったのか――っ!
「本当にあなたが考えているとおりの、何でもない変化だったらそれで良いわ。でも、もし違っていたら……!?」
そういえば。ペガのおかえりパーティーの最中、場繋ぎで点けたテレビ――ルカも見ていたバラエティの中で、言っていた。
この頃……年の差カップルが急増中だとか、なんとか!
「……たいへんだ、一大事だ!」
「いや、二人とも、落ち着いて……」
消え入りそうなか細い声でペガが宥めようとするが、しかし戻ってきたばかりの親友の願いを聞いてあげることも、心配で頭が一杯になった今のリクにはできなかった。
◆
〈……こちらファルコン
〈こちらファルコン2、僕も確認した。ファルコン2どうぞ〉
〈こ、こちらファルコン2、……ねぇ、二人とも。皆ファルコン2だと、区別がつかないんじゃ……〉
翌日。ばっちり早起きしたリクたち三人は、ルカの追跡を行っていた。
今日のルカは、銀河マーケットの勤務は非番だ。それで彼女が、末っ子のサラを、同じく休日であるトリィ=ティプのところまで連れて行く段取りになっていた。
――重要なのはその場に、普段は居ないペイシャンもやって来るのだという情報を、ライハがサラから聞き出したことだ。
昨夜、緊急会議でその情報を提供されたリクは、ライハの立案したルカ追跡作戦に躊躇なく参加することを決めた。
リクたちは早朝、店長には急用でアルバイトを休む、という旨を通達したが、それはルカに伏せておいた。
そうして、偽装出勤した後に、レムから密かに情報提供を受けながら、身を隠したリクたちはルカとサラが地上に転送された場面を捉えていた。
装備は万端だ。昨夜の内に、レムが三人分のシャプレーブローチの改造品を用意してくれていた。変装能力を応用した迷彩機能により、リクたちの姿は互いを除く周囲から見えなくなっていた。
さらには、通信機を兼ねた消音変声器も装備済み。靴も普段と変えて、人外の身体能力を持つルカたち相手でも、尾行に気づかれる要素は可能な限り削ぎ落としていた。
ただ、リクとライハに比べると――後方部隊のレムはこの際ともかく、実行部隊の中では、ペガの士気が顕著に低かった。
〈はぁ……まさか、こんなことになってたなんて。毎日のように話してても、傍に居ないとわからないもんだなぁ〉
〈なんだよペガ。僕が妹の心配をしちゃいけないっていうのか!?〉
〈いや、どっちかというと、その……〉
リクに問い詰められたペガは、チラリと視線をライハへ向けたが、怖気づいたように何も言わず黙り込んだ。
〈こちらファルコン2、ルカたちが公園に到着!〉
そんなペガの仕草に気づく様子もなく、ルカをずっと見張っていたライハが状況の変化を口にした。
〈……あれ? ルカ、驚いてるみたいだね〉
〈こちらファルコン2、ルカの笑顔を確認した。ファルコン2どうぞ〉
〈こちらファルコン2、サラを置いてルカが駆け出したわ!〉
ライハに言われるまでもなく、ほぼ隣に随行しているリクもまた、その光景を目撃していた。
弾けるような笑顔を見せたリクの可愛い妹は、下の妹の引率という役目すら我慢しきれないといった様子で、公園の奥へ向かって駆け出していた。
彼女が向かう先の集団、その先頭に立つ男性――容疑者であるペイシャン博士の姿を見て、リクの背筋に悪寒が走った。
〈まさか……ハグしようとしてる!?〉
〈メーデーメーデー! 総員、突撃!〉
ライハの号令に頷き、リクはシャプレーブローチを投げ捨てて駆け出した。
走法そのものは、間違いなくライハの方が洗練されているが――リクには、地球人である彼女を遥かに突き放す、この跳躍力がある!
「待つんだ、ルカ――っ!」
「えっ、お兄ちゃん!? なんで、バイトは――っ!?」
そして突如、何もないところから跳び出した兄の姿に驚愕した様子で、ルカが足を止めた。
その時には、既にリクはルカと、公園内で待っていたペイシャンの間に割り込もうとしていたが――想定より早く減速し始めていたルカは、リクの跳んだ先より随分と手前で、立ち止まっていた。
「うわぁ!?」
「きゃ!?」
そして、空中で姿勢制御できなかったリクは、代わりに跳び出してきた人影と、正面衝突を余儀なくされた。
咄嗟に身を捻って、ぶつかってしまった相手の下に自分が回り込むようにしたリクは、その時。太陽のような匂いが、鼻孔をくすぐるのを感じていた。
続けて、己の上に転がってきた相手の、柔らかな感触と硬い地面とに、リクはその身を挟まれて潰れたカエルのような悲鳴を漏らした。
「いてて……ごめん、怪我してない……?」
「――大丈夫ですか、リクさん!?」
問いかけるリクの上へ乗っかる形となっていた相手は、すぐにその上から離れると、名前を呼んで安否を問うてきた。
……己の名を知っているその少女の心地良い声を、リクもよく覚えていた。
「お、お兄ちゃん! アサヒ! 大丈夫!?」
心配して駆けつけてくれるルカが、リクの衝突した相手の名を呼んだ。
湊アサヒ――こことは別の宇宙の地球で暮らす、ウルトラウーマングリージョだった。
「……アサヒ?」
遅れて駆けつけたライハもまた、その姿を認めて驚いたような声を発していた。
「えっ、ライハまで……銀河マーケットは大丈夫なの!?」
「おいおい、何やってんだよリク」
ルカの当惑に続けて聞こえた男性の呆れ声は、リクたちが発見していたペイシャンの物ではなく。
ちょうど、アサヒと同じように。ファルコン2として追跡していたリクたちの視界からは影となっていた場所に居た、伊賀栗レイトの口から放たれたものだった。
「……ゼロ」
その彼が、眼鏡をしていないことに気づいたリクは、レイトの肉体に憑依しているもう一つの人格を言い当てた。
「ようやく休みが取れたんでな。マユと遊びに来たぜ、っと」
「あたしも、連れてきて貰いました」
肩車していた伊賀栗マユを降ろすレイト=ゼロの発言に続いて、立ち上がったアサヒがこの場に居る事情を説明した。
……ゼロが連れてきた、という経緯はまた詳しく聞きたいが。なるほど、ルカが笑顔で駆け出したことや、その減速が始まるタイミングがリクの読みを外れた理由は、これでよくわかった。角度の問題で、リクたちからはペイシャンの影に隠れていたアサヒを、ルカが発見したのが真相だったということらしい。
転んだ痛みが時間の経過で和らいでいくのと同時に、ルカの件はどうやら自分たちの杞憂であったらしいという確信が深まり、リクはほっと安堵を抱えていた。
ただ、その代償に。
「お兄さま、だいたーん」
遅れて駆けつけた末っ子に、公衆の面前でアサヒを突き倒す形となったことを、リクはそのようにからかわれたのだった。
◆
「はじめまして、アサヒおねぇちゃん」
「はい! よろしくお願いしますね、サラちゃん!」
また妹さんができたんですか、とリク相手に驚いたアサヒと。ルカたちから彼女のことを紹介されたサラとが、笑顔で挨拶を交わしていた。
――戦いの道具として造られた存在。
元はマコトクリスタルのヒューマノイド型インターフェースであり、今はウルトラマンの力を担うようになった少女、湊アサヒ。
似通った宿命を持つ故に、リクだけでなく、ルカとも親しくなってくれた彼女は……今度は同じように、サラともすぐに打ち解けてくれたようだった。
「アサヒもおねぇちゃん呼び……いいなぁ……」
その様子に和みながらも、ルカはつい、羨望を口にしてしまっていた。
実は過日、モアが「おねぇちゃん」呼びされているのを見た後に、ルカもそういう呼び方をして欲しいとサラに頼んでみたことがある。
その時は呆気なく承諾してくれて、鼻血が出そうになるほど可愛かったのだが――その際のルカの表情が、邪神の幼体でもあるサラから
その顔を嫌がり、結局元のお姉さま呼びに戻ってしまったのに。将来の義姉最有力候補とはいえ、血の繋がっていないアサヒがサラから「おねぇちゃん」と呼ばれているのを、ルカは悔しい気持ちを抱えながら見守っていた。
「ペガくん、帰ってきてたんですね」
「うん、ちょうど昨日ね。アサヒと入れ違いにならなくて良かったよ」
そんなルカの前で、タイミングよく居合わせることになった旧知同士、アサヒとペガが会話する。
「それで? おまえ、まさかの過保護かよ」
「……マユちゃんの前で、ゼロにだけは言われたくないなぁ」
またも同じように、戦友であるウルトラマン同士、リクとゼロがそんな憎まれ口を叩き合っていた。
そんな様子を見て、ルカは忘れかけていた疑問を思い出した。
「ねぇ、ライハ。お兄ちゃんもだけど、どうしてここに?」
「……色々と事情があるのよ」
らしくなく、露骨にはぐらかす師匠の視線が泳いだ先を、ルカは見逃さなかった。
「……しっかし。あいつがマユと友達になってるなんてな」
呟くゼロが視線を向けた先とも重なるのは、仲良く駆け回るサラとマユ――そして、二人がぐるぐると周囲を巡る、ペイシャンとトリィの様子だった。
「……もうゼロよりマユちゃんと仲良かったりして」
「なんだとぉ!?」
からかい返すリクに、ゼロが憤慨する。しかし、流石にここでムキになり過ぎれば、本当にマユからの好感度が下がりかねないことは理解しているのか、ぐぬぬという表情でリクとマユたちを交互に見るに留めていた。
「お姉さんは、サラちゃんとどういうご関係なんですか?」
その頃、初対面のトリィと、サラとの関係性を、アサヒが尋ねていた。
「どんな風に見える?」
「えっと……まるで、家族みたいに、仲良しさんです」
微笑ましい様子に、思わずと言った調子でアサヒが零すと、トリィも満更でもなさそうに笑みを深めた。
「かぞく……」
対して、ルカたちの妹であるサラは、血の繋がりがないトリィとの関係をそのように評されたことに、一瞬驚いたような顔をしていたが――それからもその白い顔には、嫌悪の色は微塵も浮かばなかった。
「トリィさんがおかあさんで……ペイシャンさんがおとうさん?」
「こら、マユ!」
隣で一緒に聞いていたマユが漏らした感想を、母である伊賀栗ルミナが慌てて諌め、一行に頭を下げていた。
……その時生じた不審な音に気づいて頭を向けると、何か横でライハが小さくガッツポーズをしていた。
それでルカは、師匠や兄の奇行の理由に思い当たるものができた。
「……もしかして、私がタピオカミルクティーを呑んだから?」
「おっ! おまえも紅茶を楽しめるようになったのか」
「ペイシャンは黙ってて。そんなマニアックなんじゃないから」
この距離からでもミルクティーという単語に食いつこうとしたペイシャンを、ルカは掌を掲げて制した。
「そうそう、紅茶がお好きって伺っていたので……お口に合えば良いんですが」
それから、ペイシャンがわざわざこの場に居合わせた理由……先日、この場所でベリアルの影響を受けていた石刈アリエに襲われた際、救援に駆けつけた御礼の品を伊賀栗家から渡すという案件に話が動き、ゼロから主導権を返して貰ったレイトもそちらに合流して行った。
その間も、ルカはバツが悪そうな顔をしているライハと、汗を掻きながら目を泳がす兄の顔を見ていた。
リクの背後で、ペガが肩を竦めるように。あの男を意識していると思われていたのだろうか、という一点においては、ルカも少し呆れていた。
いや、確かに家族以外では特に馴染みが深く、ペガの次ぐらいには世話になっている異性でもあるのだが……
――ウルトラマンである兄と違い、培養合成獣である自分にとって。ウルトラマンベリアルという個人の血がゴモラとレッドキングを結びつけた生命体であるスカルゴモラの同族とは、存在しても肉親しかあり得ない。赤の他人がベリアル融合獣へ一時的に変異しても、遺伝子的には同じことだ。
最初に発見された際のこの姿に合わせて、レムの学習装置で植え付けられた情緒の観念は確かに存在している。振る舞いに伴う恥じらいや、他人の色恋沙汰への野次馬根性なんかは、そこから生じたものだ。
だが、子孫繁栄の本能に由来する異性の情というものは、本質的にはルカ自身にとって――きっとこの先も永遠に、無縁なものであるのだろう。
「……ありがとね、ライハ。お兄ちゃんも」
……ライハもきっと、そんなことがわからないほど無神経ではない。だから。
「私のこと、心配してくれて」
「ルカ……」
同じように、ライハの胸の内がわかるルカは、家族としてともに生きてくれている彼女に、余計な言葉よりも、感謝の気持ちを伝えることにした。
……ウルトラマンであったなら、させずに済んだかもしれない心配。
ウルトラマンとして生まれて来ていれば、ペガにも苦労をさせずに済んだのかもしれない。
スカルゴモラとして生まれて来なければ、ヤプールに付け入る隙ができるほど、ライハを傷つけずに済んだかもしれない。
だけど、その結果として。今の自分があることを、ルカは否定するつもりはなかった。
あの時ヤプールとの戦いがあったから、ライハともこんなに打ち解けられて。巡り巡って、サラという妹にも出会えたから。
怪獣兵器であるゼガンに対して感じる強い友情も、結果、そのゼガンが生きることを願ってくれたことも――怪獣である自分さえも受け入れてくれた、兄に対する感謝の気持ち、その大きさも。
培養合成獣スカルゴモラとして生まれて来て、朝倉ルカとして生きて来た今の自分だけが持ち得るこの心と、それを取り巻く世界とを、ルカは気に入っていた。
……まぁ、バイト先の現状は心配だけど。
もう少しだけ周りとの話が落ち着いたら、二人を説得して銀河マーケットに向かおうかと考えたルカは、そこでふと疑問に気がついた。
そもそも、この笑い話みたいな事態を招いた、タピオカミルクティー。
結局は何となく選んだだけで、いくらなんでも二人の心配し過ぎだとは思ったが。
……自分はどうして、なんとなくでオレンジジュースより、それを選んだんだろう――?
◆
ライハとともに、ルカから感謝の言葉を受け取ったリクが、深い安心に包まれていると。
レイトの体を借りたままのゼロが、ペイシャンに対する彼の用が済んだからとばかりに再びマユと遊ぼうとしたところ、本当にサラと遊ぶのを優先されて振られてしまい――リクが見たことないほど傷心した様子で戻って来ていた。
「マユが……俺と遊ぶより楽しいって……」
「い、一時的なものだよ。新しく友達になったばかりだからなだけで、ゼロのことだって嫌ってないよ」
さっきはその点で煽っていたものの。消沈しきったゼロの様子に、流石のリクも気遣いを余儀なくされた。
初めて見る、レイトより弱々しい様子で、今にも泣き出しそうになっているゼロの背を叩き、大丈夫だからと何度も励ましているうちに、ようやくゼロも涙を引っ込めて上を向いた。
「……そういえば、ベリアルの影響で生き返ったあの記者のねーちゃんを、何とかしたんだって?」
そこでゼロが不意に、リクへと問いかけてきた。
「うん。ルカたち皆と……それに、ゼロのカプセルのおかげだよ」
「そうか……へっ、流石はマユが起動させた俺のカプセル」
素直に、父の後始末を一つ終えられたことの感謝を伝えると、ゼロは額に手を当てて自惚れる仕草を見せた。
それでほぼ復活した様子のゼロは続いて、妬む気配もなくサラや、ルカのことを振り返った。
「それに、随分頼もしくなって来たみたいだな。おまえの妹たちも」
「うん。ルカが居なきゃ、シャイニングミスティックにはなれなかったし……サラが居ないと、ブルトンに星雲荘がやられていたかもしれない」
妹たちの奮闘を、リクは誇らしく想いながら、ゼロに伝えた。
「……ブルトン?」
だが、ゼロはその名に引っかかりを覚えたように、レイトの顔で眉根を寄せていた。
「おまえら、ブルトンを倒したのか?」
「あれ、言ってなかったっけ……サラが退治してくれたんだ」
「……それからこうして平和にしてるってことは、虚空振動は観測されなかった、ってことか」
「虚空振動?」
ゼロの返答に不穏な気配を感じて、リクは耳慣れない単語を聞き返した。
「次元の歪が大きくなっている時に起こる振動波……まぁおまえが知らなくても、レムが居るなら大丈夫だろ」
〈いえ、初耳です〉
「うわぁ!?」
そこで二人の会話へ、密かに派遣されていたらしい一機のユートムが割り込んだ。
突然の登場へ驚くリクとは対照的に、ゼロの意識が表れるレイトの表情が、見る見るうちに強張った。
「そんなはずは……AIBならともかく、ベリアル軍のおまえが知らないのは変だろ!?」
〈しかし、事実です。検索しても該当する単語はヒットしません〉
「……なんてことだ」
「おいおい、深刻な声でどうした?」
伊賀栗レイトの顔にありありと懸念を浮かべたゼロの様子に気づいたのか、ペイシャンが二人の方へ歩み寄って来た。
「……ブルトンの中には、巨大な宇宙を成立させるための不条理を引き受けている個体が存在する」
突然、ゼロが――既に斃されたはずの怪獣について、妙に重々しく言及し始めた。
「それが消滅すれば、宇宙に『穴』が開くことがある」
「宇宙の……穴?」
「するとどうなるんだ? 穏やかな話じゃなさそうだが」
ゼロが一瞬、半ば取り乱すほど重要だという事項を、やはりレムだけでなく、AIBの研究者であるペイシャンも、リクと同様に知らない様子だった。
「宇宙の穴……虚空怪獣グリーザが出現する」
「――グリーザだと?」
何故か。その名だけは知っているように、ペイシャンが反応した。
だが、そこから彼らの間で会話が続くことはなかった。
ゼロが不穏な話を始める瞬間まで、確かに存在した束の間の平穏を葬り去る――終焉の化身が、宇宙から降って来たからだった。
◆
――突然、空を覆った暗雲。
無数の稲光を走らせるその雲を突き破って、一体の黒い巨人が降って来た。
星山市を震撼させるその姿を、ルカはつい先日目撃していた。
「アーマードダークネス……!?」
この手で一度。その後、ベリアル融合獣キメラトロスの闇と一体化して復活したところを、今度は
闇ある限り不滅とされる暗黒魔鎧装は、その謳い文句のとおりにまたも完全な姿を取り戻し、今度は怪獣墓場を抜け出して、この地球に襲来したのだ。
ただ一つ――その頭部だけを、ルカの記憶にある形から変化させて。
その頭部は、アーマードダークネス本来の兜ではなく。
ウルトラマンジードと激突した際の、ベリアルと似た頭部に変形したダークエンプレスのものでもなく。
雄牛のようにも見える銀色の角を生やし、中央に黄色い発光体を備えた、青い瞳を持つ黒き魔人の顔が、そのまま衆目に晒されていた。
「――我が名は、ゼット」
アーマードダークネスを軋ませながら起き上がった巨大な魔人は、粛々と、しかし力強く名乗りを上げていた。
誰に対してでもなく――強いて言うならば、この星の全ての生命体へ向けて。
「宇宙恐魔人、ゼット」
「宇宙恐魔人――ゼット、だと……っ!?」
魔人の名乗りに、あの無敵を豪語するウルトラマンゼロが――身を強張らせ、声を詰まらせていた。
「かつてなき強き者の気配に呼ばれ、私はこの星へやって来た」
来訪の目的を明かした魔人は、手にしていた漆黒の三叉槍――ダークネストライデントの柄を肩に載せて、地球全土に問いかけた。
「強き者は、どこだ」
暗黒魔鎧装を纏った宇宙恐魔人に、漆黒の稲妻が飛来したのは、その直後のことだった。
……朝倉ルカ=培養合成獣スカルゴモラは、知る由もなかった。
暗黒の鎧を纏った――ある意味、自身の同類とも言えるその魔人が。
ウルトラマンにとって、最悪の天敵とすら呼べる存在であることを。
そして、その魔人にさらなる力を与えた暗黒の稲妻の、本当の恐ろしさを。
その時はまだ、知る由もなかった。
Aパートあとがき
お世話になります。第十五話でこのタイトルを使えるのはちょっと感慨深かったりしているジード&スカルゴモラスキーな作者です。
ファルコン2はもっとたくさん書いていたのですが、流石に冗長かなと泣く泣くカットしました。非常に悲しい。
ファルコン2、名称は違うものも考えていたのですが、湊家のカツミを呼び戻す「綺麗なファルコン1」だけ見ていたリクくんが感銘を受けた結果、なんか先祖返りしたところで使われているというイメージです。
いつもの雑文としては取り急ぎ、最後に登場したインフレ中ボス軍団のトップバッターについて、出典元が正史世界観に存在しながらもかなりマイナーなため、今の時点で明かせる(明かしておきたい)原典及び公式設定との相違点の解説を書かせて貰います。結構長い。
・宇宙恐魔人ゼット(※正史版初代=『EXPO THE LIVE ウルトラマンタイガ』個体)
宇宙恐魔人ゼット、というキャラクター概念をご存知の方も何がどう登場したんだ、となると思うので、一応の出典元を解説。
恐魔人ゼットのパラレルではない映像作品での初デビューは『ウルトラギャラクシーファイト 大いなる陰謀』となりますが、実はそこでタイガやタイタスが言及していた個体も正史に組み込まれて存在しています。それが今回、本作に登場した『EXPO THE LIVE ウルトラマンタイガ』を原典とする宇宙恐魔人ゼットということになります。
大事なのは、初代という肩書き。そう、『大いなる陰謀』に登場した恐魔人ゼットは、正史世界観では二代目なのです。ぶもー。
この初代ゼットはその後、『THE LIVE』では第二部にて彼を封印した後地球に転移していたワイズマンズソードから、他の邪悪な存在と共に解放される――のですが、第二部の出来事は明らかに正史とはパラレル世界観扱いなので割愛。
ただ、その展開を参考にして、ワイズマンズソードに封印された後も消滅しておらず、不具合を起こしたワイズマンズソードごと行方不明になっていた……のを、ブルトンの力で封印ごと呼び寄せたのが今作で登場するための設定となります。
槍使いである恐魔人ゼットの中で、(正史の範囲では)唯一槍を使っていなかった個体。ついでに言えば、造られた目的も唯一「ウルトラマンの抹殺」ではなく「最強の生命体となること」だったりした、特殊なゼットンである宇宙恐魔人ゼットの中でも色々とユニークな個体となります。
……ただ、ゼットはアンチウルトラマンの頂点であって欲しい気持ちから、その辺を補う、のを通り越して少々盛っています。
ゼットンとしての能力も、(そもそもショーでテレポートとかできるゼットンはまず居ないのですが)『THE LIVE』でジョーニアスと戦った時点では個体として未熟だったので使えなかったという設定を捏造しておりますので、Bパートからの戦闘でバンバン使います。予めご了承くださると幸いです。