「リッくん、今、どうなってるんだろ……」
ウルトラマンジード・ソウルプリミティブと、ダークザギ・アルファオメガ。
光と闇、二体の巨人が、その力でこの宇宙を飛び出してしまった後の、崩壊した星山市の片隅で。
取り残されたルカたちの前で、蜃気楼のように揺らめく超空間の様子を見守るモアが、不安を隠せずに呟いた。
〈衝突時、残された記録から推定する限り、エネルギー量はなおダークザギが優勢。その他私の知り得る指標では、ジードが勝るのは継戦能力のみ――ですがそれも、発揮できるまで持ち堪えられる可能性は、限りなく無に等しいでしょう〉
その疑問に答えるように。淡々とレムが告げた事実に、残された仲間たちは衝撃を受けた。
誰もが、ジードの、リクの勝利を願っている。
その祈りが、伝説の超人の光を借り受けたソウルプリミティブの力によって、直接ウルトラマンジードまで届けられ――彼の両腕とギガファイナライザーが融合した武装・ファイナルアームドネクサスが、想いという概念を物理的なエネルギーにも変換し、光の巨人を強化する。
それでも、進化した暗黒破壊神の力には、なお及ばないというのなら。
……理論上、その強化は青天井でも。誰の目にも届かない場所で戦う今のウルトラマンジードに、これ以上、新たに味方する者がどこにいるというのか。
「けど……あんな凄い戦い、ペガたちにできること、もう何もない。信じて応援するしか」
「ううん――そんなことない、きっと」
無力を嘆きながら――リトルスターの縁などなくとも、せめてその意志だけは
諦めの悪くなったルカは、素直に頷かなかった。
……まだ、他にもあるはずだ。兄を、リクを、ウルトラマンジードを、助ける術が――自分たちには!
「サラ。こうして見えているなら――ここに、穴を
「え……っ?」
ルカから不意に問いかけられて、
それから――服の裾から黒い触手を伸ばしたサラは、時折宇宙の外が映し出される座標を検分し、頷いてから振り向いた。
「えっと――うん。たぶん、お兄さまと、この光でつながってるあいだだけなら……」
姉の問いへ、まだ少し自信なさげに答えていたサラは……助けを求めるように、傍に居た人物を見上げた。
「レムとペガにも、てつだってもらえれば」
「えっ、ぼく!?」
突然、サラに頼られて。喫驚するペガを後目に、ライハが発起人へ問いかける。
「ルカ、何をするつもり?」
「……私が今もメタフィールドを展開できるのが、ネクサスのリトルスターの後遺症じゃなくて――ザギの情報を写されたせいなら」
戦いの最中明かされた、己の身に起こっていた変化の真実。
それを踏まえたルカは、もう一つ――今日経験した出来事を反芻して、答えを続けた。
「あいつが、自分の居ない星雲荘にも、ペイシャンの姿のまま、ダークフィールドを出して来たみたいに」
……その光景を目の当たりにした時の、悲しみを思い出してしまいながらも。
その痛みを理由に、目を背けている場合ではないと、ルカは顔を上げた。
「――今の私でも、私の居ないところにだって、メタフィールドを作れるはず!」
ただ、だからと言っていきなり宇宙の外まで繋げるのは、流石に厳しい。ダークザギに力を奪われ、消耗している今はなおさらだ。
だから、兄のところまでショートカットするための扉を、妹に開いて貰う。
不安定な時空の状態と、元よりあらゆる時空を超越し、絆を結ぶというウルトラマンノアの力で繋がった縁を利用すれば、あるいは――という思いつきを、科学者を目指し勉強に励んでいた究極融合超獣は、レムの演算補助の下、ペガッサ星人の用いるダークゾーンと、超獣としての力を重ねて利用する形で、理論の構築に成功したらしい。
そうして、ペガとサラの協力で開いた、超空間へ通じる穴へ向けて――最早、培養合成獣スカルゴモラとしての姿に戻る余裕もない己の生命を振り絞って、ルカはフェーズシフトウェーブを作り出す。
……だが、それを目的地まで放射する前に、ルカ自身が倒れそうになった時。
「――大丈夫」
左右から――モアと、そしてライハが、ルカの体を支えてくれていた。
「私たちが、傍にいるから」
「――うん。ありがとう」
倒れそうな身を二人に委ねながら、想いを確かめるようにシャツを胸元で強く握ったルカは、自分で立つための余力も全部使って、遂にその身から光を放った。
……兄に託した、これからも兄妹一緒に、幸せに生きていきたいという想いの象徴、リトルスターを。
ただ、ザギの悪意に利用されただけで、終わらせないため。
「お願い――届いて、私の祈り!」
ルカが口にしたのは、奇しくも――かつて、ウルトラマンベリアルと対決するジードを勝利に導くため、リトルスターを譲渡せんとしたライハの言葉と、同じものだった。
◆
互いに繰り出せる全力の光線をぶつけ合う、ウルトラマンジード・ソウルプリミティブと、ダークザギ・アルファオメガ。
優勢であったザギが、勝負を決定付けようとして距離を詰め、今まさにジードの決死の抵抗を押し切らんとしていた、その時。
全ての宇宙を内包する超空間にあったはずの二体の巨人は、フェーズシフトウェーブが生み出した不連続戦闘用時空間へと、その存在を移していた。
「馬鹿な……メタフィールド、だと!?」
術者が不在の場所にも発生する――それは、ダークザギのみが扱える、ダークフィールドGだけの特性のはずだった。
だから、これが誰の……いや、何者たちの仕業なのかを。ジードは瞬時に理解していた。
「……ありがとう、皆!」
仲間たちの支えを受けて、ザギの力を押し付けられた
言うなれば、メタフィールドGで包まれた瞬間――光と闇、二体の巨人の力関係が、運命とともにひっくり返る。
「はぁああああああっ!」
メタフィールドの助けにより、ウルトラマンの能力、さらには絆の繋がりが強化され、ファイナルアームドネクサスの効果と相乗することで、ジードの出力が爆発的に跳ね上がる。
「こ、のぉおおおおっ!」
メタフィールドに囚われた瞬間、闇の巨人であるダークザギの能力が低下し、光線の出力が減衰する。
その気になれば、容易く脱出できる程度の牢獄。ダークフィールドGで空間を上書きすれば、ザギに味方する程度の哀れな祈り。
だが、未来予知すらかなぐり捨てた全力の光線のぶつかり合いの最中に、第三者による介入として挟まれれば――それは今のダークザギをして、瞬時の対処が追いつかない一手となった。
その一瞬で、勝負は着いた。
ウルトラマンジード・ソウルプリミティブが放つソウルレッキングバーストが、ダークレゾリューム・ザギを押し切り、ダークザギ・アルファオメガに直撃。
メタフィールドによる一瞬の逆転と、突然の能力低下により、宇宙恐魔人ゼットに由来するバリアや光線吸収能力の発動が間に合わず。
ハイパービースト・ザ・ワンを通して得た数々の能力も形態変化も追いつかず、本来常時発動していたグリーザのエネルギー吸収機能は、既に停止済で。
生命核のエナジーコアを守護する、ウルトラマンの光線を受け付けないギルバリスの特殊装甲も。それを突破するためのギガファイナライザーが変じたファイナルアームドネクサスから放たれた光には、その耐性を無効化されて。
結果として――無数の宇宙すら消滅させる破壊力に、正面からエナジーコアを貫かれて。
ダークザギ・アルファオメガはその瞬間に、絶命することが決定した。
……本来であれば、そうだった。
「――まだだぁっ!」
体表が結晶化したように、罅割れたその奥から。
――ネオ・デモニックフュージョン・アンリーシュが、フュージョンライズの一種であるために。
致死のダメージすら、融合の強制解除現象を一種のリアクティブアーマーとして凌いだダークザギの本体が、その無敵時間を活かして射線から逃れ出た。
そのまま、わずかな距離を一気に詰め、もう一度光線を浴びるより早くジードへ組み付き――逆転した出力差で振り解かれる前に、ザギは全身から、ダークシフトウェーブを放射した。
そうして、ルカの体力が限界を迎え、泡立って崩壊し始めていたメタフィールドと入れ替わりに――巨人の決闘場を、闇へ利するダークフィールドに変化させた。
「……ぐっ!」
ダークフィールドの働きで、毒に蝕まれるような苦痛と――ファイナルアームドネクサスに祈りを届ける、他者との繋がりを弱められたジードは、一気に弱体化し。
逆に、能力を向上させたダークザギの手で、腕を締め上げられたジードは思わず、ソウルレッキングバーストの照射を止めてしまった。
「まだ、充分――俺は俺だけの力でも、貴様を殺せる!」
関節技で、戦力の要となる腕を締め上げ。そのまま背骨を蹴りつけるようにして、肩から引き抜くように両腕を痛めつけるザギに対し。囚われたジードは、篭手からの切断光線で抵抗する。
強制的に距離を取らせたジードも、再構成されたダークフィールドの大地を飛び退るダークザギも。互いに獣のような低姿勢で、睨み合う。
「――ウぉアアアアアアアっ!」
咆哮するダークザギが、加速しながら迫り来る。
アルファオメガに至っていた時と比べれば、理不尽さは鳴りを潜め。
それでも、ダークフィールドの補正により、結果として今のウルトラマンジード・ソウルプリミティブとも同等以上の能力を発揮して。ジード以上の技量と殺意を携えて、ザギの猛攻がジードを襲う。
……だが、ならば。先程、アルファオメガにも対抗できたように。
ザギの思考が流れ込んで来る今のジードなら、幻影を交えた一兆度の拳や、着弾点にブラックホールを生み出す出力の重力波といった攻撃にも対処できる。
ましてその狙いが――メタフィールドから反転した作用によって、ジードに向けられる悪意の繋がりこそが強化され、より明白になった今ならば、なおのこと。
ダークフィールドの働きにより能力値で上回られている以上、無傷で凌ぐとはいかなかったが。
……それでも、徐々に、趨勢は決しつつあった。
ダークフィールドによって、ジードの光を弱め、そのエネルギーを闇に変換して吸い上げているのだとしても――そもそもフィールドの維持自体にも、消耗が生じている。
対し、ギガファイナライザーの効果を発展させた、ファイナルアームドネクサスの働きにより。自身と、彼を信じる者たちが心折れない限り無尽蔵の戦闘エネルギーを獲得し続けるウルトラマンジード・ソウルプリミティブと比べて。ザ・ワンの再生能力も失ったザギの動きは徐々に、精細を欠いていった。
「アァあああああああッ!」
故に。これ以上、消耗戦で不利となる前に――ザギが勝負を急ぐのも、当然の選択だと言えた。
「死ねぇええええええっ!」
三度目となる、ライトニング・ザギの照射が、ジードを狙う。
「ソウルレッキングバーストぉ!」
対してジードもまた、二度目となる最強のレッキングバーストを放ち、暗黒破壊光線を迎え撃った。
条件を変えて、再び激突する
「僕らの……勝ちだっ!」
「――ッ!!」
ジードの叫びを、ザギは否定しなかった。
いや――できなかったのだ。
全力を投入した初手で、押しきれなかった時点で。無尽のエネルギーを獲得し続けるジードと違い、エネルギーが有限であるザギは、徐々に出力を低下させることになる。
今度は光線の撃ち合いに敗れた上で、命を繋ぐような術もない。
撃ち合いを放棄しても、思考が読まれる以上、もう未来を読んでもザギには躱せない。
「何故だ……何故、何故っ!」
その事実を理解し、激昂したザギは、なおも光線を放ち続けながら絶叫し――そして、ジードが見えていないように、その言葉を吐き出した。
「何故俺は……こんなにも無様なんだ!?」
恐るべき力を操り、邪悪な策謀を駆使して、かつてなくベリアルの子らを追い詰めた暗黒破壊神。
それが因果応報に滅びる間際、身勝手に吐き出す嘆きに、しかしジードは――リクは、呆れはしなかった。
「それは……あなたが選んだからだ。人としての幸せじゃなく、闇の巨人として生きることを」
ダークザギが、その正体を偽り、リクたちの周囲で暗躍していた日々を、思い出す。
「でも、僕たちは……あなたのことが、嫌いじゃなかった」
だからルカも、サラも、ザギの――ペイシャンの裏切りで、あんなにも傷ついたのだ。
リクも、また――彼の正体がわかった今となっては、不思議でも何でもないことだが。
ルカに向けられた『道具』という言葉を怒って否定し。自分たちの存在や決意が、周りの不幸を呼んだ――かつてリクの創造主である伏井出ケイに吐かれた言葉を、戯言だと切り捨ててくれたペイシャンという仲間を、嫌ってはいなかった。
「知ったような口を叩くな、たかがベリアルの模造品風情が!」
そして――妹たちを助け出せた今。彼を憎みきれない理由は、もう一つ。
「越えられる壁にしかぶつからなかった、おまえにわかるものか……! 永遠に、ノアの模造品でしかないこの俺の――っ!」
……ザギの吐露する苦しみが、リクにも覚えがあったからだ。
そもそもは。ネクサスのリトルスターに関連して、初めてレムからその存在を聞かされた時から――まさか、当人が傍に居たとは知らぬままに。リクは何度も、ザギのことを考えていた。
それは、遂に実現するところだった、不吉な夢の巨人だから――だけでは、もちろんなく。
ダークザギは、平和のために造られながら、自我が芽生えて悪逆に走った、ウルトラマンの模造品だったから。
朝倉リクは、悪しき目的で造られながら、自らの心で平和のために戦った、ウルトラマンの模造品として。彼の存在を、無視できなかったのだ。
「――俺は不滅だ」
避け得ぬ死を目前にした闇の巨人は、不意にそんな言葉を口にした。
ジードの父であるベリアルも、その執念で幾度となく復活を遂げたが……永久なる平和の担い手となるべく造り出されたダークザギは、本当の意味で死ぬことがない、何度でも無限に復活する機構を備えているとは、リクもレムから聞いていた。
過去、ウルトラマンノアの力で討滅されながらも、こうして復活してきたということは――その言葉は虚勢ではなく、ただの事実なのだろう。
そして、隔離されたダークフィールドとはいえ、それを生み出したのはダークザギ自身である以上……ここで勝っても、かつてのベリアルのように、封印するということはできない。
「だが、何度蘇っても――ノアが居る限り、俺は本物になれない……っ!」
しかし、ザギが続けたのは、己の優位を示すものではなかった。
「……そんなはずはない」
万全を期した復活でありながら。ノアですらなく、その力の一部を借りただけのジードにも敗れる事態を前に、諦念を滲ませたザギの苦悩を、他ならぬジードが否定した。
言葉を交わしながらも。徐々に、衰えを知らないソウルレッキングバーストが、ライトニング・ザギを押して行く。
――油断はしない。同情して見逃しもしないし、こっちが代わりに死んでやるつもりもない。
ここで確実に、ザギを倒す。
かつて彼が吐いた、自分を利用しようとする相手の思惑より強くなって、その野望を打ち砕けば良いという、言葉のとおりに。
家族を傷つけた邪悪を、ジードは――リクは決して許さない。
……だけど。
「だってベリアルが居た頃から、皆――僕のことを、僕だって認めてくれていたんだ!」
その前に、彼に伝えておきたいことがあった。
「だから僕は、戦えたんだ。僕はベリアルから生まれたんだとしても――僕の価値は、それだけじゃないって!」
それは、リク自身が生きる中で得た、答えだった。
「それは……単に貴様の真実を、人間どもが知らなかっただけだろうが!?」
「仲間は違う。それに、他の皆が知らなかったんだとしても――だったら何が悪いんだ!?」
ぶつけられた言葉へ激高を返すザギに対し、リクもまた凄み返した。
「僕らを騙して、あんな風に変身までして! それであなたがなりたい本物って、一体何なんだよ!?」
もう一度、リクは叫ぶ。
ノアを越えたかったのも。そのためにリクたちを騙し、アルファオメガへと変貌したのも。それらはザギ本来の姿でも、目的でもなく、単なる手段に過ぎないはずだ。
本物に拘りながら。目的のためなら、他者を傷つけ奪うだけでなく、自らが変わることも厭わないのなら――諦める前にもう一度。
その始まりの願いを、見つめ直してみろ、と。
「偽物だって、本物になれる――それは、本物に勝ったからじゃない! 本物の心を持っているからだ!」
かつて、己の笑顔を取り戻してくれたドンシャインの勇姿を振り返って。
その記憶に支えられた、リトルスター回収用の模造品を、ウルトラマンだと応援してくれた人々を思い返して、リクは叫ぶ。
「あなたが不滅だと言うのなら……この先にも、無限の時間がある。もう今更遅い、なんてことはないはずだ」
かつて、AIBを騙った敵。
母星に栄光を齎すための、戦いの道具として育てられたガブラ・カーノ――シャドー星人クルトの最期を、リクは今も忘れていない。
――そのクルトと違って、不滅のザギにはまだ、この先があるのなら。
「次は――もう一度ぐらい、違う生き方を試してみてよ」
本当の自分、なんてものに思い悩む、ある種の『同類』を前に。
リクは、ザギに再び訪れる始まりを前にして、己の祈りを告げていた。
「……それと」
そして、もう一つだけ。
彼に、伝えておきたい、想いがあった。
「ルカたちを傷つけたことは許せない――だけど、あの子たちを助けてくれて、ありがとう」
例え、邪悪な陰謀が導いたものだとしても。
おかげで家族と出会えたことは、リクにとって、かけがえのない宝だったから。
そして、遂に――全てを伝え終えたジードの放つ光線が、ライトニング・ザギを掻き消して、ダークザギの肉体を直撃した。
「……一つだけ、教えておいてやる」
圧倒的な破壊力を前に、今度こそダークザギの肉体が消し飛ぶその瞬間――まるで、時間が止まったように。
その肉体に残されていた、リトルスターの縁を介して。圧縮されたザギの思念が、ジードまで届いていた。
「おまえの妹たちをあの地球に送り込んだのは、俺じゃない」
「な……っ!?」
衝撃の真実を知らされて、ザギと同じ速度域まで加速させた思考で、ジードは問い返していた。
「どういうことだ!? それに、なんでそんなことを……」
「何……思い知らせてやっただけさ。おまえの目が、どれほど節穴なのかを」
かつて、彼の正体を見誤った、ノワール星人に向けた言葉を持ち出して。
ジードの驚愕を嘲笑ったザギは、それから力なく自嘲した。
「ま、今頃キングが、全てを終わらせているかもしれないがな」
……かつてない危機を前に、終ぞ駆けつけることがなかった、リクが知るもう一人の伝説の超人――ウルトラマンキング。
その動向を示唆した次の瞬間、時が止まるほどに加速していた互いの思考は、通常の時間域に戻り。
伝説の超人を模した、人造の暗黒破壊神――ダークザギは、一人の人造ウルトラマンが放つ光に呑み込まれ、消滅した。
◆
ザギが爆散し、ダークフィールドが崩れるのと、時を同じくして。
ウルトラマンジードの
そして、カプセルがカラータイマーを通じて外に出ると――その光が、一人の巨人の形を取った。
「――――」
無言で、一瞬だけ。自らが分離したことで、強制的に通常のプリミティブへ退化したウルトラマンジードを振り返った、ウルトラマンノアの幻影は。
ただ、頷きだけを残して。ダークザギが爆散した地点に漂う、その残滓に飛び込み――自らの影とともに、その場所から完全に姿を消した。
リクには、一時融合していたとしても――伝説の超人の真意は、まるで測り知れなかったが。
その所作は、きっと。無慈悲な悪の敵のものではなく……節穴だと拒絶されたこの想いを無下にしない、慈愛を携えた守護者のものだったと、リクは信じたかった。
そう思った頃には、ノアの力なのか――ジードもまた、宇宙の外にある超空間から、地球にある己の居場所へと、帰還していた。
振り返れば、固唾を飲んで見守ってくれている、家族と仲間たちが居て。
「――――」
無言で頷けば、彼らは皆。心底安堵したように、笑ってくれた。
◆
――強大な暗黒破壊神との戦いから、三日後。
朝倉ルカは、兄であるリクとともに、一軒の民家を訪れていた。
それは朝倉
ダークザギ出現に伴う災害と、戦いが原因で傷つき、家財が破損し、あるいは散乱したその場所の手入れへ、入院中のスイに代わってリクが赴き。ルカもまた、その手伝いを申し出ていた。
「……お兄ちゃん、これは?」
「うん、そこ置いといて」
幸いにも倒壊を免れた家の中、重労働に勤しむのは、兄妹だけではなく――リクの親友であるペガや、ルカの師匠であるライハといった同居人たちも、進んで協力してくれていた。
四人で手分けして、捨てるしかない代物と、名付け親であるスイと、彼の妻――リクとルカの名前を考えてくれた、血の繋がらない家族の思い出が詰まった品物を、きちんと仕分けして。
家を家として維持するための修繕箇所を確かめ、屋根をブルーシートで応急措置したり、窓ガラスをダンボールで埋めたりし終えるだけでも、二日がかりの大事業になっていた。
この先の、専門的な技術が必要な本格的な修理は、スイ自身が馴染みの職人を手配しているらしい――もっとも、ダークザギのせいでめちゃくちゃになった今の世界では、空き家の修理に回せる資材が手に入るのは、随分先のことになるかもしれないらしいが。
……建物を壊すのは、ウルトラマンや怪獣の力なら簡単なのに。直したり、作ったりするのは、こんなにも大変だ。
費用は、星雲荘――特に、AIBから多額の協力金を受け取っていたルカも貯金から捻出しようとしたが、スイから強く断られてしまった。既に先方にも、その旨を通達済であるらしい。
そんなこんなで、ルカたちはもうお手上げになってしまっていた。
ペガは、壊れてしまったゲーム機……スイさんとリクたちの遊んだ思い出の品を直せないか、一足先に星雲荘まで持ち帰ってくれていた。
ライハは途中、差し入れを持って来てくれた――ゼロのウルティメイトイージスが直るまでこの世界に残ることとなったアサヒとともに、今度は夕食の準備のために朝倉家を出た。
そうして、末妹を迎えに行く用事を残した兄妹だけで、最後に戸締まりを行っていた。
「疲れちゃったね」
その最中、ぽつりと兄が、述懐を零した。
「そうだね。スイさん
少し迷った後に、ルカは兄へ相槌を打った。
大切な想い出の場所。
兄や、星雲荘だけではない――世界は広くて、しかしその全てが恐ろしい敵ではないと実感できた、大切な想い出の場所。
それが、意図もせず傷つけられていたことに、ルカは怒りと、それに勝る悲しみを感じていた。
「サラだって、まだ泣いてる」
……空き家の修理に末っ子を呼ばなかったのは、兄姉と比べ、彼女自身は朝倉スイとの関係が薄いから、だけではなくて。
ルカのように、作業を通して気を紛らわせるための余力すら、サラには残っていなかったからだ。
それだけ、ダークザギの――ペイシャンの裏切りは、サラの心に深い傷を与えていた。
ペイシャンとの付き合いの長さならルカが勝るが、サラは科学者という夢を目指してAIBでお手伝いをさせて貰っている間、彼からも教導を受けていた。
母のように慕うトリィとの関係性を含めれば、サラも単純な仲間や教師以上の感情すら抱いていたとしても、不思議ではない。
その信頼と期待を踏み躙られ、心を与えられた超獣が塞ぎ込むのも、当然の帰結だと言えた。
もし――もしあの時、レイトが義憤を燃やして駆けつけてくれていなければ。サラの心は、本当に砕けてしまっていたかもしれない。
そんな、すぐそばにある優しさを目の当たりにできたおかげか――サラは、他者への不信に支配されるということもなく。むしろ同じように裏切られ、傷つけられたトリィを心配し……そして、悲しみを分かち合い、支え合うために。今日も、AIBに顔を出していた。
「……なのに」
大切な妹を傷つけられ、危うく奪われかけて。
他の皆も、世界も傷つけられて。自分自身、もう少しで消されるところだったのに。
「どうして私、こんなにも割り切れないんだろう……」
気づけばルカは、その本心を吐露していた。
恐るべき邪悪であった、暗黒破壊神ダークザギ。
親しき仲間であったゼットン星人ペイシャン・トインも、彼がその野望のために偽っていた姿に過ぎないことは、わかっているのに。
「ペイシャン――ザギも苦しんでいた、なんて……何の免罪符にもならないって、わかってるのに」
「……僕もだよ」
……あれだけ敵対した相手を、今は心の底から憎みきれていない。
いいや、今も憎い。あんな身勝手な主張で傷つけられて、奪われかけて、許せる道理があるものか。
けれど、同時に。だからと言って、憎んで嫌ってはい終わり……とは、何故かできず。そんな気持ちを向けられても、他ならぬペイシャン――ザギ自身が受け入れるはずもないのに。
相手が勝手にしたことなのに、こうなってしまったことを、何故かルカは悔いていた。
……そんな気持ちだから、純粋な被害者である妹に言葉をかけてあげることすら、ルカには躊躇われていた。
ガーゴルゴン=フワワの時から成長しない、己の愚かさを開示したルカに対し。妹たちや、世界に残された爪痕を憂う様子はあっても。
ザギと敵対し、その手で討ったこと――それ自体に尾を引いた様子を見せなかったリクが、自然な様子で頷いた。
「僕も、ペイシャン博士のことは嫌いじゃなかった。ダークザギのことも――僕と、同じような存在だろうって。ずっと、気にかかっていた」
まるで、宇宙恐魔人ゼットの最期を、気分良く見届けられなかったルカのように。
ほんの少し、ボタンをかけ違えていた、自分自身とも言える存在に対して。
同じ遺伝子が組み込まれただけの、培養合成獣のために涙するリクは、決して無関心では居られなかったのだ。
「僕の守りたい世界のためには、彼を倒すしかなかった……それが間違っていたとは思わない。だけど、彼が苦しんでいたことも、きっと――本当だったと思うから」
皆のヒーローとして、そしてルカたちの兄として。平和を脅かした悪を討ち、世界を救いながらも。
リクは決して、その偉大な勝利に、爽快さだけを感じていたわけではなかった。
「……勝手に同情して、勝手にわかった気になって。自分の気持ちを、勝手に押し付けているだけかもしれないけど」
微かに表情を曇らせたリクは、あるいは。ただ、自身の苦しみを見せないようにしてくれていたのかもしれない。
妹たちが、ちゃんと。自分自身の悲しみとだけ、向き合うことができるように。
彼は、ウルトラマンジードは、ヒーローであり――同時にルカたちの、兄であるから。
そんなリクは、ルカの向き合う悲しみに、寄り添うようにして続けた。
「そう感じた自分がいることは、本当だから。無理して、目を逸らさなくても良いと思う」
「……あいつが憎いのも、裏切られて悲しいのも。割り切れないのも全部、本当の私――?」
雑多な感情の坩堝となった、この心が。
信じた相手と道を分かつことになったこの悲しみも。同情する価値がないはずの悪党に、何故か憐れみを感じてしまうこの傲慢さも。
その全てが、かつて――そして、ダークザギに取り込まれた闇の中で覚えた、感情のように。
それだけに染まってはいけないのだとしても。必ずしも否定せずとも良いものなら。
「……そっか」
そのことに気づいた時――己を構成する感情に、何ら変わりはないはずなのに。
軋みの原因となっていた胸の空白に、その気づきがすとんと落ちて、塞がって。
ほんの少しだけ。ルカはさっきまでより、楽な心地になっていた。
「お兄ちゃんがそういうなら、きっと、そうだよね」
それを声の調子に反映させながら、ルカは頷いた。
己が、どんな存在だとしても。大事なことは――自分の本当の気持ちを、ちゃんと見つめること。
そして、生まれてきたことを、悔やまないで済むように。
……裏切者への憎しみと、悲しみと。そして、彼とはもう、一緒に居られないという寂しさと。
割り切れない気持ちは、今も残ったままだけど。
大切なことは、その気持ちを忘れずに――自分がどう生きたいのかと、向き合うこと。
なら、ルカの答えは、もう決まっている。
これからも……自分を受け入れてくれた家族とともに、その家族が生きて来たこの世界を大切にして。兄が取り戻してくれた笑顔を失くさず、生きること。ただそれだけ。
自分が人間でも、ウルトラマンでも、ゴモラやレッドキングですらないとしても、関係ない。それでも、自分という生命が学んできた中で、どんな風に生きたいかが、大切なのだ。
培養合成獣スカルゴモラ――朝倉ルカは、その答えを、見つけることができた。
同時――本当の気持ちに、必ずしも従う決まりはないとしても。そもそもその気持ちと、ちゃんと向き合えなかった結果が……周りをどこまでも苦しめた挙げ句、自分自身を無価値と呪うことになってしまったザギであり。
あるいは、ダークサンダーエナジーを前に、決めつけで勝手に諦めていたままの自分なのだろうと、ルカは何となく思った。
――取り込まれていた時に、ルカはザギの抱える恨みを感じた。
同じ、ウルトラマンの模造品である兄は、きっと、もっと以前から。
……ルカでさえ、こんな風に想うのなら。
リクが、ダークザギの最期に立ち会い、何も願わなかったなんてこと、あるはずがない。
願わくば、兄の手向けた祈りが――不滅だという彼に、どうか、届いていますように……と。ルカは、兄に続くようにして、誰にともなく祈っていた。
そして……ザギと違って、直接会うことができず。伝聞でしか知らず、今もルカ自身は、本当に想像しかできないままだとしても。
きっと、ウルトラマンベリアルと対面した、唯一の子であるリクが。
親子でぶつかり合ったその時、己の心を通して見た父の姿に、感じた何かは――誰にも否定できない本物なのだろうと、ルカはようやく、思い遣ることができていた。
……そして。
「行こう、お兄ちゃん。サラが待ってる」
傷つけた側だけを、思い遣るのではなく。
そんな気持ちを持ってしまう自分を、許容するだけではなく。
そんなルカの迷いに、兄が寄り添ってくれたように……順番が逆になってしまったけれど。傷つけられた側の心を癒してあげたいと、ルカはようやく、躊躇いなく想えた。
すぐに叶うことではなくとも、その涙を止めて、笑顔を取り戻してあげたい。
何故ならルカは、リクの妹であると同時に、サラの姉でもあるのだから――と。そう思っていた。
◆
遠い、どこかの並行宇宙の、いつかの時代。
……その黒い角を持つ巨大生物を初めて目にした時、地球の人々は誰もが恐れ慄いた。
肉眼で目撃した者は世の終わりが来たと確信し、報道の映像などで見た人々は、間近に迫り来る破滅の運命を実感した。
大地を崩して出現したその巨大生物は、直立二足歩行する大きなクワガタムシのような形をしていた。
磁力怪獣アントラーと名付けられたその巨大生物は、二つ名のとおり全身に纏う絶大な磁力で広範囲の電子機器を狂わせ、人々に抵抗する術を許さなかった。
まさに文明の天敵として出現したその怪獣は、巨大な蟻地獄を生み出してビルを沈め、航空機を落とし、血中鉄分すら吸い寄せることで生物を捉え、その肉を捕食した。
……精強な軍隊も敵わない恐るべき暴力から、自らと愛するものを守る方法はないのか。怪獣の進撃を避けて逃げ惑う以外に、できることは何もないのか。
人々が絶望の淵に追いやられた、まさにその時――甲高いアントラーの鳴き声とは別の、巨大な存在の叫びが轟いた。
非常用の灯りに照らされるのは、アントラーにも劣らぬ巨体を持った、人型をした何者か。
アントラーの進行ルート上に突如として出現したのは、黒を基調とした体躯を持った、紅い双眸の巨人だった。
その正体が、新たな脅威なのか――それとも、救世主なのか。人々は固唾を呑んで見守った。
果たして、その答えがどちらになるのか。
これから、どんな物語が始まるのかは……次の瞬間まで、誰にもわからなかった。
自らの生き方を決める、心を持った――その巨人自身を除いては。
そして、黒い巨人の動作とともに、濁った叫びが夜を裂いていた。
Cパートあとがき
ここまでお読み頂きありがとうございました。
今回のラストシーン、その後の展開は読まれた方の想像へ完全にお任せします。
さて、当然ながら、「培養合成獣スカルゴモラ」という概念が世に出た後に構想し始めた本作ですが、「心を持ったウルトラマンの模造品同士」としてジードVSザギはそれこそ『ウルトラマンジード』放送中からたびたびシチュエーションを妄想していたので、こうして形にできたことは感無量です。
『ウルトラマンネクサス』はシリーズでも特に好きな作品の一つです。新たなウルトラマンのスタンダードを目指した物語としては、放送期間の短縮に見舞われながらも世に放たれた現在の形がこれ以上なく素晴らしいとも思っているのですが、しかしそんな中で、ダークザギは放送短縮のしわ寄せを諸に受けてしまっているキャラクターでもあります。
というのも、ダークザギと本来のラスボスは別キャラクターであり、ザギは石堀ではなかった状態で始まった物語が途中で変わったため、『ウルトラマンネクサス』としては素晴らしい作品ですが、ザギの心情描写だけは不足してしまっているのですね。
一方で、コミカライズ版『ウルトラマンネクサス』に付属する設定集でも確認できる、再編された後のダークザギのキャラクター像は公式関係者の中では定着している様子で、自分もそんな、「心を得た模造品」としてのダークザギの今後に想いを馳せるファンの一人でした。
そんなファン向けというべきお話として、『ウルトラパワーステージ COMMON DISTYNY』ではジードVSザギが同じ宿命を背負いし者として描かれていたと伝え聞いていますが、結局観に行くことができないまま今日を迎えてしまいました。ならいっそ自分で妄想して自給自足するか! みたいな気持ちはそれからずっと抱えていたので、繰り返しになりますが、それを形にできた今回はとても思い出深いものになりそうです。
さて、本作も遂に19話、今だから明かす「暗黒破壊神ダークザギ編」も終えることができました(1~6話が「培養合成獣スカルゴモラ編」、7~12話が「究極融合超獣サンダーキラーS編」という想定)。
全25話前後の、架空の2クールテレビ番組のノベライズ風、という体で描く本作もいよいよ終盤戦、「ベリアルの子ら」編に突入します。
(ダークザギを話に絡めたのはちょっと危ういかもですが)残された謎を回収した上で、公式の(少なくとも)映像作品展開には合流できるよう頑張るつもりです。よろしければこれからも応援くださると大変励みになります。
どうぞ今後ともよろしくお願い致します。