ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第十七話「フュージョンライズ!」Cパート

 

 

 

 

 八本の触手を、千々に引き裂かれ。

 今まさに、無へと誘う虚空怪獣グリーザの魔の手に襲われていた究極融合超獣サンダーキラー(ザウルス)の前で、三重の防壁の展開が、間に合った。

 

「あ……っ!」

 

 兄姉が展開した光子障壁は、グリーザが次々と繰り出す魔の手に砕かれ、吸い込まれ、突破されてしまったものの。それでも、ラッシュの勢いを弱めることはできていた。

 

「てぇいっ!」

 

 そして、三層目に控えていたウルトラウーマングリージョの強力なバリアは、減衰したグリーザの攻撃を横に逸らして、一旦状況を仕切り直すことに成功していた。

 

「もう大丈夫だ、サラ」

「すぐに治しますね――グリージョチアチャージ!」

「お兄さま、アサヒおねぇちゃん――それに……!」

 

 末妹と、彼女を治癒するグリージョを庇って前に立つ、ウルトラマンジード・マグニフィセントの呼びかけを合図に。自らを救った者たちを見渡したサンダーキラーSは、驚きの声を漏らしていた。

 

「お姉、さま……!?」

「(助けに来たよ、サラ!)」

 

 動揺で声を上擦らせた末妹に返事をしながら、培養合成獣スカルゴモラが両の拳を打ち合わせる。

 それを合図に、全身の角から放たれる黄金の波動、フェーズシフトウェーブ。ウルトラマンネクサスのリトルスターから継承したその能力で、スカルゴモラはその場の全員を、戦闘用不連続時空間、メタフィールドの形成に巻き込んだ。

 ……位相に依存しない宇宙の穴であるグリーザも、変わらぬ位置関係でそこに居たが、これで。星山市周辺への被害を気にせず、戦うことができる。

 しかしそんな態勢に、待ったをかける声が上がった。

 

「そんな、だめ、お姉さま! アレに近づいたら……!」

「(心配しないで、サラ)」

 

 サンダーキラーSが、その身を楯に庇っていた実姉――強靭な生命力を持つ故にグリーザの標的とされ、怪獣である故に、ダークサンダーエナジーで暴走させられてしまうスカルゴモラは、しかし怯んだ気配を見せずに、妹の訴えに答えていた。

 

「(だってルカは、一人じゃないから)」

 

 そして、同じスカルゴモラが発する、しかし彼女の物ではない思念の声に、サンダーキラーSが驚愕で一瞬固まった。

 

「えっ――ライ、ハ……?」

「(そうよ。あなたとトリィがそうしたように――今は私がルカと、一つになっている!)」

 

 融合に成功した、ライハの叫びに合わせて。スカルゴモラの体から、紅い炎が生じる。

 レイオニクスの闘争本能の昂りが開花させる力――レイオニックバーストによる強化を遂げたスカルゴモラが、妹を庇うように前に出て、ジードと並んだ。

 

「(……私には、皆が付いてくれている。もちろんサラも、サラにも)」

「ああ。だからどんな相手にだって……宇宙の穴だろうとなんだろうと、僕らは負けない。絶対に!」

 

 まるで、避けようがない死という運命、そのものみたいな相手でも――運命は変えられるということを、ジードは、リクは既に知っていた。

 

 レムが言うように、絶対はない。いつかは死ぬとしても、それを今、受け入れる理由はどこにもない。

 だから、相手が絶対のように振る舞うのなら。こっちだって絶対に、心で負けてやるものか!

 

〈水を差して悪いが、気持ちだけで勝てる相手でもない〉

 

 そこで、ジードライザーを介して聞こえたのは、AIBのペイシャンからの通信だった。

 

〈奴を倒すにはこの宇宙の針が要る。それを取りに行ったゼロは音信不通のままだ〉

〈力尽きたのは、針を見つけた後か否か……状況はこちらからは窺い知れませんが、このまま脱出できなければ、ゼロはグリーザに消去されてしまいます〉

 

 ペイシャンに続けて、人間態で活動しているレムが、彼の研究室から解説を続ける。

 

〈針が無の中にあるにせよ、ないにせよ……状況を確認するためにも、まずはグリーザに干渉できるだけのパワーをぶつけて、ゼロを救い出せ〉

「……言われなくても!」

 

 この場に残された皆を庇い、無と同化するという危険を冒してまで、グリーザを足止めしてくれたゼロ。

 大切な戦友であり、仲間である彼を助け出すことも、最初からジードの目的の一つだった。

 

「行くぞ!」

 

 ジードの叫びに合わせて、咆哮したスカルゴモラもまた、一斉にグリーザに突撃を開始した。

 

「メガニストラトス!」

 

 飛びかかったジードが、肩と肘の突起の間に生成した光の回転ノコギリを前に突き出して、ふらふらと前進して来るグリーザに斬りかかる。

 ――光の刃は、そのままグリーザをすり抜けて、何の成果も挙げられない。

 

「(やぁあああああああああっ!)」

 

 二人分の気合を載せたスカルゴモラの頭突きもまた、グリーザはその発光する人型を歪ませたかと思うと――コマ落としのように回避してしまい、背後からスカルゴモラを蹴り上げていた。

 

「(インフェルノ・バースト!)」

「ビッグバスタウェイ!」

 

 体勢を崩されながらも倒れず、見事な体捌きで立て直したスカルゴモラが口から放った熱線と。ジードが腕をL字に組んで放つ破壊光線とが、グリーザに十字砲火で襲いかかる。

 兄妹が放つ必殺の煌めきは、グリーザの手前で逸らされて、その身に光子一つ届くことはなかった。

 

「なんて奴だ……っ!」

 

 ジードが舌を打つその間に。存在するだけでこちらの光線を捻じ曲げ、その威力を完全に受け流してしまうグリーザは、自分の顔から放つ光は真っ直ぐ飛ばして、ジードのカラータイマー付近を撃っていた。

 

「くっ!?」

「(お兄ちゃん!?)」

「(リク! このぉっ!)」

 

 続けて、一筋だけになった分解消滅光線を、今度は楽々と呑み干しながら接近して来たグリーザへと、放射を止めたスカルゴモラが拳打へと切り替える。

 ライハの技量を身につけ、流麗な動きを可能としたスカルゴモラの猛打は、しかしグリーザを捉えることができず、腕の一振りであっさりと払い除けられた。

 

「(……そんな)」

 

 微かな絶望に染まったスカルゴモラの思念が、メタフィールドに響いた。

 

 滅亡の邪神の幼体、究極融合超獣サンダーキラーSの力でも干渉できない、虚空怪獣グリーザ。

 この地球に残された戦力で、サンダーキラーSを越えるパワーを持ち得る唯一の存在――レイオニックバーストを果たしたスカルゴモラだけが、無に干渉する希望だった。

 なのに。そのスカルゴモラでも、まるで何もできないなんて……!

 

「……まだだ!」

 

 妹に頼り切り、勝手に絶望するわけには行かないと、ジードは奮起した。

 

《シャイニングミスティック!》

 

 立ち上がりながら、フュージョンライズを重ねたジードは――初代ウルトラマンとシャイニングウルトラマンゼロの力を受け継ぐ形態ならではの、奇跡の力で畳み掛けた。

 

「ジードマルチレイヤー!」

 

 絆を繋ぎ、ウルトラマンの真の力を引き出すメタフィールドの助けを受けて。ウルトラカプセルを通し、シャイニングミスティックは光の巨人たちの力をこの場に借りる。

 そして、本物と同等の力を持ったウルトラマンジードの分身が四体、グリーザを取り囲むように出現した。

 

 シャイニングミスティックと並ぶ、ジード最強のフュージョンライズ形態であるノアクティブサクシードと、ロイヤルメガマスター。

 さらに、ウルトラマンゼロの戦友たちの力を受け継いだマイティトレッカーと、彼の父と師の力を合わせたソリッドバーニング。

 

 虚空怪獣を倒し、戦友(ゼロ)を取り戻そうと。召喚された分身たちが独自の意思でグリーザに攻撃を仕掛ける、その最中。

 本体であるシャイニングミスティックは、もう一つの超常能力を行使する。

 

「――スペシウムスタードライブ!」

 

 それは、時間の流れを停止させる超絶能力。

 いくらなんでも、時間ごと固定してしまえば、回避のしようもないだろうと――そう考えていたジードは、停止した時間の中でも変わらず響く笑い声に、身を竦めた。

 

 虚空怪獣グリーザは、止まった時間の中でも、変わらず揺らめきながら動いていた。

 

 ……D4レイの次元崩壊や、ガンQという怨霊の呪術を無視するだけでは飽き足らず。

 この宇宙に開いた穴は、この宇宙に流れる時間という概念にすら、何の影響も受けていなかったのだ。

 

 そして、空間跳躍で最初に接近したノアクティブサクシードの長剣を腕の一振りで弾き返したかと思うと。そのまま振り返りもせず、背中から放った光線で、後ろを取っていたソリッドバーニングを過たずに撃ち抜き、吹き飛ばした。

 

「このっ!」

 

 無意味な時間停止を解除しながら、シャイニングミスティックはスペシウム光線を発射する。

 同時、ロイヤルメガマスターも出の早い飛ぶ斬撃・スウィングスパークルを放ち、マイティトレッカーもムーンライトソルジェントでの一斉攻撃を繰り出す。

 スペシウム光線と、ムーンライトソルジェントの光を容易く受け流しながら。気紛れのように体を思い切り仰け反らせて、スウィングスパークルの斬撃を回避したグリーザは、その身を起こすと同時に全身から無数の光球を出現させた。

 そして、光球から伸びた手のような光線が一斉に五体のジードを打ちのめし、弾き飛ばした。

 

 既に装甲を貫かれていたソリッドバーニングと、鎧を身につけていないマイティトレッカーはその一撃で耐久限界を迎え、消滅する。

 それぞれマントと鎧で凌いだロイヤルメガマスターとノアクティブサクシードも、決して無視できない被弾を受けて、一瞬動きを止めていた。

 その隙間を狙うように。本体であるシャイニングミスティックを照準したグリーザの胸が、耳が痛いほどの高音を伴う破壊光線を発射した。

 

「――っ!?」

 

 先の被弾で動きの鈍っていたシャイニングミスティックは強烈な破壊光線を避けることができず、その身を貫通する超過ダメージを叩き込まれ、カラータイマーの点滅開始と、フュージョンライズの強制解除に追い込まれた。

 

 ……今回は最初に介した変身がマグニフィセントであったため、プリミティブではなくその姿へ退化することで即時戦闘不能を免れる。

 だが、初代ウルトラマンの力を持たない形態に変わったために、ジードマルチレイヤーを維持できなくなった。

 

 結果として、未だ継戦可能だったロイヤルメガマスターとノアクティブサクシードの分身までその姿を消してしまい、持ち手を失ったキングソードだけがメタフィールドの大地に残される。

 

「リクさん!」

「アサヒおねぇちゃん、あぶない!」

 

 ジードの苦戦に駆け出そうとしたグリージョと、光線吸収能力で彼女を庇うサンダーキラーSに対し、グリーザは何の感慨も見せず背中から紐のような触手を伸ばし、二人の全身を斬りつける。

 

「(やめろぉおおおおおっ!)」

 

 地を舐める二人に容赦なく続く追撃。それを阻止せんとするスカルゴモラの突撃をまたもひらりと躱しながら、グリーザは二重螺旋状の光線・グリーザダブルヘリックスを発射。抉り込むような弾道でスカルゴモラの背中を削りつつ、射線上に転がっていたキングソードまで弾き飛ばす。

 

 そして、遂に。最初から、それが狙いだったと言わんばかりに――周囲の邪魔者を痛めつけ、倒れ込んだスカルゴモラの抵抗も弱まったところで。

 絶対の如く君臨する終焉の化身、グリーザはその胸から、これまで見せた中で最大規模のダークサンダーエナジーを放出し、スカルゴモラに流し込んだ。

 

「ルカっ!」

 

 転がってきたキングソードを拾い、それを使って斬りかかり、ジードがグリーザの行動を阻んだ時には。

 既に充分な暗黒の稲妻を注がれた妹は、兄の前で再び――その背から翡翠の結晶体のような角を無数に生やした、強大無比な力を誇るスカルゴモラNEX(ネックス)へと、変貌を開始してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

「(いやぁあああああああああああああああああ!?)」

 

 身の毛もよだつような悲鳴が、ライハの外と内から重なって轟いた。

 それが、誰の声なのかはすぐにわかった――一体化していたライハも、一緒にその雷を浴びていたから。

 

「ルカ!」

 

 無数の、細胞のような光彩に包まれた特殊な空間――培養合成獣スカルゴモラのインナースペースが、突如として暗黒の稲妻に塗り潰される中。

 声を張り上げたライハの精神は、その闇の波濤を掻き分けて駆け出していた。

 

「ルカ……どこなの!?」

 

 同化してしまっているために。互いが遍在し、精神の核がどこに居る、ということが却って判別しかねる状況の中。

 このまま見つけられないかもしれない――なんて。情けない不安が脳裏を過ったライハは、すぐに頭を振って、己が何を言ったのかを思い出した。

 

 ――自分で信じられないことをやり遂げるなんて、できっこない。

 ましてここは、混じり合ったルカとライハの精神世界。信じきれないことが、実現できるはずがない。

 

 集中する。

 

 気の通り道である経絡に息を通す、戸納術。その動きを助ける身体の屈伸操作、導引術を用いた、太極拳の深い呼吸。

 

 陰と陽を生み出す気の原型、太極を意識することで。宇宙と一体化する感覚を研ぎ澄ますのが、太極拳の術理の根幹だ。

 それを用いることで、今ライハが同化しているルカの精神世界という小宇宙との繋がりを、さらに深化させる。

 

 ――その果てに、ライハは探し求めた気配を見つけた。

 

「ルカ!」

 

 苦痛を訴える咆哮を耳にして、ライハは暗闇の中を走った。

 

「(あぁああああっ、うぁああああああああああっ!?)」

 

 そして、遂に探し求めた相手を見つけた。

 

 ……そこに居たのは。赤いヘッドホンとライハの真似をした眼鏡をトレードマークにした、輝く金髪と褐色の肌を持つ少女――では、なかった。

 

 その苦しみを示すように暴れ狂うのは、長く太い尻尾。

 頭部には、湾曲した赤い角。そこから等間隔に背鰭のような角を生やす、金色をした蛇腹状の背部。腹部を装甲する、無数の棘とも鱗とも判別できない褐色の皮膚の胸元には、紫色の球体が、カラータイマーのように嵌め込まれている。

 乱杭歯を生やした口元と、血の色をした瞳を持つ彼女は――背丈こそ、ライハの倍未満のスケールに縮んでいても。

 

 紛れもなく、培養合成獣スカルゴモラの形をして。朝倉ルカと名付けられた魂は、苦しみを訴えかけていた。

 

 ……わかっていたことだ。いつもライハと一緒に套路(とうろ)を重ねていた、愛らしい笑顔の少女の姿は。優しく臆病な彼女が、いくら望んでその形を取っているのだとしても、所詮は擬態に過ぎないということなど。

 何ら本人の望みによることなく。獰猛な姿をした赤い角の怪獣こそが、朝倉ルカと名付けられた命の、真の形なのだということなど。

 

 ……今でも。その姿に、どうしようもなく――愛する両親を奪われた過去の光景を想起することは、ある。

 例えば、昼間、正気を奪われた彼女の爪がライハ自身に向けられた時や……まさに今、この瞬間のように。

 

 だが、そんな自分の心の動きを、偽ることなく受け止めた上で。

 新たに得られた愛する家族まで奪われまいと、ライハは躊躇なく、その怪獣の元へ駆け寄っていた。

 

「ルカ、落ち着いて!」

 

 見境なく、遮二無二振り回される太い腕を掻い潜り、ライハはルカ=スカルゴモラの体に抱きついた。

 

「大丈夫、怖くない! あなたは消えない、消させない!」

 

 ベリアル融合獣スカルゴモラに愛する家族を奪われ、未だその悲しみが胸の中に巣食うのも。

 培養合成獣スカルゴモラと出会い、恩讐の果てに、新しい未来を望める絆を結んだのも。

 

 どちらもがホントの自分だと見つめたライハは、この数奇な巡り合せを信じ、叫びを上げていた。

 

 だが、己の胴を回りきらないライハの腕が、そこに触れていることに気づいてすらいないのか。取り囲む暗黒の稲妻に苛まれ続けるルカ=スカルゴモラは、なおも狂乱し、咆哮していたが――不意に、その動きが鈍った。

 

「……大丈夫だ、ルカ。僕らは君と一緒に居る」

 

 それは、幻視。

 そして、心の中ではなく、現実で実際に行われている事象。

 

 マグニフィセントの姿をしたウルトラマンジードが、ライハの反対側から、スカルゴモラを抱き留めていた。

 

「……そうよ。あなたは独りぼっちじゃない」

 

 力強く崇高なる巨人の姿と。妹を喪うまいと、ただ必死に祈りを捧げる一人の青年の表情と。重なる両者から、しかし等しく感じる頼もしさに、自然と涙すら流しながら。ライハは続けた。

 

「私たちが、ここに居るわ」

 

 ゴツゴツとした胸元に、額を当てたライハは――確かにその奥から響く、鼓動を聞いた。

 

「だから、負けないで――!」

 

 そして、暴れ狂っていた獣の拍動が――ライハ自身の心音と、カラータイマーの点滅音、その双方と重なる、瞬間も。

 

 

 

 

 

 

 闇の底から、濃い影の向こうから。誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。

 そして、その叫びと同調するように、私の鼓動が、他の命の音と重なるのも。

 

 その音色は。目に入る全てが恐ろしい影に覆われて、私を根を張るべき世界から切り離し、何もない虚無の中へ連れ去ろうとする――そんな感覚を際限なく増幅させられ、気が気でなくなる寸前だった私の魂を、ほんの少しだけ、暗闇の澱から抜け出させた。

 

 そして、思い出す。

 

 全てが敵に見える世界の実態は、必ずしもそうではなかったことを。

 私を傷つけないものばかりではない、としても。だからといって、壊してしまって良いものではないことを。

 私の知っている誰かも、私の知らない誰かも――私自身や、私の大切な誰か、あるいはその誰かの大切にする誰かが、愛しているひとつきりの命で、心だから。

 

 ……それでも、もし、敵と呼ぶべき者が居るとすれば。

 

 それは、誰かの大切なものを、平然と奪おうとする――自らの都合や欲望でしか行動しない、愛なき者。

 悪意があろうと、なかろうと。まずその暴挙を止めなければ、大切なものを奪われてしまう脅威だけだ。

 

 なら、今、私が守りたい世界を――脅かすものは、何だったのか。

 

 私を照らしてくれる絆は、絡みついていた闇を解いて……隠された記憶を、もう一度見つめさせてくれた。

 

 そうして。視界の中にただ一つだけ、闇すら残らない底なしの穴を見つけた私は、この抑えきれない力を、思い切りぶつけるべき相手へと向けていた。

 

 

 

 

 

 

 怪獣を強化すると同時、極限の恐怖で暴走させる、ダークサンダーエナジーに包まれた培養合成獣スカルゴモラ。

 悲鳴を上げる妹を、懸命に抱き留めていたウルトラマンジード・マグニフィセント。その兄を、恐るべき変貌を遂げたスカルゴモラNEXの掌が払い除けた。

 

 だが、接触の寸前に感じた悪寒――昼間、暴走した彼女を止めるまで、幾度となく味わった、ジードの命にも届き得る強大な暴力の再演は、そこにはなく。

 未だ少々乱暴ながらも、攻撃するためではない形で兄を遠ざけたスカルゴモラNEXは、ジードの背後から迫り来ていた無数の腕を睨めつけていた。

 

 生命を無に変換する亡者の腕、ダークサンダーアブソープションが、スカルゴモラNEXに辿り着く寸前。培養合成獣の巨大化した角が、煌々と輝いたかと思うと。

 その瞬間を境に、全ての腕の動きが、停止した。

 その奥に見える――展開した眩い円を介し、体内から腕を生やしていた虚空怪獣グリーザまで、指一本余すことなく。

 

 ……初めて。第二形態のグリーザが、その動きを止めていた。

 ダークサンダーエナジーによって、潜在能力を強制開花させられたスカルゴモラNEXーー彼女が操る、超出力の怪獣念力に包まれて。

 

「(がぁあああああああああっ!!)」

 

 その喉から轟く咆哮とともに。同じく獣の叫びを伝える思念が、ジードの頭に届いた時には。

 スカルゴモラNEXが勢いよく振り回した尻尾が、グリーザを横合いから打ち据え、その体をくの字にへし折りながら、彼方へと射出していた。

 

 それは――スカルゴモラNEXの膨大なエネルギーが、遂に。無であるグリーザへの干渉に、成功したことを意味していた。

 

〈無に届いた!〉

「――ぐぁっ!?」

 

 ジードと同じ結論に辿り着いたペイシャンの、会心の叫びが通信から届いた直後。

 スカルゴモラNEXが伸長させた尾の先から、先程までこの場に居なかった人物の声と、そのカラータイマーの激しい点滅音が、メタフィールドの中に響き始めた。

 

 尾に纏わりつくその存在を、乱雑に。しかし前とは異なり、破壊の意志はないスカルゴモラNEXが投げ捨てた、ツートンカラーのウルトラマンの姿を認めた時。ジードは思わず彼の名を叫んでいた。

 

「ゼロ!」

 

 無に囚われていたゼロが、外部から強引に無の座標が動かされたことで、宇宙の穴から転がり出て来ていたのだ。

 

「ゼロさん、今助けます!」

 

 力なく大地に倒れ伏したゼロへ、グリージョが駆け出すと同時――虚空怪獣が打っ飛ばされた方角から、轟音が生じた。

 続くのは、あの気味の悪い笑い声――吹き飛ばされていたグリーザが、道中にあった岩山を移動するだけで削り飛ばし、彗星のような勢いで再び、スカルゴモラNEXまで向かって来ていた。

 

〈やはり無傷か……っ!〉

 

 その様を見たペイシャンが呻くように。グリーザは吹き飛ばされる以前から毛筋一つも欠けることなく、その勢いも、むしろ増しているようにすら見えた。

 

 対し、スカルゴモラNEXは念力の行使を示す頭の大角だけでなく、無数の背鰭からも圧倒的な輝きを励起して応じる。

 再び、空中に縫い留められたかのように動きを止めたグリーザへ、スカルゴモラNEXは体の前面から放つ圧倒的な白い光――膨大なエネルギーを多種多様な波動に変換し放出する最大の攻撃手段、NEX超振動波を叩き込んだ。

 

 そして、射線周辺の大地もろとも。天体規模を軽く吹き飛ばす凄絶な破壊が巻き起こされ、その輝きに為す術なく呑み込まれたグリーザの姿も、爆発の中へと消える。

 

 ……今も、普段どおりとは程遠い、極度の興奮状態ながらも。

 暴走の一歩手前で踏み止まったらしいスカルゴモラNEXは、最低限の見境だけは取り戻し――その力を向けるべき先を、誤らずに識別できているようだった。

 

「すごい……! すごい、お姉さま!」

「……いや、駄目だ」

 

 圧倒的な力を揮う姉の様子に、サンダーキラーSが漏らした歓声を。グリージョの治癒を受け始めたゼロが、首を横に振って否定した。

 

「いくらスカルゴモラNEXのパワーでも、触れることができるだけ……無を破壊することはできない!」

 

 ……ゼロの言葉を、証明するように。

 NEX超振動波の残していた爆煙が、あの笑い声が響いた途端、急激に縮小し、そして再びの爆発を起こした。

 

 その爆心地……虚空に浮かぶグリーザは、頭部の発光や、笑い声は残したまま。

 シンプルな人型から、首元、肩口、そして、背中から、複数の突起を生やした――まるで聖堂と一体化した魔人のように荘厳な異形へと、その姿を変えていた。

 

〈虚空振動、反応増大〉

〈強大な力で、穴がさらに拡がった――グリーザ第三形態ということか!〉

 

 あの宇宙恐魔人ゼットを葬ったスカルゴモラNEXの最強技を受け、グリーザは未だノーダメージ……どころか、さらに強化されたというレムとペイシャンの絶望的な解析結果が、メタフィールドまで届けられた。

 

 その時には、既に。三度目となる怪獣念力の金縛りを、著しく歪みながらも潜り抜けたグリーザから、狂笑とともに青白い熱線が放たれていた。

 パワーアップしたグリーザに念力を弾かれ、一瞬動きの鈍ったスカルゴモラNEXを直撃した光線は、彼女の体を青く透けさせ始めたことにより、その正体を物語った。

 あれは――先程グリーザが吸収した、インフェルノ・バーストだ。

 

〈どうやら、無の中に取り込んだ力を、今のグリーザは扱えるようです〉

 

 レムが分析した頃には。腕を払ってインフェルノ・バーストを散らしたスカルゴモラNEXは、進化前の自身から掠め取られた光線の分解消滅効果を、どうやったのか完全に捻じ伏せ、元の黒い体躯を取り戻していた。

 そして、腕を振った勢いのまま背鰭を巨大化させたスカルゴモラNEXが、それによって飛行能力を獲得し、自らグリーザ第三形態へと突撃を開始する。

 

 グリーザもまた、装飾の増えた体型で相も変わらず歪み、揺らめき、存在する座標をずらしながら、その突進を迎え撃つ。

 虚空で両者が激突し、スカルゴモラNEXの圧倒的なパワーにグリーザが大きく弾かれるも、やはりそこにはダメージらしいダメージが見受けられない。

 

「ゼロ、針は!?」

 

 スカルゴモラNEXに至ってようやく、グリーザに干渉することが可能となったが――なおも有効打が存在しない戦いの様相に、ジードは彼を振り返った。

 

 いくらスカルゴモラNEXが強大な力を持とうと、彼女の存在は限られた有に過ぎない。底なしの無との持久戦に、勝てるはずがないのだ。

 今はまだスカルゴモラNEXが圧倒していても、時間が経過するほどに彼女の力は減衰し、逆にグリーザは無のまま、穴を拡張して限りなく強大化し続ける。スカルゴモラNEXの出力と、穴の規模の大小が逆転した時は、今度こそ打つ手はなくなるだろう。

 

 そんな状況を打開するための切札を求めたジードの叫びに、しかしゼロは、首を横に振った。

 

「グリーザの中に、針はなかった」

「そん、な……」

 

 世界を揺るがす、最強怪獣同士の激突の真下で。無の中から持ち帰られた情報に、グリージョやサンダーキラーSだけでなく、ジードも微かに絶望しかけ。

 ……それを告げるゼロの声には、その感情が含まれていないことに、次の瞬間気がついた。

 見計らったように、ゼロはジードを――その手に握る、キングソードを指差して。

 

「何故なら――この宇宙の針は、おまえがもう持っていたからだ。ジード!」

 

 そんな衝撃的な真実を、力の限りに叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

「キングソードが……宇宙の針!?」

〈説明を求めます、ウルトラマンゼロ〉

 

 戸惑ったのは、ジードだけではなく。

 グリージョも、サンダーキラーSも、そして通信を介して会話に混ざる、オペレーション担当のレムまでも、ゼロの告げた言葉の意味を捉えかねていた。

 

「……簡単だ。超時空破壊爆弾で生じた、時空の断層――そのままでは消えることのない、宇宙に開いた穴。それが、俺たちにはそうと認識できないほどに巨大な、この宇宙で最初に発生したグリーザだったんだ」

 

 無の中に飛び込んで、針を見つけることができなかったゼロは、代わりに探し出した答え――クライシス・インパクトの新解釈を、その場の全員に講義した。

 

「キングのじーさんは、穴が拡がり切る前に同化して……宇宙を癒やすと同時に、そのグリーザの動きを封じ込め、そして針を使ってグリーザを倒していたんだ」

 

 そんな密かな戦いがあったから。あのウルトラマンキングをして、宇宙一つを完治させるために、数十年もの時間を要した。

 

 その最終期に至って。ライハとの交信を介し、ジードを一人のウルトラマンと認めたキングは、既にグリーザ討伐の役目を終えていた針――想いを形にする力を秘めた神器を、運命を変えるための剣として、リクに託してくれていたというのだ。

 あるいは、こんな時のために。

 

 その力が働いたからこそ。かつて、ヤプールに囚われたライハの精神世界に、キングソードを出現させる奇跡を、ジードも起こすことができたのだろう。

 グリーザが、キングソードによる攻撃だけは回避し、また残されたキングソードを遠ざけるように攻撃を加えていたのも、ゼロの推論を確信するための要素として、ジードは振り返っていた。

 

〈……でも、どうしてそんなことに気づいたの?〉

〈グリーザを倒すために不可欠な、宇宙の神器だからこそ――エクスラッガー同様、その剣にはダークサンダーエナジーを祓う力がある、ということか?〉

 

 通信の向こう、ペガから零れた疑問を踏まえ、ペイシャンがゼロに問いかけた。

 言われてみれば、そのとおり――スカルゴモラが正気に返る直前、キングソードによる一太刀が、彼女に届いていたことを、ジードは思い出していた。

 

「そういうことだ。まぁ、ルカの体力を削る前にロイヤルメガマスターで突っ込んでも、一太刀届ける前に返り討ちで終わりだったろうが……」

 

 未だ息の荒いゼロが、ギガファイナライザーを失うほどの奮戦は決して無駄ではなかったと、一言断った上で。

 

「行って来い、ジード。おまえの妹をあのグリーザから助けてやれるのは、おまえしか居ない」

「……はい!」

 

 こちらを真っ直ぐに見据えた、ゼロの激励と。

 

「少しだけ待ってください、リクさん――グリージョチアチャージ!」

「……ありがとう、アサヒ」

 

 自らもカラータイマーを鳴らしながら――ジードにもう一度、全力で戦うための光を託してくれる、アサヒの応援と。

 

「お兄さま……お姉さまを、おねがい」

「ああ。行って来る、サラ」

 

 未だ傷ついた身で、己よりも家族の心配をする末妹の希望とを、受け取って。

 キングソードを握り締めたウルトラマンジード・マグニフィセントは、激突を続ける二体の怪獣に向かって飛翔した。

 

 ……昼間、ウルティメイトファイナルでスカルゴモラNEXを相手にした際とは違い、マルチレイヤーの発動から、まるで時間が経っていない。フュージョンライズの比ではない負荷が掛かるマルチレイヤーに用いたカプセルは現在、クールタイムで使用不可能だ。

 

 故に、ロイヤルメガマスターではなく――ルカが、一緒に戦って欲しいと願ったマグニフィセントの姿のまま、ジードはキングソードを操っていた。

 

「バルカンスパークル!」

 

 ジードが錫杖の如く構えた柄から砲身が展開され、機関砲のように無数の光弾を発射する。

 空を翔けた弾幕は、スカルゴモラNEXに弾かれたばかりで回避性能を落としていたグリーザに次々と着弾し――微かながら、その体表を焦がし、無敵を誇った虚空怪獣に身悶えを起こさせていた。

 撃破には程遠くとも……ダメージが、通ったのだ。

 

「――行ける!」

 

 ゼロの推察が、完全に的中していたことを確かめた瞬間。

 ジードの接近に気づいたグリーザが向き直り、虚空怪獣にとって唯一の脅威を排除すべく、全身から無数の光線を迸らせようとし――その頬を、スカルゴモラNEXに思い切り引っ叩かれ、墜落した。

 その攻防の間に、ジードは妹のすぐ傍にまで、移動を完了していた。

 

 昼間とは違い――ライハが一体化したことで、恐怖心に抗えているスカルゴモラNEXは、新たに接近した兄へ取り乱すことなく、倒すべき脅威だけを見据え続けていた。

 

「……ヒア・ウィ・ゴーだ。ルカ、ライハ!」

 

 その様を確認した、ジードの呼びかけに応えるように。スカルゴモラNEXが咆哮し、そして大地に屹立するグリーザ目掛けて共に降下を開始した。

 

「ストリウムフラッシャー!」

 

 ジードが移動しながらキングソードから繰り出すのは、ルカにとって因縁深いウルトラマンタイガの父、ウルトラマンタロウのカプセルを用いて放つ高熱光線。

 彼ら一族に受け継がれるウルトラホーンのシルエットが上空から降らす光の束を、グリーザは片手を振るだけで弾き飛ばし、正面を向き、そこから紫色の光を反撃に放つ。

 それは、超獣の次元破壊能力を攻撃に転用した破滅の輝き、D4レイの反応だった。

 

 空間に罅割れを走らせ、あらゆる物理防御を無力化する次元崩壊現象に、スカルゴモラNEXが呼気のように放つインフェルノ・ノバが衝突。螺旋を描く紅の光線の純粋なエネルギー量でD4レイの作用を掻き消し、さらにグリーザより早い第二射を繰り出して直撃させ、その身を後退させる。

 

「バーチカルスパーク!」

 

 続けてジードが着地と同時に繰り出したのは、ヤプールの超獣軍団と最も激しく争った光の戦士の一人、ウルトラマンエースの切断光線の力を帯びた斬撃。

 グリーザは手首から赤と青の光刃――アグルブレードを発生させ、宇宙の針による切断光線を受け止め、払い除ける。どうやら触手を取り込んだことにより、吸収した攻撃だけでなく、サンダーキラーSの能力も全て使用可能らしい。

 

 警戒して微かに様子見の態勢に移ると、即座にグリーザの肩と背中から伸びる計六本の突起から、次々と数珠繋ぎ状の光線――プリズ魔の結晶化光線が発射され、ジードを狙う。

 そこで、ジードの前に降り立ったスカルゴモラNEXがその体表で光線を受け止めて、強靭な皮膚で破壊力を、かつて修得した耐性で結晶化作用を、それぞれ無力化する。

 

「ランススパーク!」

 

 攻勢が止んだ隙に、プリズ魔と戦ったウルトラマンジャックの代名詞であるウルトラブレスレットの力を宿した突きを、妹の背後から転がり出たジードが放つ。

 ……三度目の大技となるその光の穂先は、遂にグリーザの体に届いた。

 切っ先は、スカルゴモラNEXの攻撃も通じない虚空怪獣の皮膚を確かに裂く――が、浅い。

 

〈直撃――のはずですが、攻撃力が足りていないようです〉

 

 レムが告げるように。スカルゴモラNEXの膨大な力を浴びることで、自身という穴を拡張し続けるグリーザに対し、ジード側の火力が追いつけていない。

 しかし、と――ウルトラマンジードのインナースペースの中、未だ蒸気を発するウルトラマンキングのカプセルを見て、リクは舌打ちする。

 

「レム、今はロイヤルエンドも使えない。何か、代わりになるカプセルは……」

〈創りましょう〉

 

 知恵を求めるジードに、レムは端的に解決策を提示した。

 

〈今使える中には、メビウスカプセルがあります。ウルトラ六兄弟のカプセルと組み合わせることで、ウルトラ兄弟の力を結集した新たなカプセルを用意できるはずです〉

 

 それこそ、ゼロがネオ・フュージョンライズに用いる、ニュージェネレーションカプセルのように。

 

「……わかった!」

 

 応える間に、グリーザは再びジードの排除を狙い、既に接近を完了していた。

 

 両手から光の刃鞭を伸ばし、叩きつけて来るのを、ジードはキングソードを掲げて受け流し、さらにスウィングスパークルを発動しながら胴を切り返す。痛みに怯みながらも、大したダメージを受けていないグリーザは即座に振り返って、大火力の追撃を放とうとして来る。

 

 一撃でマグニフィセントを消し去れる出力の光線の、発射寸前。それを、横合いからスカルゴモラNEXの爪がグリーザごと薙ぎ払い、阻止してくれた。

 だが、その強大な腕力も、爪の帯びた猛毒も、五連の鋭い斬撃すら、グリーザを移動させることはできても、ダメージに繋がることはなく、虚空怪獣は怯みもしない。

 

 託された武器でグリーザにダメージを与える資格を持ちながらも、威力が足りずに倒しきれないウルトラマンジード。

 強大な力でグリーザを圧倒することはできても、ダメージを通すことができないスカルゴモラNEX。

 

 ジードだけでは即座に消される。スカルゴモラNEXだけでは敵を倒す術がない。

 兄妹二人でようやく戦闘が成立しているが、それでもグリーザを攻略するには及んでいない。もっと、もっと――兄妹の力を合わせなければ!

 

 妹の足を引っ張るまいとするリクは、スカルゴモラNEXが稼いでくれた時間を活かし、二つのカプセルをライザーにセットする。

 

《ウルトラマンメビウス!》

 

 地球人も宇宙人も、怪獣だって、一緒に生きる未来を信じるサイコキノ星人カコの願いで起動した、彼女の兄の力が宿るカプセルと。

 

《ウルトラ六兄弟!》

 

 どんな出自であるかを問わず、どんな命でも自らの運命を変えられるとベリアルの子を信じてくれた、伝説の超人・ウルトラマンキングから託された、特別なカプセル。

 

 二つのカプセルを起動した次の瞬間、七つの人型をした光が、重なり、一つになり――新たなカプセルとなったのを、リクはその手に掴み、キングソードに装填した。

 そしてちょうど、スカルゴモラNEXに弾き飛ばされていたグリーザが、再びジードを狙って来るタイミングで、その発動が間に合った。

 

《インフィニティーカプセル!》

「コスモミラクルフラッシャー!」

 

 逆手に掲げられた聖剣キングソード、その切っ先から柄の果てまでの全体から放たれる、黄金の光。

 そこに、ウルトラの父の力を継いだジード・マグニフィセントを取り囲むように宙へ出現した七人のウルトラ兄弟の幻影、各々が繰り出す彼らの必殺光線が融合した虹色の奔流となって、グリーザへと直進する。

 対してグリーザもまた、真っ白い波動――吸収したNEX超振動波を放射して、コスモミラクルフラッシャーを正面から迎え撃った。

 

 ウルトラ兄弟の存在を一つに結集し、何十倍にも増幅して放つ、宇宙最強の力。それが、コスモミラクル光線だ。

 この奇跡の光は、宇宙の歪みから生じた実体を持たない悪意そのもの――悪意のないグリーザと似て非なる性質を持った魔の帝王をも、完全に消滅させるほどだと言う。

 

 その力を再現するのが、コスモミラクルフラッシャー……だが、所詮ちっぽけなカプセルでは、本物の出力には遠く及ばない。

 

 結果、コスモミラクルフラッシャーはグリーザの迎撃に阻まれ、互いを消し合う光がジードとグリーザの中間地点で激突し、押し留められた。

 じわじわと、干渉点はグリーザへと動いていく――ように見えるが。果たして、このまま競り勝てたとしても、充分な効果を維持できるのか。

 

 光線の反動で後退し、再びカラータイマーが点滅し始めたジードが不安を抱く隣で、火山雷のような咆哮が轟いた。

 それは、ジードの隣に移動した、スカルゴモラNEXの発した声だった。

 

 翡翠の背鰭を、先程以上――宇宙恐魔人ゼットを相手に見せた際と同等の、最大出力で輝かせたスカルゴモラNEXは、自身の胴体からNEX超振動波を発射して、それをコスモミラクルフラッシャーに合流させた。

 

 ……それはまさに今、力を貸してくれているウルトラ兄弟のように。家族の力を一つに束ねて、絶対にも思われる虚無へと立ち向かう、大きな希望の光となった。

 

「はぁあああああああああああっ!」

「(あぁああああああああああっ!)」

 

 宇宙の歪みを消し去る最強合体光線と、宇宙の外壁を貫くほどの最強合成怪獣のパワーと。

 家族の叫びが唱和されると同時、両者の力が融合しさらなる高みへ達した虹色の波動は、グリーザが掠め取っていたNEX超振動波を正面から丸呑みにして、突破し――避けようがない巨大な光の壁となって、グリーザに到達した。

 

 宇宙の穴を縫う神器より放たれた、宇宙の歪みを正す奇跡の光。それに触れた途端、強制的な実体化を果たしたグリーザは、無であるが故に誇っていた絶対不可侵の特性を喪失し、次いでその光が持つ強大なパワーに呑まれて、跡形もなく消し飛んだ。

 

 それがかつて、EXゴモラとEXレッドキングを纏めて消し去った、虚空怪獣――ウルトラマンにとってのゼットンに等しい、スカルゴモラの天敵であるグリーザが、遂に退けられた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 無から有に変換されたグリーザが滅んだ後、勝利の余韻を崩すような出来事はなかった。

 

 宇宙の外壁に穴を開けてしまうほどのスカルゴモラNEXの出力も、宇宙の穴を縫う針であるキングソードの影響で、外部への被害はなくなり。

 グリーザとの戦いで激しく消耗し、また、ライハの助けを借りた、スカルゴモラ自身の意志がその暴走を曲りなりにも抑え込んだ。

 

 キングソードに触れたことで、グリーザに由来するダークサンダーエナジーはその全てが浄化され、スカルゴモラは正気に返っていた。

 そして、無事に、ライハとの分離にも成功し――

 

「検査完了。ライハの体内に『Bの因子』は確認できませんでした」

 

 星雲荘に戻ったリクたちは、検査用の設備に囲まれたライハを前に、人間態のままのレムによる解析結果を聞き届けていた。

 

「もちろん、今後も経過観察は推奨されますが……現時点では、悪影響なく終われたと見て良いでしょう」

「良かった……っ!」

 

 薄く微笑むレムの報告に、真っ先にそう反応したのは、ルカだった。

 心底安心して、力が抜けた様子のルカが倒れないよう、同行したアサヒが支えてくれる。

 

「大袈裟よ。何なら前より、調子が良いぐらい」

 

 ルカの様子に、気を遣わせまいと軽口を叩くライハの顔からは、戦いに臨む前はまだ残っていた無数の傷跡もすっかり消え去っていた。どうやらルカと融合していた間に、スカルゴモラの生命力を受けてすっかり完治していたらしい。

 そんな師匠の返しを受けて、えへへと破顔したルカは、目元を拭いながら答えた。

 

「大袈裟なんかじゃないよ……女の子の顔に、傷が残らなくて良かった」

「――っ」

 

 いつかのやり取りを返すルカの照れ隠しに、ライハが息を詰まらせて、それから恥ずかしがったように顔を背けた。

 そんなライハの珍しい様子をからかおうとモアが近づいて、それからライハが足早に逃げ、二人でくるくると回り始める様子を、ルカとアサヒが楽しそうに笑っていた。

 

「大丈夫そうだね、ルカ」

「一安心だね、リクくん」

「……うん」

 

 ペガとレイトから寄せられる囁きに、リクも頷きを返した。

 

「――皆のおかげだよ」

 

 そのやり取りを。人外の聴力を持つルカは聞き逃すことなく拾って、星雲荘の中に揃った家族を見渡した。

 

「私だけじゃ、今日も、これまでも、きっとどうしようもなかった。私を諦めないでくれたお兄ちゃんが居て、ライハが一緒に戦ってくれて、レムが叱ってくれて……アサヒやゼロやレイトさんも力を貸してくれて、ペガやモアたちも手伝ってくれたから」

 

 星雲荘に集った家族と、仲間たちへ、感謝の想いを告げながら。ルカが一人一人を見つめていく。

 それから最後に、ルカは、最年少の家族に視線の高さを合わせていた。

 

「それに、サラが頑張ってくれたから」

「お姉さま……」

「ありがとう、サラ。あなたのおかげで、皆と頑張る時間ができた。いっぱい助けて貰っちゃったね」

 

 グリーザの発生原因となった、ブルトンの撃破。

 その引き金を引いてしまったことを、気に病んでいた傷だらけの末っ子に。ルカは悪感情の一つも覗かせず、他の家族に向けるのと同じ、感謝の気持ちを告げていた。

 

「おかげでまた、一緒に遊べるね」

「……うん!」

 

 涙目で飛びつくサラを受け止め、触手を奪われた傷の残る背中を避けて、ルカは直接、妹の頭を撫でていた。

 戦いの前、皆に支えられていたルカは――その受け取った愛情を、今度は自分より後から生まれた相手と、惜しみなく共有しようとしていた。

 

 ……それこそ、ルカと出会ってから今日までの、リクと同じように。

 ルカが、そうなってくれたのなら。きっとリクは、兄としての務めを最低限、果たせているのだろうと――少しだけ、自分で自分のことを、リクは認める気になれた。

 

「でも、皆が助けてくれるからって、甘えてちゃいけないよね」

 

 だが、サラとの抱擁を解いた後。ルカは少しだけ、その表情に陰りを加えて続けた。

 

「また、何かきっかけがあれば、グリーザは現れるかもしれない」

「……そうだな。今回のグリーザ自体が、最低でも二体目だ。あれが最後の一匹とは限らない」

 

 回復のため、再び体を提供してくれたレイトの姿を借りて、ゼロがルカの問いに答えた。

 

「また、あの雷が飛んで来た時。ライハと融合できるか、して良いかもわからないし――お兄ちゃんだって、ウルトラマンなんだから、ずっとここに居られるとも限らない」

「ルカ……」

 

 リクの立場と――そして、密かな願いを見通しているかのように、ルカが懸念を口にする。

 だが、そんなリクや、ライハに向けて。ルカはもう、苦悩の表情を見せずに、微笑んでくれていた。

 

「だから、私、頑張るよ。折角ライハがダークサンダーエナジーの克服に付き合ってくれたんだから……ちゃんと、物にする」

「そんなことが可能でしょうか?」

「絶対はないんでしょ、レム?」

 

 冷静に疑問を零すレムに、希望に満ちた顔を取り戻したルカは、彼女の台詞を返して、決意を語った。

 

怪獣使い(レイオニクス)の本能を、私は制御できたんだから……怪獣としての自分の在り方だって、コントロールしてみせる。皆と……家族と同じ世界で、一緒に生きていきたいから」

 

 そうして、本人の望みに寄らず、怪獣として造られたために苦しんだリクの妹は、誇らしげにその胸を叩いた。

 

「だって私は、心が折れない限り進化する細胞を持った、最強の合成怪獣! 家族を諦めない限り……ダークサンダーエナジーだって、きっと乗り越えられるよ」

 

 ――その時の。この場の皆に向ける、ルカの輝くような表情を見て。

 

 リクだけではなく。ルカが、ともに生きる意志を誓った皆の手で。

 やっと、その笑顔を取り戻すことができたと……リクは、感慨で微かに、息を零していた。

 

 リクと同じように。ルカの決意を、眩しそうに見つめていたライハが、やがて満足したように口を開いた。

 

「……そうね。じゃあ早速、トレーニングする?」

「はい、師匠!」

「あたしも見学しても良いですか?」

 

 ライハの誘いへノリよく答えるルカに、アサヒも続こうとする。リクはまだ全身が痛いので、残念ながら遠慮することにした。本当に残念だけど、頑張った結果体中痛いし仕方ない。本当に残念だ。

 

「……注意しておけよ、リク」

 

 胸を撫で下ろすリクに、レイトの体で密かに近づいていたゼロが、耳打ちのように警告を告げた。

 

「クライシス・インパクトにグリーザが絡んでいた以上、なおのこと、ベリアル軍の船だったレムがその情報を持っていなかったのは妙だ」

「……誰かの仕業かもしれない、ってことだよね」

「ああ。気をつけろよ」

「――うん、わかった」

 

 それは、今回襲来した脅威(グリーザ)たちのように。ベリアル因子で狂っていた時の、アリエの置き土産かもしれないが。

 あるいは、まだ……何者かが裏で暗躍している可能性も、決して捨ててはいけないと、リクも気を改めた。

 

 それでも――あの日、確信したように。

 どんな運命も、一人ではないのなら……きっと、変えることができると。今日の出来事を経たリクは、改めて信じていた。

 

 

 

 

 

 

 この後に待ち受ける、恐るべき敵との戦いも、今はまだ知らずに。

 

 

 

 

 

 




Cパートあとがき



 ここまでお読み頂き誠にありがとうございました。
 グリーザの倒し方自体は独自解釈ゴリ押しになってしまいましたが、お話自体は非常に描きたかった部分を書けて感無量です。
 その上で、もしもお付き合い頂いている皆様にもお楽しみ頂けたのなら、二次創作冥利につきます。



 以下はいつもの設定周りの言い訳です。今回は多め。


・フュージョンライズ解除時の仕様とキングソードの残留
 ダメージキャンセル効果で変身解除すると……みたいな話は前回もしつつ、「最初に変身した形態への退化でダメージキャンセルを行う」仕様など言い出しました。やはりそんな設定は公式にはないのですし、じゃあ前回でロイヤルメガマスターからプリミティブに退化したのはどうなるんだという点については、「(カプセルがあるなら)基本はプリミティブ、ただしそのフュージョンライズで最初に変身したが別形態の場合はそちら優先で退化」みたいな扱いでどうか。
 キングソードの残留は、闘志自体は尽きていなかった&ロイメガは致命傷を受けていなかった&マルチレイヤーを発動した本体がまだ戦闘可能だった、の三要素が重なった結果残っていた、という特殊事例という形でお見逃し頂ければ幸いです。一応変身するための繋ぎとはいえ、キングソードを持つマグニフィセント自体は劇場版『つなぐぜ! 願い』でも描かれているのでロイヤルメガマスター以外が装備できないということもないはずです。


・グリーザ第三形態
 これは独自解釈ではない気がするのですが、念のため。
 グリーザの実体化と第三形態そのものには実のところ相関性がありません。『ウルトラマンX』に登場した際の第三形態は、あくまでも第二形態時点で実体化したグリーザが変化したので実体があっただけで、本来は基礎スペックが上がり、デメリットもない強化形態に該当します。
 そのため、変化以前に宇宙の針等で実体化していなければ、無の特性を保ったままのグリーザ第三形態は特に矛盾なく存在し得るというわけです。あの形状だと撮影が大変そうなのでスーツ新造時も再登場はしないと思われますが……


・フュージョンライズとマルチレイヤーの負担の差
 ウルティメイトファイナル覚醒後はその影響で二十時間のクールタイムが結構曖昧になっているジード。『絆のクリスタル』の描写等から判断すると、クールタイム自体は残りつつも、リクの肉体の待機時間は大幅に減少したのかなとふんわり考えております。
 ただ、カプセルを通じて発動するのがマルチレイヤーであるため、リクの肉体がない分カプセルの負担は高まり、カプセル自体のクールタイムが発生すると本作では考えております。公式設定ではないのでご注意ください。



・インフィニティーカプセルとコスモミラクルフラッシャー
 実はこんな技はありません。公式だとメビウスカプセル持ってないですしね。
 玩具のジードライザーでメビウスとウルトラ六兄弟のカプセルを使ってもメビウスインフィニティーになったりはしませんが、そもそも玩具だと後者は『ウルトラヒーロー大集合!』と呼ばれたりして劇中と仕様が違うため、多少の嘘は見逃して頂けると幸いです。
 六兄弟カプセルだと発動技はブラザーズシールドになるので、コスモミラクル光線を撃つにはメビウスインフィニティーのカプセルにする必要があるという発想。
 内山まもる版『ザ・ウルトラマンメビウス』だとメビウスインフィニティーが実際にコスモミラクル光線を撃つ展開があるので、メビウスインフィニティーなのにアタックではなく光線として発動するのはそれが元ネタという形になります。



・キングソードが宇宙の針(=クライシス・インパクトで巨大グリーザ出現)
※『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突』エピソード4までの展開の一部簡易ネタバレがあるのでご注意。

 最大の問題点。改めて、もちろん公式にそんな設定はありません……が、一応、この解釈を採用しても公式と明確な矛盾はギリギリなしで行けるはず……というライン。
『ウルトラマンZ』の時点でグリーザと針の関係をジードが知っていることを踏まえると、時系列的に中間となる今回は針以外でグリーザを倒すわけにはいかないのですが、じゃあそのグリーザを倒した新たな武器である針は『Z』の頃にはどこに行ったのかという問題を回避するのと、『Z』と同じ展開そのままにしたくなかったという都合からの流れになります。

 発想の元ネタとしては、『ウルトラマンジード』原作の第18話でロイヤルメガマスターが戦う怪獣の候補として、グリーザが挙がっていたという裏話になります。
 結果的には没になったものの、仮に出現していた場合はグリーザを倒せる理屈としてはキングソードが針だった、という形にするしかないのではないか、という妄想からになります。キングソード自体にバックボーンに関する設定が全然ないことを悪用した形ですね。

 公式で描かれた宇宙の針らしい性質については、強化形態への変身に関係することはエクスラッガーと、逆手に構えて柄から飛び道具を放ったり、融合していた相手(この場合はウルトラマンキング)の声で喋ったりする点はベリアロクとも似ていますし、『運命の衝突』でロイヤルメガマスター状態のジードにベリアロクが興味を示したのは実はキングソードにも惹かれていた(キングソードがない形態になったら興味が薄れたのでゼットさんの手に戻った)などと傍証に使えそうな要素だけを並べて煙に巻きます。

 Aパートの言い訳にも書きましたが、グリーザはスーツの状態的にもう再登場しなさそうなのと、本作では「同じ宇宙の針でしかその宇宙のグリーザは倒せない」という解釈であるため、今後のゲスト出演でもし別宇宙のグリーザ相手にロイヤルメガマスターが為す術なく負ける展開があってもセーフのはず。もし今後ベリアロクの方が別宇宙のグリーザを倒す展開がある場合には、あっちはベリアル因子が入っている分性能が上がっていると勝手に言い訳します。

 なお、クライシス・インパクトで生じた時空がサイドスペースにおける初代グリーザ、という設定も完全に捏造ですが、宇宙に開いた消えない穴(ウルトラマンが同化可能)として考えるとグリーザと限りなく近い性質なので良いかな、みたいな発想です。超巨大なコズミックグリーザを封じて倒しながら宇宙を元に戻し住人たちには平穏な暮らしをさせていたので、ウルトラマンキングをして時間が掛かったのだという妄想。





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