ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第十五話「終わりの始まり/君の声が聞こえない」Cパート

 

 

 

〈よくもルカの尻尾を斬ってくれたわね……っ!〉

 

 レイオニックバーストで高めた再生力も追いつかない傷を負った、培養合成獣。

 そんなスカルゴモラを庇って立つ、ライハの操るキングギャラクトロンMK2(マークツー)を、宇宙恐魔人ゼットが静かに見据えていた。

 

「我が一撃を阻みし、強き者よ」

 

 それは、この魔人が地球に降り立ってから、初めて起きた事象だった。

 ベリアルに勝利したウルトラマンも。自身がレイオニクスである培養合成獣も。滅亡の邪神の幼体でもある究極融合超獣も。伝説の最強怪獣であるグランドキングの亜種でさえ、鎧袖一触に終わって来た。

 その攻撃を曲りなりにも止めた者を前にして、強者を求め暗黒魔鎧装を着込んだアーマードゼットは、その嗅覚を刺激されていた様子だった。

 

「汝は、何者だ?」

〈私はこの子の……ルカの師匠よ!〉

 

 最強の生命体となるために造られた魔人を前に、ただ両親の愛情を理由に生まれてきた地球人が、啖呵を切る。

 その慈愛を次代に繋ぐための、守るべきものを背に庇って。

 

〈弟子を守り導くのが、師匠の役目。ここからは私が相手をするわ!〉

「(ライハ……)」

 

 その頼もしさと、優しさを感じて。逆行前の時間軸で兄を殺され、今は自身が痛めつけられていたスカルゴモラは、ようやく。重苦しくなる一方だった緊張が、少し解れたような心地で、師匠の背中を見上げていた。

 そして、その反対の。鬼気迫る姿と正面から向き合う魔人もまた、微かに笑った――ような気がしていた。

 

「……面白い。この星に来てから、貴様が最も楽しめそうだ!」

 

 言葉と同時に、瞬間移動したアーマードゼットは、最適な間合いでキングギャラクトロンMK2を捉えていた。

 そのまま繰り出された三叉の槍を、しかしキングギャラクトロンMK2は左腕のペダニウムハードランチャーを滑り込ませ、その軌道を変化させた。

 結果、超弩級怪獣(グランドキングメガロス)の機体すら一撃で貫通する必殺の刺突を、キングギャラクトロンMK2は軽く装甲表面で弾き返せるほど、見事に捌ききっていた。

 

〈はぁあああっ!〉

 

 同時、キングギャラクトロンMK2の右腕が抜き放っていた、後頭部にマウントされていた主武装、ペダニウム超合金製のスプリングソード・ギャラクトロンウルミーが、まさに稲妻と化してアーマードゼットに迸る。

 暗黒宇宙大皇帝、エンペラ星人が光の国を確実に滅ぼすために鋳造された魔鎧装は、その鋭い斬撃でも容易く断たれることはなかったが――壮絶に火花を散らせることで、微かながらでも欠損が生じ得ることを、衆目に示した。

 

 キングギャラクトロンMK2が二撃目を繰り出す前に、宇宙恐魔人ゼットは再びの瞬間移動。間合いを狂わせ、相手より有利な状態を作り出した上で、上空からの突きと、蹴りを同時に浴びせに掛かる。

 そこで、キングギャラクトロンMK2が自動で展開する小バリアが、ライハの死角からの攻撃をそれぞれ弾く。ダークネストライデントの穂先はバリアを突き破るも、そのために生じたわずかな間隙でキングギャラクトロンMK2が頭部を逸し、ウルトラマンの体表を遥かに凌ぐ装甲の頑強さも相まって、槍の一撃を受け流していた。

 

 そして、その防御のための動作を起点にした斜身(シェシェン)(カウ)を繋げ、零距離から大威力の体当たりを成功させたキングギャラクトロンMK2は、その衝撃でアーマードゼットを弾き飛ばしていた。

 

「――っ!」

 

 装甲を貫く衝撃で、驚愕に染まるアーマードゼットを、キングギャラクトロンMK2はさらに左右の腕に備えた銃火器で追撃する。

 

 宇宙恐竜ゼットンの頂点に立つゼットは、ゼットン種の持つ光線吸収能力を発動。ゼットアブゾーバーで取り込んだエネルギーを攻撃に転じた波状光線・ゼットブレイカーが、スカルゴモラを背にしたキングギャラクトロンMK2に反射される。

 

 だが、ライハはバリアすら用いることなく。左腕のペダニウムハードランチャーを振り、その側部に備えられていたギャラクトロンベイル型の手斧で受け止めて、ゼットの光線を切り捨てていた。

 

「ふははははは……最高だ!」

 

 そんなキングギャラクトロンMK2の戦いぶりに、宇宙恐魔人アーマードゼットは、興奮した様子で哄笑していた。

 

「やはり強き者との戦いは、血沸き肉踊る!」

〈こっちは最悪よ〉

 

 狂的な喜びで悦に浸るゼットに対し、その声に込めた怒りを隠しもせず、ライハが叫び返した。

 

〈そんな自分の勝手のために――私の弟子を、家族をこんなに傷つけられて、平気なはずがないでしょう!?〉

「そうか……我が同類の価値観は、どうやら師匠譲りだったというわけか」

〈この子があんたなんかの同類なわけないでしょ!〉

 

 叫びとともに、ライハが再びの砲撃を繰り出すが――アーマードゼットも今度は、それを吸収するのではなく、手にした得物で切り裂いて、正面から突貫してきていた。

 

「ならば、守ってみせるが良い! 私を倒さなければ、貴様の弟子も、家族も、今日ここで終わるものと思え!」

 

 最悪の通り魔染みた宣言を発しながら、最強の証明を求める魔人が迫る。

 その姿に、何ら怯むこともなく。家族を守る力を手にした鳥羽ライハは、機械仕掛けの竜騎士越しに、守るための剣を構えて応じていた。

 

 

 

 

 

 

「……頃合いか」

 

 星山市の市街地と、別位相のメタフィールド内。

 二箇所で同時に進行する戦いの趨勢を見守っていたその人物は、空を見上げると、その手に一つの道具を取り出していた。

 怪獣の魂や概念を囚えた、黒い円筒――すなわち、怪獣カプセルを。

 

《――ギルバリス!》

 

 そして、同じように用意していた機器――ライザーへと、起動したそのカプセルを読み込ませた。

 

「行け。前より強い器もそこにある」

 

 同時、眼前に開いた暗黒の渦の中へと、そのカプセルから飛び出した球体を送り込んだ。

 

 その様を見守った人物は、さらに――宇宙から迫る、宇宙恐魔人を打った暗黒の稲妻がその瞬間、再び飛来し。二又に分かれて地に落ちる最中、神隠しにあったように掻き消える瞬間を目にして、笑みを深めていた。

 

 

 

 

 

 

 わずかに、時間は遡って。

 

 傷つき倒れたスカルゴモラの眼前で繰り広げられる、キングギャラクトロンMK2と、宇宙恐魔人アーマードゼットの戦い。

 一時は互角かと思われたそれは、徐々に、趨勢が傾き始めていた。

 

〈……っ!?〉

「そこだっ!」

 

 ダークネストライデントによる攻撃を捌いていた真っ最中のキングギャラクトロンMK2に、恐魔人ゼットの肩から背中が思い切り激突する。

 体勢を崩されたキングギャラクトロンMK2へ、さらにアーマードゼットが猛追。牽制に放たれたギャラクトロンウルミーの雷嵐の如き斬撃を、ダークネストライデントの柄で受け流し、同時に空いた左腕でキングギャラクトロンMK2の胴を押す。

 掌底による衝撃は、装甲を抜けて機体に伝わり……金城鉄壁を誇ったキングギャラクトロンMK2が、たたらを踏んで後退した。

 

 その光景に――今の時点ではまだ、キングギャラクトロンMK2にダメージらしいダメージがないにも関わらず。

 スカルゴモラは屈辱と、それより深い恐怖を覚えていた。

 

「(そんな……あいつ、私より――っ!?)」

 

 ――ライハの技を、習得している。

 

 恐るべきことに。僅かな戦いの間だけで――宇宙恐魔人ゼットは、太極拳の術理を、その身に修めつつあった。

 ……この際、それを行使する練度が未だライハには遠く及ばないことなど、些末なことだ。

 この敵がライハの武術を理解すること、それ自体が問題なのだ。

 

 キングギャラクトロンMK2が、寸前まで今のゼットを相手に互角以上に渡り合えていたのは、幾つもの要因が重なった結果だ。

 

 ウルトラマンではないことで、レゾリューム光線の効果を受け付けないこと。

 ペダニウム超合金製の、グランドキングと並ぶ超装甲と、センサーによる自動展開機能まである多層バリアによる、ウルトラマン三人分程度の攻撃なら寄せ付けない純粋な防御力の高さ。

 そしてその効果をさらに高める、ライハの武術が要だったのだ。

 

 ライハ以上の達人であろうゼロはウルトラマンであり、純粋な耐久性はその種族相応に留まる。

 ウルトラマンより遥かに硬いグランドキングメガロスに変身していたアサヒには、しかし武術の心得など存在しない。

 

 両者の長所を持ち合わせていたからこそ、ライハの操るキングギャラクトロンMK2は唯一拮抗し得ていたが――前者を攻略する糸口を、見つけられてしまったなら。

 

 遠からず。キングギャラクトロンMK2は、シャイニングスタードライブが発動する前のグランドキングメガロスと、同じ運命を辿ることになる。

 

「(ライハ――っ!)」

 

 そんな、未来を予見するまでもない、スカルゴモラの不安を的中させるように。

 ギャラクトロンウルミーを叩き落としたダークネストライデントが翻り、続いてキングギャラクトロンMK2の左腕の弱所――ペダニウムハードランチャーの付け根へと、突き刺さっていた。

 

「私こそが――強き者だ!」

 

 そして、恐魔人ゼットの裂帛の気合と合わせて。

 さらに押し込まれたダークネストライデントは、キングギャラクトロンMK2の左腕を肘から破断させ、その戦闘力を大幅に喪失させていた。

 

 ……勝負あった。もう、ライハの操るキングギャラクトロンMK2でも、恐魔人ゼットの攻撃に対処できない。

 だが、それで見逃してくれるような相手ではないと――スカルゴモラも既に、充分知っていた。

 

「(う、わぁあああああああっ!)」

 

 巻き戻された時間の(リク)のように。今度は師匠(ライハ)が殺される。

 そんな恐怖に駆られて、尾を斬られた痛みも消えないまま、スカルゴモラは気合で立ち上がった。

 だが、著しい重心の変化は、それ以前と同様のパフォーマンスなど発揮させてくれない。

 動きの鈍いスカルゴモラの参戦を見て取ったアーマードゼットが、ダークネストライデントに闇の力を凝縮して、その矛先を向け――

 

〈――ルカ!〉

 

 逆に、庇うように身を挺したキングギャラクトロンMK2が、ダークサンダーレゾリュームの直撃を受けた。

 同時にスカルゴモラが放った、秒速百万メートルを越す収束型のスカル超振動波は――ライハから身につけた光線を斬る技術を応用したアーマードゼットの手刀によって、片手で切り捨てられていた。

 そして、ここまでで蓄積したダメージにより、万全ではなかったキングギャラクトロンMK2のバリアは、今度はダークサンダーレゾリュームの威力に耐えきれず、割れてしまい。本体にまで届いた黒い破壊光線の巻き起こした爆発に煽られ、師弟揃って吹き飛ばされることとなった。

 

「……そうか」

 

 その様を見た魔人は、少しだけ残念そうに呟いた。

 

「貴様ももう限界か。強き者よ」

 

 先程までと変わらず、身勝手に。踊らせていた心を消沈させた様子の恐魔人ゼットは、そんな失望の言葉を吐いていた。

 

〈ルカ……ごめんなさい〉

 

 スカルゴモラに覆い被さった、砕けたキングギャラクトロンMK2。その操縦席から、ライハが無念の声を届けてきた。

 

「(謝ることじゃないよ! 諦めないで、ライハ!)」

 

 ……一人だけなら、自分は何度も絶望していた。

 だが、ライハが駆けつけてくれたことで。挫けずに戦うことができた。

 そんな師匠と出会わせてくれた兄が、いつも言っていたのだ。諦めるな、と――

 ……そのためには。

 

「(ジーッとしてても……!)」

 

 誓いを込めた、勇気の合言葉を唱えようとしたその時。

 スカルゴモラは、何かと同調するような、奇妙な感覚を覚えた。

 そして――それに導かれるようにして見上げた空に開いた、黒い渦から、星雲荘の中枢端末にも似た球体が飛び出し――キングギャラクトロンMK2の欠損部から潜り込むのを、目撃した。

 

 さらに、その直後。

 宇宙恐魔人ゼットが現れた際、彼が被雷したのと同じ暗黒の稲妻。

 それがキングギャラクトロンMK2と、近くに転がっていた、切断されたスカルゴモラの尻尾に突き刺さった。

 

 

 

 ……まるで、本当は。

 

 その稲妻を。キングギャラクトロンMK2の下に居た、スカルゴモラが引き寄せたように。

 

 

 

 

 

 

 その雷を、キングギャラクトロンMK2の中に居たライハもまた、浴びていた。

 一瞬――どうしようもないほどの孤独感と、死への恐怖が湧き上がり、ライハの精神を苛んだものの。

 意外なことに。雷そのものは、ライハの肉体に何のダメージも与えていなかった。

 それどころか、戦闘中に受けた傷が治ってすらいた。

 

「何が……エネルギー、充填完了?」

 

 そこで、キングギャラクトロンMK2の各種機器が示す異常に、ライハは困惑した。

 何の操作も受け付けず、次々と表示される何重ものブラウザの中……最後に表示されたその一文を、何とかライハは読み上げた。

 

「高次元増殖物質置換……開始?」

 

 疑問と共に呟いた次の瞬間、ライハを浮遊感が襲った。

 

 ――半壊したキングギャラクトロンMK2の残骸が、独りでに宙へ浮いていたのだ。

 

 さらに、その外装がデジタル魔法陣に包まれたかと思うと――白金の機体が、分解・置換されて、変わって行く。

 

 頑強なる複合装甲は、黒と金に。

 その下の機体は、紫に。

 

 ……キングギャラクトロンMK2の部品だけでなく、転がっていたスカルゴモラの尻尾まで巻き込んで、自らの一部として取り込み、機械化して行く。

 そうして、身の毛がよだつ方法で尾を生やしたキングギャラクトロンMK2は、その姿を完全に変貌させていた。

 

 騎士の兜のようだった頭部は、前方に飛び出た金の角と、赤い目に変わり。

 人型に近いスマートだった上半身は、砲塔だらけの甲羅のような円盤でシルエットを膨らませ。

 両肩と両足には、黒金の装甲に上に、戦いで破壊されたはずのペダニウムハードランチャーが二門ずつ、新たに増設されていた。

 その姿は。キングギャラクトロンから胸部のパネル装甲を引き継ぐ等、細部こそ違えど、紛れもなく――

 

「……ギル、バリス!?」

 

 ラストジャッジメンター・ギルバリス。

 

 ウルトラマンベリアルを退けた後のこの地球を脅かした、最悪の侵略者である巨大人工知能。

 かつてサイバー惑星クシアを乗っ取ったその暴走する機械こそは、様々な時空に現れては、生命を無視した機械の独善を振り翳すシビルジャッジメンター・ギャラクトロンたちの首魁にして創造主。

 そして、朝倉リクが大切な人の命を取り零した沖縄での戦いを引き起こし、激戦の果て、ウルトラマンジードに討たれたはずの暴走する正義。

 

 突如、キングギャラクトロンMK2を素体に復活したそのギルバリスの強化態の中に、ライハは囚われてしまっていた。

 

「何が、どうなって……っ」

〈おい、ライハ! 今そこで何が起こっている!〉

 

 ライハが驚愕したその時、通信機からこのマシンを設計した人物の声が聞こえた。

 

「ペイシャン! あなたこれ、どういう……っ!?」

 

 だが、疑問の声は途中で遮られた。

 操縦席の至るところから伸びたコードが、自律して機動し、ライハを拘束しようと迫ってきていたからだ。

 それを、キングギャラクトロンMK2の操縦桿でもあった剣、操竜刀を用いて切り払い、事なきを得たライハだったが、なおもペイシャンに問い返す余裕はなかった。

 

 ……ギルバリスが、動いていたからだ。

 

 復活した自らの真下に居た生命体――培養合成獣スカルゴモラの命を、摘み取るために。

 

「(何、これ……ライハ――っ、きゃあああああああああっ!?)」

 

 巨大な両爪で傷ついたスカルゴモラを抑えつけたギルバリスは、その額の角・バリスコルノーラを振り下ろして、怯える獲物の肉体を貫き、引き裂こうとしていた。

 眼前で起こった突然の変異に対する戸惑いと、それによって与えられた傷に、スカルゴモラが恐怖と痛みを訴える思念の声が、ライハに届く。

 

「やめなさい!」

 

 操縦席に張り巡らされたコードや端末を、次々とペダニウム超合金製の剣で破壊しながら、ライハは叫ぶ。

 だが、狂った機械は止まらない。どんなに壊されても、モニターの表示は変わらず、砲撃や角による刺突が繰り返され、組み伏せられたスカルゴモラの悲鳴が轟き続ける。

 その様子を映すモニター越しに、レンズへスカルゴモラの血飛沫が付着する音が、ライハの限界を越えさせた。

 

「やめて……!」

 

 その光景に、脳裏を過るものがあり。思わず膝を着いてモニターに縋り付いたライハは、涙混じりに訴えた。

 

「私にルカを、傷つけさせないで……っ!」

 

 ――告げた瞬間、ライハは衝撃に打ち抜かれた。

 

 衝撃をほぼ無力化する、キングギャラクトロンMK2の操縦席。

 それを引き継いだこのギルバリスでも、無視できなかった横殴りの振動、その正体は。

 

「私を無視して何をしている」

 

 声の主は、ダークネストライデントを横薙ぎにしてギルバリスの巨体を弾き飛ばした、宇宙恐魔人アーマードゼットだった。

 

「機械の暴走か? 何故貴様がその娘を……」

 

 宇宙恐魔人が問いかけるも、数秒彼を走査していたギルバリスは、興味を失ったように向きを変え、再びスカルゴモラに砲撃を開始した。

 

「つくづく私には興味がない、か」

 

 だが、必殺であったその砲撃は――一つたりとも、スカルゴモラに届いていなかった。

 彼女の眼前に瞬間移動したアーマードゼットが展開したゼットシャッターが、スカルゴモラと彼自身を包み込み、全砲弾を防いでみせていたからだ。

 ただ、余りの火力に……役目を終えたゼットシャッターが、限界を迎えて砕け散ってしまっていた。

 

「ならば、先とは逆の趣向と行こう。私を倒さなければ、貴様はこの者を害することはできん」

「(……え?)」

 

 思わぬ救い主に、スカルゴモラの戸惑う声が聞こえた。

 そしてそれは、ライハも同じ心境だった。

 

「私を見ろ、新たなる強き者よ。生命体であろうが、なかろうが……我が最強を証明するため、性能を競わせて貰うぞ」

 

 槍を構えたゼットの宣言に、ギルバリスは何も返さなかった。

 ただ、その代わりと言わんばかりに……メタフィールドの内部に、無数のデジタル魔法陣が出現した。

 そこから次々と転送されて来るのは、白と金を基調とした、長い髪を束ねた人型のドラゴンのようなロボット――シビルジャッジメンター・ギャラクトロンの軍勢だ。

 無数に出現したギャラクトロンが、ギルバリスとともにスカルゴモラを包囲して、一斉攻撃を仕掛けようとし始める。

 

「ルカ!」

「――くどい!」

 

 槍を大地に突き刺して、その音を響かせたアーマードゼットが、叫んだ時には。

 彼の全身から放たれた闇が、メタフィールドの中へ拡散し――ギャラクトロンと同数の宇宙恐竜ゼットンとなって、それぞれ組み付き、立ち塞がり、スカルゴモラに対する攻撃を阻止していた。

 

「何度も言わせるな。私を倒さない限り、貴様の目的は達成できない。さぁ、障害を取り除いてみせろ!」

 

 アーマードゼットの挑発を受け、数秒の沈黙の後、ギルバリスが咆哮した。

 ラストジャッジメンターの両腕が回転し、背負っていた砲塔の全てを前面に向けた一斉射撃形態へと変じるのを見た宇宙恐魔人は、満足したように独りごちる。

 

「それで良い」

 

 そして、ギルバリスが放つ無数の弾幕の中に、正面から――最強を求める人造生命体は、臆することなく飛び込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 ……キングジョーに由来する、ペダニウム超合金という構成素材と、それを基に強化設計された武装と装甲のデータ。

 そして、培養合成獣スカルゴモラの尾に由来する、ベリアル因子を大量に取り込んで復活した、ラストジャッジメンター・ギルバリス。

 ベリアル融合獣キングギャラクトロンの最終発展形態に相当するその機体は、キングギルバリスとでも呼ぶべきか。

 

 そのキングギルバリスは、アーマードダークネスを纏った宇宙恐魔人ゼットと、互角の戦いを演じていた。

 

 だが、キングジョーとベリアルの力を取り込んだ程度では……サイバー惑星クシアを喪失したハンデは本来、覆せないはずだった。

 そして、万全のギルバリスであっても、三大ウルトラマンと激戦を繰り広げた程度では、そのうちの二名であるゼロとジードを瞬殺する、アーマードゼットとは隔絶した差があるはずだった。

 並行宇宙に残存していたギャラクトロンを呼び寄せ、その対応にゼットンの複製を用意させたことで、アーマードゼットの力を多少は削いだことを考慮に入れても、それは変わらないはずだった。

 

 だが、不完全であっても――こと、戦闘形態である、怪獣型の機体に限れば。キングギルバリスの戦力は、以前から数倍も向上していた。

 それは、ダークサンダーエナジーとベリアル因子のみならず。サイバー惑星クシアが破壊された後に生まれた、一つの偶然によるものだった。

 

 多元宇宙に飛び散ったとある一つの破片(セクター)が、己の出自を忘れ、無数の宇宙から怪獣のデータを蒐集・解析し続ける、一種の異常を起こしていた。

 そして、その新たなサイバー惑星は、自身でも気づかない間に――自らの集めた情報を、他の上位の破片(セクター)にも、時空を越えて発信・共有し続けていた。

 それこそ、核に近い――キングギャラクトンMK2に組み込まれていた、破片にまでも。

 

 そうして集めた、無数の戦闘データを用いたバージョンアップにより――キングギルバリスは、かつての数倍ものパワーアップを遂げていたのだ。

 それこそ、かつてレイオニクスハンターの兵器として運用されていた、同じく黒い殺戮兵器であるキングジョーブラックと同じように。

 

 ただ、そんな秘密を。キングギルバリスの姿を見た者たちはまだ、誰も知らずに居た。

 

 

 

 

 

 

 星山市の市街地、その中心部。

 未だ七体が健在のゼットン軍団と、ウルトラマンや怪獣の連合軍とが、なおも激闘を繰り広げていた。

 

「……この、いい加減に!」

「おいジード、落ち着け!」

 

 力任せにギガファイナライザーを揮ったジードが突貫するも、テレポートで距離を稼がれ、集中砲火を浴びる。

 何度と展開された光景に、未だダークサンダーエナジーに蝕まれ、本調子と行かない様子のゼロから注意が飛ぶ。

 

 それでもゼットンのうちの一体に肉薄したジードは、ギガファイナライザーによる連撃でゼットンシャッターを粉砕し、その防御を突破していた。

 

「スマッシュバスターブレード!」

 

 そして、バリアが割れたその瞬間に。手首から伸ばした光の剣を唐竹割りの要領で、ゼットンの脳天に振り下ろした。

 刃が届く前、ゼットンは真剣白刃取りでその一撃を受け止める――恐るべきことに、タイミングは完全に合っていた。

 だが、光の刃のその出力が、ゼットンの掌を灼き切って突破し。そのままゼットンを、一刀両断に葬り去った。

 

 ……これで、合計六体目。残すゼットンも、ちょうど六体。

 

 体表は硬く、バリアを張れ、光線を吸収・反射でき、事前準備を要さず縦横無尽のテレポートが行える。能力の幅は、ベリアル融合獣であったペダニウムゼットンとも遜色しない。

 一体一体が倒し難い要素をこれでもかと備えたゼットンの群れから、星山市を守りながら。迅速に殲滅するには、多少乱暴な攻めが必要だと、無尽蔵のエネルギーを持つジードは突貫を繰り返していた。

 少しでも、早く。街の安全を確保して――ライハが救援に向かってくれている、(ルカ)の下へ駆けつけるために。

 

「ぐぁ……っ!?」

 

 だがやはり、ゼットンは決して生半な相手ではない。

 応援に駆けつけてくれた、AIBの怪獣兵器であるゼガン。

 単純な出力や打たれ強さで言えば、上位のフュージョンライズ形態であるマグニフィセントと同等以上の戦力を持つ、そのゼガンをして。相性の不利はあれど、百戦錬磨のゼナの戦闘技術を持ってしても、ただの一体を相手に、倒れ伏すまで追い詰められていた。

 

「怪獣さん!」

 

 今にもトドメを刺されそうな姉の戦友を心配して、サンダーキラー(ザウルス)がフォローに入った。

 二体のゼットンから次々と放たれる一兆度の火球を、二本の触手を使って上空へと打ち弾きながら。残る六本の触手を疾走させて、ゼガンへのトドメを狙っていたゼットンを追い払う。

 

「おぉらっ!」

 

 負傷したジードに迫っていたゼットンの頭を、割り込んだウルトラマンゼロが勢いよく蹴り飛ばした。

 さらにその先で待ち構えていたグランドキングメガロスが、ジードと同じように光の剣メガロスヘルブレードを出力。軽く脳震盪を起こし、テレポートもバリアも使えないゼットンの腹を串刺しにして抹殺する。

 

 これで、七体目。残るは五体。

 だが、こちらもゼガンが戦闘不能となった。頭数で劣る以上、防戦には未だ気を使う必要がある。

 

〈メタフィールド内の戦況に、大きな変化がありました〉

 

 だが、そうも言っていられない事態を、レムが伝えてきた。

 

〈キングギャラクトロンMK2が……待ってください〉

「どうしたの、レム!?」

 

 通信に気を取られたところで、ゼットンたちの攻撃がジードに集中する。グランドキングメガロスの展開したメガロススパインによる十字バリアーと、サンダーキラーSの触手が庇いに来て、何とか街とジードを守り切る。

 

〈失礼しました。さらに状況が変化、撃破されたキングギャラクトロンMK2を素体に、ギルバリスが強化復活を遂げました〉

「……はぁ!? ギルバリス!?」

 

 半ば呆れた調子の驚愕の声は、ゼロが発した物だったが――ジードもまた、同じ気持ちだった。

 

〈復活したギルバリスはライハ及びAIBの制御を外れ、独自に行動を開始しています〉

「……ペイシャン博士、どういうこと!?」

〈――すまん、俺にもわからん。今しがた撃破されたキングギャラクトロンMK2に、外部から何かの干渉があったことは確認したんだが……っ!〉

 

 研究所に戻っていたペイシャンが、初めて聞くほど素直な謝罪とともに声を詰まらせるのを耳にして。今は彼に当たっても仕方ないことを、ジードも理解した。

 

〈現在、ギルバリスと宇宙恐魔人ゼットが交戦中。スカルゴモラは重傷、ライハはギルバリスの中に捕らわれています〉

 

 最悪の戦況を告げられた次の瞬間、グランドキングメガロスが光となって解けた。

 それは、敵の攻撃によるものではなく――アサヒ自身の、選択によって。

 

「アサヒおねぇちゃん……?」

「一気に行きましょう、皆さん!」

 

 サンダーキラーSが初めて見るその形態は、アサヒのウルトラマンとしての姿――ウルトラウーマングリージョだった。

 

「グリージョ、キュアバースト!」

 

 二箇所の戦況変化を見て、純粋な戦闘力と継戦能力に優れた怪獣から。時間制限があり、自身の攻撃力は低下しながらも――多彩な能力を発揮するウルトラマンに変わったグリージョは、その力を早速全開にしていた。

 彼女の体から放たれた光は、敵対する邪悪な者だけを打ち据えて、弾き飛ばすと同時――他のウルトラマンたちにとって、その力を大幅に回復させる効果があった。

 

「おっし……行くぜ、ジード!」

「――はい!」

 

 戦いの中、周囲の手助けで少しずつ回復を続けていたウルトラマンゼロが、遂にダークサンダーエナジーを駆逐するだけの体力を取り戻し、無理な突撃で蓄積していた傷を完治したジードへ呼びかける。

 

「ファイナルウルティメイト……ゼロ!」

「クレセントファイナルジード!」

 

 ウルティメイトイージスそのものを巨大な矢としたゼロと、ギガファイナライザーに一度に出力できるエネルギーの上限値までを収束させた光刃を繰り出したジードの連続攻撃に、グリージョキュアバーストによる全方位攻撃から立て直せていなかったゼットンたちが、貫かれる。

 最初の二体を容易く貫通した二重の必殺技は、後続に居た分、ゼットンシャッターの展開が間に合っていた三体へ同時に着弾。ゼットンシャッターによる防御を紙のように破って、テレポートする隙も与えずに消し飛ばす。

 

 斯くして、アサヒの賭けは成功し。残る五体のゼットンを、一気に仕留めることに成功した。

 

「……お兄さま、はやくお姉さまのところへ!」

 

 その結果を見届けたサンダーキラーSが呼びかけた頃には、末妹は既に次元に亀裂を走らせ、メタフィールドに向かうための異次元の回廊を作り始めていた。

 

「……ああ!」

 

 一瞬、ゼロが巻き戻したことによって消え去った時間――あっという間に、自分自身が消滅させられた記憶を、ジードは振り返った。

 

 今しがた倒した複製体とは違う。本物の『ゼットン』、その頂点。

 ……また、あの魔人と戦っても。何も変わっていないままでは、結果を変えることはできないかもしれない。何もできず、殺されて終わるかもしれない。

 

 それでも、ただ、レゾリューム光線による分解の効果を受けないというだけで。培養合成獣スカルゴモラも殺されかけていることは、変わりない。

 ……彼女を助けるのは、兄であり、ウルトラマンである、自分の役目だ。

 

 例え敵が、己より遥かに強大であっても。

 それが兄が妹を、そしてウルトラマンが助けを待つ誰かを諦める理由になんかならない。

 それを代わりに果たそうとしてくれた、ライハまで待っているのならなおさらだ。

 

「……ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」

 

 ジードの――リクの言葉に頷いて、仲間たちはサンダーキラーSの展開した異次元の回廊へと飛び込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 ……メタフィールドの中は、地獄のような様相を呈していた。

 

 何十体もの宇宙恐竜ゼットンの黒銀と、同数のシビルジャッジメンター・ギャラクトロンの白金が、そこら中で激突を繰り返す。

 ギャラクトロンは、スカルゴモラを殺すため。ゼットンは、それを阻むため。

 大地を焼く神威の雷(ギャラクトロンスパーク)や、一兆度の火球が乱れ飛び、何度も何度も地盤を掘り返す――もしこれが、位相をズラしていない星山市で起こっていたなら、街どころか国、いや、地球の存亡すら保証されないほどの、強大な怪獣軍団同士の血で血を洗う大戦争。

 

 それは、戦場の中心で繰り広げられる、彼らの大将同士の関係性を、そのまま拡大したものだった。

 

「ふははは! いいぞいいぞ!」

 

 狂乱する声を上げるのは、ゼットンの王である宇宙恐魔人アーマードゼット。

 彼と激突を繰り返すのは、ギャラクトロンたちを統括するラストジャッジメンター・キングギルバリス。

 

 バリスルーチェと呼ばれるバリアを何重にも張り巡らし、無数の砲口から数え切れないビームやミサイルを放つキングギルバリス。そのバリアを何度も砕き懐まで潜り込みながら、アーマードゼットは自らの槍さえ弾き返すキングギルバリスの手応えに歓声を上げていた。

 

 そんな彼が、キングギルバリスの弱所を探すように距離を取れば――その隙を狙ったように、ラストジャッジメンターの射線が、消耗して棒立ちとなっているスカルゴモラを向いて来る。

 そうして放たれた光線の前に、アーマードゼットはテレポートで割り込んで、スカルゴモラに猛威が届くのを阻んでいた。

 

「何度も言わせるな……貴様の今の敵は、この私だ!」

 

 結果的に。今は、兄の仇に命を救われるような格好となっていた。

 ……だが、違う。それは別に、あの魔人が改心したとか、実は善良な存在だったとか、そういうわけではない。

 あれはただの、戦闘狂だ。

 

 その判断基準は、戦闘力にしか置かれていない。より強き者と性能を競い合うために、相手の都合を無視し、あるいは意図的に妨害し、ひたすら闘争に身を投じる。

 強き者から順に、という筋金入りだから、今は暴走したギルバリスに向かっているだけで――仮に勝利したとしても、あの中に囚われているライハの命になど、何の呵責も感じることなく、徹底的に破壊することだろう。

 

 ……それは、このメタフィールドを維持する己も殺された後。再びウルトラマンジードたちと邂逅した時も、同じだろう。

 シャイニングスタードライブは、ウルトラマンゼロをしてエネルギーの消費が無視できない。仮に多少回復できたとしても、何度も使えるものではなく――そもそも前言のとおり、奴は二度目を許しはしないだろう。

 次にまた、ウルトラマンジードが、兄の朝倉リクが殺されてしまえば。もう、時間を戻して蘇らせることもできはしない。

 

 リクだけではない。妹であるサラも、大切な恩人であるアサヒも、頼もしいウルトラマンゼロも、他の皆も。

 誰も彼もの命が、この圧倒的な暴力の前では保証されない。

 だから、ここで何とかしなければならない。宇宙恐魔人ゼットを無力化し、ラストジャッジメンター・ギルバリスを止めて。

 そして、ヤプールとの戦いを制したあの日のように、ライハをこの手に取り戻さなければ。

 

 ……急ぐのはまず、前者だ。

 ギルバリスとの戦いは、他の仲間とも一緒にできる。だが、レゾリューム光線を持つゼットだけは、ウルトラマンたちと戦わせるわけにはいかない。

 

 何とか、この状況を利用してでも、恐魔人ゼットを倒さなければ――と、ふらつきながらもそう考えていたスカルゴモラの耳に、飛翔音が届いた。

 見れば、対決していたゼットンを屠ったらしきギャラクトロンの一体が、その腕の装備を飛ばして攻撃して来ていた。

 

「(――っ!)」

 

 ……本来の力を保てていれば、きっと遅れは取らない相手。

 だが、尻尾を切られ、散々アーマードゼットに痛めつけられた今のスカルゴモラには、充分以上の脅威が、そこへ迫っていた。

 ギャラクトロンの砲撃を浴びて、悲鳴とともにスカルゴモラが倒れ込む。

 その時には、蓄積したダメージの超過で、遂にレイオニックバーストを維持できなくなった。

 

 絶体絶命の危機に追撃がなかったのは、別のギャラクトロンを破壊したゼットンの一体が、スカルゴモラを狙うギャラクトロンに戦闘を仕掛け、攻撃を中断させたおかげでしかなかった。

 

「(……く、ぅっ……!)」

 

 一度は兄を殺し、そしてこれからまた殺すだろう仇によって、命を繋がれている。そんな現状で、己の無力さに堪えきれないほどの悔しさを覚えながら。

 それでも、メタフィールドを解除するわけにはいかないと。レイオニックバーストの次は、そちらを維持する体力の限界が近づいたスカルゴモラは、それでも執念で意識を保っていた。

 

 ……自分が、あの魔人を倒せなくとも。

 せめて、キングギルバリスとの戦いで、少しでも奴が消耗するまでは、死ねない。死ぬわけにはいかない。

 自分が死んで、メタフィールドが維持できなくなってしまえば、兄は、ジードは、今度こそ――!

 

 

 

 そんな風に、死を忌避する想いが最高潮に高まった、その時。

 

 ……まるで、その生存への意志の強さを、認めるように。

 

 幾度となく――位相の違うこのメタフィールドの中にまで、降り注いでいたあの異常な稲妻が、今度こそ。

 しかも連続して、スカルゴモラの体に突き刺さっていた。

 

「(あ……っ、あぁぁぁあああああ――っ!?)」

 

 次々と降り掛かる雷を通じて、流れ込んで来る。

 底知れない――否、底『無』しの、暗黒のエネルギー。

 

 それと同時に、湧き上がる――遠からず、自らが消滅するという悍ましい確信。

 

 家族を守れず……そして生まれたあの日、タイガに殺されかけたみたいに。ひとりぼっちで、誰からも切り離されて、無意味に消えてしまうという絶望が、スカルゴモラの魂を包み込む。

 

 ――嫌だ。嫌だ、イヤだ、いやだ嫌だイヤだ!

 

 自身が消えてしまう、という恐怖とともに。まさに今、自らの意志や思考が暗闇の奥、『無』の領域へと沈められて行くのを感じながら。

 ……ウルトラマンでなくて良かった、なんて。そう思ったことを、後悔する余地すらなく。

 

 ダークサンダーエナジーを被雷した培養合成獣スカルゴモラは、失われたエネルギーを補充して。

 さらに、その衝撃で、未だ開ききれてなかった潜在能力の扉を抉じ開けられたことにより、万全以上の力が、肉体の奥から湧き上がるのを、最後に感じて。

 

 兄であるリクを始めとする、たくさんの愛情に恵まれた朝倉ルカとして育んできた、彼女の意識は。

 ただ、死にたくないという獣の本能によって、覆い尽くされた。

 

 

 

 そして、元より遺伝子の秘めていた可能性と……リトルスターとともに、邪悪なる意志によって密かに彼女へ転写されていた量子情報とが、各々の効果を発揮して。

 培養合成獣に、これまでの限界を越えた、肉体の変化を起こさせていた。

 

 

 

 

 

 

 戦闘不能となった、時空破壊神ゼガンだけを星山市に残して。

 

 ジードとサンダーキラーSの兄妹だけではなく、ゼロも、グリージョと化したアサヒも。ゼロと同化した、伊賀栗レイトまで。培養合成獣スカルゴモラと鳥羽ライハを救うため、仲間たちは隔離された戦闘用亜空間への突撃に、同行してくれていた。

 ……あの魔人と戦うことが、ウルトラマンにとってどれほど危険なことなのかを、重々承知した上で。

 

 そのことに、申し訳無さと同時に、頼もしさと、嬉しさとを感じながら……しかしジードは、リクは、どうしても拭い去れない不安を感じていた。

 

 ……培養合成獣スカルゴモラ自身が宇宙恐魔人ゼットと対決していた、先程とは状況が変わっているはずなのに。

 

 何度、通信による呼びかけを行っても。

 どれほど、思念を繋げるように祈っても。

 

「なんでだ、ルカ……」

 

 突入先である、メタフィールドが維持されているということは。スカルゴモラはまだ、その意志と共に健在であるはずだ。

 なのに……

 

「君の声が、聞こえない……!」

 

 間もなく目の当たりにする、その理由を。

 しかしその時のウルトラマンジード=朝倉リクはまだ、知る由もなかった。

 

 ……自分たちが生きるために待ち受ける、試練のことも。

 

 

 

 

 

 




Cパートあとがき



 ここまでお読み頂きありがとうございました。
 インフレ中ボスラッシュ、いきなりほぼ全員(名前だけの面子を含めて)出揃いましたが、物語的な実質のメインボスはそう、三番手ですね。
 ここからは本作の連載開始以来に、ずっと書きたかった展開となるので、できるだけ早く続きをお見せできるように頑張ります。具体的には連載開始一周年になる、2022年のこどもの日までを目標に。



 以下はいつもの、公式設定の独自解釈・捏造設定についての釈明になります。



・ラストジャッジメンター キングギルバリス

 カプセルナビは次回。イメージ的にはキングジョーブラックとギルバリスのベリアル融合獣亜種。
 またの名をキングギャラクトロンブラック。ゼットンや、『NEO』で最後の敵戦力だったアーマードダークネスと並ぶ、『ウルトラギャラクシー 大怪獣バトル』シリーズのラスボスの一角・キングジョーブラックのハイエンド上位互換とも。
 また、TVのラスボスであるベリアルの後に登場した最強の敵(?)である劇場版ボスのギルバリスを素材にするということから、ある意味ではベリアル融合獣の頂点――なのかも……?

 ちなみに「集めた戦闘データでバージョンアップし、数倍にパワーアップ」は『大怪獣バトル』で実際に作中に出てきたキングジョーブラックの設定が元ネタとなります。それをオマージュしたキングギルバリスの強化に使う大量の再現データを送っていたサイバー惑星クシアの破片(セクター)というのはもちろん、(裏設定ですが)『惑星ウルバト』を想定しております。そんな感じでペダニウム製の暴走ロボが、と誰かに罵らせたかったものの本編中では断念しました。

 行動原理については、一応平和のために『不要な』と冠しているので、基本的な思考ルーチンは『ウルトラマンオーブ』におけるギャラクトロン初号機と類似しているようにも見えるムーブをさせてしまいました。単に抹殺の優先順位がジードの妹>初見の強敵だっただけの可能性もあるので、お好きなように受け取って頂けると幸いです。
 ライハをさっさと殺していないのは、サイバー惑星クシアが滅びたことでデータ化からの解析が上手くできないため、生きている彼女から物理的にギルバリスが滅びてから現在までの情報を絞り出そうとしたから……ですが、剣持ちライハがナオミキャップとは桁違いに強いのでコードによる拘束とか全然できず、経過観察という想定です。

『ウルトラマンZ』での再登場時との整合性については、今後の展開を含めてまた追々。





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