不愉快だ、ものすごく不愉快だ。
「・・・」
「ん? どうしたの一君?」
俺が目の前で呑気に段ボールを運んでいるまり姉さんを死んだ目で見ていると、そんな俺に気づいたまり姉さんが声をかけてきた。
そのまま無反応でいると、ぼんと手近にあった段ボールを押し付けられた。
「ほら、ぼさっとしてないで一君も運んで!」
「ああ、うん」
当然のようにそう言われたために俺が
「・・・って!! そうじゃないよまり姉さん!!」
「うん? 」
「違う! 何で俺がガールズバンドのスタッフなんてやらなくちゃいけないんだよ!!」
そう、これはひょんなことから俺が新人スタッフとなった物語。
★
「はあー、憂鬱だ」
俺、雪ノ下一斗は机にうなだれながらそうぼやいた。
場所は花咲川女子学園、字面からはどうみても女子高としか思えないこの場所に何で男の俺がいるのか疑問に持つものいるだろうが俺は決して変質者ではない、立派なここの生徒だ。
この学園は一昨年から校長が変わって共学となり、今では数もそこまで多くないがちゃんと男子生徒も通っている。
俺もそのうちの一人だ。
当然、そんな場所に入学するのにはそれ相応の苦労が必要だった。
受験倍率なんて驚きの十倍超えだったし、一次試験の適性検査はセンター試験クラスの問題が出され、二次試験の面接は個人個人やらされたし、なんと三次試験には作法チェックまであった。
面接ではあまりにも教師が怖すぎて寿命が三年は確実に縮んだ。
ここまで入学審査が厳しいのにはある理由がある。
一昨年、この学園が共学になったというニュースが流れてこの学園には男子生徒の入学希望者達が殺到した。
それも仕方のないことだろう、何せ元々女子高、しかも美人所が揃っていると噂のこの学園に入学すれば男子にとっては薔薇色の学生生活が約束されたものだ。
そのためあらゆる手段を使って入学しようとするものが現れ、警察沙汰にまでなったらしく結局一昨年は男子生徒の入学認められなかったらしい。
なので男子生徒の入学は実質今年が初だ。
学園側が去年の失敗を反省し、今年の受験に生かした結果がこの試験制度の厳しさというわけだ。
・・・だが、そんな厳しい審査を全て潜り抜け、ついに俺はこの学園の入学切符を手に入れた!
ふ、この学園に合格できた当初の自分を総理大臣に胴上げされるくらい誉めてやりたかったぜ。
この学園に受かるために毎日死ぬ気で勉強して、雪姉に基本的な生活指導までしてもらい、尚且つ小遣いも全て参考書や資格を取るのに使った。
(ああ、本当に長かった・・・)
さて、この学園に入学した男子生徒の大半はかわいい女子ときゃふふな学園生活を送りたいなんていう煩悩丸出しな動機を抱えていることだろう。
だが、俺の動機は決してそんなことのためではない。
ただ女子とイチャイチャしたいがためにここまでやるくらいなら大学行くわボケぇ!
事の発端は一昨年の六月、花咲川女子学園の共学制度発表の一ヶ月前のある日のことだ。
★
その日はいつも通りの休日だった。
特に何かをするわけでもなくただぐだぐだと暇を謳歌していた。
違いがあったとすればうちの母が三時間くらいどこかの誰かと長電話していたことだった。
この時点で俺はその違和感に気づくべきだったのだ。
あの超絶恐ろしい母親が三時間も誰と電話しているのだろうと。
あれ電話代どれだけ上がるんだろうなんて呑気に考えずに俺は対策を練っておくべきだったのだ。
これから俺の身に起こる理不尽に対して。
電話相手なんかどうでもいいやとスルーし、ソファに寝転んでバラエティ番組を見ていた俺にあの鬼母は電話が終わった瞬間こう告げた。
「一君、あなたは来年花女受けなさい」
「はっ?」
最初この母親は何を言ってるんだついに頭もおかしくなったかと考え、俺はすぐに医者を呼ぼうとした。
だが、医者を呼ぼうと携帯をとろうとした瞬間に俺は腕を捻りあげられ、そのまま床に組伏せられた。
「返事は?」
わお、流石マイマザー全く反応出来なかったぜ。
俺が突然すぎることにそんな現実逃避をしていると、肩に走る痛みによって現実に引き戻された。
「いだだだ!! ちょ、ちょっと待って落ち着いて話し合おう母さん!!」
鬼母は有無も言わさずに笑顔でお前に選択肢なんてないんだよと告げてくる。
俺はバンバンと床を叩いてとりあえず腕の解放を要求した。
その後なんとか解放してもらい、俺は外れかけた肩を回しながら文句をいった。
「本気で折る気だったろ!」
「やあねぇ、実の息子にそんなことするわけないでしょ? で、返事は?」
「いや、返事もなにもあそこ女子高だけど・・・」
母の言葉に抵抗は無意味と悟った俺は方針を切り替えることにした。
受けれない理由を言って納得させる方針だ。
「つい最近、花女の学園長が変わったの知ってる?」
「確か歴代一番若い学園長の就任だっけ」
そのニュース
「そう。 で、その学園長が小町ちゃん」
「はっ?」
思わず俺の口から本日二回目の「はっ?」が飛び出した。