ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第十五話「終わりの始まり/君の声が聞こえない」Bパート

 

 

 

「……またこの雷か」

「ダークサンダーエナジー……っ!」

 

 星山市に突如として出現した暗黒魔鎧装(アーマードダークネス)を纏う、宇宙恐魔人ゼットなる存在。

 それだけでも戦慄していた様子のゼロは、続いて漆黒の稲妻で装甲されし恐魔人(アーマードゼット)が被雷したのを見て、さらにレイトの声を掠れさせていた。

 

「あれが!? だったらもう……!」

「そこか」

 

 ゼロの発言に反応していたペイシャンの声を遮ったのは、雷に打たれた程度では微塵も揺るがないアーマードゼットが元星公園に向けた、二条の青い視線だった。

 それが伴う、尋常ではない圧力に。元星公園に存在する全ての生命体が一瞬、息を止める。

 

「小さな姿で取り繕っているようだが、微かにあの気配がする。汝が強き者か?」

「……そうだ。俺が無敵の、ウルトラ……」

「貴様ではない」

 

 応じようとしたゼロの返答を一蹴し、ダークネストライデントを一閃させたゼットは、その矛先を元星公園の広場に向けた。

 その一動作が生んだ衝撃波で、星山市を軽く蹂躙しながら――三叉の矛先を、リクの背後へと回す。

 

「汝だ、混ざり物の生命(いのち)よ」

「…………私?」

 

 魔人から指名されたのは――最強の合成怪獣を目指して産み出された、リクの妹。朝倉ルカ、だった。

 

「汝は何者だ? 何故そのような気配を漂わせている?」

 

 咄嗟にルカの前に動き、彼女を庇うように立つリクを無視して、アーマードゼットは問いを重ねる。

 

「は……? 何、意味わかんないよ、あんたこそ何!?」

「私は宇宙恐魔人ゼット。最強となるために産み出された生命体」

 

 突然の事態で、半ば恐慌寸前のルカの返答に、意外にもアーマードゼットは一度その槍を引き戻し、素直に応じていた。

 

「……なんだ、お仲間みたいじゃないか」

 

 緊迫した状況を誤魔化すように、ペイシャンが軽口を叩いた。

 

「同じ目的で生まれてきた存在同士、案外仲良くできるんじゃないか?」

「ちょ……っ!」

 

 勝手なことを言うな、と抗議しようとしたルカは、しかし状況を察したように口を噤んだ。

 そんな彼女へ向けて、アーマードゼットは感心したように声を発する。

 

「ほう、貴様も最強となるために造られた生命体か」

「……ほら、興味を持ってくれたみたいだぜ? このままちょっと話してみないか、ゼットとやら」

 

 思いの外、話を聞いてくれている様子の宇宙恐魔人を相手に、ペイシャンはAIBとして交渉を試みようとしたようだ。

 だが――こちらの思惑通り行くものでもないと。他の全員と同じように、彼も既に確信していたことだろう。

 

「無用だ」

 

 それを示すように、アーマードゼットは端的に答えた。

 

「その素性が知れたならば、いよいよ確かめる必要もない。最強とはただ一人――後は互いの存在意義を証明するため、ただ戦うのみだ!」

 

 再び、ダークネストライデントの穂先を元星公園に――ルカに向け直したアーマードゼットが、そう断言した。

 

「どうした? ……貴様らが逃した者に我が槍が向かねば、戦う気にはならない手合か?」

 

 ペイシャンが話して時間を稼ぐ、その隙に。ライハとペガ、そしてトリィが、レイトの妻子であるルミナとマユを星雲荘のエレベーターに押し込めているのを、この魔人はお見通しであったらしい。

 

「――ふざけるな!」

 

 その挑発に、リクも、ルカも、サラも、そしてゼロも。

 

「あたしも行きます!」

 

 さらにアサヒまでもが、険しい表情で応じていた。

 ――見るからに危険なこの魔人と、ルカを一人で戦わせないために!

 

 ジードライザーが、ゼロアイが、ルーブジャイロが。そして道具に頼る必要のない、リクの妹たちが。各々の、巨大な戦闘形態へと姿を変える。

 

「それでいい」

 

 ウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルと、ウルトラマンゼロビヨンド。

 培養合成獣スカルゴモラと、究極融合超獣サンダーキラー(ザウルス)

 そして、超弩級怪獣グランドキングメガロス。

 五体の巨大生物が自身に立ち塞がるのを目にした宇宙恐魔人は、満足したような一声を漏らした。

 

「だが……少々邪魔者が多いな」

 

 さらに、本来の姿を見せたルカこと、培養合成獣スカルゴモラが、リトルスターから獲得した能力により展開したメタフィールドに引き込まれた後になって。

 スカルゴモラがレイオニックバーストを遂げ、ゼロビヨンドがギャラクシーグリッターの輝きを纏う――敵対する相手の戦力が最大になったのを見届けたアーマードゼットは、そんな感想を口にした。

 

「弱者から間引くとするか」

「(――アサヒっ!)」

 

 宣言したアーマードゼットが、消えた。

 それは、高速移動ではなく――空間を跳ぶ、テレポート能力によるものだった。

 

「――あっ、え……?」

 

 そして、アーマードゼットが再出現したその瞬間には。

 懐に潜り込んだ恐魔人の繰り出した、ダークネストライデントによる突き――単純な刺突が、超弩級の要塞の如きグランドキングメガロスの胸にある、幾層もの多重装甲を一纏めに貫き、その内部を破壊し、背中の装甲板を爆ぜさせて飛び出していた。

 

「アサヒっ!?」

「てめぇ――っ!」

 

 ギャラクシーグリッターが、ビヨンドリープアタックを発動し、グランドキングメガロスを貫いたままのアーマードゼットに迫る。

 だが、同じ瞬間移動でも。ゼットのテレポートは、ゼロのそれとは比べ物にならないほど、準備に必要な時間が短かった。

 

 致命傷を受けたグランドキングメガロスが、自立するための力を失った頃には。スカルゴモラの怪獣念力による拘束を身動ぎだけで弾いたアーマードゼットは、ゼロの攻撃が当たる瞬間だけ、テレポートでその場から消え、同じ場所に再出現した。

 

 宇宙恐魔人は超弩級怪獣を貫いたままの槍を手放し、すり抜けるようにしてゼロツインソードによる斬撃を回避したのだ。

 

 さらに、再出現した恐魔人ゼットが、右の裏拳でゼロビヨンドの顔面を痛打した瞬間には、今度は引き抜いた得物ごと、ゼロの背後へとテレポートを完了。

 そして槍を軽く振って、自らの方へ殴り飛ばされていたゼロの背中を、大きく深く切り裂いた。

 

 それだけ。たったそれだけで、嫌な水音を伴い、ギャラクシーグリッターに至っていたゼロビヨンドのネオ・フュージョンライズが解除される。

 リアクティブアーマーのような効果を発揮する、フュージョンライズの最中であったからこそ。命に届き得た一撃を受けながらも、ゼロも重い打撃を受けた程度のダメージで、素となる巨人体を維持できていた。

 

 ここまで、わずか三秒足らず。転移の連続行使で繰り広げられた瞬殺劇に、ジードの対応は完全に出遅れていた。

 

「このぉおっ!」

 

 それでも、アサヒを傷つけられた怒りに燃えて、ゼロへの追撃を阻止するべく。

 ジードはその怒りをエネルギーに変えるギガファイナライザーを構えて、普段以上の速度を発揮しながら突撃する。

 ジードほどの機動性を持たないスカルゴモラは、その場から強靭な尾を旋回させることで、装甲された魔人を打ちのめそうとする。

 兄姉に続いて、アーマードゼットの逃げ場を塞ごうと、サンダーキラーSが超高圧電流を纏った八本の触手と長い尾を展開して後詰を行う。

 

 当然のように、アーマードゼットは無造作なテレポートにより、その場を離脱することで兄妹の連携を回避した。

 

 ……それでも、構わない。ゼロへの追撃を防ぎ、崩折れるアサヒへの治療を邪魔されないのなら。

 ギガファイナライザーを振り切り、空いた手をそのままグランドキングメガロスに向けたウルトラマンジードは、その時――仮に理解していても、結局は同じ行動に出たとしても。

 自身がどれほどの危険に身を晒しているかを、正しく認識できていなかった。

 

〈リク、危険です〉

 

 レムの、いつもどおりの機会音声が、心なし悲鳴に聞こえたその時。

 

「(お兄ちゃんっ!)」

 

 兄妹で唯一、アーマードゼットの初動に反応できたスカルゴモラ。戦いの中で、未来視に開眼したという彼女から切迫した恐怖のテレパシーを受けたジードは、見た。

 上空に出現した宇宙恐魔人ゼットが、こちらへ向けたダークネストライデントの穂先に、膨大な闇のエネルギーを蓄えている光景を。

 

「ダークサンダー――レゾリューム!」

 

 そして、必滅の赤黒い稲妻が、そこから放たれた。

 光線を食い止めようと、光怪獣プリズ魔と同様の構造に変化したサンダーキラーSの触手が射線上に伸びる――が、あらゆる光学干渉を無害化吸収するはずのその構造体を、ダークサンダーレゾリュームは容易く切断して突破。

 スカルゴモラが咄嗟に展開してくれた怪獣念力によるバリアが、迫り来る絶望の波濤を食い止める。しかし、津波を前にしたガラスのように、数秒と保たずに砕け散る。

 

 そして、妹たちの懸命な守りも虚しく――光を消し去る暗黒が、グランドキングメガロスを庇って立つ、ウルトラマンジードの光量子情報体に直撃した。

 

「――っ、うぁあああああああああああああああああ!?」

 

 まるで細胞を一つ一つ咀嚼されるような、耐え難い痛みが着弾点から迸り、ジードに絶叫を上げさせる。

 ダークサンダーレゾリューム――それは、ウルトラマンを分解する虚空のエネルギーを得た、ウルトラマンを消滅させるための光線。

 サンダーキラーSがウルトラマンと同じ、光の化身であるプリズ魔化させていた触手を分解されてしまったように――問答無用で、闇が光を掻き消して行く。

 

〈そんな……リクぅううううううううっ!?〉

 

 伊賀栗妻子を避難させた星雲荘から、その光景を見ていたのだろうペガの、決死の叫びも虚しく響き。

 

 ジードに触れたそれは、瞬く間に光の巨人の全身を覆い隠し、ウルトラマンを構成する光量子を侵食する暗黒の中へ撹拌し――そして。

 その思考を途絶させると同時に、全身を粒子状に分解させられたウルトラマンジードは光線の勢いのまま拡散し、文字通り跡形もなく消滅したのだった。

 

 

 

 

 

 

 物々しい音を立てて、持ち手を喪った巨大な赤き鋼が、メタフィールドの大地に転がった。

 

「リク、さん……?」

 

 信じられないものを見るような、息も絶え絶えの声が、聞こえた。

 

「お兄、さま……?」

 

 痛みに呻いていた声が、自らの受けた傷すら忘れたように零す、呆然とした吐息が聞こえた。

 

 だが、それらが誰の声なのかも。消し飛ぶウルトラマンジードに伸ばした手が届かなかったスカルゴモラは、もう判別できていなかった。

 

「(――あ、あぁ、あぁぁぁぁぁあああああああああああっ!?)」

 

 仇へ向かう気力すらなかった。そんなものは、全て、掌が空を切る感触を確かめるのに費やされていたから。

 

 その場で倒れ込んだスカルゴモラは、確かに寸前までそこに存在していたはずの――自らの何より大切な兄の残滓を探すために、全ての感覚を研ぎ澄ませて。

 リクのくれた思い出の全てを、彼を見つけ出す手掛かりとするために振り返って。

 

 ――その結果、己の全てが、彼の喪失を確信させることに。

 スカルゴモラの精神は、その許容量を飽和させていた。

 

 ……死んだ。殺された。居なくなった。

 

 世界の全てから拒絶されていると思った自分に、憧れだった皆のヒーローという在り方を捨ててでも守ると言ってくれたあの人が。

 大切な人から預かっていた素敵な名前を贈ってくれて、やっと会えた妹だと、涙してまで同じ世界に繋ぎ止めようとしてくれたあの兄が。

 ウルトラマンへの恐怖に囚われた己を、そのことで苦しまなくて済むようにと守り、救ってくれた、あの背中が。

 

 初めて、培養合成獣スカルゴモラの安心できる居場所になってくれたウルトラマン。師匠や、名付け親や、同じ運命を分かち合える家族のような仲間たち――そして、自分たちの、妹とも。大切な皆との出会いを導いてくれた、何よりの大恩人。

 そして、こんなにも幸せにして貰ったルカと出会えて、自分もハッピーだと言ってくれた、優しい家族。

 

 その、兄が、リクが、ウルトラマンジードが……!

 

「(いやぁああああああああああああああああっ!?)」

「……何をしている」

 

 絶望へ耐えきれず慟哭したスカルゴモラに、呆れ混じりの声を投げる者が居た。

 

「これからが我らの戦いの本番だろう」

「(――っ!)」

 

 それが、そもそもの仇であることすら忘れて。

 ただ、(リク)の喪失を侮辱するような意志に耐えきれず、スカルゴモラは全身の力を解放した。

 起き上がりざまの全力の打ち込みは、兄の残滓を探した時と同じように、虚しく空を切った。

 

「遅い。もっと集中しろ」

 

 背後から、灼熱が生じた。

 斬りつけられた、と認識した次の瞬間には、既に。

 スカルゴモラの首筋を、ダークネストライデントの刃がさらに切り裂いていた。

 

 ――だが、レイオニックバーストで大幅に向上した代謝が、瞬時に二つの傷を癒やす。

 その際に発生した高熱をさらに利用して、スカルゴモラは敵を炙ろうとするが。

 

「ぬるい」

 

 スカルゴモラが放つ超高熱の、さらに百万倍の温度を灯した火球が、その熱波を爆ぜさせた。

 流石に、エネルギー量自体が百万倍ということはなかったために。スカルゴモラも一撃で消し飛びはしなかったものの、それでも一兆度の火球の威力に圧され、憎き敵から後退させられる。

 

「……む?」

 

 そこで、宇宙恐魔人が、培養合成獣から興味を逸した。

 彼が振り返ったその先では――ウルトラマンゼロが、先とは違う輝きを、その全身に発現させていた。

 

「ほう。感じたことのない力だ。何をするつもりだ?」

「――シャイニングスタードライブ!」

 

 アーマードゼットの愉快そうな問いに答えることもなく、決死の叫びを上げたゼロの腕から、恒星のように眩い光球が放たれた。

 そして、天へ達した光球が、高速で旋回し始めたのを合図に、メタフィールドの中が光に満たされ、流れ――

 

 

 

 

 

 

 ――気がついた時には、スカルゴモラたちは星山市の中に立っていた。

 

 メタフィールドもレイオニックバーストも解除され、それに費やしていた体力の消耗もなくなり。

 切断されていたサンダーキラーSの触手も、全て元通りに復元され。

 胸を貫かれていたグランドキングメガロスも、元の傷一つない偉容を取り戻している。

 

 そして……

 

「僕、は……っ!?」

「(――っ、お兄っ、ちゃん――っ!)」

 

 消滅したウルトラマンジードが、他の面々と同様、戦い自体がなかったかのように、万全の姿を取り戻していた。

 動揺した様子の彼へ、スカルゴモラに続き、グランドキングメガロスがその頭部を向けた。

 

「リクさん! 無事だったんですね!」

「さっきのは……ゆめ?」

 

 サンダーキラーSが漏らすのと同じ疑問を、スカルゴモラも一瞬抱いたが――すぐに違うと理解した。

 つい先日、同じ現象の、目撃者となっていたからだ。

 

「……シャイニングの力で、時間を戻した」

 

 超常能力の行使と、術者である彼だけは引き継いだ傷により。肩で息をするほど消耗したゼロが、予想通りの種明かしを行った。

 

「だが、もう……」

 

 今すぐ兄の無事に抱きつきたい、と思っているスカルゴモラとの会話の途中で、ゼロの言葉が途切れた。

 

「くだらん」

 

 理由は、彼の背後に無から生じた、黒き一閃にあった。

 ゼロの背後に転移した宇宙恐魔人ゼットが振るったダークネストライデントが、振り返った彼のゼロスラッガーによる防御を呆気なく弾き飛ばし、胴を薙いでいたのだ。

 

「――ぐぁっ!」

「何をするのかと思えば……時間の逆行とは大したものだが、戻された事象の記憶が残るのでは、大道芸でしかないな」

「ゼロ!」

 

 悲鳴とともに飛ばされてきた戦友を抱き止めながら、ジードが彼に呼びかける。

 

「一度見た以上、あんな悠長な真似を許すつもりはないが……それでも、何度も繰り返させることで私の気力でも削る狙いかと思えば、何より貴様自身が消耗している。随分と意味のないことに特別な力を使ったものだ」

「(おまえ……っ!)」

 

 リクとアサヒを救ってくれたゼロの健闘。その決意を愚弄するような宇宙恐魔人に、培養合成獣は憤怒の意志を返した。

 だが、動けない。下手に刺激すれば、この魔人の言うとおり、また先程の惨劇が再現されるだけだとは、スカルゴモラも承知していたからだ。

 

「だが、同じことを繰り返すのは確かに飽きる。邪魔者の除け方を少し変えるか」

 

 アーマードゼットが呟いたのを合図に、彼が纏う暗黒の鎧から、闇が噴出した。

 四方へ拡散した闇は、星山市に充満したかと思うと――次々と凝縮し、一斉に似姿を作った。

 

 それはゼットの顔から目を奪ったような、銀色の角と黄色い発光体を備えた凹凸状の頭部を持つ、黒と銀の体色をした怪獣。

 多少の個体差こそあれ、ほとんどが昆虫のような甲羅や、胸部に頭部の発光体と同系色の器官を備えた、「ピポポポ……」と鳴くその怪獣たちは。

 

「宇宙恐竜、ゼットン……!」

 

 かつて、初代ウルトラマンを殺した存在の同族。

 昆虫の特徴を備え、ヒューマノイドのように直立する、宇宙恐竜――それらの矛盾が底知れなさを誘う、多元宇宙最強種の一角と名高い怪獣。

 それが、十二体も同時出現したことへ、ジードに支えられたゼロが呻いていた。

 

「そうだ。そして全てのゼットンを従える頂点がこの私――宇宙恐魔人、ゼットだ」

〈アーマードダークネスは、その闇の力を用いて怪獣を生み出すことができるとされています〉

 

 アーマードダークネスの装着者、宇宙恐魔人ゼットの発言に続けて、レムが現状のカラクリを説明した。

 

「行け」

 

 頂点に立つ、と豪語する者の指示を受け。無機的な外観のゼットンたちが、一斉に動き出す。

 それにスカルゴモラたちが身構えた瞬間には、一斉のテレポートを行って。間合いを狂わせると同時に、不意打ちに近い形で、打撃や火球による攻撃を仕掛けてきていた。

 ――スカルゴモラだけは、その対象から外して。

 

「どうした?」

 

 その事実に戸惑いながらも。戦えないゼロを庇った分、動きの鈍いジードの苦戦に気を取られたスカルゴモラに対し。

 君臨するアーマードゼットが、問いかけを放った。

 

「そいつらでも戦える程度のゼットン軍団では、不服か? やはり、私が順に間引いて行く方が好みか?」

「(――っ、ざけんな!)」

 

 挑発に、スカルゴモラは飛びついた。

 魔人の挑発は、決して口だけではないと、既に体験していたからだ。

 そうして咆哮を上げながら、ゼットンの群れに素通りを許されたスカルゴモラは、彼らの王を目掛けて駆け出した。

 

「ルカ!」

「(来ちゃダメ、お兄ちゃん!)」

 

 心配して駆けつけようとしてくれた兄を、再びフェーズシフトウェーブを放ちながら、スカルゴモラは鋭く制した。

 

「(こいつの狙いは私……! だから、私が食い止める! 食い止めなくちゃいけないんだっ!)」

 

 シャイニングウルトラマンゼロの力で逆行し、なかったことにされた時間軸で体験した、理不尽なまでの強さを思い返す。

 あの瞬間移動と、ウルトラマンを問答無用で消滅させるダークサンダーレゾリュームの組み合わせは、最悪だ。

 ジードをこの魔人と同じ戦場に立たせた時点で、後は敵の気分次第の死が確定してしまう。

 

 だから、相手の要求に乗るしかないと――今日までの生涯で出会った、最強の生命体を相手に。培養合成獣スカルゴモラは単身で挑む覚悟を決めて、メタフィールドの展開を完了した。

 

 

 

 

 

 

 培養合成獣スカルゴモラが宇宙恐魔人ゼットとともに亜空間(メタフィールド)の中へ消えるのを、二体の宇宙恐竜ゼットンの腕力に抑えつけられたウルトラマンジードは、ただ見送るだけしかできなかった。

 

「くそ、なんなんだよあいつはっ!?」

 

 自らを一度、完膚なきまでに殺めた魔人の姿を想起しながら、ゼットンたちを振り払ったジードは感情を抑えきれず、荒く叫んでいた。

 

「……宇宙恐魔人ゼット。奴はもう一つのウルトラの星、U40に突如出現した、史上最大の脅威だった」

 

 絶対の緊張を齎す、当人が不在になってから。何とかジードの介助なしで立てているウルトラマンゼロが、息も絶え絶えながらもその知識を授けてくれた。

 

「最強となるために造られた生命体……その自称に違わず、U40最強の戦士、ジョーニアスでも時間稼ぎしかできなかった。最終的には、当時あの星を訪れていたタイガに取って来させた秘宝ワイズマンズソードで封印し、ようやく退けたと聞いている」

 

 タイガ――ウルトラマンタイガ。

 最強を目指して造られた生命体であり、その力が世界を脅かす前に、光の勇者によって歴史の闇に葬られた。

 自身の妹である培養合成獣スカルゴモラと、確かに通じる過去を持つ……しかし、彼女とは比較にならないほど危険な存在に、ジードは危機感を募らせる。

 

〈その封印が解かれた、ということですか?〉

「……かもな。奴が強大過ぎて、代々脅威を封じてきたワイズマンズソードも耐えきれず、対消滅したと考えられて来たが――今日まであんな怪物が暴れていることを、俺も耳にしたことがなかったんだ。ワイズマンズソードはどこかに消えながらも封印を保っていたが、結局それも突破された、ってところだろう」

〈それにしたって強すぎないか? 単純な戦闘力じゃ、ベリアルやザ・ワンも比べ物にならない勢いだぞ〉

 

 ウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルと、究極融合超獣サンダーキラーSと、超弩級怪獣グランドキングメガロスとが、ゼットン軍団を相手取っている間に。

 疲労困憊のゼロから、それでも今必要な情報を絞り出そうと、レムと、避難中のペイシャンとが、質問攻めを繰り出していた。

 

「……ワイズマンズソードに封印されていた他の邪悪を、奴が取り込んじまったのかもな。昔、俺が戦ったハイパーゼットンのように」

〈加えて、ダークサンダーエナジーによる強化……か〉

〈ダークサンダーエナジーについて、情報の開示を求めます〉

〈簡単に言えば怪獣を強化する特殊なエネルギーだ。あれを帯びた怪獣の攻撃には、ウルトラマンを弱らせる作用がある〉

 

 ペイシャンが答えるように。ゼロはただ、恐魔人の攻撃の威力だけに苦しんでいるのではなかった。

 胸下、何とかカラータイマーを避けた傷口から、漏れ出るような黒いエネルギーの胎動が消耗したゼロを冒し、徐々にその範囲を拡げようとする素振りすら見せていた。

 

〈……詳細はエクスデバイザーから提供されたデータを通信で送らせるが、攻略の鍵になるような情報はないかもな〉

 

 そのゼロが危惧していた未知なる存在、虚空怪獣グリーザ。

 それに関連すると思しきダークサンダーエナジーの知識を、何故持ち合わせていたのか――その答え合わせをしながら、ペイシャンがレムやゼロとのやり取りを続ける。

 

〈後はアーマードダークネスの力――だとしても、何故装着して無事なんだ? あれはエンペラ星人以外では扱いきれず、鎧に吸収されるんだろ?〉

「……扱いきれてはいないんだろう。だが単純に、あの鎧の怪獣としての力を、奴は圧倒的に凌駕している。その力関係で、吸収されずに着込めてやがるんだ」

 

 装着する者の力を、時に何十倍にも増幅するとされる暗黒の鎧。

 その真の力を引き出せるのは、正当な装着者である、今は亡きエンペラ星人だけだとして。

 アーマードダークネスを遥かに凌駕する魔人は、その力で以って暗黒の鎧を威圧し、取り込まれることなく従えている、ということか。

 

 ただの防具としても、ウルトラマンの光線を中心とした光の力を削減し、生半可な攻撃では傷もつかず、さらには消滅しても、闇の力がある限り復活を続ける。

 そこから、さらにほんの僅かでも装着者の力を増す効果が引き出せるなら、宇宙恐魔人ゼットの強化としては充分過ぎるのだろう。

 

 その結果が、滅亡の邪神ハイパービースト・ザ・ワンを遥かに凌駕する戦闘力。五対一を物ともせず、ジードを瞬殺したゼットの猛威は、これまでに戦った中で最大の怪物だった、完全体の邪神魔獣グリムドにも匹敵する。瞬間移動による機動性と、対ウルトラマンへの殺傷力に限れば、そのグリムドすらも上回るか。

 

「……くそ、同じ名前のくせに、あいつとは違い過ぎるぜ」

 

 ゼロが何かを一人愚痴るものの、ジードにはそれに付き合う余裕はなかった。

 宇宙恐魔人が置き土産とした、ゼットン軍団――それだけでも、恐るべき戦力であったから。

 

 ギガファイナライザーによる攻撃を、一体目のゼットンがテレポートで回避する。続けて背後に回ったそのゼットンと、ジードの進む先に居た二体目とが、挟み撃ちにする形で一兆度の火球と、波状光線ゼットンブレイカーを放って来る。

 ギガファイナライザーで火球を弾きながらも、ゼットンブレイカーまでは防ぎきれず。被弾したジードの動きが鈍ったのを、光線の照射を止めたゼットンが、バリアを展開して迎え撃つ。

 ギガファイナライザーによる連続の打撃が、瞬く間にゼットンシャッターに亀裂を走らせる。しかし、二撃目がバリアを砕く前に、ゼットン自体が転移して、攻撃を空振りにされてしまう。

 そうして背後に回ったゼットン二体が繰り出した波状光線と火球を、ジードの前に割り込んだ触手が吸い込み、また空に向けて打ち弾いた。

 

「ですしうむD4れい……はっしゃ!」

 

 ジードを庇った究極融合超獣の触手が、次元崩壊現象を示す二条の光を発射。光線技と勘違いしたゼットンたちは、片や再びのゼットンシャッターを展開し、片や両腕を胸の前に構えて、光線吸収技であるゼットンアブゾーブを発動する。

 しかし、この次元の光学干渉を主とはしないD4レイの破壊力は、ゼットンアブゾーブを素通りして、奥にいる本体を時空構造体ごと壊滅させていた。

 一方、ゼットンシャッターを展開していた方の個体は、数秒の時を稼いだバリアが破壊される前にテレポートを行うことで、デスシウムD4レイの直撃を躱していた。

 

「……ありがとよ、サラ。おかげで何とか戦えそうだ」

 

 そこで、ゼロが感謝を述べたのは、ただゼットンを一体葬ったからではなかった。

 介入したサンダーキラーSは、ゼットンたちを相手取る間に、八本の触手の内の二本で、ジードとゼロに治癒光線を浴びせてくれていたのだ。

 おかげでゼロも、未だダークサンダーエナジーに冒されながらも、言葉のとおり最低限の戦闘が可能な容態にまで回復していた。

 

「――アサヒ!」

 

 ゼロへの心配が軽減されたジードは、続けてグランドキングメガロスの危機に目をやった。

 アーマードゼットのダークネストライデントにこそ、一撃で貫かれたものの。グランドキングメガロスの重装甲は、通常種ゼットンの集中砲火すらも跳ね返している。

 だが、鈍重なメガロスの機動性では、テレポートを持つゼットン相手に格闘攻撃が届かない。かといって並の光線技では、ゼットンアブゾーブによって吸収されてしまい、効果がない。

 結果として、一方的にゼットン軍団に集られ、水滴が岩を穿つような形へと、アサヒが変身したグランドキングメガロスは追い詰められていた。

 通常の個体よりさらに破壊力に優れるEXゼットンが、メガロスへと照準を合わせたのを目の当たりにして。彼女を救うべく、ゼロに背中を任せたジードは、最大の威力を誇る光線を照射した。

 

「ライザーレイビーム!」

 

 ギガファイナライザーが放つ、フュージョンライズ形態の五倍以上の威力を誇る最強光線。それはゼットンシャッターを容易く粉砕して、回避の暇を与えずにEXゼットンを貫通し、蒸発させる。

 その奥に居た二体目の通常種ゼットンは、ゼットンアブゾーブを発動して光線吸収を試みる。だが圧倒的な威力に加え、意志をエネルギーに変換するギガファイナライザーの仕様で無尽蔵に放てるライザーレイビームを吸収しきることができず、膨張して弾け飛ぶ。

 その末期を目の当たりにし、三体目以降のゼットンたちは一旦テレポートで距離を取り、グランドキングメガロスを解放していた。

 

「ありがとうございます、リクさん!」

 

 メガロスに変身したアサヒからの御礼を受けながらも、しかし先程無力を突きつけられたばかりのジードの心境は晴れなかった。

 ……分身の、種族的平準値以下の能力しか発揮できない複製ゼットン軍団には、おそらく勝てる。

 しかし、メタフィールドへ隔離できていないために、星山市の被害を抑えることを考慮すれば、慎重に戦う必要がある。

 

 だが、このゼットン軍団より遥かに危険な宇宙恐魔人を、たった一人で足止めしている妹のことを考えれば、時間を掛けて戦うことへの決心が付きかねていた。

 

「お兄さま。わたし、お姉さまのところに……!」

 

 同じことを気にしたらしいサンダーキラーSが、兄であるジードに許可を求めようとする。

 展開されたメタフィールドに後から自力で突入できるのは、彼女かゼロしかこの場には居ない。だが触手の一本一本が並の超獣以上の戦力を有し、多数の相手を得意とする彼女が抜ければ、今度はゼットン軍団から星山市や負傷したゼロを守り切ることすら危うくなる。

 加えて言えば、宇宙恐魔人ゼットの前では、究極融合超獣である彼女でも鎧袖一触されかねないことも、既に先の攻防で示されていた。サンダーキラーSを向かわせても、助けになれるのかすら怪しいのだ。

 

「すまないが、もう少しだけ耐えてくれ」

 

 故に、回答に悩んでいたジードたちの前へ、新たに蒼い影が降り立った。

 その正体は、時空破壊神ゼガン――AIBが保有する、怪獣兵器だ。

 それを融合する形で動かすシャドー星人ゼナは、スカルゴモラを心配する兄妹に、一つの変化を伝えて来た。

 

「既に鳥羽ライハが救援に向かった。我々はまず街の防衛に徹し、状況の変化に合わせて動くべきだ」

 

 

 

 

 

 

 戦闘用不連続時空間、メタフィールドの中。

 存在しなくなった時間をなぞるように、レイオニックバーストを果たした培養合成獣スカルゴモラは、暗黒魔鎧(アーマードダーク)(ネス)を纏った宇宙恐魔人ゼットとの戦いを繰り広げていた。

 

「(りゃあっ!)」

 

 未来を予見する力――三体のニセウルトラマンゼロとの戦いで物にした能力を活用し、驚異的な宇宙恐魔人ゼットのテレポート能力に対抗し、敵の出現位置を先読みする。

 だが、未来が見えても。単独で三体のニセギャラクシーグリッター以上の戦闘力を持つ相手と渡り合うには、スカルゴモラの能力が追いついていなかった。

 

 速く、重い、魔人の打撃。それがスカルゴモラの巨体を浮かばせ、後退させることで反撃を届かなくさせる。

 後ろに距離を取ってしまえば、そこに一兆度の火球が機関砲のようにして撃ち込まれ、スカルゴモラの全身を灼き穿つ。

 

 だが、続けて胸に向けて繰り出されたダークネストライデントの軌道を読んでいたスカルゴモラは、急所を回避しながら、敢えてそのまま身を貫かせることで敵を捉えて、辛うじて張り合える全身の馬力を用い、反撃に転じた。

 

「(――っ、スカル超振動波!)」

 

 痛みを堪えながら行使したのは、高熱により秒速百万メートルを越した、莫大な音波のエネルギー。

 それによって引き起こされる破壊の事象を、やはり宇宙恐魔人は瞬時のテレポートにより、余裕綽々で回避していた。

 

「反応は先程より良いな」

 

 そんな感想をゼットが漏らす間に、スカルゴモラは超振動波も利用してダークネストライデントの柄をへし折って、異物を自身の体から放出した。

 ……ゼットの言うとおり。未来を視れるとしても、スカルゴモラ自身の機動性や能力では、他者を守るより、自分を狙って来る彼を迎え撃つ方が向いていた。

 そのため、家族が次々と惨殺される未来が実現するのを前に、ほとんど何もできなかった一戦目とは違う。相手からこちらの間合いに飛び込んでくるのなら……三回に一度程度は、反撃のチャンスを狙える。

 

 凄まじい戦闘力を発揮するゼットではあるが、単純な膂力や、攻撃範囲は滅亡の邪神ハイパービースト・ザ・ワンには劣っている。

 故に、優れたタフネスと再生力を持つ今のスカルゴモラであれば創傷にも耐え、まだ瞬殺されずに喰らいつけていた。

 

 その戦果として。これで、レゾリューム光線を封じられる……と、そんな淡い期待を抱いたが。

 

「だが、あの時の気配ほど、強き者ではない」

 

 いつの間にか、テレポートによって折られたダークネストライデントを回収していたアーマードゼットは、その身の宿す強大な闇の力を注ぐことで、呆気なく暗黒の槍を元通り修復してしまっていた。

 

「そもそもおまえではないのか?」

「(……人違いでここまでやったって言いたいの?)」

 

 先の刺突で付けられた切り傷こそ、もう塞がっているものの。

 単純な打撃や一兆度の火球による猛攻と、連続の高速再生に伴う体力の消耗とで、勢いを弱めつつあったスカルゴモラは、それでも尽きぬ怒りを燃やしていた。

 

「(そんな勝手な理屈で、おまえは皆を、お兄ちゃんを……っ!)」

「……お兄ちゃん、か」

 

 敵意に対し。微かに、感慨へ耽るような声音で、魔人が呟いた。

 

「私と同じ宿命を背負いながら、貴様には家族がいるのだな」

〈――ルカ。聞いてください〉

 

 同時に、レムからの次元間通信が、メタフィールドの中まで届けられていた。

 

〈得られた情報をお伝えします。そのための時間を稼いでください〉

 

 レムの言葉に、頷きも返事も示さず――その声を聞いているのを、眼前の魔人へ悟られないようにしながら、スカルゴモラは場を繋ぐためのテレパシーを発信していた。

 

「(……家族が居たら悪いわけ?)」

「いや。ただ、想像もつかんだけだ」

 

 意外な変化を見咎めたつもりだった問いかけに、アーマードゼットは淀みなく首を振った。

 微塵も。自らの返答に、寂寥を滲ませることなく――きっと本当に、それを感じていないから。

 

 ……こんな状況でなければ、あるいは。

 この魔人が言うように、同じ目的のために造られた命同士。もう少し、相手に想うことだってあったかもしれない。

 

「だが――その家族を殺された直後より、また殺されるのを阻む方が手応えがある。貴様にとって、家族が大切なことはわかる」

 

 しかし、大切な家族が脅かされる、こんな状況をいきなり仕掛けてきたのが、他ならぬこの宇宙恐魔人なのだから。そんな仮定に、意味はなかった。

 

「それと同じように――私は、私が産み出された意味。最強の生命体であると証明することにこそ、何よりの価値を見出している」

 

 ……まるで、己は理解を示したのだから、そちらも譲歩しろと言わんばかりの口ぶりで、魔人は培養合成獣に言う。

 

「貴様は今のところ、見込んだほどではないが……それでも確かに強き者だ。私と戦う資格がある。貴様の理由で構わんから、もっと戦いに集中しろ」

「(迷惑な……っ!)」

 

 会話の間に、体力をある程度回復したスカルゴモラは、その傍迷惑な資格を捨てるわけにはいかないと奮起する。

 この魔人の注意を、自分に向けていれば。その間は、兄がレゾリューム光線を浴びることがなくなる――そのために!

 

「これで話は終わりだ。もっと私に、生きる意味を感じさせてくれ!」

 

 告げると同時に、ゼットが消える。

 未来を読んだスカルゴモラは、頭を振って先手を加える。

 だが、スカルゴモラが未来を視て放つ攻撃を、宇宙恐魔人は通常の反応速度で回避する。

 連続の転移で大角を回避したアーマードゼットは、スカルゴモラの背後に再出現すると、ダークネストライデントを一閃させて――根本から滑らかに、スカルゴモラの尾を斬り落としていた。

 

「(――っ!!)」

 

 激痛に声が詰まるスカルゴモラの背を、さらにゼットの蹴りが捉える。新たな痛みとともに走った衝撃で強制的に前進させられ、切断された尾との距離が開き、断面を接合しての即時再生を阻止された。

 これでは、少なくともこの戦闘中、自力で尾を取り戻すことはできないだろう。

 そして、痛みで動きが鈍ったスカルゴモラの背中へと、ゼットがダークサンダーエナジーの力を帯びて強化されたレゾリューム光線を照射した。

 

「(――っ、きゃぁあああああああ!?)」

 

 咄嗟に展開した念力のバリアは、一方的に食い破られ。

 暗黒の雷嵐に呑まれたスカルゴモラは、全身を手酷く傷つけられながら、さらに彼方へと吹き飛ばされていた。

 

「耐えたか。やるな」

 

 再生しきれない傷を負いながらも、絶命はしなかった様を見て。アーマードゼットは感心したように呟いた。

 

 魔人の放ったダークサンダーレゾリュームは、怪獣墓場でアーマードダークネス単体から受けたレゾリューム光線とは、その威力の桁が違っていた。スカルゴモラに有利な空間であるメタフィールドの中、レイオニックバーストで大幅にパワーアップし、バリアで減殺した上でなお、生命を脅かし得る一撃だった。

 だが、同じ血を引いていても、ウルトラマンではないから。ジードと異なり、スカルゴモラはダークサンダーレゾリュームの直撃でも、問答無用で分解されはしなかった。

 

 ……もしも怪獣スカルゴモラではなく、同じウルトラマンであったなら。もっと兄に、迷惑をかけずに済んだのかもしれないと――そう思ったことは、何度もある。

 しかし、今は。ウルトラマンではないから、こうして兄を守ることができる!

 

「(……っ、やれぇ!!)」

 

 重心が大きくずれ、未だ上手く立ち上がれない自らをそのように鼓舞して。傷口から血を垂らしながらも、スカルゴモラはその思念を、切断された尾に飛ばした。

 怪獣念力による微かな刺激を受けた、切り離された尾は。培養合成獣が古代怪獣ゴモラから受け継いだ生命力を発揮し、独立した生物のようにして動き、宇宙恐魔人ゼットの装甲された背中を、彼の意識の外から打ち据えていた。

 

「――っ!?」

 

 それは、魔人が初めて見せた、隙。

 千載一遇のチャンスを逃すまいと、振り返ったスカルゴモラは頭部の角からスカル超振動波を放射する。

 

 ……光線技ではないために、アーマードダークネスの暗黒の加護も無視できる。

 干渉する周波数をゼットの肉体に絞ったなら、その装甲による減退率も軽減し、打撃を与えられる可能性は上がる。

 

 これで倒しきれる、とは思わないが――ある程度弱らせてしまえば。後はアーマードダークネスがゼットを吸収してしまうはずだと、レムが攻略法を教えてくれていた。

 

 そんな一縷の望みを懸けた、スカル超振動波は――ゼットが瞬時に展開したバリアにより、呆気なく阻まれた。

 構わず、死力を振り絞り、ゼットシャッターを砕いてやろうと照射を続けるが……微かな亀裂が走り、防壁が不完全になった時点で、アーマードゼットはその場を転移。

 後手に回りながら、何の痛打も負うことなく。アーマードゼットは、スカルゴモラの起死回生の策を切り抜けた。

 

「……今のは愉快だったぞ」

 

 本当に楽しそうに、喜悦を滲ませた魔人の回答に対し。

 そうなったのは結果論とはいえ、文字通り身を斬られながら掴んだ執念の一撃も、全くの無傷で凌がれて。スカルゴモラは、静かな絶望に沈みつつあった。

 そんな培養合成獣へと、宇宙恐魔人は、再びダークネストライデントに蓄えた闇のエネルギーを解放して――

 

 ――刹那の差で割り込んだ、ハニカム構造の魔法陣が、その殺到を受け止めた。

 多重のバリアは、ダークサンダーレゾリュームの威力に砕け散りながらも……それと引き換えに、背後に破壊力を抜けさせることなく、攻撃を凌いでいた。

 

「……何?」

〈――待たせたわね、ルカ〉

 

 乱入者に興味を示す、魔人の問いかけ。

 それを一顧だにしない、気遣いの声に惹かれて、スカルゴモラは顔を上げた。

 

〈後は、私に任せて〉

 

 そこには、スカルゴモラを守護するように仁王立ちする――白と金の装甲に身を包んだ、機械仕掛けの竜人。

 師匠であるライハの操る、キングギャラクトロンMK2(マークツー)が、隔離された戦場へ駆けつけてくれていた。

 

 

 

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