6-1テニス勝負
視点:スバル
放課後になり、体操着に着替えてテニスコートに向っていた。
何か部活を始めてみようか?
そう考えていて運動部を見に行きたいと思っていた時に、おかゆ先輩がテニス部と聞いて一日体験に行かせてもらうことにした。
同じく部活を検討していた、あくあとシオンも一緒に行くことになって、今日はテニスコートに向かっている。
ついでに、テニス部に向かう途中であやめ先輩に出会い、時間があるというので一緒に参加してくれることになった。
テニスコートにつく。
「よろしくお願いするっす、おかゆ先輩、ころね先輩」
「いらっしゃい。歓迎するよー」
「よろしくねー、たのしんでってなー」
3年生でテニス部のころね先輩も一緒に相手をしてくれるそうなのでローテーションでゲームをする予定だ。
テニスコートで打ち合わせをしていると、テニス部らしい女子生徒が話しかけてきた。
「あー、あんた達ぃ!! あの時の4人組のメンバーぺこね。あの時は、良くもやってくれたペコな」
「あれ?見覚えはある気がするっすけど、えっと、どちらさまっすかね?」
「一年B組の兎田ぺこらぺこ! 珍妙な蜘蛛を暴れさせて襲わせた件、忘れたとは言わせないぺこよ」
「あー、あの時の被害者っすか。そういえば、ぺこって聞いた様な記憶があるっすね。まぁまぁ、あの時のキスは事故と思って忘れるのが良いと思うっすよ」
「勘違いしないで欲しいぺこ。襲われはしたけど、キスは防いだからぺこーらの唇はまだまだ初々しい純潔を守っているぺこ」
あくあが小首をかしげて質問する。
「未遂だったならいいんじゃないの?」
「防げたからいいってもんじゃないぺこ。この子達が割って入ってくれてなかったらた大変なことになってたぺこよ」
そう言って、ラケットを振り回す。
ぺこらの回りには、小さな20㎝位だろうか、毛玉が幾つか飛び回っている。
よく見ると、兎っぽい耳をしたマスコットの様な毛玉だった。
「その毛玉はなんなんっすか?」
「そのぬいぐるみかわいい! あたしにも一つちょうだい!!」
「毛玉でもぬいぐるみでもないぺこ。この子たちは、ぺこーらの大切なお供の野兎ちゃんぺこよ。
どうやら、古くから家に仕える精霊、守り神? みたいな存在らしい。
「ここであったが100年目、ちょうどいいから今日は、テニス部の時期エースであるぺこーらが相手してやるぺこ」
やる気満々で、コートでラケットを構える。
「あんた達、さぁコートに入るぺこよ」
ぺこらの宣言を聞き、おかゆ先輩が最初の審判を引き受けてくれる。
試合はダブルスで人を入れ替えながらプレイすることになった。
最初は指名されたスバルとあくあがコンビでコートに入る。
対戦相手のコートには、ぺこらの隣にシオンが立つ。
「私はテニスやったことないけど、ぺこらはテニス部だしちょうどいいでしょ?」
「そうペコね、それくらいのハンデはつけてあげるぺこ」
ぺこらは余裕そうだ。
そして、ぺこらのサーブでプレイが始まる。
「もらったぺこ」
何とか、サーブを拾ったけど、緩くかえったボールをぺこらにスマッシュで打ち込まれてしまった。
「ぺこぺこぺこ、期待の新人プレイヤー、ぺこーらの実力を思い知ったぺこか~」
一年生とはいえ流石にテニス部のぺこらの技術は一つ上だ。
1ゲーム目は取られてしまった。
「負けないっすよ」
2ゲーム目はスバルのサーブっすね。
しっかりサーブを入れていき、チャンスボールを待つ。
いいコースにサーブが入り、シオンが拾うけど緩いボールが返ってくる。
チャンスを逃さずあくあがネット際で打ち込んで得点する。
「スバル~ナイスサーブ」
「あくあもナイスっす」
「ふっふっふっ、シオン悪いけど弱点は突かせてもらうわよ」
「あんたはそうやって、ちまちませこいことばっかり考えるんだからもっと正々堂々勝負しようと思わないわけ?」
「正々堂々勝つために最善を尽くしているだけよ」
「ふぅ~ん、最善ね~、じゃあ、あたしも持てる力を出していこうかな~」
「ぷぷっ、負け惜しみね。どうぞどうぞ、やれるものならやってみなさい」
2ゲーム目はスバル達がとって、ゲームカウントは1-1で並ぶ。
次は、シオンのサーブだ。
「じゃ、行きまーす」
シオンの打ったサーブは緩くて絶好のチャンスボールだ。
あくあが得点を決めようと前にでて打ちに行く。
打つ瞬間、シオンがパチンっと指を鳴らした。
「もらった! ……あれ?」
「ぷぷっ、あれ~あくあさ~ん。チャンスボールだったのにどうしちゃったんですかぁ?」
「えっ、おかしいなちゃんと当てたと思ったのに」
首をかしげながら、もう一度待ち構える。
しかし、次のボールも緩いボールだったのに、あくあは空振りした。
というか、ラケットをすり抜けてないっすかねあれ?
「シオン、あんたなにやったのよ!?」
「えー、サーブを打っただけですけど? 見てなかったんですかあくあさ~ん」
「くぅー、その言い方むかつくー」
その後、サーブは拾えても途中でシオンが指を鳴らすとなぜかあくあは空振りしてしまいゲームを取られてしまった。
これは、ヤバいっすね。
ここは、
「主審選手交代っす。スバルに代わりあやめ先輩INでお願いするっす」
「どうぞー」
主審のおかゆ先輩に告げる。
「あやめ先輩お願いするっす」
「余もテニスの経験はあまりないけどな。全力は尽くすぞ」
あやめ先輩が入り、プレイ再開する。
あくあがサーブを打つ。ぺこらが打ち返したボールはかなりの速度で際どいコースに入る。
けれど、あやめ先輩は素早くボールに追いつくと見事に打ち返して得点した。
しかし、次にシオンから飛んできたボールをあやめ先輩は空振りした。
あやめ先輩はしっかり追いついてラケットを振っていたけど、シオンが指をパチンっと鳴らすとやっぱりラケットに当たらなかった。
「ふむ、なるほどな……それなら……」
どうやら本当に、何か仕掛けがあるっぽいっすね。
でも、あやめ先輩は何か思いついたようだ。
あくあのサーブをシオンがあやめ先輩にもう一度打ち返した。
またすり抜けるかと思ったけど、シオンが打ち返したとき、あやめ先輩が高速でボールとの距離を詰めると瞬時に打ち返した。
「あらら~、早いですね~あやめ先輩」
シオンは指を鳴らそうとしたようだけど、タイミングを合わせられなかった様だ。
「タイミングを読ませなければ問題はなさそうだな」
あやめ先輩の活躍でシオンのすり抜けショットを無効化して、ゲームカウント2-2に追いついた。
「これは、そろそろぺこーらも本気を出さなければいけないぺこな」
4人サーブを打ち、ぺこらのサーブに戻った。
「この魔球、打てるものなら打ってみるぺこ」
ぺこらの打ったサーブは、妙にいびつな回転をしながらコートにバウンドすると、2つに分かたれた。
あやめ先輩はボールに追いついてはいたが、打ち返させずに見送る。
「ぺこぺこぺこ、この分裂サーブの威力を思い知ったぺこか」
「分裂サーブ。1年生でそんな技まで覚えているっすか、あやめ先輩が打てないなんて」
未来のエースというのも嘘ではないのかもしれない。
「いや、流石にあれを打つのはかわいそうだったんよ」
あやめ先輩のセリフに、壁際に転がった2つに分裂したボールを見る。
それは、一つはボールで、一つはボールと同じくらいの小柄なぺこらの連れている野うさぎだった。どおりで歪んでいるように見えたわけだよ。
「ぺこらお前、自分のペットをラケットで打ったっすか」
何という仕打ち。確かに魔球かもしれない。悪魔的所業という意味で。
「うちの野兎ちゃん達は、柔ではないぺこ。どんなに叩かれてもダメージを受けない。むしろ喜んでしまう強靭な子達ぺこ」
実際、転がった野兎さんは、元気に飛び跳ねてぺこらの下に戻っていった。
それでいいんすか野兎さん達?
「しかも、ぺこらに仕掛けられた攻撃は身をもってガードしてくれる最強の盾にもなってくれるぺこよ」
「本当にダメージは受けないんよね」
「もちろんぺこ。うちの野兎ちゃん達は無敵ぺこ」
「えっと、審判。あれはありなんっすか?」
「うーん、ルールブックに精霊の持ち込みは禁じていないからOKだね~」
どんなルールブックにそんなことが書かれるというのか。
おかゆ先輩、絶対面白そうだから流しているっすね。
だったら、
「あやめ先輩、遠慮はいらないっすよ。全力でやっちゃって欲しいっす」
「そうだな、無敵ということだしな。ちょっと確かめてみよう」
そう言うと、飛んで来たサーブをぺこらに向けて全力で打ち返した。
かなりのスピードでぺこらは反応できていない。
けれど、野兎さんが瞬時に反応してぺこらの前に飛び上がるとボールを体で受けて守った。
そして、跳ね上げられたボールが落ちてきたところを、ぺこらがスマッシュで得点する。
「むだむだむだぺこ。うちの野兎ガードは世界一ぺこよw」
喜ぶぺこらと一緒に、野兎さんも元気に飛び跳ねている。かなりの勢いだったのに本当にダメージを受けていないみたいっすね。すごいっす。
「おお、本当だな。ダメージを受けてないし、凄い献身だぞ」
このショットで、ぺこら達がゲームを取って、ゲームカウント2-3と向こうにリードされた。
「これは、負けていられないな」
今度は、あやめ先輩のサーブとなる。
どんなサーブを打つのかと思って見ていると、ラケットが霞むような速度で振り抜かれた。
ボールが、ぺこらに向かって真っすぐに飛んでいく。
野兎さんがぺこらを守るように飛び上がった。
けれど、ボールは野兎さんに当たる直前で二つに分裂して、ぺこらの両脇の下を抜けてネットに突き刺さった。
「今度はあやめ先輩が分裂サーブっすか」
「うむ、目には目をというやつだな」
ぺこらの分裂サーブに対抗するように、あやめ先輩も分裂サーブを放ったようだ。
「むむぅ、まさか一度見ただけで技を盗むとは何てやつぺこ。でも、どうやって分裂サーブを盗んだぺこか?」
そういって振り返ったぺこらの視線を追っていくと、ネットに引っかかっている2つのボールが見えた……2つ? いや、どちらも半分しか存在していない。
「何がおきたぺこか?」
「何、分裂サーブであろう。ただ単にボールを切っただけだぞ」
「いやいや、どんな理屈っすか」
どうもラケットのスイング速度に対してボールの速度が遅いと感じたけど、理由はボールを打つというより切ってすり抜けるようにラケットを振った結果のようだ。
「し、審判。ボールを2つに切るのは反則ぺこ!」
「うーん、ルールブックには、ボールを切っては行けませんとは書いてないからセーフで」
「そんなのってないぺこじゃん」
この後もあやめ先輩の分裂サーブにより、ゲームカウント3-3に追いついた。
けれど、流石にボールを2つに切るのはテニス部の顧問に怒られるということで控えてもらうことになった。
ここでシオンがおかゆ先輩に向かって手を挙げた。
「あー、これはもう無理そうかなー、おかゆ先輩ー交代しまーす」
「りょうかーい。それじゃ、ころさんよろしくね」
「わかったよーん」
シオンに代わりころね先輩がINした。
テニス部の3年生女子生徒で、おかゆ先輩(男性)との男女ペアのミックスダブルスはうちの学園屈指の実力らしい。
ころね先輩がサーブを打つ。
さすがに3年生のテニス部で、3連続でサーブによって得点する。
右に弧を描いたボールが、跳ねたとたん左に飛んでいく。
緩く飛んできたボールが、地面につくと低空を滑るような跳ね方をする。
勢いよく飛んできたと思ったら、跳ねた瞬間に前に飛ばずに、その位置で垂直に跳ねる。
回転のかかったボールは予想を裏切る跳ね方をする上に、ラケットに当てても思った方向に返せない様だった。
後一ポイントでゲームポイントを取られるところで、あやめ先輩が回転を見極めて、クロスに飛んできたサーブをストレートにきれいに打ち返した。
ぺこらの守備範囲だけど、反応しきれていない。
後ろに抜けて1点返した――
そう思った時、ぺこらの後方にころね先輩が現れる。
――早い。
ストレートに抜かれることを予想してフォローに走っていたようだ。
そして、大きく弧を描くようにスイングする。
放たれたボールは、ネットを支えているポールの外を回ると、糸でも付いていて引っ張られるかのようにコート内に戻ってきてあくあの後ろに突き刺さった。
「ころさんお得意のポール回し、きれいに決まったねー」
「さすがころねだな。あのコースでも返されてしまうか」
「ふっふーん、まっかせなさーい」
おかゆ先輩とあやめ先輩が称賛を贈る。
これで、ゲームカウントは3-4でリードされた。
ポール回しはすごい曲がり方だったっすね。
ただ、個人的には、ころね先輩の女性プレイヤーらしいしなやかな身体の捻り――特に腰使い――に目をひかれた。テニスウェアのスカートと相まってすごくかわいいっすね。
その後は、さすがに3年テニス部のころね先輩が一方に入っていると勝負にならないということで、対抗で、おかゆ先輩があくあに代わりコートに入った。
判定はセルフジャッジで進める。
おかゆ先輩は神出鬼没で、ふと気がつくとボールの飛んできたコースに現れる。
スピードと言うより、相手の考えを先読みして行動しているようだった。
おかゆ先輩とあやめ先輩で1ゲーム取り返す。
ゲームカウントが4-4で並ぶ。
ただ、チームを固定すると対戦の組み合わせが限られるので、ちょうど並んだタイミングで
後は好きな側に入ってプレイを続けることにした。
なので、ぺこらとの勝負は引き分けといったところだろう。
ぺこら自身もプレイに夢中で過去の因縁? 的なことはすっかり忘れていそうだった。
この後、盛り上がり過ぎて日が暮れるまでプレイして、もう校舎も閉まろうかという時間まで続けてしまった。
すると、
「あっ……しまった……ぺこ」
そういって、ぺこらが突然脱力して倒れてしまった。
「大丈夫っすかぺこら」
「エネルギーが切れたぺこ」
「ああ、腹が減ったっすね。スバルもめっちゃ腹減ったっすよ。あれ、ぺこら、腹が減りすぎて髪についたニンジン半分かじっちゃったっすね」
よく見れば、ぺこらの髪についているニンジンが半分無くなっていた。
「違うぺこだよ! 人を勝手に腹ペコ美少女扱いすんな……ぺこ」
いや、だれも美少女扱いはしていないが。
腹ペコでなければなんだというのか。
「このニンジンは野うさぎたちの運動エネルギーになっているぺこ。髪についている以外にも、64個の27スタック満タンにもってきていたはずなのに、全部食べつくしたみたいぺこ」
「ぺこらちゃんの野兎ちゃん達は、ニンジンエネルギーで活動してるんだねー。髪に着けている以外のニンジンはどこに保管してるんだい?」
「おかゆ先輩、それは乙女の秘密ぺこ」
「おや、それはごめんよー」
「いや、家の秘密とかじゃないんかい」
まぁ、野兎さん自体が気がつくと消えたり現れたりしてるので、4次元ポケットでも持っているのかもしれない。
最近うちの学園の生徒は割と普通ではないということが身に染みてきて、大抵のことは受け入れられるようになった。
「調理室にニンジンあるか確認してくるっすよ」
そう言って、校舎に走る。
けれど、校舎前にたどり着いてみると、既に校舎には鍵がかかってしまっていた。
どうしようかと迷っていると、
「あら、スバル様こんばんは。こんな時間まで部活動かしら?」
「あっ、ちょこせん! いいところに、ちょっと生徒が倒れたんで見てもらいたいっすよ」
「がちぃ?」
「がちっす。こっちっすよ!」
「あらっ、スバル様ったらそんなに強く手を握りしめて積極的なんだから」
「いやいや、誤解されるようなこと言わないで欲しいっす」
保険医のちょこ先生に出会えたので、ぺこらを見てもらうため手を引いて連れていく。
生徒を様付けで呼ぶちょこ先生は、何時でも自分のペースを崩さない。
いい先生なのだが、時々扱いに困るというか手におえないんすよね。
この前、あくあがアルコールの匂いで倒れた時も保健室に連れて行ったのだけど……
まぁ、治療というかなんというか、直視し難い雰囲気を醸し出していた。
治療と言われて後ろから抱きすくめられていたあくあは、アルコールで倒れた時よりも真っ赤になっていたっすからね。
そんなことを考えながら、身もだえしているちょこ先生を連れてみんなの下に戻っていった。
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