「いや、そこは東栗寮か、フジキセキの所に行けよ。私には無関係だろうが」
私がそれについて何か知っていると思ったか? と冷たくあしらわれてしまった。だがしかし、それで話が終わってしまう訳にはいかない、と作者は食い下がる。
「だからさぁ……別に頼りにされるのは悪い気はしないんだけど、知ってることなんて何もないぜ?」
頼み込む姿につまり気味に答えるヒシアマゾン、そこに作者は菓子折を手渡す。
「おっ、上手そうな饅頭じゃん!? えっ、貰って良いのか? さんきゅ」
美味しそうにもぐもぐとその場で食べ始める。箱の三分の一程食べ終わった辺りで、なにやら思い出したようだ。
「そういえば、結構前からアグネスタキオンとダイワスカーレットって、仲が良いみたいなんだよな。出会ったのはトレセン学園に着てからのはずなのにさ」
その言葉に食い気味に食いつく作者。
「な、なんだよ。結構有名な話だぜ。マンハッタンカフェとか、エアグルーヴの印象とダイワスカーレットの印象が真反対だって」
つまり、ダイワスカーレットの前では猫を被っている、と。
「うーん、猫かぶり、って感じじゃ無いな。トレーニング場にちょこちょこついて行ってるのを何回か見た程度だけど、アグネスタキオンの様子が変か、っていわれたら違う気がする」
勿論、アグネスタキオンに対して深い関係ではなかったため、違う可能性も充分あるけれど、と付け加えられた。
「ああ、そうだ。自分を含め大多数のウマ娘を研究対象としか見てないけど、ダイワスカーレットだけ特別、って感じだったんだ」
特別とは、どういう感じだったのかと尋ねる。
「……そんな風に見えたってだけさ。どういう風って聞かれてもなぁ」
そうやって考え込むヒシアマゾンに、幾つか例を挙げる。恋人、親友、ライバル等。
「ん、あぁ、そうか。思い出した」
言葉を続けるヒシアマゾンに、メモをとる作者。
「ありゃ、家族に向ける目だったよ。それも、どっちかっていうと……子供を見る父親のような」
そこまで口にして、ヒシアマゾンはしまった、という表情になる。どうやらアグネスタキオンに対して失礼な事を言ってしまったと思ったらしい。
「悪ぃな、さっき聞いた事は忘れてくれ」
話はここまで、そう言うとヒシアマゾンは席を立ち、自室へと戻った。
右腕が発光しているトレーナーとアグネスタキオンが机をはさんで向き合って座っている。
「ふむ、経過は良好のようだね」
トレーナーが飲用した青い液体と同じ色に発光している右腕を見て、満足げな様子のアグネスタキオン。
「右腕を発光させる薬を作ってどうするんだ?」
その言葉に首を傾げるアグネスタキオン。
「人体を発光させて楽しむ人間なんて、ごく少数の特殊性癖の持ち主だけだろう。いきなり何を言い出すんだ、モルモット君」
どうやら、アグネスタキオンは人の体を発光させて喜んで居たわけでは無いらしい。
「そうすると、これは何を見られているんだ?」
その言葉を聞いて、漸くアグネスタキオンが納得した様子だ。
「理解出来ていなかったのか、それなのに実験体になることを志願するとは……やはりモルモット君だな」
少しの間、考える素振りをしてアグネスタキオンが返事を返した。
「そうだな、薬の効果を検証するのに時間がかかる。その間無言でいるのも特に意味は無いし、限られた時間を無意に過ごすのも得策では無い」
その言葉に、説明をして貰えると期待したトレーナーは、次の言葉で肩を落とす。
「モルモット君が面白い話を聞かせてくれれば、説明しよう」
「三女神の伝説って、一つじゃ無いって知ってた?」
トレーナーはそう切り出した。
「ほう、それは初耳だね」
どうやら掴みだしは悪くないようだ。
「大学の論文を出す時に、調べてみたんだけど、三女神様についての伝説は多くある。トレセン学園だけじゃ無いどころか、世界中の至る所にあると言ってもいい」
ふむ、と考え込むアグネスタキオン。
「それは最早同一のものとは考えられないということはないかい?」
トレーナーが首を横に振る。
「内容は似通った物が多く、どれにも三女神様と共通の部分が多くある。確かに、完全に同じものかと言われると疑うかも知れないけど、関連性を見れるくらいには共通している」
その言葉に、アグネスタキオンは興味をそそられた様だ。
「いいね。正直、私は伝承などは専攻外だが、私もウマ娘に名を連ねる一人だ。興味はあるね」
そうして、トレーナーは続きを語る。
「関連している内容の一つは、女神と呼ばれる対象がウマ娘の特徴を持っていること。つまりは耳と尻尾が生えている。そうして、それを見ることが出来るのもまた、ウマ娘のみだ」
アグネスタキオンが足を組み替え、顎に手を当てる。
「ふむ、当然だが私の知っている三女神の話と同じだな。つまり、違う部分のある伝承も存在したのだろう?」
アグネスタキオンの言葉に、トレーナーが頷く。
「ああ、まずはトレセン学園では三女神、とされているけどね。地域によって数は様々だ。一人だけだったという所もあれば、六人の女神だった、という話もある」
それは随分と大所帯だな、とアグネスタキオンが答える。
「更に、その土地独自の衣装を身につけている場合もあった。これに関しては後から装飾されたのか、どうかは判別がしにくい部分だね」
アグネスタキオンが何かを閃く。
「なるほど、因子継承と関連つけた訳だ」
因子継承とは、ウマ娘が稀に起こす現象の事である。その多くが睡眠時やショック時に自分の知らない景色や情報を得ることがあると報告がされている。その一部が他のウマ娘と共有されていることもあり、ウマ娘になる因子の影響を受けているという説も多く唱えられている。
「確かに、因子継承と共通点は見られるな。だが、それだけでは因子継承が三女神の伝説の起源というには不足していると思うが?」
アグネスタキオンが話の続きを期待する様な顔をしていたが、その言葉にトレーナーは頷く。
「まぁ、その通りだな。俺もそこまでしか調べられなかったから、本当のところは分からないし」
アグネスタキオンが肩を落とす。
ひとしきりアグネスタキオンがトレーナーに対して罵倒を浴びせた後、口を開く。
「尻すぼみといえ、暇つぶしにはなったのだから説明するか」
そう言い始める頃合いには、発光現象はかなり収まってきていた。
「私の研究は基本的に経口摂取による。注射などにゆる直接体内に取り込んでも良いのだが、一長一短でね。それならば生徒会がうるさくない経口摂取の方が進めやすいんだ」
それが何故発光現象に繋がるのか。
「発光現象を発生させる物質と研究対象の薬品を同時に窃取することで、身体のどの部位にどれだけの間効果を発揮するのかを、施設を利用せずに視覚的観測のみで可能になる。つまり、研究に欠かせない要素の確実かと手間の簡略化として必須項目になるわけだ」
アグネスタキオンの話としては発光している物質と目当ての薬を同時に摂取していること、発光する何かを同時にのまされているということのようだ。
それはまだ、彼女が幼い頃。トレセン学園に初めて見学に来て、両親とはぐれてしまった時のことだ。
「ここ、どこ?」
見知らぬ場所を彷徨い歩く彼女を見つけたのは、白衣を纏ったウマ娘だった。
「おや? 小等部……にしても小さな。道に迷ったのかい?」
差し伸べられた手を握り、彼女の研究室へと連れられる。
「恐らく君が期待している『保護者との合流』という目的に対して、私は力になることが出来るだろう。だが、その前提としてお互いの意思疎通が図れることが前提になる、わかるかい?」
研究室のテーブルに向かい合わせで座る彼女に、導かれるまま椅子に少女は座る。
「私の名前はアグネスタキオン、トレセン学園の生徒だ。君の名前は?」
そこで初めて、アグネスタキオンに名前を尋ねられていることを理解した。
「私は……ダイワスカーレット」
トレセン学園に入学し、初等部になったダイワスカーレットは暇を見つけると、アグネスタキオンの元へと訪れていた。最初の内こそ、噂が立つこともあったが、ダイワスカーレットの外面の良さもあって、直ぐに馴染む様になった。
「ダイワスカーレットちゃん、こんにちは。またタキオンのところ?」
ダイワスカーレットはにこやかに返事をする。
「あっ、一大ニュースだよ! なんとあのタキオンにトレーナーがついたんだって」
アグネスタキオンと言えば、実験だけで無く、授業にも最小限しか出席せず、トレーナーにアピールすることもない変人という認識だった。それ故に、トレーナーがついたということに尾ひれ背びれがついて噂が広まるのは早かった。
「トレーナーさんって、どんな人なんですか?」
アグネスタキオンがいつもの研究室で紅茶を嗜んでいた。そこにはダイワスカーレットの姿もあり、二人にとっては慣れた空間である。だが、そわそわしているダイワスカーレットは少し居心地が悪そうな様子だ。
「どうかしたかい? 空調が必要な気温でも無いと思うけれど、体調が悪いなら少し休むかい?」
アグネスタキオンの気配りに首を横に振るダイワスカーレット。その返答に理解はする物の、ダイワスカーレットの体調を気にして、アグネスタキオンは表情を曇らせている。その沈んだ雰囲気に、ダイワスカーレットは耐えられず、口を開く。
「あのっ、トレーナーさんって、どんな人なんですか!?」
その質問に一瞬呆気にとられ、呆然としていたアグネスタキオンだが、落ち着くとけたけたと笑い出した。
「いやぁ、すまない。随分と深刻な表情だったから何事かと思えば……まぁ、君も将来有望なウマ娘だ。気になるのも無理はないか」
そういうと、そろそろ現れると、アグネスタキオンが告げる。
「……」
ダイワスカーレットは緊張で無言になり、そう時間が経たない内に、研究室の引き違い戸が開く音がする。そうして入り口から現れたのは。
「キャー!!????」
頭部が黄緑色に発光している、スーツ姿の男だった。
「おや、薬の効果がまだ持続していたのか。ふむ、これは興味深い」
アグネスタキオンがまじまじとトレーナーを眺めていると、トレーナーが心配そうに声を掛ける。
「その……初等部の子。泡吹いてるけど大丈夫?」
読了ありがとうございました。
ロリダイワスカーレットとアグネスタキオンの話を読みたいだけの人生だった……
と言うわけで、失踪するとも言えるし、しないとも言える……要は見方次第だ(クソ八並感
全国のモルモットの皆様のより一層の発光を祈願致しまして、ここまでとしますね(ニッコリ