ウマ娘 超光速の粒子   作:3148

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 アグネスタキオンは死んだ。

 この手紙を読んでいると言うことは、既に君の傍に私は居なくなっているのだろう。君から貰った様々な物を返せなくなるのは、申し訳ないと思っている。
 だけど、これ以上君と会って、話して、時間を重ねることを、アグネスタキオンが許すことはないだろう。だから、さよならだ。
 それでも、今の私に出来る事など、何も無いのだろうけど、せめて君に別れを告げる理由くらいは説明できる。言い訳に過ぎないと笑ってくれても良い。
 それが訪れたのは、松葉杖で歩くことが出来る様になった頃だ。君は確か、症状の回復に喜んでいたと思う。私も、僅かに動く様になった脚に期待がなかった訳では無い。だけど、現実はそんな優しくはなかったんだ。
 いつか説明した、私の脚を破壊した因子、それの効力が薄まっていたんだ。そのおかげで治りつつあるのだが、それは同時にウマ娘の因子そのものの効果が失われつつある、ということだった。
 君に話すことが出来なかったことを、どれだけの言葉を積み重ねたとしても、許されることはないのだろう。何故なら、刻一刻として、アグネスタキオンは失われているのだ。あれだけ熱望していたウマ娘の限界の先、あの光のその向う側の景色も、徐々に関心が失われつつあるのだ。むしろ、今の私にとっては、君を失うことの方が……いや、この先は書かないでおこう。きっとアグネスタキオンならこんなことは書かないはずだ。
 全てのウマ娘がこういった症状になるわけでは無い、近い症状のウマ娘も報告はされている。ウマ娘因子が失われれば、今まで普通だった世界が一変する、これが人格に作用しないということはないだろう。勿論、全てのウマ娘がその因子を失うというわけではない。死ぬまでウマ娘で有り続ける個体もある。私はそうではなかった、というだけの話だ。耳や尻尾が抜け落ちると言うこともないらしい。あくまで前例はないというだけだが、聴覚や肉体能力は人並みまで落ち着くことが殆どのようだ。
 ウマ娘因子がなくなれば、そのウマ娘は最早別人なのか。それに関しては様々な意見があると思う。君ならば、アグネスタキオンを取り戻す為に奔走することも厭わないかもしれない。ただ、昨日までの自分と明確に変わっていく自分に、私はアグネスタキオンでは無くなっている事実を君に伝えなければならない、のだと思う。
 だから、さようなら。
これ以上、私がアグネスタキオンのことを嫌いになる前に。
君が私の事がアグネスタキオンの抜け殻だと気付いてしまう前に。
 君の中にまだ、アグネスタキオンが居る間に。
君の瞳に中に、アグネスタキオンが存在している内に。
 
さようなら、私の愛したトレーナー。



多分、二百万回くらい使い回されてる幼児退行薬でダスカがちっちゃくなるお話

 「やぁ、トレーナー君。いつも朝早くて勤勉だね。勤勉なトレーナー君なら、私が可糧居る問題も、親身になって対応してくれると信じているが、どうだい?」

額に汗をかいて、どことなく普段よりも焦っている様子のアグネスタキオンに違和感を覚えながら、とりあえず頷くトレーナー。

「そうかそうか! やはり持つべきものは優秀なトレーナーだな! さぁ、研究室に入ってくれたまえ、少し相談したい事があるんだ!」

アグネスタキオンに手を引かれて、研究室に入ると、赤ん坊の泣き声が聞こえた。

「……試験薬を誤ってダイワスカーレット君が飲んでしまってね。結果は、この通りだ」

シーツに身をくるんでおり、恐らくそれまでに来ていた服はソファの上に置かれたままだ。無造作に抱き上げると、一瞬不思議そうなものを見る表情になり、少し揺さぶると嬉しそうに笑顔になる。

「おお、子守も出来るんだね! 流石だ」

喜ぶタキオンに、どれくらいで元に戻るのかと問う。

「アンチエイジング薬、と言えばいいかな。要は肉体が過去の状態に近くなる薬なんだが、誤って口にしたから使用量が多くてね。そうでなくても個体差で効果が違うから、明確な時間は出ないよ」

恐らくは一日で元に戻るはずだ、と呟くタキオン。抱っこしたままでは、トレーニングどころか、学園生活にも支障をきたしかねない。そもそも、アグネスタキオンと二人で対処しきれる問題でもなさそうだ。

「ふゥン? 当てがあるのかい?」

 

 「よちよち、良い子でちゅね~」

十数分後には、オムツやほ乳瓶、育児に必要な道具を揃えたスーパークリークがダイワスカーレットの子守をしていた。

「いや、そうはならんだろう」

自分の失敗ではあるのだが、この事態に見事に対応しきっているスーパークリークに驚くアグネスタキオン。

「ごめんなさい~、オムツが男の子用しかなくて~」

「いえいえ、助かりました。ありがとうございます、スーパークリークさん」

スーパークリークがダイワスカーレットをあやしていると、トレーナーがミルクを作るためのお湯を準備している。

「熱すぎるとやけどしてしまいますので、適温まで冷ましてから飲ませてあげて下さい」

そう言われてほ乳瓶を手渡されるアグネスタキオン。

「……適温って、何度になるんだ?」

スーパークリークが人肌程度まで御願いします、と声を掛ける。自然に温度が下がるのを待ち、適宜手で触れて確かめる。

「あー、あー」

ダイワスカーレットが手を前に出して、ばたつかせる。

「お腹が空きましたね~、もうちょっとでミルクが出来まちゅよ~」

抱っこするスーパークリークと恐る恐るほ乳瓶を準備するアグネスタキオン。最初は少し戸惑いながら口をつけ、ちゅぱちゅぱと音を立てながらミルクを飲み始める。

「おおっ、やはりスカーレット君は利口だね!」

初めての育児体験にテンションが上がっているアグネスタキオン。

「はーい、お腹いっぱいでちゅか~。げっぷしましょうね~」

背中を優しくトントンと叩くと、ダイワスカーレットの口から、お腹いっぱいというサインが出る。

「けぷ」

お腹がいっぱいになり、眠たくなったのか目を頻繁に閉じる様になる。

「お休みみたいですね。簡易ベッドにしかなりませんが」

クッションと毛布を組み合わせて、ダイワスカーレットが眠る場所を作るトレーナー。暖かく寝心地が良いのか、そのまますやすやと眠ってしまう。

「それじゃあ、名残惜しいですが、失礼します~」

ダイワスカーレットが眠る姿に手を振り、スーパークリークが研究室を後にする。

「トレーニングの時間では仕方ないですね、ありがとうございました」

スーパークリークに丁寧にお礼を言うトレーナー。彼女の背中を送り出した後。

「……何故子守をした後の方が調子が良さそうなのか、分からないな」

アグネスタキオンがソファに深く腰を下ろし、溜息をつく。慣れない作業の連続で疲れてしまったようだ。

「ああゆうことが好きということは、彼女のトレーナーから伺っていましたから」

こう言う形で助けて貰えるとは思っていませんでしたが、と付け加えるトレーナー。

「子守が好き、ねぇ……いや、今は深く詮索しない方がいい気がするな」

何かを察したのか、言葉にするのを躊躇うアグネスタキオン。

「しかし、何かと労力が必要だ。赤子というのは、色々と面倒なものなんだね」

疲れているのであれば、少し休んでも良いとトレーナーが告げる。その言葉に甘えて横になるアグネスタキオン。眠る直前に穏やかに眠るダイワスカーレットを見ると、襲いかかる睡魔にあらがうこともなく眠りにつく。

 

 目を覚ましたのは、目覚ましでも、朝の日差しでも無い。赤ん坊の泣き声だ。

「な、なんだ! 何が起こった!?」

飛び起きたアグネスタキオンが毛布をどけると、ダイワスカーレットが泣き声を上げている。

「トレーナー君!?」

助けを求める声に、冷静におむつの換えを準備しているトレーナー。手際よくオムツを外して、おしりを拭いて新しいオムツをつけるとダイワスカーレットは機嫌が良くなる。

「……手際がいいじゃないか」

トレーナーはスーパークリークに教わったという。

「いや、そもそもダイワスカーレット君が何を言っているのか分からないのだが」

頭を抱えるアグネスタキオンに、紅茶を準備して手渡すトレーナー。

「よく見れば、分かる様になりますよ」

甘い紅茶が舌を優しく包み、香りが鼻腔をくすぐる。紅茶を飲む姿をじっと見つめるダイワスカーレットの手に、優しく触れると指をしっかりと握る。

「……いや、わからないな」

そう呟きながら、笑顔になるアグネスタキオン。

 

 目を覚ますと、外はもう暗くなっていた。朝に研究室に来たところまでの記憶はあるのだが、それより先の記憶は全くない。

「おはよう、ダイワスカーレットさん。体調はどうですか?」

研究室のソファで眠っていたようで、体を起こす時に軽い頭痛がした。

「……軽い頭痛がします。あの、私何かあったんですか?」

思い出せるのは、アグネスタキオンとお茶を飲んだ所まで、だ。

「恐らく前日までのトレーニングが、想像よりも負担が大きかったんでしょう。疲れて眠ってしまって、もう夜ですね」

何度か目を覚まして、食べやすいものだけを食べては居ましたが、直ぐに眠っていました、とトレーナーは告げる。

「あの……変なこととか、言ってませんでした?」

トレーナーが少し考え込むと、首を横に振った。その仕草に安堵したダイワスカーレット。

「寝顔はとてもかわいらしかったですよ」

その言葉に、顔が熱くなるのを感じる。

「も、もう、いい加減にして下さい! 帰ります!」

急いで荷物を纏めると、研究室から足早に出る。その後ろをついてくるトレーナーを追い払おうとしたが、夜までいた彼女の送迎も無ければ、ダイワスカーレットの親に対しても申し訳ないと言われたので、仕方なく了承した。

「明日からのトレーニング、倍にしてください!」

丸一日休んでしまったことと、照れ隠しにトレーナーに話す。

「体調を見ながら、トレーニング量は増やす傾向で考えますね」

無理はしないように、と釘を刺される。それでも、明日はしっかりとトレーニングが出来ると考えると、少し頬が緩むダイワスカーレットだった。

 




読了ありがとうございました。

幼児どころか赤子じゃねぇか! どうすんだコレ!?

と言うわけで、幼児化したダイワスカーレットとアグネスタキオンの間にスーパークリークを一つまみしてみました(優しい世界

書いてて思ったけど、割とマジでスーパークリークに任せて安心案件になる気しかしなかった(どういうことだってばよ

それでは、世界中のモルモットの皆様に、(ガチャ的な意味で)虹色の輝きがありますように。
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