ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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 今回、単一パートとしては過去最長(2万文字オーバー)です。ごめんなさい。
 その分頑張ったつもりなので、お楽しみ頂けたら幸いです。






第二十一話「復活のZ」Cパート

 

 

 

 メタフィールドの中。最強の合成怪獣と、最強の人工ゼットンの戦いが、続いていた。

 

「はぁあああああっ!」

 

 雄叫びとともに、暗黒魔鎧装(アーマードダークネス)で武装した宇宙恐魔人ゼットが、その手に握ったダークネストライデントを薙ぎ払う。

 

「(やぁああああっ!)」

 

 雷鳴のような雄叫びとともに、己が血の力でレイオニックバーストを果たし、自力を増した培養合成獣スカルゴモラが迎え撃つ。

 

 スカルゴモラが全身から放つ、拡散型のスカル超振動波。レイオニックバーストが発生させた超高熱により、秒速百万メートルまで加速した波動は、リトルスターの力で超加速能力を得た魔人の動きすら自動的に捉えてみせる。

 

 だが、超振動波が本来の破壊力を発揮するためには、対象に反射された音波がスカルゴモラ自身に一度戻り、周波数を絞って再発射するというプロセスが必要になる。

 

 その、収束までの一手間を縫い。アーマードゼットはゼットン種特有のテレポートで音波の動きを躱し、周波数の解析を乱し――あるいは、音が伝うための大気そのものを切り裂いて、自動迎撃を潜り抜ける。

 

 そうして届いた漆黒の穂先を、スカルゴモラは肘から生えた角で外側に弾く。

 

 両端に刃を備えているとは言え。長物故、切り返しに生じる魔人の隙を隙を逃さず――柄の中心に、培養合成獣が喰らいつく。

 

「何――っ!?」

 

 一噛みで究極超獣の触手を粉砕する咬合力で槍を捉え、太い首の生む圧倒的な馬力で吊り上げて。なおも抵抗するアーマードゼットの両腕を、スカルゴモラの両手が掴む。

 

 力点が三対二では、宇宙恐魔人といえども抗えず。培養合成獣の顎の力が、その手から槍を奪い取る。

 

 その勢いのまま――ダークネストライデントを敢えて噛み砕かずに吐き捨てたスカルゴモラは、捕縛した相手のテレポート能力を失念していない。

 

 奪われた、まだ壊されていない得物を取り返そうと、アーマードゼットが転移するものと睨み。足踏みとともにメタフィールドの大地を噴火させるレッキングヘルボールを、暗黒の三叉槍を爆心地にして発動させる。

 

 それは、破壊神(ダークザギ)の情報に由来する未来予知ではなく。戦いの中で朧気ながらも掴んできた、敵の定石を読んだ選択、だった故に。

 

「――ふんっ!」

 

 相手が自らそれを外せば、ただ隙を晒すだけの挙動となっていた。

 

「(あぐ……っ!?)」

 

 両手を握られたまま、そこに留まった恐魔人ゼットの、全力の蹴りを脇腹に受け。スカルゴモラは息を詰まらせ、思わず腰を折る。

 

 標的を外した大噴火が、ダークネストライデントを空高く打ち上げるが――知ったことではないとばかりに、両手が自由になったアーマードゼットは、眼前のスカルゴモラに向かって強烈な手刀打ちを繰り出した。

 

 並の怪獣どころか、ウルトラ戦士の命を刈り取るほどの水平チョップが、スカルゴモラの喉笛を叩き潰して半月を描く。レイオニックバーストで向上した耐久と再生能力がなければ、この一撃で終わっていたかもしれない。

 

 だが、軽い脳震盪を起こしながらも。スカルゴモラはそこで踏み止まり、全身をバネにして殴り返した。

 

 テレポート能力を持つはずの宇宙恐魔人は、それを躱さず、鎧で受け――しかし無力化しきれず、打撃に押されて一歩後退る。

 

 その一歩で止まって、またも魔人は前進した。

 

「うぉあああああっ!」

「(りゃあああああああっ!)」

 

 そして、両者その場で足を止めて。クロスレンジでの、打撃の応酬が開始される。

 

 地球圏屈指のパワーファイターの二大怪獣と、ウルトラマンベリアルの遺伝子を合成し産み出されたスカルゴモラ。最強のゼットンとなるべく造られた恐魔人ゼット。

 

 互いが互いの意識を一撃で吹き飛ばすような渾身の拳を放ち、受けた側はそのたびに後退るが、次の瞬間には前進してやり返す、その反復。

 

 それは疑う余地もなく、スカルゴモラに有利なぶつかり合いだった。

 

 強固な鎧で身を固めているとはいえ。リトルスターに由来する、筋力増強の変化を果たしているとはいえ。肉体そのものの分厚さも、純粋な腕力も、そして生命力も、成長を重ねた今の培養合成獣は、蘇生したばかりの宇宙恐魔人を上回る。

 

 しかも、激しい戦いの中で加熱されるレイオニクスの本能が、怪獣使いとしての能力を磨き、さらにスカルゴモラの力を強くする。

 

 強化された魔人の腕力は、確かに肉弾戦に特化した合成怪獣にも匹敵した。だが、そもそも完全に上回っている俊敏さと、テレポートが絶大なアドバンテージを与える機動性を活かし、ヒットアンドアウェイに優れた能力で削る方が、間違いなく有利だったはずだ。

 

 どういう思惑か、それを自ら捨てたアーマードゼットに対し――手加減するつもりなど毛頭ないスカルゴモラは、このまま相手を磨り潰すつもりで、単純な腕力による打ち合いを続行する。

 

 それに危機感を覚えたのは、舞い上がっていたダークネストライデントが地に突き立った頃の、拳の手応えが最初だった。

 

 ……ゼットの後退が、短い。

 

 しかも、返しに浴びた魔人の一撃は、逆に。ほんの数メートル程度とはいえ、これまでよりも大きくスカルゴモラを後退させた。

 

 次の往復は、さらにダメージを負ったゼットの後退が――通ったダメージが、小さく。力を増しているはずのスカルゴモラの後退が――受けたダメージが、より大きく。

 

「(なんで――っ!?)」

 

 殴られた痕を高速で修復し、持ち直しながら――未だ優位に立っているはずのスカルゴモラは、満身創痍へ近づいているはずのゼットを前に、微かな戦慄を覚えていた。

 

〈……品種改良された人工宇宙恐竜(ゼットン)の中には、激しい戦いの中で特殊な成長ホルモンを分泌し、短時間で自己進化する個体が居ました〉

 

 奇妙な勢いで差を縮められる、スカルゴモラの困惑を聞きつけて。一時、途切れていたレムの通信が再開された。

 

〈造られたゼットンの一種である、宇宙恐魔人ゼットも、同様の性質を備えているようです〉

「(今の私の――同類ってことか……っ!)」

 

 前の戦いでは、こちらが格下のためほとんど発揮されなかった――そしてこの戦いの初め、ゼット自身が言及していた特性こそが理由だと明かされて、スカルゴモラは独り言ちた。

 

 戦いの中で成長するレイオニクスの遺伝子に、ザラガスに近いゴモラの体質を組み合わせ。そして暗黒破壊神ダークザギの自己進化プログラムの一部を転写された今の培養合成獣スカルゴモラと、単一種で同等以上の成長速度を発揮するのだから、ゼットンという種の可能性は末恐ろしい。

 

 そんな恐怖を感じると同時に、合点する。敢えて躱さず、不利な殴り合いに魔人が身を投じたのは、単調故に慣れ易い逆境を利用した、自己強化のためだったのだと。

 

 ゼットの方からこちらの土俵に乗り込んできたと思っていたが、むしろスカルゴモラの方が、相手に術中に嵌っていたのだ。

 

「(だったら――っ!)」

 

 それがわかった以上、付き合い続ける義理はない。

 

 ゼットの繰り出した拳を、スカルゴモラは先程までのように正面から受けず、力の流れを外側に逸らし、投げた。

 

「技に逃げるか」

 

 投げをテレポートで無効化した魔人の挑発に対し。野生と武術の共存した――奇しくも、兄の(ジード・)基本形態(プリミティブ)とよく似た構えを取って、スカルゴモラは吠え返す。

 

「(それも私でしょ!)」

「ああ、そのとおりだ」

 

 魔人はどこか満足そうな声とともに、大地に突き立っていたダークネストライデントの真横に出現し、得物を抜き取る。

 

「全てを絞り出した貴様とこそ、私も戦う意味がある」

 

 ただ互いの生命力をぶつけ合う、闘争本能だけの削り合いではなく。それ以外にも――これまでの生涯で身につけてきた全てを用いた形へと、戦いが変わる。

 

 心の勝負。最高の家族とともに生きて育んだ絆を断たれまいとする願いを譲る気はないが、相対する命の、最強を目指す迷いのなさは侮れない。判定は未知数。

 

 技の優劣。最優の師匠とともに積み重ねてきた鍛錬の質と量で劣るはずはないが、純粋な武の才では魔人が上だと認めざるを得ない。合成獣と恐魔人、各々が持つ特殊能力を加味して、結果はやや相手有利。

 

 体の比較。今はまだ、体格で勝るスカルゴモラが有利。だが、先に見せられたゼットの成長性を考慮すれば、それもいつまでもは担保されない。

 

「だが……その全ての面で、今の貴様を上回っておきたかったのだがな」

 

 睨み合いながら、緊張を高めるスカルゴモラに対し。同じように互いの能力を検分し終わったのだろうアーマードゼットが、静かに言葉を吐いた。

 

「そのぐらい追い詰めなければ、あの時の力は引き出せまい」

 

 そして、スカルゴモラの中に眠る、かつて彼に敗北を刻んだ力への執着を覗かせた。

 

 ……確かに、かつて彼を討ったあの時のように。隔絶した力で圧倒すれば、宇宙恐魔人ゼットの成長速度も追いつかず、攻略できる。

 

 伝説のレイオニクスたちは、パートナーであるゴモラやレッドキングを同様の形態へ任意に進化させたと聞くが――スカルゴモラは未だ、自力であの形態に到達したことはない。

 

 ゼットの言うように、ただ追い詰められたからと言って、あの力を再現できるとは限らないのだ。

 

 手詰まりを感じながらも、同時に。この強敵を、どのようにして越えようかという挑戦の喜びで、自らを構成する細胞が武者震いしていることを……スカルゴモラはもう、否定しなかった。

 

 畏怖と高揚を同時に認めながら。互いに攻略の糸口を見出そうと、呼吸の読み合いに移り、戦いが停滞したその最中――メタフィールドの空が割れた。

 

 もう耳に馴染んだ、その音を伴う現象の主を想起して。スカルゴモラは思わず、視線を恐るべき魔人から、空の裂け目に移す。

 

「(サラ――っ!)」

「ですしうむD4れい……!」

 

 名を呼んだ時には既に、スカルゴモラの妹である生物兵器――究極融合超獣サンダーキラー(ザウルス)が、開幕から殺意を全開にして宇宙恐魔人ゼットに挑んでいた。

 

 異次元からの時空崩壊、その投射光に過ぎないために。ゼットン種の光線吸収能力すら貫通する、破滅の輝き。

 

 自らに迫る十条のD4レイの効果を既に知悉していたのか、魔人も受けようとはせず、包囲された着弾地点からテレポートを用いて退避していた。

 

「……もうあのゼットンを退けてきたのか」

 

 合成怪獣と融合超獣の姉妹から、等しく離れた座標より、魔人の声が放たれた。

 

「あれは、単純な破壊力と防御力においては、今の私を凌駕するよう調整していたのだが……ここまで早いとはな」

 

 サンダーキラーSへの反撃ではなく、距離を取って再出現した宇宙恐魔人アーマードゼットは、複雑な声音で、評価を改めるようなことを口走った。

 

「(――妹に目移りすんなっ!)」

 

 値踏みの最中、魔人の声が闘志を滲ませていくのを見逃さなかったスカルゴモラは、吠えると同時に全力の怪獣念力を行使して、アーマードゼットを牽制する。

 

 敵の拘束に成功したスカルゴモラはそのまま、駆けつけてくれた妹に振り返った。

 

「(サラも下がってて、こいつは私の……っ!)」

「――やだっ!」

 

 スカルゴモラが呼びかけた時、既にサンダーキラーSは、デスシウムD4レイの第二射をその胸から放っていた。

 

「わたしも、いっしょにたたかう!」

 

 異次元壊滅現象の光が届く前に、アーマードゼットは怪獣念力による拘束を引き千切り、ダークネストライデントの先端からレゾリューム光線を発射して、相殺する。

 

 強大な暗黒の雷嵐となって放たれるレゾリューム光線と、D4レイの照射数を追加して張り合うサンダーキラーSが、言葉を続ける。

 

「あのときみたいに……お姉さまが、ひどい目にあったりしたら、いやなの……っ!」

 

 究極融合超獣の決意が吐かれた次の瞬間、レゾリューム光線と複数のD4レイの衝突が、互いの制御圧を振り切り、炸裂する。

 

 異次元人ヤプールに由来する力の究極を、わずかに、暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人の編み出したレゾリューム光線が上回ったのか。次元崩壊現象は完全に掻き消され、ただ隕石の落ちたような烈風だけが、スカルゴモラとサンダーキラーSを襲い、巨大な質量を後退させた。

 

「(……そうだよね)」

 

 後退しながらも、残心を続ける宇宙恐魔人に隙を晒すまいと睨めつけていたスカルゴモラは――衝撃波が和らいだところで、妹の決意に頷いた。

 

 かつて、この魔人との戦いで体験したもの。そこには、家族の絆や仲間の大切さの再認だけではなく、危うく家族を喪いかける苦しみも存在していた。

 

 ……あんな想いはもう嫌だと、スカルゴモラが感じるのなら。サンダーキラーSが同じことを想うのも、当たり前だった。

 

「(ありがとうサラ。あなたは優しいね)」

 

 ……愛する妹を危険に巻き込むのは、嫌だ。

 

 だが、意地だけで勝てる保証はない。一人で戦って負けてしまえば、家族を守ることもできなくなる。

 

 そして――目の前で家族が殺される体験を、妹に味わわせてしまうかもしれない。

 

 それなら。痛みを覚悟して、家族を護る力になろうとする妹の勇気を信じる方が、ずっと希望がある。

 

「(戦おう、一緒に!)」

 

 これまでの日々で学んできた大切なことを、スカルゴモラはもう見失ったりしない。

 

 故に、間違った優しさを押し付けず、姉妹の共闘を選んだ合成獣を見て――ここまで戦いに心を踊らせていた魔人は、やや物憂げな気配を漂わせていた。

 

「……やむを得ない、か」

 

 魔人が、逡巡を振り切るように漏らした直後。

 

 初めて見た物に一瞬、注意を奪われていたスカルゴモラの前で。アーマードダークネスの胸部装甲に隠れていた、恐魔人ゼットの胸に宿るリトルスターの輝きが、増した。

 

「(な――っ!?)」

 

 輝きが溢れるまま、何十倍にも巨大化して、アーマードゼットをその中に呑み込んだ光の玉の輝き。

 

 それが、次の瞬きで弾けて――スカルゴモラの意識を、そちらに改めさせる。

 

 解けた光は、人の形をして結ばれ、メタフィールドの大地を震撼させた。

 

「……また、ふえた?」

 

 サンダーキラーSが、愕然とした様子で呟いた。

 

 究極融合超獣が、口にしたとおり。

 

 弾けたリトルスターからは、三体の宇宙恐魔人アーマードゼットが出現し、ウルトラマンベリアルの血を引く生物兵器の姉妹と対峙していた。

 

「……貴様の倒したゼットンとは、理屈が異なるがな」

 

 中央――元の、青いままの目をした恐魔人ゼットが、サンダーキラーSの呟きを拾った。

 

「これは、単なる細胞の分裂ではなく」

「貴様らがリトルスターと呼ぶ、光の力だ」

 

 その言葉に続けて、目の色が赤と紫へ変わった左右の個体が、各々。ダークネストライデントを構えながら、スカルゴモラとサンダーキラーSへ詰め寄って来た。

 

「もはや、複製体のゼットンでは、足止めにもならない」

「ならば、余計な力を割くのではなく」

「私自身が、直々に相手をしてやろう」

 

 その言葉を合図に、三体の魔人が動いた。

 

「はやい――!」

 

 紫の目をしたアーマードゼットは、サンダーキラーSを翻弄する超高速で飛翔した。

 

 超音速の魔人を、究極融合超獣は全身から放出する膨大な稲妻による範囲攻撃で捉えようとする。だが、先駆放電の発生から、帰還電撃に繋がるまでのラグを縫って魔人がテレポートを実行し、雷を掻い潜って究極融合超獣に肉薄した。

 

 そして、その刹那。アーマードゼットの目の色が、赤に変わる。

 

「――っ!?」

「(サラ――!)」

 

 俊足から、怪力に切り替わった魔人の剛槍で薙がれ、十万トン近い体重を持つサンダーキラーSが、呆気なくふっ飛ばされて行く。

 

 それを視界の端で見送った時、既にスカルゴモラの眼前にも、紫色の目をしたアーマードゼットが二体、迫っていた。

 

 ……一対一で、ジリ貧だったというのに。

 

 同じ力を保ったまま、三体へ増えたアーマードゼットに、抗し切れるはずがない。

 

 剛力と俊敏を自在に使い分け、認識と同時に空間を転移し、暗黒魔鎧装を模した武装を用いる宇宙恐魔人の連携攻撃を前に、スカルゴモラも一瞬で叩きのめされた。

 

「(……私には散々、全力を出せって言っといて)」

 

 だが、桁外れに強い生命力と、頑健極まる体躯のスカルゴモラは、まだ立ち上がる力が残っていた。

 

「(あんたは、手を抜いていたってこと……!?)」

「そうでもない」

 

 屈辱と、理不尽への怒りとを吐き出すスカルゴモラに対し。起き上がるのを待つように、分身したアーマードゼットたちは会話に応じた。

 

「私自身の力を増す前、最初からこの手を使えば、貴様には持ち堪えられてしまうと――そう思っていた」

「だが……以前あった負荷を、今は感じない。どうやら思っていたより、許された時間は長いらしい」

「(負荷が、ない……?)」

 

 魔人が何気なく漏らした情報に。呟いた当人よりも、スカルゴモラが着目した。

 

「結果として……手を抜いていた形になってしまったな」

「だが私としても、本来はあの姿になった貴様のために、温存しておきたかったのだ」

 

 だが、その変化に気づかないまま、アーマードゼットは胸の内を明かし続ける。

 

「今の私では、この力に頼らざるを得ないほど――今の貴様も、その妹も、私の予想を越えて強かったのだと。そう誇るが良い」

「(そうだ……サラ!)」

 

 分身した宇宙恐魔人は、全部で三体。

 

 いつかのニセウルトラマンゼロと頭数は同じだが……全盛期に劣るとしても、今のアーマードゼットもまた、単体の戦闘力がギャラクシーグリッターすら越えている。

 

 メタフィールドに到着して早々、D4レイの連射でエネルギーを消耗したサンダーキラーSには、一対一でも荷が重い相手だ。

 

 ……その予想に違わず、宇宙恐魔人の圧倒的な速度に翻弄され、リトルスター由来の能力変化で発揮するパワーに圧倒されたサンダーキラーSは、既に放電で反撃する余力すらなく、尾を掴まれて振り回されるままとなっていた。

 

「う……っ!」

 

 投げられた痛みで呻くサンダーキラーSに、アーマードゼットの一体が長槍を携え、トドメを刺そうと肉薄する。

 

「(サラ……っ!)」

「――だから嫌だったのだ」

 

 そちらに気を取られていると、アーマードゼットの一体が、視線を遮るように転移してきた。

 

「貴様こそ、私との戦いで目移りするな」

「(――退けぇっ!)」

 

 ゼットの心中など、もう知ったことではない。

 

 ただ、姉として妹を救わなければならないと――スカルゴモラは絶叫する。

 

 ……数秒だけで良い。この邪魔だけはされまいと、最大出力の怪獣念力でバリアを展開し、全方位に拡大する。

 

 距離を稼ぐだけの挙動が予想外だったのか、アーマードゼットたちは不意を突かれた形で一瞬だけ対応に戸惑いを見せるが、迫るエネルギー障壁を槍で払い除ける。

 

 その一手で賭けに勝ったスカルゴモラは、得られた時間を活かし、己の両拳を打ち合わせていた。

 

 ――大丈夫、できないはずがない。

 

 自分を受け入れてくれた家族を守り、そして明日もともに笑って過ごすために――今に続く、己の全てを使うと決意して。

 

 スカルゴモラは全身の角から――自らの作った世界を塗り替える、暗黒の波動を放射していた。

 

 

 

 

 

 

 星雲荘に中継される、絶体絶命の危機。

 

 リクたちは当然、それをただ黙ってみているわけではなかった。

 

「レム、突入急いで!」

 

 マルチバースを移動する能力を持った、テラー・ザ・ベリアルの戦列艦であるネオ・ブリタニア号。この新たな日々の中で、元より備えていたその時空移動能力を応用し、位相の異なるメタフィールドに突入する機能を、星雲荘も身に着けていた。

 

 今こそそれを用い、数的不利に追い込まれた戦線へ突入。的を散らして、少しでも立て直す時間を稼ぐ――今こそ命の懸けどころだと、リクもライハも理解していた。

 

 レムだけを突撃させる、なんてことはせず。そんなリクとライハに感化されたのか、ペガも含めた全員で、発進の準備に取り掛かっていたその時、警報が鳴り響いた。

 

「どうしたの、レム!?」

〈同期したはずのメタフィールド境界面の位相が、変動しました〉

 

 リクの問いかけに、レムはこんな時でも冷静に答える。

 

「突入が遅れるってこと!?」

 

 レムの報告を、三人の誰より早く理解したペガが、悲鳴を発する。

 

「そんな……どうして……っ!」

〈原因はルカのようです〉

 

 間に合わない、と。リクの感じた悪寒と同じ理由で嘆くライハを遮るように、レムが言う。

 

「……どういう、こと?」

 

 リクが問う頃には。中央司令室のモニターで、事態の推移が映し出されていた。

 

 ……メタフィールドが、凄まじい勢いで変わっていく。

 

 赤黒い波動を放出する、スカルゴモラを起点として。曇天の空は、より赤黒く塗り替わり。大地には、緑色の発光が点在するようになる。

 

 その変貌の様子を、かつてリクは一度、直接見たことがあった。

 

〈あれは――ダークシフトウェーブです〉

 

 そして、リクが連想したとおりの解析結果を、レムが報告していた。

 

 

 

 

 

 

 培養合成獣スカルゴモラの、メタフィールド生成能力。

 

 それは、ネクサスのリトルスターと同時に宿り、その後も残留したダークザギの情報の一部が、リトルスターの働きを学習したために可能とした――ダークザギに由来する能力だ。

 

 ならば。メタフィールドの形成は、位相を反転させる術を学んだことによる応用であり――現在のスカルゴモラが操る能力の本質は、ダークフィールドの発生にこそある。

 

 故に、スカルゴモラは。自身の生成するメタフィールドを塗り替える、ダークフィールドの展開を、単独で可能としていた。

 

「何……っ!?」

 

 世界が塗り替わるのに気取られていたアーマードゼットが、それだけに留まらなかった変化に気づき、驚愕する。

 

 ……彼の分身が、闇に喰われて消えて行く。

 

 アーマードゼットが得た分身能力は、リトルスターに――ウルトラマンキングの欠片に由来する奇跡だ。だから、メタフィールドの中では、彼がかつて感じたという負荷が軽減されていた。

 

 ……その光の力を、ダークフィールドが塗り潰す。

 

 結果として、ジードの分身(マルチレイヤー)のように、アーマードゼットの分身は消え去り……そして。

 

「……あれ? 痛く……ない?」

 

 打ちのめされていたはずのサンダーキラーSが、傷一つない完全な姿を取り戻し、その身を起こしていた。

 

 ヤプールの実験により、自律した心を持っていても。あくまでも、サンダーキラーSの本質は超獣――スペースビーストにも似た、知性体の抱く恐怖に代表されるマイナスエネルギーで存在する、異次元(ヤプール)の眷属。

 

 まして彼女は、そのスペースビーストを取り込み、自らの力に変えた邪神の幼体。

 

 ダークフィールドでこそ本領を発揮するスペースビーストと同じように。サンダーキラーSもまた、ダークフィールドにより再生し、力を増すことは、ダークザギ戦で証明されていた。

 

「(……私の全部でかかってこい、って言ったのは、あんたでしょ)」

 

 その様を見て、内心で胸を撫で下ろしたスカルゴモラは、敵を睨みつけた。

 

「(裏切者の、闇の力だって――それで家族を守れるなら、使ってやる!)」

「……そうか。くく、こんなこともできたのか」

 

 スカルゴモラの啖呵を受けた魔人は――自らの顔に装甲された掌を当て、笑っていた。

 

「やはり……自らの心で戦う貴様の方が、強いのだな。だが――」

 

 その手を下ろし、闇の中に潜むスカルゴモラの赤い双眸を改めて見据えた魔人は、称賛の言葉を吐き――それから、纏う気配の剣呑さを増した。

 

「私も本来は、闇の眷属だということを忘れるな」

 

 ……ダークフィールドの闇は、アーマードゼットの傷すらも癒やし、その地力を強化していた。

 

 メタフィールドの中に在った際と、受ける補助の変わらないスカルゴモラとは違い。リトルスター以外、より適した環境に立った魔人の方が、強化の幅は著しい。

 

 いや――フィールドの連続展開と維持のため、体力を削っているスカルゴモラの方が、さらに不利だ。進化を続ける培養合成獣の強大な生命力で賄っているとはいえ、位相空間の創造は、決して無視し続けられる負担ではない。

 

 そんなスカルゴモラを庇うように――アーマードゼットの動きに呼応して、回復したサンダーキラーSが駆け出した。

 

 唸りを上げた触手が魔人に迫り、テレポートで回避される。死角に回ったアーマードゼットに対し、サンダーキラーSの全身が白雷となって弾け、攻撃を牽制する。

 

「――えいっ!」

 

 次の瞬間には、肥大化した下半身を持ち、全高三百メートルを越す姿――メタフィールド内では変化できなかった究極融合巨大超獣サンダーキラーS・ネオとなり、巨大な脚の一本でアーマードゼットの不意を衝き、踏み付ける。

 

 膨大な質量と、強化された筋力が魔人を襲うが……そのまま踏み潰す、とは、行かなかった。

 

 ダークフィールドによって強化された魔人は純粋な腕力で、究極融合巨大超獣の脚力と、超質量を受け止めて、拮抗していた。

 

 そこからさらに、人工宇宙恐竜の持つ、恐るべき成長性が発揮され。その力を増して行くアーマードゼットが徐々に、巨大な脚を押し返し始めていた。

 

「――っ!」

 

 リトルスターの補助を得ていた赤い剛力形態、それ以上の怪力を見せるアーマードゼットの凄まじさに、流石のサンダーキラーS・ネオも怯みを見せる。

 

「(サラ、ふんばれ!)」

 

 疲弊した体に鞭打って、戦慄に呑まれつつある妹を援護すべく、スカルゴモラは走り出す。

 

 だが、スカルゴモラが駆けつけるよりも、魔人が究極融合巨大超獣を跳ね除け、絶体絶命に追いやる方が、このままでは早い――

 

「(負けるなーっ!)」

 

 そうはさせないと、自身が間に合うまでの時間を稼げるように、スカルゴモラは妹に向けて、さらなる声援を送った。

 

 ――――そこに込めた祈りが、この先の運命を決める引き金(トリガー)となった。

 

 スカルゴモラは一瞬、自らの鼓動が一際大きく跳ねたのを感じた。

 

 そして、次の瞬間。サンダーキラーS・ネオの巨大な体、その中心から炎が弾け、全身を一瞬だけ、燃えるようなオーラが包み込んだ。

 

「――っ!?」

 

 次の瞬間、宇宙恐魔人の膂力を一気に突き放した究極融合巨大超獣の脚力が、アーマードゼットを踏み潰した。

 

「(え……っ!?)」

 

 眼前で繰り広げられた、大地を砕く妹の逆転劇。

 

 自分たちにとってこの上なく都合の良い展開に、しかしスカルゴモラは足を止め、呆けた声を発していた。

 

〈これは……ブレイブバーストです〉

 

 その原因が、己の勘違いではないことを、レムの通信が保証する。

 

 サンダーキラーSは――度々、ベリアルの子らを苦しめてきた、レイオニクス能力に由来する怪獣の強化現象をその身に起こしていた。

 

 ただ、これまでのそれと違うのは……

 

〈ダークフィールドの補助により、ルカのレイオニクスの力が、バトルナイザーなしで作用を可能としたようです〉

 

 ――そう。

 

 他の誰でもなく。妹の窮地を救わんとしたスカルゴモラの意志が、引き起こした事象だということだった。

 

「(私が……?)」

 

 ダークザギに由来する、スペースビーストの制御能力。かつて敵対した滅亡の邪神ハイパービースト・ザ・ワンにも通じた、スカルゴモラのその特性が、スペースビーストを吸収したサンダーキラーSとの繋がりをダークフィールドで増幅。結果、本来必須のはずの増幅器(バトルナイザー)の代替となり、怪獣使いの力を妹に届かせ強化した。

 

 要はモエタランガの時と同じだと、その理屈はわかった上で。まだ落とし穴があることを、スカルゴモラは覚えていた。

 

「(でも、サラには……)」

〈どうやらダークザギが吸収した際、他のデビルスプリンターや、ルカのレイオニクスパワーと相乗させるため……ヤプールによるプロテクトを、解除していたようです〉

 

 スカルゴモラの疑問に先回りして、レムが答えを口にした。

 

「ペイシャン、が……」

 

 裏切者(ダークザギ)の爪痕により、軽蔑する父(ウルトラマンベリアル)に由来する力を、姉妹で共有することができた。

 

 思わぬ運命の助けを受けたことに気づき、複雑な感情の処理が追いつかず、スカルゴモラたちが立ち尽くしている間に。

 

「……どこまでも楽しませてくれるな」

 

 サンダーキラーS・ネオの踏みつけからテレポートで脱出したアーマードゼットは、流石に大きなダメージが残った様子ながらも、言葉通りの狂喜で身を支えていた。

 

「それが貴様らの、絆の力とやらか」

 

 劣勢にあってこそ、迷いなき闘志を見せる魔人の様子に、ベリアルの娘たちも逡巡を振り払う。

 

「(……そう、かもね!)」

 

 過程がどうあれ、結実したものは紛れもなく。

 

 今この瞬間の、大切にしたいと想う自分たちの在り方。それを守るため、自らの意志で引き出した力だと認め、スカルゴモラとサンダーキラーSは奮起する。

 

「行くぞ、強き……いや。強くなりし者たちよ!」

 

 それを見届けたアーマードゼットが、再び挑戦の意志を示し、激突を再開した。

 

 

 

 

 

 

 メタフィールド、改め。ダークフィールド内の闘争は、決着に近づきつつあった。

 

 ブレイブバーストを果たした究極融合巨大超獣(サンダーキラーS・ネオ)のパワーは、今のアーマードゼットを完全に凌駕している。それは人工宇宙恐竜の成長速度を持ってしても、まず追いつけないほどの差だ。

 

 しかも――

 

「(サラ、そこっ!)」

 

 怪獣使い(スカルゴモラ)の思念が、サンダーキラーS・ネオに届けられ、長大な触手が横薙ぎに振るわれる。

 

 触手の襲いかかった先は、何もない暗い空――そのはずだったが。

 

「――くっ!」

 

 刹那の後、テレポートでその場に出現したアーマードゼットが、触手の直撃を何とか槍で防ぎながらも、膂力の差に圧倒され、弾き飛ばされる。

 

 レイオニクス能力により、感覚の繋がった姉妹は――スカルゴモラが未来予知で得たビジョンを、リアルタイムで共有できるようになっていた。

 

 その結果、宇宙恐魔人がゼットン種として持つ死角へのテレポートも、サンダーキラーS・ネオを撹乱することもできなくなっていた。

 

「……舐めるなっ!」

 

 猛烈な勢いで弾かれたアーマードゼットは、自らに加えられた運動量を取り込む横回転とともに、ダークネストライデントの柄を元の何倍にも伸ばし、遠心力まで載せた横薙ぎの一撃を繰り出していた。

 

 先手を読まれた魔人の意地が放った反撃は、サンダーキラーS・ネオの触手群が展開した無数のバリアを粉砕。しかしそれで威力を弱め、勢いの衰えたところに複数の触手が絡みついて捕まえる。

 

 その時には、アーマードゼットは既に得物を手放し、転移していた。

 

 アーマードゼットの再出現先は、主力を妹と交代した格好となった怪獣使い(レイオニクス)・スカルゴモラの背後。

 

 肉を切らせて骨を断つ、魔人の反撃を無力化するため。サンダーキラーS・ネオの対応力の要である触手群が停滞したその隙を縫って、恐魔人ゼットは宿敵を狙う。

 

「油断は――していないようだな!」

 

 ……自身の動きが予知されていることなど、この魔人が理解していないはずもない。

 

 そんなことは、既に幾度となく打ち合ったスカルゴモラも確信していた。

 

「(当……然っ!)」

 

 テレポートと同時に繰り出された拳の直撃を、その場で半回転を始めていたスカルゴモラは芯を逸らしながら受け、己の拳で打ち返した。

 

 カウンターを叩き込んだ格好となったものの、既に腕力は逆転していた。打ち負けたスカルゴモラが後退する――が、流石に思い切り殴り返された魔人も動きが鈍ったその隙に、余力を取り戻したサンダーキラーS・ネオの触手が介入し、仕切り直させる。

 

「きらーとらんす!」

 

 さらに、サンダーキラーS・ネオが、触手の先端を超獣たちの一部に変化させる。

 

「いっせいはっしゃ!」

 

 光線吸収能力で無効化されない実体弾主体の大火力が、未来予知で捕捉された魔人の転移先に殺到。

 

 魔人は即座にもう一つの防御手段、電磁光波障壁(ゼットシャッター)を展開して、集中砲火に備えようとするが――

 

〈喰らえっ!〉

「――なん、だと!?」

 

 別方向から突如飛来した火線が、展開途中の一瞬しか存在しない弱所を狙い撃ち、バリアの崩壊を導いた。

 

「(お兄ちゃん! 皆も!?)」

〈助けに来たわよ、ルカ!〉

 

 アーマードゼットを撃った、乱入者――それは、ここぞというタイミングでダークフィールドへの突入を成功させた、ネオ・ブリタニア号だった。

 

「くっ、どこまでも……!」

 

 苛立ちを吐き捨てながら、無数の火砲に撃たれた魔人が立ち上がり、頭上を過った機影を睨みつける。

 

「……いや。貴様らの共にあろうとする意志と力に対して、私の見立てが甘かっただけか」

 

 魔人の視線を遮るように、ネオ・ブリタニア号の前に出たスカルゴモラと、まとめて守護するように展開されたサンダーキラーS・ネオの触手を見据えたアーマードゼットは、戦いの中で生じた余計な怒りをそのように内省して、鎮め。

 

 代わって、その肉体という頑強な器の中に、莫大な熱を発生させ始めた。

 

「ならば――全員纏めて、終わらせてやる!」

 

 全身を発光させるアーマードゼットが始めたのは、ゼットン種の代名詞とも言える火の玉の生成だ。

 

 スカルゴモラの肉体は既に、通常の一兆度の火球には耐性を得ている。

 

 アーマードゼットもそれを見抜いていたから、ここまでの攻防では用いて来なかった。

 

 だが、戦いの中で成長を重ねた魔人が遂に解禁した奥の手は当然、並の火球ではなく。

 

 ゼットン種の頂点である彼だけが作り出せる、百兆度(EXゼットン)すら越えた最高温度と、恒星系すら焼却しかねない持続時間を両立した、究極の熱量だった。

 

 ダークフィールドの補助を受けた中、最大威力のための自爆すら覚悟したそれは、ここまでの攻防とは桁が違う。来ると先読みできていても、ネオ・ブリタニア号は無論、レイオニックバーストした培養合成獣も、ブレイブバーストした究極融合巨大超獣も、そのまま受けても、不用意に迎撃して誘爆させても、耐えようのない破滅の一撃だ。

 

 曰く、サンダーキラーSが抑えたゼットンバルタン星人は、今の彼をも上回る破壊力を発揮できたそうだが。単調な複製体なら対処できたからと言って、速度や戦闘技術、そして何より、駆け引きに必要な己の心を持つ宇宙恐魔人ゼットが逆転を期して繰り出す切札を、同じように凌げるとは思えない。

 

 それなら……!

 

「(サラ、防御任せた!)」

「無駄だ。あの時の貴様以外に、防げるものか!」

 

 スカルゴモラの飛ばす指示に、高速移動を開始した魔人の声が告げる。次元の穴による防御や回避を試みたところで、神速で移動する魔人の攻撃からは逃れられない。

 

 ……だから、用意の上で、迎え撃つ。

 

 未だ物にできていないスカルゴモラNEX(ネックス)の力に賭けるのではなく――今この時点の、自分が選べる全てを使って!

 

「(スカル超振動波!)」

 

 頭の大角から発射したのは、スカルゴモラの十八番。古代怪獣ゴモラから受け継いだ、超振動波現象を利用した、超音波攻撃だ。

 

 超高熱で加速され、雷速をも上回る速度になった破壊波動を、しかしかつての戦いで、アーマードゼットは既に見切っている。

 

 ――だから、彼自身を狙ったわけではない。

 

 スカル超振動波は、太陽の核が大気の層を、表面よりも高温まで加熱するのと同じように。ゼットがその両手に抱えるように出力し始めていた火球の力場内部に作用して、魔人の調整を乱すためのエネルギーを、その中に注ぎ込み始めていた。

 

「暴発狙いか……だが、捻じ伏せる!」

 

 ゼガンとゼッパンドンの激突に着想を得たスカルゴモラの狙いを、一瞬で看破した恐魔人ゼットはその全身からさらに力を振り絞り、勢いを増す焔の猛りを抑え込む。

 

 その上で、炸裂するまでの時間を見切り、テレポートでスカルゴモラたちの死角に瞬間転移する。

 

 スカルゴモラの予知した未来を共有していたサンダーキラーSは、魔人と自分たちを遮るための空間破壊を既に始めていた。

 

 だが、それは。鈍重な超巨大ゼットンバルタン星人に対してならともかく、宇宙恐魔人ゼットを前にしては一瞬遅い。

 

 サンダーキラーS・ネオ自身の巨体が隠れるまで空間の亀裂が拡がる前に、アーマードゼットの繰り出した火球が炸裂し、究極融合巨大超獣を葬り去り――彼女が用意した異次元回廊も消滅して。あるいは窮地に覚醒するスカルゴモラNEX以外の、全てを灼き尽くす――はずだった。

 

「な……に――っ!?」

 

 そんな魔人の計算を狂わせた要因は――スカルゴモラが、背中の八本角から三度放っていた、フェーズシフトウェーブ。

 

 汚れた水を棄て、真水を張り直すように。術者自身が維持を放棄したダークフィールドの濃度が薄まり、再びメタフィールドに近づくことで、亜空間の環境が激変する。

 

 結果として。究極融合巨大超獣は、第一形態に退化・縮小し――展開途中だった次元の穴に、すっかりその身を隠すことが間に合って。

 

 自身の力が突如として減退した宇宙恐魔人は、着弾の瞬間まで抑え込めるように調整した力場の操作を誤り、火球の制御を失った。

 

 そして次の刹那、全てを吹き飛ばす、滅びの焔が解き放たれていた。

 

 

 

 

 

 

 宇宙恐魔人ゼットの、命を削るほどの最大火力。

 

 炸裂したその猛威を、正面からの直撃は空間の亀裂を介し、異次元に流し込むことで躱せたとしても……それはあくまで一方向。

 

 消し飛んだ足場も含め、穴で阻止した以外の全方位から、余波として強烈な輻射熱と放射線が荒れ狂うのまでは、防ぎきれず。

 

 万全なら耐えられるそれも、激しい戦闘行為に加えてメタフィールドとダークフィールドを合計三回――不発を含めれば、四回も連続展開して消耗を重ねたスカルゴモラの体力を奪うには、充分過ぎて。

 

 それでも、破壊力が吹き抜けて――メタフィールドを解除したところで、地球も致命的な被害を受けなくなるまでは、意地で持ち堪える必要があった。

 

 だから、異常気象程度にまで弱まった熱波が星山市を駆け抜ける頃には。通常空間に帰還したスカルゴモラは自重を支えきれなくなって、負担の軽い人間態になりながら、熱を帯びた路面に倒れ込んでいた。

 

「お姉さま!」

 

 すぐに駆け寄ってきたのは、同じく地球人の少女に擬態したサンダーキラーS――サラだ。

 

「ルカ!」

 

 遅れて、不時着したネオ・ブリタニア号から飛び出してきた(リク)師匠(ライハ)が駆け寄る頃には、サラが浴びせてくれた治癒光線のおかげで、ルカは喋る程度の力を取り戻せていた。

 

「お兄ちゃん、ライハ……ありがとう。サラのおかげで、もう大丈夫」

 

 サラが擬態を一部解き、裾から伸ばした触手に抱えられたまま、ルカは心配してくれた二人の呼びかけに応えた。

 

「むしろ、こっちが心配したよ。またあいつの前に出て来ちゃうなんて」

 

 大破こそ免れたものの、ネオ・ブリタニアが受けたダメージも深刻だった。腰を抜かしたペガが中央司令室に居残るほどの激しい揺れに晒されて、艦体も充分な冷却が必要なダメージを受けている。

 

 今はゼロが居ない。もしもまた、ゼットに家族を奪われることになれば――そんな事態を想像するだけで、ルカは気が気ではなかった。

 

 だが、そう感じるのが自分だけではないことも、既に承知していたから。

 

「――ルカたちだけに戦わせられないよ」

 

 かなり無謀な突撃だったことに、若干の後ろめたさを覚えた様子ながらも。リクがそう理由を述べるのに、ルカは頷きを返せた。

 

「……だよね、ありがとう」

 

 兄や師匠が、レムだけに任せず助けに来てくれたことへ、ルカは素直に感謝を告げた。

 

「サラが居なかったら、絶対負けてたし……ネオ・ブリタニア号が来てくれなくても、多分、最後も無理だった」

 

 サンダーキラーSという大戦力は言うに及ばず。戦況を見守っていたネオ・ブリタニア号がこの上ないタイミングで乱入し、ゼットの体力を削れていなければ、最後の駆け引きは間に合わなかったかもしれないと、ルカは振り返った。

 

「だから、生き残れたのはみんなのおかげ。助けに来てくれて……それに、無事で居てくれて。みんな、本当にありがとう」

 

 これからも、運命を共にできることに、感謝の想いを込めて。ルカは笑顔を家族に向けた。

 

 それを見届けた家族もまた、各々に笑みを浮かべてくれて――

 

「は……ふはははは――っ!」

 

 しかし、直後響いたその笑声は、家族の誰が発したものでもなかった。

 

 無論、AIBの戦友たちの物でもなく――街中に横たわった、発光する巨大な黒い塊から発せられた音だった。

 

「……今度は、笑ってくれたな」

 

 どこか、満ち足りた様子で息を吐いた、光を灯す黒い塊の正体は――――宇宙恐魔人、ゼットだった。

 

「まだ、生きて――!」

「――待って、サラ」

 

 姉を触手から降ろし、本来の姿に戻ろうとする妹を、何とか自力で立てるようになったルカはそっと制した。

 

 ……自らが扱うのだから、ゼットンたちは一兆度の熱量にも耐え得る機構を備えている。

 

 だが、そのセーフティを威力のために自ら解除し、挙げ句至近距離で暴発させてしまった宇宙恐魔人ゼットは、酷い有様となっていた。

 

 その身を守っていたアーマードダークネスのレプリカは完全に消失し、それに守られていたはずの下半身が丸ごと消し飛んでいる。続く胴の中身も、リトルスターを宿す胸の真下まで焼失し、両腕が肘の辺りで千切れ飛んでいる。デビルスプリンターを取り込んでいるとはいえ、生きているのが不思議の重傷だった。

 

「……ねぇ、ゼット。あなた」

 

 故に、間違いなく戦闘力を喪失したと判断でき。

 

 そして、その声に――あれだけ満ちていた闘志がもう、聞き取れなくなっていたから。

 

 ルカは、戦いの中で感じたことを、彼に問うてみたくなった。

 

「ゼットンたちをけしかけてたのは――私の家族を、殺さないようにするためだったんだよね?」

「……えっ?」

 

 ルカの問いかけに、周りを取り囲む家族が一瞬、絶句した。

 

「……気づかれていたか」

「そりゃ、ね」

 

 全てをぶつけ合う真剣勝負。

 

 攻め入るための相手の隙を探り合う中で、ゼットがスカルゴモラの躊躇いを見抜いたように。スカルゴモラもまた、ゼットが抱く迷いの気配を、見逃していなかった。

 

 ……その正体に確信が持てたのは、さっきの笑い声を聞いてようやく、ではあったが。

 

「……どういうこと?」

「先に家族が死んでいては――もし私に勝っても、貴様の姉が笑えないではないか」

 

 現実には危うく殺されるところだったサラが、困惑の果てに漏らした疑問へと。何を自明なとばかりに、恐魔人ゼットは、微かに苦笑しながら答えた。

 

「ルカの……笑顔……?」

 

 ――それが、きっと。自分と同じ理由だったから。

 

 思わず、といった様子で。リクの零した言葉を、重傷の魔人が首肯する。

 

「ああ。他の者ならいざ知らず……同じ目的で産み出された存在が、この私に勝ったというのに。その結果を喜べないなど――耐えられなかった」

 

 その声には。彼が一度目の生を終える間際の、決死の訴えに滲んでいた、痛切な響きが蘇っていた。

 

「勝者が誇れぬ戦いなど。それで頂点に立ったところで、虚しいだけだ。違うか?」

 

 反問した後、恐魔人ゼットは首を小さく左右に揺らして、自嘲した。

 

「……そんなことを考えるに至ったのは、私も一度死んでからだったがな」

「そのために、折角生き返ったのに、死ぬ気だったの?」

「まさか。誰が負けてやるものか」

 

 ルカの重ねた問いに対しては、即座の否定が返ってきた。

 

「あの時の貴様になら、勝つ算段はあった。勝つためには手を抜けぬからこその小細工だ」

 

 著しく弱体化していたはずなのに、本気で確信していたのだと伺わせる声音で、宇宙恐魔人は培養合成獣の問いに答えた。

 

 ――本心を隠すとしても、虚言を弄しはしないだろう。そんな見立ては、どうやら当たっていたらしい。つまり、参戦したサンダーキラーSたちに向けた殺意は本物だったわけだ。

 

 ……なら、こっちも殺す気で袋叩きにしたのは間違いじゃなかったと、ルカは少し安心した。

 

 そんなルカの心中に、気づいているのかいないのか。宇宙恐魔人ゼットは淡々と身勝手な答えを続ける。

 

「私が勝てば、再び最強を目指す資格を得たとして、遠慮なく笑わせて貰っていた。だが、一度は負けた身が、相手の勝利を考えないほど傲慢にはなれなかった……そんな気持ちで挑んだ時点で、負けるしかなかったのかもしれんがな」

 

 もし、メタフィールドでの戦いに、ウルトラマンジードが参戦していれば。シャイニングの時間操作には、宇宙恐魔人ゼットといえども干渉できないことを、既にウルトラマンゼロが証明している以上――その発動を止めるには、先んじてジードを排除するしかなくなるだろう。

 

 そのために息の根を止めるか、それとも戦いに立ち入らせないようにするかの二択で……勝者の笑顔を望んだ魔人は、後者を選んだ。

 

 サンダーキラーSについても、その能力を理解していたから。自身を凌ぐ破壊力を与えたというゼットンバルタン星人をぶつけておいて、勝利ではなく、その攻略の早さにだけ驚いていた。それは彼女を倒すためではなく、あくまでも足止めとして差し向けた刺客だったからだ。

 

「どちらにせよ、二度目はない。その妹の足止めに失敗した時点で、今度こそ私が勝つ以外にないと思ったが」

 

 己の勝利を諦めてはいなかったからこそ。刺客を退け、敵として参戦したルカの家族を前にしても、魔人は引き下がれなかった。

 

 復活を知られれば。そして思惑を悟られれば、次からの戦いは望む形になりようがないと、ゼットは思っていたらしい。

 

「おまえたち家族は、私の想像以上に強かった。だから全力で戦って、また敗れ――しかし今度は、勝者の笑う戦いができた」

 

 最強を求めた人工生命体もまた、その敗北を誇るように笑っていた。

 

「おかげで……あの惨めな敗北も雪げた。これで満足して、逝ける」

「……勝手に満足しないでよ」

 

 そのまま、命を繋ぎ止める意志の力を緩めようとした、同類に。

 

 ルカは、憤りを込めた制止の言葉を吐き出した。

 

「……何?」

「好き勝手に暴れて、一人で勝手にやり遂げたつもりになって。馬鹿じゃないの」

「……私の存在を愚弄する気か」

 

 微かに。安堵に満たされていた人工生命体の声に、怒りの感情が滲んだが。

 

 ルカは――培養合成獣スカルゴモラは、それに怯まず続けた。

 

「馬鹿にもするよ。だって――あなたは自分の願いを、途中で投げ出そうとしているんだから」

 

 宇宙恐魔人が、勝利した培養合成獣が笑えなかったことを、許せなかったように。

 

 ルカもまた、ゼットがここで終わろうとすることを、無性に腹立たしく感じていた。

 

「貴様こそ、何を言っている。見逃してやるから、また挑めとでも?」

「そうだよ。これからは、誰も無意味に傷つけない……あと、私の命も保証してくれるなら」

 

 自分こそ、勝手なことを言っていると――過たずに認識しながらも。

 

「ちゃんと合意の上なら、今度は誰の手出しもなしで、戦っても良い」

 

 培養合成獣スカルゴモラは、その意志を宇宙恐魔人ゼットに伝えた。

 

「……ふざけるな」

 

 ルカの提案に対して。身内の誰より早く、重傷の魔人がその顔を起こし、怒りを込めた視線で射抜いてきた。

 

「それは、堕落ではないか……!」

「道半ばで諦める方が、マシ?」

「当然だ。真剣に取り組まない戦いなど、何の糧になる!?」

 

 消えかけていた命の火を再び燃やして、魔人が吠える。

 

 その反発は当然あるものと――彼を前より理解していたルカは、怯むことなく問い返した。

 

「でも。あなたがもっと強くなって、最強だって証明するのに……本当に、誰かの命を奪う必要があるの?」

 

 純度を理由にするのなら、そもそも生き死に自体も主題ではないだろうと。

 

 現に、ウルトラマンジードを殺さないという方法を選べたのなら――戦う相手の命を奪わないという道も、あるのではないか。

 

 彼の願いは、他の誰か(ウルトラマン)の抹殺などではなく。ただ純粋に、武の高みを目指すことなのだから。

 

「死んだらそこで終わりでしょ。真剣に強くなりたいだけなら、相手と命を取り合わなくてもできるよ」

 

 そこでルカは、事態を見守ってくれている家族――その内の一人である、己の師匠を振り返った。

 

「――私はライハと、ずっとそうしてきたから」

 

 まだ、技しか比べてなかった最初の攻防で――前よりも強さを磨いたと、ゼット自身が認めた自分を、引き合いに出して。

 

 相手の反論を封じたルカはそのまま、己の裡に初めて生じた欲望を吐露した。

 

「それに、私も……もっと強くなって、またあなたと戦ってみたいんだ。今度はちゃんと、最初から最後まで一対一で」

 

 そして、その理由まで。ルカは素直に告白する。

 

「だって……生まれて初めて、戦うのが楽しいって、思えたから」

 

 ただ、自分や仲間の勝利を喜ぶのではなく。

 

 ただ、暴力を気儘に揮う獣の愉悦でもなく。

 

 全力をぶつけ合い、競い合い、磨き合うこと自体が楽しいと――そのために造られた命のはずなのに、無垢にそう思えたのは、今日が初めてのことだった。

 

「……楽しかった、のか」

「うん。あなたが、私の家族を傷つけないでくれた間は」

 

 ゼットの問いに、ルカは本心から頷いた。

 

 ……宇宙恐魔人は培養合成獣のことを、生まれて初めて(まみ)えた同類と呼んでいた。

 

 なら、きっと。戦うのが楽しいと、気持ちを同じくする相手と出会ったのは、魔人にとっても初めてのことだったのだろう。

 

 それを示すように。彼の命とともに消えかけていたリトルスターの輝きが、精神の変化を示すように増し始める。

 

 微かに、呆けたように。そのまま思索に沈むように黙したゼットへ、ルカは続ける。

 

「あとね、もう一つ……あなたが、その生き方に本気だったから。私たちは、ダークザギに負けずに済んだ」

 

 宇宙恐魔人ゼットは、失われた時間の中で(リク)を奪った怨敵だったが――同時、正気を喪ったスカルゴモラに彼が挑み、一矢報いたことで、師匠(ライハ)の命が救われ。その結果、(ルカ)の心が消えずに済んだのだと、他ならぬダークザギ自身が、恨み言を吐いていたのだから。

 

 同族意識だけでなく、その因縁に感じる恩義もあって。

 

 それを本人の前で振り返る時間が、戦いの果てにようやく掴めたから。

 

「そのことには、感謝してる。だから……その根っこは、諦めないで欲しいんだ」

 

 自分本位な願いだとは、薄々自覚しながらも。

 

 それでも伝えずには居られなかった想いを、ルカは口にした。

 

「……もちろん私も、負けてはあげないけどね」

 

 最期に付け足した言葉も含めて。ルカの主張を聞き終えた宇宙恐魔人ゼットは、暫しの沈黙の後――さらに輝きを増していたリトルスターの光量を鎮めながら、首を大地に降ろし、その視線を逸らした。

 

「……激励されたのは、生まれて初めてだな」

 

 述懐する声には、戸惑い、隠しきれていない感情が、薄く滲んでいた。

 

「だが、奴に利用され――そして己の意志で、貴様らを傷つけたのも私だ。感謝を受ける資格などない」

 

 次の瞬間には。魔人はそんな浮ついた感情を削ぎ落とし、丁重な辞退を口にする。

 

「……しかし。これでも敗者の自覚はある」

 

 胸から上しか残っていない身で、緩慢ながらも器用に起き上がり。宇宙恐魔人ゼットは再び、その青い視線を同類(ルカ)に向けた。

 

「いいだろう。勝者の求めに従い……見苦しくとも、また挑ませて貰う。私の生きる意味に」

 

 真正面から、その決心を、生きる意志を。ゼットはルカに、宣誓した。

 

「……せいぜい、後で悔やまぬことだ」

 

 ――自分が、自分らしくあるために。勝者が悔やむ戦いを許せない。

 

 その一心で化けて出た敗者(ゼット)は、最後にそんな脅し文句だけを残して。

 

 四肢を喪失した肉体のまま、ゼットン種としての超光速のテレポート能力を発動し――地球上から、その姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

「……ごめんね。お兄ちゃん、みんな」

 

 宇宙恐魔人ゼットが姿を消した後。静かに我に返った様子のルカが、リクたちを振り返った。

 

「……ごめんね。皆を痛い目に遭わせた、勝手な奴だったのに。逃しちゃった」

「お姉さま……」

 

 戸惑いが最も深い様子の妹に、ルカが視線の高さを合わせて、謝罪していた。

 

「えと……ううん。あのまじんさんも、ほんとはわるいひとじゃなかったんだよね?」

「えっと……いや、あいつは絶対悪い奴だったけど……」

 

 姉の行動を自分なりに解釈しようとしたサラが、健気に首を傾げるのを。困ったように受け止め訂正しながら、ルカがぽつりと本音を漏らす。

 

「……あのまま、死んで欲しくなかったんだ」

「そっかぁ……じゃあわたし、気にしないよ」

 

 理不尽への報復を完遂しないことで――ある意味、家族を裏切る後ろめたさを感じてか。俯いてしまう姉に対して、サラは優しく首を振る。

 

「お姉さまが、かなしむより……ハッピーなほうが、わたしもうれしいから」

「サラ……ごめん、ありがとう」

 

 かつて無自覚に家族を傷つけた末、改心した異次元の究極兵器を、その姉である合成怪獣が慈しみのままに抱き締めた。

 

「でも……無理はしないでいいんだよ。あなたの家族は、私だけじゃなくて――」

「……良いんだ、ルカ」

 

 覚悟しながらも、まだどこか怯えた色を滲ませた(ルカ)の、赤い視線を受けて。リクも首を左右に振った。

 

「僕も、今は……彼のことを、憎みきれない」

 

 宇宙恐魔人ゼットの、最強を求めるという我欲のために……アサヒを傷つけられ、リク自身は殺された。

 

 だがその出来事は、ウルトラマンゼロのシャイニングの力で、何とか取り返しが付いた。

 

 逆に、残されたものには、ルカの言ったとおり――ゼット自身の意図した結果ではないとしても、ライハやリク自身、そしてルカの命と心を救われたという事実があった。

 

 その危機の何割かは、ゼット自身が招いたものでも。彼が居なくとも、ダークザギの目的上、代わりとなる脅威を差し向けられていたことは明白で――その時に、果たしてリクは、ルカとの約束を果たせたのかは、不明瞭で。

 

 だから――なおも平和を脅かし、家族や仲間を傷つけられたとはいえ。今という結果を導く運命と、密接に関わった魔人に対して。一筋縄ではいかない気持ちを抱いていることは、リクにとっても真実だった。

 

「負けたから、ルカの言うことを聞くって……どこまで従ってくれるかはわからないけど、彼はそう言った。一度、信じてみても良いと思う」

 

 ウルトラマンベリアルの悪意から造られた、宇宙を滅ぼすための道具――そんな出自を持つリクは、生物兵器として造られた(ルカ)に、そう告げた。

 

「そうね。言われるまで、私も気づいてなかったけど……一応、あいつも命の恩人らしいから」

 

 ルカの判断を批難しない、という意見にライハも同調を示し。彼女に頷きを返し、リクは続ける。

 

「それに、前話したとおりだ。僕も……家族を傷つけた相手を、憎みきれなかった」

 

 我儘の、許しを得られただけでなく――その言葉で、察しが付いたというように。

 

 表情からすっかり緊張が抜け落ちて、安心したまま、ルカは笑ってくれていた。

 

「……そっか。似た者兄妹だね、私たち」

 

 ルカのどこか嬉しそうな言葉に、リクは深々と頷いた。

 

 そう、本当に――兄妹だから当たり前だが、自分たちはよく似ていると、リクも何だか嬉しくなっていた。

 

 ……レムの通信も届かなかった宇宙の外、超空間で展開されたダークフィールドの中のやり取りを、ルカは知るはずもないのに。

 

 彼女が同類(ゼット)に抱いた想いは――リクが、家族を傷つけたダークザギに手向けたものと、同じだった。

 

 ……リクの祈りが、この手で討った同類(ザギ)に。そして、父たる半身(ベリアル)の最期に届いたのかも、わからない。

 

 だから。せめてルカの願いだけでも、彼女の同類(宇宙恐魔人ゼット)に届いて欲しいと――リクは兄として、そう想っていた。

 

 

 

 

 

 

 




Cパート



 ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

 本作におけるもう一人の主人公朝倉ルカ/培養合成獣スカルゴモラ、ようやくレイオニクスらしく、(自分以外の)怪獣強化を披露するところまで来ました。実はこれまでのウルトラ戦士をメタフィールドで強化するのにも混じっていたのかもしれませんが……と、改めて『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突』のメタフィールドの物騒さから目を逸らします。ダークフィールド&ルカの中のザギの情報&サラの中のビースト振動波をバトルナイザーの代わりにする展開をここでやること自体は前々から決めてあったのですが、突っ込まれそうな事柄への言い訳にもなりそうなので仮説として言ってみます。

 可能な限り公式様との矛盾点を無くして行くぞー!(ただし前話の通りリクアサ&リクゼロ前提は聖域)という意気込み、少なくとも映像作品に関しては完結まで貫くつもりです。新たなファルコン1案件(※商品展開)にも負けません。

 推しCPの話はさておき、改めて伏線も回収しながら正史に合流できる形での完結目指して頑張る所存ですので、今後ともお付き合い頂けると幸いです。このところ更新も覚束ない状態なのにこんなことを言うのも恐縮ですが、どうぞよろしくお願い致します。



 以下、設定等の解説と言い訳。

・人工宇宙恐竜と成長ホルモン
 元ネタは舞台作品『ウルトラマンライブステージ2・宇宙恐竜最強進化!』に登場する人工宇宙恐竜クローンゼットンの設定となります。
 一応、本作の恐魔人ゼットも出典元となるショーでは、序盤は優勢だったジョーニアスを後半戦では追い詰めていたり、『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突』に登場した二代目の方も初戦ではフォトンアース一人に完封されていたのが二戦目ではウルトラ兄弟二人やトライストリウムレインボーとも渡り合うなど、正史作品では恐魔人ゼットという存在の成長性の高さが描かれていました。
 また、クローンゼットンの方は交信できるゼットン星人の感情の昂りが必要なのですが、自分の心を持つ人工ゼットンであるゼットならその感情も自前で用意できるという点が独自の強み、ハイパーゼットンとは別方向で最強のゼットンとなる素質なのかなと妄想する次第。ウルトラ戦士の抹殺ではなく、自身の最強を存在意義とするこのゼットはより一層、その設計と相性が良さそうです。
 そんな設定なくてもノリで強くなるタイプな気がする宇宙恐魔人ゼットですが、折角それらしい設定と描写があるので結びつけてみた形です。感情で強くなる自己完結性が自身がレイオニクスである本作の培養合成獣スカルゴモラとの同類度も上がるのでお得。ただし、いつものように公式設定ではなく、元ネタがあるだけの二次創作設定なので、その点はご了承ください。


・宇宙恐魔人ゼットの作戦
 ゼットの言うあの時のルカ=スカルゴモラNEX(ネックス)に勝つ算段。公式様との整合性の話ではないですが、披露する機会がないと思うのでついでに書いちゃいます。
 作戦はシンプル。リトルスターで分身してから、三人同時にパワータイプ状態で最後に見せたゼットマキシマム(※仮称)を仕掛ける連続自爆戦法です。特攻が三回成功すれば弱所を作り、穴を開け、命に届くだろうという見込み。なお、今回登場した時点では分身どころか本体すらゼットマキシマムを発動できるレベルにも達していませんでしたが、戦闘中にそこまで自分を進化させて成功するつもりだった脳筋。可能性が零じゃないなら即決実行する男というイメージなので……
 そして「心がある貴様の方が強いのだな」という評価は、ダークフィールドを展開されればその戦法ができなくなっちゃうからなのですね。多分ダークサンダーエナジーの影響を受けたスカルゴモラNEXとの再戦なら、勝率は百万分の一でも物語的に相討ち以上には持ち込めるキャラクターのはず。



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