ホロ学園ライフ   作:ハモリヤ

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ガチャで爆死した夏色まつりさんのお話です。ホロライブ二次創作のシリーズものですが、短編としても読めるように意識して書いています。ホロメンバーは学生の設定。白上フブキさんはベースがブラック白上です。面白いと思っていただけたらシリーズもののため、他の話も読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願い致します。


『好き』に生きる 
5-1身を焦がす思い


視点:あくあ

 

 

 

あくあは、絵具と筆を持って美術室に来ていた。

今日は1日通しで美術の授業だ。

 

 

油絵で学園内の好きな場所を選んで景色を書く、いわゆる写生の授業。

生徒たちの中でも書きたい場所に心当たりのある生徒は、授業が始まると同時に自分のお気に入りの場所に散っていった。

 

 

そんな中、絵を描こうという様子もなく両手を胸元で握りしめ、うつ向いてブツブツとつぶやいている生徒がいた。

 

 

「ちょっと、まつり大丈夫なの?」

「こんなはずない。まだこれからなのに。戻りた……戻りたい……」

 

 

いったいどうしたというのだろう。

今日はホームルーム前からテンションがおかしかったが、美術の授業が始まる直前から輪をかけておかしく見えた。

 

 

声をかけてみたが反応がない。

マリンも心配して声をかけ、肩を揺する。

 

 

「どうしたんですかぁ、まつりちゃん。いつもの元気がないじゃないですかぁ」

 

 

これにも、なすがままで反応がなかったけど、揺すられたことで胸元に握られていた腕が落ちる。するとそこには、スマホが握りしめられていた。

 

大切に握りしめていたと思われるスマホの画面が見える。

 

まつりちゃんのスマホはいつも推しのアイドルが映し出されている。

スマホは日替わりで、推しをローテーションしているそうだ。

 

 

しかし、今日は無機質な文字がその画面に短く表示されているだけだった。

 

 

『お客様のお支払い方法は拒絶されました』

 

 

……

 

「あー、まつりちゃん……沼ったのね」

 

 

 

それは、クレジットカードの支払いが停止した案内文だった。

この現象が起きるのは、ソシャゲのガチャで大爆死した時だろう。

諦めきれなくて、強制的にストップがかかるところまで行ってしまったようだ。

人気ゲームというのは、どうしてこう罪作りなのだろう……

 

 

「支払い停止って何かあったんですか?」

「ああ、マリンは知らないよね。あのね……」

 

 

マリンに経緯を説明する。

マリンはアニメや漫画には結構詳しいけど、ソシャゲは学園に入学するまでしていなかったらしい。

 

 

最近クラスメイトに誘われて少し手を付けているソシャゲもあるけど、課金はしないとマリンははっきり言っていた。

ノリで、ドーンと使っちゃいましょう、とか言いそうなタイプかと思ったけど割とお金の使い方にはシビアなようだ。

 

 

「あー、月額課金の上限があるんですねぇ。それなら来月まで待たないといけませんね」

「……だめよ」

「えっ?」

「来月じゃだめ、ダメなのよぉおおおお」

 

 

まつりちゃんは、頭を抱えていやいやをするように首を振る。

スバルが会話に加わる。

 

 

「アイドルグループとのコラボは今月末までっすからね。アイドルキャラを入手するなら今月ガチャ回さなきゃだめっすよね。うちの兄貴がそれで苦労してたっす」

 

そうなのだ。コラボキャラを欲しい場合には、どうしてもコラボ期間中に入手しなければならない。

チャンスを逃せば、次の機会が巡ってくるかは……神のみぞ知る、だ。

 

 

「もう一度……戻りたい……それなら、いっそ……ああああああああああ!!!」

 

 

まつりちゃんを中心に風が吹き荒れた。

 

教室に残っていた人たちから悲鳴が上がる。

 

あたしや、スバル、マリンのように近くにいたメンバーは風に押されて、まつりから一定距離を離される。

 

 

「な、何事っすか!?」

 

 

発生した現象はそれだけでには留まらない。

 

風で吹き飛ばされたと思った、筆やキャンパス、他にもイスやデッサンようの模型など様々なものが重力を無視するかのように浮き上がっり教室を飛び回り始めた。

 

「まつりちゃん、船長が今助けますからね!!」

 

いち早くマリンが行動を起こし、まつりの下に駆けつけようとする。

 

 

「……こないで」

「方法はありますよ、諦めてはいけません、まつりちゃん!!」

「……しってる、教えてもらう必要なんてない、たすけてもらう必要なんてない……」

 

 

会話が成立しているように聞こえるけど、まつりの目はうつろで焦点があっていない。

何をするかわからない、狂気をはらんだ虚無の表情だ。

 

そして、まつりが一度目を閉じ顔をうつ向けたと思うとゆっくりと顔をあげる。すると――

 

まつりの口の上に、くるんとした白いおひげがついていた。

 

 

……えっと、場にそぐわない可愛さだけど、何が始まったのだろうか。

 

「みんなも、戻ろう……まつりと一緒に」

 

呟くと、いつの間にか持っていた白い袋から何かを取り出し、マリンちゃんに向けて腕を振るう。

 

白い粉がマリンちゃんに振りかかる。

 

「えっ、なんですかこれは!?」

 

マリンちゃんの姿が白い粉に包まれて見えなくなり、粉が消えた時そこにいたのは、面影を残しつつも歳を経たマリンおばあちゃんだった。

 

 

「おやおや、どうしたんだい、まつりちゃん。そんなに若いのに生き急いで。人生は山あり谷あり。苦しい時もあるけれど、自分を信じて上を向いて歩んでいかなければいけないよ」

 

 

なんだかとても貫禄のあるおばあちゃんだった。

 

 

「あ、間違えちゃった……こっちだ」

 

 

まつりちゃんが持っていた袋を消すと、胸元から小箱を取り出した。

いや、そこに入るスペースなかったよね。

 

こんな時まで見栄を張ったまつりちゃんが、小箱をマリンおばあちゃんの足元に投げつける。

 

すると、煙が立ち上り――マリンおばあちゃんが消えてしまった。

 

いや、煙が全て晴れると足元にマリンがいた。2歳か3歳くらいの。

 

「マリンは、おっきくなったらぁ~船長さんになるの~、えへへぇ」

「マリンちゃんは船長さんになりたいんだぁ、あたし応援するね~」

「えへへぇ、ありがとう」

 

あたしの足元によってきて、ぎゅっと太腿に抱きついてきた。

可愛かった。ついなでなでしてしまう。

 

「ふとももすべすべ~、でへへぇ」

 

……無言で引きはがす。やっぱり小さくてもマリンはマリンだった。

 

 

「これはいったい何事なのだ?」

「あ、あやめ先輩!!大変なんです。まつりが何かに取りつかれたみたいになってて」

 

 

あやめ先輩が駆けつけてくれていた。

 

 

それだけでなく、騒ぎを聞きつけて様子を見に来てくれた人たちもいたが、物が飛び回っているカオスな状況が理解できずに立ち尽くしている。

 

 

そんな中でも、まつりはどんどん小箱を取り出しては周りの人の足元に向かって投げつけ始めた。

 

 

小箱から出た煙を浴びた人たちた次々と幼い子供になっていく。

 

 

「ドドドドドドド、つのドリルだぞぉぐりぐりぐり~」

「ばぶがなゃ嫌なのら~、ルーナはあわあわがいいのらぁ~」

「あぁあん、ままぁ、お腹すいたにぇ。ままーおっぱいほしいにぇ」

 

 

部屋にはどんどん幼子が増えていくとんてもない状況になる。

収拾もつかないしどうしたものかと思っていたが、子供たちはひと騒ぎするとすやすやと寝息を立て始め、あっという間にお昼寝部屋のようになっていた。

 

 

あたしの足元にも小箱が飛んでくる。

やばいと思った時には既に足元から煙が上がり始める。

 

しかし、不意に腰を抱えられると2mくらい後方にふわっと浮き上がって移動した。

 

あやめ先輩だった。

 

 

「あ、ありがとうございます」

「うむ、まぁ大したことではないよ」

 

 

助けてもらわなければ、今頃幼女退行していただろう。

周囲を見渡す。

気がつくと、残っているのは、あたしとあやめ先輩だけになっていた。

 

 

「助かったのはあたし達だけなんですね……」

「そう深刻にならなくても、時が来れば戻るタイプの現象だよこれは」

 

 

世界滅亡の危機から2人だけが生き残ってしまった時のヒロインのような心境で言ってみたのだけど、あやめ先輩は意外と気楽に受け止めているようだ。

解決策に心当たりでもあるんだろうか?

 

 

「でも、あたしは守ってくれたんですね?」

「あくあ殿は守っておくのが礼儀かと思うんよね」

 

 

なぜあたしを守るのが礼儀なのだろう?

 

 

「あやめ先輩、まつりちゃんを元に戻すことはできそうなんですか?」

「んー、観察してたんだけど難しいかな」

「えぇぇ、無理そうなんですか!?」

 

 

なんだか深刻な様子がないので解決できる目処が立っているのかと思ったのだけど。

 

 

「うむ、この状況をみるに――」

 

 

あやめ先輩があたしの方を向いて解説してくれようとしたとき、部屋を飛び回っていた道具の内、デッサンモデルとして置いてあった騎士甲冑が持っていた剣が飛んできた。

 

当然刃引きはされているけど、勢いよく突き刺さったら――

 

ダンっ

 

という音を立てて、あやめ先輩の胸に突き刺さった。

 

 

「あやめ先輩!!!」

 

 

 

胸に剣が突き刺さったあやめ先輩の姿は――気がつくと霞んで消えた。

 

 

 

「え?」

 

「残像だよ」

 

左隣にいたはずのあやめ先輩が、気がつくと右隣りに立っていた。

剣を避けて移動していたようだ。

剣は、あやめ先輩の後ろに置いてあった油絵を描くためのキャンパスを突き破り三脚に突き刺さっていた。

 

 

よかったけど、心臓に悪い。

わかってたんなら、もう少し余裕をもって回避してくれませんかね!?

 

 

 

まつりは、既に小箱を投げるのは止めたようだ。

替わりに手には赤いボタンのついたスイッチを握りしめていた。

もう嫌な予感しかしないんですけど。

 

「それじゃ、ちょっと行ってくるよ」

「えっ、あやめ先輩!?」

 

一言声をかけられたと思ったら、あやめ先輩の姿は既になかった。

あたしを置いていかないで欲しい。

 

まつりを見ると、あちらもこちらを見ていた。

……一対一で見つめあう。

ほほを汗がつぅっと伝った。

 

 

「あ、あのね。まつり、落ち着いて深呼吸しよ。ね?」

「一緒に行こう、まつりと一緒に……新しい世界へ。大丈夫、怖くないよ」

 

 

ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ!!!

 

 

一触即発の状況に呼吸が浅くなる。

 

 

赤いボタンを掲げて声をかけてくるまつり。

あたしはまだこの世界で生きていきたいなぁって思ったり思わなかったりするんですけど、どこに連れていかれるんでしょうか。

 

 

神様、仏様、あやめ様~、早く戻ってきて~。

 

 

 

「お待たせ。解決策を持ってきたよ」

「あやめ先輩!!どこ行ってたんですか、あたしを置いてかないでくださいよー!!って、あれ?」

 

あやめ先輩が戻ってきてくれた。

まつりが赤いボタンを押す前に間に合ってくれてよかった。

 

けど、あやめ先輩が解決策として持ってきたものを見て疑問に思う。

 

 

「兄さん?」

「あやめ、人のことを物みたいに言うな。急に説明もなしに拉致しやがって」

 

 

あやめ先輩が持ってきた、もとい手を引っ張って連れてきたのは、兄さんのフブキだった。

 

 

「そう言うなフブキ。状況はお主なら見ればわかるだろう。それに、急がんとあくあ殿が危険だったのでな。これでもお主の心境を思い、余が守っておったのだぞ?」

「……幼児化しても実害はなさそうだけどな。けど、まぁ感謝するよ、さんきゅ」

 

 

兄さんとあやめ先輩の間では、何かが通じ合っているようだ。

置いてけぼりになったあたしは、状況が知りたくて質問する。

 

 

「どういう状況なんですか?」

「なに、まつり殿の症状は余の管轄ではなくてな。解決できる専門家を連れてきたのだ」

「兄さんが専門家ですか?」

「うむ、任せておけば問題ない。それにしても、皆ぐっすり寝ておるな。事件解決も見えたことだし余も寝るとしよう」

「えぇ、ここで寝るんですか!?」

「うむ、心配ない。いつどこで事件が起きるかわからんからな。休息も現場でとれるように寝袋は常備しておる。では、おやすみ」

 

 

いや、床で寝ることを心配したわけじゃないんだけど……

あやめ先輩は、どこからか寝袋を取り出すと本当に寝てしまった。

この状況で寝てしまうなんて、よっぽど兄さんに信頼を置いているのだろうか。

 

 

 

後を託されたらしき兄さんは、まつりちゃんに声をかけていた。

 

「まつり、そのボタンを本当に押したいのか?」

「……押したい。押してまつりは……新しい世界に行くの。一緒に行こう。大丈夫、すぐに終わるから……怖くないよ……」

 

未だに部屋では物が飛び回っている。

絶望の中心にいるような濃い影をまとったまつりは……大丈夫と言いながら、とても苦しそうだった。

 

「呼びかけに反応あり、ポルターガイスト現象に、幼児退行能力所持、そして戻るためのボタンを押したい。新しい世界を目指しているのに苦しそう、か。まぁわかりやすい症状だな」

「兄さん、まつりは元に戻せるの?」

「人による。けど、これだけ時間を与えても本気で押そうとしないところを見ると大丈夫だろう」

 

そう言われてみれば、赤いボタンを取り出してから随分と時間がたつ。

本気であれば既に押しているような気はする。

 

 

兄さんがまつりに静かに近づいていく。

 

「来ないで、まつりは本気。それ以上来たら本気で押すから」

「無理だな。お前は押せないよ。本当はわかっているんだろう? 新しい世界に、まつりの望む未来はないよ」

 

兄さんがさらに近づくけど、やっぱりボタンは押せない様だ。

するとまつりの周辺に、みんなを幼児化させた小箱が大量に出現し白い煙を上げ始めた。

 

さらに風が渦巻き、まつりを中心に白い煙がドームを形成するようにまとまっていく。

兄さんもそこに巻き込まれる。

 

「兄さん!!」

「心配ない、少し待っとけ。ん? そうだな、その方がいいか。まつり、今回は特別だ」

「いやだ、イヤだ、戻る、戻るの……押したい、おしたい、オシタイ、おしたい、オシタイ、押したい推したいお慕い押したいお慕い推したいおしたい!!!」

 

悲痛な声をあげるまつりと、気にした風もなく歩み寄った兄さんの姿は、白い煙のドームの中に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

視点:まつり

 

 

まつりは、迷子になっていた。

自分自身の気持ちがわからず、どうしていいかわからなかった。

 

ゲームが好きで、アイドルが好きで、好きなことの為なら何でもできた。

グッズが売り切れないように朝一番からお店の前に並ぶことも、握手会に新幹線で向かうことも。

そのために、ハンドメイド品作りのスキルを磨いてお金を稼げるようになることも頑張った。

けれど、どうにもならないことがあった。

 

それが、確率。

つまり、今直面しているソシャゲのガチャだった。

 

努力ではなく運。

幸運さえあれば、苦労なく手に入る反面、どれだけ恋焦がれても手に入らないこともある。

 

物欲センサーという言葉がある。

強い思いを抱いている人ほど、手に入らなかったりするのだ。

 

こればかりは、祈る以外に出来ることがなかった。

 

特に今回は、長くプレイしてきた大好きなソシャゲに、大好きなアイドルグループのメンバーがコラボとして登場することになった。

絶対コンプリートする。そう意気込んでいたけれど最高レア度SSRが揃わない。

有料のガチャにはSSR確定もあったけど、そいうのに限って被ってしまう。

それはそれで嬉しいけれど、抜けた穴が埋まらない。

 

残されたのは、確率は低いが一般ガチャを購入したガチャポイントで回して当たることを祈るのみ……

願えば叶う。そう言い聞かせる。

 

時間が悪いのかもしれない。

夜中に人がいない時間ならSSRも余っているかもしれない。そう思って、深夜3時にガチャを引いた。

 

運気が巡ってきていそうな時間を見極めよう。

そう思って、時間をずらしてレア度の高いカード排出率が高そうな時に集中する戦略をとってみた。

 

けれど、学園に登校してからどうしても我慢できず、ガチャを引こうと課金しようとしたとき、スマホの画面に残酷な文字が表示されていた。

 

 

『お客様のお支払い方法は拒絶されました』

 

 

課金額が月額上限に達していた。

これ以上、ガチャを引く権利のはく奪。

目の前が真っ暗になる。

 

このソシャゲにこだわらなくても、アイドルのグッズは手に入れられる。

そう言い聞かせようとするのに、自分の心が言うことを聞いてくれない。

 

何が間違っていたのか。

時間? 戦略? もっと早くにまとめて引けばよかったのだろうか。

それとも、願い方が強欲すぎて、嫌われちゃったのかな?

 

戻りたいと思った、ガチャを引き始めるその前に。

もう一度挑戦すれば、きっと手に入ると思うのだ。

引いた回数と、それぞれのガチャの確立を計算すれば、手に入る確率は十分すぎるはずなのだ。

 

 

偶然上手くいかなかったなら、もう一度挑戦させてもらえれば。

むしろ、いっその事――

そう思っているうちに、思考は迷走し、気がつけば周囲の見えない白い霧のなかで迷子になっていた。

 

そんな時、声が聞こえた。

 

「もー、しょうがないなぁ」

「え?」

「ほおっておけなくて、無理言って会いに来ちゃったよ」

「そ、その声は!?」

 

 

白く霞む見通しの効かない視界に、一本道ができる。

そこには、細身の体にきれいな白い長髪、そして少し尖ったかわいらしいふさふさの耳がついた少女がいた。

 

 

「コンコンきーつね。こんにちは、まつりちゃん」

「ふ、フブちゃんっ!?」

 

大好きなアイドルグループメンバーの一人であるフブちゃんがそこにいた。

彼女の周辺は光り輝き、煙を押しのけるようにクリアに見えた。

 

夢を見ているのだろうか?

ほほをつねろうとして途中でやめる。夢だと知って目が覚めてしまったら困る。

夢でもいい。今この時を一瞬でも永く大切にしたかった。

 

「まつりちゃんは、私たちのことをとても大切に思ってくれてるんだねー」

「大好きです!!」

 

フブちゃんが私の名前を呼んでくれる。

そのことに、張り裂けそうなくらいドキドキする心臓を両手で押さえながら答える。

 

「この前のライブも観てくれてたよね、ありがとう」

 

フブちゃんが私のことを知ってくれている。

嬉しくて涙がでそうだった。

 

それから、いっぱいいっぱいで言葉に詰まる私に優しく語りかけてくれて……

夢のような時間を過ごした。

 

 

「今は、とても悩んでいるみたいだね」

「うー、どうしてもガチャで当たらなくて」

「ガチャは沼にハマるとホントきついからねー」

「そうなんですぅ」

 

 

ガチャはとても楽しい。

けれど、当たらなかった時の絶望感もまたとても大きかった。

 

「わかるよー。ガチャであたると、運命に選ばれたような気がするんだよね。私のところに来てくれた!って。お金を払って購入するのとはまた違った、特別な出会いを感じられてうれしくなっちゃうよね。だからこそ、当たらないことが辛いんだけどね」

「……はい」

「運命とか、運営とか呪いたくなっちゃうよねー。大好きなゲームだったはずなのに、もうやめてやるって思ってしまったりね」

「……」

 

フブちゃんの言葉が、ちくっと胸に刺さった。

大好きなゲームを、私の元に来てくれないアイドルを、嫌う気持ちが芽生えていると見透かされたようで……。

 

「そして、いっその事――リセットしてしまおうかって思ってしまうよね」

「ああっ、まつりはっ」

 

顔を合わせていられなくなり、しゃがみこんで両手で顔を覆う。

 

「だいじょうぶ、悩むことは自然なことだよ」

 

そういって、頭をポンポンとされる。

顔をあげると、フブちゃんは手を差し伸べてくれていた。

一瞬ためらうけど、その手を取る。

 

そのまま手を引いて立ち上がらせてくれたあと、私を優しく抱きしめてくれた。

 

「だいじょうーぶ。まつりちゃんの思いはちゃんと伝わっているから」

 

大好きなのだ、だいすきだけど、この辛さをずっと抱えてはいられない……

 

「抱え込むのはよくないよ。だからここに置いていこう。思いを全部吐き出して、取りついた幽霊と共にこの世界に置いていこうね」

「幽霊……?」

「うん、まつりちゃんが抱いた絶望に引き寄せられて憑りついた幽霊。憑りついたのは、リセ・マラー。ガチャで爆死してリセットマラソン選択した人々の後悔が怨念と化した幽霊だよ。リセットマラソンを望んでしまう心に取りついて、ゲーム削除ボタンを押させることで、自分達の仲間に引きずり込む悲しき存在だね」

 

私は幽霊に憑りつかれていたんだ。

そう言えば、なんだか無性にボタンを押さなければいけないって思っていた気がする。

 

まずは、気持ちの整理だね。

そう声をかけられる。

 

「リセットマラソンしたいと思うよねー」

「……はい。そうすれば、もう一度ガチャに挑戦できる。何回だってやり直せるし……そしたらアイドル皆に会えるから……」

「新規で始めれば、初心者限定で最新のSSRキャラを一人選べたよね。それに、初心者限定の無償SSR確定ガチャもあるね。さらに、遅れを取り戻すためにって、300連無料ガチャがあるから、ここまでやってリセマラすれば確実だよね」

「そうなんですぅ」

 

新規にスタートするものには手厚い保証がされているのだ。何て羨ましいのだろう。

 

「さらにさらに、ストーリークエストが全てリセットされることで、もう一度クリアして手に入るガチャポイントを全部取り直すことができてー、そのすべてを最新のガチャにつぎ込むことができるよね」

「そうなんですぅ」

 

ソシャゲの悲しき運命として、どんどん新しいキャラが追加されることで古いキャラが相対的に弱体化してしまうことが挙げられる。

 

古いキャラは正直持っていても使い道がない。

強いパーティーを作るためには、最新のキャラを何枚揃えられるかにかかっているので、時々リセマラしてキャラを一新してしまった方が良かったりする。

特に無課金勢なら確実だろう。

 

無償なんて言わない。有償でいいからニュータイプに覚醒するとか、100%を超えて120%の力を開放するとか、スーパーサ〇ヤ人に進化するとか、何でもいいから思い入れのあるキャラをリメイクして強くできるコンテンツを増やしてくれないだろうか。

 

愛着あるキャラが廃れて、保有枠を占有するけど捨てられないキャラになってしまうのは悲しすぎるのだ。

 

「でも、そんな思いを抱えていても、リセ・マラーに憑りつかれても、まつりちゃんは結局ボタンを押さなかった。リセットマラソンをしなかった。それはなぜ?」

 

「……それは、ずっと一緒に冒険してきた仲間たちだから。もう最前線のイベントでは活躍できないけど……今まで道のりを共に歩んできた子たちがいるから……アイドルの皆には出会いたい……けど、けど!! 今までの日々を捨てて去ることはできないよ!!」

 

「うんうん、そうだね。それでいいんだよ、まつりちゃん」

 

 

優しく語りかけてくれる。

 

「新しいキャラを手に入れたい。そう思って長くプレイしたデータを消してやり直す人もいる。けどね、結局長くは続かないんだよ。だって、新しく手に入れた子たちも結局すぐに使えなくなるって思ってしまうから。新しいキャラを手に入れたいだけのつもりでリセットしても、それは――ゲームに対する思い入れを、愛を、一緒に捨てさるということだから」

 

「ううぅ、フブちゃん」

「だからいいの。私たちの為に悩んでくれて嬉しい。けれど、これまでの日々を、愛を大切にして、ね」

「フブちゃん~」

「おー、よしよし。わかるよー。つらかったねぇ」

 

ポンポンと背中叩き優しく抱きしめてくれる彼女の胸にしがみつきしばらく涙を流した。

 

 

 

 

 

「さて後は、たまったうっぷんを晴らしてしまおうか」

「どうするんですか?」

 

赤なった目元を袖口で拭って聞く。

 

「大きな声で、元気よく声に出してしまおう。私が先に言うからついてきてねー」

「えっと、はい、どこまでも付いていきます!!」

 

推しについてこいと言われたら、全力でついていくのがファンというものである。

 

「そんじゃ、いくよー。運営~~、ガチャがシブすぎるぞー確率上げろー」

「確率上げろー」

「古参キャラも使えるように強化しろー」

「強化しろー」

「新規ユーザーばっかり優遇するなー、古参ユーザーも大切にしろー」

「大切にしろー」

「カムバックキャンペーンより継続プレイキャンペーンだろー」

「そうだそうだー」

「だれがゲームを支えてると思ってるんだー」

「思ってるんだー」

「作品を愛する人たちの価値を知れー」

「価値を知れー」

 

普段こんなことを言ったら、運営に干されてしまいそうだけど今だけは全力で声を出した。

 

「ふぅーー、どうかな? スッキリしたでしょw」

「はい、スッキリしました」

 

声に出したことで、胸に溜まっていたドロドロした思いが一緒に外に出て行ったようだ。

 

「スッキリして胸の中にため込んだドロドロを外に出してしまうと、今度はいい面も受け入れることができるようになるんじゃない?」

「いい面ですか?」

「そう、長くプレイを続けているのは、飽きさせないように運営が工夫をしてくれているからだね」

「そうですね」

「みんなで盛り上がれるのは、新規ユーザーを獲得する努力をしてくれているからだね。過疎ってしまったら、やっぱり寂しいよね」

「はい、寂しいです」

「私たちがゲームに登場するのは、ユーザーのニーズを考えてコラボ企画を取り付けてくれたからだね」

「そうですね」

「こんなに思詰めてしまうのは、心に響く愛せる作品を作ってくれているからだよね」

「はい」

 

 

一つ一つの言葉を聞き、胸に開いたスペースにしっかりと詰めていく。

マイナス面にばかり目がいき、見失っていた思いを取り戻す。

 

 

フブちゃんが私の瞳を覗き込む。

私がしっかり見つめ返すと、一つ頷いて、にこっと笑う。

そして、ちょっと裏技を使っちゃおうかと言う。

 

「特別サービスね」

「特別サービスですか?」

「そうそう」

 

彼女が上を見上げる。

白く煙る空に何かあるのだろうか?

 

「そんじゃ、行きますか! 運営さんの~ちょっといいとこみてみたい。ということで~運営ー何とか制!!」

「なんとかせい?」

 

フブちゃんが上を見上げて声をかける。

すると霧を押しのけるようにして天から虹色の光が降り注ぐ。その光は徐々に収束していき、私のもつスマホの画面に吸い込まれた。

 

「今のは?」

「さぁさぁ、まつりちゃん、開いてみて」

「で、でも」

「大丈夫、私を信じて」

「うん」

 

恐怖心を押し殺して、スマホ画面からソシャゲを開く、するとそこには――

 

「あ、ガチャポイントが増えてる」

「そう、10回引ける分のガチャポイントを追加してもらったよ」

「10回……」

 

でも、それだけじゃとても望みが叶うとは思えない。

 

「そして、ガチャ画面を見てみて」

 

言葉に従って、震える指を使って何とか開く、すると。

 

「選択式ピックアップ10連ガチャ……天井付き!!?」

「うん、あとはまつりちゃんの選択しだいだよ」

 

詳細内容をチェックする。

キャラは、1キャラ選択式。そして、10連目でピックアップキャラが確定と書かれていた。

つまり――求めるキャラが確定で入手できる!?

 

「そんな、こんな神のようなガチャが」

「あ、これは何度も使えない奥の手だから、内緒にしてね」

「フブちゃんと二人のひみつ……」

 

心が熱くなり、想いが溢れて言葉に詰まる。

 

 

「さぁ、まつりちゃん、ガチャファイトの時間だよー」

「はい!!」

 

SSRキャラのリストからピックアップの選択をしてガチャを回し始める。

 

「でない」

「うん」

「でない」

「そうだね」

 

フブちゃんが相槌をして打ってくれる。

簡単にでないことはわかっている。

けれど、でない結果が続くたびに――近づく瞬間に心臓がどきどきし始める。

そして、

 

「10回目、ピックアップ確定……」

「さあ、行こうか」

「うん」

 

震える指でスタートのボタンを押す。

期待と、そしてどこかでこんな都合のいいことあるはずないという不安を抱きながら演出を眺める。

 

演出が動き始める。けれど、SSRの確定演出が来ない。

そのまま、演出が進み始める……

 

「大丈夫、私を信じて」

「はい!!」

 

信じる者は救われる。

何の根拠もなく思っていたことだ。

それが、今は推しの後押しまであるのだ。

ここで信じないで、何を信じるというのか。

 

演出が一瞬止まる。

画面の天井から虹色の光があふれ華やか雰囲気に転換する。

ノーマルからSSR確定への昇格演出。初めて見る演出だ。

 

そして、キャラクターのセリフが入り――ピックアップキャラのイラストが画面全体に表示される。

 

「SSRきちゃぁーーーーーーーーーーーーーー!!」

「おめでとう、まつりちゃん♪」

「ありがとうございます」

 

彼女と二人で大はしゃぎをした。

気がついたときには、空だけでなく視界の全てを霞ませていた白い煙は消え去っていた。

 

「うん、まつりちゃんに同調していたリセ・マラーは、一緒に幸せを感じることで後悔の念から解放されて成仏できたみたい。強制的に消し去る道を選ばずに済んだのはまつりちゃんのおかげだよ、ありがとう」

「そんな、救われたのはまつりの方です」

 

この出会いを引き寄せてくれたのはリセ・マラーのおかげだ。彼らも開放されたのならよかった。そして、私を救いに現れてくれたフブちゃんに改めて感謝したい」

 

「そろそろ時間かな。もう大丈夫だね、まつりちゃん」

 

彼女が一歩後ろに下がり声をかけてくる。

その雰囲気は、別れが近いことを物語っていた。

 

行かないで! そう叫びたい。

でも、その言葉にはぐっと蓋をした。

私のように困ってい人がきっとたくさんいる。

いつまでも私が一人占めしている訳にはいかないんだ。

 

「大丈夫です。私は絶対に今日の事を、今の気持ちを忘れませんから」

「うん、見ているからね。苦しい時には愚痴ったらいいよ。私はきっと聞いているから。言いたいことは言っていい。そして『好き』を大切にできるまつりちゃんでいて欲しい」

「はい、見ていてください」

 

 

 

じゃあね。そう言って去っていく彼女の姿を見つめる。

 

ふさふさのしっぽに、きらめく白く長い髪が遠ざかっていく。

 

もしこれが、夢であったとしても後悔なんてない。

 

だって、夢の中に――推しが私を助けに現れてくれたのだから。

 

差し伸べてくれた手を、抱きしめてくれた腕を忘れることはないから。

 

私は、これからも推しを全力で応援し続けることをやめない。

 

そして、心配かけないように、私自身がもっともーーーっと成長する。

 

だから見ていて欲しい。これからの私を。

 

大好きです。

 

 

 

去り行く背中を真っすぐ見つめていた視界が、天から降り注ぐ光で徐々に満たされていった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

視点:あくあ

 

 

あくあは、教室で一人静に部屋を眺めていた。

 

兄さんとまつりちゃんは、白い煙によるドームに飲み込まれてからまだ出てきていない。

周辺を飛び回っていた道具類は、2人が煙の中に消えてほどなく床に落ちて動かなくなった。

 

部屋は物が散乱し、幼子たちが無秩序に倒れている。

部屋の中心に見える白煙のドームを見ると、風で煙が渦を巻いている様子が物々しい。

 

目で見た部屋の風景はどう考えてもただ事ではなかった。

しかし、目を閉じると印象が変わる。

 

教室の外の小鳥の鳴き声が聞こえる。

体育の授業をしているのだろう生徒たちの声が、ガラス越しに届いていた。

薄手のカーテン越しの日差しは暖かく、部屋の中からは幼い子供たちの安らかな寝息と寝言が聞こえる……平和だった。

 

 

静になったからか、追加で外から人が入ってくる様子もない。

隣をみる。寝袋に包まれてこちらもすやすやと眠るあやめ先輩がいる。

 

あたしも寝ようか?

現実味の薄い風景に逃避気味にそんなことを思うけど、まつりちゃんはなんだか思い詰めていたし、兄さんは、声こそ聞こえないけど説得のようなことをしてくれているのだろう。

 

 

 

出来ることもなく手持ち無沙汰に待っていると、中央のドームが輝き始める。

何が起きたのかと目を向けると、中心に集まって渦巻いていた白い煙がほどけるように円周を広げ部屋全体を覆っていく。

 

白い視界に煙に巻き込まれたと思ったけれど、それは煙ではなく光のようであった。

一瞬のホワイトアウトのあと、視界が晴れる。

 

改めて部屋を見ると、幼子の姿は消え、学園の生徒姿に戻った人々が倒れていた。

そして、中央にはまつりをお姫様だっこで抱えた兄さんの姿があった。

 

 

「兄さん、大丈夫だったの? まつりの様子は?」

「ああ、問題ない。まつりも気持ちの整理はついたようだからな、心配はいらない」

「そう……なら良かった」

 

 

酷く苦しそうな顔をしていたまつりは、今はとても幸せそうな寝顔をしていた。

 

 

 

この後は慌ただしく、荒れ果てた教室を起きだした人々で片付けていった。

ちなみに、最後まで寝ていたのがあやめ先輩だった。

 

あやめ先輩の寝顔を写生した不届き物の男子生徒がいたが、後日被写体ご本人の手によって切り捨てられて、泣く泣く風景画を描き直していた。

 

 

まつりは、目覚めると明るさを取り戻していた。

彼女は何に憑りつかれたように――けれど、今度は幸せそうにキャンパスに向かい絵を描き始めた。

 

キャンパスいっぱいに書き上げられたのは、キラキラと輝くエフェクトの中に立つ、ふさふさのしっぽと、ちょっと尖った耳を持ち、ふわっとした笑顔で手を差し伸べている少女だった。

 

かなた先生がちょっと困ったように聞く。

 

「えっと、まつりちゃん。とっても良く描けているけど、これは写生の授業だったのだけど」

「はい。これは確かに私が見た風景を描いたものです」

「そうなの……確かにこれだけ詳細に描けているところをみるとそうかもしれませんね」

「はい!!」

 

 

 

この風景画が、彼女のスマホ画面の写生なのか。

それとも、彼女の心に焼き付いた風景か。

答えは本人だけが知るところだ。

 

けれど、その風景画には、確かにそこにいて見守ってくれていると感じさせる存在感が宿っていた。

 

 

 

もう一つ後日談がある。

それは、この事件のあと、まつりちゃんがポルカ先輩に弟子入りし一生懸命にソシャゲの布教活動を行っていたということだ。

 

友達紹介キャンペーン。

クレジットカードが止まってもガチャポイントを入手できる抜け道だ。

ガチャの結果は聞いていない。

 

けれど、まつりは布教活動を通じてゲームとアイドルのファンを増やし、新しい友人も獲得したようだ。

そして、この先もずっとソシャゲを愛し、プレイを続けていたようだ。

 




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