ホロ学園ライフ   作:ハモリヤ

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4-2鬼切り事件簿

視点:あくあ

 

 

教室には緊迫した空気が漂っていた。

2人の争うものがいる。

一人はフブキ。ホロ学園3年生の男子生徒だ。

そして、もうひとりはあくあ。一年生A組の生徒でフブキの妹、つまりあたしだ。

 

「お前がやったんだろう?自主的に謝るなら今のうちだぞ?」

「はぁ、何のことだかさっぱりわからないんですけど!?」

 

この兄は昼休みに押しかけてきて一体何を勝手なことを言うのか。

 

「お前がさっき、俺の教室に来てロッカーを漁って言ったことは言質がとれてるんだぞ」

「ロッカーを漁ったからって、兄さんのお弁当をパクったりしてないわよ」

 

急に押しかけてきて、人をお弁当のパク犯扱いするとはどういうつもりなのか?

 

「お菓子を持って行っただろう」

「お菓子は持って行ったけどお弁当を持って行ったりしないわよ。お菓子はいっぱいあるんだからちょっとくらい持って行ってもいいでしょ」

「お前が持っていくから多めに確保してるんだよ!」

 

あたしのために用意してあるなら、あたしが持って行っても問題ないはずだろう。

それに、さすがに昼食を勝手に持っていくほど非常識ではない。

 

「さっき、売店に昼食を買いに行ったおかゆところねから、今日は売店が早々に売り切れになってたと聞いたぞ。お前も弁当が手に入らなくて、つい俺のおにぎりを持って行ったんじゃないのか?」

「確かに、今日は入荷数が少なかったらしくて全員分買えなかったけど、その分はみんなで分け合ったし、お菓子で埋め合わせたわよ」

「やっぱりお弁当は足りなかったんだな?」

「ちょっと少なくなったけど、我慢できないほどじゃなかったし、そもそも持ってってないってば」

 

どうも口頭で説明してもわかってもらえないらしい。

なぜかわいい妹をそんなに疑うのか。

 

「もめているようだが、どうしたんだ?」

「あやめ、悪いが今取り込み中なんだ、じゃましないでくれるか」

「あ、あやめ先輩、聞いて下さい、このわからずやの兄さんがおにぎり泥棒で疑ってくるんです。あ、あたしは鬼に憑かれてないです……よね?切ったりしないですよね?」

「うむ、そなたは平気そうだな。フブキは少々憑かれておるようだが自らで払えそうではあるな。フブキよ、そなたが聞き込みしても話が進まぬだろう?余はもめ事には少々詳しい。事情を説明してくれぬだろうか」

 

封鬼委員のあやめ先輩が鬼の気配を兄さんに感じて駆けつけてくれた。

あやめ先輩は、人に宿った鬼を光で出来た刀剣で切ることができる。

いや、実際には刀剣ではなく技できるのだったか。

刀身には実態がないホログラムだとわかっていても迫力があるので切られるのは心臓に悪い。

今回は、切られるような状況ではないということでほっとする。

 

兄さんが仕方なさそうに状況を説明する。

あたしにも、兄さんのロッカーを漁った経緯を聞かれたのでありのままを回答した。

 

「うむ、あくあ殿に嘘を語っている様子はないな」

「だが、確かにおにぎりは無くなったんだぞ」

「ならば、別の要因があるということだろう?お主は鬼に憑かれて視野狭窄に陥っておる。すでに状況証拠は揃ったな。そろそろ目を覚ましてやろう」

 

あやめ先輩の手元が光るとその手に赤い光をまとった抜き身の刀身が現れる。

そして、兄さんを真っすぐに瞳に捉えて刀を構えた。

 

「え、兄さんも切らなくていいって」

「あやめ、お前は俺を疑うのか?」

 

問いには答えずに、あやめ先輩は一歩距離を詰める。

 

「待つんだ、あやめ君、どんな事情があっても人を切ってはいけない!!」

 

何時かのように、刀を持ったあやめ先輩の前に両手を広げたおかゆ先輩が立ちはだかった。

 

「余は役目を果たさねばならぬ、例えお主が相手でも容赦ははせぬぞ」

「切る以外の解決策がきっとある。だから諦めないで欲しい。それでも、どうしても人を切らねばならないというなら、僕を切ってからにしろ!」

「そうか、ならばそうさせてもらおう」

 

あやめ先輩の姿が瞬時におかゆ先輩の隣に移動し――そしてそのまま静かに脇を通り抜けた。

 

特に斬撃の赤い軌跡は見えずに、ただ刀を手にしたまま歩み過ぎたように見える。

でも――

 

「ぐぁあ、そ、っそんな。あやめ君、君は僕の命を……奪うのか……」

 

おかゆ先輩は苦しそうに胸元を強く握りしめ地面に倒れ伏した。

 

あやめ先輩は、背後を気にした風もなく兄さんに歩み寄る。

 

「俺を切っても事件は解決しないぞ?」

 

兄さんはひるんだ様子もなく、静かに見つめ返している。

 

「お主は切らん。そもそも、事件ならもう解決だろう?」

 

そういって、兄さんに手をかざす。

 

「それは!?」

 

あやめ先輩が兄さんに向けた手には、1つのおにぎりがにぎられていた。

それはサランラップで包まれたおにぎりで、兄さんがにぎったおにぎりだとわかった。

 

「どこでそれを!?」

「どこでも何も、今見た通りだぞ」

「まさか」

 

倒れ伏したおかゆ先輩を見る。

あやめ先輩が持っていたはずもなく、つまりはそういうことだろう。

 

「おかゆ……お前なんだな?」

 

兄さんがおかゆ先輩の隣に片膝ついて告げる。

 

「あやめ君の罠につい乗せられてしまったようだね……。すまない、フブキ。お弁当を食べられない絶望に僕は耐えられなかったんだ」

「残りの3つはどうした?」

「君がにぎった愛のこもったおにぎりは、僕の小腹を満たしてくれたよ」

「そうかそうか、何か言い残すことは?」

「一言だけ許してもらえるなら……次は塩むすびも作って欲しいな」

「ギルティ」

 

兄さんがおかゆ先輩の首に腕を回して締め始めた。

まぁ、無実で疑われたことは腹立たしいけど事件が解決してくれてよかった。

 

「あやめ先輩、ありがとうございました。おかげで無実の証明ができました」

「うむ、役に立つことができたのなら何よりだよ」

「推理力もあるんですね。やっぱりカッコいいです」

「事実を元に可能性を絞り込めばおのずと解答は得られるものだよ」

 

クールなあやめ先輩は憧れの先輩だと思う。

 

「兄さんに憑いた鬼はもう大丈夫ですか?」

「うむ、フブキについていた鬼は、疑心暗鬼。真実が分かり疑いが晴れたことで、既にさっておるな」

 

鬼に憑かれると、思い込みが過剰に進むそうだ。

ただ、あくまで本人の思いを元にしているので、納得して本人が鬼を払うことが望ましいらしい。そのためのサポートもしているようだ。

 

「鬼を切るだけが役目ではないんですね」

「うむ、鬼切りだけが解決策ではないぞ、今回はおにぎりで解決したが」

 

「……」

 

「あたし、兄さんに声をかけてきますね」

「う、……うむ」

 

訂正、あやめ先輩はかわいい人かもしれない。

いつかのようにほほを赤く染めているあやめ先輩を見てそう思った。

 

「さて、兄さん。妹に無実の罪を着せたわけだけど。何か言うことは?」

 

おかゆ先輩を締めあげていた兄さんがそのまま顔だけこちらに向ける。

 

「あー、そうだな疑ってわるかった」

「まぁ、素直に謝ってくれるならいいけど。ちょうどお菓子もらいに行ったタイミングだったから疑わしい状況ではあったしね」

 

謝ってくれれば別にいいのだ。

何だかんだで普段お世話になっている自覚もしているし、許すことにする。

 

「あくあちゃんごめんね。まさか、フブキが君に濡れ衣を着せることになるなんて……胸が張り裂けそうだよ」

「俺のせいみたいに言うな、お前のせいだろ!」

「あくあちゃんを傷つけたこと、もちろん反省しているよ。とても胸が痛い。ただ、一つだけ伝えさせてもらえるなら……どうせ捕まるなら最後の一個も食べておけばよかった」

「反省してないだろ!」

「あはは」

 

おかゆ先輩の食べ物に対する執着は筋金入りだなぁ。

おかゆ先輩の事は兄さんが何とかするだろうし、兄さんは――まぁ、お菓子ももらっていることだし[お昼をおにぎり一個で過ごす計]で今日は許してあげよう。

 

目の前で取っ組み合いを再開した兄さんが、後で体力を無駄に消費しなければよかったと後悔する姿を思うとちょっとかわいそうになってきて、早く帰って晩御飯を用意してあげようかなと思った。




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