ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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Aパートまえがき



『ウルトラマンジード』完結五周年おめでとうございます&お久しぶりです……!

 前回の更新からこちら、若干の燃え尽き症候群は出るかもなーと自分でも警戒していたら、実は今年度からの実生活環境の変化のダメージが同時期に現れて執筆に影響が出るわ出るわで、気がつけば半年も更新が止まっていました(言い訳)。本当に申し訳ありません。

『ウルトラマンデッカー』も終盤ですが、こちらも終盤ということで、何とか気持ちだけでも負けずに盛り上がっていきたいところです。間が本当に開いてしまいましたが、どうか完結までお付き合いいただければ幸いです。








第二十話「夢と家族」Aパート

 

 

 

 

 

 

「よっ。待たせたみたいだな」

 

 星山市中心部に位置する、天文台。

 

 そこから程近くに存在する公園で、朝倉リクは待ち人の声を聞いた。

 

「ありがとうゼロ、レイトさん。忙しいところ……」

「――気にすんな、ってさ。あれからちゃんと、レイトの都合を優先させて貰ってたからな」

 

 遠慮がちに口を開いたリクに対し。伊賀栗レイトの肉体を借りたウルトラマンゼロは、そう朗らかに答えた。

 

 ……邪悪なる暗黒破壊神、ダークザギとの決戦から一週間後。

 

 その顕現に伴う大災害により、地球はこれまでの怪獣災害の比ではない打撃を受けた。

 

 現在は世界各国、各々が復興に向けて尽力しているものの。食糧を筆頭に、ザギの出現以前と比べ、人類社会は大きな変化を余儀なくされた。今はまだ表立っていないが、遠からず一般人の生活レベルにも影響が出るだろう。特に物流の変化は、商社勤めのレイトにとって、緊急の事態であると言えた。

 

 故にザギとの決着の後、レイトは自身の日常を優先せざるを得なくなり。ザギとの戦いで深い傷を負い、分離が困難となったゼロも、ここのところは宿主の事情に合わせていた。そのために、二人のウルトラマンは互いに顔を合わせることなく過ごしていて、今日やっと都合がついたのだった。

 

「……おまえの妹たちはどうだ?」

 

 問われてリクは、初めて得られた、互いに心安らぐ居場所になれる、肉親の顔を思い浮かべた。

 

「ルカは……多分、大丈夫。本当に、強くなってくれたから」

「サラは?」

 

 続いて問われた、末妹のことを振り返ったリクは、声が沈むのを堪えられなかった。

 

「あれから――勉強、しなくなったんだ」

 

 ……それは、(リク)の不真面目なところに似たという話ではなく。

 

 生まれて間もないながらも、既にはっきりと見つけていた、彼女の目標――誰かを幸せにできる、素敵な科学者になりたいという夢。

 

 ダークザギ――ペイシャンの裏切りは、そんなサラの進む道に、大きな影を落としていた。

 

「トリィさんほどじゃないけど……ペイシャン博士も、サラに色々と教えてくれていたから」

 

 信頼していた大人に、ずっと騙されていたことを知って。大切なものと、自分自身とを傷つけられ、危うく取り返しがつかないところまで搾取されかけて。

 

 確立したばかりの心が、渦巻く感情を整理できないのも当然だ。

 

 そうして、彼との思い出でもあった勉学に励んだ日々が、その精神を苛む源に変わってしまった結果――サラは、夢を追うひたむきさを、損なわれてしまっていた。

 

「それで……前より、笑ってくれなくなった」

「……そうか」

 

 リクが――ウルトラマンジードが皆の助力でダークザギに勝利し、無事に帰還を果たした時、安堵こそ浮かべてくれたものの――あれ以来、いつも溌剌としていた幼い末妹は、ずっと表情に陰りを残したままだ。

 

 サラの姉として、励まそうとする(ルカ)の助けも借りた上での結果に情けないと、つい益体もなく自身を責めたくなってしまう。

 

 だがそれは、サラや自分たちのために、恐るべきダークザギにも義憤を燃やしたレイトの前で見せるべき姿ではないと、リクはすんでのところで己を律する。

 

「早く、取り戻せると良いな」

「……うん」

 

 そんなリクの内面を察したように、レイトの体を借りたゼロはただ、何より優先されるべき願いに同調してくれた。

 

「それで、その二人抜きでしたい話……ってのは、なんだ?」

「うん。実は……」

 

 ――おまえの妹たちをあの地球に送り込んだのは、俺じゃない

 

 彼女たちが生まれる以前から、未来を予見し……ベリアルの子らを利用する陰謀を企て、実行し、最終的にはかつてない脅威として襲いかかってきた暗黒破壊神。

 

 妹たちと出会ってから今日までの事態、全ての黒幕かと思われたダークザギ。そんな彼の遺した言葉をリクが伝えれば、ゼロもレイトの表情に深刻な色を加えた。

 

「ザギの奴が、そんなことを――?」

「うん。それに、キングが、全てを終わらせているかもしれない……とも」

 

 続けたさらに衝撃的な言葉に、いよいよゼロも表情を険しくした。

 

「ザギは、ルカたちの事情も全部知っているみたいだった。だからウルトラマンキングも、やっぱり何か知っているかもしれない」

 

 そもそもウルトラマンキングなら何を知っていても不思議ではないかもしれないが、ザギの言葉が真実ならば。あの伝説の超人も、予想以上に直接、リクの家族を巡る事態に今も関わっていることになる。

 

 ……あの伝説の超人が、事を仕損じる、とも考え難いが。妹たちを狙う存在が何者で、今どうなっているのかは、リクたちには未だ謎のままだ。

 

「ゼロなら、キングから話を聞ける?」

「……わからねぇ。自分は好きな時に出てくるくせに、こっちからは招かれなきゃ基本会えないんだ、あのじーさん」

 

 故に、一縷の望みを載せたリクの問いに、ゼロは暫しの苦渋の後、煮え切れない答えを返した。

 

「まぁ、戻ったら会えるように取り合ってはみる。いざとなったらイージスの力で乗り込んでも良いが……もし、じーさんにその気がなかったら、捕まえられる自信はねぇ」

 

 己が情けないという風に、ゼロが溜息を吐いた。だが、こればっかりは相手が悪いと言わざるを得ないだろうと、リクは首を振る。

 

「ううん、そう言ってくれるだけでも嬉しいよ……よろしくお願いします」

 

 その時が来るのは、ザギとの戦いで破損したウルティメイトイージスが自己修復を終えた後だろうが。

 

 リクの依頼に頷いたゼロは、次の予定が差し迫っているレイトに肉体の主導権を返し、去っていった。

 

 リクの携帯電話が鳴ったのは、その直後のことだった。

 

 相手の名を確認し、そのまま電話に出るよりも、腰に備えたジードライザーのナックルを握ることを選んだリクは、発信者に問いかけた。

 

「どうした、レム?」

〈AIBから、連絡がありました〉

 

 淡々とした電子音声は、この先の展開を予感させないものだった。

 

 

 

 

 

 

 それから、帰還した朝倉リクを中心とした星雲荘の一行は、すっかり馴染みとなった異星人捜査局AIB地球分署・極東支部を訪れていた。

 

「――VIPを保護した。湊アサヒを連れて、すぐ会いに来てくれ」

 

 きっかけは、AIB上級エージェントであるゼナの、その通信だった。

 

 かつては宇宙ゲリラと呼ばれた軍属の戦士であり、表情筋が動かない擬態も相まって、日頃から冷静沈着な印象の強いシャドー星人ゼナ。

 

 AIBすら利用したダークザギ事件の直後ということもあり、険しい雰囲気に戻りつつあった彼が、その通信の際には浮ついた興奮を隠しきれていない様子だった。

 

 ダークザギの遺した被害が原因で、今日も銀河マーケットのバイトが休みとなっているルカは、道中で兄に尋ねてみた。

 

「ゼナさんの言ってたVIPって誰なんだろうね、お兄ちゃん」

「うーん……?」

 

 ルカの――培養合成獣スカルゴモラの兄であるリクこと、ウルトラマンジードその人も、見当がつかない様子だった。

 

「アサヒに用のある人……」

「あたし、そんなに有名なんでしょうか?」

〈おそらく、この宇宙の住人ではないのでしょう〉

 

 当のアサヒも小首を傾げていると、浮遊して随行する球体形偵察機・ユートムから、星雲荘の報告管理システムであるレムが所見を述べた。

 

〈今朝、特殊なコロナ放電とバイブス波が確認されました。過去にも観測した、異世界とのゲートが開かれた時の反応です〉

「あっ、リッくーん!」

 

 ユートム越しにレムが告げていると、そこでリクの幼馴染にして、ゼナの部下である愛崎モアに出迎えられた。

 

「こっちこっち。アサヒも早く会ってあげて!」

 

 いよいよ、AIB曰くのVIPが関心を向ける先はアサヒであると、明白になってきたところで――ゼナとも合流し、ゲストルームに通されたルカが見たのは、覚えのない顔触れだった。

 

 だが、同じくピンと来ていない様子なのは、末妹であるサラと、同居人である鳥羽ライハだけで――リクとペガッサ星人ペガ、そしてアサヒ自身は、驚きながらも納得した表情を見せていた。

 

「……アサヒ!」

 

 そんな一行の入室直後。その顔を見るなりに立ち上がり、アサヒの名を呼んだ四人の男女。

 

 それに応じて、一歩前へ進んだアサヒの返事を聞いて、ルカは彼らの正体を悟った。

 

「あ、カツ兄! イサ兄に、お父さんとお母さんも!」

 

 ――それは、別の宇宙に居るはずの、アサヒの家族たちだった。

 

「アサヒぃいいいいいっ!」

「わぁ、お父さん、恥ずかしいです……!」

 

 感極まって駆け寄り、アサヒを勢いよく抱きしめる中年男性は、アサヒの父――確か、湊ウシオ。

 

「心配したんだぞアサヒ、約束の日を過ぎても帰って来ないから……!」

 

 父と同調するように、半ば責める勢いを見せながら再会を喜ぶのは、青いパーカーを羽織った青年。アサヒが先程顔を向けたタイミングから察すると、次男である湊イサミか。

 

「それで俺たちが様子を見に行こうとしたら、父さんも行くって聞かなくて……」

 

 その二人と同じように喜びを見せながら、配慮するように落ち着いているのは、赤いジャケットを着た若い男性。湊兄弟の長男、湊カツミだろう。

 

 湊カツミと、湊イサミ。彼らはアサヒと同じ、惑星O-50(オーフィフティー)の力を受け継いだ、ウルトラマンの兄弟だと聞いている。

 

 別宇宙に遊びに行く、と出て行ったアサヒが予定を過ぎても戻らなかったため、ウルトラマンの兄二人が捜索に出ようとした。そんな自然な流れへ、次男に劣らず心配性の父が着いて来てしまった、ということらしい。

 

「三人だけで別世界、なんていうのも心配だったから、会社はD.R.L.N.(ダーリン)に任せて来ちゃった」

 

 最後、男衆よりは落ち着いた態度で微笑んだのは、ウシオの妻で、三兄妹の母――大企業アイゼンテック社の社長を務める科学者、湊ミオだった。

 

 ちなみにダーリンとは、同社の用いる秘書型人工(Digital Response Language)知能(Network)――つまりはレムのような存在のことだと、ペガがルカに教えてくれた。

 

「お久しぶりです、皆さん」

 

 その頃、既知の間柄であるリクはペガとともに、湊家の一同に頭を下げていた。

 

「ごめんなさい、僕らが不甲斐ないせいで、ご心配をおかけして……」

「いいえ。ありがとう、リクくん」

 

 偶然訪れたアサヒを巻き込んだ結果、世界を越えて迎えに来るほど、家族を心配させてしまったことを詫びるこの世界のウルトラマンを、ミオが制止する。

 

「事情はゼナくんたちから聞きました。大変だったけど、よく頑張ったわね、アサヒ。無事で良かった」

「お母さん……!」

 

 夫と同じく、特別な力など持たないミオが、それでも親として労ってくれるのに、いつも明るいアサヒも少しだけ、父の腕の中で感極まった様子を見せていた。

 

〈やはり今朝の反応は、かつてリクたちの帰還に用いたハドロン衝突型加速器で、彼らが世界を越えて来たためだったのですね〉

「それって片道通行なんじゃ……」

 

 かつてその装置で行き来した張本人というリクが、レムの解説に驚いた様子を見せた。

 

 ルカもまた驚くと同時に、アサヒが自分たちに会いに来る際は、基本的にゼロやエックスといった別世界のウルトラマンの力を借りていたことに納得を覚えた。湊家だけで使える世界間移動の手段は、まだ発展途上の段階なのだろう。

 

「心配無用。三日後にまた同じ座標でゲートを開くよう設定してあるから」

 

 その上で、不測の事態が起こった時に備えるため、精通した知識を持つミオ本人も同行していたのだという。

 

 ……とはいえ、だ。約束の時期を過ぎてもアサヒが戻らない上、別の宇宙にある星山市の状況なんて、湊家には知りようがない。本当に三日後、元の世界に戻るための座標に無事辿り着ける保証など、彼らが出発した時点ではどこにもなかっただろう。

 

 なのに、それでもアサヒを案じて迎えに来たというその家族の暖かさに、ルカは胸を打たれていた。

 

「良かったね、アサヒ」

 

 思わず声をかけると、ちょうど父の抱擁から解放されていたアサヒが、振り返ってくれた。

 

 ルカと同じように、アサヒとその家族を慈しむように頷くライハにも、アサヒは御礼代わりに頭を下げて――

 

 そこで、何かに気づいたような表情をしていた。

 

「……ウルトラマンが二人。確かに凄いVIPね」

「いや、VIPはあちらの湊ウシオ氏だ」

 

 一方、アサヒたちが再会の喜びを一通り分かち合った後。湊家に心配と手間をかけてしまったものの、久しぶりのほっこりとする出来事を見届けたライハの言葉へ、妙に力強くゼナが訂正を口にした。

 

「宇宙的なカリスマTシャツデザイナーであり、彼のデザインしたTシャツを巡って戦争が起きた星もある……その名声は、この宇宙にも轟いている」

 

 どこか熱っぽい、彼のイメージから完全に逸脱した調子で、ウルトラマン兄弟はオマケと言わんばかりにゼナが解説する。

 

「へぇ、そうなんですね」

 

 若干引き気味なライハに代わってルカが相槌を打つと、今度はペガまで鼻息を荒くして、話に加わって来た。

 

「すごいんだよ、ウシオブランド! ペガも持ってるけどね!」

「あ、それお父さんじゃなくて、あたしのです」

 

 家族の輪から戻ってきたアサヒがさり気なく勘違いを訂正すると、ペガの全動作が硬直した。ショックの余り、フリーズした様子だったが、やがて再起動した。

 

「えぇ!? なんで、あの時、お土産にくれるって……!」

「友情の証に、って思ったんですが……」

「それは……嬉しいけど、でも、ペガッサシティでも自慢しちゃったのに……! ペガも本物のウシオブランド欲しい!」

 

 アサヒの厚意に対する感謝と、自身の小市民的虚栄心との板挟みで苛まれた様子のペガが唸っていると、渦中のウシオが目敏く気づいた。

 

「あ、なんだ。いいよぼうや、好きなのを持っておいき」

 

 そういうと、ウシオは持参した鞄の中から妙な柄の描かれたTシャツを何枚か取り出した。

 

「ほんと!?」

「ああ。アサヒがお世話になってる友達だからね」

「私も頂いてもよろしいでしょうか。もちろん、お代は言い値で」

 

 ペガに続いて、見たことのない勢いでゼナが喰い付いていた。これがウシオブランドのカリスマかと、ルカも思わず苦笑いする。

 

「あ、お土産と言えば……悪いリク、綾香まんじゅうは持って来てないんだ」

「いいよ。そんなつもりじゃなかったろうし……」

 

 両手を合わせて謝る次男のイサミへ、リクが遠慮がちに応じる。

 

「そうだ。折角だし、またすきやきご馳走しましょうか」

「えー! まじかよ母さん! やったぜ!」

 

 代わって埋め合わせをしようとする湊家の母・ミオの提案に、何故かイサミの方が喰い付いていた。

 

「そうだなぁ。また美味いすきやき食わせてやるって、約束だったもんな」

 

 妻であるミオの発言に頷いていたウシオは、それからルカを振り返った。

 

「君が、アサヒの言っていたルカちゃんだね? リクくんの妹さんの」

「あ、はい……」

「じゃあ君や、そちらのライハさんもどうだ。家族一緒のすきやきは美味しいぞ!」

 

 そう闊達にウシオが笑うと、ガバッと勢いよくモアが挙手した。

 

「私もご一緒させて頂きます! 私はリッくんの……家族みたいな者なので!」

「愛崎モア! ……いや、だがAIBからの護衛は必要か」

「すきやき……?」

 

 ようやくいつもの調子に戻ってモアを咎めたゼナが、今後のことを検討し始めた段になって、小さな疑問の声が生じた。

 

「そういえば、こっちのお嬢さんは……?」

 

 声に気づいて、腰を曲げた湊家長男・カツミの視線の先に居たのは、疑問の声の主である、白衣に袖を通した黒髪の少女――サラだった。

 

「あ、妹です」

「そうかルカちゃんの妹かぁ……って、えぇええっ!?」

 

 前回のアサヒの訪問時には、まだここに居なかった――故に、湊家が知るはずもなかった末妹のことをルカが紹介すると、納得した様子を見せたカツミはリクの方に視線を泳がせた後、何事かに思い至ったように振り返った。

 

「妹ぉおっ!?」

 

 今度はイサミやウシオも、一緒に絶叫して、サラをビックリさせていた。

 

 

 

 

 

 

「……いや~、まさかリクにまた妹が増えていたなんてな」

「俺たちだってアサヒ一人しか増えてないのにな」

 

 その日の夜。AIBの用意してくれた宿泊施設で、リクたち星雲荘の五人と、アサヒたち湊家の五人と、そして本当に付いてきたモアとで、すきやきの鍋を囲んでいた。

 

 厳密に言えば、恥ずかしがり屋のペガはダークゾーンに隠れているため、席に着いているのは十人だが。それでも、どちらの家族からしても、普段の倍以上に賑やかな食卓となっていた。

 

 その豊富な食欲を受けて立つのは――今はまだ在庫があったため、問題なく購入できた牛肉に白菜、ネギやシラタキと焼き豆腐。

 

 それらが沸々と煮立ち、美味しそうな白い湯気を上げるすきやき鍋の割り下に使われたのは、リクが買ったコーラだった。

 

「……コーラってすきやきにも使うんだ」

「この方がコクが出るのよねー」

 

 驚いたように目を瞬かせるルカへ、湊家の母(ミオ)が期待を煽るように答えるのを見て、リクはそのさらに奥へとしたり顔を向けた。

 

「ね? 自分のためだけに買ったんじゃなかったでしょ」

「……はいはい、そうね」

 

 湊家のすきやきの味を既に経験済だったリクは、そのための買い出し中、自分の飲むコーラだけたくさん買って、と勘違いから小言を挟んできていたライハに得意げに胸を張ってみたが、マウンティングはあっさり流されてしまった。

 

「こらイサミ、肉ばっかり食うな! おまえはいつもいつも!」

「いーだろカツ兄。俺だって母さんの手料理食べるの久々なんだから」

「イサミ。メインは父さんが作ってるからね?」

「はい、美味しいです! ありがとうございますお父さん」

「お礼は大事だけど、アサヒも食い意地張らない!」

 

 コーラの甘味が染み込んだ肉に次々と箸を伸ばす弟妹を長兄のカツミが嗜めるも、二対一では埒が明かない。

 

「負けてられないね、リッくん!」

「うん、そうだね!」

 

 仮の宿でありながら、我が家のように気を置かず食欲を全開にする湊兄妹。彼らに負けまいとする、アサヒと己に間に座ったモアからの呼びかけに、リクも応じた。

 

 前にお呼ばれした時は、流石に遠慮があってシラタキばかり食べていたが――今度はもう加減しないと、リクも己の食欲を解放する。

 

「……おかわり、全部取られそうね」

「ちょっとお兄ちゃん、皆の分もちゃんと残してよね! モアもだよ!」

 

 湊三兄妹と、モアとリク、時折影の中から腕を伸ばすペガの六人が、熾烈な肉争奪戦を繰り広げるその隣。

 

 この人数を鍋一つで受け止めるわけにはいかなかったので、当然もう一つ用意してあったすきやき鍋。湊夫妻とルカとサラの姉妹、そしてライハは、そちらを囲んでいた。

 

 ライハと、今回は兄ではなく怖い師匠に同調したルカが懸念を漏らす横で、鍋から肉や野菜をバランスよく装った小皿を、ウシオが最年少者に手渡していた。

 

「はい、どうぞ」

「……ありがとうございます」

「どうも。お口に合うかな?」

 

 ウシオに御礼を返したサラは、小皿の中身を小さな口に運び、もぐもぐと咀嚼し飲み込んでから、その顔を上げた。

 

「はい、とっても美味しいです」

 

 ……その言葉は、決して嘘ではないのだろうが。

 

 やはり、まだ、その心を弾ませているような声音ではなかった。

 

「そっか、良かった」

 

 しかし、普段のサラの調子を知るはずもないウシオは、敢えて深入りもできず、鍋に向き直っていた。

 

「うーん、やっぱり母さんのすきやきサイコー!」

 

 一方、サラと対象的に、心からその美味を堪能しているのがありありと伝わって来るのが、リクの正面に座ったイサミだった。

 

「どういたしまして。久々に満足して貰えたなら嬉しいわ」

「イサミ。メインは父さんだからね?」

 

 感謝の捧げ先に含まれていないことを、しつこく指摘するウシオの声は、しかし当の次男坊(イサミ)には届かない。

 

「それでイサミ。実家の味を我慢して頑張っている、研究の方はどうなの?」

 

 ――ぴくり、と。

 

 アサヒとの再会も叶い、ようやく事態が落ち着いたことで、家族各々の近況報告を兼ねた雑談を促したミオの言葉に。

 

 サラが一瞬固まるのを、リクは見逃さなかった。

 

「宇宙考古学の権威な母さんに、ちょっと話してみなさいな」

「おっ、いいぜ~!」

「……ごちそうさまでした」

 

 ミオとイサミの母子が乗り気になったところで、その流れを断つように、サラが箸を置いて両手を合わせた。

 

「あれ、もう良いの?」

「はい。もうおなかいっぱいになっちゃったから……おほしさま、見てきます」

 

 尋ねるウシオに、笑顔を繕って答えながら、サラが席を外すのに。

 

 団欒の雰囲気を壊さぬように気を配りながらも、慌てて追いかけようとするリクより先に、立ち上がる者が居た。

 

 

 

 

 

 

「……お姉さま」

 

 宿泊施設の隅にある、ウッドデッキ。そこに座ったサラが、追いついたルカより先に、その口を開いていた。

 

「……ごめんなさい」

 

 そして、開口一番謝罪を述べたのに、ルカは小さく頭を振った。

 

「どうしたの?」

「……わたし、けんきゅう、がんばれないの」

 

 妹の隣に腰掛けながら放った、ルカの問いかけに。サラは、俯きながら返答した。

 

「それで……にげちゃった」

 

 その話題が交わされる空間を避けたことで、周りに心配をかけてしまったと悔いるように、サラが呟いた。

 

「お姉さまは、ライハととれーにんぐ、がんばってるのに……」

「サラ……」

 

 ――強くなる、というルカの……培養合成獣スカルゴモラの努力は、ダークザギに誘導されてきた結果だった。

 

 ウルトラマンジードの不在を狙い、怪獣を呼び寄せるリトルスターを埋め込まれ。さらにはそこに、ザギ自身の情報を転写されたことで、破壊神復活の器として調整されて来た。

 

 数々の侵略者からこの世界を守ってきた、なんて言っても、それ自体がマッチポンプ。眼前の、同じ遺伝子から造り出された、妹である生物兵器――究極融合超獣サンダーキラー(ザウルス)や、同じく最強の生命体を目標に造られた宇宙恐魔人ゼットを始め、成長段階に合わせた対戦相手を呼び寄せられ、ザギの思惑通り戦って来たに過ぎない。

 

 途中、幾度か心が折れそうになるたびに。(リク)師匠(ライハ)とともに、仲間(ペイシャン)を騙っていたザギは、ルカの心が戦いに向くよう、言葉巧みに仕向けていた。

 

 振り返れば、悍ましく――そして、悲しくなる、戦いの日々。

 

 しかしルカは、今も。自身が強くなるためのトレーニングを、止めはしなかった。

 

「……ジーッとしててもドーにもならない、からね」

 

 その理由は、敬愛する兄や憧れの師匠との絆の在り方の、一つでもあるから――だけではなくて。

 

「それに……前、あいつが言ってた」

 

 かつて、自分たちの血の宿業を前にして、迷いを覚えたベリアルの子らに。その本心がどうであれ、ザギが――ペイシャンがかけてくれた言葉を、ルカは振り返っていた。

 

「自分の頑張りを、悪い奴に利用されているんだとしても……その思惑を越えて、狙いを挫けば良い、って。現に、お兄ちゃんはそうして来て……ザギの計画だって潰して、私たちを助けてくれたから」

 

 そして、ザギの計画でルカの身に宿った能力と――サラが夢を実現させるための努力をザギがペイシャンとして手伝い、身につけさせた知恵とで。姉妹は、(ジード)の危機を救うこともできた。

 

「ザギ以外にも、私たちベリアルの子供を狙う敵はきっといる。お兄ちゃんが守ってくれるとしても……ずっと、お兄ちゃん任せには、したくないから」

 

 ペイシャンと出会う以前。仮に、ザギによる誘導があったとしても、いつか訪れたであろう脅威の記憶を振り返りながら、ルカは宣言する。

 

 兄だけに、重荷を任せたくはない――そう思えるのは、ルカの思い上がりではなく。ライハを始めとする仲間たちが、どんな窮地であっても、笑顔で支えてくれたからだ。

 

 自分だけではどんなに心細くとも、一人ではないことを知っているから。ルカを一人にさせまいとしてくれる皆のために、ルカもできることを返したいと思えたから。

 

 その気持ちは、ザギの裏切りにあっても、揺らがず……そして、何より。

 

「だって私はあなたの、お姉ちゃんなんだもん」

 

 出会ってからずっと。兄として、リクが見せて来てくれた背中から。

 

 リクの妹であると同時に、サラの姉であるルカは、そんなことを思えるようになっていた。

 

「……素敵なお姉ちゃんですね」

 

 ルカの決意表明に応えた声は、(サラ)のものではなかった。

 

「アサヒ」

「初めて会った時は、ルカちゃんは一番下の妹さんだったのに……今じゃすっかり、あたしよりお姉さんみたいです」

「……そんなことないよ」

 

 追いついてきたアサヒが褒めてくれるのに、照れ臭くなって。ルカが熱くなった頬を掻いていると、サラが小さくお辞儀していた。

 

「……ごめんなさい、アサヒおねぇちゃん。せっかく、お(うち)のひとが、おむかえにきてくれたのに――」

「良いんですよ。お父さんもお母さんも、お兄ちゃんたちも――皆、優しいですから。サラちゃんのことを悪く思うことなんかありません」

 

 ルカに向けたのと同じ謝罪の言葉を吐くサラに対し、アサヒもまた、優しく首を横に振った。

 

 そして。

 

「だって――皆を騙していたあたしのことも、こんなにも大事にしてくれてるんですから」

 

 二人と同じウッドデッキに腰掛けながら、そんな告白を口にした。

 

「え……?」

「リクさんやルカちゃんには前に、お話したんですけどね。あたしと湊家の皆は、本当の家族じゃないんです」

 

 驚いて面を上げるサラに対し、ザギの影響で刻まれた欠落が未だ届かぬ星空を見上げたまま、アサヒは身の上を語り続ける。

 

「あたしの正体は、ウルトラマンを助けるためのクリスタル。必要な時が来るまでその戦いを見守るための化身が、あたしでした」

 

 自覚はなかったんですけどね、と。ある意味で培養合成獣や究極融合超獣――そして、ウルティノイドザギと同じ、戦いのための道具として生まれた存在であるアサヒが、照れたように苦笑した。

 

「お兄ちゃんたちも、あたし自身にも、皆に嘘の記憶を植え付けて、怪しまれないようにして……あたしも、あの人と同じだったんです」

 

 記憶や記録、認識を改変し、必要な時が来るまで潜伏する――自覚の有無を別にすれば、確かにザギと同じことをしていたアサヒが、少し寂しそうに述べていた声音を、常の明るい調子に切り替えた。

 

「だけど、湊家の皆は言ってくれました。アサヒはアサヒじゃないか、って……始まりが嘘でも、家族として結んだ絆は、もっと大きいものだって、あたしは知りました」

 

 ……ともすれば、己が得られなかったものを、自慢するようにも聞こえるアサヒの話を、サラはじっと聞いていた。

 

 そんな聞き手に、その境遇を慮ったような寂しさを滲ませながらも、正面から笑顔で向き合ったアサヒは語りかけ続ける。

 

「家族の絆だけじゃありません。始まりは嘘や、悪い企みでも。そこから出た全部を否定する必要なんて、どこにもないんです。例えば……皆があたしを迎えに来てくれた、あの装置もそう」

 

 曰く、世界を渡るためのハドロン粒子加速器も、元を正せば湊家を騙し利用していた、ウルトラマンの偽物が遺した代物だという。

 

 もしそれを否定して、無くしてしまっていれば。こうして湊家がアサヒを迎えに来て――暖かな食卓を囲むことなんて、できなかっただろう。

 

「……辛い時は辛くて、もちろん良いんです。目指す夢を変えたって。でも、そうしなくちゃいけないってわけでもありません」

 

 自らの境遇を恵まれていると振り返っていたアサヒが、声のトーンを変えて、再びサラを向いて発言した。

 

「だから、今のあなたを見て、周りがどう思うかより。サラちゃん自身のハッピーを、考えてください」

 

 そして、その願いを口にする。

 

「きっとリクさんやルカちゃん……トリィさんたちも、それを望んでいるはずです」

 

 アサヒが予想を伝えたのは、サラが想い、サラを想う者たちの本心だった。

 

 それは――少なくとも、(リク)(ルカ)の願いとして、間違いなかった。

 

 家族の絆は、そんなことで損なわれるほど、小さくないのだから。

 

「わたしの……はっぴー……」

 

 そのための思考材料を増やすために、駆けつけてくれたアサヒの言葉を、サラが復唱した。

 

「……すぐ、見つからなくても、いい?」

「もちろん」

 

 やがて、サラの零した問いかけに。

 

 ルカが力強く頷き返すと、隣で見守ってくれたアサヒからも、暖かな笑みが溢れていた。

 

 

 

 

 

 

「……ちょっと見なかった間に、アサヒもすっかりお姉ちゃんって感じだな」

 

 アサヒとルカと、そしてサラ。

 

 邪魔にならない距離で、リクとともに妹たちのやり取りを聞いていたイサミが、染み染みとした様子で呟いていた。

 

「なぁ、リク。ダークなんとかって奴は、あの子たちの中の、ベリアル因子を狙っていたんだったな」

「……はい」

 

 同じく見守ってくれていたカツミからの、不意の問いかけに、リクはゆっくりと応じた。

 

「何とかプリンと同じで、それはまだあちこちの宇宙に散らばっている、か」

 

 ……おそらくはデビルスプリンターのことを指して、カツミが考え込むように呟いた。

 

 ベリアル因子に、デビルスプリンター。多元宇宙に散らばる、ウルトラマンベリアルの残滓。

 

 それを利用して生み出された生命体である、リクの妹たち。

 

 こうして、今はともに居ることが叶っている彼女たち以外にも――リクの兄弟は存在していて、何者かに狙われているかもしれない。

 

 あるいは、単純にベリアルの力を利用し、新たな悲劇を生み出す材料にしようと企てる者も居るかもしれない。

 

 それを阻止したいという気持ちは、ザギとの決戦を経た今はなおのこと、リクの中に無視できない大きさで存在している。

 

 これ以上誰も傷つけることがないよう、父を安らかに眠らせて。さらには悪意で生命が創り出されることを阻み、そして苦しみと悲しみの中にいる兄弟を助け出したい。

 

 ……だが、ザギの最期の言葉で仄めかされた、ルカとサラをリクの前に送った黒幕の詳細がまだ、わからない今は。彼女たちを放ってはどこにも行けない。

 

 目の前にいる妹たちの面倒も見切れないような兄が、居るかもわからない他の家族を救うなんて、できるはずがないのだから。

 

 ……まずは、こうして共に生きられる奇跡を掴めた、目の前の家族を守り抜く。それこそアサヒのために異世界まで駆けつけた、湊家の皆のように。

 

 リクはその決意を、静かに固め直していた。

 

 

 

 




Aパートあとがき



 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 そういうわけで、今回は湊家客演回です。客演回なので、今回はDパートまであったりします。四日連続更新を目指して推敲中。

 本文中には直接は入れませんでしたが、(2022年当時)カリフォルニアやミラノでの生活でもすきやきって食べられるみたいですね、などというトリビアが執筆中に増えました。

 湊家のすきやきにコーラ、というのは『劇場版ウルトラマンR/B セレクト!絆のクリスタル』の未公開シーンだったり小説版だったりで確認できる組み合わせだったりします。ミオが無断で突っ込んだ時にはウシオパパも何をしているんだというリアクションでしたが、キャストにも好評だったそうなので、作中でももう馴染みの味になっただろう、と勝手に予想して今回のリアクションを描いたりしています。
 そういうわけで、コーラを使うのは公式設定、コーラすきやきが好評なのは二次創作、という微妙に分割の難しいネタの複合になっています。

 以下、その他の独自設定・解釈等。



・ウシオブランド
 この呼称自体は『ウルトラマンR/B』本編でも登場しており、同宇宙のバド星では一枚の『うちゅーんTシャツ』を巡って惑星を二分する戦争まで巻き起こした人気商品として設定されていたりします。
 しかし、レベル3マルチバースを隔てた『ウルトラマンジード』の舞台であるサイドスペースにもウシオブランドの人気が伝わっている……という設定は(少なくとも現時点では)公式ではなく、今回の話のための本作独自の設定になります。ご了承ください。


・宇宙考古学の権威、湊ミオ
 宇宙考古学者として綾香市でも有名人、という設定はありますが、厳密にはその道の権威であるという設定はありません。子供の前でちょっと大口を叩いているだけという想定ですので、ご了承ください。




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