「――おやおや。泣き声がすると思えば、取り込み中だったかな?」
夜明け前。未だしくしくと泣くルカの背中を優しく叩いてあげていたリクの耳に降りてきたのは、あの不愉快な魔神の声だった。
「エタルガー……!」
脅威の接近に気づいた二人は抱擁を解き、リクはルカを庇うように前に立つ。
「もっとだ……もっと力を寄越せぇ!」
光瀬山中に降り立ったエタルガーの背後から現れたのは、フォトンアースの鎧を纏ったウルトラマンタイガの――闇に堕とされた姿のまま、ルカの記憶の中に焼き付いた、恐怖の化身の姿だった。
「――っ!」
「大丈夫だ、ルカ」
リクの願いを聞いてくれたとはいえ、現に目の前でトラウマそのものが形を持って存在すれば、怯えてしまうのも当然だ。
だからリクは、そんなルカに向かって語りかけた。
「確かに、ウルトラマンは怪獣を攻撃するかもしれない。だけど、それだけがウルトラマンの役目じゃない――タイガだって、あんな姿が本当の彼なわけじゃない」
そうだ。ウルトラマンは確かに怪獣退治の専門家だが、それは暴力を楽しんでいるわけじゃない。その本質は、能力に優れた分、それに伴う責任を果たそうとする守護者なのだ。
だが、他の種族より強大だとしても。全能の神ならぬ身で、できる限りの多くを救おうとしたところで、救えぬ命がある。その一つが、他に無力化する手段を用意できず、退治される怪獣そのものだ。
――しかし、そんな命の選別を。いつまでも、やむを得ない犠牲だと省みないなんてこと、ウルトラマンたちはして来なかった。
その歴史を、リクでさえも、知っている――!
「ウルトラマンだって、間違える。だけど、そこから成長できるんだ。ルカを怖がらせたり、傷つけたりするだけがウルトラマンじゃないって、今から証明するよ」
「お兄ちゃん……」
不安と、希望とが入り混じった妹の視線に頷きを残し、リクはジードライザーを構えた。
「絶対に、守ってみせる……やっと見つけた、大切なものを!」
接近する恐怖の巨人を睨みつけ、リクはウルトラカプセルを起動した。
「ユー、ゴー!」
《ウルトラマンゼロ》
「アイゴー!」
《ウルトラの父》
「ヒア、ウィ、ゴー!!」
《フュージョンライズ!》
「護るぜ、希望! ジィィィィィィィィィィィドッ!!」
そして、もう一度トリガーを押し込んだ瞬間。リクの体は、光と化して再構築された。
《ウルトラマンゼロ・ウルトラの父・ウルトラマンジード! マグニフィセント!》
ジードライザーが形態認証を述べるや否や、フュージョンライズしたリクの剛拳が、タイガのエタルダミーの顔面へと叩き込まれた。
悲鳴を上げてふっ飛ばされるエタルダミーを確認し、リク=ウルトラマンジードは半身だけを振り返った。
「あ……っ!」
リクがフュージョンライズした形態は、再びのマグニフィセント。
タイガの祖父に当たるウルトラの父の形質を発現させている形態は、当然のようにタイガと酷似したシルエットをしていた。
昨日、エタルダミーのスカルゴモラを惨殺したのと同じ兄の姿を目にしたことで、ルカの様子がまた、苦しそうなものに変わっているのをジードは見た。
だが――その瞳に決意の色を浮かべたルカが頷くのを見て、ジードもまた頷き返した。
「フゥン!」
「うざってぇんだよ!」
正面に向き直ったジードに対し、タイガのエタルダミーが仕掛けてくる。
だが、感情任せの粗暴な殴打など、今更ジードに通じるはずもない。
前腕を弾いて軌道を逸らし、飛び込んできた腹部に返しの拳を一発。ダメージを受けて動きの鈍ったタイガの腹へ、さらにもう一撃。
ダメ押しに、両手で繰り出すメガボンバーダイナマイトを叩き込み、タイガのエタルダミーを吹っ飛ばす。
エタルダミーは、そのまま背後の山にぶち当たり、土砂を崩す大穴を穿った。
……強化形態を模しているようだが。生後間もないスカルゴモラには優勢に立てても、彼の遥か上のスペックを誇る強敵の数々と戦ってきたジードにとって、この程度のゴリ押しなど、恐れるに足らない。おそらく正気であれば、通常時のタイガの方がまだ手強そうだと、ジードは冷静に分析していた。
「このぉっ!」
そこで、倒れていた偽タイガが立ち上がり、気合とともに分身能力を発揮。三方よりジードを囲み、同時に光弾を機関銃のように放って来る。
「――お兄ちゃんっ!」
ルカの悲鳴。だが、既に一度目にしていたその攻撃に対して、ジードは一歩も動くことなく対応していた。
頭上から展開した、半球型のアレイジングジードバリア――ジードのみならず、ルカまでも覆った光子障壁はスワローバレットの斉射を防ぎ切り、二人に砂埃一つ届かせはしなかった。
「すごい……っ!」
黎明を照らす幻想的な守護の光、その業を見上げたルカが感嘆する頃には。分身しての包囲射撃もまた無力であることを悟ったエタルダミーが一体に戻り、ジード目掛けて突撃して来ていた。
正面から凄まじい勢いで、巨人同士が取っ組み合う。衝撃を後方に響かせないことを意識していた分、ジードは偽タイガに始動を譲ることとなり、先に頭突きに入られる。
だが、エタルダミーが再現したタイガの角を、ジードもまたその角で受け止めると、昨日のスカルゴモラにしたようにしてメガエレクトリックホーンを発動。電撃を鞭のようにして感電したエタルダミーを絡め取り、まるで甲虫の決闘が如く、首と腰の力だけで投げ飛ばした。
「恐怖が……薄まっているのか……っ!?」
出現地から一歩も動かず、仮にもウルトラマンタイガの強化形態を模したエタルダミーを圧倒するジードを見て、エタルガーはこの次元に来て初めてとなる驚愕の声を上げた。
それこそが、ジードの目的――タイガに最も似た姿で、ルカの恐怖を増してしまったのなら。タイガに似た姿で守護することで、ルカの恐怖心を和らげる。
少なくとも、ジードを信じてくれたウルトラマンたちが、そうであったように――出自でも、姿形でも、能力でもなく。その立ち振る舞いでこそ、ウルトラマンを示すこと。それにより、ルカの中のウルトラマンに対する拒絶感を緩和することが、彼女とともに、この世界で生きていくために求められている兄の責務のはずだと、ジードは考えていた。
それが、結果的にエタルダミーの戦力の低下に繋がっているのだとしたら思わぬ副次効果だ。
このまま、この性質の悪い恐怖の残像を叩き潰す――と、そう決意した瞬間。ジードに対し、エタルガーから光線が照射された。
「しまった――っ!」
何の前触れもない故に回避困難なそれは、破壊のエネルギーを有していない――創造のための所業であることを、既に充分承知していた。
「ならば……父親であるウルトラマンの手で恐怖に沈むが良い――!」
「――ふぅーん……私は、そんな子供を作った覚えはないが」
エタルガーの指示に対し、新たに出現したエタルダミーは異を唱えた。
「だが、このままウルトラマンどもを葬るのには賛成だ。そもそもの言い出しっぺはこの私だからね」
「トレギア……!?」
新たに出現した、青い仮面と拘束具を身に着けた青い巨人――ウルトラマントレギアのエタルダミーに、ジードとエタルガーが揃って驚愕の声を上げた。
「ジードの産み出すエタルダミーが、ベリアルではなかったとは……まぁ良い。こいつもまたウルトラマンには変わりない! 恐怖のウルトラマン軍団の結成には好都合だ」
「――だ、そうだよ坊や」
エタルダミーでありながら、明らかに自意識を持っているような振る舞いで、偽物のトレギアは倒れ伏していたタイガのダミーの手を取った。
「さぁ行こう。君と僕とでバディ・ゴーだ」
そう言ってけしかけようとするダミートレギアと、立ち上がった偽タイガが並び、両者が駆け出した瞬間――彼方より飛来した銀色の刃の群れが、二体のエタルダミーをめった切りにした。
「何がバディ・ゴーだ。タイガがおまえの相棒なもんかよ」
二体のエタルダミーの進撃を止めた声の主は、空の上からジードの隣に降りて来た。
「待たせたな、ジード」
「ゼロ! レイトさんも……!」
駆けつけたのは、ウルトラマンゼロ――銀を基調とした体に紫のラインを走らせたその姿は、強化形態であるゼロビヨンドだ。
少なくとも今、この地球上では、伊賀栗レイトと一体化している間にしかなれない最強の姿での参戦は、つまりはレイトの助力をも意味していた。
「行くぞ。妹を護るんだろ?」
「――はい!」
戻ってきたクアトロスラッガーを再装填したゼロの呼びかけに応え、ジードはゼロとともに駆け出した。
◆
ルカの眼前、渓谷にて繰り広げられる巨人同士の戦いは、さらに激しさを増して行った。
悪のウルトラマンベリアルの模造品であるジードが、光の国の若き最強戦士として銀河に名を轟かせるゼロとともに。光の国の指導者の一族であるタイガのダミー、光の国を出奔した悪のウルトラマントレギアのダミーと激突する。
そんな目まぐるしい肩書など把握しきれていない状況でも、ルカにも、何となくわかって来た。
本物のウルトラマンとは、強大な力のまま恐怖を齎す、無慈悲な正義だけの番人ではなく――誰か、そのまた誰かの大切なものを護るために戦う、希望の守護者たちなのだと。
妹を守り続ける兄の、文字通り巨大な背中を見つめながら、ルカは確信しつつあった。
そして巨人同士のタッグマッチは、兄の陣営に趨勢が傾きつつあった。
新たに現れたエタルダミー・トレギアとゼロビヨンドの勝負は、概ね互角。怪しげな挙動で幻惑し、また単純な身体能力はともかく、光線の出力に優れるトレギアがやや優勢に見える瞬間もなくはない。だがゼロビヨンド側も全く有効打を許しておらず、また徐々にトレギアのトリッキーな動きに対応しつつある。
そうであれば、先のまま、ジードがタイガのエタルダミーを圧倒するのに変わりはなかった。
今まさに、ジードの強烈な蹴り上げを喰らったタイガのエタルダミーが倒れ伏し、蓄積されたダメージもあって大きな隙を見せた。
それを見逃さず、ジードの両手で光子エネルギーが増幅される。決着の一撃を放つ準備だ。
「――やらせるかぁっ!」
その瞬間、ジードに攻撃を加えたのは、観戦していたエタルガーだった。
「ようやく手に入れたウルトラマンのエタルダミーを、みすみす消させてなるものか!」
「お兄ちゃんっ!」
痛烈な蹴りを見舞ったエタルガーは、続けて距離を取り直しながら全身より光弾を放ち、ジードをその場へ釘付けにした。
そのまま、撃たれるがままに任せている理由はハッキリしている。躱せば、その射線上にルカが居るからだ。
「へへ、最高だぜ!」
エタルガーの介入により回復したタイガのエタルダミーが、爆炎に視野を塞がれたジードの死角に回る。
気づいたジードが対処するより早く、タイガのエタルダミーは、その背後から組み付いた。
「オラァッ!」
そのまま、背後から叩き込まれる膝蹴りが、ジードの巨体を揺らす。
ルカを護るために立ち続けてくれた背中を、ルカの恐怖が産み出した幻覚が、執拗に痛めつけようとする。
「――っ、やめろぉー!!」
見ていられなくなったルカは、駆け出した。
瞬間、湧き上がる闘争本能が、ルカの肉体をも光に溶かす。
――衝撃は、頭に直接響いて来た。
擬態を解除し、光量子情報体として保存していた本来の姿に戻ったルカの――培養合成獣スカルゴモラの大角による一撃を無防備に受け、ウルトラマンタイガフォトンアースのエタルダミーは思わずジードの拘束を外し、悶絶していた。
「貴様――ッ!」
エタルガーが全身から怪光線を発射。しかし、自由を取り戻したジードの展開したアレイジングジードバリアにより、その脅威は凌がれる。
「ルカ……!」
「(お兄ちゃん、ごめん。出しゃばっちゃった)」
折角、守ってくれると兄が言ってくれたのに、そこに加勢するのは少し申し訳ないような気もして、スカルゴモラは謝罪の意をジードに伝えた。
「(でも、もう大丈夫だから、私! だって、お兄ちゃんが私の居場所になってくれるから!)」
同時に、どうしても伝えたいと思った、その気持ちも。
「(もう、ウルトラマンだからって、何でもかんでも怖くない……あの鬼っぽいのが、普通の状態じゃないこともよくわかったから。
だから、お兄ちゃん、私に遠慮なんかしないで――もう、本気出してくれて良いんだよ!)」
既に、朝倉ルカとして、知らぬ間に習得した知識で知っていた。
ウルトラマンジード最強の姿は、今、フュージョンライズしている形態ではないのだと。
「――わかった。ありがとう、ルカ」
応えたジードは、バリアを展開したままその手に赤き鋼を召喚した。
――それこそは、必勝撃聖棍ギガファイナライザー。
ウルトラマンジードの潜在能力を全開放する、最強兵装だ。
「繋ぐぜ、願い!」
《アルティメットエボリューション! ウルトラマンジード! ウルティメイトファイナル!!》
ジードの声に合わせて、兵装が起動。眩い光が晴れた頃には、ジードの姿はまた大きく変わっていた。
赤、黒、銀という、基本となる体色は変わらずとも。マグニフィセント以上にマッシブな体格となり、その全身に走る模様が円や直線の幾何学的なものに変わり、頭部のフォルムも額に宝石を填めた地蔵のように変形してと、これまでの印象とはあまりに大きく異なる。
だが、ジードが一貫して湛え続ける、明王のように鋭くも、青い空のように優しい眼光はそのままだ。
最終戦闘形態、ウルティメイトファイナルとなったジードの威容に呑まれたように、エタルガーの攻撃の手が一瞬緩まる。
その隙を逃さず、バリアを展開したままジードは素早く距離を詰め、ギガファイナライザーを振り被った。
「クレセントファイナルジード!」
「うわぁあああああああああ!?」
最速で叩き込まれた、ジード最強の一撃。それはエタルガーとタイガフォトンアースのエタルダミーを一閃し、両断した後者を元の影へと帰し、霧散させていた。
「ぐぁ……っ、おのれ、ウルトラマンジード……!」
だが、エタルガーは持ち前の強靭さで、裂傷を負いながらもその一撃に耐えていた。
憎悪の目を向けるエタルガーだったが、すぐ真横に落下してきた青い影へと注意を逸らされる。
「トレギア……!?」
「慣れてみればなんてことはない……動きがそれなりに素早く独特なだけで、そこに意味を持たせる技術もありはしない――これならベリアルの方が、まだ厄介だぜ」
ウルトラマンジードの恐怖心から作り出されたトレギアのエタルダミーが、ゼロビヨンドとの激戦に敗れ、墜落させられていたのだ。
追いかけてきて、そのように対戦相手を評価したゼロビヨンドは、自らを中心として取り囲む八つの光球を産み出した。
「終わりだ――バルキーコーラス!」
「これがウルトラマンゼロの力か……勉強になったっ!」
負け惜しみのような断末魔を残し、トレギアのエタルダミーもまた、光球群から照射された八条の破壊光線にその身が耐えきれず、爆発四散した。
「残るはおまえだけだ、エタルガー!」
「くっ――、ならば、貴様の恐れるベリアルを呼び出すまで!」
着地したゼロビヨンドに対し、起死回生のエタルダミーを作成するための光線を放ったエタルガーだったが、しかし何も起こらない。
「何……っ!? 貴様、以前は……!」
「ああ。あの時にエタルダミーを倒させて貰って――この前の戦いでは、思う存分ゼロダークネスをブチのめさせて貰ったんだ。くたばったベリアルを今更どうこう思う俺じゃないぜ」
そんなゼロの返答に、エタルガーは言葉に詰まったようにたじろいだ。
「もう逃さない……おまえはここで倒す!」
「……だが、貴様の最強の一撃でも、我が身を貫くことはできなかったな!」
最強形態となった二人のウルトラマンを同時に相手取れば、さしものエタルガーも勝ち目はないことを悟ったようだった。
それでも、頑健極まる鎧があれば、今の二人を相手にしても、逃げ延びるだけならば可能だと――そう高を括り、再起を図ろうとしたらしいが。
エタルガーは、忘れている。
この場に居る、もう一つの命を。
「(――スカル超振動波!)」
「なっ、ぐぉあぁあっ!?」
気配を殺し、エタルガーの背後を取っていたスカルゴモラが、振り返った魔神の両腕を掴み、その額の角を腹部に叩きつけた。
ジードとゼロ、二人の最強の敵に意識を奪われていたエタルガーがスカルゴモラの拘束に気づいた時には、もう遅い。単純な筋力だけで言えば、スカルゴモラは今のジードやゼロさえも上回っているのだ。そして今の体勢は、技術だけでその不利を覆せるようなものではない。
いくら強固な鎧とは言っても、密着した状態からエタルガーの細胞が吸収し易い周波数だけを透過されれば防ぐ術はなく。そうしてエタルガーの体内で破滅的な超振動波現象が引き起こされ、その激痛により反撃の超能力を行使するための集中をも乱されていた。
「(やぁあああああっ!)」
気合一閃、スカルゴモラが角先から投げ飛ばした頃には、エタルガーの内腹部はずたずたに破壊されていた。
「がぁ……っ! この、造られた道具がぁ……っ!」
痛みに悶ながら、エタルガーが罵って来る。
だが、そんな悪意はもう、ほんの少しも怖くなかった。
今のスカルゴモラ――ルカには、勇気をくれる、確かな寄る辺があったから。
「(道具なんかじゃない。私は留花、朝倉ルカ! それが、お兄ちゃんがくれた、私の名前!)」
咆哮とともに、テレパシーに乗せて。スカルゴモラはエタルガーへと、誇らしい名を叫び返した。
「(今だよ、お兄ちゃんっ!)」
強固な鎧も既にクレセントファイナルジードにより裂傷を負い、さらにスカル超振動波によって肉体の崩された部分が空洞という、構造的な弱点が生じている。今ならば――!
そんな妹の意図を汲んだように、ギガファイナライザーを手放し交差したジードの両腕に、膨大な光子エネルギーが集約され始めていた。
全身に電光を走らせ、漏れ出たジードのエネルギーがオーラとなって、黎明の空をも染め上げていく。
「エタルガー! 僕の家族を苦しめたおまえを、僕は決して許さない!」
「ま、待て……っ!」
「レッキングノバ!」
ゆっくりと広げられた両腕が、十字に組まれた瞬間。
稲光を纏った、赤と黒の必殺の光線がジードから放たれ、刹那の間にエタルガーへ着弾。内部が崩れ、脆くなった鎧を裂傷部分から押し切って貫通し、エタルガーの体内に直接その破壊力を叩き込んだ。
「おのれ――ウルトラマンーッ!!」
末期の怨嗟を叫んだ瞬間、そのまま光に貫かれたエタルガーの肉体は一溜まりもなく蒸発し、残された鎧の外殻もまた、木っ端微塵に爆砕された。
「フィニッシュだ」
ちょうど朝日が昇り始めた頃。決着を見届けたウルトラマンゼロが、静かに呟いた。
「――ルカ」
光線を撃ち終えてからも残心していたジードが、勝利の雄叫びを上げるスカルゴモラへ向き直り、呼びかけてきた。
「……ありがとう」
その声に込められていた万感の想いを、スカルゴモラはまだ知る由もなかった。
だけれど、その時の兄が本当に嬉しそうだったから――今はそれで、充分だった。
◆
かつて、父の命を奪った光線。
それが、父から受け継いだ肉体の放つ、ウルトラマンとしての特徴だった。
その光線で、今度は初めて、父の血を継いだ家族を守ることができた。
その戦いの後始末に、リクはその日をほぼ丸々費やした。
レイトの日常への帰還の手助けに、AIBという組織への御礼と、その構成員の内、まずはモアやゼナと言った、信頼できる相手に限っての事情説明。
そして、ウルトラマン同士の作戦会議を経て、レイトと分離したゼロを見送った。
「エタルガーの黒幕、まぁ本物のトレギアだろうが……そっちもだが、そもそもルカを作り出した科学者ってのが気になる。ベリアル因子は、周辺環境への悪影響も甚大だからな」
そう言ったゼロは、今回の件を光の国に伝えた後、ルカが造られた宇宙へと調査に向かう意向をリクに告げた。
「……僕も行くよ。ベリアルの後始末は、僕がするべきだ」
「いや、結構だ。どうせこの地球にだって、ベリアル絡みの厄介事は嫌でも飛んで来る」
リクの申し出を、ゼロが止める。
「それに、妹の居場所になってやるって言ったその日に、いきなり放ったらかしてどっかに行ったら駄目だぜ? お兄ちゃん」
からかうように言い残しながらも、そんな気遣いを見せて。ゼロはマユと遊ぶための休暇も早めに切り上げて、元の宇宙へ帰って行った。
その後、まだスカルゴモラが生きているのではないかと、報道は騒ぎ立てた。そのスカルゴモラを庇ったようにしか見えないジードへの不信の声も、普段よりずっと大きくなった。
だが、そんなことはもう、どうでも良かった。
一々目くじらを立てなくとも、また、これまで通りに振る舞って。ウルトラマンジードは、何も変わっていないことを示せば良いと、そう思った。
「おかえり、リク!」
「お疲れ様」
〈おかえりなさい、リク〉
そうしてゼロと別れ、星雲荘に戻ったその時。
出迎えてくれる声が、一つ、これまでよりも増えていた。
「お兄ちゃん、おかえり!」
――前言撤回。何も変わっていないというのは、大嘘だ。
待ちかねていたような笑顔のルカの呼びかけに、リクは込み上げて来る想いに自然と頬を綻ばせながら、返事をした。
「ただいま」
この何気ないやり取りを交わす日々が、この先もずっと続いて欲しいと、祈りながら。
大切な家族を見つけた朝倉リクは、彼女が生きる世界を、これまでよりもずっと、愛おしく想えるようになっていた。
第二話あとがき?
ここまでお目通し頂き、ありがとうございました。
原作ファンの方にも、そうでない方にも、貴重なお時間と引き換えにして頂いた分、楽しんで頂けたのなら幸いです。
以下、雑文。
本作は可能な限り公式の映像作品と齟齬が出ないように構成できれば、と考えています。
実際にはこの先の展開も含めると公式との矛盾は不可避でしょうし、そもそも公式作品の培養合成獣スカルゴモラは明らかに死亡しているので、その時点で破綻していますが、それを契機に枝分かれするまでは、公式映像作品とかなり近かった並行同位世界(ゼロの移動できるレベル2マルチバース単位での並行同位宇宙群)を本作の舞台として想定しております。
具体的には、『ウルトラマンタイガ』-『劇場版ウルトラマンタイガ』-『ウルトラギャラクシーファイト 大いなる陰謀』-『ウルトラマンZ』というタイムラインで展開された公式シリーズの物語の裏側で、ウルトラマンジードの世界、サイドスペースではこのような物語が紡がれていた……という楽しみ方もできるように頑張りたい、という決意表明です(次の投稿がいつになるかは未定ですが……)。
なので、今後連載が続いた場合にも本編で触れられそうにない、原作ファンの方に疑問を持たれそうな部分はこういったところで、裏話としてオリジナル設定や独自解釈を記せておければ、と考えています。本編とのシナリオ面以外での、設定についての疑問が出そうな点についても、喋りたがりなのでこういった形で触れていくかもしれません。もしもご興味有れば、お付き合いください。
以下は、第2話時点での、公式との差異についての独自解釈、独自設定となります。
・この後、本作の世界観中で発生するウルトラマンタイガ第23話『激突!ウルトラビッグマッチ!』に相当する出来事において、ルカを救うための戦いを経験しているゼロが、にせウルトラマンベリアルをリクの弟妹だと考えず普通に倒したのは、テレパシーで相手方の意志を確認した結果、といった想定でいます。
おそらく、知能が高い分恐怖や痛みに敏感となり、劣勢になってからは無力だった培養合成獣の反省から、チブル星人マブゼがにせウルトラマンベリアルを「(あらゆるネガティブな感情に左右されない)本物以上に完璧な個体」として産み出す方針を決め、その結果が、最初から自意識の発生する素地がない「理性はないが、本物に勝るとも劣らない力を持つ」存在であったのではないか、という独自解釈になります。そうなると、ただ単にベリアルの細胞=残骸が暴れているだけなので、ゼロも遠慮なしで排除に掛かった、という解釈です。
・リクから生じるエタルダミーがトレギアである理由については、この先で構想できている連載分が用意できればそこで明かせたら、と考えています。トレギアのエタルダミーが自我を持っているように振る舞うのは、トレギアの「何をしでかすのかわからない」という点についてもリクが恐怖を抱いていることから、その点を再現しエタルダミーらしからぬ振る舞いをしているだけ、という裏設定です。
また、ゼロが上記のにせウルトラマンベリアル回で一人だけノーマル状態で戦い抜いたことについて、拙作内では体調が万全であっただけでなく、今話でエタルダミーのトレギアと交戦したことで経験値の面で優位に立てていたからであり、また「誰かがトレギアを最も恐ろしい存在だと思っている」なんて危うい情報をトレギアには渡したくなかったため、その件について正直な話を一切しない、という形で解釈して頂けると幸いです。
以上、どうもありがとうございました。
またお会いできれば幸いです。