ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第二十一話「復活のZ」Bパート

 

 

 

「(……なん、で……)」

 

 星山市の市街地の中。

 

 本来、最優先すべき事項――眼前に現れた、最大級の脅威を隔離することも忘れて、培養合成獣スカルゴモラは動揺を吐き出した。

 

「(なんで、あんたが……死んだはずじゃ……っ!?)」

「如何にも。私は一度死んだ。間違いなく、貴様の手で殺された」

 

 思わず問うたスカルゴモラに対し。言葉に反し、何の恨みも篭ってないような声音で、宇宙恐魔人ゼットが応えた。

 

「そして――私の魂は、奴に囚われた」

 

 淡々と。ダークザギに利用されたという屈辱を、宇宙恐魔人ゼットが呟く。

 

「だが、そのおかげで……貴様らの起源である血肉と同化したことで、黄泉より舞い戻る幸運を得たらしい」

〈デビルスプリンターの作用で復活した、ということですか〉

 

 星山市の市街地で、特大の混乱に惑わされているスカルゴモラへ助け舟を出すように、飛来したユートムを介してレムが言った。

 

「そう呼ぶのか。ならば、それの仕業だろうな」

〈その割には、精神に影響がないようですが……〉

 

 鷹揚に応える魔人を訝しむように、レムが問う。

 

 デビルスプリンターは、スカルゴモラたちの父であるウルトラマンベリアルの細胞の一部。怪獣を強化・使役するレイオニクスであり、他種族との融合・治癒を可能とするウルトラマンであるベリアルの欠片は、時には滅びた怪獣をも再生させる効力を持っているという。

 

 しかし、その魔力を受けた怪獣は、尽く理性を失い凶暴化するとされているが――その証となる、目の赤い変貌もなく。宇宙恐魔人ゼットは生前と変わらぬ佇まいのまま、スカルゴモラの前に立っていた。

 

「肉の秘めた狂気より、私の意志が勝った。ただそれだけの話だろう」

 

 そのカラクリとなる理屈を、宇宙恐魔人ゼットは、傲然と言い放った。

 

 これにはスカルゴモラだけでなく、レムもしばし沈黙したものの、やがて次の言葉を繰り出した。

 

〈……過去、例のないことですが。リトルスターの出処も、同じということですか〉

「この光か」

 

 問われた魔人は――以前とは少々意匠の変わった、暗黒の鎧に包まれた胸に視線を落とし――そこから透けて出でる、清らかな輝きを認識した。

 

「確かに。私を蘇らせるきっかけとなった血肉が、最初から宿していた物だ」

〈アトロシアスが吸収していた幼年期放射。それを含んだままだったデビルスプリンターと結びついて、復活したようです〉

 

 ゼットの首肯を受けて、レムが状況を解説する。

 

〈先程現れた、ゼットンを含む合体怪獣たち。そしてこの一週間出現した他のゼットンたちからも、かつてあなたが繰り出したゼットンの複製体と同様の、闇のエネルギーが検出できました〉

 

 強大な闇の力で、怪獣の影法師を作り出すことを可能とする生きた甲冑、アーマードダークネス。

 

 その暗黒の鎧を纏った魔人がかつて披露した、ゼットンの複製体を生み出す能力。

 

 今回出現した三体は、以前の軍勢には居なかった顔触れだったが……宇宙恐魔人ゼットが、怪獣と融合するデビルスプリンターを得て復活したのなら。他の怪獣と合体したゼットンの複製体――特に、ベリアル融合獣モドキすら差し向けられるのにも、合点が行く。おそらくはリトルスターに惹き寄せられた怪獣たちを逆に喰らい、その力を尖兵として出力したのだ。

 

〈先日から続くゼットン襲来の黒幕は、あなたですね?〉

「ああ。この状況――我が同類との、邪魔の入らぬ戦いの場を整えるために、動かした」

 

 レムの追求に、何らはぐらかすことなく、ゼットは真相を口にした。

 

 そして、その青い視線を再び、動かす。

 

「……これで疑問は全て晴れたか?」

 

 蘇った因縁への動揺をようやく飲み込め始めたばかりのスカルゴモラを、その視界の中心に据えるために。

 

「ならばもう一度、私と戦え」

「(――っ!)」

 

 最強の生命体を目指し造られた魔人は、かつて自身を下した合成獣への再戦を、当然のように要求した。

 

 ――再び、その姿を見た時点で。敵対することは予想できていた。

 

 だが、この状況を前に。様々な考えが浮かんでは消えて、即座に応じることができないスカルゴモラに対し、魔人は淡々と続ける。

 

「逃げるのなら……私に負けた後と、同じ目に遭わせてやろう」

「(――っ!)」

 

 その言葉が指すものが、一瞬で理解できて。スカルゴモラは迷いを捨てた。

 

 挑発に乗せられるまま、スカルゴモラは両の拳を打ち合わせ、全身の角からフェーズシフトウェーブを放射した。

 

「それで良い」

 

 現れてから、ようやく。初めて満足した様子で鼻を鳴らした魔人は、培養合成獣の生成した亜空間へと、大人しく共に吸い込まれて行った。

 

 

 

 

 

 

「――どうなってるんだ!?」

 

 星雲荘の転送エレベーターが開くなり、リクは思わず声を荒らげながら、中央司令室に飛び出した。

 

「宇宙恐魔人ゼットが復活したって……ルカはあいつと!?」

 

 ベリアル融合獣ベムゼード、その亜種を半ば相討ちで倒した後。

 

 ウルトラマンジードとして活動するための力を当面使い切ってしまい、レムの回収を受けていたリクは、遅れて状況を把握したところだった。

 

 飛び出せば、まさに。スカルゴモラが放つフェーズシフトウェーブが、この世界から位相のずれた不連続時空間へと、蘇ったという恐るべき魔人と――リクの大切な妹自身とを、()の手が届かない戦場まで隔離する瞬間が、中央司令室のモニターに映し出されていた。

 

〈お伝えしたとおりです、リク〉

 

 ある程度、情報が纏まってから。戦う力を失った直後のリクに、現状を報告してきたレムは、引き続き淡々と答えた。

 

「くそ……っ!」

 

 思わずジードライザーに手を伸ばすが、機械はリクの肉体と同期しているために、起動することはなかった。

 

 ギガファイナライザーがない今。妹が挑む恐るべき強敵を前に、駆けつけることができない――そんな己の無力を悟ったリクは、さらに不甲斐ないとは思いながらも、縋るようにレムへ問うていた。

 

「サラは……!?」

〈対峙したゼットン――ゼットンバルタン星人が、予想以上の難敵だったようです〉

 

 レムが切り替えた宇宙空間の映像には、ほんの一瞬だけ。星々の代わりに天球を埋め尽くした無数の火球に囲まれ、それを紙一重で躱す究極融合超獣サンダーキラー(ザウルス)の影が映し出されていた。

 

 次いで、無数の羽影がベリアルの子らの末妹を追って、一瞬だけ映像を埋め尽くし、カメラで追える範囲の外へと消えていく。

 

〈異次元でゼッパンドンと交戦中のゼガンともども、今は応援に向かえる状況ではありません〉

 

 味方の誰もが未だ苦しい状況にあると知ったリクは、己の無力に拳を握った。

 

 異空間で、とびきりの強敵と戦うことになるスカルゴモラと。宇宙空間で、未知の難敵と戦うサンダーキラーSと。

 

 妹たちの危機を知らされながら、そのどちらに駆けつけることもできず。ただここで、心配するしかできない。

 

「リク……」

「……自分を責めないで」

 

 そんなリクに寄り添うように、ペガと、そしてライハとが、呼びかけて来る。

 

「あいつは、ルカと一対一で戦うために、ゼットンたちを動かしていた……あなたが悪いわけじゃない」

 

 同じく。かつては、魔人と戦うルカの下へ、唯一駆けつけることができたのに――今はその力を失ったライハは、痛いほどリクの無念がわかるからか。心底から労るような声で伝えてくれるおかげで、リクも少しだけ冷静になれた。

 

〈ここ最近のゼットンの襲来は、そのための下調べだったようです。相手が用意周到でした〉

 

 レムが補足するように。おそらくはジードのフュージョンライズや、スカルゴモラのメタフィールドの再展開に必要なクールタイムが、ここ数日続いたゼットンの襲来の中で割り出されていたのだ。

 

 星雲荘も、AIBも――ゼットンの連続出現の裏に何者かの作為を予想しながら、まさか死者の復活までは思い浮かばず、裏を掻かれた形になった。

 

 だが。

 

「……デビルスプリンターのせいで」

 

 その理由となったもの。懸念し続けていた父の爪痕が、まさかこんな形で牙を剥くなんて。

 

 あるいはこれは――家族の傍に安穏と居続けるため、目を逸らし続けていた己への罰なのかと。

 

「……大丈夫」

 

 妹たちを守る、という自ら望んだ役目を果たせずに震えるリクへ、ライハがそっと呼びかけた。

 

「ルカたちを信じましょう。あの子たちはもう、そんなにヤワじゃないわ」

 

 ――そう吐き出すライハの声も、微かに震えていた。

 

 だが、リクはそれを指摘することはしなかった。

 

 気丈に振る舞おうとするライハの、心の内側が、リクにも充分わかっていたから。

 

「あなたが――ずっと、一緒に居てあげたから」

 

 ルカを鍛え続けてくれたライハの言葉を、リクは静かに受け入れた。

 

 ……今この瞬間、本当に大変なのは、強敵と実際に戦うルカたちの方だ。

 

 なのに自分たちが、助言をするでもなく。ただ心配に浸っている場合ではないと、気持ちを切り替える。

 

 過去を悔いるだけでは、何も進まない。

 

 今日まで一緒に生きてきた中で、自分たち家族が、何を培って来られたのか。それを信じることが大事な場面なのだと、リクは一度不安を振り切る。

 

〈そのとおりです〉

 

 そんな、リクたちの心境の変化を見透かしたように。

 

 声だけの報告管理システムとして。いつも、見守る側であり続けたレムが、同意を示した。

 

 そして。

 

〈それに――悲観するのは、まだ早いようです〉

 

 レムが告げるのと同時に。モニターの中では、まさにその瞬間――レイオニックバーストを遂げた培養合成獣スカルゴモラが、宇宙恐魔人アーマードゼットを、大きく殴り飛ばす光景が展開されていた。

 

 

 

 

 

 

 互いの存在する座標が、通常の世界からメタフィールドに塗り替わり。

 

 地球環境への遠慮から解き放たれた培養合成獣スカルゴモラが、自らをレイオニックバーストさせ、臨戦態勢を整えるなり。

 

「行くぞ」

 

 宇宙恐魔人アーマードゼットが、開戦を告げた。

 

 スカルゴモラの眼前まで、超光速でテレポートして来たアーマードゼットが両手で構えた長槍――ダークネストライデントの先端が、撓る。

 

 素早く跳ね上がった鋒に対し、スカルゴモラは左足に重心を載せ、腰の捻りで膝前を払うように左手を動かす。刃が届く前に、軌道へ干渉されることを見抜いた魔人の得物は即座に下がり、その隙にスカルゴモラは連動して動いた右手を前に押し出す桜膝拗歩(ロウシーアオブー)の構えを応用した打法に繋げて、得物を叩き落とそうとする。

 

 培養合成獣の打撃が、宇宙恐魔人を捉えるよりも早く。テレポートではなく、その脚を使って後退したアーマードゼットは、後退した勢いを活かして、横回転に切り替えた薙ぎ払いを繰り出した。

 

 ――それを、未来を予見し、そして日々の訓練の賜として読み切っていたスカルゴモラは、桜膝拗歩から変形した腰の回転を続行した、尾の一撃で打ち上げる。

 

 そのまま懐に潜り込んだスカルゴモラの、大角が胸に突き刺さるのを。かつての戦いで、ライハの武術の一端を、見様見真似で修得した恐魔人ゼットは、槍から手放した左腕で流れるように逸らし、直撃を回避する。

 

「(――ふんぬっ!)」

 

 だが、密着した間合いは、槍という長物を武器とする宇宙恐魔人ではなく、己の肉体で全てを粉砕する、培養合成獣の距離だった。

 

 頭突きを弾かれたまま、視界を揺らすその勢いすらも利用して。一回転して戻ってきていた右の拳で、スカルゴモラはアーマードゼットを装甲越しに強かに打ち据え、殴り飛ばした。

 

「くっ!」

 

 筋力と体重で負けたまま、持ち堪えることができなかったアーマードゼットは、しかし空中で体勢を整えて、両足でメタフィールドの大地に着地した。

 

 装甲された足裏でメタフィールドの大地を削りながら、殴られた勢いを殺す宇宙恐魔人を見て――スカルゴモラは、今の攻防で覚えた違和感を、そのまま発信した。

 

「(……前より随分弱くなったんじゃない?)」

 

 かつて戦った時のアーマードゼットならば。大角の一撃を逸らすのではなく、超光速のテレポートで、スカルゴモラの反撃を無為化した。

 

 加えて――技の冴えは、ライハと戦った最中より衰えず、むしろ精度は上がっているものの。それを揮う肉体そのものの、動作が遅くなっている。

 

 その膂力も、レイオニックバーストしたスカルゴモラには一方的に打ち負ける程度のものとなっていた。

 

「……二度目の命を得てから、日が浅いのでな。今の私はまだ、生まれたての頃と大して変わらんだろう」

 

 そんなスカルゴモラの疑惑を、何一つはぐらかすことなく。宇宙恐魔人ゼットは、デビルスプリンターの効果があってなお埋められぬ、己の弱体化を認めた。

 

「この鎧も槍も、残滓から再現した紛い物に過ぎん」

 

 そんな状態でも、アーマードダークネスに吸収されていないことが不思議に思われたが――どうやら、同時に復活したわけではないらしい。

 

「だが、心配するな。この戦いの中ですぐに追いつく……あの時よりも強さを磨いた、今の貴様にも」

 

 強がりではなく。それを単なる事実だと信じ切った嬉々とした声音で、アーマードゼットはスカルゴモラに告げた。

 

 ……この魔人は、あのザギとは違い。虚言を弄するようなことはしないだろうとは、既にスカルゴモラも認識していた。

 

 ならば、彼が同類と呼ぶスカルゴモラがそうであるように。宇宙恐魔人ゼットは激しい戦いの中でこそ、その力を飛躍的に伸ばすことが可能なのだろう。

 

 だが、そうであるなら。

 

「(……そんな状態でも、すぐ戦いに来るぐらい。私が憎いの?)」

 

 もっと慎重に、力を蓄えることはできたはずだ。

 

 それも待てないほどに、その命を一度は奪った己のことを――やはり、恨んでいるのだろうかと。一度、兄の命を奪った仇敵に、気づけば問うていた。

 

「……憎いとは思わん。だが、貴様へ挑まずには居られないのだ」

 

 培養合成獣の調子が変わったのを受けてか。宇宙恐魔人は少しだけ、神妙な様子で答えを紡いだ。

 

「私という命は、最強となるために生まれてきたのだから」

「(……別に、私だって、本当に最強なわけじゃないよ)」

 

 ……心なし。かつては迷いのなかったその声に、微かな自嘲の色を感じ取って。

 

 彼から同類と見なされ、その彼に敗北者という烙印を刻んでしまった培養合成獣は、つい会話に応じていた。

 

「(あんたを倒したのは、ダークザギに分け与えられた力。それが表に出てきたのだって、グリーザのダークサンダーエナジーがあったから……)」

「私に勝ったのは貴様だ」

 

 だが、スカルゴモラが拙く展開しようとする主張を、魔人は一言で切って捨てた。

 

「あの雷を浴びたのは私も同じだ。条件が対等なら、あの結果は貴様の才が勝っていたに他ならない」

「(だから、それはザギの……)」

「貴様は奴ではない。そして奴は貴様を手に入れられなかった。ならばそれはもう貴様の力だ」

 

 ……ウルトラマンキングを始めとする伝説の超人たち。その一人である、ウルトラマンノアを模した暗黒破壊神ダークザギ。

 

 より強大な存在が別に存在する以上、最強の証明という目的のためには、必ずしも打倒スカルゴモラへ拘泥する必要はないはずだ。

 

 しかし、宇宙恐魔人を打ち負かしたのは、紛れもなく培養合成獣であり。彼が、その敗北こそを雪ぐべき恥だと認識する限り、戦いを避けることはできないのだろう。

 

「私が――鎧や光から、新たな力を手に入れたように」

 

 修羅の道を歩むその行いは害悪そのものでも。どこか割り切った性格でもあった魔人の見せる執着に、微かに呑まれていたスカルゴモラは。

 

 アーマードゼットの、微かに緩んでいた戦意が再び漲った宣言を前にして、咄嗟に身構えた。

 

 そして、テレポートを先読みして、振り返ったスカルゴモラは――宇宙恐魔人ゼットの双眸が一瞬、胸のリトルスターの輝きと合わせて。青から紫へと、零す光を変えたのを目撃した。

 

 次の瞬間。スカルゴモラは、こちらの予想を上回る俊敏さで高速移動したアーマードゼットに、テレポートではなく、純粋な機動力で背後を取られた。

 

「(動きが、変わっ――!?)」

 

 何とか槍の直撃を逸らしながら、再び振り返ったその時。魔人の拳が迫る最中、再びリトルスターの輝きが変化した。

 

 今度は、赤色――辛うじてそれを認識した次の刹那。大幅に威力を増した拳を受けて、スカルゴモラの巨体は嘘のように、軽々と宙を待っていた。

 

「(な――っ!?)」

「貴様が私と同じように、戦いを通して力を増すのなら」

 

 赤い拳の想定外の威力でもんどりを打って倒れ、何とか起き上がろうと体勢を立て直すスカルゴモラに対し。

 

 打撃の後、ゆっくりと姿勢を戻すアーマードゼットは、その決意を言葉にして、宿敵と定めた相手に浴びせていた。

 

「あの雷など必要ない。私の手で、貴様の真の力を引き出させる。そして――あの戦いを、やり直させて貰う」

 

 

 

 

 

 

「あれは……まるで、ウルトラマンの――っ!?」

 

 メタフィールド内の戦いを見守っていたライハが、弱体化を認めたはずの魔人の反撃を目にして、驚きの声を発していた。

 

「……タイプチェンジ?」

〈そのようです。恐魔人ゼットに発現した、リトルスターの効果と思われます〉

 

 続けてリクの零した連想を、レムが引き取って解説した。

 

〈観測できた波長と現象から推測すれば……考えられるのは、超古代の戦士、ウルトラマンティガのリトルスター、でしょうか〉

 

 戦闘の様子を中継するものとは別に、レムがかつてベリアル軍が収集したウルトラマンの情報を画面に表示する。

 

〈ティガは通常の姿以外に、それぞれ筋力・俊敏性に優れた特化形態への変身能力を持ち、自在に切り替え戦うことができるウルトラマンです〉

 

 レムが解説する最中。同様のタイプチェンジ能力を持つウルトラマンゼロと比べても、遜色しない滑らかさで姿を変え。ウルトラマンの力を宿した最強の人工ゼットンは、培養合成獣を翻弄する。

 

 曰く。デビルスプリンターの効果を加味しても、死に戻りしたばかりの当人は弱体化し、鎧は紛い物――過去、皇帝に仕えた宇宙人たちに分譲された装甲と同じようなものらしく、かつてほどの猛威を奮わないと思われた矢先。新たな能力を披露する魔人に対し、リクとライハは危機感を募らせる。

 

「レム、僕たちも助けに行ける!?」

〈ネオ・ブリタニア号での戦闘活動及び、メタフィールドへの潜航は可能です。ですが、今はまだ様子を見るべきかと〉

 

 リクたちの逸る気持ちを、報告管理システムはあくまで冷静に受け止め、現状を伝える。

 

〈無策で飛び込んでも、ネオ・ブリタニア号の機動力では的になります。加えて前線に出てしまえば、状況の分析力も低下せざるを得ません〉

 

 未だ、魔人やその配下の宇宙恐竜たちの底が知れない状況で、それは蛮勇だと。

 

 窘められたリクたちが、冷静さを取り戻しながら引き下がった直後。星雲荘――ネオ・ブリタニア号の計器が、大音量の警告音を発した。

 

「今度は何!?」

〈この空間で、異常なエネルギー収束を検知しました〉

 

 ペガの悲鳴にも、レムは淡々と応答する。

 

 だが、続いた報告は、そんな簡単に受け流せるものではなかった。

 

〈場所は月面付近――太陽系を蒸発させるほどの熱量が、そこに発生しつつあります〉

 

 

 

 

 

 

 地球から三億メートル以上離れた、最早上空という表現も似つかわしくない宇宙空間にて。

 

 究極融合超獣サンダーキラーSは、無数にして単一の敵と戦っていた。

 

「べりあるじぇのさんだー」

 

 高速移動のため、翼代わりに展開した触手より。サンダーキラーSは、父ベリアルから受け継いだ電撃技を後方へと繰り出す。

 

 無数の雷蛇の群れは、その先々で次々と標的に直撃し、その動きを止めさせるが……その後ろから、倍する数の、同じ姿をした異形の怪獣たちが湧き出てくる。

 

 サンダーキラーSを追うゼットンバルタン星人の群れは、元は全て同一の個体であったものだ。

 

 だが。サンダーキラーSの攻撃で負傷する度、その一つ一つの肉片から――まるで、プラナリアのように。ゼットンバルタン星人は自身をクローン再生することで、無尽蔵に増殖した。

 

 いや、その初見殺しとなる不意打ちが失敗してからは、ゼットンバルタン星人は能力を隠さず、無傷の状態からでも隙を見て分身を生み出し、その頭数を増やしていた。

 

 既に千体以上に分身した不死身のゼットンバルタン星人が、サンダーキラーSを囲んで追い立て続けるようになるのに、時間はかからなかった。

 

「……もうちょっとかな?」

 

 文字通り桁違いの数の敵に追われながら。やもすれば呑気な声音で、何かを待つようにサンダーキラーSは呟く。

 

 真空の宇宙空間では、直にその声を拾える者は存在せず。音のエネルギーが虚空に解ける頃には、空に浮かぶ白い大地――月が、彼女の目の前に見えていた。

 

 月面に衝突する寸前、直角に近い軌道変更を見せたサンダーキラーSの背後で、ゼットンバルタン星人の群れがその数と勢い故に上手く切り替えせず、次々と月に墜落して行く。

 

 だが、その程度で精強な融合ゼットンは死にはしない。むしろ大地ではなく、同族との衝突で負傷した肉片から、さらに自己増殖を繰り返し、数を増やす。

 

「……あれ?」

 

 それを後目に月面に沿って飛翔していたサンダーキラーSの動きが、突如として鈍る。

 

 突如として発生した重力異常――不用意に天体へ近づいたために、ゼットンバルタン星人が保有する特殊能力の発動を許し、巻き込まれた結果だと気がついた時には、頭上に一匹のゼットンバルタン星人が接近することを許してしまっていた。

 

 頭上から、サンダーキラーSの頭を狙って蹴りを繰り出す一体のゼットンバルタン星人――その脚が、接触までのわずかな時間で、爆発的に体積を増やした。

 

 身長六十メートル程度だったゼットンバルタン星人は著しく膨張し、サンダーキラーSの全身を足の裏に収めてしまうほどの巨大化を遂げていた。

 

 先日戦った、挑発星人モエタランガ・バンテヤの幻影にも劣らぬ体格は、しかも本物の質量を持って、サンダーキラーSを襲っていた。

 

 ゼットンバルタン星人は巨大化した足の裏で究極融合超獣を月面に押し付け、そのまま容赦なく踏み躙った。

 

「……すごいね」

 

 だが、その感触に奇妙なものを覚えた巨大ゼットンバルタン星人が、足を上げてみると。サンダーキラーSは、触手から多重展開したバリアで踏みつけを凌いでいた。

 

「ゼーットットットットット!」

 

 バルタン星人の物に似た独特の音程の鳴き声で、小さな敵の健気な抵抗を嘲笑い、改めて踏み潰そうと幾度となく足を下ろすゼットンバルタン星人――だったが。

 

 迎え撃つサンダーキラーSの声には、微塵も怯んだ様子が存在しなかった。

 

「でも――わたしもできるよ?」

 

 次の瞬間。巨大な足裏が届くより早く、サンダーキラーSの全身が、白雷となって弾けた。

 

 物理的な圧力を伴った光に押されて、月面に倒れ込んだゼットンバルタン星人が顔を起こせば――そこには、極度に肥大化し、八本の硬質な脚を備えた下半身と。塔のように伸びた腹部、その頂点から八本の触手を蠢かす上半身を併せ持つ異形に変貌した、サンダーキラーSが存在していた。

 

 巨大ゼットンバルタン星人にも勝る巨体こそは。周囲への被害、あるいは環境との相性を考慮して、地球やメタフィールドでは自ら封じている、今のサンダーキラーSの、真の姿。

 

 多くの怪獣や超獣たち。そして、宇宙に空いた無そのものたる穴、虚空怪獣グリーザに由来するダークサンダーエナジーと。邪悪なる暗黒破壊神ダークザギのエネルギーを大量に吸収したことで到達した、滅亡の邪神としての第二(ギガント)形態――究極融合巨大超獣サンダーキラー(ザウルス)・ネオ。

 

 その、後ろ向きに伸びた節足動物のような下半身の、顔とも腰とも言える箇所に、不吉な紫色の光が灯った。

 

「ばいばーい」

 

 届かぬ軽い声を合図に迸った、大規模な異次元壊滅現象を示す莫大な光――メガデスシウムD4レイが、巨大化したゼットンバルタン星人を丸呑みにした。

 

 小さな肉片からでも再生する能力を持ったゼットンバルタン星人でも、肉体の存在する時空間ごと破壊されてしまっては、複製元にするための遺伝子物質が残存せず。

 

 巨大ゼットンバルタン星人を完全に消滅させたD4レイの光芒が、さらに横薙ぎへと逸れて行く――それは、異次元壊滅現象が存在する座標を、既に変更したことを示していた。

 

 巨大化した下半身を砲身としたデスシウムD4レイは、雲霞のように迫っていた後続のゼットンバルタン星人たちを呑み込み、同じように跡形もなく消滅させる。

 

 ――しかし、微かに射線から逃れた肉片から、新たなゼットンバルタン星人たちが再生し。

 

 未だ月の空を覆う無数のゼットンバルタン星人たちが、続々と最初の個体同様の巨大化を果たしていた。

 

「うーん……ちょっとしっぱいしちゃったかな……?」

 

 その光景を前に。初めて、サンダーキラーSは不安を口にした。

 

 そんな彼女を嘲笑うように。巨大化したゼットンバルタン星人たちは、ゲル状に変化させた細胞で自分たちを繋ぎ、引き合って行った。

 

 そして……かつて、二代目バルタン星人が、初代ウルトラマンへの復讐で見せた能力のように。

 

 集合した一万体以上の巨大ゼットンバルタン星人たちは、月面にも巨大な影を落とす、全長十キロを越す超巨大な個体となって、究極融合巨大超獣サンダーキラーS・ネオを見下ろしていた。

 

「あー!」

 

 自身のさらに三十倍以上の、圧倒的な威容を前にしながら。

 

 サンダーキラーS・ネオは、その場面に似つかわしくないはずの、喜びの声を弾ませていた。

 

「あはは、すごいすごい!」

 

 続けて無邪気に笑う最中、サンダーキラーS・ネオの巨体が、さらに大きなゼットンバルタン星人の影から消える。

 

「こっちだよー!」

 

 大蟻超獣アリブンタから取り込んだ、異次元蟻地獄を発生させて――月の地下ではなく、ゼットンバルタン星人の超巨体の背後に繋がる次元の穴を開き、転移したサンダーキラーS・ネオは、死角から光線を浴びせに掛かる。

 

 山脈ほどの巨体ゆえ、俊敏な動きなど望みようもないと思われた超巨大ゼットンバルタン星人はしかし、無数に分かれたゼットンバルタン星人の集合体であるという特性を活用して、その不意打ちに対応した。

 

 サンダーキラーS・ネオの八本の触手から放たれた光線、その被弾箇所のそれぞれで、体表が変化。表面が観音開きして鏡面を晒すと、そのまま光線を跳ね返す。バルタン星人に由来する、スペルゲン反射鏡という能力だった。

 

 光線を跳ね返されたサンダーキラーS・ネオが、自身の光線吸収能力で反撃を無力化する最中。さらに超巨大ゼットンバルタン星人の全身の細胞が蠢き、体そのものの向きを動かさないまま、その前後が入れ替わる。

 

 そしてサンダーキラーS・ネオを正面に見据えた超巨大ゼットンバルタン星人は、その全身から膨大なエネルギーを、体の中心付近に集約し始めた。

 

〈――危険です、サラ〉

 

 そこで、異常事態を察知した星雲荘から、レムの通信が飛んで来た。

 

〈超巨大ゼットンバルタン星人のエネルギー反応、急激に増大。これは、既に超新星爆発クラスの……〉

 

 レムが解析結果を読み上げるその間にも、超巨大火球がその熱量を増していく。

 

 ……ゼットンは一兆度の火球を放ち、武器とする。だがその一兆度の火の玉は、無から突然現れるわけではなく、当然生成過程が存在する。

 

 現代の人類文明には再現、解析不能な特殊な力場(ゼットンシャッター)によって遮られ、閉ざされた空間の中。外部からゼットンが注ぐエネルギーで加速された荷電粒子が中心部で衝突し合うことで、超高温状態のプラズマが発生する。外部との接触で暴発するか、その荷電粒子が蓄えた運動エネルギーが力場を突破できる閾値に達するまで注がれたエネルギーは放射線としてすら逃げられず、内圧とともに蓄積され、増加し続ける。

 

 その力場を突破する際、圧縮された中心域の温度は、実に最高一兆度に達する――これがゼットンの火球の正体だ。あくまでも一兆度に達するのは中心域の話であり、火球の表面から大部分は圧縮される前、内部を加熱するための薄いガスにも似た状態のプラズマに過ぎないため、見かけほどの威力は発生しない。

 

 だが、総数一万体を越す、通常の五倍以上の巨大種(巨大ゼットンバルタン星人)が再融合し、純粋なエネルギー量の増加と、数が増えたことでより進化した機能性で効率を上げ、さらに充分な時間を費やし膨張させたこの火球は。その中心域の割合が、仮に通常のゼットンの火球と同じ比率だと考えた場合……おそらくは直径一メートルで切り取っても、その表面温度が一兆度となる規模の、天文的な火球と化していた。

 

 それは太陽系を焼き尽くし、数百光年彼方まで致死量の放射線を撒き散らす滅びの火。かつて、最強のゼットンである宇宙恐魔人ゼットが見せた、百兆度を越える炎の拳にも匹敵しかねない、破滅的なエネルギー。

 

 そんなものが、地球と地続きの宇宙空間で、遂に発射された。

 

「えいっ」

 

 破滅の火球は、力場からその威力を解放する前に。サンダーキラーS・ネオが展開した異次元回廊へ落ち込み、すぐ閉じられたその彼方で、無為に炸裂する運命を辿った。

 

 破壊力は凄まじい、が。この規模では力場が破れる予兆を見落とすこともない。外部への影響を及ぼす前に、巨大化した究極融合超獣が体躯と同スケールで瞬間展開可能な異次元への穴で、容易に処理することが間に合っていた。

 

「ざーんねん」

 

 それを示すようにサンダーキラーS・ネオが触手を揺蕩わせて挑発すると、ならばさらなる規模の火の玉をと言わんばかりに、両手を広げた超巨大ゼットンバルタン星人が再び、火球の生成を開始する。

 

 太陽系を滅ぼすほどの火球すら、サンダーキラーS・ネオなら異次元に追放することで瞬時に無力化できる――だが、それが限界だ。

 

 既に超巨大ゼットンバルタン星人の全身は、火球の生成に用いられる力場を反転させた電磁光波(ゼットン)防壁(シャッター)に包まれている。当然ながら、太陽系を焼き尽くすほどの熱量と、それを直径一メートル程度に凝縮させる圧力にも耐えられるだけの代物だ。

 

 その進化の扉を抉じ開けた、破壊神の一撃(ライトニング・ザギ)を取り込んだ直後ならともかく。今のサンダーキラーS・ネオは、正面から超巨大ゼットンバルタン星人の防御を突破できる火力を保有していない。

 

 故に、一度失敗すれば終わりの状況下で、延々と火球を防ぎ続けなければならない窮地へと、サンダーキラーS・ネオは追い込まれたはずだった。

 

 だが――圧倒的不利であるはずの戦況は、唐突に終息した。

 

 火球の生成を試みていた超巨大ゼットンバルタン星人の発光が、突如として消滅したのだ。

 

〈これは……ゼットンバルタン星人の生命反応が消失。どうやら、絶命したようです〉

 

 変化の原因を走査したレムが、全長十キロメートルを越す超巨大怪獣の死を告げた。

 

〈……どう、して?〉

「あ、お兄さま」

 

 レムに続き、通信に混ざった(リク)に気づいたサンダーキラーSは、自身の頑張りを発表することにした。

 

「さいしょにね、かいざーべりあるくろーでひっかいてたの」

〈なるほど。予めベリアルウイルスに感染させていたのですね〉

 

 レムの答えが、崩壊を始めた超巨大ゼットンバルタン星人の死因、その全てだった。

 

 最初に、まだ一体だったゼットンバルタン星人を、サンダーキラーSが攻撃した際。ベリアルウイルスを注入するカイザーベリアルクローによる一撃を、その後の肉片全ての元となる段階で浴びせていた。

 

 その後の増殖復活は、最初こそ想定外だったものの。全ての肉片にウイルスが潜伏しているのならば、相手がクローン再生する際、ウイルスもともに複製される。後はその体内で、徐々に数を増やしていけば良い。細胞の分裂や、大量のエネルギー生成に便乗すれば、充分戦闘中に病死を狙える。

 

 ベリアル自身は、主に洗脳に用いた能力だったらしいが。その彼が、後にアトロシアスとしてゼロビヨンドを撃破したデスシウムデストラクトのように。あるいは最強のゼットンである宇宙恐魔人ゼットに片腕を捨てさせた、スカルゴモラNEX(ネックス)の毒爪がそうであったように。細胞を破壊する純粋な病魔としても、ベリアルウイルスは応用できる。

 

 そのため、既に何者かに操られているらしいゼットンバルタン星人相手には、純粋な細胞破壊を目的に指示を切り替え、サンダーキラーSはウイルスの増殖を促しながら、自分を囮とした時間稼ぎに徹していたのだ。

 

 結果として、地球に近づかれれば取り逃がしかねなかった頭数を安全に、全て殲滅することができた。途中、月が危うくはなったが、それも無事に終わることができた。

 

 ウイルスというのがどんなものか、先日のモエタランガ戦を経た後、改めて復習していたからこその戦果だと、サンダーキラーSは胸を張る。

 

〈もしも相手がベムゼードのように、ベリアル由来の体質を持ち、免疫を備えていれば……〉

「うん、へいきだったとおもう。でも、ちがうってわたしもわかってたから」

 

 レムの漏らした懸念を、サンダーキラーSはきちんと考えていたと回答した。

 

〈あるいは、科学的な知識を充分に備えた上で、同じ能力を持つバルタン星人なら、病死する前に治療されていたかもしれませんが〉

 

 もしくは、最初からあの規模と出力の超巨大ゼットンとして出現されていたなら、流石に究極融合超獣といえども異次元に封印する以外の対処法は取れなかっただろうが。

 

 そのいずれでもない、自らで十全に思考する知性を持たない合成怪獣は強大な能力を誇りながら、ちっぽけなウイルスを前に免疫が追いつかず、呆気なく死に行く運命となったのだった。

 

「あれ?」

 

 細胞単位で崩壊し、真空に拡散していく超巨大ゼットンバルタン星人の残骸を観察することで、自身の勝利を確認していたサンダーキラーSは――そこで、己が見落としているものに気がついた。

 

「お兄さまはもどってるけど……お姉さまは?」

 

 

 

 

 

 

 地球からは、三次元空間の直線距離ではなく、次元を隔てた空間の中。

 

 二体の怪獣が、互いの命を狙い、鎬を削り合っていた。

 

 時空破壊神ゼガンが両手に備えた鋏から、熱線シザーブラスターを放てば、合体魔王獣ゼッパンドンは自らの名を冠した六角形の光波障壁を展開して、それを取り込み。

 

 ゼガンが敵をこの空間に放置し、帰還するための時空転送光線ゼガントビームの発射態勢に入れば、それを阻止せんと、ゼッパンドンがテレポートする。

 

「それはもう、読めている!」

 

 幾度となく繰り返されたその攻防の果て、自身と同化したゼガンに指示を与えるシャドー星人ゼナは、まんまと撒き餌に喰い付いたゼッパンドンへのカウンターに移った。

 

 元より、機動性ではテレポート能力を持つゼッパンドンが遥かに上。その上に鉄壁の体表とゼッパンドンシールドを組み合わされれば、ちまちまとした削り合いでは勝ち目がない。

 

 故に、肉を切らせて骨を断たんと――こちらに牙を立てようと迫るゼッパンドンに対し、ゼガンは自ら利き手を差し出した。

 

 右腕の鋏、それ自体をゼッパンドンの開いた顎に潜り込ませ。挟む力と、噛む力が、互いの輪郭を歪ませる激突の最中――ゼガンを、衝撃が襲った。

 

 その正体は、ゼッパンドンの伸ばした長い尾。強靭な槍と化したその先端が、ゼガンを背中から貫き、主砲の発射口を兼ねた胸を内側から破壊していた。

 

 ゼッパンドンの暴れる尾は、ゼナを格納した操縦室にも、無視できない圧を持って迫ったが――

 

「おぉおお――っ!」

 

 構わず、ゼナは……ゼガンの闘志を、後押しして。

 

 次の瞬間、ゼガンの右の鋏から最大出力で放出されたシザーブラスターが、ゼッパンドンの喉へと抜けた。

 

 強靭な外皮を持つゼッパンドンといえど、口腔から体内を灼かれては、一溜まりもなく。

 

 逃げ場を塞がれた想定外の圧力に耐えきれず、ゼッパンドンの首が破裂して――体内の高エネルギーと誘爆し、その全身を破壊し尽くした。

 

「……ゼッパンドンを撃破した」

 

 その爆発に、至近距離から巻き込まれ――特に、ゼッパンドンの口の中に突っ込んでいた右腕と、爆発で抜け出た尾に掻き乱された胴の傷が深刻ながらも、ゼガンは生きていた。

 

「だが、こちらの受けたダメージも大きい。自力での帰還は困難だ。キングギャラクトロンMK2(マークツー)の予備パーツにある、転送装置での救援を求む」

 

 そして、未だ枯れぬ闘志を示す声で鳴く、母星の最終兵器の心境を――AIB本部に報告を届けながら、ゼナは読み解いていた。

 

「この情報は、星雲荘にも転送してくれ……わかっているだろう、ゼガン。今からスカルゴモラの応援には向かえない」

 

 既に、ゼットン襲来の黒幕の正体と、その襲来に関する情報は、戦闘中だったゼナたちも報告を受け、知るところとなっていた。

 

 ゼナの思考を通じて、状況を把握したゼガンは、満身創痍でありながら、その窮地に馳せ参じようと猛っていた。

 

 それは、朝倉ルカ――培養合成獣スカルゴモラが、共闘を重ねた怪獣兵器へ、種族を越えた友情を抱いているように。

 

 時空破壊神ゼガンもまた、自らを案じ、共に血を流してくれる彼女のことを、かけがえのない戦友だと認識していたからだ。

 

 彼我の戦力差など。その願いを捨てる理由には、なり得ないのだ。

 

 それがよくわかるから。ゼナは、ゼガンが傷ついた自身を労ることができるように、掛ける言葉を慎重に選んだ。

 

「落ち着け。安静にしなければ、戦わなくともおまえの生命も危うい……それは、彼女の望むところではない」

 

 ゼナの教え子が選べなかった生き方――今のゼナが選んだ道を、クルトに代わって進もうとする、形見(ゼガン)の中で。

 

「信じろ。おまえの戦友は強い。その邪魔をする敵を食い止めたおまえの戦いも……きっと、彼女の勝利に貢献する」

 

 ゼナは、戦いの子(ゼガン)の想いが裏切られることがないよう、共に勝利を祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 宇宙空間で、巨大なゼットンバルタン星人が滅びた頃も。

 

 異次元空間で、合体魔王獣ゼッパンドンが討たれた後も。

 

 不連続時空間で繰り広げられる、最強の生物兵器を目指し造られた命同士の戦いは、まだ続いていた。

 

「いいぞ。既に、今の私の動きにも適応したか!」

 

 俊足からの、槍による一撃を受け止められ。そのまま流れるような反撃を受けたアーマードゼットが、スカルゴモラを称賛する。

 

 ……結局のところ、紫の敏捷を、赤が凌駕することはなく。赤の剛力を、紫が上回ることもない。

 

 魔人の迷いなき闘志が、精神の統一を必要とするタイプチェンジの淀みをなくし、実質継ぎ目のない挙動を可能にするのなら。こちらに変化の隙を狙う機動性がない以上、両方の最大値を、同時に持ち合わせているものとみなして差し支えなかった。

 

 初撃こそ見事に殴り飛ばされたが、今の魔人の腕力は、最初からそうとわかっていればレイオニックバーストしたスカルゴモラが遅れを取るものではない。凄まじい速さも、全盛期のテレポート能力を思えばまだ対処し易いものだ。競走では追いつけないだけで、懐まで踏み込まれれば充分反撃できる。

 

「(へへ……っ!)」

「――笑ったな」

 

 攻防の最中。

 

 またも一撃を防ぎ、反撃を決めたスカルゴモラが無意識に零した思念を拾い上げ。弾き飛ばされていたアーマードゼットは、どこか感情を押し殺した声で確認して来た。

 

「(……ごめん)」

「何を謝る必要がある」

 

 相手が侵略者の類とはいえ、流石に失礼かもしれないと思わず詫びると。スカルゴモラの闘志の緩みを衝くでも、逆上するでもなく、魔人は首を横に振った。

 

「私の攻めを凌げたことが、その発露を抑えられないほどの喜びに値した――それは私に対する敬意だ」

 

 ……多分、違うとは思うが。思えば以前のゼットの方が大概に笑っていた。

 

 彼なりの戦士の理屈を説く魔人は、スカルゴモラの心に起こった情動を見逃さず、指摘を並べてきた。

 

「そして貴様も、より強くなるために造られた存在なのだろう? 生まれ持った目的を果たして喜ぶのを、この私が咎めるものか」

「(……違うよ)」

 

 宇宙恐魔人ゼットの主張を、培養合成獣スカルゴモラは強く否定した。

 

「(私の生きる理由は、そんなんじゃない)」

 

 最強合成怪獣を目指して造られた培養合成獣スカルゴモラが、朝倉ルカとして生きてきた中で見つけた揺らがぬ願いは、もう別にある。

 

「何故、否定する必要がある」

 

 対して、魔人もまた揺らがぬ意志を込めて、その訴えを続けた。

 

「貴様に、創造主の望みよりも優先するものがあるのは当然だ。貴様の心は、誰でもない貴様自身のものなのだから」

 

 ……続いた言葉は、少し予想を外れていた。

 

 スカルゴモラの、家族と一緒に生きていたいという願い。

 

 それを選ぶこと自体は非難するわけでもない論調で、設計思想を同じくする生物兵器が言う。

 

「だが、その心で揮う貴様の力があるからこそ……叶った願いもあるのではないのか」

 

 戸惑うスカルゴモラに、アーマードゼットはなおも続ける。

 

 そして、少なくともその言葉を、スカルゴモラは否定できなかった。

 

 それこそ――ウルトラマンとしてではなく、怪獣として生まれてきて良かったと思えた戦いもあった。

 

 その、相手こそ……

 

「こうして、貴様ら家族の命を脅かすこの私にも、抗えるように」

 

 ウルトラマンの天敵、その頂点である魔人は、己という脅威をよく理解している素振りで宣った。

 

「(……迷惑だってわかってるなら、やめてくれない?)」

「そうはいかん。前にも言ったとおり、私の願いは、私の産み出された目的を果たすことだ。それは誰に命じられたからでもなく、私自身の意志で選んだ道だ」

 

 スカルゴモラが思わず発した抗議を、アーマードゼットはあっさり拒絶する。

 

「創造主とて、所詮は他人。己を曲げてまで従う必要などない。だが……そう造られたという出自も含めて、我らは、我らなのだ。それを自ら否定するのは、そこから続く今の己さえも否定するのと同じだ」

 

 ……だからダークザギは苦しんでいたのだろうと。恐魔人ゼットの言葉に耳を傾けながら、スカルゴモラはふと想う。

 

 (ジード)の同類だった彼と比べて、自分(スカルゴモラ)の同類は、果たして思慮が深いのか浅いのか。ともかく図々しく、話を続ける。

 

「それとも貴様が家族と呼ぶ者たちは、貴様の生まれや――その心を、忌み嫌ってでもいるのか?」

「(そんなわけないでしょ)」

「ならば卑下するな。それは、今の貴様とともにあることを選んだ者たちへの侮辱だ」

「(……それを奪おうとするあんたに言われたくないよ)」

 

 命のやり取りをしながら激励してくる相手に、スカルゴモラは情緒が追いつかなくなって、呆れて。

 

 けれど、同時に。対話を通して、晴れていく迷いもあった。

 

「(でも、そうだね。そう生まれたことに縛られる必要はなくても……それを、拒否する必要だってないんだって。私も、わかってるつもりだった)」

 

 レイオニクスの本能に呑まれた時。朝倉ルカは、血の滾りのままに力を振り回した。

 

 ダークサンダーエナジーに打たれた時。培養合成獣スカルゴモラは、恐怖のままに暴れ狂った。

 

 いずれも乗り越えたはずの苦い経験は、それでも心の軛となって。スカルゴモラの中に、必要以上の戒めとして残っていた。

 

「(今更、大事なものを見失ったりしない。だから……自分自身から目を逸らす必要なんて、ない)」

 

 それが、何に由来する感情なのだとしても。戦いの中で喜びを感じたことを、言い訳する必要なんてなかった。

 

 ただ、自分は自分だと、胸を張って生きれば良い。

 

 そして、そんな自由を貫くために、戦うのだ。

 

「そうだ――己の全てを費やして、かかってこい。それでこそ、本当の戦いだ」

 

 戦いの最中、余計なことに心を割かなくなった敵を認め――満足げに頷いた宇宙恐魔人が、リトルスターの力による高速移動を開始して。

 

 未来視との合わせ技で、培養合成獣がその動きを見切り。

 

 遠い宇宙の星で、同じ目的のために造られて。違う道を歩んだ生命同士が、再びの激突を開始していた。

 

 

 

 




Bパートあとがき



 そういうわけで、恐魔人ゼット復活の理由は特に捻ったわけでもなく、デビルスプリンターでした。『ウルトラマンZ』に繋がる要素、というのは同作のギルバリスの復活が本作の世界線だと同じ原因(大量のデビルスプリンターで復活していたダークザギのフュージョンライズに使われたから)になるからということですね。
 他の素材メンツについては後々言及します。あとがきか本編中かはまだ内緒です。


・ゼットンの火球
 ゼットンバルタン星人の時に急に長尺取った説明の部分。「一兆度の火球と言いながら大きさの割に影響が小さい」「放射線の被害が見えない」と言われることを解決できそうな、それっぽいことを言っていますが、全部独自設定、要するに捏造ですので、ご注意ください。
 とはいえ、現実の人類でももっと高温の状態を作れるので、怪獣なら生身で粒子加速器の真似事をしながら戦闘に利用することもできるのではないかな、という妄想。


・ゼットンバルタン星人
 これまでショーでしか出番がない、名前のとおりバルタン星人と宇宙恐竜ゼットンというウルトラシリーズの二大顔役の合体怪獣です。

 ショーでしか出番がなかったため能力が未知数、とはいえ、なんかゼットンバルタン星人だけやたら強い(実質ダークバルタンと天体制圧用最終兵器という強豪の能力を併せ持つ)のは、宇宙恐魔人ゼットというキャラクター概念が初登場したショーである、ウルトラマンフェスティバル2016のライブステージ第2部「ウルトラマン episode‐Z ~脅威のゼットン軍団~」でゼットの召喚するゼットン軍団の最後の切札的なポジションであったためです。その枠は初登場だったベムゼードに譲れよという気持ちは自分の中にもありましたが、「ジードがベリアル融合獣を倒す」「ゼットンバルタン星人が切札」という展開の方が美味しいかなぁという判断でこうなりました。
 ちなみに、天体制圧用最終兵器のように三次元宇宙の二百光年を消し飛ばすにはちゃんと数日以上のチャージタイムが必要な描写のつもりです。

 最後の火球の防ぎ方は『シン・ウルトラマン』、感染症による幕引きはもちろんH・G・ウェルズの『宇宙戦争』がオマージュ元になります。久々に『ウルトラマンジード』の二次創作らしい古典SFネタになりました。




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