3-1 茶道部体験入部
視点:ねね
「ここまで校内の奥へ来るのは初めてある」
「うちの学園は大学みたいに広いっすからね~。あ、あの建物みたいっすね。作法とかわからないけど大丈夫っすかね」
「ホームページで見た感じ、和やかな雰囲気に見えましたし心配ないと思うのです。茶室に入れるのは楽しみですね」
「あたしは正座なんて久しぶりだし足が持つか心配よ。でも、茶室から見える庭を見れるのは楽しみね」
体験入部をすると決まって、茶道部のホームページを4人で確認してきていた。
まぁ、あくあちゃんと、るしあちゃんは一通りの部活のホームページをチェック済みだったようだけど、改めてみんなで見た。
一番の特徴は、何と言っても畳が敷かれた茶室があること。そして、茶室の目の前が日本庭園のようになっていることだった。
もう一つの特徴が、茶畑を管理していて自分たちでお茶を育てていることだ。
自分たちで育てたお茶を落ち着いた茶室で楽しむなんて楽しそう。
運動部にしか興味がなかったねねでも想像するとワクワクした。
到着した建物に入り、一番奥の部屋まで歩いていく。
茶道部と書かれた扉の前に立つと、スバルちゃんが戸を叩いた。
「はーい、どうぞ~」
「失礼します、体験入学をさせて頂きにきたっす」
「「「よろしくお願いします」」」
挨拶をして入ると、正面には畳が敷かれた和室が見える。
近づくと、畳の井草の香りがする。
井草の香りは不思議と緊張をほぐしてくれる。
体験入学ということで硬くなっていた体から、少し力が抜けた気がした。
「いいにおいあるな」
「井草の香りは心が落ち着くのです」
るしあちゃんも賛同してくれた。
部屋には、入る時に返事を返してくれたと思われる金髪の女子生徒が畳に座って待っていた。
私たち4人が戸を閉めて部屋の前に並ぶと、彼女は畳に両手を付き、
「ようこそいらっしゃいました」
そういって深く頭を下げた。
茶道の作法などわからないのであたふたしながら、こちらこそよろしくお願いしますとお辞儀を返す。
「さぁさぁ、そんなに硬くならずに、入って入って。あ、靴は脱いでもろて脇の靴箱にいれてね」
彼女の案内で茶室の畳の上に4人ならんで正座で座る。
彼女は、ちょっと待ってねというと、何かを取りに茶室の奥ヘ入っていった。
「正座なんて久しぶりある」
「あたしも。それなのに何時間も正座するなんてやばくないっ」
「スバルは、何時間もじっとしてるのに耐えられるかが不安っす」
話をしていると、すぐに茶室の奥から茶道部の彼女がお盆を持って戻ってきた。
私たちの前に、それぞれお茶を置いてくれる。
茶道でよく見る抹茶ではなく、いわゆる普通の暖かい緑茶だった。
「粗茶ですが」
「あ、ありがとうなのです」
さらに、お盆に和菓子をのせて配ってくれる。
「それでは、改めまして、角巻わためです。一週間体験入部なんだよねぇ。まぁまぁ、その間はここを自分の部屋だと思ってくつろいでもろて」
わためさんと言うらしい。
彼女を見習って、畳に手をついて頭を下げてぎこちない礼をする。
その後、気になっていたことをスバルちゃんが質問してくれた。
「あの、外ってみせてもらうことできるっすかね?」
「おおっ、気になるかなぁ、気になるよねぇ」
彼女は、立ち上がって、外からの光を浴びて真っ白に輝いているふすまに近づく。
「じゃじゃぁ~~ん」
そういって、彼女はふすまを勢いよく開ける。
一瞬、眩しさに目を細める。
光に目が慣れてきたところで外の景色を眺めてみると
「すごい、きれいある」
外には学校の中とは思えない和の空間が広がっていた。
日本庭園というのだろうか、大きな岩の周りに白い石が敷き詰められてその上に波紋のように円形に模様が描かれている。
他にも水が流れ池のようにもなっていて、そこにはししおどしも設置されていた。
彼女が外の窓ガラスも開けると、ちょうどカコーンという涼しげな音をししおどしが響かせた。時々聞こえていた音はこの音だったようだ。
ネット上の映像ではなく、直接見て感じる穏やかな景色に感動していると、部屋の奥からすらりとした女性が着物をきて現れた。
「いや、遅くなって申し訳ないねぇ、急に校長先生に呼び出されてしまって。わためがもてなしてくれてたんね、ありがとうね」
「当然の役割をはたしただけなんだなぁ」
そういいながら、わためさんはエッヘンと胸を張っていた。
着物姿の女性がこちらを見る。
「私が3年の茶道部部長、不知火フレアです。4人ともいらっしゃい。一週間、私が指導させてもらうのでよろしくね」
「あ、部長さんなんっすね。よろしくお願いするっす」
「よろしくお願いするのです」
「お世話になります」
「よろしくある。フレア部長の着物とってもきれいあるなぁ」
「ありがとね。形から入ることで気持ちもついてくるところもあるから、なるべく着物で活動してるんだよね」
笑顔で柔らかく答えてくれたフレア部長は、それから、今週茶道部の体験入部で主に行う内容を説明してくれた。
説明によると、今日は茶道というものがどういったものかを学ぶ座学で、明日からお茶の点て方の手順を教わり1人ずつ実際にやってみることになるようだ。
「なにか、質問はあるかな?」
「フレア部長とわため先輩以外の方はどうしているあるか?」
部屋には2人しかいないが、二人だけということはないはずなので聞いてみる。
「あぁ、他のメンバーは、茶道部で育てているお茶を摘みに行ってるんだよね。今は新茶の時期でね。お茶を摘んだり、蒸したり、干したり、それから次の準備として枝を整えたりしてるよ」
「おー、ホームページの動画に乗ってたやつあるね」
「そうそう、動画は昨年の様子だね。明日にでも茶畑を見に行こうか。あと、わため先輩はおかしいんじゃない?同じ一年生でしょ君たち?」
「えっ、わため先輩、じゃなくてわためちゃんって、一年生あるか!すごく茶室に馴染んでいたからてっきり先輩だと思ってたある」
「まぁ、わためは入学した直後からずっと通い詰めているからそう思うのかもね。ねぇ、わため?」
「えっへん。皆勤賞なんだなぁ」
「えっと、じゃあ今週は茶道部の先輩として、わためちゃんよろしくお願いするある」
「いや、それもどうかと思うよ。わためは……茶道部の部員じゃないからねぇ」
「「「「……は?」」」」
え、フレア部長の言葉の意味がわからなかった。
茶道部の部員じゃないのに、茶道部に通い詰めている1年生……
「ひょっとして、まだ体験入部中だったりするのですか?」
「いや、わためは入部するつもりはないらしいから、何だろね?居候……かな?」
どんな状況なのかと、皆がわためちゃんに注目する。
「茶道部の部員さんが入れてくれるほろ苦いお茶に、程よい甘さの和菓子の組み合わせは最高なんだなぁ。この茶室で過ごす時間がわためぇの癒しの時間なんだなぁ」
「え、それなら茶道部に入部すればいいんじゃないっすか?」
「何時間も正座を続けるなんて、か弱いわためぇには無理なんだなぁ」
そういうわためちゃんを見ると、なるほど、女の子座りというか、足を崩して座っていた。
……つまり、お茶を振舞ってもらい、和菓子を食べたい。さらに茶室も好きだが正座は嫌だということらしかった。
「まぁ、和菓子代は納めてもらってるしね。それに、部員たちも、自分たちの入れたお茶をおいしそうに飲んで、幸せだなぁってニコニコしてるわためぇが可愛くてしょうがないみたいだからね」
別に学園内で活動する時は足を崩してもいいよって言ったんだけどね。入るならけじめをつけないとダメだって聞かなくて。
という、フレア部長の話だった。
部員になると、学園内のイベントだけでなく外の人と一緒になることもあるし、必ずしも好きにさせてあげられないのも確からしく今の形に落ち着いているらしい。
その後は、フレア部長による座学を聞く。
今は抹茶についての説明だ。
「緑茶を作る時は、日光に当てて育てて、10日もしない新芽が柔らかいうちに摘み取るの。でも、抹茶用に育てるときは、新芽がでたら摘み取る前に20日~30日くらいシートをかぶせて日陰で育てるのよ。日光に当てて育てると苦み成分のカテキンが増えてしまうからね。日陰で育てることで旨味成分のアミノ酸を増加させて、苦味成分のカテキンを抑えた甘みの強い茶葉が出来るのよ」
「ほへー」
「抹茶って苦いってイメージがあるんですけど、甘いんですか?」
あくあちゃんの質問に確かにと思う。
抹茶の甘みが強いってどういうことだろう。
「それは緑茶との飲み方の違いが意識から抜けてるからじゃないかな?緑茶と抹茶の大きな違いは、緑茶が茶葉から抽出した成分だけ飲んでいるのに対して、抹茶は茶葉自体を飲むことになるのよ」
そう言われると、確かにそうだ。
「緑茶は急須で飲むときに茶葉の量を多くしたり、長い時間抽出しすぎると苦みが強くなるでしょ?それに残った茶葉なんて苦くて食べれないのよ。苦味の大半を茶葉に残して、適度にお茶に抽出するからおいしいわけ。対して抹茶は、茶葉自体を飲むから苦味を抑えていても、結果的に苦いと感じやすいかな。品種や品質にもよるんだけどね。でも、皆がイメージしているほど茶道で振舞う抹茶は苦くないと思うよ」
その後に幾つかの工程を経て抹茶の原料となるのが碾茶(てんちゃ)といらしい。
碾茶をすりつぶすことで、よく知る抹茶が完成する。
抹茶アイスとか大好きだけど、抹茶が何と聞かれるとよくわかっていなかったので聞いていて興味深いなぁと思う。
次には、茶道で行うお辞儀について教わった。
「真」「行」「草」と基本3種類あるらしいお辞儀の作法を教わる。
「まぁ、お辞儀仕方を教えるのだけど、形よりも気持ちを大切にしてほしいかな」
「気持ちあるか」
「ありがとうございますっていう相手に対する敬意の気持ちを言葉にする代わりに、お辞儀という形で相手に伝えるようにしてほしいな」
フレア部長の教えにならい、心の中で感謝を口にしながらお辞儀の練習する。
今日の指導を終えると、また明日と言って体験入学一日目は終了となった。
立ち上がる時は気をつけなよ。そうフレア部長が声をかけてくれていたが案の定、足をシビれさせたあくあちゃんが立ち上がれずにひっくり返っていた。
結局、程度の差はあったけど、4人揃って足をシビれさせながら教室に戻ることになった。
けれど、フレア部長の話はとても面白く全く飽きることはなかった。
さらに、きれいな庭園の景色に、水の流れる音、畳の井草の落ち着く香りと、時間を忘れて充実した1日を過ごすことができたのだった。
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