ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第三話「恩讐の果てに」Bパート

 

 

 

「AIBが探る限り、鳥羽ライハの行方は全くの不明だ」

〈ネオブリタニア号の観測機器も同様です。現在、ヤプールの次元との接続が断たれ、ライハの行き先は掴みようがありません〉

 

 異次元人ヤプールの襲来を受け、現場に駆けつけたAIBのゼナとモアを迎え入れた星雲荘は、その後の経過を確認し合っていた。

 

「だが、ヤプールの執念深さは余りにも有名だ。奴らがああ宣言した以上、再来を疑う余地はないだろう」

〈その際、再びあちら側との交信が可能となります。その時に、ライハの居所を発見し、救出するチャンスはあるはずです〉

 

 ヤプールに関する情報を持ち合うレムとゼナが協議の末、結論を導き出した。

 しかしそれは裏を返せば、完全にヤプールの気分一つに振り回される、出たとこ勝負を余儀なくされるということで。

 せいぜい、可能な限り長い時間戦えるよう、ジードとして戦う際は最初からウルティメイトファイナルを解禁すべきであるとか、敵の出方がわからない以上、AIBの保有する怪獣兵器・時空破壊神ゼガンの出撃準備も進めておくとか、準備の方針が決まっただけだ。

 会議が終わり、解散した面々の足取りは、元軍人であるゼナを除いて重たい。ゼガンの準備と、ヤプールが再来するまでリクたちを極力星雲荘に篭もらせるために物資の手配を行うため、ゼナは帰還しようとしていたが。

 

「……愛崎モア。君はここに残れ」

 

 星雲荘の面々と同様に、沈痛な表情だったモアに対して、ゼナはそう告げた。

 

「伊賀栗家や銀河マーケットへの護衛の手配も私が行う。君はそれらに動きがあった時、星雲荘と我々との間を調整するための連絡係だ」

 

 そのように言い残して、ゼナはエレベーターで地上へ向かった。

 リクにはそれが、モアや、彼女と親しい自分たちへの、ゼナなりの気遣いに思えていた。

 モアが居てくれることは、リクにとって確かに心強いことだったから。

 

「――お兄ちゃんっ!」

 

 そうして、話し合いを終えて自由になった途端、真っ先にルカが詰め寄って来た。

 

「怪我、大丈夫……?」

「うん。全然大したことないよ」

 

 妹の不安の眼差しに、リクは強がった。本当はまだ鈍痛が残っていたが、冷却を続けてマシになっているのも事実だ。

 

「良かった……」

 

 心底ほっとしたように、緩んだ吐息を零したルカの声へ、張りが戻る。

 

「でも、無理はしないで。次は私も戦うから……っ!」

 

 兄への気遣いと、悪辣なヤプールへの怒りと。

 そして、ライハの帰還への望みから、ルカが声に力を込めるのを。リクは嬉しく想いながらも、ゆっくりと首を横に振った。

 

「戦わなくて良い。ルカは全部終わるまで、星雲荘で待ってて」

「……なんで? どうしてそんなこと言うの?」

「前に、もう人目のあるところで元の姿に戻りたくない、って言ったのはルカだろ?」

 

 いつかのリクのように。そして、ウルトラマンジードよりも深刻に。

 培養合成獣スカルゴモラというルカの正体は、地球の人々に恐怖され、嫌悪され、排斥されている。

 そんな感情を再び浴びることをルカが疎んだのは、至極当然のことだった。

 

 それでも、ずっと擬態したままの姿で居られるとは限らない。だからレムが、スカルゴモラに戻っても使える通信機をルカに与えた、というのが今朝のことだったが。

 

「ヤプールがどこに超獣を繰り出してくるかはわからない。また街中の人から、悪く言われちゃうよ」

「お兄ちゃんっ! ――馬鹿にしないでよ、そんなの気にしてる場合じゃないんだから!」

 

 光瀬山以来、初めてルカが兄へ怒ってみせた。

 その様子に頼もしさを感じながらも、リクはルカが思い止まるように言葉を続ける。

 

「……レムも言ってただろ? ヤプールの操る超獣は、怪獣より強力な生物兵器だって。ルカが戦うのは危険だ」

「だったら余計に、少しでも戦力は多い方が良いでしょ!? AIBだってそう言ってたんだし、私、エタルガーとの戦いで、お兄ちゃんの力になれたんだよ……?」

 

 リクよりも、ルカの言葉の方が正しかった。次の言い訳を考えようと兄が口籠ったところに、ルカは畳み掛けてくる。

 

「お願い。足手まといにはならないから、私も連れてってよ……! また、お兄ちゃんが危ない目に遭うのを見ているだけなんて嫌……っ! それに、私もライハを助けたいの!」

 

 必死に訴える妹の姿を、リクは好ましく思った。だが、それでもリクの決意は揺らがない。

 兄として、妹を危険な戦場に立たせたくない。さらには妹の正体を次の戦いの場に晒すべきではないという想いまで、リクの中にはあったから。

 

「ルカは、星雲荘で待機」

「――お兄ちゃんっ!?」

「落ち着いて。ねっ?」

 

 突っかかって来ようとするルカを、横合いから割って入ったモアが制した。

 

「大丈夫だから、ルカ。僕を信じて待っててくれ」

「信じてるよ! でも、だったら私のことも信じてよ!?」

 

 その言葉に、胸を刺されたような気持ちになりながら。モアの視線に促されたリクは一度、ルカの視界から消えることとした。

 その間も響く妹の悲痛な叫びに、リクは一層強く、一刻も早く、ライハをヤプールから取り戻す決意を固める。

 

 ……異次元の悪魔から解放した後。果たしてライハが星雲荘に戻ってきてくれるのかは、わからないままでも。

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんも……ライハも……どうして……?」

 

 兄が自室へと、逃げるように姿を消したのを見届けて。ルカは、力なくその場に崩れ落ちた。

 ルカの意志と向き合ってくれないリクと、ベリアルの子らへの憎しみを語ったライハ。

 そのどちらも、今朝までは想像もできなかった悪夢のようで、ルカは情けなく泣き出しそうになっていた。

 

「……大丈夫?」

 

 そんなルカに呼びかけるのは、先程リクに詰め寄るのを止めていたAIBの愛崎モアだった。

 

「ルカちゃん、だよね。この間、一度会ってはいるんだけど……こうやってお話するのは初めてだね」

 

 言われてから。四日前、己の正体を完全に自覚して逃げていた際に、モアに一度声を掛けられていたことを思い出した。

 あの時は呼びかけられた時点で逃げてしまっていたので、よく覚えていなかったが……

 

「あっ、じゃあ……はじめまして。ごめんなさい、いきなり……」

「いいよ、別にかしこまらなくて! リッくんの妹さんってことは、私の妹みたいなものだからね!」

 

 笑顔で告げるモアのことは、確かにリクから聞いている。

 少年時代、リクの引取先であった愛崎家の娘。ジーッとしててもドーにもならない、という勇気の言葉をくれた大切な人。そして数少ない、リクのことを恐れず受け入れてくれた、姉のような存在であると。

 ……何やら兄とモアの間には、ルカを指して妹みたいなもの、とする認識に齟齬がありそうだが。今は、そこに触れる気力はなかった。もっとも、平時でも無視して大丈夫そうだとは何となく察したが。

 

「その眼鏡、前はしてなかったよね。オシャレ?」

 

 取り乱していたルカが落ち着けるよう、話題を転換するモア。その意図に乗り、少し落ち着きを取り戻したルカは頷きを返す。

 

「あー、やっぱりそうなんだ! ライハが選んでくれたの?」

「……違う。私が勝手に真似したの」

 

 否定して、それが良くなかったのだろうか、とルカは眼鏡を外した。

 

「……こんなことばっかり、するからかな」

「えっ?」

「ライハは――本当は私のこと……嫌い、だったから……こんなことになったの、私のせいなのかな……?」

「……そんなはずないよ。私もライハのことはよく知ってるけど――ライハはリッくんの大事な仲間で、とっても優しい子なんだから」

「だったら! やっぱり、私が来たからじゃない……! お兄ちゃんだって、そう思っているから……っ!」

 

 ベリアルの子らを憎む、とヤプールが代弁したライハの過去を、ルカは知らない。

 しかしリクを支えた星雲荘の仲間の一人として、共にベリアルの野望と戦い抜いてくれたというライハ。兄の信頼も厚い彼女が急に、ヤプールに付け入られるほど心を乱した原因は、タイミングを考えれば一つしかない。

 だからリクも、ルカを前へ出させないようにしているのだろうか。

 

「それは……ルカちゃんのせいじゃないよ。エタルガーにルカちゃんが狙われていた時、ライハも一緒にすごく心配してた。それに、この間、私がルカちゃんの面倒見るのを手伝おうかーってリッくんに聞いたらね? ライハが断って良いって言ってたんだって。ルカちゃん自身のことを本当に嫌ってたら、そんなことしないよ」

「じゃあ、どうして……?」

 

 問いかけるルカに、モアは一瞬迷ったような顔をした後、口を開いた。

 

「あんまり、勝手に言うようなことじゃないけどね……ライハは昔、ベリアルの部下が起こした事件で、ご家族を亡くしているの」

 

 モアの説明に息を呑む。それと同時に、合点が行った。確かにそれは、ベリアルを憎んで余りある過去だと。

 その血を継いだ娘が、自分だけは家族を得て。何も知らず、能天気に馴れ馴れしく接してくれば、確かに心中穏やかで居られるはずがないと。

 納得しつつあったルカは、しかしその認識が遥かに甘いことを、モアの続けた真実で思い知った。

 

「それで……その時、その部下が変身していたのが、赤い角の怪獣――ルカちゃんと同じ、スカルゴモラだったの」

「――ッ!」

 

 呪われた血筋、なんてものじゃなかった。

 黒幕の娘であるのみならず。家族を殺した仇の写し身を本性とする自分が、子供のように世話を焼いてくれることをせがんでいたのだ。その時のライハの心境を想えば、己の悍ましさに吐き気までしてしまう。

 同時に。だからリクが、頑なにルカが本来の姿へ戻ることに反対したのだとも理解できた。

 

「落ち着いて! ご家族の仇とは、もうライハ自身が決着をつけてる。その相手は、あなたじゃない――ライハも、そのことはよくわかってる」

 

 動悸を乱したルカの背に手を回し、さすってくれながら、モアが続ける。

 

「それでも……人は、どうしても。見た目の違いや、逆に、似たところをまだ、無視できない弱さがあるから。ライハのことを、許してあげてね」

「許す……?」

 

 深い実感の籠もった語りから、一転。モアが口にした思わぬお願いに、ルカは心底から疑問符を浮かべた。

 

「私が? ライハに、許して貰うんじゃなくて……?」

「だって――ルカちゃんは、何も悪いことをしてないんだもん」

「でも……私が気持ち悪いことばっかりして、ライハを傷つけたんじゃ……っ!?」

「だって、何も知らなかったんでしょ? だったら優しくして貰って、ツンケンする方が酷いわよ」

 

 そう、眩しく微笑んでくれるモアの姿には。

 乱れていたルカの心を、確かに落ち着かせるだけの力があった。

 

「一つだけ。覚えていて欲しいのわね、ルカちゃん」

 

 そっと、ルカの眼鏡を掛け直してくれながら。モアは、ゆっくりと語り続けた。

 

「ライハは、確かに復讐の道を選んだ――だけど、それだけじゃない優しい子だった、ってこと。赤い角の怪獣を憎んだことは事実でも、あなたに優しくしてくれたのも。リッくんが、あなたという妹に出会えたことを喜んでくれたのも。きっと、ライハの本心だったんだよ」

 

 

 

 

 

 

 ヤプールが攻勢を仕掛けてきたのは、その日の夕方だった。

 再び開いた異次元の穴――別世界との接続の構造を、この次元に棲まう者が正確に理解できない故に。大気の層でしかない空に亀裂が走り、ガラスの割れたように認識してしまうそこから、その超獣は現れた。

 

 金と黒の体色を持ち、直立二足歩行の恐竜のような姿をした超獣は、背から生やした四本の巨大な触手が何より特徴的だった。

 頭部に数本の角、膨れ上がった両肩には無数の棘を生やしたその超獣は逞しい前腕部を上空に広げながら咆哮を上げると、四本の触手の先から稲妻状のエネルギーを放射し、辺り一面を瞬く間に更地へ変えた。

 

「――やめろぉっ!!」

 

 何の警告もない破壊行為。その様子を星雲荘のモニターで目にしたリクは、即現地へ赴き、ウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルへと変身(アルティメットエボリューション)した。

 駒のように旋回しながら繰り出した制止の一撃を、超獣――つい先程学んだ過去の個体情報に照応すると、究極超獣Uキラーザウルスと瓜二つのそいつは、束ねた触手で受け止めた。一本ずつならば容易に突破できただろう触手の守りも、三本も重ねられてしまっては、勢いを削がれて本体まで届かない。

 そのまま触手が撓って弾き返されるジードだったが、Uキラーザウルスの背後から放たれた紅い稲妻が追撃を阻止していた。

 

 両腕の鋏から紅い稲妻を放つのは、甲殻類や水棲哺乳類といった、様々な海洋生物の要素を合成したような怪獣だった。

 赤い甲殻を備えた青い表皮の怪獣こそは、時空破壊神ゼガン――AIBの保有する、シャドー星の最終兵器とも呼ばれる怪獣だった。

 

 だが、シャドー星の最終兵器の攻撃でも、主砲に寄らない射撃程度では、異次元の最終兵器の気を一時的に惹いただけだった。

 そして、究極超獣はジードの方を向いていなかった触手の一本を大振りに旋回させると、そこから分離した鎌状の光線をゼガンに直撃させ、装甲表面に起こした爆発で吹っ飛ばしてしまった。

 

「今のは……ベリアルの!?」

〈Uキラーザウルスより、ベリアルデスサイズに酷似したエネルギーを検知しました〉

「Uキラーザウルスぅ? 違うな。こいつは究極超獣、ベリアルキラーザウルスだ!」

 

 ジードの反応とレムの解析を受け、一瞬、ベリアルキラーザウルスに巨大ヤプールの姿が重なって映り、そして異次元超人の声が響いた。

 

〈Uキラーザウルスは、ヤプールの開発した超獣の中でも最上位の決戦兵器です。かつてオメガ・アーマゲドンの最中、ベリアルを狙って襲来した記録が残されています〉

「その時に、ベリアルの力まで身につけたって言うことか……!?」

「その通り! ベリアルを滅ぼすために磨き上げたこの力で、貴様らを地獄へ送ってやるっ!」

 

 再び、無造作にベリアルキラーザウルスが触手を振るった。今度は三本。同時に飛来する死の刃を、ジードはギガファイナライザーを構えて受け止める。

 

「――しまったっ!?」

 

 だが、三連のベリアルデスサイズを弾くため、姿勢を崩した瞬間を狙われた。触手が一本ずつ、ジードの両腕を締め上げると、ベリアルより掠め取った電撃技、ベリアルジェノサンダーを発動。感電によりジードの力が緩んだ瞬間、残りの二本がギガファイナライザーを奪い取る。

 そのまま、ジードとギガファイナライザーを別方向に叩きつけると、ベリアルキラーザウルスは触手の全てを得物を失ったジード目掛けて集結させ、その先端から怪光線を放った。

 ジードは咄嗟に展開したバリアで集中砲火を防ぐが、四方から完全に取り囲まれては身動きが取れない。

 

「ウルトラマンジード!」

 

 ゼガンと同化、操縦するゼナが呼びかけて来る。彼は大ダメージを受けたゼガンを立て直らせると、再びベリアルキラーザウルスの背後から突撃射撃を開始した。

 

「甘いわ、シャドー星人!」

 

 だが、二度目は牽制すら通じなかった。

 ヤプールの嘲笑とともに、ゼガンとベリアルキラーザウルスの間に異次元の穴が発生。光線はその穴に呑み込まれると、一瞬の後、紫電の奔流へと変換されて、逆にゼガンを直撃した。

 

「貴様はそこで黙って見ていろ!」

 

 さらにベリアルキラーザウルスは、その背に備えた棘をミサイルとして射出。ザウルススティンガーによる絨毯爆撃は、ゼガンの倒れ込んだ街の一画ごと、敵対者を吹き飛ばす。

 

「ぬっ、ぐぉお――っ!」

「ゼナさんっ!」

「ふははははは! 貴様もいつまでもしつこいぞ、ウルトラマンジード!」

 

 もしも出現地が、先日のエタルガー戦でまだ捨てられたままの廃墟群でなければ。そこで復興作業に従事する人々がちょうど今日の勤めを終えた時間でなければ、どれほどの惨劇となっていたのか――肝の冷える大爆発を背に、高笑いしていたヤプールの叫びが契機となった。怪光線を放っていた触手が、突如としてその照射をやめた。代わって、鋏のような先端を直に叩きつけ、ジードのバリアを突破しようとする。

 防戦一方。だが、このまま負けるわけには行かない――!

 

「――スマッシュバスターブレード!」

 

 賭けに出ることを決めたジードは、防御が破られるより先に、自らバリアを解除した。

 そしてアクロスマッシャーへのフュージョンライズを経験したことで、ウルティメイトファイナルに発現させることが可能となった光の刃を両手首から生やすと、不意を突く形でベリアルキラーザウルスの触手の先端を切り落とすことに成功した。

 

「何!?」

「バーニングブースト!」

 

 驚愕の声を上げ、ヤプールが戸惑ったその隙に。続けてソリッドバーニングから発展させた拳より放つ爆熱光線で、先端以外の部分も根本まで触手を灼き切って行く。

 一気に戦力を低下させたベリアルキラーザウルスがたたらを踏んだ瞬間を見逃さず、ジードは一気呵成に攻め立てるべく、両腕へ光子エネルギーを集束させる。

 

「これで終わりだ! ビッグバスター――!」

「待て、ウルトラマンジード! これが目に入らんか?」

 

 ヤプールによるベリアルキラーザウルスの命乞いは、どこか余裕を感じさせるものだった。

 そして、ベリアルキラーザウルスの手が悠然と示したその額――赤い結晶体のような組織の中に浮かぶ影を見て、ジードは思わず蓄えたエネルギーを霧散させてしまった。

 

「ライハ――っ!?」

 

 

 

 

 

 

〈そうだ、この女は既にベリアルキラーザウルスの一部! そのまま光線を撃てば、鳥羽ライハも死ぬ!〉

 

 星雲荘のモニターに中継される戦況は、最悪の事態を伝えていた。

 人質を前に、初見殺しからの起死回生となる猛攻を中断してしまったジード――彼が立ち尽くしていた間に、ベリアルキラーザウルスは破壊された触手を元通りに復元させてしまったのだ。

 

〈ふはは、これは良い! この娘は盾になるだけでなく、貴様らへの怨みでベリアルキラーザウルスの再生力まで向上させてくれるようだ!〉

 

 ヤプールの高笑いとともに、ベリアルキラーザウルスが圧倒的な火力による攻撃を再開する。飛行して躱し、バリアで凌ぎ、飛行中に回収したギガファイナライザーで弾きはするものの、反撃を封じられたジードは着実に追い詰められて行く。

 

「お兄ちゃん……っ!」

 

 結局。あの後、ずっとヤプールについての研究を行っていた兄とまともに会話もできないまま見送ったルカは、画面越しに唇を噛むしかできなかった。

 

「ゼナ先輩、リッくんを助けてー!」

 

 絶叫するモア。確かに単独では如何にウルトラマンジードと言えども、打つ手がない絶望的な状況だ。

 だが圧倒的な戦力差により、ゼガンは既に中破。元より標的として見なしていないヤプールからトドメこそ受けていないが、ここまでの様子を見れば再起動したところでどこまで頼れるものなのか。

 最強の味方であったウルトラマンゼロは今、この地球には居ない。ヤプールが出現したとなれば光の国のウルトラマンも動くかも知れないが、別宇宙から事態を感知し、駆けつけるにはまだ、時間が経過してなさすぎる。

 

「レム……リクは、後何分戦えるの!?」

〈ウルティメイトファイナルは、リクの意志が続く限り継戦可能です。ですが、このままベリアルキラーザウルスの攻撃を受け続ける場合、十分以内に肉体を破壊され戦闘不能となる確率は、97.3パーセントと予想されます〉

「――ッ!」

 

 ペガの問いでレムが弾き出した答えが、ルカの覚悟を決めさせた。

 

「レム。私も地上に出して」

「えぇっ!?」

 

 モアとペガが、ルカの提案に驚きの声を上げた。

 

〈承服できかねます。私のマスターであるリクは、あなたへの待機命令を下しています〉

「でも、あなたの計算だと、このままじゃお兄ちゃん――あなたのマスターはやられちゃうんでしょ? 良いの、それで」

〈……失礼ながら、モアとの会話は聞いていました。仮にあなたが戦線に加わっても、ライハの憎悪を刺激し、却って状況が悪化する可能性があります〉

「それは何パーセント?」

〈……ヤプールの支配と、ライハの精神状態によるベリアルキラーザウルスへの影響の相関について、データが不足しています。演算は不可能です〉

「なら、このままお兄ちゃんがやられるのを黙って見ているより、もしかしたら分の良い賭けかも知れないよね?」

 

 ルカの問いかけに、レムは沈黙した。だが、かといってルカを戦場に届けようとする様子もない。

 だったらここで擬態を解いて、自力で地上まで出てやろうか――そんな過激な考えが脳裏にちらつくのを、ルカは何とか抑え込む。

 

「る、ルカちゃん……でも、リッくんは……」

「モアは言ったよね。人は見た目の違いや、似たところを無視できない弱さがあるって……それは、怪獣も一緒なんだ」

 

 リクに代わって、ルカを押し留めようとするモアに、ルカは小さく首を振った。

 

「私は、ウルトラマンが怖かった。姿があの時のタイガに似ていたから、お兄ちゃんのことだって怖かった。だけど、その恐怖からお兄ちゃんが救ってくれたの。だから、私はお兄ちゃんを信じてる! お兄ちゃんと一緒なら、きっと……モアの言う、ライハの本心を救うこともできるって」

「……レム。行かせてあげて」

 

 そこで、ルカに助け舟を出してくれたのは、ペガだった。

 

「今、リクの力になれるのはルカしかいない。そうしたいって決めたのは、ルカの意志だ。リクが、ウルトラマンになったみたいに」

「ペガ……ありがとう」

「へへ。それに――レムの意志は、どうなの?」

 

 照れたように鼻をこすったペガの問いで、一瞬の後、レムは沈黙を破った。

 

〈……今、リクの力になれる者は、ルカだけではありません〉

 

 レムの答えは、その場に居た三人の目を丸くするものだった。

 

〈ですが、このままその手段を講じてしまえば、どの道リクの命令の意図に反してしまいます。そうであるなら――事前の準備として、ルカたちを避難させることは、緊急事態における私の裁量であり、命令違反にはなりません〉

 

 述べると共に、レムはエレベーターを二基、司令室に出現させた。

 

〈お乗りください。三人が避難した後、星雲荘はネオブリタニア号として発進します。その後のことは私にもフォローしきれませんので、あしからず〉

「レム……!」

 

 ルカとペガは、揃って顔を輝かせた。

 リクの命令を遵守しながらのレムの意を汲んで、二つのエレベーターの片割れに、ルカは一人で乗り込んだ。

 

「ルカちゃん」

 

 扉が閉まる寸前、モアが呼びかけてきた。

 

「リッくんと……ライハのことを、よろしくね」

 

 よろしく、と便乗するペガとともに、モアの姿は扉の向こうに消えた。

 直後、エレベーターが移動を開始する。同時にレムが、ネオブリタニア号の発進シークエンスのアナウンスを始めるのを聞きながら、一人になったルカはそこで膝を折った。

 

(怖い……怖い……っ!)

 

 ヤプールの戦力は、ルカの予想を越えていた。最強の形態となったジードをも苦戦させるあの究極超獣と対峙することは恐ろしい。痛いことは、暴力をぶつけられることは、怖い。

 信じて待ってて、というリクの言いつけを破ることは、怖い。このまま兄が死ぬかもしれないことと比べれば論外だが、だからといってこれで兄に嫌われたらもう、生きていけない自信がある。

 そして――自分とは別存在に起因するのだとしても。スカルゴモラとして、ライハに怨みをぶつけられることも、怖い。きっと耐えられない。

 

 ああは言ったものの。皆が送り出してくれたものの。本当はルカだって、自分が戦場に出るだけで何もかも上手くいくとは思っていなかった。

 

 だけど。それでも――

 

「……ジーッとしてても、ドーにもならないから!」

 

 地上に出た直後。ベリアルキラーザウルスに向かって飛び立つ星雲荘――ネオブリタニア号の機影の下で。

 その叫びとともに、再起したルカは自らの真の姿を解き放ち、夕映えの戦場へと駆け出した。

 

 ライハの運命を歪めた、ベリアル融合獣スカルゴモラではなく。

 リクやライハたち、星雲荘に救われた、培養合成獣スカルゴモラとして。

 

 

 

 

 

 




(オリジナル)ウルトラカプセルナビ

名前:究極超獣ベリアルキラーザウルス
身長:79メートル
体重:8万2千トン
得意技:ベリアルデスサイズ

 かつてヤプールの収集したウルトラマンベリアルのデータを元に、ベリアルの攻撃力を再現し、究極超獣Uキラーザウルスに付与した強化バリエーション。

 外見的な特徴は通常のUキラーザウルスと同様だが、触手にギガバトルナイザー、本体にベリアル自身の技を習得させていることで、Uキラーザウルス・ネオ以上の火力を、小回りの効く通常形態のまま備えることに成功している。

 同化した生命体の持つ負の感情との相性次第では、肉体の再生能力を向上させることも可能のため、その作用する範囲を効率良くするために巨大化機能はない。

 反面、防御力は然程向上していないため、最大の仮想敵であるベリアルには同系統の技をより多い手数で行使できる特性で火力による制圧を、その他のウルトラマンに対しては人質による攻撃の抑止で補うという設計思想となっている。
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