<三人称side>
機械が音を立てながら動いている。まるでSFに出てくる宇宙戦艦のような内装をしている『ラタトスク』の艦内の大きなモニターがある部屋で縄に縛られている男とその前に立つ三人の者たちがいた。
「日本!羽田!空港!拉致!謎の組織に捕まった!よくわからない男がついてきたら飴をくれるとか言ったからそのままついて行った。そんな感じでお縄に着いた俺です。ついに六歳の時に駄菓子屋で万引きしたことがばれる日が来たか。ふ、覚悟はできている。さあ手錠をかければいいじゃないか。かけれるもんならなあ!ふん!俺に手錠をかけていいのは狂三だけだぜ!」
「こいつテンション高くて本当にやだ!」
目の前に立つこの艦の艦長である五河琴里が悲鳴を上げる。
「ふむ。万引きはよくないよ」
「ごめんなさい。あの店のおばさんは曲者だったぜ。なにせ赤外線センサー完備のやべえ防備性の店だったからな。こっちも学ぶものが多かったぜ」
「どんな駄菓子屋だ!」
解析官の村雨零音と鬼鉄のボケに勢いよく突っ込む琴里。
「いいから黙ってこっちの話を聞いて!」
「そう言えば俺中学一年生のころsideをシデって読んでた派。お前は?」
ちなみに俺の友達はサイデって読んでたなあ。
「ねえそろそろいい?」
「え?何が?」
ごめん聞いてなかったよー。だから握り締めたその拳はひっこめてくれないかな?
「あなたはこれから日本でASTで働くのよね?」
「え?そうなん?俺はシャチョさんが日本行って働けって言うから一発殴ってから来たのよ?あいつ弱いからなあ。お付きも大したことなかったし」
「それエレン・メイザースのことじゃ」
ああ、懐かしい名前だなあ。
「なんかそいつ初めて会ったときさあ『あなたは最近少し調子に乗りすぎですね。あとで訓練場に来なさい』みたいなこと言いやがったから徹底的にぶちのめして調教しちゃったわー」
「ふむ。どんなプレイを?」
調教という言葉にひかれた神無月恭平が身を乗り出して質問する。
「ん?結構やばいのもしてみた。それで動画とってー。流してほしくなければジュースおごれって脅した。あははは!」
最悪すぎるその答えを聞いて冷や汗を流すクルーたち。「この男かなり危険だなあ」というのが共通見解だった。
「それで?何してほしいの俺に。言っとくけど金は取るよ?」
「あなたも精霊は知ってるでしょ?」
「俺の嫁が精霊だ!いや!精霊よりも美しい!」
ふははは!と高笑いし始めた鬼鉄をほおっておいて作戦を練る。
「ASTに所属するはずの奴が精霊を知らないなんて」
「確かに討伐実績はあるがその時はオフだったのだろう。討伐チームに名前がない」
「じゃあ説明めんどくさいし護衛だけでいいか」
「うむ。それでいいだろう。テツ」
「ん?俺?どうしたにょ?」
作戦会議をひとまず終え鬼鉄に今回の依頼について話す。
「今回は私たちが収集をかけるときにこの男を護衛してもらうわ。でも蔭ながらにしてね?前に出ないで」
「分かった。で?俺の仕事はいつなんだよ。おおむね決まってんだろ?」
「ええ。空間震が起きた時よ」
空間震ってなんだっけ?とか内心で思ったのは彼だけの秘密だ。
「うわあ、アバウト」
鬼鉄はラタトスクから頂いた家に帰ってきていた。そこでポストを開けると、日本での仕事について書かれていた。
・ASTには出勤する必要はない。
・仕事をする必要もない。
・仕事の出来次第で給料量をきめる。
・ま、つまり今までどおりだから頑張って。
・学校は来禅高校ね。二年生だから。勉強がんば!
「死ね」
自分の上司への気持ちを一言で表し、そのまま台所に向かう。帰り道に商店街によって帰ってきたため、食料はある。
「さーてと。狂三が帰ってくる前にご飯の下ごしらえして、お隣さんに挨拶してくるか。つっても人が住んでるのは向かい側だけみたいだけどな」
そのまま彼は鼻歌を歌いながら野菜を切っていた。
同時刻あるビルの上。時崎狂三は頭を抱えていた。
「何で私はあいつが家に帰るまで様子をうかがってたんですの?なんで」
彼の影には自分を入れてあるので問題はなかったはずなのに。とどんどん恥ずかしさで顔を赤くする狂三。自分が鬼鉄のところに戻ることを前提に影に自分の分身を忍ばせておいたことに気づくまであと一時間。
「失礼しまーす」
晩御飯の下ごしらえを終えたところでそばを持ち、向かいの家のチャイムを押す。すると中から出てきたのは先ほどまで会っていた琴里だった。
「ん?おお!艦長じゃねえか!あんたが向かいの家の人か!」
「そうだよテツ兄!早くおみやげ!」
「悪いなそばしかねえんだ。これで我慢してくれ」
「わーい!ありがとう!お兄ちゃん!早くきなよー!」
そういってあわただしく兄を呼びに行く様は見ていて和むものだったのだろう。彼にしては珍しく(狂三関連以外で)心からの笑みを浮かべていた。
「すいません。はじめまして五河士道です」
「あ。いやそうか!よろしくたのむよ士道!俺は近藤鬼鉄って言うんだ。鬼鉄でいい」
「ああ、よろしくな。もう行く学校は決まってるのか?」
「ん?ああ、来禅高校だな」
「あ、じゃあ俺もだわ」
「おお、よろしくな!」
彼が一瞬黙ったのは彼が保護対象だったため。そして自分と同じようにエプロンをつけ(鬼鉄は今は付けてない)、主夫臭を漂わせていたからだ。なんかこいつとはうまくやっていけそうだと感じたのだ。