お久しぶりです。
放送開始時には先んじて完結するつもりだった『ウルトラマンデッカー』が最終回どころか劇場版の公開まで迎えてしまいましたが、本作もようやく最終章(残り5話予定)に入るのでしっかり後に続きたいところです。よろしければ、お付き合いお願いします。
――あの時。
生まれて、初めて――己以外の、笑顔が見たいと想った。
◆
地球からは位相の逸らされた、戦闘用不連続時空間メタフィールド。
その中を、黄色い光球が、星のように照らしていた。
「――スペシウムスタードライブ!」
小さな星の正体。それは栄光の初代ウルトラマンと、シャイニングウルトラマンゼロのカプセルでフュージョンライズしたウルトラマンジードの超能力形態・シャイニングミスティックが、時間に干渉するために生み出した輝きだった。
神秘の光に照らされて、メタフィールド内の時の流れが止まる。
それは地球から、この戦闘用亜空間に隔離した敵――宇宙恐竜ゼットンにも等しく作用し、そのテレポーテーション能力も、光線吸収能力も、バリアーの発動すら許さず、完全に戒めることに成功していた。
彫像のよう完全に静止したゼットンに対し、時を止めるという大業で消耗を避けられないウルトラマンジードは、淀みなくスペシウム光線の発射体勢に移行。
かつて、初代ウルトラマンの光線を吸収し、撃ち返すことでその生命を終わらせた伝説を持つゼットン、その同種と言えど。自らの存在する時間そのものが止まってしまえば、何ら抵抗できる道理はなく。
神秘の巨人の光は、宇宙恐竜を貫いて、跡形もなく爆散させていた。
そして時は動き出す。
〈――お疲れ様でした。リク、ルカ〉
ジードが能力を解除した直後、星雲荘の報告管理システムであるレムから、状況終了を告げる通信が届いた。
〈メタフィールド内における、ゼットンの消失を確認。周辺宙域にも、同種の反応は確認されません〉
「(……また迷子だった、ってことなのかな?)」
ジードとレムの会話に疑念の滲む感想を零したのは、このメタフィールドを生成した張本人――ジードと同じく、ウルトラマンベリアルの遺伝子から造られた、妹に当たる生命体。ジード――リクが
「それは……わからない。今度も、アクロスマッシャーでも落ち着かせられなかったから」
巨大な怪獣という本来の姿を晒す妹の、テレパシーを介した疑問に、同じく本来の姿である巨人体のまま、ジードは首を横に振る。
「でも、今回も。ルカのおかげで、被害を出さずに済んだ」
スカルゴモラの意志により、兄であるジードらウルトラマンの潜在能力を引き出す場としての助力もさることながら。何よりも怪獣との戦闘を、地球から切り離した状態で行える隔離空間としての性質が、街を守る上で重要だった。
……テレビでは、最近のウルトラマンと怪獣の戦いは、何が起こっているのかわからないことばかりだと、理不尽な野次を飛ばされもしたけれど。
虚栄心を満たすことよりも、皆と暮らす世界を傷つけずに済むことが、ジードたちにとって重要だったから。
「ありがとう」
御礼の言葉は、自然と口を衝いて飛び出していた。
「(……えへへ)」
受け取った妹は、素直にそれを喜んでくれたものの。
どことなく寂しさや、不安がその声に滲んだままであることを、ジードは聞き逃しはしなかった。
◆
……宇宙恐竜ゼットンはわずか一週間のうちに、既に六体、星山市に出現していた。
それは、最初の三体が襲来した初日に至っては、ウルトラマンジードのフュージョンライズのインターバルや、スカルゴモラのメタフィールドの再展開が間に合わないほどの頻度での出来事だった。
幸いにも。先に出現した個体が倒された後から、後続が出現する、逐次投入のような形であったため――そしてウルトラマンジードが動けない時でも、まだスカルゴモラと、彼らの末の妹である究極融合超獣サンダーキラー
あまりにもゼットンの出現が連続した上、飛来するのが同一種ばかりであることから。新たなリトルスターが発現した可能性と同時、侵略の意図を持った何者かが居るのではないかという線からも、現在AIBが調査を行っているものの。巨大生物同士の闘争そのものが、多くの場合
……その一角にある、武道室にて。
培養合成獣スカルゴモラが、人間に擬態した姿――朝倉ルカは、打ちのめされて床を舐めていた。
「――次」
「……っ、はい!」
構えを促すのは、星雲荘の同居人にして、太極拳の師である鳥羽ライハ。両端にクッションを備えた、身長ほどもある長柄の棒を片手で回していた彼女の呼びかけに応えたルカは痛みを圧して起き上がり、ライハに仕込まれた構えで師に対峙する。
その様を見たライハは得物を両手に持ち替え、先端を低くして構え、弟子であるルカと対峙した。
――ライハの構えた棒の先端が、撓る。
素早く、予兆なく跳ね上がった鋒に対し、ルカは左足に重心を載せ、腰の捻りで膝前を払うように左手を動かす。先端が届く前に、軌道へ干渉されることを見抜いたライハの得物は即座に下がり、その隙にルカは連動して動いた右手を前に押し出す
だが、こちらが間合いに捉えるよりも早く、大きく後退したライハがその勢いのまま、今度は横回転に切り替えた殴打に、同じく横移動のために重心を組み替えていたルカは、上下移動による回避が間に合わなかった。
咄嗟に身を捩り、力の流れが上に弾かれるよう、右肩口で受けながら誘導するのが精一杯。当然被弾の勢いと痛みで動きが鈍ったところに、ライハの蹴りが飛んで来る。
辛うじて頭部への直撃を逸らしたばかりのルカは正確な軌道を読み切れず、故に防御ではなく離脱による回避を選択。弾かれた勢いを利用して、強引に重心を移しながらも飛び退る。
それで向き直った時には、真上からライハの棒が振り下ろされていた。
ルカは二の腕を掲げ、頭部を守りながら前進。間合いを詰めて、クッションで再現された穂先から逃れつつ、柄の部分を受け流しながら距離を詰める。
懐に飛び込んでしまえば、長物は使えない。故にまずは反撃ではなく密着することを優先し、ライハに詰め寄ったルカは、その状態でも仕掛けられる技に移ろうとして――
「遅い」
密着状態から、体の捻りによって成立させる体当たり――
今度こそ姿勢を乱したルカに対し、薙げないならばと、両手の間に持ったままの柄をライハが勢いよく押し付けてきた。芯への直撃を避けようと掴んで食い止めたルカは、生物種としての純粋な馬力の差を発揮する前に、ライハの旋回に巻き込まれてさらに重心を崩す。
その足首を、ライハの回した脚が刈り取って。ルカはそのまま、仰向けに倒れ込んだ。
咄嗟に受け身は取ったものの。床との衝突から起き上がろうとした喉元に、柔らかい樹脂製のクッションが押し当てられる。
「……参りました」
詰みを悟り、降参を示して両手を上げると、喉に掛かる負荷が消えた。
――これがこのところの、ライハによるルカの修行だった。
身体操作に重きを置き、套路を重ねる以前の楽しい修行とは大きく違う。どんな状況でどんな型が有効かを教える組み手自体は前からやっていたが、今の組み手はこのように、ほぼ実戦形式ばかりとなっていた。
それも、
……けれど。
「――四手まで粘れた」
牽制の一手目を凌ぐのが精一杯だった、始めの頃の己と比べ。
「次!」
自身の可能性の拡がりを認識したルカは、敗北や痛みに負けず、ライハの呼びかけで気合を入れて立ち上がっていた。
◆
それからおよそ一時間後。ライハとルカの師弟は、星雲荘への帰路に就いていた。
ダークザギとの決戦から、もう一ヶ月が過ぎた。銀河マーケットの活動も再開されていたが、売上は以前より下がっていた。
結果として、アルバイト代の減った二人は、あまり長い間武道室を利用できなくなっていた。
……ルカの貯金は、ないことはないが。その分密度を増やせば、まだ積極的に切り崩さなくとも良いだろうと、ライハは言ってくれていた。
言葉のとおり、濃密にしごかれたルカは打撲した腕を撫でるのが日課となっていたが。
「……ルカ、大丈夫?」
「もう、心配し過ぎ。全然平気だよ?」
それでも、毎日のように。トレーニングの後は、己の与えた痛みを心配してくれる師匠に対し、ルカは朗らかに答えていた。
ルカの答えは、全くもって真実だ。姿形だけを擬態した地球人ではなく、培養合成獣を本性とするルカにとっては、この帰路の間にも完治する程度の傷でしかない。
それと引き換えに――こうしたやり取りから、本当は訓練であっても、ルカを傷つけることを望んでいないのは明白なのに。守りたいものを守れる強さが得られるように、毎日付き合ってくれる師匠への感謝を、ルカは本心から抱いていた。
その感謝の気持ちを。帰宅までの間に伝えるべく言葉を交わすのが、もうすっかり日課となっていた。
「……ライハの仮想敵って、やっぱりあいつ?」
恒例の雑談の中で。ふと、今日は。そんなことを、ルカは訊ねていた。
「そうね」
修行を厳しくしたライハは、ルカの問いかけへあっさり頷いた。
「……馬鹿みたいね。あいつはもう死んでるのに」
しかし、そこに続く言葉には若干の間を置いて、ライハは自嘲した。
『あいつ』などと、具体的な名前を出さないままでも。修行が厳しいものとなったきっかけ……それ自体は、互いの関係を守るための、半ば言い訳じみたものではあったが。異論を挟む余地のない原因を同時に想起しながら、ルカはライハの言葉に耳を傾けていた。
「もっと強い敵だって居た。本当は、そっちを目標に据えるべきなんでしょうけど――私が少しでも再現してあげられるのは、これが精一杯だから」
「ライハ……」
いくらライハが巧夫を重ね、人の身の限界まで、武芸を磨いていても。彼女は、生命体としては所詮、ただの人間に過ぎない。
その限界を痛感したような師匠の様子に、何と言葉を返そうかと様子を伺っていると。ライハはルカの言葉を待たずに続けた。
「それに……最近出てきている、あのゼットンって怪獣たち。あいつも操ってたでしょ?」
「そうだね。だから私もちょっと……思い出してた」
今から振り返れば、ダークザギの計画の駒の一つでしかなかったとはいえ――それでも、間違いなく最悪の敵の一体だった『あいつ』との戦いを振り返り、ルカは頷く。
シャイニングウルトラマンゼロの奇跡によって救われたとはいえ、目の前で
そして、最強の存在となるべく造られた人工生命体という、彼自身の言葉を借りれば――培養合成獣スカルゴモラの同類とも呼べる、あの魔人。
「……あの時、私はあなたを守れなかった」
苦い思い出しかない戦いを振り返っていると、ライハがそんな言葉をぽつりと漏らした。
「そんなことないよ」
自ら振った話題で、ライハの気持ちが沈んでしまったことにいよいよ耐えきれず、ルカは首を左右に振る。
「ライハが居なかったら、私はあの後、グリーザに全部奪われてた。それに、ザギの中からも、帰って来られなかった」
「……ありがとう。でも、その前。啖呵切って、あいつに負けたのは事実。そこで、あなたたちと一緒に戦う術も失った」
心底からの感謝を伝えると、ライハは淡く微笑み返してくれた上で、首を振り返した。
「……一応、予備のパーツからまた作れないかって、AIBも検討してくれているけど。今の私が無力なのは事実」
キングギャラクトロン
「だから、また同じような状況になった時に。今度こそあなたが負けないよう、鍛えてあげることしか、私にはできない」
「……うん。それはきっと、ライハにしかできないことだから」
確信を込めて、ルカはライハに告げる。
その言葉は、自嘲に沈んでいたライハにも、確かに響いたようで。
「ありがとう、ライハ」
そっと顔を上げてくれたライハに、ルカは改めて、心からの言葉を伝えて――今度は、伝えたい気持ちがきちんと伝わったことが、ライハの表情から読み取れた。
――特徴的で、巨大な鳴き声が響いたのは、それを認めた直後のことだった。
「この声は――っ!」
寸前まで、存在しなかったはずの影が、ルカとライハに覆い被さっていた。
振り返れば、そこには……ルカの予想とは、異なる容姿であるものの。想像通りの黒い体表をした巨大な生物が、忽然と、星山市に出現していた。
それも、三体同時に。
「ゼットン――じゃ、ない……?」
「あれは確か……前に、ジードが倒したスペースビースト?」
ルカの疑念に続けて、ライハが緊張で掠れた声で呟いた。
出現した三体の巨大生物は、いずれも――どこか宇宙恐竜ゼットンを連想させる特徴を持った、異形の怪獣たちだった。
内の一体は、サメにも似た頭部をゼットンの体から生やした、直立二足歩行の爬虫類型の怪獣。両肩から伸びる巨大な突起を含め、体の側面を紅蓮の体表で覆い、やや色味の異なる尾を伸ばしたその異形は、合体魔王獣ゼッパンドンと呼ばれる存在に酷似していた。
その両脇にも、さらに二体。ゼッパンドンよりはゼットンの面影が濃いものの、それぞれ両腕にハサミや三本の鉤爪を生やした黒い二体の怪獣が居た。
ハサミを備えた方は、ゼットンそのものの顔をしていたが、角が本来のものから、V字状に膨れた形に変わったことで、頭部の印象が異なっていた。また肩と腰から、斑点を浮かべたゼットンのものとは異なる、甲虫の鞘翅のような器官を伸ばしている。
そして、最も頭身のスマートな最後の一体。ゼットンにはなかった赤い目と黄色い一本角。腕の下には翼のような分厚い被膜が垂れ下がり、細長い尾を生やしているのに、原種よりも宇宙人に似た印象を与える怪獣の、その胸には――カラータイマーとよく似た球状の発光器官と、赤い紋様が刻まれていた。
まるで――ベリアル融合獣のように。
「ライハは離れてっ!」
その正体を探るのは、後回しにして。ルカは意識を集中し、自身の膨大な生命力の一部を、特殊な光に変換し、射ち放つ。
ルカの全身から立ち昇った青い光こそは、フェーズシフトウェーブ。かつて身に宿した、ウルトラマンネクサスのリトルスター――そして、そのリトルスターとともに継承されたダークザギの欠片により、今もこの身に宿る、異空間生成能力の発動を意味する光だった。
空まで昇った青い光は花火のように弾けて、今度は黄金の波動となって降り注ぎ、三体の怪獣たちを取り囲む。
そのまま、ルカが生み出す別位相空間へと巨大生物たちを隔離する――はずだった。
「消えた!?」
「しまった、テレポート!」
出現した時と同様に。怪獣たちは、忽然と姿を消して、異空への誘いから逃れていた。
フェーズシフトウェーブが、術者を含まずとも成立するメタフィールドGの形成を完了し、この世界から観測できなくなった時には。別座標へ散り散りに再出現した異形の怪獣たちは、ゼットンを思わせる鳴き声を上げていた。
……おそらくは、これまで素直にメタフィールドに引き込まれてくれていた先のゼットンたちよりも、強大な怪獣三体を。星山市から隔離することに失敗した。
その後悔にルカが一瞬、動きを淀ませてしまったその時――沈みかけた心を救う、希望の光が空に翔けた。
異形のゼットン――その内の、ベリアル融合獣に類似した特徴を持つ一体の前へ立ちはだかるように、赤と銀の体躯に、黒い彩りを走らせた巨人が、舞い降りた。
「……お兄ちゃん!」
現れた巨人こそは、ウルトラマンジード――ルカの兄である、朝倉リクその人だった。
さらに、青空に赤い亀裂が走ったかと思うと。そのままガラスのように砕け散って、中から白い異形の竜が飛び出した。
星山市へ新たに出現した巨大生物の正体は、リクとルカの妹。究極融合超獣、サンダーキラーSだ。
「サラ!」
自らが渡した名で妹を呼ぶと、サンダーキラーSも呼び声に応えるように。そして、突如として現れた怪獣を威嚇するように、その甲高い咆哮を響かせた。
二体の新たな巨大生物の出現を受けて。三体の異形のゼットンの内、二体が動いた。
ハサミを生やしたゼットンは、その鞘翅の裏に隠していた後翅を羽撃かせる低音を伴って。
ベリアル融合獣に似た個体は、被膜の垂れるその腕を、ただ拡げるだけで。
二体の怪獣は、その巨体が嘘のように、軽やかに空を舞っていた。
別々の方向に飛び上がり、後退した二体はそのまま――顔の前に生成したプラズマ火球を、ジードとサンダーキラーS目掛けて発射した。
対して、ジードは腕を振るうことで光の壁を作り出し。サンダーキラーSはただ、その背に生やした八本の触手の内の一本を閃かせることで迎撃して。それぞれ、一兆度の火の玉から自身を、そして星山市を守り抜く。
空に逃げられて。生物兵器としての本来の戦闘力を発揮しても、手が届かぬ領域から攻撃を仕掛ける二体の怪獣を、ルカが苦々しい気持ちで見上げていると――その頬を、烈風が叩いた。
「にがさない……!」
幼い声に、決意を載せて。サンダーキラーSが、その触手の隙間に虹色の光の膜を張り巡らせて、翼の代わりにして羽撃いていた。
サンダーキラーSの巨躯が、浮かび上がると同時。ただその腕を前に振るだけで、ウルトラマンジードもその巨体を、重力の軛から解き放っていた。
「ルカ、空は僕たちが!」
そう力強く言い残して、ジードとサンダーキラーSは各々、超音速で離れていく二体の異形を追跡して行った。
……その声に込められた、信頼を過たず聞き取って。
自らの失態を、即座に補ってくれた兄妹。その頼もしさに励まされたルカは、彼らの信に応えるためにも、残された一匹の怪獣を睨みつけた。
「……ルカ」
「大丈夫。ライハは先に帰ってて」
「ええ。頼んだわよ」
頷く師匠に送り出されて、ルカはまさに今、その口腔で火球を膨らませつつあったゼッパンドンに対峙した。
「おまえの相手は――私だぁっ!」
叫びの最中、ルカは地球人の少女を模した擬態を解除し――存在位置を、ゼッパンドンの眼前に補正した上で、光量子情報体として保存していた真の姿を咆哮とともに解き放った。
そして光とともに出現した培養合成獣スカルゴモラは、星山市を焼き払おうとしたゼッパンドン撃炎弾をその体表で弾き返しながら、合体魔王獣へと襲いかかった。
◆
ベリアルの子らが、街を脅かす突然の脅威に立ち向かった後。
鳥羽ライハは、周囲の人目がなくなったことで転送されて来たエレベーターに乗り込み、星雲荘に帰還することができていた。
「ライハ! おかえり!」
出迎えてくれたのは、同居人であるペガッサ星人の少年ペガ。
本当はきちんと言葉を交わしたい相手だが、焦燥に駆られていたライハは彼の挨拶に頷きを返すに留め、中央司令室に備わった球体に呼びかけた。
「状況は?」
〈各々が一体ずつ、敵に当たっています〉
ライハの問いかけに、球体が発光し、報告管理システムであるレムが回答してくれた。
状況が把握できているのならば、と……ライハは未知の敵について、さらにレムへ問う。
「あいつらは……ゼットンなの?」
〈はい。そのものではありませんが、内包するエネルギーの波長は間違いないでしょう〉
ライハの問いかけに対し、レムは中央モニターのウィンドゥをさらに分割しながら解説する。
〈スカルゴモラが応戦しているのは、ゼットンとパンドンの特性を併せ持つ融合怪獣。スペースビーストにも収斂進化した個体が確認された、ゼッパンドンの亜種です〉
最後まで地上に残ったその怪獣のことは、類似した存在をライハもかつて目にしていた。
同一の存在ということはあり得ないだろうが、かつてはジードやサンダーキラーSが対決し、下した相手。今のスカルゴモラが十全にその力を発揮できれば、順当に行けば負けないはずの怪獣だ。
だが、メタフィールドに引き込めなかったことで、スカルゴモラは怪獣使いの能力で自身を強化するレイオニックバーストを実質封じられている。地球上であの灼熱の力を戦いに用いれば、余波だけで周囲の環境が破壊されてしまい、多くの命が奪われる――ルカはそんなことを望まないと、ライハは知っていた。
故に、困難に挑み続け、強くなった弟子の実力を認めながら、なおも不安を抱いてしまう己を、ライハは禁じ得なかった。
〈サンダーキラーSが相手をしているのは、ゼットンと、バルタン星人という種族に似た反応を観測できます。不確かな伝聞で、ゼットンバルタン星人とそのままの名で仮称された存在と、外見的特徴も合致します〉
そんなライハの心配を知ってか知らずか、レムが続いて、完全に初見となる怪獣について解説する。
バルタン星人、のことはライハも詳しくはないが。対峙するサンダーキラーSは、究極融合超獣だ。レムも特に何も言わないなら、兄妹の中で唯一、ハンデを負わず全力で戦える彼女の心配は不要だろうと、ライハは判断する。
故に、激しいドッグファイトを繰り広げながら、大気圏外へと昇っていくサンダーキラーSとゼットンバルタン星人のことは思考の片隅へ追いやりながら――ライハは残る未知の、無視できない容姿をした怪獣に話題を移した。
「……ジードが戦っているのは」
〈ゼットン及び、ベムスターという宇宙大怪獣……そして、ベリアル融合獣と似た反応を検知できます〉
レムの回答に。予想できた内容でありながら、ライハとペガは思わず一瞬、息を詰めた。
〈その構成要素から、フクイデケイが可能性を検討しながら実戦投入しなかった組み合わせ――ベムゼードと呼称される存在と似ているようです〉
「……けど、フュージョンライズしたベリアル融合獣そのものではない、ってことね」
「もしかして……また、リクの家族!?」
レムの言い回しから、彼女の仄めかす事実を読み取ったライハとペガは、それぞれ質問を重ねる。
特に、ペガの繰り出した疑問は、培養合成獣や究極融合超獣と出会って来た二人にとって、当然抱く懸念であった。
〈いいえ〉
故に、レムがその疑いを即座に否定したことに、何とも言えない安心感のようなものを、ライハたちは抱く。
ならば後は、この新種のゼットンたちを退けるだけ……それ自体も困難ではありながらも、問題がシンプルになったと油断する二人を戒めるように、レムが続けた。
〈今回でわかりました。他の二体含めて、この反応は――ルカやサラたちとは、決定的に異なっている点があります〉
そして、さらに衝撃的な観測結果を、ライハたちに伝えた。
〈この一週間に出現したゼットンたちは……正確には、生命体ではありません〉
◆
「スマッシュムーン……ヒーリング!」
星山市から何十キロと離れた、海上の空にて。
慈愛の戦士コスモスの力を受け継いだ青い姿、アクロスマッシャーにフュージョンライズしたウルトラマンジードは、その両手から癒やしの波動を放っていた。
ジードの放った興奮抑制光線――過去、自身の強大な力を正しく使えなかった妹たちを救ったこともある光は、突如街中に出現し、火球を吐いた怪獣の全身をも包み込んだが――新種のゼットンこと、仮称・ベリアル融合獣ベムゼードは、何ら影響を受けていないように、一兆度の火の玉をジードに対する返礼とした。
「くっ、やっぱり駄目か――!」
高機動形態でもあるアクロスマッシャーの機動性を活かし、反撃を躱しながらもジードは舌打ちする。
ここ数日の間に現れた通常種のゼットンたちも、だったが。恐怖を払い、興奮を鎮める浄化の力を持ってしても、彼らの戦意は揺らがなかった。
明確な敵意を宿した侵略者――実力で戦闘力を奪い去る以外に、止める手段がない脅威。
倒すしかない。覚悟を決めたジードは、今の自分に許された最強の形態へと装いを改めた。
《ロイヤルメガマスター!》
……ギガファイナライザーを失っている今は、最終戦闘形態であるウルティメイトファイナルは封じられている。
さらに、妹たちと出会ってから新たに習得したフュージョンライズ形態――その中でも、特に強大なシャイニングミスティックとノアクティブサクシードは、ベリアルの血を継いだルカが、ウルトラマンの援護を前提に展開したメタフィールドの中でしか、カプセルが必要な状態に変化しない。ジードマルチレイヤーの発動も同じくだ。
つまり、新たな戦いの日々で手に入れた力のほとんどは、ジードが
故に、かつて父に仕組まれた運命を変えるために手に入れた、ロイヤルメガマスターの力が、今のジードが選べる最大戦力。
それでも、当時。数々のベリアル融合獣と戦い、勝利してきたこの力ならば――!
「ランススパーク!」
ウルトラマンジャックのカプセルをキングソードに装填し、繰り出すのはウルトラランスの力を秘めた突き攻撃。
かつてベムスターを倒した、ウルトラブレスレットの力を再現した光の突きは、ベムゼードに向かって真っ直ぐ伸び――そのベムスターの腹部・吸引アトラクタースパウトを備えた掌の中に、呆気なく吸い込まれた。
「――なっ!?」
左掌でランススパークを吸い込んだベムゼードは、反対の右掌に備えたベムスターの口から、その光を一気に放出した。
直線の攻撃を何とか回避したジードは、かつて己自身が宇宙大怪獣ベムスターと戦った時の記憶を辿り、攻略法を見出す。
「なら、これで――!」
再び敵と向き直った時には、ジードはロイヤルメガマスター愛用のキングソードのみならず、汎用武器であるジードクローを左手にも構えていた。
右手から繰り出すのは、キングソードを錫杖として構え、複数の砲身を仮想展開して放つバルカンスパークル。
そしてジードクローを振り抜いた左手からは、ハサミ状のエネルギーを飛ばすクローカッティングを、同時に繰り出していた。
先程ベムゼードの見せた挙動は、過去、湊アサヒたちの地球を訪れた際。ペガを捕らえたベムスターと、奇獣ガンQの組み合わせが見せた戦法だった。
片方が吸収を担当し、内部の繋がったもう片方が放出する――それによって、どれほどの攻撃を受けても許容限界を見せなかった、厄介な相手だった。
しかし、その時は湊兄弟との共闘であったために。ベムスターとガンQ、その両方を同時に叩くことで、放出を堰き止め、吸収限界をゴリ押しで突破し撃破できた。
一人でその時を再現しようとするジードだったが、眼前の敵は、二つの光が届く前に姿を消した。
次の瞬間。空からジード目掛け、複数の火球が降って来た。
「ぐ――っ!」
テレポート。ゼットンという種族の代名詞的な能力の一つを存分に発揮して、ベムゼードはジードがかつて用いた攻略法を克服した。
……攻撃力は絶大でも。かつて、同じくゼットンの力を持つベリアル融合獣・ペダニウムゼットンに苦戦したように、ロイヤルメガマスターではテレポート持ちとは相性が悪い。
そう判断したジードは、異なる形態へとフュージョンライズを切り替えた。
《――ソリッドバーニング!》
ジードが選んだのは、強靭な装甲を誇る赤き姿。
総合的な耐久性では、さらに攻撃力に優れたマグニフィセントやダンディットトゥルースという選択肢もあったが――優秀な外部装甲に加えて、もう一つ。それらの形態にはない強みが、ソリッドバーニングには存在している。
その一つ、頭部に備えた宇宙ブーメランを抜き取り、片手で投擲するや否や。弧を描いて回り込むようにベムゼードへと向かうその結末を見届けるより早く、ジードは次の動作に移っていた。
「コークスクリュージャミング!」
ジードクローを鏃に、構えたジード自身を一本の矢に見立てて突撃する必殺技を発動した突進は、ベムゼードの放つ光線や火球を正面から跳ね除け、距離を詰める。
接触の寸前、当然のようにテレポートを再発動したベムゼードが、横合いから放った火球を弾くことができず、コークスクリュージャミングは強制終了させられてしまった――が。
「――そこだ!」
既に放たれていた宇宙ブーメラン・ジードスラッガーが、ジードの意志に応じて軌道を変え、火球の向かってきた方向へと独自に襲いかかった。
それに対して、ベムゼードが防御のために、片腕を頭上に掲げる――ことまで、ジードの想定内だ。
「はぁっ!」
気合の雄叫びを上げて、ジードは再び、ベムゼード目指して飛んだ。被弾を重ねながらも、充分な速度を保ったまま。
これが、ソリッドバーニングを選んだもう一つの理由。ジード自身の飛行能力が、ダメージによって減退しても。ソリッドバーニングはその装甲の各所に、別個の推進力となるスラスターを設けている。
それによって強引に速度を維持したジードの手が、届く寸前。
ベムゼードは右掌から火球を放ち、攻撃用のエネルギーを蓄えつつあったソリッドバーニングの腕を撃ち抜くことで誘爆を招き、赤い巨人を粉砕した。
目と鼻の先で、巨人を呑み込んだ爆発を睨みながら――左腕で残された宇宙ブーメランをも、光線と同じように吸収していたベムゼードは。
その爆炎の向こうから、右腕に絡みついてきた巨人の脚を、躱せなかった。
――重ねがけしたフュージョンライズの、強制解除に伴う特殊挙動。プリミティブへの強制再変身による光量子情報体再構成により、被弾を覚悟の特攻により強引に死線を潜り抜けたジードは、その脚に挟み込むことで、ベムゼードの右腕を捻り上げた。
そして、そのまま腰を捻り――ソリッドバーニングの頃から継続していた、両腕にチャージした光子エネルギーを解放する。
「レッキング――バーストォオっ!」
右腕は脚で抑え込み。左腕はジードスラッガーを吸収するため、頭上へと掲げられていたために、がら空きとなった胴体へと。
回避を許さぬ密着状態で放たれたレッキングバーストの、
◆
地上から高度、三十万キロ以上の彼方にて。
「おいついた……!」
ウルトラマンジードが、ベムスターと融合したゼットンを撃破したのと時を同じくして。
「うるてぃめいとりっぱー!」
空間を割る異次元の回廊を利用し、敵の進行方向へ先回りしたサンダーキラーSが、かつて兄より模倣した手裏剣状の切断光線を、触手の一本から投げていた。
回転し、光輪となったウルティメイトリッパーは、ゼットンバルタン星人の頭頂部に直撃。そのまま体内に侵入して、唐竹割りの要領で、合体怪獣を左右に分断した。
「かいざーべりあるくろー」
正中線に沿って両断され、自らで活動することはなくなっても。空気抵抗がない分、慣性のまま向かって来る、ゼットンバルタンの残骸に対し。サンダーキラーSは遺伝子上の父、ウルトラマンベリアルから受け継いだ伸縮自在の毒爪を伸ばして迎え撃ち、引き裂きながら打ち払った。
四散したゼットンバルタン星人の残骸が、さらに勢いよく散って行くのを視界の端で捉えたサンダーキラーSは、その痕跡すらも焼き尽くしておこうと触手を蠢かせた。
「――あれ?」
だが、その最中。サンダーキラーSの視界に、より強く、その興味を惹く光がちらついた。
「おほしさま……?」
それは、単純に天体を指すものではなく――ゼットンたちが次々と、地球に襲来する理由ではないかと疑われた、高純度のエネルギー結晶体を指しての言葉。
リトルスターの気配を、こんなにも地球から離れた場所で感知したサンダーキラーSは、その蠱惑的な輝きと、生じた疑念とで……追撃の手を、止めてしまっていた。
……その数秒の間に、事態は大きく変わっていた。
「――!」
地上を離れたサンダーキラーSが、索敵のため遠慮なく垂れ流していた電磁波に、乱れがあった。
感知したのは、全方位から迫り来る大量の高熱源体。八本の触手を総動員しても、そのままでは捌ききれない数を前に、サンダーキラーSはバリアを多重展開する。
八本の触手が発生させたバリアの層は、一兆度の火球の群れを完全に防ぎきったものの――その爆炎が晴れた先に待っていた光景に、サンダーキラーSをして、流石に驚愕した。
「……ふえてる?」
一兆度の火球群を放ったのは、新手のゼットンではなかった。
上下左右に、都合十二体――先程、サンダーキラーSの攻撃で分割された肉片と、同じ数の。
完全な姿に再生したゼットンバルタン星人たちが、何もない宇宙空間でサンダーキラーSを取り囲み、戦闘続行の意志を示していた。
……その、背後で。
究極融合超獣が察知した、魔性の輝きを宿した存在は――超光速の転移を繰り返し、守りの薄くなった地球へと、着実に迫りつつあった。
◆
「(こ、んのぉ……っ!)」
星山市では、なおも。培養合成獣スカルゴモラと、合体魔王獣ゼッパンドン――の、亜種とが、激突を繰り広げていた。
いや、その表現は正確ではないのかもしれない。
巨体を誇る合体怪獣同士がぶつかり合っていたのは、戦いが始まったほんの最初のうちだけ。パワーとタフネスでゼッパンドンを圧倒するスカルゴモラだったが、機動性に劣る彼女に対して、テレポート能力を持つゼッパンドンは頻繁に転移して距離を確保し、引き撃ち戦法に徹していたのだ。
強靭な皮膚を持ち、レイオニックバーストで高熱を纏う上。かつての戦いを経て、ゼットン種の火球にもある程度耐性を得られるように遺伝子が働き、進化した今のスカルゴモラからすれば、一方的に撃たれ続けたところで簡単に命までは届かない。
だが、転移能力を持つゼッパンドンに対し、スカルゴモラが下手に撃ち返そうものなら。その流れ弾は、星山市を焼いてしまう。
故にスカルゴモラは、ゼッパンドンに翻弄されるがままとなっていた。
「(――ちょこまか逃げんな!)」
そんな現状に、スカルゴモラは思わず苛立ちを口にする。
憤怒とともに、スカルゴモラの角が紅く輝く。昂ぶった感情を力に変えて、怪獣念力を発動したのだ。
スカルゴモラの操る怪獣念力は、不可視の掌となってゼッパンドンを掴み上げる。動きの止まった隙を逃さず、避けられたとしても街を巻き込まない射線で、スカルゴモラは
だが、ゼッパンドンは顔の両側から六角形の発光体を出現させて、スカルゴモラの攻撃に対処。緑色のゼッパンドンシールドは、インフェルノ・マグマの奔流を完全に受け止め、呑み干し、本体を守り切る。
そのエネルギーを奪われれば、怪獣念力の拘束をゼッパンドンの抵抗が上回り、その身に自由を取り戻されてしまう。
「(くっそ……!)」
思わず、汚い言葉を思考しながら。振り出しへ戻った戦いに、スカルゴモラは毒吐く。
あと、もう何分かすれば。もう一度、フェーズシフトウェーブを放てるようになる。一時的に動きを縛る怪獣念力と合わせれば、今度こそメタフィールドに引き込むことができるだろう。
そうなれば、周囲への遠慮は要らなくなる。レイオニックバーストの圧倒的なパワーで粉砕できるはずだと、スカルゴモラは自分に言い聞かせ、冷静さを取り戻す。
それまでの時間、ゼッパンドンから星山市を守りきれれば勝ちだ……そう考えるものの、ゼッパンドンの攻撃力は、インフェルノ・マグマを吸った分、多少なりとも威力を増した。
このまま無事に、守りきれるか――そう考えるスカルゴモラの耳に、馴染みのある鳴き声が届いた。
「苦戦しているようだな」
その声とともに、星山市へ新たに駆けつけたのは、蒼い怪獣――AIBのシャドー星人ゼナが操る怪獣兵器にして、スカルゴモラの戦友。時空破壊神ゼガンだった。
「(ゼガン! ゼナさんも!)」
「我々だけで共闘するのも久々だが……まだ行けるか?」
「(当っ然!)」
かつて、
対し。新たな闖入者を前にしたゼッパンドンは、その闘志を先程までよりも激しく燃やして、二大怪獣に向かって来た。
迎撃するスカルゴモラとゼガンの背後へと、ゼッパンドンが転移する――が、その程度の挙動は、予知能力などなくとも予測できたために。スカルゴモラの尾が閃き、強かにゼッパンドンの顎を下から打ち据える。
頭部を跳ね上げられ、隙を晒したゼッパンドンに、踵を返したゼガンが切り込む。鋏から放つ電撃光線・シザーブラスターを、振り下ろす右腕の動作に合わせて繰り出し、さながら鞭のようにしてゼッパンドンの身を抉る。
だが、強靭な体躯を持つゼッパンドンは負傷に怯まず、鉤爪状の前足でゼガンに反撃。驚異的なパワーで、逆にゼガンを後退させる。
「(こいつ!)」
三体の中、最大の腕力を誇るスカルゴモラが介入し、ゼッパンドンを殴り飛ばそうとする。しかし、どうしても動作の鈍い通常形態ではゼッパンドンを捉えきれず、再転移で逃げられてしまう。
「――そこだ!」
だが、相手の動作を追う者が二人となれば、当然隙は減っていた。
スカルゴモラが救出へ入った間に体勢を立て直し、エネルギーを蓄えていたゼガンが、再出現したゼッパンドン相手に胸部の主砲を放っていた。
時空転送光線ゼガントビームに対し。先程のスカルゴモラを相手にした時とは打って変わって、積極的に攻撃を仕掛けるゼッパンドンはこれまで見せなかった規模の巨大な火の玉を抱えて、そのまま突進して来ていた。
「(な――っ!?)」
時空の因子を含んだゼガントビームと、ゼッパンドンが盾とした極大の火球。距離を詰め密着したエネルギー同士の激突により、干渉点に異次元への穴が発生する。自身のすぐ後ろで起こった緊急事態に、スカルゴモラも思わず声を上擦らせる。
「(まずいよ、街が……!)」
発生した時空の穴は、気圧の差で周囲の大気を吸い込み、それに伴って発生した竜巻が、周囲の人工物を破壊して呑み込もうとしていく。
援護しようにも、均衡する衝突を迂闊に逸らしてしまえば、行き場を失った両者の攻撃がゼガン自身や街を焼きかねない。
「――バリアで、我々ごと閉じ込めろ!」
逡巡するスカルゴモラに対して、ゼガンを操るゼナが叫んだ。
「早くしろ! ゼガンの願いを忘れたのか!」
「(――くっ、頑張って、ゼガン!)」
躊躇いを叱咤され。
ゼガンがウルトラマンジードに、リトルスターを譲渡した時の心境を、ゾベタイ星人のサトコが翻訳してくれたことを思い出して。
共に生きる皆を守るため、というゼガンの決意に応えたスカルゴモラが、怪獣念力を転用したバリアで紅と蒼の怪獣を包み込めば、その内圧はさらに高まって――
次の瞬間、バリアを吹き飛ばすほどの爆発が起き、それが本来あり得た被害を街に及ぼす前に、異次元の穴へと吸い込まれていった。
「(ゼガンっ!)」
共に平和を守った怪獣兵器――言葉を交わすことは叶わずとも、仲間意識を持つには充分過ぎた相手がこの次元から消失したのに、スカルゴモラは思わず絶叫する。
自分が、最初……ゼッパンドンたちの隔離に失敗しなければ、こんな犠牲を払う必要はなかったのに。
〈時空破壊神ゼガンの反応、消失。ですが〉
そこで、胸中乱れるスカルゴモラの耳に、レムからの通信が届いた。
〈ゼナが装備していた通信機から、転送先の次元での健在を確認できました〉
「(本当っ!?)」
〈はい。しかしそれは、ゼッパンドンも同じ――両者はまだ、異次元で戦い続けています〉
レムの報告に、スカルゴモラは顔を上げる。
「(メタフィールドGを利用すれば……私もそっちに行ける?)」
そして、未だ強敵との戦いから逃れられていない戦友の助太刀に向かう方法を、スカルゴモラは思案しようとして――できなくなった。
「どこへ行くつもりだ?」
突如として。背後に出現した凄まじい気配に、その身を射抜かれていたから。
――その声にも、確かな聞き覚えがあったから。
忘れられるはずが、なかった。
衝撃のまま、思わず振り返ったスカルゴモラの目が一瞬、眩い輝きに灼かれた。
「あの日の雪辱を果たすため……貴様ともう一度戦うために黄泉帰った、この私を差し置いて」
明順応を果たした視界が捉えたのは――巻き戻される前の時間軸で、ウルトラマンジードを殺めた最悪の敵。
全てのゼットンを従えると豪語し、事実その身に纏った闇の鎧で、手足として動くゼットンの複製体すら生み出した破滅の魔人。
そして。同類と呼ばれたスカルゴモラ自身が、戦いの末に命を奪い。その後、死者の魂を捉えるカプセルにより、あのダークザギのフュージョンライズに使われた――確かに死んでいたはずの、『あいつ』。
宇宙恐魔人ゼットが――その胸に、リトルスターの輝きを宿しながら、星山市に再臨していた。
Aパートあとがき
ゼッパンドン再登場は、そろそろ守られているか怪しい本作の「架空のTVシリーズのノベライズ」という作風から、多分まだスーツが残っているだろう怪獣として、三体揃えるのに都合が良かったからと、単純にゼッパンドンが筆者の好きな怪獣上位に入るからです。贔屓丸出しの煽りを受けたかのように、スーツ新造枠のはずなのにAパートで退場するベムゼードは本放送版なら多分別のスーツがあるゼットン亜種だと思います……多分。
そしてもう一体、ゼッパンドン以外に再登場した宇宙恐魔人ゼット。これは彼の登場する(というか連載)以前から考えてあった展開なので、気に入って贔屓のし倒しというわけではない……です、多分。気に入っているのは事実なのでちょっと語意が弱いです。ただ復活もちゃんと、何なら『ウルトラマンZ』に繋がる(つもりの)理由があります。
ただ、この先の展開は『ウルトラマントリガー』以前から決めていた構想なのですが、辿り着く前に公式様と一部ネタが被ってしまった部分でもあったりします。巨大ロボ作ってくれた長い間味方だった博士が実は裏切者だった展開は『デッカー』に先んじることができたのですが、この先はちょっとビクビクしながら更新することになりそうです。
・ベリアル融合獣ベムゼード
データカードダス「ウルトラマン フュージョンファイト!」にのみ登場している公式のベリアル融合獣。映像作品には未登場という、ストロング・ゴモラント(本作でのバシレウスの元ネタ)や禍々アークベリアル(本作のメツオルムの元ネタ)と同じ枠の怪獣になります。
この機会に新造枠として登場するも、売りである光線吸収とテレポートは本作で使われ過ぎている能力なのでなんか早々に退場する羽目に。ただ、『ウルトラマンジード』本編に登場しなかったベリアル融合獣でジードに倒される枠を貰えたのはある意味美味しいのかもしれません。
決まり手の密着レッキングバーストはゼットンテレポーテーションで回避できたんじゃね? は禁句でお願いします。吸収防御したジードスラッガーを消化中だったのが運悪くテレポート発動の遅延要素として作用したとかそういう感じでどうかお一つ。