視点:ねね
~体験入部3日目~
今日からお茶の点て方を教わり、一人ずつ交代で実践していく。
まずは、フレア部長が実戦で見せてくれていた。
フレア部長は、茶碗にお湯を少し注ぎ茶筅と言われる抹茶をかき混ぜる道具を軽く温めるとお湯を捨て、抹茶ひとさじ入れる。
次に、ひしゃくの様な道具で一杯分のお湯を注ぐと、茶筅で混ぜ始めた。
正座をしてその様子を眺める。
この後、私も行うために覚えなければいけないのだけど、きれいだな~、そんな思いで頭がいっぱいで細かい手順は頭に入ってこなかった。
フレア先輩は背筋がピンと伸びていて、一つ一つの動作によどみがなく、なにより指先がきれいだと感じた。
点てくれたお茶が私の前、少し離れた位置に置かれる。
教わった手順でお茶碗を自分の前に引き寄せたあと、お点前頂戴いたします、と挨拶して茶碗を抱える。
茶道でよく見る、茶碗を時計回りに2回回す動作をして抹茶を3回に区切り飲み切る。
始めて飲んだけれど、苦いという印象は本当になくてすっと入っていく味だった。
ここまで手間をかけるのは大変だけど、普通に部屋で飲むのもありだなぁ~と考えてぼ~とてしまい、周りの人が見ていることを思い出し、慌ててお茶碗を反時計回りに回してから手前の畳に置いた。
わためちゃんを含めた5人がフレア部長にお茶を点てて頂いた後に、少し緩い空気になり雑談タイムとなった。
「あたしは、紅茶が苦くて無理だから抹茶もダメかと思ったけどホントに、口に残るような変な苦みが無くて普通に飲めたわ」
「ほんとに、苦味は思ったほどないのですね。驚いたのです」
「おいしかったある。家でも抹茶を飲もうかなって思ったあるよ」
「スバルは作法の事で頭がいっぱいで味がちょっと頭に入ってこなかったっす」
「ありがとうね。スバル、最初だから折角だし雰囲気を体験してもらったけど、この後はもう少し気軽に体験してもらうからその時に味わってみて」
「うむうむ、やっぱり、抹茶と和菓子はあうんだなぁ、うんめぇ~~」
「食いしん坊ひつじがいるあるねw」
わためちゃんは、和菓子をほおばりながらニコニコしている。
お茶を点ててもらう前に出してもらった和菓子は食べきったはずなのに、いつの間にかわためちゃんの前には和菓子が追加されていたので、ポケットかなにかに隠しもっているのだろう。
この後は、雑談もしながら抹茶を実際に点てさせてもらったけど、案外難しい。
「なんか……ぼそぼそしてるし、ちょっと苦いある」
「泡立て方にコツがあってね、塊にならないようにしっかりふわふわに仕上げてあげないとちょっと苦味を強く感じるのよ、もう一回やってみようか」
他の人の点てた抹茶と比べたりしながら、一通り練習をしていく。
一区切りついたところで雑談タイムになり、お茶談義となった。
「飲む抹茶だけだと、あまり身近に感じられないけど、抹茶味って言ったらどんなスイーツでも必ずあるわよね」
「そうですね。抹茶チョコ、抹茶アイス、抹茶小豆、抹茶入りどら焼きとかバームクーヘンとか、甘い物との相性が抜群なのです」
「抹茶を飲んで思うっすけど、抹茶の程よい苦みって、甘くなった口の中をすっきりさせてくれるすよね。だから甘いものがおいしく感じられるんじゃないっすかね」
「口直しあるな。そう考えると、抹茶入りのお菓子って、それ一つで口直しまでできるから永遠に食べられるあるね」
「そ~なんだなぁ。だから抹茶と和菓子は止まらないんだなぁ」
「いや、わため、あんたはそこまでにしときなさい。ちょっと食べ過ぎだからね」
フレア部長が、さらに和菓子に手を伸ばそうとしていたわためちゃんの前から、和菓子を取り上げる。
「いやん、フレア部長のいけず。まだ、わためは腹八文目じゃないのに。あっ、追加納税が必要でしたらこちらをお納めください」
「そういう問題じゃあないの。ご飯じゃないんだから腹八分目まで食べようとするんじゃないよ。健康的に楽しめる適量を保ちなさいな」
お茶に含まれる茶カテキンは脂肪を減少させる効果があるらしいし、和菓子のあんこもケーキなどの洋菓子に比べれば脂肪が少なく比較的ダイエット向きなようだ。
とは言え、程度問題で食べ過ぎてよいわけでは当然ない。
お茶にもカフェインが含まれるし、何でも取り過ぎはよくないのだ。
健康を気づかうフレア部長が、わためちゃんの母親の様に感じられて微笑ましい。
「それにしても、茶摘みをしてみて思ったのですが、お茶って生活の中でとっても関りが深いのに知らないことが多いのです」
「緑茶も抹茶もお茶だし、ウーロン茶や紅茶もお茶っすよね。他にもほうじ茶とかもお茶っぱからできてと考えるとなんだか壮大っすね」
「お茶って、世界中で最も口にする人が多い食材なんじゃない?コーヒーとかは好き嫌いがあるけど、お茶は何かしら好きな種類がありそうよね」
「飲み物の中では、水を除けばお茶が一番飲まれているわね。そういう意味では、お茶っぱが世界一食生活で人に関わっているというのもあながち間違ってないかもね。あと、お茶の中では、紅茶が一番で8割くらい占めるかな。日本人からすると意外だけど緑茶を飲むのはアジア圏中心で割と少ないんよ」
お茶と言えば緑茶なのが日本人の認識だけど世界ではそうではないらしい。
ちなみに、ほうじ茶などの発酵させてないお茶は緑茶に分類されるそうなので、それらを合わせても紅茶に全く及ばないということだ。
イギリスとか紅茶のイメージがあるけど、そんなに世界的に紅茶が普及しているとは思わなかった。
ただ、お茶は世界共通で生活に欠かせない飲み物ということになる。
フレア部長によると、お茶に砂糖を入れたり地域によって飲み方も様々らしいから、旅行に行く機会があったら海外のお茶を飲み比べしてみたいなぁと思う。
話を聞いて、お茶がいかに多くの人に親しまれているかが分かった。
そして多くの食事に飲み物として組み合わせることもできれば、抹茶粉末のようにお菓子などに合わせて抹茶味のスイーツとして楽しむことも出来る。
お茶ほどに優れた食材はないんじゃないだろうか。
それから、フレア部長は他の部員たちの様子を見に行くということで出ていき、残った5人で、お茶の作法を振り返ったり、今度抹茶を使って何を作るかといった話をして過ごした。
途中、何かゲームでもしようという話になり、テーマに沿った言葉を順番に言っていき、浮かばなくなった人が罰を受けるというゲームをする流れになった。
「それじゃ、始めはスバルが決めるっすね。世界の国の名前で。じゃあ、日本」
「では、アメリカ合衆国です」
「えっと、ドイツある」
「それじゃ、フランスね」
……
「えっと、んー、ローマっす」
「いや、ローマは国じゃないのです」
「はい、スバル罰ゲームね」
「うわ、マジっすか。問題選び間違えた~」
スバルが言えなくなって罰ゲームになる。
「では、失礼して」
「うわぁ、そんなに重くはないけど正座ではさすがにきつい。早く次いくっすよ、次!」
わためちゃんが膝にスバルちゃんの膝にのる。
その状態で、次のゲームに進む。次の敗者が決まるまでそのままだ。
「それじゃ、次は私なのです。抹茶を使ったお菓子。抹茶アイス」
「抹茶小豆」
「抹茶ケーキ」
……
「次はスバルっすね、抹茶プリンで」
「抹茶プリンってあるかな?わためちゃんどうなのです?」
「えっと、あ、検索できた。あるっぽいね」
「了解です。では抹茶ムース」
「えっと、抹茶小豆のかき氷」
「いや、抹茶小豆がでてるからだめっすよ。ということで、これをプレゼントするっす」
「では失礼して。どれどれ、おお、スバルちゃんはすごい細くて魅力的だけどちょっと座るのが心配だったけど、ねねちゃんは鍛えられた足をしていらっしゃる。これはいいものなんだなぁ」
「ありがとう?でも確かに正座では中々この重さは大変あるね。じゃあ、早めに次のゲームに行くある」
重さに耐えられないというよりも、血のめぐりが悪くなってシビれそうだ。
途中までは順番にテーマを決めていたが、2連続罰ゲームは足がやばいという話になり、途中から負けた人がテーマを決めていた。
割と負けないためにガチで自分の得意分野で勝負を挑むようになり、出題者が負けることはなくなったし、割と短期で勝負がつくので、わためちゃんはどんどんパスされていった。
この、わためウエイトを膝の上に載せる罰ゲームにより、部活の時間が終了するころにはみんなが足を痺れさせて死屍累々といった有様だった。
終わりに戻ってきたフレア部長に何があったのかを質問されて、今日あったことを答えると、笑いながらわためちゃんに指摘していた。
「健康管理について色々伝えているんだけど、わためウエイトは少し増えぎみかねぇ。家でもお菓子を買いこんだりしてないかい?」
「失礼しちゃうんだなぁ。わためぇは、女の子らしい健康的な柔らかさを保っているだけなんだなぁ」
と言うが、家でお菓子を買い込んでいないとは言わなかった。
体型的には心配なさそうだけど、お菓子が好きすぎるので、ちゃんと健康管理をしてくれるといいなと思う。
この様子なら、いざという時にはフレア部長がわためちゃんの食生活を管理してくれそうなので大丈夫そうではあるけれど。
~体験入部4日目~
3日目に引き続き、フレア部長にお手本を示してもらった後で、交代で抹茶を点てる。
昨日に比べると、ふわふわした仕上がりに出来るようになった。
混ぜることに必死になってつい、猫背になってしまうことを時々指摘されているので、姿勢を保ちながら取り組めるようにするのが今の課題になっていた。
昨日と違う点があったのは、フレア部長からの意外な言葉だった。
「あー、体験入部の4日目の今日と、最終日の明日は、校長先生からの特別予算でお茶菓子が大量に届いているから食べ放題だよ、と伝えておくよ」
「特別予算あるか?」
フレア部長は体験入部が始まる初日に呼び出されて、毎日の状況を報告するように校長先生に言われていたらしい。
そして、昨日のゲームについて話をしたら、先ほどの言伝と共にお菓子が大量に届けられたそうだ。
どちらかというと、問題を起こしたから体験入部をすることになったはずだけど。
ひょっとして銅像の頭をスキンヘッドにしたくらいで正座をさせようという処置はやり過ぎだと考えたのだろうか?
「まぁ、どちらかというと茶道部に対する差し入れになるのかな?正式な入部希望者の対応じゃないのに急に時間をとってもらってってことらしい。特に、わためは茶道部でもないのに色々教えてくれてるみたいだし校長としても協力したいということらしいよ……聞いた話ではね」
「さすが校長先生、見る目があるよねぇ。ん~うめぇ~~、今日はハッピーだなぁ」
フレア部長は何とも微妙な表情でそういったが、わためちゃんは素直に受け取った様子で、さっそく和菓子を食べ始めていた。
「あと、あんたたちが昨日やっていたゲームね。知識を深める役に立ちそうだからぜひ継続するようにとのことだったよ」
と言われた。
フレア部長が出ていった後に、そんな話もありゲームを始める。
今日もやると思っていたので、お題も考えてきていた。
さっそくゲームを始めたのだけど……続けていくうちに大変なことに気がついた。
「お、おもぉっ、ちょっとわため食べ過ぎっすよ、明らかに体重増えてるっす」
「もくもぐ、スバルちゃん、女の子に体重が増えたとか言ってはいけないんだなぁ」
「いや、純粋に食べ過ぎだからっ、どんだけ食べるんだよ」
「今日と明日の限定無料期間だけは、夕食分もここで食べていくんだなぁ」
わためちゃんは、期間限定、無料と聞くとできるだけ回収したいタイプの様だ。
バイキングのような一定金額でどれだけ食べてもいい時に、動けなくなるまで食べてしまうタイプの人である。
なんだか、わためちゃんが全体的に徐々に膨らんできている気がする。
そして、私のもとに何度目かの、わためウエイトが回ってくる。
ぐぅ、どんどん重くなっているのがわかる。
これは私でもこの先きつそうだ。
そう思っていると、直前にわためウエイトを抱えていたあくあちゃんが畳の上にびたっと倒れた。
「も、もうダメっ……まさか、こうちょ……こんな復讐って、わため……イトが増えること……予想して……」
あくあちゃんが上の空で呟いている言葉を聞いて理解した。
こ、校長め!図ったな!!スキンヘッドの件を気にしていないかと思いきや、まさか、わためウエイトを増やす全面協力をすることで私たちの足をシビれさせに来るとは!!
気がついたときにはもう遅く、ノリノリのわためちゃんをだれも止めることができず、続けられるものが居なくなるまでゲームは継続された。
体験入部4日目。活動の終わりには、足のシビれが限界に達して崩れ落ちた私たち4人と、丸々とした満足そうなわためちゃん。
そして、その惨状をみて困ったように額に手を置くフレア部長の姿があった。
~体験入部5日目~
この日は、既に茶道部の部活をできる状況ではなくなっていた。
茶道部の部室には所狭しと、甘味が積まれている。
そして、甘味に囲まれた中心には、昨日よりひと回りもふた回りも成長したわためちゃんがすごい勢いで甘味をほおばっていた。
「フレア部長、これはどうなってしまったあるか?」
「はぁ、どうやらわためは暴食に取りつかれてしまったようねぇ」
「それって、七つの大罪のあの暴食あるか」
「その暴食ね。好きなだけ食べていい、2日間限定で予算気にせず好きにしていい、そういった思いによって取りつかれてしまったみたいだね」
そういって見ている間にも、体が丸々と膨らんでいっている。
「これは、困ったわね」
「こんにちは~、ん?何かこまっちょるみたいやね?」
「ああノエル、まぁ見ての通りなんだけど、わためが暴食に取りつかれちゃったみたいでね、どうしたものかと思っていたんだけど」
フレア部長がノエル団長に経緯を説明する。
「甘味の魅力は絶大やからねぇ。だけど、体が求めるから食べるべきで、損得に流されて食べる選択をしちゃいけんよ。ん~それなら、あの人にお願いするのがいいかな。ちょとまっちょてね」
事情を聴いたノエル団長が状況を把握して、解決できそうな助っ人を呼びに行ってくれた。
解決策なんて全く浮かばなくて途方に暮れていたので、ノエル団長に心当たりがありそうで安心する。
でも、いったい誰を呼んで来ようというのだろうか?
すると、茶室に勢いよく向かってくる足跡が聞こえてくる。
バーンと勢いよく扉が開き、
「呼ばれて飛び出て、はーちゃまっちゃまぁー。ここに血迷う子羊がいると聞いたわ!!
救出はこの、シスターはーちゃまにお任せよ!!!」
はーちゃま先生が現れた。
ノエル団長は、はーちゃま先生に救出を頼んだようだ。
はーちゃま先生は、わためちゃんの様子をみる。
「重症ね、これだとカロリー消費をあげるのが一番かしらね……ちょっと待ってなさい!」
嵐のようにやってきて嵐のように去っていった。
何かを取りに行ったようだ。
はあちゃま先生を待つ間に、ノエル団長も戻ってきて一緒に待つ。
皆で食べ続けるわためちゃんを見守っていたが、あくあちゃんが見ていることに耐えかねて、わためちゃんが手を伸ばそうとしていた先のお菓子をよけようとした。
「今のわためちゃんに近づくと危なっすよ」
スバルちゃんが声を変える。
けれど、すでに遅く、もはや動けるのかと疑問なくらい丸っこく、もこもこに毛の生えた羊のように膨らんでいたわためちゃんがゴロンと転がり……あくあちゃんを押しつぶした。
そして、そのまま食事を再開する。
「ぐえっ、た、たすけてぇ~」
助けに行こうとしたが、わためちゃんの動きが激しくなり近よれない。
お菓子を奪おうとしているように見えるのかもしれない。
今度はあくあちゃん救出を思案し始めた時に、はあちゃま先生が戻ってきた。
「さぁ、準備はできたわ。これで万事解決よ」
「はあちゃま先生は、何を用意したあるか?」
「これよ!」
そういって、お弁当箱のようなものを取り出して開ける。
中から出てきたのは、最中で包まれた和菓子のように見えた。見た目には。
けれど
「これは、なにあるか、何か肌がチリチリするある」
「う、近くにいるだけで肌が焼かれそうなのです」
「何なんっすか、その危険物は?」
見た目は最中に包まれてた和菓子だが、中に入っているのは間違いなくあんこではなかった。その危険な物をどうするのかと思ったのだけど、
「これをわために食べさせれば、取りついた暴食を焼き尽くすことができるわ!」
「食べてくれるあるか?」
「今のわためなら、見た目さえ和菓子なら問題ないわ!」
ということらしかった。
「……は、はやくぅ、た、すけてぇ~」
あくあがわために押しつぶされそうになりながらか細い声を上げる。
「任せて、今シスターはーちゃまが助けるわ!!」
はあちゃま先生がさっそくわためちゃんが次に手を伸ばすであろうお菓子の山に持ってきた最中を放り込む。
わためちゃんは、次々とお菓子をお腹に収めていき、勢いのままに、はあちゃまの持っきた最中を掴むと気にせずに口に放り込んだ。
しかし、その後も、続けて和菓子を掴みさらに食べ続ける。
あれ、効果がない?
……そう思った矢先に、さらに手を伸ばそうとしたわためちゃんの動きが不意に止まった。
「……」
固唾を飲んで見守る。
そして
「ひぎゃぁああああぁ~からぁぁああーーいぃぃいいい~~~~~」
口から火を噴きながら床を転げまわる。
言葉と様子からするに、相当に辛いらしい。
その動きは留まるところをしらず、手足を振り回して転げ回り続ける。
あくあちゃんは、わためちゃんが転がり始めたところでフレア部長とノエル団長が救出していた。
「はあちゃま先生、あの最中に何を入れたあるか?」
「食べ過ぎた時には、新陳代謝を高めるのが一番!だから、鍋にトクホを注ぎ~、うなぎと、レバーを入れて煮詰めてから、味付けに玉ねぎ、にんにく、唐辛子、シシトウ、キムチをいれて。最後に胡麻とチリペッパーを加えて味を調えてみたの!!」
「えげつないっすねぇ」
食材単品の名前だけ聞けば、スタミナ料理と呼べそうな材料だ。
どう考えても、辛そうな調味料が多すぎるけれど。
「皆も食べ過ぎた時は、シスターはーちゃまをいつでも呼んでね!!」
はーちゃまの言葉に、転げまわるわためを眺めながら暴食に取りつかれるのだけは絶対にやめようと心に誓う一同だった。
しばらくすると、わためちゃんは全身から湯気を漂わせながら目を回して横たわっていた。
「あー、わためぇが焼きあがったねぇ」
「あはは、わためが上手に焼けました~っ!!」
フレア部長の言葉に乗っかって、はあちゃま先生が、どこぞのマンガ肉が焼けたかのように言う。
動きも収まったし、どうやら本当に暴食については取り払われたようだった。
わためちゃんは無事とはいいがたいけど、あのまま食べ続けるよりはましだろう。
とは言えちょっと心配である。
「えっと、これは大丈夫あるか?」
「もちろんよ!ちゃんと中まで火が通ってるからおいしくいただけるわ」
「いや、食べるんかいっ」
スバルちゃんがつっ込んだ。
「甘いわね。和菓子よりも甘いわよスバル。よく考えてみて。丸々と育った子羊の柔らかなお肉!全身に行きわたらせた調味料のスパイシーな香り!!素材の旨味を逃がさないように内側からしっかりと焼き上げた調理!!!甘さと辛さの融合、これが至高の料理、[血迷う子羊の丸焼き]よ!!!!」
はあちゃま先生は、そう言って湯気を立ち上らせて目を回しているわためちゃんを指し示した。
そう言われてみると、先ほどの辛すぎると思えた調味料も、今の丸々としたわためちゃんの全身に行きわたらせたと思えばちょうどいい分量かもしれない。
真っ赤になって湯気をあげているわためちゃんがなんだか、おいしそうに見えてきてしまった。
「まぁ、甘さと辛さの融合はともかく調和がとれてるとは思えないけどねぇ。ともかく助かったよ、はあちゃま、ありがとうね。今度お礼させてもらうから」
「はあちゃま、ありまっする」
「困った時はお互い様よ!ノエルにはいつも色々協力してもらってるしね」
フレア部長とノエル団長は冷静にはあちゃまにお礼を言うと、いつの間にか用意していた担架にわためをのせる。
「みんなごめんね。今日はわための様子見ておくから、休み明けの月曜日に改めて来てもらってもいいかな」
「もちろんある、わためちゃんお大事にある」
こうして、本来の最終日は解散となった。
週が明けて月曜日。
先週末に終わりの挨拶ができなかったため、改めて茶道部の茶室に行くと、いつものように、わためちゃんが先に来て座っていた。
体を見ると、すっかり元の体型に戻っていた。
「体は大丈夫あるか?」
「心配してくれてありがとうね。もう万全なんだなぁ」
「よかった。ちなみにもう取りつかれたりしてないわよね?」
「心配ないよ。私は善良なひつじです」
顔色もいいし、落ち着いた様子でもう安心安全なようだ。
はあちゃまの調合した新陳代謝を促す物質と、保険医の看病のおかげで休日のうちに体調を戻せたようだった。
今日は、フレア部長と一緒に、かなた先生もやってきていた。
かなた先生は、体験入部の終了日ということで連絡事項の通達に来たようだ。
「ひとまず、お疲れさまでした。今日で茶道部での体験入部は終了ですね。フレアさんありがとうね」
「いえ、こちらも楽しかったですから」
「またまた事件がありましたが、結果的に大事にはなりませんでしたし、一番の問題行動はつるつるピカピカ頭の方だったので、特に問題視されることもないでしょう」
いや、ご本人はつるつるピカピカではないけれども。
校長先生も、ちょっとしたお茶目のつもりだったようで、わためちゃんの暴走を想定して引き起こしたわけではなかったようだ。
まぁ、予想できることではないだろう。
「今後についてですが、一つあなた達4人にお誘いがきています」
「え、お誘いあるか?」
体験入部終了となり、気を抜いていた4人は顔を見合わせて思わぬ言葉に首をかしげる。
関わった人と言えば、応援団のノエル団長とかだろうか?
「新しく料理実験部を立ち上げて担当になった、はあちゃま先生から4人は才能があるということで、体験入学にこないかという提案ですね」
「「「「え゙っ」」」」
「皆さんとなら新しいもの生み出せる気がすると話していましたよ」
それは、絶対に料理ではないものが生み出される未来しか見えない。
「せ、先生、あたしたちこれから自分がやりたいことに真剣に向き合おうと思って、既に計画を立ててるんです。なので、非常に嬉しいんですけども、それはちょっと……」
「そ、そうなのです、自分達の意思で探しに行こうと思っているのです」
言い訳ではなくて、実際に茶道部での経験を経て、私たちももっと自分が本当にやりたいことが何か考えて、一人一人、自分の打ち込めるものを見つけたいと話あっていた。
「そうですか、茶道部で良い刺激を受けることができたみたいですね。はあと先生には伝えておきます。これからの皆さんの活動を応援していますよ」
困ったことがあれば、相談してくださいね。
そう言って、かなた先生は本校舎に戻っていった。
最後に折角なので皆で覚えたお茶を点てる。
点てたお茶をフレア部長が受け取ってくれる時、精一杯感謝の思いを込めて丁寧に両手を畳に付き、背筋を伸ばして深くお辞儀をした。
とても楽しくて、学びの多い一週間だった。
今日までだとも思うと感慨深く、名残惜しいと思えた。
「あれ、わため、今日は追加でお菓子をださないっすね?」
何時もならばお茶を飲んだ後にもいつの間にか和菓子を追加で取り出して食べているわためが、今日は大人しく出された和菓子で終了にしたようだった。
「甘ーい言葉に惑わされて、おいしく頂いているつもりが、おいしく食べられてしまったら大変なんだなぁ」
「いやいや、自分で食べてただけで誰も惑わせてないだろw」
スバルちゃんの言うとおりである。
「毎日の活動だからこそ、お茶を楽しめるだけの適度な量に留めて、健康的に気を配って継続することが大切なんだなぁ。やっぱりフレア部長の教えが正しかったんだなぁ」
「それが分かってくれたなら、今回の騒動も大きな価値があったかもねぇ」
先週、和菓子を取り上げられたときは駄々をこねていたわためちゃんだ。
けれど、ちゃんと自分のことを考えてくれての言葉だということが身に染みたようだ。
お菓子の量を控えても、今まで以上にニコニコと、お茶の時間を楽しめているようだった。
「愛情もって、健康的でストレスなく健やかに育てること。餡子の上品な甘さだけを時間をかけてわずかに蓄えさせ、さらに抹茶を毎日飲ませることで臭みをなくし、素材の味を最大限引き出す。こうして、1日2日の急ごしらえではなくて、じっくりと時間をかけて丹精に作り上げるその味わいこそが[至高のお肉]となるんよ」
「…………え!?」
「ひっ、ひやぁああああああああ、たぁべられる~~~」
「あっはははははっ」
「……wwww」
大慌てで、わためちゃんが茶室から逃げ出していった。
一瞬、わためちゃんを見る目がお肉を見る目になってしまった気がする。
指を一本、ぴっと立てて育成計画を語っていたフレア部長があまりに様になりすぎていて本気の計画に聞こえてしまったw
「いいあるか?話してしまって。子羊さんが逃げてしまったあるよ?」
「大丈夫よ、あの子羊さんはもう茶室の魅力に取りつかれているからね。明日にはひょっこり戻ってくるわよ」
フレア部長はそう言って楽しそうに笑っていた。
暴食を取り払うことはできても、フレア部長から逃れることは、きっともうできないだろう。
不知火牧場から、丹精込めて育てられた子羊ちゃんが出荷される日もそう遠くないのかもしれない。
~ 至高の食材 end ~
ここまでお読みいただきありがとうございます。
もし、続きを読んでみたいと思っていただけましたらお気に入り登録をしていただけると励みになります。
よろしくお願い致します。