「え……トリィ?」
戦場と化した星山市。
モエタランガウイルスに蝕まれた住民たちが、さながら生きる屍となった街に、ユートムが届けた決死の声。
その主は、AIB科学セクション所属の研究者。究極融合超獣サンダーキラー
〈サラ……よく聞いて。私たちは、モエタランガウイルスの解析をしていたの〉
切断された自らの触手を結晶化させ、光に解かして取り込み直す最中だったサンダーキラーSに、トリィは現状を訴えかける。
〈分析はすぐに成功したわ。でも、その過程で研究セクションも全員が感染した――私ももうすぐ、燃え尽きてしまう〉
「――!」
その一言で、サンダーキラーSの動きが一瞬固まる。
次の瞬間、大気がイオン化し、弾けるほどの電流がサンダーキラーSの全身から漏れ出た。それは敵対するモエタランガ・バンテヤとメカムサシンのみならず、味方であるはずのウルトラウーマングリージョまで思わず身構える、凄まじい圧力を伴っていた。
〈だから、サラ。ウイルスの効かないあなたが、ワクチンを完成させて〉
そして、癇癪のまま、先程よりも出力を上げた究極融合超獣が敵に襲いかかろうとするのを、その怒りの発端となった人物が制止した。
「……え?」
〈発生源を叩いて――仮にあなたが相手の情報を取り込んで模倣できても、それは新たなモエタランガウイルスの作成が可能になるだけ。そいつがもう散布し終えたウイルスに対して、命令権を得られるわけでもないわ〉
このまま戦っても、勝ち目がないわけではない。
だが、瞬殺できるほどの力の開きがない以上、勝利のために投入する時間に対して、得られるものが割に合わないと、トリィが言う。
〈症状を緩和するには、ワクチンを完成させるしかない。ウイルスを利用して、普段の十倍の速度で仕事はしたけど……どうやっても間に合わない。だから、まだ動けるうちに、あなたに託したいの〉
「トリィ……」
憧れの恩師でもあるトリィの訴えに、サンダーキラーSは激昂を抑え、聞き入った。
だが、表情を完全に覆う金色の兜のその奥からは、普段の彼女たちの間で交わされるような、素早い快諾は出て来なかった。
「でも。でも、わたし……」
〈私のボディはダークザギに破壊されました。今、研究セクションの設備の知識があり、ウイルスに阻害されず活動が可能な存在は、サラ。あなただけです〉
トリィの頼みに躊躇いを見せるサンダーキラーSに対し、事情を補足するように、今度はレムが言う。
〈早ければ一時間程度で、感染者は生命活動の維持すら困難となります。ワクチンの完成は、急を要すると言えるでしょう〉
「うぅ……っ!」
そこまで言われて。
だが、なおも一歩踏み出せないでいる様子の、リクとルカの妹に。グリージョは語りかけた。
「……サラちゃん。昨夜の話を覚えていますか?」
グリージョ――アサヒ自身も、己の口にしたことを振り返りながら。もう一つ、別の出来事の記憶にも、その手を伸ばしていた。
「本当は、ちゃんと辛さと向き合う時間をあげたい。でも……あたしのお兄ちゃんが前に、言ってました。自分の心地良い場所にいるより、たとえ傷ついても前に進まなきゃいけない時もある、って」
「ここで辛さに負けたら、サラちゃんのハッピーはもっと遠くに行ってしまいます……!」
嫌なこと、辛いことと向き合わない――それは楽ではあっても、
「負けないでください。リクさんや、ルカちゃんみたいに! 今はジーッとしてても、ドーにもならないんですから!」
だからグリージョは、一人前のヒーローと同じ勇気を、小さな子供に求める酷に胸を痛めながらも。それをおくびにも出さず訴えた。
「ジーッとしてても……ドーにもならない……」
彼女の兄が口にする、勇気と覚悟の合言葉。グリージョが引用した台詞を、サンダーキラーSは感じ入ったように復唱する。
だが、なおも彼女は、素直に頷けずにいた。
「でも……アサヒおねぇちゃん、もう――」
サンダーキラーSは、点滅のペースが早くなり、限界が近づいていることを知らせるグリージョのカラータイマーに視線を向けた。
「そのとおり。カラータイマーのことは私も知っている」
そこで、沈黙して様子を窺っていたモエタランガ・バンテヤが、二人のやり取りに介入した。
「何やら企んでいる様子だが、時間が経つだけで障害が一つ消えてくれるのだから、こうして律儀に待っていたわけだ」
「それは残念でしたね」
勝ち誇ろうとするバンテヤに対し、チッチッチッと人差し指を振って応じたグリージョは、それから安心させるようにサンダーキラーSを振り返った。
「サラちゃんも知っているはずですよ? あたしはまだ戦えます――セレクト、クリスタル!」
言い聞かせながら、グリージョの
次の瞬間、ウルトラウーマングリージョ――アサヒがクリスタルの力で変身したのは、全身を銅色の重装甲で包んだ超弩級怪獣。
グランドキングメガロスの姿を見て、モエタランガ・バンテヤは驚愕の声を上げた。
「怪獣に変身した、だと――!?」
「あっ、おのれ物の怪ぇ~!」
怒涛の前進を開始するグランドキングメガロスに対し、獅子頭のような白い長髪を振り乱しながら、再び抜刀したメカムサシンが迎撃する。
グランドキングメガロスはそれを受けて立ちながら、
「ここはお姉ちゃんに任せて、行ってくださいサラちゃん!」
メカムサシンの恐るべき刃を、強靭な装甲で受け止めるグランドキングメガロスの呼びかけを受けて。
「――うん!」
遂に憂いを無くし頷いた究極融合超獣は、自らの背後に開いた次元の裂け目に飛び込んで、戦いの場を移していた。
◆
目的地――AIBの研究セクションに直通する次元回廊を潜ったサンダーキラーSことサラは、人間の童女に擬態した姿となって、直接施設内に飛び出した。
「サラ!」
「トリィ、きたよ!」
その登場に気がついてくれた、ウシオブランドのTシャツの上に白衣を羽織った女性――地球人に擬態したトリィの呼びかけに応えたサラは、すぐに彼女へ駆け寄った。
「ありがとう、サラ……解析結果から導いたワクチンの作成手順はここに纏めてあるわ。後は作業を終えるだけ」
かつて対ビースト抗体を作成した、トリィを筆頭とするAIBの研究セクションは優秀だった。
それこそ、長であったゼットン星人ペイシャン・トイン――ダークザギが抜けた穴があって、なお、ここに至るほどに。
だが、その穴のせいなのか。どうしても、後一歩。設計図通りに完遂するまでの手が足りていなかった。
故に――かつて、その発明で救われて。たくさん幸せにして貰って、いつかトリィたちのような立派な博士になりたいと夢見たサラが、その成果を見せる必要があった。
……その決意を固めても、なおも拭い去れない不安を、サラは抱えていた。
それは、ただのお手伝いが主だった、己の努力が事態の解決に足りているのかという、至極当然の懸念と――積み重ねた経緯そのものへの、不信だった。
何故なら、ほんの一週間ほど前まで。ここで、共に時間を積み重ねていた彼は、本当は……
「……サラ。一つ言っておくわ」
そんなサラの様子を見取って、トリィが口を開いた。
「あの後、私、ちゃんと調べたの」
「……なにを?」
「ペイシャンは、確かに裏切者だったけど……あなたに、ここの長として授けてきた知識に、嘘はなかった。
――私があなたに教えた、裏切った故郷で身につけた知識と、同じように」
ぼうっ、と。
まさにウイルスの侵蝕が末期に達したことを示す炎を灯しながら、そんな己の状態を意にも介さない毅然とした様子で。
ウイルスによる強制的な感情操作にも負けず、思い遣りを絶やさぬまま、トリィは最後まで続けた。
「だから、後はそれを、あなたがどう使うかだけ」
――
地球を侵略するために修めた知恵を、今度は、愛すべき皆の
「トリィ!」
モエタランガウイルスによって、遂に限界まで生体電流を奪われたトリィが倒れるのを咄嗟に支えながら、サラは彼女に呼びかけた。
――目は開いたまま、微かながら呼気はある。けれどそれだけで、トリィはもう応えられない。
……そんな彼女に、なおもみっともなく泣き縋りたい気持ちを自覚しながらも。
触手を用いて、そっと検体用ベッドまでトリィを運んだサラは、トリィの残してくれたマニュアルを手に取って、服の袖で目元を拭い、頷いた。
「わたし――がんばる」
ダークザギの悪意――ペイシャンの裏切りに、負けないために。
価値あると信じていた日々を、本当に無価値だったことにしないために――信じることを、諦めない。
信じていた人が居なくなった傷を――まだたくさんいる、信じ合える人々の支えで補って、前に進む決心を。
サラはようやく、全ての迷いを捨てて、固めることができていた。
◆
〈AIB研究セクションに、サラが到達。トリィからの引き継ぎも間に合い、ワクチンの精製に取り掛かったようです〉
星山市の地下五百メートル、星雲荘の中央司令室で、レムの報告が響いた。
その部屋に備えられた中央モニターでは、アサヒの変身したグランドキングメガロスが、モエタランガ・バンテヤと配下のメカムサシンを相手に、孤軍奮闘を続ける星山市市街地の様子が映し出されていた。
……二箇所で同時進行する事態を告げられながら、リクは返事をすることもできなかった。
リクだけではない。同じく星雲荘の中央司令室に転移させられていたルカも、レイトも、カツミとイサミの兄弟さえも、リクと同じ状態だった。
恐るべきモエタランガウイルスの力により、四人のウルトラマンも、戦闘に特化した培養合成獣も、その真価を発揮することができず。動かない肉体の中、相対的に鮮明な意識で、残された末妹たちの奮闘を期待するしかないままだった。
それが、数々の激戦を潜り抜けてきたリクをして、耐え難いほどの苦痛だった。
(ア……サヒ……!)
神経電流を奪われ続け、不随意な肉体が弛緩していくのを、何とか調整してモニターを視界に収めるリクは。二体の敵に追い詰められる彼女の様子に、ウイルスの作用ではない理由で、激しい焦燥感を抱いていた。
サンダーキラーSがどこに向かったのかを把握していないのもあるが、何より単独行動を取ったところを各個撃破されるのを避けるためか。
足止めを図ったアサヒの思惑通りではあるが、モエタランガとメカムサシンはまず、グランドキングメガロスの排除に全力を注いでいた。
複数のウルトラマンとも交戦可能なグランドキングメガロスなら、本来はモエタランガなど恐れるに足らない。だが、ルカから奪ったレイオニクスの力でブレイブバーストを果たすまで底上げされたその実力は、超弩級怪獣の装甲でも無視しきれるものではない。
そして問題は、もう一体の、カラクリ武者の方だった。
「よいしょ! は~ぁっ!」
巨大質量に踏み躙られ、クモの巣状に亀裂を走らせたコンクリ路面を、さらに豆腐のように貫く格好で太刀を手放したメカムサシンは、一瞬見栄を切ったかと思うと自らのもみあげを掴み、頭を激しく振り乱し始める奇行に出た。
その動作に合わせて、金色のエネルギーがメカムサシンの全身から立ち昇り、振り回される頭が描く円の中心部に収束され、やがて直径十メートルほどの光球を生成した。
「
物質化寸前の密度まで濃縮された満月状のエネルギー球を、その手で突き出す格好でメカムサシンが射出する。
高速の次元移動を繰り返すモエタランガ・バンテヤに気を取られ、本体より素早く自律飛行できる背鰭・メガロススパインも用いて挑発星人へ対処していたグランドキングメガロスは、その光球が己に飛来した際にようやく気が付いた様子だった。
振り返った胸元に、朧月が直撃。超重装甲は光球を受けても砕かれず、グランドキングメガロスの巨体は小さな月の衝突にも押されなかったが、それが爆ぜたことで姿勢を崩す。
「きゃあっ!?」
体重二十万トンを越す超弩級怪獣が、光球の炸裂の威力のあまりにひっくり返り、ダークザギの遺した爪痕の残る街の建物がさらに崩壊する。
その重量が仇となって苦戦しながらも、何とか起き上がろうとするメガロスの上にモエタランガが直接転移し、両足で顔を踏みつける。
「――このっ!」
グランドキングメガロスの可動域や、本体搭載兵器の射線から見事に逃れた位置のモエタランガに反撃しようと、メガロススパインが集結してレーザーを放つが、その瞬間挑発星人は見透かしたように転移して、的を失った射撃はそのまま、延長線上に居たメガロス自身を襲う。
「うっ!?」
「はっはっは、無様だな!」
強大な怪獣に変身しながら、そのスペックを活かしきれない不慣れな戦いぶりを見せたアサヒを、モエタランガが嘲笑う。
……アサヒが実戦に身を投じたのは、それこそリクと出会った事件が最初だった。
それはほんの数ヶ月とはいえ、ルカやサラが生まれるよりも昔の話だが――リトルスターや血筋という災いの種を多く抱えるベリアルの子らと違い、アサヒたち湊兄妹は、トレギア絡みの事件でしか、戦いに身を投じる機会を持たなかった。
故に、今回の訪問で共に戦ってくれた件を含めても、アサヒの戦闘経験はようやく二桁に乗るかどうかというところ。グランドキングメガロスの力を使った経験はその半分以下で、しかも一人で戦うとなれば、なおのこと未熟だった。
リクの幼い妹を気遣い、送り出してくれたものの。そのサラよりもずっと、アサヒは戦いに慣れていなかった。
それなのに。リクができなかった、サラに今必要な励ましを、アサヒはやってくれた。
「おォ覚悟めされよーォっ!」
朧月の直撃、そして自滅攻撃が重なったことにより、鉄壁を誇るグランドキングメガロスの重装甲も、徐々に摩耗し始めていた。
その弱所を狙い、再び太刀を握ったメカムサシンが、処刑宣告とともに躙り寄る。
――その光景を見た時、リクは奪われてなお尽きない、激しい感情をその身に燃やした。
「させ……るか……っ!」
ギガファイナライザーこそ、今は壊れているものの。
ダークサンダーエナジーに冒された
――しかし、やはり、あの時と同じく。
力強く崇高な意志が、肉体の限界を越えさせても。道具にまでは、その無理は通じない。
ギガファイナライザーが破壊されたままである今、リクがウルトラマンとして戦うための唯一の武器であるジードライザーは、フュージョンライズのためのクールタイムを要求し、反応することがなかった。
「そん……な……!」
「……悪ぃ、レイト……!」
アサヒの危機を前に、何もできない己の無力感に打ちのめされたリクの背後で。
同じように、限界を越えて絞り出された声が上がった。
「アサヒを……守らせてくれ――!」
切迫した想いの篭った声の直後、リクの背後で光が生じる。
人体が変化した光は、星雲荘の中央司令室を飛び出し――地上に飛び出した後、モニターに映し出される戦場で、再びその形を為した。
「これぞ、諸ギョッ無ジョ――ッ!?」
足蹴にしたグランドキングメガロスの自由を奪い、装甲の弱所を今まさに貫こうとしていたメカムサシンを突き飛ばす形で出現した光は、赤と青のツートンカラーの巨人――ウルトラマンゼロの形を取って、アサヒの絶体絶命の危機に駆けつけていた。
「俺は……ゼ――!」
だが、残る敵であるモエタランガを振り返ろうとしたところで、名乗ろうとしたゼロは、何もないところで躓いたように倒れ込んだ。
「ゼロさん!」
「……よく変身できたな、ウルトラマンゼロ」
戦場へ舞い戻ったウルトラマンゼロ。その驚愕に一瞬呑まれていたモエタランガ・バンテヤは、しかし直後に晒された醜態で安心したような声を漏らした。
「しかし無駄な足掻きだ。君の体は思いのままには動けない。それも私のウイルスの力……」
グランドキングメガロスの肩を借りながら起き上がるゼロの、どちらが助けに来たのかわからない姿に対し。嗜虐的な響きを載せて、モエタランガ・バンテヤは言い放つ。
「そんな状態で、我が最強の従者に敵うとでも?」
「――ふンぬ!」
モエタランガが寄せる期待に応えるように、彼の隣に並び立ったメカムサシンは両手を打ち合わせた。
「
甲高い掛け声に合わせて、メカムサシンの周囲に発生した紫紺のオーラが八芒星のような図を描いた。
続けて、瞬く間に頂点が一箇所ずつズレる形で回転を始め、その両端から順に、メカムサシンの顔を模した火が灯り――
「ぁヒトダマ、
横だけではなく、縦にも回転を始め、巨大な火の輪となったそれを、ゼロとメガロス目掛けてメカムサシンが投げつけた。
「――っ、危ねえっ!」
咄嗟にグランドキングメガロスを押し退けるように、ゼロが前に飛び出して、その直撃を肩代わりする。
……彼に守られたおかげで、グランドキングメガロスも、背後の星山市も、それ以上傷つくことはなかったが。
「ゼロさん! そんな!?」
一人、ヒトダマ大車輪の直撃を受けたゼロはその全身が燃え焦げ、その場で膝を付き、持ち堪えられずに倒れ伏していた。
「ははは。心身ともに、今度こそ燃え尽きたか」
ロクに抵抗もできず、戻って早々に力尽きたゼロの無様を嘲笑うモエタランガ・バンテヤだったが、すぐにそれを止める。
「いや……何度も邪魔をされたのだ。今度こそトドメを刺すべきだろうな」
そうして光線発射口を兼ねた手首で、倒れたままのゼロを照準するモエタランガ。
「――っ、させません!」
その射線上にメガロススパインを移動させ、十字陣形を組ませて
「相変わらず素人なお嬢さんだ」
次元移動能力を発揮したモエタランガは、バリアの死角となる位置に転移して、万全の状態でゼロを射った。
その青い破壊光線は、すんでのところで、ゼロの前に出現した二筋の輝彩によって逸らされる。
「ゼロさんに、ばかり……任せてられるか……!」
「……妹を守るのは、お兄ちゃんの役目だ……!」
グランドキングメガロスの失策をカバーしたのは、リクの背後で倒れていたはずのイサミとカツミが再変身した、ロッソとブルのウルトラマン兄弟だった。
彼らもまた、リクやゼロと同じように。ウイルスによる限界を、窮地の妹を救うという意志で突破し、そしてジードライザーよりも緩いルーブジャイロの変身条件のおかげで、戦線復帰が叶ったのだ。
「次から次に……なるほど、仕事仲間たちからウルトラマンが疎まれるわけだ」
苛立ちを隠さなくなったモエタランガ・バンテヤだったが、しかし、その傲慢さはなおも崩れない。
「無駄な時間稼ぎしかできない分際で、何度も私の手を煩わせるな!」
モエタランガが叫ぶや否や、その両目から火炎弾が連射されて、ウイルスに冒され満足に動けないロッソとブルを滅多打ちにする。
「カツ兄、イサ兄!」
「隙有ァり! フジヤマ
兄たちを心配しながらも、再び太刀から飛ぶ斬撃を放つメカムサシンに挟み撃ちにされたグランドキングメガロスは、右腕の巨大ペンチから発生させた光刃で飛来する紫紺の斬撃を受け止め続ける羽目となり、駆けつけることができない。
自律飛行するメガロススパインも、ゼロから変身解除したまま気絶し、戦場の真っ只中に残されたレイトを守るためのバリアの維持に回されて、動けない。
ゼロのおかげで、絶体絶命の危機こそ脱したものの。未だ逆転には遠い状況で追い詰められるアサヒたちの危機に対し、しかし同じくウイルスに冒され、道具に拒否されたリクは、今は何もできない。駆けつけたい一心で、モニターを睨み続ける体勢を維持するのが精一杯だ。
「アサヒ……みんな!」
「これにて~
忸怩たる思いに苛まれるリクの前で、再び剣を手放し、高威力の満月型光球を撃ち出すメカムサシン。
それが互いに肩を寄せ合う形に追い込まれていた湊兄妹に届く直前、射線上の空間が、ガラスのようにして割れて、その月を飲み込んだ。
「!?」
戦場の誰もが驚愕した直後、月を飲み込んだ次元の穴から強烈な紫電が迸り、メカムサシンを襲った。
「ぬわ、ヌワァアアアぁあっ!?」
喧しい声を上げながら、電撃の威力に押されて後退するメカムサシン。
後退の間際、何とか回収した剣の冴えで再びの雷切を披露する間に、次元の穴の奥からその主が、再び星山市に舞い降りていた。
「く、貴様は――!?」
「――アサヒおねぇちゃん、みんな! おくすり、できたよ!」
危機的状況に駆けつけたのは、ワクチン完成という最優先任務のために離脱していた究極融合超獣――サンダーキラーSだった。
モエタランガ・バンテヤの警戒心を顕にさせたベリアルの子らの末妹は、蠢く触手の先端から光弾を発射。弾けた光が街を照らし、メガロススパインに守られたレイトや、二体の巨人にも降り注ぐ。
――直後、二陣の疾風が駆けた。
「クロススラッガー!」
「――っ!?」
疾風の正体は、動きの精彩を取り戻したロッソとブルが、各々の角に潜ませていた計三本の刃を抜き取り、モエタランガ・バンテヤへX字に繰り出した斬撃だった。
「ぐ……っ! まさか、ウイルスを!?」
モエタランガを動揺させたそれは、ウイルスにより正気を失った出鱈目な攻勢か、生きた屍のような緩慢な動作しかできなかった先程までとは違う。鋭く素早い、ひとかどの光の戦士の戦いぶり。
ウルトラマンゼロほど研ぎ澄まされてはいなくとも。突然授かった巨大な力と責任に迷いながらも逃げず、故郷である綾香市を、そして一つの地球を守り抜き、トレギアの野望を三度に渡って挫くまで戦い抜いた、一人前の兄弟ウルトラマン――ロッソとブルの真価が、遂にこの
「そういうことだ、バンテヤ!」
長短一本ずつの双剣・ルーブスラッガーロッソと、青い刃の長剣・ルーブスラッガーブルを構えて素早く仕掛けるロッソとブルだが、既に動揺から立ち直ったモエタランガは高速の次元移動による転移で攻撃を躱すと同時に背後を取り、二人を同時に殴りつける。
「斬る! 斬る! 斬る!」
打撃の威力で飛ばされていた二人に向けて、さらにメカムサシンが飛ぶ斬撃を乱打。手にした各々の得物で受けるロッソとブルだが、当たり負けして武器を弾かれる。
「させません!」
「ヌォおぅ!?」
だがそこで、味方の頭数が増えたグランドキングメガロスが自由を取り戻し、頭部のグランレーザーを連射してメカムサシンを妨害する。
鬱陶しい悲鳴を上げるカラクリ武者を救出せんと、グランドキングメガロスの背後に転移して一撃を浴びせるモエタランガだったが、そこに唸りを上げて襲いかかる触手を見て追撃を断念。再転移し、メカムサシンと合流する。
「こいつら……ウイルス抜きでも厄介だぞ!」
「ふざけたノリして、普通につえーとかズルじゃん!」
二体並んだ敵を見て、正気を取り戻した上で攻防を重ねたロッソとブルが、今の戦況を解析する。
……兄弟二人のカラータイマーは、既に点滅を始めていた。グランドキングメガロスもまた、堅牢な装甲でここまで戦い抜いてきたが、被弾を重ねたことで弱点が生まれてしまったのは先のとおりだ。
しかし、兄たちを回復できるウルトラマンとしての姿に再変身しようにも、グリージョ自身も地球における活動限界が既に迫っていた。無理を通してグリージョになったとしても、その後、今度はメガロスに再変身するまでの隙が生じて、アサヒの身が危険に晒される。
結果として、この場でのレイトの回復を諦め、異次元蟻地獄を介して再び星雲荘に送り届けたサンダーキラーSしか、このままでは残らない。
果たして究極融合超獣でも、レイオニクスの力で強化されたモエタランガと、強力無比な兵器であるカラクリ武者を単身で相手取り、勝ち切れるのか。
せめてモエタランガの転移だけでも封じられれば、と思われたその時。巨大生物たちを包むように、空から黄金の波動が舞い降りて来ていた。
「……ルカ」
膝を着いたままのリクが振り返れば、同じく未だワクチンが得られず、モエタランガウイルスに動きを止められたままだった妹が、その全身から光を放っていた。
光の正体は、彼女の生命力を変換したフェーズシフトウェーブ。術者自身を含まない遠隔地に照射されたそれは、ウルトラマンジードがダークザギに勝利する最後の決め手となったメタフィールドGの発動を意味していた。
「私、は、まだ、戦えない……けど……っ!」
敵にレイオニクスとしての力を利用され続けたルカの、決死の一手。
彼女を利用しようとしたダークザギに植え付けられた素質、それを磨いた一つの到達点。
〈挑発星人の次元移動能力は、かつて戦ったイズマエルグローラーの次元潜航と同じ原理の事象です。メタフィールドで位相を固定してしまえば、もはや転移はできません〉
この場におけるその効果のほどを、レムが解説する。
先程取り込まれた経験から、その事実を悟っていたのだろうモエタランガ・バンテヤは全力の転移で逃亡を図ろうとする――が、既に遅い。
モエタランガウイルスで街中を汚染したために、グリージョとサンダーキラーSが罹患者である住民全員を避難させた以上、メタフィールドに巻き込む恐れがある非戦闘員は不在であり。
故に、街を丸ごと覆い込む規模で展開されたフェーズシフトウェーブの有効射程からモエタランガは逃れることができず、位相の固定されたメタフィールドの中に引きずり出されるのを、同じく戦闘用非連続時空間に取り込まれたユートムのカメラが映し出していた。
「おー、なんだこれ。すげぇ」
「位相遷移を利用した別世界の形成かー! こんなのもあるんだな!」
「カツ兄、イサ兄!」
初めて体験するメタフィールドに対照的な感心を示すロッソとブルに対し、
「この中なら、宇宙とおんなじです! 三分経っても、ウルトラマンのままで居られます!」
「――ソイヤっ!」
逃走を図った主とは異なり。兄妹三人が作戦会議に並んだところで、彼らの胴体を纏めて輪切りにしようとメカムサシンが刃を閃かせる。
「……させない」
だが、同じく飛ぶ斬撃がフジヤマ斬波を迎え撃ち、湊兄妹の隙をカバーする。
ベリアルデスサイズを繰り出した当人であるサンダーキラーSは、その体重でメタフィールドの大地を揺るがしながら歩み出て、メカムサシンに対峙した。
「わるぅいロボットさん。あなたにはたっぷり、おかえししてあげる……!」
「あっ、拙者、カラクリに
そんな両者の対決を見守るウルトラマン三兄妹に対し、別方向からの火球が続々と撃ち込まれた。
「逃げられないならば仕方ない……メカムサシンと協力して、究極超獣を打倒する! 私が生き残る道はそれしかない!」
転売目的だった上、最初の戦法が姑息だった割に、意外と武闘派なモエタランガ・バンテヤは、即座に覚悟を決めて来ていた。
再展開されたメタフィールドの中、最大の強敵となるサンダーキラーSに狙いを集中しようとするモエタランガ。しかしその前に、硝煙を割いて三つの影が立ち塞がる。
「……おまえ。自分は死にたくないのに、俺たちの父さんを金のために死なそうとしたのか」
家族を狙われた怒りを漂わせ、真っ先に口火を切ったのは、長兄であるウルトラマンロッソだった。
「そのために、リクの街の皆にまで迷惑かけやがって……!」
同い年の戦友やその隣人のため、拳を震わせるのは次男、ウルトラマンブル。
「当然だ。己の幸福が最優先なのは、誰だってそうだろう」
「そんなのハッピーじゃありません!」
兄弟の言葉を、相手をする価値もないとばかりのモエタランガ・バンテヤに切り返すのは、末妹のウルトラウーマングリージョだ。
「自分も、皆も、一緒に幸せになる……それが本当のハッピーなんです! そのために皆頑張ってるです! そんな大事なこともわからないなら……反省して貰います!」
「黙れ、君たちは所詮湊ウシオの――そして究極超獣のオマケでしかない! 目障りならば蹴散らすだけだ!」
「オマケなんかじゃない!」
次元移動能力を封じられたために、両足で地を蹴りながら駆け出すモエタランガに対し、兄妹を代表してロッソが叫んだ。
「俺たちは父さんの……それに、あの子の家族だ!」
その言葉に。
彼らの背後、順調にメカムサシンを追い詰めていたサンダーキラーSは、吃驚したように動きを止めて、振り返り。
モニター越しに聞いていたリクは、ウイルスの強制とは違う熱が、胸の奥に灯るのを感じた。
――うちの家族になってください。
まだルカたちと出会う前、アサヒと初めて会ったあの日の夜。父を殺した孤独を抱えるリクに、家族に恵まれたハッピーを分け合おうと、アサヒがくれた言葉。
そのアサヒの願いを、湊家の温かい人々は、共有してくれていて。
リクが孤独でなくなった今も、反故にすることなんてなく――家族の輪が広がったのだと、人間でもないリクの妹たちを受け入れてくれていたことが、嬉しくて。
同じく、人間ではなかった
《重ねろ! 三つの魂!!》
「「「まとうは
そして、螺旋状に立ち上った虹色の光が三人を呑み込んだ、次の瞬間には。
――そこには、新しいウルトラマンが現れていた。
中央が赤く、外に向かって橙、そして青と色が変わる計五本の角を生やした勇壮なる巨人。男性的な骨格に、女性的な細く丸みを帯びた銀と灰色の体に、紅蓮と紺碧の装甲を纏ったその神秘の化身こそ、湊兄妹三人が全員融合した
その名も――
《ウルトラマン
ルーブジャイロが高らかに、その名を呼び上げる頃には。
超音速の飛行能力を発揮したウルトラマングルーブは、既に自らモエタランガ・バンテヤに突撃していた。
「「「ハッ! フンッ!! シュワッ!!!」」」
そして、新たな戦士に動揺するモエタランガ・バンテヤの顔面に鉄拳をお見舞いし、食い込ませたまま飛行速度をさらに上げ、大地を削りながら押し飛ばして行った。
それが、この戦いの最終局面を告げる、ゴングとなった。
Cパートあとがき
おさらい:本作はリクアサ前提です。可能な限り公式準拠で行きますと言いつつ、こればっかりは仮に公式様と分岐しても貫きます。念のため。
決着や続きはDパートにて!
・アサヒの戦闘経験
あくまで本編中に描かれているものに限れば、本作二十話時点の時系列だと『劇場版ウルトラマンR/B セレクト!絆のクリスタル』、『ウルトラギャラクーファイト』、『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』の三回だけになります。合体ウルトラマンであるグルーブ及びレイガとしてしか戦っていない『ニュージェネクライマックス』を除けば二作だけで、戦闘回数は合計で三回になります。
戦闘経験を一回と数える定義にもよりますが、本作では第五話、第十五話から現在までで合計五~六回程度の戦闘数なので、先述の作品の描写外で戦っていることがあったとしても十回前後に収まるかなという予想です。