ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第二十二話「リ・ボーン」Bパート

 

 

 

 星山市の上空に展開されたメタフィールドG。

 

 異常な磁力場を伴う、謎の時空の歪みを挿し込まれたことで、完成を阻まれた戦闘用亜空間は、地球上の星山市と混じり合った形で存在していた。

 

 その異常な空に、さらに別種の時空構造変化が起きる。

 

 ガラスのように罅割れた空の亀裂から、三つの光が飛び出した。

 

 光はそれぞれ、体高五十メートル前後の巨大な生物の形となって結実し、空に浮かぶメタフィールドの赤い大地に降り立った。

 

 ウルトラマンジード・プリミティブ。

 

 培養合成獣スカルゴモラ。

 

 究極融合超獣サンダーキラー(ザウルス)

 

 かつて宇宙を震撼させた悪の帝王、ウルトラマンベリアルの遺伝子を基に創り出された、人工生命体たち。

 

 本来の戦闘形態で揃い踏みした三兄妹は、先んじてメタフィールドに存在していた三つの存在それぞれを、睨みつけた。

 

「(まずは閉じる!)」

 

 テレパシーで自らの意図を兄妹に伝えながら、最初に動いたのは、スカルゴモラだった。

 

 彼女が拳を打ち合わせると。ウルトラマンネクサスのリトルスターを宿したことを契機に、その身に宿った新たな力――メタフィールドの展開能力、その根源を為すフェーズシフトウェーブが、追加で放射される。

 

 頭の大角から、両腕の棘まで含めた都合十二本の突起から登った青い光は、星山市の風景と溶け合うメタフィールドの境界に届き、赤い大地と空が拡大していく。

 

 正確には、三次元世界からメタフィールドを完全に切り離そうとしているために、内側からは街の景色が侵食されているように映っていた。

 

 だが、その位相転移を阻む力があった。

 

「(……くっ、手強い!)」

 

 フェーズシフトウェーブの進行を阻むのは、波打つ空間――未だ正体不明な時空の歪みだ。

 

 出力は、ややスカルゴモラが勝る。時間を費やせば、押し切って完成させることも可能だろう。

 

 だが、その時間稼ぎを許す間に。ゾグやジェロニモン、そして未知の存在であるスフィアペンドラゴンの攻撃が星山市に向かえば、甚大な被害が予想される。

 

 そんな現状でスカルゴモラが危機感を募らせるのを、ウルトラマンジードは兄として、手に取るように理解できていた。

 

 なら、ジードのするべきことは一つ。

 

「はぁああああああ……っ!」

 

 時空の歪み――その発生源が潜むだろう中枢に、牽制となる攻撃を行い、スカルゴモラを援護する。

 

 そのために光子エネルギーをチャージし始めたジードを、横からの衝撃が襲っていた。

 

「(――お兄ちゃんっ!?)」

 

 不可視の衝撃で弾き飛ばされたジードに、スカルゴモラが焦った様子で振り返る。

 

 援護するつもりが、集中を乱してしまったとジードが面を上げた時。

 

 ジードを襲った攻撃が、今度はスカルゴモラに繰り出されていた。

 

「ハッ!」

 

 攻撃の主は、根源破滅天使ゾグ第一形態。ジードたちに倍する長身の女神は、その掌で不可視の波動弾を生成し、攻撃を加えてきていた。

 

「あぶない!」

 

 頭上に存在する一番の大物(スフィアペンドラゴン)に気を取られたところへの、不可視故に感知し難い不意打ちだったこと。

 

 そして、間にスカルゴモラを挟んだ位置関係のために、サンダーキラーSも(ジード)への被弾を許してしまっていたが。

 

 二発目に対しては、八本の触手を動員した多重バリアの展開が間に合い、姉を守り切ることができていた。

 

「ふぉとんくらっしゃー」

「レッキングリッパー!」

 

 そのまま、サンダーキラーSが額から放った青い光線と。立ち上がりながらジードの繰り出した反撃の切断光線がゾグを直撃し、悲鳴を上げて身悶えさせた。

 

 それだけであっさり撃破、とは行かなかったが。同時攻撃でダメージを受けた様子のゾグは、仰け反った仕草のまま後退して行く。

 

 そんなゾグへの追撃をどうするか、迷っている間に――ジードは、ゾグの役割は陽動に過ぎなかったということを、理解した。

 

 上空で沈黙していたスフィアペンドラゴンから、大量の弾幕が展開された。

 

 弾幕は、一つ一つが人間を丸呑みにできるサイズをした、緑色の楕円形――後に精強宇宙球体スフィアソルジャーと分類される、スフィアの小型分裂体だった。

 

 空を埋め尽くすほど。明らかにスフィアペンドラゴンの体積を越える量まで分裂・増幅したスフィアソルジャーの群れは、一定の範囲で再び寄り集まって、別の形を為していく。

 

 そして、緑色の発光を落ち着かせ、白くなったスフィアたちが形成したのは――ウルトラマンと同スケールの、人型だった。

 

〈超合成獣人ゼルガノイド――光の巨人の残骸を利用した人造ウルトラマン・テラノイドが、スフィアに融合され怪獣化した存在を、再現したようです〉

 

 即座に記録と照合したレムが、報告するように。

 

 背中の六本の突起を除けば、新手の姿はまさに、スフィアに埋め尽くされたウルトラマンそのものと言えた。

 

「それが、こんなに……!」

 

 思わず、ジードは声を震わせる。

 

 出現したゼルガノイドは、一体ではない。

 

 メタフィールドの一角を埋め尽くすほど――まるで、百体の怪獣を操るというギガバトルナイザーの伝説を、再現するように。

 

 総勢百体を越えるウルトラマン型の怪獣が、ジードたちに対峙していた。

 

 そして――まだ、終わりではない。

 

 スフィアペンドラゴンから、無数の何かがゼルガノイド軍団に投下された。

 

 ウルトラマンという、超人種になったことで。ずば抜けた視力を獲得したジードは、その正体を目視して、上擦った声を漏らした。

 

「あれは……ウルトラカプセル!?」

 

 スフィアペンドラゴンから、無造作にばら撒かれたもの。

 

 それは、ジード自身がフュージョンライズに用いる光の国の超兵器。

 

 かつてベリアルやその配下と争奪戦を繰り広げ、ダークザギすら利用した……ウルトラカプセルだった。

 

 そのウルトラカプセルを取り込んだゼルガノイドたちが、再び発光し、変貌する。

 

 異形の合成獣人から――カプセルに描かれていた、ウルトラ戦士を模した形へ。

 

〈ウルトラカプセルとの融合で、変身したゼルガノイドの数――二十四体〉

〈そ、そんな……!〉

 

 星雲荘からより正確なレムの報告と、余りの事態を前に絶句するペガの声が届けられた。

 

 ……ウルトラ兄弟を中心に。ウルトラマンネオスにグレート。ウルトラマンマックスやリブットたち。

 

 そして、ベリアルとの最終決戦で駆けつけてくれた、ウルトラの父までも。

 

 かつてミーモスが化けた、ゼロを模した個体こそ見当たらないが――光の国の戦士たち、その精鋭に化けたゼルガノイドの軍勢が、ベリアルの子らへ敵意の視線を向けていた。

 

「(嘘でしょ……!?)」

 

 信じ難い光景を前に、スカルゴモラもまた怯んだ様子を見せた。

 

 だが、敵の手はなおも緩むことなく――ジェロニモンが、吠えていた。

 

 その咆哮へ、文字通り呼応するように。時空の歪みの奥から、けたたましい鳴き声とともに、無数の黒い靄のようなものが降りてきた。

 

 それらは、ただの有色ガスや霧ではなく。赤く険しい双つの目と、鋭い牙を備えた大きな口を備え、何らかの意志を有しているように空を泳いでいた。

 

 まるで、人魂のような印象を受けたのは、間違いではなく――その正体は、ジェロニモンが時空の歪みを介し、何処からか呼び出した怪獣の亡霊たちだった。

 

 無数の怨霊は、落下の最中に捩り合って六本の黒い柱となり。さらにその状態で互いに引き合い、激突する。

 

 衝突し合い、弾けた六つの闇の塊が、大地に落ちて凝り固まると。最後にその表面を、暗黒の炎で焼き上げるようにして――これもまた、巨大な人型を形成していた。

 

「我は……また蘇ったのか?」

 

 ジェロニモンが復活させた怪獣の怨念、その集合体は。

 

 やはり、ウルトラ戦士とよく似た姿の……そして、複数のウルトラマンの特徴を歪めた形で併せ持った、暗黒の超人だった。

 

「ウルトラ……ダークキラー!?」

 

 それこそは昨日。ふとした話の流れで言及した、暗黒超邪。

 

 かつてウルトラ兄弟に倒された怪獣たちの怨念から生まれ、復讐を図り。力を結集したウルトラ兄弟に敗れながらも、数千年の時を経て蘇り、今度はジードたち若きウルトラマンと激闘を繰り広げた闇の巨人――ウルトラダークキラー。

 

 怨念が尽きぬ限り不滅と豪語していたダークキラーは、怪獣の生死を操るジェロニモンの介入によって、早くも二度目の復活を遂げていた。

 

「ウルトラマンジード。それに……」

 

 その恐ろしさを知るジードが、思わず発した叫びを耳にして。

 

 一度ベリアルの子らを見据えたダークキラーは、しかし明らかに多くの気配がひしめく背後へと、その注意を逸らしていた。

 

「ウルトラの戦士が、これほど集まっているとはな!」

 

 ……仮にも、本物のウルトラマンの光が込められた、ウルトラカプセルで変化しているためか。

 

 睨む相手が、偽物だと気づいていない様子のダークキラーは。復活早々、自らを奮い立てるように暗黒のオーラを発し始めた。

 

 どうやら、その挙動は想定外だったらしく。召喚した張本人であるジェロニモンが咎めるような唸り声を発するも、ダークキラーは一瞥の後に鼻を鳴らした。

 

「ウルトラの名を冠する者は、全て抹殺する――っ!?」

 

 同じく予想外の、目まぐるしく変わる事態に翻弄されたジードたちが、様子を伺っていると。

 

 召喚者(ジェロニモン)の意向を無視し、ウルトラ戦士を模した軍勢に今にも駆け出そうとしていたダークキラーは突如、何の前触れもなく硬直し、仰け反った。

 

「貴様……何者――っ!」

 

 一瞬、苦しむような素振りを見せたダークキラーは、震えながら頭上を仰ぎ……何とかそれだけを絞り出した。

 

 そして、その声を最後に。彼に異変を起こした元凶――スフィアペンドラゴンを睨んでいたダークキラーは、自らの言葉を失い。

 

 代わりにその全身から、炎のようなオーラを弾けさせていた。

 

「(ブレイブバーストした――っ!?)」

 

 スカルゴモラが慄くと同時。くるりと踵を返したダークキラーは、まるでゼルガノイド軍団を率いるように……偽物とは言え、ウルトラ戦士とも肩を並べて。

 

 ゆっくりと、ジードたちに向かって歩み始めた。

 

「今の一瞬で……ダークキラーを、支配したっていうのか!?」

 

 畏怖と驚愕のまま、ジードがスフィアペンドラゴンを仰ぐのと。時空の歪みから突如として迸った落雷がその艦影と、ついでにジェロニモンを覆って掻き消したのは、全く同時の出来事だった。

 

「(歪みが消えた――!)」

 

 同時、謎の空間が消えたことを悟ったスカルゴモラが、メタフィールドの展開を加速させる。

 

「(けど……っ!)」

「躊躇うな、ルカ!」

 

 撤退した敵の本隊――スフィアペンドラゴンたちをみすみす逃がすことも、だが。

 

 何より、百体を越すウルトラ戦士を模した敵と同じ空間に、兄妹を閉じ込めてしまうことを躊躇ったスカルゴモラへ、ジードは声を張り上げた。

 

「ここは僕が何とかする……街を守ることを優先するんだ!」

 

 ジードの叱咤を受け、頷いたスカルゴモラは、メタフィールドを……無数の敵に包囲されたまま、逃げ場のない戦場を、完成させた。

 

 その事実を確認した後。ウルトラマンジードが内包する小宇宙(インナースペース)の中で、取り出したウルトラマンゼロのカプセルが、狙い通り変化するのを認めたリクは、ゆっくりと迫る敵軍を睨みつけた。

 

「目指すぜ、天辺!」

《――シャイニングミスティック――!!》

 

 ゼルガノイドたちと同じく、ウルトラカプセルを用いることでジードが変身(フュージョンライズ)したのは、金色の姿。

 

 新たな祈りを託さ(カプセルを手に入)れたことで到達可能となった、シャイニングミスティック――シャイニングウルトラマンゼロの、時間すら操る神秘の輝きを再現した、新たな最強形態だった。

 

〈待ってください、リク〉

「スペシウムスタードライブ――!」

 

 フュージョンライズを終えたジードは、即座に。レムの呼びかけすら無視する勢いで、その最大の武器である時間停止能力を発動した。

 

 同じ、ウルトラマンベリアルの遺伝子を受け継ぐ生命体、培養合成獣スカルゴモラが展開したメタフィールドの中でしか行使できないが――それは、敵がどれほど多くとも、等しく歩みを止めさせ無力化する、絶対無敵の能力。

 

 四次元怪獣ブルトンを無力化し、宇宙恐竜ゼットンすら抵抗を許さず討ち取ってみせる輝きは、メタフィールドの中に存在するスカルゴモラやサンダーキラーSの動きさえも、時間ごと凍りつかせた。

 

 しかし。

 

 肝心の、敵軍の歩みは……一体たりとも、淀むことすらなく。

 

 能力発動前と全く変わりがないまま、その接近を許していた。

 

「な――っ!?」

「デュワッ!」

 

 一度はジードを葬った、あの宇宙恐魔人ゼットにも対処できないと判断させた無敵の力。

 

 シャイニングの時間操作が通用しなかったという事実に、ジードが衝撃を受けていると。ゼルガノイド・セブンが、その眼光を輝かせた。

 

 次の瞬間。せめてこちらも頭数を増やそうと、ジードマルチレイヤーの発動を試みようとしていたジードの全身を、ウルトラ念力が縛り上げる。

 

「なっ……ぐ、しまっ――!」

 

 さらに次の瞬間、分離したスフィアが変化したと思しきウルトラマン用の拘束具――テクターギアが、無防備なジードに装着されて。

 

 その強烈な負荷が、シャイニングミスティックへのフュージョンライズを強制解除させていた。

 

「(……えっ!? お兄ちゃん!?)」

 

 それに伴い、時間停止から解き放たれたスカルゴモラとサンダーキラーSが――見知らぬ拘束具に縛られ、その重みで膝を折る兄という、彼女らにはコマ落としで齎された変化へ、困惑した様子で振り返った。

 

「なん、で……」

〈時間操作は、バトルナイザーに無効化されてしまうのです〉

 

 怪獣使役器、バトルナイザー。

 

 全知全能を謳われた超能力を持つ究極生命体、レイブラッド星人の力で生み出されたそのアイテムは、名のとおり怪獣を格納し、従属させるだけでなく。

 

 バトルナイザーの所有者と使役怪獣に、様々な恩恵を――例えば、時間が止まった空間でも、何ら支障なく行動できる加護を与えるといった、神秘の力を持っていた。

 

 その最上位である、ギガバトルナイザーの力の前では。シャイニングウルトラマンゼロの輝きでさえ、何の成果も挙げられなかったのだ。

 

「そのために……ギガバトルナイザーを、復活させたのか……っ!」

 

 ようやく、今回仕掛けてきた敵の狙いが読めた時には、もう遅い。

 

 テクターギアを強制装着させられ、弱体化した(ジード)を庇う妹たちを間合いに捉えた敵軍が、一斉に。ウルトラ戦士の光線技を模した攻撃を、ベリアルの子らに繰り出して来ていた。

 

 

 

 

 

 

「きらーとらんす!」

 

 総勢百体を越す、偽ウルトラ戦士の光線の、一斉発射。

 

「プリズ魔・ぷりずむ――!」

 

 それを、自身の肉体を光怪獣プリズ魔と同質に変化させたサンダーキラーSが前に出て、兄姉を庇い全てを受けた。

 

 百を越す夥しい量の光線を浴びた、究極融合超獣は……当然のように、無傷を保っていた。

 

 あらゆる光を捕食する、ウルトラマンの天敵プリズ魔。

 

 その能力をも取り込んだ、究極融合超獣サンダーキラーS――全ウルトラ戦士の抹殺も見据えて製造された異次元の最新兵器は、その肩書に恥じないだけの耐久性を見せていた。

 

「お兄さま、だいじょうぶ?」

 

 大量の光線を受けた自身より、テクターギアに締め上げられている兄の方を呑気に心配しているサンダーキラーSを、光の網が覆った。ゼルガノイド・リブットの再現した拘束技、ストロングネットだ。

 

「サラ!」

 

 顔を起こしたジードが、自身の同じように拘束された妹を心配する、その間に。空から、二筋の赤い流星が降りて来る。

 

「イヤーッ!」

 

 裂帛の気合を発するのは、宇宙拳法の達人レオ兄弟を模した、ゼルガノイド・レオとゼルガノドイド・アストラ。

 

 二体の必殺の蹴りが、動きを止められた究極融合超獣を狙って飛来する――光線技ではない打撃主体の攻撃は、サンダーキラーSに対しても有効だ。

 

「(――させるかっ!)」

 

 それを阻むために、レイオニックバーストを果たしたスカルゴモラは角を発光させ、怪獣念力を行使した。

 

 かつての戦いの中で身につけた怪獣念力の応用、グラビトロ・プレッシャーを発動。突如として発生した高重力場はレオキックの軌道を狂わせ、サンダーキラーSに届く前に墜落し、何もない大地を爆裂させる。

 

「びっくりしちゃった」

 

 一方。触手の先端、鉤爪の備えたリガトロンの鎌の特性を用いたサンダーキラーSは、エネルギーを吸われ脆弱化したストロングネットを力任せに引き裂く。

 

 それで究極融合超獣は呆気なく自由を取り戻し、さらには霧散した光の粒子を、触手の先から吸収してしまった。

 

「すとろんぐねっと!」

 

 サンダーキラーSは、一時は自身をも戒めた技を即座に解析し、再現。後続のゼルガノイド軍団によるウルトラ念力のおかげで、高重力場から即刻解放されたゼルガノイド・レオとアストラに対し、触手をまるでメダマグモの前脚のように用いてストロングネットを投網し、その動きを再び縛り上げた。

 

「ありがとう、お姉さま」

 

 姉に礼を述べながら、サンダーキラーSが背後に触手を振り回せば。その動作の延長で発生したベリアルデスサイズが、ゼルガノイド軍団に次々と襲いかかった。

 

 ……本来の使い手であるウルトラマンベリアルは、この斬撃光線一発で、ダース単位のウルトラ戦士を葬った。

 

 それを再現した技が、軽く四発。ウルトラカプセルを取り込んだ上位種のゼルガノイドたちもたまらず回避行動を取り、躱し損ねた雑兵の原種ゼルガノイドは体表のバリアで受けるも、耐えきれずに両断され、爆散する。

 

〈所詮はカプセル、ということのようです〉

 

 かつて光の国を苦しめたウルトラマンベリアルの遺伝子を基に、より戦闘に特化させた生物兵器。

 

 その肩書通りの圧倒的な力を揮う末の妹(究極融合超獣)に、些か呆気に取られていたジードとスカルゴモラへ、レムが解析結果を報告した。

 

〈ゼルガノイドは宇宙警備隊の一般隊員よりは遥かに強力ですが、ウルトラカプセルはウルトラ戦士の力の一部を宿した物でしかありません。ゼルガノイドとカプセルを合わせても、元になった実力者には及ばないようです〉

「(……見た目に呑まれてやる必要はない、ってことか)」

〈はい。むしろ、警戒すべきは〉

「(わかってる。ウルトラダークキラー、だね)」

 

 ゼルガノイドの群れに混じった、それ以外の二大怪獣。

 

 ジェロニモンとは違い、この戦場に捨て置かれたゾグと――ベリアルデスサイズの一撃を、片手のデススラッガーで容易く払い除けた、ウルトラダークキラー。

 

〈ダークフィールドは展開しないでください。ゼルガノイドには有効かもしれませんが、ダークキラーをさらに強化してしまうでしょう〉

 

 レムが警告する強敵は、獣のように咆哮したかと思うと。遂にゼルガノイドたちを置き去りに、自らこちらへ向かって来た。

 

「(こいつは私が!)」

 

 ウルトラダークキラーは、(もと)より本物のウルトラ兄弟でも苦戦する強豪でありながら。敵軍の中で唯一、ブレイブバーストまで遂げている。

 

 ブレイブバーストは、スカルゴモラの力を奪ったものでさえ。本来、肉体的には強豪種族でない挑発星人(モエタランガ)が、究極融合超獣であるサンダーキラーSや三人のウルトラ戦士が合体したグルーブとそれなりに打ち合えるほどの強化を、対象に齎す。

 

 スカルゴモラを凌ぐレイオニクスだろう、スフィアペンドラゴンの主によるブレイブバーストとなれば、その効果はなおさらだ。

 

 その相乗で、明らかに図抜けた戦力を持つダークキラーに対し。妹ほど器用でも、多数を相手にするのが得意でもないスカルゴモラは、単騎戦力として迎え撃つことを決めた。

 

 暗黒超邪の繰り出す強烈な右ストレートを、上腕に備わったデススラッガーに当たらないように受け流しながら、零距離で繰り出す体当たりである斜身靠(シェシェンカオ)で迎撃。しかしスカルゴモラの圧倒的な筋力と体重の乗ったカウンターを受けても、ダークキラーは三歩程度の後退で持ち直す。

 

 ならば、尾による追撃を加えてさらに相手を崩す――というスカルゴモラの果敢な攻めは、唸りを上げて襲いかかった長大な尾を、ダークキラーがあっさりと掴んだことで強制終了した。

 

「(しま――っ!?)」

 

 そのまま――生まれて初めての戦いで、ウルトラマンタイガにやられたように。

 

 あの時とは、比べ物にならないほど力を増した培養合成獣スカルゴモラを――暗黒超邪ウルトラダークキラーは軽々と、ジャイアントスイングで投げ飛ばした。

 

「ルカ!」

 

 メタフィールドの大地へ叩きつけられた妹へ、ジードが心配の声を発する間に。軽やかに宙を舞ったダークキラーから、追撃のタロウの蹴り技(スワローキック)を脳天に叩き落され、立ち上がろうとしていたスカルゴモラは再び地を舐めた。

 

「(くぅ……っ!)」

「レッキング――!」

 

 ダークキラーの圧倒的なパワーに圧されるスカルゴモラを見かねて、ジードが援護しようと動き出すも――テクターギアによる妨害で、その動きは普段より鈍く。

 

「ハッ!」

 

 故に、後からゾグの繰り出した波動弾が、先んじてジードを捉えていた。

 

「うわぁっ!?」

 

 ゾグの波動弾は、ジードの技を中断させるだけで終わらず。

 

 その勢いのまま、ゼルガノイドの群れの中へと突き飛ばして行った。

 

「(お兄ちゃん!)」

 

 何とか起き上がったスカルゴモラが、思わずそちらへ気取られた隙に。

 

 ウルトラマンであるジードには、目もくれず……そのたった一度の挙動で、自らの意志で動いていないことを示すダークキラーが、スカルゴモラへの追撃に移った。

 

「(――っ!)」

 

 その構えを目にして。知らぬ間に、培養合成獣スカルゴモラの全身が硬直した。

 

 脳裏を過ったのは、拭い去ったはずの恐怖の記憶。

 

 生まれたばかりの己を、圧倒的な暴力で蹂躙した鬼が、トドメに放った破滅の輝き。

 

 ウルトラホーンを生やした鎧姿の巨人が、両手を腰に当て、体色が変わって見えるほどのエネルギーを充填させた後。

 

 T字に組んだ両手から放つのは、凄まじい殺傷力を発揮する暗黒の波濤。

 

 光線の色や、手の組み方こそ、スカルゴモラの記憶と反転していても……それは紛れもなく、あの技の系譜。

 

「(――痛っ、きゃぁあああああっ!?)」

 

 かつて、培養合成獣を瀕死に追いやった、オーラムストリウムと起源を同じくする――ダークキラー版のストリウム光線が、恐怖に竦んだスカルゴモラを直撃した。

 

 生まれたばかりの、あの日のように。

 

 凄まじい破壊力に襲われたスカルゴモラは、その圧に耐えることができず。ひっくり返るように倒れ込み――続けて、大爆発に呑み込まれた。

 

 きっと、あの時と同じように――爆裂を起こしたのは、逃げ遅れた体表の一部だけで。それが一種のリアクティブアーマーの役割を果たしてくれたから、致命傷にはならずに済んだが。

 

〈大丈夫ですか、ルカ〉

 

 既に拭ったと思っていた、原初のトラウマを再現されてしまったために。

 

 肉体のダメージ以上に、溢れ出した動揺のせいで、スカルゴモラはレムの心配にも、すぐには応えられなかった。

 

〈気をつけてください。ウルトラダークキラーは、ウルトラ兄弟と同質の技を――個々のウルトラ戦士以上の威力で、繰り出すことができるのです〉

 

 ……それは、ダークキラーの元となった、怨念たちの命を奪った力。

 

 復讐を望む怨念によって、さらに凶悪となったウルトラ兄弟の技を操る、暗黒の超人。

 

 そんな、暗黒超邪ウルトラダークキラーの――恐怖を。培養合成獣スカルゴモラは、その身を以て痛感していた。

 

 

 

 

 

 

 テクターギアを装着され、身動きの鈍ったジードを取り囲む、ゼルガノイドたち。

 

 ウルトラマンの姿をした彼らに囲まれ、追い立てられ、殴られ、足蹴にされるのは――かつて、己の正体が知られればどうなるのかと。ベリアルの息子として恐れた悪夢、そのものが具現化したかのようだった。

 

 そんな、ジードを踏み躙る偽物のウルトラマンたちが、纏めて吹き飛ぶ。

 

「お兄さま、だいじょうぶ!?」

 

 ゼルガノイド軍団を薙ぎ払ったのは、サンダーキラーSだった。

 

 一本一本が並の超獣を上回る戦闘力を持つ八本の触手と、当然それより強い本体の性能を駆使して。百体を越すゼルガノイド軍団の攻めを、たった一体で相手取る。

 

 その、頼りになり過ぎる妹を見て。

 

 皮肉にも、テクターギアのおかげで傷が浅かったのに、ジードの返事は力が抜けたものとなっていた。

 

「うん……ごめん、頼りにならないお兄ちゃんで」

「そんなことない!」

 

 僕に任せろなどと、大口を叩いたのに。

 

 一人でやられて、ピンチを招いた兄が弱音を吐くのを、末妹は力強く叱咤した。

 

「お兄さまは、いつも……わたしより、たたかうのがとくいじゃなくても。いっつも、わたしたちをたすけてくれるから」

 

 事実として。スカルゴモラやサンダーキラーSと違い、ウルトラマンジードは、その設計の主目的を戦闘に置いていない。

 

 しかも、素材は同じベリアルの遺伝子なのだから、兄と妹二人の間には、厳然としたスペック差が生じて来る。

 

 妹に比べて、戦うのが得意ではないと評されるのも、仕方のないことだ。

 

 だが。だから、何もしてやれないのも仕方がないとは、ジードは諦めなかった。

 

「いつだって、お兄さまがいてくれているおかげで……わたしたち、とってもたのもしいんだよ」

 

 そんな姿勢を、覚えていてくれたのか。サンダーキラーSがウルトラマンジードに告げる優しい声には、確かな敬意と感謝が込められていた。

 

「だからげんきをだして、お兄さま。ジーッとしてても、ドーにもならないでしょ?」

「……うん。そうだね、サラ」

 

 ……妹たちは本当に、強く立派に育ちつつある。情けない兄の卑屈な姿を見ても、それに引きずられたりせず、むしろ抱えあげてくれるほど。

 

 そんな二人の兄であろうとするのなら。いつまでも失敗に囚われては居られないと、頷いたジードは面を上げた。

 

 そうして、ジードが再起するまでの間にも。

 

 ゼルガノイドたちは休みなくサンダーキラーSに挑みかかり、次々と倒されていた。

 

 圧倒的な火力の光線技で撃ち抜き、切り裂き、感電させる。敵の光線を吸収するだけでは補充が追いつかなくなるほどエネルギーを消耗すれば、手近なゼルガノイドに触手を突き刺し、直接捕食するような倒し方で補給する……怪獣を含む大半の生物にとっては危険極まりない行為だが、スペースビーストを捕食しても何ともない邪神の幼体でもある究極融合超獣からすれば、スフィアもウルトラカプセルも、一方的に取り込める餌でしかないらしい。

 

 そんなサイクルで、サンダーキラーSは既に、二桁ものゼルガノイドを消滅に追いやっていた。

 

 ……その脆すぎる姿で、ジードも流石に違和感を覚えた。

 

(効かないのがわかっているはずなのに、わざと光線技を見せて来ている……?)

 

 まるで――敢えて、自分達(ウルトラ戦士)の手の内を晒すように。

 

 そして、滅亡の邪神ハイパーエレキングを構成要素の一つとする、サンダーキラーSに――スフィアとともに、大量のウルトラマンの光を、取り込ませようとしているように。

 

 ……そんな違和感は、背後で響いた轟音によって押し流された。

 

「――ルカ!」

 

 振り返ると、スカルゴモラがウルトラダークキラーによって追い詰められる、その最中にあった。

 

 サンダーキラーSの大暴れとは、打って変わって。本物のウルトラ兄弟と同じ技を、それ以上の破壊力で放てるダークキラーを相手に、スカルゴモラは苦戦を強いられていた。

 

 光線技だけではない。凄まじい怨念の集合した剛力に、レイオニクスの支援を乗せ。成長した今のスカルゴモラすら圧倒する打撃を繰り出し、両腕のデススラッガーは培養合成獣の再生力がなければとっくに首を落としていたのだろう鋭さで、リクの妹を斬り刻み、地を舐めさせる。

 

「お姉さま!」

 

 テクターギアで動きの鈍ったジードより早く、ゼルガノイド軍団を蹴散らしながらも余裕のあるサンダーキラーSの方が、家族の危機に素早く応じることができた。

 

 ゼルガノイドたちを薙ぎ払った触手を四本、足代わりにして。一歩の飛距離を伸ばしたサンダーキラーSが、スカルゴモラを目指して駆ける。

 

 だが、その前方に新たなゼルガノイドたちが立ち塞がった。

 

「じゃまっ!」

 

 サンダーキラーSの胸が発光し、異次元壊滅現象を齎すデスシウムD4レイが、ゼルガノイドの軍勢に襲いかかる。

 

 対して、ゼルガノイド・ゾフィーが前に伸ばした右腕から放ったM87光線と。ゼルガノイド・ゼノンの、やはり突き出した右腕に装備した鳥のような武装・マックスギャラクシーから発射されたギャラクシーカノンの二条の超絶光線が、D4レイと正面から衝突し、押し返す。

 

 宇宙警備隊最強の技と名高いM87光線と、光の国でも指折りに強力な武装・マックスギャラクシーの最大火力。時空すらも貫くとされる大技同士の共演は、例え本物には及ばない劣化コピーでも、たった一条のD4レイには圧勝して当然の出力だった。

 

「――!」

 

 そのまま発生源まで届いた二条の光線は、究極融合超獣のカラータイマーを直撃する。

 

 ……彼女のそれは急所ではなく、D4レイの発射口を兼ねたエネルギー吸収器官であるため、無事で済んだ。

 

 しかし、その光線吸収能力に頼らなければ究極融合超獣でも危うい破壊力の光線が、サンダーキラーSの進撃を食い止める。

 

「きらーとらんす――プリズ魔・ぷりずむ!」

 

 そこで、最初の一斉発射を凌いだ時のように。光学干渉を無害化し吸収する光怪獣プリズ魔と同様の体質に変化したサンダーキラーSは、胸部以外で光線を被弾しても問題ない自由を取り戻し――自身の背後に居る、ジードに危険な光線が向かないよう、照射を続ける二体を排除せんと躙り寄る。

 

「デュワッ!」

「トゥアッ!」

「ヘアッ!」

「フゥンンッ!」

 

 その時、四つの巨大な人影が躍り出た。

 

 二体のゼルガノイドを横から叩こうとするサンダーキラーSの触手を、ゼルガノイド・セブンとゼルガノイド・セブン21が頭部の宇宙ブーメランを抜き取り、手持ち武器として。さらにゼルガノイド・ジャックがウルトラランスを、ゼルガノイド・エースがエースブレードを構えて、各々が一本ずつ迎え撃ち、抑え込んだ。

 

 さらに、足代わりにしていた四本の触手が、追撃に回される前に。鉤爪が大地を噛んだままである隙を狙って、通常種のゼルガノイドたちが各々複数で掴みかかり、自らの体を重しとするようにして、その動きを縫い留めた。

 

「シュワッ!」

 

 さらに、足を止めたサンダーキラーSの背後から、初代ウルトラマンを模したゼルガノイド・ファーストが飛びかかり――その接近を察知したサンダーキラーSは、長い尾を閃かせて迎撃した。

 

 本体の尾は、触手を越える膂力を持ったサンダーキラーSの奥の手だ。しかもプリズ魔に変化(キラートランス)した今は硬度を増しただけでなく、直に触れればウルトラ兄弟のジャックすら火傷させる高熱を帯びた凶悪な一撃となっている。

 

 だが、怪獣退治の専門家を模したゼルガノイドは鋭い一閃を大胸筋で受け止め、さらには素手のまま難なく高熱の尾との格闘戦に移行して、その自由を奪ってみせた。

 

 尾も触手も、別々の敵を相手取り。いよいよ対応力が飽和しつつあるサンダーキラーSに、さらに新手が襲いかかる。

 

「ジュアッ!」

 

 それはゼルガノイド軍団の中でも、最高峰のパワーとスピード、タフネスを併せ持った戦士、ゼルガノイド・マックスの急襲だった。

 

 紙一重のところで。周囲に放射する電磁波を、センサー代わりに超速反応したサンダーキラーSの右手が、プリズ魔化した強度を活かしてマクシウムソードを掴んで止めて。空いた左手の毒爪で、ゼルガノイド・マックスの胴を貫いた。

 

「けっしょうかこうせん!」

 

 さらに、対象を結晶化し光に分解するプリズ魔の光線を、サンダーキラーSは至近距離から浴びせにかかり、まず眼前のゼルガノイド・マックスを確実に仕留めようとした。

 

 しかし。高威力の結晶化光線と、ベリアルウイルスに満ちたカイザーベリアルクローの直撃を受け、猛毒を注ぎ込まれながら――ゼルガノイド・マックスは最強最速の戦士ウルトラマンマックス由来の頑丈さを活かして耐え抜き、自らを貫いた左腕を逆に捕まえる形に持ち込んだ。

 

 そうして――漫然と攻めて来ていた、先程までとは違い。スカルゴモラの援護に向かった途端、ウルトラ兄弟型を中心とした、精鋭のゼルガノイド軍団の待ち伏せを受け。流石のサンダーキラーSも、身動きが取れなくなったところで。

 

「トァーッ!」

「セァッ!」

 

 体に炎を灯した二体のゼルガノイド――タロウとメビウスが、制圧された究極融合超獣に組み付いた。

 

〈サラ、危険です。彼らから距離を取ってください〉

 

 レムの警告と同時に、サンダーキラーSは全身から強烈な放電を行い、本体に纏わりついた三体のゼルガノイド、さらには触手や尾と格闘中の十三体のゼルガノイドまでもを同時に感電させ、彼らを振り切ろうとするが――

 

 一手早く。サンダーキラーSを離さなかったゼルガノイド・タロウとゼルガノイド・メビウスが、大爆発を巻き起こした。

 

 緩慢な歩みでも、妹の危機に駆けつけようとしたジードの頬を、テクターギア越しに叩き、強制的に足を止めさせた爆風は。サンダーキラーSの攻撃に、ゼルガノイドたちが耐えられなかったのではなく――ウルトラマンタロウと、その弟子メビウスが持つ禁断の大技を、彼らが再現した結果だった。

 

 爆発の正体は、ウルトラダイナマイトとメビュームダイナマイト。ウルトラ戦士自身の生命を爆弾に変える、絶大な威力の自爆技。

 

 炸裂の真下、触手と格闘していた通常種のゼルガノイド八体は消滅し。爆心地に居たゼルガノイド・マックスも、遂にその耐久限界を越えて燃え尽きていた。

 

「あ……ぅ……」

 

 同じく爆発の中心に居たサンダーキラーSも、全力を発揮できないメタフィールドの中、密着状態からでは回避も防御も叶わず、凄まじい破壊力の直撃を許していた。

 

 二重の爆発に、挟み撃ちされた結果。あれだけ圧倒的だった究極融合超獣も、触手と尾が全て千切れ、本体も装甲に亀裂を走らせた挙げ句、重度の火傷を負った瀕死の状態となって、力なく横たわっていた。

 

「――サラっ!」

 

 ジードが必死に駆け寄ろうとする、その視線の奥で。

 

 そもそもサンダーキラーSを突貫させた状況もまた、さらに悪化していた。

 

「(このっ、離せ!)」

 

 ただでさえ劣勢にありながら、兄妹の危機に注意を奪われたスカルゴモラ。その背後を取ったウルトラダークキラーが、容赦なくチョークスリーパーを極めていた。

 

 ――その体から、暗黒の炎を昇らせながら。

 

「(まさか……こいつもっ!?)」

 

 スカルゴモラは悪寒のまま、背の角からスカル超振動波を放射し、至近距離からの破壊エネルギーでダークキラーを粉砕しようとするが――既に遅い。

 

「――っ!?」

 

 ジードが息を呑んだ次の瞬間、ダークキラーダイナマイトが炸裂し、凄まじい爆風がメタフィールドの中を駆け抜けた。

 

 ウルトラカプセルを用いたゼルガノイドどころか。怨念とブレイブバーストの補助により、本家ウルトラダイナマイトをも凌ぐ破壊力を発揮した爆裂はスカルゴモラの全身を猛打し、その破滅的な暴風で、五万九千トンもの巨体を一度大地に叩きつけ、弾みでさらに何百メートルも吹き飛ばした。

 

 轟音を奏でながら、スカルゴモラが再び大地に減り込む――ちょうど、サンダーキラーSの近くにまで、彼女は飛ばされていた。

 

 強靭な生命力と、高い耐熱性を併せ持つスカルゴモラの容態は、サンダーキラーSよりはまだマシと言えたが……それでも戦闘不能状態に片足を突っ込んだ、甚大な負傷を受けていた。

 

「ルカ! サラッ!」

 

 幸いにも。傷ついた妹二人の下へと走るジードの前に、立ち塞がる敵は居なかった。

 

 先程まで道中に存在していた、サンダーキラーSと戦っていた一団の生き残り――ゼルガノイド・ファーストを中心とした彼らは自爆から再生したタロウとメビウスを万全に癒やすため、二体を庇いながら一時後退していた。ゾグもまた、不気味に沈黙したまま、空からジードを見下ろすだけだ。

 

 おかげで、すぐに二人の下へ駆けつけられるとジードが微かに安堵したその時……スカルゴモラの背後で、闇が凝った。

 

 警戒に足を止めた、ジードの視線の先で。凶悪な表情の浮かんだ、無数の人魂のような闇――キラープラズマが集合し。

 

 暗黒超邪(ウルトラダークキラー)が、そこに再生していた。

 

「(……ウソ、でしょ?)」

 

 息も絶え絶えのスカルゴモラが、呆然とした思念を漏らすように。

 

 今の彼女に、それだけの痛打を与えながら。怨念の集合体であるウルトラダークキラー自身は、爆散した後も全くの無傷で復活していたのだ。

 

 しかも、ゼルガノイド・タロウたちとは異なり……まるでエネルギーも消耗した様子がないまま。

 

「(きゃあああああっ!?)」

 

 そして、満足に身動きできないスカルゴモラに、ダークキラーが殴りかかる。

 

「やめろっ!」

 

 テクターギアに動きを戒められたジードは、そんな状況でも、制止の声しか発せない。

 

 いや、そもそも……かつてウルトラマンジードは、ウルトラダークキラーに敗れた。

 

 あの時集まった、ニュージェネレーションと区分される若きウルトラマンのチームの一員としては、最終的に勝利を収めたが――ジード単独の力では、ダークキラーにはとても敵いはしなかった。

 

 ジードはギガファイナライザーを喪い、ダークキラーがブレイブバーストで強化された今は、その差はより一層、拡がっているだろう。

 

 だが。

 

「(やめっ、この……あぁあああっ!?)」

 

 そんな己の無力を理由に――これ以上、目の前で妹が甚振られる様を、受け入れることはできなかった。

 

「――っ、わぁあああああああああああああああっ!!」

 

 力への渇望。よりにもよって、ウルトラマンたちの姿を騙った敵に、家族を傷つけられることへの拒否感――さらに、そんな光景を傍観してばかりの己に対する怒り。

 

 そして、度重なる刺激に共振する、レイオニクスの血の猛り。

 

 気づいた時。それらの全てが綯い交ぜになった叫びを、ジードは喉を震わせ発していた。

 

 次の瞬間――赤い光とともに、テクターギアが弾け飛んだ。

 

「――っ!!」

 

 漲る力を抑えきれなくなった、テクターギアの残骸を、さらに激しく弾きながら。

 

 自由を取り戻したジードは、衝動のままダークキラーに飛びかかり、自らより一回りも大きな暗黒の体躯を、強引に突き飛ばしていた。

 

「(あっ……お兄、ちゃん……)」

 

 ……ダークキラーが。メタフィールドの全てが。寸前より、幾分赤く染まって見えるジードは、気づいていない。

 

 それが、かつて沖縄の戦いで、自らの無力を痛感させられた時と同じく――己の目そのものが、赤色に変わったからだということに。

 

 文字通り、目の色が変わった瞬間から……自身の力が、爆発的に向上したということに。

 

 ジードが纏う気配の変化に、発する野生の咆哮にゼルガノイドたちが緊張し、竦む中。レイオニクスの操り人形と化したウルトラダークキラーは、淀みなく動いた。

 

 胸の前で、逞しい両腕を交差させ――カラータイマーに、膨大なエネルギーを収束していく。

 

「はぁあああああああっ!」

 

 対して、妹たちを背に庇うジードもまた。交差した両腕を持ち上げ、開き――膨大なエネルギーを渦巻かせながら、一つの目的のために練り上げて行く。

 

「レッキングバーストォッ!」

 

 次の瞬間、同時に臨界に達したエネルギーが、正面から衝突した。

 

 ブレイブバーストしたウルトラダークキラーがカラータイマーから放つ、全力のダークキラーショット。その出力は本来、基本形態(プリミティブ)どころか、最終戦闘形態(ウルティメイトファイナル)ですら勝てるか怪しいもののはずだ。

 

 だが……今のレッキングバーストは、その怨念を捻じ伏せて。

 

 かつて、ウルティメイトファイナルと同格の戦士五人の総攻撃でも穿けなかったウルトラダークキラーの肉体を、一瞬で消し飛ばしていた。

 

「(すっ――ごい……!)」

 

 兄の勝利に、スカルゴモラが感嘆を漏らした直後。

 

 テクターギアから解き放たれたはずのジードは、自らの重みに耐えきれずに膝を折り――ウルトラマンに利するよう妹が調整してくれたメタフィールドの中だというのに、カラータイマーを明滅させるに至っていた。

 

 ――既にその目は、元の青色に戻っていた。

 

 沖縄での、ギャラクトロンMK2(マークツー)戦以来に。それこそスカルゴモラのレイオニックバーストのように、自らの戦闘力の爆発的な向上を経たジードは、限界を超えた力を揮った反動に苦しみながらも……極度の興奮状態から正気に返ったことで、己の為すべきことを思い出していた。

 

「二人とも……今、手当てを――!」

 

 治癒の力を扱える、アクロスマッシャーにフュージョンライズした直後。踵を返したばかりのジードの背に、悪寒が走った。

 

「何故だ」

 

 問いかけに、振り返れば。

 

 そこには……レッキングバーストで、確かに消し飛んだはずの、怨念の化身(ウルトラダークキラー)が。

 

 やはり寸前と変わらぬ姿で、即座の復活を遂げていた。

 

「ウルトラマン。何故、怪獣を……っ!?」

 

 レッキングバーストを受ける前とは異なり、自らの意識を取り戻していたウルトラダークキラーだったが……その言葉を、紡ぎ終える前に硬直し。

 

 既にメタフィールドを去ったはずの、スフィアペンドラゴンを駆るレイオニクスにまたも支配されたことを示すように、再度のブレイブバーストを果たしていた。

 

「そん、な――っ!」

 

 絶望に染まった声を、ジードは思わず漏らしていた。

 

 サンダーキラーSは、本物のウルトラ戦士ならば絶対に取らないであろう――味方を捨て駒にするゼルガノイド軍団の連携で、戦闘不能となり。

 

 スカルゴモラは、個々のウルトラ兄弟をも越えるというウルトラダークキラーの圧倒的な力に深手を負い。

 

 ウルトラマンジードはテクターギアを自力で解除したものの、不死身のダークキラーにダメージを残せないまま、力のほとんどを使い切ってしまった。

 

 そして、AIBの怪獣兵器であるゼガンも、ネオ・ブリタニア号も、昨日の宇宙恐魔人ゼットとの戦いで受けたダメージが深刻で、駆けつけることができない。

 

 ……助けに来られる本物のウルトラ戦士も、今この宇宙には居ない。

 

 そんな絶体絶命のベリアルの子らを、ゼルガノイドの残存部隊が取り囲む。

 

 その数は未だ五十を優に越え、最精鋭であろうウルトラ兄弟型もほとんどが健在。

 

 さらには、光の国の最高戦力である宇宙警備隊大隊長、ウルトラの父を模した――ゼルガノイド・ケンが、遂に前へ出た。

 

 他のゼルガノイドたちを回復させた、長期戦の要。ウルトラの母を模したゼルガノイド・マリーの傍らで、彼女を守り。また援護を受けるためか、二体一緒のまま。回復役を前線に派遣しても、問題なく仕留められる段階に入ったという考えなのか。

 

「ふふふふふふふふ……!」

 

 そんな予想を裏付けるような嘲笑は、空から。

 

 何度もジードを妨害した根源破滅天使ゾグ。最初の被弾以降、攻撃を受けなかった彼女も、未だ力の大部分を残して健在だ。

 

 そして、ダークキラーを含む三者による、包囲の輪が狭まる中。ゾグを癒そうというのか、ウルトラの母に擬態したゼルガノイド・マリーが治癒光線の準備に入る。

 

 邪魔をさせないと言わんばかりに、ゾグはジードと、何とかレイオニックバーストを維持したまま立ち上がったスカルゴモラへ見せつけるように、波動弾を構えてみせた。

 

 このままやられるのを待つしかないと思われた、その時。

 

 突然。コーラスのような音色が、メタフィールドの空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 最初にその音の正体に気づいたのは、超振動波を武器とするスカルゴモラだった。

 

 それは、敵味方双方で使われたあの兵器……ギャラクトロンシリーズが転移に用いる、デジタル魔法陣の発生音だった。

 

 スカルゴモラの予感のとおり。ハニカム構造上のデジタル魔法陣が、空に展開され――メタフィールドの外と繋がる、時空の扉と化す。

 

 そこから飛び出したのは、予想されたどの機体とも違っていた。

 

 ギャラクトロンでも、ギルバリスでもなく。漆黒の影が迅雷となって魔法陣から飛び出し、落下し……一直線に、白い天使へと襲いかかった。

 

「――っ!?」

 

 黒い稲妻は、身長百二十七メートルあるゾグの頭頂から足首まで、一直線に切り裂いた。

 

 呆気なく、短い断末魔を残しながら。一撃で両断された根源破滅天使が、斬撃の勢いに押されて、地平の彼方へと失墜していく。

 

 その残骸より早く、一撃の勢いのまま地に降りた黒い雷は、返す刀でゼルガノイド軍団に襲いかかっていた。

 

 黒い竜巻のような勢いで、原種ゼルガノイドたちの四肢をもぎ取り、吹き散らした鎧の戦士を、進行ルート上のゼルガノイド・ケンが迎え撃つ。

 

 だが、ゼルガノイド・ケンの核兵器に等しい拳は、襲撃者によって外側へと、円弧を描く形で逸らされて不発し。

 

 大きな隙を晒した、その巨人に対し――拳を弾いた槍の、反対側に備わっていた刃先を向けた魔人は、そこに携えていた暗黒の雷嵐を即座に解き放った。

 

 ……暗黒の三叉槍から放たれたのは、レゾリューム光線。

 

 かつて、ウルトラの父と引き分けになった雪辱を晴らすべく、暗黒宇宙大皇帝が編み出した――ウルトラの父を、完全消滅させるための技。

 

 その猛威が、ゼルガノイド・ケンと、彼の背後に庇われていたゼルガノイド・マリーを直撃した。

 

 ……レゾリューム光線の消滅の力は、対ウルトラマンへ特化していたために。他の存在と融合したウルトラ戦士には、万全の効果を発揮し得ない。

 

 故に、その効果を跳ね除けて――本物ならば決してあり得ない油断を抱いたゼルガノイド・ケンのカラータイマーを、照射を続けたまま伸長した穂先が、隙を逃さず突き、砕いた。

 

 その背後のゼルガノイド・マリーは、消滅の効果だけは弾けようが、光線の物理的な破壊力に肉体が耐えきれず。

 

 各々の理由で生命を維持できなくなった二体の残骸は、注がれる力に耐えきれず、内側から破裂させられていた。

 

「(……なん、で……)」

 

 ちょうど、墜落したゾグが爆死した余波に、背を叩かれながら。

 

 半ば不意打ちが決まったとはいえ、三体の強敵を連続で瞬殺した乱入者に対し――昨日と同じ言葉を、スカルゴモラは投げかけていた。

 

「(なんで、あなたが……)」

「私の生きる意味が、それを問うのか」

 

 再戦を誓って別れた、昨日までの怨敵。

 

 暗黒魔鎧装を纏った宇宙恐魔人ゼットが、スカルゴモラの問いにそう応えていた。

 

 

 

 

 

 




Bパートあとがき



・ゼルガノイドの量産&変身
 再現体の量産については『ウルトラマンデッカー』の第23話にて、各々の素体となる怪獣なしのまま、スフィアソルジャーたちの集合だけでスフィア合成獣を再現していた能力そのままです。
『デッカー』に登場するスフィアは『ウルトラマンサーガ』に登場した個体群同様、『ウルトラマンダイナ』本編のスフィア残党が大元であり、長い時間をかけて再興した一派という設定です。スフィアペンドラゴンの基になったのはまた別の個体群であるという裏設定ですが、大元が同じであるため、同じくスフィア合成獣の一種であるゼルガノイドをテラノイドなしで再現することも可能という風に解釈しました。
 ゼルガノイドがウルトラカプセルと融合することでカプセルに対応したウルトラマンの劣化再現体に変身できる、というのは完全独自設定です。


・バトルナイザーと時間停止
 第十四話以来二回目の解説ですが、実は前回解説時点で「作中の説明嘘吐いてまーす」ということはちゃんと言っていたりしました。いや本当に。
 映像作品では現在明言されていませんが、映像本編と展開がリンクしている=正史に相当する『大怪獣バトル ウルトラアドベンチャー』で実際に存在する描写及び原理の説明として、バトルナイザーの所有者とその所持怪獣は時間操作に耐性ができることが語られています。
 この設定が映像作品でもきちんと生きている場合、『ウルトラファイトオーブ』でゼロがシャイニングの時間操作をあくまでオーブの特訓にしか使わなかったり、『ウルトラマンジード』第一話のアバンでゼロがシャイニングではなくウルティメイトゼロでギガバトルナイザー持ちのベリアルに挑んでいる理由が一つ増えるのかな、などと考えています。時間操作ではなく、ナラクのような時間移動による改変なら有効なのも大怪獣バトルシリーズの描写と合致しますしね。
 なお、ギガファイナライザーはバトルナイザーじゃないので、本作においてジードをシャイニングで蘇生したのは問題ないかなと考えています。


・ウルトラダークキラーの技
『ウルトラギャラクシーファイト』では全然使いませんでしたが、実はウルトラ兄弟と同様の技を使うことができる――というのは、ダークキラーに関する公式設定になります。そういう点がエースキラーのバリエーションっぽいのですが、拡張性の高いエースキラー系列と違ってダイナマイト技も完全再現できる再生力が強みな気がします。
 なお、ストリウム光線に相当する技については、今のところ設定や使用描写がないのですが、上記の設定と容姿からして使えない方が不自然だと見逃してくだされば幸いです。


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