ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

56 / 69
第十八話「僕が僕らしくいるために」Cパート

 

 

 

 ……かつていくつもの宇宙を震撼させた最悪のウルトラマン、ベリアル。

 

 その悪意に蝕まれ、闇の中に幽閉されながらも――それまでに培った数々の絆、そしてベリアルの中に残されていた光すら、自らの力に変えて再起したのが、シャイニングウルトラマンゼロ。

 

 初めて、その光を顕現させた時のように。ベリアルの子らを守ろうとする決意が発現させたその姿は、ダークフィールドという無限の闇にあっても、その闇を晴らすほどの偉大な輝きを灯していた。

 

 さらに、世界を越えるウルティメイトイージスの権能と。時間に干渉するシャイニングウルトラマンゼロ自身の能力を重ね合わせ、本来あり得ない同時顕現を維持することで、ゼロはウルティメイトイージスを纏ったまま、シャイニングへと至っていた。

 

 その姿こそ、ウルティメイトシャイニングウルトラマンゼロ。

 

 本来、変身するだけで絶大な消耗を伴う、ウルトラマンゼロ究極の姿。

 

 かつて囚われたダークキラーゾーン同様、光を闇に変換するダークフィールドの中にあっては、必要な閾値にまでエネルギーを集中することができず、決して現れないはずの力が、奇跡の降臨を果たしていた。

 

 顕現に伴う光で、対峙する暗黒破壊神ダークザギの放つ重力波を四散させた白銀の巨人は、即座にその左腕を前に突き出した。

 

「行くぜレイトぉ!」

「(はい、ゼロさん……!)」

 

 自身の果たした変身が、時間限定の奇跡であることを、ゼロも既に承知していた。

 

 だから、この奇跡を呼び寄せてくれた相棒と心を一つにして、全力全開の一撃を、遥か格上となる破壊神に叩き込む。

 

 そのために、ウルティメイトイージスを弓矢型に変化させ――光の弦を引きながら、逆に全ての力を注いで行く。

 

「シャイニングウルティメイト――ゼロ!」

 

 ゼロ自身に宿る、シャイニングの力全てを込められた、ウルティメイトイージスそのものが発射される。

 

 伝説の超人、ウルトラマンノアに授かった神器は、今――そのノアを模して造り出されたダークザギを貫かんと飛翔する。

 

 ウルティメイトシャイニングの顕現に微かに意表を突かれた様子だったダークザギは、しかし特に構えもせず、右の裏拳で迎え撃った。

 

「なんてやつだ……っ!」

 

 ダークフィールドの影響を受け、満足に身動きも取れないウルトラマンジードが、その結果に驚愕を漏らしていた。

 

 シャイニングウルティメイトゼロの切っ先は、ダークザギの手の甲を貫けず、宙に縫い留められていた。

 

 そしてダークザギもまた、ウルティメイトイージスを弾き返せず、その場で腕を力ませ、震えながら立っていた。

 

 ダークザギの強靭さに、ゼロやジードたちが驚愕するのと同じように。

 

 シャイニングウルティメイトゼロを容易く打ち払えなかったことに、ダークザギもまた、微かに驚愕している様子だった。

 

 だが――拮抗しているのは、所詮は片腕。

 

 ダークザギが、左手を右腕に添えると、蒼銀の光を放射しながら前進しようとするイージスが、目に見えて押し返された。

 

「(負ける……っ!)」

 

 ――自身の中で、相棒が声に出したのが、諦めではなかったことなど。

 

 ウルトラマンゼロは、当然のように理解していた。

 

「――ものかッ!」

 

 引き継いで叫んだ瞬間。再び、ダークザギが驚いた様子を見せた。

 

 その時――ゼロの背後に巨大な幻影を見た者は、きっと彼だけだったから。

 

「のアァアアアアアアアアアアッ!!」

 

 これまでの、意味のない獣の咆哮とは違う――まるで、誰かの名前を呼ぶような。

 

 濁った叫び声を発したダークザギが、左腕を滑らせて、一兆度の炎をその右手に宿した直後。

 

 勢いを増したウルティメイトイージスがその手の甲を切り裂き、そして互いのエネルギーが収束限界を越えて、壮絶な爆発を引き起こした。

 

 

 

 

 

 

「ゼロ――!」

 

 ダークザギとシャイニングウルティメイトゼロの激突の末に生まれた、巨大な爆発に煽られて。

 

 普段の姿に戻ったウルトラマンゼロが、力なく倒れ込む様に、ジードは思わず彼の名を叫んでいた。

 

 ……ただでさえ消耗の激しいウルティメイトシャイニングの力、その全てを注いだ一撃。

 

 ここまで誰も太刀打ちできなかったダークザギにすら届いた光の代償に、ゼロはダークフィールドの中、生命を維持する最低限の力すら喪いつつあった。

 

「……思ったよりやってくれたな」

 

 だが、満足な身動きもできないジードどころか、ゼロのすぐ後ろに居た、培養合成獣スカルゴモラや、究極融合超獣サンダーキラー(ザウルス)が駆け寄るよりも早く。

 

 爆発の向こうから、愉快そうな声が届いてきた。

 

「貰い物の力で調子に乗っている下等生物……程度に思っていたが。認識を改めてやる」

 

 邪悪なる暗黒破壊神――ダークザギは、健在だった。

 

 ……激突前よりは、随分とこちらとの距離が開き。

 

 微かに、庇うような仕草を見せるように。シャイニングウルティメイトゼロと激突した右の拳には、ようやく亀裂が生じているものの――それも、形を崩すほどではない。

 

 ウルトラマンゼロの全てとの激突を、ダークザギは軽傷で凌ぎ――そして、どこか漫然としていた雰囲気を、改めていた。

 

「遊び過ぎている場合でもないようだ。一気に事を進めさせて貰う」

 

 告げると同時、ダークザギの胸部――カラータイマーに相当する器官である、エナジーコアが紫色に発光するのを見て、ジードは本能的な恐怖を覚えた。

 

「――リクさん!」

 

 同じく、絶望的な危機を感じ取ったらしい――ジードに支えられていたウルトラウーマングリージョが、その手を払って叫んでいた。

 

「……後は、お願いします!」

 

 告げると同時、グリージョの全身から光が爆発するように放たれた。

 

 グリージョキュアバースト――一気に放出させたグリージョのエネルギーを、敵への攻撃と味方への回復、双方に作用させる技。

 

 それによって、ジードやゼロを回復させる光がダークフィールドの闇を押し返し――目眩まし程度でも、ダークザギにも襲いかかる。

 

 ……だが、満足に立つこともできないほど、ダークフィールドに蝕まれていた状況にありながら、一気にエネルギーを放出してしまえば。

 

 当然のように、ウルトラウーマングリージョへの変身は解けてしまい――荒れ果てた亜空の大地に、力を使い果たした湊アサヒが倒れ込んでいた。

 

〈ダークザギのエネルギー、なおも上昇――宇宙恐魔人ゼットの、最後の一撃に相当します〉

「――っ、コスモミラクルフラッシャー!」

 

 レムが状況の報告を行った次の瞬間。キングカプセルをマルチレイヤーに用いたため、ロイヤルメガマスターへの変身が叶わないジードはプリミティブの姿のまま、キングソードを召喚し、そこから最大火力の光線を発射していた。

 

 グリージョに託されたエネルギーを振り絞るジードに対し、ダークザギもまた、傷ついた右の拳を反対の手首に叩きつけるようにして腕を組み――左手から、赤黒い光線を放射した。

 

 回復しながらも、まだ満足に起き上がることのできないゼロを狙う暗黒破壊光線ライトニング・ザギと。ジードが逆手に構えたキングソード、その全体から放たれる虹色のコスモミラクルフラッシャーが、激突する。

 

 宇宙恐魔人ゼットの、最後の一撃――つまりは、百兆度を越えた劫火の拳による、超新星爆発クラスの膨大なエネルギー。それは俗に言うガンマ線バーストを引き起こし、ほんの数度角の延長線上のみとはいえ、このような隔離空間でなければ数千光年の彼方まで、尋常な生命を絶滅させる放射線を撒き散らす。

 

 それが、ただの余波。破壊力の本体ごと、あのグリーザを倒した力でその不可視の死を抑え込むジードだが、しかし拮抗は続かない。

 

 本物の、コスモミラクル光線であれば――あるいはこのライトニング・ザギにも、打ち勝つことはできたかもしれない。

 

 だが、ジードが用いているのはあくまでもウルトラカプセルによる再現技。本物とは、その出力に雲泥の差が生じている。

 

 まして、体力は万全ではなく。そのなけなしのエネルギーも、ザギへ味方するダークフィールドに今も削られながらとなれば――持ち堪えられるはずもなく。

 

 コスモミラクルフラッシャーの抵抗を呑み込んだライトニング・ザギの奔流が、身動きできないゼロを狙い、そのままジードが足元に庇うアサヒの命も脅かす、その刹那。

 

 金色の装甲を纏った白い竜が、その光線の前に飛び出した。

 

「――サラっ!?」

 

 身を投げ出したのは、ベリアルの遺伝子を受け継いだ生命体の、末っ子だった。

 

 サンダーキラーSは、その胸にあるカラータイマー状の器官によるエネルギー吸収能力で、無謀にもダークザギの攻撃を防ごうとしていたのだ。

 

「(ダメ、逃げなさいサラ!)」

 

 遅れて立ち上がったスカルゴモラが、テレパシーで呼びかける。

 

 だが、凄まじい破壊光線に晒されながら、それを決死の覚悟で受け止めるサンダーキラーSには、返事をする余裕もないらしく。

 

 仮に妹を張り倒したところで、諸共蒸発するだけだと悟った様子のスカルゴモラは、攻撃を仕掛けている当人に角から破壊音波を繰り出した。

 

 被弾に構わず、暗黒破壊神はライトニング・ザギの照射を続け――膨大な破壊のエネルギーを受け止め続けるサンダーキラーSの輪郭が崩れるのを、ジードは目にした。

 

「レッキングロアー!」

 

 スカルゴモラの纏う超高熱から、アサヒを保護しながら。

 

 妹たちを援護しようと、ジードもまた、口から超音波を放つ絶叫攻撃をスカル超振動波に同調させ、ダークザギへの攻撃に合流する。

 

 ジードとスカルゴモラが同時に放つ、音波攻撃。

 

 本来であれば、ダークザギにダメージを通すことなど、とてもできなかっただろうが。

 

 先程、ゼロが付けた傷。光線の発射を支える右の拳の亀裂が拡張し、遂にダークザギが仰け反って、その照射が中断された。

 

 だが、その時――既に、サンダーキラーSに起こった変化は、止まらないところまで来ていた。

 

 ただし……ジードたちの予想とは、全く違う形で。

 

「あ……っ、うぁあああああああああああああっ!!」

 

 苦しみを訴えるように、サンダーキラーSが悶え、咆哮し――その両足と、細長い尾が、黒い稲妻に変わって弾け、胴から上が天に登る。

 

 ……だがそれは、傷を負ったわけではなく。

 

 ダークザギから与えられた膨大なエネルギーを取り込み、なお自身を保つため――滅亡の邪神ハイパーエレキングの細胞を受け継ぐサンダーキラーSが、自身の肉体を変化させたための、現象だった。

 

 サンダーキラーSの上半身を載せて爆ぜた、黒い雷――ジードたちを覆う巨大な傘のように膨張したサンダーキラーSの構成情報が、再び物質化する。

 

 三百メートル以上の高さまで伸びた足の付根辺りから上は、そのままに。腰部から下が、木の幹のように膨張し、その末端部が甲殻類のような形を為し、六本の巨大な節足でその巨体を支えていた。

 

 妹が果たした変化と似た姿の記録を、かつてウルトラマンジードは見た覚えがあった。

 

 それは究極超獣の初号機であるUキラーザウルスが、強化復活を遂げた際に見せたのと、酷似した形態。

 

 先例に倣えば、究極融合巨大超獣サンダーキラー(ザウルス)・ネオとでも呼ぶべき姿に、ベリアルの子らの末妹は変貌していた。

 

 ただ、その背に備わった翼は。

 少しだけ大きくなりながらも、その変化は下半身の膨張に比べればずっと控えめで――結局はまだ、折り畳まれたままだった。

 

「はぁ……はぁ……っ!」

「……まだ幼体(ギガント)止まり、か」

 

 急激な変化に息を荒くする巨体を前にして、失望したような声を、ダークザギが漏らしていた。

 

 そう。絶望などではなく――失望の。

 

 傷ついた右手の調子を確かめるダークザギは、高みから自身を覗き込むサンダーキラーSの無貌の視線に目を合わせると、つまらなさそうに呟いた。

 

「これまでは役に立ついい子だったが……最後の最後に、俺の期待を裏切ってくれたな」

「――っ!」

 

 ダークザギの、挑発ですらないだろう言葉に。

 

 サンダーキラーS・ネオは激高し、文字通り大地を揺るがす突撃を開始した。

 

「いけない、サラっ!」

 

 理不尽に大切な人や、優しい人を狙われる、余りにも酷い仕打ちの数々。そこへ身勝手に浴びせられた、心無い言葉。いよいよ耐えられず、冷静さを失った末妹を制止するジードの声は、遅い。

 

 既にダークザギへと肉薄したサンダーキラーS・ネオは、その全体から生えた突起を発射する生体ミサイルを発射し、さらに上半身の背筋から伸長させた八本の触手や、下半身に備わった巨大な砲門から、大幅に強化されたデスシウムD4レイの輝きを励起させ――

 

「無駄遣いはやめろ」

 

 それらが届くより早く。ダークザギの全身から吹き出した、真っ黒な闇が一気に拡大し、地形のような巨体となったサンダーキラーS・ネオを覆った。

 

 ……闇に触れた途端、先んじて放たれていた生体ミサイルが、掻き消える。

 

 さらに巨大な脚が闇に絡め取られた途端、サンダーキラーS・ネオは一気に重心を崩されて、地響きを起こしながら倒れ込んだ。

 

 その時には、D4レイの反応を起こすための励起光すら、闇の中に吸われたようにして消え去っていた。

 

「なに、これ……っ!?」

 

 自身の一部の喪失。

 

 それを為した闇と連結され、抜け出すことも、分離することもできない戸惑いと恐怖。それに染まった哀れな声を、傾いた塔のような胴体の上で、サンダーキラーSが漏らす。

 

「さっき渡した俺の力を、返して貰うだけだ――利子として、おまえごとな」

 

 その疑問を拾ったダークザギは、嘲笑うように答えていた。

 

 その間にも、逃れようと身を捩るサンダーキラーS・ネオの巨体が、抵抗も虚しく闇へと吸い込まれて行く。

 

 暗黒の化身であるはずの究極融合超獣が、さらに上位の暗黒の神から溶け出した闇に同化され、その存在を奪われ始めていた。

 

「(サラっ!)」

 

 スカルゴモラが悲鳴のように、妹の名を叫び、大地を蹴る。

 

「やめろ……っ!」

 

 ジードもまた、立っているのも辛いダークフィールドの中を駆け出して、ダークザギの魔の手から妹を救おうと試みる。

 

「いや……やだ……っ!」

 

 既に闇に囚われた下半身を見捨てでも逃れようと、サンダーキラーSが自らの胴を触手の鉤爪で傷つける。

 

 だが、決死の想いで裂いた皮膚から漏れ出したのは、血ではなく――ザギから放たれているのと同じ、黒い闇。

 

 それが、一気に触手を呑み込んだ上――自切した先の上半身と、隙間なく繋がったままである様を見て、サンダーキラーSが絶望した気配が、こんな時だというのに満足に走れない(ジード)にも伝わって来た。

 

「(サラ――っ!)」

 

 そんな頼りないジードを置き去りにして、先行してくれたスカルゴモラの前に、サンダーキラーSの上半身が崩れた塔のように倒れて来た。

 

 ……既に下半身は、ザギと繋がる闇の中へ、完全に消えてしまっていた。

 

「お兄さま……お姉さま……!」

 

 肉親の接近に気づき、触手を失った上半身だけがまだ原型を留めていたサンダーキラーSは、その大きな鉤爪状の手を伸ばし――

 

「たす――」

 

 スカルゴモラの手がそこに届く寸前、その形を欠片も残さず闇へ溶かして、消え去った。

 

 そのずっと後ろで見ているしかなかったウルトラマンジードは、ただ、絶叫するしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 ――沙羅双樹の木が象徴する涅槃のように、色々なしがらみから抜け出して、自由に幸せになって欲しい。

 

 そんな願いを名前に込めた妹は、恐ろしい闇に囚われ、逃れることのできないまま、悍ましい欲望の中に消えて行った。

 

〈サラ……そんな――っ!〉

 

 ……星雲荘からの通信の中で、息も絶え絶えなトリィの嘆きが木霊する中で。

 

「気にするな。本当はとっくに取り込み終わっていた」

 

 最悪のタイミングで、目の前から妹を奪い去った敵は、スカルゴモラにそう告げた。

 

 異形の究極融合超獣を取り込んだ、ウルトラマンとよく似た黒い巨人。

 

 暗黒破壊神は、完治した手の甲を見せびらかしながら、悪意を隠しもせずに続けた。

 

「ま、おまえと順番が変わったせいで――完全体になるまで待ってやれなかったのは、勿体なかったがな」

「(――うぁあああああああああああああっ!!)」

 

 その口を黙らせようと、助けを求める妹に間に合わなかった足運びをそのまま突進に切り替えて、繋げなかった掌を拳に固めて、スカルゴモラはダークザギに殴り掛かる。

 

 だが、ダークザギが悠々と展開したバリアに阻まれ、反射された自身の力に跳ね返され、スカルゴモラは地を舐めた。

 

 ……兄弟殺しの血に呑まれ、衝動のままに傷つけたこんな自分を。

 

 それでも姉と慕って仲直りしてくれた、大切な可愛い妹を。

 

 奪い去った仇相手に、自分は触れることすらできやしない――っ!

 

「……憎いか?」

 

 当たり前だ、と叫びたかった。

 

 だが、そんな理性は既に、憤怒の前に消し飛びつつあった。

 

「それで良い」

 

 強烈な殺意を浴びたダークザギが笑うと同時に、スカルゴモラの背後で苦鳴が漏れた。

 

「なんだ、これは……っ!?」

「(……お兄ちゃん!?)」

 

 振り返ってみれば――ウルトラマンジードが、その輪郭を歪ませていた。

 

 ウルトラマンの存在を脅かす、ダークフィールドの中での活動限界が、遂に訪れた――だけではない、明らかに。

 

「おまえが兄のために展開してきたメタフィールドは、おまえたちが絆と呼ぶ繋がりを強化してきただろう?」

 

 妹の喪失に続き、兄に起こった異変で戸惑うスカルゴモラへ、ダークザギが淡々と告げる。

 

「元が同じなんだ。ダークフィールドにも、同じことができる。ただし……その作用を反転させて、な」

 

 スカルゴモラが近づく間に、両手を大地に着いたウルトラマンジードのカラータイマーが、活動エネルギーが危険域であることを示す赤い点滅の中に――微かな黒い靄を、生み出していた。

 

「おまえたちの憎しみと繋がって……光は闇に、変換される」

 

 ザギが宣言した瞬間、ジードのカラータイマーから、黒い小さな塊が飛び出した。

 

 それは、スカルゴモラから託されたネクサスのカプセルを中心に、幾つかのカプセルがダークフィールドの影響を受け、闇へと染まり――その一式を備えていたホルスターごと、ジードから弾き出された結果だった。

 

 全てのカプセルを奪われたウルトラマンジードは、遂にその巨人体を維持することができず、光が解けて朝倉リクの姿に戻ってしまった。

 

 ジードから飛び出したカプセルは、一団の中心となるネクサスのリトルスターを最初に発現させたという張本人にして、それらの光を闇に染めた憎悪の的であるダークザギへと突き進み……そのまま真紅のエナジーコアの中に、吸収されてしまった。

 

「さて。不完全体の上に血が薄いとは言え……サンダーキラー(ザウルス)と、ベリアルカプセルを取り込んだ。因子が充分揃った今、カプセルの限界で消えることもなくなった」

 

 ……己の力が足りず、守ってあげることのできなかった妹。

 

 その仇に燃やした憎悪を利用され、今度は兄の力が奪われ、危険に晒された。

 

 自身が纏う高熱で、人の身に戻った兄を死に追いやらぬよう、咄嗟に怪獣念力によるバリアでリクを守護しながらも――その事実に身動きが鈍ったスカルゴモラの背後。

 

「そして」

 

 ダークザギの念動力に操られ、小さな機械が独りでに飛び出していた。

 

 ……それは、彼がカプセルを介して出現する際に用いたのと同じ、ライザーだった。

 

「これで俺も、フュージョンライズすることができる」

 

 意図を察したスカルゴモラが、阻止せんと振り返った時には――既に事態は、致命的に終わってしまっていた。

 

《ハイパービースト・ザ・ワン》

《グリーザ第三形態》

《――ダークネスカプセル・アルファ!》

 

 ザギの念動力で、彼が密かに――ジードたちに倒させることで揃えていた怪獣カプセルを、ライザーでスキャンして行く。

 

《宇宙恐魔人アーマードゼット》

 

 ……そのカプセルに囚われた犠牲者の中には、ザギの計画を狂わせたという、あの魔人も含まれていた。

 

《ラストジャッジメンター・キングギルバリス》

《――ダークネスカプセル・オメガ!》

 

 そして、ジードがコスモミラクルフラッシャーを撃つための、インフィニティーカプセルを生み出すように。

 

 あるいは、ゼロがビヨンドに変身するためのネオ・フュージョンライズに用いるように。

 

 複数のカプセルを、使用前に合成し、そして。

 

《ネオ・デモニックフュージョン・アンリーシュ!》

 

 そして、悪夢の解放を示す電子音声とともに、ダークザギに怪獣カプセルから力が注がれて行く。

 

《――ダークザギ・アルファオメガ!!――》

 

 

 

 ――そして、破壊神のさらなる進化が、完了した。

 

 

 

 ダークザギの背中に、光輪が生えていた。

 

 いや、違う。まるで、ギルバリスとグリーザ第三形態の背部を組み合わせたような、円環から放射状に突起の伸びた、後光のような器官が、翼のように備わっていたのだ。

 

 そして、左右の篭手にそれぞれ、邪神ザ・ワンと、宇宙恐魔人ゼットの顔を思わせる装飾を付けた、アーマードダークネスの如き鎧状の皮膚に、体表の質感を変えて。

 

 自身の頭部も、わずかながらより鋭角に変形させた、強化形態――ダークザギ・アルファオメガが、スカルゴモラの方を向いた。

 

 その一動作だけで。絶対的な差を確信し、恐怖で心が折れそうになりながらも。

 

 次々と敵の思惑を許しながらも、兄を背後にしたスカルゴモラは逃げることができず。敵わぬことを理解しながらも、決死の覚悟でその場に留まり、ダークザギと対峙していた。

 

 

 

 

 

 

 ……アルファオメガと化したダークザギの、最初の動作は。スカルゴモラに対し、手を翳すというものだった。

 

 そこからたちまちに迸る暗黒の稲妻は、それを目にした全員の記憶に新しい、悪夢の象徴――ダークサンダーエナジーだった。

 

「(――っ、きゃぁあああああああっ!?)」

 

 絶対の消滅の恐怖を植え付け、同時に注ぎ込んだ暗黒のエネルギーにより、怪獣を強制的に暴走させる虚空怪獣グリーザの力。

 

 実体化して倒された後の残滓を、カプセルに取り込んだものとはいえ。その特性を身につけたダークザギは当然のようにその稲妻を操り、スカルゴモラを打ち据えていた。

 

 精神を消し去ろうとする虚無の稲妻に呑まれたスカルゴモラは、もんどりを打って倒れ込み、闘争心の発露であるレイオニックバーストを解除され、代わりとなる潜在能力の強制開化を促される。

 

 そうして、父であるウルトラマンベリアル、そしてダークザギとも似た漆黒に染まった、硬質化した肉体に、無数の翡翠の鉱石を背負った進化体――スカルゴモラNEX(ネックス)へと、培養合成獣スカルゴモラは変貌を遂げた。

 

「――リクっ!」

 

 変化の寸前、ギリギリまで妹の意識が維持してくれていたバリアが解ける瞬間、新たな光の障壁が、リクの全身を包み込んだ。

 

 それを為したのは、グリージョキュアバーストのエネルギーで、息を吹き返したウルトラマンゼロ。

 

 特定の人物や場所に展開する、ウルトラゼロディフェンサー。ウルトラマンとして戦う術を喪失したリクを格子状のバリア内に格納したゼロは、そのままリクを自身の掌に招き寄せた。意識を喪ったままのアサヒも既に、同様に保護されていた。

 

 他の心配事が消えたリクは、ただ一人残された――たった一人になってしまった、妹を振り返る。

 

「ルカ――っ!」

 

 呼びかけに応えるように、スカルゴモラNEXが振り返り、リクとアサヒを庇うゼロが身構えた。

 

〈ルカ、落ち着いてっ!〉

 

 決死の呼びかけは、星雲荘に残るライハから。

 

 先日のグリーザ戦では、彼女との融合がダークサンダーエナジーの魔力から、ルカの意志を呼び戻す鍵となった。

 

 ……そのライハとは同化していないまま、ダークサンダーエナジーを祓う力を持ったキングソードも、召喚に必要なカプセルをザギに奪われた。

 

 故に制御不能の猛威と化したと思しきスカルゴモラNEXは、しかし何もしないままダークザギ・アルファオメガへ向き直ると、敵意に満ちた咆哮を浴びせていた。

 

 手負いのゼロと、強化変身したザギ。敵対した際の危険度は段違いである故か、防衛本能だけを暴走させたスカルゴモラNEX――ダークザギから付与された情報をも糧に到達した培養合成獣スカルゴモラの最強形態である暗黒破壊龍神は、その力を全開にしてダークザギへと挑みかかっていた。

 

 スカルゴモラNEXの口から放たれる赤黒い熱線、インフェルノ・ノバ――ウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルの必殺技であるレッキング・ノバと同等の威力を持つ光線が、進撃の最中、息吹のように放たれる。

 

 ダークザギ・アルファオメガは、それに対して防御の構えも見せず、急所であるはずのエナジーコアで受け止めた。

 

 元の形状に、金色の縁取り――ギルバリスのコアに似た装飾を加えたザギのエナジーコアは、超絶熱線の威力を軟な水のように弾き、無傷を保っていた。

 

 構わず放射を続けながら肉薄したスカルゴモラNEXが、鋭い爪を伸長させ右腕を振り被った。猛毒と超重力を帯びた破壊の腕がダークザギ・アルファオメガに襲いかかる瞬間、インフェルノ・ノバが一瞬だけ巨人型の破壊神の背後へと抜け、爪が抜け去った直後、再びエナジーコアの表面に弾かれ始める。

 

 宇宙恐魔人ゼットの如き、超光速のテレポートの連続行使による回避を見せたダークザギ・アルファオメガに対し。スカルゴモラNEXは動きを止めず、肥大化した二本の角での頭突きを敢行した。

 

 一対の巨大な角が自身に突き立つ前、掴んで止めたダークザギ・アルファオメガだったが、その足裏が微かに大地を削り始める。

 

 ――強化変身する前から、初めて。爆発の結果でもない、純粋な力比べで、ダークザギが後退した。

 

 純粋な膂力では、スカルゴモラNEXは、アルファオメガと化したダークザギすら凌駕する……かと思われたが。ザギが力の入れ方を変えれば、今度は――これまで無敵と言える力を発揮し続けてきた、スカルゴモラNEXの側が微かに後退る。

 

 それは文字通りの、一進一退。両者の力は拮抗していた。

 

「(サラ、を……っ!)」

 

 その時、苦しみに満ちながらも――それらを跳ね除けるような怒りの篭った思念が漏れるのを、リクは聞いた。

 

「(かえ、せぇ――!)」

 

 それは、ダークザギと押し合うスカルゴモラNEXの――ルカの心を辿々しくも伝える、テレパシーだった。

 

 ……培養合成獣スカルゴモラの遺伝子は元々、自身を脅かす外部の刺激を受け、死に瀕するストレスを乗り越えるたびに強くなる特性を持っている。

 

 彼女自身の大切な者をも傷つけた、ダークサンダーエナジーの影響による暴走。それに自死を望むほどのストレスを覚え、そしてライハの協力でその影響を乗り越える術を学んだスカルゴモラの遺伝子は――三度目の正直として、ダークサンダーエナジーへの耐性を、単体でも獲得し始めていたのだ。

 

 だから、彼女がダークザギに挑むのは……単なる自己防衛本能の暴走などではなく。

 

 家族を守るため、そして家族を奪われた悲しみと憎しみのためだった。

 

「ルカ!」

 

 そのことに気づいた時、リクは思わず妹の名を叫んだ。

 

 だが、リクやライハの呼びかけに対する応答はない。あくまでも敵味方の分別を欠く暴走には至っていないというだけで、耐性を取得したところで平時より判断力が鈍るのに変わりはないらしい。

 

 戦況を変えようとするように、咆哮するスカルゴモラNEXの赤い角が励起光を放つ。そして密着している掌を介して、超振動波の破壊力をダークザギへと直接注ぎ込む。

 

 だが、ダークザギ・アルファオメガは全く怯む気配を見せず、むしろ膂力を増したように、さらに一歩スカルゴモラNEXを押し込んだ。

 

 対して、スカルゴモラNEXはさらに角を光らせ、周囲の空間を捻じ曲げる怪獣念力でダークザギを責め立てるが、これも何の成果も上がらない。

 

「……あれだけのエネルギーが通じていない?」

 

 歴戦のゼロが、激突する二体の攻防を検分し、そんな可能性を示唆していた。

 

 埒が明かない状況で、スカルゴモラNEXが再び両爪を振り被った瞬間、力の移動を見て取ったダークザギが破壊龍神の巨体を持ち上げ、巴投げの要領で投げ飛ばした。

 

 同時、怪獣念力の作用が弾けて、空間変動が発生。リクたちを守るゼロの巨体が揺らぐほどの衝撃波がダークフィールド内を駆け、地表を塵のように吹き散らす。

 

 まんまと投げられたスカルゴモラNEXは、為す術なく転倒するかと思いきや。そのまま縦に高速回転して、身を丸めた己を車輪のようにして大地を駆け、再びダークザギへと突撃した。

 

 過去にEXゴモラが見せたという、大回転尻尾落とし。背鰭のような結晶体の分、攻撃範囲が広がった轢殺攻撃は、ダークザギに両腕を楯とした防御を取らせ、その上から弾き、後退させてみせた。

 

 回転を終えたスカルゴモラNEXは、さらに身を翻し伸ばした尾でダークザギを狙う――が、大回転尻尾落としほどの威力がなかった尾は逆に受け止められ、またもダークザギの投げを許す。

 

 今度はまんまと投げられてしまったスカルゴモラNEXが、大地と正面から衝突。

 

 それによるダメージはともかく、起き上がるまでの巨体故の隙を見せたところへ、動作を加速したダークザギが襲いかかった。

 

 背後から迫る脅威に対し、分子分解効果を灯した背鰭を伸縮させて牽制しながら、射線の曲がるインフェルノ・ノバを連打して、起き上がるまでの間も反撃を続けるスカルゴモラNEX。

 

 だが、同種の力を持つダークザギ・アルファオメガには分子分解効果など通用せず、さらにインフェルノ・ノバの純粋な破壊力すら何の効果も挙げられず、一方的に足蹴にされる。

 

 そして、ダークザギ・アルファオメガの踏みつけにより、広範囲に渡って地面が砕けた。

 

「――やべぇ!」

 

 大地の崩壊は、戦いを見守るしかないゼロの足元にも及んでいた。その影響をリクたちに及ばさせないように、限界が近いゼロがその身を浮かせる。

 

 たったの一度で地盤沈下を起こした踏みつけの連打を、驚異的なタフネスと防御力で跳ね返したスカルゴモラNEXが尾を伸ばし、ダークザギの背後から強襲。触れる前にテレポートでの回避を許すが、距離を取らせて仕切り直しへと持ち直す。

 

 そのまま、背鰭を巨大化させたスカルゴモラNEXが飛行形態に移行し、迎え撃つダークザギ・アルファオメガと互角の衝突を繰り返す。さらには、夥しい量の光線の撃ち合いを行う空中戦へと、戦いの舞台が推移して行く。

 

〈どうやら、今のダークザギの肉体は、実体化した後のグリーザと同様の性質を持っているようです〉

 

 空を埋め尽くす破壊の景色に、最早武器として使えないジードライザーを、それでもリクが無意識に握っていると。レムから戦況の分析報告が届いていた。

 

 両者のエネルギーが膨大過ぎて、解析するのに時間がかかったと挟みながら、レムが続ける。

 

〈スカルゴモラNEX(ネックス)のエネルギー攻撃を受けるたび、ダークザギ・アルファオメガのエネルギーがその分上昇しています。これは実体化した後のグリーザが、Xio(ジオ)やウルトラマンエックスとの戦いで見せた能力に酷似しています〉

 

 宇宙に開いた穴である、虚空怪獣グリーザ。

 

 完全なる無である故に、宇宙の穴を縫う針などで実体化させなければ、あらゆる干渉が意味を為さない恐るべき強敵であったが――実体化した後でも、宇宙の針を介さないエネルギー攻撃は尽く吸収し自らの力に変えてしまうという、恐るべき性質を持っていたのだという。

 

 ……その力を、ダークザギ・アルファオメガも有しているという情報の意味を、しかし半暴走状態のスカルゴモラNEXは、理解することができていなかった。

 

 そしてダークザギが掌から放った、ダークサンダーエナジーで強化されたレゾリューム光線――ウルトラマンジードを一度は完全消滅させた、ダークサンダーレゾリュームの直撃を受けたスカルゴモラNEXは、自身は強靭な外皮だけで無傷を保ちながらも。

 

 家族を奪われた記憶を思い出したように、その挑発に乗ってしまった。

 

「ルカ、やめるんだ!」

 

 ゼロの手の中から一歩も出られないまま、リクが警告する頃には――スカルゴモラNEXの背鰭が、凄まじい勢いで発光していて。

 

 次の瞬間、スカルゴモラNEXの全身を発射口として、前面からあらゆる種類の波動を放つNEX超振動波が、ダークザギ・アルファオメガ目掛けて放たれた。

 

 宇宙の外壁に穴を開けるほどの、莫大なエネルギー。所詮はカプセルで出現し、劣化しているダークザギが先程見せた暗黒破壊光線(ライトニング・ザギ)をも凌ぐ力の渦が、暗黒破壊神を丸呑みにして――

 

 ――その力の全てを、吸収されてしまっていた。

 

 光の国の住人、全員から集めたエネルギーにも匹敵する爆光を、余波すら残さず我が物とするダークザギ・アルファオメガは、全くの無傷。

 

 対して、一度に大量のエネルギーを放出しているスカルゴモラNEXは、見るからにその勢いを弱めていた。

 

 ……既に、均衡は崩れた。

 

 後は、ただ収穫が行われるだけ。

 

「逃げるんだ、ルカ!」

 

 趨勢を見極めたリクが、悲鳴のように叫ぶ最中。なおも照射が続くNEX超振動波を体の前面で浴びながら進むダークザギ・アルファオメガの背後の光臨が輝き、そのさらに後ろへ巨大な黒い円環を生む。

 

「頼む――っ、逃げてくれぇえええええええぇっ!」

 

 ゼロの展開してくれている防壁を抜け出そうとするように、内から全力で叩くリクが懇願する最中にも。

 

 虚空に空いた闇の穴からは、グリーザが見せたそれとも似た、しかし色相は反転して赤黒い無数の腕が、続々と伸びて来て――

 

 そして一斉に、スカルゴモラNEXに襲いかかった。

 

 ダークザギ・アルファオメガに距離を詰められていたスカルゴモラNEXは最早、逃げることもできず。その座標に浮いたまま、手足を振り回して赤黒い腕を次々と切り払っていたが――その両頬を、ダークザギ本来の腕に掴まれた。

 

「(あ――っ、お兄、ちゃ……)」

 

 その感触の悍ましさで、微かに正気に戻ったようなルカの声が脳に響いて。

 

「やめろぉおおおおおおおおっ!」

 

 リクが絶叫する頃には、ダークザギの背負っていた闇の円環はスカルゴモラNEXを頭から丸呑みにして、通り過ぎ、そこに無だけを残した。

 

 ――そうして、どんな困難にも負けずに留まろうとした花は、摘み取られ。

 

 留花(ルカ)を平らげた黒い円環は、リクの視線の先で縮小し、ダークザギのエナジーコアに吸い込まれ消えていた。

 

 

 

 ……恐怖に囚われ、助けを求めるサラの手を、リクは掴むことができなかった。

 

 ついこの間、改めて誓ったばかりなのに――ルカと交わした約束すら、リクは果たすことができなかった。

 

 皆のヒーローになった後。大切な家族を得て、兄となったはずのリクは――希望を信じてくれた妹たちを、守ることができなかった。

 

 ただ、完膚なきまでに、ダークザギの悪意で全てを奪われてしまっていた。

 

 かつて見た夢――その運命を、変えることができないままに。

 

 皆の……そして、自分自身の笑顔をも曇らせて。

 

 崩れた二本の足で、再び立ち上がる意志すらも、失ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 スカルゴモラNEXを取り込んだダークザギ・アルファオメガは、ダークフィールドを解除した。

 

 分け与え、独自に成長させていた己の力と、大量のベリアル因子を吸収したことで――その肉体は遂に、カプセルの軛を抜け、完全な存在としての力を取り戻した。

 

 そうして、さらなる進化を遂げた暗黒破壊神が非連続時空間から顕現した途端、その力の影響を受けた世界が歪む。

 

 太陽が陰り、さらに最早人の目には見えない場所。光速では今のこの瞬間の変化に気づけないほどの遠くで、次々と星が死んで行く。

 

 地球上では、ダークザギが身を潜めていたAIBの回線に繋がる術を持つ者だけが、数多の光生む恒星の死を感知することができただろう。

 

「なんでだよ……なんで――っ!」

 

 世界の終わりが始まる最中、ダークザギは世を呪うような青年の声を聞いていた。

 

「うぁああああああああぁ……っ!!」

 

 絶望に打ち拉がれているのは、ウルトラマンジードに変身する術を失って人間態に戻り、そして完全敗北を喫した朝倉リクだった。

 

 ……力及ばず敗れることは、未熟なまま戦い始めた彼にとって、決して初めての経験ではない。

 

 その結果、誰かを守れなかったことすらも、過去に覚えのあることだろう。

 

 ――しかし、その頃の彼は、独りだった。

 

 確かに、彼の周りには支え合う仲間が居た。

 

 だが、ともに助け合い、そして守り導くべき年少の家族なんて、その頃の彼には居なかった。

 

 敵対せず、同じ時を歩むことができた、血を分けた肉親との別れは、朝倉リクにとって初めて経験することだったのだ。

 

 かけがえのない妹たちを喪って、朝倉リクは膝を折り、抑えきれぬ感情に声を詰まらせながら、ただ嘆きを零していた。

 

 

 

 その様を、惰弱な心だと見下しながら……それでも、遠からず彼がまた立ち上がることを、ダークザギは確信していた。

 

 ともに生きるという彼の願いに応えてくれた妹たちを、受け入れてくれた世界。今はザギを構成する力に分解され、消えてしまった彼女たちが愛した居場所を、守るため。

 

 どれほどの絶望に見舞われても、残された絆を糧に、決して諦めずに立ち上がる――ウルトラマンとは、そういうものだ。

 

 このザギを差し置いて、自らのオリジナルを越え、模造品ではない唯一無二のウルトラマンに成り上がったジードならば、なおのこと。

 

 このザギのオリジナルである、『奴』を招くための器足り得る不屈の精神を、朝倉リクは宿しているはずだ。

 

 

 

「さあ、来い……ノア」

 

 誰にも聞こえぬ声で、ザギはそれが来るはずの(ソラ)を見上げた。

 

 ……朝倉リクを器に光臨する、ザギのオリジナルたる究極の超人、ウルトラマンノアを殺すことで。

 

 自身こそが究極のウルトラマンをも越える、唯一無二の存在として――ノアへの信仰を投影するだけの、模造品ではない己を確立するために。

 

 そのために全ての準備を整えたザギは、宿敵の出現を加速させるべく、世界のさらなる蹂躙を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 




Cパートあとがき



 ここまでお読み頂きありがとうございます。

 元ネタなしの本作完全オリジナル強化形態を見せるトップバッターは、まさかのダークザギ。
 アルファオメガ、というネーミングは、『ウルトラマンジード』のラスボス名候補として挙がっていた名称が元ネタとなります。
 もちろん出処は故小林泰三氏の『AΩ超空想科学怪奇譚』でしょうが、やはり『ウルトラマンF』でザギ自身が「ウルトラマンノアはアルファにしてオメガ。あなたは絶対にウルトラマンノアのように強くなれない」と言われているので、それに対する意趣返しの側面もあるのかもしれません。厳密には映像作品ではないので本作と世界観は繋がっていない想定なので、そんなに小物じゃないと思いたいところですが……!

 後は、せっかくベムラーモチーフのザ・ワンと、ゼットンの発展キャラである宇宙恐魔人ゼットと融合するので、ウルトラマンそっくりのザギさん自身の顔と合わせたいと思いつつ、ダークルシフェルとは差別化したい、等々考えて二体の顔を篭手にしました。単にグリーザ&ギルバリスに比べて特徴を出し難かっただけなのは内緒。デザインのセンスがないのです……

 後はあんまり大した話ではないですが、カプセルの組み合わせについて、グリーザは未知数のアルファということでご了承くださると幸いです。



・闇による同化吸収
 これは本編未使用で設定上のみ存在するダークネス・ザギという技です。過去のエイプリルフール企画でも地味に(多分この技の)言及があったりします。
 よく考えたらちょこちょこ使っている一兆度のパンチことザギ・インフェルノもノアしか使っていない本編未使用技ですが、まぁそっちは本当にノアの方と差がないからということで……。






  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。