滅びの始まった世界の中。
荒廃する星山市の中心で、二体の巨人が対峙していた。
滅びの根源、進化した邪悪なる暗黒破壊神、ダークザギ・アルファオメガ。
立ち向かうのは、仲間の――そして、自分自身の祈りを見つめ直して再起したヒーロー、ウルトラマンジード・ソウルプリミティブ。
「はぁああああああっ!」
動揺するダークザギに、ウルトラマンジードが先手を取った。
獣のように駆け、膝から飛びかかる、ジードの十八番となる初撃が、ダークザギの胸に突き刺さる。
その勢いに圧され、二歩、三歩と後退するザギに、ジードは続けて装甲された両腕で斬りつけるように襲いかかる。
だが、ジードの振るう紅い篭手を、ダークザギは素手で掴んで止めていた。
「……弱い」
焦燥の晴れた声には驚愕と、失望と、そして憤怒が含まれていた。
「なんだそれは――ふざけるな!」
感情を剥き出しにしたザギの殴打が、ジードを襲う。
ウルティメイトファイナルを遥か凌ぐスペックに到達した今のウルトラマンジード・ソウルプリミティブであっても――単なる怒りに任せただけの素の拳に、防御の上からでも弾かれて、超極音速の飛行能力で抗ってなお、何百メートルも後退する。
「何故、ノアにならない!? そんな姿で挑むなど、何を考えている!?」
叫びとともに。固めたままだった拳から、ダークザギがザギ・シュートを連射する。
ノア・リフレクションでも、サークルシールドでもない、ジード本来の物と同型のバリアを展開して持ち堪えるジードの様子に業を煮やしたように、ザギは自ら肉薄する。
「おまえのような、姿形だけが似た生命体如きが、本気で俺とノアの戦いに割り込めると思うな!」
近づく間もザギ・シュートの弾幕を防ぎ続けていたバリアを、直接の拳で弾き飛ばして。
「おまえより、ノアの方が遥かに強い!」
ガラ空きになったジードの胴体、その首元を両手で締めながら、ザギがジードを恫喝する。
「世界を守りたいと本気で願うなら、ノアに身を捧げろ! ノアになったおまえを、俺に破壊させろ!!」
「――嫌だ!!」
叫ぶとともに。両手の武装の性質で、急激に力を増したジードはザギの腕を引き離し、互いを投げるようにして距離を取った。
「ノアとザギの宿命なんて、僕らには関係ない……っ!」
ザギの傲慢に叫び返しながら――ジードは、自分の心の中にある祈りを確かめ、ザギの強烈な敵意をも、正面から押し返した。
……昔、リク自身がして貰ったみたいに。怖くて寂しくて泣いている誰かの笑顔を、取り戻してあげたい。
それが――ずっと欲しかった、リク自身の大切なもの。傷つけ合わず、一緒に生きられる家族であるのなら、なおのこと。
だからリクは、確実にザギを倒し、世界を救えるウルトラマンノアではなく。
ノアの方が、ジードより強いとしても――彼では救えない、リク自身の家族を取り戻すために、自ら戦うことを選んでいた。
……もちろん、妹たちが生きていく、この世界だって――これ以上ダークザギに、一歩だってくれてやるつもりはない!
そして――家族を取り戻し、世界を救うという目的に比べれば、些細なことではあるけれど。
ウルトラマンジードは――朝倉リクは、この時。ダークザギに負けたくないと想う理由を、さらにもう一つ、見つけ出していた。
「僕は、僕として……あなたに勝つ!」
その強い決意が、ウルトラマンジード・ソウルプリミティブとの一体化で破損による機能不全を補った、ギガファイナライザー――
……ファイナルアームドネクサスの真価を引き出す運命のしずくの、最初の一滴となっていた。
◆
世界の命運を左右する、光と闇の巨人の対決。
全てをウルトラマンに託し、一旦、星雲荘の転送用エレベーターで距離を取り。信じて見守っていた一同の中で、変化が生じていた。
「(この、光は……)」
「――ゼロさん!」
ウルトラマンネクサスの姿を介し、再びウルトラマンジードが出現した際。彼の伴っていた眩き光。
その作用が、彼が再起する時間を稼ぐためにダークザギに敗れ、消滅寸前の危機に陥っていたウルトラマンゼロの魂を、暗闇の底から呼び戻し――彼の意志が宿った変身アイテムであるウルトラゼロアイに、鮮やかな色を取り戻させていた。
「(レイト……そうか。あいつも託されたんだな、ノアに)」
〈……託された、とは〉
おそらく、この場にいる面々の中で、ゼロと同程度にその伝説を知るレムが、ユートム越しに尋ねた。
〈観測できる限り、今のジードでも、ダークザギには圧倒的に劣っています。力の一部に過ぎないカプセルではなく、ウルトラマンノア自身が戦う方が、勝率は高かったはずでは?〉
「(だとしても――きっとそれじゃ、何かが足りなかったんだ)」
かつて、自身が経験した戦いを振り返り、ゼロは呟いた。
「(その何かを――ノアが応えてくれなかっただけじゃ、リクは諦めなかった。だからノアは、俺にイージスを託した時のように……リクに、戦うための力を託した)」
「ただザギを倒すだけじゃなくて――リクくんが、諦めなかったもの……」
「……ルカたち、ね」
モアの言葉に続けて、ライハが確信を込めて呟いた。
「(……キングのじーさんも、ノアも。俺たちよりすげー力を持っていても、本当に神様ってわけでもねぇ。何でもかんでも、じーさんたちの思うが儘じゃねぇんだ)」
――まるで、普通の人間から見たウルトラマンのように。
超然とした、底知れぬ神秘的存在。そんな風に見える巨人たちも、彼らなりの苦悩を抱え、限界にぶつかりながら、それでも諦めずに戦い続けてくれていた。
伝説の超人と呼ばれる、ウルトラマンたちであっても。
――例えば、彼らに依存してしまう人の心の弱さまでは、どうしようもないように。
「(だから――ただ、俺たちを信じて、可能性を託してくれている。そうやって渡せるのは、じーさんたちのほんの一部にしかならなくても、その力を――後は、自分の物にして、運命を覆してみろってな)」
例えばゼロが、ノアから託されたウルティメイトイージスの助けを借りながら、自分自身を成長させ――やがて、シャイニングの力に覚醒したように。
今、この時。ジードに託された力は、ノアのほんの一部――ザギには届かないものだとしても。
ノアではなく、ジード自身がその力で戦うことでしか掴めない、未来のために。
神とも同一視されながら、しかし決して全能ではないウルトラマンは、諦めない者と力を合わせることで、不可能を可能にする道を目指したのだと。
「……なら、あたしたちも信じましょう」
ゼロの話を聞いて、ライハの肩を借りたアサヒが、皆に呼びかけた。
「リクさんならきっと――ルカちゃんたちも含めた皆の笑顔を、取り戻してくれるって」
「ゼナ先輩とゼガンも、リッくんなら……」
「もちろんだよ!」
モアの声に、誰より最初にリクをヒーローだと信じたペガが、力強く頷いた。
「そうね。リクは、何度も自分の運命を変えて来た。だから、きっと――ルカたちを、取り戻してくれる」
そして、ライハもまた、頷いた時。
かつて、リクへ届けた祈りが宿っていた、その胸に、また。
メタフィールドもないのに――ウルトラマンジードと繋がる光が、結ばれていた。
◆
……光が再び現れたのは、ライハだけではなかった。
「お願い……サラを助けて、ウルトラマンジード!」
ザギが本性を表した際に銃撃され、サラのおかげで一命を取り留めながら――未だ、星雲荘の修復装置に身を置いたままの、ピット星人トリィ=ティプ。
――あいつにとってのおまえは、前に飼っていたエレキングの代替品だ。そのエレキングのことも、育てておいて自分の勝手で死なせたような女だぞ?
サンダーキラー
それを否定することは、トリィにはできない。
けれど――サラは、そんな残酷な言葉に、負けないでくれた。
――トリィは……っ! あの子も、わたしも、ちゃんと! ちがう子だって、どっちもだいじにしてくれてる――っ!
ザギの――ペイシャンとして、ずっと傍に潜んでいた間。その胸の内に抱いていた嫌悪感からの指摘は、真実であっても。
サラの口にしてくれた言葉もまた、トリィにとっての、真実だったから。
救われたと思うのも、きっと勝手が過ぎることなのだろうけれど。
トリィにとっての大切な存在を、今度こそ、喪いたくない――!
そう、強く祈った時。かつてリトルスターをジードに託したトリィの胸に再び灯った光が、伸びて――
さらに、未だ状況は知らぬままでも。トリィと同じように、友人であるサラの無事を祈り、ジードの勝利を信じる伊賀栗マユも。
全く事情を知らず。ただ、またリクや、ルカたちと平和に話せる日常の帰還を祈り、ジードの勝利を信じる原エリや、本田トオルも。
世界を襲う滅亡の危機を、どうにかできる唯一の可能性を信じる深海怪獣グビラや、売れない芸人タカシと共に避難する宇宙小珍獣ルナーのモコも。
一度はAIBに保護された上で、ウルトラマンジードの正体を知ることはないまま、自分たちの日常に回帰した満賀フジオや、松本テツロウに、佐倉フジコも。
AIB総本部にて、地球分署で発覚した裏切りと、それを引き金にした宇宙規模の大災害への対応に追われていた、サイコキノ星人カコも。
「……陸」
崩壊寸前の星山市中央病院から、看護師たちによる決死の避難活動を受けている最中の、朝倉
そして――
◆
……ウルトラマンジードの正体は、リトルスターを集めるために用意された道具。
その設計目的は戦闘ではなく、祈りを集めること。
故に、戦闘目的で造られた合成獣である妹たちには、純粋な戦闘力では及ばず、それが兄としての引け目にもなっていた……が。
模造品という出自でも――おそらくは全てのウルトラマンの中で最も、人々の想いを集めることに特化した偶像である故に。
絆を繋ぐウルトラマンノアの特性を受け継いだソウルプリミティブは、ウルトラマンジードを信じる者たち――特に、かつて祈りを譲渡した縁のあるリトルスターの保有者たちとの繋がりを、より一層強くして。
さらに、砕かれたギガファイナライザーが変化した、ファイナルアームドネクサスの働きにより。リク自身に限らず、ジードを信じる人々の祈りもまた、絆を通じてジードのエネルギーへと変換され、その能力を高めて行く。
例え、その祈りを生む理由の一つに――ダークザギが、朝倉リクの変身したノアを倒すという自身の目的に拘泥し、まだ本気で倒しにかかっていないために成立した、仮初の希望があるとしても。
ジードの結んできた絆は、確かに。完全に引き離されていたダークザギ・アルファオメガとの力の差を、徐々に埋め始めていた。
「ソウルレッキングリッパー!」
「――っ!?」
ファイナルアームドネクサスが稼働し、左右それぞれの腕から放たれた双子の切断光線が、ダークザギの肉体を切り刻む。
まだ、強靭な体表を突破するほどの威力はなかったが、微かなダメージが生じていて――それ自体に、ダークザギは驚愕していた。
……アルファオメガと化したダークザギの肉体は、ウルトラマンノアを確実に抹殺するために調律されている。
ハイパービースト・ザ・ワンの持つ多彩な能力を筆頭に、ギルバリスのコアと同等の特性をエナジーコアに施すことで、ウルトラマンの光線技への耐性を備え。
さらには実体化した後とはいえ、グリーザの能力でこの宇宙の穴を縫う針以外のエネルギー攻撃を吸収する体質を得た。
なのに、その体質に守られているはずの、内側まで――ただの切断光線が、届きかけた。
針であるキングソードは、もう封じたはずなのに――まるで何かが、ザギの内側から、ジードを引き寄せているかのように。
戸惑うザギへ、ジードはさらに手刀を振り下ろして来る。
一撃目を躱し、ザギの超重力を纏った回し蹴りがジードを打つ。怯ませ後退させたところで、背負った光輪から無数の光線や稲妻を降らせてジードを街ごと攻撃し、強度を増したバリアで凌がせている間に肉薄する。
バリアを支える手を片方離したジードと、互いの拳を腰溜めに構えるが――ザギの方が数段早い。
……それなのに、ザギの拳はジードに届かず、ジードの拳が一方的にザギの頬を捉えていた。
受けたダメージも、先程までより大きかったが――それ以上に、そうなった結果自体へ、ザギはまたも混乱する。
ザギの肉体が、今――ジードへの攻撃を、拒否したからだ。
……気づけば。ダークザギ・アルファオメガの肉体から、か細い光の筋が、ウルトラマンジード・ソウルプリミティブへと伸びていた。
「――あなたの言ったことは、一つだけ合ってて。でも、後は全部間違ってる」
その光を浴びながら、いつもの構えを取ったウルトラマンジードは、再びダークザギに肉薄した。
「確かに、僕は弱い!」
叫びながら――反撃しようとした体が、また言うことを聞かなくなったザギの頬を、随分と威力の増した拳で打ち抜いた。
「弱い僕は、一人じゃ戦えない――ゼロやアサヒ、ライハたちが居てくれなかったら、自分の大切なものまで見失うところだった!」
後退するザギの腹へ、反対の手で押して加速したエルボーを繰り出しながら、ジードが叫ぶ。
――だが、ザギもいつまでも、ジードを調子に乗らせはしない。
自身の肉体に生じる抵抗を捻じ伏せ、撃ち込まれた肘を掴み、投げ返し、腕から飛ばすザギ・スパークの刃でジードに反撃する。
対してジードもまた、ソウルレッキングリッパーを発動し――さらに威力を増したのか、ザギからの攻撃を相殺してみせていた。
「僕は、唯一無二なんかじゃない……僕らは皆で、ウルトラマンなんだ!」
叫んだジードが、自らとザギを結ぶ光の糸に視線をなぞらせた後。再び向かって来る。
「だから――そこにいる、ルカとサラも!」
直進して来るジードを、ザギが余裕を持って迎撃しようとしたその時。
「絶対に、諦めない!」
やっと見つけた、自分の大切なもの――それを取り戻そうとする、ジードの血を吐くような叫びに応じて。ザギの肉体が硬直し、動きが鈍る。
……それは、かつて倒された邪神ザ・ワンと同じ。
自ら協力する仲間の力を合わせたジードに対し、無理やり他者を取り込み、力尽くで従える必要がある分、道理としてザギに生じる隙だった。
まして。目的を見据え迷いなく突き進むジードと、眼前の敵ではなく、ノアへの勝利に固執するザギとでは――その力量差は、必ずしも結果に直結しない。
「――ッ!」
再びの、ソウルレッキングリッパー。今度は両腕を叩きつける打撃からの派生技として使用し、遂に――今のザギの肉体に裂傷を与えながら、一度、押し退ける。
それは――拳の威力を最大限に高める、充分な動作を行う間合いを作るための、一撃だった。
「――今、助ける!」
そしてウルトラマンジードの拳が、ダークザギの腹に着いた傷口を抉り、その体内に飛び込んだ。
あの時届かなかった手で、今度こそ掴むために。
◆
――私たちは闇の中に居た。
暗黒の澱。圧倒されるような怒り、憎しみ、恨み、妬みが吹き荒れる場所。
私たちを力尽くで削り、混ざり、取り込もうとする、恐ろしい闇に対して。
私は、痛みとともに――どこか、親しい気配も感じていた。
それは、私の中に写されていた、この闇の主の情報による親近感――ではない。
それよりももっと前に、そしてその後も度々、私自身が感じた気持ちだったから。
……生まれてすぐに殺されかけた時も。人々の前で、本当の姿を晒した時も。
自分が、真っ当に望まれて生まれてきた命ではないと知った時も。
私が、どんなに辛い気持ちだったのか――私を傷つける相手は、誰も、それをわかってくれなくて。
自分が、何のために生まれてきたのか……わからなくなって。苦しくて。悔やみそうになって。
だから、その悲しみと重なるこの闇に身を委ねるのには、ある種の居心地の良さもあった。
……けれど。
誰にもわかって貰えないからと。本心を闇に隠して逃げようとした私の、本当の願いを――あの日、兄が見つけてくれたから。
独り善がりでも、作り物でもない――互いを認め合える本当の笑顔を、取り戻してくれたから。
それからも、何度も、何度も。私がここにいることで、ある時は私の力が足りなくて、周りに迷惑をかけてしまって。そのたびに、何度も悔やんだ。
だけど――生まれてきたことを悔やむことだけは、しなくなった。
辛くて悲しいことだけじゃなくて、素敵で幸せなことにも、私はたくさん出会えたから。
それでも折れてしまいそうな時に、力強く支えてくれる絆を、私は結ぶことができたから。
(……わたし、も)
――うん、そうだね。サラ。
だから……どんなにこの闇が、私たちと近くても。この闇だけになっちゃいけないんだ。
それは――今も私たちを取り戻そうとしてくれる繋がりを、否定することになっちゃうから。
……そんな風に、闇の中へ溶けそうになりながらも。
互いに励まし合い、徐々にその魂の輪郭を認め合うことが、私たちはできるようになっていた。
……真っ暗な夜道で導いてくれる、小さな星の光のような希望が、私たちを照らし始めてくれたから。
か細い光の糸を、見失わないように。強く、強く意識して。もっと、もっと呼び寄せて。
ただ、助けて貰うのを待つだけじゃなくて。何とか力になれることはないかと考えて、諦めないで。
そうして、私たちは――目の前へと伸ばされてきたその手に、自分たちから手を伸ばして、力強く掴み返した。
◆
ダークザギ・アルファオメガの腹部から、ウルトラマンジード・ソウルプリミティブの掌が引き抜かれる。
ジードの手は、自らと繋がった光の糸が握られていて――未だザギの体内に残るその糸を、ジードはさらに引き寄せる。
糸が擦れるのに合わせて、ダークザギの体内から無数の光の粒――奪われていたウルトラカプセルが飛び出して、次々とジードのカラータイマーへと帰還して行く。
そして、全てのカプセルを吐き出し終えた次の瞬間――ダークザギの腹部から、三本の糸、その終端が飛び出した。
二つの、人間大の光の球体。そして、アルファオメガと化したザギ自体を上回る体積の、一匹の怪獣。
引っ張られた勢いのまま、時空破壊神ゼガンがジードの遥か背後、星山市の崩壊した一角に落下した頃には――残る二本の糸の先端に繋がっていた光の玉もまた、その付近に緩々と降下して――人間の、少女たちの姿を取った。
それは、力のほとんどを奪われた今――この星の環境下での負荷が、最も軽い形態を、本能的に選んだため。
ジードの取り戻した、彼の妹たち――朝倉ルカとサラの姉妹は、崩壊した星山市の片隅に、その身を横たえていた。
「――ルカ!」
「サラちゃん! ゼナ先輩!」
その光が、ザギから放出された時点で。体力に余裕があるライハとモア、そしてペガが、救出のために星雲荘のエレベーターで転送され、彼女たちに駆け寄っていた。
「……あ」
ライハが呼びかけ、さらに金髪の垂れる褐色の頬を弱く叩くと――伊達眼鏡の向こう、瞼に隠されていた赤い瞳が、ゆっくりと見開かれた。
「ライ、ハ……」
「――おかえり、ルカ」
思わず――崩れた表情を見せまいと。ライハはルカを引き寄せ、抱き締めた。
「……お兄さま、は?」
隣で、モアの胸に抱きかかえられた、白衣を来た小学生程度の女の子――サラもまた、どこか
――全員の背筋の凍るような咆哮が響いたのは、その時だった。
轟く声の主は、ダークザギ・アルファオメガ。
吸収していた怪獣たちをジードに取り返された破壊神は、確かに弱体化しながらも――しかし返って、その猛威を増した叫びを発していた。
ジードの刻んだ腹の傷は、ハイパービースト・ザ・ワンに由来する超再生能力で、既に跡形もなく修復されていた。
「……もういい。おまえをノアにするのは、やめだ」
ベリアルの娘である、ルカとサラ――培養合成獣スカルゴモラと、究極融合超獣サンダーキラーS。
カプセルからの完全なる顕現、そしてフュージョンライズを行使するために取り込んだ二大怪獣。
必要な力の大部分を収奪済とはいえ、同化を解かれたアルファオメガは、確かに総量としては衰えながらも。
ジードと繋がり、ザギの動きを阻害していた邪魔者が消えたことで、逆にその力の完全性を取り戻していた。
「おまえはおまえとして――俺が殺す!」
「……やっと僕らを見てくれたんだね」
ダークザギの殺意へ、不敵に返しながら。
ウルトラカプセルを取り戻し。その縁で繋がったウルトラマンたちの祈りもまた、自らの力へと変えて爆発的に強化されたウルトラマンジード・ソウルプリミティブは――その背後にいるルカやライハたち、彼の家族を、その悪意から庇っていた。
そして、その家族とこれからも生きていく世界を、守るために。
「だけど――負けてやるもんか!」
「ほざくなっ!」
ジードとザギ、二体の巨人が動いたのは全くの同時。
互いに強烈な光と闇を纏った両者は、正面から激突し――凄まじい衝撃波を残し、次の瞬間、星山市から消えていた。
「――いかん!」
衝撃波に襲われる寸前。シャドー星人ゼナの声が響いたかと思うと。消耗した体を何とか動かした時空破壊神ゼガンが、衝撃波を防ぐための壁となって、ライハたちを守護してくれていた。
……リトルスターという強い縁でジードと繋がっていたのは、ゼガンだけだが。そのゼガンと同化していたゼナも、無事に帰って来れていたらしい。
その事実に少しだけ安堵していたライハは、それから当然の疑問を口にしていた。
「……ジードとザギは、どこに?」
世界が、静か過ぎる。
膨大な力の塊であったダークザギ・アルファオメガと、それに対抗できるほどの祈りを纏った、ウルトラマンジード・ソウルプリミティブ。
所詮は地球人であるライハの感知能力を越える戦いをしているとしても、あれほどの力同士がぶつかっているなら、何の影響の伝わって来ないのも不自然だ。
……ソウルプリミティブの能力による、ジードと繋がる光の糸はまだ、残っている。両者が対消滅したわけでもないはずだ。
〈――ウルトラマンジードとダークザギの反応、ロストしました。この宇宙のどこにも、二体は存在しません〉
「なら、どこに……?」
呟くライハは、自分やルカの胸から伸びる糸を目で追った。
――そこで、時折瞬く光景に気づいた。
「……まさか」
時折、蜃気楼のような景色が揺らめくのは、ジードとザギが衝突した地点から。
その向こうでは、巨大な球体が泡のように、数え切れないほど浮かんでいた。
◆
――通常の宇宙の壁を越えた先にある、超空間。
全てのマルチバースを泡宇宙として内包したそこで、ウルトラマンジード・ソウルプリミティブと、ダークザギ・アルファオメガが対決していた。
……人間や怪獣やウルトラマンの祈りを集め、託されたそれを己の力に変換したジードと。
自力の完全制御を取り戻し、そして、ノアへの拘泥を捨てたことで、加減のなくなったザギとが、互いに全力でぶつかり合った。
瞬間――たったそれだけで、両者は宇宙の外壁を突き破り、この場所に飛び出していたのだ。
「ソウルレッキングリッパー!」
ジードが篭手から繰り出す光刃を、ザギは自身の篭手で受け止めて――微かに切り刻まれながら、その刃を粉砕し、そして舌打ちした。
「グリーザの特性は消えたか――!」
それは、宇宙の外へ飛び出したからか。
それとも、かつてウルトラマンエックスがハイブリッドアーマーでグリーザを倒した時のように、取り込んだ怪獣たちを放出したことで、その性質に異常を来したからか。
「だが、関係ない!」
ダークザギが翳した掌から、赤黒い光線――アーマードゼットに由来する、ウルトラマンを完全分解して消滅させるダークサンダーレゾリュームが放たれる。
一度はジードを殺害した、宇宙恐魔人ゼットが放っていたものよりさらに出力を増した一撃を、ジードは展開したバリアで受け止める。
しかし、すぐに限界が来ると理解して。バリアで逸そうとしたその隙に。
――ザギ・ミラージュという、自身の幻影を残す撹乱技で、ジードの正面から攻撃を続ける姿を残しながら。
一瞬にも満たないインターバルで可能とする、超光速のテレポート能力を発動したザギが、ジードの背後に転移していた。
そして再び、掌に発射寸前の状態で構えたダークサンダーレゾリュームを、今度は死角から叩き込む――
そう目論んでいることが、ジードは既にわかっていた。
故に、必殺の一撃を躱せていた。
「なに――っ!?」
ダークサンダーレゾリュームを放つ手を、横から弾き。肘の一撃で、ダークザギの胸を打つ。
幻覚とテレポート、二重の手段による不意打ちを完全に凌がれ、驚愕で対処が遅れたダークザギは、モロに打撃を受ける、が――肘鉄から派生する切断光線による追撃は、再びの転移で完全に回避し。
ジードの背後に再び、一瞬で出現――したのを、フェイントに。頭上から、頭部を蹴り飛ばそうとする。
それを、ジードは再び先読みして。蹴られながらも掴み、覚悟ゆえの気合で耐え、追撃が届く前に投げ飛ばした。
投げられたザギは、即座に密着する位置へ再転移してダークサンダーレゾリュームを放つが――ジードはザギが出現する前から腕を振るい、射線を逸らして、ヘッドバットを叩き込む。
「ソウルレッキングロアー!」
そして、密着したことで。真空の超空間であっても、超音波攻撃が可能となり――グリーザの防御力を喪ったダークザギ・アルファオメガに内側から、撹拌するような攻撃を通せる。
ダークザギがジードを突き飛ばした時には、既にダークサンダーレゾリュームは拡散していて――破壊神の掌は、ウルトラマンを即死させる効果は保てていなかった。
距離を取った破壊神は、連続の転移での攻めをそこで一度、中断させていた。
「――貴様、どうやって読んでいるっ!?」
未来予知を可能とするダークザギの、超光速のテレポート。
何万年も戦い続けてきた戦闘兵器としての経験と、自己進化プログラムの稼働で最適化された動作の数々。
そこに超精度の幻惑能力を加えた組み合わせは、本来、四半世紀も生きていないジードの、二年足らずの戦闘経験と、格下の身体スペックで対処できる物ではない。
だが、現にジードは、ザギの予知すら幾度と覆し、確殺のはずの攻撃を紙一重で凌ぎ続けていた。
「……あなたが教えてくれるからだ」
対してジードは、手品の種を端的に答えた。
――ウルトラマンジードは今、皆の祈りを纏っている。
特に、リトルスターを介した、かつての宿主や、カプセルを通じて共鳴した、同種の力を持つウルトラマンとの繋がりは、強く太い。
そう……かつてリトルスターを宿していた者との繋がりは、特別に強いのだ。
ジードに寄せられる、数え切れない祈りの中で――たった一つだけ、ジードの敗北を望む意志も、例外ではなく。
それは、ジードに力を与えることはなくとも……どんな風に、どこからジードを消滅させようとしているのかを、予め教えてくれていた。
つまり、今のジードは――ゾベタイ星人すら欺いたザギの思考を、読めていた。
間にルカを挟み、直接譲渡されたものではなかったとしても――ネクサスの光とは、決して途切れずに繋がり、その力を増して行くものだったから。
最初にネクサスのリトルスターを宿したザギが、いくら未来を読もうとも。その未来を実現、あるいは改変する意志を持った後から、動き出すまでに、その狙いがジードに流れ込み――ザギが未来を読んだその後から、ジードは先に運命を塗り変えられる。
だから、幻覚を織り交ぜた超光速のテレポートから放つ、未来を先読みした即死効果付きの光線だろうと。
仮に、圧倒的優位を齎すダークフィールドの展開を狙おうとも。
その意図がだだ漏れである以上、ジードは後出しで先手を取り、対処できる。
それが、ジードが圧倒的不利を覆せた理由だった。
「……そういうことか」
苛立ちを滲ませながら、真相に至ったダークザギが呟く。
……とはいえ、ジードも全てを防げるわけではない。
読めるのはザギの、本気の想いだけ。虚実入り混じった攻撃には、虚を素通りさせてしまう。
故に牽制や組み立てとなる攻撃を、肉を切らせて止めることで。勝負を決める大技を、何とか喰らわずに立ち回れているだけ。
祈りを纏い、膨大なエネルギーで自己治癒力も高まっているとはいえ――ファイナルアームドネクサスの効果で無尽蔵なのは、あくまで活動エネルギーのみ。
軽傷でも、それをどこまでも積み上げられ続ければ――やがて、ザギの心が読めても、体が追いつかなくなる恐れはある。
だが、その状況に持って行くまでに。莫大な力を持つとはいえ、ジードと違い無尽蔵ではないザギは、果たしていつまで優位を保てるのか。
持久戦は、双方にとって賭けだった。
故に。
「ならば……わかっていてもどうしようもない力で、捻じ伏せる!」
ダークザギ・アルファオメガは、ウルトラマンジード・ソウルプリミティブの守りに対する、もう一つの突破口を選んだ。
「……逃げても良いぞ。貴様に祈る奴らが全員、消えるだけだからな!」
叫ぶザギが腰溜めに構えた両腕に満ちる、禍々しいエネルギーの迸りを見て――ジードは、即座に自身も両腕を交差させ、その力をスパークさせた。
――ザギの言うとおり、避けられない。今、破壊神が出せる全力は、リクの居場所を含む宇宙――その幾つもを、破壊して余りあるものだったから。
故に、正面から迎え撃つ――純粋な力比べしか選べない!
ダークザギ・アルファオメガが右腕を胸の前で水平に構え、その上に左肘を置いた。
ウルトラマンジード・ソウルプリミティブが右手を縦に、左手を横にして、腕を十字に組んだ。
鏡写しのように、双つの赤黒い光線が超空間で走ったのは、その次の刹那だった。
……ダークザギの左手から、ダークサンダーレゾリュームの力を帯びたライトニング・ザギが放たれる。
「ソウルレッキングバースト!」
交差したファイナルアームドネクサスが、全てのエネルギーを結集し――闇を打ち砕く力として、その光を発射する。
そうして出会った二条の光線は、互いに正面から激突し、干渉し合って光を散らした。
……超空間すら染め上げる凄まじい力同士の衝突に、泡の形で浮かぶマルチバースの中には、宇宙ごと鳴動するものまで現れる。
その震源地で――押されているのは、ジードの方だった。
「おァあああああああああっ!」
互いの光線を押し込むように、ダークザギ・アルファオメガが前進。踏み止まるジードだが、全力を投じたソウルレッキングバーストの奔流は、ザギが進むたびに貫かれ、干渉点が猛烈な勢いで本体に迫って来る。
「諦……めるかぁあっ!」
気合の雄叫びとともに、ファイナルアームドネクサスが限界を越えて駆動。光線の出力がさらに上がり、干渉点の後退する速度が減衰する。
――それでも、逆転どころか、拮抗にすら至らない。
ザギ本体の進撃に合わせ、着実に獲物へと迫る暗黒破壊光線が、ソウルレッキングバーストの抵抗を突破して、ジードに届く、その寸前。
「……何!?」
突如として出現した黄金の波動が球状に拡がり、超空間で戦う二体の巨人を包み始めていた。
Bパートあとがき
ここまでお読み頂きありがとうございます。
ウルトラマンジード、本来はリトルスターを集めるための、祈られるための偶像――故に、戦闘型ではないという解釈を、本作ではずっと採用して来ました。
しかし、そういう特性、ノアとかグリッター的な奇跡のことを考えると、むしろただ戦闘に特化しているよりも、ウルトラマンとしては可能性に溢れているのでは……? みたいな妄想から出てきた形。それを活かしてギガファイナライザーの効果に絆を巻き込めたらもっと凄いよねみたいなノリですが、さて。
ところでザギさん、というかウルティノイドが思考を読まれて不利になる――という展開も(理屈は異なりますが)『ウルトラマンF』のオマージュになります。乙一先生ならオマージュするという想定なので、次々と元ネタにしてしまいますね……
名前:暗黒破壊神ダークザギ・アルファオメガ
身長:55メートル(背部ユニット含めると60メートル)
体重:6万トン(背部ユニット含めると8万5千トン)
得意技:ダークレゾリューム・ザギ
ダークザギが「ダークネスカプセル・アルファ」「ダークネスカプセル・オメガ」を用いた「ネオ・デモニックフュージョン・アンリーシュ」を果たした強化形態。ノアイージスはない代わりに、光輪のような背部ユニットを装備している。
カプセルの素材である滅亡の邪神ハイパービースト・ザ・ワン、虚空怪獣グリーザ第三形態、宇宙恐魔人アーマードゼット、ラストジャッジメンター・キングギルバリスの能力を上乗せしている。ただし、グリーザは実体化後の状態のため、宇宙の針がなくとも実体のある攻撃は素通りしてしまう。
ザ・ワンの超再生能力と形態変化、グリーザのエネルギー吸収、ゼットの持つテレポート・光線反射・バリア生成能力、ギルバリスのウルトラマンの光線を無力化する装甲を併せ持つ防御力と、レゾリューム光線&ダークサンダーエナジーの攻撃能力で非常に優れた対ウルトラマン能力を持つ。
さらに、ザギ自身やグリーザ、ザ・ワンの能力で他の怪獣を吸収することができ、ギルバリスの能力を加えたサイバーダークフィールドGの展開が可能で、
ちなみに「ザギ・ミラージュ」は元々設定上ダークザギやウルトラマンノアが使える幻覚能力なので、アルファオメガ限定の能力ではありません(※既存作品での使用描写はないはず)