ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第十六話「君の笑顔を取り戻す」Bパート

 

 

 

 

 宇宙恐魔人ゼットを滅ぼした光が消えた後。メタフィールド内の空間が、揺らいでいた。

 蜃気楼のような揺らめきの向こうには、巨大な球体が泡のように、無数に浮かんでいた。

 

「あれは……っ!」

〈宇宙外部との接続を確認〉

 

 その景色に心当たりがあるようにウルトラマンゼロが声を詰まらせるのと、レムが報告を告げるのは、ほぼ同時だった。

 

〈先程スカルゴモラNEX(ネックス)が最大出力で放った、NEX超振動波により――純粋なエネルギー量でメタフィールドごと宇宙の壁が一時的に破れ、全てのマルチバースを包括する超空間と繋がったようです〉

 

 レムが告げたそれは、あくまでも宇宙の中に含まれる時空構造体を壊すD4レイや、同じ宇宙の別次元に繋げるゼガントビーム――そして、性質として宇宙を超越するゼロのウルティメイトイージスとは、全く意味合いの異なる事象だった。

 

「馬鹿な……っ、光の国の全エネルギーを集めて、やっとできることだぞ!」

〈いや、過去にも類例がある。ダークザギを始末しようとした『来訪者』が、自らの星を超新星化させて爆破した際――それでも当時のザギは倒せなかったが、宇宙の壁の方が保たず、光の国がある宇宙へ放流することには成功した、という話は知っているか?〉

 

 驚愕するゼロに、妙に淡々と、ペイシャンが事例を述べていた。

 

〈ザギの、オリジナルであり……ネクサスの本体であるノアは、そんな宇宙の壁よりも強靭なザギの肉体を破壊することができる。先のゼットもだが、光の国の全エネルギーに単独で比肩する個体は、存在し得ないわけじゃない〉

 

 例えば、光の国の全てのウルトラマンを合わせるより、単身で宇宙を一つ再生してみせるウルトラマンキングの力が上であるように。

 あるいはそのキングと全知全能の称号を分け合った、不完全体でも宇宙を一つ消し去れる究極生命体レイブラッド星人のように。

 人智を越えたウルトラマンの、そのさらに上の位階に君臨する生命は、決して存在しないわけではないのだ。

 

「だが、ダークサンダーエナジーだけで、これほどの……! アークベリアルだって、ここまでは……」

〈培養合成獣スカルゴモラは元々、そのベリアルを越えるように造られた戦闘型の怪獣兵器だ。ダークサンダーエナジーは最後のきっかけで……これまでの戦いが、あいつの下地をここまで成長させて来たんだろう〉

 

 ウルトラマンキングと同格の、究極生命体の血が流れる特殊なレイオニクスであり。

 外部刺激で強くなり続けるゴモラの細胞と、感情の昂りでリミッターを取り払うレッドキングの気質を受け継ぎ。

 さらにはアークベリアルと融合した、一息で星を砕き、次元跳躍すら容易く叶えるエメラル鉱石のエネルギーをもその身に灯し。

 

 そしてかつてリトルスターを宿し、手放した今もメタフィールドを展開し、ネクサスの特徴であったエナジーコアを発現させるほどの影響を受けた培養合成獣スカルゴモラは、今、途方もない力の塊と化していた。

 

〈そして、悪いが……前言を撤回させて貰う。逃げろと言ったが、誰もメタフィールドから出るな。ライハも含めてな〉

「えっ!?」

 

 ペイシャンの続けた言葉に、ウルトラウーマングリージョが、驚愕の声を漏らす。

 

「万が一にも俺たちを追ったスカルゴモラNEXが外に出れば……物の弾みで、地球が壊されちまうからか」

〈地球で済めば良いがな〉

 

 今の彼女をルカと呼ばなかったゼロの回答に、皮肉げにペイシャンが失笑した。

 そこで、末の妹である究極融合超獣サンダーキラー(ザウルス)が、怯えたように身を竦めるのを見て、ジードは彼女の肩に手を置いた。 

 

「大丈夫。僕が守るよ」

「……お兄さま?」

 

 そっと、ライハが取り残されているだろう、ギルバリスの操縦室を、サンダーキラーSに託しながら。

 状況を打開する材料を振り返るため、ずっと沈黙を保っていたウルトラマンジードは、そこで口を開いた。

 

「僕がルカを、ここで止める。アサヒとサラは、離れてて」

「おい、ジード……!」

 

 心配したように呼びかけてきたゼロに、ジードは彼に対してだけ見せる、甘えを口にした。

 

「悪いけど――ゼロは、ちょっとだけ付き合ってよ。攻撃はしなくて良い……いや、したらきっと許さない」

「何言ってるんだおまえ! 気持ちはわかるが、食い止めるなんて無理だ! 逃げて時間を稼ぐしか……」

 

 そうして、話し込んでいる間に。

 超空間との接続が消え、そちらに散っていた注意を戻したスカルゴモラNEXが、改めてメタフィールド内に残っていた存在に気づき、直進して来ていた。

 

「――くそ、やるしかねぇ!」

 

 その速度を見て、全員無事に逃げることも非現実的だと悟ったゼロが、金色に輝いた。

 

「いっそのこと……もう一度時間を戻してやるよ!」

 

 日に二回目の、シャイニングスタードライブ。

 宇宙恐魔人ゼットやギルバリスと言った、別の脅威も巻き添えに蘇るのだとしても。リクの妹が変わり果ててしまう前に時間を戻し、対応するチャンスを作る――レイトとの融合並びにメタフィールドの補正で負担が緩和されているとはいえ、ゼロの限界をも越える決意はしかし、回り出す前にスカルゴモラNEXの角の発光で掻き消えた。

 

 ……何の力によるものか、未来を予知できる、今のスカルゴモラは。

 その未来が見えなくなる――自らを脅かし得る元凶と判断したシャイニングスタードライブの光球を、優先的な排除対象と認識したのだ。

 

 念動力とは、念じるだけで本来起こり得ない事象を引き起こす超能力。元より、物理法則になど囚われていない。

 故に極まった怪獣念力は、時間操作を行うシャイニングの力の球すらも、干渉できると迷いなく認識することで捉え、押し潰していた。

 

 それはもう、一介のウルトラマンであるベリアルではなく。残留思念だけでウルトラマンを石化させる、レイブラッド星人の領域に近づいた力だった。

 

「ガ――ッ!?」

 

 反動で、ゼロが仰け反る。

 能力行使前に潰されたことが逆に幸いし、前回の使用よりは体力を消耗せずに済んだゼロが、それでも耐えきれずに輝きを失っていた。

 

 ……ゼロがこの有様では、シャイニングミスティックの力でも結果は同じだろう。

 それを理解しながらも、ジードは未だ妹が展開するメタフィールドの力を借りて、これまでに絆を繋いできた全ての人々へ己の祈りを告げた。

 

「――ウルティメイトマルチレイヤー!」

 

 突出したジードが叫ぶと同時に、ウルティメイトファイナルを中心に、新たに八人のウルトラマンジードが出現した。

 プリミティブ。ソリッドバーニング。アクロスマッシャー。

 マグニフィセント。ダンディットトゥルース。

 マイティトレッカー。ファイヤーリーダー。

 そして、シャイニングミスティック。

 

 ……ジードマルチレイヤーより、呼び出せる分身の上限を増やせる代わりに。対応するウルトラマンだけでなく、かつてリトルスターの宿主だった者の合意をも必要とするウルティメイトマルチレイヤー。

 故に三形態分の欠員を出した分身ジードたちは、次々とスカルゴモラNEXに飛びかかり、触れた側から猛烈なパワーに弾かれた。

 

 ――そうなることは、わかっている。

 

「それでも……ここで止める!」

 

 マイティトレッカーが、フレイムコンプレッションウェーブを発動。

 超能力によって、突如産み出された微小ブラックホールの吸引力が、スカルゴモラNEXの機動力をも制限する。

 ……もちろん、本当に吸い込まれてしまう前に、解除する心積もりではあったが――案の定、スカルゴモラNEXの角が輝くと、そのままブラックホールは一気に蒸発し、怪獣念力に巻き込まれたマイティトレッカーごと消滅した。

 

 だがその間に、同じようにしてブラックホールで引き寄せられていた、大陸級の大きな隕鉄――かつてメタフィールドの大地を構成していた残骸を見つけたジードたちは、スカルゴモラNEXをそこに誘き寄せた。

 

 ――地上に立たせれば、まだ。空に居るゼロたちよりは、同じ地平にいるジードへと注意が向くはずだと信じて。

 

「……レム。ルカの状態は?」

〈観測当初より、エネルギーはおよそ半減しています。NEX超振動波を放った影響のようです〉

 

 主の意図を既に見抜いていたらしいレムは、求めたとおりの回答をくれた。

 

〈リク、何をするつもりなの!?〉

「……ただの我慢比べだよ、ペガ」

 

 親友の疑問に答える間に、結晶体を引っ込め大地に降り立ったスカルゴモラNEXが咆哮した。

 

「ダークサンダーエナジーの力を、全部使い果たして元に戻るまで……僕がルカの相手をする!」

 

 それはきっと、ウルトラマンジードにしかできない解決策。

 

 

 

 ……通常、ウルトラマンは、地球上では三分間しか戦えない。

 

 ウルティメイトブレスを持つゼロのような例外はあるとしても。彼を含め、ウルトラマンの力を高める環境であるメタフィールドの中であっても、ほとんどのウルトラマンには活動限界が存在する。どれほど強大な存在――それこそあのウルトラマンキングであってもエネルギーは有限なのだから、当然だ。

 

 だが、ウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルだけは、その原則に当て嵌まらない。

 

 選ばれた戦士の心の意志をエネルギーに変換する、必勝撃聖棍ギガファイナライザー。伝説の赤き鋼の力でアルティメット・エボリューションを遂げたこの姿は、ジードの――リクの精神力が続く限り活動限界時間は存在せず、戦い続けることが可能なのだ。

 

 理論上は、スカルゴモラNEXが相手でも――あくまでも有限のエネルギーしか持たない妹は、無尽蔵の活動エネルギーを産み出し続ける兄より先に力尽きることとなる。

 もちろん――事が済むまでリクの心が折れず、そして、今のスカルゴモラを振り回す強大かつ膨大な力を受け止める間に、ジードの命が壊されないという前提を貫ければ。

 

 だが、少なくとも……先に心が折れることはないと、リクは自分を信じていた。

 

 ……ダークサンダーエナジーに影響された今のルカは、初めてレイオニックバーストして、サラに手を上げた時とも全く違う。

 力の行使を楽しんでいるどころか、力に呑まれたわけですらなく。ただ、意思の疎通も成立せず、周りの全てが敵に見えているだけで。彼女自身も怯え、苦しんで。

 

 ――そんな表情(カオ)を、させたくない。

 

 だから。そのために兄としてできることがまだあるのなら、リクは決して諦めない。

 

〈無茶だよ、リク!〉

 

 これまでのように、もうジードの力では、簡単には正気に返せなくとも――そもそもそんな気がなくとも、倒すことも、逃げ延びることもできないとしても。

 

「……ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」

 

 兄はまだ、妹に……負け続けることなら、してあげられる。

 

 

 

 

 

 

「ヒア・ウィ・ゴーだ!」

 

 ウルティメイトファイナルが号令したと同時。アクロスマッシャーを除いたフュージョンライズ形態たちは、各々がリクの決意のとおり、スカルゴモラNEXを対象とした牽制攻撃を開始した。

 

 全てはスカルゴモラNEXの気を引き、彼女をここに足止めし――その身を蝕む暗黒の力を、全て放出させてしまうために。

 

 足元に稲妻を放ったダンディットトゥルースは、真っ先にスカルゴモラNEXの気を引いたために、伸びた尾によって空の彼方へ打ち上げられた。

 続いて本体であるウルティメイトファイナルと並走して肉薄したソリッドバーニングは、鋭い爪の一撃で頼みの装甲を裂かれ、スラスターの推力を遥かに越えた衝撃で吹っ飛んで行く。

 

 ウルティメイトファイナルもまた、攻撃の軌道をギガファイナライザーで逸したおかげでカラータイマーを避けつつも、左右の胸を深く抉られていた。

 さらには純粋な腕力と、それが纏っていた高重力によってソリッドバーニングと同様に飛ばされたところを、マグニフィセントが受け止めるものの――スカルゴモラNEXは二人が固まったところを狙ったのか、向かってきた相手への追撃に入ろうとしていた。

 

 そこで、シャイニングミスティックが動いた。

 

 時間を止める――いや、繋がりの深い妹相手なら、その時間を巻き戻すというゼロ同様の効果すら期待できる光球を、シャイニングミスティックが打ち上げる。

 ゼロの時同様、その脅威故にスカルゴモラNEXには見逃されることなく、怪獣念力で光球が磨り潰される。

 だが、おかげでウルティメイトファイナルに向かっていた、その足が止まっていた。

 

 消耗と引き換えにスカルゴモラNEXの注意を惹いたシャイニングミスティックは、そのままスカルゴモラNEXが突き出した両拳からの高重力波の束を受け、粉砕。

 さらに、シャイニングミスティックが作った隙を繋ごうと、続けて接近していたファイヤーリーダーを、スカルゴモラNEXは口腔からの赤黒い熱線インフェルノ・ノバの速射で出迎え、貫いた。

 

 ファイヤーリーダーを貫いたまま、射線を変えて迫って来ていた熱線を、プリミティブが同色のレッキングバーストを放って何とか相殺。だが一呼吸置いた次の瞬間には、再び飛来した第二射に直接晒され、防御も相殺も間に合わずに消し飛んでしまう。

 

 その光線がアクロスマッシャーに迫るのを、何とか戻って身を投げ出したダンディットトゥルースの自己犠牲と、続けて割り込んだマグニフィセントのアレイジングジードバリアが受け止めて、辛うじて凌ぐ。

 

 ――その時には、肉体の損傷を修復し終えたウルティメイトファイナル本体が再び、スカルゴモラNEXの気を逸らすため肉薄していた。

 短時間で復活してきたウルティメイトファイナルに、どこか怯えた気配を滲ませながらも、スカルゴモラNEXがその爪を揮う。

 

 漲る決意と覚悟を載せた今のジードは、逆行した時間の中の、アサヒを宇宙恐魔人ゼットに殺されかけた時と等しいスペックを発揮していた。

 ……それでは当然、その時のジードを歯牙にもかけず瞬殺した魔人が、自身より強いと認めた今のスカルゴモラNEXには、全く太刀打ちできない。

 

 ギガファイナライザーが盾となった分、分身であるフュージョンライズ形態よりは傷が浅いが――深々と爪に裂かれ、激痛と、意志だけではどうしようもない肉体の損傷とで、ジードは再びその場へ崩れ落ちそうになっていた。

 

「スマッシュムーンヒーリング!」

 

 そこで、アクロスマッシャーが、再びの治癒光線をウルティメイトファイナルに届けた。

 それが、先程の復活の秘密だった。

 

 ……治癒光線の働きを、ギガファイナライザーの効果を受け、リクの意志を物理的なエネルギーに変換することで加速。

 その爪から感染したベリアルウイルス由来の猛毒も、同じ遺伝子を持つジードならば無害化できる。

 流し込まれたダークサンダーエナジーの影響も、エネルギーの循環をフルスロットルにすることで相殺を加速し、傷口が塞がる際にそのまま体外へ押し出した。

 

 そうして、重傷を瞬時に治癒したジードは、再びスカルゴモラNEXに立ち向かった。

 

 ギガファイナライザーに選ばれた戦士として、命尽きず、心折れない限り無尽蔵に供給されるエネルギーを武器にして。

 目指した瞬間に届くまで、例え何百回、何千回、何万回、何億回……妹に、殺されかけても!

 

「……諦めない、絶対に!」

 

 ゾンビのように復活してきたジードの様子で、スカルゴモラNEXはさらに怯んだ様子で、一瞬だけ、攻撃が途絶えた。

 しかし、その隙を衝いて組み付こうとすれば、腕を払われるだけで吹き飛ばされる。

 

 起き上がる前、スカルゴモラNEXは口からの赤黒い光線インフェルノ・ノバでジードを一気に焼き払おうとするが、そこに装甲を砕かれていたソリッドバーニングが割り込んで、身代わりとなり、本体を突き飛ばして救う。

 ソリッドバーニングが爆散する隣で起き上がったウルティメイトファイナルは、再びスカルゴモラNEXの気を惹くために飛びかかった。

 

「約束したんだ、僕は! 僕がルカを守る……そしてもしも、ルカが世界を傷つけてしまいそうな時は、僕がルカから世界を守るって!」

 

 そう叫んで、あの日のリクは、培養合成獣を狙うノワール星人の要求を突き返した。

 そう叫んで、あの日のリクは、泣いているルカの笑顔を願って、約束した。

 

 ……そうだ。なのに。あんな魔人ですら、ルカの笑顔を願うような状況を許していては、駄目なんだ。

 

「だから、絶対にここで止める! これ以上、もうルカに誰も傷つけさせない……ルカを、父さんみたいにはさせない!」

 

 支え合う仲間との些細なボタンの掛け違いから、止まれなくなってしまった父、ウルトラマンベリアル。

 その仲間はきっと、最後の瞬間までベリアルを止めようとしてくれていたのに。それが許されないほどの罪と、自らの心の変遷を、ベリアルは重ねてしまっていた。

 

 だが、ルカは違う――まだ、間に合う。いいや、間に合わせてみせる。

 だって自分は、ウルトラマンジード/朝倉リクは、培養合成獣スカルゴモラ/朝倉ルカの、お兄ちゃんなんだから。

 

「僕は君と……家族と一緒に生きたいんだ!」

 

 自分より、遥かに強大である父から世界を守ってみせたのだ。

 自分より、遥かに強大である妹から世界を守れない理由が、どこにある!

 

 叫びとともに、感情の昂ぶりでさらに力を増したウルティメイトファイナルを、スカルゴモラNEXが薙ぎ払う。

 連動して動いた尾が、マグニフィセントを叩きのめし、その尾を回避していたアクロスマッシャーは続くインフェルノ・ノバに追尾され、コークスクリューブロックによる迎撃も虚しく、呆気なく蒸発した。

 大ダメージを受け倒れ込んだマグニフィセントを除き、陽動の分身を全て失い、回復役のアクロスマッシャーを失い、重傷を負ったジードが早くも万事窮した、その時。

 

「グリージョバーリア!」

 

 超重力を纏ったスカルゴモラNEXの爪すら防ぐバリアを携えて、ウルトラウーマングリージョ――アサヒが、そこに割り込んできた。

 ……離れてて、と、言ったのに。

 

「アサヒ……どうして」

「あたしだって……家族を諦めたくありませんから!」

 

 力強く言い返してくれたグリージョが、微かに罅割れたバリアを気合で維持したまま、グリージョキュアバーストを発動。

 スカルゴモラNEXに対しては、一瞬の目眩ましほどの効果もなかったが、彼女から届けられた癒やしの光が……アサヒの言葉に胸を打たれ、さらに再生力を増したジードの肉体を修復する。

 だが、ジードが起き上がるより早く、スカルゴモラNEXが頭上に掲げた尾の先が、グリージョの真上に降りてきて――

 

 その次の瞬間に訪れる運命を、絶対に受け入れまいとジードが強く想った時。新たに出現した光が、グリージョを抱き寄せて死を回避させていた。

 続けて、空間がガラスのように割れて。そこから伸びた黒い触手が、ウルティメイトファイナルとグリージョを引き込み、スカルゴモラの追撃を寸でのところで回避させていた。

 

「お兄さま!」

 

 触手の主は、言うまでもなく――意識のないライハを格納する操縦室を大切に抱えたままの、究極融合超獣サンダーキラーSだ。

 そしてグリージョを救ったのは、先程はウルティメイトマルチレイヤーへ応えられないほどの恐怖心に襲われていた末妹が、それを克服してくれたおかげで出現したジードの分身――フォトンナイトだった。

 スカルゴモラNEXの眼前に留まったフォトンナイトが、薔薇の花を舞わせてその注意を惹き、立ち上がったマグニフィセントと連携しながら時間を稼いでいる隙に、本体となるジードはサンダーキラーSの呼びかけに向き合った。

 

「ごめんなさい、わたし……! すぐ、おてつだいしないで――!」

「……離れててって言ったのは僕だよ、サラ」

「でも、でも! わたしも、お兄さまとおんなじ! お姉さまと……かぞくいっしょに、生きたいから!」

 

 サンダーキラーS――姉であるルカが、沙羅(サラ)という名を贈った末の妹は、その願いを心の底から口にしていた。

 

「……こんなもん聞かされちゃ黙っていられねぇよなぁ、レイト」

 

 最後にそこへ、未だダメージを引きずった様子ながら、ウルトラマンゼロが駆けつけた。

 

「(……そうですね。泣いてる友達を僕らが見捨てたなんて言ったら、マユが悲しむ)」

 

 元より、ウルトラマンの戦いとは本来無縁の一般人。

 無責任に戦いに身を投じて、死ぬことはできないと言っていた一人の平凡な父親は――こんな、ウルトラマンから見ても非日常な戦いに、彼も付き合う決意を見せてくれていた。

 

「ありがとう、皆……!」

 

 ウルトラマンジードは、自分を支えてくれる仲間たちを見て。

 朝倉リクは、こんなにもルカを想ってくれる人々に囲まれて。

 

 ――いつか、ルカが安心して笑って過ごせる居場所が見つかるその時まで、全部僕が守ってみせる!

 

 そんな、妹と交わした約束……この先に待つ運命の過酷さに怯えていたルカがあの日、灯してくれた希望の在り処を、守るために。

 

 皆の、そしてリク自身の願いともう一度、妹を繋ぐ――そんな決意を、確かなものとした。

 

「行くぞ、ルカ――君の笑顔を取り戻す……!」

 

 九体の分身ジードを全滅させたスカルゴモラNEXに対し、幾度も肉体を裂かれたウルトラマンジードは、しかし臆することはなく。

 

 仲間たちの力を借りて、強大な力に苦しむ妹を救うべく、再び正面から挑みかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 ……それから、ウルトラマンジードは何度となく死にかけた。

 

 スカルゴモラNEXが爪を揮うたび、ギガファイナライザーで止めきれずに体表から深く切り裂かれる。

 スカルゴモラNEXの尾の先端が当たるたび、刃を備えた鈍器に肉体を貫かれ、磨り潰される。

 スカルゴモラNEXに噛みつかれるたびに、口の大きさ以上の体積がジードから失われる。

 

 しかも、外傷を負うたびに、スカルゴモラNEXを冒すダークサンダーエナジーの一部が流し込まれ、その暗黒のエネルギーがウルトラマンの肉体を分解しようとする。

 

 その度に、ギガファイナライザーを通し、自らの意志をエネルギーへと変換したウルトラマンジードまで、ウルトラマンゼロが。ウルトラウーマングリージョが。サンダーキラーSが、治癒効果を持った光線を届ける。

 

 本来であれば、生命力の回復と、外傷の修復、その両方を行わなければならない治癒光線は、そんな急速な再生を可能とするものではない。

 だが、ギガファイナライザーを装備した、ウルティメイトファイナルであれば。肉体ととも削られたエネルギーを、無尽蔵に補給できる。それによって、肉体を分解しようとするダークサンダーエナジーの作用すら、強引に捻じ伏せて持ち堪える。

 

 だから、生命力を外部が補う必要はなく。ただ肉体の再生のみに、回復光線の力は使われる。

 いや、注がれた回復光線の効果をさらに迅速なものにするために、ジード自身のエネルギーをそちらに回しすらしていた。

 

 漲る強い感情に支えられ、ウルトラマンジードは死の淵から尽く蘇り、そのたびに叩き伏せられ、死にかける。

 カラータイマーが点滅する間もなく青と赤を転移し続け、本来なら致命傷である痛みに精神が摩耗し続ける。

 

 ……死んでしまえば、もう起き上がれないから。死を避けるための恐怖にも痛みにも、ジードは鈍感になることはできなかった。

 それでも、迷うことなく。巨大な爪に、獰猛な牙に、強靭な尾に、飛び込んで行く。

 

 ジードが目の前に立ち続ける限り――正気を喪っているからこそ、スカルゴモラNEXもその迎撃へ意識の大半を向けていた。

 

 もし、ゼロやグリージョが攻撃を受ければ、ダークサンダーエナジーやベリアルウイルスによって、二人はたちまち死にかねない。

 ジード以上にそれらへの耐性を持つサンダーキラーSは、しかしメタフィールドの中ではジードのような無制限の活動エネルギーを得るとは行かず、結果として耐えられる一撃のキャパシティで劣る。ジードを突き抜けて伸びた遠距離攻撃への対処を、ゼロやグリージョと分担して貰う方がずっと良い。

 何より、あんなに互いが傷ついていたのに。また(ルカ)に、(サラ)を傷つけさせる行為なんて、リクが許さない。

 

 だから、ジードだけが前線に立って、ひたすらにスカルゴモラNEXの暴威に向き合っていた。

 

 力任せの、押し退けることが主目的といった爪の一撃でも、ジードはまたも受け止めきれずに防御を抜かれ、胴体を引き裂かれる。

 

「グリージョチアチャージ!」

 

 光の粒子となって生命が流れ出すところに、悲痛なアサヒの声を響かせて、グリージョが癒やしの光をジードに届ける。

 

「……ごめん、付き合わせて」

 

 そんなアサヒの声に、少しだけ後ろ髪を引かれてしまい。ジードは小さく呟いた。

 

「謝らないでください!」

 

 そうして、一瞬だけ減退した闘志を後押しするように、何度も目の前で、(リク)(ルカ)に引き裂かれるところを見せつけられているグリージョが叫び返した。

 その一瞬の差で、気力も万全に回復したジードはスカルゴモラNEXが繰り出した尾をギガファイナライザーで受け、流し、前に進むことへ初めて成功した。

 

「辛いのは、リクさんたちなんだから……あたしは、リクさんやルカちゃん、サラちゃんと、それに……ライハさんがハッピーになれるよう、あたしにできることをしているだけです!」

 

 グリージョの声援を受けて、絶対に倒れるわけにはいかないという想いを、ジードはさらに強くする。その想いが、ジードの力をさらに高める。

 尾を振った勢いのまま体を捻ったスカルゴモラNEXの、背鰭が発光。角を伸ばすための黄色い輝きだと見切ったジードは、貫いた相手を分子分解する突きの嵐を横飛びで回避する――が、躱しきれず、楯としたギガファイナライザーを手から弾き落とされてしまう。

 さらに、反対を向いたままスカルゴモラNEXが口から放ったインフェルノ・ノバが、射角を変えてジードに迫る。

 

「レッキング・ノバ!」

 

 背から倒れ込みながら、同じく赤と黒、そして金色の輝きを宿した光線を発射し、ジードは恐るべき熱線を迎撃。完全に相殺し、ギガファイナライザーへと手を伸ばす。

 だが、その間に第二射が迫り、ジードの全身を貫く――かと思われたが、ジードの目の前で空間が割れて、インフェルノ・ノバを取り込む。サンダーキラーSのアシストだ。

 だが、射角自在な光線は途中から空間の穴を避けて、再びジードに迫る……も、これだけ照射を続けていれば、当然威力は低下する。

 ウルティメイトバリアを展開したジードは、インフェルノ・ノバを受け止めたそれを楯として抱えたまま、こちらを振り向きつつあったスカルゴモラNEXに飛び込んだ。

 

 ……そのスカルゴモラNEXの、背鰭から全身が発光する。

 伴う唸り声で、全身が泡立つ感覚に襲われたジードは、全速力で跳ね上がり、スカルゴモラNEXの射線を変えさせる。

 そのジードの背を追って、宇宙恐魔人ゼットを消し去った、NEX超振動波が繰り出された。

 光だけではない。音波や重力波も伴ったあらゆる破壊波動を発射するスカルゴモラNEX最大の一撃は、ジードの背後の空間を薙ぎ払って行く。

 

 仮にも今のスカルゴモラNEXに傷をつけた唯一の魔人とは、脅威と見なす度合いが違うのか、宇宙の外壁すら貫いた先の一撃には遠く及ばない出力だったものの。それでも防ごうと思って防げるものではなく、ジードは逃げに徹する。

 

 それでも追いつかれるまさにその時、赤と青のツートンカラーの流星が、ジードを横合いから蹴飛ばした。

 そして、代わりに奔流に呑まれて消えたそれは、あの日――初めてルカの正体を知ったその日、培養合成獣スカルゴモラを庇ったジードに誤爆したのと同じ、ウルトラゼロキックだった。

 

「おまえを攻撃するなとは言われてないぞ」

 

 告げるのは、青を基調とするルナミラクルゼロ――先程ジードの代わりに、NEX超振動波の中へ消えたゼロは、その超能力が産み出した分身だった。

 

「……そう、だね!」

 

 自身を救ったゼロの屁理屈に答えながら、ジードは飛び起きて、照射を終えたスカルゴモラNEXに再び挑みかかる。

 

 マルチレイヤーで呼び出したフュージョンライズ形態以上に、防御や援護に優れた仲間の連携が加わったおかげで、ジードは何とかスカルゴモラNEXを足止めすることができていた。

 

「……だが、もう俺も分身は出せない。次はないぞ」

 

 とはいえ、ゼロが警告するように。無尽蔵なのは、あくまでもウルティメイトファイナルの活動エネルギーだけだ。

 ゼロの分身だけでなく、ジードのマルチレイヤーももう使えない。

 ゼロも、グリージョも、メタフィールドの中であれば環境要因での活動制限こそないが、力を行使するたびに当然エネルギーを消耗する。吸収できるインフェルノ・ノバのエネルギーを取り込み回復しているとはいえ、サンダーキラーSも同様だ。

 

 少なくとも、外部からエネルギーを補充できないゼロとグリージョは、桁外れのエネルギーを有するスカルゴモラNEXが消耗しきるよりも先に、ジードを満足に援護することもできなくなるだろう。

 

 それを証明するように、徐々に二人の援護は頻度が下がり、ジードにも会話を挟む余力はなくなって行った。

 やがて、ゼロとグリージョのカラータイマーが点滅を始め、ジードはスカルゴモラNEXに立ち塞がりながら、治癒光線を撃つためのエネルギーを自らサンダーキラーSに託す必要すら出始めていた。

 

 当然、再生は追いつかなくなり――スカルゴモラ側の消耗を考慮に入れても、ジードの回復が荒くなり、手が回らなくなり始めた、その頃。

 ジードの腹を爪先で抉りながら蹴り飛ばしたスカルゴモラNEXが、遂にその首を巡らせて、回復役の三人を明確に視野へ収めた。

 ……末妹が抱える、ライハが囚われた箱も。

 

「――っ、やめるんだ、ルカ!」

 

 腹に穴が空いたまま、ギガファイナライザーを杖代わりに使ったジードは、全身の力を使って起き上がった。

 家族を守る――そして、妹の手がこれ以上、家族を傷つけてしまうことがないように!

 

 そして、再びギガファイナライザーを振り被ってスカルゴモラNEXに挑み――これまでの繰り返しのように、その剛腕が備えた鋭い爪と激突する。

 

 ……ウルトラマンジードは、忘れていた。

 ウルティメイトファイナルは、ギガファイナライザーの力によって、リクの意志をエネルギーに変換するということを。

 それによって、無尽蔵のエネルギーがジードに供給されるが――あくまでも無尽蔵なのは、ギガファイナライザーが変換する、リク自身の感情に限られるということを。

 今の、ジードの肉体のように――精神が折れずとも、物質が付いて来れないことが、あるということを。

 

 ……そして、同型機である父のギガバトルナイザーを、自身が戦いの中で砕いたということを。

 

 同じように。

 度重なる猛攻の直撃から、ジードを守り続けてくれていたギガファイナライザーは、遂に。

 

 スカルゴモラNEXの剛腕に耐えきれず、その衝突を最後に――真っ二つに砕かれ、その機能を停止させてしまっていた。

 

 

 

 

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