月にペコラビットを打ち上げた地上では、キアラサンが計画通りの流れで進めることが出来たことに一息ついていた。
「皆さん、ご協力いただきありがとうございました」
「いいっすよ。ペコラビットを同僚に迎えたいというキアラサンの熱い思いに答えただけっすから」
「あなたは結局何もしていなかったですよね?」
「まぁ、ペコラビットは日本だけじゃなくて世界中にファンがいるからね。実際問題、本部に行って活躍する方が彼女には向いてると思ったのよ」
ペコラビットが富士の山を一周飛び回っている間に、キアラサンはペコラビットを女神として迎える協力をしてほしいと3人にお願いしていた。
具体的には、協力して彼女を『飛ばし』た後に、ちょっと可愛くプレッシャーをかけて契約書にサインをしてもらうという計画だ。
ペコラビットは、女神として働く適性があった。
そのため、素直に声をかけてもいいのだが……女神の契約書はきちんと読めば読むほどに物騒な文言が書かれている……
小々臆病な所をもつ彼女には、勢いでサインしてもらうほうがスムーズに運ぶとキアラサンは判断していた。
……女神の人材不足は切実なのだ。
「特に、シシローンさんありがとうございました。流石の優秀さですね」
「たまたまだよ。そもそも普通に勧誘してもペコラビットは女神になったと思うけどね、ヒアリングのシートに女神になりたいって希望あがってたし」
「甘いですね、シシローンさん。女神は理想や憧れだけで続くほど柔な仕事ではないのです。少しくらいは枷があったほうが気持ちが楽ということもあるのですよ」
「そんなもんかね」
とても、実感のこもった現役女神の言葉だった。
10,000回ものツケを自分で貯めて、博打までした結果で引き受けたのだ。
理想と現実のギャップはあるだろうが、むしろやるしかないと覚悟も決まるというものだろう。
「なんでしたら、シシローンさんも女神になってくれてもいいんですよ?」
「あ、あたしはパス。何しろ上が詰まってるんで。先に、会長勧誘してよ」
「あの人を勧誘するなんて無理にきまってますよ。あらゆる手を尽くして引きこもっているんですから」
流石に、キアラサンはシシローンが日本支部で重要なポジションにいることを知っていた。
女神になれる資質があることも。
だけど、こうして断る者もいるのだ。特に日本にはあらゆる手を尽くして裏方に徹するやっかいな大物がいる。
『支部長』ではなく『会長』だ。
偉いのだろうことは伝わるが、結局何の権限を持っているのかよくわからないポジションに、支部長に指示させて自身を就かせている。
支部長に指示できるなら、支部長やればよくない?
むしろ、支部長に指示できる裏方のポジションとか、普通に支部長になるより大変だろう。
そう思わなくもないが、それだけの苦労をしてまで表に立たずに引きこもるのでタチが悪かった。
「ところで、お願いを聞いてもらえるのは私でいいのかな?」
「もちろんです、飛ばした後のアフターケアまで完璧でした。何でもとは言えませんが、可能な限りご協力しますよ」
「了解。頼みごとができたらお願いするよ」
そう答えたシシローンは、不意に煮え立った鍋に視線を移す。
「メインディッシュが無くなって、さびしくなっちゃいましたね……」
カリオ・ペデスが答える。
「アナタなら、替わりの用意くらいしてるのではないですか?」
「そうっすよ。シシローンなら替わりくらい準備してそうなもんっすけどねぇ」
「まぁ、替わりの当てはあるんですけどねぇ」
「へぇーどこにあるんすか」
「……そういえばありましたね」
「いいですね、共食いではないですよ?」
「……」
「……えっ」
皆の視線が、自分に注がれていることに気づいたスバルドダック。
「ス、スバルは美味しくないっすから~~~~」
苦手な羽ばたきを駆使して、大慌てで、空へと逃げ出したのだった。
……この会合のしばらく後に、カリオ・ペデスは別の地に配置転換をされたようだ。
「さてと、あとは空と海の見回りだけど、空はスバルドダックに頑張ってもらうとして、海はどうするかなぁ……」
海岸から海を眺めるシシローンのつぶやきは、波にさらわれ海のかなたに消えていった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
ちょっと、マージャン勝負が長くなってしまいましたが、6章は次で最後になります。
よろしかったら、お付き合いください。