ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第十七話「フュージョンライズ!」Bパート

 

 

 

 

 

「ルカ……僕は言ったよな。絶対に、諦めるなって」

 

 (ルカ)が逃げた先――AIBのペイシャン博士の研究室に辿り着くなり、リクは口を開いた。

 

「レムが言ってくれたのは、勝手な決めつけなんかじゃない。僕たちの、皆の願いだ」

 

 リクが訴えれば、アサヒも、ペガも。二人ともが、力強く頷いてくれた。

 

「殺されてたら良かったとか、消えたいとか……そんなこと言うなって、約束しただろ」

「お兄……ちゃん……、だって――っ!」

「僕は、約束を守ったぞ」

 

 泣き出しそうなルカに向けて、リクは力強く言い放った。

 

「僕は君を守る。そして君から世界も守る。君がいつか、安心して笑って過ごせる居場所が見つかるまで、全部僕が守ってみせる。だから――!」

「でも、でもっ! 私、また、あの雷に打たれたら――っ!」

 

 まるで駄々を捏ねるように。

 けれど、本当はルカの方が現実を見据えて、リクに反論する。

 

「また、おかしくなっちゃったら……今度は、ギガファイナライザーも、もうないのに。その時には、グリーザも暴れているのに! そうなったら、今度こそ――」

「見くびるな!」

 

 恐慌しかけるルカに対し、リクは一喝した。

 

「ギガファイナライザーがあっても、僕の力はルカに負けていた。だけど、僕の方が弱くても、僕は君との約束を守った!」

 

 リクはそこで胸を張る。弱さを誇るのではなく、力の多寡を言い訳にしなくなった、己の覚悟を。

 それによって守り抜いた、希望を。

 

 それでも、ルカはまだ安心してくれなかった。

 ……声を張り上げるたびに、未だ傷口が痛むものの。そんなことで、この想いを抑える気にはなれなかった。

 

「力が足りないぐらいで諦めるもんか――何度だって、守ってみせる!」

 

 何故なら。

 

「……僕は君の、お兄ちゃんなんだから」

 

 告げるとともに笑いかけると、そこでルカは涙を決壊させてしまった。

 確かにリクの気持ちを受け止めてくれているのがわかる喜びと、しかし未だ拭えぬ、彼女の中に巣食った怖れとを滲ませて、妹はリクの前で泣き続ける。

 

「でも、私、ダメなんだ……! 自分でも嫌だって思ってるのに、何度もお兄ちゃんたちを傷つけて、自分の力を止められなくて! きっとまた、繰り返しちゃう――!」

「……そんなの、僕だっておんなじだ」

 

 泣きじゃくる妹の気持ちを、少しでも晴らそうと。

 リクは――例えアサヒの前でも、己の恥を晒そうと、決意した。

 

「何度レムに言われても、すぐに掃除することを忘れて部屋を汚しちゃう」

 

 そうですね、と人間態のレムが冷徹に頷いた。

 

「ペガとだって、その度お互い嫌な気持ちになるのに、いつも下らないことで喧嘩しちゃう」

 

 そうだね、と。少しだけ気恥ずかしそうに、ペガも頷いた。

 だが、そんな欠点は、既にルカにはお見通しだったようで――特に響いた様子がないのを見たリクは、遂に何よりのトラウマを、口にすることとした。

 

「それに、ウルトラマンの力を持っているからって、何でも一人で背負おうとして。そのせいで、失敗してきた。ライハにそれで叱られたのに、その後も同じ理由で――僕は、大切な人を守りきれなかった」

 

 えっ、と。驚きの声を、ルカが漏らした。

 

 ……妹の前では、できるだけ保ってきた、ちゃんとした兄というイメージ。彼女が憧れ、そして安心してくれる、立派なヒーローという偶像。

 その虚飾を、リクは自ら剥がすことを選んだ。

 名誉や威厳なんかより、ずっと大事なものがそこにあると、リクは信じていたから。

 

「そんな、取り返しのつかない失敗の後だって。僕はヤプールとの戦いで、ルカを遠ざけようとして、負けるところだった。今日、ルカを元に戻せたのだって、アサヒたちが見かねて助けてくれたからだ。何度も同じ間違いを、僕は繰り返して来た」

「……けど、リクさんは、家族を諦めませんでした」

 

 そこで、ルカの説得に加わってくれたのは、アサヒだった。

 

「何度失敗して、何度倒されて、何度苦しんだって。リクさんは、決して諦めなかったんです。そんなリクさんを見ていたから、あたしだって、ルカちゃんを諦めたくなかった」

 

 こんな、情けないヒーローの姿が、それでも勇気を燃やす衝撃を見せてくれたのだと。

 アサヒがそう言ってくれたのに、ルカだけでなく、リクもまた、誰より励まされた気持ちになった。

 

「それに、同じ間違いなんて言っても……結果としてはそうでも、本当は違う理由なんでしょ? 何度も同じ状況になる方が難しいです」

「……そうかも。ルカと、同じように」

 

 アサヒの出してくれた助け舟に、前言を撤回する情けなさを若干感じながらも、リクは乗せて貰うことにした。

 だが、きっと、そのとおりだ。少なくともルカの方は、本人が気に病むほど、同じ暴走を繰り返しているわけではない。エタルガーの陰謀であったり、レイオニクスの本能であったり、ダークサンダーエナジーだったりと、いつも理由は別のものだ。

 

「そんな、失敗だらけの僕でも。皆と一緒なら、今日まで、地球を守って来れたんだ」

 

 アサヒが言ってくれたように。ウルトラマンの模造品という只人を越えた、しかし神ならぬ身で、何度も失敗を繰り返しながらも。

 その失敗を言い訳にせず、希望を捨てなかったから――リクは、ウルトラマンジードは、ヒーローになることができた。

 

「そして、ルカと出会って。僕は、前にできなかったことが、たくさんできるようになった。アリエさんを救うこと。ライハともっとわかり合えたこと。スイさんに安心して貰えたことや、もっと仲間を信じられるようになったこと……」

 

 一つ一つ。ルカとの出会いで得られた、掛け替えのない思い出を噛み締めながら――リクは、一番伝えたいことを、ルカに告げた。

 

「でも、一番ハッピーになれたことは、君と――血の繋がった家族と、一緒に生きられるようになったことなんだ」

 

 もし、ルカとの出会いがなければ。

 父殺しの罪を背負ったリクはきっと、その痛みで思考を止めて。妹を名乗りながら攻撃してきたサンダーキラー(ザウルス)とも、和解する道を選べなかっただろう。

 いや、それ以前に。もう一人の妹が産まれて来る、因果すら生じなかったのかもしれない。

 

「だから、僕と会う前に死ねば良かったなんて、言わないでくれ。僕はこれからもずっと、君たちのことを心配していたいんだ」

 

 心配する家族のいる幸せを。リクはやっと、掴めたから。

 心からの願いを、リクはルカに、託していた。

 

「でも……でも、お兄ちゃん……」

 

 未だ、何かに後ろ髪を引かれたように。首を縦に振ってくれない妹の涙に、それでも温かなものが混ざっているのを見届けて、リクは言う。

 

「頼む。大切な人を守れないなんて失敗を、もう僕に繰り返させないでくれ」

「……っ!」

「そして君まで、一人で全部解決しようとして、余計に苦しむなんて……そんな、僕の悪いところの真似、しないでくれよ。ルカ」

「……だが、今ルカが懸念しているのは、このままでは再現性のあることだろ?」

 

 そんなリクたちの訴えに、口を挟んできたのは、ペイシャンだった。

 

「悪いが、ここは一応、科学的なグリーザ対策を担当する場所になるんでな。気持ちの整理は大事だが、それだけで良かった良かったとは言ってやれない」

「……そうね。皆、ルカを甘やかすだけじゃダメだわ」

 

 ルカを押し潰す現実から目を背けるな、というペイシャンに同意するような声は――リクたちの背後に、再び出現した転送用エレベーターの扉から、漏れ出た声だった。

 

 その声を聞いたルカは、ビクリと震え、たちまちに青褪め――そして声の主の名を呼んだ。

 

「ライ、ハ……っ!」

「……もう動けたのか」

 

 遅れて現れた彼女に肩を貸す同僚――レムと交代するような格好で星雲荘に来てくれていた愛崎モアを一瞥したペイシャンは、ライハの登場に複雑な表情を浮かべていた。

 

「ええ。寝込んでいる場合じゃないもの」

 

 寸前まで修復装置に身を預けながら、未だ顔や首にも青痣が残るライハが端的に答えると、ペイシャンは観念したように溜息を吐いた。

 

「……悪かったな」

「後で覚えてなさい」

 

 ペイシャンとやり取りを終え、モアの助けを受けながら進んだライハは、その接近で怯えた様子のルカに向かって声を掛けた。

 

「……鍛え直すわよ」

「――えっ?」

 

 そうしてライハの発した言葉が、あまりに想定外だったのか。

 呆気に取られ、その分、恐怖の薄れた様子のルカに対し。ライハは、普段見せる態度よりはずっと厳しい調子で、弟子に向けて言葉を続けた。

 

「あなたには才能がある……そう思って、これまで甘くし過ぎて来たみたい。そのせいで、あの恐魔人ゼットとかいうポッと出に、あっさり技を抜かれてしまった」

 

 リクたちが立ち会えなかった――宇宙恐魔人アーマードゼットに対抗する手段を持たない、不甲斐ない兄を守るため。単身で危険を引き受けたルカと、その救援に一人だけ間に合ったライハの、師弟だけが知り得る戦いの記憶。

 それを持ち出したライハは、ルカ相手に鋭い視線を向けていた。

 

「これからはもう少し、スパルタに行く。それから逃げようったって、そうは行かないわよ」

「……なんで?」

 

 師匠から、これまで以上に厳しい指導を宣言されながらも。

 拍子抜けしたみたいに、半信半疑といった様子で、ルカは朴訥と呟いていた。

 

「私、ライハのことを、そんなにしちゃったのに……」

 

 未だ怯えたように問うルカに、傷だらけのライハは淡く微笑んだ。

 

「そんなことを言ったら、私はあなたを二度も殺しかけたわ」

「それは、ライハは捕まってただけで……っ!」

「どっちも、どういう形でも。私が望んでいた力の招いたことよ。私の修行で力を付けたあなたと変わらない。

 ……その上で、どっちも無事に生きてるなら、もうそれで良いじゃない」

 

 弾かれたようなルカの反論を、ライハは呆気なく切り捨てた。

 

 その言葉の閃きは。ルカの中に巣食っていた、恐怖の半分。

 犯した過ちで家族との関係性が変わってしまうかもしれない、という不安を、遂に断ち切ってくれた。

 

「あ……っ、う、うあぁ……っ!」

 

 嗚咽するルカの様子が、これまでとは少し変わったことを確かめて。ライハと視線を結んだリクは、重傷人同士、互いに頷き合った。

 次は、ペイシャンの言うように――ルカの恐れる、現実に残された脅威。

 宇宙に開いた穴という大災害に、皆でどう立ち向かうのか。それを話し合う時だ。

 

「次の修行だけど――ダークサンダーエナジーを克服するわよ」

 

 早速切り出したライハに対し。情報共有をしていないルカとペイシャンは、それぞれ怪訝な表情をしていた。

 

「……そんなの、どうやって?」

「ああ。根性論で失敗したら地球は終わりだ。わかっているのか?」

「そうね。だから流石に、一人ではやらせない」

 

 対して、そのための切札になると、リクが心から信頼する仲間は――何より強い意志を込めて、その言葉を口にした。

 

「私とルカで、一体化して立ち向かう。それがグリーザに対抗できる、唯一の方法よ」

 

 

 

 

 

 

「エクスデバイザーからの提供データ。そして日中の戦いから観測できた情報によれば、ダークサンダーエナジーがヒューマノイドタイプの生命体を凶暴化させる事例は確認できませんでした」

 

 幻影宇宙帝王モルド・スペクター。ファントン星人グルマン。

 宇宙恐魔人ゼット。そして、地球人の鳥羽ライハ。

 過去、ダークサンダーエナジーを受けた人型種族は、怪獣のように狂うことはなかったと、レムがデータを示す。

 

「少なくとも、ライハは直接被雷した上で、確かに正気を保っていました」

 

 確かな実績としてレムが示すのに、ライハはモアの肩を借りたまま胸を張る。引っ張られて、モアは少し大変そうだったが、手を放しはしなかった。

 

「次はルカだが……ベリアルに由来する形で、地球人への擬態能力があるのなら。より低次と言われる憑依能力も、ベリアル自身やサラのように扱えるのは道理、ということか」

「はい。それを利用し、ヒューマノイドであるライハの意識と共生することで、ダークサンダーエナジーへの抵抗を獲得できる可能性は、充分に考えられます」

 

 皮肉にも。ペガの頑張りでノワール星人が用意した譲歩の理屈である、朝倉ルカの本質はヒューマノイドタイプの宇宙人、という前提は裏切ることになってしまうのだが。

 ライハの提案は、決して突拍子もないアイデアではないのだと、ペイシャンの裏取りにレムが答える。

 

「……ダメ、絶対ダメ!」

 

 だがルカは、その策に対して頷けなかった。

 

「だって、それでもし、影響が軽減されるんだとしても――私の正気は保証されないんだよ!?」

 

 そもそも、他の命との一体化なんてしたこともないから、それだけでも不安は一杯だが。

 そして、本当の理由はそこでもないと、心の奥底で理解した上で、目を背けて――ルカはもう一つの、ライハの身体への懸念を口にする。

 

「それにもし、本当に一体化できたとしても……私はサラみたいに器用じゃないっ!」

 

 過日の、アリエとの決戦の後。結果としては何事もなかったが、サラと融合したトリィの体も、再調査が行われることになった。

 その折、実はルカも、トリィにトリィのままで居て欲しいと不安を抱えていた妹から聞いていたのだ。長く融合し過ぎた場合のデメリットと、特に自分たちベリアルの血を引く生命体の場合に必要となる、融合解除時の繊細さを。

 そして、その不安を杞憂で終わらせることができた究極融合超獣の万能さと、あくまでも直接戦闘に重きを置いた培養合成獣の特性の差を、ルカは充分承知していた。

 

「ただでさえ、ちゃんと分離できるかもわからないのに……そのままライハを取り込んじゃったり、ベリアルに憑かれてたアリエさんみたいに、ライハが変になっちゃうかもしれない……!」

「そのアリエさんの例があるから、今度は対処のしようもあるわよ」

 

 感情を抑えきれないルカの拒否を、ライハは事もなげに受け止めた。

 

「……ね? レム」

「はい。少なくとも星雲荘の住人相手なら、短時間の戦闘一回で生じる影響を、私が見逃す可能性は低いでしょう」

 

 そして、ライハの確認に。前言通り、絶対とは口にせず、しかしその自負を滲ませながらレムが答える。

 

「ですが、融合できるとしても。ウルトラマンであるリクとでは、ダークサンダーエナジーで分離させられる恐れがあります。サラはダークサンダーエナジーに耐性があっても、そもそもヤプールの手により、レイオニクスとの同化をプロテクトされています。一体化の候補は、それ以外の者に限られます」

 

 星雲荘に暮らす同じベリアルの子であり、その遺伝子による汚染が心配ない兄妹を選べない理由を、レムが告げる。

 

「そのうち、ペガは男性です。ベリアルとアリエのように不可能ではありませんが、M78星雲人と異種族の融合は同性の方が難易度が下がります。ただでさえ暴走を抑える必要があるのなら、余分な負担は減らすべきでしょう」

「それに……情けないけど、ペガよりライハの方が、戦うのは得意だしね」

 

 自嘲しながらも。故郷を離れて早々、孤立した滅亡の危機へ巻き込まれたにも関わらず、それを恨む様子もなく。

 

「ただ、ルカが暴走しなかったら良いだけの話じゃない。グリーザを倒して、地球を守らなきゃ――だったら、それが今選べるベストの道だって、ペガも信じる」

 

 仲間への確かな信頼を宿して、ペガが覚悟に満ちた声でライハを推した。

 

 仮に、星雲荘の外まで、範囲を拡げて候補を探しても――ウルトラマンであるアサヒは、リクと同じ理由で不適切で。

 ならば、進んだ科学技術の宇宙人兵士と渡り合うほどの達人であり、キングギャラクトロンMK(マーク)(ツー)で巨大怪獣との交戦経験を持つライハほどの適任者は、他にはいない。

 

「そういうことよ。その上で失敗したり、このまま何もしなかったりした時は、どの道グリーザに皆消されるのに変わりないもの。だから余計なことは考えなくて良いわ」

「でも……でも、ライハ」

 

 頼もしく告げるライハに、それでもルカはまだ、後ろ髪を引かれていた。

 

「――いいの? だって、私……スカルゴモラなんだよ?」

 

 そして、躊躇った末に、その疑問を口から出してしまっていた。

 

 ……わかっている。そんなことは、ライハは()うに承知だなんて。

 その上で、ルカを仲間として受け入れ、弟子に取り、家族と呼んで慈しんでくれたことも。

 

 それでも――それでも、彼女の両親を奪った赤い角の怪獣、その写し身である自分と、一時的にでも同化することを選ばせて良いのか。そんな疑念が、つい零れた。

 

「ええ。あなたは確かに培養合成獣スカルゴモラ――伏井出ケイじゃないわ」

 

 対して、ライハは。その事実に嫌悪を示すことも、問いかけそのものを侮辱と感じる様子もないまま。

 ただ、変わらぬ自然体で、答えてくれていた。

 

「あなたはベリアルの血を引いた、リクの大切な妹。そして私の可愛い弟子で……明日も笑顔で居て欲しい、私たちの家族」

 

 ライハが、そう言ってくれるのに。

 リクはもちろん。レムも、ペガも、モアも、そしてアサヒも。皆一様に、力強く頷いてくれて。

 

「家族と一緒に生きられる可能性を、私はもう諦めたくないの。だから、躊躇う理由なんかないわ」

「――っ! あ……っ、私、も……!」

 

 言葉とともに差し出されたライハの手に、ルカはまた、涙で声を途切れさせながらも。

 

「私も、ほんとは、諦めたくなんかないっ!」

 

 伸ばされた手を取って、きちんと、返すべき願いを叫んだ。

 

「これからも、皆と……家族と一緒に、生きていたいっ!」

 

 そう。

 本当は、死にたくなんかないのだ。だから、消滅への恐怖を極大化するダークサンダーエナジーを受けて、ルカはああも暴れ果てた。

 けど。そのせいで、大切な人を傷つけてしまって。取り除きようのないグリーザが居る限り、それをまた繰り返してしまう死以上の恐怖に心が居場所を見失い、全てを投げ出して逃げようとした。

 そんな馬鹿なルカを、家族はそれでも諦めないでくれた。

 

 ……それで救われること自体は、生まれたあの日の夜と同じ。

 だけど、あの時と違うのは――今度はリクだけではなく、もっとたくさんの家族と仲間が、ルカを愛してくれたことだった。

 

 そして、一人一人では抗いようのない脅威に、誰も犠牲にせず立ち向かうための道を、知恵を出し合って見つけてくれた。

 

「……ありがとう、ライハ」

 

 そんな事実を噛み締め、泣きじゃくるルカの様子で、安心したように。リクが、ライハに感謝の言葉を紡いでいた。

 

「こっちこそありがとう、リク。ルカとの約束を、守ってくれて」

 

 答えたライハが、続けて頭を巡らせるのが、俯いたままのルカにもわかった。

 

「皆も、ありがとう」

「……ありが、とう――皆っ!」

 

 ライハに続いて、ルカもまた。涙を拭いながら、周りに居る家族と仲間へ、心からの言葉を声に出した。

 ちゃんと、この感謝の気持ちが、皆に伝わるよう祈って。

 

 

 

 ……恐怖はまだ、残っていても。

 それに負けないだけの希望を。自分の生きる意味を。

 ルカの心はもう一度、信じられるようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 夜の帳に包まれた、星山市。

 その空から――この世の終わりが降りて来るのを、伊賀栗レイトは家族とともに、隣町の避難所から中継で目撃していた。

 

 終焉の名は、虚空怪獣グリーザ。

 第一形態と仮称される球状の姿のまま、周辺の空間を撓ませるようにして膨張したグリーザは、次の瞬間に縮小し、その姿を変えていた。

 無貌の巨人にも似た、美しくも毒々しい色合いをした、第二形態へと。

 

 その変身だけで。穴の構造が変わったことにより、住民が避難し無人となっていた星山市の建築物を空間変動で次々と撓ませ、崩壊させ、零れた瓦礫を大気の異常な流動に伴う風で巻き上げたグリーザの背から、もう一人の巨人の姿が生えるのを、レイトは目にした。

 それは、グリーザを止めるため、レイトと分離した上で、この脅威の中に飛び込んで行った、あのウルトラマン。

 

「ゼロさん……!」

 

 まるで幽体離脱のように、朧気なビジョンとしてグリーザから伸びたレイトの相棒は、グリーザと同調して正気を喪ったような笑い声を発していた。

 そして、グリーザが握り拳を左右に開くと、それに引っ張られるようにしてゼロの姿は虚空に重なり、そして声だけを残して消えた。

 

「ゼロツインシュート!」

 

 光の戦士を再び呑み込んだグリーザ。

 その胸から放たれるのは、ウルトラマンゼロが独力で放つ中では最強の威力を誇る必殺光線。

 

「あ――」

 

 広範囲に照射される光の束は、星山市のビル群を貫き、中継のカメラ、そして――その延長線上にある、レイトたち家族を含む、大勢の命が潜む避難所を目指して迸る――はずだった。

 

 だが、そうなる前に。虹色の羽を生やした妖精のような少女が、カメラの前へ身を躍らせていた。

 妻子とともに息を呑むレイトの前で、白雷が視界を染め上げ――中継カメラが自動で光量を絞り、正確な映像を再び届けるようになった時には、先の眺めが何かの間違いであったように、全く違うものが映像に映し出されていた。

 グリーザが放つゼロツインシュートを、自身の胸で余さず吸い上げる、白い竜――サンダーキラーSの姿が。

 

「サラちゃん!」

 

 友達としてその正体を知るマユが、兵器としてではなく、人格としての彼女の名を呼んでいた。

 そんな伊賀栗家の反応が届いているはずもないサンダーキラーSは、しかしその呼び声に応えるかの如く、破壊光線の照射を終えたグリーザを威嚇するような咆哮を発していた。

 

 

 

 

 

 

「グリーザが活動を再開しました」

 

 ルカがようやく落ち着いた頃。研究室に鳴り響く警報音の正体を、レムは真っ先に言い当てた。

 同時、組織内の連絡を確認したペイシャンが、AIB側の観測情報を読み上げる。

 

「グリーザは星山市で破壊活動を開始。現在サンダーキラー(ザウルス)が迎撃中。だが……」

 

 グリーザが動き出したということは、その活動を戒めていたゼロが、無の中で消滅してしまうのも。

 食い止めるために立ち向かうサンダーキラーSが、しかし通用する攻撃手段を持ち得ず、グリーザに倒されてしまうのも。

 

「――時間の問題だろうな」

 

 その報告に、未だ重体のはずのリクが、痛みを押して立ち上がっていた。

 

「急ごう、皆!」

「……うん。ジーッとしてても、ドーにもならないよね!」

 

 涙を拭いながら、そんな合言葉を口にできるぐらいに回復したルカが、真っ先にリクの呼び声に応えるのを見て。

 レムは、不慣れな活動用ボディの口の端を、自然と緩めてしまっていた。

 

 覚悟を決めて、危機に立ち向かおうとする家族を、送り出すために。レムは転送用エレベーターを手配して、現場への座標を即座に設定した。

 

「頑張って……リッくん、皆!」

 

 そして、リクとアサヒ、ルカとライハを載せたエレベーターを、声援を手向けるモアやペガとともに見送っていると――ふと、背後から自身に向けられた視線を感じた。

 

「……何故私を監視しているのですか?」

「何だその言い草は――いや、大した忠誠心だと思ってな」

「ありませんよ、そんなもの」

 

 気配の主であるペイシャンの感想に、レムは端的に答えた。

 

「前から思っていたが、おまえが部下に……って、何だと?」

「確かに、私のマスターはリク――ですが、そんなプログラムは既に、全て消去されています」

 

 何事かを、まるで本心をはぐらかすかのように呟いていたペイシャンに、レムは淡々と答え続ける。

 

 以前、初めてこの器と同型の、活動用ボディを起動させた事件――創造主であった伏井出ケイが星雲荘を奪取した際に、レムは完全に消去された。

 何とか意識だけは緊急避難できたものの、レムは星雲荘に関する、全ての権限を剥奪されてしまっていた。

 

 さらに伏井出ケイに見つかってプログラムを書き換えられ、敵兵器であるメカゴモラに搭乗させられた。

 ……そんな、役立たずどころか、敵に利用までされたレムを、リクはそれでも見捨てなかった。

 

 リクの奮戦もあり、レムの意識データは奇跡を起こし、本来の権限を越えて星雲荘を奪い返した。そして自分たち家族の居場所を、二度とベリアルたちに利用されることがないよう、全ての権限を書き換えたのだ。

 ――当然、『Bの(ベリアル)因子』を持つ者がマスターとなる設定も、全て。

 

「便宜上、以前の関係を続けているだけで……私の行動を縛るプログラムは既に存在しません。リクの命令に従う設定もです」

「えぇっ、そうだったの!?」

 

 ペガが驚いた声を発するのに、そういえばまだ誰にも言っていなかったことを、レムは思い出した。単に、誰にも聞かれなかったからだが。

 

「……なら、どうしてだ?」

「そうしたいから、ですよ」

 

 だから、初めて受ける質問に、レムは本心から答えた。

 

「リクたちは私のことを、ただの道具として扱いませんでした。仲間として、家族として、大切に想ってくれた――なら、私が大切に想い返すのも、単純な道理というものでしょう?」

 

 それこそ、ルカがそうして育って行くように。

 レムはただ、優しくして貰えたから――それを返したいと、自然と想えるようになった、それだけだった。

 

「今も報告管理システムとして振る舞うのは、単にそれが向いているのと――そういう風に生まれた私を、彼らが大切にしてくれるからです。忠誠心ではありません」

「……だからリッくんに厳しかったんだ」

「いや、それは元々……」

 

 勘違いした様子のモアへの対応は、面倒なのでペガの優しさに任せることとした。

 何より、今は緊急時だ。

 

「ペイシャン。グリーザの解析と、それによるリクたちの援護に、協力を要請します。この状態でも、私は星雲荘の機能と情報を全て扱えますので、お気遣いなく」

「……羨ましい限りだよ。本当に」

 

 こちらの性能を示すと、どこか皮肉めいた口調で答えつつも、自身の情報端末へと向き直るペイシャンとともに。

 レムは、送り出した家族がこの危機を乗り越えるために。まだ自分ができることに、全力を尽くそうと決めていた。

 

 

 

 

 

 

 遂に活動を再開した、虚空怪獣グリーザ。

 監視し続けていた敵との対決に臨みながら、究極融合超獣サンダーキラーSは、自らの知り得た事実を振り返っていた。

 

 ――ペイシャンから聞かされた、グリーザの発生原因。

 それは、サンダーキラーS自身が、四次元怪獣ブルトンを、倒してしまったからだということを。

 

 数々の怪獣災害を起こした末、モアたちを乗せ避難するネオブリタニア号を狙われては、あの時ブルトンを見逃す道理はなかったとしても。

 こんなことになるなんて、知らなかったとはいえ。それでもサンダーキラーSが、ブルトンを倒したことが原因でダークサンダーエナジーを放つグリーザが生じ、大切な姉である培養合成獣スカルゴモラを変貌させることになってしまった。

 その尻拭いを、同じく大切な兄であるウルトラマンジードが、たくさん痛い思いの末、何度も死にかけてまでしてくれた。

 

 兄のおかげで、姉は何とか正気に戻れたが――きっと、二度目はない。ギガファイナライザーも、壊れてしまったから。

 だから、今度は。痛い想いを兄に、苦しみを姉に押し付けてしまった自分が、その二度目だけは防いでみせると。

 

 早速、獲物(ルカ)を求め迸る暗黒の稲妻(ダークサンダーエナジー)を、伸ばした触手で絡め取りながら――漲る決意とともに、究極融合超獣は単身、その発生源である虚空怪獣と対峙していた。

 

「ここは、とおさない……!」

 

 咆哮とともに、サンダーキラーSは八本の触手で取り囲み、グリーザへの攻撃を開始した。

 

 怪獣を越えた生物兵器である、超獣の頂点――次世代の究極超獣にして、広大な宇宙の生命全てを糧とできるポテンシャルを秘めた、滅亡の邪神、その幼体。

 そんなサンダーキラーSからの激しい敵意を向けられながら、しかし宇宙の全てを無に帰す虚空怪獣グリーザは、何ら変わらず普段通りの行動を開始した。

 

「べりあるですさいず!」

 

 サンダーキラーSが首元から生えた二本の触手を振るえば、父ベリアルから再現した攻撃手段、平の宇宙警備隊員であれば十人単位で両断する鎌状の光線が二つ、グリーザへと飛翔する。

 グリーザはただ存在するだけで、斬撃の通るべき空間を無に呑み込み、直撃する軌道を消失させて、左右へと刃を受け流す。

 

「ふぉとんくらっしゃーえっじ!」

 

 かつて宿していた二人のウルトラマン、そのリトルスターより獲得した、二重の光の刃を重ねがけする赤と青の光刃を二組、今度は鞭状に変化させて一直線に叩きつける。

 サンダーキラーSの二対目の触手による攻撃を、グリーザは体表に見えないバリアでもあるかのように、水を弾くように無数の斬撃を散らし、変わらぬ足取りで前進する。

 

「けっしょうかこうせん!」

 

 サンダーキラーSの触手、三列目の触手二本が放つのは、光怪獣プリズ魔を捕食したことで獲得した悪魔の光線。

 対象を破壊するのみならず、あらゆる物質を結晶化させ、光に変換して捕食してしまう白い悪魔の脅威も、元々物理的に存在しないグリーザにはどこから浴びせても効果を発揮せず、無の中へ吸い込まれるだけで終わってしまう。

 

「ぜがんとびーむ!」

 

 最後列の触手二本が放つのは、光学的な破壊力を持つと同時、含んだ時空の因子により時空構造体の情報を書き換え、別次元に通じる扉を開く次元転送光線。

 だが、この宇宙の全ての位相と次元を貫いて開いた穴であるグリーザには全く通用せず、逆に次元の穴すら吸い込まれながら距離を詰められる。

 

 ……究極超獣の触手は、初号機であるUキラーザウルスの時点で、その一本一本が超獣の平均値に相当する攻撃力を備えている。

 そして、次世代型であるサンダーキラーSの触手は数を倍にしただけでなく、多様な能力を解析し自己強化できる特性と合わせ、単独でも従来機以上の性能を発揮できる。

 そこに、グリーザから幾度と受けたダークサンダーエナジーによる強化が上乗せされ、さらなるパワーアップを果たしている状態だ。

 

 つまりは、怪獣の平均を遥かに凌ぐ超獣、その八体分を大きく越える飽和攻撃をして、虚空怪獣グリーザには一切の成果を挙げられなかったのだ。

 だが、所詮は補助器官に過ぎない触手よりも――サンダーキラーS本体の方が、当然、出力も性能も上となる!

 

「きらーとらんす……」

 

 口から放つ連射性に優れた三日月型のカッター光線、ライトニングキラーカッターで牽制しながら、サンダーキラーSは異次元超人ビクトリーキラーのものから発展させた変異能力(キラートランス)を発動し、通常時の身体構造では行使不可能な攻撃手段の準備に移る。

 

「ハイパーゼットン・しざーす!」

 

 日中、宇宙恐魔人アーマードゼットが繰り出した軍団の中でも、特に優れていた亜種――史上初めて滅亡の邪神と呼ばれた存在を形だけでも模した宇宙恐竜の、槍のような突起状の前腕に自らの両腕を変化させたサンダーキラーSは、不規則な転移で弾幕を突破してきたグリーザを迎え撃った。

 

 元が見てくれだけの複製体とはいえ。同じ構造を、滅亡の邪神ハイパーエレキングの細胞から造られた究極融合超獣が操れば、その威力はオリジナルの方に近づいていた。

 

 そうして繰り出した、兄の最大貫通力を誇る必殺技(クレセントファイナルジード)にも迫る破壊力の刺突二発を、しかしグリーザはただそれぞれに掌を添えるだけで、それ以上の進行を阻止した。

 そのまま、無貌の頭部が、ずいっと――獲物を値踏みするようにして、兜に包まれた自身の顔に近づくだけで、サンダーキラーSをして死への嫌悪感を抑えられなかった。

 

「――っ、さんだーですちゃーじ!」

 

 キラートランスした両腕を掴まれたままの状態で、サンダーキラーSは自身に備わった放電能力を全開。地球を消し飛ばせるほどの莫大な電力が究極融合超獣の体から産み出され、最も電気抵抗の低い無そのもののグリーザへと直に注ぎ込まれる。

 それでも、たった五十メートル規模の穴でしかないはずのグリーザは、何の痛痒も見せず、変わらずに狂ったような笑い声を上げるばかりだった。

 

「うぁあああああああっ!」

 

 捕まったままのサンダーキラーSは、ハイパーゼットンを再現したままの両腕から一兆度の火球を生成。至近距離から叩き込もうとすると、グリーザが突如として消える。

 いつの間にか、コマ落としのように背後に回っていたグリーザから回し蹴りを打ち込まれ、それだけでサンダーキラーSは呆気なく横転。発射直前だった火球が街の舗装を瞬時に気化させ、その下の大地を爆ぜさせ、クレーターを形成する。

 

 その白煙が上がる最中、倒れ込んだままでもサンダーキラーSは自らの尾をグリーザ目掛け伸ばし、拘束しようとする――が、他の攻撃と同じように、グリーザには触れることすらできず回避される。

 それでも、気紛れからか後退したグリーザを追い、サンダーキラーSは触手の内の四本を照準させる。

 展開した鉤爪の間で生成した、一兆度のプラズマ火球。それを次々と発射し、追撃するが、やはりグリーザは体表で逸し、弾き、すり抜け、あるいは丸呑みにして、邪神の放つ一兆度の暗黒火球でも、一切のダメージを受け付けず、狂ったように笑いながら踊り続ける。

 

「きらーとらんす……!」

 

 残る四本の触手を足代わりにして瞬時に起き上がったサンダーキラーSは、不条理の極みに向き直り、次なる攻撃手段を試みていた。

 

「――ファイブキング・あーむず!」

 

 サンダーキラーSの触手がまた、変化する。

 今度は超合体怪獣ファイブキング――に、収斂進化したスペースビーストを取り込んだことで再現を可能とした、その構成怪獣への部分変異。

 八本の触手は、その先端全てが巨大で醜悪な目玉、奇獣ガンQ型の楯に変化して、一斉にグリーザへと襲いかかった。

 

 目には目を、不条理には、不条理を。

 生命反応のない生命体・ガンQの力を用いたサンダーキラーSは、破壊力を叩き込むのではなく。逆に、存在しない存在・グリーザを吸収することで対抗しようと試みた。

 八方から襲いかかった魔眼の群れは、グリーザを完全包囲。そのまま取り込んでしまおうと、各々から紫色の波動を放射する。

 

 だが、同じ理屈を越えた不条理でも、グリーザとガンQではその質も規模も違い過ぎた。

 

 グリーザの頭部が光ったかと思うと、無数の鎌鼬のような刃が発生。吸引効果に捕まったようにガンQへ接近するが、完全に吸収される前に瞼や眼球部分を直接切り裂き、その痛みでサンダーキラーSの触手の包囲を緩ませる。

 グリーザはその結果を見届けるでもなく、続けて一度交差させた腕を解いたかと思うと――体の前面に、眩い光の円を生じさせ、そこから無数の青白い光を伸ばした。

 その光は、腕のような形をして、サンダーキラーSの触手に襲いかかって来た。

 

 先端に付いたガンQを鷲掴みにするように、あるいはさらに根本を握り込むように。次々と伸びた手は、猛烈な勢いで円を潜り、グリーザの中へと戻ってはまた飛び出すを繰り返した。

 

「あ……っ、いやぁああああああっ!?」

 

 その動作に合わせて、腕に襲われたサンダーキラーSの触手は次々と引き千切られ、その肉片を無へと変換されて行った。

 

 痛みや恐怖を感じることができる、自律した一個の心を持った超獣サンダーキラーSは――なまじ強すぎる故に、その感覚には未だ不慣れだった。

 だが、その強大な力を以ってしても、この虚空怪獣には一矢報いることもできず、勝敗はあっさり決してしまった。体の一部である触手を勝者に遠慮なく潰され、毟られ、引き千切られるたびに、耐え難い激痛が連続して走り、幼い精神が蹂躙される。

 

 日天下であれば、不死身に喩えられるほどに再生力が向上する分、もう少し善戦できたかもしれない。しかし、それでも結果は変わらなかったと断言できるほどの隔絶した差が、サンダーキラーSとグリーザの間には存在していた。

 

 ――だが、サンダーキラーSはまだ諦めなかった。

 

 痛みや恐怖を言い訳にするには、彼女はもう、大切なものを知り過ぎていたから。

 

「あぐるぶれーどっ!」

 

 意志の力で痛みに抗ったサンダーキラーSは、腕から生やした光子の剣で、本体にまで迫る亡者のような青白い手を懸命に迎え撃った。

 しかし、二度切り払ったところで剣はあっさり掴まれて、もう一本グリーザの腕が加勢すれば、ちょうど刀身の色が変わる辺りから綺麗にぽきりとへし折られた。

 

 そして、立ち尽くすしかなくなったサンダーキラーSを虚空の中へ引きずり込もうと――喪った触手に倍する数の亡者の手が、グリーザからサンダーキラーSにまで伸びて来ていた。

 

 

 

 

 

 

「……何となくわかった。多分、いける……と思う」

 

 レムが用意した、転送用エレベーターの中で。

 グルーブや、レイガという合体ウルトラマンに変身した経験を持つ、リクとアサヒのアドバイスを受けたルカは、これから求められる一世一代の大勝負に向けたイメージを、自らの中に築きつつあった。

 

「多分なんて言わないの」

 

 そんなルカに対し、相方(バディ)となる師匠(ライハ)は、容赦なくダメ出しを行った。

 

「絶対できる、って信じなきゃ。自分で信じられないことをやり遂げるなんて、できっこないわよ」

「……さっき、レムに絶対はないって言われたから」

 

 弱気を言い訳しながらも、ルカはライハの指摘に頷きを返した。

 

「でも、そうだよね。お兄ちゃんとアサヒが教えてくれたことを、ライハとするんだもん。間違えっこない、よね」

「その意気よ」

「そうです! ルカちゃんとライハさんなら、必ず上手く行きます!」

 

 満足げな表情のライハと、力強く握った拳を見せてくれるアサヒに励まされて、自身の中の不安をどんどん追い出しながら。

 

「信じることが大事、か……」

「どうしたの、ルカ?」

 

 その呟きに込めた迷い――微かな恥じらいの感情を見て取ったらしきリクが問いかけてくれたのに、ルカは腹を決めることとした。

 

「ねぇ、お兄ちゃん――最初だけでも良いから。マグニフィセントで、一緒に戦ってくれる?」

 

 そして、自分の不安を払うためのおねだりを、ルカは兄に告げた。

 

 ウルトラマンジード・マグニフィセント。(リク)留花(ルカ)の名付け親である朝倉(スイ)が、家族になれなかった子供に託した――生きて欲しいという願いから誕生した、崇高なる戦士の姿。

 ギガファイナライザーが壊れた今、ジードが変身を可能とするフュージョンライズの中では、指折りに強力な形態でもある。

 

 だが、ライハの祈りから光臨したロイヤルメガマスターを始め、ルカ自身の祈りから繋がったノアクティブサクシード等、さらに上位と言える形態は存在する。

 それでも。ルカにとって、あの姿の兄は、今も特別な希望だった。

 

「私を、最初に護ってくれた、あのジードと一緒なら……どんな怖い目に遭っても、私はもう私を見失わないって、信じられるから」

「……ああ。わかった」

 

 果たして。妹の頼みを、兄は快諾してくれた。

 

「……ありがと、お兄ちゃん」

 

 少しだけ、照れながらも。確かな御礼を伝えたその時――遂にエレベーターが、目的地の座標に到着した。

 そして、ルカたちが転送用エレベーターを出てみれば。

 孤軍奮闘してくれていたサンダーキラーSは、グリーザからの反撃を受け、殺されかけていた。

 

「サラ!」

「今助けます!」

 

 思わず心配の声を上げるルカの隣で、アサヒが自身の変身アイテム――ルーブジャイロを取り出していた。

 

「星まで届け、乙女のハッピー!」

「――ユー、ゴー!」

 

 アサヒが戦いに臨む構えに入った隣で、リクもまた、フュージョンライズを開始する。

 その様を見て――妹を助けるためにも、遅れるわけにはいかないとルカが決意したその時。

 ライハが強く、ルカの掌を握っていた。

 

「……行くわよ、ルカ」

「――うん!」

《フュージョンライズ!》

 

 呼びかけに応えたその時――ちょうど、ジードライザーが、その単語を読み上げていた。

 そうして、友に託された光と、無事を願う祈りと、互いを想う心とが、それぞれに溶け合って。

 

「護るぜ、希望! ジィィィィィィィィィィィドッ!!」

 

 闇を払う三つの光が生まれ、虚空から伸びる邪悪な手を払うように、星山市の夜を翔けていた。

 

 

 

 

 

 




Bパートあとがき




・ウルトラマンにとっての擬態と一体化の難易度設定
 光の国のウルトラマンにとっては、擬態より一体化(憑依)の方が簡単というお話。
 正史にどこまで反映されるかはっきりとしていませんが、公認作品である小林雄次氏著の『ウルトラマン(シスターズ)』内で言及された設定が元ネタとなります。擬態の方が優れた能力を必要として、憑依の方が簡単らしいです。地球人の感覚や、擬態ではなく憑依で活動している面子の豪勢さ、ウルトラマン同士の合体が何らかのアイテムが必要なケースが多いと、印象的には正直真逆とは感じるのですが、一応公認作品で明言された設定になるので、自分の感覚よりも優先して採用させて頂きました。
(それを言い出すと人間の姿から変身するのにアイテムが必要って擬態型のリブットが公式映像作品で言っている? でも融合型とはいえノアの化身であるネクストどころかジャックもベリアルも変身アイテムなしで人間態とウルトラマンで変化・分離が可能ですし、映像作品ではありませんが『ダークネスヒールズ-Lily-』の本物の記憶を再現されているベリアルは「俺には必要ない」と発言してイーヴィルが認めてはいるので、例外はあるのかなってことで……お見逃しください)


・レムの権限関係
 実は原作19話『奪われた星雲荘』時点で、リクの命令権は既に消去されているという衝撃のカミングアウト。
 実際に消されてしまった上で、上位権限者である伏井出先生からシステムを全て奪い返し、彼にプロテクトを施しているということは、レムは星雲荘のシステムを完全に己のものとして掌握していることになるため、矛盾のある解釈にはならないとは思うのですが、公式で明言されていない独自解釈となります。予めご了承ください。


・グリーザの強さ
 グリーザについてはほぼ公式設定通りの強さのつもりですが、本作のグリーザは出現要因となったブルトンが通常の個体ではなく、レイオニクスの能力で強化された個体のため、結果的に通常ブルトン産の『ウルトラマンZ』の個体よりも干渉に必要な出力水準が向上しているという想定になります。そのため、デルタライズクローに力負けしていなかったバラバより設定上格段に強力なサンダーキラーSが全く干渉できていない、という格好になります。同じ理由+推定ギャラクシーライジング以上のウルティメイトシャイニングから吸い上げたパワーもあるため、攻撃力もジャグラーの変身した(トライキング→)ファイブキングを計五発前後で倒すというものからさらに強化されている形です。






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