お世話になっております。
本日はこどもの日。ちょうど、本作の連載1周年になります。
『ウルトラマンジード』を始めとする原作シリーズの魅力と、皆様の応援のおかげでここまで至ることができました。
引き続き完結を目指して励む所存でありますので、どうかこれからもお付き合いくださると幸いです。
……私の記憶の最初にあるのは、生まれてすぐ、殺されかけた思い出だ。
私は強大な力を持って生まれた怪獣だった。悪意の有無に関わらず、その力を制御できないのなら、多くの命を消滅させてしまうほどの。
それを止めに来た、金色の鬼――ウルトラマンに、私は徹底的に痛めつけられて、しかし闇の力で暴走した彼に、容赦なく命を奪われた――はずだった。
「――君の笑顔を取り戻す」
その次の記憶は、そんな優しい言葉だった。
その時、自分が何者かもわからなくなっていた私を拾ってくれた人物は、同じ遺伝子を持つ兄だと名乗った。
薄々、自分が人間ではないことを察していた私の兄――彼もやはり、人間ではなかった。
兄は、悪の血を引くウルトラマンだった。
その、悪である父を討った兄が、今度は私そっくりな怪獣を殺すのを見て、私は発狂して、彼を傷つけて。
街中の人々が、ウルトラマンに、怪獣を殺すことを願っていた。
あの金色の鬼の偽物まで現れて。私は怖くて、辛くて、耐えられなくて。逃げた先へ、兄が追ってきた。
知らないうちに、父の血の力で人間に化けていただけの私を……兄が、妹に渡した名前で呼んで。
それでも、彼を信じられなかった私が、この先もずっと辛くて怖い思いをするぐらいなら……もう、ここで殺して欲しいと。楽にして欲しいと、自棄になって叫んだら。
兄は初めて、激怒した。
彼も、これまで、たった一人の異物として、人の優しさを感じながらも、一方でどうしても拭い去れなかった孤独に苦しんできたのだと。
皆の世界を壊そうとした、それでもたった一人の肉親であった父を、その手で殺したことだって、平気であるはずがなかったのだと。
なのに、そんな自分に向かって。やっと会えた妹のくせに、よくも殺してなんて……、と。怪獣だからなんだって言うんだと、泣きながら叱られ、励まされた。
――絶対に、諦めるなと。
「『
そんな想いが、君の名前には込められているんだ」
彼が私にくれた名前へ込められた、優しい願いまで伝えてくれて。
「もしも世界がルカを傷つけるのなら、僕がルカを守る!
そしてもしも、ルカが世界を傷つけてしまいそうな時は、僕がルカから世界を守る!
いつか、ルカが安心して笑って過ごせる居場所が見つかるその時まで、全部僕が守ってみせる!
……だから……、だから、もう、殺してなんか言うなよ……っ!」
そして、力の限りに抱き締めて貰って。
……こんなどうしようもない私にも、安心できる居場所ができた。
それから。私の姿が拭い難い苦しみを与えるはずなのに、誰より優しくしてくれる、尊敬できる師匠と出会えた。
他にも、兄や私を支えてくれる友達や、導き、力を貸してくれる仲間たち。
兄に向けるのと変わらない、温かな慈愛を向けてくれた名付け親や、姉代わり。
たくさんの愛情と出会い、助けて貰ったから。私はやがて、生まれたての私を殺しかけた、金色のウルトラマンとも和解できた。
そして、私達兄妹を殺すために造られた妹とも、仲良く一緒に暮らせるようになった。
その他にも、もっともっとたくさんの人々と関わって、時には様々な悪意ともぶつかりながらも、負けないで。
私はきっと、立派な花を咲かせるために、力の限り生きて来れたのだと想う。
それは全部、兄が居てくれたから。
あの日、私のことを絶対に諦めないで、笑顔を取り戻してくれたから。
……だから、もし。
私が消えたら、兄が殺されてしまうのなら。
もう、このまま兄とも、他の誰とも会えず、孤独のまま消えてしまうことになるのなら。
……私は絶対に、消えたくない。
私を脅かす、全てのものを――逆に、破壊し尽くしてしまってでも。
暗黒の稲妻に打たれた後、何もない『無』に包まれ、自我が消え去る寸前にある私は、それが。
皆の共存する世界から駆除するしかない怪獣の理屈だと、気づけなかった。
ただ、恐怖のまま、見境なしに――そんな者が持つには強過ぎる力を、振り回し始めていた。
◆
通常の世界から位相を逸した、戦闘用不連続時空間、メタフィールド。
不毛の大地が延々と広がるその亜空間の中で、無数の怪獣が殺し合いを繰り広げていた。
……いや、殺し合いという表現は、不適切なのかもしれない。
暗黒魔鎧装アーマードダークネスの闇から産み出された、宇宙恐竜ゼットンの複製体。
多元宇宙から招集を受けた殺戮兵器、シビルジャッジメンター・ギャラクトロン。
戦場を埋め尽くすのは、そんな命も心も持たない人形ばかりで。そんなモノ同士で、勝手に壊し合っているだけだった。
後者を統率する巨大人工知能ギルバリスさえも、一種の再現体に過ぎず、オリジナルからして、生命体ですらなかった。
故に、この空間に存在する命は、三つ。
ゼットンを使役する彼らの頂点にして、暗黒の鎧を身に纏った、宇宙恐魔人アーマードゼット。
ギルバリスの戦闘形態、ラストジャッジメンター・キングギルバリスに――その前身となったキングギャラクトロン
そして、ギルバリスが抹殺を図り、ギルバリスと戦うために恐魔人ゼットが庇う、培養合成獣スカルゴモラ。
そのスカルゴモラに、暗黒の稲妻が次々と降り注ぐのを、ライハはギルバリスが操縦室に残したモニターで目にしていた。
「……ルカ!」
留花。朝倉ルカ。
同じ血を引く培養合成獣に、ウルトラマンジードが兄として贈った名前で――彼女を共に生きる家族の一員だと想うライハは、弟子を心配する声を発していた。
既に、スカルゴモラは瀕死に近い状態だった。この亜空間は、彼女自身の生命力を変換して創られている異世界。培養合成獣の桁外れの生命力で長時間の展開を可能としていたが、それが揺らぎ始めていた。
そこに、次々と、明らかに尋常ではない雷が突き刺さったのだ。
囚われた我が身以上に、その生命を案じるライハだったが――そこで異変に気づいた。
泡立ち始めていたメタフィールドの崩壊が、止まった。
雷はスカルゴモラを灼くことなく、その全身を黒い靄で覆い尽くした。
そして、暗黒のエネルギーに包まれたスカルゴモラは、死に瀕していた肉体が嘘のように力強く立ち上がり、火山雷の如き咆哮を轟かせた。
それを合図に、培養合成獣のシルエットに、変化が生じた。
二列の背びれのように背負っていた都合八本の背中の角が、翡翠の結晶体へ変化して巨大化。さらにその中間となる箇所に三列目の背鰭が発生し、鉱石の剣山を背負うかの如く変化する。
……まるで、彼女の父、ウルトラマンベリアルが怪獣化した姿、アークベリアルのように。
さらに両腕が、一回り肥大化。上腕部にさらに棘が生え、大きくなった掌には、これまた剣のように鋭い爪を五指から伸ばす。
切断されていた尻尾が、生え変わる。より長く、より硬質な皮膚を纏い、先端には鋭く尖った結晶体の塊を備えて。
三日月型だった頭部の大角も、その形から、さらに背部へ稲妻型の鋭い刃物のように巨大化し、額の角の先端部もさらに鋭く、やや反り返って伸長した。
そして、胸部のカラータイマー状の結晶体の下から、周囲の赤い紋様の一部と融合するように、新たにY字型の赤い結晶体が迫り出した。
「……ルカ?」
あまりの変貌に、思わずライハはもう一度、その名を唱えた。
全体的な印象として、元がそうだとはわかっても……今の彼女は、スカルゴモラから明らかに逸脱した、黒い姿をしていたから。
唯一変わっていない赤い目も、普段より濁って見えて――そこに宿る恐怖と敵意以外の感情が、伺い知れなくなっている。
そして変貌したスカルゴモラの、怯えたような咆哮を合図に。メタフィールドまでもが様相を変えた。
荒涼としていた大地に、次々と――彼女が背負うのと同じ、翠色の結晶体が、地表を突き破って現れたのだ。
それらの一部はそのまま、噴火の勢いで空へ打ち上げられ……そのまま火山岩の如く、メタフィールド内で動く全ての者に降り掛かった。
「――何!?」
結晶体の刃が最も多くが集中したのは、宇宙恐魔人アーマードゼットだった。
次いで、内部にライハを囚えたキングギルバリス。その他は誤差でしかない。
雨の密度で降り注ぐ結晶体を、アーマードゼットはライハとの攻防で修得した華麗な槍捌きで一掃する。キングギルバリスも、その装甲の強度だけで跳ね返す。
だが、ゼットンやギャラクトロンのうち、対応が遅れた個体や、運悪く降り注ぐ数が多かった者は、矢の雨に貫かれ、酷ければ活動を停止していた。
「その姿……いや、その気配は!」
強敵の一騎討ちの最中。その戦いを成立させるためだけとはいえ、庇っていた相手から不意打ちを受けた恐魔人ゼットは、しかしそれに憤る気配を一切見せなかった。
「これこそ……あの時私が感じた、かつてなき強き者の気配だ!」
……ルカがこんな姿になったのは、これが初めてだというのに。
魔人が奇妙な歓声を上げる最中にも、変貌したスカルゴモラは怒涛の勢いで前進して来ていた。
一直線に進む、その進行ルート上に存在した一機のギャラクトロン。結晶の矢を被弾し、転倒していたその白亜の装甲を、スカルゴモラは避けもせずに足蹴にする。
それだけで、宇宙恐竜ゼットンと殴り合いを成立させるギャラクトロンが、ちっぽけな民家のように踏み潰され、砕け散った。
さらに、それぞれの主を守ろうとするように、ゼットンやギャラクトロンがスカルゴモラの進行ルートへと割り込む。しかし触れた瞬間に弾かれて、何の足止めにもならずにアーマードゼットと、キングギルバリスの下まで強化スカルゴモラが急迫する。
そして身構えた二体を、スカルゴモラは諸共に撥ね飛ばした。
「きゃぁあああっ!?」
その突進は、ほとんどの慣性を無力化するギルバリスの操縦室に居るライハでも、内壁に身を打ち付けるほどの威力を誇っていた。
「……良いぞ!」
その直撃をダークネストライデントの柄で防いだアーマードゼットは、打ち上げられてすぐテレポートして。
装甲で凌いだキングギルバリスは、今回の復活で新たに獲得した分離合体機能で、自身の機体を分割して再構成することで、受け身を成功させながら、スムーズにその砲口をスカルゴモラへと集中させた。
恐魔人ゼットが機関砲の如く放つ、一兆度の火球。
キングギルバリスがギャラクトロンたちと一斉に照準する、集中砲火。
その全てが、変貌したスカルゴモラ一体に注がれて、その姿を爆煙の中に消し去って行く。
立ち上がったライハの心配は、全くの無用だった。
黒煙を裂いて、元よりも長く長く伸長したスカルゴモラの、傷一つない尻尾が、飛び出していた。
直撃したギャラクトロンを砂糖菓子のように粉砕したテールハンマーは、そのまま三度ほど閃いて、次々とゼットンやギャラクトロンを薙ぎ払う。曲りなりにも生体を模していた複製ゼットンの中には、その衝撃で破裂するものまで現れていた。
凄惨な光景に、思わずライハが息を詰まらせていると。続いて、尾の動きに合わせてこちらを向いた背中の輝きが増して、スカルゴモラが背負っていた剣山のような結晶体が、一斉に伸びた。
輝く槍となって伸びた背の角を、アーマードゼットは容易く受け流す。キングギルバリスも、バリスルーチェと呼ばれるバリアを展開することで、自身に迫っていた一本を、ライハの眼の前で受け止める。
だが、通常のゼットンやギャラクトロンのバリアと装甲では持ち堪えられず、弾かれ、あるいは本体ごと貫通される者も居た。
そうして貫かれた個体は、そこから青く透き通ったかと思うと、分子構造が崩壊して粒子状に散らばった。……ネクサスのリトルスターから引き継いだ、分子分解効果を、あの光る背鰭は帯びていたのだ。
その恐ろしさに気を取られていると、スカルゴモラは彼女の正面に残存していたゼットンとギャラクトロンへ向けて、口から赤黒い光線を放っていた。
吸収を試みた先頭のゼットンも、魔法陣バリアを展開した後続のギャラクトロンも一纏めに貫いた光線は、そのまま――発射口が正面を向いたままだというのに、途中で蛇のように軌道が曲がって、不意を襲われた形となった、彼女の右側の残党たちも灼き尽くした。
それで一度途切れたかと思えば、一息挟んだ程度のインターバルで、第二射。やはり準備不足だった反対側の残党を、アリクイの舌の如く舐め上げて殲滅すると、いよいよこちらを向いてきた。
「ぬんっ!」
前に出たアーマードゼットが、自身の光線吸収能力を発動。圧倒的な威力かつ射角が自由な曲がる熱線を、それでも吸い込みきってしまう。
「返すぞ」
そうして、自身の力を上乗せした波状光線・ゼットブレイカーに変換して放ったのに対し――スカルゴモラは、瞬時に結晶状のバリアを展開した。
それに触れた途端、ゼットブレイカーは鏡に当たった光のように反射された。
「何!?」
咄嗟の事態に、アーマードゼットはゼットシャッターで自身のバリアを形成。しかし、一秒程度の足止めで貫かれ、直接光線を浴びることになる。
直撃を許したゼットは、それが光線であることに救われた様子だった。シャッターのみならず、光の力を削減する暗黒魔鎧装が、その特性と頑強さで受け切れたことで、彼は事なきを得ていた。
そこに、スカルゴモラの曲がる熱線の、第三射が襲いかかる。
「舐めるな!」
再びその光線を吸収したアーマードゼットは、再度波状光線を発射。先と同じようにスカルゴモラの展開したバリアに跳ね返され、それを再び吸収し、さらに強化して撃ち返す。
対して、変貌したスカルゴモラは、癇癪を起こしたようにそのまま前進し、その光を浴びて――硬い皮膚だけで、無傷で掻き分け突っ込んで来た。
「ふはは、何という強さ!」
絶望的なはずの脅威を前に、魔人は心底嬉しそうに笑っていた。
微塵も臆さずにテレポートを発動した魔人は、前進するスカルゴモラの背後を取る。
予知していたようなタイミングで、スカルゴモラの尾が閃く。
だが、その対応を既に予測していたのだろうアーマードゼットは、連続の転移でスカルゴモラの前に再出現する。
そして、その前進の勢いを取り込む必殺の刺突を、スカルゴモラの胸の結晶体に叩きつけた。
「――ルカ!」
流石に心配するライハの前で、金属音を奏でたダークネストライデントが宙を舞った。
カラータイマー状の結晶体には、傷一つなく……その硬度へぶつけた力の量に、宇宙恐魔人ゼットの握力が、耐えきれなかったのだ。
「くっ!」
前進を続けるスカルゴモラの腹を蹴って背後に跳ぶ、と見せながら。
テレポートを発動したアーマードゼットは、再びダークネストライデントをその手に掴み、立ち上がり――そこで、急に動きが止まった。
「これは……転移、できぬ!?」
スカルゴモラの変わらぬ赤い角が、煌々と輝いていた。
それで、彼女の戦いをずっと見てきたライハにはわかった――怪獣念力だ。
桁外れに強化された彼女の念力で金縛りにされた宇宙恐魔人ゼットは、最早身動きもテレポートも叶うことなく。スカルゴモラの目が怪しく光ったかと思うと、魔人はそれこそ転移に等しい勢いで、破壊神の如き怪獣へと引き寄せられ、叩き伏せられていた。
「がは――っ!?」
吐血するアーマードゼットに、もう一撃。大地を割る拳は、超高熱を纏って大気をも爆ぜさせていた。
「一兆度の……拳だと!?」
ゼットン種のお株を奪うその二撃で、魔人の身を包むアーマードダークネスが半壊した。
剥き出しとなった、黒と銀を基調とする宇宙恐魔人ゼットの胴体を切断しようと、今度は拳ではなく爪を伸ばしたスカルゴモラが、右腕を振り被る。
そこで、赤い角を生やした頭部が揺れた。
同時に足元の大地を穿った攻撃の主は、ライハを乗せたキングギルバリスだった。隙有りと見たのか、それとも魔人が倒されてしまえば、次は自分の番だと悟ったからか。
キングギルバリスの砲撃は、やはり先のように――変貌した今のスカルゴモラに傷を与えることはできなかったが、それでも頭部を叩き、同時に足場を崩したことで一瞬、集中を乱すだけの効果を発揮したらしく。アーマードゼットは、念力の拘束からテレポートで脱していた。
「高重力……そして、毒とウイルスか」
一旦、キングギルバリスと並び立つような位置に再出現した宇宙恐魔人ゼット。微かに爪で引っかかれ、傷の程度の割には酷く拉げた自らの左腕が急速に腐敗し、穴だらけになって崩壊するのを見るなり、彼はダークネストライデントを内向きに旋回させていた。
「まだ生きているか、あの娘の師よ」
かつて、ウルトラマンゼロビヨンドを倒したウルトラマンベリアルアトロシアスの、デスシウムデストラクトをライハが想起していると……己の左腕を肩から切り落とし、全身の汚染を免れた宇宙恐魔人ゼットが、キングギルバリス越しに呼びかけてきていた。
「感謝するぞ。あれほどの強き者を育ててくれたことを!」
「違う……っ、あんなのは、私の教えた強さじゃないっ!」
――ライハが教えたのは、ルカを、家族を守るための力だ。
あんな、あんな泣きながら、苦しんで揮うための力ではない!
そんな想いから否定するライハの声など、そもそも操縦室の外に漏れすらしない。
元より返答など求めていなかったのだろう宇宙恐魔人ゼットは、片腕の喪失で些かも戦意を衰えさせることなく、闇の力でアーマードダークネスを復元すると、残った右腕にダークネストライデントを構えていた。
「行くぞ!」
そして、全身の力を込め、自らを矢のようにして突撃した宇宙恐魔人ゼットに対し――スカルゴモラは、両腕を前に突き出し、そこから黒い光線のようなものを放った。
黒い束は、暗黒の鎧に守られた宇宙恐魔人を捉え――光を弾くはずのその鎧を、瞬く間に変形させた。
「……異常重力、感知」
キングギルバリスの計測でわかった。スカルゴモラが放ったのは光線ではなく、コヒーレント化された超重力波なのだ。光線のように見えるのは、D4レイが光線に見えるのと同様に、空間に起きた異常を、人間がそのように錯視しているからに過ぎない。
……どうして急に、スカルゴモラがそんな力を身に着けたのかは、ライハには見当もつかなかったが。
微かな戸惑いの間に、アーマードダークネスの闇の加護を易々と突破した遠距離攻撃は、容易く宇宙恐魔人を呑み込んで、その姿を彼方にまで追放していた。
「――っ!?」
それを見送った時には、ライハは上下へ揺れる振動に襲われていた。
宇宙恐魔人ゼットを葬りながら、スカルゴモラが片手間で伸ばした尻尾が、キングギルバリスを頭上から打ち据えていたのだ。
自動で展開されたバリスルーチェで持ち堪えるも、二度、三度と尾による打撃は続く。重力波の放射を止めたスカルゴモラがこちらを向くのに合わせて、キングギルバリスは一斉発射バリスダルティフィーを再度仕掛けるが、今更効果が挙がるはずもない。
しかし、キングギルバリスが逃亡しようとしたところで、遂にスカルゴモラの尾がバリスルーチェを粉砕し、キングギルバリスを上から抑えつけた。
「うぁあああっ!?」
内部のライハも、悲鳴を上げることしかできない。
キングギルバリスはそのまま、さらに何度と装甲に尾の先端を叩きつけられ、遂に串刺しにされる。そのままスカルゴモラが手前に引けば、抗う余地なく引き寄せられる。
その最中にも、呼吸する程度の頻度で、あの赤黒い熱線をスカルゴモラは口から放つ。曲がった射線で砲身に潜り込めば誘爆を引き起こし、キングギルバリスの強靭な外装を削ぎ落としていく。
引き寄せられたキングギルバリスが、変貌したスカルゴモラを押し退けるように巨大な両掌を前に出す。スカルゴモラはそれを掴み、軋ませながら捻じ曲げていく。
ならばと、変異する前の彼女の体に穴を穿った額の角・バリスコルノーラで牽制を試みるキングギルバリスだが、ダークネストライデントの刃と同様、異常な硬度の皮膚に止められて終わる。
その角に噛み付き、徐々に砕きながら。変貌したスカルゴモラは、頭と両腕と背中を抑えられ、逃げ場のないキングギルバリスの機体に、何度も蹴りを叩き込んで来た。
……その度に、ライハは操縦室内で彼方此方に体をぶつけ、傷を負っていた。
「ルカ……」
呼びかけに、割れた画面の向こうに映る、変わり果てたスカルゴモラは応えない。
ずっと錯乱したように、これほどの力を発揮しながら、怯えたように吠え、偏執的な攻撃を続けるだけだ。
そして遂に、スカルゴモラがキングギルバリスの額を噛み砕き、両腕をもぎ取った。
この状態に物質置換する前の、キングギャラクトロンMK2よりも酷い有様となったキングギルバリスを前に、しかしスカルゴモラはまだ満足していない様子だった。
狂乱したように吠えながら、変貌したスカルゴモラはその右腕を大きく振り被る。
「あ……っ」
……それが、あの日。究極超獣に囚われたライハを取り戻した、培養合成獣スカルゴモラの救いの手と。
七年前、ライハから理不尽に両親を奪った、ベリアル融合獣スカルゴモラの魔の手と。
どちらもがダブって見えたライハは、果たしてその手の意図がどちらであったのかを確かめる前に――訪れた衝撃に頭を強く打ち、意識を喪失していた。
◆
「……これは」
既に展開されたメタフィールド内の、次元を割って。
究極融合超獣サンダーキラー
「酷い……」
湊アサヒの変身したウルトラウーマングリージョが、思わずと言った様子で声を漏らす。
空から見下ろすメタフィールドの、一面に。宇宙恐竜ゼットンの惨殺死体と、シビルジャッジメンターギャラクトロンの残骸が転がっていた。
「……あれは!」
そこで、ウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルが見つけたのは、翡翠の――エメラル鉱石を想わせる豪奢な背鰭を負った、一匹の怪獣だった。
角の形が違う。腕の大きさが違う。尾の長さも、先端も――カラータイマーの、周辺も。
だが、変わり果ててしまっていても。その姿形は、間違いなく。
「……ルカ、なのか?」
ジードの呼びかけを無視して、その変貌したスカルゴモラは長く伸ばした尾で、何かを貫き、引き寄せていた。
そのまま凄まじい勢いでスクラップにされて行く有様に、かつてその脅威を直接味わったジードは、その名と姿がすぐには結びつかなかった。
「あれはギルバリス……じゃあ、あの中にライハが!」
それを、救け出そうとしているのか?
星山市でジードたちが退けた数の、軽く倍は転がるゼットンとギャラクトロンの残骸。
絶望的な再戦を覚悟していたのに、姿が見えない宇宙恐魔人アーマードゼット。
そして、現在進行形でギルバリスを解体している様子を踏まえれば――この場の惨劇を引き起こしたのが、変わり果てたスカルゴモラであることは明白だった。
だが、全ての脅威を無力化し、危機を乗り越えたはずの妹の声は……初めて出会ったあの日。リクが、ジードが怖がらせてしまって、彼女が狂乱していたその時と、あまりにもよく似ていた。
〈リク。近づいてはいけません〉
だから、もう大丈夫だと、言ってあげようとして。
妹に歩み寄ろうとしたジードを、レムが心なし鋭い声で制止していた。
「……レム?」
〈今のルカは……明らかにダークサンダーエナジーの影響を受けています〉
ダークサンダーエナジー。
虚空怪獣グリーザと呼ばれるナニカが発生源の、黒き稲妻状のエネルギー。
それを浴びた怪獣は強化され、またウルトラマンを分解する力を纏う。
先程、シャイニングスタードライブで巻き戻される前の時間軸で、ジード自身を容易く殺害した宇宙恐魔人ゼットの驚異的な戦闘力も、それが一翼を担っていたという。
だが、レムが危険視したのは、そこではなく――
〈ダークサンダーエナジーを浴びた怪獣の多くは、自身が無に消されるという恐怖と、暗黒のエネルギーによって正気を喪い、凶暴化。見境なく、全てを破壊しようとすると、先程提供されたデータにありました〉
「な……っ」
〈……まさか、メタフィールドにまで届くとは、想定外だった〉
苦々しい声で割り込んだのは、そのデータを転送してくれた張本人、AIBの研究者であるゼットン星人ペイシャン・トイン博士だった。
〈ギルバリス復活もそのせいらしいが……今のルカに近づけば、おまえらも攻撃されるぞ。気づかれる前に逃げろ〉
〈そんなっ!〉
星雲荘から、ペガが悲痛な声を発していた。
「お兄さま……」
同時、隣から生じた怯えたような声は、触手の間に虹色の被膜を広げ、滞空するサンダーキラーSの物だった。
かつて、彼女がまだ、他者の痛みを知らなかった頃。その振る舞いが原因で姉の怒りを買い、暴走したレイオニクスの本能によって、危うく殺されかけたことがあった。
姉の優しさで払拭したはずのそのトラウマが、他ならぬそのスカルゴモラに変貌で蘇った様子の末妹に、ジードは小さく頷きをかけた。
「サラは、逃げてて。僕は……ルカを元に戻して、ライハを助ける!」
「――おいっ!」
そうして力強い宣言を残し、ジードは暴れ狂うスカルゴモラへと飛翔した。
ゼロの制止も無視して、スカルゴモラの正面に降り立ったウルトラマンジードは、振り下ろされたその爪にギガファイナライザーを差し込んだ。
「やめるんだ、ルカ――っ!?」
そして、触れた途端に呆気なく弾き飛ばされた。
尋常ではない膂力だった。対ビースト抗体の効果を受ける前の、滅亡の邪神ハイパービースト・ザ・ワンをも凌ぐ、まさに無双の剛力。
「リクさん!」
グリージョから心配の声が届くが、幸いにして、ジードは投げられた以上の痛みを受けることはなかった。
ジードと接触したことにすら気づかないのか。変貌したスカルゴモラはこちらに興味を示さず、粉々にしているギルバリスの残骸へ、さらに攻撃を加えようとしていた。
「ルカ、落ち着いて……!」
そこでジードが放つのは、フルムーンネオヒーリング。かつて、初めて彼女が暴れた時、正気を取り戻させた癒やしの波動の、完全上位互換。
レイオニクスの本能に呑まれ、泣きながら許しを乞う妹を、ルカ自身も望まぬうちに殺めかけた事態すら収めた慈愛の光。
切なる願いを込めたそれは、暗黒の稲妻がスカルゴモラに纏わせたエネルギーを前に、何の効果も果たせず霧散した。
「そんな……っ!?」
ジードが戸惑う間に、ギルバリスはいよいよ、散乱する鉄屑と化していた。
「ルカ、僕の言うことが聞けないのか!? ……僕のことが、わからないのか!?」
異様な事態に圧倒されたジードが呼びかける間、鉄屑の中からふよふよと浮かび上がったのは、かつてジードが切り裂いたギルバリスのコアそのもの。如何にして復活したのか、完全な姿を取り戻していた。
ただ、完全なのは見た目だけなのか。
それとも、赤き鋼ギガファイナライザー以外では破壊できないとされた惑星クシアの予想を、培養合成獣の力が越えたのか。
スカルゴモラが口から放った赤黒い熱線が、ギルバリスのコアを貫いて――呆気なく、爆発四散させてしまっていた。
……その残滓が流れ出す、黒い穴がメタフィールドに開いたことを、気にする余裕はその場の誰にもなかった。
スカルゴモラが再び、ギルバリスの残骸に注意を向けて――その中にある、操縦室の筐体を、見つけ出していたからだ。
「……駄目だっ!」
その時ジードは、妹を信じられなかった。
明らかにこれまでの彼女と違うことが、もう充分わかっていたから。
何故自分が、それに執着しているのかをも忘れ果てている彼女の爪に、ジードはギガファイナライザーを打ち付けた。
今度は、上手く進行方向へ衝撃を受け流せた。何とか外側へ弾かれずに、おかしくなったスカルゴモラに先んじて、ジードは操縦室を掴めていた。
そして一目散、空へ飛んで逃げた。
……ルカは、たびたび気にしていた。ウルトラマンでも超獣でもない彼女は、兄妹で唯一、空を飛ぶことができないと。
だが、今のスカルゴモラは違っていた。
咆哮する彼女の、エメラル鉱石のような背鰭が、増殖し、膨張。
巨大な結晶体に包まれるような形に変化した彼女は、何と――その巨大な構造を、何らかの飛行装置にしたのか、無重力であるかのように宙へ浮いていた。
「嘘だろ……っ!?」
そして、UFOのように飛んで追いかけてくるのを見て、ギガファイナライザーと操縦室で両手の塞がったジードは悲鳴を漏らしていた。
「――レム、ルカはどうなっているんだ!?」
〈……ゴモラやレッドキングにある記録同様、ダークサンダーエナジーの影響で、強制的なEX化を遂げたものと思われます〉
EXゴモラ。確か、ルカの遺伝子が、最強の合成怪獣を目指したものであるとレムが推測した際に見た、極一部のゴモラが外的要因で変身可能とした強化態。
レイオニクスの力による、その怪獣に上乗せする強化とは別の――その怪獣という枠組み自体を変えてしまう、戦闘に特化した進化。
〈しかもルカには、戦いを乗り越えるために自己進化する遺伝子があります〉
忠告を無視して飛び出した結果、逃げながらも徐々に距離を詰められているジードの疑問へ、レムはいつもどおり淡々と――しかし、心なし早口に聞こえる調子で答える。
〈戦いで追い詰められてもルカが諦めず、細胞が変異を試みていたところに、ダークサンダーエナジーの後押しが不足を補った結果が、この姿なのかもしれません〉
越えるべき脅威――宇宙恐魔人アーマードゼットと、ラストジャッジメンターキングギルバリスをその仮想敵として、培養合成獣の遺伝子が進化した……?
「でも、前は! 戦闘中に、そこまでの進化はできないって……!」
問い返す最中に、スカルゴモラが追いついた。
咄嗟に避け、突進を躱すも――当然のように方向転換し、再びスカルゴモラが迫って来る。
ジードはただ、逃げ惑うしかできない。
〈そのはずでした。ですが、ネクサスのリトルスターを宿した時期から、ルカの自己進化は私の予測を頻繁に上回っています〉
〈……エナジーコアの発現からも、どう見たってそのネクサスの影響が出ている〉
危機的状況での会話の最中に、ペイシャン博士も割り込んだ。
〈今のルカは、明らかに本来のEXスカルゴモラじゃない――ネクサスの影響を受けた、スカルゴモラ
ペイシャンが名付けたところで、迫り来るスカルゴモラNEXが吠えた。
いよいよジードが攻撃を受ける、その直前――地上から、赤黒い稲妻が昇った。
……逆行前の時間軸で、ウルトラマンジードを跡形もなく消滅させた、その破壊光線は。
今度はジードを捉えず、代わりにスカルゴモラNEXをその奔流の中に呑み込んでいた。
それは、今のスカルゴモラに傷をつけることもできなかったが――その注意を、ジードから逸らさせることには成功していた。
「……そうだ。一度は貴様の兄を奪った闇、忘れられまい」
その兄自身のことは、識別できなくなっていても。
その命を奪った脅威のことは忘れていなかったらしきスカルゴモラNEXに対し、返される敵愾心の強さを心地良さげに受け止め、語りかけたのは。
身に纏っていた鎧を喪い、ウルトラマンのようなカラータイマーを備えた黒と銀の素肌を覗かせた――隻腕の宇宙恐魔人、ゼットだった。
◆
「無事か、ジード!」
スカルゴモラNEXの注意が逸れた隙に、ゼロを先頭とした一行が、ジードと合流していた。
グリージョだけでなく、逃げるように伝えていた末の妹も、心配したように随行していた。
「何とか。だけど……」
複雑な心境で、ジードはゼロの問いに答えた。
そして、異常な状態と化した培養合成獣スカルゴモラから、結果的にでも自身を救った相手へ視線を向けた。
「はぁああああああっ!」
裂帛の気合を上げるのは、時間の逆行でなかったことにされたとはいえ――一度はジードを跡形もなく消滅させ殺害した、宇宙恐魔人ゼット。
彼は自らに迫るスカルゴモラNEXを迎え撃つべく、残された右腕に構えたダークネストライデントにレゾリューム光線と、その身に纏う暗黒の稲妻の力を集合させると、光線として放つことなく刃に纏わせた。
そして、柄の持つ伸長能力と連動させ、破壊力を向上させた伸びる突きとして繰り出していた。
それすら、呆気なく。防ぐ構えすら見せないスカルゴモラNEXの表皮に受け止められ、魔人の握力を越える力で押し込まれ、メタフィールドの大地に潜り込む。
そこに、全く勢いを落とさないスカルゴモラNEX自身が隕石のようにして飛び込んで、彼女が作り出した大地を吹き飛ばす大爆発を巻き起こした。
「生涯最良の日だな」
ウルトラマンたちも息を呑む、カタストロフィを巻き起こすスカルゴモラNEX。
その突進をテレポートで回避したらしき宇宙恐魔人ゼットは、ジードたちと砕かれた大地の中間ほどの高度で滞空しながら、恍惚とした声を漏らしていた。
「おまえ……おまえのせいで……っ!」
思わず、ジードが怒りの声を向けると。宇宙恐魔人ゼットは微かに身を返し、その視線をジードと結んだ。
「……そうか、私のせいか。私があの稲妻をこの星まで導き、おまえたち家族を傷つけたことで、我が同類はあれほどに怒り狂っているのだな」
会話の最中に、地上から光の槍が無数に伸びてきた。
「やべぇ!」
「グリージョバーリア!」
叫んだゼロに引っつかまれて、飛び出しかけていたジードは、何とかグリージョの展開した防壁の中に潜り込めた。
ウルトラマンの中でも特に強力な防御力を発揮するグリージョのバリアは、何度も伸縮を繰り返す光の槍――いや、スカルゴモラNEXの背中の角の穂先をも受け止める。だが、激突の度に圧されて、徐々に高空へと押し上げられていく。
それが幸運だったとジードたちが気づくのは、もう少し後になってからの話だった。
「つまり私は、己の手で――自らの生きる意味と出会えたわけだ!」
一方、角の伸縮の軌道を見切ったように飛行し、連続のテレポートを挟んで回避しながら移動する宇宙恐魔人は、歓喜の声を上げながら、地上で待つスカルゴモラNEXへと降下して行く。
……最中、わずかに残っていた複製ゼットンたちの残骸が、消えて行く。
それらが解けた黒い靄を――やがてアーマードダークネスに食われると思われていた魔人は、鎧が残した闇の残滓を逆に全て取り込むと、己の力へと変換していた。
「貴様こそ、私が目指した強さの極致! 私が越えるべき、頂きだ――っ!」
叫ぶ魔人を、今度は赤黒く、螺旋の軌道を描く曲がる光線が出迎えた。
魔人の姿が消え、光線はそのまま上昇し、ジードたちへと迫る。限界を迎えていたグリージョのバリアに代わって、今度は光線吸収能力を持つサンダーキラーSが前に出てくれたおかげで、誰も傷つかずに済んだ。
その時には、転移によって地上まで一気に到達していた宇宙恐魔人ゼットが、伴う余波だけで大地を熔解させ、水を切るように波打たせながら、これまでにない速度で一本の矢と化し、スカルゴモラNEXへ一直線に伸びていた。
〈宇宙恐魔人ゼットの拳、クオーク・グルオン・プラズマ化。中心部の温度が、百兆度を越えました〉
レムが告げた観測結果は、ゼットン種が生み出せる、最高温度の更新を意味していた。
しかも、刹那にも満たない時間だけ、中心の素粒子が一兆度に届いているに過ぎない通常のゼットンの火球とは違う。
分離させず、自らの肉体と繋げて温度を保持し続けることにより、そのエネルギーを天文学的な値にまで増幅した――一兆度の拳を受けた経験から編み出した、宇宙恐魔人ゼットの全力の一撃だった。
超極微小の質量だけながら、宇宙開闢の数十万分の一秒後の温度を、その何万倍もの時間維持したその拳は、超新星爆発にも等しい一撃となってスカルゴモラNEXを打ち抜き、弾けた。
そしてメタフィールドの中が、暗黒の炎が転化した光によって塗り潰された。
続けて発生した、最早判別不能の凄まじい力に、ジードたちは圧倒されていた。
もし、咄嗟にサンダーキラーSが前面の空間を割って、直接向かってくる力の大部分を異次元に流し込む形で逸してくれて居なければ、ジードたちも危うかったはずだ。
……ここがもし、位相を逸した戦闘用亜空間でなければ、地球は確実に消滅していただろう。
それはきっと、ジードの考え過ぎではなく――メタフィールドに存在した大地が、天体単位で木端微塵に消し飛んでいることからも、決して大袈裟な感想ではないはずだ。
そしてその、何もなくなった爆心地では――
……宇宙恐魔人ゼットが、全力全開の代価として、右腕までも失いながら、空に立っていた。
その拳を浴びたスカルゴモラNEXは、昏倒したように何もない空間を漂っていた。
「……見事だ」
だが、メタフィールドが未だ解除されていないという事実。
それが、超新星爆発に等しい一撃を受けたスカルゴモラNEXの、健在を物語っていた。
頬を殴られ、強固な皮膚に火傷と陥没痕を残した培養合成獣スカルゴモラNEXは、それでも戦闘に特段の支障を来していない様子で、咆哮とともに身を起こした。
鎧を砕かれ、両腕を喪失し、全ての力を使い果たしながらも逃げることなく対峙していた宇宙恐魔人ゼットは、清々しさを隠しもせずに彼女へと語りかけた。
「貴様の勝ちだ。我が最強の証明は叶わなかったが――全力以上を出し切った末に、初めて
手前勝手な口上を並べる、造られた命――宇宙恐魔人ゼットに対し、唸り声を上げるスカルゴモラNEXは当然の如く耳を傾けず、ただその力を高めるように、巨大な無数の背鰭を禍々しく輝かせた。
「……いや、待て」
間もなく訪れるだろう死を前に、宇宙恐魔人ゼットが発した制止の言葉は、命乞いではなかった。
「何故、そんな
その声には、当惑と――ここまで常に前しか向いていなかった魔人が生まれて初めて抱いた、微かな悔いの気配が含まれていた。
「ふざけるな――勝者なら、笑え」
魔人が訴えかけたその時、ただ目の前に存在する脅威を排除することしか思考できなくなっている培養合成獣は、恐怖と憤怒に歪んだ、苦痛を訴えるような咆哮とともに、体の前面から圧倒的な光を放った。
光電磁波、重力波、音波……およそあらゆる波動を纏めて放つ破壊の力は魔人の全身を呑み込んで、今度こそ、何もなくなったメタフィールドの空間ごと貫いていた。
そして再び、サンダーキラーSによって開かれた異次元の穴によって、先のゼットの一撃を上回る凄まじいエネルギーの余波から守られながら。
……魔人が遺したその言葉が、理不尽な事態と、強大な力に翻弄されてばかりいたリク自身の願いを、もう一度。
今度は見失いようもないぐらいに強く、確かめさせていた。
Aパートあとがき
公式がEXスカルゴモラを出した際に全然違う感じだと怖い、ということで、エナジーコアが付いていたりで独自進化したという設定で登場しましたスカルゴモラNEX。EXゴモラとEXレッドキングとアークベリアルの融合、が基本のイメージで、例えば角の形は『ウルトラマンジード超全集』に載っている初稿版のデザインを引用したりしている具合です。そこに、どう見てもアークベリアルのオマージュ元であるスペースゴ○ラまで先祖返りした能力やら尻尾を持っている形(コロナ・ビームやフォトン・リアクティブ・アーマーやホーミングゴーストをイメージした技とか、結晶体を巨大化させての飛行等)。あちらも超新星爆発で死んでいない戦闘生物かつ、破壊神ですからね。
ただ、まだちょっと肩書等出しちゃうと暗躍しているあのキャラの陰謀を全て明かしちゃうことになるので、こちらもカプセルナビ的なのはしばらくお待ちくださると幸いです。
続けてちょっと今回は設定ではなく、今回の宇宙恐魔人ゼットを書いている間に自分で感じた裏話的な話を。本当の雑文。
「グランドキング亜種を瞬殺する」「ゼロをテレポートで圧倒する」「主役ウルトラマンを殺す」「主役のゴモラにほぼ勝利したところで乱入して来た暴走するペダニウム製の黒い最強ロボットと戦う」と、ここまで代表的なラスボスのゼット&ゼットン要素の逸話再現を頑張ってきていた本作の宇宙恐魔人ゼット。
しかし、気づけば最後、『ニュージェネレーション大怪獣バトル』みたいな面もある本作で一番オマージュすべき『大怪獣バトル』ゼットンの、「覚醒したゴモラに傷一つ与えられず倒される」の部分を少しだけ覆してからの敗北となりました。パンチで倒される側じゃなくて自分がパンチする側になっている……(全力の一撃なので『サーガマキシマム』ならぬ『ゼットマキシマム』と呼んで違和感ないパンチになっているのもずるい)。
本来は最後まで傷一つ与えられずに倒されるところもしっかり再現するつもりだったため、この辺は作中では黒幕の思惑、メタ的には、この展開を書く前に決めていた作者の当初の構想を越えている挙動をすることになったゼット。ゼットンの限界を越えるために心を与えられ、その心で限界を越える彼もまた、決められた運命をひっくり返す者だったのかなぁ、なんて、そういうキャラが好きなのでつい自作語りという形で、自分の中の驚きを残したいのでした。お目汚しですが、どうかお許しくださると幸いです。
ところで『大怪獣バトル』のゼットンをオマージュする、ということは……?