ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第三話「恩讐の果てに」Cパート

「終わりだなぁ、ウルトラマンジード!」

 

 ベリアルキラーザウルスを操るヤプールが、勝ち誇った声を発する。

 全ての触手で四肢を念入りに拘束され、ベリアルジェノサンダーを流し込まれながら、首まで太い腕で掴まれているウルトラマンジードの状況はまさに、絶体絶命と言って差し支えなかった。

 いくら、リクの想いがある限り、ウルティメイトファイナルのエネルギーが尽きることはないとしても。この状況から反撃できる手段はいずれも、ベリアルキラーザウルスの額に埋まったライハを殺めてしまうものばかりだ。

 それ故に打つ手なしのまま、想いの源である命を直接破壊されてしまっては、どうしようもなくなるだろう。

 

 ――ライハを救えないまま、敗北するわけにはいかない。こいつは次に、ルカの命まで狙うつもりだというのに――!

 

「憎きウルトラマンとレイブラッドの血脈……その一つを、まずはここで断ぁつ!」

 

 処刑宣告とともに、ベリアルキラーザウルスの目に怪しい輝きが灯り――それが破壊熱線として放たれる前に、別の光条が、究極超獣へと降り注いだ。

 

「――星雲荘!?」

 

 救いの手に最初、ゼガンの再起動を予想したジードが目にしたのは、夕焼けに照らされたネオブリタニア号の黒い船体だった。

 

「レム、なんで――ルカはっ!?」

「(――私はこっちだよ、お兄ちゃん!)」

 

 ジード――リクの疑問が届いたかのように、その声が脳に響いた。

 一拍遅れて、雷鳴のようなスカルゴモラの咆哮が、黄昏の街に轟き渡る。

 

「ルカ……何を!?」

 

 その姿を認めたジードが、危惧した通りのことが起きた。

 スカルゴモラの方を向いたベリアルキラーザウルスの触手の内、二本の拘束が緩まった。解けたそれらは、内の一本が無造作にベリアルデスサイズをネオブリタニア号へと発射。回避行動を取るも避けきれるものではなく、被弾したネオブリタニア号の船体が傾き、墜落していく。

 その結果を見届けもせず、もう一本と合流した二条の触手が、スカルゴモラの肉体に突き刺さった。

 

「よくものこのこと出て来たものだな。死ねぇ!」

 

 ヤプールの号令で、ベリアルキラーザウルスが咆哮とともに触手のエネルギーを励起させようとした。

 ――だが、それより一瞬早く、スカルゴモラに突き刺さっていた先端部から、ベリアルキラーザウルスの触手が破裂する。

 

「ぬぅ、超振動波か!」

 

 そうして、拘束が緩まり、さらにはベリアルキラーザウルスの注意が逸れたおかげで。ジードは残りの拘束から脱するチャンスを得られた。

 

「ストリームデトネーション!」

 

 ウルティメイトファイナルの全身に描かれた金色のライン、ゴールドストリームから電磁破砕光線を発射。纏わりついていた触手を引き千切り、ジードの首を掴んでいた右腕を灼き弾く。さらにベリアルキラーザウルスの本体の内、ライハには影響の出ない右胸の発光器官にも、傷を与えることに成功する。

 憤怒の咆哮を上げるベリアルキラーザウルスが、残る左手から赤い爪を伸ばした。ベリアルデスクローを模した引っかきを、ジードは掌を蹴り上げて逃れる。

 そうして、ベリアルキラーザウルスが左胸に残った発光器官から放つ白熱光、テリブルフラッシャーで諸共に攻撃されたスカルゴモラの前に移動が間に合い、ジードはバリアを展開して妹を庇った。

 

「ルカ! 何やってるんだよっ!?」

 

 ベリアルキラーザウルスの触手、鋭い爪のような先端部で皮膚を裂かれ、流血しているスカルゴモラを振り返り、ジードは声を張り上げる。

 

「星雲荘で待ってろって、お兄ちゃん言ったよな!?」

「(だけど……あのままじゃお兄ちゃん、負けてたじゃん)」

 

 痛みを堪えながらも、ベリアルキラーザウルスへの闘志を隠しもしないスカルゴモラは、兄に対してそんな生意気な口を利いてきた。

 

「ルカ、僕の言うことが聞けないのかっ!?」

「(お兄ちゃんこそ、私の話を聞いてよっ!)」

 

 こんな状況で、まさかの兄妹喧嘩が勃発しそうなやり取りに、ジード=リクは目眩を覚えた。

 強硬策を取ろうにも、ベリアルキラーザウルスからの破壊光線の照射は続いている。手を放すことができないジードは、臍を噛むしかできない。

 

「(私、もう知ってるよ。ライハが、この姿を憎んでいるって)」

 

 だが、妹は何も知らずにやって来たわけではないと――そう、静かに訴えてきた。

 

「(だから、お兄ちゃんが私を心配してくれたのもわかってるの。それに、私がこうして居るだけで、ライハを余計に傷つけちゃうかもしれないことも。……だけど。お兄ちゃんの盾になれるのは、今は私しかいないから)」

「盾だなんて……何てことを言うんだよ!?」

 

 現に。スカルゴモラたちが攻撃の一部を引き受けてくれたからこそ、詰みの状況を脱したジードは、しかしその事実を認めるわけにはいかないと首を振る。

 

「(だって……お兄ちゃんが居ないと、ライハを救うなんて、できっこないじゃん……っ!)」

 

 その時、ジードの意識に直接伝わった妹の感情は――不信ではなかった。

 

「(私、お兄ちゃんを信じてるよ。お兄ちゃんなら、私の時みたいに、ライハのことも助けてくれるって!)」

「ルカ……」

「(だから――お兄ちゃんも、私のことを信じてよ。お兄ちゃんと一緒なら、私ももう、誰にも負けたりしないから!)」

 

 ルカが叫んだ直後。テリブルフラッシャーの照射が止んだ。

 ――代わりに、ベリアルキラーザウルスの本体が、背中のバーニアの大推力で以って強引に飛行し、直接突撃して来ていた。

 既に復元された触手にベリアルジェノサンダーを纏い、何度もウルティメイトファイナルバリアに叩きつけ、遂にそれを割ったところに。

 

「(やぁああああああああっ!)」

 

 スカルゴモラが、正面から突っ込んだ。

 五万九千トンの体重を誇るスカルゴモラだが、ベリアルキラーザウルスはそれを上回る八万二千トン。圧倒的に不利な激突に、しかしスカルゴモラは喰らいついた。

 ベリアルデスクローの状態で交互に振り下ろされた究極超獣の両腕を、恐れず自身の拳を掌に叩き込むようにして受け止める。超獣と違い、推進力がない分を、強靭な尾で大地を叩いて制動をかける。

 そして、轟音が響き渡る。超重量同士の正面衝突が、日の沈み行く街を揺らす。

 大地を震わすがっぷり四つとなった培養合成獣と究極超獣だったが、体格で勝るベリアルキラーザウルスがスカルゴモラをそのまま圧し始めた。伸びた爪が押し込まれ、微かにスカルゴモラの首を裂く。

 さらには、ライハを人質に取られて反撃できないスカルゴモラに対し、ベリアルキラーザウルスは背部の触手群を蠢かせ、その急所を貫こうとした。

 

 ――だが。そうしてベリアルキラーザウルスの攻撃を、スカルゴモラが数秒、止めてくれていた間に。

 

「クレセントファイナルジード――ッ!」

 

 再び、ギガファイナライザーを回収したジードの放った光刃が、ベリアルキラーザウルスの触手をまとめて断ち切った。

 

「ギガライトニングバースト!」

 

 さらに、得物を振り切った体勢のまま、ジードは額から強烈な電撃光線を発射。連続攻撃に、ゼガンの時のように防ぐことが叶わず、異次元の最終兵器は脇腹を被弾。ベリアルキラーザウルスの姿勢が崩れ、隙を逃さずその体をスカルゴモラが持ち上げる。

 咆哮とともに。スカルゴモラの豪腕が、自身より二周りも大きいベリアルキラーザウルスの巨体を、ブン投げた。

 

 耳を劈く大音量を奏で、大地へ叩きつけられるベリアルキラーザウルス。巨体故にすぐには起き上がれないその様子を確認し、ジードはスカルゴモラに手を翳した。

 その掌から放射されたのは、フルムーンネオヒーリング。ジードの扱える最上位の治癒光線は、スカルゴモラが負った傷をみるみる塞いで行く。

 

「(あっ……ありがとう、お兄ちゃん)」

「……御礼を言うのは僕の方だよ、ルカ」

 

 快復したスカルゴモラの思念の声に返しながら、ジードはある日の戦いを反芻していた。

 

「おかげで、思い出せた……家族の絆は、もっと大きなものだって」

 

 ――そのことを教えてくれたあの子も。二人の兄の心配を理解しながらもなお、誰かを助けるために決して諦めず、そして奇跡を掴んでいた。

 兄としての経験が乏しいリクは、そんな目の前で起こった大切な出来事さえも頭の片隅に追いやってしまって、妹の意志を無視することで彼女を護ろうとした。そんなの、上手く行かなくて当然だった。

 

「行こう、ルカ。僕と君の……それに、皆の力を合わせれば! きっとライハを取り戻せる!」

「(――うんっ!)」

 

 遂に立ち上がり。これまで以上の速度で触手を再生するベリアルキラーザウルスに対して、再びギガファイナライザーを構えながら。スカルゴモラと肩を並べて、ジードは叫んだ。

 

 例え、ルカがライハの両親を奪った赤い角の怪獣、そのものの姿をしていても。

 ライハの両親を死に追いやったのが、リトルスターを回収するための偽りのヒーロー、ウルトラマンジードのための予行演習だったとしても。

 

 同じ場所で過ごしたあの時間。彼女の見せた笑顔は、きっと嘘じゃない――!

 

「決して絆を諦めない――それが家族だ!」

 

 

 

 

 

 

 ――その言葉が、激しく心を揺さぶった。

 

 あの日の景色を再生し続ける不快な微睡みの中にあった意識が、微かながら覚醒する。

 

「おのれベリアルの子ら……! 小癪な……っ!」

 

 そこでようやく。ライハの隣に、そしてライハと重なって。空間に偏在する赤い悪魔が、そんな声を漏らしているのを知覚することができた。

 さらに、感覚が拡がる。ライハは自らが悍ましい肉塊の中に囚われていると同時に、体が何十倍にも巨大化し、背筋には存在しないはずの触覚が伸びているような認識を持った。

 そんな異形かつ多重の感覚を自認したライハの視界に映るのは、無骨な赤い棍を装備した巨人と、そっくりな色の角を持つ怪獣とが、仲良く肩を並べて向かって来るという眺めだった。

 

 ――私は、あの時。家族のことを、諦めるしかなかったのに。

 

 そう認識した瞬間。微睡みの中で増幅された憎悪が膨張し、拡大された肉体から、嵐のように吹き荒れた。白い光が、赤黒い棘の群れが、金色の鎌が、漆黒の触手が、赤き爪が、向かって来る二つの命を幾度となく襲う。

 あの日。ライハの家族を土砂の中に沈めた赤い角の怪獣の姿が、怨嗟の産んだ破滅の奔流へと呑まれて行く。

 怪獣の壁になろうとする巨人を、整勁を作用させて薙ぎ払う。赤い剣の群れのような爪で切り裂かれながら、四万トンを越す巨躯が長大な得物ごと、冗談のように飛んで行く。

 今度はその巨人を庇おうとする赤い角の怪獣に、肩から突撃。既に満身創痍だった怪獣は靠撃(こうげき)により防御を崩され、先の衝突と違い持ち堪えることも叶わない。六万トン近い超質量が弾かれ、大地に叩きつけられてから血を吐いた。

 

 ……拳は流星、脚は弓。体を龍の如くうねらせて、腰は蛇のくねるように。稲妻の視線で、内外六合を満たした身法を駆使する。

 惨劇の日から、喪失を埋めるように手に入れたこの力。だが如何に人体の操作を極めても、その拳が届くはずのなかった理不尽の象徴たる巨大な生命。赤い角の怪獣に、しかし今は手が届く。何せ、こちらの方が大きいから。

 

「良いぞ、鳥羽ライハ! 貴様を取り込んだことは正解だった!」

 

 悪魔が囀る。その声自体は厭わしいとしか感じられないが、しかし己が無力ではないというこの瞬間は心地良い。

 昏い爽快感に痺れながら、ライハはさらに踏み込もうとして、巨人の振るう棍で前進を阻まれた。

 痙攣する怪獣の様子に、焦りを隠さず癒やしの波動を放つ巨人。その挙動に、ライハの苛立ちが刺激される。

 

 ――剣を握る腕の如く、しかし異形の関節は遥かに多く。静止からの躍動、その一連の動作を全可動域で統合させ加速した触手による斬撃は光の刃となって飛翔し、巨人を背後から切りつけた。

 

 治癒を阻止され、完全な再生には至らなかった身のままで、立ち上がった赤い角の怪獣が向かって来る。

 だが、その姿形も、もう少しも怖くない。あの日、娘の成長を見届ける未来を奪われた両親の無念を、今こそ晴らす。

 

 触手を今度は槍術の如く、螺旋軌道で叩きつけた。連続して打ち付ける堅い先端が、怪獣の肉を削る。

 紫電を纏った連撃の一つ一つに、その身を貫く必殺を期したにも関わらず……先程に比べて、短期間でその肉体がさらに強靭になったような、奇妙な手応えを訝しく思いながらも。ライハは触手を戻した勢いに合わせ、反対の掌底を繰り出した。

 爪を伸ばして表皮を裂きながら、大きく掌を張り付けて、勁を作用させるための接触面との同一化を図った瞬間。その腕を、怪獣の両手が掴んで来た。

 

「(――ライハ!)」

 

 だが、名前を呼ぶ少女の声が聞こえたその時には、既に発勁は完了していた。

 急所――ちょうど結晶体の付いた胸部を突かれて、赤い角の怪獣が宙を舞う。手を離さなかった怪獣により、打撃と引き換えにこちらの腕が千切れ飛ぶ結果となったが、痛みはまるで感じなかった。

 

 しかし、その声に。ライハの意識の靄がもう一段晴れた。

 何故ならあの時聞いた赤い角の怪獣の声と、今、繋がった瞬間に響いた少女の声との印象が、大きく違っていたから。

 

「……ルカ?」

「(帰って……きてよ……!)」

 

 手放さなかった腕を一瞬、名残惜しそうに見つめてから。残骸を投げ捨てたスカルゴモラは、弱々しく悲しげな響きをライハに届けた。

 そこで、力尽きたように倒れ込む彼女の様を見て。急激に、認識が明瞭になった。

 そして、己が何をしてしまったのかを、ライハは理解した。

 

「うん、どうした鳥羽ライハ? 何故攻撃を止めた?」

「違う……この子じゃない! 私の仇は、もう死んでる!!」

「だからどうした。そもそもの元凶であるベリアルの子ばかりが幸福を掴み、踏み躙られたおまえは孤独のまま。それを妬んで何が悪いというのだ?」

 

 ライハと同化した悪魔――異次元超人ヤプールが、魔道へと誘う囁きを放つ。

 そう、ライハは妬んだ。理不尽な加害者の血を引きながらも、光溢れる道へと歩む兄妹を。奪われたものを取り戻せず、復讐のために全てを捨ててきた己の空虚と比較して。

 だから悪魔に魅入られて――そんな理不尽な理由で、一つの家族の幸せを壊し、嗤った。

 あの日の赤い角の怪獣と、同じように。

 

「……もう遅い。貴様は既に、我らの同類。他者を妬み、憎み、故に傷つけ奪う邪悪に過ぎん。最早我らの闇以外、貴様の在るべき場所はない!」

「あ……うぁああああああああああああああっ!?」

 

 我が身を呪うライハの悲嘆さえも糧にして。暗黒の化身たる究極超獣は千切れた腕を再生させるのみならず、その力をさらに増長させる。

 ライハの意志など、最早介在する余地はない。ベリアルキラーザウルスは容赦なく、触手から死の輝きを振り撒いた。

 その毒牙を向けられながらも、倒れ込んだまま動けないスカルゴモラを庇うように。光の壁を抱えた巨人が割り込んで、破壊光線を遠ざける。

 

「(ライ……ハ……っ!)」

 

 その時響いた思念に、ライハは微かに恐怖した。

 ライハの振るった暴力により、その生命を風前の灯火にまで追い詰められた少女の呼び声に――しかし、寸前までライハを染めていた色はなく。

 死を目前とした満身創痍の状態でも。彼女を守護する巨人の背後から、スカルゴモラは這ってでも前に進もうとしていた。

 

「(お願い……戻って……!)」

 

 何が、そこまでさせるのか――澄んだ祈りを前にして、安堵よりも疑念を抱いたライハの耳に、馴染んだ声が飛び込んで来た。

 

「そうだよ……! 帰って来い、ライハ!」

 

 光線を防ぐウルトラマンジードの――リクの声を聞いて、ライハはようやく眼前の存在が誰なのかを、明瞭に認識することができた。

 

「リク……? リクなの……?」

 

 帰還を呼びかける彼の名を繰り返し、しかしライハはそれ以上の応答を躊躇した。

 自らの浅ましい嫉妬に呑まれ、彼ら兄妹を傷つけた自分。見当違いの憎悪のままに、己を慕ってくれた少女の命を脅かした理不尽の化身には、その呼び声に応える資格なんか見出だせなくて。

 こんな、罪過だけの塊となった、悪魔の傀儡である鳥羽ライハには、彼らの願いに甘えて良い理由が見つからなくて。

 

 ――知ったことか、とばかりにリクが叫んだ。

 

「まだこないだ、ルカのおかわりを奢って貰った分だって、僕は返せてないんだぞ! このままで良いのかよ!?」

「はぁ? 何を言っているのだ貴様は」

 

 余りにも場違いなリクの呼びかけは、ヤプールにさえ間の抜けた感想を漏らさせていた。

 

 だが。そのたった四日前の出来事を想起させる言葉こそが、七年前の復讐と、今しがたの罪ばかりに囚われていたライハの胸を打っていた。

 

 例え、拭い去れない引っ掛かりを残していたのだとしても――あの時の自分は、確かにリクとルカの出会いを、祝福していたのだということを。

 正体が知れないままでも、食べ物が美味しいと、屈託なく笑ったルカの様子に、自分も笑顔を零していたのだということを――思い出した。

 

 そして、眼前の二人が決して諦めずに取り戻そうとしているものは。復讐だけの空虚な生涯だけでなく、負の感情に敗れた咎人であるのみならず。そんな風に彼らと過ごせた、鳥羽ライハという――――血の繋がらない、彼らの家族であるということを。

 

 そのことに気づいた瞬間に、光が満ちた。

 

 

 

 

 

 

 その時。ウルトラマンジードの姿となっているリクは、その光の巨人体が内包する小宇宙(インナースペース)の中で、虹色の輝きが溢れるのに気がついた。

 

「これは……っ!」

 

 それはあの決着の日を過ぎ、本来の所有者に返還してから、大きく減退していたはずの煌めき。

 そんな光の発生源を確認したリクは、そこに宿る縁に奇跡を予感して、ウルトラカプセルを起動した。

 

「ユー、ゴー!」

 

 一つ目のカプセルは、リクの起源たる存在――闇に堕ちた父、ベリアルの因子に満ちたモノ。

 リクの運命を仕組むために与えられた、ベリアルからの贈り物。

 

「アイゴー!」

 

 二つ目に選んだカプセルは、全宇宙を見守る伝説の超人、ウルトラマンキングの奇跡を再現したモノ。

 かつてライハが、ベリアルの息子であるリクを信じて届けてくれた祈りの結晶。

 

「ヒア、ウィ、ゴー!」

《ウルトラマンベリアル・ウルトラマンキング》

 

 双極のウルトラカプセルを揃えることで顕現するは、一振りの剣。それは荘厳なる神杖とも見紛う超絶撃王剣(キングソード)

 

《我、王の名の下に!》

 

 授かりし剣に手を伸ばし、ウルトラマンキングのカプセルを再装填したリクは、その決意を叫びとして誓う。

 

「変えるぜ、運命! ジィィィィィィィィィィィドッ!!」

 

 宣誓を合図に、リクを構成する光が形を変えていく。

 王冠の如き装飾を授かり、体表の色は銀と黒の基本色に紫を加え、黄金の鎧とマントに包まれた高貴なる姿。それは、この身に発現した可能性を全解放した最終戦闘形態(ウルティメイトファイナル)にさえ含まれない、奇跡の剣を顕現させるための、光と闇、善と悪、正と邪を併せ持つ、陰陽太極を体現せし形態。

 その身に秘めた力強く崇高なる意志を肯定するように、王聖の剣がその名を高らかに謳う。

 

《ウルトラマンジード! ロイヤルメガマスター!》

 

 そしてキングの奇跡が、かつて奉納されたリトルスターの縁を下に、今一度引き起こされる――――!

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な、この輝きは、その剣は――っ!?」

 

 その眩さに恐怖したように、ヤプールが叫んだ。

 

 ――ウルトラマンジード・ロイヤルメガマスターは、太陽の消え行く逢魔時に光臨すると同時。その動作の一切を、停止した。

 その代わりと言わんばかりに。神聖なる輝きが、ヤプールに支配されたはずのライハの精神世界にまで、投照されていた。

 

「ウルトラマンキングの、剣だと――!?」

 

 その剣の放つ光は、ライハの心と重なっていたヤプールの邪悪な意志を祓い、分離させる。

 そうして自由を取り戻したライハは自らの手元に出現した、地球人の規格に誂えられた超絶撃王剣キングソードをその手に掴んだ。

 

「……一つ、訂正してあげる」

 

 武器とともに、自らの使命を見出したライハは、背後に立つ悪魔に向けて口を開いた。

 

「私の中には確かに、憎悪(あなた)という(かげ)がある……それでも、私の中にあるのは、憎しみだけじゃない」

「ほざくな人間がぁっ!!」

 

 遥か格下と侮った存在の叛逆に、ヤプールが激昂する。

 右手にある三日月状の刃から光弾を放ち、我が身を撃ち抜こうとするのを、ライハはキングソードを用いて切り払い、駆け出した。

 この空間内において、本来は巨人体であるはずの姿のヤプールと、ライハは同等のスケールで存在している。ヤプールが右手の鎌で迎撃するのに、ライハもキングソードを合わせて受けた。ヤプールは邪悪な念動力でライハの精神を砕こうとするが、キングソードが放つ光が無効化し、純粋な鍔迫り合いとなる。

 

「人間如きが、手間を掛けさせるなっ!」

 

 ヤプールの怒る間、空間に投影される外部の様子に動きはない。ジードがこの剣を存在させるために静止するのと同様に、ライハとヤプールが対峙している間、ベリアルキラーザウルスを操る意志もまた停止しているのだ。

 

「今度は私が守る! 皆の届けてくれたこの剣で!」

 

 叫びとともに、ライハはヤプールの放った足を躱し、逆に蹴り返した。

 体勢の崩れたヤプールへ、さらにライハは猛追。日々研鑽を怠らなかった剣の舞が、徐々にヤプールの防御を上回り、闇の凝った肉体を斬り裂いていく。

 

「かぁっ!」

 

 追い詰められたヤプールの気合とともに、横合いからの劫火がライハを襲った。苦し紛れの反撃は決定打たり得ないが、一旦状況を仕切り直す効果があった。

 

「舐めるなよ、鳥羽ライハ! 貴様ら人間、いや低次元の全生命体のマイナスエネルギーの結晶こそが我らヤプール! それでも、たかだか人間一人の敵う存在だと思い上がるかっ!?」

「私は一人じゃないっ!」

 

 接近させまいとヤプールの乱れ打ちにする光刃や火球、その尽くを切り払いながら、ライハは叫びを返す。

 

「あなたは確かに、私たちより遥かに大きな闇の存在――だけど、それだけでしかない!」

 

 ライハが修めた太極拳の思想において。闇と光、陰と陽は等しく万物を構成する要素であり、互いが存在することで初めて成立するとされている。

 その調和こそが、物事の秩序ある発展や変化を促す――まさしく、ベリアルの血を引きながら、自らの意思でキングにも認められるウルトラマンとなった、リクのように。

 

 どれほど強大な存在であっても。闇や負といった陰の気ばかりのヤプールでは、ただ過去に囚われ続けるだけ。だからこれまで一度も、未来に向かって進むウルトラマンたちには勝てなかった。

 ならばあの日、運命を変えたリクと同じように――自らの闇を認め、同時に光を見つめ直した今のライハが、負ける道理など有りはしない――!

 

「スウィングスパークル!」

「ぬぅおぉおおおぉっ!?」

 

 そして、一閃したキングソードから放たれた光のエネルギーは、ヤプールが相殺しようと連射した光弾を容易く掻き消して、悪魔の胴を両断した。

 真っ二つに斬り裂かれ、崩れながら霧散するヤプールは、しかし消え去る最中にも哄笑した。

 

「愚か者め! 意識を寄せていたとはいえ、所詮貴様と同化していたものなど、私のほんのカケラに過ぎん! 例えキングの加護がある間、正気を保てたところで……その剣を維持するためにウルトラマンジードは動けず、貴様の肉体は未だ、ベリアルキラーザウルスの中にある! 後何秒、ジードはあの姿をこの星で保てるかな?」

「何か忘れてるんじゃないかしら」

 

 消え去った後も負け惜しみを並べ立てるヤプールに、残心を解いて上体を起こしながら、ライハは告げる。

 このタイミングで、ヤプールが挑戦して来る理由となったはずの存在を。

 

「ジードももう、一人じゃないのよ」

 

 ライハが言い終えたその瞬間。背後から、五指を備えた巨大な掌が伸びてきて――空間ごと、ライハの存在を毟り取った。

 

 

 

 

 

 

 ライハとヤプールが争っていた間、ずっと停止していたベリアルキラーザウルス。その脳天を貫いた、スカルゴモラの掌が引き抜かれる。

 超振動波の応用で、究極超獣の肉体構造を走査したスカルゴモラの抜き手は、その印象に反して繊細に弱所を切り離し、そしてライハには損傷一つ与えることなく、ベリアルキラーザウルスの額を抉り取っていた。

 ライハを包む赤い結晶体状の組織を引き千切った勢いのまま、スカルゴモラが身を翻す。伴って大きく動いた尾が、棒立ちを続けていたベリアルキラーザウルスを打ち、薙ぎ倒した。

 

 しかし、その殴打は決して意図した攻撃ではなかった。

 そんな余裕は、既に瀕死のスカルゴモラの中に存在していなかったから。

 

 ゆっくりと、山のような巨体が傾いて行く。自らの転倒させたベリアルキラーザウルスのそれに比べると緩慢に、だが最早抗いようもなく、力を使い果たしたスカルゴモラも膝を折ったのだ。

 激突の瞬間、発光とともにその巨体が縮小した。手の中のライハを押し潰さないためなのか、それとも曲がりなりにもウルトラマンの性質も宿した彼女にとって、地球上でその姿を維持するための余力も絞り尽くしたのか。あるいはその、両方か。

 ともかく、人間の少女の姿へ戻ったルカは、ライハの包まれたベリアルキラーザウルスの肉片を抱いたまま、焦土と化した大地の上に横たわった。

 

「ぐっ……おのれ朝倉ルカ、おのれ鳥羽ライハ!」

 

 頭部を半壊させられたままのベリアルキラーザウルスを、ヤプールは再起動させた。

 怨みを晴らさんと視線を下ろした究極超獣の目は、憎き二人の少女だけでなく――転送されてきたエレベーターから飛び出し、彼女らを救出しようと駆け寄った、ペガッサ星人の子供と地球人の女性の姿までまとめて捉えた。

 

「諸共死ねぇっ!」

 

 ベリアルキラーザウルスの触手が蠢く。ペガとモアが星雲荘のエレベーターまでルカとライハを回収するより、まとめて触手に吹き飛ばされる方が早いと、誰もが直観したことだろう。

 ――唯一人を除いては。

 

「な――に――っ!?」

 

 ベリアルキラーザウルスと時を同じくして立ち上がった異形の影を、ヤプールは確かに把握していた。

 だが、取るに足らぬと捨て置いていたその怪獣の一撃は、対象との間にヤプールが展開していた次元の穴による防御を紙のようにして貫き、ベリアルキラーザウルスの触手を纏めて消し飛ばしていた。

 シャドー星の最終兵器、時空破壊神ゼガンの主砲――その名の由来たる時空干渉転送光線のゼガントビームは、ヤプールによる操作と同様に次元構造自体に干渉し、それによる防御を無効化していたのだ。

 

「ゼナ先パーイ!!」

 

 歓声を上げるモア。彼女がライハを肉塊ごと引きずる頭上に生じた新たな次元の穴が、引き千切った触手のみならずベリアルキラーザウルス本体をも、高い箇所の部位から呑み込もうとしていたが。

 

「調子に乗るな!」

 

 ヤプールはその権能でただちに次元の穴を封鎖。続けてテリブルフラッシャーがゼガンを撃ち抜き、今度こそ完全に沈黙させる。

 

 だが、そうしてゼガンの稼いだ時間こそが、勝敗を決する最後の一因となった。

 ヤプール自身が異次元の穴を塞いだこともあり、吸引という阻害要因のなくなったペガとモアによる救出活動が無事に完了。ベリアルキラーザウルスが再びそちらに意識を向ける頃には、既に星雲荘のエレベーターは、遠方のネオブリタニア号まで回収されていた。

 そして――ベリアルキラーザウルス同様に活動停止していたその存在が、再び万全の戦闘態勢に移行することを、許してしまっていた。

 

《アルティメットエボリューション! ウルトラマンジード! ウルティメイトファイナル!!》

「終わりだ、ヤプール!」

 

 忌まわしきクシアの遺産により、再び最終戦闘形態(ウルティメイトファイナル)へと変貌を遂げたウルトラマンジードは、人質という盾を失ったベリアルキラーザウルスの横っ面を感情任せに張り上げた。

 それはただの打撃。しかし、仲間を利用され、妹を傷つけられ、多くの人々を苦しめられた事実に怒るジードの鬼気と。その感情を、物理的なエネルギーにも変換するギガファイナライザーの仕様により、破壊力が大幅に上がっていた。

 威力の余りに打ち上げられたベリアルキラーザウルスは、放物線が落下軌道へと切り替わる瞬間、背部のバーニアを点火し、そのまま夕焼け空に飛翔。ウルトラマンジードを見下ろすと、無事であった両腕を交差させる。

 

「デスシウム光線――ッ!」

 

 ベリアルキラーザウルスが十字に組んだ腕から放つは、ウルトラマンベリアルの必殺技である破壊光線。

 上空からの最大出力で、ウルトラマンジードのみならず、ゼガンや星雲荘が倒れたままの星山市、否、この地球ごと消し飛ばすつもりで攻撃する究極超獣に対し――全身を輝かせたウルトラマンジードは、ギガファイナライザーを掲げて応じた。

 

「ライザーレイビーム!」

 

 必勝撃聖棍のライザーエッジより、そのままの形で巨大な光弾が射出される。まるで巨大な双眸の如き形状の光弾が断続的に放たれ続け、朱色の放電がそれらをひと繋ぎの光線として成立させる。

 最前列のライザーレイビームすら、デスシウム光線による突破を許さず、強固な壁のようにして破壊の粒子を弾いて上昇。光線の相互干渉で落としていた速度を上げながら、群れをなしてベリアルキラーザウルス本体へと迫って来る。

 欠けることなく輝く巨大な目の形を前にして、ヤプールは思わず、その名を口にした。

 

「れ、レイブラッド……っ!」

 

 かつてヤプールを絶滅寸前にまで追い詰めた究極生命体、レイブラッド星人と酷似した意匠の煌めきに晒されて。

 過去の恐怖を消し去ろうと侵攻した異次元の悪魔は、器である究極超獣ともども。二つの宿敵の(すえ)たる巨人の放つ光に呑まれて、この次元から姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

 

 異次元人ヤプールを撃退した、その夜。

 定位置に戻った星雲荘の中央司令室で、疲れて横になっていたリクは、自室から出たライハの様子を見て立ち上がった。

 

「……ライハ」

「ごめん。迷惑……かけたね」

 

 力なく笑うライハの肩には、パンパンになったリュックサック。回収しておいた刀を抱えるのと反対の手には、大きなキャリーバッグが牽かれている。

 

「……行っちゃうの?」

 

 リクの影から、寂しげにペガが問うた。

 

「元々、私がここに来た理由は、とっくになくなっていたから」

 

 果たしてライハは、リクが予想した通りの答えを述べた。

 元はと言えば、彼女の復讐相手であった赤い角の怪獣――伏井出ケイを尖兵としたベリアルに対する共同戦線を構築するために、地球人のライハが星雲荘に身を寄せたのが、共同生活の始まりだった。

 彼女が言う通り、本来の滞在目的は既に果たされていたのだ。

 それでも、ライハがこの場所に留まり続けてくれているのに、リクたちは甘えてきたが……

 

「……待ってよ。まだ、こないだの貸しを返せてないじゃないか」

 

 今のリクが使える呼び止めの材料は、その程度だった。

 いくら、乗り越えたと思っても。互いのことを、深く理解し合えていると思えても。ライハの両親がリクたちの父ベリアルの思惑によって、スカルゴモラという怪獣に奪われたという事実が変わることはない。

 その事実を意識するたびに過ぎるだろう感情を。そんな、人として当然の心の動きに対して、今回の事件によって植え付けられた罪の意識にまで。この先もずっと耐えることを、ライハへ強要するなんてリクにはできない。これからの日々を妹とともに生きられるリクに、そんなことを言う資格はない。

 リクの葛藤がわかっているように、ライハは淡く微笑んだ。

 

「それは……」

 

 そこで、ライハの返事が止まった。

 

「……行かないで――っ!」

 

 ライハの声を遮った、絞り出すような声の主は――修復装置から抜け出して、背後からライハの上着の裾を摘んだルカだった。

 

「行かないで、ライハ……っ!」

「ルカ……」

 

 まだ、傷の癒えていない痣だらけの顔に、大粒の涙を流しながら。意識を取り戻したルカが、必死でライハに呼びかけていた。

 

「ライハが居なくなるくらいなら、私が出て行くから……!」

「なっ!?」

 

 妹の申し出に、リクは思わず声を漏らした。

 だが、そんな周囲の変化にも気づけていない様子で、俯いたルカは続ける。

 

「私は、星雲荘が大好きだから……! ペガが居て、レムが居て、ライハの居るお兄ちゃんの居場所が、なくなっちゃイヤなの……っ!」

 

 事実を知った今、ライハを直接、見ることができないままでも。ルカは、そんなワガママを口にしていた。

 

「だから――私が、出て行くから。私のことが嫌いでも、ライハは出て行かないで……っ! お願い……!」

 

 言い終え泣きじゃくるルカがふらつくのを見て、リクは思わず駆け寄ろうとした。

 だが、リクより早く、倒れかけたルカの身体を支える手があった。

 

「馬鹿ね……あなたのことを恨む筋合いなんて、どこにもないわよ」

 

 ゆっくりと、未だ満身創痍のルカを優しく床に腰掛けさせてあげながら、ライハが笑った。

 

「むしろ……そうね。命の恩を、返さなきゃいけないわよね」

「ライハ……?」

 

 こんなに汚しちゃって、と呟きながら。ライハは涙の跡を引くルカの眼鏡を拭ってあげ、彼女に掛け直してあげた。

 

「うん、よく似合ってる」

 

 どこか気怠げだった今朝と違い。心の篭もった感想として、ルカの眼鏡を評したライハは自身も室内用のそれをかけ、お揃いだね、と笑いかけた。

 

「星雲荘のオーナーさん?」

 

 それから、ライハはリクを振り返ってきた。

 

「恩人の手伝いをしたいから、私もここに住み込みで生活させて欲しいんだけど……部屋は空いてそうだし、良いかしら? 入居費と家賃は、これまでの貸しでチャラにして」

「……それを言われると僕は弱いな……」

 

 よくよく振り返れば、四日前のランチ代だけではないライハへの返済は、尽く滞っている……別に敷金も家賃も貰ったことはなかったが。

 ただ、ライハの台詞に付き合いながら、確かに感じられる希望に、リクも笑みを堪えきれなかった。

 

「レム、構わないかな……?」

〈私はあくまで報告管理システム。賃貸物件としての運用決定権は、マスターであるリクの判断に従います。ちなみに、女性向けの部屋にはちょうど、空きがあることを報告します〉

 

 いつも通りの、抑揚のないレムの機械音声。どこかリクと同じように、喜色が滲んでいるように聞こえたのは、気のせいだろうか。

 

「じゃあ……歓迎するよ。よろしく、ライハ」

「よろしく、リク。ペガ。レム――それに、ルカ」

 

 微笑みながら、ライハはもう一度、ルカと向き直った。

 

「……あなたに助けて貰った恩返しをさせて欲しいの。だから、あなたが星雲荘を出て行ったら、私もここに居る理由がなくなっちゃうわよ?」

「ライハ……っ!」

 

 感極まったように、ルカが言葉を詰まらせた。

 それからまた、声を上げて泣き出すルカに肩を貸して、ライハが立ち上がらせる。

 

「じゃあ、まずはちゃんと怪我を治して。女の子の顔に、傷を残しちゃいけないわ」

 

 そうして、修復装置までルカを連れて行ってくれるライハを見て、リクは胸に熱いものを覚えていた。

 

「まさに雨降って地固まる、だね」

「本当にそのまんまだけど、な」

 

 赤い雨を発端とした今日の出来事に、ペガとリクで感想を言い合う。

 

「ちょっと、帰り難くなっちゃった気もするけど……皆が無事で、本当に良かったよ」

 

 ペガのささやかなぼやきに、少し申し訳なく感じながらも。リクも同じ気持ちだった。

 

 ……残念ながら。三次元宇宙に存在する生命の影であるヤプールを、完全に滅ぼすことはできない。ウルトラマンやレイブラッド星人と対立しながらも、彼らが並行宇宙を存続させることを優先しただけで、今でも生き延びている恐るべき悪魔なのだから。

 ヤプールだけではない。きっと、ウルトラマンベリアルという巨悪を怨む者はまだまだいるはずだ。それこそライハや、シャドー星人たちのように。

 去り際にゼロが言っていたように。生き続ける限り、これからもベリアルの血に由来する問題は、何度も何度も現れ続けることだろう。その度にまた、辛く悲しい想いを懐くことは避けられない運命なのかもしれない。

 

 それでも。この仲間たちと――リクの家族と一緒なら、きっと。そんな運命も越えていけると。

 

 恩讐の果てに結ばれた絆を前にして、リクは静かに確信していた。

 

 

 

 

 

 




第3話あとがき



お目通し、ありがとうございました。
まずは第2話まででパイロット版、という想定でこどもの日に投下した拙作ですが、星雲荘内の人間関係の基本形を踏まえると、本当のパイロット版はこの第3話まで、という形になるようにも思われます。
お楽しみ頂けると幸いです。



以下、展開への言い訳的な雑文。

・キングソードの奇跡は、ウルトラマンギンガ第10話「闇と光」でギンガがヒカルを美鈴の精神世界に送り届けた能力のロイメガ版というイメージです。
無印ギンガも大概なチートラマンですが、キングなら真似できそう、キングならぬロイメガの身ですがリトルスター経由で繋がっているライハ相手なら何とか……ということで、お一つ。

5/30追記

・レムが解説にてオメガ・アーマゲンドン時にUキラーザウルスがベリアルを狙う第三勢力として襲来した、という設定は公式にはない本作独自の設定です。超時空破壊爆弾起動前のウルトラマン連合とベリアル軍(テラー・ザ・ベリアル)の戦争であるオメガ・アーマゲドンの詳細は不明なので、今後もその時の~と便利な言い訳が飛び出す可能性がありますが、暖かく見守ってくださると幸いです。

 前提であるヤプールがベリアルの命を狙っていた、というのは映像作品で実際に描かれてはいないですが、ベリアル銀河帝国の設定的には公式のはずです。
 原作本編中、リクくん抹殺のために攻めて来なかったのは、サイドスペース自体がキングと同化していた影響でヤプールでは干渉できなかったから。本編終了後はベリアルに勝利するほどとなったジードを警戒し(ギルバリスとは共闘できないし)、すぐには仕掛けなかったものの、ルカの出現がヤプールにとって都合の良い巡り合わせとなったため、このタイミングで仕掛けてきた――という想定です。

・原作最終回で爆砕された時空破壊神ゼガンがあっさりと再登場した件については、少なくとも本作では最終回後、劇場版の騒動を経て、やはりまだゼガンのような戦力が必要だと判断したゼナがAIBで復元した、という設定です。原作15話の「戦いの子」でも消し飛んでいながら最終決戦時に修復されていたので、AIBの意思一つではないのかな、という想定です。
 この件については先の展開で触れる予定もあるのですが、その場合でもおそらくかなり先になりそうなので、念のためここで追記しておきます。
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